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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 B1
管理番号 1339230 
審判番号 不服2017-15465
総通号数 221 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2018-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-18 
確定日 2018-03-26 
意匠に係る物品 パンツ 
事件の表示 意願2016- 25784「パンツ」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 1.本願意匠
本願は,意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする,平成28年(2016年)11月28日の意匠登録出願であって,その意匠(以下「本願意匠」という。)は,意匠に係る物品を「パンツ」とし,その形態を願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたものである。(別紙第1参照)

2.原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するというものであって,具体的には,以下のとおりである。

本願意匠に係る「パンツ」の属する衣服の分野において,衣服を構成する複数の構成片を縫合ではなく重ねて接着することによって結合させることは,下記引例1及び同2に見られるように本願出願前より行われていた。
本願意匠は,本願出願前に公然知られた引例3のパンティの形状及び縫合位置に基づき,その後ろ身頃部と臀部サポート部との境界の略放物線状の切り替え線を,引例4に見られるような下方が円弧状で上方はやや左右に拡がった前身頃寄りの位置に変更した上で,単にパンツの構成片の結合方法を,端部を重ね合わせて接着する手法に変更して表した形態にすぎないものであるから,本願意匠に係る物品分野の通常の知識を有する者が容易に創作することができたものと認められる。

引例1:特許庁発行の公開特許公報記載
特開2005-226175号(別紙第2参照)

引例2:特許庁発行の登録実用新案公報記載
実用新案登録第3136098号(別紙第3参照)

引例3:特許庁発行の公開実用新案公報記載
平成6年実用新案出願公開第054704号
【図1】ないし【図7】並びに関連する記載に表されたパンティの意匠(別紙第4参照)

引例4:特許庁発行の公開特許公報記載
特開2003-138402
【図12】【図13】並びに関連する記載に表されたガードルの意匠(別紙第5参照)

3.請求人の主張の要旨
(1)本願意匠の要旨
本願意匠は,意匠に係る物品を「パンツ」とするものである。そして,その構成態様の要旨は次の通りである。
(A)前身頃部,股部,臀部サポート部が連続した1枚の生地から形成されており,これに後身頃部が接合されてなる。
(B)臀部サポート部と後身頃部は背面部において概括的には放物線状の接合部を形成し,当該接合部は正面部のウエスト部両脇に至る構成としている(資料1中のa)。
(C)生地の接合部は生地と生地とを重ねて接着することにより形成している。
(2)引用意匠の要旨
(2-1)引例1の要旨
引例1は特開2005-226175号に記載されており,衣服の分野において,生地と生地との突合せ部に接着テープを貼り付けることで生地同士を接合する手法や,生地と生地とを重ね合わせて重なり合った部位を接着して接合する手法が表れている。
(2-2)引例2の要旨
引例2は実用新案登録第3136098号に記載されており,衣服の分野において,生地と生地とを重ね合わせて重なり合った部位を接着して接合する手法が表れている。
また,引例2に記載のパンツは,前身頃1,後身頃2及びクロッチ部(股部)3が全て連続した1枚の生地から形成されており,当該パンツを形成する他の生地は存在していない。
(2-3)引例3の要旨
引例3は,平成6年実用新案出願公開第054704号に掲載された「パンティ」の意匠であり,その構成態様は以下の通りである。
(D)前見頃部3(「前見頃」は「前身頃」の誤記であると考えられるため,以下,「前身頃」と記載する),後見頃部2(「後見頃」は「後身頃」の誤記であると考えられるため,以下,「後身頃」と記載する),介在布部材1の3枚の生地が接合されてなる。なお,介在布部材1は,前当て部13(股部)と包み込み用細幅部12(臀部サポート部),側面襠用広幅部11が連続した1枚の生地となっているものである(資料1参照)。
(E)介在布部材1と後身頃部は背面部において概括的には放物線状の接合部を形成し,当該接合部上部をやや窄まり状として背面部のウエスト部両脇に至る構成としている(資料1中のa´)。
(F)生地の接合部は縫着することにより形成している。
(G)足ぐり及びウエスト部に,一周状にゴム紐を縫着してなる(資料1参照)。
なお,当該ゴム紐は,引例3が掲載された平成6年実用新案出願公開第054704号の図1ないし図5においては省略されているが,図6,図7及び段落「0009」の最終段落に明記されている。
(2-4)引例4の要旨
引例4は,特開2003-138402に掲載された「ガードル」の意匠であり,その構成態様は以下の通りである。
(H)厚地部(30a-1,30b-1)と薄地部(30a-2,30b-2)との境界線(31a,31b)が,略放物線状に表れている。当該境界線は,本願意匠や引例3のように異なる生地と生地とを接合して形成された線ではなく,1枚の連続した生地において,生地の厚い部分と薄い部分を編み分けたことによって生じた線である。
(I)境界線の具体的形状が不明である。少なくとも,境界線の境界線上端が正面部両脇の位置にまで至っているということはできない。
(3)本願意匠を容易に創作することができたか否かについて
(3-1)引例4について
引例4の背面部には略放物線状の線が表れているが,これは,薄地部(30a-1,30b-1)と厚地部(30a-2,30b-2)との境界線(31a,31b)であり,1枚の連続した生地の厚い部分と薄い部分を編み分けたことによって生じた線である(前記H)。一方,本願意匠や引例3における,臀部サポート部と後身頃との境界線は,パターン(型紙)に基づいて生地をカットし,カットした別々の生地同士を接合(本願の場合は接着,引例3は縫着)することによって形成された線であり,引例4の境界線(31a,31b)とはとは全く別の構成である。このように,引例4と本願意匠とでは,その構成が全く異なるものであり,そのため,創作の手法や思想が全く異なっている。よって,引例4に表れた手法によって,引例3に表れた放物線状の接合線の態様を改変することは,この種物品の当業者が容易に想到することができるものではない。
また,前記の通り,境界線の具体的形状が不明であり,少なくとも,境界線の境界線上端が正面部のウエスト部両脇の位置にまで至っているということはできない。したがって,引例4に基づいて,境界線上端が正面部のウエスト部両脇の位置まで至っているという本願意匠の構成を実現することはできない。
確かに図12では境界線(31a)が「臀部サポート部の他端が前身頃と接合している部分」に近寄るように表れており,概括的に放物線状の境界線の上部が拡開状としているように表れている。しかし一方で,図13の境界線(31b)は,上部は拡開状ではなく,やや窄まり状となっている。そのため,また,「臀部サポート部の他端が前身頃と接合している部分」は上部に至るほど中心部に傾斜しているため,図13に表れた境界線(31b)は,「臀部サポート部の他端が前身頃と接合している部分」(32b)に近寄っているものとすることはできない。結局のところ,境界線(31a)と境界線(31b)は同様の形状を備えるものであるはずであるが,図12と図13においては形状が一致しておらず,そのため,引例4の境界線の上方について,臀部サポート部の他端が前身頃と接合している部分にかなり近寄っているラインであると認定することはできない。
以上の通り,引例4に表れた1枚の連続した生地の厚い部分と薄い部分を編み分けたことによって生じた線を適用して引例3に表れた境界線を改変するという手法はありふれているとは言えず,本願意匠は容易に創作できたものとすることはできない。
さらに,引例4に表れた境界線は具体的形状が不明であり,少なくとも,境界線の境界線上端が正面部のウエスト部両脇の位置にまで至っているということはできず,上部が拡開状であると言うこともできない。したがって,当業者が引例3に表れた境界線を正面部のウエスト部両脇に至る構成とすることが容易とすることはできない。
(3-2)引例3について
本願意匠は,前身頃部,股部,臀部サポート部が連続した1枚の生地から形成されており,これに後身頃部が接合されてなる構成であるのに対し(前記A),引例3は,前身頃部3,後身頃部2及び介在布部材1の3つの生地が接合されてなる構成である(前記D)。すなわち,本願意匠は2つの生地が接合して構成されているのに対し,引例3は3つの生地が接合されてなるものであり,両意匠は基本となる構成が大きく異なっている。
また,引例3は足ぐり及びウエスト部に,一周状にゴム紐を縫着してなる(前記G)のに対し,本願意匠はゴム紐を備えていない点で相違している。
このように,本願意匠と引例3はその構成が大きく異なるものであり,たとえ引例3を構成する生地の接合手法を変更したり,後身頃部2と介在布部材1との放物線状の接合部の形状を変更したとしても,未だ,本願意匠を導き出すことができるものではない。
(3-3)まとめ
これまで述べてきたように,引例4の背面部の略放物線状の線は,1枚の生地の厚い部分と薄い部分を編み分けたことによって生じた線であり,本願意匠のような生地と生地とを接合して形成された線とは異なっているため,引例4に表れた線を適用して引例3に表れた境界線を改変するという手法はありふれているということはできない。また,引例4の境界線の具体的形状が不明であり,少なくとも境界線の上端が正面部のウエスト部両脇の位置にまで至っているということはできない。したがって,引例4の存在をもって,引例3の境界線を改変して境界線上端が正面部のウエスト部両脇の位置まで至っているという本願意匠の構成を実現することはできない。
なお,原査定では,当該境界線について,「その背面上部の窄まり状をやや拡開状とすることは容易」としている。しかしながら,本願意匠の臀部サポート部と後身頃部の接合部(境界線)は,単に,引例3に表れた境界線を「やや拡開状」とすれば実現されるものではない。本願意匠の当該接合部は,略放物線状の両端部が背面視で左右に広がり,正面部のウエスト部両脇に至るという具体的な構成を有するものである。引例4には,このように略放物線状のラインが正面部のウエスト部両脇に至る態様は表れていないのであり,引例4に基づいて引例3の境界線を改変して本願意匠の接合線の具体的な態様を導き出すことはできないものである。
さらに,本願意匠は前身頃部,股部,臀部サポート部が連続した1枚の生地と後身頃部が接合されてなる構成であるのに対し,引例3は前身頃部,後身頃部及び介在布部材が接合してなる構成であるという,基本となる構成が異なること,ゴム紐の有無において異なること,臀部サポート部と後身頃部の略放物線状の接合部の形状が異なること,という相違点が存在している。そして,引例2に基づいても,当業者が,引例3を改変して,本願意匠のように,前身頃,股部,臀部サポート部の生地を1枚の布で形成するということを容易に想到するものではなく,また,後身頃を除いた部位(前身頃と介在布部材)を1枚の生地として形成する手法がありふれているともいえない。また,伸縮性の高い生地を使用し,かつ端部の解れ止め処理が不要な生地を採用しさえすれば,着用時にずり落ちないために端部にゴム紐を通す必要はないという認定は誤りであり,誤った認定に基づいて,引例3のゴム紐を削除してゴム紐のない意匠とすることがありふれた手法であるすることはできない。したがって,引例意匠3をベースとして,引例2や原査定で認定された事実等に基づいて各部位を変更しても,未だに本願意匠を導き出すことはできず,本願意匠は容易に創作することができたものではない。

4.当審の判断
本願意匠が,当業者であれば,容易にその意匠の創作をすることができたものか否かについて,以下検討する。
(1)本願意匠(別紙第1参照)
本願意匠は,意匠に係る物品を「パンツ」とし,その形態は,全体を略台形状とし,上方にウエスト用開口部(以下「ウエスト開口部」という。),下方の左右に脚部用開口部(以下「脚部開口部」という。)を設けたもので,後身頃の略放物線状に囲まれた生地に前身頃左右から連続する生地を重ね,その生地がクロッチ部から連続して,略放物線状の生地が前身頃左右上部に視認でき,前身頃中央では略台形状となって重ねて接着したもので,ウエスト開口部は前後に緩やかな下弦状に表れ,前身頃より後身頃の方が深い弧状で,下方の脚部開口部付近が中央部より左右端部が上方寄りになるよう斜めに切り欠かれ,前身頃の左右端部から後身頃の上方から約4/5の位置まで略放物線状の切替え線が表れ,略放物線状の切替え線が正面視前身頃の左上及び右上に内側に斜めに傾いた直線状に表れ,ウエスト開口部の中央寄り左右から左右の脚部開口部にかけて縦方向に下方寄りがやや拡がった斜線の切替え線が表れ,脚部開口部は前身頃側に略おむすび形状に表れるものである。
(2)原査定の拒絶の理由の引用意匠
本願意匠と対比するため,引用意匠の図面の向きを本願意匠の図面の向きに合わせたものとして,以下,各引用意匠を認定する。
(ア)引例1(別紙第2参照)
引例1は,発明の名称を「衣類」とし,【図2】(C)は,複数の生地部品を樹脂シートによって融着接合した態様を「パンツ」の脇継ぎ及び股下継ぎに適用した実施形態である。その形態は,全体を略逆五角形状とし,上方にウエスト開口部,下方の左右に脚部開口部を設けたもので,後身頃の略T字状の生地に前身頃の略T字状の生地を重ね,前身頃の左右及びクロッチ部の前身頃寄りの部分に細帯状の樹脂シートによって融着接合されたもので,ウエスト開口部は水平な直線状に表れ,下方の脚部開口部は上下の端部が尖った略アーモンド形状で,前身頃側が凸円弧状に切り欠かれ,後身頃側が凸円弧状に視認できるものである。
(イ)引例2(別紙第3参照)
引例2は,考案の名称を「ショーツ」とし,【図1】は,前身頃端部と後身頃端部を熱可塑性樹脂フィルムで接着し,クロッチ部には裏当て布を設けたものである。その形態は,全体を略逆五角形状とし,上方にウエスト開口部,下方の左右に脚部開口部を設けたもので,後身頃の略T字状の生地とクロッチ部で連続する前身頃の略T字状の生地を重ね,前身頃の左右の前身頃寄りの部分に細帯状の熱可塑性樹脂フィルムによって接着されたもので,ウエスト開口部は僅かに円弧状を呈する薄い楕円形状に表れ,下方の脚部開口部は上下の端部が尖った略アーモンド形状で,前身頃側が凸円弧状に切り欠かれ,後身頃側が凸円弧状に視認できるものである。
(ア)引例3(別紙第4参照)
引例3は,考案の名称を「パンティ」とし,【図1】ないし【図7】は,4つの生地部品を縫合したもので,クロッチ部には裏当て布を設けたものである。【図4】ないし【図7】は,装着した状態を示したもので,【図6】及び【図7】はウエスト開口部,及び脚部開口部にゴム紐を縫着したものである。その形態は,全体を略台形状とし,上方にウエスト開口部,下方の左右に脚部開口部を設けたもので,後身頃の略放物線状の生地の周囲に前身頃左右から連続する生地を設け,その生地がクロッチ部から連続したもので,前身頃中央では略台形状となる生地と縫着したもので,ウエスト開口部は前後に緩やかな下弦状に表れ,下方の脚部開口部付近が中央部より左右端部が上方寄りになるよう斜めに切り欠かれ,後身頃の上方から約9/10の位置まで略放物線状の切替え線が表れ,ウエスト開口部の中央寄り左右から左右の脚部開口部にかけて縦方向に下方寄りがやや拡がった斜線の切替え線が表れ,前身頃とクロッチ部の境界にも水平の切替え線が表れ,脚部開口部は前身頃側に略おむすび形状に表れるものである。
(イ)引例4(別紙第5参照)
引例2は,発明の名称を「経編地を用いた伸縮性を有する衣類」とし,【図12】及び【図13】は,「ショートタイプのガードル」を前身頃側と後身頃側から見た斜視図である。その形態は,全体を略台形状とし,上方にウエスト開口部,下方の左右に脚部開口部を設けたもので,ウエスト開口部周囲に帯状のベルト部を設け,その下方の後身頃の略放物線状の生地の周囲に前身頃左右から連続する生地を設けたもので,その生地がクロッチ部まで連続して,前身頃左右に縦方向に表れ,略放物線状の生地が前身頃左右上部に視認でき,前身頃中央部では略台形状の生地と縫着したもので,ウエスト開口部は水平な直線状に表れ,下方の脚部開口部付近が中央部より左右端部が上方寄りになるよう斜めに切り欠かれ,ベルト部の下方に前身頃の左右端部から後身頃の下方寄りの約3/50の位置まで略放物線状の切替え線が表れ,略放物線状の切替え線が正面視前身頃の右上に内側に凸の緩やかな円弧状に表れ,ウエスト開口部の前身頃中央寄り左右から左右の脚部開口部にかけて縦方向に下方寄りがやや拡がった斜線の切替え線が表れ,その下方寄りの内側左右に略V字状に円弧状の切替え線が表れ,前身頃とクロッチ部の境界にも水平の切替え線が表れ,脚部開口部は前身頃側に略三角形状に表れるものである。
(3)創作容易性の判断
まず,この種のパンツの物品分野においては,生地と生地とを重ね,熱可塑性樹脂フィルムなどによって接着することは,引例1や引例2に見られるように,本願出願前より既に見られるありふれた態様といえるものである。
次に,全体を略台形状とし,上方にウエスト開口部,下方の左右に脚部開口部を設けたもので,後身頃の略放物線状の生地の周囲に前身頃左右から連続する生地を設け,その生地がクロッチ部から連続して,前身頃中央では略台形状となり,ウエスト開口部は前後に緩やかな下弦状に表れ,下方の脚部開口部付近が中央部より左右端部が上方寄りになるよう斜めに切り欠かれ,後身頃の上方から下方まで略放物線状の切替え線が表れ,ウエスト開口部の中央寄り左右から左右の脚部開口部にかけて縦方向に下方寄りがやや拡がった斜線の切替え線が表れ,脚部開口部は前身頃側に略おむすび形状に表れた態様も引例3に見られるように,本願出願前より既に見られる公然知られた態様といえるものである。
また,後身頃の略放物線状の生地の周囲に前身頃左右から連続する生地を設け,略放物線状の生地が前身頃左右上部に視認できる態様も引例4に見られるように,本願出願前より既に見られる公然知られた態様といえるものである。
しかしながら,引例3は,切替え線がいずれも縫製によって表れる線であり,またクロッチ部と前身頃の境界に切替え線を有し,略放物線状の切替え線が後身頃のみに表れるもので,本願意匠の切替え線とは異なり,次に,引例4は,略放物線状の切替え線が正面視前身頃の右上に内側に凸の緩やかな円弧状に表れたものであるから,本願意匠の正面視前身頃の左上及び右上に内側に斜めに傾いた直線状に表れる切替え線の態様とは全く異なるものであるから,本願意匠のような後身頃の略放物線状に囲まれた生地に前身頃左右から連続する生地を重ね,その生地がクロッチ部から連続して,略放物線状の生地が正面視前身頃の左上及び右上に内側に斜めに傾いた直線状に表れる態様は,引例3及び引例4のいずれにも表されておらず,それらの意匠から,本願意匠の態様を容易に導きだすことができない。
そして,引例1や引例2の態様に基づいて,この種のパンツの分野においてありふれた手法に基づいて,生地と生地とを重ねて接着し,引例3の縫製によって表れた切替え線を設け,引例4の略放物線状の生地が前身頃左右上部に視認できる態様と組み合わせたとしても,クロッチ部と前身頃の境界に切替え線を設けず,略放物線状の切替え線を後身頃の上方から約4/5の位置までとし,略放物線状の切替え線が正面視前身頃の左上及び右上に内側に斜めに傾いた直線状に表れるように,さらに様々な変更を加えなければ,それらの意匠から,本願意匠の態様を直ちに導き出すことはできず,本願意匠の態様は,他には見当たらず,独自の態様を表す創作がなされているものといえ,当業者にとって,本願意匠の態様が容易に創出し得るものということはできない。
そうすると,本願意匠は,生地と生地とを重ねて接着し,略放物線状の生地が前身頃左右上部に視認できるもので,クロッチ部と前身頃の境界に切替え線を設けず,略放物線状の切替え線を後身頃の上方から約4/5の位置までとし,略放物線状の切替え線が前身頃の左右寄りに斜めの直線状に表れる態様としたものであって,とりわけ,略放物線状の生地が前身頃左右上部に視認でき,略放物線状の切替え線を後身頃の上方から約4/5の位置までとした態様は,他に見られない態様といえるもので,当業者であれば容易に創作することができたものということができないものである。
よって,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,引例1ないし4に見られる,日本国内又は外国において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができた意匠ということはできない。

5.むすび
したがって,本願意匠は,原査定の拒絶の理由によっては,意匠法第3条第2項の規定に該当しないものであり,本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2018-03-09 
出願番号 意願2016-25784(D2016-25784) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (B1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上島 靖範 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 斉藤 孝恵
渡邉 久美
登録日 2018-04-06 
登録番号 意匠登録第1603143号(D1603143) 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 野間 悠 
代理人 布施 哲也 

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