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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) B4
管理番号 1348785 
判定請求番号 判定2018-600026
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2019-03-29 
種別 判定 
判定請求日 2018-07-31 
確定日 2019-01-25 
意匠に係る物品 ランドセルの底板取付け用金具 
事件の表示 上記当事者間の登録第1382991号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号意匠(イ号写真に示す意匠)は、登録第1382991号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1 判定請求人の請求の趣旨及び理由
1.判定請求の趣旨
イ号写真に示す意匠は、登録第1382991号の意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属す、との判定を求める。

2.請求の理由
(1)判定請求の必要性
本件判定請求人(以下、請求人という)は、意匠登録第1382991号(以下、「本件登録意匠」という)の意匠権者である。
請求人は、別紙イ号写真に示すランドセル用錠前(以下、イ号物件という)が本件登録意匠に係る意匠権を侵害していると判断した。
その為、請求人は本件判定被請求人(以下、被請求人という)に対し、イ号物件が本件登録意匠の類似範囲に含まれる旨の警告書を平成30年5月11日付で送付した(甲第1号証)。
それに対し、被請求人は、イ号物件は本件登録意匠の類似範囲に含まれないと判断し、その旨を同年5月24日付で回答した(甲第2号証)。
このように、本件登録意匠の類似範囲につき、請求人と被請求人の判断は、全く異なり、対立しているので、高度な意匠の専門的知識を有する特許庁による、厳正中立的な立場からの判定を請求する次第である。
(2)本件登録意匠の手続の経緯
出願 平成21年6月8日(意願2009-12821)
登録 平成22年2月19日 (意匠登録第1382991号)
(3)本件登録意匠の説明
(i)本件登録意匠の用途
本件登録意匠の意匠に係る物品は、その【意匠に係る物品の説明】に記載の如く、次の用途を有するものである。
「この意匠に係る物品の金具は、使用状態を示す参考図2に示すごとく、ランドセル2の底板2に止め鋲23によって固定されるものである。そして、その金具の中心部に設けたつまみ15を水平状態に回動して、蓋止め具14の開口14aを嵌着し、それを垂直に回動することにより、かばんの蓋17を延長ベルト16を介して金具に止着する。それと共に、金具3の両端部に設けた一対のダルマ体7に、バンド取付け環13を介し背負いベルト6の下端部が取付けられるものである。そして、このダルマ体7はストッパ部材8の押し込み部8aを押すことにより、使用状態を示す参考図2の状態から使用状態を示す参考図1のごとく、一対のダルマ体7、7間の距離を縮めることができるものである。その内部構造は、内部分解参考図に示すごとく、ストッパ部材8が方形の内壁20の中央位置に配置され、その端部のバネ座18とそれに対向するバネ座18との間にスプリング9が介装されて、ストッパ部材8を手前側に付勢している。そして、ストッパ部材8に隣接しスライド材10が配置され、そのスライド材10のピン5の先端とダルマ体7とが連結されるものである。このときスライド材10の両側の係合部12と、ストッパ部材8の係止部11とが係止されている。そして、押込み部8aを押込むことにより、その係合が外れて、スライド材10およびダルマ体7が長孔4内を移動できるものである。これは児童の成長に応じて、背負いベルトの幅を広くできるようにする為である。」
(ii)本件登録意匠の外見に現れた特徴
意匠に係る物品の特徴は、上記の如く、児童の成長に応じて、背負いベルトの幅を広くできるようにするランドセルの金具である。しかし、幅を広くするメカニズムは意匠の外見には、現れていない。外見には外周に一対の押込み部8aが、外周縁より上方に突出しており、その押込み部8aは、外周の他の部分から際立っている。
さらに、本金具の外見に現れた特徴は、特に斜視図、正面図、平面図によく現われ、次のとおりである(下記説明中の符号は、公報の参考図に記載されたものを使用する)。
a:金具平面の外周部分は、横長の偏平な環状に形成されると共に、その環状の一側において、金具の両端部に一対の押込み部8aが存在する。
b:金具平面の中心には、方形で横長のつまみ15が回転自在に配され、その両側に一対の第1の凹陥部と、第2の凹陥部とが一対ずつ存在する。第1の凹陥部は金具の幅方向に形成され、第2の凹陥部は金具の長手方向に長円形に形成されている。
c:第1の凹陥部は、つまみ15側が幅方向に横断する直線に伸び、その縁の中央が内側に少し欠切する。第2の凹陥部側が円弧状に形成されて、その外周が第1の凹陥部の外周に整合する。
d:一対の第2の凹陥部の中央には夫々スリットが長手方向に形成され、そのスリットにダルマ体7の軸が挿入されている。
(4)従来型意匠の基本的形状
金具平面の外周が長円形である点が、実開昭59-15775号公報(甲第3号証)の第二図に記載されると共に、特開2013-215550号(甲第4号証)の第8図に記載され、外周が長円形である点は基本的外周形状の一つである。
次に、甲第3号証の平面の中央には、細長いつまみ5が存在(第一図、第二図、第三図)し、つまみ5の両側には長円形の両端部に細長いスリット10を有している。さらに、スリット10には、第二図、第三図に示す如くー対のダルマ4が左右方向に移動自在に配置されている。スリットの外側は、一部が重なる瓢箪形のダルマ取付凹部7であり、その凹部7内にダルマ4が配置されている。従って、細長いつまみ、一対のスリットの存在、重なった瓢箪形は従来型金具の特徴の一つでもある。
さらには、甲第5号証、甲第6号証に示す各種の金具が公知であった。しかし、金具の外周縁に一対の押込み部が存在し、それが周縁から上方に少し突出している意匠は従来存在しない。
(5)イ号物件の説明
(イ号物件の特徴)
金具平面の外周が長円形であり、平面の中央には、細長いつまみを有し、つまみの両側にスリットを有し、その両側に一対のダルマが左右方向に移動自在に配置されている。
スリットの外側は、一部が重なる瓢箪形のダルマ取付凹部7である点で、従来意匠と共通する。
しかし、金具の外周縁に一対の突出部が、周縁から外側に突出している点で、従来型意匠と異なる。
(6)本件登録意匠とイ号物件との比較説明
(共通点)
両者の中央に細長いつまみが有り、その両側に、幅方向に配置された一対ずつの第1の凹陥部と、第2の凹陥部とを有する。
第1の凹陥部は、つまみ側がつまみに直交し、その中間に小径の円弧が形成されている。また第1の凹陥部のダルマ側は、そのダルマ外周に整合する、より大きい円弧状に形成されている。
(相違点)
第1に、本件登録意匠の押込み部8aは、金具の外周の内部に配置され、その上端縁が外周より僅かに突出している。
これに対して、イ号物件の一対の移動部材は金具の外周から外側に突出している。
第2に、本件登録意匠のダルマの着座面は長円形であり、イ号物件の着座面は瓢箪型である。
第3に、本件登録意匠の第1の凹陥部の下地では暖簾状であり、イ号物件の第1の凹陥部の下地模様は網状である。
(7)イ号物件が本登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明 (相違点の検討)
第1に、本件登録意匠の押込み部8aが金具の外周の内部に配置されているのに対して、イ号物件の一対の移動部材は金具の外周から外側に突出している点について、両者ともに、金具の外周に隣接している点で同じである。
それと共に、金具の外周に押込み部または移動部材が存在する意匠は、従来存在しなかった。それ故、観者にとって、両者は近似して見える。
第2に、本件登録意匠のダルマ座は長円形であり、イ号物件のダルマの着座面は瓢箪型である点について、着座面を瓢箪型にする点は実開昭59-15775号の第二図に記載されたものと同じであり、新たな美的構成ではない。それ故、両者のダルマ座の外周は近似する。
第3に、本件登録意匠の第1の凹陥部の下地では暖簾状であり、イ号物件の第1の凹陥部の下地模様は網状である。しかし、両者ともありふれた下地模様であり、両者の下地模様は近似する。
それ故、両意匠は全体として、美的の構成を共通し、両者は類似する。
(8)むすび
イ号物件は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨どおりの判定を求める。

3.証拠方法
甲第1号証 警告書(平成30年5月11日付)
甲第2号証 回答書(平成30年5月24日付)
甲第3号証 実開昭59-15775号公報
甲第4号証 特開2013-215550号公報
甲第5号証 特許第5695776号(平成26年出願)
甲第6号証 意匠公報検索一覧

4.平成30年8月20日付けの手続補正書
請求人は、平成30年8月20日付けで手続補正書を提出し、イ号物件(図面:斜視図及び六面図)を追加した。

第2 判定被請求人の答弁
特許庁より被請求人に対し、平成30年8月30日に判定請求書を送達し、期間を指定して答弁書の提出を求めたが、被請求人からの応答はなかった。

第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成21年(2009年)6月8日に意匠登録出願され(意願2009-12821号)、平成22年2月19日に登録(登録第1382991号)の設定がなされ、平成22年(2010年)3月23日に意匠公報が発行されたものであって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「ランドセルの底板取付け用金具」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形態」という。)を願書及び願書に添付した写真に現されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。
すなわちその形態は、
基本的構成態様は
A 全体形状は、上下段から成る平面視略横長長円板状であって、左右対称に現されており、その台部中央に鞄錠用の回転可能なつまみ部を設け、両端寄りに肩ベルト取付用の略短円柱形状ダルマ体を配して、正面の両端寄りにボタン部を設けたランドセルの底板取付け用金具であって、
具体的構成態様は、
B 台部の外形状は、縦横高さ比は約4:19:1.5であり、上段部が下段部より一回り小さく、上段部と下段部の高さの比は5:2で、上段部から下段部上部にかけての周側面は、なめらかに連なる凹状面で下段部の周側面は鉛直状とし、
C ボタン部は、正面視略横長長方形状に現され、台部の両端から台部の横幅の約11分の2の位置に配されており、ボタン部を押し込むことによってダルマ体の移動が可能となるものであって、また、側面から見るとボタン部は、凹状周側面から略逆直角三角形状に突出して、平面から見て台部の下段部前面と面一致状に形成されている。
D 台部の上面は、中央部と左右の浅い凹部から成り、中央部は台部の長手方向約5分の1幅の略長方形状で、略直方体状のつまみ部を横長になるように配し、つまみ部表面は、平面から正面及び平面から背面にかけて、略逆さL字板状のごく浅い凹部を設け、長手方向中央を横一文字状に、短辺側端部全周を残した略H字状の凸部とし、正面視で左右の浅い凹部の中央部寄り端部は堤状に盛り上がって(以下、堤状に盛り上がった中央部寄り端部を堤状部という。)、内方は略鉛直状で、外方は、なだらかな凹状の丸みを帯びた傾斜面を経て平坦面に到り、平面視で堤状部の中央は凹弧状に切り欠かれている。
E 台部の左右の浅い凹部は、それぞれ、凹部より盛り上がって残された縁部に囲まれた平面視略逆D字状及び略D字状の範囲に横長の筋模様が複数施されており、その上面の短手方向中央、長手方向の中央寄りと外方寄りに鋲留め用の小孔部を配して、その間のやや端寄りに横長長円孔状のスライド部を、その上にスライド可能に係合した径と高さの長さ比が約2:1の略短円柱状のダルマ体部を台部の両端から台部横幅の約4分の1の位置に設けており、ダルマ体周側面の下端部はダルマ体本体より僅かに太く形成し、上面に中央に小円状凸部が配されてその周囲には放射状に線模様が施されている。
F 底面視の態様は、台部の短手方向中央、長手方向の横幅いっぱいのほぼ等間隔に、平面視の鋲留め用の小孔部に対応する小孔部を4つ配して、平面視のスライド部に対応する位置に、4隅に横方向への延出脚部のある略矩形状のプレート部が形成され、平面視の中央部に対応する位置に縦幅より短めの略隅丸矩形状のプレート部が形成されている。

2.イ号写真に示す意匠
本件判定請求の対象であるイ号写真に示す意匠は、判定請求書と同時に提出されたイ号物件(写真)及び平成30年8月20日提出の手続補正書に添付されたイ号物件(図面:斜視図及び六面図)により示されたものであって、意匠に係る物品は「ランドセル用錠前」であると認められ、その形態を、イ号物件(写真)及びイ号物件の斜視図及び六面図に表されたとおりとしたものである(以下、「イ号意匠」という。(別紙第2参照))。
すなわちその形態は、
基本的構成態様は
a 全体形状は、上下段から成る平面視略横長長円板状であって、左右対称に現されており、その台部中央に鞄錠用の回転可能なつまみ部を設け、両端寄りに肩ベルト取付用の略短円柱形状ダルマ体を配して、正面の両端寄りにボタン部を設けたランドセルの底板取付け用金具であって、

具体的構成態様は、
b 台部の外形状は、縦横高さ比は4:19:1.5であり、上段部が下段部より一回り小さい、略階段状で、上段部と下段部の高さの比は5:3で、上段部及び下段部の周側面は略鉛直状で、上段部下部から下段部上部の角部は、鈍角を形成しており、
c ボタン部は、正面視略横長長方形状に現され、台部の両端から台部の横幅の約11分の2の位置に配されており、ボタン部を操作することによって、ダルマ体の移動が可能となるものであって、側面から見るとボタン部は、台部と僅かに隙間を空けて、下面側の支持片で支持されて突出し、平面から見て上面に矢印型の凹部を配し、外方が丸みを帯びた略長方形状に形成されている。
d 台部の上面は、中央部と左右の浅い凹部から成り、中央部は長手方向約5分の1の幅で、平面視で上辺が僅かに台形状に突出し、下辺は正面側より内方に入り込んだ略長方形状で、その中心に鞄錠用の回動可能な略直方体状のつまみ部を平面視で縦長(六面図で認定)になるように配し、つまみ上面は縁部を残して浅い長方形凹状とし、その凹部表面は網目状の凹凸模様が施されており、正面視で左右の浅い凹部の中央部寄り端部は堤状に盛り上がって、内方は略鉛直状で、外方は、なだらかな凹状の丸みを帯びた傾斜面を経て平坦面に到り、平面視で堤状部の中央は凹弧状に切り欠かれている。
e 左右の浅い凹部は、それぞれ2つの部分から成り、外方からダルマ体の下側周縁にかけての略ひょうたん型の浅い凹部(以下、凹部Aという。)と、続けて、ひょうたん型の内方の円弧に沿った、片側凹弧状の略縦長長方形状の浅い凹部(以下、凹部Bという。)が設けられて、凹部より盛り上がって残された縁部で囲まれたそれぞれの範囲に、凹部Aには、横長の筋模様が複数施されて、凹部Bには、網目状の凹凸模様が施されており、その左右の浅い凹部の短手方向中央、長手方向中央寄りと外方寄りには、鋲留め用の小孔部を配して、その間のやや端寄りに横長長円孔状のスライド部を、その上にスライド可能に係合した径と高さの長さ比が約2:1.5の略短円柱状のダルマ体部を台部の両端から台部横幅の約4分の1の位置に設けており、ダルマ体周側面の下端部はダルマ体本体より僅かに太く形成し、上面に中央に小円状凸部が配されてその周囲には放射状に線模様が施されている。
f 底面視の態様は、略横長長円状の台部の短手方向中央、長手方向の横幅いっぱいのほぼ等間隔に、平面視の鋲留め用の小孔部に対応する小孔部を4つ配して、平面視のスライド部に対応する位置に4隅の横方向に延出脚部があり、下側中央縦方向に支持片部のある略矩形状のプレート部が形成され、平面視の中央部に対応する位置に縦幅より短めの略5角形状のプレート部が形成されている。

3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本件登録意匠は「ランドセルの底板取付け用金具」であり、イ号意匠は「ランドセル用錠前」であって、表記は異なるが、本件登録意匠とイ号意匠(以下、両意匠という。)の意匠に係る物品は、ランドセルの底面に取付けられ、ダルマ体による肩ベルト部の支持やつまみ部の蓋側の金具との係合によってランドセルの施錠を行う機能、用途について共通するので、両意匠の意匠に係る物品は一致する。
(2)両意匠の形態
両意匠の形態を対比すると、主として以下の共通点及び相違点が認められる。
(2-1)共通点
基本的構成態様として
(あ)全体形状は、上下段から成る平面視略横長長円板状であって、左右対称に現されており、その台部中央に鞄錠用の回転可能なつまみ部を設け、両端寄りに肩ベルト取付用の略短円柱形状ダルマ体を配して、正面の両端寄りにボタン部を設けたランドセルの底板取付け用金具である点。
具体的構成態様として
(い)台部の外形状は、縦横高さ比は4:19:1.5で、上段部が下段部より一回り小さく、下段部の周側面は略鉛直状である点、
(う)操作によってダルマ体の移動を可能とするボタン部は、正面視略横長長方形状に現され、台部の両端から約11分の2の位置に配されている点、
(え)台部の上面は、中央部と左右の浅い凹部から成り、中央部は台部の長手方向約5分の1幅の略長方形状で、鞄錠用の回動可能な略直方体状のつまみ部を配し、正面視で左右の浅い凹部の中央部寄り端部は堤状に盛り上がって、内方は略鉛直状で、外方は、なだらかな凹状の丸みを帯びた傾斜面を経て平坦面に到り、平面視で堤状部の中央は凹弧状に切り欠かれている点、
(お)左右の浅い凹部は、それぞれ、凹部より盛り上がって残された縁部で囲まれた範囲に凹凸状模様が施されており、その上面の短手方向中央の長手方向の中央寄りと外方寄りに鋲留め用の小孔部を配して、その間のやや端寄りに横長長円孔状のスライド部を、その上にスライド可能に係合した略短円柱状のダルマ体部を約左右両端約4分の1の位置に設けて、ダルマ体周側面の下端部はダルマ体本体より僅かに太く形成し、上面に中央に小円状凸部が配されてその周囲には放射状に線模様が施されている点、
(か)底面視の態様は、略横長長円状の台部の短手方向中央、長手方向の横幅いっぱいのほぼ等間隔に平面視の鋲留め用の小孔部に対応する小孔部を4つ配して、平面視のスライド部に対応する位置に、4隅の横方向に延出脚部のある略矩形状のプレート部が形成され、平面視の中央部に対応する位置に縦幅より短めのプレート部が形成されている点、
が共通する。
(2-2)相違点
具体的構成態様として、
(ア)本件登録意匠は、上段部と下段部の高さ比が5:2で、上段部から下段部上部にかけての周側面は、なめらかに連なる凹状面としているのに対し、引用意匠は、高さ比が5:3で、上段部の周側面は略鉛直状で、上段部下部から下段部上部の角部は、鈍角を形成している点、
(イ)本件登録意匠は、ボタン部は、押し込むことによってダルマ体の移動が可能となり、側面から見ると、凹状周側面から略逆直角三角形状に突出して、平面から見て台部の下段部前面と面一致状に形成されているのに対し、イ号意匠はボタン部操作することによってダルマ体の移動が可能となり、側面から見るとボタン部は、台部と僅かに隙間を空けて、下面側の支持片で支持されて突出し、平面から見て上面に矢印型の凹部を配し、外方が丸みを帯びた略長方形状に形成されている点、
(ウ)本件登録意匠は、中央部は略長方形状であって、つまみ部表面は、平面視、平面から正面、平面から背面にかけて、略逆さL字板状のごく浅い凹部を設け、その余が略H字状の凸部となっているのに対し、イ号意匠の中央部は平面視で上辺が僅かに台形状に突出し、下辺は正面側より内方に落ち込んだ略長方形状で、つまみ部上面は縁部を除いて浅い長方形凹状とし、その表面は網目状の凹凸模様が施されている点、
(エ)本件登録意匠の台部の左右の浅い凹部は、平面視略逆D字状及び略D字状の範囲に横長の筋模様が複数施されており、ダルマ体部の径と高さの長さ比が約2:1であるのに対し、イ号意匠の左右の浅い凹部は、凹部Aと凹部Bの2つの部分から成り、凹部Aには、横長の筋模様が複数施されて、凹部Bには、網目状の凹凸模様が施されており、ダルマ体部の径と高さの長さ比が約2:1.5である点、
(オ)底面視の態様について、本件登録意匠は、平面視のスライド部に対応する位置の略矩形状のプレート部の下側中央縦方向に支持片部は設けられておらず、中央部に対応する位置のプレート部は、隅丸矩形状であるのに対し、イ号意匠は、平面視のスライド部に対応する位置の略矩形状のプレート部の下側中央縦方向にボタン部を支持する中央縦方向の支持片部が設けられ、中央部に対応する位置のプレート部は、略5角形状である点、
について相違する。

4.両意匠の形態の評価
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し、本件登録意匠の出願前に存在する公知意匠を参酌し、需要者の注意を引きやすい部分を考慮した上で、本件登録意匠とイ号意匠が類似するか否かについて判断する。
「ランドセルの底板取付け用金具」及び「ランドセル用錠前」などの物品分野(以下、「ランドセルの底板取付け用金具」などの物品分野という。)においては、ランドセルの蓋部の施錠、開錠、に関わる平面視の態様が主に需要者が注目するところであって、加えて、使用時に目に付く背面から平面にかけての態様、及び、ダルマ体の移動ボタンの配された正面視の態様も注意をひくところである。
まず、共通点(あ)の全体形状については、左右対称に現された上下段から成る平面視略横長長円板状の台部中央に、鞄錠用の回転可能なつまみ部を設けて、両端寄りに肩ベルト取付用の略短円柱形状ダルマ体を配したランドセルの底板取付け用金具であるものは、「ランドセルの底板取付け用金具」などの物品分野でごく普通に見受けられる概括的態様にとどまり、ダルマ体の移動用のボタン部を有する点は、両意匠の基本的構成態様に係る共通点であるが、後述する具体的構成態様の相違もあり、この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度にとどまる。
次に、共通点(い)台部の外形状は、上段部が下段部より一回り小さく、縦横高さ比は4:19:1.5のものは、「ランドセルの底板取付け用金具」などの物品分野においてよく見受けられる態様であるから(例えば、公開実用新案昭59-15775号(別紙第3参照))であり、本件登録意匠とイ号意匠のみが持つ特徴のある共通点とは認められず、この共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。そして共通点(う)の、正面視で長手方向の両端から全長約11分の2ずつの位置にダルマ体の移動時に使用するボタン部を設けている点は、両意匠に共通する態様ではあるものの、後述の具体的態様の相違もあり、両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度にとどまる。(え)及び(お)は台部上面の態様についてであって、「ランドセルの底板取付け用金具」などの物品分野において、台部の上面が中央部と左右の浅い凹部から成り、中央部は台部の長手方向約5分の1幅の略長方形状のもの、中心に鞄錠用の回動可能な略直方体状のつまみ部を配したもの、中央部寄りの左右の浅い凹部の端部が堤状に盛り上がって、内方は略鉛直状で、外方は、なだらかな凹状の丸みを帯びた傾斜面を経て平坦面に到ったもの、その堤状部の略鉛直状の壁面の中央が外方に平面視で凹弧状に切り欠かれているものもよく見受けられる態様であって、また浅い凹部に細かい凹凸状模様を施すことも鋲留め用の小孔部を設けることも例示するまでもなく、「ランドセルの底板取付け用金具」などの物品分野でごく普通の態様であって、ダルマ体部を台部の両端から台部横幅の約4分の1の位置に設けたもの、略短円柱状のダルマ体の周側面の下端部を本体より僅かに太く形成し、上面に中央に小円状凸部が配されてその周囲には放射状に線模様を施したものも「ランドセルの底板取付け用金具」などの物品分野でよく見受けられるものであり、やや台部端寄りに横長長円孔状のスライド部を設けた態様も本願出願前にすでに見受けられるものである(例えば、公開実用新案昭59-15775号、意匠登録第661716号(「ランドセル錠前本体」であるが、台部の上面態様が十分現されていると認められる。)(別紙第4参照)、公開実用新案平4-15417号(別紙第5参照))から、この点が両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
とすると、この種物品においては、これらの共通点は、両意匠にのみ共通する態様とはいえず、共通点(あ)及び(う)が類否判断に与える影響が一定程度あるとしても、共通点(い)、(え)及び(お)は両意匠の類否判断に及ぼす影響はいずれも小さいものであって、そして、上記の共通点を総合しても、両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。
これに対し、相違点(ア)の本件登録意匠は、上段部から下段部上部にかけての周側面が、なめらかに連なる凹状面であるのに対し、引用意匠は、上段部の周側面は略鉛直状で、上段部から下段部上部にかけての角部が鈍角を形成している点は、上段部から下段部上部にかけての周側面の態様は、十分に需要者が観察できる外観の形状の相違であって、上段部から下段部上部にかけてなめらかに連なる凹状面であるか、略鉛直状面から、鈍角を形成したものか一見して分かる形状の相違であって、類否判断に与える影響は大きく、次に相違点(イ)の本件登録意匠のボタン部は、押し込むことによってダルマ体の移動が可能となり、側面から見ると、凹状周側面から略逆直角三角形状に突出して、平面から見て台部の下段部前面と面一致状に形成されているのに対し、イ号意匠のボタン部は、操作することによってダルマ体の移動が可能となり、側面から見るとボタン部は、台部と僅かに隙間を空けて、下面側の支持片で支持されて突出し、平面から見て上面に矢印型の凹部を配し、外方が丸みを帯びた略長方形状に形成されている点は、台部の外周面と面一致に形成し、一体感を醸している本件登録意匠のボタン部と、台部から突出して、別体のボタン部が設けられている印象の強いイ号意匠のボタン部とは、双方ともに、ダルマ体の移動に際して用いられるボタン部である点は共通するものの、その相違は一見して看取できる形態の相違であって、両意匠全体の印象に関わり、イ号意匠のボタン部は、その形状から台部に押し込む操作を行うとは考えがたく、両意匠はボタン部の操作方法も相違するものと認められ、両意匠の別異の印象を大きくし、類否判断に与える影響は大きいものである。また、相違点(ウ)については、本件登録意匠の中央部は略長方形状であって、つまみ部の表面は略H字の凸部であるのに対し、イ号意匠の中央部は平面視で上辺が僅かに台形状に突出し、下辺は正面側より内方に落ち込んだ略長方形状で、つまみ上面は縁部を除いて浅い網目状の凹凸模様が施されている点であって、全体に対し小さな部分の表面態様に係る相違であるが、つまみ上面に浅い網目状の凹凸模様が施されているものは、「ランドセルの底板取付け用金具」などの物品分野で本件登録意匠出願前にもよく見受けられる態様(例えば、意匠登録第422153号類似第4)であるのに対し、つまみ部の表面は略H字の凸部はつまみ部の表面に本件登録意匠出願前には、よく見られるとまではいえない凹凸態様であるから、意匠の類否判断に与える影響は一定程度あるものである。
そして、相違点(エ)は、台部の上面の浅い凹部の形状及び模様の相違とダルマ体の径に対する高さの長さ比の相違であって、平面視略D字状及び逆D字状もしくは、略ひょうたん型に及び片側凹弧状の略縦長長形状の浅い凹部が表されたもの、また浅い凹部に横長の筋模様が複数が施されることや凹凸状網目模様が施されることは、それぞれ、「ランドセルの底板取付け用金具」などの物品分野において、すでにごく普通に見受けられ(例えば、公開実用新案昭59-181172号、意匠登録第661716号、公開実用新案昭61-163519号)この種物品分野で注目すべき特徴的態様とはいえないものの、本願意匠に対して、イ号意匠のダルマ体部が径に比してその高さの長さが長いものである点は、相違点(ア)にあげたイ号意匠の上段部及び下段部の鉛直状の周側面からくる直線的な印象をダルマ体の鉛直方向に長めの周側面が強めて、この点が類否判断に与える影響は一定程度あるものである。
相違点(オ)は、底面視の態様であるが、底面は使用に際して、取付け側に当たり、通常観察されないところでもあって、需要者の目を惹くとはいえず、ボタン部を支持する中央縦方向の支持片部の有無は、イ号意匠のボタン部が台部より突出していることに起因し、上記相違点(イ)の評価でボタン部の突出ついては、すでに述べていることから、支持片部のみをみれば、略矩形状のプレート部のごく部分的な小片の有無であり、中央部のプレート部形状の相違もごく部分的な形状の相違であって、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
これら相違点が両意匠の類否判断に与える影響を総合すると、相違点(オ)が類否判断に与える影響が小さく、相違点(ウ)及び(エ)は一定程度の影響を及ぼすものであるが、外観から容易に需要者が観察可能で、一見して看取できる大きな相違である相違点(ア)及び(イ)は一体となって、両意匠の相違点として強く際立った印象を需要者に与え、両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きく、相違点(ア)ないし(オ)があいまって生じる視覚的効果は、両意匠を意匠全体として見た場合、上記共通点の影響を凌ぎ、需要者に別異の美感を起こさせるものである。

5.両意匠の類否判断
上記のとおり、両意匠は、意匠に係る物品については一致するものの、形態については、共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものであるのに対して、相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きく、相違点があいまって生じる視覚的効果は、共通点のそれを凌駕して、類否判断に大きな影響を及ぼしているものであるから、意匠全体として需要者に与える美感が異なるものであって、本件登録意匠とイ号意匠とは類似しないものと認められる。

第4 むすび
以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2019-01-15 
出願番号 意願2009-12821(D2009-12821) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (B4)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富永 亘 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 木村 智加
渡邉 久美
登録日 2010-02-19 
登録番号 意匠登録第1382991号(D1382991) 
代理人 窪田 卓美 

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