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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) G1
管理番号 1308369 
判定請求番号 判定2015-600025
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2016-01-29 
種別 判定 
判定請求日 2015-08-06 
確定日 2015-12-10 
意匠に係る物品 籾殻運搬用コンテナ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1306591号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠の図面及びその説明により示された「籾殻運搬用コンテナ」の意匠は,登録第1306591号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 本件判定請求の趣旨及びその理由

1 請求趣旨
本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は,登録第1306591号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める」と申立て,その理由として,要旨以下「2 請求理由」のとおりの主張をし,証拠方法として「3 添付物件」のとおり,甲第1号証ないし甲第5号証を提出した。

2 請求理由
本件判定請求の請求理由は,以下のとおりである。

(1)判定請求の必要性
請求人(笹川農機株式会社)は,本件判定請求に係る登録意匠「籾殻運搬用コンテナ」(甲第3号証,以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
本件判定被請求人(株式会社ケーエス製販。以下,「被請求人」という。)は,請求人と同種分野の製品を製造販売する会社である。
本件登録意匠の登録日以降,ここ最近になって,被請求人はイ号意匠(甲第1.2号証)の籾殻運搬用コンテナ(イ号物件)の販売を開始したが,請求人は,該イ号意匠のイ号物件は本件登録意匠の意匠権を侵害するものであるものと考えている。また,請求人の顧客からもイ号物件が本件判定請求人の製品であると混同したとの声も実際に寄せられている。
そこで,請求人は,以下のように特許庁の判定を求め,判定結果によっては,被請求人に警告状を送付する予定である。
以上の事情により,請求人は特許庁による判定を求める。

(2)本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成18年 6月16日(意願2006-15633)
拒絶査定 平成18年11月14日
拒絶査定不服審判請求 平成18年12月12日(不服2006-27969)
登録 平成19年 6月29日(登録第1306591号)

(3)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「籾殻運搬用コンテナ」とし,その形態の要旨を,次のとおりとする(甲第3号証参照)。
すなわち,

ア 基本的な構成態様は,甲第3号証の参考斜視図に示すように,全体が複数個の枠体と囲いシート体からなり,囲いシート体は該コンテナの籾殻用収納空間の上面部,左右の側面部,前面部及び後面部を囲んだ略直方体を成し,枠体は下に開口したコの字状を成す複数個の枠体が囲いシート体の長手方向に離間しながら配列し,囲いシート体の周囲を覆う柵のような外観を呈する。

イ 具体的な構成態様として,基本的な構成態様を形成した上記の囲いシート体と枠体とについてより具体的な外観・構造を以下に示す。
先ず,囲いシート体の後面部の中央線上,各側面部の前後2ヵ所,並びに上面部の中央位置には,それぞれ,籾殻を導入・排出したり,籾摺機等の導入ダクトを挿入したりするための開閉用ファスナーが設けられている。
一方,枠体と隣接する枠体との間には,X字状の連結機構(以下,「X字状リンク」と呼ぶ。)が設けられている。X字状リンクは一対のアームが互いに中心枢軸に枢着されている。ここで,各アームの各端部には回動ピンと筒体とが設けられ,隣接する枠体に接続されている。

以上のような構成のX字状リンクを採用するため,枠体同士を広げたり,畳んだりすることができる。

(4)イ号意匠の説明
イ号意匠は,本件登録意匠と同様,意匠に係る物品を「籾殻運搬用コンテナ」とし,その形態の要旨を,次のとおりとする(甲第1号証を参照)。
すなわち,

ア 基本的な構成態様は,甲第1号証の斜視図に示すように,全体が複数個の枠体と囲いシート体からなり,囲いシート体は該コンテナの籾殻用収納空間の上面部,左右の側面部,前面部及び後面部を囲んだ略直方体を成し,枠体は下に開口したコの字状を成す複数個の枠体が囲いシート体の長手方向に離間しながら配列し,囲いシート体の周囲を覆う柵のような外観を呈する。

イ 具体的な構成態様として,基本的な構成態様を形成した上記の囲いシート体と枠体とについてより具体的な外観・構造を以下に示す。
先ず,囲いシート体の後面部の中央線上,各側面部の前後2ヵ所,並びに上面部の中央位置には,それぞれ,籾殻を導入・排出したり,籾摺機等の導入ダクトを挿入したりするための開閉用ファスナーが設けられている。なお,上面部はメッシュ状の生地が採用されている。
一方,枠体と隣接する枠体との間には,X字状の連結機構(以下,「X字状リンク」と呼ぶ。)が設けられている。X字状リンクは一対のアームが互いに中心枢軸に枢着されている。ここで,各アームの各端部には回動ピンと筒体とが設けられ,隣接する枠体に接続されている。
イ号意匠にはさらに4つの補助アームから構成された菱形状の連結機構(以下,「菱形状リンク」と呼ぶ。)も追加されている。ここで,各補助アームの端部は回動ピンで連結され,そのうち枠体に近接する左右の回動ピンは枠体にも接続されている。また,各アームの中央にも回動ピンが配設され,この回動ピンはX字状リンクの各アームにも連結されている。

以上のような構成のX字状リンク及び菱形状リンクを採用するため,枠体同士を広げたり,畳んだりすることができる。

(5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明
ア 両意匠の共通点
(ア)両意匠は,意匠に係る物品が「籾殻運搬用コンテナ」で一致している。
(イ)基本的な構成態様において,囲いシート体の全体形状や寸法が共通しているのみならず,枠体の本数及び寸法や枠体の全体的な骨格等が共通している。
(ウ)具体的な構成態様において,囲いシート体の後面部の中央線上,各側面部の前後2ヵ所,並びに上面部の中央位置に略同寸法の開閉用ファスナーが配されている。
加えて,枠体同士を広げたり,畳んだりすることを可能にするX字状リンクの配設位置や寸法が極めて共通している。

イ 両意匠の差異点
(ア)囲いシート体の上面部が,本件登録意匠は,その生地が他の側面部同様の無地の生地が現されているのに対して,イ号意匠は,メッシュ状の生地が現されている。
(イ)枠体同士の連結機構として,本件登録意匠は,X字状リンクのみが現されているのに対して,イ号意匠は,X字状リンクに追加した菱形状リンクも現されている。

(6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明
ア 本件登録意匠に関する先行周辺意匠及び参考文献
公知資料1(甲第4号証) 意匠登録第1171099号公報 (発行日 平成15年4月21日)
参考文献1(甲第5号証) 意願2007-031010に係る願書及び拒絶理由通知書の写し

イ 本件登録意匠の要部
上記先行周辺意匠をもとに,本件登録意匠の創作の要点について述べれば,この種の物品における意匠上の創作の主たる対象は,枠体(特に,その連結機構)の構成態様にあることは明らかである。なぜならば,請求人が調査した範囲では過去の先行意匠の枠体にX字状リンクを現した籾殻運搬用コンテナは存在しなかったからである。
従って,本件登録意匠については,他に全く見られない枠体のX字状リンクの特有の形状及び使用時にこれを用いて枠体同士を広げたり,畳んだりするという機能上も重要な部分であるアームや回動ピンの態様が相俟って,本件登録意匠全体の基調を表出している。

ウ 本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに,
(ア)両意匠の共通点は,基本的な構成態様のみならず,具体的態様のうち,特に,本件登録意匠の要部である枠体のX字状リンクの全体形状,及びこのX字状リンクを構成するアームや回動ピンの寸法や位置等によって現される態様(枠体の組み態様)が共通しており,両意匠の類否の判断に極めて大きな影響を与えるものである。つまり,これらの共通点が,意匠全体の圧倒的な部分を占めるとともに需要者に対して視覚を通じてまとまった一つの美感を与えるといえる。
(イ)両意匠の差異点に係る上記a)については,イ号意匠の囲いシート体の上面部がメッシュ状の生地で現されているかどうかの点であるが,見方を変えれば,生地の一部を公知のメッシュ状の生地に変更しているに過ぎず,つまり特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。なお,請求人は,以前,本件登録意匠の変形例として,枠体の本数を変え,囲いシート体の上面部をメッシュ状の生地で現しただけの意匠登録出願(参考文献1)を行ったが,特許庁の審査において本件登録意匠に類似するとして拒絶査定になっていることにも留意されたい。
また,両意匠の差異点に係る上記(イ)については,同種製品の過去の他の先行意匠に全く見られず,かつ,機能上も重要なX字状リンクをそっくりそのまま採用し,補助的な菱形状リンクを付加しているに過ぎず,本件登録意匠の権利範囲を逃れるようとするためにこのような補助的部材を設けることは,この種の物品において常套的な手法であって,この点においても特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
(ウ)以上の認定,判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって,圧倒的な影響力を及ぼす共通点を凌駕しているものとはいえず,それらが纏まっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は,その結論を左右するまでには至らないものである。

3 添付物件
請求人は,本件判定請求の請求理由の証拠方法として,以下の添付物件を提出した。

(1)イ号意匠(甲第1号証)並びにその説明書(甲第2号証)
(2)本件意匠公報の写し(甲第3号証)
(3)先行周辺意匠(甲第4,5号証)


第2 被請求人の答弁

当合議体より,被請求人に判定請求書を送付し,期間を指定して答弁書の提出を求めたが,被請求人からの応答はなかった。


第3 当審の判断

1 意匠の認定
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は,平成18年(2006年)6月16日に意匠登録出願(意願2006-15633号)され,平成19年(2007年)6月29日に登録の設定(意匠登録第1306591号)がされたものであって,意匠に係る物品,及びその形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付された図面のとおりとしたものであり(別紙第1参照),具体的には以下のとおりのものと認められる。

1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,トラックの荷台上に載置され,籾摺機等の導入ダクトを上面部又は後面部の開閉用ファスナー部の開口部に挿入し,籾摺機等から導入ダクトを介して排送されてくる籾殻を囲いシート体により形成される収納空間内に詰入して運搬する際に用いられる「籾殻運搬用コンテナ」である。

2)形態
ア 基本的構成態様
枠体と囲いシート体で構成したものとし,全体を,底面を開放した正面視略横長直方体状とし,枠体を,左側面視略倒コ字状の棒体(以下,「倒コ字状棒体」という。)を左右方向に複数離間して配列し,隣合う略倒コ字状棒体を,複数の左右方向に伸縮可能な機構(以下,「伸縮機構部」という。)によって連結したものである。

イ 形態の具体的態様
(ア)略横長直方体状とした全体形状の縦幅(正面視縦の長さ):横幅(正面視横の長さ):奥行き幅(側面視横の長さ)の構成を,横幅が縦幅よりやや長く,奥行き幅が縦幅より僅かに短いものであり,
(イ)枠体は,
(イ-1)4本の略倒コ字状棒体を左右方向に等間隔に配列し,両側面側の略倒コ字状棒体の上下中央よりやや上方及びやや下方の位置に対向して設けられた二対の略筒状体に,側面視左右端部を下方に折り曲げられた棒体(以下,「側面棒体」という。)をそれぞれ1本ずつ計2本嵌挿し,左側面及び右側面を側面棒体によって上下に三分割したような態様として,
(イ-2)伸縮機構部を,中心部分を回転可能にねじ止めされた2本の平板状棒体から成る略X字状とし(以下,本件登録意匠の伸縮機構部を「X字状リンク部」という。),そのX字状リンク部を各略倒コ字状棒体の間の正面側及び背面側の上下略中央の位置に1つずつ配し,X字状リンク部の端部を,略倒コ字状棒体の正面側及び背面側の上寄り及び下寄りに1つずつ設けられた略筒状体(以下,「リンク部結合体」という。)に連結し,上寄りのリンク部結合体は固定して下寄りのリンク部結合体を上下にスライド可能としたものとし,
(ウ)囲いシート体は,
(ウ-1)全体を無地無模様とし,
(ウ-2)左側面の中央線上の1箇所,正面及び背面の左側面寄り及び右側面寄りのそれぞれ2箇所,並びに上面部の中央の1箇所に,それぞれ開閉用ファスナー部を設けた
ものである。

(2)イ号意匠
イ号意匠の意匠に係る物品,及びその形態は,請求人が判定請求書に添付した「イ号意匠並びにその説明書」の記載及び写真に現されたとおりのものであり(別紙第2参照),具体的には以下のとおりのものと認められる。

1)意匠に係る物品
イ号意匠の意匠に係る物品は,トラックの荷台上に載置され,籾摺機等の導入ダクトを上面部又は後面部の開閉用ファスナー部の開口部に挿入し,籾摺機等から導入ダクトを介して排送されてくる籾殻を囲いシート体により形成される収納空間内に詰入して運搬する際に用いられる「籾殻運搬用コンテナ」である。

2)形態
以下,イ号意匠の形態について,本件登録意匠の向きに合わせて認定する。

ア 基本的構成態様
枠体と囲いシート体で構成したものとし,全体を,底面を開放した正面視略横長直方体状とし,枠体を,倒コ字状棒体を左右方向に複数離間して配列し,隣合う略倒コ字状棒体を,複数の伸縮機構部によって連結したものである。

イ 形態の具体的態様
(ア)略横長直方体状とした全体形状の縦幅(正面視縦の長さ):横幅(正面視横の長さ):奥行き幅(側面視横の長さ)の構成を,横幅が縦幅よりやや長く,奥行き幅が縦幅より僅かに短いものであり,
(イ)枠体は,
(イ-1)4本の略倒コ字状棒体を左右方向に等間隔に配列し,両側面側の略倒コ字状棒体の上下中央よりやや上方及びやや下方の位置に対向して設けられた二対の略筒状体に,側面視左右端部を下方に折り曲げられた側面棒体をそれぞれ1本ずつ計2本嵌挿し,左側面及び右側面を側面棒体によって上下に三分割したような態様として,
(イ-2)伸縮機構部を,中心部分を回転可能にねじ止めされた2本の平板状棒体から成る略X字状部と,頂点部分が回転可能にねじ止めされた4本の平板状棒体から成る正方形を45度傾斜させた菱形状部を中心で重合させ,X字状部と菱形状部の各棒体が重なる交点をねじ止めして回動自在とした略格子状とし(以下,イ号意匠の伸縮機構部を「略格子状リンク部」という。),その略格子状リンク部を各略倒コ字状棒体の間の正面側及び背面側の上下略中央の位置に1つずつ配し,X字状部の端部を,略倒コ字状棒体の正面側及び背面側の上寄り及び下寄りに1つずつ設けられたリンク部結合体に連結し,上寄り及び下寄りのリンク部結合体ともに上下にスライド可能として,菱形状部の左右の端部を,略倒コ字状棒体の上下略中央の位置に固定したものとし,
(ウ)囲いシート体は,
(ウ-1)正面,背面,左側面及び右側面を無地無模様の白色シート生地,上面を緑色のメッシュ生地で構成し,
(ウ-2)左側面の中央線上の1箇所,正面及び背面の左側面寄り及び右側面寄りのそれぞれ2箇所,並びに上面部の中央の1箇所に,それぞれ開閉用ファスナー部を設け,
(ウ-3)正面,背面及び左側面のファスナー部を,細幅のファスナーカバー部によって隠した
ものである。

2 本件登録意匠とイ号意匠(以下,「両意匠」という。)との対比
(1)意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は,ともに,トラックの荷台上に載置され,籾摺機等の導入ダクトを上面部又は後面部の開閉用ファスナー部の開口部に挿入し,籾摺機等から導入ダクトを介して排送されてくる籾殻を囲いシート体により形成される収納空間内に詰入して運搬する際に用いられる「籾殻運搬用コンテナ」であるから,両意匠の意匠に係る物品は共通する。

(2)形態
1)形態の共通点
両意匠は,
(A)基本的構成態様を,枠体と囲いシート体で構成したものとし,全体を,底面を開放した正面視略横長直方体状とし,枠体を,倒コ字状棒体を左右方向に複数離間して配列し,隣合う略倒コ字状棒体を複数の伸縮機構部によって連結したものとした点,
(B)略横長直方体状とした全体形状の縦幅(正面視縦の長さ):横幅(正面視横の長さ):奥行き幅(側面視横の長さ)の構成を,横幅が縦幅よりやや長く,奥行き幅が縦幅より僅かに短い点,
(C)枠体について,4本の略倒コ字状棒体を左右方向に等間隔に配列し,両側面側の略倒コ字状棒体の上下中央よりやや上方及びやや下方の位置に設けられた二対の略筒状体に,側面視左右端部を下方に折り曲げられた側面棒体をそれぞれ1本ずつ計2本嵌挿し,左側面及び右側面を側面棒体によって上下に三分割したような態様とした点,
(D)囲いシート体について,左側面の中央線上の1箇所,正面及び背面の左側面寄り及び右側面寄りのそれぞれ2箇所,並びに上面部の中央の1箇所に,それぞれ開閉用ファスナー部を設けた点
が共通する。

2)形態の相違点
両意匠は,
(a)本件登録意匠は,伸縮機構部を,中心部分を回転可能にねじ止めされた2本の平板状棒体から成る略X字状とし,そのX字状リンク部を各略倒コ字状棒体の間の正面側及び背面側の上下略中央の位置に1つずつ配し,X字状リンク部の端部を,略倒コ字状棒体の正面側及び背面側の上寄り及び下寄りに1つずつ設けられたリンク部結合体に連結し,上寄りのリンク部結合体は固定して下寄りのリンク部結合体を上下にスライド可能としたものであるのに対し,イ号意匠は,リンク部を,中心部分を回転可能にねじ止めされた2本の平板状棒体から成る略X字状部と,頂点部分を回転可能にねじ止めされた4本の平板状棒体から成る正方形を45度傾斜させた菱形状部を中心で重合させ,X字状部と菱形状部の各棒体が重なる交点をねじ止めして回動自在とした略格子状とし,その略格子状リンク部を各略倒コ字状棒体の間の正面側及び背面側の上下略中央の位置に1つずつ配し,X字状部の端部を,略倒コ字状棒体の正面側及び背面側の上寄り及び下寄りに1つずつ設けられたリンク部結合体に連結し,上寄り及び下寄りのリンク部結合体ともに上下にスライド可能として,菱形状部の左右の端部を,略倒コ字状棒体の上下略中央の位置に固定したものである点,
(b)本件登録意匠は,囲いシート体に設けられたファスナー部が露出しているのに対し,イ号意匠は,正面,背面,及び左側面に設けられたファスナー部がファスナーカバー部によって隠されている点,
(c)本件登録意匠は,囲いシート体全体を無地無模様としているのに対し,イ号意匠は,正面,背面,左側面及び右側面を無地無模様の白色シート生地,上面を緑色のメッシュ生地で構成している点
が相違する。

3 類否判断
両意匠の意匠に係る物品は共通しているから,以下,両意匠の形態の共通点及び形態の相違点が類否判断に及ぼす影響を評価する。

(1)形態の共通点の評価
まず,共通点(A)は,両意匠の骨格を成す基本的構成態様の共通点であり,隣合う略倒コ字状棒体を複数の伸縮機構部によって連結した籾殻運搬用コンテナは,本件登録意匠の出願前には見受けられないものではあるものの,枠体と囲いシート体で構成し,全体を,底面を開放した正面視略横長直方体状とし,枠体を,倒コ字状棒体を左右方向に複数離間して配列した籾殻運搬用コンテナは,例えば,昭和60年(1985年)2月1日に発行された公開実用新案公報記載の昭60-15029【第1図】に表されたもみがら収納コンテナの意匠(参考意匠1:別紙第3)や,平成15年(2003年)4月21日に発行された意匠公報記載の意匠登録第1171099号の意匠(参考意匠2:別紙第4)に見られるように,本件登録意匠の出願前からすでにありふれたものであり,また,本件登録意匠はトラックの荷台上に載置されることを考慮すると,隣合う略倒コ字状棒体を複数の伸縮機構部によって連結したトラックの幌支持枠が,例えば平成6年(1994年)8月2日に発行された公開実用新案公報記載の実開平6-55831【図1】,【図2】に表された幌の支持枠の意匠(参考意匠3:別紙第5)に見られるように,本件登録意匠の出願前からすでに普通に存在していたことから,この共通点(A)が両意匠の類否判断に与える影響は一定程度に留まるものである。
そして,共通点(B)の,略横長直方体状とした全体形状の縦幅(正面視縦の長さ):横幅(正面視横の長さ):奥行き幅(側面視横の長さ)の構成を,横幅が縦幅よりやや長く,奥行き幅が縦幅より僅かに短い態様,共通点(C)の,複数本の略倒コ字状棒体を左右方向に等間隔に配列し,両側面側の略倒コ字状棒体の上下中央よりやや上方及びやや下方の位置に設けられた二対の略筒状体に,側面視左右端部を下方に折り曲げられた側面棒体をそれぞれ1本ずつ計2本嵌挿し,左側面及び右側面を側面棒体によって上下に三分割したような態様,及び共通点(D)の,左側面の中央線上の1箇所,正面及び背面の左側面寄り及び右側面寄りのそれぞれ2箇所,並びに上面部の中央の1箇所に,それぞれ開閉用ファスナー部を設けた囲いシート体の枠体は,例えば参考意匠2に見られるように,ほとんど同様の態様の籾殻運搬用コンテナの意匠が,本件登録意匠の出願前からすでに存在しており,これらの態様は本件登録意匠の固有の特徴ではないから,これらの共通点(B)ないし共通点(D)が両意匠の類否判断に与える影響も小さいものである。

(2)形態の相違点の評価
一方,相違点(a)については,イ号意匠の,伸縮機構部を,中心部分を回転可能にねじ止めされた2本の平板状棒体から成る略X字状部と,頂点部分を回転可能にねじ止めされた4本の平板状棒体から成る正方形を45度傾斜させた菱形状部を中心で重合させ,X字状部と菱形状部の各棒体が重なる交点をねじ止めして回動自在として略格子状とした形態は,籾殻運搬用コンテナの伸縮機構部の形態としては従来にない新規な形態であること,X字状リンク部が左右方向に3つ連続した本件登録意匠の態様が極めてシンプルな伸縮構造であり,2本の平板状棒体から成るX字状リンク部の態様と,両側面に設けられた各2本の側面棒体の態様とによってコンテナ周側面に一定の幅の帯状で形成されているような印象を看者に与えるのに対して,略格子状リンク部が左右方向に3つ連続したイ号意匠の態様は編み目のような複雑な伸縮構造であり,6本の平板状棒体から成る略格子状リンク部の態様は,両側面に設けられた各2本の側面棒体の態様とは各々独立して形成された印象を看者に与えていること,及びこの伸縮機構部は両意匠の最も看者の目を惹きやすい正面及び背面に表れていることから,この相違点(a)が両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きいものである。
また,相違点(c)の,上面を他の面と異なるメッシュ生地で構成しているか否かについては,使用時には目に触れにくい上面に表れた相違であって,籾殻運搬用コンテナを構成する囲いシート体の一部又は全部を通気性のあるメッシュ生地とすることは,籾殻運搬用コンテナが属する物品分野においてありふれた手法ではあるものの,この相違は両意匠の上面全面という広い範囲を占める相違であり,看者に異なる視覚的印象を与えるには十分なものであるから,この相違点(c)が両意匠の類否判断に与える影響も一定程度あるといえる。

しかし,相違点(b)の,正面,背面,及び左側面ファスナー部が露出しているか否かについては,イ号意匠のように囲いシート体に設けられたファスナー部がファスナーカバー部に隠されているとしても,ファスナーカバー部もファスナー部と略同一の長さで表れており,また,ファスナーを細幅のファスナーカバー部で覆って隠すことは,籾殻運搬用コンテナの属する分野に限らず広く見られる手法であってイ号意匠固有の特徴では無いから,この相違点(b)は,正面,背面,及び左側面の同じ位置に同じ長さのファスナー部が設けられているという両意匠の共通性に埋没する程度の相違といえ,この相違点(b)が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。

(3)総合判断
上記のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,また,形態の共通点がいくつか認められるものの,それらの形態の共通点はいずれも両意匠の類否判断に与える影響が小さいのに対して,特に形態の相違点(a)が両意匠の類否判断に与える影響は大きく,さらに形態の共通点及び相違点を総合的に評価しても,形態の相違点があいまって生じる視覚的効果が共通点のそれを凌駕しており,意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせていることから,イ号意匠は本件登録意匠に類似しない。


第4 むすび
以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2015-12-02 
出願番号 意願2006-15633(D2006-15633) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (G1)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 久保田 大輔
江塚 尚弘
登録日 2007-06-29 
登録番号 意匠登録第1306591号(D1306591) 
代理人 松浦 康次 

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