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審判番号(事件番号) データベース 権利
判定2015600027 審決 意匠

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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) C4
管理番号 1309611 
判定請求番号 判定2015-600016
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2016-02-26 
種別 判定 
判定請求日 2015-05-26 
確定日 2016-01-15 
意匠に係る物品 衛生用マスク 
事件の表示 上記当事者間の登録第1489581号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面代用写真及び説明書に示す「衛生用マスク」の意匠は,登録第1489581号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 請求の趣旨及び理由の要点
1 請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,
「イ号図面代用写真ならびにその説明書に示す意匠は,登録第1489581号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定を求める。」
と申し立て,その理由として,要旨以下のとおりの主張をした。
なお,イ号図面代用写真ならびにその説明書に示す意匠は,イ号意匠である。

2 判定請求の必要性
請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「衛生用マスク」(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。本件判定請求人は株式会社エアード(愛知県豊田市渋谷町1丁目3番地3)の取締役会長であり,同社は近く本件登録意匠を実施する。本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)が商標「シルキーマスクS95」として現在販売しているイ号意匠の衛生用マスク(イ号物件)は,本件登録意匠の意匠権を侵害するものである。

3 本件登録意匠の説明
本件登録意匠は,意匠に係る物品を「衛生用マスク」とし,その形態の要旨を,次のとおりとする(資料1参照)。
(1)基本的な構成態様は,ギャザー(以下「プリーツ」ともいう。)を備える立体型マスク本体と耳掛けで構成されている(一般社団法人日本衛生材料工業連合会の資料においては,家庭用マスクを立体型マスク,プリーツ型マスク,平型マスクに分類し,そして「立体型マスクは人間の顔の形に合わせてデザインされているため,隙間なくピッタリとフィットします。マスクと口元の間に空間ができるので,装着時の息苦しさや,しゃべりにくさが大幅に緩和されます。」と説明している。この立体型マスクは平面状態に開くことができない。)。
(2)具体的な構成態様は,ギャザーが,2段に設けられている。
また,頬接面ラインが緩やかな凹凸状の曲線になっている。
さらに,本件登録意匠を製造するために使用される材質は,熱可塑性樹脂のため,縫製は行わず熱圧着で製造する。このため,樹脂溶着痕が上部及び側面の周縁に2条に視認され,中央線に沿ってギャザーの下の付近まで1条の樹脂溶着痕が視認される(本件意匠「本願物品を開いた状態の参考斜視図を参照」)。

4 イ号意匠の説明
イ号意匠は,意匠に係る物品が「衛生用マスク」であり,その形態の要旨は,次のとおりである(資料2参照)。
(1)基本的な構成態様は,ギャザーを備える立体型マスク本体と耳掛けで構成されている。
(2)具体的な構成態様は,ギャザーを3段設けている。
また,頬接面ラインが緩やかな凸状の曲線になっている。
さらに,樹脂溶着痕は,すべて1条で構成され,中央線の溶着痕は,上記ギャザーの下から2段目の中央付近にまたがって視認される(資料1のイ号意匠【名称をつけた参考斜視図】を参照)。

5 本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)との比較説明
(1)両意匠の共通点
ア 両意匠は,意匠に係る物品が「衛生用マスク」で一致している。
イ 基本的な構成態様において,以下の点で共通している。
(ア)両意匠を構成する耳掛けは紐状であり,位置もほぼ同じである。
(イ)マスク本体は,ギャザーを備えた立体型マスクである。
(2)両意匠の差異点
ア 本件登録意匠は,ギャザーを2段備えている。一方,イ号意匠は, ギャザーを3段備えている。
イ 本件登録意匠は,点状の一連の溶着痕が意匠のマスク本体の上部及び頬接面ラインに沿って2条設けられている。一方,イ号意匠は,一連の溶着痕は全て1条で構成されている。
ウ 本件登録意匠は,中央部の溶着痕は,マスク本体の備える中央線の下部から上部方向にギャザーの手前まで一連となって存在する(資料1の正面図,背面図及び本物品を開いた状態の参考斜視図を参照)。一方,イ号意匠は,中央部の溶着痕は,マスク本体の下部から上方向に,3段あるギャザーのうちの真中のギャザーの一部まで一連となって存在する。
エ 本件登録意匠は,頬接面ラインが緩やかな凹凸状の曲線になっている。一方,イ号意匠は,頬接面ラインが緩やかな凸状の曲線になっている。

6 イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明(当審注:明らかな誤記は訂正した。)
(1)本件登録意匠に関する先行周辺意匠
ア 甲第3号証は,特開2012-105872号公報であり,本件登録意匠の出願時の先行意匠の図面の記載がある。この特許出願に係る衛生マスクは,基本的構成態様はプリーツを備える平型マスクに係る。
イ 甲第4号証は,意匠登録第1286754号の意匠公報であり,本件登録意匠の出願時の先行意匠である。この登録意匠は,意匠に係る物品は衛生用マスクであり,基本的構成態様はプリーツを備える平型マスクに係る。
ウ 甲第5号証は,意匠登録第1133664号の意匠公報であり,本件登録意匠の出願時の先行意匠である。この登録意匠は,意匠に係る物品は衛生用マスクであり,基本的構成態様は多数のプリーツを備える平型マスクに係る。
エ 甲第6号証は,意匠登録第1321720号の意匠公報であり,本件登録意匠の出願時の先行意匠である。この登録意匠は,意匠に係る物品は衛生用マスクであり,基本的構成態様は立体マスクに係る。
オ 甲第7号証は,意匠登録第1385258号の意匠公報であり,本件登録意匠の出願時の先行意匠である。この登録意匠は,意匠に係る物品は衛生用マスクであり,基本的構成態様はプリーツを備える折り畳み式マスクに係る。
(2)本件登録意匠の要部
上記先行周辺意匠には,ギャザーを備えていない立体型マスク,及びギャザーを備えた平型マスクは存在するが,本件出願時においては,ギャザーを備えた立体型マスクは存在しないものと思料する。上記先行周辺意匠をもとに本件登録意匠の創作の要点について述べれば,本件登録意匠の創作の主たる対象は,ギャザーを備えた立体型マスクである。
(3)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
そこで,本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに,
ア 両意匠の共通点は,基本的な構成態様に係るものであり,特に,本件登録意匠の要部であるギャザーを備えた立体型マスクからなる全体形状は,イ号意匠と要部が共通し,外観から生ずる美的思想が同一の範囲である。
イ 両意匠の差異点アについては,イ号意匠は3段のギャザー備えている。ギャザーを備えた立体意匠にふれる機会が少ない看者にとっては,ギャザーが2段であるか,または3段であるかの細部に注意をひかれることはなく,この両意匠の差異点は,特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
ウ 差異点イについては,溶着痕は同種の物品を作成する際に,必ず必要となるものであり,衛生マスクの製作において常套的な手法であって,その位置もほぼ同一のところに設けられるため,看者は溶着痕の差異に注意を向けることは少ない。この点においても特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
エ 差異点ウについては,一連の溶着痕の長さについては,本件登録意匠の要部ではないことから,この点においても特段顕著な相違といえず,類否の判断に与える影響は微弱である。
オ 差異点エについては,両意匠とも使用時に空気の漏れが無いように頬と衛生用マスク密着させるための機能に基づくものであり,頬接面ラインの差異は,微弱であり,看者が注意を向けることは少ない。
(4)以上の判断を前提として両意匠を全体的に考察すると,両意匠の差異点は,類否の判断に与える影響はいずれも微弱なものであって,共通点を凌駕しているものとはいえず,これら差異点がまとまっても両意匠の類否の判断に及ぼす影響は,その結論を左右するまでには至らないものである。

7 むすび
したがって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。

8 証拠方法
(1)検甲1号証 イ号物件が商標「シルキーマスクS95」として販
売されている実物である。
(2)甲第2号証 イ号物件の包装袋であり,被請求人の住所及び請求
人の氏名が記載されている。イ号物件を被請求人が
販売等していることを表している。
(3)甲第3号証 特開2012-105872 の写し
(4)甲第4号証 意匠登録第1286754号公報の写し
(5)甲第5号証 意匠登録第1133664号公報の写し
(6)甲第6号証 意匠登録第1321720号公報の写し
(7)甲第7号証 意匠登録第1385258号公報の写し


第2 被請求人の答弁の趣旨及び理由の要点
1 答弁の趣旨
被請求人は,
「イ号図面代用写真並びにその説明書に示す意匠は,登録1489581号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないとの判定を求める。」
と申し立て,その理由として要旨以下のとおりの主張をした。

2 被請求人による反論
請求人は,イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属すると主張するが,被請求人は,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれらに類似する意匠の範囲に属さないと考える。以下具体的に述べる。
(1)両意匠の共通点
ア 両意匠は,意匠に係る物品が「衛生用マスク」で一致している。
イ 両意匠を構成する耳掛けは紐状であり,位置もほぼ同じである。
ウ マスク本体は,ギャザーを備えた立体型マスクである。
これらは,請求人の認定と同様である。
(2)両意匠の差異点
ア 本件登録意匠は,ギャザーを2段備えている。一方,イ号意匠は,ギャザーを3段備えている。また,本件登録意匠の2段のギャザーはマスク本体の上部(鼻に対応する部分)に設けられており,マスク中央及び下部(口に対応する部分)には,ギャザーは配置されていない。一方,イ号意匠におけるギャザーは,マスク上部から,マスク中央及び下部近くまでギャザーが配置されており,口に対応する部分にギャザーが施されている。
イ 本件登録意匠は,点状の一連の溶着痕が意匠のマスク本体の上部及び頬接面ラインに沿って2条設けられている。一方,イ号意匠は,一連の溶着痕はすべて1条で構成されている。
ウ 本件登録意匠は,中央部の溶着痕は,マスク本体の備える中央線の下部から上部方向にギャザーの手前まで一連となって存在する(請求人から提出された資料1の【正面図】,【背面図】及び【本物品を開いた状態の参考斜視図】を参照)。一方,イ号意匠は,中央部の溶着痕は,マスク本体の下部から上方向に,3段あるギャザーのうちの真中のギャザーの一部まで一連となって存在する(請求人から提出されたイ号意匠の【正面図】として掲載された写真,および検甲第1号証(イ号物品)を参考)。
エ 本件登録意匠は,頬接面ラインが緩やかな凹凸状の曲線になっている。一方,イ号意匠は,頬接面ラインが緩やかな山状の曲線であり,凹凸部は存在しない。なお,請求人は,イ号意匠の頬接面ラインについて「凸状」と表現しているが,請求人から提出されたイ号意匠の【正面図】からも,頬接面ラインが凸部を有するとまでは言えないと考える。
オ 請求人は指摘していないが,本件登録意匠は,【意匠に係る物品の説明】に記載されているように,「本物品は外部から観察されないが,鼻接触部に鼻の形状に合わせて折り曲げることが可能な芯を備える。」とあり,鼻に対応する箇所に芯が備わっているようだが,イ号意匠には,明らかに芯が存在するとわかるように,鼻部が盛り上がっていることが把握できる(検甲第1号証を参照)。
カ 本件登録意匠は【正面図】および【背面図】から紐状の耳掛けが本体にそのまま接続されており,どのように接続されるのか不明である。一方,イ号意匠は,円形の溶着痕があり,しっかりと溶着されている印象を与える。
(3)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察
ア 基本的な構成態様は,両意匠にとって共通するものであるが,衛生用マスクは,成熟した物品の分野における製品の一つと考えられるため,具体的態様の差異について検討する。なお,本件登録意匠に関する先行周辺意匠は,次の通りである。
(ア)乙第1号証は,意匠登録1399471号公報であり,本件登録意匠の出願時の先行意匠であり,基本的構成態様は,プリーツを備える立体的マスクである。
(イ)乙第2号証は,意匠登録1302373号公報であり,本件登録意匠の出願時の先行意匠であり,基本的構成態様は,プリーツを備える平型マスクである。
イ ギャザーを備えた立体意匠にふれる機会が少ない看者にとっては,2段であるか,3段であるかは,大きな差異である。イ号意匠は,3段のギャザーのうち,下2段は伸縮しないギャザーであり,最上段のギャザーのみが伸縮する構成である。このように,伸縮しないギャザーを2段も設けたのは,不用意に縦方向に開きすぎてしまうのを防止しつつ,マスクの表面積を大きくして,捕集効率を上げ,息苦しさを緩和する効果を奏することを目的としている。立体マスクを使用する者にとって,息苦しさを緩和でき,捕集効率を上げる構成を含む要素は,重要であるため,ギャザーの数の差は,類否判断に影響を与えるというべきである。
さらに,ギャザーにおける差異は,ギャザーの数にとどまらない。請求人は指摘していないが,本件登録意匠のギャザーは,マスク上部(鼻に対応する部分)のみに施され,マスク中央部及び下部(ロに対応する部分)には施されていない。本件登録意匠の出願時における意匠は,請求人が提出した甲第3号証乃至甲第7号証にとどまらず,乙第1号証及び乙第2号証についても,上部から下部までギャザーが施されている。すなわち,本件登録意匠のマスク上部にのみある2段のギャザーは特徴的である。一方,イ号意匠は,例えば,検甲2号証のイ号物件の包装袋における使用状態を示す模式図からも明らかなように,着用者のロに対応する部分までギャザーがある。これは本件登録意匠の特徴的な部分とは異なるものである。したがって,このギャザーの数及びギャザーの配置される場所の差異は,類否の判断に与える影響は強いものであると思料する。
ウ 差異点イについて,溶着が1条であるか,2条であるかは,大きな違いである。請求人から提出した甲第4号証(意匠登録第1286745号)では,上下に2条の溶着痕があるが,本件登録意匠では,立体マスクの外周全体に2条になっている。これは,看者からすると,積層されたマスク本体部がしっかりと溶着されているような印象を与えるため,看者は,本件登録意匠を見た際に2条の溶着痕に目が奪われると思料する。また,請求人が提出した他の証拠にも,マスクの外周全体に2条の溶着痕があるものはなく,1条の溶着痕が一般的である。したがって,マスク周囲全体にわたる2条の溶着痕と,イ号意匠の1条の溶着痕の差異は,類否の判断に与える影響は強いものである。
エ 差異点ウについては,マスク中央部の溶着痕の長さについては,それほど特徴的とは言えないが,この溶着痕の終わる位置がギャザーまで到着しているか,本件登録意匠のように到着していないかで,ギャザーの数及び位置が異なるとの印象を看者に与える。すなわち,溶着痕の終わる位置がギャザーに到着している場合は,ギャザーがマスクの中央部から下部付近すなわち,ロ付近まで備えられていることを示すものであり,ギャザーに中央部の溶着痕が到着しない場合は,ギャザーの数が少ない,又はギャザーの配置がマスク上部にのみあることを,看者に強く印象付けるものである。
オ 差異点dについて,本件登録意匠は,その頬接面ラインが特徴的な凹凸状であるため,マスクの頬接部から埃や花粉が侵入するのを防ぐ構造になっているものと推測する。すなわち,本件登録意匠は,看者に埃等を防ぐ構造であると,看者に印象を与える。一方,イ号意匠は,頬接面ラインにおいて特徴的な凹凸がなく,ゆるやかな曲線である。これは,看者にとって,すっきりとしたマスクの印象を与える。したがって,この頬接面ラインの形状の違いは,本件登録意匠及びイ号意匠のそれぞれの【正面図】から明らかなように,看者にとって大きな印象を与える。また,本件登録意匠の【意匠の説明】においても,頬接面ラインにおける凹凸形状が示唆されており,本件登録意匠の特徴的な部分の一つであると考える。また,本件登録意匠では,紐状の耳掛けの端部の一つが,凹凸形状の凸部に接続されており,本件登録意匠の頬接面ラインの凸部を際立たせている。したがって,頬接面ラインの差異は,看者に大きな影響を与える。本件登録意匠のような特徴的な頬接円ラインを有するマスクは,請求人及び被請求人が提出した物件のいずれにも記載されていない。したがって,本件登録意匠の特徴的な凹凸を有する頬接面ラインは,特徴的な部分の一つである。したがって,この頬接面ラインは,看者にとって視覚を通じて注意をひきやすい特徴的部分であると考えられる。
カ 上記ア?オの差異を考慮し,さらに,「(2)両意匠の差異」における「オ(鼻の部分における芯の差異)」及び「カ(紐状の耳掛けの溶着痕の差異)」をも参酌しながら,両意匠全体を観察した場合,両意匠は全体的な美観を共通するものであるということは到底できず,本件登録意匠と,イ号意匠とは同一ではなく,非類似である。
(4)小括
このように,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に,イ号意匠は属しないというべきである。

3 むすび
したがって,被請求人は,イ号意匠は,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属しない旨の判定を求める。

4 証拠方法
(1)乙第1号証 意匠登録第1399471号公報の写し
(2)乙第2号証 意匠登録第1302373号公報の写し


第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1489581号)は,平成25年(2013年)7月2日に意匠登録出願され,平成26年(2014年)1月10日に意匠権の設定の登録がなされ,願書の記載によれば,意匠に係る物品を「衛生用マスク」とし,形態を,願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたものである(判定請求書に添付された資料1。別紙第1参照。)。
そして,願書の「意匠に係る物品の説明」の記載は次のとおりである。「本願物品は,素材が複数枚の熱可塑性樹脂からなる不織布であり,「完成前の本願物品の説明参考図」に示すように中心線で外側に折り曲げて,その後,一対の熱溶着部を熱溶着してなる。本物品を使用する際に開いた状態を「本物品を開いた状態の参考斜視図」に示す。本願物品は,ギャザーを備え,顔が小さい等の者はギャザーを使用することなく使用し(参照:ギャザーを広げないで使用したときの使用状態を示す参考図),顔が大きい又は鼻が高い者はギャザーを広げて使用する(参照:ギャザーを広げて使用したときの使用状態を示す参考図)。頬接面ラインは人間工学に基づき,外部空気を直接吸入しない独特のカーブを有する(参照:ギャザーを広げない状態で使用したときの使用状態を示す参考図,及びギャザーを広げた状態で使用したときの使用状態を示す参考図)。本物品は外部から観察されないが,鼻接触部に鼻の形状に合わせて折り曲げることが可能な芯を備える。」
本件登録意匠の形態(イ号意匠の向きに合わせて認定する。例えば,本件登録意匠の「背面図」を「正面図」として認定する。)には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。
(1)基本的構成態様について
全体が,左右対称の不織布を中央で折り曲げた本体と2つの耳掛けから成るものであり,本体の形状は,正面から見て略尖底壺状であって,その上半部に略水平状のひだ(ギャザー)が複数設けられて,上半部右方に耳掛けが取り付けられている。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(2)正面から見た具体的態様について
ア 本体の最大縦幅:最大横幅の比率は,約7:5である。
イ 本体の外形状について
本体の上部略1/3は略横長長方形状であり,中部から下部の略2/3にかけては略変形逆三角形状である。その略変形逆三角形状の左端はごく緩やかな長い弧状であり,右端には略弧状に膨出した部分(以下,単に「略弧状膨出部」という。)が上下に2つ表されている。先尖り状の底部の位置は本体中央横方向を約3:2に内分する位置である。
ウ ひだの個数及び形状並びに周囲の形状について
ひだは2つであって,上側のひだの角部は略直角状に表されており,下側のひだの角部は略鋭角状(略「∠」状)に表されている。そして,2つのひだの角部直下が右方にやや凹んでいるので,本体左端が略「フ」字状の段差が2つ形成されている。
エ 溶着痕の位置及び形状について
本体右端寄りには,上端寄りから下端にかけて,ごく小さな矩形状の溶着痕が2列形成されており,左端寄りには,中央部から下端にかけて,小さな矩形状の溶着痕が1列形成されている。また,上端付近にも,ごく小さな矩形状の溶着痕が2列形成されており,その列間はやや離れている。
オ 耳掛けの取付けの位置及び態様について
耳掛けは略環状であって,本体の右上角寄りと,右端寄りの上下方向中央やや上で,上側の略弧状膨出部の頂部位置に取り付けられている。また,平面から見ると,耳掛けの端部の厚みが漸次薄くなって,稜線が略凹弧状に表されている。

2 イ号意匠
請求人は,イ号意匠の形態を特定するにあたり,判定請求書に「資料2:イ号図面代用写真ならびに意匠の説明書」(別紙第2参照)を添付した。
前記「第1 4」の請求人の説明によれば,イ号意匠の意匠に係る物品は「衛生用マスク」であり,イ号意匠の形態には,基本的構成態様として,以下の点が認められる。
(1)基本的構成態様について
全体が,左右対称の布状のものを中央で折り曲げた本体と2つの耳掛けから成るものであり,本体の形状は,正面から見て左に傾いた略変形レモン形状であって,その中央部に略水平状のひだ(ギャザー)が複数設けられて,上半部右方に耳掛けが取り付けられている。
また,具体的態様として,以下の点が認められる。
(2)正面から見た具体的態様について
ア 本体の最大縦幅:最大横幅の比率は,約1:1である。
イ 本体の外形状について
本体の左上角部は略直角状であり,右上角部は略鈍角状である。本体の右端は緩やかな長い弧状であり,左端は,上部は略直線状であり,中部から下部の略5/8にかけては緩やかな長い弧状である。先尖り状の底部の位置は本体の右端寄りである。
ウ ひだの個数及び形状並びに周囲の形状について
ひだは3つであって,各ひだの角部は表されておらず,本体左端に段差は形成されていない。
エ 溶着痕の位置及び形状について
本体右端寄りには,上端から下端にかけて,ごく小さな略V字状の溶着痕が1列形成されており,左端寄りには,中央やや上で,上2つのひだの間の位置から,下端にかけて,ごく小さな略破線状の溶着痕が1列形成されている。また,上端付近にも,ごく小さな略倒V字状の溶着痕が1列形成されている。
オ 耳掛けの取付けの位置及び態様について
耳掛けは略環状であって,本体の右上角寄りと,右端寄りの上下方向中央やや上の位置に取り付けられている。また,耳掛けの終端には,耳掛けを付着した痕である略円形状の溶着痕が形成されている。

3 本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠は「衛生用マスク」であり,イ号意匠も「衛生用マスク」であるので,本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は同一である。
(2)形態の共通点
両意匠の形態には,以下の基本的構成態様の共通点が認められる。
(A)基本的構成態様の共通点
全体が,左右対称の布状のものを中央で折り曲げた本体と2つの耳掛けから成るものであり,本体には略水平状のひだ(ギャザー)が複数設けられて,上半部右方に耳掛けが取り付けられている。
また,正面から見て,以下の具体的態様の共通点が認められる。
(B)溶着痕の位置及び形状についての共通点
本体右端寄りのほとんどに,ごく小さな溶着痕が列状に形成されており,左端寄りには,ほぼ中央の位置から下端にかけて,溶着痕が1列形成されている。また,上端付近にも,ごく小さな溶着痕が列状に形成されている。
(C)耳掛けの取付けの位置及び態様についての共通点
耳掛けは略環状であって,本体の右上角寄りと,右端寄りの上下方向中央やや上の位置に取り付けられている。

(3)形態の差異点
一方,両意匠の形態には,正面から見て,以下の基本的構成態様の差異点が認められる。
(a)基本的構成態様の差異点
本件登録意匠の本体形状は略尖底壺状であって,ひだが本体の上半部に設けられているのに対して,イ号意匠の本体形状は左に傾いた略変形レモン形状であって,ひだは本体の中央部に設けられている。
また,正面から見て,以下の具体的態様の差異点が認められる。
(b)本体の比率についての差異点
本件登録意匠の本体の最大縦幅:最大横幅の比率が約7:5であるのに対して,イ号意匠のそれは約1:1である。
(c)本体の外形状についての差異点
本件登録意匠の本体の上部略1/3は略横長長方形状であり,中部から下部の略2/3にかけては略変形逆三角形状であって,その左端はごく緩やかな長い弧状であり,右端には略弧状膨出部が上下に2つ表されて,先尖り状の底部の位置は本体中央横方向を約3:2に内分する位置である。
これに対して,イ号意匠の本体の左上角部は略直角状であり,右上角部は略鈍角状であって,本体の右端は緩やかな長い弧状であり,左端の上部は略直線状で,中部から下部の略5/8にかけては緩やかな長い弧状で,先尖り状の底部の位置は本体の右端寄りである。
(d)ひだの個数及び形状並びに周囲の形状についての差異点
本件登録意匠のひだは2つであって,正面から見た上側のひだの角部は略直角状に表されて,下側のひだの角部は略鋭角状(略「∠」状)に表されており,2つのひだの角部直下が右方にやや凹んでいるので,本体左端が略「フ」字状の段差が2つ形成されている。
これに対して,イ号意匠のひだは3つであって,正面から見て各ひだの角部は表されておらず,本体左端に段差は形成されていない。
(e)溶着痕の位置及び形状についての差異点
本体右端寄りの溶着痕は,本件登録意匠では矩形状であって上端寄りから2列形成されているが,イ号意匠では略V字状であって上端から1列形成されている。また,左端寄りの溶着痕は,本件登録意匠では小さな矩形状であって中央部から形成されているが,イ号意匠ではごく小さな略破線状であって,中央やや上で,上2つのひだの間の位置から形成されている。さらに,上端寄りの溶着痕は,本件登録意匠では矩形状であって2列形成されており,その列間はやや離れているが,イ号意匠では略倒V字状であって1列形成されている。
(f)耳掛けの取付け態様についての差異点
本件登録意匠の耳掛けの端部は,平面から見ると厚みが漸次薄くなって,稜線が略凹弧状に表されている。
これに対して,イ号意匠の耳掛けの終端には,正面から見て耳掛けを付着した痕である略円形状の溶着痕が形成されている。

4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断
(1)衛生用マスクの物品分野の意匠の類否判断
鼻から口にかけて装着する衛生用マスクの通常の使用状態において,看者が衛生用マスクを観察するに当たっては,その衛生用マスクの正面方向及び背面方向(方向は前記の両意匠の認定に基づく。)から眺めることとなり,本体の外形状やひだの個数及び形状に特に注意を払うこととなる。したがって,衛生用マスクの物品分野の意匠の類否判断においては,上記の項目を特に評価し,かつそれ以外の項目も併せて,各項目を総合して意匠全体として形態を評価する。
(2)形態の共通点の評価
本件登録意匠とイ号意匠の基本的構成態様の共通点(A),すなわち,「全体が,左右対称の布状のものを中央で折り曲げた本体と2つの耳掛けから成るものであり,本体には略水平状のひだ(ギャザー)が複数設けられて,上半部右方に耳掛けが取り付けられている」態様については,本件登録意匠の先行周辺意匠である乙第1号証の意匠(別紙第3参照)により,本件登録意匠の出願前に公知であるから,両意匠にのみ見られる特徴とはいえず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいというべきである。
また,溶着痕の位置及び形状についての共通点(B)のうち,溶着痕が本体の正面視左端寄りにほぼ中央の位置から下端にかけて1列形成されている態様は,両意匠に共通して見られる特徴ではあるものの,前記2(2)エで認定したとおりイ号意匠の左端寄りの溶着痕はごく小さな略破線状であるから,目立つものであるとはいえず,左端寄りの溶着痕の位置と列数に関する共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。そして,両意匠の正面視本体右端寄りのほとんどと,本体上端付近にごく小さな溶着痕が列状に形成されている共通点については,衛生用マスクの物品分野の意匠においてはありふれた態様(例えば,乙第1号証の意匠。別紙第3参照。)であるから看者が特に目を惹くとはいい難いので,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
さらに,耳掛けの取付けの位置及び態様についての共通点(C)については,耳掛けが略環状であることはありふれており,本体の正面視右上角寄りと,右端寄りの上下方向中央やや上の位置に取り付けられている点も,看者が殊更その取付け位置に着目するとはいい難いので,共通点(C)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいといえる。
(3)形態の差異点の評価
これに対し,両意匠の基本的構成態様の差異点(a),すなわち,「正面から見て,本件登録意匠の本体形状は略尖底壺状であって,ひだが本体の上半部に設けられているのに対して,イ号意匠の本体形状は左に傾いた略変形レモン形状であって,ひだは本体の中央部に設けられている」点は,一見して把握できる両意匠の差異であって,本体の比率についての差異点(b)とあいまって,看者に異なる印象を与えるものであるというべきであるから,差異点(a)及び(b)が,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に,本体の外形状についての差異点(c)については,看者が衛生用マスクを観察するに当たっては,その衛生用マスクの正面方向及び背面方向から眺めることとなり,本体の外形状に特に注意を払うこととなるので,本体の上部略1/3が略横長長方形状であり,中部から下部の略2/3にかけてが略変形逆三角形状であって,右端には略弧状膨出部が上下に2つ表されて,先尖り状の底部の位置が本体中央横方向を約3:2に内分する位置である本件登録意匠の本体の外形状は,イ号意匠の本体の外形状とは異なる視覚的印象を看者に与えるというべきであるから,差異点(c)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
そして,ひだの個数及び形状並びに周囲の形状についての差異点(d)についても,同様に,看者はひだの個数及び形状に特に注意を払うこととなるので,正面から見た上側のひだの角部が略直角状に表されて,下側のひだの角部が略鋭角状(略「∠」状)に表された本件登録意匠の2つのひだの形状は,イ号意匠の3つのひだと比べて看者に異なる美感を起こさせるというべきであるから,差異点(d)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
このひだについて,請求人は,「本件出願時においては,ギャザーを備えた立体型マスクは存在しないものと思料する。上記先行周辺意匠をもとに本件登録意匠の創作の要点について述べれば,本件登録意匠の創作の主たる対象は,ギャザーを備えた立体型マスクである。」と指摘した上で,「本件登録意匠の要部であるギャザーを備えた立体型マスクからなる全体形状は,イ号意匠と要部が共通し,外観から生ずる美的思想が同一の範囲である。」と主張している。
しかし,人の顔に隙間なくピッタリとフィットするマスクにおいて,本件登録意匠とイ号意匠のようにひだを設けた意匠は,本件登録意匠の出願前に見受けられる(乙第1号証の意匠。別紙第3参照。)ことから,本件登録意匠のひだの存在をイ号意匠との比較において殊更強調する請求人の主張を採用することはできない。
一方,溶着痕の位置及び形状についての差異点(e)は,両意匠の溶着痕の大きさが小さいこと,及び衛生用マスクの物品分野の意匠において周縁寄りに溶着痕を設けた態様がありふれていることから,看者の注意を惹くには及ばず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。また,耳掛けの取付けの位置及び態様についての差異点(f)も,本件登録意匠に見られる耳掛け端部の凹弧状稜線や,イ号意匠の耳掛け終端の略円形状溶着痕の意匠全体に占める大きさが小さいことから,看者の注意を特に惹くということはできず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
(4)小括
したがって,これらの共通点と差異点を総合して判断すれば,本件登録意匠とイ号意匠とは,意匠に係る物品は同一であるが,形態については,共通点が類否判断に与える影響が限定的であるのに対して,差異点は両意匠を別異なものと印象付けるような大きな影響を及ぼすものであるから,両意匠は類似するとはいえない。


第4 むすび
以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって,結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2016-01-05 
出願番号 意願2013-14980(D2013-14980) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (C4)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 恭子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 小林 裕和
正田 毅
登録日 2014-01-10 
登録番号 意匠登録第1489581号(D1489581) 
代理人 特許業務法人パテントボックス 
代理人 早川 大刀夫 
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