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審決分類 審判    K2
管理番号 1318117 
審判番号 無効2012-880008
総通号数 201 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2016-09-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-05-18 
確定日 2016-05-06 
意匠に係る物品 貝吊り下げ具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1318240号「貝吊り下げ具」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立および理由
請求人は,「登録第1318240号意匠の意匠登録は,これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める。」と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,証拠方法として甲第1ないし22号証の書証を本件審判請求時に提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠第1318240号は,意匠登録が創作者でない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しない者の意匠登録出願に対し,登録されたものであるから,意匠法第48条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,無効とすべきものである。
(1)本件登録意匠第1318240号(甲第1号証)の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)の本質的な部分である「ロープ止めの中央に2本の紐で繋いだ構成態様」を備えた「シングルフープピンII型」に係る意匠の真の創作者は,本件無効審判請求人(以下,「請求人」という。)であるところ,本件無効審判被請求人(以下,「被請求人」という。)は請求人から意匠登録を受ける権利を承継しないまま本件登録意匠に係る意匠について意匠登録出願をしたものであり,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第3号の規定に該当するので,無効とされるべきものである。
(2)本件登録意匠に係る「ロープ止めの中央に2本の紐で繋いだ構成態様」である「継ぎ部」の形状は請求人が元々シングルのフープピンに用いるように平成17年3月頃に開発し,「フープピンII型」として,被請求人に平成17年6月より納入をしたという実績に基づいている。この納入品を見て納品先である被請求人は,真の意匠創作者である請求人の承諾を得ることもなく,勝手に平成17年8月9日に意匠登録出願をしたものである。
そして,審査では拒絶査定となったため,査定不服審判(不服2006-7226号)を請求し,該審判においては早期審理に関する事情説明書を提出することにより,早期審理対象となったものの,この段階では拒絶理由が支持されたため,裁判(平成19年(行ケ)第10078号)を提起して,部分意匠として意匠登録を受けたものである。
(3)本件登録意匠に係る「貝吊り下げ具」は,通常「養殖用ほたて貝耳吊用係止具」などと呼称されており,統一的な用語で特定されていない。この「貝吊り下げ具」を構成する「ロープ止めの中央に2本の紐で繋いだ構成態様」は,その形状,模様或いは色彩などにより美観を起こさせる意匠の主要な部分を形成している。この「ロープ止めの中央に2本の紐で繋いだ構成態様」という主要な部分を「継ぎ部」と定義する。
この「貝吊り下げ具」が備える「継ぎ部」の構成を取る物品に係る意匠は,大量のほたて貝用ピンを連結して,ロール巻きにより収納する際に,ほたて貝用ピンの軸部間を可撓性連結片からなる継ぎ部により相互に連結することにより,ほたて貝用ピン連結体の収納,巻き付け,搬送が極めてコンパクトになり,また,ほたて貝用ピンを相互に分離したり,自動装填するのに有利であるため,ほたて貝の養殖現場では重宝に使用される機能を備えた物品である。
(4)本件登録意匠は,部分意匠に係る物品であり,その構成態様は,貝の養殖に使用する「貝係止具」のうち,細長い棒状のピンを多数平行に配置し,ロール状に巻くこともでき,養殖現場ではそのピンを一本ずつ切り離して,貝の耳の穿孔部に挿通して使用する。そのピンの左右両端寄りから斜め上側で左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,その間に上記小突起寄りに左右対称状にピンの長手方向に対して直交方向に伸びる2本の細い紐により一体形成したピンを上下等間隔に多数連結してなる「継ぎ部」の部分の物品の形状を,部分意匠として意匠登録を受けたものである。

2.請求人の創作意匠
(1)創作事実および創作日
(A)設計書の作成に基づく立証
請求人の創作した創作意匠の物品の形態は,「入れ子の図面」(甲第2号証の1)の設計書に示されているとおりのものであり,その引用意匠の創作日は,その「入れ子の図面」(甲第2号証の1)の設計書の作成日の記録である「2005(平成17年).03.1」頃である。
同様に,引用意匠の物品の形態は「可動側のキャビ図」(甲第2号証の2)の設計書にも鮮明に示されており,その設計書の作成日は「2005(平成17年).02.12」と記録されている。」
この「可動側のキャビ図」(甲第2号証の2)の「設計書」は,高橋技研の高橋明博氏が,請求人の依頼を受けて作成したものであることは,高橋明博氏の「陳述書」(甲第2号証の3)における陳述事項において明らかであり,その設計書作成の代金の支払いも,平成17年4月2日に既に完了していることは,その陳述書に添付されている「領収書」において明らかである。
(B)金型写真に見る物証による立証
そのような「金型設計図面」(甲第2号証の1,甲第2号証の2参照)の設計図の仕様に基づいて作成された,「継ぎ部」が刻印された「フープピンII型」の「金型」が,設計書の作成に伴い,いわゆる「物証」として存在したことは,「成形用金型実物写真」(甲第3号証の1?3参照)に見るとおりのものである。
(C)フープピンII型の物品の実物写真による立証
このような「設計書」の仕様および「金型」により成形される「継ぎ部」を備えた「フープピンII型」の成形品という物品に係る意匠は,(株)MCIにおいて既に創作されたものであり,この事実は,「フープピンII型の実物写真」(甲第4号証参照)に見るとおりのものであり,まさにその形態は視覚を通じて美観を起こさせるものである。
この「フープピンII型の実物写真」(甲第4号証)に示す物品の形態に係る意匠の詳細は,「継ぎ部」の形態を備えたものであり,このような意匠は,設計書,成形金型,および成形品に見るとおり,請求人側の貝係止具の物品に係る意匠として,出願日前に(株)MCIにおいて創作され,製品まで存在していたことは,明白である。
なお,この物品の実物写真(甲第4号証参照)を作成した記録日は,「平成17年3月20日」であり,本件登録意匠の出願日である「平成17年8月9日」より相当以前に撮影されたものである。
(2)創作意匠の概要
そうすると,請求人の創作した創作意匠の概要は,その「金型設計図面」(甲第2号証の1,甲第2号証の2参照),「成形用金型実物写真」(甲第3号証の1?3参照)およびその「フープピンII型の実物写真」(甲第4号証参照)により示される形状,模様若しくは色彩またはこれらの結合により想起される,貝の養殖に使用する美観性のある「貝係止具」という物品の形態に係る意匠であって,以下のとおりのものである。
「ほたて耳吊用ハンガーの,幹棒(ピン)を多数平行に配置し,その幹棒(ピン)の左右両端寄りから斜め上側で左右対称状に向かい合う一対の小突起を母線掛止部として,その間に小突起寄りに左右対称状にピンの長手方向に対して直交方向に伸びる2本の細い紐を一体成形したものを上下等間隔に多数連結したことを特徴とする養殖用ほたて耳吊用ハンガーの継ぎ部」という構成態様からなる,例えば「入れ子の図面」(甲第2号証)の,物品の形状または模様を有する意匠である。
詳細には,特にその「成形用金型写真図1」(甲第3号証の1)の刻印に見るとおりの意匠であり,これにより成形された成形品は,「フープピンII型の実物写真」(甲第4号証)の意匠に見るとおり,細長い棒状のピンを多数平行に配置し,ロール状に巻くこともでき,貝の耳の穿孔部に挿通して使用する。
そのピンの左右両端寄りから斜め上側で左右対称状に向かい合う一対の小突起をロープ止め突起として,その間に上記小突起寄りに左右対称状に,ピンの長手方向に対して直交方向に伸びる2本の細い紐により一体成形したピンを上下等間隔に多数連結した部分を有する,いわゆる「継ぎ部」の形状を備えた物品に係る,まさに「フープピンII型の実物写真」(甲第4号証)に見るとおりの意匠である。

3.本件登録意匠と引用意匠とが同一意匠であることの理由
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は,詳細には,意匠公報(甲第1号証参照)に掲載のとおりのものである。
(2)請求人の創作意匠(甲第2?4号証参照)
請求人の創作意匠は,前記2.(2)に掲げた意匠であり,その物品の詳細な意匠の概要は,甲第2?4号証において明らかにされている。
(3)本件登録意匠と創作意匠との同一性または類似性の対比・判断
【1】 産業上の利用分野及び目的の一致
(A)本件登録意匠(甲第1号証)と請求人の創作意匠(甲第2号証の1?2,甲第3号証の1?3,甲第4号証等参照)とは,何れも,ほたて貝等の養殖に使用する「貝係止具」の「継ぎ部」の部分を構成するものであって,両者は,貝の養殖分野を対象とする意匠である点で一致している。
この貝係止具の物品または形態のものが,この帆立貝の養殖産業分野および養殖現場に流通した場合に,両者の物品または形態が,例えば,特開2003-265061号【図1】の意匠に見るとおりロール巻きにして流通できる便利さがあり,また,例えば,特開2003-265061号公報,【図3】の意匠に見るとおり,養殖帆立貝の耳部の孔に挿通することにより,海水中に吊すという,全く同じ態様で使用されるものであって,本件登録意匠および請求人の創作意匠に係る物品や形態が,流通業者や養殖現場の作業員にとっては,本質的に識別や,区別がつかない,当該産業分野において,まさに誤認混同をするような,同一の形状または模様を有する物品に係る意匠である。ということは,被請求人の本件登録意匠と請求人の創作意匠とは,産業上の利用分野および目的が一致する意匠である。
(B)本件意匠登録と請求人の引用意匠とは,「貝係止具」という物品の形態からして,何れも,上記した「連結部」の切り残し部分がロープへの差込みの邪魔にならず,ロープへの差込み後も安定し,しかも,手袋も破損しにくいものである点で,両者は使用方法および使用態様においても相違するものではない。
【2】 意匠に係る物品または形態の一致性
本件登録意匠に係る物品または形態の基本的構成態様を対比すれば,本件登録意匠の構成である「貝吊り下げ具」,「ピン」,「ロープ止め突起」および「連結紐」は,請求人の創作意匠における,「貝耳吊用ハンガー」,「幹棒」,「母線掛止部」,および「継ぎ線」に各々相当しており,両者は,「貝係止具」の利用形態においては勿論のこと,さらにその視覚を通じて美的感覚を発現する形状,模様,色彩,機能という「貝係止具」における「継ぎ部」の構成態様というデザインにおいて同一である。
そうすると,被請求人の本件登録意匠と請求人の創作意匠では,「貝吊り下げ具」或いは「貝耳吊用ハンガー」と言うように呼称または表現こそ違うが,「貝係止具」という「物品」で総称した場合に,ホタテ用の貝係止具という物品の形状,模様若しくは色彩などに基づくデザインの基本的な構造は全く同じものであって,しかも両者は,「貝係止具」における「継ぎ部」そのものを本質的な主要構造としている部分意匠を対象としていることが明らかである。
本件登録意匠は,審理段階において,「継ぎ部」の部分を,いわゆる「部分意匠」として登録されたものであるが,このような「継ぎ部」の部分は,請求人の引用意匠の本質的に基本的な部分を構成するものであるから,両者の意匠に係る構成態様の実質的な違いを表すものではない。
要するに,本件登録意匠は,「部分意匠」という名目で,引用意匠の「貝係止具」における重要とする本質的な部分である「継ぎ部」の部分をつまみ出してきた程度のことにすぎないものである。さらに被請求人の本件登録意匠と,請求人の創作意匠を並べて対比すれば,「継ぎ部」のような両者の本質的な部分は全く同一の意匠である。
(4)まとめ
以上のとおりであるから,被請求人の本件登録意匠と請求人の創作意匠とは,同一の意匠であることが明らかである。

4.請求人の創作意匠の創作経緯
(1)請求人の意匠創作の環境
請求人は,本件登録意匠の出願日である,平成17年8月9日よりも数年前の平成13年11月14日頃,既に「貝係止具」という物品を提供できる潜在的な能力を有しており,被請求人の依頼に応えて「制作使用見積書」(甲第5号証)を作成しているという事実からしても明らかである。また,三陸などにおける,ほたて貝の養殖の手法を十分に会得することができるような地理的に恵まれた環境にあるばかりでなく,(株)MCIは,樹脂の成形メーカーであり,ピン程の小物から,やや大型の成形品の成形にいたる成形技術,金型の製作技術を通じて,各種物品にかかわる意匠の創作が可能なほどの美的感覚,デザイン能力,高度な制作能力を潜在的に有する企業である。その成形品および成形技術は当該技術分野において好評を得ているばかりでなく,特に帆立貝養殖用「貝係止具」の「継ぎ部」の意匠を創作またはデザインをすることが可能なほどの,充分な意匠に係る美感性,形態性,および物品性に関するセンスおよび能力を有している。
(2)請求人の意匠創作の経緯
請求人が80本取のフープピンのII型を製作しなければならなかった理由と請求人がロープ押さえの中央に2本の紐を用いる,「貝係止具」の「継ぎ部」を発案した経緯について述べる。
(A)「貝係止具」の現状
平成17年以前に,先ず株式会社東北総合研究社(以下,「(株)東北総研」と略す。)から,従前までバラピンの貝係止具を,例えば,特開2003-265061号公報【図4】および【図8】の意匠に係る物品のようなものが販売されていた。特に【図8】の意匠は,軸部14とロープ抜け止め部16が結合した構造の貝係止具(甲第10号証の2)の構造の物品であり,【図4】の意匠は,軸部14間を直交するように先端部12とロープ抜け止め部16の間の軸部14を連結線15で連結した形状の貝係止具の意匠に係る物品であった。
例えば,請求人側の保管する平成15年1月9日当時の記録からすると[製品実物写真図1](甲第7号証)に見るような,いわゆる上記【図5】のようなロープ抜け止め部の先端部で連結するタイプであり,平成16年12月28日頃の当時の記録からしても,「製品実物写真図」(甲第10号証の2)に見るような,依然として上記【図5】のようなロープ抜け止め部の先端部で連結するタイプである。
同様に,被請求人側の平成15年7月24日当時の「設計協議FAX図」(甲第9号証1)においても,さらには平成16年8月18日当時の「設計協議FAX図」(甲第10号証の1)においても,上記【図5】のようなタイプである。
このような,「貝係止具」の意匠との同一または類似性を回避して,誤認混同または抵触関係を回避する対策を講じることが急務であり,いわゆる上記【図5】或いは【図6】の意匠とは異なる意匠の創作が必要であった。
このような状況下で,「貝係止具」の物品の意匠を検討した結果,上記【図5】の意匠のような軸部14とロープ抜け止め部16が結合した構造を採用しないこと,及び連結線15の位置を上記【図6】のタイプとは誤認混同しないように,ロープ抜け止め部である「ハの字」内に設ける必要がある,という検討結果1,2に基づいて,意匠を創意工夫した結果,請求人は上記甲第2号証の1に示す「金型設計書」(甲第2号証1?3)「成形用金型写真図」(甲第3号証1?3),および「製品実物写真図」(甲第4号証)に示す意匠を創作するに至った。
(B)(株)むつ家電特機からの成形依頼
請求人が被請求人に送付した「制作仕様見積書」(甲第5号証)に見るとおり,平成13年頃,東北総研から従前までバラピンの貝係止具をロール状に巻いたロールピンが販売されており,(株)むつ家電がそれまで委託していた会社(進和化学工業)にロールピンの成形を依頼したところ,技術的に成形ができないと断られた。請求人側と被請求人側とが,平成13年10月頃に(株)むつ家電の事務所で協議した際に,被請求人より,「ロールピン」(「フープピン」とも呼称)を生産することができないかと打診された。
そのため,請求人は,被請求人に対して平成13年11月14日に「制作仕様見積書」(甲第5号証)を送付して,その要望に応じている。
この時点での貝係止具(ピン)の意匠は,「製品写真図」(甲第7号証,甲第9号証の1?3,甲第10号証の1?2)の意匠に見るような構成形態を有するものであった。
また,請求人は,顧客である被請求人のロールピンの機能や性能の開発及び創作に関する相談に,適正に対応する必要があるので,誠意を持って応えるため,例えば,平成16年2月12日付け「打ち合わせ議事録」にあるとおり,請求人と被請求人とは,貝係止具に関して,意匠が容易に知られ得るほどに,技術的な交流があった。
したがって,貝係止具の技術開発及び成形依頼に関しては,請求人は,積極的に対応することにより,意匠登録出願日(平成17年8月9日)の数年も前から,既に,貝係止具という関連物品に係る本件登録意匠が容易に創作及び製作ができる環境にあったということは事実である。
(C)新たな貝係止具に係る意匠に係る物品の流通の現状と問題点
請求人が,被請求人に対して,平成14年から平成16年にかけて納品したフープピンは,「製品実物写真図」(甲第7号証,甲第10号証の2)の意匠にあるようにロープ止の先端で継ぐ連結形状のフープピンであった。
しかしながら,被請求人へ納入及び販売している,上記(甲第2号証1?3)「製品実物写真図」(甲第7号証,甲第10号証の2)に見るような,ロープ止の先端で継ぐ連結形状は,他社の特許権を侵害している恐れがあり,請求人及び被請求人は,この特許侵害を回避するようなフープピンの開発が必要になった。詳細には,請求人が,被請求人の依頼により平成14年頃から平成15年にかけて,ロープ抑えの先端で継いで生産させて販売しているフープピンの継ぎの形状は,(株)東北総合研究所(以下,「(株)東北総研」という。)の特許を侵害しているという懸念があり,実際に(株)東北総研より平成15年7月4日に東京地裁に提訴されたといわれ,この事件は,特許権等侵害差止請求事件(H15(ワ)15279号事件)ではないかと思われる。
請求人は,他社のフープピン特許の継ぎ形状を回避できる継ぎ形状金型の製作及び開発が過去に求められていたという経緯があり,被請求人側の篠崎幸司氏が,開発を請求人に依頼していたという事実が,平成15年7月16日付け「現場での話し合い」(甲第8号証)の記録に残っており,「特許を回避できる金型を製作してほしいと以前から話したと言ったら・・」という当時の事情が容易に理解できる。
各種フープピン(継ぎ形状)を,顧客に製造販売して納入するという立場にあった請求人は,顧客の要望に応え,しかも信用や安全な顧客のビジネスを守る必要があり,その為に,他社の特許権とは抵触しない新たなフープピンの開発及びそのための成形用金型の開発が急務であった。
(D)金型による成形品の面からの意匠の創作の経緯
請求人は,被請求人に対して,平成13年11月14日に「製作仕様見積書」(甲第5号証)を送付し,平成14年5月17日以前に,フィルゲートの50本取の「フープピンの設計図(フィルゲート方式)」(甲第6号証)を被請求人に提出し,継ぎはロープ押さえの先端で継ぐように指示され,「フープピンI型」と「増面II型」を起工し,平成14年から平成15年にかけて納入していた。
しかし,請求人側において,50本取の「フープピンII型」の「金型」は既に廃却しており,被請求人側に販売できるフープピンの金型は50本取の「フープピンI型」のみとなり,被請求人側に販売するフープピンの「増面型」を製作することが必要になった。
新規にフープピンの金型を製作するにあたり,従前まで「フープピンの設計図(フィルゲート方式)」(甲第6号証)に基づいて起工した金型で被請求人に納入していた成形品の不具合を洗い出し,新規の金型に反映するため,成形部門,品質管理部,金型部が一同に会して検討会が行われた。
(E)「継ぎ部」つき「貝係止具」に係る意匠の創作の動機
請求人が,被請求人に納入していたフープピンに,ロープ抑えの左右にバラツキがあり,アグ(別名かえし)の形状にバリが発生しているため,貝の穴に差し難いものがあると指摘を受けていたが,この原因は50本取の設計図である「フープピンの設計図(フィルゲート方式)」(甲第6号証)に見る通り,フィルゲートであったため,ゲート側と反ゲート側に射出圧のバラツキで,フィルゲート側のアグにバリが発生する要因があったため,恒久対策として,スプール(樹脂注入口)を中央にして,40本を左右に並列にして,樹脂が均一に流れるようにして,品質の安定を図り,50本取から80本取にすることによって,材料の歩留と生産効率を高める設計にし,高橋技研に依頼して,「可動側入子図面」(甲第2号証の2)に見る設計図が平成17年2月12日に完成した。
この図面に基づいて金型の製作を行い,量産試作を行ったが,成形後にリールに巻き取る際に2連の巻取装置のリールの芯管の径が小さいために,最初に巻取られる継ぎの個所にテンションが加わるため,継ぎの部分が延ばされて,ピッチ間隔が不揃いになったり,継ぎ線が切断し易いという社内での不具合が多発していたため,継ぎの線に柔軟性を持たせることによって,これらの不具合が解消されることに着目し,ロープ抑えの中央に2本の線を用いる継ぎ部を有する形状を発案し,「入子の図面」(甲第2号証の1)を作成し,これを入子に加工して,キャビに施してあった不具合の継ぎの形状(「設計協議FAX図」(甲第10号証の1))をロープ抑えの八の字の外側からワイヤーカットで切抜き,このキャビに「入子」(甲第2号証の1)を組み込んで,ロープ抑えの中央に2本の紐を用いた「継ぎ部」を備えた,80本取のフープピンII型が完成したものである。
このような試行錯誤により,ロープ抑えの中央に2本の線(紐)で継ぐ「2本継ぎ線構造」,いわゆる「継ぎ部」を備えた「フープピンII型」は,平成17年3月頃の時点で創作及び開発をすることができたものである。
したがって,請求人は,「貝係止具」の「シングルフープピンII型」の連結紐構造の「継ぎ部」に関する研究開発実績,生産設備,生産体制,及び供給実績を有しており,ホタテ用ピンの連結紐構造の「継ぎ部」に関しても全く同じ体制が整っている。

5.冒認出願であることを立証する事実・根拠
本件登録意匠が意匠出願の権利を継承していない理由
請求人の創作した意匠を,本件登録意匠の出願日の平成17年8月9日以前に,被請求人へ知らせたか,または被請求人が知り得る状態にあったかを立証する。
本件登録意匠の真の意匠創作者は三浦勉であり,本件登録意匠の創作者が,無効審判請求人の真の創作者から意匠登録を受ける権利を承継しないまま,本件意匠につき意匠登録出願をして意匠登録されたものであることを立証する。
(1)金型の納入と開発資金の請求
(A)「金型納品書(控)」(甲第11号証の1)
請求人の開発した金型の概要及び開発費として,平成17年3月19日付けで,ホタテ用金型製作費(80本)として,100万円を請求した,金型の「納品書(控)」(甲第11号証の1)である。ロープ抑えの中央に2本の紐で継ぐようにしたフープピンII型の成形「金型」は,(株)MCIの独自の創作で開発したものであるが,通常金型の開発,加工費用に要する費用は膨大であり,製作後の金型の有益性,キャンセルの有無等の経営リスクも考慮して,フープピンII型の成形品の納入を予定している被請求人にも,予めその開発費用の一部の負担を求めたものである。なお,金型の意匠としての構成態様は,新たに入子にロープ抑えの中央に2本の線の加工を施した形状,模様を,これをキャビに組み込んだ創作費用として100万円の請求を行った。
(B)「金型納品書(控)」(甲第11号証の2)
上記(1)の金型の「納品書(控)」(甲第11号証の1)に対する,平成17年3月19日付けの「金型納品書(控)」(甲第11号証の2)である。この「金型納品書(控)」は,平成17年3月19日付けで,納品した「金型納品書」における金型創作に関する技術料の請求書である。勿論,金型の「納品書」及び「金型請求書」を発送して,その開発代金の一部を請求するということは,金型の仕様及び状態,特に,容易に理解できる程度の意匠の構成態様を,被請求人に明示していることが明らかである。これは,普通郵便で発送したものであり,この事実を郵送していないのではないかという懸念も一応成り立つが,次に「(3)手形支払い決済」の項で明らかにするとおり,発送したという事実は容易に証明できる。
(C)手形支払い決済
金型納入の平成17年3月19日付け「納品書(控)」(甲第11号証の1)及び「金型納品書(控)」(甲第11号証の2)の請求に対して,支払いは平成17年5月10日付け発行の「約束手形」(甲第13号証)においてなされた。
フープピンII型の金型費という名目で支払われた,平成17年5月10日付け発行の約束手形である。この「約束手形」の100万円の支払は,請求人がロープ抑えの中央に2本の紐で継ぐように発案し,80本取の金型を改造した技術料及び加工費の一部負担の費用である。それ以外の支払いは,(株)むつ家電を退職した田中孝俊が進和化学工業(株)で開発した,アグ部にクボミをつけた貝係止具を販売していることを被請求人が突きとめ,この事業に対抗できる商品の開発が必要になり,当時の顧客の事情に適切に対応するために,請求人は試行錯誤して,田中孝俊氏の事業に対抗するサンプルを開発したことに対する相談料,開発費及び技術料を含め,金型代という名目で支払がされていることを証明するものである。
また,客観的に見ても,被請求人のこの手形による支払の決済の行動は,高額であるという事情も考慮すると,取引の常識的な慣行から解すれば,被請求人は,請求人の金型開発の状況を知り,物品に係る意匠の創作の実情を容易に把握し得る状態であったこと,または把握した結果に基づく決済であると解するのが相当であり,請求人の金型の「金型納品書」及び金型請求書を既に受け取ったことに対する,代金の決済であるという事実を証明するものである。
(D)「支払相殺書」(甲第16号証)
被請求人の決済の「約束手形」(甲第13号証)に対して,平成17年10月11日付けの被請求人の「支払相殺書」(甲第16号証)がある。
この「支払相殺書」(甲第16号証)には,「平成17年4月より幾度も弊社に写真,図面を送るように依頼している」と記載されているが,勿論,平成17年4月頃には,「継ぎ部」を備えた「貝係止具」が刻印された「金型」の完成及び意匠の構成態様が伝わっていたことが明らかである。この事実は,平成17年4月頃から既に,フープピンII型の製品及びその成形用金型の概要が,被請求人に連絡されていたことを証明するものである。
この時点で,あえてなぜ支払相殺という手段を画策したかという理由は,以下の意図によるものではないかと推認することができる。
a)金型納品請求 平成17年3月19日
b)手形発行日 平成17年5月10日
c)本件登録意匠の出願日 平成17年8月9日
d)支払相殺日 平成17年10月11日
e)手形支払い期日 平成17年10月31日
以上の経過を時系列から見れば,「a)金型納品請求」段階で,本件登録意匠の構成態様を平成17年3月19日の時点で入手して,その相応の出願準備期間を経て,「c)本件登録意匠」の出願を平成17年8月9日に済ませて,「e)手形支払い期日」である平成17年10月31日前の平成17年10月11日に,「d)支払相殺日」として処理する手法(以下,これを「相殺処置」という。)で決済している。
この「相殺処置」は,あたかも相当の対価の交換という錯覚に囚われるが,この真実を究明すれば,請求人側にとっては,「金型開発費」も入金されず,さらに納入した「フープピン請求分(9月分)」も払われないという事態が生じる。この「相殺処置」を画策するほどの関係では,冒認出願の事件が発生してもおかしくない環境であることが容易に推察できるとともに,本件登録意匠が直接に,または間接的に,出願日以前に,請求人から被請求人に既に知られていたという事実を,この「支払相殺書」(甲第16号証)は間接的な状況証拠として示すものである。
被請求人が請求した「平成17年4月より幾度も弊社に写真,図面を送るように依頼して」ということが事実であると仮定するならば,これは金型開発費用の支払いを反故にする口実であると思われる。もし,それが事実であったと仮定するならば,請求人側にしてみれば,前記「請求人の「創作意匠」の創作経緯」の項に詳細に示すとおり,三浦勉は,試行錯誤や苦労をして美的な意匠に係る「金型」物品(例えば,甲第3号証の1?3)を創作したものであるので,「継ぎ部」を備えた「貝係止具」のサンプルや,その写真はすぐに顧客に知らせることがあっても,この金型の金銭的な支払いが完納していない時点で,しかも,意匠の,「職務発明」,「原始的創作者」というような,知的財産権の帰属の問題点が解決されていない段階では,成形技術に重要な「金型」の鮮明な写真などを送れば,意匠ばかりでなく,特許,実用新案などで保護される成形技術或いはノウハウが容易に漏洩することになり,特許の冒認出願の手助けをすることにもなりかねず,全く理不尽な要求であると思ったからともいえる。
(2)フープピンI型,II型の納入と請求
(A)「フープピンI型」の納入
平成17年4月20日付け「フープピンI型」の「納品書(控)」(甲第12号証の1)に示す物品に係る意匠の創作の経緯は,被請求人により平成16年8月18日頃に「設計協議FAX図」(甲第10号証の1)により継ぎの形状がFAXで送信され,被請求人より,この継ぎの形状に変更するように依頼を受けたためのものである。
この意匠創作の前提として,請求人は,既に,平成14年5月17日以前に,被請求人に「フープピンの設計図(フィルゲート方式)」(甲第6号証)を提出し,被請求人よりフープピンに用いる継ぎはロープ抑えの先端で継ぐように指示されて,平成14年から平成15年にかけて被請求人に納入していたものである。これは,「製品実物写真図」(甲第7号証)に見るような,いわゆる「継ぎの形状」のフープピンI型の金型のキャビをロープ抑えの八の字の外側をワイヤーカットで切り抜き,平成16年8月18日付け「設計協議FAX図」(甲第10号証の1)に見るように「入子」に継ぎの形状に加工を施し,これをキャビに組込んで成形した物品を,フープピンI型の小品として被請求人に納入したものである。この「継ぎ」はロープ抑えの先端で継いだ形状である。
(B)「フープピンI型」の「請求書(控)」(甲第12号証の2)
この,平成17年4月20日付けの「請求書(控)」(甲第12号証の2)は,「フープピンI型」の「納品書(控)」(甲第12号証の1)に対する請求書である。また,平成17年4月20日付け発行の「請求書」(甲第12号証の3)は,被請求人より請求人宛に発行された請求書である。
請求人の「請求書(控)」(甲第12号証の2)による請求金額(1,102,500円)より,被請求人の「請求書」(甲第12号証の3)による請求金額(220,500円)を差し引いた金額が,請求人へ支払がなされた,被請求人発行の額面882,000円の「支払約束手形」(甲第12号証の5)である。この被請求人の「請求書」(甲第12号証の3)による請求金額(220,500円)に基づいて差し引いた金額に対する被請求人発行の額面220,500円の「領収書」(甲第12号証の4の参考資料4)である。
さらに,額面882,000円の「領収書(控)」(甲第12号証の6)は,額面882,000円の「支払約束手形」(甲第12号証の5)に対する領収書の役割を兼ねる控である。請求人発行の,額面882,000円の「領収書(控)」(甲第12号証の6)は,被請求人より発行された「請求書」(甲第12号証の3)における請求金額を相殺した金額に対する領収書である。この相殺は,被請求人が画策したものであり,本件無効審判と別件として争う用意がある。このように,請求人は,被請求人に対して,フープピンI型の小品を随時納入する業務関係にあったことが事実である。
(C)「フープピンII型」の納品と請求(第1回)
1)「フープピンII型」の「納品書(控)」(甲第14号証の1)
平成17年6月20日付けの「フープピンII型」の「納品書(控)」(甲第14号証の1)は,請求人である(株)MCIの三浦勉が,ロープ抑えの中央に2本の紐で継ぐように発案し,創作した「フープピンII型」の製品を,本件登録意匠の出願前に被請求人に納入したことを証する納品書の(控)である。
2)「フープピンII型」の「請求書(控)」(甲第14号証の2)
この平成17年6月20日付けの「フープピンII型」の「請求書(控)」(甲第14号証の2)は,「フープピンII型」の「納品書(控)」(甲第14号証の1)に対する,請求書(控)である。
平成17年6月20日付け「請求書」(甲第14号証の3)は,被請求人より発行された請求書である。請求人が「請求書(控)」(甲第14号証の2)により請求した額面2,205,000円の請求金額より,被請求人が相殺という名目で平成17年6月20日付け「請求書」(甲第14号証の3)の額220,500円を差引いて,「支払約束手形」(甲第14号証の4)により,額面1,984,500円が支払われていることが明らかである。
この被請求人の平成17年7月11日付け発行の「支払約束手形」(甲第14号証の4)の額面1,984,500円の支払に対して,請求人が平成17年7月12日付けで発行した「領収書(控)」(甲第14号証の5)は,額面が1,984,800円の「領収書(控)」である。
したがって,代金を支払うという決済の事実からすれば,納品されたことが明らかであり,被請求人は,ロープ抑えの中央に2本の紐で継いだ「継ぎ部」を備えた形状の物品を,既に請求人から入手したことや,「フープピンII型」の名称,その意匠を熟知していたことを証明するものである。
(D)「フープピンII型」の納品と請求(第2回)
1)「フープピンII型」の「納品書(控)」(甲第15号証の1)
この平成17年7月20日付け,「フープピンII型」の,額面2,100,000円の「納品書(控)」(甲第15号証の1)は,請求人である(株)MCIの三浦勉が,ロープ抑えの中央に2本の紐で継ぐように発案し,創作した「フープピンII型」の商品を,本件登録意匠の出願日である平成17年8月9日以前に,被請求人に納入したことを証するものである。
2)「フープピンII型」の「請求書(控)」(甲第15号証の2)
この平成17年7月20日付け,「フープピンII型」の,額面2,205,000円の「請求書(控)」(甲第15号証の2)はロープ抑えの中央に2本の紐で継いだシングルの「フープピン(グリーン)II型」の製品の納品に対する「請求書(控)」である。
被請求人の発行した平成17年7月20日付け発行の,額面220,500円の「請求書」(甲第15号証の3)による請求額は,適当な理由をつけて,相殺をする額を請求する請求書である。
被請求人の発行した平成17年8月10日付け発行の,額面1,984,500円の「約束手形」(甲第15号証の4)に見るとおり,その決済は,適当な理由をつけて,請求人の「請求書(控)」(甲第15号証の2)による請求額2,205,000円の額から,被請求人の「請求書」(甲第15号証の3)による請求額220,500円を相殺した額で支払がされている。
この「約束手形」(甲第15号証の4)による決済に対して,請求人は,平成17年8月13日付けの,額面1,984,500円の「領収書(控)」(甲第15号証の5)を発行している。
したがって請求人がロープ抑えの中央に2本の紐で継ぐように発案し,創作した「フープピンII型」の継ぎの形状及び「フープピンII型」の意匠は,被請求人は充分に熟知していたことを証明するものである。
(3)納品書及び請求書の送達の有無の状況
当時の「フープピンII型」の発送伝票及び記録が,既に6年以上も経過しており,現在の自体など予測するすべもなく,通常の郵送手段による送付であり,当時のその発送伝票などを入手することは非常に困難な状況である。しかし,下記の事実及び状況からすれば,明らかに被請求人は「フープピン(グリーン)II型」の製品に係る意匠を,請求人から入手していることは明らかである。
(A)支払代金の決済の実績
1)被請求人は,「約束手形」(甲第13号証)により,平成17年5月10日付けで,代金支払いを決済している。これは,被請求人における,他の案件の支払や,適当な理由をつけた相殺を含めた総額の支払いであるにせよ,明らかに成形用金型や「フープピン(グリーン)II型」の成形品に関しても,意匠として入手したことに対する支払であることが明らかである。
2)同様に,被請求人は,「約束手形」(甲第14号証の4)により,平成17年7月11日付けで,代金支払いを決済,及び請求人が発行した「領収書(控)」(甲第14号証の5)である。
3)被請求人は,「約束手形」(甲第15号証の4)により平成17年8月10日付けで代金支払を決済,及び請求人が発行した「領収書(控)」(甲第15号証の5)である。これは,被請求人における,他の案件の支払や相殺を含めた総額の支払いであるにせよ,明らかに成形用金型や「フープピン(グリーン)II型」の成形品に関しても,入手したことに対する支払であることが明らかである。
(B)平成17年10月11日付け「支払相殺書」(甲第16号証)などを見れば,その時期は,本件登録意匠の出願日である平成17年8月9日以後の時期における相殺とはいえ,「今回(9月分)」との記載からすれば,それ以前の請求分もあることを示唆しているものである。
(C)本件登録意匠の出願の半年後に,被請求人により「フープピンII型」の「注文書」(甲第17号証)が出願後の平成18年1月7日に発注されている。これは,事前に「フープピンII型」の意匠出願の事実を公表することなく,淡々と発注したということは,「フープピンII型」の物品の名称,意匠及び構成態様を熟知していたことになる。
(D)「協議事項」(甲第18号証)(八戸での「アゲピンの今後についての打ち合わせと決定事項」)
この決定事項の5項目には,『新型ピンは少し太めなのでもっと細いものがほしい。・・・このタイプが出来れば市場は大きくこちらへ向く・・・。MCIはこれに対応していく。』と記載されている通り,被請求人により販売を勧誘しているが,このフープピンは,シングルのフープピンにロープ止めの中央に2本の紐で継ぐように請求人が平成17年3月頃に開発し,被請求人に平成17年6月(甲第14号証の1),平成17年7月(甲第15号証の1)に納入した実績を考慮して,被請求人より販売を勧誘されたものである。
これらの1.?3.に記載した全事実・根拠を勘案した状況から判断をすれば,請求人の「フープピンII型」の納品と請求の前記第1回及び第2回の伝票に示すとおり,「フープピンII型は,被請求人側に届いていると解することができる。
なお,これらの協議においては,被請求人のような,知的財産権制度を熟知する通常のビジネスマンであるならば,被請求人側は,新型の「フープピンII型」は,既に意匠登録出願をしている事実を公表して,実施許諾,などを含めて意匠権の取り扱いを協議すべきであるものを,全く秘密にしていた。これは,被請求人の冒認出願であるという後ろめたい事情も一応察することができるが,しかし,この意匠出願が,驚くほど,悪用されることを,次の6.その他の主張の項で説明する。
(4)結論
以上の1.金型の納品及び請求,2.フープピンII型の出荷(第1回)及び3.フープピンII型の出荷(第2回)の事実及びその状況から判断すれば,請求人の創作した「フープピンII型」の意匠の構成態様及び物品は,本件登録意匠の出願日の平成17年8月9日より前に,被請求人に渡り,その意匠を容易に知り得る状態にあったことは明白である。
そうすると,本件登録意匠の創作者(杉山弘昭)が請求人の真の創作者である「三浦勉」から意匠登録を受ける権利を承継しないまま,本件登録意匠につき,意匠出願をして意匠登録されたものであって,いわゆる冒認出願であるので,意匠法第48条第1項第3号により無効とすべきものである。

6.その他の主張
(1)被請求人より,平成18年2月18日八戸にて,請求人と被請求人は,「協議事項」(「アゲピン(登録商標)の今後についての打ち合わせと決定事項」)(甲第18号証)において,請求人へ「フープピン」の提供を依頼。しかし,被請求人は,冒認意匠出願(甲第18号証)において,請求人へ「フープピン」の提供を依頼。しかし,被請求人は,冒認意匠出願(甲第1号証)の事実を明らかにせず,請求人に「フープピンII型」の提供は,あたかも請求人の既成事実のように認めて提供を依頼しており,この決定からも「フープピンII型」の真の創作者は,請求人の三浦勉であることが容易に推察できる。
(2)請求人は,平成18年11月14日に,被請求人よりフープピン(新型フープ)他についての「注文書(その1)」(甲第19号証の1)を受けている。この時点でも,本件登録意匠を出願した事実を知らせることなく,平然とビジネスを展開している。請求人も「請求書」(甲第19号証の2)を発行している。なお,請求人のような地方の,小規模事業者では,この時点では出願の事実などを知るすべもない。
(3)請求人は,平成21年2月9日に,被請求人よりフープピン(新型フープ)他についての「注文書(その2)」(甲第20号証の1)を受けている。
(4)被請求人は,平成21年3月11日付け「撤回書」(甲第20号証の2)により,「注文書(その2)」(甲第20号証の1)の注文を一方的に撤回するという行為をしている。発注の他社にするという趣旨のものである。
(5)被請求人は,平成21年4月7日付けの「書留内容証明郵便」により,「警告書」(甲第21号証)を送りつけ,請求人の事業活動を牽制している。
この警告書で,被請求人は,請求人に対して,本件登録意匠(第1318240号)の侵害も指摘している。被請求人は,請求人に侵害回避の相談をしながら,請求人の創作した本件登録意匠の「貝係止具」の「継ぎ部」の成果を横取りして,秘密裏に意匠登録出願をして本件登録意匠を取得しておき,このような時に使おうと目論んでいたという意図が見え見えである。しかし,このような行動は,悪意に満ちた冒認行為によるものであり,公正な取引において到底容認されるような行為ではないといえる。
(6)被請求人は,平成21年5月15日には,請求人の納品代金の請求に対して,書面による「相殺書」(甲第22号証)を一方的な見解により送信して,請求人の請求金を,特許法第102条の「損害の額の推定」の根拠に基づかない,客観的に妥当な算定の根拠を示すことなく,知的財産の利益の損害額の算定の根拠など,通常は,売り上げ額の数%程度に過ぎないものを,まるまる売り上げ額とを相殺して,請求人への支払いを踏み倒している。これは,知的財産権の悪意に満ちた濫用であるといえる。
(7)他の冒認出願の参酌
請求人と被請求人の特許における冒認出願の事件である,無効審判事件,審決取消事件を援用する。
1)特許庁無効審判 特許無効2008-800237
2)控訴審 平成21年(行ケ)第10379号審決取消事件
3)上告審 平成23年(行ヒ)第85号
このような,意匠出願後の被請求人の行動の経緯を分析すれば,被請求人が意匠の冒認出願をしなければならなかった意図を容易に察することができる。

7.証拠方法
(1)甲第1号証:本件登録意匠(意匠登録第1318240号)の写し
(2)甲第2号証の1:入子の図面の写し
(3)甲第2号証の2:可動側入子の図面の写し
(4)甲第2号証の3:陳述書及び領収書(控)の写し
(5)甲第3号証の1:成形用金型写真1の写し
(6)甲第3号証の2:成形用金型写真2の写し
(7)甲第3号証の3:成形用金型写真3の写し
(8)甲第4号証:フープピンII型の実物写真の写し
(9)甲第5号証:製作仕様見積書の写し
(10)甲第6号証:フープピンの設計図(フィルゲート方式)の写し
(11)甲第7号証:製品実物写真図の写し
(12)甲第8号証:現場での話し合い(報告書)の写し
(13)甲第9号証の1:設計協議FAX図の1の写し
(14)甲第9号証の2:設計協議FAX図の2の写し
(15)甲第9号証の3:電話での指示の写し
(16)甲第10号証の1:設計協議FAX図の写し
(17)甲第10号証の2:製品実物写真図の写し
(18)甲第11号証の1:(金型製作)納品書(控)の写し
(19)甲第11号証の2:(金型製作)請求書(控)の写し
(20)甲第12号証の1:フープピンI型製品の納品書(控)の写し
(21)甲第12号証の2:フープピンI型製品の請求書(控)の写し
(22)甲第12号証の3:被請求人より発行された請求書の写し
(23)甲第12号証の4:相殺領収書の写し
(24)甲第12号証の5:支払約束手形の写し
(25)甲第12号証の6:領収書(控)の写し
(26)甲第13号証:金型製作費用の支払約束手形
(27)甲第14号証の1:フープピンII型製品の納品書(控)(1回目)の写し
(28)甲第14号証の2:フープピンII型製品の請求書(控)(1回目)の写し
(29)甲第14号証の3:被請求人より発行された請求書の写し
(30)甲第14号証の4:支払約束手形の写し
(31)甲第14号証の5:領収書(控)の写し
(32)甲第15号証の1:フープピンII型製品の納品書(控)(2回目)の写し
(33)甲第15号証の2:フープピンII型製品の請求書(控)(2回目)の写し
(34)甲第15号証の3:被請求人より発行された請求書の写し
(35)甲第15号証の4:支払約束手形の写し
(36)甲第15号証の5:領収書(控)の写し
(37)甲第16号証:金型代金支払相殺書の写し
(38)甲第17号証:注文書の写し
(39)甲第18号証:協議事項の写し
(40)甲第19号証の1:注文書(その1)の写し
(41)甲第19号証の2:請求書の写し
(42)甲第20号証の1:注文書(その2)の写し
(43)甲第20号証の2:撤回書の写し
(44)甲第21号証:警告書の写し
(45)甲第22号証:相殺通知書の写し

第2 被請求人の答弁および理由
被請求人は,請求人の申立および理由に対して,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする,との審決を求める。」旨の答弁をし,証拠として乙第1ないし4号証を提出した。

答弁の理由
1.答弁の要点
被請求人の代表取締役である杉山弘昭は,本件意匠の創作者であり,その出願時において,本件意匠について意匠登録を受ける権利を有する者であった。したがって,本件登録意匠は,意匠登録を受ける権利を有する者の意匠登録出願に対してされたものであり,意匠法第48条第1項第3号に該当しない。

2.杉山弘昭が創作者であることの証左
杉山弘昭は,『間隔をあけて平行に配置された多数本の貝吊り下げ具が,二本の貝止め突起の内側に設けられた二本の細紐状の連結材で連結された貝吊り下げ具』を独自に開発し,当該貝吊り下げ具について,平成15年3月13日に意匠登録出願(意願2003-6624)をした(乙第1号証の1乃至4)。
この意匠登録出願は,拒絶査定となったものの,杉山弘昭が独自に創作した前記貝吊り下げ具についての出願であって,意匠登録を受ける権利を有する杉山弘昭の出願であった。
杉山弘昭は,前記意匠登録出願以前から,当該意匠に係る貝吊り下げ具以外にも様々な形状の貝吊り下げ具を開発し,その一部について意匠登録出願を行った(一例として乙第2乃至4号証)。

3.請求人の主張について
杉山弘昭の本件登録意匠に係る貝吊り下げ具の開発は,請求人とは一切関係なく,杉山弘昭が独自に行ったものであり,杉山弘昭は,本件登録意匠の意匠登録出願時,その貝吊り下げ具について意匠登録を受ける権利を有していた。したがって,本件登録意匠が意匠法第48条第1項第3号に該当するとの請求人の主張は失当である。

4.結び
以上のとおり,本件登録意匠は,意匠登録を受ける権利を有する者の意匠登録出願に対してされたものであり,意匠法第48条第1項第3号に該当しないから,本件登録意匠は無効とされるべきではない。
よって,被請求人は,前記答弁の趣旨に記載のとおりの審決を求める。

5.証拠方法
(1)乙第1号証の1:意願2003-006624の意匠登録出願の写し
(2)乙第1号証の2:意願2003-006624の拒絶理由通知書の写し
(3)乙第1号証の3:意願2003-006624の意見書の写し
(4)乙第1号証の4:意願2003-006624の拒絶査定の写し
(5)乙第2号証の1:意願2003-006625の意匠登録出願の写し
(6)乙第2号証の2:意願2003-006625の拒絶理由通知書の写し
(7)乙第2号証の3:意願2003-006625の意見書の写し
(8)乙第2号証の4:意願2003-006625の手続補正書の写し
(9)乙第2号証の5:意願2003-006625の拒絶査定の写し
(10)乙第3号証の1:意願2002-025569の意匠登録出願の写し
(11)乙第3号証の2:意願2002-025569の特徴記載書の写し
(12)乙第3号証の3:意願2002-025569の拒絶理由通知書の写し
(13)乙第3号証の4:意願2002-025569の意見書の写し
(14)乙第3号証の5:意願2002-025569の拒絶査定の写し
(15)乙第4号証:意匠登録第1184322号意匠公報の写し

第3 請求人の弁駁書
本件登録意匠の本質的な部分である「ロープ止めの中央に2本の紐で継いだ構成態様」を備えた「シングルフープピンII型」に係る意匠の真の創作者は,請求人であるところ,被請求人は,請求人から意匠登録を受ける権利を承継しないまま本件登録意匠について意匠登録出願をしたものであり,本件登録意匠は,無効とされるべきものである。

1.本件登録意匠と甲第2号証の1の意匠とは,同一の意匠であり,被請求人の提出した乙第1号証の1の意匠とは,物品の形状・外観が明らかに異なる意匠である。
(1)本件登録意匠は,甲第1号証の正面図から明らかなように,「二本の紐はロープ止め突起内側直近に配設されている」ため,「二本の連結紐と上下のピンで形成される空間は横長長方形状」である点に美的感覚を現している。これに対する請求人の創作意匠(甲第2号証の1)も,「二本の連結紐と上下のピンで形成される空間は横長長方形状」である点に美的感覚を現しており,これは,甲第1号証の物品と外観上一致するものである。
(2)一方,被請求人の創作意匠である意匠登録出願意願2003-6624号(乙第1号証の1?4)について,この意匠においては,「継ぎ部」の特徴としては「二本の紐はピンの軸方中央部にある」点,及び該意匠登録出願の「正面図」から明らかなように,「二本の連結紐と上下のピンで形成される空間は縦長長方形状」である点,である。これに対して,本件登録意匠は,本件登録意匠(甲第1号証)の「正面図」から明らかなように,「二本の紐はロープ止め突起内側に直近に配設されている」ため,「二本の連結紐と上下のピンで形成される空間は横長長方形状」である点で大きく異なっている。「横長長方形状」の空間を形成している本件登録意匠では,広々として開放感や安定感がある印象となっているが,「縦長長方形状」の空間を形成している被請求人の意匠登録出願(乙第1号証)にあっては,二本の連結紐の間隔が狭く圧迫感や不安定感が感じられるというように,視覚を通じて美感を起こさせる機能が相違しており,見た目からして全く相違した意匠である。
(3)同様に,被請求人の創作意匠である意願2003-6625号の意匠登録出願(乙第2号証の1?5)について,この意匠においても,意願2003-6624号(乙第1号証の1?4)の意匠登録出願の場合と同様,「継ぎ部」の特徴としては「二本の紐はピンの軸方中央部にある」点,及び該意匠登録出願の「正面図」から明らかなように,「二本の連結紐と上下のピンで形成される空間は縦長長方形状」である点がある。これに対して,本件登録意匠は,「正面図」から明らかなように,「二本の紐はロープ止め突起内側直近に配設されている」ため,「二本の連結紐と上下のピンで形成される空間は横長長方形状」である点で大きく異なっている。「横長長方形状」の空間を形成している本件登録意匠では,広々として開放感がある印象となっているが,「縦長長方形状」の空間を形成している上記意匠登録出願(乙第2号証)にあっては,二本の連結紐の間隔が狭く圧迫感が感じられるというように,視覚を通じて美感を起こさせる機能が相違しており,見た目からして全く相違した意匠である。
(4)次に,意願2002-25569号の意匠登録出願(乙第3号証の1?5)について,この意匠においては,その「正面図」から明らかなように,「継ぎ部」の特徴としては「一本の紐がピンの軸中央部にある」点のみである。したがって,「二本の紐」をロープ止め突起内側直近に配設しているために「長方形状」の空間が形成されて安定感が醸し出されている本件登録意匠とは全く相違した意匠である。
(5)そして,意匠登録第1184322号(乙第4号証)について,この意匠においては,その「正面図」から明らかなように,「継ぎ部」の特徴としては「連結するための一枚のテープ状薄片」からなるものであるから,「二本の紐」をロープ止め突起内側直近に配設している本件登録意匠とは,視覚を通じて美感を起こさせる形状が全く相違した意匠である。
上記のとおり,被請求人が提出した上記の各意匠(乙第1ないし4号証)は,本件登録意匠とは全く相違した別の意匠に係るものである。
被請求人は,上記の各意匠(乙第1ないし4号証)は,被請求人自身が創作者であると答弁しており,この点について,請求人にとっては不知なことである。本件登録意匠とは全く相違した上記各意匠(乙第1ないし4号証)の創作者が被請求人自身であろうと,請求人が代表を務める会社の社員の職務発明であろうと何ら争うものではないが,本件登録意匠とは全く相違した上記各意匠(乙第1ないし4号証)の創作者が被請求人自身であるから,本件登録意匠の創作者は被請求人であるというような本末転倒した答弁は根拠のないものであって,到底容認されるような論拠ではない。
本件登録意匠の「継ぎ部」の特徴である「二本の連結紐をロープ止め突起内側直近に配設し,それぞれの連結紐とロープ止め突起との間にほぼ三角形に空間を形成すると共に,二本の連結紐の間隔を広くして二本の連結紐と上下のピンの間にロープを配置できる広さを有する横長長方形空間を形成する」といった点は,審判請求書に記載したとおり,まさに請求人により創作されたものに他ならない。

2.したがって,本件登録意匠の部分意匠の本質的な部分である「ロープ止めの中央に2本の紐で継いだ構成態様」即ち,「継ぎ部」を備えた「シングルフープピンII型」に係る意匠の真の創作者は,本件審判請求人である「MCI」の「三浦 勉」であり,業務上において密接に交流があった,被請求人「(株)むつ家電」の代表者「杉山 弘昭」は,「三浦 勉」から意匠登録を受ける権利を承継しないまま本件登録意匠につき意匠登録出願をしたものであるので,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第3号の規定に該当するため,無効とされるべきものである。


第4 口頭審理
本件審判について,当審は,平成25年1月17日に口頭審理を行った。(平成25年1月17日付口頭審理調書)
口頭審理において,審判長は,両者に対して,以後書面審理とする旨を告知した。
また,1 請求人が持参した甲第3号証の1ないし甲第3号証の3及び甲第4号証の実物原本を確認し,2 請求人が持参した甲第4号証の実物原本を審決作成まで預かり,審理終結と同時に返却するとした。

1.請求人
請求人は,審判請求書および平成24年9月24日付け審判事件弁駁書及び平成24年12月26日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。証拠として甲第1号証ないし第22号証の書証を提出した。口頭審理陳述要領書とともに参考資料として甲参考資料第1号証ないし第7号証の書証を提出した。
また,口頭審理において甲第3号証の1ないし3及び甲第4号証の実物原本を持参し,口頭審理をふまえた上申書を平成25年2月18日までに副本とともに特許庁に提出するとした。
そして,平成25年2月14日付け上申書とともに参考資料として,甲参考資料第8号証ないし第17号証の書証を提出し,その後,平成25年6月4日付け上申書(2)とともに参考資料として,甲参考資料第18号証ないし第20号証,甲参考資料第22号証ないし第24号証の書証を提出し,また,平成25年9月27日付け上申書(3)とともに参考資料として,甲参考資料第48号証及び甲参考資料第49号証の1ないし6の書証を提出し,さらに,平成26年9月3日付け上申書(4)とともに参考資料第50号証ないし第55号の書証を提出した。
(参考資料)
(1)甲参考資料第1号証 打ち合わせ議事録の写し
(2)甲参考資料第2号証 製品写真図1の写し
(3)甲参考資料第3号証 製品写真図2の写し
(4)甲参考資料第4号証 製品拡大写真図の写し
(5)甲参考資料第5号証 フープピンII型の「継ぎ部」の図の写し
(6)甲参考資料第6号証 成形用金型の部分拡大写真の写し
(7)甲参考資料第7号証 フープピンII型の実物の部分拡大写真の写し
(8)甲参考資料第8号証 回答書の写し
(9)甲参考資料第9号証の1及び甲参考資料第9号証の2 打ち合わせ議事録の写し
(10)甲参考資料10号証 金型改造費の負担検討依頼書の写し
(11)甲参考資料第11号証 FAX送信状の写し
(12)甲参考資料第12号証 FAX送信状の写し
(13)甲参考資料第13号証 FAX送信状の写し
(14)甲参考資料第14号証 カタログの写し
(15)甲参考資料第15号証 カタログの写し
(16)甲参考資料第16号証 返品されたフープピンの実物写真
(17)甲参考資料第17号証 相殺確認書の写し
(18)甲参考資料第18号証 特許侵害事件の「請求の趣旨」及び「請求の原因」の写し
(19)甲参考資料第19号証 平成16年3月30日付け特許侵害事件の「原告和解案」の写し
(20)甲参考資料第20号証 請求人が作成したフープ用P=4.00の製品設計図の写し
(21)甲参考資料第22号証 平成17年4月「契約書素案」の写し(甲参考資料第21号証は添付を省略)
(22)甲参考資料第23号証 平成17年5月10日付け「納品書(控)」の写し
(23)甲参考資料第24号証 平成17年5月20日付け「請求書(控)」の写し
(24)甲参考資料第48号証 「アゲピンの一括とりまとめについて」の写し
(25)甲参考資料第49号証の1ないし6 平成17年7月4日に生産された「紙管」を用いた芯管の(写真図1)ないし(写真図6)の写し
(26)甲参考資料第50号証 返品されたフープピンの「写真図」の写し
(27)甲参考資料第51号証 最初の自動ピンの図面の写し
(28)甲参考資料第52号証 ピンの図面の写し
(29)甲参考資料第53号証 2009年8月4日作成の「カタログ」の写し
(30)甲参考資料第54号証 貝穿孔写真の写し
(31)甲参考資料第55号証 答弁書第1頁及び第4頁の写し

2.被請求人
被請求人は,平成24年7月26日付け審判事件答弁書及び平成24年12月28日付け口頭審理陳述要領書及び平成25年1月15日付け上申書に記載のとおり陳述した。審判事件答弁書とともに証拠として乙第1号証ないし第4号証の書証を提出し,口頭審理陳述要領書とともに証拠として乙第5号証ないし第20号証の書証を提出した。乙第20号証において被請求人の意願2003-6631号の意匠登録出願の出願図面が提出されている。また,上申書とともに参考資料として乙参考資料第1号証ないし第12号証の書証を提出した。
口頭審理において,請求人が持参した甲第3号証の1ないし3及び甲第4号証の実物原本を確認した。また,請求人が持参した甲第4号証の実物原本(フープピンII型の実物)は,剥がした跡があり,テープも写っておらず,甲第3号証の実物原本の金型ともズレがあり,改ざんの疑惑がある旨主張し,さらに,甲第3号証の実物原本の金型をいつ作成したのか,作成日を確認できない旨主張し,請求人が平成25年2月18日までに提出する上申書に対する反論を上申書(2)として,平成25年3月18日までに,副本とともに特許庁に提出するとした。
その後,平成25年3月18日付け上申書(2)とともに,証拠として乙参考資料第13号証ないし第25号証の書証を提出した。また,平成25年8月7日付け上申書(3)とともに証拠として,乙参考資料第26号証ないし第39号証の3の書証を提出した。さらに,平成26年6月19日付け上申書(4)とともに,証拠として乙参考資料第40号証ないし第41号証の書証を提出した。

(証拠方法)
(1)乙第5号証 意匠登録第1153379号意匠公報の写し
(2)乙第6号証 意願2002-17915号の意匠登録出願の写し
(3)乙第7号証 意願2002-27711号の意匠登録出願の写し
(4)乙第8号証 自動ピンセッターの写真
(5)乙第9号証 特許第3375617号の特許公報の写し
(6)乙第10号証 意願2002-36767号の意匠登録出願の写し
(7)乙第11号証 意願2002-36779号の意匠登録出願の写し
(8)乙第12号証 特許第3375617号の特許異議申立書の表紙の写し(異議2003-71144号)
(9)乙第13号証 (株)M・C・Iエンジニアリング三浦課長宛メモ(篠崎メモ1)の写し
(10)乙第14号証 特許事務所宛メモ(篠崎メモ2)の写し
(11)乙第15号証 I型で成型した自動ピン及び篠崎メモ3の写真
(12)乙第16号証 II型で成型した自動ピン及び篠崎メモ4の写真
(13)乙第17号証 異議2003-71144号の異議決定の写し
(14)乙第18号証 杉山弘昭開発の「フープピンI型」の図面
(15)乙第19号証 杉山弘昭開発の「フープピンII型」の図面
(16)乙第20号証 意願2003-6631号の意匠登録出願の写し
(参考資料)
(1)乙参考資料第1号証 「むつ家電フープピン販売一覧」の写し
(2)乙参考資料第2号証 大同特殊鋼株式会社ホームページ「NAK55 NAK80」のカタログの写し
(3)乙参考資料第3号証 2005年9月1日付け「HP-80」の図面の写し
(4)乙参考資料第4号証 平成21年(行ケ)第10379号判決書の抜粋(1ページ及び37ページ)の写し
(5)乙参考資料第5号証 MCI宛のむつ家電からの手紙の写し
(6)乙参考資料第6号証 MCIとむつ家電の打ち合わせ議事録の写し
(7)乙参考資料第7号証の1?3 MCIからむつ家電への請求書及び内訳の写し
(8)乙参考資料第8号証の1?2 MCIとむつ家電が行ったミーティング議事録の写し
(9)乙参考資料第9号証 50本取りフープピンの写真の写し
(10)乙参考資料第10号証 請求人宛の金型代相殺売掛の写し
(11)乙参考資料第11号証 請求人宛FAXの写し
(12)乙参考資料第12号証 加工機械の写真の写し
(13)乙参考資料第13号証 商標公報の写し
(14)乙参考資料第14号証 意匠登録第1253339号の意匠公報の写し
(15)乙参考資料第15号証 特許第3375617号に関する契約書の写し
(16)乙参考資料第16号証 特許第3375617号に関する覚書の写し
(17)乙参考資料第17号証 ナイロン66「UBEナイロン」2020B(射出/非強化/標準)一般物性についての資料の写し
(18)乙参考資料第18号証 ナイロン樹脂「アミラン」グレード一覧の写し
(19)乙参考資料第19号証 「MCI フープピンの打ち合わせ」メモの写し
(20)乙参考資料第20号証の1?2 電話会談メモの写し
(21)乙参考資料第21号証 ピンの写真の写し
(22)乙参考資料第22号証の1?2 フープピンの新金型のサンプルの送り状の写し
(23)乙参考資料第23号証の1?3 フープピン新型のサンプルの写真及びその形状と引っ張り強度のメモの写し
(24)乙参考資料第24号証 平成15年(ワ)第15279号第10回弁論準備手続調書(和解)の写し
(25)乙参考資料第25号証 自動ピンセッターの写真の写し
(26)乙参考資料第26号証 乙参考資料第1号証の1,2のピンの写真の写し
(27)乙参考資料第27号証の1?2 乙参考資料第1号証の1,2のピンの図面の写し
(28)乙参考資料第28号証 乙参考資料第1号証の3のピンの写真の写し
(29)乙参考資料第29号証の1?2 乙参考資料第1号証の3のピンの図面の写し
(30)乙参考資料第30号証 乙参考資料第1号証の4のピンの写真の写し
(31)乙参考資料第31号証 乙参考資料第1号証の5のピンの写真の写し
(32)乙参考資料第32号証の1?2 乙参考資料第1号証の5のピンの図面の写し
(33)乙参考資料第33号証の1?15 2000年?2012年のダイアリーの写真の写し
(34)乙参考資料第34号証の1?2 ピンセッターの写真のCD
(35)乙参考資料第35号証の1?2 ドリルの写真の写し
(36)乙参考資料第36号証 ピンの図1及び図2の写し
(37)乙参考資料第37号証の1?2 フープピンII型の帳簿(数量及び売上金額表)の写し
(38)乙参考資料第38号証 ポリアミド樹脂(PA)についての資料の写し
(39)乙参考資料第39号証の1?3 ピンの請求書の写し
(40)乙参考資料第40号証の1?3 意願2013-19715の願書,拒絶理由及び拒絶査定の写し
(41)乙参考資料第41号証 甲参考資料第49号証の2の写真の写し


第5 当審の判断
当審は,本件登録意匠第1318240号は,意匠登録が創作者でない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しない者の意匠登録出願に対し,登録されたものであるとは認められず,意匠法第48条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるとは認められないので,無効とすることはできないものであると判断する。その理由は,以下のとおりである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1318240号の意匠)は,平成17年8月9日に意匠登録出願され,平成18年1月20日付けで拒絶の理由が通知され,意見書を提出したが,平成18年3月9日付けで拒絶査定がなされ,平成18年4月14日付けで拒絶査定不服審判2006-7226号を請求し,平成19年1月11日付け審決において拒絶査定が支持されたので,審決を不服として平成19年2月22日に知的財産高等裁判所に平成19年(行ケ)第10078号として出訴し,知的財産高等裁判所において平成19年6月13日に審決を取り消すべき旨の判決がなされ,それを受けて平成19年11月1日に登録をすべき旨の審決がなされ,平成19年11月22日に意匠権の設定の登録がなされたものであり,意匠に係る物品を「貝吊り下げ具」とし,その形態は,願書の記載および願書に添付された図面に記載されたとおりのものである。(別紙第1参照)
すなわち,本件登録意匠は,意匠に係る物品を「貝吊り下げ具」とし,その用途及び機能は,貝の養殖に使用される樹脂製のピンであり,使用時には連結材を切断してピンをロープに差し込み,貝の耳にあけた貫通孔にピンの一端を差し込んで使用されるものである。
本件登録意匠の願書の「意匠に係る物品の説明」には,「本件意匠に係る物品は,貝の養殖に使用される樹脂製のピン(吊り下げ具)が数千?数万本,平行に配置され,細い紐状の2本の樹脂製の連結材と一体成型されて連結されたものである。各ピンの長さは約7cmである。使用時には機械で連結材を切断してピンを一本ずつ切り離して使用する。連結材の切断箇所は任意に選択できる。例えば,参考正面図に示すように連結材を残さずに切断することもできるが,連結材をピンに残して切り離して,残った連結材をロープ止め突起として使用することもできる。切り離した個々のピンは,その長手方向一端からロープに差込み,ロープがピンの軸方向中間部の2本のロープ止め突起の間に位置するまで差込んで,ピンがロープから抜けないようにする。また,帆立貝の耳にあけた通孔にピンをその長手方向一端から差込み,ピンの軸方向両端の貝止め突起が通孔を貫通するまで差込んで,帆立貝を貝止め突起で係止して,帆立貝がピンから抜けないようにする。本件登録意匠に係る物品の長さは数10m?数100mといったように任意の長さにすることができ,それをボビンにロール状に巻いたり,ボビンを使用せずにロール状に巻くことができる。連結材はロール状に巻くことができるように可撓性のあるものとしてある。」とある。また,本件登録意匠の「意匠の説明」には,「実線で表された部分が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」「この意匠は正面図及び右側面図において上下にのみ連続するものである。」と記載されている。
本件登録意匠の実線で表された部分(以下,「本件実線部分」という。)の用途及び機能は,貝の養殖に使用されるロープから抜けないようにするための突起部(以下,「突起部」という。)のあるピンを繋ぎロール状に巻くためのものであり,その位置,大きさ及び範囲は,上下に連続するピンの2本の突起部と連結部を含む中央部分である。
本件実線部分の形態は,水平状の横棒状のピン(以下,「ピン」という。)の中央部に,左右に間隔を設けてピンと交差する垂直な2本の細紐状の連結部(以下,「連結部」という。)を設け,連結部の外側のピンの上方の左右に突起部を設け,その突起部は,正背面視を略「ハ」の字状に内側に傾斜した正背面視左右対称形状で,連結部で連結された略「ハ」の字状の突起部を有するピンが上下に間隔を設けて一列に並び上下に連続するもので,左右2本の連結部と上下2本のピンで囲まれた部分の正背面視が横長長方形状を呈するものである。
2本の連結部は切断した端面が小円形状の極細い紐状で,突起部は先端が円弧状で丸く,正背面視すると連結部より太く,ピンの水平状部よりわずかに細い円柱状で,ピンの水平状部は突起部より太い円柱状に形成されたものである。
左右2本の連結部と上下2本のピンで囲まれた横長長方形状部分の縦横比が約1:1.6であり,略「ハ」の字状の突起部は,ピンの水平状部との内角が約35度である。

2.請求人が主張する無効理由について
請求人は,本件登録意匠は,その意匠登録が意匠の創作をした者でない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しない者の意匠登録出願に対してされたもので,意匠法第48条第1項第3号に該当するものとして,その登録を無効とすべきである旨主張するので,以下検討する。

(1)金型設計図の意匠(甲第2号証の1の意匠及び甲第2号証の2の意匠)(別紙第2参照)
請求人が高橋技研に依頼した貝吊り下げ具の設計図が平成17年2月12日に完成し(甲第2号証の2),少なくとも平成17年3月1日の日付で開発がなされたもの(甲第2号証の1)であることが甲第2号証の3の陳述書に述べられている。
甲第2号証の1の意匠には一列に中央部分のみが表され,甲第2号証の2の意匠には貝吊り下げ具のピン全体が二列に表され,いずれも最上段と2段目,最下段とその上の段の2段ずつの形状が表されている。
請求人が自ら創作した意匠として提出した金型設計図(甲第2号証の1の意匠及び甲第2号証の2の意匠)の意匠における本件登録意匠の実線部分に該当する部分(以下,「設計図部分」という。)は,「フープピンII型」という「貝吊り下げ具」のピンを作成するための金型の設計図であり,その設計図に貝吊り下げ具の具体的な形状が表されている。
甲第2号証の1の意匠及び甲第2号証の2の意匠に表された金型設計図の金型によって成型される意匠に係る物品は,「貝吊り下げ具」と認められ,設計図部分の用途及び機能は,貝の養殖に使用されるロープから抜けないようするための突起部のある多数のピンを上下に繋いだものであり,その位置,大きさ及び範囲は,上下に連続するピンの2本の突起部と紐状の連結部を含む中央部分である。
その形態は,水平状の横棒状のピンの中央部に,左右に間隔を設けてピンと交差する垂直な2本の紐状の連結部を設け,連結部の外側のピンの上方の左右にロープ止め用の突起部を設け,突起部は,正背面視を略「ハ」の字状に内側に傾斜した正背面視左右対称形状で,連結部で連結された略「ハ」の字状の突起部を有するピンが上下に連続するもので,左右2本の連結部と上下2本のピンで囲まれた正背面視が横長長方形状を呈するものである。
2本の連結部は端面が偏平な長方形状の紐状で,突起部は先端が円弧状で丸く,正背面視すると連結部とほぼ同幅で,ピンの水平状部よりわずかに細い円柱状で,ピンの水平状部は突起部より太い円柱状に形成されたものである。
左右2本の連結部と上下2本のピンで囲まれた横長長方形状部分の縦横比が約1:1.8であり,略「ハ」の字状の突起部は,ピンの水平状部との内角が約35度である。
(2)甲第3号証の1ないし3(別紙第3参照)
甲第3号証の1には,請求人が甲第2号証の1の金型設計図によって作成した金型の写真が現されている。甲第3号証の2及び甲第3号証の3には,甲第2号証の2の設計図によって作成した金型の写真が現されている。
(3)甲第4号証(別紙第4参照)
甲第4号証には,当該金型から作成した貝吊り下げ具の写真が現されている。合議体は,口頭審理において,請求人が持参した甲第3号証の1ないし3及び甲第4号証の実物原本を確認した。

3.本件登録意匠と金型設計図(甲第2号証の1の意匠及び甲第2号証の2の意匠)との対比
(1)意匠に係る物品
まず,意匠に係る物品については,本件登録意匠は,「貝吊り下げ具」であって,金型設計図は,「フープピンII型」の「貝吊り下げ具」の金型の設計図に関するものであるが,甲第3号証及び甲第4号証の存在も考慮すれば,いずれも貝の養殖に使用される樹脂製のピンである「貝吊り下げ具」を具体的に表したものであり,意匠に係る物品は共通する。
(2)用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本件実線部分と設計図部分(以下,「両部分」という。)の用途及び機能は,貝の養殖に使用されるロープから抜けないようするための突起部のある多数のピンを上下に繋いだものであり,その位置,大きさ及び範囲は,上下に連続するピンの2本の突起部と紐状の連結部を含む中央部分であって共通する。
(3)形態
(3-1)形態における共通点
両部分には,(a)水平状の横棒状のピンの中央部に,左右に間隔を設けてピンと交差する垂直な2本の細紐状の連結部を設け,連結部の外側のピンの上方の左右にロープ止め用の突起部を設け,突起部は,正背面視を略「ハ」の字状に内側に傾斜した正背面視左右対称形状で,連結部で連結された略「ハ」の字状の突起部を有するピンが上下に連続している点,(b)左右2本の連結部と上下2本のピンで囲まれた正背面視が横長長方形状を呈する点,(c)突起部は,先端が円弧状で丸く,ピンの水平状部よりわずかに細い円柱状で,ピンの水平状部は突起部より太い円柱状に形成されている点,(d)突起部は,ピンの水平状部との内角が約35度である点,において主に共通する。
(3-2)形態における差異点
両意匠には,(ア)連結部について,本件実線部分は,端面が小円形状の極細いものであるのに対して,設計図部分は,端面が偏平な長方形状で,正背面視突起部と同幅である点,(イ)左右2本の連結部と上下2本のピンで囲まれた横長長方形状部分の縦横比について,本件実線部分は,約1:1.6であるのに対して,設計図部分は,約1:1.8である点,に主な差異が認められる。

そこで検討するに,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,両部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲が共通し,その形態において,両部分は,共通点(a)ないし(d)を有するものであるが,差異点(ア)及び差異点(イ)によって,明らかに両部分の形態は異なるものであり,両意匠は同一のものということはできない。

4.本件登録意匠の創作について
本件審判請求書にあるように,そもそも被請求人からの依頼によって,請求人が新規に「貝吊り下げ具」である「フープピン」の金型を製作することになったものであり,ロープ止め用の突起部の中央に2本の紐状の連結部で繋いだ態様の「貝吊り下げ具」について,請求人は,顧客である被請求人のロールピンの機能や性能の開発及び創作に関する相談に,適正に対応する必要があったということである。
請求人と被請求人とは,本件無効審判請求書によれば,「貝吊り下げ具」に関して,「意匠が容易に知られ得るほどに,技術的な交流があった」ということである。請求人が提出した甲第2号証の1及び甲第2号証の2の金型設計図について,請求人は平成17年3月19日付け納品書の控えの写し及び平成17年3月19日付け請求書の控えの写し(甲第11号証の1?2,別紙第5参照)を提出している。その請求書の支払は平成17年5月10日付けの約束手形の写し(甲第13号証,別紙第6参照)にあるように,被請求人から約束手形でなされたが,平成17年10月11日付けで支払相殺書(甲第16号証,別紙第7参照)が被請求人より出されている。
しかしながら,金型の支払いに関して,被請求人が応じなかったからといって,それで直ちに本件登録意匠が冒認出願であったとすることはできない。
被請求人は,本件登録意匠の出願前に突起部の中央に2本の紐状の連結部で繋いだ態様の「貝吊り下げ具」(乙第1号証,意願2003-6624号)(乙第2号証,意願2003-6625号)を意匠登録出願し,特許庁の審査において拒絶査定を受けている。それは,特許庁において顕著な事実である。
その事実に照らせば,被請求人は,本件登録意匠の出願前に突起部の中央に2本の紐状の連結部で繋いだ態様の「貝吊り下げ具」の意匠を既に発案していたと見ることができ,その隙間の形状は縦長長方形状のもの(乙第1号証,意願2003-6624号)(乙第2号証,意願2003-6625号)も,横長長方形状のもの(乙第20号証,意願2003-6631号)もいずれもその存在を認めることができるものであった。
また,突起部の中央の2本の紐状の連結部についても,本件登録意匠と同様の円柱形状の細紐状のものが,本件登録意匠の出願前に既に出願されており(乙第1号証,意願2003-6624号),突起部の中央に2本の紐状の連結部で繋いだ態様の貝吊り下げ具について,それを意匠登録出願するまでに具現化していたのは,請求人よりも被請求人の方が先であったということができる。
請求人は,甲第2号証の1及び甲第2号証の2の金型設計図に表された「フープピンII型」の「貝吊り下げ具」の意匠及びその金型によって製造した「貝吊り下げ具」について,請求人の独自創作である旨主張しているが,隙間の形状を横長長方形状にした点については,本件登録意匠との共通性を認めることができるが,その点だけで本件登録意匠が冒認出願であって無効とすべきものであるとすることはできない。
また,請求人は,本件登録意匠の全てを請求人が創作したものであると主張している。これに対して,被請求人は本件登録意匠の全てを請求人とは関係なく被請求人が創作したものであると主張し,両者の主張は食い違っている。
しかしながら,被請求人は,本件登録意匠出願前に,既に本件登録意匠と類似する意匠(乙第1号証及び乙第20号証)を発案しており,隙間の形状を本件登録意匠についての縦横比の横長長方形状にした点に,請求人が製造した金型の開発が製品の実際の製造に貢献していたとしても,その点は,意願2003-6631号(乙第20号証)において,被請求人の創作意匠にも見られるところであるから,本件登録意匠の全ての創作が冒認出願に係るものと断じることはできない。
突起部の中央に2本の紐状の連結部で繋いだ態様の「貝吊り下げ具」の創作をした時点で考えると被請求人の方が先にそのアイデアを創作し,意匠登録出願するまでに具現化させていたということができる。開発の経緯から考えても請求人が被請求人とは全く無関係に甲第2号証の1及び甲第2号証の2の金型設計図を作成したものとは認めがたく,実際の製品を製造する際に創意工夫を重ねた結果が請求人による当該金型設計図であるかもしれないが,それを作成したからといって,請求人が本件登録意匠について新たな創作をしたものであるとはいうことはできない。
被請求人は本件登録意匠の出願前に,突起部の中央に2本の紐状の連結部で繋いだ態様の「貝吊り下げ具」を既に発案していたことを合わせて考えてみると,請求人が新たに発案した部分は隙間の横長長方形状のみとなってしまい,隙間が横長長方形状のものも,請求人の金型設計図が完成する前に既に存在していたのであるから,本件登録意匠の出願前に,突起部の中央に2本の紐状の連結部で繋いだ態様の新規な「貝吊り下げ具」の意匠を請求人が全て創作したものとはいうことができず,その意匠登録を受ける権利を請求人のみが有していたともいうこともできない。
また,前記した通り,本件登録意匠と甲第2号証の1及び甲第2号証の2の金型設計図に表された意匠は,共通点を有するものではあるが,明らかな差異点が認められ,同一ではない。
そうすると,本件登録意匠は,創作者でない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しない者の意匠登録出願に対し,登録されたものであるとはいえず,請求人の本件登録意匠を無効とすべきものであるとする請求を認容することはできない。

5.小括
したがって,本件登録意匠は,請求人が無効事由を主張した意匠(甲第2号証の1及び甲第2号証の2の金型設計図に表された意匠)と同一ではないし,また,被請求人の金型製造の依頼より前に,被請求人が本件登録意匠の実線部分に類似する意匠を創作し,本件登録意匠の出願前の平成15年(2003年)3月13日に既に意匠登録出願を行っており,それに改良を加えて被請求人が本件登録意匠に係る意匠の出願に至ったものと推認することができるため,本件登録意匠が,その意匠を創作した者ではない者であって,その意匠について意匠登録を受ける権利を承継しない者の意匠登録出願について意匠登録を受けたものであるとはいうことができないから,本件登録意匠の出願は,いわゆる冒認出願であるとは認められず,無効理由を有さないものであって,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第3号に該当しないものと認められる。

第6 むすび
以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠法第48条第1項第3号の規定によって,その登録を無効とすることはできない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲



審理終結日 2015-03-23 
結審通知日 2015-03-25 
審決日 2015-04-17 
出願番号 意願2005-23092(D2005-23092) 
審決分類 D 1 113・ 15- Y (K2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 治子 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 中田 博康
江塚 尚弘
登録日 2007-11-22 
登録番号 意匠登録第1318240号(D1318240) 
代理人 小林 正治 
代理人 柿澤 紀世雄 
代理人 小林 正英 

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