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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服201416465 審決 意匠
無効2013880017 審決 意匠

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審決分類 審判    E2
管理番号 1302957 
審判番号 無効2013-880010
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-18 
確定日 2015-07-27 
意匠に係る物品 遊戯用器具の表示器 
事件の表示 上記当事者間の登録第1264441号「遊戯用器具の表示器」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は,「登録第1264441号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1号証の1ないし甲第5号証の2の書証を本件審判請求時に提出した。

1.無効理由の要点
本件登録意匠(登録第1264441号意匠,以下,「本件登録意匠」という。)は,その出願日前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた甲第1号証の1ないし甲第5号証の2に記載された意匠に基づいて容易に創作できたものであり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。したがって,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠登録第1264441号の意匠公報に記載のとおり,意匠に係る物品を「遊戯用器具の表示灯」(いわゆる呼出ランプ)とする部分意匠であって,その形態は願書に添付された図面代用写真において,黄色に塗りつぶした部分以外を,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分としたものである(以下,本件登録意匠において部分意匠として意匠登録を受けた部分を「本件登録意匠の部分」という。)。
本件登録意匠の部分は,遊技用器具の表示灯の正面視において下寄りの中央に設けられた数字及び各種データの表示画面であり,当該部分の基本的構成態様は,以下の通りである。
(A)点灯して変動表示できるデータ表示部が横長に配置されている。
(B)中央に大きく3桁の数字表示部が配置されている。
(C)データ表示部の左側,右側及び下側に,複数の数字表示部及びグラフや文字を表示可能な1個のグラフ表示部が配置されている。
そして,本件登録意匠の部分の具体的構成態様は次のとおりである。
(a)点灯して変動表示できるデータ表示部は,平行な上辺及び下辺を横長にした六角形の形にて,配置されている。
(b)中央に3桁の数字表示部は,データ表示部の中央やや上側に配置されている。
(c-1)データ表示部の左上部分に中程度の大きさの4桁の数字表示部が配置されている。
(c-2)データ表示部の左下部分に,グラフや文字を表示可能なグラフ表示部が配置されている。
(c-3)データ表示部の右側部分に,左からそれぞれ3桁及び2桁の数字表示部が,3桁にわたり合計6個配置されている。
(c-4)データ表示部の中央下部分に,左からそれぞれ3桁及び2桁の数字表示部が2個配置されている。

(2)引用意匠の説明
(ア)甲第1号証の意匠
甲第1号証の1は,被請求人が2004年(平成16年)4月14日に発売を開始した「デー太郎ランプ7α」との商品名の遊技用器具の表示灯すなわち呼出ランプのデータ表示画面に関する公然知られた意匠の部分である(以下「甲1意匠」という。)。
その基本的構成態様は,以下の通りである。
(ア-1)点灯して変動表示できるデータ表示部が横長に配置されている。
(ア-2)データ表示部の左側,右側及び下側に,複数の数字表示部及びグラフや文字を表示可能な1個のグラフ表示部が配置されている。
そして,甲1意匠の具体的構成態様は,次のとおりである。
(ア-1-1)点灯して変動表示できるデータ表示部は,横長にした長方形の形にて配置されている。
(ア-2-1)データ表示部の左上部分に大きめの4桁の数字表示部が配置されている。
(ア-2-2)データ表示部の左下部分に,グラフや文字を表示可能なグラフ表示部が配置されている。
(ア-2-3)データ表示部の右側部分に,2桁の数字表示部2個が,3行にわたり合計6個配置されており,最上段の数字表示部2個が,下2段の数字表示部よりも大きくなっている。
(ア-2-4)データ表示部の中央下部分に,2桁の数字表示部が1個配置されている。
(イ)甲第2号証の意匠
甲第2号証の1は,アイ電子株式会社が2005年(平成17年)1月に発売を開始した「スーパー・エンジェルII」との商品名の遊技用器具の表示灯すなわち呼出ランプのデータ表示画面に関する意匠である(以下「甲2意匠」という。)。なお,アイ電子株式会社は,「スーパー・エンジェルII」の発売開始前から,顧客に対して宣伝を行っており,2004年12月17日には「スーパー・エンジェルII」の注文を受けている(甲第2号証の4)。顧客が商品の意匠を確認せずに注文をすることはありえないことから,「スーパー・エンジェルII」の意匠は,遅くとも2004年12月17日までには公然知られたものとなっていたものである。
その基本的構成態様は,以下の通りである。
(イ-1)点灯して変動表示できるデータ表示部が横長に配置されている。
(イ-2)中央に大きく3桁の数字表示部が配置されている。
(イ-3)データ表示部の左側及び右側に,複数の数字表示部が配置されている。
そして,甲2意匠の具体的構成態様は,以下の通りである。
(イ-1-1)点灯して変動表示できるデータ表示部は,横長にした長方形を両下部の角部を内側に円弧状に窪ませた形にて,配置されている。
(イ-2-1)中央の3桁の数字表示部は,データ表示部の中央やや上側に配置されている。
(イ-3-1)データ表示部の左上部分に中程度の大きさの3桁の数字表示部が配置されている。
(イ-3-2)データ表示部の左下部分に,3桁の数字表示部が上下に2個配置されている。
(イ-3-3)データ表示部の右上部分に,4桁の数字表示部が上下に2個配置されている。
(イ-3-4)データ表示部の右下部分に,4桁の数字表示部が上下に2個配置されている。
(ウ)甲第3号証の意匠
甲第3号証は,株式会社宝商事のカタログ「宝商事総合カタログ 14・2004」154頁上段に記載された,ユーエフ産業株式会社製の商品名「ビッグビュー」と表示された遊技用器具の表示灯すなわち呼出ランプのデータ表示画面に関する意匠の部分である(以下「甲3意匠」という。)。このカタログは,遅くとも平成16年12月末日までには公表され,甲3意匠は公然知られたるものとなっていたものである。
その基本的構成態様は,以下の通りである。
(ウ-1)点灯して変動表示できるデータ表示部が横長に配置されている。
(ウ-2)データ表示部の左側半分に複数の数字表示部が,右側半分に複数の数字表示部及びグラフや文字を表示可能な1個のグラフ表示部が配置されている。
そして,甲3意匠の具体的構成態様は,以下の通りである。
(ウ-1-1)点灯して変動表示できるデータ表示部は,平行な上辺及び下辺を横長にした六角形の形にて,配置されている。
(ウ-2-1)データ表示部の左側部分に,2桁の数字表示部2個,3行にわたり合計6個配置されており,最上段左の数字表示部が一番大きく,最上段右の数字表示部及び最下段の数字表示部が中程度の大きさ,中段の数字表示部が最も小さい大きさとなっている。
(ウ-2-2)データ表示部の右下部分に,グラフや文字を表示可能なグラフ表示部が配置されている。
(ウ-2-3)データ表示部の右上部分に,左から4桁及び2桁の中程度の大きさの数字表示部が配置されている。
(エ)甲第4号証の意匠
甲第4号証は,株式会社宝商事のカタログ「宝商事総合カタログ 14・2004」155頁左下段に記載された,株式会社ワンエー製の商品名「デカセグ」との商品名の遊技用器具の表示灯すなわち呼出ランプのデータ表示画面に関する意匠である(以下「甲4意匠」という。)。このカタログは,遅くとも平成16年12月末日までには公表され,甲4意匠は公然知られたものとなっていたものである。
その基本的構成態様は,以下の通りである。
(エ-1)点灯して変動表示できるデータ表示部が横長に配置されている。
(エ-2)データ表示部の上半分に,大きく複数桁の数字表示部が配置されている。
(エ-3)データ表示部の下半分に複数の数字表示部及びグラフや文字を表示可能な1個のグラフ表示部が配置されている。
そして,甲4意匠の具体的構成態様は,以下の通りである。
(エ-1-1)点灯して変動表示できるデータ表示部は,横長にした長方形の形にて,配置されている。
(エ-2-1)データ表示部の上半分の大きな数字表示部は,左から2桁,2桁,5桁に分けられている。
(エ-3-1)データ表示部の左下部分に,2桁の数字表示部2個が,2行にわたり合計4個配置されている。
(エ-3-2)データ表示部の中央下部分に,グラフや文字を表示可能なグラフ表示部が配置されている。
(エ-3-3)データ表示部の右下部分に,2桁の数字表示部が,1個配置されている。
(オ)甲第5号証の意匠
甲第5号証の1は,株式会社大一商会が2004年(平成16年)に発売をした「HYPER PASSION」との商品名のパチンコ台の遊技盤に関する意匠である(以下「甲5意匠」という。)。甲5意匠は,大一商会のホームページ上の記載からして,遅くとも2004年12月31日までには公然知られた意匠となっていたものである。
その基本的構成態様は,以下の通りである。
(オ-1)パチンコ釘が多数打ち込まれている円形の遊技盤が配置されている。
(オ-2)遊技盤の中央に大きく3桁の数字表示部が配置されている。
(オ-3)遊技盤の情報部分に,「HYPER PASSION」との文字列が弓なり状に配置されている。
(オ-4)遊技盤の底部にパチンコ玉回収口が配置されている。
そして,甲5意匠の具体的構成態様は多岐にわたるが,本件の無効審判請求に関係しうる部分については,以下の通りである。
(オ-2-1)遊技盤中央の3桁の数字表示部においては,中央の1桁の数字部よりも大きく配置されている。

(3)本件登録意匠の部分と甲1意匠との共通点・相違点
ア 本件登録意匠の部分と甲1意匠との共通点・相違点
1)共通点
本件登録意匠の部分,甲1意匠ともに遊技用器具の表示灯すなわち呼出ランプのデータ表示部に関するものであり,同一物品かつ同一部分に関する意匠である。
その形態については,本件登録意匠の部分(A)の基本的構成態様及び同(C)の基本的構成態様が同じである。
さらに具体的構成態様についても,以下の共通点が認められる。
すなわち,本件登録意匠の部分(c-1)及び甲1意匠(ア-2-1)については,データ表示部の左上部分に大きめの4桁の数字表示部が配置されているという点;本件登録意匠の部分(c-2)及び甲1意匠(ア-2-2)については,データ表示部の左下部分に,グラフや文字を表示可能なグラフ表示部が配置されている点;本件登録意匠の部分(c-3)及び甲1意匠(ア-2-3)については,データ表示部の右側部分に,左からそれぞれ複数桁の数字表示部が3桁にわたり合計6個配置されている点;本件登録意匠の部分(c-4)及び甲1意匠(ア-2-4)については,データ表示部の中央下部分に数字表示部が配置されているという点がそれぞれ共通している。
イ 本件登録意匠の部分と甲1意匠との相違点
他方で,本件登録意匠の部分と甲1意匠の形態には,基本的構成態様レベルでは,本件登録意匠の部分(B)に相当する部分が甲1意匠には存在しないという点て,まず相違点が認められる。
そして,具体的構成態様については以下の点が相違する。
すなわち,本件登録意匠の部分(a)については,データ表示部が平行な上辺及び下辺を横長にした六角形としているのに対して,甲1意匠(ア-1-1)では,横長の長方形とされている点;本件登録意匠の部分(b)については,データ表示部の中央やや上側に大きく3ケタの数字表示部が配置されているのに対して,甲1意匠では相当するものが存在しない点;本件登録意匠の部分(c-1)については,数字表示部が中程度の大きさであるのに対して,甲1意匠(ア-2-1)については,数字部が単に大きいものである点;本件登録意匠の部分(c-3)については,データ表示部の右側部分に配置されている数字表示部が,各行左からそれぞれ3桁及び2桁となっており数字の大きさは変わりないものとなっているのに対し,甲1意匠(ア-2-3)については,同数字表示部が各行2桁及び2桁となっており最上段の数字表示部2個が下2段の数字表示部よりも大きくなっている点;本件登録意匠の部分(c-4)については,データ表示部の中央下部に配置されている数字表示部が左からそれぞれ3桁及び2桁の2個配置されているのに対し,甲1意匠(ア-2-4)については,2桁の数字表示部が1個配置されているという点がそれぞれ異なっている。

(4)基本的構成態様レベルにおいて創作容易であること
上記で述べた本件登録意匠の部分と甲1意匠の相違点にもかかわらず,本件登録意匠の部分は,以下に述べる理由で,甲1意匠を見た当業者であれば容易に創作をすることができたものである。
まず,基本的構成態様レベルにおいては,甲1意匠には,本件登録意匠の部分の基本的構成態様(B)すなわち中央に大きく3桁の数字表示部が配置されているという点が欠けている。
しかしながら,このような基本的態様レベルの相違点は,甲1意匠と,本件登録意匠の部分の基本的構成態様(B)に相当する構成である基本的構成態様(イ-2)を有している甲2意匠を単純に寄せ集めることで,解消される。甲1意匠及び甲2意匠は,同一物品・同一部分に関するものであり,当業者にとっては,それらを単純に寄せ集めて本件登録意匠の部分の如き基本的構成態様とすることについて何らの創意も存在しない。
したがって,本件登録意匠の部分と甲1意匠及び甲2意匠を寄せ集めたものとはその基本的構成態様において共通するものである。
また,数字表示部を大きくして強調するという手法は,甲4意匠に顕れている通り,呼出ランプのデータ表示部では従来から行われていたことであり,何ら創意工夫が必要なものではない。また,中央部に目立つように大きな数字を配置するということも,パチンコ業界では従来から行われていたことであり,この事実は,上記甲2意匠のほかにも,本件登録意匠と密接に関連する物品であるパチンコ台の遊技盤に関する意匠である甲5意匠が遊技盤の中央部に大きな3桁の数字表示部を設けていること(甲5意匠基本的構成態様(オ-2))からも明らかである。
したがって,いずれにしても,本件登録意匠の部分における基本的構成態様(B)については,甲1意匠にその他の公然知られた意匠を単純に寄せ集めることで容易に構成できるものであるから,そこに創意は存在しない。

(5)具体的構成態様レベルについて
次に,具体的構成態様レベルで検討すると,甲1意匠及び甲2意匠を寄せ集めたものと本件登録意匠の部分とは,本件登録意匠の部分における具体的構成態様(b)及び(c-2)と甲2意匠における具体的構成態様(イ-2-1)及び甲1意匠における具体的構成態様(ア-2-2)の点で完全に共通する。その他の点における相違点については,以下に述べる通り,いずれも微差であるか,公然知られた意匠や周知意匠に採用されている構成に過ぎないので,創作容易性を否定するような相違点とはなりえない。
まず,本件登録意匠の部分の具体的構成態様(a)にかかるデータ表示部の外形の形状と甲1意匠における具体的構成態様(ア-1-1)のそれとの違いであるが,パチンコ,スロットマシン等の遊戯用器具の表示として需要者(看者)が最も注意を惹く部分は,データの表示内容であり,データ表示部の外枠の形状に需要者の注意が惹かれることは考えがたい。しかも,横長であるという基本的構成態様は同じなのであるから,需要者にとっては,この点の相違に気づくことは少なく,その差異が微弱なものであることは明らかである。さらにいえば,同一物品・同一部分に関する公然知られた意匠である甲3意匠に,データ表示部の外形の形状が本件登録意匠の部分の具体的構成態様(a)と同じく平行な上辺及び下辺を横長にした六角形としたものが採用されている(甲3意匠具体的構成態様(ウ-1-1))。本件登録意匠の部分の具体的構成態様(a)は,この公知意匠3のデータ表示部の外形をそのまま採用したに過ぎないものであり,そこに特段の創意は存在しない。
次に,本件登録意匠の部分の具体的構成態様(c-1)にかかる左上部分の数字表示部と甲1意匠における具体的構成態様(ア-2-1)のそれに関する相違点ついては,わずかに数字の大きさに関する違いに過ぎないが,いずれの数字も最小の数字との比較で考えると同じ程度大きいものであり,実質的な差異はない。本件登録意匠の部分の具体的構成態様(c-1)では「中程度の大きさ」という表現になるが,これは中央部やや上側に存在する3桁の数字と比較すると小さいからである。上記の通り甲1意匠と甲2意匠を寄せ集めれば,甲2意匠に中央部の大きな数字表示部が存在するため,必然的に甲1意匠に存在する左上部分の数字は「中程度の大きさ」になる。したがって,本件登録意匠の部分の具体的構成態様(c-1)については,甲1意匠及び甲2意匠の寄せ集めと実質的な相違は存在しない。
本件登録意匠の部分の具体的構成態様(c-3)にかかるデータ表示部の右側部分の数字表示部の一群と甲1意匠における具体的構成態様(ア-2-3)のそれに関する相違点については,本件登録意匠の部分の具体的構成態様(C-3)は,甲1意匠の具体的構成態様(ア-2-3)の数字を全て同じ大きさに揃えて統一し,左側の列の数字表示部の桁数を1桁増やしたものに過ぎない。このような数字の大きさの違いや桁数の違いは,データ表示部上に多数のデータの表示要素(数字表示部やグラフ)が存在することや,その配置について基本的に共通するものであること(すなわち基本的構成態様が共通であること)に鑑みれば,需要者がその違いを明確に認識して区別するとは思われず,全体から見ると微弱な差異である。さらに言えば,数字の大きさを揃えて整えることは,統一的で整えられた美観を呈するために,数字を表示する多くの周知意匠が採用しているありふれた手法である。また,数字の桁数を増加させること自体は,意匠の構成要素の単位の数をありふれた手法で変更したものに過ぎないといえる。したがって,本件登録意匠の部分の具体的構成態様(c-3)についても特段の創意は存在しない。
本件登録意匠の部分の具体的構成態様(c-4)にかかるデータ表示部下部の数字表示部と甲1意匠における具体的構成態様(ア-2-4)のそれに関する相違点についても,本件登録意匠の部分の具体的構成態様(c-4)は,甲1意匠における具体的構成態様(ア-2-4)に小さな数字表示部を一つ追加しただけであり,データ表示部上に多数のデータの表示要素(数字表示部やグラフ)が存在することや,その配置について基本的に共通するものであること(すなわち基本的構成態様が共通であること)に鑑みれば,需要者がその違いを明確に認識して区別するとは思われず,全体から見ると微弱な差異である。さらに言えば,小さな数字表示部を単純に一つ追加することは,意匠の構成要素の単位の数をありふれた手法で変更したものに過ぎないといえる。したがって,本件登録意匠の部分の具体的構成態様(c-4)についても特段の創意は存在しない。」

以上述べたところを総合すると,本件登録意匠の部分と公然知られた意匠である甲1意匠及び甲2意匠を寄せ集めたものの具体的構成態様の差異は,いずれも微差であるか公然知られた意匠や周知意匠に採用されている構成に過ぎないので,創作容易性を否定するような事情とはなりえない。

(6)結語
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきである。

3.証拠方法
本件登録意匠の部分が,公然知られた形状の結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであることを,甲第1号証の1乃至甲第5号証の2により立証する。
(1)甲第1号証の1 大一電機産業株式会社ホームページ 製品情報:デー太郎ランプ7α
(2)甲第1号証の2 大一電機産業株式会社ホームページ News一覧
(3)甲第2号証の1 アイ電子株式会社ホームページ 製品紹介>情報公開機器>呼出しランプ 呼出ランプ[スーパー・エンジェルII]写し
(4)甲第2号証の2 アイ電子株式会社ホームページ 沿革写し
(5)甲第2号証の3 弁護士法第23条の2第2項に基づく照会文書(大阪弁護士会会長)写し
(6)甲第2号証の4 弁護士法第23条の2第2項に基づく照会に対する回答(アイ電子株式会社)
(7)甲第3号証 2004年発行 株式会社宝商事 宝商事総合カタログ 14・2004の抜粋「ビッグビュー」
(8)甲第4号証 2004年発行 株式会社宝商事 宝商事総合カタログ 14・2004の抜粋「デカセグ」
(9)甲第5号証の1 株式会社大一商会ホームページ 機種情報 HYPER PASSIONキーポイント
(10)甲第5号証の2 株式会社大一商会ホームページ 機種情報 2004年のパチンコ機種


第2 被請求人の答弁及び理由
被請求人は,請求人の申立及び理由に対して,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」旨の答弁をし,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠として乙第1号証ないし第15号証を提出した。

1.答弁の理由
(1)請求人は,審判請求書において,本件登録意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた甲第1号証の1乃至甲第5号証の2に記載された意匠に基づいて容易に創作できたものであり,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。
したがって,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきであると主張している。
しかしながら,被請求人は請求人の主張事実を認めることはできないので,以下にその理由を述べる。

(2)請求人は,引用意匠である甲第1号証の意匠(請求人に合わせて以下,甲1意匠と言う)と甲第2号証の意匠(以下,甲2意匠と言う)を寄せ集めることで,基本的構成態様を共通にすると主張している。
しかし,甲2意匠は,公知の意匠とは認められないものである。
即ち,「公然知られた(公知)」とは,不特定多数の者に,単に知られうる状態にあるだけでは足りず,現実に知られた状態であることが必要である。
この点については,次の資料からも明らかである。
平成10年改正意匠法意匠審査の運用基準 意3条2項の記載(乙第1号証)
東京高裁 昭和52年(行ケ)第71号 知的財産権判決速報(乙第2号証)
東京高裁 平成7年(行ケ)第11号 知的財産権判決速報(乙第3号証)
しかしながら,甲2意匠は,請求人の提出した証拠からも明らかなように,発売が,本件登録意匠の出願日と同じ月の1月とされているものの(甲第2号の2),実際には販売開始日は不明であり,宣伝開始時期も不明,設置手順書も甲2意匠を販売している者が社内で使用しており,第三者への配布時期も不明となっている(甲第2号証の4)。
公知であると主張されるのであれば,実際の販売開始日,宣伝開始時期,宣伝のためのカタログ等の頒布の範囲,部数等も具体的な証拠と共に明瞭にすべきである。
この中で,唯一2004年12月17日に注文を受けているとの記載はあるものの,受渡日は2005年2月1日(予定)とされている。
この注文自体や注文の時期の立証も,注文書自体が提出されている等の具体的な証拠が全くなく不十分であると考えるが,仮に正しいとしても,注文を受けている者がリース会社1社のみであると考えられる。
そうであれば,1社のみでは,公知の要件となる「不特定多数の者に,単に知られうる状態にあるだけでは足りず,現実に知られた状態である」との要件を具備しないものである。
また,注文書の日付も本件登録意匠の出願日とは僅か27日の期間しかないことも,公知となるには極めて短い期間と言わざるを得ないものでもある。
なお,甲第2号証の2,甲第2号証の3,甲第2号証の4は,具体的な証拠による裏付けが全くなく,証拠能力が弱いものであることを付け加えておく。
ところで,甲第3号証の意匠乃至甲第5号証の意匠(以下,甲3意匠,甲4意匠,甲5意匠と言う)も,その頒布日やホームページに記載された日付の立証が不十分であり,請求人が主張するように平成16年(2004年)12月末日に,知られうる状態になったと考えるのが妥当である。
そうであれば,甲3意匠,甲4意匠,甲5意匠も,本件登録意匠の出願日とは僅か13日の期間しかなく,その間にカタログの頒布の範囲,部数,ホームページのアクセス数等も立証されていない意匠が,「不特定多数の者に,単に知られうる状態にあるだけでは足りず,現実に知られた状態である」という上記した公知の要件を具備するとは考えられないものである。
したがって,公知の意匠とは認められない甲2意匠乃至甲5意匠と甲1意匠を寄せ集めて,本件登録意匠を容易に創作できたとの請求人の主張は妥当ではないものである。

(3)仮に,甲2意匠が公知の意匠であったとしても,次の資料に示すように,甲2意匠はデータ表示部中央に大きく3桁の数字表示部を配置しているわけではないものである。
写真撮影報告書写し(乙第4号証)
乙第4号証は,請求人(被告)と被請求人(原告)との意匠権侵害差止等請求事件(名古屋地方裁判所 平成24年(ワ)第1787号)において,原告の訴訟代理人が提出しようとしている資料である。
撮影対象となった呼出ランプは,原告が実際に入手したもので,商品名,型式が共通していることから,甲2意匠であることは明らかである。
乙第4号証に添付された写真(写真1,写真7,写真8,写真9,写真10,写真11)を見ると,中央上部に配置されているのは,3桁の数字表示部ではなく,グラフ表示部である。
甲第2号証の1は,このグラフ表示部に3桁の数字を表示したものを提出しているにすぎない。
甲第2号証の1の中央上部がグラフ表示であることは,甲第2号証の1の中央上部に表示された3桁の数字が,他の数字の形態と明らかに異なっていることからも裏付けることができる。
参考までに,甲第2号証の1を被請求人が印刷した資料を乙第5号証として提出する。
このため,甲1意匠と甲2意匠を寄せ集めても,本件登録意匠と基本的構成態様を共通にすることはない。

(4)なお,甲2意匠の中央上部に配置された表示部が数字表示部であり,且つ甲2意匠乃至甲5意匠が公知の意匠であったとしても,本件登録意匠は,これらの意匠を寄せ集めて容易に創作できたものではない。
即ち,本件登録意匠は,横長のデータ表示部に数字やグラフを表示するように各数字,グラフがバランスよく配置されているものであるが,これらの配置や数字,グラフの大きさ等には,膨大な選択の余地がある。
データ表示部は数字の配置・グラフの配置,その形状に各社創意工夫を行い,遊技者を如何に遊技に引き込むかの重要な役割を担っている。パチンコ店が呼出ランプを導入する際に最も重要視する部分である。
このため,本件登録意匠の出願前,出願後においても,遊戯用器具の表示器に関する物品では,数字やグラフをデータ表示部に表示した意匠(部分意匠)が次に示すように多数登録されている。
意匠登録第1205970号(乙第6号証) 意匠登録第1215544号(乙第7号証) 意匠登録第1215545号(乙第8号証) 意匠登録第1268476号(乙第9号証) 意匠登録第1286781号(乙第10号証) 意匠登録第1317615号(乙第11号証) 意匠登録第1319052号(乙第12号証) 意匠登録第1319053号(乙第13号証) 意匠登録第1348841号(乙第14号証)
意匠登録第1348842号(乙第15号証)
このような登録例からすれば,本件登録意匠の分野では,数字やグラフをデータ表示部にどのように配置したり,どのような大きさで表示するかが創作の重要な要素となるものである。
そうでなければ,既に存在している数字の表示やグラフの表示を寄せ集めたにすぎないものとして,これらの意匠も登録されない筈である。
本件登録意匠のようなデータ表示部の部分意匠については,このような数字やグラフの配置が容易に創作できるものであるとすれば,この分野における今後の登録も殆どが不可能となり,意匠の創作を奨励し,産業の発達に寄与することを目的とする意匠法の目的とも合致しなくなるおそれがある。本件登録意匠の審理においては,このような事情も充分考慮すべきものである。
なお,前記の遊戯用器具の表示器に関する登録例は部分意匠のみを示したが,全体意匠のデータ表示部に数字やグラフを配置した意匠も数多く登録されているものである。
本件登録意匠は,正しくデータ表示部に数字やグラフを膨大な選択肢の中から,全体のバランス,見やすさ,印象の良さ等を考慮した上で,まとまりよく配置してデザイン処理を行っているものであり,まとまり感のある本件登録意匠の特徴を選択することは創作容易ではない。

(5)以上述べたように,甲2意匠乃至甲5意匠(特に甲2意匠)は,公知の意匠とはいえないものである。
また,甲2意匠の中央上部に配置されているのは,3桁の数字表示部ではなく,グラフ表示部であり,甲1意匠と甲2意匠を寄せ集めても,本件登録意匠と基本的構成態様を共通にすることはない。
さらに,甲2意匠の中央上部に配置されているのが数字表示部で,且つ上記甲2意匠乃至甲5意匠が公知であったとしても,本件登録意匠は,容易に創作されたものではないため,請求人の主張は妥当なものではなく,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものである。
よって,本件審判については,答弁の趣旨通りの審決を賜るよう希求する次第である。

2.証拠方法
(1)乙第1号証 平成10年改正意匠法意匠審査の運用基準の写し 意3条2項の記載
(2)乙第2号証 東京高裁昭和52年(行ケ)第71号知的財産権判決速報
(3)乙第3号証 東京高裁平成7年(行ケ)第11号知的財産権判決速報
(4)乙第4号証 写真撮影報告書写し
(5)乙第5号証 甲第2号証の1を被請求人が印刷した資料
(6)乙第6号証 意匠登録第1205970号特許電子図書館資料写し
(7)乙第7号証 意匠登録第1215544号特許電子図書館資料写し
(8)乙第8号証 意匠登録第1215545号特許電子図書館資料写し
(9)乙第9号証 意匠登録第1268476号特許電子図書館資料写し
(10)乙第10号証 意匠登録第1286781号特許電子図書館資料写し
(11)乙第11号証 意匠登録第1317615号特許電子図書館資料写し
(12)乙第12号証 意匠登録第1319052号特許電子図書館資料写し
(13)乙第13号証 意匠登録第1319053号特許電子図書館資料写し
(14)乙第14号証 意匠登録第1348841号特許電子図書館資料写し
(15)乙第15号証 意匠登録第1348842号特許電子図書館資料写し


第3 請求人の弁駁
1.弁駁の趣旨
被請求人の答弁の理由は成り立たない。
登録第1264441号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。

2.弁駁の理由
(1)第2 答弁の7理由(2)への弁駁
被請求人は,甲2意匠乃至甲5意匠は,公知の意匠とは認められないものであると主張する。
しかし,かかる主張は次に述べる通り,いずれも理由はない。
ア 甲2意匠について
被請求人は,「公然知られた」の意義は,現実に知られた状態にあることまでを要すると解すべきと主張する。
しかし,「公然知られた」の意義については,そもそも知られ得る状態で足りるのか,現実に知られていることが必要なのかについて判決・学説は割れており争いがある(甲6,甲7)。
厳密に現実に知られている状態の立証がないと「公然知られた」意匠と認定できないとなると,その立証の困難性や審査官にとって現実に知られているかどうかを確認する手段がないことから,多くの出願意匠が新規性・創作非容易性を有するものとして,簡単に登録されてしまうこととなる。
よって,「公然に知られた」の意義としては,公衆に知られうる状態に置かれることで足りると解すべきであり,現実に知られていることまでは要求されていないものというべきである。
仮に,被請求人が挙げる乙2や乙3の裁判例が述べる一般論の通り,不特定の者又は多数の者に現実に知られた状態まで要するとしても,通常であれば不特定の者又は多数の者が現実に知っていることが推認させる事情が存在すれば,現実に知られていない反証がなされない限り,現実に知られた状態が認められると解すべきである。
本件において,甲2号証の3で直接立証しうる事実は,平成16年12月17日にリース会社1社が甲2意匠たるスーパー・エンジェルIIを注文したという事実である。しかし,商取引の常識から考えて,顧客が商品のデザインを見ずに注文をするということはありえず,同日より前に,販売者であるアイ電子株式会社(以下「アイ電子」という。)が甲2意匠を示して不特定の顧客に宣伝を行っていたことが強く推認されるものである。とすれば,本件においては,甲2意匠が同日以前に,アイ電子の宣伝活動によって,不特定の者又は多数の者に現実に知られた状態になっていたと認められるものである。請求人は,リース会社1社のみでは「不特定多数の者」とは言えないなどと主張するが,1社の注文を取るのにその1社のみしか宣伝活動をしていないということなどは通常の商業活動としてはありえず,平成16年12月17日の注文の事実自体で,アイ電子が当該リース会社を含む複数の相手にスーパー・エンジェルIIを宣伝していた事実があったことが強く推認される。そもそも被請求人が挙げる判例(乙2,乙3)においても「不特定」かつ「多数」の者が要件となっているのではなく「不特定」の者又は「多数」の者が要件となっているので,仮にリース会社1社のみが現実に知っていた状態だったとしても,アイ電子にとっては,リース会社は第三者であり「不特定」の者であることは明らかであるので,被請求人の主張には理由がない。
そして,現実にアイ電子は,平成16年12月17日のリース会社(住商リース株式会社)からの注文を受ける前の平成16年11月ころから,全国の顧客30社以上に対してスーパー・エンジェルIIの甲2意匠のデザインを示して宣伝活動を行っていたものである。この事実は,アイ電子に当時から在籍している同社の営業担当社員の陳述書(甲8)によって裏付けられるものであるが,アイ電子は,請求人とは取引関係や商売上の提携関係などはなく,本件の請求人と被請求人との間の紛争において,どちらか一方に肩入れをする動機は全くない立場の会社であり,その会社の人間の供述の信用性は極めて高いものである。
なお,被請求人が自己の主張を支持するものとして挙げる乙2の判例は本件とは全く事例が異なるものであり,本件の事案を判断するに際してふさわしいものではない。すなわち,乙第2号証の東京高等裁判所昭和54年4月23日判決「サンドペーパーエアグラインダー事件」(昭和52年(行ケ)第71号)は,「公然に知られた」の意義について現実に知られていることが必要との解釈をした上で,「引用意匠の登録に関しては,登録後その意匠公報の発行される昭和47年11月28日までの間,何人も特許庁長官に対して書類の閲覧を申請した事実のないことが認められるし,他に,本願意匠の登録出願された同年9月18日前において,引用意匠が一般第三者たる不特定人又は多数者によって現実に知られていた状態にあつたことについては,これを認めるに足りる証拠が全くない。したがって,引用意匠は,本願意匠の登録出願前に公然知られたものとすることはできない」としたものである。この事案では,公衆が書類を閲覧することができるが公報が発行されていないため,閲覧には特許庁長官に対する申請が必要であったという事情がある。このような事情の下で,東京高裁は,特許庁長官に対する閲覧申請がなかったのであるから,現実に知られたことはないとの事実認定をなしたものである。これは,引用意匠が登録され,不特定又は多数の者により現実に知られたという推認が生じながらも,原告が引用意匠が現実に知られていないことの立証に成功し,現実に知られた旨の推定が覆滅されたという評価をすべきものである。本件のように,販売者が宣伝活動を行い,顧客からの受注を現実に受けているという事案とは事情を全く異にするものである。なお,乙3の判決については被請求人から判決全文が提出されておらず,代表的な判例集にも未搭載のため,現時点では事案の分析,本件への適用の可能性の検証を行うことは不可能であることから,乙3の判決は本件を審理するに当たり考慮すべきではない。
以上より,被請求人の甲2意匠に関する主張については,いずれも理由のないものである。
イ 甲3意匠,甲4意匠及び甲5意匠について
被請求人は,甲3意匠,甲4意匠及び甲5意匠について,当該意匠が知られうる状態になったときから13日間の期間しかなく,不特定多数のものに現実に知られた状態とはなっておらず公知の要件を満たさないと主張する。
しかしながら,甲3意匠及び甲4意匠については,遊技機業界の大手商社である株式会社宝商事が頒布しているカタログに記載のものであり,このような業界カタログについては,最新の製品をいち早く知って自分の店舗に導入したいと思っている需要者(パチンコホールの経営会社等)が目にするものであるので,頒布された時点で即,公然知られた状態になるというべきである。
また,甲5意匠については,ウェブページ上に公開されたホームページであり,ホームページについては公開された時点で不特定多数のものによって閲覧されうる状態になる。とすれば,特段の事情が存在しない限り(例えば,当該ページが限られた会員しか閲覧できないものであったり,検索エンジンに当たらないものであるといった事情),公開された直後に不特定又は多数のものに現実に知られた状態となっていると強く推認されるものである。本件においては,被請求人からかかる推認を阻害するような事情が示されていない以上,ホームページの公開によってその公開直後に不特定多数のものに現実に知られた状態となっているというべきである。
したがって,甲3意匠乃至甲5意匠に関する被請求人の主張は,いずれも理由がないものである。

(2)第2 答弁の7理由(3)への弁駁
被請求人は,甲2意匠はデータ表示部中央に大きく3桁の数字表示部を配置しているわけではないと主張する。
しかし,甲2号証の1(乙5号証)から明らかなとおり,中央部に3桁の大きな数字が表示されている態様がアイ電子株式会社のホームページで大きく掲載されており,同社が,中央部に3桁の大きな数字を表示させた態様でスーパー・エンジェルIIを宣伝していたことは明らかである。とすれば,需要者にとって公知となっていたスーパー・エンジェルIIの態様は,甲2号証の1に掲載の通り,中央部に3桁の大きな数字を表示させたものであった。
意匠法において検討されなければならないのは,需要者が当該意匠から感得できる美感がどのようなものかという点であり,実際の製品の機能ではない。被請求人は,スーパー・エンジェルIIの中央部はグラフ表示部であることを強調しており,請求人も機能的に見てスーパー・エンジェルIIの中央部がグラフ表示部である点は認めるが,それ自体が,請求人が主張する甲2意匠の態様の認定を左右するものではない。アイ電子株式会社が,中央部に3桁の大きな数字を表示させた態様でスーパー・エンジェルIIを宣伝し,その受注を受けていた以上,需要者は,甲2意匠について中央部に3桁の大きな数字を表示させた態様をスーパー・エンジェルIIの代表的な態様であると認識していたことは明らかである。とすれば,甲2意匠の熊様について,請求人の主張の通り,データ表示部中央に大きく3桁の数字表示部を配置したものと認定することにつき何ら誤りは存在しない。
したがって,被請求人の主張には理由がない。

(3)第2 答弁の7理由(4)への弁駁
被請求人は,本件登録意匠は,甲2意匠乃至甲5意匠を寄せ集めて容易に創作できたものではないと主張する。
たしかに,本件登録意匠の分野では,数字やグラフをデータ表示部にどのように配置したり,どのような大きさで表示するかが創作の重要な要素となっている点については争わない。
しかし,そのような本件登録意匠の分野での創作の重要要素をふまえたとしても,本件登録意匠は甲2意匠乃至甲5意匠の単純な寄せ集めであって容易に創作できたとの評価から免れえない。
容易に創作できたとする根拠は,審判請求書でも述べた通りである。特に,本件登録意匠と甲1意匠とで美感上もっとも大きく異なる点は,中央部の3桁の大きな数字の有無であるが,これも単純に甲1意匠と甲2意匠を組み合わせたものに過ぎない。たしかに,公知意匠を組み合わせるにしても,膨大な選択肢があり,まとまり感ある意匠を表出するに創意工夫がみられる場合があるということは否定しない。しかし,本件登録意匠における甲1意匠との大きな相違点である中央部の3桁の大きな数字については,甲2意匠における中央の3桁の数字とほぼ同じ位置・(全体のバランスからみた)大きさのものがそのまま採用されているに過ぎず,甲1意匠と甲2意匠の中央の3桁の数字を組み合わせる際に,創意工夫ある配慮がされているとは言い難い。被請求人は,見やすさや印象の良さなども指摘するが,これらはそもそも甲2意匠の中央の3桁の数字に本質的に備わっていたものに過ぎず,例えばそれを甲1意匠に組み合わせて初めて創出された美感上の要素ではない。
この結論は,数字を大きく表現することは呼出ランプのデータ表示部では従来から行われていたことであるし(甲4意匠),中央に大きな数字表示部を配置すれば,需要者に見やすく強い印象を与えるということは,従来から呼出ランプと密接に関連する遊技機業界にて行われていたものであること(甲5意匠)をふまえれば,より強く裏付けられるものである。
したがって,本件登録意匠は,公知意匠を単純に寄せ集めることで得られたものに過ぎず,容易に創作できたものである。

(4)むすび
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきである。

3.証拠方法
(1)甲第6号証 寒河江・峯・金井編「意匠法コンメンタール」(第2版)(レクシスネクシス・ジャパン,平成24年)118頁乃至121頁写し
(2)甲第7号証 渋谷達紀「知的財産法講義II著作権法・意匠法」(第2版)(有
斐閣,平成19年)559頁乃至561頁写し
(3)甲第8号証 陳述書(アイ電子株式会社 従業員)写し


第4 口頭審理
本件審判について,当審は,平成26年6月6日に口頭審理を行った。(平成26年6月6日付口頭審理調書)(口頭審理において,審判長は,両者に対して以後書面審理とする旨を告知した。)

1.請求人
口頭審理陳述要領書において,甲第2号証の3について,リース会社が甲第2号証の意匠の外観を確認していなかったとしても,実際に使用する顧客は必ず確認をしているはずであり,不特定の者に現に知られていたことは否定できない点,甲第2号証の4の証拠力・証拠価値について,証拠力が備わっていることは明らかである旨主張した。また,甲第8号証についての証拠力・証拠価値の信用性について立証するため,証人尋問の実施を申請した。さらに,甲第3号証及び甲第4号証について,カタログが不特定多数の者に現実に知られた状態になっている旨主張し,甲第5号証について,ウェブページ上に公開されたホームページに掲載されたことによって,不特定の者に現実に知られた状態になったものと認められるべきである旨主張した。
請求人は,口頭審理陳述要領書とともに,証拠として甲第9号証の書証を提出した。
(証拠方法)
甲第9号証 大阪高裁平成19年1月30日(平成18年(ネ)第779号)判決文写し

2.被請求人
口頭審理陳述要領書において,請求人の弁駁書に対する反論を主張し,甲第2号証の3及び甲第2号証の4について,補強する証拠がないため証拠能力が弱いものである旨主張し,甲第8号証について,甲第2号証の4と食い違うような証言で証拠能力が弱いものであると主張した。さらに甲3ないし5号証について,実際にカタログが頒布されたか,ホームページにアクセスされたかを補強する証拠がなく,証拠力が弱いと主張した。

3.口頭審理調書
(1)請求人 審判請求の趣旨及び理由は,審判請求書,平成25年12月27日付け審判事件弁駁書,平成26年5月22日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述。
(2)被請求人
答弁の趣旨及び理由は,平成25年6月11日付け審判事件答弁書,平成26年5月8日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述。
(3)審判長は,口頭審理を中断し証拠調べ(証人尋問)を行う旨告げた。
(4)証拠関係(証人尋問)
証人調書に記載のとおり。
審判番号 無効2013-880010
期日 平成26年6月6日午後2時40分
審判長は,宣誓の趣旨を説明し,証人が偽証した場合の罪を告げ,別紙宣
誓書を読み上げさせその誓いをさせた。
証人等の陳述は,審判長の許可があったので,録音テープ等に記録する。
(別紙DVD-R1枚のとおり)
(5)審判長は,証拠調べを終了し,口頭審理の再開を告げた。
(6)陳述の要領・被請求人
録音テープ等の書面化申請を行う予定がある。それを受け取ってから2週間以内に,何らかの意見を提出するか否かについて連絡を行う。
(7)審判長は,本件審理を以後書面審理とする旨告げた。

4.録音テープ等の書面化申請
被請求人から録音テープ等の書面化申請が行われた。その後,それについて意見は提出されなかった。


第5 当審の判断
当審は,本件登録意匠が本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物や本件意匠登録出願前に日本国内において電気通信回線によって公然知られた意匠となった甲第1ないし5号証に記載された意匠に基づいて容易に創作することができたものとはいえないので,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項に違反して意匠登録を受けたものということはできないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1.本件登録意匠(別紙第1参照)
本件登録意匠(意匠登録第1264441号の意匠)は,平成17年(2005年)1月13日に意匠登録出願され,平成18年(2006年)1月20日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「遊戯用器具の表示器」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された図面代用写真に現されたとおりのものであって,「図面代用写真において,黄色に塗りつぶした部分以外が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである。(以下,本件登録意匠について,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本件部分意匠」という。)(別紙第1参照)
すなわち,本件登録意匠は,パチンコやスロットマシン等の遊戯用器具の上部に設置されるもので,データ表示部に遊戯者の各データを表示する数字に対応するセグメントを点灯させることにより所望の数字,色などを変動表示すると共に,上部に輝度,色調を可変出来る上部ランプと,左右に各ボタンを押すことによって点灯する左右ランプが設けられたものである。
本件部分意匠は,正面視を略横長逆台形状とする遊戯用表示器の正面側中央部分に設けられた表示部を部分意匠として意匠登録を受けようとする部分としたものである。
本件部分意匠の形態は,部分全体を暗色の正面視略横長六角形状の表示画面とし,上辺側は浅く,下辺側を奥側にまで深く,遊戯用表示器の本体部にくい込んで設けたもので,平行な上辺及び下辺を横長にし,左右辺は上辺側が短く角部が隅丸の「く」の字型と逆「く」の字型で左右対称に横長の略六角形状に表れ,表示画面内に横長長方形状のセグメント表示部分を設け,その内側中央の上辺寄りに3桁の大型の数字表示部(以下,「大型数字表示部」という。)を設け,左側上辺寄りに4桁の中型の数字表示部(以下,「中型数字表示部」という。)を設け,左側下辺寄りに小型横長長方形状から形成されたドット表示部(以下,「ドット表示部」という。)を設けドット表示部全体を横長長方形状に配列し,大型数字表示部の下側から右側にかけて,倒L字状に,小型の数字表示部(以下,「小型数字表示部」という。)を設け,大型数字表示部の右側には,3桁と2桁の小型数字表示部を上下2段に配し,大型数字表示部の下の左寄りには,3桁の小型数字表示部を配し,その右側に2桁と3桁及び2桁の小型数字表示部を連続して配し,各数字表示部の上部には,極小の文字表示部が配され,「大当たり」など,該当する文字が点灯するようになっている。ドット表示部は,左端の一列に縦に7つの数字表示部を配し,その右側に縦7段横10列の小型の横長長方形を配したものである。

2.無効理由について
甲第1号証の意匠ないし甲第5号証の意匠(以下,それぞれ「引用意匠1」ないし「引用意匠5」という。)に基づく創作容易について
請求人は,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である引用意匠1及び引用意匠2並びに引用意匠5の形状,模様等や,本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠である引用意匠3及び引用意匠4の形状,模様等に基づいて,容易に創作することができたものであり,意匠法第3条第2項に該当することにより意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである旨主張するので,以下,検討する。
引用意匠1ないし4は,いずれもパチンコやスロットマシン等の遊戯用器具の上部に設置されるもので,データ表示部に遊戯者の各データを表示する数字に対応するセグメントを点灯させることにより所望の数字,色などを変動表示するものである。また,引用意匠5は,パチンコ台の遊技盤に関する意匠である。(以下,引用意匠1ないし5において,本件部分意匠に相当する部分を「引用相当部分意匠」という。)

(1)引用意匠1(甲第1号証)(別紙第2参照)
引用意匠1(甲第1号証の1の意匠)は,2004年(平成16年)4月14日が最終更新日となっている被請求人(大一電機産業株式会社)のホームページに掲載された商品名「デー太郎ランプ7α」の遊戯用器具のデータ表示器の中央に表示画面が表されている。
引用意匠1の引用相当部分意匠の形態は,横長長方形の暗色の表示画面に各種表示部が配置されている。表示画面の上段に大きめの数字表示部が,左から3桁,2桁,2桁と右寄りに配置され,表示画面の左下部分に,左端の一列に縦に7つの数字表示部を配し,その右側に横長長方形が縦7段横10列に配列されたグラフや文字を表示可能なドット表示部が配置されている。表示画面の右下部分に,2桁の小型数字表示部が,2段に配され,上段は右よりに2桁ずつ2つ,下段は中央から右端まで2桁ずつ3つ,合計5つ配置されている。
(2)引用意匠2(甲第2号証)(別紙第3参照)
引用意匠2(甲第2号証の1の意匠)は,2005年(平成17年)1月に発売され,2005年(平成17年)3月24日オープンの稼働店舗の写真が掲載されているアイ電子株式会社のホームページに掲載された呼出しランプ「スーパー・エンジェルII」の遊戯用器具のデータ表示器の中央に表示画面が表されている。
引用意匠2の引用相当部分意匠の形態は,略横長長方形の暗色の表示画面に各種表示部が配置されている。表示画面の形状は,横長長方形状を両下部の角部を内側に円弧状に窪ませた略逆凸字形状である。表示画面の最上段には横長帯状のグラフ表示をするドット表示部が配置されている。表示画面の上方寄り中央に大きく3桁の大型数字表示部が配置されている。大型数字表示部の左側に2桁の中型数字表示部が配置されている。大型数字表示部の右側に左側よりやや小さい4桁の中型数字表示部が配置されている。表示画面の左下部分に,3桁の小型数字表示部が上下2段に配置されている。表示画面の右下部分に,3桁の小型数字表示部が上下2段に配置されている。
(3)引用意匠3(甲第3号証)(別紙第4参照)
引用意匠3(甲第3号証の意匠)は,2004年(平成17年)に配布された株式会社宝商事のカタログ,「AMUSEMENT PARLOR TOTAL CATALOG 宝商事総合カタログ 14 2004」の第154頁上段に掲載された呼出しランプ「ビッグビュー」の遊戯用器具のデータ表示器の中央に表示画面が表されている。
引用意匠3の引用相当部分意匠の形態は,略六角形の暗色の表示画面に各種表示部が配置されている。表示画面の左側半分に複数の数字表示部が,右側半分に複数の数字表示部及びグラフや文字を表示可能なドット表示部が配置されている。表示画面の形状は,平行な上辺及び下辺を横長にし,左右辺は上辺側が短く角部が「く」の字型と逆「く」の字型で左右対称の略六角形状である。表示画面の最上段において左側部分に2桁の大型数字表示部,その右側に2桁の中型数字表示部,中央を空けて右側に3桁の中型数字表示部,及び右端に2桁の小型数字表示部が配置され,左側の大型数字表示部の下に2桁の小型数字表示部が2個ずつ,2段に4個配置され,小型数字表示部の右側には,左端の一列に縦に7つの数字表示部を配し,その右に横長長方形が縦7段横9列に配列されたドット表示部が配置されている。
(4)引用意匠4(甲第4号証)(別紙第5参照)
引用意匠4(甲第4号証の意匠)は,2004年(平成17年)に配布された株式会社宝商事のカタログ,「AMUSEMENT PARLOR TOTAL CATALOG 宝商事総合カタログ 14 2004」の第155頁左下段に掲載された呼出しランプ「デカセグ」の遊戯用器具のデータ表示器の中央に表示画面が表されている。
引用意匠4の引用相当部分意匠の形態は,略横長長方形の暗色の画面に各種表示部が配置されている。表示画面の形状は,左右辺の下寄りに長方形状のデータボタンと呼出しボタンが左右対称に設けられて略「エ」字状で,上下は暗色の画面がデータ表示器の上下一杯まで設けられている。表示画面の最上段において左側部分に2桁の大きめの中型数字表示部,その右側に2桁の中型数字表示部,右中央寄りを空けて右側に3桁の中型数字表示部が配置され,左側の中型数字表示部とその右の中型数字表示部の下に2桁の小型数字表示部が2個ずつ,2段に4個配置され,小型数字表示部の右側には,左端の一列に縦に7つの数字表示部を配し,その右の画面中央に横長長方形が縦7段横10列に配列されたグラフや文字を表示可能なドット表示部が配置されている。ドット表示部の右側で右側の3桁の大型数字表示部の下に2桁の小型数字表示部が配置されている。
(5)引用意匠5(甲第5号証)(別紙第6参照)
引用意匠5(甲第5号証の1の意匠)は,株式会社大一商会が2004年(平成16年)に2004年のパチンコ機種としてホームページに掲載した「HYPER PASSION」のパチンコ台の遊技盤に3桁の数字表示部が付されている。
引用意匠5の引用相当部分意匠の形態は,遊技盤中央の横長楕円形の枠内に3桁の数字表示部が表されており,中央の1桁の数字が左右の数字よりも大きく配置されている。

3.本件登録意匠と引用意匠1ないし引用意匠5との関係
(1)引用意匠1
本件部分意匠と引用意匠1の引用相当部分意匠とは,いずれも遊戯用器具のデータ表示器の表示画面で,暗色の表示画面に各種表示部が配置されている点は共通するが,(ア)表示画面の形状,(イ)中央の大型の3桁の数字表示部の有無,(ウ)中型の数字表示部の配列,(エ)小型の数字表示部の配列,に主な差異が認められる。
(2)引用意匠2
本件部分意匠と引用意匠2の引用相当部分意匠とは,いずれも遊戯用器具のデータ表示器の表示画面で,暗色の表示画面に各種表示部が配置されている点は共通するが,(ア)表示画面の形状,(イ)中央の大型の3桁の数字表示部の位置,(ウ)中型の数字表示部の配列,(エ)小型の数字表示部の配列,(オ)ドット表示部の形状と位置,に主な差異が認められる。
(3)引用意匠3
本件部分意匠と引用意匠3の引用相当部分意匠とは,いずれも遊戯用器具のデータ表示器の表示画面で,暗色の表示画面に各種表示部が配置されている点は共通するが,(ア)表示画面の形状,(イ)中央の大型の3桁の数字表示部の有無,(ウ)中型の数字表示部の配列,(エ)小型の数字表示部の配列,(オ)ドット表示部の位置,に主な差異が認められる。
(4)引用意匠4
本件部分意匠と引用意匠4の引用相当部分意匠とは,いずれも遊戯用器具のデータ表示器の表示画面で,暗色の表示画面に各種表示部が配置されている点は共通するが,(ア)表示画面の形状,(イ)中央の大型の3桁の数字表示部の有無,(ウ)中型の数字表示部の配列,(エ)小型の数字表示部の配列,(オ)ドット表示部の位置,に主な差異が認められる。
(5)引用意匠5
本件登録意匠は遊戯用器具のデータ表示器であるが,引用意匠5はパチンコ台の遊技盤であり,本件部分意匠と引用相当部分意匠とは,(ア)表示部の用途及び機能,(イ)表示画面の形状,(ウ)数字表示部の大きさ及び配列,に主な差異が認められる。

4.本件登録意匠の創作容易性の判断
請求人は,本件登録意匠の本件部分意匠は,その出願前から公然知られた引用意匠1及び引用意匠2の引用相当部分意匠を寄せ集め,その出願前から公然知られた引用意匠1ないし引用意匠5の遊戯器具の表示器の意匠に基づいて,当業者ならば容易に創作することができたものであると主張する。
請求人は,(A)本件登録意匠の本件部分意匠は,引用意匠1の引用相当部分意匠と外形状が異なるが,パチンコ,スロットマシン等の遊戯用器具の表示として需要者が最も注意を惹く部分は,データの表示内容であり,データ表示部の外枠の形状に需要者の注意が惹かれることは考えがたい,さらに,本件部分意匠と同様の横長六角形状の態様のものが,本件登録意匠の出願前に公知となっている引用意匠3のデータ表示部の外形の形状を採用したに過ぎないものであり,そこに特段の創意は存在しない,と主張する。
しかしながら,引用意匠1の引用相当部分意匠と本件部分意匠は,表示画面の形状のみならず,中央の大型の3桁の数字表示部の有無,中型の数字表示部の配列,小型の数字表示部の配列,に差異が認められ,引用意匠1の表示器の数字表示部をそのまま使用しても,本件部分意匠の態様を導き出すことはできないものである。
また,引用意匠3の引用相当部分意匠の表示画面の外形の形状は,本件部分意匠の形状とは,左右の上下の辺の長さや左右両端の角の角度や隅丸か否かが異なり,本件部分意匠がその形状をほとんどそのまま採用したとはいえないもので,本件部分意匠の態様を導き出すことはできないものである。
次に請求人は,(B)引用意匠1の表示器の数字表示部と引用意匠2の表示器の数字表示部とを寄せ集めれば本件部分意匠の数字表示部と実質的な相違は存在しないと主張する。すなわち,引用意匠1の表示器の数字表示部の中央に引用意匠2の中央の大型の3桁の数字表示部を配し,上段の左側の数字表示部を4桁の中型の数字表示部とし,右側に引用意匠2の中型の4桁の数字表示部を5桁とし,大きさを揃えて3段に配し,引用意匠1の下段の中央の小型の数字表示部に1桁増やすことによって本件部分意匠の態様を導き出すことができ,それらの変更は,ありふれた手法で変更したものに過ぎないもので,本件部分意匠の構成態様に特段の創意は存在しない,と主張する。
数字表示部の桁数については,この種のパチンコ,スロットマシン等の遊戯用器具の表示器としてその用途に応じて様々な桁数が見受けられ,また,その配列についても,この種の物品分野において,限られた表示画面という面積の中におけるある程度限られた範囲内のものではあるが,引用意匠1ないし5のいずれにおいても,本件部分意匠と同様の数字表示部の桁数も配列も存在せず,引用意匠1の数字表示部に引用意匠2の中央の大型の3桁の数字表示部を配しても,そのままでは本件部分意匠の数字表示部の態様とはならず,桁数や配列をそれぞれ変更し,再構成することによって漸く構成できる態様であるから,本件部分意匠は,引用意匠1の数字表示部と引用意匠2の数字表示部を寄せ集めた態様とは,到底いうことができないものである。
そうすると,前記のとおり,本件部分意匠は,引用意匠1及び引用意匠2とは,数字表示部の桁数や配列が異なり,それらを寄せ集めたとしても構成態様が異なるものであり,さらに引用意匠3の外形状と組み合わせたとしてもその形状が本件部分意匠とは同様の形状とはいえないのであるから,引用意匠1及び引用意匠2と引用意匠3を組み合わせても本件部分意匠の態様を導き出すことはできないものである。
さらに,請求人は,(C)数字表示部を大きくして強調するという手法は,引用意匠4の表示器に表れているとおり,従来から行われていたことであり,創意工夫が必要なものではない,また,中央部に目立つように大きな数字を配置するということも,パチンコ業界では従来から行われていたことであり,その事実は引用意匠5の遊戯盤の中央部に大きな3桁の数字表示部を設けていることからも明らかである旨主張する。
しかしながら,引用意匠4の数字表示部は最上段全体が中型数字表示部となっているが,本件部分意匠のような大型数字表示部とは異なり,本件部分意匠の中央の3桁の大型数字表示部は,その大きさによって極めて目立つものといえ,また,引用意匠5の遊戯盤の中央部は楕円形状の表示画面の内側に大きさの異なる3桁の数字表示部があり,本件部分意匠の態様とは異なり,いずれの態様も本件登録意匠の出願前より公知の態様であったとしても,それらに基づいて本件部分意匠の中央の大型数字表示部の態様を導き出すことは困難であるというほかなく,本件部分意匠の大型数字表示部は,特徴のあるものといえ,したがって,引用意匠1ないし5に基づいて本件登録意匠の態様を容易に導き出すことはできないものというほかない。
そうすると,本件部分意匠の態様は,表示器の外形状と数字表示部の具体的な配列や構成態様により,本件部分意匠独自の態様といえるもので,このような本件部分意匠を有する本件登録意匠は,当業者であれば容易に創作することができたものとはいうことはできない。
なお,請求人は,口頭審理において,証人尋問を行い,引用意匠2(甲第2号証)の「スーパーエンジェルII」の発売日について,アイ電子株式会社が実際に本件登録意匠の出願前である2004年の12月17日には顧客に対して宣伝を行っている旨の主張を立証しようとした。この点については,甲第2号証の4(別紙第3参照)によって,大阪弁護士会会長宛のアイ電子株式会社からの回答書には,発売日は不明としながらも,2004年(平成16年)12月17日付注文書(リース会社)で受渡日2005年(平成17年)2月1日予定で納品しているとの回答があるから,その注文の前に少なくとも複数者にアイ電子株式会社が宣伝を行うことは充分に推認することができ,アイ電子株式会社のホームページに掲載された「スーパーエンジェルII」が本件登録意匠の意匠登録出願前に公知となっていたことについては,認めることができるものであるといえる。
しかしながら,引用意匠2の引用相当部分の態様は,その表示画面の態様が前記したとおり,本件部分意匠の態様とは異なるもので,引用意匠2の引用相当部分の態様をほとんどそのまま用いて本件部分意匠の態様を導き出すことはできないのであるから,引用意匠2が本件登録意匠の意匠登録出願前に公然知られたものであったとしても,依然として本件登録意匠は,当業者であれば容易に創作することができたものとはいうことはできない。
よって,本件登録意匠は,その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠ということはできない。

5.小括
したがって,本件登録意匠は,本件意匠登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である公知の引用意匠1ないし5に基づいて容易に創作することができたものとは認められず,意匠法第3条第2項の規定には該当せず,無効理由を有さないものであるから,本件登録意匠は,請求人の主張する無効理由によっては,同法第48条第1項第1号の規定に該当しないものと認められる。


第6 むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,請求人の主張する無効理由によっては,意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものとはいえず,意匠法第48条第1項第1号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2014-11-20 
結審通知日 2014-11-26 
審決日 2014-12-11 
出願番号 意願2005-713(D2005-713) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (E2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 久美 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 中田 博康
江塚 尚弘
登録日 2006-01-20 
登録番号 意匠登録第1264441号(D1264441) 
代理人 古川 智祥 
代理人 増田 哲也 
代理人 小原 望 
代理人 足立 勉 
代理人 岡井 加女代 
代理人 飯塚 一雄 

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