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審判番号(事件番号) データベース 権利
判定2013600011 審決 意匠

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審決分類 審判 判定   属さない(申立不成立) L4
管理番号 1294820 
判定請求番号 判定2014-600011
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2015-01-30 
種別 判定 
判定請求日 2014-04-11 
確定日 2014-11-28 
意匠に係る物品 鉄筋用親綱締結具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1272684号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「鉄筋用親綱締結具」の意匠は,登録第1272684号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 判定請求人の請求の理由

1.請求の趣旨
イ号図面並びにその説明書に示す「鉄筋用親綱フック」は登録第1272684号意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める。

2.請求の理由
(1)判定請求の必要性
本件判定の請求人(ジャパンスチールスインターナショナル株式会社,以下「請求人」という。)は,別紙意匠登録原簿(甲第7号証)に記載のとおり,本件判定請求に係る本件登録意匠の「鉄筋用親綱締結具」(甲第1号証の1,別紙第1参照)の意匠権者である。本件判定の被請求人(綜建産業株式会社,以下「被請求人」という。)が現在販売・貸与しているイ号意匠(甲第2号証の1,別紙第2参照)の「鉄筋用親綱フック」は,本件登録意匠の意匠権を侵害するものであるので,請求人は,平成25年12月24日付けでその旨の通知書を被請求人に送付した。
これに対して,被請求人は,平成26年1月22日付けの回答書において,「イ号意匠は,本件登録意匠とは非類似である」旨主張するので,特許庁による判定を求める。

(2)本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成17年7月 4日(意願2005-19443号)
登録 平成18年4月14日(意匠登録第1272684号)

(3)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「鉄筋用親綱締結具」とし,その形態は以下のとおりである。
(A)水平配置形態
本件登録意匠に係る鉄筋用親綱締結具は,甲第1号証の1の「意匠に係る物品の説明」に記載されるように,鉄筋構造物の工事に際して鉄筋の間に親綱を張り渡すために鉄筋に装着される。甲第1号証の2は,甲第1号証の1の図面に本件登録意匠の構成部材の名称と参照符号とを付した本件登録意匠の説明書である。甲第1号証の1,2に示されるように,鉄筋用親綱締結具は,親綱が取り付けられる基板部10と,鉄筋に係合つまり引っ掛けられる2つの係合板部11,12とを有しており,それぞれの係合板部11,12は基板部10に固定されている。基板部10にはボルト13が取り付けられており,鉄筋は係合板部11,12とボルト13とにより締結され,鉄筋用親綱締結具は鉄筋に装着される。基板部10の両端部は,係合板部11,12よりも左右に突出しており,突出した両端部には,親綱締結部14が設けられており,それぞれの親綱締結部14には親綱が取り付けられる。
2つの親綱締結部14は,ボルト13の中心軸に径方向に交差するとともに係合板部11,12に平行となった長手方向の水平線Hに位置させて設けられており,親綱締結部14は水平配置形態となっている。親綱締結部14が水平配置形態となっているので,鉄筋用親綱締結具が鉄筋に装着された状態のもとでは,左右両側の親綱締結部14が上下方向の同一位置となり,それぞれの親綱締結部14に対する親綱の装着作業を容易に行うことができるという特有の機能を有している。
このように,本件登録意匠は,基板部10の両端部に設けられた親綱締結部14が水平配置形態となっているという基本的形態を有している。
(B)フック重合形態
2つの係合板部11,12には,それぞれ係合溝15が設けられており,係合溝15に連なって開口部16が係合板部11,12に設けられている。係合溝15は,開口部16が相互に水平方向の反対側となるように,逆向きとなっている。係合溝15は,鉄筋が食い込む挟み角が約90度となった係合面17を有している。
係合板部11,12は,正面図に示されるように,水平線Hに平行となっている。平面図および底面図に示されるように,係合板部11,12は上下方向に完全に重なっており,係合溝15も上下方向に完全に重なっている。このように,係合板部11,12は,係合溝15とともに上下に重合したフック重合形態となっているという基本的形態を有している。係合板部11,12がフック重合形態となっているので,上下の係合板部11,12の外側面が一致した状態を目視することにより,鉄筋用親綱締結具の鉄筋に対する装着作業を容易に行うことができるという特有の機能を有している。
上述のように,本件登録意匠は,親綱締結部14が水平配置形態となっているという基本的形態と,係合板部11,12と係合溝15が上下に重合したフック重合形態となっているという基本的形態とを有している。このような基本的形態を有していることから,本件登録意匠は,装着作業を容易に行うことができるという機能を有するだけでなく,安定感ないしバランス感を使用者に与える意匠となっている。鉄筋用親綱締結具は,鉄筋構造物の工事現場においては,作業者の安全を図るための親綱を鉄筋に取り付けるために使用されるので,本件登録意匠のように,安定感ないしバランス感を創作の主眼とした鉄筋用親綱締結具は,それを使用しかつ観察する使用者に対し,作業を安全に行うことができるという安心感を与えることができる。
(C)基板部の形態
基板部10は,ボルト13が回転自在に装着された四辺形の連結板部21と,長円形のO形状のリング部22とにより形成されており,連結板部21はリング部22の内側に固定されている。連結板部21は長方形となっているので,基板部10の両端に設けられた親綱締結部14は円弧部と直線部とを有する異形孔となっている。

(4)先行意匠の説明
(A)先行意匠1,2の用途
本件登録意匠の出願前の先行意匠1として,意匠登録第1109092号の「墜落防止金具」(甲第5号証の1)が登録され,さらに,先行意匠2として,意匠登録第1109093号の「墜落防止金具」(甲第6号証の1)が登録されている。甲第5号証の2は,甲第5号証の1の図面に,本件登録意匠の構成部材の名称と参照符号とを付した先行意匠1の説明書である。また,甲第6号証の2は,甲第6号証の1の図面に,本件登録意匠の構成部材の名称と参照符号とを付した先行意匠2の説明書である。
それぞれの墜落防止金具は,登録意匠の「意匠に係る物品の説明」の欄に記載されるように,垂直主筋つまり鉄筋に装着され,作業者の安全帯つまり親綱が安全帯連結用孔に係止される。したがって,公知意匠である墜落防止金具は,本件登録意匠と同一の用途に使用される。
(B)先行意匠1について
この先行意匠1は,甲第5号証の1,2に記載されるように,親綱が取り付けられる基板部10と,鉄筋に係合される2つの係合板部11,12とを有しており,それぞれの係合板部11,12は,板材からなる基板部10に設けられている。基板部10は係合板部11,12から左右に突出しており,突出端部は左右で上下にずれている。基板部10にはボルト13が取り付けられており,鉄筋は係合板部11,12とボルト13により締結される。基板部10の両端部には,使用状態参考正面図に記載される安全帯連結用孔が親綱締結部14として設けられており,それぞれの親綱締結部14には親綱としての帯が取り付けられる。
2つの親綱締結部14は,甲第5号証の2の正面図および背面図に示されるように,ボルト13の中心軸に径方向に交差するとともに係合板部11,12に対して傾斜した傾斜線Sに位置させて設けられており,2つの親綱締結部14は傾斜配置となって上下に傾斜ずらし形態となっている。つまり,両方の親綱締結部14は,上下にずれている。
係合板部11,12は,正面図に示されるように,傾斜線Sに対しては傾斜しており,相互に平行となって基板部10の上下に前方に突出している。それぞれの係合板部11,12は,平面図および底面図に示されるように,水平方向にずれており,フックずらし形態となっている。つまり,上側の係合板部11は,平面図に示されるように,下側の係合板部12に対して右側にずれており,下側の係合板部12は上側の係合板部11に対して左側にずれている。
このように,先行意匠1は,正面図に示されるように,2つの親綱締結部14を上下にずらすとともに,フックを左右方向にずらした形態となっており,先行意匠1は正面図に示されるように,上下を非対称とすることに創作の主眼が注がれている。
基板部10は板材により形成されており,基板部10に上下に傾斜ずらし形態となって設けられた親綱締結部14は,上述のように円形の安全帯連結用孔により形成されている。
(C)先行意匠2について
この先行意匠2は,甲第6号証の1,2の平面図および底面図に記載されるように,基板部10に取り付けられた上下2つの係合板部11,12が水平方向にずれており,先行意匠1と同様に,フックずらし形態となっている。それぞれの係合板部11,12には,使用状態参考正面図に記載される安全帯連結用孔が親綱締結部14として設けられており,それぞれの親綱締結部14は安全帯連結用の円形の孔により形成されている。
このように,甲第6号証の1,2に示される登録意匠は,係合板部11,12に親綱締結部14が形成され,係合板部11,12が係合溝と親綱締結部とを兼ね備えた形態となっているのに対し,本件登録意匠および甲第5号証の1に記載された登録意匠においては,基板部10に親綱締結部14が設けられているという基本的相違点を有している。

(5)本件登録意匠の要部
本件登録意匠は,本件登録意匠の出願日よりも前に登録された甲第5号証の1の先行意匠1,および甲第6号証の1の先行意匠2とは非類似として登録された。
なぜならば,上述のように,本件登録意匠は,親綱締結部14が水平配置形態であるとともに,係合板部11,12が係合溝15とともに上下に重合したフック重合形態という基本的形態となっているのに対し,先行意匠1である甲第5号証の1に示す登録意匠は,2つの親綱締結部14が傾斜配置となって上下にずらされた形態となっているとともに,係合板部11,12が水平方向にずれたフックずらし形態という基本的形態となっており,本件登録意匠と先行意匠1とは基本的な相違点があるからである。さらに,先行意匠2の登録意匠は,係合板部11,12に親綱締結部14が設けられているという基本的形態の相違点を有しているので,本件登録意匠は先行意匠2とも非類似である。
本件登録意匠と先行意匠とを比較すると,親綱締結部14が係合板部11,12の左右両端から外方に突出しているという共通点を有しているのに対し,本件登録意匠は,基板部10を水平配置形態として,親綱締結部14を上下方向に同一の位置に設けるとともに,フック重合形態とした点が本件登録意匠の要部となっている。この結果,本件登録意匠は,それを観察する者に対して,安定感ないしバランス感を与える創作となっている。

(6)イ号意匠の説明
被請求人が現在製造・貸与しているイ号意匠は,「鉄筋用親綱フック」であり,その基本形態は,甲第2号証の1に示すとおりである。甲第2号証の2は,甲第2号証の1の図面に,本件登録意匠の構成部材の名称と参照符号とを付した甲第2号証の説明書である。甲第2号証の3は,被請求人のホームページのトップページと,トップページに記載された「01.新商品案内」の内容と,「01.新商品案内」の「03.鉄骨建方」の「鉄筋用親綱フック」とを示す。
(A)イ号意匠の用途
イ号意匠である「鉄筋用親綱フック」は,甲第2号証の3に示されるように,鉄筋構造物の工事に際して鉄筋の間に親綱を張り渡すために鉄筋に装着される。甲第2号証の1,2に示されるように,鉄筋用親綱フックは,親綱が取り付けられる基板部10と,鉄筋に係合つまり引っ掛けられる2つの係合板部11,12とを有しており,それぞれの係合板部11,12は基板部10に固定されている。基板部10にはボルト13が取り付けられており,鉄筋は係合板部11,12とボルト13とにより締結される。基板部10の両端部には,親綱締結部14が設けられており,それぞれの親綱締結部14には親綱が取り付けられる。
したがって,イ号意匠の「鉄筋用親綱フック」は本件登録意匠と同一の用途に使用される。
(B)水平配置形態
2つの親綱締結部14は,正面図に示されるように,ボルト13の中心軸に径方向に交差するとともに係合板部11,12に平行となった長手方向の水平線Hに位置させて設けられており,親綱締結部14は水平配置形態となっている。
このように,イ号意匠は,基板部10の両端部に設けられた親綱締結部14が水平配置形態となっているという基本的形態を有している。親綱締結部14が水平配置形態となっているので,鉄筋用親綱締結具が鉄筋に装着された状態のもとでは,左右両側の親綱締結部14が上下方向の同一位置となり,それぞれの親綱締結部14に対する親綱の装着作業を容易に行うことができるという本件登録意匠と同一の機能を有している。
(C)フック重合形態
2つの係合板部11,12には,それぞれ係合溝15が設けられており,係合溝15に連なって開口部16が係合板部11,12に設けられている。係合溝15は,開口部16が相互に水平方向の反対側となるように,逆向きとなっている。
係合溝15は,鉄筋が食い込む挟み角が約90度となった係合面17を有している。
係合板部11,12は,正面図に示されるように,水平線Hに平行となっている。平面図および底面図に示されるように,係合板部11,12は上下方向に完全に重なっており,係合溝15も上下方向に完全に重なっている。このように,イ号意匠の係合板部11,12は,係合溝15とともに上下に重合したフック重合形態となっているという基本的形態を有している。係合板部11,12がフック重合形態となっているので,上下の係合板部11,12の外側面が一致した状態を目視することにより,鉄筋用親綱締結具の鉄筋に対する装着作業を容易に行うことができるという本件登録意匠と同一の機能を有している。
したがって,イ号意匠は本件登録意匠と同一の用途と機能とを有している。
(D)基板部の形態
イ号意匠は,基板部10が板材により形成されており,親綱締結部14が円形の孔により形成されている。これに対し,本件登録意匠においは,基板部10はO形状のリング部とその内部に配置される連結板部とにより形成されている。

(7)本件登録意匠とイ号意匠との比較
(A)基本的形態の比較
上述のように,本件登録意匠とイ号意匠は,いずれも,親綱締結部14が水平配置形態となっているという基本的形態と,係合板部11,12と係合溝15が上下に重合したフック重合形態となっているという基本的形態とを有している。したがって,イ号意匠は,本件登録意匠と基本的形態が同一となっている。しかも,イ号意匠は本件登録意匠と同一の用途と機能とを有している。
上述した本件登録意匠の基本的形態は,作業者等の観察者に対して安定感ないしバランス感を与えることに,創作の主眼が注がれた意匠であり,本件登録意匠と基本的形態が同一となっているイ号意匠は,正に,本件登録意匠の創作つまり設計思想を転用したものである。よって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する範囲に属するものである。
(B)基板部の比較
本件登録意匠は,基板部10がO形状のリング部とその内部に配置される連結板部とにより形成されているのに対し,イ号意匠は,基板部10が板材により形成されており,親綱締結部14が円形の孔により形成されている。したがって,イ号意匠の基板部10の形態は,本件登録意匠の基板部10と相違している。
しかしながら,イ号意匠のように,親綱連結部14を円形の孔とすることは,甲第5号証の1及び甲第6号証の1の先行意匠1,2のように,本件出願前に公知の形態であり,本件登録意匠の要部ではない。本件登録意匠の要部は,基板部10に形成される親綱締結部14を水平配置形態とすること,およびフック重合形態にすることにあり,このような本件登録意匠の要部は,イ号意匠においても同一となっている。
(C)被請求人の主張
被請求人は,甲第4号証に記載のように,『弊社の商品「鉄筋用親綱フック」は,連結板部と,係合板部において貴社意匠権と類似する点はあるものの,親綱締結部は鋼棒を曲成したO形状のリング部ではなく,楕円形の板体に孔を開けたもので,視覚によりその違いは明瞭に認識できるものであります。』と主張し,さらに,『これ以外,貴社意匠権の意匠の連結板部と係合板部においては貴社意匠権の出願前に公知となっている意匠登録第1109092号の意匠「墜落防止金具」で公知の形状であり,貴社意匠権の意匠の特徴となる部分ではありません。』と主張している。被請求人が指摘した登録意匠は,先行意匠1である。
しかしながら,親綱締結部14を円形の孔とすることは,先行意匠1,2において公知の意匠であるので,本件登録意匠の要部つまり意匠の特徴となる部分は,親綱締結部14が水平配置形態となっており,係合板部11,12と係合溝15が上下に重合したフック重合形態となっているという基本的形態にある。このような基本的形態をそのまま転用したのがイ号意匠であり,両方の意匠を観察する使用者は,両者の基本的形態の共通性により,本件登録意匠とイ号意匠とを混同することになる。

(8)むすび
以上のように,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する範囲に属するので,請求の趣旨に記載のとおりの判定を求める。

3.証拠方法
(1)甲第2号証の1 イ号意匠
(2)甲第2号証の3 被請求人のカタログ
(3)甲第5号証の1 先行意匠1
(4)甲第6号証の1 先行意匠2

第2 判定被請求人の答弁

被請求人は,答弁書を提出し,以下の要旨を主張した。

1.答弁の趣旨
イ号図面並びにその説明書に示す「鉄筋用親綱フック」は登録第1272684号意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属さない,との判定を求める。

2.答弁の理由
(1)請求人は本件登録意匠の要部の認定を下記のように誤るものである。
本件登録意匠の要部は,請求人の主張するような「親綱締結部14が水平配置形態となっているという基本的形態と,係合板部11,12と係合溝15が上下に重合したフック重合形態となっているという」ことでなく,連結版部を取り囲むようにパイプ状の枠が設けられ,その枠と連結板部との空間部が孔(親綱締結部)を構成している点にある。
一方,イ号意匠は,板体に孔(親綱締結部)を開けたものである。
このような,本件登録意匠とイ号意匠の相違は視覚上も明らかであり,需要者が真っ先に認識できるものである。

(2)請求人は本件登録意匠と先行意匠との相違の認識も誤っている。
鉄筋用親綱フックは,親綱が取り付けられる基板部10と,鉄筋に係合つまり引っ掛けられる2つの係合板部11,12とを有しており,それぞれの係合板部11,12は基板部10に固定されている。基板部10にはボルト13が取り付けられており,鉄筋は係合板部11,12とボルト13とにより締結される。
基板部10の両端部には,親綱締結部14が設けられており,それぞれの親綱締結部14には親綱が取り付けられる。
本件登録意匠は,本件登録意匠の出願日よりも前に登録された甲第5号証の1の先行意匠1,および甲第6号証の1の先行意匠2とは非類似として登録された。
この非類似とされる判断の理由は,前記本件登録意匠は,連結版部を取り囲むようにパイプ状の枠が設けられ,その枠と連結板部との空間部が孔(親綱締結部)を構成しているのに対して,先行意匠は板体に孔(親綱締結部)を開けたものである点の相違にある。
請求人の主張するような,本件登録意匠は,親綱締結部14が水平配置形態であるとともに,係合板部11,12が係合溝15とともに上下に重合したフック重合形態という基本的形態となっているのに対し,先行意匠1である甲第5号証の1に示す登録意匠は,2つの親綱締結部14が傾斜配置となって上下にずらされた形態となっているとともに,係合板部11,12が水平方向にずれたフックずらし形態という点は,基本的形態を離れた微細な相違である。
請求人は,本件登録意匠は,それを観察する者に対して,安定感ないしバランス感を与える創作となっていると主張するが,前記比較でわかるように,バランス感の相違などは存在しない。
なお,先行意匠1である甲第5号証の1に示す登録意匠は,2つの親綱締結部14が傾斜配置となって上下にずらされた形態となっているのは,このようにすることで通させる親綱のかしめを行い,緩み防止をなさせるための工夫と思われ,むしろ斬新性のある部分である。これに対して,本件登録意匠の横並びは,通常のものの選択に過ぎない。
これをもっても,些細な相違と言える。

(3)イ号意匠は先行意匠に類似する。
イ号意匠と先行意匠を比較した場合,先行意匠が,親綱締結部14が上下に少しずらされた形態となり,係合板部11,12が水平方向にすこしずれた形態という点の違いがあるだけで,基本的な形状は一致する。特に,板体に孔(親綱締結部)を開けたものである点は同一である。

(4)先行意匠,本件登録意匠,イ号意匠の関係
先行意匠1及び2と,本件登録意匠は非類似であるため本件の登録がなされおり,この非類似であるという相違点は本件登録意匠とイ号意匠の相違点にも共通する。従って,本件登録意匠はイ号意匠とは非類似である。

3.まとめ
以上のように,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれと非類似で,答弁の趣旨に記載のとおりの判定を求める。

第3 判定請求人の弁駁

請求人は,答弁書に対する弁駁書を提出し,以下の要旨を主張した。

1.弁駁の理由
被請求人は,請求人の主張に対して以下の3点を答弁の要点とし,イ号意匠は本件登録意匠とは非類似であると答弁している。第1点は,本件登録意匠の要部認定が誤っていることであり,第2点は,本件登録意匠と先行意匠との相違の認識が誤っていることであり,第3点は,イ号意匠は先行意匠に類似していることである。これらの答弁理由に対して,請求人は以下のとおり弁駁する。

(1)本件登録意匠の要部認定について
被請求人は,本件登録意匠の要部が「連結板部を取り囲むようにパイプ状の枠が設けられ,その枠と連結板部との空間部が孔(親綱締結部)を構成している点にある」と主張している。
しかしながら,登録意匠の要部は,登録意匠の出願前の公知意匠つまり先行意匠に基づいて認定されるのであって,被請求人の主張は,登録意匠の要部認定の基本を無視した主張に過ぎず,誤りである。
すなわち,本件登録意匠と先行意匠1とを比較すると以下のとおりである。
先行意匠1は,上記図面に示されるように,親綱が取り付けられる基板部10と,鉄筋に係合される2つの係合板部11,12とを有している。基板部10は,係合板部11,12から左右に突出しており,突出端部は左右で上下にずれている。2つの親綱締結部14は,ボルト13の中心軸に径方向に交差するとともに係合板部11,12に対して傾斜した傾斜線Sに位置させて設けられており,2つの親綱締結部14は上下に傾斜したずらし形態となっている。さらに,2つの係合板部11,12は,水平方向にずれており,フックずらし形態となっている。このように,先行意匠1は,2つの親綱締結部14を上下にずらすとともに,フックを左右方向にずらしたずらし形態となっている。
これに対し,本件登録意匠は,2つの親綱締結部14がボルト13の中心軸に径方向に交差するとともに係合板部l1,12に平行となった水平線Hの位置に設けられており,親綱締結部14は水平配置形態となっている。しかも,係合板部11,12は上下方向に完全に重なっており,係合溝15も上下に完全に重なっている。このように,係合板部11,12は,係合溝15とともに上下に重合したフック重合形態となっているという基本的形態を有している。
先行意匠1と本件登録意匠とを比較すると,上述のような創作上の相違点を有しており,本件登録意匠の要部は,親綱締結部14の水平配置形態と,係合板11,12のフック重合形態とにある。
被請求人が主張するように,本件登録意匠においては,連結板部11,12を取り囲むようにパイプ状の枠が設けられ,その枠と連結板部との空間部が孔つまり親綱締結部を構成している。しかしながら,孔により親綱締結部を形成することは,先行意匠2においても公知であり,パイプ状の枠により親綱締結部を形成するか,先行意匠1の板状の基板部10に親綱締結部を形成するかは,製作上の便宜であって,意匠創作上における微差に過ぎない。
したがって,本件登録意匠の要部つまり本件登録意匠の創作過程における主眼点は,上述した水平配置形態とフック重合形態としたことにある。

(2)本件登録意匠と先行意匠との相違の認識について
被請求人は,「本件登録意匠の要部である水平配置形態とフックずらし形態という点は,基本的形態を離れた微細な相違である」と主張している。
しかしながら,本件登録意匠と先行意匠1とを比較すると明らかなように,当業者が両方の意匠を対比観察したときに,著しく目を引くのは,まず,親綱締結部14の配置形態であり,次いで鉄筋に取り付けるための係合板部11,12の配置形態である。なぜならば,本件登録意匠に係る物品である「鉄筋用親綱フック」や「墜落防止金具」は,係合板部11,12を鉄筋に取り付けるとともに,それぞれの親綱締結部14に親綱つまり安全帯が締結されるからである。つまり,親綱締結部14に親綱つまり安全帯を取り付けるときには,親綱締結部14が連結板部11,12を取り囲むように設けられたパイプ状の枠により形成されているか,板部材により形成されているかについて,当業者が注目することはない。
したがって,当業者における意匠に係る物品の使用状況を勘案しても,パイプ状の枠により親綱締結部が形成されているという点には,意匠の要部は存在しておらず,本件登録意匠の要部は上述した基本的形態にある。
被請求人は,本件登録意匠には「バランス感の相違点などは存在しない」と主張している。
しかしながら,本件登録意匠と先行意匠1とをそれぞれの正面図で比較観察すると,本件登録意匠の親綱締結部14が左右方向の水平線上に配置されているのに対し,先行意匠1の親綱締結部14は左右で上下にずれており,両方の意匠を比較観察する者にとっては,本件登録意匠は先行意匠1よりも安定感ないしバランス感を想起させることは必然である。
バランス感の相違点など存在しないという被請求人の主張は,単に図面で比較してわかるようにと述べているだけで,何故に,バランス感などが存在しないと主張しているのか不明である。先行意匠1のように,2つの係合板部11,12を水平方向にずらし,2つの親綱締結部14を上下にずらしたずらし形態と,本件登録意匠のように,親綱締結部14を水平配置形態とし,係合板11,12をフック重合形態とを比較すると,当業者が本件登録意匠に対して安定感を想起させることに疑いの余地がない。

(3)イ号意匠は先行意匠1に類似しているかについて
被請求人は,「イ号意匠は先行意匠1に類似しており,イ号意匠は本件登録意匠とは非類似である」と主張している。
イ号意匠は,正面図に示されるように,2つの親綱締結部14がボルト13の中心軸に径方向に交差するとともに係合板部11,12に平行となった水平線Hの位置に位置させて設けられており,親綱締結部14は水平配置形態となっている。2つの係合板部11,12は上下に完全に重なっており,イ号意匠
の係合板部11,12は係合溝15とともに上下に重合したフック重合形態となっている。
このように,イ号意匠は,本件登録意匠と同様の水平配置形態とフック重合形態という基本的形態となっており,両者の図面を比較すれば明らかなように,本件登録意匠と基本的創作性に共通性を具備し,本件登録意匠と酷似している。
被請求人は,イ号意匠と先行意匠1の共通点を引き出して,「イ号意匠と先行意匠を比較した場合,先行意匠が親綱締結部14が上下に少しずらされた形態となり,係合板部11,12が水平方向にすこしずれた形態という点の違いだけで,基本的な形状は一致する。特に,板体に孔(親綱締結部)を開けたものである点は同一である」と主張している。
しかしながら,「鉄筋用親綱フック」や「墜落防止金具」を使用する当業者においては,親綱締結部14が水平配置形態であるか,係合板部11,12が上下に重合したフック重合形態であるかは,使用時に,真っ先に目につく部分であり,単に「すこしずれた形態」という程度のものではない。このような主張は,斬新な創作物である本件登録意匠の創作努力を無視した主張である。

(4)まとめ
請求人が判定請求書において述べたように,本件登録意匠の要部つまり意匠の特徴となる部分は,親綱締結部14が水平配置形態となっており,係合部11,12と係合溝15が上下に重合したフック重合形態となっているという基本的形態にあり,イ号意匠はこのような基本的形態をそのまま転用した意匠であって,両方の意匠を観察する使用者は,本件登録意匠とイ号意匠とを混同することになる。
しかも,上述のように,被請求人の答弁理由は,意匠に係る物品を取り扱う使用者が注目する部分を無視した主張であり,誤りである。
したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する範囲に属するので,判定請求書の請求の趣旨に記載のとおりの判定を求める。

第4 当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成17年(2005年)7月4日に意匠登録出願(意願2005-19443号)され,平成18年(2006年)4月14日に登録の設定(意匠登録第1272684号)がなされ,平成18年(2006年)6月5日に意匠公報が発行されたものであって,願書及び願書に添付された図面の記載によれば,意匠に係る物品を「鉄筋用親綱締結具」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を,願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであり,具体的な形態は,以下のとおりである。(別紙第1参照)

(1)全体は,リング状の枠体(以下,「リング状枠体部」という。)の枠内中央部分に,正面視横長長方形状で右側面視略コの字状の折曲した板体(以下,「コ字状板体部」という。)の背面側上下端部を接合し,リング状枠体部内側の左右端部に,親綱を締結する略D字状又は略逆D字状の開口部を設けた構成とし,
(2)リング状枠体部は,断面視円形状のパイプを折曲し,縦横比が約1:3.3の正面視略長円形状の枠体としたものであり,
(3)コ字状板体部は,板体の上部水平板部分を,左側が開口した平面視略J字状の板状フック(以下,「板状フック部」という。)に形成し,板体の下部水平板部分を,上部板状フック部と左右反転形状に形成し,板体の垂直板部分の上下左右中央部分に,背面から正面側に向かって六角ボルトを挿入し,板正面側で平座金及び六角ナットで螺合して固定している態様としたものである。

2.イ号意匠
本件判定請求の対象であるイ号意匠は,判定請求書と同時に提出された甲第2号証の1,イ号意匠により示されたものであって,意匠に係る物品は「鉄筋用親綱フック」であると認められ,その形態を,イ号意匠により表されたとおりとしたものであり,具体的な形態は,以下のとおりである。(別紙第2参照)

(1)全体は,垂直で横長の板体(以下,「基板部」という。)の板体上面部及び下面部の中央部分に,板状のフック(以下,「板状フック部」という。)を,上下1組接合した構成とし,
(2)基板部は,縦横比が約1:3.6の正面視略長円形状の板体とし,親綱を締結するために基板部左右端部付近に余地を残して,基板部縦幅の約6割程度の直径の円孔を左右に1つずつ形成したものであり,
(3)板状フック部は,基板部上面中央部分に,基板部よりやや厚みのある,左側が開口した平面視略J字状の板状フック部を,背面側にも僅かに突出部を設けつつ正面側に向かって水平に配設し,基板部下面中央部分にも,上面側板状フック部と左右反転形状の板状フック部を同様の配置で配設し,基板部上下左右中央部分に,背面から正面側に向かって六角ボルトを螺着している態様としたものである。

3.本件登録意匠とイ号意匠との対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,「鉄筋用親綱締結具」であり,イ号意匠の意匠に係る物品は,「鉄筋用親綱フック」と認められるものであるが,いずれも開口部落下防止等の目的で建設現場にて使用されるものであって,立設する鉄筋間に親綱を架設するために用いられる器具であるから,本件登録意匠とイ号意匠(以下,「両意匠」という。)の意匠に係る物品は,共通する。

(2)両意匠の形態
両意匠の形態を対比する(以下,対比のため,イ号意匠の「斜視図」をイ号意匠の「正面,平面及び右側面を表す図」とする。)と,主として以下の共通点及び相違点が認められる。

まず,共通点として,
(A)全体は,本体左右端部付近に親綱が締結される開口部を有し,本体中央部に上下板状フック部を正面側に突出させて設け,本体部中央部の垂直面中央部分に背面から正面側に向かって六角ボルトを1本挿入している構成としている点,
(B)上下板状フック部は,平面視略J字状の板状フック部とその左右反転形状のフック部とを開口部を逆向きとして上下に並設し,フック部内側開口部の鉄筋を挟む係合部分を,先端部を角丸とした略直角三角形状に形成している点,
が認められる。

他方,相違点として,
(ア)全体の構成について,本件登録意匠は,上下に板状フック部を配したコ字状板体部の周囲に,円形パイプからなる正面視略長円形状のリング状枠体部を配設した構成であるのに対して,イ号意匠は,正面視略長円形状の板体である基台部の上面部及び下面部中央部分に,板状フック部を背面側にも僅かに突出部を設けつつ正面側に向かって水平に配設した構成である点,
(イ)親綱締結用開口部の態様について,本件登録意匠は,正面視において右側開口部を略D字状とし,左側開口部を略逆D字状としているのに対して,イ号意匠は,左右開口部を円孔としている点,
(ウ)板状フック部の態様について,本件登録意匠は,平面視において縦横比を約1:1とし,フック部内側開口部のコ字状板体部側から鉄筋を挟む係合部分にかけて,平面視略円弧状に形成しているのに対して,イ号意匠は,縦横比を約1.2:1とし,フック部内側開口部のコ字状板体部側から鉄筋を挟む係合部分にかけて,縦方向と横方向の辺を円弧でつなぐ角丸形状に形成している点,
(エ)六角ボルトの固定方法について,本件登録意匠は,背面から挿入された六角ボルトを正面側のナットで締着しているのに対して,イ号意匠は,背面から六角ボルトを螺着している点,
が認められる。

4.両意匠の形態の評価
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し,本件登録意匠の出願前に存在する公知意匠を参酌し,新規な形態や需要者の注意を最も引きやすい部分を考慮した上で,本件登録意匠とイ号意匠が類似するか否かについて,考察する。

まず,共通点(A)の全体の態様については,鉄筋用親綱締結具の意匠の骨格的な構成態様にあたるものであるが,本件登録意匠の出願前に既に見られる態様(甲第5号証の1で示す先行意匠1:意匠登録第1109092号意匠,別紙第3参照)であるから,この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的である。
次に,共通点(B)の上下板状フック部の態様については,平面視略J字状の板状フック部とその左右反転形板状のフック部とを,開口部を逆向きとして上下に並設したものは,本件登録意匠の出願前に既に見られる態様(参考意匠1:平成13年(2001年)4月24日に公開された公開特許公報,特開2001-115653号(発明の名称:鉄筋用安全帯係止金具)に所載の【図1】における鉄筋用安全帯係止金具の意匠,及び,同公報の【0005】における「前記二つのフック部・・・は,・・・互いに逆向きになるように並設することもできる。」の記載,別紙第5参照)であるから,本件登録意匠とイ号意匠のみがもつ特徴のある共通点とは認められず,また,フック部内側の鉄筋を挟む係合部分を,先端部を角丸とした三角形状に形成した点も,この種物品分野において,鉄筋を安定的に保持するために行われている手法(参考意匠2:平成11年(1999年)5月11日に公開された公開特許公報,特開平11-124959号(発明の名称:鉄筋結束具)に所載の【図4】における1の連結部材の意匠,及び,同公報の【0007】の記載,別紙第6参照)にすぎず,本件登録意匠とイ号意匠のみがもつ特徴ではないから,この種物品においては,これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は軽微なものにとどまるものである。
そして,上記の共通点を総合しても,両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。
なお,請求人は,判定請求書及び弁駁書において,本件登録意匠とイ号意匠は,いずれも,親綱締結部が水平配置形態となっているという基本的形態と,係合板部と係合溝が上下に重合したフック重合形態となっているという基本的形態とを有しており,イ号意匠は,本件登録意匠の創作つまり設計思想を転用したものであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する範囲に属するものであると主張するが,親綱締結部が水平配置形態となっているという基本的形態は,本件登録意匠の出願前に既に存在し(参考意匠3:平成6年(1994年)10月7日に公開された公開実用新案公報,実開平6-71773号(考案の名称:親綱支持具)に所載の【図7】における親綱支持具の意匠,別紙第7参照),また,係合板部と係合溝が上下に重合したフック重合形態となっているという基本的形態も,本件登録意匠の出願前に既に見られる態様(参考意匠1,別紙第5参照)であるから,これらの形態は本件登録意匠のみに見られる創作ということはできない。

これに対し,相違点(ア)全体の構成,及び,相違点(イ)親綱締結用開口部の態様については,特に目に付く部分であるから,リング状枠体部の内側に上下を板状フック部としたコ字状板体部を嵌め込んだ本件登録意匠の態様は,基板部の上下に板状フック部を配設してなるイ号意匠のものとは,意匠としてみた場合,全く異なる印象を与えるものであり,この点のみによっても両意匠の類否判断を大きく左右する程のものである。その上,親綱を締結するための開口部の態様も全く異なるものであるから,この相違点が類否判断に与える影響を加味すれば,これら相違点(ア)及び相違点(イ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に大きいといえる。
次に,相違点(ウ)板状フック部の態様については,該部位は使用時において鉄筋に嵌め込む部位であって特に目に付く部位である上に,上方から見た場合,上下に配置された横に幅広なフック部の中央部に,曲線により構成された略卵形状の開口部が表れる本件登録意匠の態様は,縦長のフック部の中央部に,左上部分を除き直線により構成された略変形六角形状の開口部が表れるイ号意匠のものとは,全く別異な印象を与えるものであるから,この相違点(ウ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響も大きい。
また,相違点(エ)六角ボルトの固定方法についても,本物品を鉄筋に固定する際に,正面側ナットによってボルトの緩みを防ぐことができる本件登録意匠の態様は,単にボルトをねじ込んだイ号意匠のものとは形態が異なり,使用時の方法も含め異なる印象を与えるものであるから,この相違点(エ)が両意匠の類否判断に及ぼす影響も一定程度あるといえる。
そして,これらの相違点(ア)ないし(エ)が相まって生じる視覚的効果は,意匠全体として見た場合,上記共通点の影響を凌ぎ,需要者に別異の美感を起こさせるものである。
なお,請求人は,判定請求書及び弁駁書において,パイプ状の枠により親綱締結部を形成するか,基板部に親綱締結部を形成するかは,製作上の便宜であって,意匠創作上における微差に過ぎず,また,親綱締結部に親綱を取り付けるときには,パイプ状の枠により形成されているか,板部材により形成されているかについて,当業者が注目することはないと主張するが,該部位の構成は意匠としてみた場合,明らかに大きく異なっており,また,親綱締結部の形状も親綱を取り付ける際に需要者が注視する部位であるから,親綱締結部の構成態様の相違は,両意匠の類否判断に影響を与えるものである。

5.両意匠の類否判断
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品については共通するものの,形態については,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であるのに対して,相違点が類否判断に及ぼす影響はそれぞれ大きく,相違点が相まって生じる視覚的効果は,共通点のそれを凌駕して,類否判断を支配しているものであるから,意匠全体として需要者に与える美感が異なるものであって,本件登録意匠とイ号意匠とは類似しないものと認められる。

第5 むすび

以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2014-11-19 
出願番号 意願2005-19443(D2005-19443) 
審決分類 D 1 2・ 113- ZB (L4)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松田 光太郎須田 紳 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 斉藤 孝恵
江塚 尚弘
登録日 2006-04-14 
登録番号 意匠登録第1272684号(D1272684) 
代理人 小塚 善高 
代理人 筒井 大和 

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