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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20137764 審決 意匠
判定2013600013 審決 意匠
無効2013880001 審決 意匠
不服20137765 審決 意匠
判定2012600053 審決 意匠

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審決分類 審判    L3
審判    L3
管理番号 1282289 
審判番号 無効2012-880013
総通号数 169 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2014-01-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-19 
確定日 2013-11-14 
意匠に係る物品 柵 
事件の表示 上記当事者間の登録第1435268号「柵」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は,「登録第1435268号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1ないし3号証の書証を本件審判請求時に提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
(無効理由1-1)
登録第1435268号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,その出願日前に公知の甲第1号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(無効理由1-2)
本件登録意匠は,その出願日前に公知の甲第2号証の意匠と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
(無効理由2)
本件登録意匠は,その出願日前に公知の甲第1号証と甲第2号証の意匠に基づいて容易に創作できたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

2.本件登録意匠を無効とすべき理由(無効理由1-1について)
(1)本件登録意匠の説明
本件登録意匠に係る物品は,「柵」であり,本件登録意匠の構成態様及び要部は,下記の通りである。
1)基本的構成態様
垂直な2本の支柱間に,両支柱と直交し,かつ両支柱を前後から挟むようにして,上下段2本ずつ4本のパイプを,継手を介して取り付けた構成からなる態様である。
2)具体的構成態様
(イ)2本の支柱は円筒状である。
(ロ)4本のパイプは円筒状である。
(ハ)上段2本のパイプは,両支柱の前後で,支柱上部より斜め上方に延びる継手を介し,側面視で,左右対称となるように取り付けられている。
(ニ)下段2本のパイプは,両支柱の前後で,支柱より水平方向に延びる継手を介し,側面視で,左右対称となるように取り付けられている。
(ホ)4本のパイプの左端には,端部を球面状としたキャップが取り付けられている。
(ヘ)上段の継手は,側面視で,円筒状部分と略くさび状部分を有している。
(ト)下段の継手は,側面視で,横にしたU字状部分と円筒状部分を有している。
(チ)正背面視で,2本の支柱と上下段のパイプで囲まれた長方形の縦横比は約1対6である。
(リ)正背面視で,支柱の長さと2本の支柱間の長さとの比率は,約1対4である。
(ヌ)上段2本のパイプは,下段2本のパイプと同じ太さである。
(ル)両支柱の頂部は,側面視で,浅い凹部を形成している。
3)本件登録意匠の要部
上記(ハ),即ち,上段2本のパイプが,両支柱の前後で,支柱上部より斜め上方に延びる継手を介し,側面視で,略V字状かつ左右対称となるように取り付けられている態様は,本件登録意匠の出願前には,請求人の所有する登録意匠であるところの甲第1号証(登録第1235295号意匠公報)とその本意匠である甲第3号証(登録第1234945号意匠公報)及び甲第2号証(登録第1415289号意匠公報)以外に見られないものであるので,この(ハ)の態様は,本件登録意匠の要部であり特徴といえる。
(2)甲第1号証の意匠の説明(無効審判請求書別紙1-1参照)
甲第1号証(登録第1235295号意匠公報)の図面において,本件登録意匠に相当する部分は,左側の支柱と中央の支柱,及びその間に設けられたパイプとの組み合わせからなる部分の意匠であり,例えば,甲第1号証の図面において,赤枠内に表れた部分の意匠である。
そして,甲第1号証の意匠に係る物品は「中央分離帯ガードパイプ」であり,甲第1号証の意匠の構成態様及び要部は,下記の通りである。
1)基本的構成態様
垂直な2本の支柱間に,両支柱と直交し,かつ両支柱を前後から挟むようにして,上下2本ずつ4本のパイプを,継手を介して取り付けた構成からなる態様である。
2)具体的構成態様
(イ)垂直な2本の支柱は円筒状である。
(ロ)4本のパイプは円筒状である。
(ハ)上段2本のパイプは,両支柱の前後で,支柱上部より斜め上方に延びる継手を介し,側面視で,略V字状かつ左右対称となるように取り付けられている。
(ニ)下段2本のパイプは,両支柱の前後で,支柱より水平方向に延びる継手を介し,側面視で,左右対称となるように取り付けられている。
(ホ)4本のパイプの左端には,端部を球面状としたキャップが取り付けられている。
(ヘ)上段の継手は,側面視で,円筒状部分と略くさび状部分を有している。
(ト)下段の継手は,側面視で,横にしたU字状部分と円筒状部分を有している。
(チ)正背面視で,2本の支柱と上下段のパイプで囲まれた長方形の縦横比は約1対5である。
(リ)正背面視で,支柱の長さと2本の支柱間の長さとの比率は,約1対2である。
(ヌ)上段2本のパイプの太さは,下段2本のパイプの太さの約1.5倍である。
(ル)両支柱の頂部は,側面視で,略V字状の凹部を形成している。
3)甲第1号証の意匠の要部
上記(ハ),即ち,上段2本のパイプが,両支柱の前後で,支柱上部より斜め上方に延びる継手を介し,側面視で,略V字状かつ左右対称となるように取り付けられている態様(本件登録意匠と同じ態様)は,甲第1号証の意匠の出願前には,見られないものであるので,この(ハ)の態様は,甲第1号証の意匠の要部であり特徴である。
(3)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との対比(無効審判請求書別紙1-1参照)
1)両意匠の「意匠に係る物品」の対比
本件登録意匠の「意匠に係る物品」は「柵」であり,本件登録意匠の図面からも明らかな通り,本件登録意匠の物品は,中央分離帯で使用され,自動車が中央分離帯から反対車線へ逸脱すること等を防止するために使用されるものである。
一方,甲第1号証の図面に表された意匠,及び願書に記載された「意匠に係る物品の説明」からも明らかな通り,同物品も,中央分離帯で使用され,自動車が中央分離帯から反対車線へ逸脱すること等を防止するために使用されるものである。
つまり,両意匠の物品の用途及び機能は共通しているから,両意匠の「意匠に係る物品」は類似の関係にある。
2)両意匠の共通点及び差異点
〔共通点〕
両意匠は,前記の1)の基本的構成態様が共通するだけでなく,2)具体的構成態様についても,上記(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)の構成態様が共通している。
尚,両意匠は,前記2)具体的構成態様の(チ)について,縦横比が,約1対6と約1対5で,若干差異が見られるが,その態様について,両意匠を対比すれば,一見してほぼ共通といい得るものである。
〔差異点〕
(a)両意匠間には,前記2)具体的構成態様の(リ)について,比率が,約1対4と約1対2の差異がある。言い換えれば,両意匠間で,支柱とパイプの長さについて,やや長いか短いかの差異が見られる。
(b)両意匠間には,前記2)具体的構成態様の(ヌ)について,上段のパイプの太さが下段のパイプの太さと比べて等倍か約1.5倍かの差異が見られる。
(c)また,前記2)具体的構成態様の(ル)について,本件登録意匠の支柱の頂部は,側面視で,浅い凹部を形成しているのに対し,甲第1号証の意匠の支柱の頂部は,側面視で,略V字状の凹部を形成している。
3)両意匠の共通点及び差異点の評価に基づく類否
以上の通り,両意匠は,基本的構成態様が共通するのみならず,具体的構成態様についても,上記(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)の構成態様が共通し,しかも,それらの中,特に(ハ)は両意匠の要部であり特徴である。
一方具体的構成態様の内,(リ)(ヌ)(ル)は,両意匠の類否判断に影響を及ぼすほどの差異ではない。
つまり,上記共通点は,差異点をはるかに凌駕するものであるから,本件登録意匠は,甲第1号証の意匠に類似するといわざるを得ない。

3.本件登録意匠を無効とすべき理由(無効理由1-2について)
(1)本件登録意匠の説明(無効審判請求書別紙1-2参照)
本件登録意匠の説明は,前記2.(無効理由1-1について)で述べた通りである。
(2)甲第2号証の意匠の説明(無効審判請求書別紙1-2参照)
甲第2号証(登録第1415289号意匠公報)の図面において,本件登録意匠に相当する部分は,2本の支柱とその間に設けられたパイプとの組み合わせからなる部分の意匠であり,例えば,甲第2号証の正面図において,赤枠内に表れた部分の意匠である。 そして,甲第2号証の意匠に係る物品は「防護柵」であり,甲第2号証の意匠の構成態様及び要部は,下記の通りである。
1)基本的構成態様
垂直な2本の支柱間に,両支柱と直交し,かつ両支柱を前後から挟むようにして,上下2本ずつ4本のパイプを,継手を介して取り付けた構成からなる態様である。
2)具体的構成態様
(イ)2本の支柱は円筒状である。
(ロ)4本のパイプは円筒状である。
(ハ)上段2本のパイプは,両支柱の前後で,支柱上部より斜め上方に延びる継手を介し,側面視で,略V字状かつ左右対称となるように取り付けられている。
(ニ)下段2本のパイプは,両支柱の前後で,支柱より水平方向に延びる継手を介し,側面視で,左右対称となるように取り付けられている。
(ホ)4本のパイプの左端には,キャップが設けられていない。
(ヘ)上段の継手は,側面視で,円筒状部分と略くさび状部分を有している。
(ト)下段の継手は,側面視で,横にしたU字状部分と円筒状部分を有している。
(チ)正背面視で,2本の支柱と上下段のパイプで囲まれた長方形の縦横比は約1対6である。
(リ)正背面視で,支柱の長さと2本の支柱間の長さとの比率は,約1対1.2である。
(ヌ)上段2本のパイプの太さは,下段2本のパイプと同じの太さである。
(ル)両支柱の頂部は,側面視で,浅い凹部を形成している。
3)甲第2号証の意匠の要部
上記(ハ),即ち,上段2本のパイプが,両支柱の前後で,支柱上部より斜め上方に延びる継手を介し,側面視で,略V字状かつ左右対称となるように取り付けられている態様(本件登録意匠と同じ態様)は,甲第2号証の意匠の出願前には,請求人の所有する登録意匠であるところの前記甲第1号証(登録第1235295号意匠公報)とその本意匠である甲第3号証(登録第1234945号意匠公報)以外に見られないものであるので,この(ハ)の態様は,甲第2号証の意匠の要部であり特徴である。
(3)本件登録意匠と甲第2号証の意匠との対比(無効審判請求書別紙1-2参照)
1)両意匠の「意匠に係る物品」の対比
本件登録意匠の「意匠に係る物品」は,前記2.(無効理由1-1について)で述べた通り,中央分離帯で使用され,自動車が中央分離帯から反対車線へ逸脱すること等を防止するために使用されるものである。
一方,甲第2号証の意匠の「意匠に係る物品」は「防護柵」であり,甲第2号証の図面に表された意匠,及び願書に記載された「意匠に係る物品の説明」からも明らかな通り,同物品も,中央分離帯で使用され,自動車が中央分離帯から反対車線へ逸脱すること等を防止するために使用されるものである。
つまり,両意匠の物品の用途及び機能は共通しているから,両意匠の「意匠に係る物品」は類似の関係にある。
2)両意匠の共通点及び差異点
〔共通点〕
両意匠は,前記の1)基本的構成態様が共通するだけでなく,2)具体的構成態様についても,上記(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ヘ)(ト)(チ)(ヌ)(ル)の構成態様が共通している。
〔差異点〕
(a)両意匠間には,前記2)具体的構成態様の(ホ)について,4本のパイプの左端にキャップがあるか無いかの差異が見られる。
(b)両意匠間には,前記2)具体的構成態様の(リ)について,比率が,約1対4と約1対1.2の差異がある。言い換えれば,特に,支柱の長さについて,長短の差異が見られる。
3)両意匠の共通点及び差異点の評価
〔共通点の評価〕
両意匠は,意匠に係る物品が共通し,全体の形態として重要な基本的構成態様において共通し,また,具体的構成態様についても上記(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ヘ)(ト)(チ)(ヌ)(ル)の構成態様が共通している。
しかも,それら具体的構成態様の内,特に(ハ)の構成態様,即ち上段2本のパイプが,両支柱の前後で,支柱上部より斜め上方に延びる継手を介し,側面視で略V字状かつ左右対称となるように取り付けられている態様は,甲第2号証の意匠の出願前には請求人の所有する登録意匠であるところの前記甲第1号証とその本意匠である甲第3号証以外に見受けられない構成態様であり,甲第2号証の意匠の要部かつ特徴であるから,この種物品の需要者に対する印象は強く,その構成態様の類似範囲は広く解釈されるものであり,両意匠の創作の原点は,軌を一にしているものということができる。
〔差異点の評価〕
(i)両意匠において,前記(2)具体的構成態様の(ホ)に関する上記〔差異点〕(a)は,パイプ端部におけるキャップの有無の差異であるが,意匠全体の割合からみると,キャップは極めて小さな部分であり,その有無は,細部の差異に過ぎないといえる。
しかも柵や防護柵等は,左右に繰り返し連続するものであり,この種の物品における過去の登録意匠においては,一端から他端まで繰り返し連続する形状の中,最小単位として,1単位半から3単位程度を表しており,また,本件登録意匠のように一端部分の形状を表したり,甲第2号証の意匠のように中間部分の形状を表したりする等,出願の仕方も色々見られるが,一端部分であれ,中間部分であれ,この種の物品においては,繰り返し連続する形状自体が重要視されるから,多数繰り返し連続する中,端部に取り付けられるキャップは,特異な形状でない限り,意匠の類否判断におけるウェイトは小さいといわざるを得ない。
したがって,パイプ端部におけるキャップの有無の差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいということができる。
(ii)前記(2)具体的構成態様の(リ)に関する上記〔差異点〕(b)は,特に支柱の長さの差異となって表れているが,この差異は,この種の物品が設置される道路等の形態により,調整して使用する上で生ずる程度の差異であり,部分的改変の範囲あるいは選択の範囲のものであるから,この差異が,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
4)両意匠の共通点及び差異点の評価に基づく類否
以上の通り,両意匠は,基本的構成態様が共通するのみならず,具体的構成態様についても,上記(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ヘ)(ト)(リ)(ヌ)(ル)の構成態様が共通し,しかも,それらの中,(ハ)は両意匠の要部であり特徴である。
一方具体的構成態様の内,(ホ)(リ)は,両意匠の類否判断に影響を及ぼすほどの差異ではない。
つまり,上記共通点は,差異点をはるかに凌駕するものであるから,本件登録意匠は,甲第2号証の意匠に類似するといわざるを得ない。

4.本件登録意匠を無効とすべき理由(無効理由2について)
(1)理由2は,前述した通り,本件登録意匠が,その出願前に公知の甲第1号証と甲第2号証の意匠に基づいて容易に創作できたというものであるが,具体的には,甲第1号証の意匠を基礎とし,甲第2号証の意匠の一部を組み合わせる(置き換える)ことによって容易に創作できたというものである。
(2)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との〔差異点〕について
(a)両意匠の正背面視で,支柱の長さと2本の支柱間の長さとの比率が,約1対4と約1対2の差異であり,言い換えれば,両意匠間で,支柱とパイプの長さについて,やや長いか短いかの差異が見られる。(前記〔無効理由1-1について〕の具体的構成態様の(リ)参照)
(b)両意匠において,上段のパイプの太さが下段のパイプの太さと比べて等倍か約1.5倍かの差異がみられる。(前記〔無効理由1-1について〕の具体的構成態様の(ヌ)参照)
(c)本件登録意匠の支柱の頂部は,側面視で,浅い凹部を形成しているのに対し,甲第1号証の意匠の支柱の頂部は,側面視で,略V字状の凹部を形成している。(前記〔無効理由1-1について〕の具体的構成態様の(ル)参照)
(3)本件登録意匠の創作容易性について
1)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との上記差異点(a),即ち,支柱及びパイプの長さの差異は,この種の物品が設置される道路等の形態により,調整して使用する上で生ずる程度の差異であるから,本件登録意匠のように支柱を短くすることは,創作として評価できるものではなく,部分的改変の範囲のものであり,甲第1号証の支柱の同一性の範囲を超えるものとはいえない。
2)本件登録意匠と甲第1号証の意匠との上記差異点(b),即ち,上段のパイプの太さが下段のパイプの太さと比べて等倍か約1.5倍かの差異についても,パイプの太さを調整して使用する上で生ずる程度の差異であり,部分的改変の範囲であるから,本件登録意匠のパイプの態様は,甲第1号証の支柱の同一性の範囲を超えるものとはいえない。
3)また,上記差異点(c)は,支柱の頂部の形状の差異であるが,支柱頂部に浅い凹部を形成したものは,甲第2号証の意匠に見られる〔前記甲第2号証の意匠説明の2)の具体的構成態様の(ル)参照〕ので,甲第1号証の意匠における支柱頂部の略V字状凹部を,甲第2号証の意匠の支柱頂部に見られる浅い凹部に置き換えることは,この種の意匠の分野における当業者であれば,格別の創意を要するものではない。
従って,本件登録意匠は,その出願前から公然知られた甲第1号証の意匠の支柱頂部の形状を甲第2号証の意匠の支柱頂部の形状に置き換えたものに過ぎず,当業者ならば容易に創作することができたものといわざるを得ない。

5.むすび
従って,本件登録意匠は,甲第1号証の意匠に類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
また,本件登録意匠は,甲第2号証の意匠に類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。
さらに,本件登録意匠は,甲第1号証と甲第2号証の意匠に基づいて容易に創作できたものであるから,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号により,無効とすべきである。

6.証拠方法
(1)甲第1号証 意匠登録第1235295号公報の写し
(2)甲第2号証 意匠登録第1415289号公報の写し
(3)甲第3号証 意匠登録第1234945号公報の写し

第2 被請求人の答弁及び理由
被請求人は,請求人の申立及び理由に対して,「本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める」旨の答弁をし,証拠として乙第1号証ないし第13号証を提出した。

答弁の理由
1.本件登録意匠の創作ポイント
本件登録意匠は,この種柵の分野における従来品やデザイン創作の実情に鑑みて,安全性や施工性等の機能面にも配慮し,かつ景観面にも配慮した柵を実現すべく創作されたものである。
すなわち,本件登録意匠の創作ポイントは,側面視左右両側に上向き突設した独立別体型からなる上段継手の左右の継手本体を連結する連結板上面を側面視大きく緩やかに開放した円弧状に形成した点にあり,係る構成は従来全く存在しないデザイン形態であり,本件登録意匠にのみ特有な外観形態上の特徴である。
さらに,本件登録意匠は,景観に配慮した柵とすべく,下段継手が支柱の約1/3高さ位置から側面視左右両側へ水平に延出して形成されてなり,上下段の横桟の間隔を広く設けることで,透過性を上げ圧迫感を軽減させたもので,上下段の横桟の間隔を広く設けた点も,本件登録意匠の創作ポイントである。

2.無効理由1-1について
(1)本件登録意匠と甲第1号意匠との対比
1)共通点
本件登録意匠と甲第1号意匠とは,物品において共通する他,その基本的構成態様において共通する。
本件登録意匠と甲第1号意匠の上段継手は,支柱上端から左右両側に上向き突出傾斜して形成した点において共通する。
2)相違点
2-1)支柱の数及び横桟との縦横比
本件登録意匠は,二本の支柱及び二本の横桟により,柵全体の縦横比が約1:4に形成されてなるのに対し,甲第1号意匠は,三本の支柱及び二本の横桟により,柵全体の縦横比が約1:3.5に形成されてなる点で,両意匠は支柱の数及び横桟との縦横比において明らかに相違する。
2-2)上段継手の形状
本件登録意匠の上段継手は,左右独立した別体型であって,しかも左右の継手本体は,支柱上端から側面視・左右両側外方へ緩やかに上向き突出傾斜してなるため,両継手本体の連結板上面は,大きく上向き開放した円弧状面であるのに対し,甲第1号意匠の上段継手は,支柱と同径からなる筒状部と二本の継手本体とが一体形成された二又一体型であって,しかも左右の継手本体は,前記筒状部上端から上方へ急角度で突出傾斜して形成されてなるため,その連結板上面はV字状面を呈してなる点で,両意匠は上段継手の形状において全く異なるものである。
2-3)下段継手及び下段横桟の構成
本件登録意匠の下段継手は,支柱の約1/3高さ位置から側面視・左右両側へ水平に延出して形成され,上段の横桟と同径からなる横桟が該継手に貫挿入されてなるのに対し,甲第1号意匠の下段継手は,支柱の約2/3高さ位置から側面視・左右両側へ水平に延出して形成され,上段の横桟に比して小径からなる横桟が,該継手に貫挿入されてなる点で,下段継手の形成位置や下段横桟の太さ等において大きく相違する。
従って,本件登録意匠の上下段の継手本体の外径は同径であるが,甲第1号証では上段に比し下段の継手本体の外径は著しく小さい点,外観視が大きく異なる。
2-4)上下段継手の構成
本件登録意匠の上下段継手は,側面視略縦長長方形状を呈する取付部を介して固定されてなるのに対し,甲第1号意匠の上下段継手は,側面視において取付部が看取できず,両意匠は上下段継手の取付部が看取できず,両意匠は上下段継手の取付け態様を明らかに異にする。
(2)本件登録意匠と甲第1号意匠との類否判断
両意匠は共通する「柵」としての全体の基本的形態やその構成部材である支柱や横桟の形態はありふれた形態であるのに対し,上記両意匠の具体的形態の相違は両意匠を別異のものと判断するに十分な相違である。
このことは,本件登録意匠の参考文献中に甲第1号意匠が存在し,審査段階において参酌されているにもかかわらず,本件登録意匠が登録されている事実や,継手の連結板上面の具体的形状や柵としての上下の横桟の具体的な配置形態が相違している甲第1号意匠と甲第2号意匠とが相互に非類似として登録されている事実からも裏付けできるのである。
よって,本件登録意匠と甲第1号意匠とは類似することはあり得ないため,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものでは決してなく,本件登録意匠は意匠法第48条第1項第1号により無効とされるべきものでは一切ないのである。

3.無効理由1-2について
(1)本件登録意匠と甲第2号意匠との対比
1)共通点
本件登録意匠と甲第2号意匠とは,物品において共通する他,その基本的構成態様において共通する。
本件登録意匠と甲第2号意匠の上段継手は,支柱上端から左右両側に上向き突出傾斜して形成した点において共通する。
2)相違点
2-1)支柱の数及び横桟との縦横比
本件登録意匠は,二本の支柱及び二本の横桟により,柵全体の縦横比が約1:4に形成されてなるのに対し,甲第2号意匠は,三本の支柱及び二本の横桟により,柵全体の縦横比が約1:2.5に形成されてなる点で,両意匠は支柱の数及び横桟との縦横比において明らかに相違する。
2-2)支柱に対する横桟の上下位置関係
本件登録意匠の二本の横桟は,支柱の上下にバランス良く配置されてなるのに対し,甲第2号意匠の横桟は,支柱の上方側にのみ配置され,支柱間の下方側は完全な空間部となっている点において明白な相違がある。
2-3)上段継手の形状
本件登録意匠の上段継手は,左右の継手本体は支柱上端から側面視・左右両側外方へ緩やかに突出傾斜してなるため,両継手本体の連結板上面は,大きく上向き開放した円弧状であるのに対し,甲第2号意匠の上段継手は,支柱上端から水平に延出した後,上方へ急角度で突出傾斜してなる他,側面視・両側の継手本体の連結板上面は平坦な直面であるため,左右の継手本体は側面視・略逆ハの字状を呈してなる点において,両意匠は上段継手の側面視形状及び支柱頂部上面の連結面の形状を全く異にするものである。
2-4)下段継手及び下段横桟の位置
本件登録意匠の下段継手は,支柱の約1/3高さ位置から側面視・左右両側へ水平に延出して形成され,横桟が該継手に貫挿通されてなるのに対し,甲第2号意匠の下段継手は,支柱の約4/5高さ位置から側面視・左右両側へ水平に延出して形成され,横桟が該継手に貫挿入されてなる点で,下段継手の形成位置において大きく相違する。
さらに,下段継手の位置が支柱の上方にあることにより,下段の横桟も上方に位置し,その結果上記のように支柱に対する下段の横桟が上方に位置し,支柱間の下方が大きく空間となっている点,本件登録意匠とは明らかに異なるものである。
2-5)上下段継手の構成
本件登録意匠の上下段継手は,側面視略縦長長方形状を呈する取付部を介して固定されてなるのに対し,甲第2号意匠の上下段継手は,側面視において取付部が看取できず,継手が支柱に取付けされてなるため,両意匠は上下段継手の取付け態様を明らかに異にする。
(2)本件登録意匠と甲第2号意匠との類否判断
両意匠の柵全体から生じる使用感,審美感は全く異なるものであり,両意匠が類似するものでないことは明白である。
継手の形態,特に連結板上面(支柱頂部上面)の印象はアールをデザイン基調とする甲第2号意匠とでは,需要者に与える審美感が著しく異なるものである。
このことは,本件登録意匠の参考文献中に甲第2号意匠が存在し,審査段階において参酌されているにもかかわらず,本件登録意匠が登録されている事実や,本件登録意匠よりも甲第2号意匠に近似する甲第1号意匠と甲第2号意匠とが相互に非類似として登録されている事実からも明白である。
よって,本件登録意匠と甲第2号意匠とは類似することはあり得ないため,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものでは決してなく,本件登録意匠は意匠法第48条第1項第1号により無効とされるべきものでは一切ないのである。

4.無効理由2について
(1)本件登録意匠の要部である継手の側面形状,特に連結板上面の形状において,甲第1号意匠及び甲第2号意匠とは明らかに異なるものである以上,甲第1号意匠を基礎として甲第2号意匠の一部を組み合わせた(置き換えた)としても,デザイン基調(本件登録意匠はアールをデザイン基調とするが,甲第1号意匠及び甲第2号意匠はいずれも直線をデザイン基調とする)を全く異にする本件登録意匠を当業者が容易に創作することができたとは到底考えられないものである。
(2)本件登録意匠の継手は,左右の継手本体が独立型で且つその連結板上面は,側面視・大きく開口した円弧状に形成された弧状凹面からなるのに対し,甲第2号意匠の継手の連結部上面は,側面視・左右の継手本体が分離独立した略逆ハの字状でその連結板上面は平坦な直面に形成された構成からなる点で,両意匠は継手の連結板上面の形状において著しく相違し,そもそものデザイン基調をも全く異にするものである。
(3)甲第1号意匠はむろん,甲第2号意匠の継手の連結部上面形状が,本件登録意匠の継手の連結板の上面の形状と全く異なるものである以上,甲第1号意匠における二又一体型継手の上面の形状を,甲第2号意匠の独立別体型継手の連結板上面の形状に置き換えたとしても,本件登録意匠にならないことは明らかである。
(4)請求人の主張には理由がないため,本件登録意匠は甲第2号意匠と同1号意匠によって当業者が容易に創作できたものではないので,意匠法第3条第2項の規定に決して該当するものではない。
よって,請求人主張の無効理由2も全く根拠なき失当な主張である。
このことは,本件登録意匠の審査段階で参酌された参考文献中に甲第1号意匠及び甲第2号意匠が存在するにもかかわらず,本件登録意匠が登録されている事実からも裏付けできるのである。
さらに,甲第2号意匠の出願時において,甲第1号意匠や同第3号意匠が公知であったにもかかわらず甲第2号意匠が登録されている事実からしても,無効理由2が失当であることは明らかである。

5.むすび
以上のとおり,本件登録意匠を無効とすべき理由は全く成立しないのである。
よって,答弁の趣旨通りの審決を求める。

6.証拠方法
(1) 乙第1号証 公知意匠マップ
(2) 乙第2号証 本件登録意匠と甲第1号証,甲第2号証,甲第3号証との対比図
(3) 乙第3号証 意匠登録第1135597号意匠公報の写し
(4) 乙第4号証 特許第2807665号の特許公報の写し
(5) 乙第5号証 特許第2901555号の特許公報の写し
(6) 乙第6号証 特許第3700521号の特許公報の写し
(7) 乙第7号証 実用新案登録第2528789号の実用新案登録公報の写し
(8) 乙第8号証 意匠登録第1130324号意匠公報の写し
(9) 乙第9号証 意匠登録第1133613号意匠公報の写し
(10)乙第10号証 意匠登録第1133984号意匠公報の写し
(11)乙第11号証 意匠登録第1194009号意匠公報の写し
(12)乙第12号証 意匠登録第1194010号意匠公報の写し
(13)乙第13号証 意匠登録第1194011号意匠公報の写し

第3 口頭審理
本件審判について,当審は,平成25年8月9日に口頭審理を行った。(平成25年8月9日付口頭審理調書)(口頭審理において,審判長は,両者に対して審理終結を告知した。)

1.請求人
請求人は,審判請求書及び平成25年7月12日付口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。口頭審理陳述要領書において,本件登録意匠と甲第2号証の意匠との対比について被請求人の答弁書に対して弁駁し,当審からの審理事項通知に対する回答として,甲第2号証の実施品の設計図(甲第20号証),施工要領書(甲第21号証)及び施工後写真(甲第22号証,甲第23号証)を提出し,甲第2号意匠の高さと取付け金具及び設置方法を明確にし,甲第2号証の意匠の実施品の意匠的効果を明確にし,口頭審理陳述要領書とともに,証拠として甲第4号証?第23号証の書証を提出した。
(証拠方法)
(1)甲第4号証 特許庁電子図書館「意匠公報テキスト検索」の写し
(2)甲第5号証 特許第3557451号の特許公報の写し
(3)甲第6号証 特許第4889125号の特許公報の写し
(4)甲第7号証 特許第4390103号の特許公報の写し
(5)甲第8号証 実用新案出願公開 平7-4526号の公報の写し
(6)甲第9号証 意匠登録第1327639号の意匠公報の写し
(7)甲第10号証 特許第4235123号の特許公報の写し
(8)甲第11号証 意匠登録第1317493号の意匠公報の写し
(9)甲第12号証 意匠登録第1435389号(本件登録意匠の関連意匠)の意匠公報の写し
(10)甲第13号証 意匠登録第1435390号(本件登録意匠の関連意匠)の意匠公報の写し
(11)甲第14号証 意匠登録第1435391号(本件登録意匠の関連意匠)の意匠公報の写し
(12)甲第15号証 意匠登録第1435392号(本件登録意匠の関連意匠)の意匠公報の写し
(13)甲第16号証 2011年5月発行の「神戸製鋼グループ神鋼建材ガードフェンス」商品カタログの写し
(14)甲第17号証 意匠登録第1415290号の意匠公報の写し
(15)甲第18号証 意匠登録第1381043号(甲第19号証の関連意匠)の意匠公報の写し
(16)甲第19号証 意匠登録第1380833号(甲第18号証の本意匠)の意匠公報の写し
(17)甲第20号証 神鋼建材工業(株)作成の「図面名称:中央分離帯TMS型ガードパイプ施工要領書」の写し
(18)甲第21号証 神鋼建材工業(株)作成の「図面名称:中央分離帯TMS型ガードパイプ施工要領書」の写し
(19)甲第22号証 甲第2号証に表れる意匠の実施画像の写し
(20)甲第23号証 甲第2号証に表れる意匠の実施画像の写し

2.被請求人
被請求人は,審判事件答弁書及び平成25年7月26日付口頭審理陳述要領書のとおり陳述した。口頭審理陳述要領書において,請求人の口頭審理陳述要領書についての反論を主張し,本件登録意匠と甲第2号証の意匠とが非類似である旨主張し,請求人が本件登録意匠と甲第16号証の意匠,及び甲第17号証の意匠とが類似するとの主張,または,甲第16号証の意匠,甲第2号証の意匠と甲第17号証の意匠,甲第2号証の意匠と甲第18号証の意匠,あるいは,甲第17号証の意匠と甲第18号証の意匠とから本件登録意匠が創作容易であるとの主張は,新たな無効理由の主張である旨述べ,さらに,当審からの審理事項通知に対する回答として,乙第14号証ないし第17号証を口頭審理陳述要領書とともに,提出した。
(証拠方法)
(1)乙第14号証 本件登録意匠の設置図
(2)乙第15号証 設置方法を示す本件登録意匠の斜視図
(3)乙第16号証 本件登録意匠の上段継手の斜視図
(4)乙第17号証 本件登録意匠と甲第2号証の意匠との対比図

第4 当審の判断
当審は,本件登録意匠が本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証(無効理由1-1)に記載された意匠(以下「引用意匠1」という。)と類似しない意匠であり,意匠法第3条第1項第3号には該当しないと判断する。また,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証(無効理由1-2)に記載された意匠(以下「引用意匠2」という。)と類似しないものであり,意匠法第3条第1項第3号には該当しないと判断する。さらに,本件登録意匠が引用意匠1及び引用意匠2に基づいて容易に創作することができたもの(無効理由2)ともいえないので,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項に違反して意匠登録を受けたものということはできないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1435268号の意匠)は,平成23年9月24日に意匠登録出願され,平成24年2月3日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「柵」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(別紙第1参照)
すなわち,本件登録意匠は,中央分離帯で使用される柵であり,自動車が中央分離帯から反対車線へ逸脱すること等を防止するために使用されるものである。
その形態は,垂直な2本の支柱と両支柱間に,両支柱と直交する上下2段の横桟状のパイプとからなり,パイプは両支柱を前後から挟むように継手を介して取り付けた構成で,2本の支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視が横長長方形状を呈するものである。
2本の支柱は円筒状で上下2段のパイプは支柱よりやや細い同径の円筒状で,支柱の上下に貫通孔を有する継手を設け,継手は側面視左右対称状で,上段の継手(以下,「上段継手」という。)は,支柱と側面視略Y字状に斜状に形成され,下段の継手(以下,「下段継手」という。)は,外側を円弧状として水平状に形成されたもので,パイプの上下の左端には半球状に膨出したキャップ部を設けたものである。
上段継手は,薄い板状体を折り曲げて側面視が略「く」の字状に外側に折れ曲がった態様で,パイプを保持する側面視が円形状の部分(以下,「パイプ保持部」という。)と支柱に係止するパイプ保持部を囲んで正背面に平行にある,略平行四辺形状に折れ曲がった板状体の保持金具とから構成され,支柱の上面に側面視左右の継手を繋ぐ上面が凹円弧面状の蓋状部を設け,蓋状部と支柱の側面に沿う取付け金具によって支柱の側面視左右両側に蓋部の頂部よりやや高い位置に取り付けられているものである。
下段継手は,薄い板状体を折り曲げて形成し,側面視の上下が平行な倒「U」字状で,支柱の側面に沿う取付け金具によって支柱の下段の側面視左右両側に取り付けられているものである。
支柱の高さと支柱の間の上下2段のパイプの横幅の正背面視の縦横比は,約1:1.2である。
支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視の横長長方形状の縦横比が約1:4であり,平面視した上段継手及び蓋部と両側のパイプで囲まれた横長長方形状の縦横比が約1:17である。
上段パイプ及び下段パイプの平面視した内側の左右寄りにボルト取付け部を2個ずつ配し,上段パイプ及び下段パイプの底面視した左右寄りの底面にボルト取付け部を2個ずつ配し,上段継手及び下段継手の底面にボルト取付け部を各1個ずつ配したものである。

2.無効理由1-1について
(1)引用意匠1(甲第1号証の意匠)
引用意匠1(意匠登録第1235295号の意匠)は,本意匠を意匠登録第1234945号(甲第3号意匠)とする関連意匠として2004年(平成16年)3月18日に意匠登録出願され,2005年(平成17年)2月18日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「中央分離帯用ガードパイプ」とし,その形態は,2005年(平成17年)4月4日に発行された意匠公報に掲載された図面に記載されたとおりのものである。(別紙第2参照)
すなわち,引用意匠1は,中央分離帯で使用される柵であり,自動車が中央分離帯から反対車線へ逸脱すること等を防止するために使用されるものである。
その形態は,垂直な3本の支柱とそれらの支柱間に,3本の支柱と直交する上下2段の横桟状のパイプとからなり,パイプは3本の支柱を前後から挟むように継手を介して取り付けた構成で,3本の支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視が左右対称の2つの横長長方形状を呈するものである。
3本の支柱は円筒状で上下2段のパイプは上段が支柱よりやや細く,下段のパイプは上段よりさらに細い円筒状で,支柱の上下に貫通孔を有する継手を設け,継手は側面視左右対称で,上段継手は,支柱と側面視略Y字状に斜状に形成され,下段継手は,外側を円弧状として水平状に形成されたもので,パイプの上下の左右両端には半球状の膨出部分を有する略円筒状のキャップ部を設けたものである。
上段継手は,薄い板状体を折り曲げて形成し,側面視が略「V」字状に左右に開いた態様で,パイプ保持部の側面視の左側が略「q」字状で右側が略「p」字状の部分と支柱に係止する2枚の略矢羽根状の板状体が側面に平行にある,正背面視が縦長長方形状となる保持金具とから構成され,支柱の上面に側面視左右の継手を繋ぐ上面が側面視「V」字状の支柱と正背面視の横幅が同じ蓋状部を設け,蓋状部と矢羽根状の保持金具によって支柱の側面視左右に支柱の頂部中央より高い位置にパイプが取り付けられているものである。
下段継手は,薄い板状体を折り曲げて側面視の支柱寄りがやや窄まった略倒「U」字状で,支柱の下段の側面視左右両側に取り付けられているものである。
支柱の高さと支柱の間の上下2段のパイプの横幅の正背面視の縦横比は,約1:1.5である。
支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視の1つの横長長方形状の縦横比が約1:6であり,平面視した上段継手及び蓋部と両側のパイプで囲まれた横長長方形状の縦横比が約1:10である。
上段パイプ及び下段パイプと上段継手及び下段継手のいずれにもボルト取付け部は有さないものである。
(2)本件登録意匠と引用意匠1(甲第1号意匠)との対比
1)意匠に係る物品
まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「柵」であって,引用意匠1は,「中央分離帯用ガードパイプ」であるが,いずれも中央分離帯で使用される柵であり,自動車が中央分離帯から反対車線へ逸脱すること等を防止するために使用されるものであるから,意匠に係る物品が共通する。
2)形態における共通点
両意匠には,(a)垂直な複数の支柱とそれらの支柱間に,支柱と直交する上下2段の横桟状のパイプを設け,パイプは各支柱を前後から挟むように継手を介して取り付けた構成で,各支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視が横長長方形状を呈するものである点,(b)各支柱は円筒状で上下2段のパイプは支柱より細い円筒状で,支柱の上下に貫通孔を有する継手を設け,継手は側面視左右対称状で上段継手は,支柱と側面視略Y字状に斜状に形成され,下段継手は,外側を円弧状として水平状に形成されたもので,パイプの上下の左端には半球状に膨出した部分を有するキャップ部を設けたものである点,(c)上段継手は,パイプ保持部と支柱に係止する保持金具とから構成され,支柱の上面に側面視左右の継手を繋ぐ蓋状部を設け,蓋状部と保持金具によって支柱の両側に取り付けられているものである点,(d)下段継手は,薄い板状体を折り曲げて形成し,側面視が略倒「U」字状で,支柱の下段の両側に取り付けられているものである点,において主に共通する。
3)形態における差異点
両意匠には,(ア)上段継手について,本件登録意匠は,側面視が略「く」の字状に外側に折れ曲がった態様で,パイプ保持部の側面視が略円形状の部分と支柱に係止するパイプ保持部を囲んで正背面に平行にある,側面視が略平行四辺形状に折れ曲がった保持金具とから構成され,支柱の上面に,上面が凹円弧面状の蓋状部を設け,取付け金具を有しているのに対して,引用意匠1は,側面視が略「V」字状に左右に開いた態様で,パイプ保持部の側面視の左側が略「q」字状で右側が略「p」字状の部分と支柱に係止する2枚の略矢羽根状の板状体が側面に平行にある,正背面視が縦長長方形状となる保持金具とから構成され,支柱の上面に,上面が「V」字状で上面の正面視の左右幅が支柱と同幅の蓋状部を設けたものである点,(イ)本件登録意匠は,支柱が2本で正面視左右が非対称であるのに対して,引用意匠1は,支柱が3本で正面視左右が対称である点,(ウ)上下のパイプの径について,本件登録意匠は,上下のパイプが同径であるのに対して,引用意匠1は,下段のパイプが上段のパイプより細い点,(エ)キャップ部について,本件登録意匠は,左端のみに半球状のキャップ部を有しているのに対して,引用意匠1は,半球状の膨出部分を有する略円筒状のキャップ部を左右両端に有している点,(オ)本件登録意匠は,支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視の横長長方形状の縦横比が約1:4であり,平面視した上段継手及び蓋部と両側のパイプで囲まれた横長長方形状の縦横比が約1:17であるのに対して,引用意匠1は,支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視の1つの横長長方形状の縦横比が約1:6であり,平面視した上段継手及び蓋部と両側のパイプで囲まれた横長長方形状の縦横比が約1:10である点,(カ)下段継手について,本件登録意匠は,側面視の上下が平行であるのに対して,引用意匠1は,側面視の支柱寄りがやや窄まった形状である点,(キ)本件登録意匠は,上段パイプ及び下段パイプの平面視した内側の左右寄りにボルト取付け部を2個ずつ配し,上段パイプ及び下段パイプの底面視した左右寄りの底面にボルト取付け部を2個ずつ配し,上段継手及び下段継手の底面にボルト取付け部を各1個ずつ配したものであるのに対して,引用意匠1は,上段パイプ及び下段パイプと上段継手及び下段継手のいずれにもボルト取付け部は有さない点,に主な差異が認められる。
(3)両意匠の類否判断
そこで検討するに,共通点の態様のうち,(a)の垂直な複数の支柱とそれらの支柱間に,支柱と直交する上下2段の横桟状のパイプを設け,パイプは各支柱を前後から挟むように取り付けた構成で,各支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視が横長長方形状を呈する態様は,両意匠の類否判断に及ぼす影響が一定程度あるというべきではあるが,この種の物品の分野においては,同様の支柱とパイプの構成を有する道路用柵が,引用意匠1の出願前より他にも公然と認められ(例えば,意匠登録第763692号の意匠(参考意匠1,別紙第4参照)),その構成を有する点のみをもって両意匠の類否判断を決定付ける共通点ということはできない。また,(b)の上段継手が側面視略Y字状に斜状に形成されている点が両意匠に共通し,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものと言えるが,各支柱が円筒状でパイプが支柱より細い円筒状で,支柱に貫通孔を有する継手を設け,継手は側面視左右対称状である態様に係る共通性は,引用意匠1の出願前より他にも公然と認められ(例えば,意匠登録第991202号の意匠(参考意匠2,別紙第5参照)),この共通点は,両意匠のみの特徴ではないから,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。そして,(c)の上段継手が,パイプ保持部と支柱に係止する保持金具とから構成され,支柱の上面に側面視左右の継手を繋ぐ蓋状部を設け,蓋状部と保持金具によって支柱の両側に取り付けられているものである点についても,前記参考意匠2にも見られる態様であって,両意匠にのみ見られる特徴とはいえず,この共通点が,両意匠の類否判断を左右する程のものとはいえないものである。さらに,(d)の下段継手が,薄い板状体を折り曲げて形成し,側面視が略倒「U」字状で,保持金具によって支柱の下段に取付けられているものが,引用意匠1の出願前より他にも公然と認められ(例えば,意匠登録第1211333号の意匠(参考意匠3,別紙第6参照)),両意匠のみの特徴ではないから,この共通点が両意匠の類否判断に与える影響は,微弱なものといえる。
これに対して,両意匠全体を観察すると,下記考察のとおり,差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果は,看者の注意を強く惹くものであるから,両意匠の類否判断を左右するものというべきである。
すなわち,差異点(ア)に係る態様は,上段継手の形状に係る大きな差異で,その差異は,看者の注意を強く惹くところであり,両意匠の形態全体の骨格的な態様に係り,両意匠の印象を大きく異ならせるものといえる。特に支柱の上面が大きく「V」字状に切り込まれた引用意匠1の態様は,特徴的なものであり,両意匠を別異のものと印象付ける目立つ相違であり,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。なお,この点について請求人は,上段2本のパイプが,両支柱の前後で,支柱上部より斜め上方に延びる継手を介し,側面視で,略V字状かつ左右対称となるように取り付けられている態様は,引用意匠1の出願前には,見られないものであるので,この態様が本件登録意匠と引用意匠1の要部であり特徴である旨主張するが,同様の特徴を有する引用意匠1(甲第1号証)と引用意匠2(甲第2号証)はそれぞれ別個に意匠登録されており,それは,特に上段継手の具体的な形状に着目したものと認められ,本件登録意匠は上段継手の形状が異なるものであるから,この点についての請求人の主張は,採用することができない。次に,差異点(イ)及び差異点(ウ)に係る態様についても,支柱の数やパイプの太さについては,いずれも本件登録意匠の出願前より,様々な態様のものが認められ,両意匠とも特別な印象を起こさせるものとはいえないが,全体の構成に係る差異で,両意匠の基本的形態が異なるといえるもので,その差異は,看者の注意を強く惹くところであり,両意匠の印象を異ならせるものといえる。また,差異点(エ)のキャップ部に係る態様については,この種の道路用の柵の分野においては,キャップ部が本件登録意匠のように半球状のものも,引用意匠1のように略円筒状のものも,いずれもありふれた態様といえるものではあるが,その差異は,一定程度の注意を惹く部位といえ,前記差異点(ア)ないし(ウ)に係る態様と相俟って,両意匠の類否判断に影響を与えるものである。そして,差異点(オ)の正背面視及び平面視の縦横比についても,様々な態様がある中での選択の範囲内のものではあるが,その差異は,両意匠の骨格に係るものといえ,印象を異にするものといえるため,両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えるものである。さらに,差異点(カ)の下段継手の形状の差異や,差異点(キ)のボルトの有無についても,小さな点ではあるが,両意匠の印象に影響を与える差異であるから,これらの差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果は,両意匠の類否判断を決定付けるに十分なものである。
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態において,差異点が共通点を凌駕し,意匠全体として看者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似するということはできない。
(4)小括
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に掲載された甲第1号証(無効理由1-1)に記載された引用意匠1とは類似しない意匠であり,意匠法第3条第1項第3号には該当せず,無効理由を有さないものであって,本件登録意匠は,無効理由1-1によっては,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。

3.無効理由1-2について
(1)引用意匠2(甲第2号証の意匠)
引用意匠2(意匠登録第1415289号の意匠)は,2010年(平成22年)10月5日に意匠登録出願され,2011年(平成23年)4月28日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「防護柵」とし,その形態は,2011年(平成23年)6月6日に発行された意匠公報に掲載された図面に記載されたとおりのものである。(別紙第3参照)
すなわち,引用意匠2は,中央分離帯で使用される柵であり,自動車が中央分離帯から反対車線へ逸脱すること等を防止するために使用されるものである。
その形態は,垂直な3本の支柱とそれらの支柱間に,3本の支柱と直交する上下2段の横桟状のパイプとからなり,パイプは3本の支柱を前後から挟むように継手を介して取り付けた構成で,全体が左右に連続するもので,3本の支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視が左右対称の2つの横長長方形状を呈するものである。
3本の支柱は円筒状で,上下2段のパイプは支柱よりやや細い同径の円筒状で,支柱の上下に貫通孔を有する継手を設け,継手は側面視左右対称状で,上段継手は,支柱と側面視略Y字状に斜状に形成され,下段継手は,外側を円弧状として水平状に形成されたもので,パイプの上下の左右両端は左右に連続するものである。
上段継手は,薄い板状体を折り曲げて形成し,側面視が略逆台形状に左右に開いた態様で,パイプ保持部の側面視の左側が略「q」字状で右側が略「p」字状の部分と支柱に係止する2枚の略矢羽根状の板状体が側面に平行にある,正背面視が保持部より幅の狭い縦長長方形状となる保持金具とから構成され,支柱の上面に側面視左右の継手を繋ぐ上面が水平状の逆台形状の蓋状部を設け,蓋状部と保持金具によって支柱の両側に取り付けられているものである。
下段継手は,薄い板状体を折り曲げて側面視略倒「U」字状とし,パイプを保持する部分を円筒状としたもので,下段継手の端部を直接ボルトによって支柱の下段の両側に取り付けているものである。
支柱の高さと支柱の間の上下2段のパイプの横幅の正背面視の縦横比は,約1:4である。
支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視の1つの横長長方形状の縦横比が約1:8であり,平面視した上段継手及び蓋部と両側のパイプで囲まれた横長長方形状の縦横比が約1:17である。
上段パイプ及び下段パイプの継手寄りの部分の上下にボルト取付け部を有し,下段継手の保持金具上下にもボルト取付け部を有するものである。
(2)本件登録意匠と引用意匠2(甲第2号意匠)との対比
1)意匠に係る物品
まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「柵」であって,引用意匠2は,「防護柵」であるが,いずれも中央分離帯で使用される柵であり,自動車が中央分離帯から反対車線へ逸脱すること等を防止するために使用されるものであるから,意匠に係る物品が共通する。
2)形態における共通点
両意匠には,(a)垂直な複数の支柱とそれらの支柱間に,支柱と直交する上下2段の横桟状のパイプを設け,パイプは各支柱を前後から挟むように継手を介して取り付けた構成で,各支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視が横長長方形状を呈するものである点,(b)各支柱は円筒状で上下2段のパイプは支柱より細い同径の円筒状で,支柱の上下に貫通孔を有する継手を設け,継手は側面視左右対称で上段継手は,支柱と側面視略Y字状に斜状に形成され,下段継手は,外側を円弧状として水平状に形成されたもので,パイプの上下の左端には半球状に膨出した部分を有するキャップ部を設けたものである点,(c)平面視した上段継手及び蓋部と両側のパイプで囲まれた横長長方形状の縦横比が約1:17である点,(d)上段継手は,パイプ保持部と支柱に係止する保持金具とから構成され,支柱の上面に側面視左右の継手を繋ぐ蓋状部を設け,蓋状部と保持金具によって支柱の両側に取り付けられているものである点,(e)下段継手は,薄い板状体を折り曲げて形成し,側面視が略倒「U」字状で,支柱の下段の両側に取り付けられているものである点,において主に共通する。
3)形態における差異点
両意匠には,(ア)上段継手について,本件登録意匠は,側面視が略「く」の字状に外側に折れ曲がった態様で,パイプ保持部の側面視が略円形状の部分と支柱に係止するパイプ保持部を囲んで正背面に平行にある,側面視が略平行四辺形状に折れ曲がった保持金具とから構成され,支柱の上面に,上面が凹円弧面状の蓋状部を設けているのに対して,引用意匠2は,側面視が略逆台形状に左右に開いた態様で,パイプ保持部の側面視の左側が略「q」字状で右側が略「p」字状の部分と支柱に係止する2枚の略矢羽根状の板状体が側面に平行にある,正背面視がパイプ保持部より幅の狭い縦長長方形状となる保持金具とから構成され,支柱の上面に側面視左右の継手を繋ぐ上面が水平状の逆台形状の蓋状部を設けたものである点,(イ)本件登録意匠は,支柱が2本で正面視左右が非対称で端部があるのに対して,引用意匠2は,支柱が3本で正面視左右が対称で全体が左右に連続するものである点,(ウ)キャップ部について,本件登録意匠は,左端のみに半球状のキャップ部を有しているのに対して,引用意匠2は,キャップ部を有さない点,(エ)本件登録意匠は,支柱の高さと支柱の間の上下2段のパイプの横幅の正背面視の縦横比が約1:1.2であるのに対して,引用意匠2は,その縦横比が約1:4である点,(オ)本件登録意匠は,支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視の横長長方形状の縦横比が約1:4であるのに対して,引用意匠2は,その縦横比が約1:8である点,(カ)本件登録意匠は,上段パイプ及び下段パイプの平面視した内側の左右寄りにボルト取付け部を2個ずつ配し,上段パイプ及び下段パイプの底面視した左右寄りの底面にボルト取付け部を2個ずつ配し,上段継手及び下段継手の底面にボルト取付け部を各1個ずつ配したものであるのに対して,引用意匠2は,上段パイプ及び下段パイプの継手寄りの部分の上下にボルト取付け部を有し,下段継手の保持金具上下にもボルト取付け部を有するものである点,に主な差異が認められる。
(3)両意匠の類否判断
そこで検討するに,共通点の態様のうち,(a)の垂直な複数の支柱とそれらの支柱間に,支柱と直交する上下2段の横桟状のパイプを設け,パイプは各支柱を前後から挟むように取り付けた構成で,各支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視が横長長方形状を呈する態様は,両意匠の類否判断に及ぼす影響が一定程度あるというべきではあるが,この種の物品の分野においては,同様の支柱とパイプの構成を有する道路用柵が,引用意匠2の出願前より他にも公然と認められ(例えば,意匠登録第763692号の意匠(参考意匠1,別紙第4参照)),その構成を有する点のみをもって両意匠の類否判断を決定付ける共通点ということはできない。また,(b)の上段継手が側面視略Y字状に斜状に形成されている点が両意匠に共通し,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものと言えるが,各支柱が円筒状でパイプが支柱より細い円筒状で,支柱に貫通孔を有する継手を設け,継手は側面視左右対称状である態様に係る共通性は,引用意匠2の出願前より他にも公然と認められ(例えば,意匠登録第991202号の意匠(参考意匠2,別紙第5参照)),この共通点は,両意匠のみの特徴ではないから,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。そして,(c)の上段継手が,パイプを保持する部分と支柱に係止する保持金具とから構成され,支柱の上面に側面視左右の継手を繋ぐ蓋状部を設け,蓋状部と保持金具によって支柱の両側に取り付けられているものである点についても,前記参考意匠2にも見られる態様であって,両意匠にのみ見られる特徴とはいえず,この共通点が,両意匠の類否判断を左右する程のものとはいえないものである。さらに,(d)の下段継手が,薄い板状体を折り曲げて形成し,側面視が略倒「U」字状で,支柱の下段に取付けられているものが,引用意匠2の出願前より他にも公然と認められ(例えば,意匠登録第1211333号の意匠(参考意匠3,別紙第6参照)),両意匠のみの特徴ではないから,この共通点が両意匠の類否判断に与える影響は,微弱なものといえる。
これに対して,両意匠全体を観察すると,下記考察のとおり,差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果は,看者の注意を強く惹くものであるから,両意匠の類否判断を左右するものというべきである。
すなわち,差異点(ア)に係る態様は,上段継手の形状に係る大きな差異で,その差異は,看者の注意を強く惹くところであり,両意匠の形態全体の骨格的な態様に係り,両意匠の印象を大きく異ならせるものといえる。特に2枚の略矢羽根状の板状体からなる,正背面視が保持部より幅の狭い縦長長方形状となる保持金具を有する引用意匠2の態様は,本件登録意匠とは構成が異なり,特徴的なものであり,両意匠を別異のものと印象付ける目立つ相違であり,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。なお,この点について請求人は,上段2本のパイプが,両支柱の前後で,支柱上部より斜め上方に延びる継手を介し,側面視で,略V字状かつ左右対称となるように取り付けられている態様は,甲第1ないし3号証の意匠の出願前には,見られないものであるので,この態様が本件登録意匠と引用意匠2(甲第2号証)の要部であり特徴である旨主張するが,同様の特徴を有する引用意匠1(甲第1号証)と引用意匠2(甲第2号証)はそれぞれ別個に意匠登録されており,それは,特に上段継手の具体的な形状に着目したものと認められ,本件登録意匠は上段継手の形状が異なるものであるから,この点についての請求人の主張は,採用することができない。次に,差異点(イ)に係る態様についても,支柱の数については,いずれも本件登録意匠の出願前より,様々な態様のものが認められ,両意匠とも特別な印象を起こさせるものとはいえないが,全体の構成に係る差異で,両意匠の基本的形態が異なるといえるもので,その差異は,看者の注意を強く惹くところであり,両意匠の印象を異ならせるものといえる。また,差異点(ウ)のキャップ部に係る態様については,この種の道路用の柵の分野においては,キャップ部が本件登録意匠のように半球状のものを有するものも,引用意匠2のようにキャップ部を有さないものも,いずれもありふれた態様といえるものではあるが,その差異は,一定程度の注意を惹く部位といえ,差異点(ア)及び差異点(イ)に係る態様と相俟って,両意匠の類否判断に影響を与えるものである。そして,差異点(エ)及び差異点(オ)の正背面視の縦横比についても,様々な態様がある中での選択の範囲内のものではあるが,その差異は,両意匠の骨格に係るものといえ,印象を異にするものであり,両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えるものである。さらに,差異点(カ)のボルトの位置についても,小さな点ではあるが,両意匠の印象に影響を与える差異であるから,これらの差異点に係る態様が相俟って生じる意匠的な効果は,両意匠の類否判断を決定付けるに十分なものである。
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通するが,その形態において,差異点が共通点を凌駕し,意匠全体として看者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似するということはできない。
(4)小括
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に掲載された甲第2号証(無効理由1-2)に記載された引用意匠2とは類似しない意匠であり,意匠法第3条第1項第3号には該当せず,無効理由を有さないものであって,本件登録意匠は,無効理由1-2によっては,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。

4.無効理由2について
(1)引用意匠1及び引用意匠2に基づく創作容易について
請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用意匠1及び引用意匠2に基づいて容易に創作することができたものであり,意匠法第3条第2項に該当することにより意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである旨主張するので,以下,検討する。
(2)本件登録意匠と引用意匠1及び引用意匠2との関係
1)引用意匠1
本件登録意匠と引用意匠1とは,(ア)上段継手の構成及び形状,(イ)支柱の数が対称か否か,(ウ)上下のパイプが同径か否か,(エ)キャップ部が両側か片側のみか,(オ)支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視の横長長方形状の縦横比,及び平面視した上段継手及び蓋部と両側のパイプで囲まれた横長長方形状の縦横比,(カ)下段継手の形状,(キ)ボルト取付け部の有無,に主な差異が認められる。
2)引用意匠2
本件登録意匠と引用意匠2とは,(ア)上段継手の構成及び形状,(イ)支柱の数及び連続するか否か,(ウ)キャップ部の有無,(エ)支柱の高さと支柱間の上下2段のパイプの正背面視の横幅との縦横比,(オ)支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視の横長長方形状の縦横比,(カ)ボルト取付け部の位置,に主な差異が認められる。
(3)本件登録意匠の創作容易性の判断
請求人は,本件登録意匠は,その出願前から公然知られた引用意匠1の支柱頂部の形状を引用意匠2の支柱頂部の形状に置き換えたものに過ぎず,当業者ならば容易に創作することができたものと言わざるを得ないと主張する。
請求人は,1)支柱及びパイプの長さの差異は,この種の物品が設置される道路等の形態により,調整して使用する上で生ずる程度の差異であるから,本件登録意匠のように支柱を短くすることは,創作として評価できるものではなく,部分的改変の範囲のものであり,引用意匠1の支柱の同一性の範囲を超えるものとはいえない,2)上段のパイプの太さが下段のパイプの太さと異なる点について,パイプの太さを調整して使用する上で生ずる程度の差異であり,部分的改変の範囲であるから,本件登録意匠のパイプの態様は,引用意匠1の支柱の同一性の範囲を超えるものとはいえない,3)支柱の頂部の形状の差異について,支柱頂部に浅い凹部を形成したものは,引用意匠2に見られるので,引用意匠1における支柱頂部の略V字状凹部を,引用意匠2の支柱頂部に見られる浅い凹部に置き換えることは,この種の意匠の分野における当業者であれば,格別の創意を要するものではない,と主張する。
確かに,支柱及びパイプの長さの差異については,この種の物品分野において,適宜改変可能なものであり,この種の中央分離帯用の柵の分野では,設置する場所に応じて適宜決められるものであるから,使用状態までを考慮すれば,支柱の数,連続するか否か,キャップ部の有無,支柱の高さや,それらに対応して,支柱間の上下2段のパイプの正背面視の横幅との縦横比や,支柱と上下2段のパイプで囲まれた正背面視の横長長方形状の縦横比については,それが設置される場所に応じて,適宜変更可能なものであるから,それらを本件登録意匠のものと同様のものとする点に格別の創作を要するものとはいえないものである。
また,パイプの太さの差異についてもパイプの太さを適宜変更することも,この種の物品分野において,常套手段ともいえる,ありふれた変更の範囲といえるものであり,本件登録意匠独自の創作といえるものではない。
しかしながら,本件登録意匠と引用意匠1の支柱頂部の蓋部の形状を「V」字状から引用意匠2の逆台形状に置き換えたとしても,本件登録意匠の凹円弧面状とは異なるし,また,引用意匠1の上段継手は,本件登録意匠の上段継手とは,パイプ保持部を囲んで正背面に平行にあるか,略矢羽根状の板状体が側面に平行にあるかで大きく異なり,引用意匠1の下段継手の形状やボルトの有無も細部ではあるが本件登録意匠とは異なるもので,これらの差異点とも総合して考慮すると,まず,引用意匠1を様々な部位において変更してから,さらに引用意匠2の支柱頂部に異なった上段継手を取り付けて組み合わせることとなり,本件登録意匠は,引用意匠1の支柱頂部の形状を引用意匠2の支柱頂部の形状に置き換えたまでのものとは到底言うことができず,当業者ならば容易に創作することができたものとは,いうことができないものである。
そうすると,前記のとおり,本件登録意匠と,引用意匠1及び引用意匠2とは,上段継手の構成が大きく異なるものであり,引用意匠1及び引用意匠2を組み合わせても本件登録意匠の態様を導き出すことはできないものである。
なお,口頭審理陳述要領書において,請求人は,上段継手の形状を本件登録意匠と同様のものとして甲第16号証及び甲第17号証を提出し,また,本件登録意匠と同様の防護柵用支柱のキャップとして甲第18号証及び甲第19号証を提出されているが,これらのものが本件登録意匠の出願前より公然と知られていたとしても,上段継手の構成が本願意匠と同様のものは見当たらず,やはり引用意匠1及び引用意匠2を組み合わせても本件登録意匠の態様を容易に導き出すことはできないものというほかない。
なお,甲第16号証ないし18号証について,被請求人は口頭陳述要領書において,新たな無効理由の主張である旨述べているが,確かに意匠法第3条1項第3号の理由として新たな理由を追加することは無効審判請求の要旨の変更となるものであるから許されず,本件審判では,直接判断するものではないが,甲第16号証ないし18号証はいずれも本件登録意匠とは意匠に係る物品が異なり,意匠法第3条1項第3号に該当する理由ともいえず,請求人も本件登録意匠が意匠法第3条第2項の無効理由を包含していると述べているに留まるものであり,意匠法第3条第2項の無効理由を左右するものにもあたらない。
(4)小括
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用意匠1及び引用意匠2に基づいて容易に創作することができたものとは認められず,意匠法第3条第2項の規定には該当せず,無効理由を有さないものであって,本件登録意匠は,無効理由2によっては,同法第48条第1項第1号に該当しないものと認められる。

第5.むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,無効理由1-1(引用意匠1)若しくは無効理由1-2(引用意匠2)によっては,意匠法第3条第1項3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。
また,請求人の主張する無効理由2によっては,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず,意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2013-10-04 
出願番号 意願2011-21809(D2011-21809) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (L3)
D 1 113・ 113- Y (L3)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 久美 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 江塚 尚弘
中田 博康
登録日 2012-02-03 
登録番号 意匠登録第1435268号(D1435268) 
代理人 磯野 道造 
代理人 藤本 昇 
代理人 野村 慎一 
代理人 浅野 令子 
復代理人 石川 達久 
代理人 富田 哲雄 

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