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審決分類 |
審判 査定不服 2項容易に創作 取り消して登録 H7 |
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管理番号 | 1313090 |
審判番号 | 不服2015-17044 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-09-16 |
確定日 | 2016-03-15 |
意匠に係る物品 | 粘着シート切断装置用刃体 |
事件の表示 | 意願2014- 11088「粘着シート切断装置用刃体」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
第1 本願意匠 本願は,平成26年(2014年)5月23日に出願された,物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願であり,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付された図面によれば,意匠に係る物品を「粘着シート切断装置用刃体」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を願書及び願書に添付された図面に表されたとおりとしたものであって,「実線で表された部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分であり,一点鎖線は,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界線のみを示す線である。」としたものである(以下,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)。(別紙第1参照) 第2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,具体的には以下のとおりである。 本願意匠は,当該物品における正面側の下端から上端近傍に至る表面部分の形状及び模様に関する創作物であり,その基本的構成態様は,該部分の全域に微細な繊維を一様かつ高密度に植毛することによって,正面視微細な散点模様を呈するオイル保持体を形成して成るものと認められる。 しかしながら,この種物品の表面に微細な繊維を植毛することによってオイル保持体を形成する技術的考案についてはともかく,上記基本的構成態様は,下記文献等に見られる一般的な形状の切断刃の表面に静電植毛等の周知技術を用いて単に微細な繊維を一様に植毛しただけのものであって,表面の態様も月並みなものであることから,当業者であれば,本願意匠の構成態様は容易に想到し得るものと言わざるを得ない。 【意匠1】(別紙第2参照) 独立行政法人工業所有権情報・研修館が2009年10月16日に受け入れた 製本・紙工業用刃物 第3頁所載 製本機用刃の意匠 (特許庁意匠課公知資料番号第HC21015175号) 第3 請求人の主張の要旨 請求人は,要旨以下のとおり理由を述べ,本願意匠は登録すべきものである旨主張している。 通常,本願意匠のような切断刃は,刃体同士が摺接する際に円滑に刃が移動し,切断される対象物を正確に切断するために,刃体の表面が平滑であることが要求されるのが一般的である。 したがって,本願意匠のように,刃体の表面に植毛加工を施すことは,この種の物品の分野においては,切断刃に要求される本来の機能に反する行為であるから,本願意匠のように刃体の正面部の下辺から上辺近傍に至る表面部分の全域もの広い範囲に亘って植毛加工を施すことは,当業者であっても容易に想起し得ない。 そして,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分は,正面部の下辺から上辺近傍に至る表面部分の全域に微細な繊維を一様かつ高密度に植毛している部分になるが,刃全体として観察すると,意匠登録を受けようとする部分は,本物品の上辺近傍まで至っているものの,上辺までは達しておらず,該意匠登録を受けようとする部分の上部には僅かに金属面が露出した部分が設けられており,刃全体の該意匠登録を受けようとする部分とそれ以外の部分の位置,意匠登録を受けようとする部分の刃全体に対して占める割合は,本願意匠が粘着シート切断装置に取り付けられた際の動作に応じて工夫されたデザインであり,この種の物品の需要者であれば,粘着シート切断装置に本物品を装着し,作動した状態を想定して商品を選択することを考慮すれば,意匠登録を受けようとする部分であるオイル保持体の物品全体に対し,占める範囲や位置等は,注意深く観察するものと思料される。 また,一般的な静電植毛技術によって刃体の表面に静電植毛等の植毛加工を施すと,0.5mm前後もの植毛層と,植毛を接着するための接着層により,刃本体の厚みが増してしまうことから,本物品と対で使用される他方の刃体との摺接が円滑に行えず,装置内の作動に支障が生じるため,通常の静電植毛技術では,切断装置に設置可能な静電植毛等の植毛加工を施した切断刃は製作できず,刃体の表面に植毛加工を施すこと自体を当業者は容易に想起し得ない。 よって,本願意匠のような刃体表面の広い範囲にわたる植毛は,より薄いミクロン単位での植毛技術が要求されるため,いままでに本願意匠のような表面に植毛が施された切断刃は存在しない。 以上より,単に一般的な静電植毛技術自体が知られているからといって,刃体の表面に植毛加工された切断刃を当業者が容易に想到し得るものとは到底いえない。 したがって,刃体の表面の広い範囲にわたって植毛が施された本願意匠は,一般的な切断刃とは明らかに異なる斬新な商品であることを強く印象付けるものであり,本願意匠が拒絶理由通知に挙げられた公知意匠および静電植毛等の周知技術から容易に創作できた意匠とはいえない。 第4 当審の判断 1 意匠の認定 (1)本願意匠 1)意匠に係る物品 本願意匠の意匠に係る物品は,「粘着シート切断装置用刃体」である。 2)本願部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲 本願部分は,本願意匠の正面側の表面に,上端縁部付近に余地部を残して設けられたオイル保持体,及びそのオイル保持体に対応する正面側の表面部分であって,粘着性を持つシートを切断する時に,本物品と対で使用される他方の刃体がオイル保持体と摺接することで該他方の刃体にオイルを塗布し,ラベル用紙の粘着層の粘着剤やラベル用紙を切断したときに生じる紙粉等が該他方の刃体に付着するのを防止するためのものである。 3)本願部分の形態 ア 基本的構成態様 正面視略横長長方形状の表面(以下,「刃体表面」という。)にオイル保持体を一体的に形成したものである。 イ 具体的態様 (ア)刃体表面について, (ア-1)正面視左右下端部を隅丸状に形成し, (ア-2)正面視左右方向中央のやや下方寄りに円孔,正面視左寄りのやや下方寄りに前記円孔よりやや小さい円孔,正面視右よりのやや下方寄りに横長円孔を設け, (イ)オイル保持体については,微細な繊維体を刃体表面全体に植毛した ものである。 (2)意匠1 意匠1の認定にあたっては,本願意匠の図面の向きとあわせて,左右端部が角取りされた側を底面側として記載する。 意匠1の意匠に係る物品は,「製本機用刃」であり,引用意匠の本願部分に相当する部分(以下,「引用部分」という。)は,上端縁部付近に余地部を残した正面側表面部分であって,引用部分の基本的構成態様は,正面視略横長長方形状としたものとし,具体的態様を,刃体表面について,正面視左右下端部に45度の角取りを施し,2つの小円孔を上下に配した小円孔群を,正面視下方寄りに左端から右端にかけて複数配し,そのうち左右両端よりの2つの小円孔群は近接した4つの小円孔からなるものとしたものである。 2 創作非容易性の判断 以下,本願意匠が意匠法第3条第2項の規定に該当するか否か,すなわち,本願意匠が,この意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に創作することができたものであるか否かについて検討する。 物品の部分の意匠における創作容易性の判断については,当該部分の形態が,当該意匠登録出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものであるか否かを判断すると共に,当該部分の用途及び機能を考慮し,「意匠登録を受けようとする部分」を当該物品全体の形態の中において,その位置,大きさ及び範囲とすることが,当業者にとってありふれた手法であるか否かを判断することにより行うべきである。 そこで,まず本願部分の用途及び機能を考慮し,「意匠登録を受けようとする部分」を当該物品全体の形態の中において,その位置,大きさ及び範囲とすることが,当業者にとってありふれた手法であるか否かについて検討する。 本願部分は,前記1の(1)のとおり,粘着性を持つシートを切断する時に,ラベル用紙の粘着層の粘着剤やラベル用紙を切断したときに生じる紙粉等が他方の刃体に付着するのを防止する目的で,本物品と対で使用される他方の刃体が本物品のオイル保持体と摺接することでその他方の刃体にオイルを塗布するために,オイル保持体を刃体の正面側の表面に上端縁部付近に余地部を残して設けたというものである。 従来,ロール状の紙加工物を切断する装置における,紙の粘着層の粘着剤や紙を切断したときに生じる紙粉等の刃体への付着防止の手法としては,固定された側の刃体(以下,「固定刃」という。)の中腹付近に接するように別部材であるオイル保持体を固定し,紙加工品の切断後に,固定刃に対向して設けられた可動する刃体(以下,「可動刃」という。)の刃先が当該オイル保持体に当接することによってその可動刃にオイルが塗布される方法が古くからよく見受けられるが(例えば,昭和50年3月29日に公開された公開特許公報特願昭50-32585号の第1図及び第3図に表された意匠,並びにそれらに関連する記載(参考文献1:別紙第3参照),昭和63年8月11日に公開された実用新案出願公開昭63-123554号の第3図,第5図,第6図及びそれらに関連する記載(参考文献2:別紙第4参照)),本願部分のように,オイル保持体を刃体と一体的に形成し,本物品と対で使用される他方の刃体へのオイルの塗布を,本物品のオイル保持体と摺接させることで行う手法は,本願出願前には見られない手法であって,当業者であれば当然に想到することができるありふれた手法であるということはできない。 よって,粘着シート切断装置用刃体全体の形態の中において,オイル保持体を,本願部分の位置,大きさ及び範囲に設けることは,当業者にとってありふれた手法であるということはできない。 また,本願部分の形態についても,刃体表面を,正面視左右下端部を隅丸状に形成することも,大きさがやや異なる複数の円孔を,横方向に略等間隔に,上下方向に交互にややずらして設けることも,本願出願前から見られるありふれた形態に基づいて,ありふれた僅かな改変を施した程度のものであるが,微細な繊維体を刃体表面全体に植毛した形態は,刃体に植毛された繊維によって,刃体の表面に設けられたオイル保持体が厚みを持って刃体との段差を形成しており,そのような形態は,オイル保持体を刃体と一体的に形成した点も含めて,本願意匠が属する物品分野においては見られない本願固有の形態であるから,当業者であれば容易に想到することができた形態ということはできない。 したがって,本願意匠は,当業者が容易に創作することができたものということができないから,意匠法第3条第2項の規定には該当しない。 第5 むすび 以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項が規定する,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたとはいえないものであるから,原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2016-03-01 |
出願番号 | 意願2014-11088(D2014-11088) |
審決分類 |
D
1
8・
121-
WY
(H7)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 上島 靖範 |
特許庁審判長 |
斉藤 孝恵 |
特許庁審判官 |
久保田 大輔 渡邉 久美 |
登録日 | 2016-04-22 |
登録番号 | 意匠登録第1550347号(D1550347) |
代理人 | 特許業務法人 英知国際特許事務所 |