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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属する(申立成立) D2 |
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管理番号 | 1302959 |
判定請求番号 | 判定2014-600043 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2014-09-09 |
確定日 | 2015-07-16 |
意匠に係る物品 | パーティション |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1229547号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | イ号図面及びその説明書に示す意匠は,登録第1229547号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。 |
理由 |
第1 請求の趣旨及び理由の要点 1 請求の趣旨 本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,結論同旨の判定を求めると申し立て,その理由として,要旨以下のとおりの主張をした。 2 判定請求の必要性 請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「パーティション」(甲第1号証及び甲第2号証,以下,「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。 本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)が現在実施しているイ号意匠(イ号図面及びその説明書に示す「間仕切り本体(当審注:「間仕切り」の誤記と認められる。)」の意匠(甲第3号証)に示される「間仕切り本体」の意匠)は,本件登録意匠の意匠権を侵害するものであるので,請求人は,平成26年8月1日付けにてその旨の通知書(甲第4号証)を被請求人に送付したところである。 これに対して,被請求人は,「イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。」旨主張するので,特許庁による判定を求める。 3 本件登録意匠とイ号意匠との対比説明 (1)両意匠の共通点 ア 意匠に係る物品の対比 本件登録意匠は,「パーティション」であり,イ号意匠は,「間仕切り本体」であって,両者は名称に差異があるものの,甲第3号証によれば,その構成及び使用目的,使用方法に照らして,近似した実質的に同一な物品に係るものである。 イ 形態についての対比 (ア)基本的な構成態様について a 全体の主たる構成について,上辺及び下辺の左右の角部を湾曲状に形成した略横長矩形状の仕切り壁面4枚によって,平面視略方形状に形成した構成のもので,平面部及び底面部を解放状に形成した低い略角筒状に形成した構成態様の点 b 仕切り壁面について,ごく薄い合成樹脂地のもので,外周縁にスチール製ベルトが挿入されており,全体が弾性変形するものであって,各仕切り壁面の短辺部に設けられた連結具によって連結して各壁面が連結されるものである点 c 収納及び展開について,各仕切り壁面を順次折り畳み,最小は扁平な円形に畳むことが可能であって,円形袋体に収納可能であり,また,展開する場合には弾性復元力によって元の形に展開する構成のものであり,これらの収納方法及び展開方法における各過程の態様の点, において共通している。 (イ)具体的な態様について a 正面視における仕切り壁面が,イ号意匠の正・背面部の上辺がなだらかな略山形状である点を除いて,およそ縦1に対して横2の比に近似した比とする略横長矩形状であって,各辺部が直線状に形成されて,上辺及び下辺の左右の各角部が緩やかな湾曲状に形成されており,壁面部の中央から右方に向かって略コ字状に形成された切り込み線によるファスナー開きの扉部が,上下辺に近接して,右辺からやや離れた部位に形成されている点 b 左右側面視における仕切り壁面が,およそ縦1に対して横2の比に近似した比とする略横長矩形状であって,各辺部が直線状に形成されて,上下辺の左右の各角部が緩やかな湾曲状にそれぞれ形成されており,壁面全体が平滑面に形成されている点 c そして,仕切り壁面の各連結角部の下隅に小布の目隠し布が形成されている点 の各態様において共通している。 (2)両意匠の差異点 ア 基本的な構成態様について 本件登録意匠は,全体形状において,同じ形状の略横長矩形状の壁面4枚によって,平面視略方形状に形成して,平・底面部を解放状とした低い略角筒状に形成された構成態様のものであるのに対して,イ号意匠は,正・背面側の上辺をなだらかな略山形状に形成した略横長矩形状の壁面と,左右の略横長矩形状の壁面とによって低い略角筒状に形成した構成態様の点において差異が存する。 イ 具体的な態様について 正面視において,本件登録意匠は,各仕切り壁面の上辺が水平状に形成されているのに対して,イ号意匠は,仕切り壁面の上辺の中央部がなだらかな略山形状に形成されている点に差異がある。 また,本件登録意匠は,仕切り壁面の中央部から右方に向かって略コ字状の切り込み線によってファスナー開きの扉部が形成されているのに対して,イ号意匠は,同扉部のコ字状切り込み線のうち,上辺の切り込み線が外周縁に沿って傾斜状に形成されている点に差異がある。 4 本件登録意匠とイ号意匠との類否判断の考察 (1)本件登録意匠とイ号意匠との共通点について ア 両意匠の共通点は前記3の(1)イにおいて述べたとおりであり,意匠の基本的な構成態様に係るものである。特に,本件登録意匠の要部である,上辺及び下辺の左右の角部を湾曲状に形成した略横長矩形状の仕切り壁面4枚(正面部の壁面には略コ字状の扉部がある。)によって,平面視略方形状に形成した構成のもので,平・底面部を解放状とした低い略角筒状に形成した構成態様の点が共通している。 イ そして,本件登録意匠に係る願書及び添付図面によれば,その収納・展開について,仕切り壁面部を2枚重ね状に折り畳み,次に向かい合わせ状に折り畳んで1シート状とし,さらには仕切り壁面部の外周縁のスチールベルトの弾性を利用して,略S字状のひねりから円形状へと折り畳み,円形袋体に収納可能とした点,また,展開する場合には弾性復元力によって自動的に元の形に展開する機能を有しており,これらの展開,収納手法をも含めて共通しており,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。 ウ また,両意匠は,組み立てた意匠全体の形態的な点もさることながら,特に,その収納及び組み立て法についても,本件登録意匠の【折り畳み過 程1の状態を示す参考斜視図】は,イ号意匠の収納方法「1 屋根をとりはずし,間仕切り本体を折りたたむ。」に該当し,本件登録意匠の【折り畳み過程2の状態を示す参考斜視図】は,イ号意匠の収納方法「2 縦になるよう持ち上側を手前に折る。」に該当し,本件登録意匠の【折り畳み過程4の状態を示す参考斜視図】及び【折り畳み過程5の状態を示す参考斜視図】は,イ号意匠の収納方法「3 左右にできる輪を内側に入れ,丸く押し込める。」に該当し,本件登録意匠の【折り畳み過程6の状態を示す参考斜視図】,【円形袋体に収納前の状態を示す参考斜視図】及び【円形袋体に収納した状態を示す参考斜視図】は,イ号意匠の収納方法の「4 円形にたたみ,形を整え収納袋に入れる。」に該当する。また,本件登録意匠の【折り畳み過程1の状態を示す参考斜視図】は,イ号意匠の組立方法「2 山形部分が上になるようにし,面を開く。」に該当,流用されており,本件登録意匠の【斜視図】は,イ号意匠の組立方法「3 正方形になるよう形を整える。」に該当する。 エ したがって,意匠全体としては,イ号意匠の正・背面側の仕切り壁面の上辺のなだらかな略山形状を呈する態様の点を除いて,その余の点,すなわち,収納及び展開の手法に到るまで,文字通り余すところなく,その大部分が共通している。 (2)本件登録意匠とイ号意匠との差異点について ア 基本的な構成態様について 本件登録意匠は,全体形状において,同じ略横長矩形状の壁面4枚によって,平面視略方形状に形成し,平面部,底面部を解放状とした低い略角筒状に形成した構成態様のものであるのに対して,イ号意匠は,上辺を低い略山形状とした略横長矩形状の前後の壁面と,左右の略横長矩形状の壁面によって,平面視略方形状に形成した低い略角筒状に形成した構成態様の点において差異がある。 イ 具体的な態様について (ア)正面視において,本件登録意匠は,仕切り壁面の上辺が水平状に形成されているのに対して,イ号意匠は,仕切り壁面の上辺の中央部がなだらかな略山形状に形成されている点に差異がある。 (イ)正面視の仕切り壁面部について,本件登録意匠は,仕切り壁面の中央部から右方に向かって略コ字状の切り込み線によってファスナー開きの扉 部が形成されているのに対して,イ号意匠は,同扉部の略コ字状の切り込み線のうち,上辺の切り込み線が外周縁に沿って傾斜状に形成されている点に差異がある。 (3)本件登録意匠とイ号意匠との類否判断 ア 本件登録意匠とイ号意匠とは,その形態について,前記基本的な構成態様及びその具体的な態様において,イ号意匠の正面・背面部の仕切り壁面の上辺部の態様を除いて,パーティションの収納・展開手法部分についてまでほぼ共通している。 イ これに反して,本件登録意匠とイ号意匠間には, (ア)その形態において,正面・背面側の仕切り壁面について,本件登録意匠は,壁面の上辺を水平状に形成しているのに対して,イ号意匠は,壁面の上辺をなだらかな略山形状に形成している点に差異がある。 しかしながら,イ号意匠の正面・背面側の仕切り壁面の上辺をなだらかな略山形状に形成した点け,左右辺の長さに比してもごく僅かな高さのなだらかな略山形状であり,かつ,上辺全体が左右の角部から全体的になだらかな曲線状の緩い傾斜の略山形状であって,左程に顕著なものではなく,長辺の長さが左右側面部のものと同じであることからさほど目立つ態様のものではなく,意匠的にはかなり軽微な差異に止まるものである。 (イ)そうして,正面・背面側の仕切り壁面部の上辺部を略山形状に形成する点は,古来よりの建物の建築様式として「切り妻屋根」の建物に採用されている壁面部の構成であり,この種の物品の意匠においても,前記先行周辺意匠に示す公知例にもみられるところである。 特に,「遊び用テント」の例である公知資料2に示される意匠は,正に,物品的にも意匠的にも,本件登録意匠及びイ号意匠ともに近似物品に係るものであり,また,正面・背面側の壁面部の上辺部をなだらかな略山形状に形成する態様の点は,当該公知例にも見られるところのものであって,何らの創作性も見られず,格別にイ号意匠のみの特徴ではなく,ほとんど特異性がみられない。 また,その他の細部的な差異についても,両意匠の形態的共通点の中における極めて軽微な差異であり,両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものというほかない。 (ウ)してみると,イ号意匠における仕切り壁面の上辺部のなだらかな略山形状に形成した態様の点の差異が,両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものであって,微差に止まる。 (4)まとめ 以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠間における差異点は,類否判断に与える影響が何れも微弱なものであって,共通点を凌駕しているものとはいえず,それらが醸成する態様をもってしても,両意匠の類否判断に与える影響は微弱であり,その結論を左右するまでには到らないものである。 しかも,その態様は,正・背面側の仕切り壁面部の上辺部のみをなだらかな略山形状に形成することによって,本件登録意匠との類似性の回避手法としての改変の印象が拭えないところである。 そうすると,両意匠の形態について,その類否判断を左右する支配的要素による,“まとまり”が共通していることとなり,これから生ずる美観をも共通することとなることから,両者の創作の要旨は軌を一にするものであって,両意匠は類似するものといわざるを得ない。 5 むすび したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものと思料されるので,請求の趣旨のとおりの判定を求める。 6 証拠方法 (1)甲第1号証 意匠登録第1229547号公報の写し (2)甲第2号証 意願2004?12160号 (登録1229547号)願書添付図面の写し (3) 甲第3号証 イ号意匠が掲載されたリーフレットの表の写し (4) 甲第4号証 被請求人に対する通知書の写し (5) 甲第5号証 実用新案登録第3039289号公報(抜粋) の写し (6) 甲第6号証 実用新案登録第3071866号公報(抜粋) の写し (7)甲第7号証 特開平9-112079号公報(抜粋)の写し 第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点 1 答弁の趣旨 被請求人は,イ号図面及びその説明書に示す意匠は,意匠登録第1229547号及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求めると申し立て,その理由として要旨以下のとおりの主張をした。 2 答弁の理由 (1)本件登録意匠とイ号意匠との対比 ア 基本的構成態様について (ア)共通点 a 収納方法としてコンパクトに折りたたまれて円形袋体に収納可能である点。 b 4枚の仕切り壁を連結してなるパーティションである点。 c 正面の仕切り壁には切れ込みにより扉が形成されている点。 (イ)相違点 a 本件登録意匠は4枚の仕切り壁が全て同一形状であり,角部を湾曲させた横長略長方形状であるのに対し,イ号意匠は角部を湾曲させた略長方形状の仕切り壁2枚と略五角形状の仕切り壁2枚で構成されており,さらに対向する2枚の略五角形状の仕切り壁の片側傾斜辺には屋根を載置することが可能である点で相違する。 b 本件登録意匠は仕切り壁の形状がおよそ縦1に対して横が2.1の比であるのに対し,イ号意匠は略長方形状のものでもおよそ縦1に対して横が1.8の比であり,略五角形状の仕切り壁はおよそ端部の縦1に対して横が1.8の比であり山型頂点部の縦1に対して横が1.4の比である点で相違する。 c 正面の仕切り壁に設けられた切れ込みによる扉の形状は,本件登録意匠はコの字であるのに対し,イ号意匠は略五角形状の輪郭に沿って形成されている点で相違する。 イ 具体的構成態様について (ア)共通点 仕切り壁の各連結角部の下隅に小片の目隠しが形成されている。 (イ)相違点 a 正面の仕切り壁に設けられた切れ込みによる扉の形状が,本件登録意匠は上辺・下辺と平行に形成されており略正方形状であるのに対し,イ号意匠は扉の上辺と下辺は平行ではなく略五角形状の輪郭に沿って形成されており縦に長い点で相違する。 b 仕切り壁の各連結角部に設けられた小片の目隠しについて,本件登録意匠は下隅のみに設けられているが,イ号意匠は下隅のみならず上隅にも設けられている点て相違する。 (2)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さないこと 本件登録意匠に係る物品も,イ号意匠に係る物品も,災害時などにおける避難所等での間仕切りとして使用するものである(甲第1号証,甲第3号証)。 よって,避難所等で展開され,設置された状態で需要者はこれら意匠に係る物品を使用し,看ることになる。なお,円形袋体に収納可能なことは,従前の公知技術・公知意匠においてありふれた形態であり(乙第1号証),意匠の要部とならないことは明らかである。また展開の際の動きも同様である。一度設置をすると長期間設置したままである商品であるし,展開の際に弾性復元力で広がる動き自体はありふれたものである(乙第1号証【0022】)。 本件登録意匠に係るパーティション及びイ号意匠にかかる間仕切りが展開され,避難所等で設置された場合,最低限のプライバシー確保を目的としている物である以上(甲第1号証,甲第3号証),外部から内部を覗けるのかどうかという点が非常に重要な点となる。 この点,避難所では人が歩いて移動することも当然にあり,立った状態でこれらパーティションがどのように見えるのかが重要であり需要者の注意を最も惹きやすい部分といえる。 甲第3号証の上部の写真と,甲第1号証における【斜視図】を比較すれば,需要者が受ける美感・印象に極めて大きな差があることが分かる。本件登録意匠は「平面視略方形状である低い略角筒状」であるため外部から内部を簡単に覗けるのに対し,イ号意匠は仕切り壁面2面が略五角形であり,かつ各連結部上隅に小片の目隠しが設けられており,外部から内部を覗きにくくなっている。 本件登録意匠においては,4枚の仕切り壁が同一形状であり,四方のどこから見ても同一形状となるが,イ号意匠は正面・背面から見る形状と,側面から見る形状は大きく異なっている。イ号意匠は略五角形状の仕切り壁を対向させており,全く形状が異なっている。そして,この相違により屋根を設置することが可能となりプライバシー確保という点て大きく利点を持つことになる。 また,イ号意匠に比して本件登録意匠は全体的に横長であり,この点も需要者に与える美感に相違が生じるし,正面の仕切り壁面部に設けられた扉の形状も大きく異なっている。 さらにイ号意匠には上隅にも目隠しがあるが,本件登録意匠には存在しな い。 これらの相違点は,意匠に係る物品の用途や性質,使用態様を考慮すると類否判断に大きな影響を与えることは明らかである。 (3)まとめ その他相違点も加えると,相違点全体が,共通点が生じさせている共通感をしのぎ,看る者に両意匠が別異であるとの印象を与えるといえ,イ号意匠は本件登録意匠に類似するということができないことは明らかである。 3 証拠方法 (1)乙第1号証 特開平10-18650公報の写し 第3 当審の判断 1 本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1229547号)は,平成16年(2004年)4月21日に意匠登録出願され,平成16年(2004年)12月17日に意匠権の設定の登録がなされ,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「パーティション」とし,形態を,願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたもので,「緊急災害時に避難所として体育館等が使われた場合に,広い空間を間仕切りして中に1?4人の大人が横臥できる程度の空間を形成して主に家族単位のプライバシーを最低限確保すべく設置される」ものであり,「本パーティションをコンパクトに折り畳むことができる。」としたものである。(別紙第1及び別紙第2参照) 本件登録意匠の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。 (1)基本的構成態様について 全体が,横長で板状の仕切り壁を4つ連結して平面視略ロ字状に形成されたものであり,正面には扉部が表されている。 また,具体的態様として,以下の点が認められる。 (2)具体的態様について ア 仕切り壁の態様について ア-1 仕切り壁の外形形状 仕切り壁の外形形状は4つ共に同形同大の略角丸横長長方形状であって,縦と横の長さの比が約1:2であり,上側の角部の方が下側の角部よりも丸みが大きい。 ア-2 仕切り壁の外側の態様 外側から見て,仕切り壁の周縁寄りに破線状のステッチが全周に亘って表されている。 ア-3 仕切り壁の内側の態様 内側から見て,仕切り壁の周縁寄りに突設した縫い代が全周に亘って表されている。正面を除く仕切り壁の上端寄りに表された縫い代の左側直下には略短冊状の面ファスナーが配されており,右側直下には略袋状の面ファスナーが配されている。 イ 扉部の態様について 扉部は,正面の仕切り壁の略中央から右に向けて,略角丸コ字状の切れ込みとして形成されており,その切れ込みにはスライドファスナーが取り付けられている。 ウ 目隠しについて 連結した仕切り壁の下隅に,略三角形状の目隠しが配されている。 2 イ号意匠 請求人は,イ号意匠の形態を特定するにあたり,判定請求書において「イ号図面及びその説明書」(別紙第3参照)を提出した。 その説明書の記載によれば,イ号意匠の意匠に係る物品は「間仕切り本体」である。 なお,その間仕切り本体は,平成26年6月に被請求人が発行・頒布したリーフレット(甲第3号証。別紙第4参照。)によれば,災害時のプライバシー確保に用いられる「ベンリー間仕切り(品番BM-3)」のうち,付属品である屋根やアルミマットなどを除いたものであり,リーフレットの【組立方法】の記載から,屋根やアルミマットは必要に応じて使用されるとしたものである。 イ号意匠の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。 (1)基本的構成態様について 全体が,横長で板状の仕切り壁を4つ連結して平面視略ロ字状に形成されたものであり,正面には扉部が表されている。 また,具体的態様として,以下の点が認められる。 (2)具体的態様について ア 仕切り壁の態様について ア-1 仕切り壁の外形形状 向かい合う正面側と背面側の仕切り壁の外形形状は同形同大で,横長長方形の上辺が略山形状に膨らんだ略角丸五角形状であって,縦と横の長さの比が約2:3であり,略山形状上辺の両端の角部の方が下側の角部よりも丸みが大きく,斜め上方に立ち上がっている。 また,向かい合う左側面側と右側面側の仕切り壁の外形形状は同形同大の略角丸横長長方形状であって,縦と横の長さの比が約1:1.8であり,上側の角部の方が下側の角部よりも丸みが大きい。 ア-2 仕切り壁の外側の態様 外側から見て,仕切り壁の周縁寄りに破線状のステッチが全周に亘って表されている。 イ 扉部の態様について 扉部は,正面の仕切り壁の略中央から右に向けて,上辺が仕切り壁の上辺に沿って膨らんだ略角丸コ字状の切れ込みとして形成されており,その切れ込みにはスライドファスナーが取り付けられている。 ウ 目隠しについて 連結した仕切り壁の上隅及び下隅に,略三角形状の目隠しが配されている。 3 本件登録意匠とイ号意匠の対比 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠は,災害時に避難所で用いられる屋根のない「パーティション」であり,イ号意匠も,災害時のプライバシー確保に用いられる「間仕切り本体」であるので,本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は共通する。 (2)両意匠の形態 両意匠の形態を対比すると,主として,以下の共通点と差異点が認められる。 ア 共通点 両意匠には,基本的構成態様として,以下の共通点が認められる。 (A)基本的構成態様についての共通点 全体が,横長で板状の仕切り壁を4つ連結して平面視略ロ字状に形成されたものであり,正面には扉部が表されている。 また,具体的態様として,以下の共通点が認められる。 (B)仕切り壁の態様について (B-1)仕切り壁 仕切り壁の外形形状は4つ共に横長状であって,上側の角部の方が下側の角部よりも丸みが大きい。そして,向かい合う正面側と背面側の仕切り壁の外形形状は同形同大であり,向かい合う左側面側と右側面側の仕切り壁の外形形状は,同形同大の略角丸横長長方形状である。 (B-2)仕切り壁の外側の態様 外側から見て,仕切り壁の周縁寄りに破線状のステッチが全周に亘って表されている。 (C)扉部の態様について 扉部は,正面の仕切り壁の略中央から右に向けて,略角丸コ字状の切れ込みとして形成されており,その切れ込みにはスライドファスナーが取り付けられている。 (D)目隠しについて 連結した仕切り壁の下隅に,略三角形状の目隠しが配されている。 イ 差異点 一方,両意匠には,具体的態様として,以下の差異点が認められる。 (a)仕切り壁の形状について (a-1)仕切り壁の外形形状 本件登録意匠では,仕切り壁の外形形状は4つ共に同形同大の略角丸横長長方形状であって,縦と横の長さの比が約1:2である。これに対して,イ号意匠では,向かい合う正面側と背面側の仕切り壁の外形形状と,向かい合う左側面側と右側面側の仕切り壁の外形形状は異なっており,前者は,横長長方形の上辺が略山形状に膨らんだ略角丸五角形状であって,縦と横の長さの比が約2:3であり,略山形状上辺の両端の角部が斜め上方に立ち上がっており,後者は,上辺が膨らんでいない略角丸横長長方形状であって,縦と横の長さの比が約1:1.8である。 (a-2)仕切り壁の内側 本件登録意匠では,内側から見て,仕切り壁の周縁寄りに突設した縫い代が全周に亘って表されており,正面を除く仕切り壁の上端寄りに表された縫い代の左側直下には略短冊状の面ファスナーが配され,右側直下には略袋状の面ファスナーが配されているが,イ号意匠では,そのような突設した縫い代や面ファスナーはない。 (b)扉部の形状について イ号意匠の扉部は,正面の仕切り壁の略中央から右に向けて,上辺が仕切り壁の上辺に沿って膨らんでいるのに対して,本件登録意匠の扉部の上辺は膨らんでいない。 (c)上隅の目隠しの有無 イ号意匠では,連結した仕切り壁の上隅にも,略三角形状の目隠しが配されているが,本件登録意匠では,上隅に目隠しは配されていない。 4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断 (1)意匠に係る物品 前記認定したとおり,両意匠の意匠に係る物品は共通する。 (2)形態の共通点の評価 両意匠の基本的構成態様の共通点(A),すなわち,「全体が,横長で板状の仕切り壁を4つ連結して平面視略ロ字状に形成されたものであり,正面には扉部が表され」た態様については,災害時に避難所で用いられる「パーティション」の物品分野の意匠において,本件登録意匠の出願前に公知となっていたということはできず,他には見られない本件登録意匠独自の態様であって看者に確たる美感を与えていることから,共通点(A)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。 また,共通点(B)で指摘した,4つ共に略角丸横長状であって上側の角部の方が下側の角部よりも丸みが大きく,周縁寄りに破線状のステッチが全周に亘って表された仕切り壁は,両意匠の特徴であって,看者が特に注意を惹くというべきであるから,共通点(B)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。 さらに,共通点(C)で指摘した,正面の仕切り壁の略中央から右に向けて略角丸コ字状の切れ込みとして形成され,その切れ込みにスライドファスナーを取り付けた扉部は,造形上の確たる美感を看者に与えるものであり,看者の目を強く惹くというべきであるから,共通点(C)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。 他方,連結した仕切り壁の下隅に略三角形状の目隠しが配されている共通点(D)については,その目隠しが両意匠の下部に位置しており,意匠全体に占める面積も小さいことから,看者が特段注目するとはいい難いので,共通点(D)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 (3)形態の差異点の評価 これに対して,具体的態様の差異点については,以下のように,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 まず,(a-1)仕切り壁の外形形状の差異のうち,イ号意匠において正面側と背面側の仕切り壁の上辺が略山形状に膨らんでいるという差異については,その膨らみがあっても縦と横の長さの比は約2:3であるから,仕切り壁が横長状である共通点に変更を加えるほどのものではないこと,及び周囲4方向を仕切り壁で囲み,対向する一方向の仕切り壁の上辺を略山形状に膨らませて略角丸五角形状とする意匠が,両意匠と同様に内部に人が入るテントの物品分野において本件登録意匠の出願前に既に見受けられる(甲第6号証。別紙第5参照。)ことから,看者がイ号意匠に見られる上辺の膨らみに対してのみ殊更注視するとはいい難く,両意匠を全体として観察した際に,両意匠を別異のものとして印象付けるには至らないというべきである。 また,看者は,イ号意匠において略山形状上辺の膨らみに連続している上辺両端の角部に対しても観察することとなり,その角部は斜め上方に立ち上がってはいるが大きな丸みを有しており,その丸みは本件登録意匠の上側の角部の丸みと同様であるから,(B-1)で指摘した上側の角部の共通性を損ねるものではなく,むしろイ号意匠では上側の角部の丸みが強調されているというべきであるから,この点に照らしても,イ号意匠の上辺の膨らみを本件登録意匠に対する差異として特に評価することはできない。 そして,左側面側と右側面側の仕切り壁の外形形状についても,縦と横の長さの比が約1:2である本件登録意匠と,同比が約1:1.8であるイ号意匠の差異は微差に止まり,共に略角丸横長長方形状である仕切り壁の外形形状の共通点に包摂される差異であるということができる。 したがって,差異点(a-1)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 なお,被請求人は,「本件登録意匠は『平面視略方形状である低い略角筒状』であるため外部から内部を簡単に覗けるのに対し,イ号意匠は仕切り壁面2面が略五角形であり,」「外部から内部を覗きにくくなっている。」と指摘するが,イ号意匠の正面側と背面側の仕切り壁については,上辺の中央付近が特に膨らんでおり,上辺の左端寄り及び右端寄りは側面側の仕切り壁の高さと同程度であるので,内部が覗き難くなっている位置は周囲4方向のうち正面中央付近と背面中央付近の二箇所のみであるというべきであるから,イ号意匠が本件登録意匠に比べて内部を覗き難くなっていることを強調する被請求人の指摘を首肯することはできない。 次に,(b)の扉部の形状についての差異は,イ号意匠の扉部の上辺に見られる膨らみの有無に関する差異であって,両意匠を全体として比較した際にはそれほど目立つ差異であるということはできず,また,仕切り壁の上辺に沿って膨らんでいる点は,本件登録意匠の扉部の上辺も仕切り壁の上辺に沿っていることから,むしろ共通点ともいうべきものであるから,看者がイ号意匠の扉部の上辺に対して,本件登録意匠との差異を決定付けるものとして特に注目するとはいい難いので,差異点(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 加えて,仕切り壁の内側の差異点(a-2)及び上隅の目隠しの有無の差異点(c)については,仕切り壁の内側は目立たない部位であって,上隅の目隠しも意匠全体に占める面積が小さいことから,どちらも両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 (4)小括 したがって,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,両意匠の形態においても,共通点は,看者に対して視覚を通じて確たる美感を与え,両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものと認められるのに対して,差異点は,いずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さく,共通点が看者に与える美感を覆して,両意匠を別異のものと印象付けるほどのものとはいえないから,イ号意匠は,本件登録意匠に類似するものと認められる。 第4 むすび 以上のとおりであって,イ号意匠,すなわち,イ号図面及びその説明書に示す意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2015-07-06 |
出願番号 | 意願2004-12160(D2004-12160) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
YA
(D2)
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最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
斉藤 孝恵 |
特許庁審判官 |
正田 毅 小林 裕和 |
登録日 | 2004-12-17 |
登録番号 | 意匠登録第1229547号(D1229547) |
代理人 | 永田 貴久 |
代理人 | 江原 望 |
代理人 | 神澤 淳子 |
代理人 | 中村 訓 |