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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立不成立) C5 |
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管理番号 | 1343957 |
判定請求番号 | 判定2018-600007 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2018-03-08 |
確定日 | 2018-09-18 |
意匠に係る物品 | 調理鍋 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1351092号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号意匠の図面及びその説明により示された「調理鍋」の意匠は,登録第1351092号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 平成20年5月 9日 意匠登録出願(意願2008-13811) 平成21年1月16日 意匠権の設定登録(登録第1351092号) 平成30年3月 8日付け 本件判定請求(本件判定請求人) 平成30年6月12日付け 審尋 平成30年6月26日付け 回答書提出(本件判定請求人) 平成30年7月 3日付け 答弁書提出(本件判定被請求人) 平成30年8月 8日付け 弁駁書提出(本件判定請求人) 第2 請求の趣旨及び理由 1 請求の趣旨 本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,イ号意匠〈甲2号証〉ならびにその説明書に示す意匠は,登録第1351092号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求め,要旨,以下のとおり主張した。 2 請求の理由 (1)判定請求の必要性 請求人は,本件判定請求に係る登録意匠「調理鍋」(甲第1号証,以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)である株式会社カンダは,インターネットを通じて販売されているイ号意匠(甲第2号証)の調理鍋(イ号物件)を製造する事業者である。 請求人は,株式会社ダイナックが運営する飲食店においてイ号物件が使用されている事実を集客用のチラシ(甲第3号証)を通じて知り,当該行為が本件登録意匠に係る意匠権を侵害するものであるとして,平成29年8月25日付けでその旨の通知書(甲第4号証)を株式会社ダイナックに送付した。 これに対して,株式会社ダイナックは,当該調理鍋の販売元である被請求人と相談の上で,「イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属さない」旨を主張するので,特許庁による判定を求める次第である。 (2)本件登録意匠の手続の経緯 出願 平成20年5月9日 登録 平成21年1月16日 (3)本件登録意匠の説明 本件登録意匠は,意匠に係る物品を「調理鍋」とし,その形態の要旨を次のとおりとする(甲第1号証参照)。 (3-1)本件登録意匠の基本的構成態様 中央に位置する深皿部と深皿部の周縁に位置する浅皿部とで構成されている。 深皿部および浅皿部は何れも円を基調とし,深皿部は浅皿部と比較して縦方向に長く形成されている。 (3-2)本件登録意匠の具体的構成態様 深皿部は,側面が上端から下端まで同一径の円筒状である。 浅皿部は,底面が平板状であり,その周縁が略鉛直上方に屈曲されている。 (3-3)本件登録意匠に係る物品について 本件登録意匠に係る物品は,鍋本体の中央部に設けた深皿部にスープなどのだし汁を入れ,浅皿部に肉等の食材を配置した状態で配膳し,しゃぶしゃぶのように食材をだし汁に入れて煮ながら食することを目的とした調理鍋である(甲第5号証)。 (4)イ号意匠の説明 (4-1)イ号意匠の基本的構成態様 中央に位置する深皿部と深皿部の周縁に位置する浅皿部とで構成されている。 深皿部および浅皿部は何れも円を基調とし,深皿部は浅皿部と比較して縦方向に長く形成されている。 (4-2)イ号意匠の具体的構成態様 深皿部は,側面が下方に向けて窄まるテーパ状である。 浅皿部は,底面が平板伏であり,その周縁が斜め上方に屈曲され,さらにその先端が略水平方向に屈曲されている。 (4-3)イ号意匠に係る物品について イ号意匠に係る物品は,本件登録意匠に係る物品と同じく,鍋本体の中央部に設けた深皿部にスープなどのだし汁を入れ,浅皿部に肉等の食材を配置した状態で配膳し,しゃぶしゃぶのように食材をだし汁に入れて煮ながら食することを目的とした調理鍋である。 (5)本件登録意匠とイ号意匠との比較説明 (5-1)両意匠の共通点 両意匠は,意匠に係る物品が「調理鍋」である点で共通する。また基本的構成態様も共通する。さらには浅皿部の底面が平板状である点で共通する。 (5-2)両意匠の差異点 本件登録意匠は,深皿部の側面が上端から下端まで同一径の円筒状であるのに対し,イ号意匠は,深皿部の側面が上端より下端に向けて径が縮小するテーパ状である点で両意匠は相違する。 さらに,本件登録意匠は,浅皿部の周縁が略鉛直上方に屈曲しているのに対し,イ号意匠は,浅皿部の周縁が斜め上方に屈曲され,さらにその先端が略水平方向に屈曲されている点で両意匠は相違する。 (6)イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明 (6-1)本件登録意匠に関する先行周辺意匠 甲第6号証公開実用新案公報(実開平6-62928) 甲第7号証公開実用新案公報(実開平6-75315) (6-2)本件登録意匠の要部について 前記先行周辺意匠を参照すると,この種の物品における意匠上の創作の主たる対象は,浅皿部の構成態様に存することは明らかであり,本件登録意匠においては,浅皿部の底面部分は他に見られない平板状をなしており,機能的にも食材を安定した状態で保持するための重要な部分であることから,本件登録意匠全体の基調を表出していると考えられる。 (6-3)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察 前述した観点から本件登録意匠とイ号意匠との共通点および差異点を比較検討するに,両意匠は,基本的構成態様が共通しており,また具体的構成態様のうち創作の要部たる浅皿部の底面の形態において共通している。 一方で,深皿部の側面の形態において円筒状とテーパ状との違いはあるが,スープ等の液体を保持する容器において底面を上面より幾分か小さく形成することは常套的な手法であって,特別顕著な相違であるとはいえず,また本件登録意匠に係る物品のように天地が明確な物品の場合,下部に位置する部分の形態は上部の形態ほどには注意を惹かないことから,両意匠の類否に与える影響は軽微なものにとどまるものである。 浅皿部の周縁部の端処理において,屈曲回数およびその方向に違いがあるが,当該が浅皿部全体に占める割合は決して大きいとはいえず,またカトラリー業界における周縁部の端処理の手法としては常套的な手法であって,特別顕著な相違であるとはいえず,両意匠の類否に与える影響は軽微なものにとどまるものである。 以上のように,両意匠の差異点は特別顕著な相違であるとはいえず,両意匠の類否に与える影響は軽微なものにとどまるものであって,両意匠の共通点を凌駕する程の視覚的効果を与えるまでには至らないものである。 (7)むすび 従って,イ号意匠は,本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属するので,請求の趣旨どおりの判定を求める。 3 証拠方法 (1)イ号意匠が,被請求人の実施に係るものである,との証明に関するもの 甲第1号証 意匠公報(意匠登録第1351092号)の写し 甲第2号証 イ号意匠の写真の写し 甲第3号証 イ号意匠が掲載されたチラシの写し 甲第4号証 株式会社ダイナックに送付した通知書の写し 甲第5号証 本件登録意匠に係る物品の使用の態様を示す写真の写し (2)本件登録意匠の先行周辺意匠に関するもの 甲第6号証 公開実用新案公報(実開平6-62928)の写し 甲第7号証 公開実用新案公報(実開平6-75315)の写し 第3 被請求人の答弁 1 答弁の趣旨 イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は,意匠登録第1351092号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求め,要旨,以下のとおり主張した。 2 答弁の理由 (1)わが国は,意匠法25条1項に規定する「登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲」について,利害関係人は特許庁に判定を請求することができる制度を有するところ,そのための手段として,請求人は,本件登録意匠と対比すべき被請求人が有するイ号意匠についての図面又は図面代用写真を提出しなければならない義務があるのは言うまでもない。したがって,もし請求人が提出した図面代用写真ではイ号意匠全体の構成態様が不明な場合は,判定請求を却下する又は不成立の決定を下すべきである。(昭和42年判定請求第69号 昭和51年1月14日判定) (2)さて,請求人が提出した判定請求書には,「請求の趣旨」の項において 「イ号意匠並びにその説明書に示す意匠は」と記載するとともに,「イ号意匠及び説明書 正本1通,副本2通」と記載されているにもかかわらず,「それらのもの」が判定請求書に添付されていないのは方式違反であるから,まずこの方式を完備してもらいたい,と被請求人は主張する。 また,請求人は,本件登録意匠の範囲にイ号意匠が属する旨の請求をするのであれば,本件登録意匠に係る願書に添附した図面に記載された意匠と対比すべきイ号意匠の図面を作成して提出すべきであるにもかかわらず,それをしていないのは違法な法律行為である。けだし,甲2号証に係る写真では,対比すべきイ号意匠の全体の構成態様は不明だからである。 また,請求人は,イ号意匠を御庁による判定対象物としてではなく,証拠方法と解しているのは,明らかに誤りである。 換言すれば,本件登録意匠に係る図面において表現されているA-A線断面図により示されている構成態様は,イ号意匠として提出された甲2の図面代用写真には全く示されていないから,意匠全体の構成態様は本件登録意匠とは相違し,類似するものではないと言わざるを得ないのである。 そうすると,請求人が主張するイ号意匠は,本件登録意匠の範囲に属しない全く別異の意匠であると言わねばならないのである。 (3)そこで,本件登録意匠に係る意匠公報を見ると,意匠に係る物品の形態は,図面(斜視図,正面図,右側面図,平面図,底面図,A-A線断面図)によって表現されているから,省略図を含めて本件登録意匠全体の構成態様を看者は十分正確に把握することができるのである。 これに対して,意匠の類否を判断しなければならない請求人提出のイ号意匠についての図面代用写真を見ると,それは「イ号意匠(対象物件)」として提出されているものではなく,証拠方法の「甲2号証」として,それも図面代用写真(平面図,底面図,側面図,正面側斜視図,底面側斜視図)によって提出されているものであるから,本件登録意匠において表現されているA-A線断面図で示された部分の具体的な構成態様はもちろん,その他の構成態様の詳細については全く不明なのである。 したがって,請求人が真に特許庁に意匠類否の判断を求めているのであれば,本件判定請求を取下げ,改めてイ号意匠についての正確な図面を添付した判定請求をすべきであり,それが本判定制度の目的に適う法律行為といえるのである。 (4)なお,請求人が提出した甲6及び甲7に係る公開実用新案公報における公知図面(特に,甲6の図3/甲7の図2)と本件登録意匠に係る図面とを対比すると,本件登録意匠に係る形態は,前記公知意匠の図面に係る形態を改良した延長線上にある形態ともいえるものである。 これに対して,イ号意匠に係る形態は,深さのある中央容器部は周面が末広状に開口した後,その上面台座部が若干の傾斜面をもって展開し,この台座部の周縁部は再び末広状に立ち上がった後,その周縁部は水平に曲折して鍔部を形成しているのであり,全体的には比較的単純ではあるけれども,その間に展開される上下の段差や曲折のある器体から成るのである。 また,本件登録意匠に係る形態は,前記2つの公知意匠に係る図面と対比して見る限り,その各部分の曲折形状がかなり異なることから,公知意匠に対して特徴がある形態を有する意匠といえるのに対し,イ号意匠にあっては前記したように,中央容器部の形態から上面台座部の形態に至りかつ台座部の周縁部に至るまで,かなり曲折のある形態を有する意匠であるといえるのである。 さらに言えば,イ号意匠に係る物品は,被請求人会社において韓国へ2008年(平成20年)7月11日?13日に社員旅行した際に,食事に入ったソウル市のレストランで神田社長が見つけ,これを購入した物品と同一品であるから,韓国内においては当時すでに周知の意匠となっていたものである。 なお,ここにおいて被請求人が「イ号意匠」と指定している物件は,本件請求人が,本件において「イ号意匠」として指定することを予定しているものである。 第4 請求人の弁駁 1 弁駁の趣旨 イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠は,登録第1351092号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求め,要旨,以下のとおり主張した。 2 弁駁の理由 被請求人は答弁書において,本件登録意匠の形態について,「甲6及び甲7に係る公開実用新案公報における公知図面と本件登録意匠に係る図面とを対比すると,本件登録意匠に係る形態は,公知意匠の図面に係る形態を改良した延長線上にある形態ともいえるもの」であると主張する。さらに,「本件登録意匠に係る形態は,前記2つの公知意匠に係る図面と対比して見る限り,その各部分の曲折形状がかなり異なることから,公知意匠に対して特徴がある形態を有する意匠といえる」と主張する。 また,被請求人は答弁書において,イ号意匠の形態について次のように表現している。 「イ号意匠に係る形態は,深さのある中央容器部は周面が末広状に開口した後,その上面台座部が若干の傾斜面をもって展開し,この台座部の周縁部は再び末広状に立ち上がった後,その周縁部は水平に曲折して顎部を形成している‥・」。「イ号意匠にあっては前述したように,中央容器部の形態から上面台座部の形態に至りかつ台座部の周縁部に至るまで,かなり曲折のある形態を有する意匠であるといえる」。 ここで,本件登録意匠およびイ号意匠の両意匠の形態について,全体を中央容器部と台座部と周縁部の3つの部位に分割して考察すると,両意匠は台座部の形態において共通し,中央容器部および周縁部の形態において差異があるといえる。 このうち中央容器部については,イ号意匠においては末広状(テーパ状)に開口し,本件登録意匠においては円筒状に開口している点に差異がある。また周縁部については,イ号意匠においては末広状に立ち上がり,さらに水平に曲折しているが,本件登録意匠においては略鉛直上方に立ち上がり,水平に曲折していない点に差異がある。 台座部については,イ号意匠において若干の傾斜面をもって展開していると表現されているが,その傾斜の程度は容易には視認できないかもしくは視認できるとしても非常に軽微なものであり,傾斜面というよりは略平板と表現すべき形態を示している。 両意匠に係る物品は「調理鍋」であり,その主な用途は,店舗が顧客に提供する食材を盛り付けるための容器として,また顧客が食材を調理するための調理具として用いられる。具体的には,店舗は調理鍋の台座部に肉や野菜等の食材を盛り付け,中央容器部に煮込み用のスープを入れた状態で顧客に提供する。顧客はスープの周囲に食材が環状に配置されているという斬新な盛り付けをまずは目で楽しみ,次に食材を適量ずつスープに落とし込みながら煮込むという調理を楽しみ,最後に煮込み料理を食するという味覚を楽しむことができる。このように調理鍋には,盛り付けられた食材をいかに綺麗に見せるかという審美的な側面と,食材を安定的に保持するという機能的な側面が要求される。本件登録意匠における台座部の平板状の形態は,このような背景のもとで創作されたものであり,被請求人が主張するような公知意匠の延長線上にあるものではないのである。この台座部の新規かつ創作性の高い形態に対して,中央容器部および周縁部の形態は同種の物品において多用されるありふれた形態であり,看る者の関心を呼び起こしたり特段の興味を惹いたりするようなものではない。 以上のように,両意匠の形態が共通する部位,すなわち台座部は,構造的には調理鍋の大部分を占め,機能的にも食材の盛り付け時および調理時に看る者の注意を惹く重要な部位である。従って両意匠の類否に及ぼす影響は非常に大きいといえる。これに対し,両意匠の差異点は特別顕著な相違であるとはいえず,両意匠の類否に与える影響は軽微なものにとどまるものであって,両意匠の共通点を凌駕する程の視覚的効果を与えるまでには至らないものである。 第5 当審の判断 1 本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1351092号)は,その願書及び願書に添付した図面によれば,意匠に係る物品を「調理鍋」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)は,願書の記載及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものである。(請求人が提出した甲第1号証(別紙第1)参照)。 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は,「調理鍋」である。 (2)形態 全体の基本構成は,正円の底面部から側周面を鉛直上方に円筒状に立ち上げて上部のみを開口した深皿部と,該側周面上端から外側にむけ直角にまげて平滑面を延伸させ,平面視において,深皿部底面と同心円をなす中空円板状とした浅皿部によって構成されている。 具体的には,平面視において,深皿部底面の直径と浅皿部外周の直径との構成比率を約2対5とし,深皿部底面の直径と深皿部開口部の直径との比率を同率とし,そして,深皿部底面の直径と深皿部の高さとの構成比率を約3対1としている。なお,平面上方から深皿部底面の外周は視認できない。 また,浅皿部は平滑面状の食材裁置部とその周囲に設けられた縁部によって構成され,縁部は食材裁置部端部より垂直に立ち上げられ,その高さの比率は,深皿部高さの約12分の1となっており,平面上方から,立ち上がった細い端部が看取できる。 2 イ号意匠 イ号意匠は,判定請求書と同時に提出された甲第2号証(別紙第2参照)で示されたものであって,平成30年6月12日付けの審尋において,「当合議体では,判定請求書の「5 請求の趣旨」に記載された「イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠」は甲第2号証に記載された意匠であり,意匠に係る物品を「調理鍋」と認定する」とし,請求人に意見を求めたところ,平成30年6月26日付けの回答書により,「判定請求書の「5 請求の趣旨」に記載された「イ号意匠ならびにその説明書に示す意匠」は,合議体の認定の通り,甲第2号証に記載された意匠であり,「6 請求の理由」の「(4)イ号意匠の説明」に記載された説明の通りである。」との回答を請求人により得たものであり,意匠に係る物品は「調理鍋」と認められ,その形態は,イ号意匠により表されたとおりとしたものである。 (1)意匠に係る物品 イ号意匠の意匠に係る物品は,「調理鍋」である。 (2)形態 全体の基本構成は,正円の底面部から側周面を僅かに拡経しながら略円筒状に立ち上げて上部のみを開口した深皿部と,該側周面上端から僅かに斜め上方に平滑面を延伸させ,平面視において,深皿部底面と同心円をなす中空円板状とした浅皿部によって構成されている。 具体的には,平面視における深皿部底面の直径と浅皿部外周の直径との構成比率を約1対5とし,深皿部底面の直径と深皿部開口部の直径との比率を約2対3とし,深皿部底面の外周と深皿部開口部の外周が同心円状となっている。そして,深皿部底面の直径と深皿部の高さとの構成比率を約2対1としている。なお,深皿部底面の外周は上方より視認できる。 また,浅皿部は平滑面状の食材裁置部とその周囲に設けられた縁部によって構成され,縁部は食材裁置部端部より斜め上方外側に立ち上げられたあと水平面状に形成されており,その縁部の高さは,深皿部高さの約2分の1であり,また,平面上方からみた縁部の幅は,浅皿部外周の半径の約6分の1となっている。 3 本件登録意匠とイ号意匠の対比 (1)両意匠の意匠に係る物品 本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)を対比すると,意匠に係る物品については,共に「調理鍋」であり,共通する。 (2)両意匠の形態 ア 共通点 (共通点1)全体の基本構成は,正円の底面部から側周面を略円筒状に立ち上げて上部を開口した深皿部と,該側周面上端から外側にむけ平滑面を延伸させ,平面視において,深皿部底面と同心円をなす中空円板状とした浅皿部によって構成されている点。 イ 相違点 (相違点1)本件登録意匠は,深皿部の側周面が底面から鉛直上方に立ち上がった円筒状であるのに対して,イ号意匠は,底面から僅かに拡経しながら立ち上がった略円筒状である点, (相違点2)本件登録意匠は,浅皿部の食材裁置部として深皿部側周面上端から外側にむけ直角にまげて延伸させているのに対して,イ号意匠は,僅かに斜め上方に延伸させている点, (相違点3)本件登録意匠は,平面視において,深皿部底面の直径と浅皿部外周の直径との構成比率を約2対5とし,深皿部底面の直径と深皿部開口部の直径との比率を同率とし,深皿部底面の外周は平面上方から視認できないのに対して,イ号意匠は,平面視において,深皿部底面の直径と浅皿部外周の直径との構成比率を約1対5とし,深皿部底面の直径と深皿部開口部の直径との比率を約2対3とし,深皿部開口部の外周と同心円状である深皿部底面の外周が平面上方から視認できるものとなっている点, (相違点4)本件登録意匠は,深皿部底面の直径と深皿部の高さとの構成比率を約3対1としているのに対して,イ号意匠は,深皿部底面の直径と深皿部の高さとの構成比率を約2対1としている点, (相違点5)本件登録意匠は,浅皿部の縁部が食材裁置部端部より垂直に立ち上がり,その高さの比率は深皿部高さの約12分の1となっているのに対して,イ号意匠は,縁部が食材裁置部端部より斜め上方外側に立ち上げられたあと水平面状に形成されており,その高さの比率は,深皿部の高さの約2分の1となっている点, (相違点6)本件登録意匠は,平面視において縁部の幅は立ち上がり部上端面のみの幅であるのに対して,イ号意匠は,平面視における縁部の幅が,浅皿部外周半径の約6分の1を占めるものとなっている点。 4 類否判断 イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,すなわち,両意匠が類似するか否かについて,検討する。 (1)両意匠の意匠に係る物品 両意匠の意匠に係る物品は,共に「調理鍋」であって,同一である。 (2)両意匠の形態 両意匠の意匠に係る物品は,調理鍋であって,中央の深皿部にスープなどのだし汁を入れ,周囲の浅皿部に食材を載せ,該調理鍋を囲むように複数の者で調理と食事をできるようにしたものであり,卓台に配置された調理鍋を,椅子に座った複数の者が斜め上方から眺めることが多いとともに,周囲の浅皿部に配した食材を中央の深皿部で調理をするという特殊な鍋であることから,調理を提供する業者は深皿部や浅皿部の容量や深皿部の安定感について注目するため,需要者は斜め上方及び側面から見た態様について注意を惹く部分であるということができる。 ア 共通点の評価 共通点1である,全体の基本構成が,正円の底面部から側周面を略円筒状に立ち上げて上部のみを開口した深皿部と,該側周面上端から外側にむけ平滑面を延伸させ,平面視において,深皿部底面と同心円をなす中空円板状とした浅皿部によって構成されている点については,両意匠の形態を概括的に捉えた場合の共通点に過ぎず,本件意匠登録の出願前より既に存在しているもの(例えば,参考意匠:日本国特許庁発行の公開実用新案公報(公開日:平成6年(1994年)9月6日)に記載された,実開平6-62928の【図1】ないし【図4】に表された意匠(別紙第3参照))であることから,意匠全体の美感に与える影響は小さい。 イ 相違点の評価 相違点1である,本件登録意匠は,深皿部の側周面が底面から鉛直上方に立ち上がった円筒状であるのに対して,イ号意匠は,底面から僅かに拡経しながら立ち上がった略円筒状である点については,相違点2である,浅皿部の延伸方向の相違とともに,調理鍋の安定感や容量に注目する需要者の注意を惹く側面から見た態様の相違点であるので,意匠全体の美感に大きな影響を与える。 相違点3である,平面視における深皿部底面の直径と浅皿部外周の直径との構成比率の相違については,本件登録意匠は,深皿部が浅皿部に比して大きく安定している視覚的印象を与えるのに対して,イ号意匠は,深皿部が浅皿部に比して小さく安定性が十分ではない視覚的印象を与え,使用時に需要者が注目をする斜め上方から見た態様の相違点であるので,意匠全体の美感に影響を与える。 相違点4である,本件登録意匠は,深皿部底面の直径と深皿部の高さとの構成比率を約3対1としているのに対して,イ号意匠は,深皿部底面の直径と深皿部の高さとの構成比率を約2対1としている点については,調理鍋の安定感や容量に注目する需要者の注意を惹く側面から見た態様の相違点であるので,意匠全体の美感に影響を与える。 相違点5である,浅皿部の縁部の立ち上がり方の相違については,相違点6である,平面視における縁部の幅の相違とともに,需要者が注目をする斜め上方から看取される態様の相違点であることから,意匠全体の美感に影響を与える。 5 両意匠の類否判断 両意匠の形態における共通点及び相違点の評価に基づき,意匠全体として総合的に観察した場合,両意匠は,上記4(2)の前文のとおり,斜め上方及び側面から見た態様が需要者の注意を惹く部分であり,4(2)イのとおり,斜め上方及び側面から見た態様については,その美感には大きな相違があり,需要者に異なる美感を与えるものである。そうすると,全体の基本構成が共通することを考慮しても,意匠全体として観察した際に異なる美感を起こさせるものといえる。 したがって,両意匠は,意匠に係る物品は同一ではあるが,その形態において,需要者に異なる美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似しない。 第6 むすび 以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2018-09-07 |
出願番号 | 意願2008-13811(D2008-13811) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZB
(C5)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 斉藤 孝恵 |
特許庁審判長 |
温品 博康 |
特許庁審判官 |
江塚 尚弘 木本 直美 |
登録日 | 2009-01-16 |
登録番号 | 意匠登録第1351092号(D1351092) |
代理人 | 渕上 宏二 |
代理人 | 牛木 理一 |