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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 C5
管理番号 1314357 
審判番号 不服2015-4835
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2016-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-12 
確定日 2016-04-01 
意匠に係る物品 飲料容器用カバー 
事件の表示 意願2014- 5880「飲料容器用カバー」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠

本願は,平成26年(2014年)3月20日にされた意匠登録出願であって,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付された図面によれば,意匠に係る物品を「飲料容器用カバー」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を願書及び願書に添付された図面に表されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)
なお,本願意匠の意匠に係る物品は,出願当初「コースター」であったが,平成28年(2016年)2月1日の手続補正により,「飲料容器用カバー」に補正された。


第2 当審における拒絶の理由

当審における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,具体的には以下のとおりである。

本願意匠は,意匠に係る物品を「コースター」としているが,願書及び願書に添付された図面の記載によれば,本願意匠は,使用者が任意に定めた装着位置によってコースター機能や保温機能を発揮する「飲料容器用カバー」であると認められる。
そして,本願意匠の形態は,伸縮性のある無模様のニット素材から成る短円筒体を畳んだものである。

ところで,飲料容器用カバーの分野においては,伸縮性のある布素材を採用することは,意匠1,及び意匠2のとおり,本願意匠の出願前からありふれており,また,上記布素材を採用して下端部を容器の底面側に折り曲げて使用し,コースターとしての機能を備えることも,意匠2のとおり,本願意匠の出願前から公然知られている。
そうすると,本願意匠は,表面を無模様とした単純な幾何学形状である短円筒体の形状に基づいて,飲料容器用カバーの分野においてありふれた手法である,ニット素材を採用し,同分野において既に見られるようにコースター機能を発揮することができるような形態にしただけにすぎないものであるから,飲料容器用カバーの分野における通常の知識を有する者が容易に創作することができた意匠に該当する。

意匠1(別紙第2参照)
特許庁が昭和36年(1961年)10月10日に発行した意匠公報に掲載された意匠登録第200784号に表された『コツプカバー』の意匠

意匠2(別紙第3参照)
特許庁が平成9年(1997年)4月15日に公開した公開特許公報
特開平9-98876に表された【図1】ないし【図3】,及びこれに関連する記載に表された『コップ水滴カバー』の意匠


第3 請求人の主張の要旨

請求人は,要旨以下のとおり理由を述べ,本願意匠は登録すべきものである旨主張している。

本願意匠は,ニット素材を伸縮性を備えるように織ることで一定の厚みをもつ素材を,更に二重にして,いわば無端の形状としている(「使用状態を縦断面視して示す参考図」参照)。このため,畳んだ状態では,右側面図および平面図に見られるように,通常の,例えば意匠1に示された布素材と比べると,比較にならないほどしっかりとした厚みを持ち,布素材の飲料容器用カバーとしては例のない力強い形状を備えている。右側面図にみられる形状では,折り畳まれたニット素材は,4層分の厚みを持っている。また,平面図に見られるように,畳まれた端部は,その左右の端が丸くなり,平面図に示された平面の中央には,内側に引き込まれていく素材の端が,陰影を伴うほぼ直線状の形態として現れている。この力強い形状は,正面図等に見られるような,全体が矩形というシンプルな形状であるために,却って強調される。この布素材でありながら,厚みを持った力強い単純な形状が,需要者,特に流通段階で,本願意匠にかかる物品に接する者に,強い美観を喚起する。
その上で,本願意匠にかかる物品は,使用時には,「参考斜視図」に見られるように,織物の端が現れない,厚みを持った円筒体の形状をなし,その小口は,内側と外側が繋がった,優美な形状となり,独特な美観を生じている。ニット素材を伸縮性を備えるように織り,かつ無端のまま二重にしているため,外側の筒をなすニット素材は,内側の筒をなすニット素材より大径になり,その織りの目は,外側より内側において細かくなる。しかも,その違いは,無端の折返し部において,ニット素地の連続する端面により分かたれている。このため,「参考斜視図」の状態では,内側の筒は目の詰まった表情を見せ,外側の筒の目のやや開いた表情との違い,および両者を分かつニット素地の連続する端面が創り出す表情が,美観を喚起する。
更に,本願意匠にかかる物品(飲料容器用カバー)を飲料容器に装着し,その下端を僅かに容器底部より突出した状態にすると,本願意匠にかかる物品は,二重の筒構造を備えることから,飲料容器の底部に回り込み,飲料容器の底部外周を覆う独自の形態をとる。これは,大径の容器に装着されると,二重の筒構造をなす素材の外側の筒は内側の筒よりも伸長されることになり,外側の筒は,より強い収縮力を生じて,容器底部で内側に折れ込むからである。もとより,その働きは,本願意匠にかかる物品の内径と,飲料容器の外径との差異の大きさにも拠るので,必ずしもそれほど強いものではない場合もあり得るが,そうした場合には,使用者が掌で包み込むようにして,形を整えることが想定される。このとき,伸縮性のあるニット素材の感触と相俟って,形を整えること自体が,使用者に心地よい手触りを伝え,形を整える悦びとも言うべき使用上の美観を醸し出す。自らの掌で整えた形態は,使用者に強い美観を想起させる。

こうした飲料容器用カバーに化体された本願意匠は,折り畳まれた状態でも,使用のために円筒体の形状とされた状態でも,飲料用容器に装着された状態でも,上記のとおり,強い美観を看者に喚起させる。この美観は,ニット素地を伸縮性を備えるように織り,更に二重にして,無端の二重筒の構造としたことに由来する。しかも,これを厚みのある矩形形状というシンプルでありながら力強い形態に畳んでいることで,飲料容器に装着された際の,端部が容器底部外周に回り込んだ優美な形状との間の変化も,使用者に美観として強い印象を与えるのである。
かかる美観を生み出すために,創作者は,たとえ意匠1,2に見られるような意匠を前提にしたとしても,(あ)ニット素材を無端の二重の筒構造にして,畳んだ状態で,力強くかつシンプルな美観を生じる形態とすること,(い)円筒体としたとき,その内側と外側のニット素材の表情を異ならせ,独自の美観を生じる形態とすること,(う)飲料容器に装着したときに,その下端が底部外周において内側に折れ曲がり,優美な形態となって美観を生じるようにすること,といった高い創作活動を,行なう必要があった。これらの点からも,本願意匠が,高い創作性を有するものであることが理解できる。

従って,本願意匠は,飲料容器用カバーの分野における通常の知識を有する者が容易に創作することできた意匠には当たらず,意匠法第3条第2項の規定に該当するものではないと思量する。


第4 当審の判断

1 意匠の認定
(1)本願意匠
1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は,使用者が任意に定めた装着位置によってコースター機能や保温機能を発揮する「飲料容器用カバー」である。
2)形態の基本的構成態様
本願意匠の形態の基本的構成態様は,伸縮性のあるニット素材から成る短円筒体を畳んだ状態としたものである。
3)形態の具体的態様
本願意匠は,
(ア)正面視縦幅と畳んだ状態の正面視横幅を約4:5とし,
(イ)一枚のニット素材を上端及び下端で折り返して,上端及び下端にニット素材の切端部が表れていない二重織構造の厚手のものとし,
(ウ)全体を濃暗色の単色とし,表面を無模様とした
ものである。

(2)意匠1
意匠1については,意匠公報にも記述があるとおり,原本が存在するため,その原本によって形態の基本的構成態様,及び形態の具体的態様について認定する。また,それらの認定にあたっては,本願意匠の図面の向きとあわせて記載する。
意匠1の意匠に係る物品は,「コツプカバー」であり,意匠1の形態の基本的構成態様は,伸縮性のあるニット素材から成る長円筒体を畳んだ状態としたものとし,形態の具体的態様は,正面視縦幅と畳んだ状態の正面視横幅を約2:1とし,一枚のニット素材をそのまま円筒状として,上端及び下端にニット素材の切端部が表れた薄手のものとし,全体を濃橙色として,中央からやや下方の位置に,細い黒色帯状模様と,その黒帯状模様の下方に広い白色帯状模様を表したものである。

(3)意匠2
意匠2の認定にあたっては,本願意匠の図面の向きとあわせて記載する。
意匠2の意匠に係る物品は,コップの下部に覆うように取り付けることにより,コップに付いた水滴で,手がぬれたり,滑ってコップを落としたりするのを防ぎ,また,コップの外壁についた水滴を吸収することにより,コップを傾けて飲むときにしずくが落ちなくなり,さらに,ぬれたコップを置いた時,テーブル等に付く水滴の輪などがなくなって清潔さを保つことができる「コップ水滴カバー」である。そして,形態の基本的構成態様は,吸水性,収縮性の良い布や綿,紙などの材質から成る有底の短円筒体としたものとし,形態の具体的態様は,正面視縦幅と広げた状態の正面視横幅を約1:1とし,正面視上方部分に,ゴム部を設けた薄手のものとしたものである

2 創作非容易性の判断
以下,本願意匠が意匠法第3条第2項の規定に該当するか否か,すなわち,本願意匠が,この意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に創作することができたものであるか否かについて,請求人の主張を踏まえて検討する。

一般に,飲料容器用カバーは,飲料容器の周側面を覆うものであることから,飲料容器の外観に合わせて飲料容器用カバーも形成されるものであり,飲料容器を覆うものとして,飲料容器用カバーを広く知られた幾何学形状である短円筒形状に形成することは,当業者が容易に想到することができるものであるといえる。
そして,本願意匠のように飲料容器用カバーの正面視縦幅と畳んだ状態の正面視横幅を約4:5とすることは,飲料容器用カバーの当該比には様々なものがある中においては,本願意匠の当該比はありふれた態様の範囲内のものであるということができ,また,カバー全体を濃暗色の単色とし,表面を無模様とすることは,特段特徴のないありふれた配色を施しただけのものということができ,これらの点についても,当業者が容易に想到することができるものであるといえる。

しかし,一枚のニット素材を上端及び下端で折り返して,上端及び下端にニット素材の切端部が表れていない二重織構造の厚手のものとした態様は,飲料容器用カバーの態様としては本願出願前には見られない態様であり,本願意匠の独自の態様であるということができるから,当業者が容易に創作することができたものであるとすることはできない。


第5 むすび

以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第3条第2項が規定する,意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたとはいえないものであるから,当審の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。


よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2016-03-22 
出願番号 意願2014-5880(D2014-5880) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (C5)
最終処分 成立  
前審関与審査官 内藤 弘樹 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 江塚 尚弘
久保田 大輔
登録日 2016-05-13 
登録番号 意匠登録第1551596号(D1551596) 
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所 

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