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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立不成立) L3 |
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管理番号 | 1325935 |
判定請求番号 | 判定2016-600030 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2016-06-30 |
確定日 | 2017-03-21 |
意匠に係る物品 | 倉庫 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1381992号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 |
結論 | イ号意匠の図面及びその説明により示された「倉庫」の意匠は,登録第1381992号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 本件判定請求の趣旨及びその理由 1 請求の趣旨 本件判定請求人(以下,「請求人」という。)は,「イ号製品の意匠(以下,「イ号意匠」という。)は,登録第1381992号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める」と申立て,その理由として,要旨以下「2 請求理由」のとおりの主張をし,証拠方法として「3 添付物件」のとおり,甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。 2 請求の理由 (1)判定請求の必要性 ア イ号製品と被請求人との関係 被請求人のうち,株式会社北信越地域資源研究所は,イ号製品に示す構造物であるコンテナ様の資材を利用した飲食店・事務所を,一般の利用に供している者である。 また,中野一敏氏は,一級建築士であり,同建築物の設計を行った者である。 イ 請求人と被請求人の関係 請求人は,コンテナ型モジュール建築(コンテナハウス)のトータルサプライヤーであり,様々なタイプのコンテナ型モジュールを提供している者であり,物の保管の用途にとどまらず,例えば,住宅,店舗(飲食店,グッズショップ等)などを含むコンテナ型モジュール建築を提供している。(甲第1号証から甲第4号証) 請求人は,被請求人のうち,中野一敏氏(以下,「被請求人(2)」という。)との間で,下記ウで述べるメールのやりとりを行っている。 また,請求人は,被請求人との間で,本件登録意匠とイ号意匠の関係に関して,下記エで述べる書簡のやりとりを行っている。 ウ 請求人と被請求人(2)のメールのやりとりの概要 請求人は,被請求人(2)から問い合わせを受けたことをきっかけに,メールや電話でのやりとりを開始した。 請求人は,被請求人(2)の求めに応じて,平成27年4月8日に被請求人(2)に対し,コンテナの図面を送付した。送付時のメールにて,請求人は,「高さがノーマルコンテナですので,ハイキューブコンテナの場合,外面を2896mmに合わせて下さい」などと被請求人(2)の設計に資するための記載を書き添えた。 これに対し,被請求人(2)は,返信メールにて,図面送付に対する謝辞を述べるとともに,「納品先は上越妙高駅西口である」旨を述べている。 その後,同年4月9日から4月21日までの間,両者は,コンテナの納品や見積もり等について,数回にわたり,メールでやりとりしている。(甲第5号証) このような経緯から,請求人としては,被請求人(2)が,請求人から入手した図面を上越妙高駅西口に設置する施設の設計に利用する意図であると考えていたが,この図面を利用するのだとすれば,実際のイ号製品の製造に際しても請求人販売に係るコンテナモジュールを発注するものと考えていたが,請求人のコンテナモジュールの販売については,その後,実現せずに終わっている。 エ 請求人と被請求人の書簡のやりとりの概要 (ア)平成28年5月2日付けで,請求人は,代理人である弁理士・工藤一郎を通じて,被請求人に対して,本件意匠に係る記載を含む書簡(警告書)を送付した。 この書簡において,請求人は,「被請求人は,上越妙高駅前『フルサット』にていわゆるコンテナ様の資材を利用した飲食店・事務所を建設し,一般の利用に供しようとしているが,当該建築物は意匠登録第1381992号に係る意匠権(以下「本件意匠権」という。)を侵害するものと考えられるところ,意見を賜りたい」旨を述べた。 (イ)その後,回答期限の猶予に関するやり取りの後,同年5月23日付けで,被請求人の代理人から,書簡(回答書)が送付された。 その書簡において,被請求人は,「本件意匠権を侵害すると思われる『建築物』を確認できなかったことから,警告書に対する意見を書面にて回答することはできない。」と述べるとともに,次の点を含む要望を示し,意見を留保した。 「『建築物』について,本件意匠と対比した上で,本件意匠権を侵害する理由(類似する理由)を示されたい。」 (ウ)これを受けて,同年6月1日に,請求人の代理人は,被請求人の代理人に対して,書簡を送付し,その書簡において,請求人は,改めて本件登録意匠の特徴を説明し,当該建築物は本件登録意匠に類似する旨を述べた。 (エ)これに対して,被請求人の代理人は,請求人の代理人に対して,同年6月6日付け書簡(回答書)を送付し,その書簡において,被請求人は,請求人が挙げた本件登録意匠の特徴に言及しつつ,本件登録意匠と当該建築物は類似しない旨を述べた。 (2)本件登録意匠の手続の経緯 本件登録意匠の手続の経緯は,次のとおりである。 出願 平成21年7月9日(意願2009-015644号) 登録査定 平成21年12月28日(起案日),(平成22年1月7日発送) 設定登録 平成22年2月5日(登録第1381992号) (3)本件登録意匠の説明 ア 意匠に係る物品 組立て倉庫(当審注:意匠登録1381992号の意匠に係る物品は「倉庫」である。) イ 基本的構成態様 柱および梁を含むフレームに屋根板,壁板,床板などを取り付けて構成される鋼製の組立て倉庫であって,以下の点を基本的構成態様とするものである。 (A)正面方向から見て左右方向に並列した部屋を備える (B)看者が前面中央(当審注:「全面央」としていたが,「全面中央」と認められる。)から背面側を見通すことができる態様であり,見通すことができる部分(以下,「貫通通路」ということがある。)の上面が屋根で覆われている (C)各室の前面側に左右方向に貫通する外廊下を備え,外廊下の上面が庇状の屋根で覆われている (D)出入り口が正面長手方向に存在している ウ 具体的構成態様 (E)出入用の四個の扉の形状は,略合同の長方形 (F)屋根に細長い略長方形の補強用のコンテナ様の窪みが施されている (G)屋根の形状が全体として平板 (H)正面の出入口が貫通通路を除いて略等間隔に4つ存在する (I)貫通通路内の左右の壁が平板である エ 本件登録意匠の特徴 本件登録意匠は,上記イで挙げた(A)から(D)の基本的構成態様を有することを特徴とするが,後記(5)で述べるように,特に出入口が正面長手方向に存在しているにもかかわらず,正面から見て貫通通路が存在し,貫通通路の上面が屋根で覆われているという基本的構成態様(B)及び(D)の特徴が際立っており,本件登録意匠の支配的特徴を構成する。 (4)イ号意匠の説明 ア イ号製品 イ号意匠は,北陸新幹線上越妙高駅西口駅前広場の「フルサット」に所在するコンテナ様資材を利用した構造物(被請求人の提供するホームページに掲載されているもの)であって,上記設置場所において,店舗等として使用しているものである(甲第6号証)。 イ イ号意匠の構成態様 イ号意匠の構成態様は,本件登録意匠の各構成態様(A)から(I)に対応させて説明すれば,以下のとおりと特定することができる。 (a)正面方向から見て左右方向に並列した部屋を備える (b)看者が前面中央(当審注:「全面央」としていたが,「全面中央」と認められる。)から背面側を見通すことができる態様であり,見通すことができる部分の上面が屋根で覆われている (c)外廊下は存在しないが,屋根が庇状に張り出しているので,廊下に相当するスペースが存在する (d)出入り口が正面長手方向に存在している ウ 具体的構成態様 (e)出入用の四個の扉の形状は,略合同の長方形 (f)屋根に細長い略長方形の補強用の窪みが施されている (g)屋根の形状が三角形状 (h)正面の出入口が正面から見て貫通通路の左側に4つまとまって存在している (i)貫通通路内の左右の壁に出入口が設けられている (5)両意匠の比較検討 ア 両意匠の共通点と相違点 本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると,本件登録意匠の基本的構成態様として,(A)(B)及び(D)と(a)(b)及び(d)の点でイ号意匠の基本的構成態様と一致する。 そして,厳密には相違する(C)と(c)の点においても,イ号意匠においても,屋根が庇状に張り出しているので,廊下に相当するスペースが存在するので,美感に影響を与える相違ではない。 したがって,本件登録意匠とイ号意匠は,基本的構成態様において実質的に一致する。 他方,具体的構成態様においては,両意匠は,(E)及び(F)と(e)及び(f)の点で共通するものの,(G)から(I)と(g)から(i)の点で相違する。具体的には,以下のとおりである。 (G)登録意匠では屋根の形状が平板であるのに対して,(g)イ号意匠では屋根の形状が三角形状である (H)登録意匠では正面の出入口が貫通通路を除いて略等間隔に4つ存在するのに対して,(h)イ号意匠では正面から見て貫通通路の左側に4つまとまって存在している (I)登録意匠では貫通通路内の左右の壁が平板であるのに対して,(i)イ号意匠では貫通通路内の左右の壁に出入口が設けられている イ 両意匠が類似すること そこで,かかる相違点を踏まえても,両意匠が類似しているか検討する。 そして,意匠の類否判断においては,基本的構成態様,具体的構成態様の比較のほか,物品の使用態様をも適宜考慮されるものであり,ありふれた改変など美感に特段の影響を与えない特徴については,意匠の類否判断において重視されるものではない。 (ア)まず,屋根の形状としては,平板な形状も三角形状も,いずれも一般的にありふれている形状である(甲7号証)。 そうすると,一般的な屋根の形状を本件登録意匠に応用することで,イ号意匠に容易に辿り着くことができるものであり,改変容易なものである(I,i)。 また,出入口が存在する場所は,一般的に出入口が存在する建物において様々なものが存在し,いずれも一般的にありふれた態様の1つであるから,出入口が存在する場所という具体的構成態様が異なるからといって,全体の美感に影響を与えるものではない(J,j)。 さらに,(K)登録意匠では貫通通路内の左右の壁が平板であるのに対して,(k)イ号意匠で貫通通路内の左右の壁に出入口が設けられていることについては,以下の点において,両意匠の全体の美感に大きな差異をもたらすものではない。 すなわち,登録意匠における組立て倉庫の貫通通路部分は,その構造上,人が行き来するということが可能となっている。 そうすると,本登録意匠に係る組立て倉庫の使用態様としては,単なる物の保管という枠を超えて,貫通通路部分を人が行き来することを想定することができる。そして,登録意匠は,同一サイズ・同一形状の直方体からなる構成部分が組み立てられ,その各構成部分の内部は空間をなしているのであるから,組立て倉庫内の内部空間を店舗や事務室などに利用することも当然に想起することができる。店舗や事務室などの使用態様において,貫通通路内の左右の壁に出入口が設けられていることは,通常有り得るものであり,美感の特徴に大きな影響を与えるものではない。 (イ)これに対して,基本的構成態様の(B)及び(D)を兼ね備えた「出入口が正面長手方向に存在しているにもかかわらず,正面から見て貫通通路が存在し,貫通通路の上面が屋根で覆われている」という特徴は,以下の点において,両意匠の美感に決定的な影響を与え,両意匠の支配的特徴を構成する。 すなわち,倉庫は,本来的には,「物の保管」するための構造物であり,人が生活するわけでも更には飲食をするためのものでもない。このような前提のもとにおいては,倉庫において,頑丈さや大きさが探求されることはあっても,デザイン性が探究される動機付けもなければ,更には人が倉庫内部を通り抜けるための貫通通路を設けるという発想にいきつかない。このような貫通通路を設ける発想は,請求人が,倉庫の内部空間を利用して飲食店を営んだりグッズショップを営むという,それ自体斬新な発想に基づいて長年事業を進めてきた結果として辿り着いたものであり,本来的な倉庫の使用態様からは想定し得ない極めてユニークな創作である。 そして,トラックの荷台部分に積まれているコンテナに象徴されるように,従来から,コンテナの出入口はコンテナの短手方向に存在するのが一般的である。長手方向に出入口を設けることに合理性が出てくるのは,倉庫の内部空間を利用して飲食店を営んだりグッズショップを営むという発想を前提にすることにより,内部空間での移動距離を最小限にしようという目的が生じるからである。 さらに,出入口が存在する場所と通路など屋外に屋根を設ける場所とが異なっていることは,屋根が雨避け等の役割を果たすものであることを考えると特異な特徴である。 これらを裏付けるように,そもそも「出入口が正面長手方向に存在しているにもかかわらず,正面から見て貫通通路が存在し,貫通通路の上面が屋根で覆われている」倉庫やコンテナは,多数の画像がヒットした画像検索においても一例も存在しない(甲第8号証)。 加えて,貫通通路の正面幅は倉庫全体の相当程度を占めており,倉庫を正面から見た場合,この貫通通路の存在が非常に大きなインパクトをもって看者の目に飛び込んでくる。 以上からすれば,両意匠の美感に決定的な影響を与えるのは両意匠の共通点である「出入口が正面長手方向に存在しているにもかかわらず,正面から見て貫通通路が存在し,貫通通路の上面が屋根で覆われている」という点であり,(G)から(I)と(g)から(i)の相違点は,いずれも両意匠の美感に大きな影響を与えるものではない。 したがって,両意匠は,類似する。 (6)結論 よって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものである。 3 証拠方法 甲第1号証 請求人のホームページの記事 甲第2号証 請求人が提供してきたコンテナ型構造物の一例写真 甲第3号証 「楽天koboスタジアム宮城 楽天イーグルスショップ」で検索した場合の画像一覧 甲第4号証 「新豊洲マジックビーチ」で検索した場合の画像一覧 甲第5号証 請求人と中野一敏氏とのメール 甲第6号証 イ号製品 甲第6号証の2 イ号製品(イ号製品部分を赤で囲んだもの) 甲第7号証 一般的な屋根の形状の画像 甲第8号証 「倉庫 コンテナ」で検索した場合の画像一覧 第2 被請求人の答弁 1 答弁の趣旨 イ号図面代用写真並びにその説明書に示すイ号製品の意匠(以下,「イ号意匠」という。)は,意匠登録第1381992号の意匠(以下,「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求める。 2 答弁の理由 (1)本件登録意匠について ア 意匠に係る物品 請求人は「組立て倉庫」と主張するが,誤りである。意匠登録原簿によれば,本件登録意匠の意匠に係る物品は,「倉庫」である。 イ 基本的構成態様 (ア)全体形状は,正面視において,縦横比率を約1対2.3,側方視の縦横比率を約1対1とする略横長直方体である。 (イ)略横長直方体の前方の略2分の1の容積部分を空間部分とし,後方の奥まった,略2分の1の容積部分を,倉庫のための部屋部分としている。 ウ 具体的構成態様 (ウ)部屋部分は,正面視左方に2部屋,右方に2部屋の合計4部屋が設けられ,各部屋の正面には,天井寄りにやや余地部を残して,各部屋の正面部ほぼ全面の大きさの,手前に開く開き戸が設けられている。 (エ)部屋部分の左右中間位置には,一部屋の左右幅と略同幅の通路が貫通している。通路の奥行は,倉庫全体の奥行きの略2分の1である。 (オ)略横長直方体の上面部には,平面図及び参考斜視図によれば,前方から後方に向かう細幅の突条を,当該突条幅の略2倍の幅で等間隔に規則的に形成した,略平坦面状の屋根を形成している。 (カ)空間部分は,部屋部分の正面側に設けられ,床面を有し,天井には,略平坦面状の屋根の裏面が表れており,正面前部左右角部にそれぞれ断面L字状の細い柱が垂立している。 (キ)略横長直方体の左右側面部は,背面寄り約2分の1を縦長矩形状の壁部とし,正面寄り約2分の1を縦長矩形状の開口部としている。 エ 本件登録意匠の特徴 本件登録意匠の基本的構成態様である,(ア)全体が,正面視の縦横比率を約1対2.3,側方視の縦横比率を約1対1とする横長直方体形状とし,(イ)正面視,略横長直方体の前方の略2分の1の容積部分を空間部分とし,後方の奥まった,略2分の1の容積部分を,物を入れるための部屋部分とした態様は,従来の意匠に見られない斬新な態様である。また,具体的構成態様である,(ウ)部屋部分は,正面視左方に2部屋,右方に2部屋の合計4部屋が設け,(エ)部屋部分の左右中間位置に一部屋の左右幅と略同幅の通路が貫通している態様,及び(カ)空間部分が,部屋部分の正面側に設けられ,床及び天井を有するテラスの雰囲気を醸し出している態様もまた,従来の意匠に見られない斬新な態様である。 そして,需要者の注意を最も強く惹く本物品の正面視において,本件登録意匠は,全体構成が,左右対称形状の秩序立った安定感を呈する,コンパクト感を醸し出している。 (2)イ号意匠について ア イ号意匠の特定について 請求人が主張する「フルサット」は,被請求人が,コンテナを利用して建設した商業施設であり,北陸新幹線上越妙高駅西口駅前広場に所在(〒943-0861新潟県上越市大和5丁目12 大和5-26-1)し,店舗等として使用しているものである(乙第1号証)。 しかし,請求人が,甲第6号証及び甲第6号証の2により特定したイ号意匠は,甲第6号証の2の「正面」と手書きされた写真版から判断して,商業施設「フルサット」(以下,「本施設」という。)の一部分である,一番奥の建築物部分を指しているものと考えられる(乙第2号証)。 イ 物品性について (ア)不動産であること イ号意匠を含む,本施設は,不動産である。 なぜならば,本施設は,新潟県上越市大和5丁目12 大和5-26-1の北陸新幹線上越妙高駅西口駅前広場という特定の土地の形状に合わせて建設された一品製作の建築物(不動産)だからである(乙第1号証)。 本施設は,動産である複数のコンテナを利用して建設されたものではあるが,当該建設現場において,その場で,職人により,複数のコンテナに屋根など設置したものであって,「工業的に量産され,販売時に動産として取り扱われるもの,例えば,門,組立てバンガロー」(意匠審査基準21.1.1.1(2)丸1)には,該当しない。 (イ)物品の一部分であること イ号意匠は,全体が扇型を呈する,不動産である本施設の一部分である(乙第2号証)。 すなわち,イ号意匠と隣接する建築部分は,屋根で物理的に一体となっていることが,甲第6号証の2の「右側図」及び「背面」の写真版,及び,乙第2号証の「フルサット 平面図」から,明らかである。 以上のとおり,イ号意匠は,「その物品を破壊することなしには分離できないもの(途中,省略)は,それのみで通常の取引状態において独立の製品として取引されるものではないことから,物品とは認められない。」との,意匠審査基準21.1.1.1(2)丸4に該当するものである。 (ウ)小括 以上のとおり,イ号意匠は,意匠法の物品に該当しない不動産であり,しかも,これは,不動産の一部分である。 したがって,イ号意匠は,意匠法上の物品に該当しないものである。 ウ イ号意匠の形態の基本的構成態様 (ア)イ号意匠は,正面視において,左側店舗部分と右側店舗部分の2つの店舗部分から構成されている。左側店舗部分の縦横比率は約1対4であり,右側店舗部分の縦横比率は約1対2である。そして,左右の店舗部分は,右側店舗部分の左右幅と略同幅の通路が形成されている。 左右の店舗部分を含めた,イ号意匠の全体形状は,正面視において,縦横比率を約1対6とする横長長方形状を呈している。そして,左側店舗部分の左側方視の縦横比率は約1対1.5であり,右側店舗部分の右側方視の縦横比率は約1対0.85である。 エ具体的構成態様 (イ)左側店舗部分は,正面部の右端寄りに4枚のガラス引き戸が設置され,その余の部分には,やや幅広の垂直突条部が等間隔に形成されている。 (ウ)右側店舗部分は,正面全面に,やや幅広の垂直突条部が等間隔に形成されている。 (エ)左右の店舗部分及び通路の上部には,左右方向に切り妻屋根が形成されている。 (オ)通路の上部には,正面側から背面側方向に切り妻屋根が形成されており,平面視において,屋根部全体は,変形十文字条を呈している。(乙第2号証 「フルサット平面図」)。 (カ)通路内部の左右側面は,商業施設の出入口等が形成され,複雑な形状を呈している。 (キ)左右方向の切り妻屋根は,左右側面視において,左右の店舗部分の壁部上端から,やや突出して傾斜した庇を形成している。 (ク)イ号意匠の左右側面部は,いずれも全体が壁部を形成し,人間の出入りできる開口部は存在しない。また,上部に山形状の切り妻屋根が形成されている。 オ 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断 (ア)意匠に係る物品 前述のとおり,本件登録意匠が「倉庫」であるのに対し,イ号意匠に係る物品は,不動産である本施設の一部分であって,意匠法上の物品に該当しない。 したがって,本件登録意匠とイ号意匠の意匠に係る物品は,意匠法上,同一または類似する物品とは,到底言うことができない。 (イ)形態の共通点 本件登録意匠とイ号意匠の形態の共通点を敢えて挙げるならば,全体が,横長の箱体を呈し,正面から背面に抜ける通路を有している。 (ウ)形態の相違点 1)全体構成について 本件登録意匠は,一つの横長直方体形状のコンテナであるのに対して,イ号意匠は,左側店舗部分が,いわゆる,40フィートコンテナであり,右側店舗部分は,いわゆる,20フィートコンテナという大きさの異なる2つのコンテナから形成されている。そのため,正面視において,本件登録意匠は,左右対称形状の秩序立った安定感を呈する,コンパクト感を醸し出しているのに対して,イ号意匠は,左右非対称形状を呈する,非常に大きなダイナミック感を醸し出している。 2)屋根について 本件登録意匠の屋根は,全体が略平坦面状を呈しているのに対し,イ号意匠は,大小2つの切り妻屋根で形成され,平面視すると変形十文字状を呈している。 3)空間部分について 本件登録意匠の空間部分は,部屋部分の正面側に設けられ,床及び天井を有するテラスの雰囲気を醸し出して,一つの空間を演出しているのに対して,イ号意匠は,単に切り妻屋根の傾斜する庇が僅かに突出しているだけであり,本件登録意匠の空間部分に相当する空間部分は存在しない。 4)通路について 本件登録意匠の通路は,一つのコンテナの左右中間位置に,略平坦状の屋根の裏面及び床面を有して形成され,更に,内部の左右側面は,平坦面状を呈しているのに対して,イ号意匠の通路は,上記のとおり,大小2つのコンテナをやや間隔を空けて設置した結果形成されたものであって,切り妻屋根の裏面が表れ,また,床面は有さず,更に,当該通路内部の左右側面は,商業施設の出入口等が形成され,複雑な形状を呈している。 (エ)形態の共通点の評価 共通点は,概念的なものであって,類否判断には,全く影響を及ぼさない。 (オ)形態の相違点の評価 1)ないし4)の相違点は,両者を全体観察した場合,需要者に対し,全く異なる美感を呈しているものであって,本件登録意匠とイ号意匠との類否判断を決定づけている。 (カ)小括 以上のとおり,本件登録意匠とイ号意匠は,その形態において,相違点が共通点を凌駕し,意匠全体として観察した場合に,全く異なる美感を醸し出しているものである。 (3)結論 よって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 3 証拠方法 乙第1号証 フルサットのホームページ 乙第2号証 フルサット全景のイメージ及び平面図 第3 被請求人の答弁に対する請求人の弁駁 1 答弁書に対する弁駁 答弁書の記載の被請求人の主張につき,必要な範囲で反論する。 (1)イ号意匠が意匠法上の「物品」に該当すること ア そもそも,被請求人が主張する内容であるイ号意匠の要素としての「物品」を動産に限定することは,法律に明文の規定があるものではない(例えば,法2条1項などを参照。以下,意匠法につき「法」という。)。判定請求物であるイ号意匠には,一般に工業上利用可能性は要件とされない(法23条)。工業上利用可能性が要件とされるのは,登録意匠となる意匠についてである(法3条1項柱書。)。登録意匠のための要件として工業上利用可能性が必要とされていること(法3条1項)を先取りして意匠の登録要件としての「物品」を解釈する場合があるが,この解釈をイ号意匠の物品の解釈にまで拡大することは法解釈上無用である。 イ 仮に被請求人が主張するように工業的に量産することが可能であるとの判断をすることが判定請求上必要な要件であるとしても,本件におけるイ号意匠は,工業的に量産することが可能な物であり,要素としての物品性を有していると考えられる。そして,工業的に量産することが可能な物とは,反復再現可能な物であると換言することができるところ,生産者(「職人」であるか否か)や生産場所は問わないというべきである。 本件におけるイ号意匠は,被請求人が言うように現地で一部がくみ上げられたものであるとしても,コンテナを基本要素として配置し,付随的にありふれた形態の屋根などを組みつけたものであり,その形態は,全体として反復再現可能な形態である。 したがって,本件におけるイ号意匠は,工業的に量産することが可能なものである。 ウ 以上からすれば,本件におけるイ号意匠が「物品」に該当するかを判定請求上判断することは不要であるが,もし必要であるとしても,イ号意匠が「物品」に該当することは明らかである。 (2)特定されるイ号意匠 ア 被請求人は,「イ号意匠は,全体が扇型を呈する,不動産である本施設の一部分である(乙第2号証)。すなわち,イ号意匠と隣接する建築部分は,屋根で物理的に一体となっていることが,甲第6号証の2の『右側図』及び『背面』の写真版,及び,乙第2号証の「フルサット 平面図」から,明らかである。以上のとおり,イ号意匠は,『その物品を破壊することなしには分離できないもの(途中,省略)は,それのみで通常の取引状態において独立の製品として取引されるものではないことから,物品とは認められない。』との,意匠審査基準21.1.1.1(2)丸4に該当するものである。」と主張している。 しかし,意匠審査基準の上記該当箇所(以下,単に「審査基準」として引用する)には,「その物品を破壊することなしには分離できないもの,例えば,『靴下』の一部である『靴下のかかと』は,それのみで通常の取引状態において独立の製品として取引されるものではないことから,物品とは認められない。ただし,完成品の中の一部を構成する部品(部分品)は,それが互換性を有しており,かつ通常の取引状態において独立の製品として取り引きされている場合には,物品と認められる。」と記載されており,仮にイ号意匠が上記ただし書にいう「それが互換性を有しており,かつ通常の取引状態において独立の製品として取り引きされている場合」にあたるのであれば,イ号意匠は物品にあたることとなる。 イ そこで検討するに,イ号意匠は,被請求人自身が認めているように,左側店舗部分である40フィートコンテナと,右側店舗部分である20フィートコンテナという2つのコンテナから形成されているものであると認められる(7(2)エ(本件登録意匠とイ号意匠の類否判断(ウ)1)参照)。 40フィートコンテナや20フィートコンテナが量産可能な独立の製品として取引されているものであることは,請求人の商品サイト(URL:https://www.dvlp.jp/product/lineup.html)に当該商品が掲載されていること(甲第9号証)からも明らかである。また,当該サイトにも掲載されているように,通常の取引において,これらコンテナをカスタマイズしてイ号意匠のような形態としたものを取引対象として量産できることも明らかである。 特に,イ号意匠に関しては,判定請求書甲第5号証として提出済みの「請求人と中野一敏氏とのメール」において示したとおり,請求人と被請求人の一人である中野一敏氏との間で,40フィートコンテナ及び20フィートコンテナを対象として,請求人が中野一敏氏の要望に応じてカスタマイズしたものを製造する場合の費用見積もりなどに関するやりとりが行われていたという経緯がある。そして,かかる経緯から,両者の間で,当然このカスタマイズされたコンテナが販売対象であることが前提とされていたといえる。したがって,イ号意匠にかかる物品の取引という具体的なケースに関しても,中野一敏氏の要望に応じてカスタマイズされたコンテナとして,請求人が製造し,取引することが可能であったことが明らかである。 また,このような40フィートコンテナや20フィートコンテナ,あるいはこれらをカスタマイズしたイ号意匠のような製品は,これを量産することが可能であることから,これらは互換性を有するものであるといえる。 以上より,イ号意匠は,被請求人のいう「本施設」(審査基準にいう「完成品」)の中の一部を構成する部品(部分品)であって,互換性を有しており,かつ通常の取引状態において独立の製品として取り引きされているものであるから,物品と認められ,一の意匠として認定されるものである。 ウ なお,被請求人は,イ号意匠が物品とは認められない理由として,イ号意匠は審査基準にいう「その物品を破壊することなしには分離できないもの」にあたるということも挙げている。この点に関しては,審査基準に「その物品を破壊することなしには分離できないもの,例えば,『靴下』の一部である『靴下のかかと』は,それのみで通常の取引状態において独立の製品として取り引きされるものではないことから,物品とは認められない。」とあるように,「その物品を破壊することなしには分離できないもの」は「それのみで通常の取引状態において独立の製品として取り引きされるものではない」のであるから,上述のように独立の製品として取引対象となるイ号意匠が「その物品を破壊することなしには分離できないもの」にあたらないことは明らかである。したがって,この点についても被請求人の主張は妥当ではない。 (3)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠範囲に属すること 一般に,イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かの判断にあたっては,本件登録意匠とイ号意匠の2意匠のみを対比して決せられるべきものではなく,本件登録意匠の出願前の先行公知意匠等の存在を参酌して,先行意匠に存在しない本件登録意匠の新規部分を類否判断の要部ととらえ,まずイ号意匠にこの要部が共通しているか否かが判断され,要部が共通している場合には,本件登録意匠とイ号意匠の差異点に係る態様がどれほど特徴のあるものかが判断され,その特徴が共通点を凌駕していなければイ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属すると判断されることとなる(「裁判例における意匠の類否判断の具体的な手法」(特許庁審議会参考資料)https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/isyou03/07.pdf参照)。 本件では,判定請求書(甲第8号証含む。)で述べたとおり,本件登録意匠は,正面から見て貫通通路が存在し,貫通通路の上面が屋根で覆われているという基本的構成態様の特徴が先行公知意匠と比較して際立っており,本件登録意匠の支配的特徴を構成し,かかる特徴が従来にはない新規部分であるから,この部分が本件登録意匠とイ号意匠の類否判断における要部に当たる。 イ号意匠と本件登録意匠との比較において被請求人が差異点として挙げている点は,上述のように貫通通路という特徴点を凌駕するようなものではないと言える。 このことの意味するところは,意匠に触れた者からすれば,このような「正面から見て貫通通路が存在し,貫通通路の上面が屋根で覆われていること」により部屋に入ることなく屋根のある通路を通って正面から裏側にでるという他の先行意匠にない景色を体感できる。したがって,このような「正面から見て貫通通路が存在し,貫通通路の上面が屋根で覆われている」建物の意匠どうしは,看者にとっては同様の今までにない美感を惹起するものといえる。 被請求人は,「形態の共通点」として,「本件登録意匠とイ号意匠の形態の共通点を敢えて挙げるならば,全体が横長の箱体を呈し,正面から背面に抜ける通路を有している。」と述べた上で,かかる共通点は,「概念的なものであって,類否判断には,全く影響を及ぼさない」としている。しかし,「概念」と「美感」とがどのような関係であるとの前提に立ったうえでの主張であるか不明である。 被請求人が挙げている形態上の相違点は,上述の支配的特徴に比べれば,細部的な事項にすぎず,類否判断を決定づける要素ではない。本件登録意匠の支配的特徴はあくまで「正面から見て貫通通路が存在し,貫通通路の上面が屋根で覆われていること自体」によって生じる美感にあるのであって,その具体的形状には各種のバリエーションがあり得るが,例えば被請求人が挙げているような,屋根裏の形状が平板か切り妻かとか,左右の壁に出入口が設けられているかといったことはさほど重要なことではないといえる。特に,正面から裏側に貫通通路を通って体感できる美感は先行公知意匠では体感できなかった類のものであり,このことの帰結として,通路の内部に立って左右の壁や上部の屋根裏を観察できるという新たな視点が与えられたことは画期的なものといえる。 2 証拠方法 甲第9号証 請求人の商品サイト(URL:https://www.dvlp.jp/product/lineup.html)の記事 第4 当審の判断 1 意匠の認定 (1)本件登録意匠 本件登録意匠は,平成21年(2009年)7月9日に出願され(意願2009-015644号),平成22年(2010年)2月5日に登録の設定(意匠登録第1381992号)がされたものであって,意匠に係る物品,及びその形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,「形態」という。)を,願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたものであり(別紙第1参照),具体的には以下のとおりのものと認められる。 1)意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は,物を収納するための「倉庫」である。 2)形態 ア 基本的構成態様 本件登録意匠の基本的構成態様は,正面方向から見て左右それぞれ2室ずつ並列した配置により計4室を備え,各室の前面側には左右方向に貫通する外廊下をもつ,柱および梁を含むフレームに屋根板,壁板,床板などを取り付けて構成されたものであり,具体的には,それぞれ2本ずつの同一の長さの基礎梁と基礎桁に平坦な略横長長方形状の床板を張って,連結具によって四隅に同一の長さの柱を立て,その柱の端に同一の長さの梁と桁を連結具によってつなげてフレームを構成し,床板と同じ大きさの略長方形状の平坦な天井板をつけて屋根板とし,背面には左右に略正方形状の2枚の壁板と,両側面には側面の縦半分程度の面積の壁板を張って,全体は,横幅と高さ及び奥行きの比を,約5:2:2とする略横長直方体形状の倉庫としたものであって,正面の柱と柱の間を全面開口させ,さらに,左右両側面にも横幅約1/2,縦に全高の開口を正面側に設けて倉庫室内に略横長長方形状の通路を構成し,倉庫室内の背面側奥に,正面視において,横幅約1/5,奥行きを側面幅約1/2,縦に全高の扉付きの室を左右それぞれに2室ずつ配し,その左右の室の間に正面横幅約1/5の正面側から背面側に貫通させた通路を設けたものである。 イ 具体的構成態様 本件登録意匠の具体的構成態様は,まず,(1)屋根板の形態を,平面視において,20個の略縦長長方形状の窪みを等間隔に設けた略横長長方形の平板状とし,(2)背面の2枚の壁板は,それぞれ略正方形状の平坦なものとし,両側面の壁板は側面幅略1/2の略縦長長方形状の平坦なものであって,(3)倉庫室内の床板は,倉庫を構成する床板をそのまま利用したものであって,平坦なものとなっている。 また,(4)扉付きの室については,略正方形状の床を持ち,倉庫全高の高さの略縦長直方体形状の空間として2つの室をつなげ,正面視左奥側に配した室には左開きの略縦長長方形状の扉を2枚設け,正面視右奥側に配した室には右開きの略縦長長方形状の扉を2枚設けたものとなっている。 (2)イ号意匠 イ号意匠の意匠に係る物品,及びその形態は,請求人が判定請求書に添付した「イ号意匠並びにその説明書」の記載及び写真に現されたとおりのものであって(別紙第2参照),被請求人が判定請求答弁書に添付した「乙第2号証」の記載及び図面で特定されるものであり(別紙第3参照),具体的には以下のとおりのものと認められる。 1)意匠に係る物品 イ号意匠の意匠に係る物品は,複数のコンテナを組み合わせ,屋根を設けて商業施設として利用する「施設物」である。 なお,被請求人は,イ号意匠を,「動産である複数のコンテナを利用して建設されたものではあるが,当該建設現場において,その場で,職人により,複数のコンテナに屋根など設置したもの」とし,「工業的に量産され,販売時に動産として取り扱われるもの,例えば,門,組立てバンガロー」(意匠審査基準21.1.1.1(2)丸1)に該当せず,意匠法の物品に該当しない不動産の一部であると主張する。 しかしながら,まず,コンテナそのものは,柱や梁及び桁材によってフレームを構成し,屋根板,壁板,床板などを組み込み,扉や窓枠及び窓を取り付けて組み立てることができる量産可能なものであり,この量産可能なイ号意匠は,コンテナを組み合わせて屋根を設けたものにすぎず,事実,被請求人が提出した乙第2号証には,「フルサット全景のイメージ図」や「フルサット 平面図」において,イ号意匠と同様の施設物が4つ示され,同じ施設物が造られてもいることからも,量産可能なものと認められる。 さらには,イ号意匠は,設置後に土地に定着して全く移動できないものでもないことから,不動産であるとはいえないものである。 これらのことから,イ号意匠は「工業的に量産され,販売時に動産として取り扱われるもの」と認められ,意匠法の物品に該当しない不動産の一部であるとの主張は認められない。 2)形態 ア 基本的構成態様 イ号意匠の基本的構成態様は,全体は,左右に奥行き幅の異なる横長略直方体形状の施設物を,間を空けて配置し切り妻屋根を設けたものであり,具体的には,正面視において,左側を横幅と高さ及び奥行きの比を約8:2:3とする略横長直方体形状の施設物とし,右側を横幅と高さ及び奥行きの比を約5:2:2とする略横長直方体形状の施設物として,左右の施設物の間を全横幅の約1/6の幅を空けて通路としたものであって,左右の施設物の上に,左の施設物と右の施設物では角度の異なる切り妻屋根を右端から左端まで葺き,かつ,左右の施設物の間の通路の上にも前後方向に切り妻屋根を葺いて,左右方向と前後方向の切り妻屋根を,谷を設けてつないだものであり,左側の施設物の左端を平面視略逆コ字状に平板木材で壁を構成して囲んだ空間を持つものである。 イ 具体的構成態様 イ号意匠の具体的構成態様は,(a)屋根の形態を,平面視において略十字形状を成すように左右方向と前後方向の切り妻屋根をつないだものとし,端部には破風板を設けており,屋根板は,略角波板状である。また,(b)それぞれの施設物の壁は,全体を略四角形状とし,いずれの壁板も略角波板状であって,左側の施設物の正面右寄りの壁面と背面左寄りの壁面には,縦長の4枚のガラス引き戸が設けられ,(c)左施設物と右施設物の間は,地面に設置した基礎土台を床とする通路としたものであって,(d)左側の施設物と右側の施設物が向かい合う面には,壁面とほぼ同じ大きさの観音扉が配されている。 2 本件登録意匠とイ号意匠(以下,「両意匠」という。)との対比 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は,物を収納するための「倉庫」であって,イ号意匠の意匠に係る物品は,商業施設として利用するための「施設物」であるものの,いずれもコンテナを利用して組立てた量産可能な動産であって,用途が相違するものであったとしても,いずれも組立て建築物に類するものと認められることから,意匠に係る物品が共通する。 (2)形態 1)形態の共通点 両意匠は,正面視において,横長の施設物とし,正面側から背面側に前後方向に通路を設けているといった共通点がある。 2)形態の相違点 本件登録意匠の倉庫は,基本的構成態様を,横幅と高さ及び奥行きの比を,約5:2:2とする略横長直方体形状の平坦な屋根を持つ倉庫としているのに対し,イ号意匠の基本的構成態様は,横幅と高さ及び奥行き幅の比をそれぞれ約8:2:3,約5:2:2とする構成比率の異なる2つの略横長直方体を,通路の左右に配置し,それら2つの略横長直方体及び通路の上に,平面視において略十字形状を成すように切り妻屋根を設けたものであるから,基本的構成態様は相違する。 また,両意匠の主な具体的構成態様として, (a)本件登録意匠は,正面視で左右奥側に扉を持つ2つの室をそれぞれ設けているのに対し,イ号意匠には,正面視で扉を持つ室はなく,左側の施設物の正面右寄りと背面左寄りに,4枚のガラス引き戸を配し,右の施設物には扉もガラス引き戸もない態様としている点, (b)本件登録意匠の正面視で左右奥側に設けられた室の向かい合う面に扉がないのに対して,イ号意匠の左側の施設物と右側の施設物の向かい合うそれぞれの面に観音扉が設けられている点, (c)本件登録意匠は,略横長直方体形状の倉庫の平坦な天井板を屋根板としているのに対し,イ号意匠は左右の施設物の天井とは別に正面視において左右方向に切り妻屋根を葺いており,さらには左施設物と右施設物の間の通路の上に前後方向にも切り妻屋根を葺いて,それらの屋根を谷でつないでいる点, (d)本件登録意匠の屋根板は,20個の縦長略長方形状の窪みを等間隔に設けた平板状であり,壁板は平坦なものであるのに対し,イ号意匠の屋根板は,略角波板状であって,屋根の端部に破風板を設けており,壁板は略角波板状なものである点, (e)本件登録意匠は,平面視において略逆T字状の通路が形成されているのに対し,イ号意匠には,施設物内に,左施設物と右施設物の間に通路はあるものの,左右の施設物の前に通路はない点, (f)また,本件登録意匠の前後方向の通路は,床板を通路としてその幅を,倉庫横幅の約1/5の幅とし,倉庫横幅の中央にあるのに対し,イ号意匠の前後方向の通路には,床板はなく,その幅を約1/6の幅とし正面中央右寄りにある点, において相違する。 3 類否判断 (1)形態の共通点の評価 両意匠が,正面視において,横長の施設物とし,正面側から背面側に前後方向に通路を設けているといった共通点は,両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点に過ぎないものであるから,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではなく,類否判断を決定づけるものでもない。 (2)形態の相違点の評価 基本的構成態様は,意匠の類否判断を行う上で骨格を成す要素であり,この相違が需要者にとって別異な意匠とする印象を極めて強くもたらすものである。 そこで,両意匠の基本的構成態様の相違を評価すると,両意匠の基本的構成態様の大きな要素である全体構成比率の違いや施設物そのものの形態及び屋根,通路,室の構成態様の相違は,明らかに両意匠を別異の意匠とする印象を需要者にもたらす十分な相違であって,両意匠の類否判断を決定づけるものである。 次に,両意匠の具体的構成態様の相違を評価すると,本件登録意匠が,正面視で扉付きの室を,通路を挟んで左右奥側に2つずつ設けているのに対し,イ号意匠には,正面視で左右の施設物に扉を持つ室がないとする相違点(a)は,本件登録意匠が倉庫として,各室でものを保管若しくは保管物を取り出しやすいように,正面側に扉を設け4つの室を設けているものとしているが,イ号意匠は,左右のいずれの施設物にも正面側に扉を備えず,左側の施設物にのみ人の出入りが可能なように施設物の前と後ろに4枚のガラス引き戸を設けたものであり,商業施設としての利用を目的としたものであるため,両意匠は,利用目的も,正面視での見た目も大きく異なり,明らかに需要者にとって意匠を別異なものとの印象を与えるものであって,両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 また,正面視で左右の向かい合う室の面に扉があるかないかの相違点(b)についても,相違点(a)と同様に,本件登録意匠が倉庫としての利用を目的としているため,中央の通路を向く面に扉を設ける必要がないが,イ号意匠は商業施設として,人の出入りが可能なように左右の施設物の向かい合う面に観音扉が設けられたものであるから,利用目的の差異が形態の大きな相違点になって表れているものであり,明らかに需要者にとって意匠を別異なものとの印象を与え,両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 なお,請求人は,本件登録意匠の正面視における正面開口と左右の開口を出入口といい,「出入口が存在する場所は,一般的に出入口が存在する建物において様々なものが存在し,いずれも一般的にありふれた態様の1つであるから,出入口が存在する場所という具体的構成態様が異なるからといって,全体の美感に影響を与えるものではない」と主張するが,「倉庫」若しくは「施設物」において,物の保管の出し入れ口若しくは人の行き来の通路がどこに設けられているかによって,物品の使用方法が変わることから,出入口若しくは通路の存在する場所は,製造する者が使用方法を考慮して工夫する部位であるといえ,この種の物品において,特徴部分となり得ることから,全体の美感に大きく影響を与えるものと認められる。 これを踏まえた上で,本件登録意匠は,正面視における正面が全面と左右に開口があり,それらを出入口とすることもでき,それらを前後,左右に往来することができる通路とすることもできる態様のものであるが,一方,イ号意匠の出入口は左右の施設物の向かい合う観音扉を持つ面であって,左側の施設物の正面及び背面に4枚のガラス引き戸はあるものの,施設物全体の右端及び左端の面に出入口はなく,左右端から出入りすることができるものではない。 よって,正面全面と左右の開口を出入口とすることもでき,前後,左右に往来することができる通路とすることもできる態様の本件登録意匠と施設物全体の右端及び左端の面に出入口がないイ号意匠とは,需要者にとって意匠を別異なものとの印象を与えるものであり,この相違点は,特徴点における相違ともいえ,両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 次に,平坦な屋根としているか,切り妻屋根としているかの相違点(c)については,倉庫の天井をそのまま屋根としたものと,施設物の天井とは別に切り妻屋根を葺いたものとでは,通常では,本件登録意匠が利用者から屋根が見えないのに対して,イ号意匠は屋根が見えるものとなっており,明らかに建物としての立体感の印象と形態の見た目の差異となって表れることから,需要者にとって意匠を別異なものとの印象を与えるのに十分な相違であって,両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 また,及び屋根板を多数の窪みを設けた平坦な板状であって,壁板を平坦なものとしているか,屋根板及び壁板のいずれも略角波板状のものとしているかの相違点(d)は,建築物の分野において,いずれも一般的にありふれている形状ではあるものの,本件登録意匠が,利用者が目にする面のほとんどが平坦な面であってシンプルな印象を与えるのに対して,イ号意匠のように,ほぼコンテナの壁をそのままとしている印象のものとでは,需要者にとって目につきやすい部分であることから,異なる視覚的印象を与えるには十分なものであり,この相違点(d)が両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 さらに,両意匠に設けられた通路の形態の相違点(e)及び相違点(f)については,本件登録意匠は倉庫室内に平面視において略逆T字状の通路があるが,イ号意匠は,正面視において前号方向の通路があることは認められるが,左右方向については,屋根の庇はあるものの,その下は地面であって通路があるとは認められず,また,前後方向の通路についても,左右の施設物自体の床ではなく,むしろ,地面に設けた別途の基礎土台であると認められることから,両意匠の通路の形態は大きく異なり,需要者が明らかに相違するものであることが理解できるものであり,両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 (3)総合判断 上記のとおり,これらの基本的構成態様と具体的構成態様の相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に大きいというべきである。そして,相違点(a)乃至(f)のそれぞれが需要者にもたらす視覚的効果の相違を考慮すると,相違点の印象は,共通点の印象を凌駕し,両意匠は,意匠全体として意匠を別異なものとするというべきである。 第5 むすび 以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2017-03-10 |
出願番号 | 意願2009-15644(D2009-15644) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZB
(L3)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 木村 智加、菊地 拓哉 |
特許庁審判長 |
温品 博康 |
特許庁審判官 |
山田 繁和 江塚 尚弘 |
登録日 | 2010-02-05 |
登録番号 | 意匠登録第1381992号(D1381992) |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 佐々木 定雄 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 吉原 崇晃 |
代理人 | 近藤 洋 |
代理人 | 川崎 芳孝 |
代理人 | 鶴谷 裕二 |
代理人 | 佐々木 定雄 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 工藤 一郎 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 川崎 芳孝 |
代理人 | 鶴谷 裕二 |