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審決分類 審判    B5
管理番号 1306437 
審判番号 無効2014-880006
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-05-27 
確定日 2015-09-24 
意匠に係る物品 深靴 
事件の表示 上記当事者間の登録第1486917号「深靴」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第1486917号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立及び理由
請求人は,「登録第1486917号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第4号証の書証を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
登録第1486917号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)は,その出願日前に販売され(甲第1号証),公然知られた意匠またはそれに類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第1号または第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。(無効理由1)
また,本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠(甲第3号証)に類似する意匠であり,同法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。(無効理由2)

2.本件登録意匠を無効とすべき理由
(1)本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は,意匠登録第1486917号の意匠公報に記載のとおり,意匠に係る物品を「深靴」とし,その形態は,基本的構成態様が以下の通りである。なお,ここで「深靴」とは,履き口の高さが踵より上に位置する靴であって,また,足の踵部分がつま先部分よりも高い位置になるように横V字形状の上げ底(ウェッジソール)になっており,それに対応する外観形状となっている靴をいうと解される。
(A)足首付近から下の足を収容し,履口部を有する靴本体部と,靴本体部の下部に配置した底面が平坦な靴底部とから構成される深靴である。
(B)履き口部からつま先に向かって略U字状の開口部を形成し,その周縁に穿った複数の穴を紐で緊締する緊締部に加えて,履口部から靴底部へと略垂直に延びるジッパーが内側及び外側の両側面にそれぞれ設けられており,このジッパーの務歯は,両側面において,一方の列は略垂直に延び,他方の列は中央付近から分岐して,背面を通って反対側の面の務歯の列と繋がるように設けられている。
(C)靴本体部全体に縁取りや略等間隔のステッチが施されている。
そして,各部の具体的態様は,以下の通りである。
(D)緊締部は,略U字状の開口部の周縁に沿って帯状の縁を形成して,その縁部に等間隔に穿った穴に紐を左右交互に通し,緊締部の内側に甲当て部(タン)を取り付け,このタンの上端が緊締部の縁部の上端とほぼ同じ高さになるように構成されている。
(E)補強シートが,つま先から土踏まずのやや前方まで周側を取り巻くように帯状に形成され,且つ側面視で,補強シートの周側の端部が緊締部の縁部と交わるように上方に延びているとともに,補強シートの端部が甲前方から土踏まずへの斜めの方向にカットされており,この補強シートと緊締部の縁部前方とに囲まれた部分には,平面視,2本の直線のステッチが施されており,且つ緊締部の縁部によって遮断されたステッチがその内側及び外側にそれぞれ1本ずつ施されている。また,補強シートの内側周縁に沿って二列のステッチが施されており,このステッチの周側両端は,緊締部の縁部前方を横断して施されたステッチと繋がるように構成されている。
(F)足のつま先部分に相当する靴の形状は,平面視では略U字状で,側面視では,緊締部の縁部前方から補強シートまでの部分がなだらかに傾斜しており,補強シートの部分は丸みを帯びて構成されている。
(G)左右の側面視,靴本体部の内側及び外側の両側面部における緊締部縁部と,補強シート周側端部と,ジッパーとに囲まれた部分に,4本の直線のステッチが,補強シートの周側端部に沿って施された2列のステッチと平行に,斜め方向に施されている。また,当該部分のジッパー側の縁部には,ジッパーに沿って垂直に2列のステッチが施されており,この2列のステッチは,緊締部の縁部においても,ジッパーに沿ってその上端まで繋がって施されている。更に,この緊締部の縁部の2列のステッチに平行して,さらに1列のステッチがその内側に施されており,この更なるステッチは,当該部分の4本のステッチの内の最も上方のステッチと繋がるように構成されている。
(H)靴本体部において,内側,外側間で繋がるアーチ状のジッパーの務歯の列と靴底部との間の部分に,2本のステッチが当該アーチ状のジッパーの務歯の列と平行になるように,略等間隔に施されているとともに,当該部分のジッパー側の縁部には周縁に沿って2列のステッチが施されている。また,当該部分の背面の中央部に1本の直線のステッチが縦方向に施されている。
(I)緊締部の縁部には靴紐を通す穴が左右8列,計16個設けられている。
(J)左右の側面視,靴本体部の内側及び外側の両側面に略半分まで開いた状態のジッパーがそれぞれ設けられ,両側面のジッパーにおいて,一方の務歯の列は,履口部における緊締部縁部の外側端の位置から靴底部まで略垂直に延びており,他方の務歯の列は,靴底部から靴本体部の中央付近までは一方の務歯の列と噛み合っているが,この中央付近で分岐し,背面を通って反対側の面のジッパーの務歯の列とアーチ状に繋がっており,ジッパーの持ち手は金属調のスライダーと緊締部縁部及び補強シートと同質感の引き手部材を組み合わせて構成されている。
(K)ジッパーが開いた部分,すなわち,略垂直に延びる務歯の列と,背面を通って両側面で繋がる務歯の列と,履口部縁部とに囲まれた部分には,等間隔の2本の略水平方向のステッチが施され,これによって3段のリブ形状が形成されている。
(L)側面視,靴本体部の略中央の高さの位置が最も後方に出ており,この最後方位置から靴底部の方向へは直線形状に形成され,最後方位置から履口部の方向へは湾曲形状に形成されており,この湾曲形状は,外側に向かって凹状に湾曲した形状である。
(M)背面視,靴本体部の略中央の高さの位置が最も幅が大きく,この最大幅位置から靴底部に向かって,幅が約5分の4に挟まるようにテーパー状に構成されている。
(N)靴底部の側面には全周に亘ってステッチが施された溝が設けられており,側面視,靴底部は,補強シートのつま先部分の高さと同じ程度の一定の厚さを有している。
(O)底面視,靴底部の表面形状は,左右にジグザグに延びる約50本のライン状の溝から構成されている。
(2)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
(2-1)甲第1号証で示される販売された先行意匠について
甲第1号証は,本件意匠権者である株式会社アクセスが,平成26年3月13日付けで大阪地方裁判所に提訴した意匠権侵害差止等請求事件において,平成26年5月9日付けで提出した「訴えの変更申立書」及びそれに添付した「写真撮影報告書」(当該訴訟の甲第10号証)である。
甲第2号証は,本件意匠権者である株式会社アクセスが,上記意匠権侵害差止め請求事件において,平成26年3月13日付けで大阪地方裁判所に提出した訴状である。
甲第3号証は,前記訴状を受けて本件審判請求人代理人が,本件登録意匠の実施品たるインヒールスニーカーが本件登録意匠の出願日前の平成25年4月から実際に本件意匠権者によって販売されていたのかを調査し,その結果,発見したものである。
甲第4号証は,本件意匠権者である株式会社アクセスのブランドの1つである「Venti Anni」のウェブサイトをプリントアウトしたものである。
(2-2)甲第3号証の掲載画像に示される先行意匠について
甲第3号証のウェブページにそれぞれ掲載されている画像自体は,靴の斜視図及び一方の側面図のみであり,靴の内側側面,背面及び底面については示されていない。よって,この画像のみから認識される意匠について,本件登録意匠との対比を行うこととする。
(3)甲第1号証に示される先行意匠の同一性と類似性(無効理由1)
(i)本件登録意匠と先行意匠との対比
意匠に係る物品は,両意匠ともに「深靴」に関するものであり,同一の物品である。
また,その形態について,基本的構成態様も,各部の具体的態様も,全ての点で共通し,相違はない。
(ii)本件登録意匠と先行意匠との同一性と類似性
本件登録意匠は,甲第1号証から甲第4号証で示される通り,本件意匠出願前に本件意匠権者によって本件登録意匠の実施品が販売され,守秘義務のない一消費者もその実施品の販売の事実を知っていたため,その形態は公知となっていたことは明らかである。また,仮に相違点があったとしても,意匠の同一性に影響を与えないような微細な差に留まる。
(iii)小括
よって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号又は第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである(無効理由1)。なお,本件登録意匠は,新規性喪失の例外規定の適用を受ける手続きが行われていないことを確認的に申し述べる。
(4)甲第3号証の掲載画像に示される先行意匠との類似性(無効理由2)
(i)本件登録意匠と先行意匠との対比及び類否
意匠に係る物品は,両意匠ともに「深靴」に関するものであり,同一の物品である。
その形態については,共通点と差異点が認められ,両意匠を意匠全体として観察した場合,両意匠間の共通点は,相違点を遙かに凌駕しており,見る者に共通の印象を強く与えているものである。
したがって,本件登録意匠と,甲第3号証に示す出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠は,意匠に係る物品が一致し,その形態についても,類否判断を決定付けているところにおいて共通しているから,両意匠は類似するものである。
(ii)小括
よって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項第1号に該当し,無効とすべきである(無効理由2)。

3.むすび
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第1号または同法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し,無効とすべきである。

4.証拠方法
(1)甲第1号証 意匠権侵害差止等請求事件における訴えの変更申立書(写し)及び写真撮影報告書(写し)
(2)甲第2号証 意匠権侵害差止等請求事件の訴状(写し)
(3)甲第3号証 楽天市場内のショップ「ギャルガールズ」の商品「デザインジッパー6cmインヒールスニーカー」のウェブページの印刷物(写し)
(4)甲第4号証 株式会社アクセスのウェブサイトの印刷物(写し)


第2 被請求人の答弁及び理由
特許庁より,被請求人に審判請求書を送付し,期間を指定して答弁書の提出を求めたが,請求人の申立及び理由に対して,被請求人からの応答はなかった。


第3 当審の無効理由通知
本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の意匠(以下,「引用意匠」という。)に類似するものと認められるので,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠(先行の公知意匠に類似するため,意匠登録を受けることのできない意匠)に該当し,意匠登録を受けることができないものである,として,平成27年(2015年)5月7日付け無効理由通知を送付した。そして下記のとおり,付記した。

引用意匠(別紙第2参照)
インターネットアーカイブ Wayback Machineで記録,提供されている情報によれば,平成25年(2013年)5月1日に公開されていた,株式会社アクセスのホームページであるVentiAnniヴェンティアンニ公式ブランドサイト(甲第4号証)に掲載された「スニーカー」(商品番号13M10511-2のデザインジッパーインヒールスニーカー)の意匠。
http://archive.org/web/
http://ventianni.com/goods_ja_jpy_183.html

本件登録意匠の右側面図は左側面図とほぼ同様の形状であり,上記引用意匠には,背面及び右側面の形状や底面形状が現されていないものではあるが,この種の靴の分野においては,靴の両側面は通常同様のデザインがなされることが普通であり,また,背面についてもジッパーが右側面側にそのまま続くと考える方が自然であることから,上記引用意匠においても,右側面の形状が左側面の形状とほぼ同様の形状であると推認できるところ,本件登録意匠は,その正面側及び左側面側の形状の共通点が看者に強い印象を与えるので,上記引用意匠に表された意匠と類似し,本件登録意匠は,その出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものと認められるので,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するため,意匠登録を受けることができない。


第4 被請求人の応答
特許庁より,請求人及び被請求人に無効理由通知を送付し,期間を指定して意見書の提出を求めた。
これに対して,被請求人からは応答がなかった。


第5 請求人が提出した意見書
請求人は,無効理由通知に対して平成27年(2015年)6月10日付けの意見書を提出し,以下のように主張した。
被請求人が本件登録意匠をその出願前に公然に販売していたことは,被請求人自身が,平成26年3月13日付で大阪地方裁判所に提訴した意匠権侵害差止等請求事件の訴状(甲第2号証)や,更に平成26年5月9日付で提出した訴えの変更申立書(甲第1号証)において,自発的に繰り返し認めている。今回引用されたウェイバックマシンに記録された情報は,それを客観的に裏付けるものであると思料する。
なお,請求人が審判請求書とともに提出した甲第3号証も同様に請求人が出願前に公然に販売していたことを客観的に裏付けるものであり,この甲第3号証は,インターネット画像の保全措置に関する事実実験公正証書にしている。
また,当該引用意匠には,背面及び右側面の形状や底面形状が現されていないが,その正面側及び左側面側の形状の共通点であるジッパーの形状が看者に強い印象を与えることから,本件登録意匠は,当該引用意匠に類似するものに他ならないものであると思料する。
被請求人である株式会社アクセスの代表取締役である本件登録意匠の創作者は,上記訴訟において甲第11号証として陳述書を提出し(意見書において甲第5号証として提出),本件登録意匠は,韓国のOLLIE(オリー)社から提案を受けた約10種類の靴のうちの一つであり,「弊社とOLLIEとの協議のうえ,OLLIEから示された原型のスニーカーの素材や色を変更し,タンを短くし,靴の木型を日本人の足の形に合うように修正するなど,日本市場向けの細かいアレンジ,手直し,微調整を行いました」というものであること,及び「弊社が,数ある靴の形状の中からトレンドに合わせて選び出し,日本市場向けにアレンジ・手直しをし,テストマーケティングを実施するなどの経過を経て,日本市場に導入したもので,単に海外の製品をそのままそっくり日本市場に導入した訳ではありません」というものであることを自発的に認めている。

証拠方法
甲第5号証 (被請求人が平成26年3月13日付けで大阪地方裁判所に提訴した意匠権侵害差止等請求事件の甲第11号証,被請求人が大阪地方裁判所に提出した)平成26年6月20日付け陳述書


第6 当審の判断
当審は,無効理由通知に示したとおり,本件登録意匠は,本件登録意匠の出願前に日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である引用意匠と類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定に該当することにより意匠登録を受けることができないものであると判断する。その理由は,以下のとおりである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1486917号の意匠)は,平成25年(2013年)5月9日に意匠登録出願され,平成25年(2013年)11月22日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「深靴」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付された写真に現されたとおりのものである。(別紙第1参照)
すなわち,本件登録意匠は,側面に装飾としてジッパー部(以下,「ジッパー部」という。)を配置し,踵部分がつま先部分より上げ底となっている,履き口が踝より上にある深靴であり,左右対称のものの一対のうち,左足用の一方のみを表したものである。
その形態は,踵から踝付近までを包む靴本体部(以下,「本体部」という。)と平板状の靴底部とから構成され,靴本体部の甲部に紐による略U字状の緊締部を設け,緊締部の内側には,甲当て部となる舌片状部(以下,「舌片状部」という。)を設け,本体部の左右側面部に略Y字状に途中まで開いたジッパー部の飾りを配したものである。
ジッパー部は背面側の踵上部で左右が繋がっており,先端が尖った短冊状の引き手(以下,「引き手」という。)を左右側面部に設けている。
履き口部の側面部上端縁に,円弧状の浅い凹状部を設けている。
緊締部は,左右に小型円形状の紐通し用の鳩目穴を設け,縦に1列に8個ずつ,合計16個配している。
本体部の履き口付近から足首部にかけて,履き口部に沿うように水平方向に平行に3本のステッチを配し,踵側に背面側の約1/2の高さとそのジッパー部寄りの部分に,ジッパー部のカーブに沿って略ヘの字状に2本のステッチを配し,緊締部とジッパー部の垂直線で囲まれた略三角状部に等間隔に5本のステッチを斜状に配している。
つま先部の上面部に,緊締部の下方部にかかる略半月形状のステッチを設け,その内側に平面視水平方向に3本の平行なステッチを配している。
本体部の表面側は,つやのある白色で,内側はベージュがかった白色である。
靴底部の周側面の靴本体部寄りの部分に,水平方向にステッチを設けている。
靴底部の底面部に,直線的なジグザグ状の凹凸からなる波線模様を底面視垂直方向に等間隔に配しているものである。

2.引用意匠(別紙第2参照)
引用意匠は,インターネットアーカイブ Wayback Machineで記録,提供されている情報によれば,平成25年(2013年)5月1日に公開されていた,株式会社アクセスのホームページであるVentiAnniヴェンティアンニ公式ブランドサイト(甲第4号証)に掲載された「スニーカー」(商品番号13M10511-2のデザインジッパーインヒールスニーカー)の意匠である。
引用意匠の意匠に係る物品は,「スニーカー」であるが,本件登録意匠と同様に,踵部分がつま先部分より上げ底となっている,履き口が踝より上にある深靴であると認められる。
その形態は,同頁に掲載された写真に現されたとおりのものである。
すなわち,引用意匠は,側面にジッパーを装飾として配置し,踵部分がつま先部分より上げ底となっている,履き口が踝より上にある深靴であり,左右対称のものの一対のうち,右足用について側面形状を表したものである。
その形態は,踵から踝付近までを包む靴本体部と平板状の靴底部とから構成され,靴本体部の甲部に紐による略U字状の緊締部を設け,緊締部の内側には,甲当て部となる舌片状部を設け,本体部の右側面部に略Y字状に途中まで開いたジッパー部の飾りを配したものである。
ジッパー部は背面側の踵上部で背面まで繋がっており,先端が尖った短冊状の引き手を側面部に設けている。
履き口部の側面部上端縁に円弧状の浅い凹状部を設けている。
緊締部は,左右に小型円形状の紐通し用の鳩目穴を設け,縦に1列に8個ずつ,合計16個配している。
本体部の履き口付近から足首部にかけて,履き口部に沿うように水平方向に平行に3本のステッチを配し,踵側に背面側の約1/2の高さとそのジッパー部寄りの部分に,ジッパー部のカーブに沿って略ヘの字状に2本のステッチを配し,緊締部とジッパー部の垂直線で囲まれた略三角状部に等間隔に5本のステッチを斜状に配している。
つま先部の上面部に緊締部の下方部にかかる略半月形状のステッチを設け,その内側に平面視水平方向に3本の平行なステッチを配している。
本体部の表面側は,つやのある白色で,内側はベージュがかった白色である。
靴底部の周側面の靴本体部寄りの部分に水平方向にステッチを設けている。
靴底部の底面部の態様は不明である。

3.本件登録意匠と引用意匠(以下,「両意匠」という。)との対比
(1)意匠に係る物品
まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「深靴」であって,引用意匠は,「スニーカー」であるが,いずれも踵部分がつま先部分より上げ底となっている,履き口が踝より上にある深靴であるから,意匠に係る物品が共通する。
(2)形態における共通点
両意匠は,左右対称のものの一対のうち,片側のみを表したものである。(なお,本件登録意匠は左足用であり,引用意匠は右足用であるが,左右一対のうちの片側であるから,引用意匠の左足用も同様に現れるものとして,本件登録意匠に合わせて,両意匠の形態を対比することとする。)
両意匠には,
(a)踵から踝付近までを包む靴本体部と平板状の靴底部とから構成され,靴本体部の甲部に紐による略U字状の緊締部を設け,緊締部の内側には,甲当て部となる舌片状部を設け,本体部の側面部に略Y字状に途中まで開いたジッパー部の飾りを配したものである点,
(b)ジッパー部は背面側の踵上部で背面まで繋がっており,先端が尖った短冊状の引き手を側面部に設けている点,
(c)履き口部の側面部上端縁に円弧状の浅い凹状部を設けている点,
(d)緊締部は,左右に小型円形状の紐通し用の鳩目穴を設け,縦に1列に8個ずつ,合計16個配している点,
(e)本体部の履き口付近から足首部にかけて,履き口部に沿うように水平方向に平行に3本のステッチを配し,踵側に背面側の約1/2の高さとそのジッパー部寄りの部分に,ジッパー部のカーブに沿って略ヘの字状に2本のステッチを配し,緊締部とジッパー部の垂直線で囲まれた略三角状部に等間隔に5本のステッチを斜状に配している点,
(f)つま先部の上面部に緊締部の下方部にかかる略半月形状のステッチを設け,その内側に平面視水平方向に3本の平行なステッチを配している点,
(g)靴底部の周側面の靴本体部寄りの部分に水平方向にステッチを設けている点,
(h)本体部の表面側は,つやのある白色で,内側はベージュがかった白色である点,
において主に共通する。
(3)形態における差異点
一方,両意匠には,
(ア)本件登録意匠は,背面部,左右側面部,靴底部の底面部が全て視認できるのに対して,引用意匠は,平面部と甲側の正面と外側の側面である左側面部は視認できるが,背面部,右側面部,靴底部の底面部が視認できない点,
(イ)背面側の具体的態様について,本件登録意匠は,ジッパーが背面側の踵上部を通り反対側まで線対称に繋がっていて,その下方の2本のステッチも反対側まで線対称に繋がっているのに対して,引用意匠はジッパーやステッチが反対側まで繋がっているかどうか不明である点,
に主な差異が認められる。
(4)両意匠の類否判断
そこで検討するに,共通点の態様のうち,共通点(a)の踵から踝付近までを包む靴本体部と平板状の靴底部とから構成され,靴本体部の甲部に紐による略U字状の緊締部を設け,緊締部の内側には,甲当て部となる舌片状部を設け,本体部の側面部に略Y字状に途中まで開いたジッパー部の飾りを配したものである点は,両意匠の形態の骨格を成しており,需要者の注意を惹き易い全体構成に係るものであるから,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
また,共通点(b)のジッパー部は背面側の踵上部で背面まで繋がっており,先端が尖った短冊状の引き手を側面部に設けている点については,細かい共通点ではあるが,共通点(a)の全体構成と合わせて,両意匠に共通する印象を醸し出すものといえるから,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものといえる。
そして,共通点(c)の履き口部の側面部上端縁に円弧状の浅い凹状部を設けている点や,共通点(d)の緊締部に左右に小型円形状の紐通し用の鳩目穴を設け,縦に1列に8個ずつ,合計16個配している点,については,いずれも,ありふれた態様といえるものであって,目立つ特徴とはいえないが,履き口部の態様や緊締部の態様については,使用時に需要者の注意を惹く部分といえ,両意匠の類否判断に一定程度の影響を及ぼすものといえる。
また,共通点(e)ないし(g)についても,ステッチという表面の装飾的な破線模様としての共通点ではあるが,外側から観察した場合に見える範囲において,同様の位置にステッチが施されている点は,観察者の注意を惹き易い,目立つ部位における共通点といえるものであるから,両意匠の類否判断に影響を与えるものといえる。
さらに,共通点(h)についても,この種の物品を使用する使用者にとっては,色彩や材質には強い関心を払うところであるから,色彩や材質の共通する態様が,両意匠の共通感を高めるものといえるもので,両意匠の類否判断にある程度の影響を与えるものといえる。
そうすると,前記共通点(a)ないし(h)に係る態様は,それらが相乗して生じる視覚的な効果をも考慮すれば,需要者に共通の美感を強く起こさせ,両意匠の類否判断を決定付けるものである。
これに対し,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であって,両意匠の共通する美感を変更するまでのものとはいえない。
すなわち,差異点(ア)の引用意匠において,背面部,右側面部,靴底部の底面部が視認できない点については,この種の靴の物品分野において,左右側面部の態様は,同様に表される場合が多いことを考慮すれば,通常は,見えている側と見えない側が線対称となるように表されているものと推定できるものであり,たとえ,背面部や靴底部の底面部が異なる態様であったとしても,面積が限られた背面部や見えにくい底面部における部分的な差異といえるものであって,意匠全体から見た場合には,前記した共通点が醸し出す共通する印象に埋没してしまう程度の軽微な差異といえるものであるから,その差異が両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものとはいえない。
次に,差異点(イ)の背面側の具体的態様についても,ジッパー部の意匠全体に占める面積は小さく,微細な差異といえるものであって,意匠全体から見た場合には,前記した共通点が醸し出す共通する印象に埋没してしまう程度のものといえるから,たとえ,この部位の形状に差異があったとしても,その差異が両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものに過ぎない。
(5)小括
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても,前記各差異点を総合しても,その視覚に訴える意匠的効果としては,共通点が生じさせる効果の方が差異点のそれを凌駕し,意匠全体として需要者に共通の美感を起こさせるものであるから,両意匠の形態は類似する。

そうすると,本件登録意匠は,無効理由通知で示したとおり,本件意匠登録出願前に日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である引用意匠(別紙第2)に記載された意匠と類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号に該当することにより意匠登録を受けることができないものであると判断する。
よって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し,意匠登録を受けることができないものであるので,無効理由を有し,同法第48条第1項第1号に該当するものと認められる。


第7 むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,無効理由通知で示した引用意匠に表された意匠により,意匠法第3条第1項3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものであり,意匠法第48条第1項第1号の規定に該当するから,その登録を無効とすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
別掲


審理終結日 2015-07-23 
結審通知日 2015-07-27 
審決日 2015-08-10 
出願番号 意願2013-10242(D2013-10242) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (B5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 並木 文子 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 江塚 尚弘
斉藤 孝恵
登録日 2013-11-22 
登録番号 意匠登録第1486917号(D1486917) 
代理人 有原 幸一 
代理人 ▲吉▼川 俊雄 
代理人 森本 聡二 
代理人 奥山 尚一 

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