ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 判定 属さない(申立成立) B3 |
---|---|
管理番号 | 1285479 |
判定請求番号 | 判定2013-600015 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2013-05-10 |
確定日 | 2014-02-28 |
意匠に係る物品 | 折り畳み傘用ケース |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1455125号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「折り畳み傘用ケース」の意匠は,登録第1455125号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求人の請求の趣旨及び理由 1.請求の趣旨 請求人は,イ号意匠は,登録第1455125号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求める,と申し立て,その理由として,判定請求書に記載のとおりの主張し,甲第1号証ないし甲第3号証を提出した。 2.請求の理由 (1)判定請求の必要性 本件判定請求人は,本件判定請求に係るイ号意匠(甲第1号証)を製造し販売している。 一方,本件判定被請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「折りたたみ傘用ケース」(甲第2号証,以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。 意匠権者,すなわち,本件判定被請求人は,本件判定請求人に対して「イ号意匠の傘袋の販売は本件登録意匠の意匠権を侵害するものである旨」の警告書を通知してきた。 警告を受けた判定請求人は,本件登録意匠公報の【意匠に係る物品の説明】の欄を見ると,筆箱状のイメージを彷彿させるケース本体の一端部に設けた略環状金具に対して係脱自在な留め金具を有するテープ状の連結体が意匠の要部であることが明記されていることから,「イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」と考えるので,特許庁による判定を求める次第である。 (2)本件登録意匠の手続の経緯 出願 平成23年12月22日(意願2011-29908号) 登録 平成24年10月12日(登録第1455125号) (3)意匠に係る物品の説明 本件登録意匠の意匠に係る物品の説明の欄には,「この物品は,ケース本体と,このケース本体の開口縁に取り付けられた一対のファスナーエレメントと,このファスナーエレメントに取り付けられたスライダーと,ケース本体の左側面に取り付けられた吊り下げ帯部からなる,折り畳み傘用のケースである。 吊り下げ帯部の一端には,ケース本体に取り付けられた略環状金具に対して係脱自在な留め金具が設けられている。 使用状態を示す参考斜視図1に示されるように,折り畳み傘をケースに収納する場合は,一対のファスナーエレメントの係合が解除する方向にスライダーを移動してケースを開くことにより,折り畳んだ状態の傘をケース内に収納することが可能となる。 また,使用状態を示す参考斜視図2に示されるように,この物品は,肩掛けバッグ等のバッグの提手に装着することができる。 具体的には,吊り下げ帯部をバッグの提手に巻きつけて留め金具をケース本体の略環状金具に係合することにより,本物品をバッグの提手に吊り下げた状態で持ち運びすることが可能となる」との記載がある。 (4)本件登録意匠の説明 本件登録意匠の意匠に係る物品は,折り畳み傘を収納する「折り畳み傘用ケース」である。そして,本件登録意匠の態様は,下記の基本的構成態様と具体的構成態様から成り,意匠の要部は,本件登録意匠の【意匠に係る物品の説明】に記載されている通りである。 イ 基本的構成態様 (A)ケース本体の正面視及び背面視が,普通一般の筆箱状のイメージを彷彿させる長方形の形状となっている点。 (B)ケース本体の開口縁に取り付けられ開閉手段が,普通一般のファスナーエレメントと,該ファスナーエレメントを摺動するスライダー本体と,該スライダー本体に回転自在に取付けられた長板状引手とからなるスライダー形状となっている点。 (C)ケース本体の一端部に取付けられた吊り下げ手段の正面視及び背面視,平面視及び底面視が,それぞれ普通一般のループ状のイメージを彷彿させるテープ状の連結体と,該テープ状の連結体の可動端に一体的に取付けられた略環状金具と,該略環状金具と係脱自在なおむすび形状の留め金具とから成る長帯状の形状である点。 口 具体的構成態様 長方形状のケース本体と,ケース本体の連続する短辺および長辺に形成されたL字状の開口部と,該開口部の開口縁に取り付けられた一対のファスナーエレメントと,このファスナーエレメントに取り付けられたスライダーと,ケース本体の短辺側の開口部の端部付近に備えられた吊り下げ帯部からなり,前記ケース体の開口部側の短辺および長辺の角が他の角に比べて大きな円弧状に形成され,前記ケース体の開口部が形成された長辺の端部が傾斜面に形成されている。また,吊り下げ帯部はケース本体の短辺側の開口部の端部付近の正面視正方形状の取付け帯に取付けられた半月状の金属製リングと,半月状の略環状金具と開口部を隔てて対向する位置に取付けられた長い吊り下げ帯と,吊り下げ帯の先端に取付けられ,前記略環状金具と係合する留め金具から構成されている。 (5)イ号意匠の説明 イ号意匠の意匠に係る物品は折り畳み傘を収納する「折り畳み傘用ケース」であり,具体的構成態様は以下の通りである。 平行四辺形状のケース本体と,ケース本体の連続する短辺および長辺に形成されたL字状の開口部と,該開口部の開口縁に取り付けられた一対のファスナーエレメントと,このファスナーエレメントに取り付けられたスライダーと,ケース本体の短辺側の開口部の端部に備えられた吊り下げ金具からなり,前記ケース体の2角が他の2角に比べて大きな円弧状に形成され,前記ケース体の短辺が傾斜し平行四辺形状となっている。また,吊り下げ帯部は,ケース本体の短辺側の開口部の端部に平面視および底面視において方形状にあらわれる短い吊り下げ具取付け帯が形成され,吊り下げ具取付け帯に取付けられたカラビナより構成されている。 (6)主張の骨子 両意匠の共通点に係る態様は,両意匠にのみ共通する特徴とは言えないのに対して,本件登録意匠の【意匠に係る物品の説明】に記載されている事項を参酌した差異点は,意匠の要部であって,看者の注意を惹くものと認められるから,両意匠は全体として一般の需要者に与える美観が異なり,非類似の意匠である。 (7)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明 (i)両意匠の共通点 1)本件登録意匠とイ号意匠は,共に折り畳み傘を収納するケースであり,物品の用途及び機能が同一であるので,意匠に係る物品は同一である。 2)ケース本体の連続する短辺および長辺にL字状の開口部を形成し,この開口部の開口縁全体に一対のファスナーエレメントおよびスライダーを取り付けている点は共通する。 (ii)両意匠の差異点 1)本件登録意匠のケース体は略長方形状で,1つの角が大きな円弧で形成されているものの,角ばった印象を与える美観であるのに対し,イ号意匠のケース体は,短辺が若干傾斜し平行四辺形状となっていると共に,2つの角が大きな円弧状に形成されているので,なだらかな曲線のような印象を与える美観である点。 2)本件登録意匠の吊り下げ帯部は,半月状の金属製リングと,長い帯状の吊り下げ帯と,留め金具から構成されており,【使用状態を示す参考斜視図2】に示されるように,バッグの持ち手など様々な物に係合でき自由度が高い印象を与える美観であるのに対し,イ号意匠の吊り下げ部は短い吊り下げ具取付け帯とカラビナ金具で構成されており,係合対象が限られ,自由度が低い印象を与える美観である点。 3)本件登録意匠の吊り下げ帯部の取付け位置が,ケース本体の短辺側の開口部の端部付近であるのに対し,イ号意匠の吊り下げ部の取付け位置はケース本体の短辺側の開口部の端部の角部である点。 4)本件登録意匠の吊り下げ帯等は正面視および背面視において長方形状にあらわれるのに対し,本件登録意匠の吊り下げ帯等は正面視および背面視において長方形状にあらわれるのに対し,イ号意匠の吊り下げ具取付け帯は正面視および背面視において,厚みの殆どない環状の部材としてあらわれる点。 5)本件登録意匠のケース本体は無地であるのに対し,イ号意匠のケース本体は模様が描かれている点。 (8)イ号意匠および口号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない理由の説明 (i)本件登録意匠に関する先行周辺意匠 公知資料1 意匠登録第1217628号公報(甲第3号証) (ii)本件登録意匠の要部 このように,長方形状で1つの角が大きな円弧に形成されているケース本体は,公知資料1により本件登録意匠に係る意匠登録出願前に公知であり,本件登録意匠の創作の要部ということはできない。 また,ケース本体の短辺に帯状の吊り下げ具を備える折りたたみ傘用ケースも公知資料1により本件登録意匠に係る意匠登録出願前に公知であり,本件登録意匠の創作の要部ということはできない。 さらに,ケース本体にL字状に開口部を形成し,その開口縁にファスナーエレメントおよびスライダーを備えることも公知資料1により公知である。 付言すると,傘用ケースに限らずこのような収納具においては,方形状のケース体にL字状の開口部を形成し,その開口縁にファスナーエレメントおよびスライダーを備えることは,ごくありふれた構成態様であり創作性は低いといえる。 よって,上記先行周辺意匠をもとに本件登録意匠の創作の要点について述べれば,この物品における意匠上の創作の主たる対象は,吊り下げ帯部の構成,留め金具の形状および吊り下げ帯部の取り付け位置にあることは明らかである。 (iii)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察 1)ケース本体の連続する短辺および長辺にL字状の開口部を形成し,この開口部の開口縁全体に一対のファスナーエレメントおよびスライダーを取り付けている点については,折り畳み傘用ケースに限らず,柔軟性のある収納容器においては周知な構成態様であり,両意匠の類否に与える影響は無い又は微弱である。 2)本件登録意匠のケース体は略長方形状で,1つの角が大きな円弧で形成されているものの,角ばった印象を与える美観であるのに対し,イ号意匠のケース体は,短辺が若干傾斜すると共に,2つの角が大きな円弧状に形成されているので,なだらかな曲線のような印象を与える美観である点について,本件登録意匠の形態は公知であり,意匠の要部ということはできないが,販売時等においてある程度需要者の注意を惹く点であり,上述の美観の差異が両意匠の類否に多少の影響を与えるものである。 3)本件登録意匠の吊り下げ帯部は,半月状の金属製リングと,長い帯状の吊り下げ帯と,留め金具から構成されており,柔軟でフレキシブルな印象を与える美観であるのに対し,イ号意匠の吊り下げ部は短い吊り下げ具取付け帯とカラビナ金具で構成されており,硬質で自由度が低く係合対象が限られる印象を与える美観である点については,前述の先行周辺意匠との関係により,意匠の要部ということができ,上述の美観の差異が両意匠の類否に与える影響は大きいといえる。 4)本件登録意匠の吊り下げ帯部の取付け位置が,ケース本体の短辺側の開口部の端部付近であるのに対し,イ号意匠の吊り下げ部の取付け位置はケース本体の短辺側の開口部の端部の角部である点については,前述の先行周辺意匠との関係により,意匠の要部ということができ,上述の美観の差異が両意匠の類否に与える影響は大きいといえる。 5)本件登録意匠の吊り下げ帯等は正面視および背面視において長方形状にあらわれるのに対し,イ号意匠の吊り下げ具取付け帯は正面視および背面視において,厚みの殆どない環状の部材としてあらわれる点について,本件登録意匠はケース本体の高さに比べて帯が一定の割合を占めている印象を与える美観であるのに対し,イ号意匠は正面視において,生地の厚み程度の厚さしか現れないためこのような印象を与える美観ではなく,上述の美観の差異が両意匠の類否に影響を与えるといえる。 6)本件登録意匠のケース本体は無地であるのに対し,イ号意匠のケース本体は模様が描かれている点について,このような物品において模様を描くことは通常の創作であるが,販売時等においてある程度需要者の注意を惹く点であり,上述の美観の差異が両意匠の類否に一定の影響を与えるものである。 このように両意匠の共通点はこのような物品における周知な構成態様であり,イ号意匠は本件登録意匠の特徴的な形態を有しておらず,差異点に係る態様が生じる意匠的な効果の方が両意匠の類似性についての判断に与える影響が支配的であるから,両意匠は全体として需要者に与える美観が異なるものであり,類似するということはできない。 (9)むすび したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないものと考えるので,請求の趣旨どおりの判定を求める。 3.証拠方法 (1)甲第1号証 イ号意匠写真 (2)甲第2号証 意匠登録第1455125号公報の写し (3)甲第3号証 意匠登録第1217628号公報の写し 第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由 1.答弁の趣旨 被請求人は,イ号意匠は,意匠登録第1455125号及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める,と答弁し,その理由として,判定請求答弁書の記載のとおりの主張をした。 2.答弁の理由 (1)本件登録意匠の要部について (1.1)意匠に係る物品の説明について 請求人は,判定請求書において,本件登録意匠の【意匠に係る物品の説明】の欄に記載された事項が本件登録意匠の要部であると主張している。 しかしながら,この主張は明らかに妥当性を欠くものである。 【意匠に係る物品の説明】については,意匠法施行規則(様式2備考39)に「別表第一の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは,【意匠に係る物品の説明】にその物品の目的,使用の状態等の物品の理解を助けることができるような説明を記載する。」と定められている。この規定からも明らかな如く,【意匠に係る物品の説明】は,単に物品の理解を助けるための説明に過ぎず,決して要部に関する説明ではない。 本件登録意匠に係る物品である「折り畳み傘用ケース」は,別表第一の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さないため,上記規定に従って【意匠に係る物品の説明】に物品の理解を助けることができる説明を記載したのである。 従って,本件登録意匠における【意匠に係る物品の説明】の記載事項は,単に本件登録意匠に係る物品の理解を助けるための説明に過ぎず,当該事項が本件登録意匠の要部であるとする請求人の主張が妥当性を欠くことは明白である。 (1.2)先行登録意匠との関係について 請求人は,判定請求書において,本件登録意匠と先行登録意匠(意匠登録第1217628号)とを比較して,本件登録意匠の要部が「吊り下げ帯部の構成,留め金具の形状および吊り下げ帯部の取り付け位置にある」と主張している。 しかしながら,この請求人の主張は,本件登録意匠の構成態様と先行登録意匠の構成態様との正確な対比に基づいておらず,妥当性を欠くものである。以下,本件登録意匠と先行登録意匠とを正確に対比することにより,この主張が妥当性を欠くものであることを説明し,本件登録意匠の要部を明確とする。 (1.2.1)本件登録意匠の構成態様 <基本的構成態様> A.折り畳み傘を収容するケース本体と,吊り下げ部からなる。 B.ケース本体は,略長方形状であり,開口縁部に一対のファスナーエレメント及びスライダーが取り付けられている。 C.吊り下げ部は,ループ状に形成されている。 <具体的構成態様> D.ファスナーエレメントは,ケース本体のL字形に連続する2辺(長辺と短辺)の全長に亘って形成されている。 E.ケース本体は,前記2辺が出合う第1の角部が丸みを帯びている。 F.吊り下げ部は,前記第1の角部と隣接する短辺を挟んで隣り合う第2の角部の近傍に取り付けられている。 G.吊り下げ部は,帯状布と留め金具を有する。 (1.2.2)先行登録意匠の構成態様 <基本的構成態様> a.折り畳み傘を収容するケース本体と,吊り下げ部からなる。 b.ケース本体は,略長方形状であり,開口縁部に一対のファスナーエレメント及びスライダーが取り付けられている。 c.吊り下げ部は,ループ状に形成されている。 <具体的構成態様> d.ファスナーエレメントは,ケース本体のL字形に連続する2辺(長辺と短辺)のうち,長辺の約半分の長さ範囲のみに形成されている。 e.ケース本体は,前記2辺が出合う第1の角部が丸みを帯びている。 f.吊り下げ部は,前記第1の角部の近傍に取り付けられている。 g.吊り下げ部は,帯状布からなる。 (1.2.3)本件登録意匠と先行登録意匠の構成態様の対比 本件登録意匠と先行登録意匠は,基本的構成態様において共通している一方,具体的構成態様において差異がある。 すなわち,本件登録意匠の基本的構成態様A?C及び具体的構成態様D?Gのうち,基本的構成態様A?Cは先行登録意匠の基本的構成態様a?cと一致し,具体的構成態様Eは先行登録意匠の具体的構成態様eと一致する。 しかし,本件登録意匠の具体的構成態様D,F,Gは,先行登録意匠の具体的構成態様d,f,gと相違する。 即ち,第一に,本件登録意匠は「D.ファスナーエレメントは,ケース本体のL字形に連続する2辺の全長に亘って形成されている。」のに対し,先行登録意匠は「d.ファスナーエレメントは,ケース本体のL字形に連続する2辺のうち,長辺の約半分の長さ範囲のみに形成されている。」,第二に,本件登録意匠は「F.吊り下げ部は,第1の角部と隣接する短辺を挟んで隣り合う第2の角部の近傍に取り付けられている。」のに対し,先行登録意匠は「f.吊り下げ部は,第1の角部の近傍に取り付けられている。」,第三に,本件登録意匠は「G.吊り下げ部は帯状布と留め金具を有する。」のに対し,先行登録意匠は「g.吊り下げ部は帯状布からなる。」点において相違する。 (1.2.4)本件登録意匠の要部 本件登録意匠の構成態様のうち,先行登録意匠に開示されている構成態様は,本件登録意匠の要部とはなり得ない。 従って,上記(1.2.3)の対比結果より,本件登録意匠の要部は構成態様D,F,Gに存すると判断できる。但し,構成態様Gについて「帯状布」は先行登録意匠に開示されているため,主たる要部となり得ず,「留め金具」を有する点(構成態様G1と称す)が副次的な要部となるに過ぎない。 特に,本件登録意匠において,構成態様D及びFは相互に連関することにより,ケース本体の開口部を吊り下げ部に妨げられずにL字形に連続する2辺の全長に亘って広く形成でき,傘の出し入れが極めて容易になるという優れた機能を発揮する。先行登録意匠の構成態様d,fでは開口部が非常に狭くなり,構成態様D及びFに基づく優れた機能は得られない。そのため,構成態様D及びFは,折り畳み傘用ケースの取引者たる看者に対して強い印象を与える美観として表れる。 (2)本件登録意匠とイ号意匠との対比 次に,本件登録意匠の構成態様とイ号意匠の構成態様とを比較する。 (2.1)本件登録意匠の構成態様 本件登録意匠の構成態様は,(1.2.1)で説明した通りである。 (2.2)イ号意匠の構成態様 <基本的構成態様> A’.折り畳み傘を収容するケース本体と,吊り下げ部からなる。 B’.ケース本体は,略長方形状であり,開口縁部に一対のファスナーエレメント及びスライダーが取り付けられている。 C’.吊り下げ部は,ループ状に形成されている。 <具体的構成態様> D’.ファスナーエレメントは,ケース本体のL字形に連続する2辺の全長に亘って形成されている。 E’.ケース本体は,前記2辺が出合う第1の角部が丸みを帯びている。 F’.吊り下げ部は,前記第1の角部と隣接する短辺を挟んで隣り合う第2の角部の近傍に取り付けられている。 G’.吊り下げ部は,留め金具を有する。 (2.3)本件登録意匠の構成態様とイ号意匠の構成態様の対比 先ず,本件登録意匠とイ号意匠の基本的構成態様を比較すると,両意匠の基本的構成態様は全て一致している。 次に,本件登録意匠とイ号意匠の具体的構成態様を比較すると,両意匠は構成態様DとD’,EとE’,FとF’においてそれぞれ一致する。構成態様GとG’においては一応相違するが,本件登録意匠の構成態様G1(吊り下げ部が留め金具を備えている態様)と構成態様G’は一致している。 ここで,本件登録意匠の主たる要部は,上記(1.2.4)で述べた通り,構成態様D,Fに存する。即ち,「D.ファスナーエレメントは,ケース本体のL字形に連続する2辺(長辺と短辺)の全長に亘って形成されている。」点,及び「F.吊り下げ部は,第1の角部と隣接する短辺を挟んで隣り合う第2の角部の近傍に取り付けられている。」点に存する。また,副次的な要部は,吊り下げ部が留め金具を有する態様(構成態様G1)に存する。 そうすると,本件登録意匠とイ号意匠は,本件登録意匠の主たる要部(D,F)において共通しており,副次的な要部(G1)においても共通しているから,互いに類似する意匠であることは明らかである。 (3)請求人の本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察に対する反論 (3.1)ファスナーエレメントについて 請求人は,「ケース本体の連続する短辺及び長辺にL字状の開口部を形成し,この開口部の開口縁全体に一対のファスナーエレメントおよびスライダーを取り付けている点については,折り畳み傘用ケースに限らず,柔軟性のある収納容器において周知な構成態様であり,両意匠の類否に与える影響は無い又は微弱である」と主張している。(判定請求書第6頁(iii)1)) しかしながら,この主張は,以下の通り,妥当性を欠くものである。 (イ)請求人は,「ケース本体の連続する短辺及び長辺にL字状の開口部を形成し,この開口部の開口縁全体に一対のファスナーエレメントおよびスライダーを取り付けている」点について,折り畳み傘用ケースにおいて周知な構成態様であると主張するが,当該主張には何ら根拠がなく,到底首肯できるものではない。 (ロ)本件登録意匠のファスナーエレメントは,「ケース本体のL字形に連続する2辺(長辺と短辺)の全長に亘って形成されている。」(構成態様D)ものである。かかる構成態様は,折り畳み傘用ケースという物品において先行登録意匠には見られない本件登録意匠の独自の形態である。即ち,先行登録意匠のファスナーエレメントは,「ケース本体のL字形に連続する2辺(長辺と短辺)のうち,長辺の約半分の長さ範囲のみに形成されている。」(構成態様d)ものであり,ファスナーエレメントの形成された範囲は,本件登録意匠の半分にも満たない長さであり,その差異は極めて顕著である。 (ハ)ファスナーエレメントは,傘をケースから出し入れする際に,利用者が実際に手で触れて操作する部分であるから,利用者の注意を強く惹く部分であることは明らかである。しかも,ファスナーエレメントの形成された範囲の長さは,傘を出し入れするための開口部の大きさに直接関係し,傘の出し入れの容易さに大きく影響するから,利用者が購入時においてファスナーエレメントの形成された範囲の長さに注意を向けることも明らかである。例えば,ファスナーエレメントが,本件登録意匠の如く,L字形に連続する2辺の全長に亘って形成されている場合は,開口部が広いために傘の出し入れが容易であるのに対して,先行登録意匠の如く,L字形に連続する2辺のうち長辺の約半分の長さ範囲のみにしか形成されていない場合,開口部が非常に狭いために傘の出し入れが困難となる。この点は上記(1.2.4)の項に示した比較図からも明らかであり,両意匠の機能の顕著な差異は,看者が感得する美観の顕著な差異として表れる。 (ニ)本件登録意匠のように,ファスナーエレメントが,「ケース本体のL字形に連続する2辺(長辺と短辺)の全長に亘って形成されている。」(構成態様D)場合,ファスナーエレメントはケース本体の縁部の約半分の長さに亘って,即ちケース本体の広い範囲に亘って形成される。 また,ファスナーエレメントは金属であり,布地からなるケース本体とは色や風合いが全く異なるから,ケース本体に同化することなく目立って認識される。 そうすると,本件登録意匠において,ファスナーエレメントは,ケース本体の広い範囲に亘って形成され,且つケース本体に同化することなく目立って認識される部分であるから,この点からも看者の注意を強く惹く部分であると言える。 (ホ)上記(ロ)?(ニ)に鑑みると,本件登録意匠のファスナーエレメントの構成態様D(ケース本体のL字形に連続する2辺の全長に亘って形成されている)は,先行登録意匠には見られない本件登録意匠の独自の形態であるとともに利用者(看者)の注意を強く惹く部分でもあることから,本件登録意匠とイ号意匠との類否に与える影響が大きいことは明らかである。 そうすると,類否に与える影響が大きいファスナーエレメントの構成態様Dにおいて共通する,本件登録意匠とイ号意匠とが互いに類似する意匠であることは明白である。 (3.2)ケース本体の角部について 請求人は,本件登録意匠のケース体とイ号意匠のケース体の角部の形状について,両意匠の類否に影響を与えるものである,旨を主張している。(判定請求書第6頁(iii)2)) しかしながら,この主張も妥当性を欠くものである。 (イ)先ず,請求人も認める通り,本件登録意匠のケース本体の角部の形状は,意匠の要部ではない。従って,ケース本体の角部の形状が両意匠の類否に与える影響が極めて微弱であることは明らかである。 (ロ)請求人は,本件登録意匠のケース体とイ号意匠のケース体の角部の形状の差異点をいくつか挙げている。しかしながら,いずれの点も微細な差異であり,両意匠ともに全体として略長方形状という点においては変わりない。従って,両意匠を全体として観察した時に,略長方形状という共通点が与える印象が角部の僅かな差異の印象を圧倒的に凌駕し,看者に与える印象は殆ど異ならない。 しかも,本件登録意匠及びイ号意匠に係る物品は通常,傘をケース体内に収容した状態で販売されるものであるが,当該状態においては角部の差異は殆ど認識できない。 そうすると,傘をケース体内に収容した状態で販売されるという,本件登録意匠及びイ号意匠に係る物品の取引の実情下においては,ケース体の角部の形状の差異は殆ど認識されないのであるから,当該差異が両意匠の類否に与える影響は極めて微弱であることは明白である。 (3.3)吊り下げ部の構成について 請求人は,本件登録意匠とイ号意匠の吊り下げ帯部の美観の差異が,両意匠の類否に与える影響は大きい旨を主張する。(判定請求書第6頁(iii)3)) しかしながら,この主張も妥当性を欠くものである。 (イ)上述した通り,本件登録意匠の要部は構成態様D及びFにあり,吊り下げ部の構成態様は要部ではない。従って,吊り下げ部の美観の差異が両意匠の類否に与える影響は大きい旨の請求人の主張は失当である。 吊り下げ部の構成態様のうち帯状布を有する構成態様は,先行登録意匠に見られるように,本件登録意匠の出願前に公知であったのであるから,「留め金具」を備えている点が副次的な要部となるに過ぎないが,本件登録意匠とイ号意匠は,共に吊り下げ部に留め金具を有する点で共通しているから,副次的な要部においても共通している。従って,吊り下げ部に若干の差異があるとしてもその差異が両意匠の類否に与える影響は小さい。 (ロ)本件登録意匠とイ号意匠の留め金具の具体的な形状には若干の差異があるものの,共に環状であること,質感が共通する金属製であること,バックの提手等に係合可能な形状であること,等の多くの共通点が存在することに鑑みれば,美観に影響を与える程の差異とはいえない。 (ハ)また,留め金具の部分の長さについて着目すると,留め金具の部分の長さはケース体の長さ(長辺方向)に対して,本件登録意匠では約17%,イ号意匠では約15%であり,ほとんど差異がない。従って,看者は,両意匠を共に全体として観察した場合,同じような大きさの留め金具が取り付けられていると認識する。そうすると,この大きさに関する共通点も上記した多くの形状の共通点と相俟って,看者に対して類似の印象を与えることは明らかである。 (3.4)吊り下げ部の取り付け位置について 請求人は,本件登録意匠とイ号意匠の吊り下げ帯部の取り付け位置の差異が,両意匠の類否に与える影響は大きい旨を主張する。(判定請求書第6頁(iii)4)) しかしながら,この主張も妥当性を欠くものである。 (イ)請求人は,「本件登録意匠の吊り下げ部の取付け位置が,ケース本体の短辺側の開口部の端部付近であるのに対し,イ号意匠の吊り下げ部の取付け位置はケース本体の短辺側の端部の角部である点については,先行周辺意匠との関係により,意匠の要部ということができ」ると主張している。 しかしながら,この主張は,本件登録意匠の要部を誤っており,失当である。 上述した通り,先行登録意匠において,吊り下げ部は,ファスナーエレメントが取り付けられたL字形の2辺が出合う第1の角部の近傍に取り付けられている。一方,本件登録意匠において,吊り下げ部は,ファスナーエレメントが取り付けられたL字形の2辺が出合う第1の角部と隣接する短辺を挟んで隣り合う第2の角部の近傍に取り付けられている。 つまり,先行登録意匠と本件登録意匠において,吊り下げ部は,互いに異なる角部(第1角部と第2角部)の近傍に取り付けられているのである。そうすると,先行登録意匠との関係を考慮すれば,本件登録意匠の要部は,先行登録意匠には見られない態様,即ち吊り下げ部が第2の角部の近傍に取り付けられている点にあることは明白である。 (ロ)上記の通り,本件登録意匠の要部は,吊り下げ部が第2の角部の近傍に取り付けられている点にある。一方,イ号意匠においても,吊り下げ部は第2の角部の近傍に取り付けられている。両者の具体的な取り付け位置には若干の差異があるものの,第2の角部の近傍という点においては共通している。 そうすると,本件登録意匠とイ号意匠の吊り下げ帯部の取り付け位置は,要部において共通しているから,共通点が差異点を凌駕し,取り付け位置の共通点は両意匠に類似の印象を与えるものである。 (3.5)吊り下げ部の正面視及び背面視の美観について 請求人は,本件登録意匠とイ号意匠の吊り下げ帯部の正面視及び背面視の美観の差異が,両意匠の類否に与える影響は大きい旨を主張する。(判定請求書第6?7頁(iii)5)) しかしながら,この主張も妥当性を欠くものである。 (イ)請求人は,吊り下げ部の帯状布が与える美観の差異が両意匠の類否に与える影響が大きい旨を主張している。しかしながら,そもそも上述した通り,吊り下げ部に帯状布を有する構成態様は,先行登録意匠に見られるように,本件登録意匠の出願前に公知であったのであるから,本件登録意匠の要部とはならない。従って,非要部である帯状布が与える美観の差異について両意匠の類否に与える影響が大きいとする請求人の主張が妥当性を欠くことは明らかである。 (ロ)本件登録意匠の吊り下げ部について,帯状布はケース本体と同質の素材でありケース本体の一部として付随的に認識されるのみであって,それ自体が目立って認識されることはない。この点からも,帯状布が与える美観の差異が両意匠の類否に与える影響が大きいとする請求人の主張が妥当性を欠くことは明らかである。 (ハ)また,請求人は,本件登録意匠の吊り下げ帯等は正面視および背面視において長方形状にあらわれるのに対し,イ号意匠の吊り下げ具取り付け帯は正面視および背面視において,厚みの殆どない環状の部材としてあらわれるから,この美観の差異が両意匠の類否に与える影響が大きいと主張する。 しかしながら,イ号意匠の吊り下げ具取り付け帯(左下角の緑色の部分)は,傘を収容した状態では変形し,正面視や背面視においても略長方形状に見えるのである。 そうすると,物品の実際の取引の実情下においては,本件登録意匠の吊り下げ帯等とイ号意匠の吊り下げ具取り付け帯は,正面視および背面視において共に略長方形状に見えるのであるから,看者に与える美観の差異は殆ど無い。 (3.6)ケース本体の模様について 請求人は,本件登録意匠のケース本体は無地であるのに対し,イ号意匠のケース本体は模様が描かれている点についての美観の差異が,両意匠の類否に一定の影響を与える旨を主張する(判定請求書第7頁(iii)6))が,イ号意匠のケースに描かれた模様は,ストライプを基調とした淡い色彩の,ありふれており且つ目立たない模様であるから,意匠の類否に与える影響は小さい。 (3.7)ファスナーエレメントの範囲と吊り下げ部の位置について 上記(3.1)及び(3.4)で述べた如く,本件登録意匠とイ号意匠は,本件登録意匠の要部である構成態様D(ファスナーエレメントがケース本体のL字形に連続する2辺の全長に亘って形成されている)及び構成態様F(吊り下げ部は,ファスナーエレメントが取り付けられたL字形の2辺が出合う第1の角部と隣接する短辺を挟んで隣り合う第2の角部の近傍に取り付けられている)において共通している。 上記(1.2.4)で述べた通り,本件登録意匠において,構成態様D及びFは相互に連関することによって,折り畳み傘用ケースの取引者たる看者に対して強い印象を与える美観として表れる。そのため,構成態様D及びFが共通する本件登録意匠とイ号意匠は,看者に対して共通の美観を強く感得させるものであるから,互いに類似する意匠であることは明らかである。 (4)他の登録例について 本件登録意匠とイ号意匠が類似する意匠であることをより明確とするために,両意匠と共通する基本的構成態様(物品を収容するケース本体が,略長方形状であって開口縁部に一対のファスナーエレメント及びスライダーが取り付けられている)を有する物品に係る意匠について,御庁の他の登録例を示す。 意匠登録第1437667号及び意匠登録第1437669号は,上記基本的構成態様が本件登録意匠及びイ号意匠と共通している。両意匠は,ファスナーエレメントが形成された範囲のみが異なり,その他の構成態様は同一である。 両意匠の出願人は同一であるため,仮に御庁が両意匠を類似と判断した場合,一方を本意匠とし他方を関連意匠とすべき旨の拒絶理由を通知する筈であるが,両意匠は共に独立意匠として登録されている。この事実は,御庁が両意匠を互いに非類似の意匠と判断したこと,即ち,本件登録意匠及びイ号意匠と共通する基本的構成態様を有する物品においては,ファスナーエレメントが形成された範囲が類否判断に大きな影響を及ぼす意匠の要部であると判断したことを示している。 この御庁の判断基準に従えば,本件登録意匠とイ号意匠は,類否判断に大きな影響を及ぼすファスナーエレメントが形成された範囲において共通しているのであるから,互いに類似する意匠であると判断されて然るべきである。 (5)結論 以上説明したように,本件登録意匠とイ号意匠は先行登録意匠には見られない要部の形態において共通しており,結果として,看者に類似の印象を与えるものであるから,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属することは明らかである。 従って,「イ号意匠は,意匠登録第1455125号及びこれに類似する意匠の範囲に属する。」との判定を求める。 第3.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は,平成23年12月22日に意匠登録出願(意願2011-29908号)され,平成24年10月12日に登録の設定(意匠登録第1455125号)がされたものであって,願書及び願書に添付された図面の記載によれば,意匠に係る物品を「折り畳み傘用ケース」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を,願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第1参照) すなわち,本件登録意匠は,正面視略横長長方形状のケース本体部(以下,「本体部」という。)と,その左辺下方部分に正面側から背面側にわたって帯状の吊り下げ部(以下,「吊り下げ部」という。)を取り付けたものであり,本体部の外形形状は,正面視左下隅部をほぼ直角とし,左上隅部をやや大きな円弧状とし,右上隅部を右下がりの傾斜とし,右下隅部をやや小さい円弧状とし,本体部左辺及び上辺部分にかけて一連のファスナー部を設けて開閉可能としたものであって,吊り下げ部は,本体部の正面側左辺下方部分に縫着された短い帯状ループ部に略「D」字状のリングを取り付け,対応する背面側右辺下方部分に縫着された長い帯状テープ部の先端にカニカンを取り付け,同リングと同カニカンを連結し構成したものである。 2.イ号意匠 本件判定請求の対象であるイ号意匠は,判定請求書に添付の甲第1号証イ号意匠写真により示された意匠であって,意匠に係る物品が「折り畳み傘用ケース」と認められ,その形態は,イ号意匠の写真版に現されたとおりとしたものである。(別紙第2参照) すなわち,イ号意匠は,正面視略横長長方形状の本体部と,その左側面下端部に吊り下げ部を取り付けたものであり,本体部の外形形状は,正面視左下隅部を直角よりやや鋭角とし,左上隅部及び右下隅部をやや大きな円弧状とし,右上隅部をやや小さい円弧状とし,本体部左辺及び上辺部分にかけて一連のファスナー部を設けて開閉可能としたものであって,吊り下げ部は,左側面下端部に縫着された短い帯状ループ部に略隅丸三角形状のカラビナを取り付けて構成したものである。 3.本件登録意匠とイ号意匠との対比 本件登録意匠とイ号意匠(以下,「両意匠」という。)を対比すると,意匠に係る物品がともに「折り畳み傘用ケース」であることから,両意匠の意匠に係る物品が一致し,その形態には,主として以下の共通点及び差異点が認められる。 まず,共通点として,(A)本体部は,正面視略横長長方形状とし,その左辺及び上辺部分にかけて開口部を形成し,この開口部の縁部分に,ファスナーエレメント及び引手付きのスライダーからなるファスナー部を配設し,開閉可能としたものであって,(B)引手付きのスライダーは,ファスナーを閉じた状態において,本体部左側面下端部に位置し,(C)吊り下げ部を本体部左側面下方部分に配設している点,が認められる。 一方,相違点として, (ア)本体部の外形形状について,本件登録意匠は,正面視左下隅部をほぼ直角とし,左上隅部をやや大きな円弧状とし,右上隅部を右下がりの傾斜とし,右下隅部をやや小さい円弧状とした形状であるのに対して,イ号意匠は,正面視左下隅部を直角よりやや鋭角とし,左上隅部及び右下隅部をやや大きな円弧状とし,右上隅部をやや小さい円弧状とした形状である点, (イ)本体部に施された模様について,本件登録意匠は,形状に係る出願であって模様は施されていないのに対して,イ号意匠は,クリーム色の地にピンク色の横線が等間隔に3本施され,かつ,大小の藍色の花及び緑色の葉並びに黄色の花及び緑色の葉の具象的な模様が,正面側ではほぼ一直線上に,背面側では散在した配置で施されている点, (ウ)吊り下げ部の態様について,本件登録意匠は,正面側左辺下方部に縫着された短い帯状ループ部に取り付けた略隅丸三角形状のリングと,背面側右辺下方部に縫着された長い帯状テープ部の先端に取り付けたカニカンとを連結した構成としているのに対して,イ号意匠は,左側面下端部に縫着された短い帯状ループ部に略隅丸三角形状のカラビナを取り付けた構成としている点, (エ)ファスナー部の引手の形状について,本件登録意匠は,全体を略縦長長方形板状とし,ほぼ同じ大きさの略長方形開口部をスライダー取付け部と引手先端部に2つ形成しているのに対して,イ号意匠は,引手先端側に向かってやや幅広で,両端部を円弧状とした縦長の板体とし,小円孔をスライダー取付け部に,大円孔を引手先端部に1つずつ形成している点, が認められる。 そこで,上記の共通点及び差異点につき,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断に及ぼす影響について以下に検討する。 まず,共通点(A)及び共通点(B)における,本体部の態様について,被請求人は,本件登録意匠のファスナーエレメントは,「ケース本体のL字形に連続する2辺(長辺と短辺)の全長に亘って形成されている。」ものであり,かかる構成態様は,折り畳み傘用ケースという物品において先行登録意匠には見られない本件登録意匠の独自の形態である,と主張している。 しかしながら,本体部を正面視略横長長方形状とし,その各辺部分を開口部とし,ファスナー部により開閉可能としたものは,本件登録意匠の出願前に多数見受けられ,折り畳み傘用ケース本体部の構成態様として極普通に見られるものである(例えば,参考意匠2(別紙第4)及び参考意匠3(別紙第5)参照)。 また,吊り下げ部を設けたケースの分野では,ケース本体を正面視略横長長方形状とし,ケース本体のL字形に連続する2辺(長辺と短辺)の全長に亘ってファスナー部を形成したものも,本件登録意匠の出願前に既に見られるものである(参考意匠4(別紙第6)参照)。 したがって,かかる態様を本件登録意匠の独自の形態であると言うことはできず,これらの共通点(A)及び共通点(B)が,両意匠の類否判断に与える影響は大きくなく微弱なものにとどまるものである。 次に,共通点(C)についても,被請求人は,吊り下げ部の構成及び吊り下げ部の取り付け位置について,看者は,両意匠を共に全体として観察した場合,同じような大きさの留め金具が取り付けられていると認識し,両吊り下げ部の具体的な取り付け位置には若干の差異があるものの,第2の角部の近傍という点において共通する,と主張している。 しかしながら,それらは概念的な共通点であって,詳細に見れば,吊り下げ部の構成を,長い帯状テープ部とした本件登録意匠と,金属製のカラビナとしたイ号意匠とは大きく相違し,また,吊り下げ部の取り付け位置を,正面側左辺下方部とした本件登録意匠と,左側面下端部としたイ号意匠とは異なるものである。 したがって,これら概念的な共通点(C)が,両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものにとどまるものである。 そして,これら共通点は,全体としてみても,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。 これに対して, 相違点(ア)本体部の外形形状について,被請求人は,傘をケース体内に収容した状態で販売されるという,本件登録意匠及びイ号意匠に係る物品の取引の実情下においては,ケース体の角部の形状の差異は殆ど認識されない,と主張するが,傘を本体部に収容した状態ではなく,ケースの形態自体を比較した場合には,左右辺が垂直のため正面視が略横長長方形状の本件登録意匠の外形状と,左右辺が傾いた正面視が略平行四辺形状のイ号意匠の外形状とは,与えられる印象が大きく異なるものであるから,販売時での態様はともかくとして,この相違点が,両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 次に,相違点(イ)本体部に施された模様についても,被請求人は,イ号意匠のケースに描かれた模様は,ストライプを基調とした淡い色彩の,ありふれており且つ目立たない模様である,と主張するが,イ号意匠の模様は,それ自体に特徴がある具象的な模様である上に,目に付き易い部位全体に施されたものであるから,この相違点が,両意匠の類否判断に与える影響は非常に大きい。 次に,相違点(ウ)吊り下げ部の態様についても,上記共通点(C)で述べたとおり,吊り下げ部自体の構成態様が大きく相違する上に,それを取り付けた位置も異なるものであるから,上記の相違点と相俟って,この相違点が,両意匠の類否判断に与える影響も大きい。 また,相違点(エ)ファスナー部の引手の形状については,いずれの引手の形状も極ありふれたものにすぎず,両意匠全体の共通特徴に埋没する程度のものであるから,この相違点が,両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。 そして,これらの各相違点を総合してとらえると,各相違点に係る態様が相まって生じる視覚的効果は,意匠全体として見た場合,上記共通点を凌ぎ,需要者に別異の美感を起こさせるものである。 4.小括 上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品については一致するものであるが,形態においては,両意匠の間には複数の共通点が存在するものの,相違点の印象が共通点の印象を大きく凌駕しており,意匠全体としては看者に異なる美感を起こさせるものであって,両意匠は類似しないものと認められる。 第4.結び 以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
![]() |
判定日 | 2014-02-20 |
出願番号 | 意願2011-29908(D2011-29908) |
審決分類 |
D
1
2・
113-
ZA
(B3)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 古賀 稔章、並木 文子 |
特許庁審判長 |
原田 雅美 |
特許庁審判官 |
橘 崇生 江塚 尚弘 |
登録日 | 2012-10-12 |
登録番号 | 意匠登録第1455125号(D1455125) |
代理人 | 三浦 光康 |
代理人 | 清原 義博 |