ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 意10条1号類似意匠 取り消して登録 H7 |
---|---|
管理番号 | 1337122 |
審判番号 | 不服2017-12680 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-08-28 |
確定日 | 2018-02-06 |
意匠に係る物品 | 制御装置用表示操作器 |
事件の表示 | 意願2016- 24919「制御装置用表示操作器」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。 |
理由 |
第1 本願意匠 本願は,意願2016-24915号(意匠登録第1578694号)を本意匠とする平成28年(2016年)11月16日に出願された関連意匠の意匠登録出願(以下「本願意匠」という。)であり,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「制御装置用表示操作器」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものであって,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を実線で,それ以外の部分を破線で表している。一点鎖線は,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。」としたものである(以下,本願について意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)。(別紙第1参照) 第2 原査定における拒絶の理由及び本意匠 原査定における拒絶の理由は,本願意匠は願書に記載した本意匠に類似する意匠とは認められず,意匠法第10条第1項の規定に該当しない,としたものであって,本意匠は,平成28年(2016年)11月16日に出願され,平成29年(2017年)5月19日に意匠権の設定の登録がなされ,平成29年6月12日に意匠公報が発行された意願2016-24915号(意匠登録第1578694号)の意匠であり,意匠に係る物品を「制御装置用表示操作器」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものであって,「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を実線で、それ以外の部分を破線で表している。一点鎖線は、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。」としたものである(以下,本意匠について意匠登録を受けようとする部分を「本意匠部分」といい,本願部分と本意匠部分を合わせて,「両部分」という。)。(別紙第2参照) 第3 請求人の主な主張 これに対し,請求人は,審判を請求し,要旨以下のとおり主張した。 1.本願部分と本意匠部分の対比 本願部分と本意匠部分を対比すると,下記のような共通点及び差異点が認められる。 (1)両部分の共通点 境界に形成された帯状凸部 両部分は,正面側において,表示部が設けられる面とUSB挿入口用カバー部が設けられる面との境界に,帯状凸部が形成されている。 (2)両部分の差異点 ア USB挿入口用カバー部の具体的形状 本願部分は,正面視下方に設けられた略長方形状のUSB挿入口用カバー部において,細長楕円状部が設けられているのに対し,本意匠部分は,細い溝状の凹部と帯状の手がかり部が設けられている。 イ USB挿入口用カバー部の位置 本願部分は,USB挿入口用カバー部が設けられる面に対して,USB挿入口用カバー部が上下方向において略中央に配置されているのに対し,本意匠部分は,USB挿入口用カバー部が上端に配置されている。 2.共通点及び差異点の評価 次に,上述した両部分の共通点及び差異点について評価検討する。 (1)共通点の評価 本願意匠や本意匠のような制御装置用表示操作器は,主に工場等の製造ライン近傍に設置され,製造ラインの可動機器(モーター,ロボット等)を制御する制御機器(サーボアンプ,インバータ等)の状態・情報を監視し,当該情報に基づいて操作を行うことを可能とした表示操作器である。 そのため,この種表示操作器を使用する者(主に工場作業者)は,この種製品を識別・選択する際には,製造ライン近傍での設置を想定して,安全・安心に使用できるものであるか,操作性が向上されたものであるか等,デザイン面だけでなく機能面にも着目するものである。 本願部分及び本意匠部分は,正面側において,表示部が設けられる面(以下「表示面」という。)とUSB挿入口用カバー部が設けられる面(以下「USB面」という。)との境界に,帯状凸部を形成することで,デザイン面だけでなく機能面にも特徴を有する構成としたものである。 例えば,工場内製造ラインにおいて,USB挿入口及びUSB挿入口用カバー部を視覚のみで判別することが困難な作業環境下において,誤ってUSBメモリを表示部表面に当接してしまうと,表示操作器の誤操作や,表示部表面の損傷にも繋がりかねない。 そこで,本願部分及び本意匠部分では,表示面とUSB面の境界に帯状凸部を形成し,表示面とUSB面の切り分けを明確にし,USB挿入口及びUSB挿入口用カバー部の位置を把握することを容易にしたものである。 また,視覚と併せて触覚でも,当該帯状凸部に触れることで,表示面とUSB面の境界を認識することが可能となるため,USB挿入口及びUSB挿入口用カバー部の位置の把握が容易となり,USBメモリ等を誤って表示部表面に当接してしまうことがなく,誤操作防止による操作性向上が図られるだけでなく,作業時間の短縮等の作業性向上も図られるものである。 また,USB挿入口の位置を正確に把握した場合であっても,USBメモリが挿入口にうまく嵌まらず,挿入口周辺に当接した状態のまま,誤って表示部方向へUSBメモリが滑ってしまうことも想定される。しかし,このような場合であっても,帯状凸部が表示部方向への進入を防止するストッパーの役割を果たすこととなるため,USBメモリが表示部表面に誤って当接してしまうことは皆無に等しく,帯状凸部の形成によって誤操作防止による操作性向上が図られるとともに,この種表示操作器が安全・安心に使用できるものであるという印象を需要者に与えるものである。 従って,本願部分及び本意匠部分のように帯状凸部を形成する構成態様は,意匠全体にアクセントを与えるというデザイン面だけでなく,機能面においても大きな影響を及ぼしており,この種,制御装置用表示操作器において他との差別化が図られたものであって,需要者の注目を大いに受ける意匠的要部といえる部分となるものである。 (2)差異点への評価 ア USB挿入口用カバー部の具体的形状の評価 両部分の差異点である,正面視下方に設けられた略長方形状のUSB挿入口用カバー部において,本願部分のように細長楕円状部が設けられている意匠は,従来から存在していたものである。また,本意匠部分のように細い溝状の凹部と帯状の手がかり部が設けられている意匠についても,従来から存在していたものである。 このように,本願部分と本意匠部分との差異点であるUSB挿入口用カバー部の具体的形状は,いずれの構成態様も従来から存在するありふれた公知形状の一つに過ぎず,意匠的要部にはなり得ない。そのため需要者は当該部分の形状について特段注意を惹かれることはなく,USB挿入口用カバー部を開蓋する際のバリエーション形状の一つに過ぎないとの認識を持つものであって,格別の印象を抱くことはないものと考える。 よって,当該部分の具体的形状は,需要者が特段注意を強く惹くものではなく,上述したバリエーション形状の一つに過ぎないとの認識を覆すものではないことは明らかである。 イ USB挿入口用カバー部の位置の評価 この種制御装置用表示操作器において,USB面に対してUSB挿入口用カバー部が上下方向において略中央に配置されているか,上端に配置されているかという点に需要者は特に注意を惹かれるものではないものと考える。 このことは,本願意匠と同日に出願した他の関連意匠が,USB挿入口用カバー部の位置が相違するにもかかわらず,いずれも類似するものとして判断されて登録されていることからも明らかである。 よって,このような事例に鑑みても,本願部分のようにUSB挿入口用カバー部をUSB面の上下方向において略中央に配置したか,本意匠部分のように上端に配置したかという点における態様の相違は,この種の物品における類否判断において特段重視すべきものではないといえる。 3.本願部分と本意匠部分の類否判断について 以上に述べたように,両部分の共通点はこの種制御装置用表示操作器において従来にはない要素であり,視覚的な効果だけでなく機能美の面からも意匠全体の印象を支配するものであるのに対し,両部分の差異点は類否判断において特段重視されるものではなく,両部分に別異な印象を付与するものではない。特に共通点は,需要者の注意を強く惹くものである。 従って,両部分を全体的に対比観察した場合,需要者の注意を惹く点として共通点が差異点を遥かに凌駕しており,両部分に共通の印象,美感をもたらしているというべきである。 4.むすび 以上の理由により,本願意匠は意匠法第10条第1項の規定により登録することができないものであるとした原査定の理由は解消されたものと思料する。 第3 当審の判断 以下,本願意匠が意匠法第10条第1項の規定に該当するものであるか否かを,主に,両部分を対比し,両部分の共通点及び差異点の認定,評価を行うことにより,本願意匠が本意匠に類似するか否かについて検討し,判断する。 1.本願意匠の認定 (1)意匠に係る物品 本願意匠の意匠に係る物品は,主に,工場の製造ライン等において,制御装置に用いられる「制御装置用表示操作器」である。 (2)本願部分の位置,大きさ及び範囲並びに用途及び機能 本願部分の位置,大きさ及び範囲は,制御装置用表示操作器の略横長長方形板状の前面パネルにおいて,正面部の下端部中央やや左寄りとこれに連続する底面部の正面側端部を一点鎖線で矩形状に囲んだ部分であって,本願部分の用途及び機能は,正面部の略横長長方形状の外部入出力用接続部のカバー部とその直上に形成される表示操作部とカバー部の境界を明確にするための横長突条部である。 (3)本願部分の形態 本願部分は,正面部の縦横の長さの比率が約1:3の横長長方形状の範囲内と,これに連続する底面部の縦横の長さの比率が約1:12の横長細帯状の範囲内であって,正面部側の範囲内において,下端部中央寄りに略横長長方形状の外部入出力用接続部のカバー部を一つ設け,その直上に横長突条部を一本形成したものであって,カバー部の右端部寄りに縦長長円形状の浅い凹部を一つ形成したものである。 2.本意匠の認定 本意匠は,第2で記載したとおりの意匠であり,意匠権の設定登録がなされ,意匠公報が発行されているものである。 (1)意匠に係る物品 本意匠の意匠に係る物品は,主に,工場の製造ライン等において,制御装置に用いられる「制御装置用表示操作器」である。 (2)本意匠部分の位置,大きさ及び範囲並びに用途及び機能 本意匠部分の位置,大きさ及び範囲は,制御装置用表示操作器の略横長長方形板状の前面パネルにおいて,正面部の下端部中央やや左寄りとこれに連続する底面部の正面側端部を一点鎖線で矩形状に囲んだ部分であって,本意匠部分の用途及び機能は,正面部の略横長長方形状の外部入出力用接続部のカバー部とその直上に密着して形成される表示操作部とカバー部の境界を明確にするための横長突条部である。 (3)本意匠部分の形態 本意匠部分は,正面部の縦横の長さの比率が約1:3の横長長方形状の範囲内と,これに連続する底面部の縦横の長さの比率が約1:12の横長細帯状の範囲内であって,正面部側の範囲内において,略中央に略横長長方形状の外部入出力用接続部のカバー部を一つ設け,その直上に密着して横長突条部を一本形成したものであって,カバー部の右端部から全体の約7分の1を段落ち状とし,その略中央部を凸状に形成したものである。 3.本願意匠と本意匠の対比 (1)本願意匠と本意匠の意匠に係る物品 意匠に係る物品は,本願意匠と本意匠ともに「制御装置用表示操作器」であるから一致する。 (2)両部分の位置,大きさ及び範囲並びに用途及び機能 両部分の位置,大きさ及び範囲は,正面部の下端部中央やや左寄りとこれに連続する底面部の正面側端部を一点鎖線で矩形状に囲んだ部分であって,両部分の用途及び機能は,正面部の略横長長方形状の外部入出力用接続部のカバー部とその直上に形成される表示操作部とカバー部の境界を明確にするための横長突条部であるから共通する。 (3)両部分の形態 両部分の形態については,主として,以下の通りの共通点及び差異点がある。 ア 共通点 (ア)正面部の下端部中央やや左寄りとこれに連続する底面部の正面側端部を一点鎖線で矩形状に囲んだ部分であって,正面部に略横長長方形状のカバー部とその直上に横長突条部をそれぞれ一つずつ設けた点, (イ)底面部が,正面部に対して若干下方に傾斜状に屈曲している点。 イ 差異点 両部分の具体的態様として, (あ)カバー部と横長突条部の位置について,本願部分は,カバー部を横長突条部の下に,少し間隔を空けて配置しているのに対し,本意匠部分は,カバー部を横長突条部に密着して配置している点, (い)カバー部の右端部近くの態様について,本願部分は,カバー部の右端部寄りに縦長長円形状の浅い凹部を一つ形成したものであるのに対し,本意匠部分は,カバー部の右端部から全体の約7分の1を段落ち状とし,その略中央部を凸状に形成したものである点。 4.共通点及び差異点の評価 以下,共通点及び差異点の評価を行う。 (1)意匠に係る物品についての評価 本願意匠と本意匠は,ともに「制御装置用表示操作器」であるから意匠に係る物品は一致する。 (2)両部分の位置,大きさ及び範囲並びに用途及び機能の評価 両部分の位置,大きさ及び範囲並びに用途及び機能は,共通するものであるが,この種,制御装置用表示操作器において,外部記憶媒体によるデータのやりとりを容易にすべく正面部に外部入出力用接続部を配置し,その接続部にカバー部を設けることや,表示操作部とカバー部の間に上下を区切る突条を設けていることは,本願意匠と本意匠の特徴を表すものであって,本願意匠と本意匠の類否判断に大きく影響を及ぼすものである。 (3)両部分の形態の共通点の評価 共通点(ア)について,正面部に略横長長方形状のカバー部とその直上に横長突条部をそれぞれ一つずつ設けた点は,視覚的特徴の乏しい正面部の態様において非常に目立つものであり,特に,横長突条部は,正面部全体が平坦面である中において,唯一立体状に表された部位であって,目につきやすいものであること,また,当該部位は,表示操作部とカバー部の境を明確に表すことにより,操作上のトラブルを回避する役割を持つものであることが推認されることも考え合わせると,需要者が注視するものといえることから,本願意匠と本意匠の類否判断に大きな影響を与えるものといえる。 次に,共通点(イ)について,すなわち,底面部が,正面部に対して若干下方に傾斜状に屈曲している点であるが,この種,制御装置用表示操作器において,前面パネルの底面部を下方に傾斜状に屈曲した態様としたものは,両部分のみの特徴といえ,傾斜角度はごく僅かであるが,正面側から正対して観察すれば,底面側の傾斜面が視認できるものであることから,本願意匠と本意匠の類否判断に一定程度の影響を与えるものといえる。 (4)両部分の形態の差異点の評価 一方,差異点(あ)について,本願部分は,カバー部を横長突条部の下に,少し間隔を空けて配置しているものであるが,その間隔はごく小さいものであって,カバー部を横長突条部に密着して配置した本意匠部分との比較において,その差はごく僅かであり,この点が両部分の類否判断に与える影響は微弱なものである。 また,差異点(い)について,すなわち,本願部分は,カバー部の右端部寄りに縦長長円形状の浅い凹部を一つ形成したものであるのに対し,本意匠部分は,カバー部の右端部から全体の約7分の1を段落ち状とし,その略中央部を凸状に形成したものである点は,この部位のみを比較するならともかく,意匠全体としてみた場合においては,部分的な相違に留まるものであって,さほど目立つものとはいえず,この点が両部分の類否判断に与える影響は微弱なものである。 (5)小括 そうすると,本願意匠と本意匠は,意匠に係る物品が一致し,両部分の位置,大きさ及び範囲並びに用途及び機能が共通するものであり,これら共通点は本願意匠と本意匠の類否判断に与える影響は大きいというべきであるのに対して,差異点はいずれも微弱であって,差異点の印象は,共通点の印象を覆すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合,本願意匠は,本意匠に類似するものである。 第5.むすび 以上のとおり,本願意匠は,本意匠に類似するものであって,意匠法第10条第1項の規定に該当し,原査定の拒絶の理由によっては,本願を拒絶すべきものとすることはできない。 また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審決日 | 2018-01-22 |
出願番号 | 意願2016-24919(D2016-24919) |
審決分類 |
D
1
8・
3-
WY
(H7)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山永 滋、石川 愛恵、木村 智加 |
特許庁審判長 |
温品 博康 |
特許庁審判官 |
江塚 尚弘 内藤 弘樹 |
登録日 | 2018-02-16 |
登録番号 | 意匠登録第1599614号(D1599614) |
代理人 | 松井 重明 |
代理人 | 倉谷 泰孝 |
代理人 | 村上 加奈子 |
代理人 | 伊達 研郎 |