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審決分類 |
審判 K9 |
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管理番号 | 1344904 |
審判番号 | 無効2017-880010 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2017-09-04 |
確定日 | 2018-09-18 |
意匠に係る物品 | ロックアップクラッチ用プレート部材 |
事件の表示 | 上記当事者間の意匠登録第1573302号「ロックアップクラッチ用プレート部材」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 意匠登録第1573302号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 事案の概要 本件は、請求人が、被請求人が意匠権者である意匠登録第1573302号の意匠(以下「本件意匠」という。)についての登録を無効とすることを求める事案である。 第2 請求人の主張の概要 1.審判請求書 請求人は、平成29年9月4日付け審判請求書を提出し、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由として要旨以下のように主張するとともに、証拠方法として甲第1号証から甲第5号証の書証を提出している。 (1)手続の経緯 平成28年12月22日 意匠登録出願(意願2016-27961号) 平成28年12月27日 早期審査に関する事情説明書 平成29年 2月10日付け 登録査定 平成29年 3月 3日 意匠権設定の登録(意匠登録第1573302号) 平成29年 4月 3日 意匠公報発行 (以下、意匠登録第1573302号を「本件意匠登録」という。) (2)無効理由の要点 本件意匠は、本件意匠登録出願前に頒布された意匠登録第1498229号公報に記載された意匠(以下「引用意匠」という。)に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから、本件意匠登録は、同法第48条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。 (3)本件意匠の構成 本件意匠は、意匠に係る物品を「ロックアップクラッチ用プレート部材」とする部分意匠であって、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分の形状は、概略、以下のとおりである。 ア 基本的構成態様 A 本体中央の貫通孔の内壁側に形成された第1段差部と、それよりも外周側に形成された第2段差部と、これら第1及び第2段差部にわたって形成された有底の円孔部とを有する。 B 第1段差部は、本体中央の貫通孔の内壁を構成する第1垂直部と、その上縁から径方向外方かつ水平方向に形成された第1水平部とを有する。 C 第2段差部は、第1水平部の径方向外方縁から垂直方向に形成された第2垂直部と、その上縁から径方向外方かつ水平方向に形成された第2水平部とを有する。 D 円孔部は、第1水平部に形成された部分円孔部と、第2垂直部から第2水平部にかけて径方向外方に抉られた凹壁部とを有しており、正面視において部分円孔部の開口縁が優弧状でかつ凹壁部の上端縁が劣弧状に形成されていることにより、全体として頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されている。 イ 具体的構成態様 E 部分円孔部は、その内部に、優弧状開口縁から底方向に向けて傾斜した部分環状の第1切削面部と、それよりは垂直方向に落ち込んだ底孔部とを有しており、その底面は平坦面に形成されている。 F 凹壁部は、その内面に、劣弧状上端縁に沿ってそこから下方に傾斜して形成された第2切削面部と、その下方の主傾斜面部と、主傾斜面部の両脇に形成された第3切削面部とを有しており、主傾斜面部は中央がくびれた鼓形状となって底孔部の内側壁と一連の傾斜面を形成してその底面まで続いている一方、第3切削面部はその下方において第1切削面部と一連の傾斜面を形成して底孔部の入口縁まで続いている。 (4)引用意匠の構成 引用意匠は、意匠に係る物品を「ロックアップクラッチ」とする部分意匠であって、その意匠登録を受けようとする部分の形状は、概略、以下のとおりである。 ア 基本的構成態様 a 本体中央の貫通孔の内壁側に形成された第1段差部と、それよりも外周側に形成された第2段差部と、これら第1及び第2段差部にわたって形成された有底の円孔部とを有する。 b 第1段差部は、本体中央の貫通孔の内壁を構成する第1垂直部と、その上縁から径方向外方かつ水平方向に形成された第1水平部とを有する。 c 第2段差部は、第1水平部の径方向外方縁から垂直方向に形成された第2垂直部と、その上縁から径方向外方かつ水平方向に形成された第2水平部とを有する。 d 円孔部は、第1水平部に形成された部分円孔部と、第2垂直部から第2水平部にかけて径方向外方に抉られた凹壁部とを有しており、正面視において部分円孔部の開口縁が優弧状でかつ凹壁部の上端縁が劣弧状に形成されていることにより、全体として頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されている。 イ 具体的構成態様 e 部分円孔部は、その内部に、優弧状開口縁から底方向に向けて傾斜した部分環状の傾斜面部(以下「部分円孔側傾斜面部」という。)とそれよりは垂直方向に落ち込んだ底孔部とを有しており、その底面は平坦面に形成されている。 f 凹壁部は、その内面に、劣弧状上端縁に沿ってそこから真下に向けて形成された凹面状の帯状部と、その下方の主傾斜面部とを有しており、主傾斜面部はその下方において部分円孔側傾斜面部と一連の傾斜面を形成して底孔部の入口縁まで続いている。 (5)本件意匠と引用意匠の対比 (5-1)意匠に係る物品の対比 本件意匠の意匠に係る物品は「ロックアップクラッチ用プレート部材」であり、引用意匠の「意匠に係る物品」は「ロックアップクラッチ」であって、両者は記載表現上相違するが、引用意匠に係る物品も本件意匠公報(甲1)の【使用状態を示す参考図】に示されるような使用状態で使用されるものであるから、両物品は用途及び機能において差異はない。 よって、両物品は実質的に同一である。 (以下、両意匠に係る物品を「本件物品」という。) (5-2)意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能の対比 両意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能は同一である。 (5-3)意匠登録を受けようとする部分の位置・大きさ・範囲の対比 両意匠の意匠登録を受けようとする部分の位置・大きさ・範囲は同一ないしほぼ同一である。 (5-4)意匠の構成の対比 ア 共通点 [共通点1](基本的構成態様における共通点) 両意匠は、基本的構成態様に係る構成A?Dと構成a?dにおいて共通する。 [共通点2](部分円孔部の内部の具体的構成態様における共通点) いずれの部分円孔部も、その内部に、優弧状開口縁から底方向に向けて傾斜した部分環状面と、それよりは垂直方向に落ち込んだ底孔部とを有しており、その底面が平坦に形成されている。 [共通点3](凹壁部の内面の具体的構成態様における共通点) いずれの凹壁部も、その内面に、劣弧状上端縁に沿ってその下方に帯状面部と、さらにその下方に主傾斜面部とを有する。 イ 差異点 [差異点1](部分円孔部の内部の具体的構成態様における差異点) 第1切削面部と部分円孔側傾斜面部の傾斜具合について、本件意匠の第1切削面部の方が引用意匠の部分円孔側傾斜面部よりも緩やかな点。 [差異点2](部分円孔部の内部の具体的構成態様における差異点) 底孔部の内側壁の傾斜具合について、本件意匠の底孔部の内側壁の方が引用意匠の底孔部の内側壁よりも緩やかな点。 [差異点3](凹壁部の内面の具体的構成態様における差異点) 主傾斜面部を基準にした第2切削面部と帯状部の傾斜具合について、本件意匠の第2切削面部は主傾斜面部よりも緩やかな傾斜面状であるのに対し、引用意匠の帯状部は劣弧状上端縁から真下に向けて形成されているため主傾斜面部よりも急傾斜である点。 [差異点4](凹壁部の内面の具体的構成態様における差異点) 本件意匠では、主傾斜面部の両脇に第3の切削面部が形成されており、主傾斜面部は中央がくびれた鼓形状となって底孔部の内側壁と一連の傾斜面を形成してその底面まで続いているとともに、第3切削面部はその下方において第1切削面部と一連の傾斜面を形成して底孔部の入口縁まで続いているのに対し、引用意匠では、第3の切削面部に相当する面を有しておらず、主傾斜面部はその下方において部分円孔側傾斜面部と一連の傾斜面を形成して底孔部の入口縁まで続いている点。 (6)本件意匠と引用意匠の類否 (6-1)判断基準 本件物品のように機能が重視される物品に係る意匠については、需要者にとって重要な効果をもたらす部分の形態を重視し、購入時においても使用時を想定して形態の注目度に差が出るから、意匠の要部や観察方向を定めるに当たっても、かかる需要者の観点を考慮すべきである。 (6-2)両意匠の需要者(看者) 両意匠の需要者(看者)は、最終消費者(一般消費者)ではなく、意匠に係る物品を組み込んでクラッチを製造するクラッチ製造業者等の専門業者(取引者)である。 (6-3)本件物品の概要 本件物品は、自動車のエンジンと自動変速機(AT)又は無段変速機(CVT)との間に設けられるトルクコンバータの部品である。トルクコンバータは、作動油の供給によってクラッチの係合及びその解除を行うものである。 また、本件物品の直径は概ね150?170mm程度であり、円孔部の直径は概ね7?9mm程度である。 (6-4)物品の性質、用途、使用態様からみた意匠の要部 ア 甲3の段落【0023】に記載されているとおり、「フランジ部材85は、ロックアップピストン80の軸方向における移動をガイドすると共に、当該ロックアップピストン80のフロントカバー3(側壁部34)とは反対側に当該ロックアップピストン80と共に係合側油室87を画成する」ために使用される。 ここで、基部85aのフロントカバー3側の端面は、相手側部材であるロックアップピストン80との間に隙間を形成することにより作動油の油路を確保しているという重要な役割を果たしており、それには、基部85aのフロントカバー3側の形状が精度良く形成されていることが極めて重要となる。 したがって、需要者(取引者)は、特にこの部分の形状に着目する。 イ また、本件物品の背面側には、各円孔部に対応する位置に6つの突出部が周方向に一定に間隔をあけて設けられている。これら突出部は、フロントカバー3側に設けられており、フロントカバー3の対応する位置に形成された嵌合凹部に嵌合させることにより、本件物品が周方向に回転するのを規制している。 ここで、突出部とフロントカバー3との周方向の係合は専ら突出部の径方向外方側の角部における係合によって果たされるため、当該突出部の径方向外方側の角部が精度良く形成されていることが極めて重要となる。 したがって、本件物品の需要者(取引者)も、この部分に角(かど)がきっちり形成されているか否かという点に特に注目する。 ウ さらに、本件意匠及び引用意匠の特徴は、プレス加工によって形成している点である。本件意匠及び引用意匠の円孔部は、プレス金型を正面側から押し当てて突出部を形成したことを示すものである。 ここで、プレス加工によってフロントカバー3側の端面及び突出部の径方向外方側の角部を精度良く形成するためには、プレス機の金型を第2水平部に押し当てて、そこから塑性変形させることが極めて重要となる。 このため、本件意匠及び引用意匠において円孔部が正面視で頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されている点は、フロントカバー3側の端面及び突出部の径方向外方側の角部を精度良く形成するための工夫として需要者の注意を強く惹く部分といえる。 また、かかる点は視覚的にも円孔部の基調をなす構成であって、円孔部全体の印象を支配しているから、需要者の注意を強く惹く部分といえる。 エ これに対し、本件意匠の正面側には、第1水平部に押え板やロックリングが設けられるが、円孔部自体は特段の技術的効果を果たすものではない。 特に、部分円孔部の内部形状や凹壁部の内面形状は、細部に係る構成である上、物品の性質、用途、使用態様に照らしても需要者が注目する部分ではない。 このため、本件意匠の正面側の形状は、背面側の形状が所期の目的・機能を果たすのに必要な範囲で需要者の注意を惹くに過ぎない。 したがって、円孔部が正面視において頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されている点は、フロントカバー3側の端面及び突出部の径方向外方側の角部をプレス加工によって精度良く形成するために必要な工夫として需要者の注意を惹く部分といえるが、それ以外の正面側の形状、特に部分円孔部の内部形状や凹壁部の内面形状は需要者の注意を惹く部分とはいえない。 さらに、本件意匠と引用意匠との関係についていうと、本件意匠は、プレス加工によって引用意匠を製造した後、切削加工により第1ないし第3切削面部を形成するという工程を経て製造されるものであり、第1ないし第3切削面部は単なる面取りに過ぎないため、需要者にとっては従属的な意義しか有していない。 オ 以上より、円孔部に関する部分円孔部の開口縁が優弧状でかつ凹壁部の上端縁が劣弧状に形成されていることにより円孔部が正面視において頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されている点は、物品の性質、用途、使用態様からみた場合の意匠の要部といえる。 (6-5)公知意匠からみた意匠の要部 円孔部に関する部分円孔部の開口縁が優弧状でかつ凹壁部の上端縁が劣弧状に形成されていることにより円孔部が正面視において頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されている点を開示する公知意匠はない。 よって、公知意匠に照らしても、円孔部に関する上記構成は、両意匠の特徴的部分であって、意匠の要部といえる。 (6-6)共通点及び差異点の総合評価 ア 前述のとおり、本件意匠と引用意匠は共通点1?3において共通する上、円孔部が正面視において頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されている点は意匠の要部に係る共通点であるから、両意匠は円孔部の基調をなす特徴的部分において共通し、これは類否判断に支配的な影響を及ぼすものである。 また、その結果、両意匠は、正面視において円孔部が、頭部がひしゃげた雪だるま状にみえるという美感においても共通する。 イ これに対し、両意匠の差異点1?4は、具体的構成態様における差異点であり、部分円孔部の内部形状や凹壁面の内面形状の細部に係る差異点に過ぎず、意匠全体からみれば限られた部位における差異点であって、両意匠の共通点が醸成する美感を凌駕するものではない。 (6-7)類否判断のまとめ 以上のとおり、本件意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品が共通し、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能並びに位置・大きさ・範囲も共通する。 また、構成上も、両意匠の共通点1?3は類否判断に支配的な影響を及ぼすのに対し、両意匠の差異点1?4は限られた部位における差異点に過ぎず、共通点1?3が醸成する美感を凌駕するものではない。 よって、本件意匠は引用意匠と類似する。 (7)現物における対比 審判請求書の別紙3に示すとおり、本件意匠と引用意匠の現物を対比しても、両者の美感に格別の差異はない。 (8)結語 以上のとおり、本件意匠は引用意匠と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。 よって、本件意匠登録は、意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。 (9)証拠方法 ・甲第1号証 意匠登録第1573302号公報(本件意匠公報)の写し ・甲第2号証 意匠登録第1498229号公報(引用意匠公報)の写し ・甲第3号証 特開2013-96558号公報の写し ・甲第4号証 写真撮影報告書(本件意匠の再現品)の写し ・甲第5号証 写真撮影報告書(引用意匠の再現品)の写し 2.弁駁書 請求人は、被請求人の平成29年11月13日付け答弁書に対し、平成30年2月16日付けで弁駁書を提出して反論を行うとともに、証拠方法として甲第6号証及び甲第7号証の書証を提出している。 (1)本件意匠の構成について (1-1)基本的構成態様について(答弁書3?4頁、8 (2)-1) ア 被請求人は、請求人が審判請求書において第1切削面部、主傾斜面部、第3切削面部、第2切削面部と名付けた部分について、それぞれ第1?第4凹部と称した上、これらを基本的構成態様に含める一方、穴部全体の輪郭形状ないし外縁形状については、単に「第1及び第2段差部にわたって穴部が形成されている」(構成(A1))と特定するにとどめている。 イ しかしながら、被請求人自身、本件審判が始まる前に作成された鑑定書(甲7)では、少なくとも第1、第3及び第4凹部を第1?第3の切削部と称しており、これらが切削によって形成されることを認めている。敢えて争いのない切削という用語を避けて別の用語を持ち出す理由はないというべきである。むしろ、被請求人が切削という用語を避けたのは、第1、第3及び第4凹部に関して、これらが面取り切削時にできる単なる切削痕ないし傷跡と解釈されることを避けたかったためと考えられる。 ウ 次に、穴部の特定についていうと、単に第1及び第2段差部にわたって穴部が形成されていると特定するだけでは、穴部の意匠的効果ないし美感との関係で不十分である。頭部がひしゃげた雪だるま状にみえるという意匠的効果ないし美感が得られるためには、少なくとも穴部が第1水平部と第2垂直部と第2水平部とにわたって形成されていることが必要なところ、被請求人はこの点を十分に特定しているとは言い難い。 この点で、被請求人の主張は本件意匠の全体的形状を十分に把握し切れているとは言い難く、意匠の特定として不十分と言わざるを得ない。 エ さらに、第1?第4凹部は、穴部といえる部分の内部に係る具体的構成に過ぎないから、基本的構成態様ではなく、意匠上微弱な具体的構成態様というべきである。 よって、穴部全体の輪郭を基本的構成態様に含めず、第1?第4凹部を基本的構成態様に含めている被請求人の主張は失当である。 (1-2)具体的構成態様について(答弁書4?5頁、8 (2)-2) ア 本件意匠の具体的構成態様については、審判請求書6.(3)に記載した構成E?Fのように特定されるべきである。 イ 構成(E1)について 被請求人は、構成(E1)として、第1凹部の側壁の傾斜角度は対面壁の傾斜角度よりも緩やかに形成されているとともに、第1凹部の上下幅は円穴部の上下幅よりも狭く形成されていると主張する。 しかしながら、被請求人の主張するような点は、一見して明らかではなく、せいぜい断面図において指摘されて初めて理解できるような微細な部分に係る構成に過ぎず、到底、意匠全体の美感に影響を与えるとはいえないものである。 被請求人の主張は、過度に細部に拘っているものと思料する。 (2)引用意匠について (2-1)基本的構成態様について(答弁書6頁、8 (4)-1) 被請求人の主張中、少なくとも、穴部全体の輪郭が十分に特定されていない点、及び、第1及び第2凹部を基本的構成態様に含めている点は争う。 理由は、前記(1-1)と同様である。 (2-2)具体的構成態様について(答弁書6?7頁、8 (4)-2) ア 構成(d1)について 被請求人は、第1凹部は、第1水平部において、円穴部の開口部に沿って形成されており、環状をなしていると主張する。 しかしながら、第1水平部に形成される形状は部分環状(優弧)であって環状ではない。被請求人の主張は明らかに誤りである。 イ 構成(e1)について 第1凹部の側壁の傾斜角度が対面壁の傾斜角度とほぼ同じ角度に形成されている点、及び、第1凹部の上下幅が円穴部の上下幅よりも広く形成されている点が一見してそういえるのかどうか直ちには明らかではないこと、仮にそうであったとしてもそれらが意匠の類否判断に影響を与えず、敢えて特定する必要性に乏しいことは、前記(1-2)に記載したとおりである。 (3)本件意匠と引用意匠の対比について(答弁書7?9頁、8 (5)) 特に、美感に大きな影響を与える穴部の全体的形状(穴部の輪郭形状ないし外縁形状)は両意匠の基本的構成態様における共通点であり、それを欠く被請求人の共通点及び差異点の特定は正確とは言い難い。 以下では、被請求人の主張する共通点及び差異点に対して個別に反論する。 (3-1)共通点について(答弁書8頁、8 (5)-4 ア) 穴部全体の輪郭形状ないし外縁形状が含まれていない点で被請求人の主張する共通点が不十分かつ不正確であることは、上述のとおりである。この点は意匠全体の美感に影響するものであるから、この点の特定が不十分かつ不正確な被請求人の主張は受け容れることができない。 (3-2)差異点について(答弁書8?9頁、8 (5)-4 イ) ア (差異点1)について 第1?第4凹部が基本的構成態様ではなく、意匠上微弱な具体的構成態様に過ぎないことは前述のとおりである。これらを基本的構成態様における差異点としている被請求人の主張は受け容れることができない。 また、この点を措いたとしても、第1及び第2凹部を有する点は両意匠に共通するから、これを共通点として明示していない被請求人の主張は受け容れがたい。 さらに、第3及び第4凹部についても、まず、第4凹部については、引用意匠も同様に垂直部という帯状面部を有するため、その実質は、第4凹部の有無ではなく、面取り切削時にできる帯状面部の傾斜具合の相違に過ぎない。また、第3凹部についても、面取り切削時にできる傷跡レベルのものであって、それが第2凹部と交わることによって形成される鼓状の稜線がどれほど明瞭に視認されるか、また、需要者が傷跡レベルのものをどれほど注目するかという問題に過ぎず、最終的にはこうした稜線の評価の軽重という問題に過ぎないものである。 イ (差異点2)について 被請求人は、(差異点2)として、「第1凹部の形状について、本件実線部分では部分環状をなすのに対し、本件相当部分では環状をなす点が相違している」と主張する。 しかしながら、引用意匠においても、第1水平部に形成される形状は部分環状(優弧)であって環状ではない。 よって、この点は差異点ではなく、共通点というべきである。 ウ (差異点4)について (ア)被請求人は、「本件実線部分の第2凹部は略中央が括れた鼓状をなすのに対し、本件相当部分の第2凹部は略扇状をなす点が相違している」と主張する。 しかしながら、引用意匠において略扇状をなす部分は、穴部によって第2垂直部に形成される稜線ないし形状線であり、かかる稜線ないし形状線は、引用意匠のみならず、本件意匠も当然に有するものである。 つまり、両意匠とも、対応する部分はいずれも略扇状に形成されているのであって、その内面の具体的構成として鼓状にみえる稜線ないし形状線を有するか否かにおいて相違するに過ぎない。 被請求人の(差異点4)は、この点で妥当ではない。 (イ)また、「本件実線部分においては、第1凹部と第2凹部の間に第3凹部が介在されており、第1凹部と第2凹部の間に連続性が認められないのに対し、本件相当部分においては第1凹部と第2凹部が境界なく連続している点が相違している」という点についても、本件意匠も、穴部の内面形状としては、第1凹部と第3凹部とが連続しているのであって、連続性が認められるか否かは、つまるところ、第2凹部と第3凹部とが交差することにより形成される傷跡レベルの稜線の有無に過ぎない。 この点でも被請求人の差異点4は妥当ではない。 エ (差異点5)について 被請求人は、(差異点5)として、「本件相当部分は、第2凹部の上端側に垂直部が形成されており、斜視図において、該垂直部の下端部に水平なラインが表れているのに対し、本件実線部分の第2凹部は、垂直部に該当する構成を備えていない点が相違している」と主張する。 しかしながら、水平なラインが形成されるのは本件意匠も同様であり、これによって、被請求人が垂直部及び第4凹部と称する部分がともに帯状面部として把握される点も同様であって、両意匠の相違は、かかる帯状面部の傾斜具合に過ぎない。 よって、被請求人の上記主張は妥当ではない。 オ (差異点7)について 被請求人は、「本件相当部分においては、第4凹部に相当するものが形成されていない」と主張するが、上記のとおり、被請求人の主張する垂直部も第4凹部と同様に帯状面部として把握されるのであって、第4凹部に相当するものを有している。この点に関する被請求人の主張は妥当ではない。 (差異点7)の実質は、ともに帯状面部として把握される部位の第2凹部の上端部と比較した場合の幅の大小をいうに過ぎない。 (4)要部認定について (4-1)本件物品の用途及び機能、使用状態について(答弁書10頁、8 (6)-1) ア 被請求人は、「本件物品の用途及び機能、使用状態は、本件意匠や引用意匠の願書及び図面に現された範囲において認定すべきである」と主張する。 しかしながら、意匠の類否判断の判断主体は需要者であり、本件の場合はそれがクラッチ製造業者等の専門業者(取引者)であることは、被請求人も認めているところである。 そして、かかる取引者は、当然、当該意匠の属する分野における通常の知識を有するから、背景技術や技術常識等を有している。 したがって、このような事実を明らかにするために甲第3号証を参酌することは許されるというべきである。 イ 本件物品の用途及び機能、使用状態、並びに背景技術については、特開2015-21587号公報(甲6)にも記載されている。 ウ 甲第6号証からも、本件物品では、突出部(回転規制凸部854)の径方向外方側の角部や背面側の端面が精度良く形成されていることが極めて重要であることを理解することができる。 そして、本件意匠及び引用意匠において、それを実現している形態が第1水平部・第2垂直部・第2水平部にわたって設けられた円孔部が全体として頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されているという形態である。 よって、かかる形態は、物品の用途及び機能、使用状態からみて需要者の注意を強く惹く部分であり、意匠の要部というべきである。 これに対し、円孔部の内面の具体的形状、特に第1ないし第3切削面部は、単なる面取りに過ぎず、上述した物品本来の機能とは直接的には関係しないため、物品の用途及び機能、使用状態からみた場合の意匠の要部とはいえない。 (4-2)公知意匠について(答弁書10?11頁、8 (6)-2) 以下のとおり、乙第1及び第2号証には、そもそも、頭部がひしゃげた雪だるま状の形状は表されておらず、また、その他の点でも要部認定の参酌資料として不適格である。 (4-2-1) 乙第1号証について ア 形状自体の相違について オイル孔8の形状線(両側縁の線)は、上下方向に垂直な直線として形成されており、本件意匠及び引用意匠のように扇状に形成されていない。 次に、オイル孔8は、優弧の部分が上側の水平面に形成され、劣弧の部分が下側の水平面に形成されており、この点でも本件意匠及び引用意匠と相違する。 さらに、乙第1号証のオイル孔8は貫通孔であって、本件意匠及び引用意匠のように有底の穴ではない。 このように、乙第1号証のオイル孔8は、形状自体において、本件意匠及び引用意匠と相違する。 イ 物品の用途及び機能の相違について 乙第1号証のクラッチギヤ7は、動力伝達上それよりも下流に設けられる変速機に用いられるものである。また、クラッチギヤ7が設けられるのは、マニュアルトランスミッション車であって、本件物品が用いられるオートマティックトランスミッション車ではない。このように、乙第1号証のクラッチギヤ7と本件物品とは物品自体の用途において相違する。 次に、物品の機能においても、クラッチギヤ7は、他の歯車と噛み合って動力を伝達するという機能を有するものである。これに対し、本件物品は、油室の壁を形成するためのものであり、それ自体が他の部材と機械的に噛み合ったり連結したりして動力を伝達するためのものではない。 このように、乙第1号証のクラッチギヤ7と本件意匠及び引用意匠の物品とは、物品自体の用途及び機能において相違し、全く別異の物品というべきである。 ウ 対応する部分の用途及び機能の相違について さらに、乙第1号証のオイル孔8は、オイルを流通させるための貫通孔であり、潤滑油を他方の側に供給するためのものであって、貫通していることが不可欠である。 これに対し、本件意匠及び引用意匠の穴部は、油室を形成するためのものであり、有底であることが必須である。潤滑するためのものでも、また、一方の側のオイルを他方の側に移動させるためのものでもない。 よって、乙第1号証のオイル孔8と本件意匠及び引用意匠の穴部とは、対応する部分自体の用途及び機能においても相違する。 エ 対応する部分の位置及び方向の相違について さらに、乙第1号証のオイル孔8は、ギヤの外周部に外方に向けて形成されているのに対し、本件意匠及び引用意匠の穴部は、物品の内周部に内方に向けて形成されている点で相違している。 この点で、両者は、物品における位置及び方向が相違する。 オ 以上のとおり、乙第1号証には、頭部がひしゃげた雪だるま状の形状は表されておらず、また、その他の点でも要部認定の参酌資料として不適格である。 よって、乙第1号証を以って本件意匠及び引用意匠における頭部がひしゃげた雪だるま状の形状を公知の形状ということはできない。 (4-2-2) 乙第2号証について 乙第2号証の図3には穴らしきものが形成されているが、これが穴なのかどうか直ちには明らかではなく、仮にこれが穴であったとしても、直ちに円孔であるとはいえない。 また、仮に乙第2号証の穴が円孔であったとしても、それは緩やかな傾斜面上に形成されているから、その開口部は楕円状となり、本件意匠及び引用意匠のように頭部がひしゃげた雪だるま状にはならない。 このように、乙第2号証には頭部がひしゃげた雪だるま状の形状は開示されていないものである。 よって、乙第2号証からみても、本件意匠及び引用意匠における頭部がひしゃげた雪だるま状の形状は公知の形状ではない。 (4-3)意匠の要部について(答弁書11?13頁、8 (6)-3) 被請求人は、本件物品には、1)高速回転による負荷がかかっても位置ずれ等が生じないこと、2)欠損が生じにくいこと、3)欠損による金属屑がトルクコンバータ内に脱落しないこと、及び、4)手への当たりが優しいことが求められるとし、穴部に第1?第4凹部を形成することでこのような効果が得られるから、第1?第4凹部を備えた穴部の形態が本件意匠の要部であると主張する。 しかしながら、仮に第1?第4凹部によって上記1)?4)のような効果が得られたとしても、このような効果は、意匠上の問題ではなく、あくまで技術一般に広くみられるありふれた技術効果の主張であって、本件物品に特有のものではなく、意匠上の観点からすれば、その意匠的効果は微弱であって、需要者の注意を惹くものではない。 むしろ、上記1)?4)の効果は、いわゆる面取りによって得られる技術上の効果に過ぎず、第1?第4凹部が広く一般施される単なる面取りにはかならないことを裏付けているものである。 現に、被請求人自身、少なくとも第1、第3及び第4凹部については切削によって得られることを認めている(甲7)。そして、第2凹部については引用意匠も有している。 つまり、本件意匠は、初めに引用意匠ないしそれとほぼ同一の意匠を製造した後、さらに面取りまたはバリ取りの切削により第1、第3及び第4凹部を追加しただけのものに過ぎないものである。 よって、仮に第1?第4凹部によって上記1)?4)のような効果が得られたとしても、需要者(取引者)は単に引用意匠に面取りを追加しただけの微弱な印象を受けるに過ぎないから、第1?第4凹部を意匠の要部ということはできない。 (4-4)被請求人の反論に対する再反論 (4-4-1) 物品の性質、用途、使用態様からみた要部認定について(答弁書13?17頁、8 (6)-4、1)) ア 被請求人は、請求人が甲第3号証を引用しつつ本件物品において需要者が特に注目する部分とした点について、かかる部分は破線部分であり、意匠登録を受けようとする部分の位置、大きさ、範囲を認定する上で考慮する余地があるとしても、部分意匠の要部認定において破線部分を需要者が特に着目する部分であると認定するのは、部分意匠制度導入の趣旨を没却するものであると主張する。 しかしながら、請求人は、上記部分が意匠の要部と主張しているものではない。請求人の主張の主旨は、「本件意匠及び引用意匠において『円孔部』が正面視で『頭部がひしゃげた雪だるま状』に形成されている点は、基部85aのフロントカバー3側の端面及び突出部の径方向外方側の角部を精度良く形成するための工夫として需要者の注意を強く惹く部分」であること、及び、「本件意匠の正面側の形状は、背面側の形状が所期の目的・機能を果たすのに必要な範囲で需要者の注意を惹くに過ぎない」との部分にあるのであり、破線部分に係る形状自体を意匠の要部と主張しているのではない。 イ 被請求人は、請求人がプレス加工に言及した点を捉えて、本件意匠及び引用意匠の願書及び図面には加工方法の言及がないとか、類否判断の前提となる要部認定は願書及び図面に直接的に現わされた意匠に基づいて行うべきであり、願書等に何ら言及のない加工方法を特徴点と認定するのは明らかに失当であるとか、視覚的に認識できない加工方法を特徴点として認定するのは明らかに失当であるなどと主張する。 しかしながら、請求人がプレス加工に言及したのは、それ自体を特徴として主張するためではなく、上述した本件意匠及び引用意匠の円孔部ないし穴部が、意匠登録を受けようとする部分の位置、大きさ、範囲との関係で、本件物品の背面側の突出部と対応する正面側の位置に形成される点に意味があることを主張するためである。両者は表裏の関係にあり、それがプレス加工によって同時に、かつ、対応する位置に形成されるのである。 これに対し、第1ないし第3切削面部は、その後に付加されるものであり、当然ながら、取引者である需要者は、それらが副次的意義しか有さず、単なるマイナーチェンジの域を出ないことを容易に理解することができる。意匠図面では特段の差がないようにみえる構成であっても、取引者である需要者からみた場合、そこには自ずから重要性に差があるのである。 したがって、第1ないし第3切削面部を重視して意匠の要部を認定することは妥当ではないものである。 ウ 被請求人は、1)部分円孔部の内部形状や凹壁部の内面形状は本体表面に露出しているため外部から容易に視認可能であり、内面形状というよりむしろ表面形状というべきであり、2)また、これらの部分は円孔部において大きな割合を占め、その外観を大きく左右する要素であり、3)さらに、円孔部の直径が7?9mm程度であれば、肉眼でも十分に視認可能であるのに加え、円孔部は位置ずれや欠損しにくさ、手当たりの優しさに直接的に関わる部分であるため、需要者が特に強い関心を持って観察する部分であるといえる、などと主張する。 しかしながら、まず、上記1)についていうと、円孔部ないし穴部の全体的形状は、第1水平部・第2垂直部・第2水平部上に形成されることから極めて目立つのに対し、部分円孔部の内部形状や凹壁部の内面形状は、それらよりも奥まった部位にあり、相対的に目に付きにくいといえる。 したがって、部分円孔部の内部形状や凹壁部の内面形状を表面形状ということはできない。 次に、上記2)についても、問題は円孔部において大きな割合を占めるか否かではない。意匠の要部は意匠登録を受けようとする部分の位置、大きさ、範囲等を考慮して認定されるべきものである。これを本件意匠及び引用意匠についてみると、円孔部の直径は7?9mm程度であって、それ自体極めて小さな孔に過ぎず、その内部の各部の形状に至ってはさらに微小な曲面形状に過ぎないものである。仮にその中で大きな割合を占めていたとしても、視覚的にそれが、第1水平部・第2垂直部・第2水平部という物品自体の表面に形成される頭部がひしゃげた雪だるま状の形状を凌駕するなどといったことはあり得ないものである。 よって、部分円孔部の内部形状や凹壁部の内面形状が外観を大きく左右するとの被請求人の主張は失当である。 さらに、上記3)についても、円孔部の直径が7?9mm程度であれば円孔部自体は肉眼で十分に視認可能であるものの、その内面形状、特にその内面に形成される稜線ないし形状線は極めて微小な曲面同士が交差することにより形成されるものに過ぎず、明瞭に視認できるのか明らかではない。また、加工上も、意匠図面に表されるほど明確に形成できるのか明らかではない。 特に、本件意匠において鼓状と特定された稜線は、凹壁部と第3切削面との交差具合が小さいことから、視覚上明瞭に現れるとは言い難いものであって、仮に視認できたとしても、円孔部ないし穴部の輪郭線を凌駕して全く別異の印象を与えるほど強く印象付けられるなどといったことはあり得ないものである。ましてや、鼓状と特定された稜線は、前述のとおり、面取り切削時の傷跡レベルの認識しか得られるものではないから、なおさら全体的印象を決するほどの影響力は持ち得ないものである。 さらに、円孔部が位置ずれや欠損しにくさ、手当たりの優しさに直接的に関わる部分であるとの被請求人の主張についても、このような効果は、前述のとおり、あくまで技術一般に広くみられるありふれた技術効果の主張であり、意匠の観点からみれば、意匠的効果は微弱であって、需要者が特に注目することにはならないものである。 エ 被請求人は、「本件物品は、需要者(取引者)が手に取って自由な角度から観察できるものである。このような場合、本件意匠の斜視図のような角度から立体的に形状を把握するのが需要者にとって最も自然な観察態度であり、正面から見た形状を特徴点と捉えるものではない」とし、円孔部の正面視形状を意匠の要部と認定した請求人の主張は妥当性を欠くと主張する。 しかしながら、本件物品が自由な角度から観察できるものであるからといって直ちに明瞭に視認できないものや意匠的効果が微弱なものまで意匠の要部を認定すべきことにはならないというべきである。 むしろ、被請求人の主張するように、本件物品が自由な角度から観察できるのであれば、当然、円孔部の正面視形状が意匠の要部を認定するに当たって考慮されるべきことになり、それを除外すべきことにはならないものである。 特に、円孔部の正面視形状は頭部がひしゃげた雪だるま状の形状という極めて特徴的な形状をなしているものであり、その全体が一つのまとまった印象に集約されているものである。このように印象的な方向を観察方向から除外すべき理由は全くない。 オ 被請求人は、第1?3切削面部は面取りではないと主張する。 しかしながら、被請求人は、他方で、第1?第4凹部の効果として、高速回転による負荷がかかっても位置ずれ等が生じない、欠損が生じにくい、欠損による金属屑がトルクコンバータ内に脱落しない、手への当たりが優しいという効果を主張しているところ、かかる効果は正に面取りの効果に過ぎない。 したがって、機能的にみても、第1?3切削面部は面取りというほかないものであって、ありふれた効果しか有さず、需要者(取引者)が特に注目する部分ではない。 (4-4-2) 公知意匠からみた要部認定について(答弁書17?19頁、8 (6)-4、2)) ア 被請求人は、円孔部が、頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されている点が意匠の要部であるとの請求人の主張に対し、乙第1及び第2号証を挙げて、これらに示された意匠が引用意匠の出願前に公知意匠であり、これらを踏まえれば、本件意匠と引用意匠とは、穴部を構成する凹部の態様において差別化が図られているというべきであり、このような点を考慮して要部認定を行うべきであると主張する。 しかしながら、乙第1及び第2号証のいずれにも、頭部がひしゃげた雪だるま状に形成された円孔部は開示されていないことは、前述のとおりである。 イ 被請求人は、「仮に、『円孔部』が正面視において『頭部がひしゃげた雪だるま状』をなす点が引用意匠の特徴になり得るとしても、本件意匠の穴部は、そもそも正面視において『頭部がひしゃげた雪だるま状』の態様を有していない」と主張する。 しかしながら、被請求人が作成した答弁書19頁、上段の図では円孔部の内面が色分けされているところ、本件意匠図面はそもそも色彩を伴うものではないから、被請求人の主張は前提において失当である。実際の意匠においても、本件物品は全体が金属製で、各部が色分けされているわけではない。むしろ、被請求人の主張は、各部を色分けしなければ理解できないほど微細な部分に係る差異をいうに過ぎないものである。 (5)本件意匠と引用意匠の類否について(答弁書19?22頁、8 (7)) (5-1)被請求人が差異点の評価として強調している点について請求人の意見を述べる。 (5-2)(差異点1)の評価について(答弁書20頁、8 (7)-1 ウ) 1)第4凹部と垂直部という帯状面部の傾斜具合の相違の評価。 2)鼓状の稜線の評価。 まず、上記1)については、極めて微細な部分に係る差異であり、これが全体の美感を左右するほど大きな影響を与えるとは言い難いものである。 次に、上記2)についても、そもそも、第2凹部と第3凹部とは大きな角度で交わっているものではないから、両者の交差によって形成される稜線(鼓状の稜線)も明確に形成されるとは言い難いものである。また、仮にそれが形成されるとしても、需要者は傷跡レベルのものとしか認識しないから、需要者が注目するようなものとは言い難いものである。さらには、この鼓状の稜線は、第1水平部・第2垂直部・第2水平部上に現れる穴部ないし円孔部の輪郭線、つまり、頭部がひしゃげた雪だるま状の形状線よりも顕著に現れるなどといったことはあり得ないものである。 以上のとおり、意匠評価上、(差異点1)を重視することはできないというべきである。 (5-3)差異点2?7の評価について(答弁書20?21頁、8 (7)-1 エ) 被請求人の主張する印象はいずれも観念的で分かり難いが、仮にそのような印象が生ずるとしても、それは各部を仔細に観察して初めて気付くような微細な部分に係る差異点によってもたらされるものであるから、これらが全体の印象に大きな影響を与えるとは言い難いものである。 そもそも、被請求人の主張に端的に示されるように、第1?第4凹部は個々別々の印象をもたらすだけで、纏まりのある印象に昇華されているわけではないから、これが全体的印象を形成するとはいえないものである。 (5-4)両意匠の類否判断について(答弁書21?22頁、8 (7)-2) 以上のとおり、被請求人が差異点1?7によって醸成されると主張する各印象は、それ自体、大きく評価することはできず、また、全体として纏まりのある印象に昇華されているものではなく、個々別々の印象を与えるに過ぎないものである。そして、この個々別々の印象を与えるものは、需要者とって注目するというものでもない。 これに対し、請求人が主張する頭部がひしゃげた雪だるま状という印象は、両意匠の全体的形状が醸成する美感であり、部分的な印象にとどまらないものである。 また、かかる印象は新規かつ斬新であって、この点でも需要者の注意を強く惹き付けるものである。 以上を総合すると、被請求人が差異点1?7によって醸成されると主張する各印象は、意匠全体がもたらす頭部がひしゃげた雪だるま状という印象を凌駕するものではなく、微弱な印象にとどまるものである。 よって、本件意匠と引用意匠とは美感を共通にし、互いに類似する意匠というべきである。 (6)結語 以上のとおり、本件意匠は引用意匠と類似するから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである。 よって、本件意匠登録は、意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。 (7)証拠方法 ・甲第6号証 特開2015-21587号公報の写し ・甲第7号証 「登録意匠第1498229号と、貴社実施予定のロックアップクラッチ用プレート部材との類否について」と題する平成28年12月22日付け鑑定書の写し 第3 被請求人の答弁及び理由 被請求人は、平成26年11月13日付け審判事件答弁書を提出し、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由として要旨以下のように主張するとともに、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証の書証を提出している。 1.答弁の理由 請求人は、平成29年9月4日付け審判請求書において、意匠登録第1573302号は、出願前に頒布された意匠登録第1498229号公報に記載された意匠に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるため、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とされるべきであると主張する。 しかしながら、被請求人は以下に述べる理由により、請求人の主張は認められるものではなく、本件意匠登録は無効とすべきものではない。 2.被請求人の反論 (1)本件意匠について 本件意匠は、意匠登録第1573302号の意匠公報(甲1)に記載のとおり、意匠に係る物品を「ロックアップクラッチ用プレート部材」とし、図面中、実線で表された部分(以下「本件実線部分」という。)を、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分としたものである。 (2)本件実線部分の形状について 本件請求人による本件実線部分、及び引用意匠におけるこれに相当する部分(以下「本件相当部分」という。)の認定は、適切なものとはいえないため、以下、被請求人において両意匠の認定を行い、これに基づき両意匠の対比を行う。 ア 基本的構成態様 意匠の基本的構成態様とは、意匠を観察する際に看者が把握するその意匠の骨格をなす態様であり、本件実線部分については以下のように認定すべきである。 A1 本体中央の貫通孔の内壁側に、第1水平部と第1垂直部からなる第1段差部及び、第2水平部と第2垂直部とからなる第2段差部を有し、第1及び第2段差部にわたって穴部が形成されている。 B1 該穴部は、円穴部と第1?第4凹部から形成されている。 イ 具体的構成態様 意匠の具体的構成態様とは、基本的構成態様をさらに具体的に観察することにより把握するその意匠の細部にわたる態様であり、本件実線部分については、上記の基本的構成態様の認定を踏まえ、以下のように認定すべきである。 C1 円穴部は、第1水平部から底方向に形成されており、底部が平坦な臼底状をなしている。 D1 第1凹部は、第1水平部において、円穴部の開口部に沿って形成されており、部分環状をなしている。 E1 正面縦中央断面図において、第1凹部の側壁の傾斜角度は、対面壁の傾斜角度よりも緩やかに形成されている。また、第1凹部の上下幅は、円穴部の上下幅よりも狭く形成されている。 F1 第2凹部は、第2垂直部において、下端部が円穴部に連続するように形成されており、略中央部が括れた鼓状をなしている。 G1 第3凹部は、第2凹部の左右両側から略半円状に食い込むように左右一対に形成されており、それぞれの下端部は第1凹部に連続している。 H1 第4凹部は、第2凹部の上部に形成されており、緩やかに湾曲した太円弧状をなしている。その横幅は、第2凹部上縁部の横幅よりも広く形成されている。 ウ 請求人による本件実線部分の認定について (ア)請求人による本件実線部分の認定では、第1?3切削面部と特定された部分が基本的構成態様に含まれていない(審判請求書3頁)。 しかしながら、上述のとおり、意匠の基本的構成態様とは、意匠を観察する際に看者が把握するその意匠の骨格をなす態様を指すものである。第1?3切削部と特定された部分は、本件実線部分中の穴部における主要な構成であって、視覚的に顕著な要素であるから、基本的構成態様として認定すべきである。 (イ)また審判請求書において、有底の円孔部と認定された部分は、本件願書に添付した「a-a’、b-b’部分拡大図」等に示すように、立体として捉えると、いびつな形状をなしており、円孔とはいえないものであるため、本件答弁書においては穴部と認定した。 (ウ)審判請求書において、部分円孔部と認定された部分は、有底の円穴状であるため、答弁書においては円穴部と認定した。 (エ)審判請求書において第1?3切削面部、凹壁部と認定された部分は、いずれも形態的には凹状をなすものであり、また、本件実線部分に占める割合(面積等)において特段軽重があるとはいえないため、答弁書においては第1?4凹部と認定した。 (3)引用意匠について 引用意匠は、意匠登録第1498229号の意匠公報(甲2)に記載のとおり、意匠に係る物品を「ロックアップクラッチ」とし、図面中、実線で表された本件相当部分を部分意匠として意匠登録を受けようとする部分としたものである。 (4)本件相当部分の形状について 本件相当部分の基本的構成態様及び具体的構成態様は、以下のとおり認定すべきである。 ア 基本的構成態様 a1 本体中央の貫通孔の内壁側に、第1水平部と第1垂直部からなる第1段差部、及び第2水平部と第2垂直部とからなる第2段差部があり、第1及び第2段差部にわたって穴部が形成されている。 b1 該穴部は、円穴部と、第1及び第2凹部から形成されている。 イ 具体的構成態様 c1 円穴部は、第1水平部から底方向に形成されており、底部が平坦な臼底状をなしている。 d1 第1凹部は、第1水平部において、円穴部の開口部に沿って形成されており、環状をなしている。 e1 A-A線拡大断面図において、第1凹部の側壁の傾斜角度は、対面壁の傾斜角度とほぼ同じ角度に形成されている。また、第1凹部の上下幅は、円穴部の上下幅よりも広く形成されている。 f1 第2凹部は、第2垂直部において、第1凹部の上部に連続するように形成され、略扇状をなしている。 g1 第2凹部は、A-A線拡大断面図において、上端付近が垂直に表れており、斜視図においては、該垂直部の下端部に水平ラインが表われている。 (5)本件意匠と引用意匠の対比 (5-1)意匠に係る物品の対比 審判請求書(5頁)において認定されたように、本件意匠と引用意匠の意匠に係る物品は、ロックアップクラッチにおいて用いられるプレート状の部材であって、用途及び機能に差異はなく、実質的に同一視し得るものである。 (5-2)意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能の対比 本件実線部分及び本件相当部分は、本件物品が自動車用自動制御装置のトルクコンバータに内装され、油室を形成する際において、ロックリング及び押え板により固定される部分の一部をなすものである(本件意匠の「使用状態を示す参考図」参照)。 (5-3)意匠登録を受けようとする部分の位置、大きさ、範囲の対比 両意匠の意匠登録を受けようとする部分の物品全体における位置、大きさ、範囲はほぼ同一である。 (5-4)意匠登録を受けようとする部分の形態の対比 本件実線部分と本件相当部分の形状には、以下の共通点及び差異点が認められる。 ア 共通点 (ア)基本的構成態様について (共通点1)両意匠は、本体中央の貫通孔の内壁側に、第1水平部と 第1垂直部からなる第1段差部及び、第2水平部と第2垂直部とからなる第2段差部があり、第1及び第2段差部にわたって穴部が形成されている点において共通している。 (イ)具体的構成態様について (共通点2)両意匠は、第1水平部から底方向に円穴部が形成されており、その底部が平坦な臼底状をなしている点において共通している。 イ 差異点 (ア)基本的構成態様について (差異点1)本件実線部分においては、穴部が、円穴部と第1?第4凹部から形成されているのに対し、本件相当部分においては、穴部が、円穴部と第1、第2凹部から形成されている点が相違している。 (イ)具体的構成態様について (差異点2)第1凹部の形状について、本件実線部分では部分環状をなすのに対し、本件相当部分では環状をなす点が相違している。 (差異点3)本件実線部分は正面縦中央断面図において、第1凹部の側壁の傾斜角度が、対面壁の傾斜角度よりも穏やかに形成されているのに対し、本件相当部分はA-A線拡大断面図において、第1凹部の側壁の傾斜角度が、対面壁の傾斜角度とほぼ同じ角度に形成されている点が相違している。 また、本件実線部分においては、第1凹部の上下幅が、円穴部の上下幅よりも狭く形成されているのに対し、本件相当部分においては、第1凹部の上下幅が円穴部の上下幅よりも広く形成されている点が相違している。 (差異点4)本件実線部分の第2凹部は略中央が括れた鼓状をなすのに対し、本件相当部分の第2凹部は略扇状をなす点が相違している。 さらに、本件実線部分においては、第1凹部と第2凹部の間に第3凹部が介在しており、第1凹部と第2凹部の間に連続性が認められないのに対し、本件相当部分においては第1凹部と第2凹部が境界なく連続している点が相違している。 (差異点5)本件相当部分は、第2凹部の上端側に垂直部が形成されており、斜視図において、該垂直部の下端部に水平なラインが表われているのに対し、本件実線部分の第2凹部は、垂直部に該当する構成を備えていない点が相違している。 (差異点6)本件実線部分においては、第2凹部の左右両側に第3凹部が形成されているのに対し、本件相当部分には第3凹部に相当するものが形成されていない点が相違している。 (差異点7)本件実線部分においては、第2凹部の上部に、緩やかに湾曲した太円弧状をなす第4凹部が、第2凹部の横幅よりも幅広に形成されているのに対し、本件相当部分においては、第4凹部に相当するものが形成されていない点が相違している。 (6)要部認定 (6-1)判断基準、両意匠に係る物品の需要者、本件物品の概要について ア 判断基準及び両意匠に係る物品の需要者に関しては、請求人による認定(審判請求書7?8頁)に異存はない。 イ 本件物品の概要について、請求人は甲3に示されていると主張するが、原則として、本件物品の用途及び機能、使用状態は、本件意匠や引用意匠の願書及び図面に現された範囲において認定すべきである。 (6-2)公知意匠について 引用意匠の出願前公知意匠として、乙第1号証及び、乙第2号証を提出する。 ア 乙第1号証(以下「乙1」という。)は、特開2002-206627公開特許公報であり、明細書の段落【0010】及び、【図3】等において、トランスミッションの潤滑装置に用いられるクラッチギヤ(部材番号7)が開示されている。当該クラッチギヤのディスク部(同7a)は、段付部(同7b)に複数のオイル孔(同8)が形成されている。 イ 乙第2号証(以下「乙2」という。)は、PCT出願国際公開公報WO2012/132739A1であり、【図3】等において、ロックアップクラッチ機構(部材番号8)の流体伝動装置(同1B)の内部構造が開示されている。 当該流体伝動装置(同1B)はフランジ部材(同85)を備えており、その本体中央の貫通孔の内壁側の段差部に、穴部が形成されている。 (6-3)意匠の要部について 請求人による要部認定は、適切なものとはいえないため、以下、被請求人において要部認定を行う。 ア 本件物品は、本件意匠の使用状態を示す参考図に示すように、自動車用自動制御装置(オートマティックトランスミッション)のトルクコンバータに内装され、油室を形成するロックアップクラッチ用プレート部材である。 イ 本件物品は、人を乗せて高速走行する自動車の基幹部品であり、使用時(運転時)には非常に高速で回転するものである。 このため需要者は、本件物品に対し、高速回転による負荷がかかっても位置ずれ等が生じないこと、欠損が生じにくいこと、欠損による金属屑がトルクコンバータ内に脱落しないこと等を求めている。 さらに、トルクコンバータの製造時やメンテナンス時に、作業者が本件物品に触れることがあるため、手への当りが優しい構成であることも求められている。 したがって、本件実線部分の各構成の中でも、こうした点に影響を及ぼす部分は、特に需要者が注目する部分となる。 ウ 本件物品は、押さえ板やロックリングを表面に押し当てて設置固定される。このとき、押さえ板等との当接面に穴部が形成されていると、穴部の縁にエッジが立ち、位置ずれや欠損の原因となりやすい。 さらに、穴のエッジ部分に作業者が触れた際は、エッジの角度が急であるほど手に違和感を覚えやすい。 エ 本件意匠は、このような点に鑑みて創作されたものであり、穴部に第1?4凹部を形成することで、穴部を構成する各凹部を深くするとともに、縁のエッジが大きな鈍角となるようにして、バリや欠損が生じにくくしている。さらには、手への当たりも優しくしている。 このような部分は、物品の性質、用途、使用態様からみて、需要者が注目する特徴的部分といえることから、第1?4凹部を備えた穴部の形態が、本件意匠の要部であると認定すべきである。 オ また、上記の公知意匠(乙1、乙2)との対比においても、自動車用制御装置(トランスミッション)に内装されたプレート部材に段差部を形成し、その段差部の垂直部と水平部にかかるようにして穴部を形成した態様は引用意匠の出願前から公知であり、特段斬新なものとはいえず、需要者が注目する部分とはなり得ない。 これに対し、第1?第4凹部を備えた穴部の形態は従来知られておらず、新規な特徴的部分であることから、需要者が特に注目する部分である。 このように、公知意匠からみても、第1?第4凹部を備えた穴部の形態が本件意匠の要部であると認定すべきである。 (6-4)請求人による要部認定に対する反論 ア 物品の性質、用途、使用態様からみた要部認定について 請求人が主張する、物品の性質、用途、使用態様からみた要部の認定(審判請求書8?10頁)は、以下に述べる理由により失当である。 (ア)請求人は、甲3公報(段落【0023】)を引用しつつ、本件物品の需要者(取引者)が特に注目する部分は、「フランジ部材の基部85aのフロントカバー3側の形状」及び、「本件物品の背面側において、各円孔部に対応する位置に設けられた『突出部』の径方向外方側の角部が精度良く形成されているかという点」である旨を主張している(審判請求書8?9頁、(6-4)イ)。 しかし、本件意匠及び引用意匠は、ロックアップクラッチ用プレート部材の正面側の一部を対象とした部分意匠であり、請求人が主張する上記背面部分は、いずれも意匠登録の対象となる部分から除外された破線部分である。 意匠登録を受けようとする部分の位置、大きさ、範囲を認定する上で破線部分をある程度考慮する余地があるとしても、部分意匠の要部認定において、破線部分を需要者が特に着目する部分であると認定するのは、部分意匠制度導入の趣旨(特徴ある創作部分の保護)を没却するものであり、妥当性に欠けると言わざるを得ない。 (イ)また請求人は、「本件意匠及び引用意匠の特徴は、突出部を含む基部85aをプレス加工によって形成している点である。」と主張する(審判請求書9頁、(6-4)ウ)。 しかし、両意匠の願書及び図面には加工方法に関する言及がなく、加工方法を特定することはできない。 「登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面等により現わされた意匠に基づいて定めなければならない(意匠法24条1項)」のであるから、類否判断の前提となる要部認定も、願書及び図面に直接的に現わされた意匠に基づいて行うべきであり、願書等に何ら言及のない加工方法を特徴点と認定するのは明らかに失当である。 さらに「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(同条2項)」ことから、視覚的に認識できない加工方法を特徴点として認定するのは明らかに失当である。 (ウ)さらに請求人は、本件意匠の「『円孔部』自体は特段の技術的効果を果たすものではない」とし、「部分円孔部の内部形状や凹壁部の内面形状は、細部に係る構成である上(円孔部の直径が概ね7?9mm程度であることも考慮されたい)、物品の性質、用途、使用態様に照らしても需要者が注目する部分ではない。このため、本件意匠の正面側の形状は、背面側の形状が所期の目的・機能を果たすのに必要な範囲で需要者の注意を惹くに過ぎない。」と主張する(審判請求書10頁、(6-4)エ)。 しかし、部分円孔部の内部形状や凹壁部の内面形状は、本体表面に露出しているため外部から容易に視認可能であり、内面形状というよりむしろ表面形状というべき部分である。 また、これらの部分は円孔部において大きな割合を占め、その外観を大きく左右する要素である。 さらに、円孔部の直径が7?9mm程度であれば、肉眼でも十分に視認可能であるのに加え、円孔部は位置ずれや欠損しにくさ、手当たりの優しさに直接的に関わる部分であるため、需要者が特に強い関心を持って観察する部分であるといえる。 したがって、この部分を需要者が注目する部分ではないとした上記主張は失当である。 (エ)請求人は以下のような主張も行っている。 「『円孔部』が正面視において『頭部がひしゃげた雪だるま状』に形成されている点は、基部85aのフロントカバー3側の端面及び突出部の径方向外方側の角部をプレス加工によって精度良く形成するために必要な工夫として需要者の注意を惹く部分といえるが、それ以外の正面側の形状、特に部分円孔部の内部形状や凹壁部の内面形状は需要者の注意を惹く部分とはいえない」、「以上より、(中略)『円孔部』が正面視において『頭部がひしゃげた雪だるま状』に形成されている点は、物品の性質、用途、使用態様からみた場合の意匠の要部といえる」(審判請求書10頁、(6-4)エ、オ)。 しかしながら、本件物品は、需要者(取引者)が手に取って自由な角度から観察できるものである。このような場合、本件意匠の斜視図のような角度から立体的に形状を把握するのが需要者にとって最も自然な観察態度であり、正面から見た形状を特徴点と捉えるものではない。 以上より、上記主張は、円孔部の正面視形状を意匠の要部と認定した点についても妥当性を欠くものである。 (オ)請求人による以下の主張も失当である。 「第1ないし第3切削面部は単なる『面取り』に過ぎないため、需要者にとっては従属的な意義しか有していない。」(審判請求書10頁、(6-4)エ)。 面取りとは、角部の形状に沿って削り取ることを意味し、例えば本件意匠の第2段差部のコーナー部に施されたようなものを指す。 これに対し、本件意匠の第1ないし第3切削面部は、単に角部を削ったものではなく、独特の形状に形成された凹部であり、いわゆる面取りには該当しない。 よって、これらの部分を需要者にとって従属的な意義しか有していないとした上記主張は失当である。 イ 公知意匠からみた要部認定について (ア)請求人は、円孔部が、頭部がひしゃげた雪だるま状に形成されている点を開示する公知意匠はなく、当該構成は、公知意匠に照らしても両意匠の特徴的部分であって、意匠の要部である旨主張する(審判請求書10?11頁、(6-5))。 しかしながら上記(6-2)で述べたとおり、引用意匠の出願前には、乙1及び乙2に示す意匠が公知であった。 乙1において、段差部に形成されたオイル孔(同8)の態様は、引用意匠の円孔部と、大まかな形状において共通性が認められるため、引用意匠の円孔部の形状は、詳細な部分に着目すれば一定の違い(特徴)を見出すことができるものの、大まかな形状は概ね公知であって、需要者の注意を強く惹くものとはいえない。 また乙2の図3等には、流体伝動装置のフランジ部材(部材番号85a、85B)、本体中央の貫通孔の内壁側段差部に孔部が形成された態様が開示されていることから、引用意匠の円孔部の位置、大きさ、範囲や、非貫通孔(穴)としている点も、従来公知であって、特段新規なものではない。 乙1、乙2の存在を踏まえれば、両意匠は、穴部を構成する凹部の態様において差別化が図られているというべきであり、このような点を考慮して要部認定を行うべきである。 (イ)なお、仮に、円孔部が正面視において頭部がひしゃげた雪だるま状をなす点が引用意匠の特徴になり得るとしても、本件意匠の穴部は、そもそも正面視において頭部がひしゃげた雪だるま状の態様を有していない。 すなわち、本件意匠の穴部の正面視形状は、上から順に一定幅の円弧状部、偏平T字と円形を組み合わせた部分、鼻環状部からなるものであり、引用意匠とは構成態様が明らかに異なるものであって、頭部がひしゃげた雪だるま状と認定することはできない。 よって、円孔部が正面視において頭部がひしゃげた雪だるま状が両意匠の要部であるとする請求人の上記主張は明らかに誤りである。 (6-5)小括 以上に述べた理由により、本件意匠の要部は、上記(6-3)で被請求人が主張したとおり、第1?4凹部を備えた穴部の形態にあると認定すべきである。 (7)本件意匠と引用意匠の類否 (7-1)共通点及び差異点の評価 ア (共通点1)について 「本体中央の貫通孔の内壁側に、第1水平部と第1垂直部からなる第1段差部及び、第2水平部と第2垂直部とからなる第2段差部があり、第1及び第2段差部にわたって穴部が形成された態様(共通点1)」は、乙2に概ね開示されており格段新規なものではなく、両意匠の要部にはなり得ない。 よって、(共通点1)が類否判断に及ぼす影響は微弱であるというべきである。 イ (共通点2)について 「第1水平部から底方向に円穴部が形成されており、その底部が平坦な臼底状をなす態様(共通点2)」は、本件意匠の第1?4凹部、引用意匠の第1、2凹部に比べて奥まった部分にあり、穴部全体に占める割合も3?4分の1程度にとどまるため、第1?4凹部等に比べると目立ちにくい要素である。 よって、(共通点2)が類否判断に及ぼす影響は微弱であるというべきである。 ウ (差異点1)について 穴部の態様は上述のとおり両意匠の要部に該当し、両意匠の類否判断において支配的要素となる。 本件意匠の穴部は、円穴部と第1?第4凹部から形成されているため、面構成が複雑で変化に富んだ印象を与えるのに対し、引用意匠の穴部は円穴部と第1、第2凹部のみから形成されているため、面構成が単純でシンプルな印象を与え、両意匠は需要者の視覚を通じて明らかに異なる美感を与えるものとなっている。 エ 差異点2?7について 円穴部と第1?第4凹部(引用意匠においては円穴部と第1、第2凹部)の具体的構成態様上の差異点2?7は、穴部全体の3分の2以上の割合を占め、視覚的に顕著な差異であり、両意匠の美感を大きく別異ならしめている。 すなわち本件意匠は、第2凹部と第3凹部によって、曲線的で、くびれのある印象を与えるとともに、第4凹部により頭でっかちな印象を与える。また断面図において、第1凹部の側壁の傾斜角度が対面壁の傾斜角度より緩やかであることや、第4凹部の側壁の傾斜角度が第2凹部より緩やかであることにより、穴部全体として、外側に開いた開放的な印象を与えるものとなっている。 これに対し、引用意匠は、第1凹部と第2凹部が連続して形成されていることにより、すっきりとしたシャープな印象を与えるものとなっている。また、断面図において、第1凹部の側壁の傾斜角度が対面壁の傾斜角度とほぼ同じであることや、垂直部が切り立っていることにより、穴部の深さ方向に奥行きを感じさせ、求心的な印象を与えるものとなっている。 このように差異点2?7が相俟った結果、両意匠は全く異なる美感を与えるものとなっており、上述した機能面への影響(位置ずれや欠損しにくさ、手当たりの優しさ)も考慮すれば、需要者が特に注目する差異であり、類否判断に極めて大きな影響を与えるものである。 (7-2)両意匠の類否判断 以上の点を踏まえ、両意匠を全体的に対比観察した場合、共通点はいずれも従来公知の態様に近いもので意匠の要部となり得ないのに対し、差異点は新規な特徴点であって意匠の要部となる部分であることから、これらを全体的に対比観察した場合、意匠の美感に与える影響において、差異点が共通点を遥かに凌駕している。 これにより、本件意匠は面構成が複雑で変化に富んだ印象や曲線的で、くびれのある印象、頭でっかちな印象、外側に開いた開放的な印象を与えるのに対し、引用意匠は面構成が単純でシンプルな印象や、すっきりとしたシャープな印象、穴部の深さ方向に奥行を感じさせる求心的な印象を与え、需要者の視覚を通じて全く異なる美感を与えるものとなっている。 さらに、穴部の態様の違いは、両意匠の機能美にも実質的な違いを生じさせており、この点においても、需要者に対し、別異な印象を与えるものである。 よって、本件意匠は全体として、引用意匠とは明らかに非類似の意匠であって、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものではない。 (8)むすび 以上に述べたように、「本件意匠登録は、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるため、同法第48条第1項第1号の規定により、無効とされるべきである」とする請求人の主張は成り立たない。 (9)証拠方法 ・乙第1号証 特開2002-206627公開特許公報の写し ・乙第2号証 PCT出願国際公開公報WO2012/132739A1の写し 第4 口頭審理 本件審判について、当審は、平成30年7月13日に口頭審理を行った。(平成30年7月13日付け第1回口頭審理調書) 1.審理事項通知書の【審理事項】の記載 請求人、被請求人に対して以下の当合議体の認定に対して、意見等を求めた。 「当合議体では、意匠登録第1573302号(甲1)の意匠(以下「本件意匠」という。)及び意匠登録第1498229号(甲2)の意匠(以下「引用意匠」という。)の実線で表された有底の円孔部(円穴部)は、プレス機の金型によって形成されたものであって、両意匠の意匠に係る物品であるといえる「ロックアップクラッチ用プレート部材」が、トルクコンバータに組み込まれた使用時においては、何の機能も持たないものと考えております。また、引用意匠(当審注:本件意匠の間違い。)の円孔部(円穴部)の縁部分は、プレス加工後に更に加工されたものと考えております。」 2.請求人の陳述の要領 (1)合議体の認定に対する請求人の意見(平成30年5月1日付け審理事項通知書、【審理事項】、1.(1)) (1-1)円孔部(円穴部)について 合議体の認定のとおり、本件意匠及び引用意匠において実線で表された有底の円孔部(円穴部)は、プレス機の金型によって形成されたものであり、本件物品の背面側の突出部をプレス加工によって形成したことに対応してできた有底の孔である。両者は表裏一体の関係にある。そして、円孔部(円穴部)をプレス加工により頭部がひしゃげた雪だるま状に形成することにより、背面側の突出部を増肉することができ、該突出部の強度及び加工精度を向上させることができる、円孔部(円穴部)を頭部がひしゃげた雪だるま状に形成することには、このような意義がある。 この円孔部(円穴部)は、本件物品がトルクコンバー夕に組み込まれた使用時においては、何の機能を持たない。このため、仮に本件物品をプレス加工以外の方法で製造する場合は、敢えて円孔部(円穴部)を設ける必要はない。 (1-2)本件意匠の円孔部(円穴部)の縁部分について 合議体の認定のとおり、本件意匠(請求人注:本件意匠の誤記と思われるため、以下、本件意匠と解して回答する。)の円孔部(円穴郎)の縁部分は、プレス加工後に更に切削加工されたものである。 特に、本件意匠の第3切削面部(第3凹部)は、切削工具ないし面取り工具によって第1切削面部(第1凹部)を切削することに伴って必然的に形成されたものである。このことは、第1切削面部を第2垂直部の根元付近まで形成しようとすれば必然的に第2垂直部及び主傾斜面部(第2凹部)の一部を削り取ることになるという事実に照らして明らかである。 そして、今回の被請求人の口頭審理陳述要領書における主張を考慮したとしても第1切削面部(第1凹部)及び第2切削面部(第4凹部)を単なる面取り又はバリ取り以上のものということはできないため、第3切削面部(第3凹部)は、円孔部(円穴部)の周囲に第1切削面部(第1凹部)及び第2切削面部(第4凹部)という面取りないしバリ取りを施したことに伴って必然的に形成されたものに過ぎず、これらに従属する副次的意味しか有しないものである。 さらに、第3切削面部(第3凹部)と主傾斜面部(第2凹部)との交差具合が極めて小さいことをも考え併せると、両者を区画する鼓状の稜線も明瞭に現れるとは言い難いため、意匠評価上、第3切削面部(第3凹部)を大きく評価することはできないものである。 審判事件弁駁書において請求人が第3切削面部(第3凹部)を傷跡レベルのものと称したのは、このためである。 (2)被請求人の口頭審理陳述要領書に対する反論 (2-1)突出部の角部における形状の相違及びそれを前提とする被請求人の主張に対し、被請求人は、本件意匠と引用意匠とが突出部の角部のダレ(欠肉)の具合において相違すると主張する。そして、それを前提に諸々主張している。 しかしながら、そもそも、突出部の角部の形状は「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分以外の部分」(破線部分)に係る形状であり、かかる部分の具体的形状は、部分意匠の類否判断において直接問題となるものではない。 そもそも、被請求人は、突出部の角部の形状の相違をダレないし加工精度の問題と捉えているが、かかる部分の形状の適否は相手方部材であるセンターピース側の凹部の形状等にも依存するのであって、加工精度の問題ではない。この点に関して本件意匠の実施品も引用意匠の実施品も相手側部材の形状に応じて精度良く形成されている点で変わりはないから、それをダレないし加工精度の問題と捉える被請求人の主張は失当である。かかる部分の形状に関して両意匠に加工精度の差はない。 以上のとおり、突出部の角部の具体的形状の相違を前提とする被請求人の主張は、前提において失当である。 (2-2)穴部周辺の盛り上がりやバリについて まず、穴部周辺にバリが生じるか否かについては、パンチと材料はテーパー面で接触しており、パンチを引き抜くのに格別大きな力は要しないから、パンチを引き抜く際に材料がパンチに追従するなどといったことはおよそ考えられないことである。 次に、盛り上がりが生じるか否かについては、パンチと金型との間には隙間が存在するため(但し、極めて小さな隙間であり、パンチを押し込むにつれてその隙間はますます小さくなる)、余肉がそこに入り込む可能性はあり、その結果、その部分に一定程度の盛り上がりが発生することは全く考えられないことではない。 しかしながら、かかる部分における余肉の発生は、本件意匠に特有の現象ではなく、引用意匠を加工する場合にも同様に起こることであるから、その点で両意匠に相違はないものである。 また、引用意匠の場合も、製品の出荷前にそのような余肉の部分を除去しており、それを残した状態で製品が流通過程に置かれることはない。つまり、需要者が目にするのは、本件意匠及び引用意匠のいずれの場合においても、常に、かかる余肉ないし盛り上がりが存在しない状態の形状であり、それが通常の状態であるから。そのような通常の状態にある部分が殊更需要者の注意を惹き付けるなどといったことはあり得ないものである。 さらに、被請求人が主張する第1、第3及び第4凹部の意義についても、結局のところ、本件意匠の第1、第3及び第4凹部は穴部周辺の盛り上がりやバリを除去するというものでしかなく、畢竟、面取りやバリ取りの域を出ないものであって、それを超える独自の意義はないものである。せいぜい面取りやバリ取りを行う範囲を若干広げたというに過ぎず、それによって第1、第3及び第4凹部に面取りやバリ取りとは異なる独白の意義や印象が生じるものではない。 よって、第1、第3及び第4凹部は特に需要者の注意を惹くものではないから、これらを意匠の要部ということはできない。 まして、これらが、美感上頭部がひしゃげた雪だるま状の印象を凌駕するなどといったことはあり得ないものである。 (2-3)乙第2号証に基づく被請求人の主張に対し、被請求人は、「乙第2号証においても、ロックアップクラッチ用プレートの表裏において、『穴部』と『突出部』とが対応する位置に形成されており、『プレス加工によって両部を同時に、かつ対応する位置に形成する』という方法は、引用意匠において特に新規なものではない」(被請求人要領書、15頁、18?22行)と主張する。 しかしながら、意匠の類否判断において参酌されるのは公知意匠に表された形状であり、抽象的な製造方法ではないから、被請求人の主張は失当である。たとえ製造方法において共通していたとしても、それによって形成される形状が異なっていれば、意匠としては別異の意匠と評価される。 しかるに、審判事件弁駁書13頁、(4-2-2)に記載したとおり、1)そもそも乙第2号証の図3に示された形状が穴なのかどうかは直ちには明らかではなく、2)仮にこれが穴であったとしても、直ちに円孔であるとはいえず、3)さらに、百歩譲って仮にこれが円孔であったとしても、その開口部は楕円状となり、頭部がひしゃげた雪だるま状にはならないから、乙第2号証によって頭部がひしゃげた雪だるま状の形状の新規性を否定することはできないものである。 よって、乙第2号証に照らしても、頭部がひしゃげた雪だるま状の形状は意匠の要部というべきである。 (2-4)第1、第3及び第4凹部が一般的な面取りやバリ取りの範疇を超えているとの被請求人の主張に対し、被請求人は、本件意匠における第1、第3及び第4凹部が一般的な面取りやバリ取りの範曙を超えていると主張する(被請求人要領書15頁、11?12行)。 しかしながら、前記(2-2)に記載したとおり、本件意匠の第1、第3及び第4凹部に面取りやバリ取りを超える独白の意義はないから、被請求人の主張は失当である。需要者にとって、これらは面取りやバリ取りの範疇にとどまるものである (2-5)本件意匠では引用意匠とほぼ同一の穴部を形成することは実質的に不可能であるとの被請求人の主張に対し、被請求人は、「本件意匠(の実施品)は、プレス工程において、大きな荷重をかけるため、材料の盛り上がりや大きなバリが発生し、引用意匠とほぼ同一の穴部を形成することは実質的に不可能である」(被請求人要領書19頁、15?17行)と主張する。 しかしながら、引用意匠においても穴部周辺に盛り上がりは生じるから、この点で両意匠に何ら相違はない。 また、意匠図面に表されていない荷重の大小をいう被請求人の主張も失当である。図面上、そのような相違を認めることはできない。 (2-6)引用意匠の加工方法では一定以上の加工精度を実現することはできないとの被請求人の主張に対し、被請求人は、「引用意匠の加工方法では、『突出部』のダレが大きくなり、一定以上の加工精度を実現することはできない」(被請求人要領書20頁、3?4行)と主張する。 しかしながら、前記(2-1)に記載したとおり、そもそも、ダレの程度は破線部分における具体的形状の相違であり、部分意匠の類否判断においてかかる部分を直接問題にすることは妥当ではないものである。ダレの程度や加工精度に関して両意匠に相違はない。 3.被請求人の陳述の要領 (1)平成30年5月1日付け審理事項通知書に記載の【審理事項】について 【審理事項】においては、本件意匠及び引用意匠の穴部の加工方法について説明を求められている。 穴部の加工方法としては、プレス加工や切削加工、鋳造加工(ダイカスト)等が可能であるが、以下、引用意匠、及び本件意匠の本意匠である意匠登録第1572992号の現時点での実施品に基づいて説明する。 (1-1)本件意匠、引用意匠の実線で表された有底の円孔部(円穴部)はプレス機の金型によって形成されたものであるか否かについて 引用意匠の実施品は穴部全体がプレス機の金型によって形成されている。一方、本件意匠の本意匠の実施品においては、下図の赤色着色部分がプレス機の金型によって形成されている。 (1-2)本件意匠の円孔部(円穴部)の縁部分は、プレス加工後に更に加工されたものであるか否かについて 本件意匠の実施品において、上図の青色着色部分は、プレス加工後さらに切削加工されたものである。 (1-3)本件意匠、引用意匠の実線で表された有底の円孔部(円穴部)は、本物品が、トルクコンバータに組み込まれた使用時においては、何の機能も持たないものであるか否かについて 両意匠の穴部(本件意匠においては赤色着色部)は、プレス成型時に金型(パンチ)を挿入した跡であり、トルクコンバー夕に組み込まれた使用時においては、特定の機能を発揮するものではない。 ただし、穴部を設けたことによって物品本来の機能にマイナスの影響(回転中の位置ずれや欠損等)が生じないようにする必要があるため、穴部には、トルクコンバータ内で物品が正常に機能することを確保する役割があるといえる。 (2)技術的背景を踏まえた両意匠の類否について (2-1)需要者の要求事項、着目する点について まずは本件意匠や引用意匠のようなロックアップクラッチ用プレートに対する需要者の要求事項や要求レベル、意匠観察時に着目する点について、主に穴部、突出部に関連する事項について述べる。 ア 需要者及び取引方法について 本件意匠や引用意匠に係る物品は、自動車のトランスミッション装置において高速回転する部分に使用されるものであって、その需要者は自動車メーカーの技術者等であり、高い専門的知識と、厳しい品質意識をもって製品を観察している。 また取引の方法は、店頭やカタログ等で製品をみて選択、購入するようなものではなく、販売者と購入者が対面し、製品の形状や性能等を説明し、場合によっては、試作品でテストを行う等して詳細に確認した上で、取引が成立する。 このため、需要者は、穴部等の形状を仔細に確認することができるとともに、性能への影響も十分に検討、理解することができる。 イ 需要者の要求事項等について (ア)突出部について 高速回転中に嵌合部がずれたり、欠損が生じたりすると、正常な動作に支障をきたすため、突出部は一定の形状、強度を備えている必要があり、需要者からは高い加工精度が求められる。 (イ)穴部について 本物品は第1水平部にリング部材を当接させることにより位置固定されているが、本物品の穴部は、このリング部材が当接する第1水平部に形成されているため、穴部の周りに盛り上がりやバリ等が残っていたり、穴部の縁が欠損して破片を噛み込んだりすれば、嵌合部にズレが生じて、傾きが発生し、振動や騒音の原因となる。 また、傾きが生じない程度であっても、穴部の周囲に僅かでも盛り上がりや欠損があると、ピストンの移動距離(ストローク)が変わってしまう。 需要者においては、傾きの防止や、ストローク管理が非常にシビアに行われているため、穴部の周囲に、盛り上がりや欠損が生じていないこと、さらには、高速回転時においても欠損等が生じる畏れがないことが、強く求められている。 (2-2)引用意匠及び、本件意匠における穴部、突出部の相違点について ア 弁駁書(18頁)で請求人が主張するように、突出部と穴部は表裏の位置関係にあり、プレス加工によって、同時に、かつ対応する位置に形成し得るものであるが、上述のような需要者のシビアな要求に応えるため、本件意匠においては、引用意匠とは異なる加工方法を採っている。 これにより、本件意匠と引用意匠とは外観及び性能が明確に相違するものとなっている。 イ まず形状について、本件意匠の穴部は第1、第3、第4凹部を有する点において、引用意匠とは明確に相違している。 さらに、突出部においても、引用意匠の突出部は、本願意匠に比して、隅部が大きな丸みを帯びた形状をなしている点に相違が認められる。両意匠の実施品においても同様の相違が認められる。 本件意匠の穴部においては、大きな盛り上がりやバリを確実に除去するとともに、高速回転時においても欠損を生じにくくするための工夫が穴形状全体に表れており、第1水平部に大きく開口するように設けられた第1凹部と、第2凹部に食い込むように設けられた第3凹部とが明瞭に視認される。 より詳細に説明すると、第1凹部は、第1水平面から穴の底部方向へと、緩やかに傾斜するように抉り取ったものであり、バリや盛り上がりを確実に除去するとともに、使用時においても、角部に欠損が生じにくい形状としている。 第3凹部は、第1水平部と第2垂直部が交わる部分に位置しており、穴の外側から中央へと円弧状に大きく食い込むように抉り取ったものである。 水平部と垂直部との繋ぎ部はプレス加工工程においてワークの形状に合わせて押さえることが難しいため、材料が意図しない位置に移動しやすく形状が不定形となりやすい。 このような部分を、大きく内側へと食い込むように抉りとることで形状を一定に整えるとともに、食い込みの形状を敢えて円弧状にすることで、コーナーエッジが立ちすぎない滑らかな形状としで、使用時における欠損を生じにくくしている。 特に、第1、第3凹部が形成された部分は、使用時においてリング部材が当接する部分であって表面に盛り上がり等があってはならない。 本件意匠においては、この部分を、通常のバリ取りに必要な範囲を大きく越えて、特徴的な形状に抉り取ることで、需要者に対し、リング部材との接面の安定性に優れたものであることを視覚的に認識させることができる。 第4凹部もコーナー部を大きく抉り取った形状となっているため、他の凹部同様、欠損が生じにくく、また、穴の上端部に視覚的に顕著な窪みが表れることで、一見して品質的な安定性を感じさせるものとなっている。 このように、これらの凹部は一般的な面取り、バリ取りの範躊を越えて、穴部の形状を極めて特徴的なものにしており、かつ、穴部全体の表面積のうち約40%を占め、どのような観察方向からであっても、目立つものであって、需要者の注意を強く惹くものであるから、これを傷跡レベルなどということは到底できないことは明らかである。 (2-3)先行意匠について なお、答弁書に添付した乙第2号証においても、ロックアップクラッチ用プレートの表裏において、穴部と突出部とが対応する位置に形成されており、「プレス加工によって両部を同時に、かつ対応する位置に形成する」という方法は、引用意匠において特に新規なものではない。 1)フランジ部材の中央部に開口部が設けられ、その近傍の段差部の一側に穴部が形成されている点 2)穴部の裏面側の対応する位置に突出部が形成されている点において、引用意匠との共通性が認められる。 これを加工方法として捉えると、乙第2号証のフランジ部材(85B)の穴部は、反対側に突出部を形成するために設けられたものであり、引用意匠の加工方法は、これを踏襲しつつ、プレス加工に用いるパンチの形状を変えたという点で、部分的な変更が加えられたものである。 従って、引用意匠は、中央開口部の近傍において、突出部に対応する位置に設けられた穴の具体的な形状において、新たな創作がなされたものと捉えることができる。 (2-4)本件意匠と引用意匠の類否について 以上に詳述したとおり、引用意匠は、ダレを残しつつ、一定の加工精度を満たした突出部をプレス加工のみで形成できるところに、独自の利点を有するものである。 これに対し、本件意匠は、需要者のさらに厳しい要求を満たすために、プレス加工時の荷重を大きくして、ダレを小さくし、突出部の加工精度を向上させたものである。 さらに、その影響で穴部側に生じる出っ張りやバリ等を、通常必要な範囲を越えて、特徴的かつ目立つ形に抉りとることにより、穴部側に求められる需要者の要求についても、より高いレベルで充たし、製品の信頼性を高めたものである。 このように、本件意匠は、引用意匠が意図していた加工方法や加工精度を越えて、独自の創作がなされたものであって、新たな意匠的価値を有するものであり、この点において、需要者への訴求力を備えたものなのである。 以上に述べたとおり、引用意匠と本件意匠は、全く異なる外観及び、機能美を有するものであり、市場においては、製品設計上の要求により使い分けられるものであって、両者それぞれに存在意義がある。 ゆえに、請求人が主張するように、図面上破線で表された突出部との関係や加工方法を考慮したとしても、両意匠は互いに非類似であるというべきである。 (3)弁駁書に対する反論 (3-1)本件意匠の第1、第3及び第4凹部について 1)請求人は、第1、第3及び第4凹部が傷跡レベルの稜線であると主張し、需要者が注目するようなものとは言い難いと認定している(弁駁書8頁、24頁他)。 しかし、上述のように、これらの凹部は、一般的な面取り等で必要な範囲を越えて、特徴的な形状に、かつ視覚的にも目立つように大きく抉り取られたものである。 また、これらの凹部は、穴部全体の表面積のうち約40%を占めるとともに、どのような観察方向からでも目立つ位置にあって明瞭に観察し得るものであるから、傷跡レベルのものではない。 なお、上述したように、本物品の需要者は自動車メーカーの技術者等であり、高い専門的知識と、厳しい品質意識をもって製品を観察している。 取引の方法も、販売者と購入者が対面し、必要に応じて試作品を提供する等しながら、製品の形状や品質等を認識した上で取引が行われる。 このため、需要者は、穴によって物品本来の機能にマイナスの影響が生じないかという視点をもちつつ、非常にシビアな目で、その形状を仔細に観察するものである。 上記のとおり、第1、第3及び第4凹部は、大きく特徴的に抉り取った形状によって、バリ等の突出がないことを明確に示すとともに、トルクコンバータに組み込まれた状態(使用時)においても、欠損等が生じにくくした構成であるため、需要者が特に着目する点であるというべきである。 2)また請求人は、「本件意匠は、初めに引用意匠ないしそれとほぼ同一の意匠を製造した後、さらに面取りまたはバリ取りの『切削』により『第1、第3及び第4凹部』を追加しただけのものに過ぎない」と主張する(弁駁書14頁)。 しかし上述のとおり、本件意匠(の実施品)は、プレス工程において、大きな荷重をかけるため、材料の盛り上がりや大きなバリが発生し、引用意匠とほぼ同一の穴部を形成することは実質的に不可能である。 さらに、第1、第3及び第4凹部は、一般的なバリ取り、面取りに必要な範囲を越えて、製品の信頼性をさらに向上させるために形成されたものであり、独自の創作がなされたものである。 よって、請求人による上記の主張には明らかな誤認がある。 (3-2)穴部と突出部の加工精度との関係について 請求人は、本件意匠及び引用意匠においては、「『第1水平部』・『第2垂直部』・『第2水平部』にわたって設けられた『円孔部』が全体として『頭部がひしゃげた雪だるま状』に形成されていることにより、『突出部』の径方向外方側を精度良く形成することが実現されている」と主張する(弁駁書10頁)。 しかし、上述のとおり、引用意匠の加工方法では、突出部のダレが大きくなり、一定以上の加工精度を実現することができない。 よって、引用意匠の穴部の形状と、突出部の加工精度を高めることが、あたかも必要十分の関係にあるかのような上記の主張は実態にそぐわないものである。 また、本件意匠は、需要者によるさらに厳しい要求に対応すべく、加工方法においても、引用意匠とは異なる工夫が凝らされたものであり、それがゆえに穴部の形状も、引用意匠とは全く異なったものになっているのである。 請求人による上記の主張は、このような点を看過したものであって、本件意匠に関しても明らかな誤認があると言わざるを得ない。 (3-3)要部認定について 上述のように、誤った認識を前提として行われた請求人による要部認定も妥当性を欠くものである。 もし、請求人が主張するように、穴部とその裏面の突出部との関係性や、実施品の加工方法を考慮するとしても、上記(2)において述べたように、本件意匠は、第1?第4凹部を備えた穴部全体の態様において、引用意匠にはない新規な特徴を備えている。 そして、その特徴は、請求人が主張するような傷跡レベルのものとは到底いえず、視覚的にも、機能的な意義においても、需要者の注意を強く惹くものであって、意匠の要部となるものである。 (3-4)両意匠の類否判断について 1)請求人は、「被請求人が差異点1?7によって醸成されると主張する各印象は、意匠全体がもたらす『頭部がひしゃげた雪だるま状』という印象を凌駕するものではなく、微弱な印象にとどまるものである。よって、本件意匠と引用意匠とは美感を共通にし、互いに類似する意匠というべきである」と主張する(弁駁書25?26頁)。 しかしながら、この主張も以下に述べる理由により、妥当性を欠くものである。 請求人が主張するように、需要者が本件実線部分を観察する際に、裏面側の突出部の加工精度との関係性に着目するならば、引用意匠は、プレス加工のみによって形成されたことで、穴部のアウトラインが一本の線で明瞭に表れ、穴部全体がシンプルで、エッジの立ったすっきりした態様をなす点に特徴を有するものといえる。 請求人は引用意匠の穴部を頭部がひしゃげた雪だるま状という表現を用いて認定しているが、雪だるまとは、大小の雪の玉を上下に連ねたものであり、非常にシンプルな態様をなすものである。引用意匠の穴部は、まさにこの比喩のとおり、凹部等が一切形成されておらず、穴部のアウトラインだけが明瞭に表れ、穴のアウトラインより内側の部分も含めて全体が極めてシンプルな態様をなす点が特徴的であって、それこそが需要者の注意を惹く点であるといえる。 2)これに対し本件意匠は、最終形状はもちろんのこと、加工過程においても、頭部がひしゃげた雪だるま状の態様を有しておらず、引用意匠における上記の特徴点を備えていないものである。 そして、裏面側の突出部の加工精度との関係性に着目するのであれば、本件意匠は、第1、第3及び第4凹部を設けたことで、ダレの小ささと、穴部に要求される役割を両立せしめた点に独自の特徴があるのであり、形態的には、第1?第4凹部を備えた穴部の形状に特徴を有するものである。 より具体的には、第1?第4凹部を備えたことによって、本件意匠の穴部は面構成が複雑になり、エッジを抑えた滑らかさを感じさせるものとなっているのであり、上述したような需要者の特性や取引形態も考慮すると、この点こそが、需要者の注意を強く惹く特徴点であるといえる。 このように両意匠は全く異なる特徴を備えるものであって、本件意匠と引用意匠とは美感を異にしており、互いに非類似の意匠であるというべきである。 (4)結論 以上に述べた理由から、本件意匠は、新規性を有しており、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものではない。 よって、本件意匠は同法第48条第1項により無効とすべきであるとする請求人の主張は成り立たない。 (5)証拠方法 ・乙第3号証 写真撮影報告書(本件意匠の本意匠及び引用意匠の実施品)の写し 3.審判長 審判長は、この口頭審理において、甲第1号証ないし甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証並びに乙第1号証ないし乙第3号証について取り調べ、甲第4号証及び甲第5号証の原本について取り調べた。また、請求人及び被請求人に対して、本件無効審判事件の審理終結を告知した。 第5 当審の判断 1.本件意匠(意匠登録第1573302号の意匠) 本件意匠の出願は、物品の部分について意匠登録を受けようとし、本意匠の出願番号を意願2016-27960号(意匠登録第1572992号)とする平成28年12月22日の関連意匠の意匠登録出願(意匠登録出願の番号:意願2016-27961号)であって、平成29年3月3日に意匠登録の設定(意匠登録第1573302号)がなされ、平成29年4月3日に意匠公報が発行されたものであって、その意匠は、意匠に係る物品を「ロックアップクラッチ用プレート部材」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり、本件意匠において部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本件実線部分」という。)については、「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を実線で、それ以外の部分を破線で表している。一点鎖線は、部分意匠として登録を受けようとする部分とそれ以外の部分の境界のみを表している。陰影を施したa-a’、b-b’部分拡大図の表面部全面に表された濃淡は、立体表面の形状を表す濃淡であり、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分以外の部分には、薄赤色を施した。」としたものである(別紙第1参照)。 本件実線部分が表れている面を正面側とし、その反対側の面を背面側として本件意匠について意匠の認定を行うと、以下のとおりである。 (1)意匠に係る物品 本件意匠の意匠に係る物品は、オートマティックトランスミッションのトルクコンバータに内装され、ロックアップクラッチのピストンを作動させるための油室を形成する「ロックアップクラッチ用プレート部材」である。 (2)本件実線部分の用途及び機能 本件実線部分は、ロックアップクラッチ用プレート部材をプレス成型により製造する過程において、金型を挿入したことにより形成された穴部であって、本件実線部分の用途及び機能は、本件意匠に係る物品がトルクコンバータに組み込まれた使用時においては、何の用途も機能も持たないものである。 (3)本件実線部分の位置、大きさ及び範囲 本件実線部分の位置は、正面視略中空円板状のロックアップクラッチ用プレート部材の中央円形貫通孔の周囲に等間隔に6つ形成された穴部の内の正面視最上部の位置にあるものであり、その大きさは、穴部の直径がプレート部材の直径の1/22程度のものであり、その範囲は、中央円形貫通孔内壁の下端部寄りの部分から、その貫通孔周囲の正面側水平面部分、そこから略垂直に立ち上がった壁面部分を経て、一段上の位置にある水平面部分までの穴部を含む正面視略長方形状に区切られた2段の段差部分である。 (4)本件実線部分の形態(下図参照) ア 本件実線部分の全体の態様は、ロックアップクラッチ用プレート部材の中央円形貫通孔内壁の下端部分を除いた凹円柱面部分(以下「第1垂直部」という。)から、プレート部材正面側の中央円形貫通孔周囲の水平面部分(以下「第1水平部」という。)と、それに連続する略垂直に立ち上がった凹円柱面部分(以下「第2垂直部」という。)を経て、一段上の位置の水平面部分(以下「第2水平部」という。)までの正面視略長方形状の2段の段差部分、及びその部分の第1水平部における穴部の開口縁部が全円周の約3/4の優弧状に表れ、第2水平部における穴部の開口縁部による切り欠き部が全円周の約1/4の劣弧状に表れる位置に、略垂直方向に形成した穴部からなるものであって、 イ 穴部の形態は、平坦な底面部とし、底面部のやや上方部分から第2垂直部にかけて、上方に向かって漸次拡径する略凹円錐面状の傾斜した曲面部分(以下「凹壁部」という。)をプレート部材内周側の傾斜がやや緩やかになるように形成し、第1水平部の穴部開口部から約2/5の深さまでの部分に、凹壁部より傾斜角度の緩やかな略凹円錐面状の曲面部分を一部が途切れた円形状となるように形成し、この曲面部分となだらかに連続するようにして第1水平部と第2垂直部の境界部分から凹壁部左右端部付近にかけて、凹壁部との境界部分にくびれた略鼓形状の形状線が表れるように抉られた曲面部分を形成し(以下、この連続する曲面部分全体を「面取り曲面部」という。)、凹壁部上端部に傾斜した略凹面状の帯状部分(以下「帯状凹面部」という。)を凹壁部の曲面に合わせて形成した構成からなるものであって、 ウ 第1垂直部と第1水平部の境界部分は直角に折曲し、第1水平部と第2垂直部の境界部分は第2垂直部の湾曲に沿って略凹面状に形成し、第2垂直部と第2水平部の境界部分は直角に折曲した角部にC面取りを施した形態に形成したものである。 2.請求人が主張する無効の理由 請求人が、意匠法第48条第1項第1号の規定に基づき本件意匠について主張する意匠登録無効事由は、以下のとおりである。 「本件意匠は、本件意匠登録出願前に頒布された意匠登録第1498229号公報(甲2)に記載された意匠(以下「引用意匠」という。)に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるから、本件意匠登録は、同法第48条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである。」 3.引用意匠(意匠登録第1498229号の意匠) 引用意匠の出願は、物品の部分について意匠登録を受けようとする、平成25年7月19日の意匠登録出願(意匠登録出願の番号:意願2013-16477号)であって、平成26年4月18日に意匠登録の設定(意匠登録第1498229号)がなされ、平成26年5月26日に意匠公報が発行されたものであり、その意匠は、意匠に係る物品を「ロックアップクラッチ」とし、その形態を、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり、引用意匠において本件実線部分と対比、判断する部分を、本件実線部分に相当する引用意匠の部分(以下「本件相当部分」という。)としたものである(別紙第2参照)。 本件相当部分が表れている面を正面側とし、その反対側の面を背面側として引用意匠について意匠の認定を行うと、以下のとおりである。 (1)意匠に係る物品 引用意匠の意匠に係る物品は、「ロックアップクラッチ」としているが、ロックアップクラッチそのものではなく、請求人及び被請求人の主張からすると、オートマティックトランスミッションのトルクコンバータに内装され、ロックアップクラッチのピストンを作動させるための油室を形成するロックアップクラッチ用のプレート部材であるといえる。 (2)本件相当部分の用途及び機能 本件相当部分は、ロックアップクラッチ用のプレート部材をプレス成型により製造する過程において、金型を挿入したことにより形成された穴部であって、本件相当部分の用途及び機能は、本件意匠に係る物品がトルクコンバータに組み込まれた使用時においては、何の用途も機能も持たないものである。 (3)本件相当部分の位置、大きさ及び範囲 本件相当部分の位置は、正面視略中空円板状のロックアップクラッチ用のプレート部材の中央円形貫通孔の周囲に等間隔に6つ形成された穴部の内の正面視最上部の位置にあるものであり、その大きさは、穴部の直径がプレート部材の直径の1/22程度のものであり、その範囲は、中央円形貫通孔内壁の下端部寄りの部分から、その貫通孔周囲の正面側水平面部分、そこから略垂直に立ち上がった壁面部分を経て、一段上の位置にある水平面部分までの穴部を含む正面視略長方形状に区切られた2段の段差部分である。 (4)本件相当部分の形態(下図参照) ア 本件相当部分の全体の態様は、ロックアップクラッチ用のプレート部材の中央円形貫通孔内壁の下端部分を除いた凹円柱面部分(以下「第1垂直部」という。)から、プレート部材正面側の中央円形貫通孔周囲の水平面部分(以下「第1水平部」という。)と、それに連続する略垂直に立ち上がった凹円柱面部分(以下「第2垂直部」という。)を経て、一段上の位置の水平面部分(以下「第2水平部」という。)までの正面視略長方形状の2段の段差部分、及びその部分の第1水平部における穴部の開口縁部が全円周の約3/4の優弧状に表れ、第2水平部における穴部の開口縁部による切り欠き部が全円周の約1/4の劣弧状に表れる位置に、略垂直方向に形成した穴部からなるものであって、 イ 穴部の形態は、底部を平坦な臼底状とし、底部から第1水平部までの深さの約1/3の位置から第2垂直部にかけて、上方に向かって漸次拡径する略凹円錐面状の傾斜した曲面部分(以下「凹壁部」という。)を形成し、凹壁部上端部に帯状の垂直面部分(以下「帯状垂直部」という。)を凹壁部の曲面に合わせて形成した構成からなるものであって、 ウ 第1垂直部と第1水平部の境界部分は直角に折曲し、第1水平部と第2垂直部の境界部分の第1水平部外周部分を第2垂直部の湾曲に沿って下方に傾斜して形成し、第2垂直部と第2水平部の境界部分は直角に折曲した角部にC面取りを施した形態に形成したものである。 4.無効理由の検討 本件意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)を対比し、両意匠が類似するか否かについて、以下検討する。 (1)対比 ア 意匠に係る物品の対比 本件意匠の意匠に係る物品は、「ロックアップクラッチ用プレート部材」であり、引用意匠の意匠に係る物品は、「ロックアップクラッチ」としているが、いずれもオートマティックトランスミッションのトルクコンバータに内装され、ロックアップクラッチのピストンを作動させるための油室を形成するロックアップクラッチ用のプレート部材であるといえるから、両意匠の意匠に係る物品は、その用途及び機能が一致するものである。 イ 本件実線部分と本件相当部分の用途及び機能の対比 本件実線部分と本件相当部分(以下「両意匠部分」という。)は、いずれもロックアップクラッチ用プレート部材をプレス成型により製造する過程において、金型を挿入したことにより形成された穴部であって、その用途及び機能は一致するものであり、トルクコンバータに組み込まれた使用時においては、何の用途も機能も持たないものである。 ウ 両意匠部分の位置、大きさ及び範囲の対比 両意匠部分の位置は、いずれも正面視略中空円板状のロックアップクラッチ用プレート部材の中央貫通孔の周囲に等間隔に6つ形成された穴部の内の正面視最上部の位置にあるものであり、その大きさは、穴部の直径がプレート部材の直径の1/22程度のものであり、その範囲は、中央貫通孔内壁下端寄りの部分から中央貫通孔周囲の正面側水平面部分、そこから略垂直に立ち上がった壁面部分を経て、一段上の水平面部分までの穴部を含む正面視略長方形状に区切られた2段の部分であるから、両意匠部分の位置、大きさ及び範囲は一致するものである。 エ 両意匠部分の形態の対比 両意匠部分の形態を対比すると、主として、以下のとおりの共通点及び相違点が認められる。 (ア)両意匠部分の形態の共通点 (共通点1)両意匠部分は、部分全体の態様が、ロックアップクラッチ用プレート部材の第1垂直部から第1水平部、第2垂直部を経て、第2水平部までの正面視略長方形状の部分、及びその部分の第1水平部における穴部の開口縁部が全円周の約3/4の優弧状に表れ、第2水平部における穴部の開口縁部による切り欠き部が全円周の約1/4の劣弧状に表れる位置に、略垂直方向に形成した穴部からなる点で共通する。 (共通点2)両意匠部分は、穴部の形態が、平坦な底面部とし、穴部の一定の深さの位置から第2垂直部にかけて、略凹円錐面状の凹壁部を形成している点で共通する。 (共通点3)両意匠部分は、水平部と垂直部の境界部分の形態が、第1垂直部と第1水平部の境界部分は直角に折曲し、第1水平部と第2垂直部の境界部分には凹んだ溝状部分を第2垂直部の湾曲に沿って形成し、第2垂直部と第2水平部の境界部分は直角に折曲した角部にC面取りを施した形態としている点で共通する。 (イ)両意匠部分の形態の相違点 (相違点1)本件実線部分の凹壁部の下端部が、穴部底面部のやや上方部分の位置であるのに対し、本件相当部分の凹壁部の下端部が、穴部の底部から第1水平部までの深さの約1/3の位置である点で、両意匠部分は相違する。 (相違点2)本件実線部分の第1水平部の穴部開口部から約2/5の深さまでの部分及び第1水平部と第2垂直部の境界部分から凹壁部左右端部付近にかけて、面取り曲面部を形成しているのに対し、本件相当部分にはそのような曲面部を形成していない点で、両意匠部分は相違する。 (相違点3)本件実線部分の凹壁部上端部に帯状凹面部を形成しているのに対し、本件相当部分の凹壁部上端部に帯状垂直部を形成している点で、両意匠部分は相違する。 (相違点4)本件実線部分の第1水平部と第2垂直部の境界部分を略凹面状に形成しているのに対し、本件相当部分の第1水平部と第2垂直部の境界部分の第1水平部外周部分を下方に傾斜して形成している点で、両意匠部分は相違する。 (2)判断 ア 意匠に係る物品の類否判断 両意匠の意匠に係る物品は、その用途及び機能が一致するものであるから、同一であるといえる。 イ 両意匠部分の用途及び機能の類否判断 両意匠部分の用途及び機能は、一致するから、同一である。 ウ 両意匠部分の位置、大きさ及び範囲の評価 両意匠部分の物品全体の形態における位置、大きさ及び範囲は、一致するから、同一である。 エ 両意匠部分の形態の共通点及び相違点の評価 (ア)評価にあたって 両意匠の意匠に係る物品は、オートマティックトランスミッションのトルクコンバータに内装され、ロックアップクラッチのロックアップピストンを作動させるための油室を形成するロックアップクラッチ用プレート部材であり、その需要者は、この意匠に係る物品を組み込んだトルクコンバータを含む自動車用クラッチを製造する製造業者等である。 この油室を形成するロックアップクラッチ用プレート部材は、その中央円孔貫通孔部分をトルクコンバータのセンターピースの円筒部分に嵌め込み、油圧がかかっても移動しないようにロックリング等で固定され、使用時にはセンターピースとともに高速で回転するものであって、その際には、ロックアップクラッチ用プレート部材の背面側に設けられた突出部をセンターピースに形成された嵌合凹部に嵌合させて回転時の位置ずれを抑制するものであるから、需要者は、ロックアップクラッチ用プレート部材とセンターピースとの固定部分や、位置ずれを抑制する背面側突出部を注視して観察するものであるといえる。 一方、この突出部の裏面にあたる両意匠部分については、特段注意を惹く部分ではなく、そこに形成された穴部についても突出部のプレス加工に係る金型によるものであって、両意匠に係る物品の使用時において何の機能を持たないものであるから、通常は、需要者が当該穴部について特に注目して観察することはないといえる。 したがって、両意匠部分の類否判断に際しては、需要者は、両意匠部分全体の形態及びそこに形成された穴部の形態について、特に注視して観察するものではないとの前提に基づいて、共通点及び相違点における類否判断に及ぼす影響について評価することとする。 (イ)共通点の評価 (共通点1)は、両意匠部分全体の態様に係るものであるが、部分全体を、穴部を含む正面視略長方形状に区切られた2段の段差部分とし、第1水平部と第2垂直部の境界部分に第1水平部における穴部の開口縁部が全円周の約3/4の優弧状に表れ、第2水平部における穴部の開口縁部による切り欠き部が全円周の約1/4の劣弧状に表れるように、略垂直方向に穴部を形成した態様が共通する両意匠部分は、意匠の基調において共通し、需要者に対して共通した印象を与えているものであるから、(共通点1)が部分全体の美感に与える影響は大きいといえる。 なお、被請求人は乙第2号証の書証を提出し、「当該流体伝動装置(同1B)は『フランジ部材』(同85:下図黄色着色部)を備えており、その本体中央の貫通孔の内壁側の段差部に、穴部(下図矢印部)が形成されている。」(答弁書11頁、(6)-2 ii))と主張するが、乙第2号証のフランジ部材に表された穴部は、第1水平部と第2垂直部の境界部分に形成されたものではなく、両意匠部分の第2垂直部の位置にあたる傾斜面の部分に形成されたものであるから、上記(共通点1)の態様が引用意匠の出願前から公知であるとの被請求人の主張を採用することはできない。 (共通点2)は、穴部の形態についてであるが、需要者が特に注視して観察するものではない上に、平坦な底面部やプレス加工のためにテーパーを設けて形成された金型による略凹円錐面状の凹壁部の形態は、この穴部が金型を挿入したことにより形成されたものであることからすれば、当然ともいえる形態であって、格別の特徴をもつ形態であるとはいえないから、(共通点2)が部分全体の美感に与える影響は小さい。 なお、請求人は穴部の形態について「頭部がひしゃげた雪だるま状」の形態を極めて特徴的な形状であると主張しているところ、確かに、ロックアップクラッチ用プレート部材において内周側の段差部分に略垂直方向の穴部が形成されたものは、本件意匠出願前に公然知られた形態ではないものの、段差部にプレス加工による穴部を形成すれば、両意匠部分のような形態が表れるものであるから、何かの目的を持って形成された形態ではなく、技術的な要請によって段差部に金型を当ててプレスした結果生じたにすぎない「頭部がひしゃげた雪だるま状」の形態を、格別の特徴があるものとして評価をすることはできない。 (共通点3)に係る水平部と垂直部の各境界部分についての形態は、目に付く部位に係るものであり、折曲部分の形態の3箇所すべてがほぼ共通するものであることから、(共通点3)が部分全体の美感に与える影響は大きいといえる。 (ウ)相違点の評価 (相違点1)及び(相違点2)は、凹壁部の下端部の深さや面取り曲面部の有無といった相違点であるが、通常需要者が注視しない部位に係る相違である上に、凹壁部の下端部の深さについては、プレス加工の際の、例えば金型の抜き取り易さ等といった様々な技術的条件のよって決定されるものであり、また、面取り曲面部もプレス加工によって生じたバリ取りのために施されるものであるから、これらの形態に相違があるとしても、(相違点1)及び(相違点2)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものといえる。 なお、被請求人は、面取り曲面部は、背面側突出部の厳しい要求に対応すべく、加工方法においても、引用意匠とは異なる工夫が凝らされたものであり、穴部の形状も、引用意匠とは全く異なったものであるから、本件意匠は、引用意匠が意図していた加工方法や加工精度を越えて、独自の創作がなされたものであって、新たな意匠的価値を有するものであり、この点において、需要者への訴求力を備えたものなのであるとの主張をしているが、被請求人のいう背面側突出部に対し厳しい要求を行うような高い専門的知識と厳しい品質意識をもって製品を観察する需要者がプレス加工で製品を製造する際には、作業効率等の観点からバリ取りのための追加の面取り作業等を行わないですむように若しくはできるだけ面取りが小規模ですむように、金型の形状やプレス作業時のプレス圧の設定等の条件を通常工夫するものであるから、追加の面取り作業から生じた形態自体に対して関心を抱くとはいい難く、使用時に何の機能も持たず、通常は特に注視して観察するものでもない本件実線部分の穴部の形態を特徴的なものとして注目するとする被請求人の主張は採用することはできない。 (相違点3)は、凹壁部上端部の形態に係る相違点であるが、傾斜した凹面か垂直面かの違いがあるもののいずれも凹壁部の上端部分にその曲面に合わせて帯状部分が形成されたものであるとの印象を与えるから、(相違点3)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 (相違点4)は、第1水平部と第2垂直部の境界部分の形態に係る相違点であるが、いずれも上記境界部分に第2垂直部の湾曲に沿って凹んだ溝状部分を形成したとの共通した印象を与えるものであるから、(相違点4)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 オ 両意匠の類否判断 両意匠部分の形態における共通点及び相違点についての評価に基づき、部分意匠全体として総合的に観察し、両意匠部分が類似するか否かについて考察すると、両意匠部分は、両意匠部分全体の態様、及び水平部と垂直部の境界部分についての形態における共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいのに対して、凹壁部の下端部の深さや面取り曲面部の有無の相違点、凹壁部上端部の形態に係る相違点、及び第1水平部と第2垂直部の境界部分の凹んだ溝状部分の形態に係る相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮しても、相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は共通点が与える共通の印象を覆すには至らないものであるから、両意匠部分の形態は類似するものと認められる。 したがって、両意匠は、意匠に係る物品が同一であり、両意匠部分の用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲が同一であり、両意匠部分の形態においても類似するものといえるから、本件意匠は引用意匠に類似するものと認められる。 5.小括 上記のとおり、本件意匠は、本件意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものであって、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するものであるから、意匠登録を受けることができないものである。 第6 むすび 以上のとおりであって、本件意匠は、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができないものであるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号に該当し、その意匠登録を無効とすべきものである。 審判に関する費用については、意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2018-08-07 |
出願番号 | 意願2016-27961(D2016-27961) |
審決分類 |
D
1
113・
113-
Z
(K9)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 坂田 麻智 |
特許庁審判長 |
小林 裕和 |
特許庁審判官 |
江塚 尚弘 渡邉 久美 |
登録日 | 2017-03-03 |
登録番号 | 意匠登録第1573302号(D1573302) |
代理人 | 木村 俊之 |
代理人 | 鈴江 正二 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 渡辺 容子 |
代理人 | 小林 徳夫 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 森 有希 |