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審判番号(事件番号) データベース 権利
判定2012600053 審決 意匠
判定2013600013 審決 意匠
無効2012880013 審決 意匠
判定2013600023 審決 意匠
判定2013600012 審決 意匠

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審決分類 審判    L2
管理番号 1284208 
審判番号 無効2013-880001
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-01-11 
確定日 2014-01-06 
意匠に係る物品 消波用ブロック 
事件の表示 上記当事者間の登録第1363146号「消波用ブロック」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由

請求人は「登録第1363146号意匠の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その証拠として,甲第1号証ないし第9号証を提出し,要旨以下のとおり主張した(以下,この意匠登録第1363146号の意匠を「本件登録意匠」という。)

1.意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,本件意匠の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された意匠,及び,甲第5号証に記載された意匠に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,「本件登録意匠の意匠公報」に記載のとおり,意匠に係る物品を「消波用ブロック」とし,その形態は,以下のとおりである。(別紙第1参照)
本件登録意匠の基本的構成態様については,下記のとおりである。
ア 四つの脚部(第一脚部,第二脚部,第三脚部及び第四脚部)と,一つの胴部とによって構成されている。
イ 四つの脚部は,いずれも同一の形状及び大きさとなっている。
ウ 胴部の一方側の端部に第一脚部と第二脚部とが形成され,胴部の反対側の端部に第三脚部と第四脚部とが形成されている。
エ 第一脚部,第二脚部及び胴部の各中心軸線が,同一の仮想平面上に位置し,かつ,第三脚部,第四脚部及び胴部の各中心軸線が,同一の仮想平面上に位置するように構成されている。
オ 第一脚部,第二脚部及び胴部の各中心軸線を通る仮想平面と,第三脚部及び第四脚部及び胴部の各中心軸線を通る仮想平面とが,直交する構成となっている。
また,本件登録意匠の具体的態様については,下記のとおりである。
カ 各脚部は,それぞれ八つの側面を有し,中心軸線と直交する断面が八角形となるように構成されている。
キ 各脚部は,先端面が平坦な八角形となっている。
ク 各脚部は,先端面の外周に面取り部が形成されている。
ケ 各脚部の中心軸線と胴部の中心軸線との角度は,いずれも116°となっている。
コ 第一脚部の中心軸線と第二脚部の中心軸線との角度,及び,第三脚部の中心軸線と第四脚部の中心軸線との角度は,いずれも128°となっている。
サ 四つの脚部のうち三つの脚部が接地するように水平面上に載置した場合,残る一つの脚部の先端面が,約3°の傾斜面となるように構成されている。
シ 四つの脚部のうち三つの脚部が接地するように水平面上に載置した場合,胴部の中心軸線の角度が,約29°となるように構成されている。
ス 全長Lに対する全高Hの割合は,約83%となっている。
セ 全長Lに対する全幅Wの割合は,約93%となっている。
ソ 全長Lに対する脚部の先端面における太さD1の割合は,約33%となっている。
タ 全長Lに対する脚部の面取り部(最も胴部側の部分)における太さD2の割合は,約39%となっている。
チ 全長Lに対する脚部の基端部付近における太さD3の割合は,約47%となっている。
ツ 胴部は,中心軸線周りに八つの面を有している。
テ 第一脚部と第二脚部との接続部,及び,第三脚部と第四脚部との接続部に「くびれ」が形成されている。
ト 第一脚部が上方を指向し,第二?四脚部が接地する向きでブロックを水平面上に載置した場合に,第二脚部の先端の八角形が,頂点を基準とした向き(時計の文字盤の12時,3時,6時,9時に相当する各位置が,八角形の頂点となる向き)となり,第三脚部及び第四脚部の各先端の八角形が,辺を基準とした向き(時計の文字盤の12時,3時,6時,9時に相当する各位置が,八角形の辺となる向き)となるよう構成されている。

(2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
本件登録意匠に先行する意匠は,以下の証拠のとおりである。
まず,甲第1号証は,本件登録意匠の出願前,平成16年9月30日発行の特許公開公報(特開2004-270348号公報)に記載された,【図1】,【図2】,【図5】?【図7】の「コンクリートブロック」の意匠(以下,「引用意匠1」という。)である。(別紙第2参照)
また,甲第5号証は,本件登録意匠の出願前,昭和60年11月26日発行の公開実用新案公報(実開昭60-178027号公報)に記載された,第1図?第4図の「コンクリートブロック」の意匠(以下,「引用意匠2」という。)である。(別紙第3参照)

(3)引用意匠1の要旨
引用意匠1は,甲第1号証における段落番号0001の「本発明は,港湾,漁港,海岸,河川等における消波工(中略)等に用いられるコンクリートブロックに関する。」の記載から,意匠に係る物品は,「消波用ブロック」であると認められ,その形態は,以下のとおりである。
引用意匠1の基本的構成態様については,下記のとおりである。
ア 四つの脚部(第一脚部,第二脚部,第三脚部及び第四脚部)と,一つの胴部とによって構成されている。
イ 四つの脚部は,いずれも同一の形状及び大きさとなっている。
ウ 胴部の一方側の端部に第一脚部と第二脚部とが形成され,胴部の反対側の端部に第三脚部と第四脚部とが形成されている。
エ 第一脚部,第二脚部及び胴部の各中心軸線が,同一の仮想平面上に位置し,かつ,第三脚部,第四脚部及び胴部の各中心軸線が,同一の仮想平面上に位置するように構成されている。
オ 第一脚部,第二脚部及び胴部の各中心軸線を通る仮想平面と,第三脚部及び第四脚部及び胴部の各中心軸線を通る仮想平面とが,直交する構成となっている。
また,引用意匠1の具体的態様については,下記のとおりである。
カ 各脚部は,それぞれ八つの側面を有し,中心軸線と直交する断面が八角形となるように構成されている。
キ 各脚部は,先端面が平坦な八角形となっている。
ク 各脚部は,先端面の外周に面取り部が形成されている。
ケ 各脚部の中心軸線と胴部の中心軸線との角度は,いずれも116°となっている。
コ 第一脚部の中心軸線と第二脚部の中心軸線との角度,及び,第三脚部の中心軸線と第四脚部の中心軸線との角度は,いずれも128°となっている。
サ 四つの脚部のうち三つの脚部が接地するように水平面上に載置した場合,残る一つの脚部の先端面が,水平となるように構成されている。
シ 四つの脚部のうち三つの脚部が接地するように水平面上に載置した場合,胴部の中心軸線の角度が,約26°となるように構成されている。
ス 全長Lに対する全高Hの割合は,約83%となっている。
セ 全長Lに対する全幅Wの割合は,約92%となっている。
ソ 全長Lに対する脚部の先端面における太さD1の割合は,約26%となっている。
タ 全長Lに対する脚部の面取り部(最も胴部側の部分)における太さD2の割合は,約31%となっている。
チ 全長Lに対する脚部の基端部付近における太さD3の割合は,約40%となっている。
ツ 胴部は,中心軸線周りに八つの面を有している。
テ 第一脚部と第二脚部との接続部,及び,第三脚部と第四脚部との接続部に「くびれ」が形成されていない。
ト 第一脚部が上方を指向し,第二?四脚部が接地する向きでブロックを水平面上に載置した場合,第二脚部の先端の八角形が,辺を基準とした向きとなり,第三脚部及び第四脚部の各先端の八角形が,頂点を基準とした向きとなるように構成されている。
ナ 各脚部と胴部との接続部に,ハンチが形成されている。

(4)本件登録意匠と引用意匠1との対比
i)意匠に係る物品について
両意匠の意匠に係る物品は,ともに「消波用ブロック」であり,同一の物品である。
ii)形態について
本件登録意匠と引用意匠1とは,
ア 四つの脚部(第一脚部,第二脚部,第三脚部及び第四脚部)と,一つの胴部とによって構成されている点,
イ 第一脚部,第二脚部,第三脚部及び第四脚部が,いずれも同一の形状及び大きさとなっている点,
ウ 胴部の一方側の端部に第一脚部と第二脚部とが形成され,胴部の反対側の端部に第三脚部と第四脚部とが形成されている点,
エ 第一脚部,第二脚部及び胴部の各中心軸線が,同一の仮想平面上に位置し,かつ,第三脚部,第四脚部及び胴部の各中心軸線が,同一の仮想平面上に位置するように構成されている点,
オ 第一脚部,第二脚部及び胴部の各中心軸線を通る仮想平面と,第三脚部及び第四脚部及び胴部の各中心軸線を通る仮想平面とが,直交する構成となっている点,において,基本的構成態様が共通している。
一方,基本的構成態様における相違点は,見あたらない。
次に,本件登録意匠と引用意匠1とは,
カ 各脚部が,それぞれ八つの側面を有し,中心軸線と直交する断面が八角形となるように構成されている点,
キ 各脚部の先端面が平坦な八角形となっている点,
ク 各脚部の先端面の外周に面取り部が形成されている点,
ケ 各脚部の中心軸線と胴部の中心軸線との角度が,いずれも116°となっている点,
コ 第一脚部の中心軸線と第二脚部の中心軸線との角度,及び,第三脚部の中心軸線と第四脚部の中心軸線との角度が,いずれも128°となっている点,
ス 全長Lに対する全高Hの割合が,約83%となっている点,
ツ 胴部が,中心軸線周りに八つの面を有している点,において,具体的態様が共通している。

それに対し,本件登録意匠と引用意匠1とは,
サ 本件登録意匠においては,四つの脚部のうち三つの脚部が接地するように水平面上に載置した場合,残る一つの脚部の先端面が,約3°の傾斜面となるように構成されているのに対し,引用意匠1においては,水平となるよう構成されている点,
シ 本件登録意匠においては,四つの脚部のうち三つの脚部が接地するように水平面上に載置した場合,胴部の中心軸線の角度が,約29°となるように構成されているのに対し,引用意匠1においては,約26°となっている点,
セ 本件登録意匠においては,全長Lに対する全幅Wの割合が,約93%となっているのに対し,引用意匠1においては,約92%となっている点,
ソ 本件登録意匠においては,全長Lに対する脚部の面取り部における太さD1の割合が,約33%となっているのに対し,引用意匠1においては,約26%となっている点,
タ 本件登録意匠においては,全長Lに対する脚部の先端面における太さD2の割合が,約39%となっているのに対し,引用意匠1においては,約31%となっている点,
チ 本件登録意匠においては,全長Lに対する脚部の基端部付近における太さD3の割合が,約47%となっているのに対し,引用意匠1においては,約40%となっている点,
テ 本件登録意匠においては,第一脚部と第二脚部との接続部,及び,第三脚部と第四脚部との接続部に「くびれ」が形成されているのに対し,引用意匠1においては,「くびれ」が形成されていない点,
ト 第一脚部が上方を指向し,第二?四脚部が接地する向きでブロックを水平面上に載置した場合に,本件登録意匠においては,第二脚部の先端の八角形が,頂点を基準とした向きとなり,第三脚部及び第四脚部の各先端の八角形が,辺を基準とした向きとなるように構成されているのに対し,引用意匠1においては,第二脚部の先端の八角形が,辺を基準とした向きとなり,第三脚部及び第四脚部の各先端の八角形が頂点を基準とした向きとなるように構成されている点,
ナ 本件登録意匠においては,各脚部と胴部との接続部に,ハンチが形成されていないのに対し,引用意匠1においては,ハンチが形成されている点,において,具体的態様が相違している。

(5)本件登録意匠と引用意匠1との類否
両意匠の類否を検討すると,本件登録意匠と引用意匠1とは,基本的構成態様(ア?オ)(当審注,審判請求書の記載は(ア?カ)であるが,基本的構成態様についての言及のため,(ア?オ)に修正)が,すべて共通している。
これらの共通する基本的構成態様(ア?オ)(当審注,審判請求書の記載は(ア?カ)であるが,基本的構成態様についての言及のため,(ア?オ)に修正)は,具体的態様の共通点(カ,キ,ク,ケ,コ,ス,ツ)と共に,両意匠の基調を形成しているのに対して,具体的態様の相違点(サ,シ,セ,ソ,タ,チ,テ,ト,ナ)は,次のような理由により,いずれもごく僅かな差異にすぎないものと認められ,両意匠の類否判断に与える影響は微弱であると認められる。
具体的態様の相違点(サ,シ,セ,ソ,タ,チ,テ,ト,ナ)のうち,角度に関するもの(サ,シ)において,それらの角度差はいずれも「3°」であり,目視では簡単に把握できないほどのごく僅かな差異にすぎない。
次に,上記相違点のうち,大きさの比率に関するもの(セ,ソ,タ,チ)において,その差は最大で「8%」であり,いずれもごく僅かな差異にすぎない。
また,甲第5号証に示されるように,胴部と,同形・同大の四つの脚部とによって構成され,胴部の一方側の端部に第一脚部と第二脚部とが形成され,胴部の反対側の端部に第三脚部と第四脚部とが形成されてなる消波用ブロックにおいて,『第一脚部と第二脚部との接続部,及び,第三脚部と第四脚部との接続部に「くびれ」を形成すること』及び『各脚部と胴部との接続部にハンチを形成しないこと』は,本件登録意匠の出願前から公然知られているため,上記相違点のうち,本件登録意匠において「くびれ」が形成されていること(テ),及び,ハンチが形成されていないこと(ナ)は,本件登録意匠に固有の特徴的な形態であるとはいえない。
更に,第一脚部が上方を指向し,第二?四脚部が接地する向きでブロックを水平面上に載置した場合における,脚部先端の八角形の向きの相違(ト)については,本件登録意匠と引用意匠1との間で,第二脚部同士(或いは,第三脚部及び第四脚部同士)を比較すると,八角形の向きが22.5°異なっているが,引用意匠1の第三脚部及び第四脚部の各先端の八角形の向きが,本件登録意匠の第二脚部の先端の八角形の向きと同様に「頂点を基準とした向き」となること,及び,引用意匠1の第二脚部の先端の八角形の向きが,本件登録意匠の第三脚部及び第四脚部の各先端の八角形の向きと同様に「辺を基準とした向き」となることに鑑みると,脚部先端の八角形の向きの相違(ト)は,本件登録意匠と引用意匠1とを全体的に比較して観察した場合において,異なる美感を生じさせるものであるとは言い難い。
このように,本件登録意匠と引用意匠1との間には,具体的態様について9つの相違点(サ,シ,セ,ソ,タ,チ,テ,ト,ナ)が存在しているものの,これらの相違点はいずれもごく僅かな差異にすぎず,本件登録意匠と引用意匠1の類否判断に与える影響は微弱であると認められ,基本的構成態様及び具体的態様の共通点(ア,イ,ウ,エ,オ,カ,キ,ク,ケ,コ,ス,ツ)に基づく両意匠の共通感を凌駕するものではない。
したがって,本件登録意匠は,甲第1号証に記載の意匠(引用意匠1)に類似するものと認められる。

(6)本件登録意匠と引用意匠2との類否
本件登録意匠は,甲第5号証に記載の意匠(引用意匠2)にも類似する。
審判請求人は,平成14年8月19日付で,意匠に係る物品を「消波ブロック」とし,その形態を甲6号証の図面に記載されたとおりとする意匠登録出願を行った。
なお,この形態は,甲第1号証「特開2004-270348号公報」に示されている意匠とほぼ同一の形態に係るものである。
同出願に対しては,平成15年2月28日(発送日)付で,「実開昭60-178027号公報の第1?5図に記載されているコンクリートブロックの意匠に類似する」,即ち,引用意匠2に類似する旨の拒絶理由通知書が発せられた。
この拒絶理由通知書に対し,請求人は,平成15年4月8日付で意見書を提出し,当該出願に係る意匠が引用意匠2とは類似しない旨を主張したが,意見書において述べた請求人の主張は採用されず,当該出願に係る意匠は,引用意匠2に類似するという理由で,平成15年4月25日付で拒絶査定となっている。
ここで,引用意匠2の形態と,引用意匠2に類似するという理由で拒絶された上記出願の意匠(甲第6号証の意匠)の形態とを対比してみると,基本的構成態様については,上記ア?オの点でいずれも共通している。
具体的態様については,引用意匠2と甲第6号証との間には,いくつかの相違点が認められるが,甲第6号証の審査において,それらの相違点は「微弱な相違にすぎない」と認定されて,「両意匠は類似する」と判断されている。
そして,引用意匠2と本件登録意匠との間にも,具体的態様について,いくつかの相違点が認められるものの,それらの相違点は,引用意匠2と甲第6号証との相違点を超えるものではなく,類否判断に与える影響の程度に変わりはない,即ち,引用意匠2と甲第6号証の意匠との相違点と同様に「微弱な相違にすぎない」と認められる。
したがって,本件登録意匠は,甲第6号証の意匠と同様に,甲第5号証に記載の意匠(引用意匠2)に類似すると認められる。

(7)その他(甲第6?9号証に基づく本件登録意匠と引用意匠1との類否)
また,本件登録意匠,引用意匠2及び甲第6号証の意匠を対比すると,本件登録意匠と甲第6号証の意匠は,甲第6号証の意匠と引用意匠2との類似性よりも強いと認められる。
ここで,引用意匠1は,甲第6号証の意匠とほぼ同一の形態にかかるものであるから,甲第6号証の意匠とに類似すると判断された引用意匠2よりも更に甲第6号証の意匠及び引用意匠1に近い本件登録意匠が,引用意匠1に類似すると判断されるべきものであることは明白であり,疑う余地がない。

(8)むすび
本件登録意匠は,甲第1号証に記載の意匠,及び,甲第5号証に記載の意匠に類似し,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから,本件登録意匠は,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

3.請求人が提出した証拠
(1)甲第1号証 特開2004-270348号公報の写し
(2)甲第2号証の1 引用意匠1の説明図1
(3)甲第2号証の2 引用意匠1の説明図2
(4)甲第2号証の3 引用意匠1の説明図3
(5)甲第3号証の1 本件登録意匠と引用意匠1の六面図対照表1
(6)甲第3号証の2 本件登録意匠と引用意匠1の六面図対照表2
(7)甲第4号証 本件登録意匠と引用意匠1の写真(斜視図)
(8)甲第5号証 実開昭60-178027号公報の写し
(9)甲第6号証 意願2002-022067の願書及び図面のコピー
(10)甲第7号証 意願2002-022067に対する拒絶理由通知書のコピー
(11)甲第8号証 意願2002-022067に対する拒絶査定のコピー
(12)甲第9号証 本件登録意匠,引用意匠2,及び,甲第6号証の意匠の対照表

第2 被請求人の答弁及び理由

1.答弁の趣旨
被請求人は,結論同旨の審決を求める旨答弁し,証拠として乙第1号証ないし第7号証を提出し,以下のとおり主張した。

2.答弁の理由
請求人は,審判請求書の「請求の理由」において,取付方向を異にした脚部・支脚を複数本連結して一体化した消波ブロック,コンクリートブロックの前記引用意匠1,2について,脚部・支脚の軸線方向取付角度,表面形状等を詳細に説明して本件登録意匠と比較して類似するとしている。
また,本請求人が出願して拒絶された甲第6号証の意願2002-022067号の意匠の消波ブロックとも対比しながら,本件登録意匠が出願前公知の意匠と類似である旨の主張をされている。
しかしながら,本件登録意匠の意匠出願日の平成20年10月27日,及び請求人が出願した甲第6号証の意匠出願日である平成14年8月19日の古い方の平成14年8月19日の前において,以下に示す(a)基本意匠形態,(b)脚を多面体とする部分意匠形態,及び(c)脚先端隅取の部分意匠形態は,共に周知・公知の意匠形態である。

(a)基本意匠形態
「取付方向(軸線方向)を異にした脚部・支脚の3?5本の複数の脚を連結して一体化したコンクリート製の消波ブロック,コンクリートブロック」の基本意匠形態は,これら出願日前に周知である。
(b)脚を多面体とする部分意匠形態
「上記基本意匠形態(a)において,その脚の外表面をフラットな面で多面体に成形する脚部を多面体とする部分意匠形態」も,上記出願日の平成14年8月19日前において脚に施される公知・周知の意匠の形態である。
(c)脚先端隅取の部分意匠形態
「上記基本意匠形態(a)において,脚先端部の多面体の境界に形成されるエッジをなくすように,小さく隅取りする脚先端隅取の部分意匠形態」は,これら出願前において脚に施される公知・周知の意匠の形態である。

上記基本意匠形態(a)については,甲第5号証,乙第1号証ないし乙第6号証の意匠でもって周知であることは明白である。
また,脚を多面体とする部分意匠形態(b)については,脚外表面を多面体とする部分意匠形態,及び,その面が脚の軸線方向に長く長方形状の平面でもって多面体とした点も,甲第5号証,乙第5号証及び乙第6号証の図面に明確に開示されており,これらの形態も周知である。
そして,脚先端隅取の部分意匠形態(c)については,先端部の損傷を防ぐとともに,作業安全のために行うコンクリート製品の慣用技術でもあるが,乙第1号証,乙第2号証,乙第5号証及び乙第6号に開示されている周知のものである。
以上の如く,本件登録意匠及び甲第6号証の被請求人の意匠出願の出願前(平成14年8月19日前)において,(a)基本意匠形態,(b)脚を多面体とする部分意匠形態,(c)脚先端隅取の部分意匠形態のいずれも周知の意匠形態であり,この点に何ら創作性はない。

かかる出願前の周知意匠形態に照らしてみれば,請求人の甲第6号証の意願2002-022067号の意匠の特徴は,下記の3点特徴イ,ロ,ハにあると思われる。

特徴イ
脚は4脚であり,その第一脚部と第二脚部で形成される横向きの脚組の脚中心の軸線αはV字状となり,第三脚部と第四脚部で形成される他の縦向きの脚組の脚中心の軸線βもV字状であり,2つのV字状の軸線α,βは横向きと縦向きとなっていて,略90°の角度位相を有する点。
特徴ロ
横向きの脚組において,その第一と第二脚部の脚組外形線(平面視の脚組の外形線)及びそのコンクリート内部の延長線上の外形想像線がなすV字状脚外形線(点線)X外側に,縦向きの脚組のV字状軸線βが配置され,しかも横向きの脚組のV字状脚外形線Xの外形折曲点Zと,他の縦向きの脚組のV字状の軸線βの折曲点θとが,平面視で脚部の略半径程遠く離れている。更に,縦向きの脚組の上方に向いている第四脚部の軸線β部分は,上記V字状脚外形線Xから外側にあって,横向きの脚組から遠ざかるようにそのV字状の軸線βは上外方へ延びている。
特徴ハ
甲第6号証の第一?四の各脚部の外表面はフラットの面で多面体に整形されているが,横向きの第一・第三脚部の脚組のV字状に拡がる側面が長方形状に横長になっている。及び,これに直角にクロスするように第四脚の先端部から横向きの脚組の折曲部分に向けて略同じ幅でのフラットな面で連続的に下方に向けて絡がれている。

しかしながら,甲第6号証の意願2002-022067号の意匠の上記特徴イ,ロ,ハは,その出願前公知の甲第5号証の図面の意匠に備えられた特徴でもあり,甲第6号証の意匠はその出願前公知の甲第5号証の意匠に類似するもので,甲第5号証の意匠に比べ,創作性があるといえるものでなく,類似として拒絶されるものである。

特徴イについて,甲第5号証の意匠も横向きと縦向きの2組の脚組からなり,V字状の軸線α,βは略90°の位相がある。
特徴ロについて,2つの脚組のV字状軸線α,βの折曲点δ,θは互いに遠く離れている。そして,略水平(横向き)の脚組の脚外形線Xの折曲部Zの外側に,他の脚組の上方側脚部の軸線βの折曲点θがある。即ち,軸線の折曲点δ,θの中間に外形折曲点Zがある関係にある。甲第5号証の2つのV字状軸線α,βは互いに離れ,横向きの脚組の脚外形線Xの外側に縦向きのV字状の軸線βの折曲点θがあり,しかも,横向きの脚組から遠ざかるように拡がっている。
特徴ハについて,この特徴ハも,甲第5号証の意匠の支脚2’,2’は横向きの脚組を形成し,その支脚2’,2’の折曲内側の側面は途中で内側に折曲する横向きの長方形状で各面は平面としている。他方の支脚2,2からなる縦向きの脚組の上方に延びた支脚2には,前記横向きの脚組の長方形状の平面に対して,支脚の外表面の一つの縦長の面が軸方向に延び,その下方の横向きの長方形状の面と略直交するように下方公に延びている。
してみると,甲第6号証の意願2002-022067号の意匠の特徴イ,ロ,ハは,その出願前公知の甲第5号証に全て表れる。
よって,甲第5号証と意願2002-022067号の意匠とは,ともに特徴イ,ロ,ハを有していて,類似するものである。
特に,特徴ロの点で,甲第5号証,甲第6号証の意匠とも,略90°位相を異にするV字状の2組の脚組を,胴部で連結した印象を強く与え,類似するものである。
なお,横向きと縦向きの2組のV字状の脚組を胴部で連結した意匠形態は,乙第1号証及び乙第2号証で出願前公知の形態といえるものである。

これに対し,本件登録意匠は,確かにその出願時の周知意匠の形態の(a)基本意匠形態,(b)脚を多面体とする部分意匠形態,(c)脚先端隅取の部分意匠形態を備えるものである。
しかし,本件登録意匠は,その周知意匠の形態を保有した上で上記特徴イを備えているが,上記特徴ロ,ハを有せず,下記(p),(q)において,甲第1,5号証及び出願時の周知意匠の形態にない創作的な意匠形態を有する。
即ち,
(p):4脚の脚部を有し,2つの脚部で横向きの脚組と,残りの2つの脚部で縦向きの脚組を有し,それらの2組の脚組のV字状の軸線α,βは略90°の位相があるが(特徴イを有するが),一対のV字状軸線α,βの折曲点δ,θはあまり離れていない。その離れ具合は,横向きの脚組のV字状の脚外形線Xの交点(外形折曲点Z)及びそのV字状の脚外形線Xの内側に他の縦向きの脚部の上方に延びた脚部の軸線βがあって,その軸線βはその折曲点θの位置から垂直に立ち上がるようになっている。
横向きの脚組の軸線αの折曲点δとその脚外形線Xの外形折曲点Zとの中間に,縦向きの軸線βの折曲点θがある平面視の位置関係にある。
別の表現をすれば,横向きの脚組の脚外形線Xの内側に2つのV字状の軸線α,βの折曲点δ,θがともに入っている状態と言える。
この(p)の意匠形態によって,横向きの脚組の脚外形線Xの折曲点Zの内側に,他の脚組の垂直に延伸する第四脚の軸線βが垂直に配置され,この軸線βまわりに脚の肉厚が形成されているので,縦向きの脚組の折曲部分が,横向きの脚組の折曲部分に深く喰い込むように合体されている。よって,2つの略90°位相の異なる脚組を胴部で絡ぐというものではない。
(q):横向きのV字状の脚組の外に向かった中央に見える縦の折曲線εと,他の縦向きの脚組の上部へ垂直に延びた脚部の八面体の縦の境界線ζとが,略縦の一直線状に連続するように各脚体の八面体が形成されている。
かかる(p),(q)の本件登録意匠の特徴は,いずれの出願前公知の甲,乙号証には開示のない特徴となっている。
よって,本件登録意匠に対し,請求人が主張する無効理由は存在せず,その請求は棄却されるべきものである。

3.むすび
本件登録意匠は,請求人の提出する出願前公知の甲第1,5号証の意匠とは非類似であり,その無効の請求は棄却されるべきものであるとすべきである。

4.被請求人が提出した証拠
(1)乙第1号証 実公昭59-12171号公報の写し
(2)乙第2号証 特公昭60-59365号公報の写し
(3)乙第3号証 第255567号意匠公報の写し
(4)乙第4号証 第255567号の類似2の意匠公報の写し
(5)乙第5号証 実公昭51-14586号公報の写し
(6)乙第6号証 実公昭51-35152号公報の写し
(7)乙第7号証 本件登録意匠の実施製品の写真1/2,2/2

第3 口頭審理
本件審判について,当審は,平成25年9月20日に口頭審理を行った。
この口頭審理において,審判長は,両者に対して審理終結を告知している。

1.請求人
請求人は,平成25年1月11日付け審判請求書及び平成25年9月6日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述し,口頭審理陳述要領書とともに証拠として甲第10号証及び甲第11号証の書証を提出した。

(1)請求人が提出した証拠
i)甲第10号証 本件登録意匠と引用意匠1の重ね合わせ図
ii)甲第11号証 本件登録意匠の説明図4

2.被請求人
請求人は,平成25年3月6日付け答弁書及び平成25年9月3日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。

第4 当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成20年(2008年)10月27日に出願され(意願2008-29030号),平成21年(2009年)5月22日に意匠権の設定がなされた意匠登録第1363146号の意匠であって,意匠に係る物品を「消波用ブロック」とし,その形態を願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

(1)本件登録意匠の形態
本件登録意匠の形態は,(a)全体は,2つの略正八角柱を斜めに切断し,その切断面同士を略「く」の字状となるよう連結した形状からなるブロックの構成体(以下,「ブロック構成体」という。)同士を,その中心軸線を含む仮想平面同士が直交する構成で,ブロック構成体の中央部分がほぼ半分くい込んだ状態で接合した態様であり,(b)ブロック構成体同士の接合部分の周囲には,傾斜をもたせた増厚部(以下,「ハンチ」という。)を形成し,(c)各ブロック構成体は,ハンチを形成した中央部分を略正八角柱とし,その両先端部分にかけて略正八角錐台状に窄めた形状とし,(d)各ブロック構成体の先端面を略正八角形状とし,(e)各ブロック構成体の先端部分に面取りを施し,(f)ブロック構成体の中心軸線を含む仮想平面上に,ブロック構成体中央部分における略正八角柱の側辺,ブロック構成体先端部分における略正八角錐台の側辺,及び,ブロック構成体先端部における略正八角形の頂点が含まれているような向きにブロック構成体を形成したものである。

2.請求人が主張する無効の理由及び引用意匠
請求人が,意匠法第48条第1項第1号の規定に基づき本件登録意匠について主張する意匠登録無効の理由は,本件登録意匠が,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠,すなわち,意匠登録出願前に頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠であるため,意匠登録を受けることができないというものであり,上記無効理由の根拠として請求人が引用した意匠は,いずれも,本件登録意匠に係る出願前,(1)平成16年9月30日発行の特許公開公報(特開2004-270348号公報)に記載された,【図1】,【図2】,【図5】?【図7】の「コンクリートブロック」の意匠(別紙第2 引用意匠1参照),及び,(2)昭和60年11月26日発行の公開実用新案公報(実開昭60-178027号公報)に記載された,第1図?第4図の「コンクリートブロック」の意匠(別紙第3 引用意匠2参照)であって,その形態を同公報に記載されたとおりとしたものである。

(1)引用意匠1の形態
引用意匠1の形態は,(a)全体は,2つの略八角錐台を斜めに切断し,その切断面同士を略「く」の字状となるように連結した形状からなるブロック構成体同士を,その中心軸線を含む仮想平面同士が直交する構成で,略八角柱状の胴部により接合した態様であり,(b)ブロック構成体と胴部の接合部分の周囲には,傾斜をもたせたハンチを形成し,(c)ブロック構成体の略八角錐台で挟まれた略「く」の字状の角部の内側部分(以下,「くびれ部分」という。)を平面状に埋めた形状とし,略「く」の字状の角部の側面部分に略長方形状の平面部を形成し,(d)各ブロック構成体の先端面を略正八角形状とし,(e)各ブロック構成体の先端部分に面取りを施し,(f)ブロック構成体の中心軸線を含む仮想平面上に,ブロック構成体側面部分における側面部の中心線,ハンチ及び胴部における上面部の中心線,及び,ブロック構成体先端面における略正八角形の辺の中心が含まれているような向きにブロック構成体を形成したものである。

(2)引用意匠2の形態
引用意匠2の形態は,(a)全体は,2つの略八角錐台を斜めに切断し,その切断面同士を略「く」の字状となるように連結した形状からなるブロック構成体同士を,その中心軸線を含む仮想平面同士が直交する構成で,略八角柱状の胴部により接合した態様であり,(b)ブロック構成体の中央部分と胴部との接合部分に三角形状の平面部を形成し,(c)各ブロック構成体の先端面を略八角形状とし,(d)ブロック構成体の中心軸線を含む仮想平面上に,ブロック構成体側面部分における側面部の中心線,胴部における上面部の中心線,及び,ブロック構成体先端面における略八角形の辺の中心が含まれているような向きにブロック構成体を形成したものである。

3.無効理由(本件登録意匠と引用意匠の類否)について
(1)本件登録意匠と引用意匠1について
i)本件登録意匠と引用意匠1の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「消波用ブロック」であり,引用意匠1の意匠に係る物品は,港湾,河川等における消波工等に用いられる「コンクリートブロック」であるから,両意匠の意匠に係る物品は共通する。

また,本件登録意匠と引用意匠1の形態を対比すると,両意匠の形態には,主として以下のとおりの共通点及び相違点が認められる。
まず,共通点として,(A)ブロック構成体同士を,その中央連結部分で,その中心軸線を含む仮想平面同士が直交する構成で,接合している点,(B)各ブロック構成体の先端部分を略八角錐台形状とし,その先端面を略正八角形状としている点,(C)各ブロック構成体の先端部分には面取りを施している点,(D)ブロック構成体の中央部分の接合箇所にはハンチを形成している点,が主に共通する。
一方,相違点として,
(ア)ブロック構成体同士の接合部分の態様について,本件登録意匠は,ブロック構成体の中央部分が,ほぼ半分くい込んだ状態で接合しているのに対して,引用意匠1は,2つの離れたブロック構成体同士を略八角柱状の胴部により接合している点,
(イ)各ブロック構成体の態様について,本件登録意匠は,ブロック構成体を,2つの略正八角柱を斜めに切断し,その切断面同士を略「く」の字状となるように連結した形状とし,その両先端側部分を窄めて,略正八角錐台形状に形成しているのに対して,引用意匠1は,2つの略八角錐台を斜めに切断し,その切断面同士を略「く」の字状となるように連結した形状とし,ブロック構成体のくびれ部分を平面状に埋めた状態で形成し,くびれ部分に隣接するブロック構成体の側面部分に略長方形状の平面部を形成している点,
(ウ)ブロック構成体の向きについて,本件登録意匠は,ブロック構成体の中心軸線を含む仮想平面上に,ブロック構成体中央部分における略正八角柱の側辺,ブロック構成体先端部分における略正八角錐台の側辺,及び,ブロック構成体先端部における略正八角形の頂点が含まれているのに対して,引用意匠1は,ブロック構成体の中心軸線を含む仮想平面上に,ブロック構成体側面部分における側面部の中心線,ハンチ及び胴部における上面部の中心線,及び,ブロック構成体先端面における略正八角形の辺の中心が含まれている点,が主に相違する。

ii)類否判断
以上の共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,総合して,両意匠の意匠全体としての類否を判断する。
まず,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態の類否に係る評価については,以下のとおりである。

(共通点の評価)
前記認定した両意匠の共通点の内,共通点(A),すなわち,2つのブロック構成体同士が,その中央連結部分で,その中心軸線を含む仮想平面同士が直交する構成で接合している点は,例えば,実公昭59-12171号に掲載の第1図の消波ブロックの意匠(別紙第4 参考意匠1参照),意匠登録第255567号意匠(意匠に係る物品:護岸用捨ブロック)(別紙第5 参考意匠2参照)及び意匠登録第255567号の類似第2号意匠(意匠に係る物品:護岸用捨ブロック)(別紙第6 参考意匠3参照)に見られるとおり,この種物品の骨格ともいえるものであるから,このような概括的な共通点をもって,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということはできない。
次に,共通点(B)各ブロック構成体の先端部分の形状が,略八角錐台形状である点も,この種物品分野において,ブロック構成体の先端部分を略正八角錐台形状とし,その先端面を略正八角形状としたものが既に見られることから(別紙第7 参考意匠4参照,及び,別紙第8 参考意匠5参照),これらは本件登録意匠と引用意匠1のみがもつ共通点とは言えず,両意匠の類否判断に与える影響は軽微なものにとどまるものである。
また,共通点(C)及び共通点(D)についても,ブロック構成体先端部分に面取りを施すことも,ブロック構成体の接合箇所にハンチを形成することも,この種物品分野において,極普通に行われる手法にすぎず,特段特徴のないものであるから,両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的であると言わざるを得ない。
そして,これら共通点は,全体としてみても,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。

(相違点の評価)
一方,両意匠の相違点について見ると,相違点(ア)ブロック構成体同士の接合部分の態様について,本件登録意匠が,胴部を設けずにブロック構成体同士を接合した点は,引用意匠1に見られる略八角柱状の胴部を設けた態様とは大きく異なっており,また,この部位は,需要者の注意を惹きやすい部分でもあるから,この相違点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといえる。
また,相違点(イ)各ブロック構成体の態様について,本件登録意匠が,ブロック構成体中央部分を略正八角柱形状とし,その先端部分を略正八角錐台形状とし,それらに挟まれた略「く」の字状の角部の内側部分にくびれ部分を形成している点は,引用意匠1に見られる略八角錐台で挟まれたくびれ部分を,平面状に埋めて形成した態様とは大きく異なっており,また,この部位も,需要者の注意を惹きやすい部分でもあるから,この相違点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといえる。
そして,相違点(ウ)ブロック構成体の向きについて,本件登録意匠の,垂直方向のブロック構成体の側辺と水平方向のブロック構成体の中央連結部が一直線上に表れる点は,引用意匠1の,垂直方向のブロック構成体の略八角錐台側面部,ハンチ部の略長方形状傾斜面部,胴部の略長方形状上面部及び水平方向のブロック構成体側面部の略長方形状の平面部によって,一続きの平坦な形状が表れる点とは大きく異なる印象を与えるものであり,かつ,この部位もブロックが水流を受ける重要な箇所であって需要者に重視される部分であるから,この相違点も,両意匠の類否判断に一定の影響を及ぼすといえる。
したがって,これらの各相違点に係る態様が相まって生じる視覚的効果は,意匠全体として見た場合,上記共通点を凌ぎ,需要者に別異の美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠は,引用意匠1に類似しないものと言うことができる。

iii)小括
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,概括的に見た場合の共通点は存するものの,具体的な形態に係る相違点が相まって生じる視覚効果は共通点のそれを凌駕し,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼして,看者に両意匠を意匠全体として別異の意匠と印象付けているというべきであるから,本件登録意匠は,引用意匠1に類似するということはできない。

(2)本件登録意匠と引用意匠2について
i)本件登録意匠と引用意匠2の対比
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「消波用ブロック」であり,引用意匠2の意匠に係る物品は,消波用コンクリートブロックに係る考案の「コンクリートブロック」であるから,両意匠の意匠に係る物品は一致する。

また,本件登録意匠と引用意匠2の形態を対比すると,両意匠の形態には,主として以下のとおりの共通点及び相違点が認められる。
まず,共通点として,(A)ブロック構成体同士を,その中央連結部分で,その中心軸線を含む仮想平面同士が直交する構成で,接合している点,(B)ブロック構成体先端部分を略八角錐台状とし,その先端面を略八角形状としている点,が主に共通する。
一方,相違点として,
(ア)ブロック構成体同士の接合部分の態様について,本件登録意匠は,ブロック構成体の中央部分が,ほぼ半分くい込んだ状態で接合しているのに対して,引用意匠2は,2つの離れたブロック構成体同士を略八角柱状の胴部により接合している点,
(イ)各ブロック構成体の態様について,本件登録意匠は,ブロック構成体を,2つの略正八角柱を斜めに切断し,その切断面同士を略「く」の字状となるように連結した形状とし,その両先端側部分を窄めて,略正八角錐台形状に形成しているのに対して,引用意匠2は,2つの略八角錐台を斜めに切断し,その切断面同士を略「く」の字状となるように連結した形状とし,ブロック構成体の中央部分と胴部との接合部分に三角形状の平面部を形成している点,
(ウ)ブロック構成体の向きについて,本件登録意匠は,ブロック構成体の中心軸線を含む仮想平面上に,ブロック構成体中央部分における略正八角柱の側辺,ブロック構成体先端部分における略正八角錐台の側辺,及び,ブロック構成体先端部における略正八角形の頂点が含まれているのに対して,引用意匠2は,ブロック構成体の中心軸線を含む仮想平面上に,ブロック構成体側面部分における側面部の中心線,胴部における上面部の中心線,及び,ブロック構成体先端面における略八角形の辺の中心が含まれている点,
(エ)空洞部の有無について,本件登録意匠は,空洞部のないブロックであるのに対して,引用意匠2は,ブロック構成体同士の中央連結部,及び,ブロック構成体と胴部の接合部分に開口部を持つ空洞部を,ブロック構成体と胴部の接合部分内部に形成している点,
(オ)ブロック構成体先端部の面取りの有無について,本件登録意匠は,ブロック構成体先端部に面取りを施しているのに対して,引用意匠2は,ブロック構成体に面取りがない点,
(カ)ブロック構成体接合箇所のハンチの有無について,本件登録意匠は,ブロック構成体接合箇所にハンチを形成しているのに対して,引用意匠2は,ブロック構成体と胴部との接合箇所にハンチがない点,が主に相違する。

ii)類否判断
以上の共通点及び相違点が,両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,総合して,両意匠の意匠全体としての類否を判断する。
まず,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態の類否に係る評価については,以下のとおりである。

(共通点の評価)
前記認定した両意匠の共通点の内,共通点(A),すなわち,2つのブロック構成体同士が,その中央連結部分で,その中心軸線を含む仮想平面同士が直交する構成で接合している点は,例えば,実公昭59-12171号に掲載の第1図の消波ブロックの意匠(別紙第4 参考意匠1参照),意匠登録第255567号意匠(意匠に係る物品:護岸用捨ブロック)(別紙第5 参考意匠2参照)及び意匠登録第255567号の類似第2号意匠(意匠に係る物品:護岸用捨ブロック)(別紙第6 参考意匠3参照)に見られるとおり,この種物品の骨格ともいえるものであるから,このような概括的な共通点をもって,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすということはできない。
次に,共通点(B)ブロック構成体先端部分の形状が,略八角錐台形状である点も,この種物品分野において,ブロック構成体の先端部分を略正八角錐台形状とし,その先端面を略八角形状としたものが既に見られることから(別紙第7 参考意匠4参照,及び,別紙第8 参考意匠5参照),本件登録意匠と引用意匠2のみがもつ共通点とは言えず,両意匠の類否判断に与える影響は軽微なものにとどまるものである。
そして,これら共通点は,全体としてみても,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。

(相違点の評価)
一方,両意匠の相違点について見ると,相違点(ア)ブロック構成体同士の接合部分の態様について,本件登録意匠が,胴部を設けずにブロック構成体同士を接合した点は,引用意匠2に見られる略八角柱状の胴部を設けた態様とは大きく異なっており,また,この部位は,需要者の注意を惹きやすい部分でもあるから,この相違点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといえる。
また,相違点(イ)各ブロック構成体の態様について,本件登録意匠が,ブロック構成体中央部分を略正八角柱形状とし,その先端側部分を略正八角錐台形状としている点は,引用意匠2に見られる略八角錐台形状のみで構成され,かつ,ブロック構成体の中央部分と胴部との接合部分に三角形状の平面部を形成した態様とは大きく異なっており,また,この部位も,需要者の注意を惹きやすい部分でもあるから,この相違点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといえる。
そして,相違点(ウ)ブロック構成体の向きについて,本件登録意匠の,垂直方向のブロック構成体の側辺と水平方向のブロック構成体の中央連結部が一直線上に表れる点は,引用意匠2の,垂直方向のブロック構成体の略八角錐台の側面部,胴部の略長方形状上面部及び水平方向のブロック構成体の三角形状の平面部によって,一続きの平坦な形状が表れる点とは大きく異なる印象を与えるものであり,かつ,この部位も水流を受ける重要な箇所であって需要者に重視される部分であるから,この相違点も,両意匠の類否判断に一定の影響を及ぼすといえる。
さらに,相違点(エ)ないし(カ)についても,この種物品分野においては格別特徴ある態様とはいい難いが,これらの相違点に係る態様が相乗して生じる視覚的な効果は,需要者に別異の美感を起こさせており,この相違点が,両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えているものといえる。
したがって,これらの各相違点に係る態様が相まって生じる視覚的効果は,意匠全体として見た場合,上記共通点を凌ぎ,需要者に別異の美感を起こさせるものであるから,本件登録意匠は,引用意匠2に類似しないものと言うことができる。

iii)小括
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,概括的に見た場合の共通点は存するものの,具体的な形態に係る相違点が相まって生じる視覚効果は共通点のそれを凌駕し,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼして,看者に両意匠を意匠全体として別異の意匠と印象付けているというべきであるから,本件登録意匠は,引用意匠2に類似するということはできない。

4.むすび

以上検討したとおり,本件登録意匠は,引用意匠1及び引用意匠2のいずれの意匠にも類似するものではないと認められるため,請求人が主張する無効理由は成り立たず,本件登録意匠が,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するものとして,同条第1項柱書の規定に違反して登録されたということはできないから,同法第48条第1項第1号の規定により本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2013-10-28 
結審通知日 2013-10-30 
審決日 2013-11-19 
出願番号 意願2008-29030(D2008-29030) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (L2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 博康 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 樫本 光司
江塚 尚弘
登録日 2009-05-22 
登録番号 意匠登録第1363146号(D1363146) 
代理人 武田 明広 
代理人 戸島 省四郎 

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