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審決分類 |
審判 J7 審判 J7 |
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管理番号 | 1356025 |
審判番号 | 無効2018-880010 |
総通号数 | 239 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2019-11-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2018-08-15 |
確定日 | 2019-09-17 |
意匠に係る物品 | イーエムエス機器用ジェルシート |
事件の表示 | 上記当事者間の意匠登録第1562465号「イーエムエス機器用ジェルシート」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件意匠登録第1562465号の意匠は、平成27年(2015年)7月8日に意匠登録出願(意願2015-15246)されたものであって、審査を経て平成28年(2016年)10月7日に意匠権の設定の登録がなされ、同年11月7日に意匠公報が発行されたものである。 その後、当審において、以下の手続を経たものである。 平成30年(2018年)8月15日受付け:審判請求書の提出 平成30年11月19日付け:審判事件答弁書の提出 平成31年(2019年)1月9日受付け:審判事件弁駁書の提出 平成31年3月22日付け:口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成31年4月4日差出:口頭審理陳述要領書(請求人) 平成31年4月19日:第1回口頭審理 第2 請求人の申し立て及び理由 請求人は請求の趣旨を「登録第1562465号意匠の登録の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由をおおむね以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため甲第1号証ないし甲第26号証を提出した。 1 審判請求書 (1)意匠登録無効の理由の要点 イ 本件登録意匠は、その登録出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった公知意匠1と類似するものであって、意匠法第3条第1項第3号により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録は、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 ロ 本件登録意匠は、その登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公知意匠2?8に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであって、意匠法第3条第2項により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録は、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 (2)本件意匠登録を無効とすべき理由(新規性違反) イ 本件登録意匠の説明 本件登録意匠(甲第1号証)は、意匠に係る物品をイーエムエス機器用ジェルシートとして意匠登録(登録第1562465号)を受けたものである。イーエムエスとは、EMS(Electrical Muscle Stimulation)を指し、電気刺激による筋肉収縮運動、又はそれを応用した機器の総称である。かかる機器を使用する際に、EMS機器から身体へ電気刺激を伝達するためジェルシートが用いられる。 本件登録意匠の形態は以下のとおりである。 A 全体が、表側保護フィルム、ジェルシート本体及び裏側保護フィルムからなる三層構造の平面視横長略長方形のジェルシートであって、 B 表側保護フィルムは幅方向の中心軸に沿って波状の切れ目を設け、 C 透明の表側保護フィルム、透明のジェルシート本体及び透明の裏側保護フィルムはそれぞれ四隅が丸みを帯びており、表側保護フィルム及び裏側保護フィルムはジェルシート本体よりも大きいサイズに形成されている態様。 ロ 公知意匠1の説明 公知意匠1(甲第2号証及び甲第6号証に係る「caution.pdf」に現れている意匠)は、その物品はイーエムエス機器用ジェルシートであって、遅くとも本件登録意匠に係る出願日の前日である平成27年(2015年)7月7日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である。 すなわち、被請求人のEMS機器「SIXPAD」は、被請求人が2015年7月7日付けのプレスリリースにて述べているとおり、公式には2015年7月7日に発売されたものである(甲第3号証、甲第4号証)。 甲第4号証は、インターネット上に公開されたPDFファイルである「dl0638-20150706-1955.pdf」の印刷物である。甲第4号証の「商品概要」においては、SIXPADの商品セット内容として、アブズフィット本体・ボディフィット本体のほか、公知意匠1に相当するジェルシートが含まれていることが示されており、当該ジェルシートの写真が示されている。 そして、甲第4号証の「商品概要」においては、当該SIXPADの品番として、「アブズフィット」についてはブラックSP-AF2009F、TR-AM2015A-E、「ボディフィット」についてはブラックSP-BF2008F、TR-AM2015B-Eが該当することが示されている。 この品番に係る商品は、例えば通販サイトAmazonでは2015年7月6日より実際に販売開始している(甲第5号証)。 甲第6号証は、この品番に対応する「製品仕様・使用条件」すなわち取扱説明書であって、インターネット上に公開されたPDFファイル「caution.pdf」を印刷したものである。甲第6号証には、製品「SIXPAD」の消耗品として、ジェルシートの説明が含まれており、8枚目に甲第2号証に対応する公知意匠1の意匠が示されている。 この甲第6号証のPDFファイル「caution.pdf」の作成日は2015年4月16日、更新日は2015年6月25日である(甲第7号証)。そして、この甲第6号証のPDFファイル「caution.pdf」は、2015年7月14日のインターネットアーカイブWayback Machineにその公開が記録されている(甲第2号証)。本件登録意匠に係る出願後の記録ではあるが、出願日からわずか6日後にインターネットアーカイブWayback Machineに記録されていることは注目に値する。 そして、甲第8号証は、Google社のインターネット検索サイトで「sixpad caution.pdf」の検索結果を示したものである。Google検索においては、日付範囲を指定して日付順に並び替えをすることで公開日が表示される仕様となっているが、甲第6号証はかかる状態で検索結果を表示したものである。 甲第8号証によると、「製品仕様・使用条件」(PDFファイル「caution.pdf」、すなわち甲第2号証及び甲第6号証)は、遅くとも出願日前の2015年7月7日に公開され、Google社のインターネット検索サイトで検索可能となっていることが分かる。同様に、「EMS『SIXPAD』を発売」(PDFファイル「dl0638-20150706-1955.pdf」、すなわち甲第4号証)も、遅くとも出願日前の2015年7月7日に公開されていることが分かる。特に甲第4号証には公開日付が2015年7月7日であることが明記されており、Google検索結果での公開日と同日であることは注目に値する。 なお、PDFファイル「caution.pdf」(甲第6号証)のリンク元となるウェブサイトでのリンク表示(「製品仕様・使用条件」)は、本件登録意匠の出願日の翌日である2015年7月9日にインターネットアーカイブWayback Machineにその公開が記録されている(甲第9号証)。 以上より、公知意匠1は、遅くとも本件登録意匠に係る出願日の前日である2015年7月7日に公知となったものである。 かかる公知意匠1の形態は以下のとおりである。 A 全体が、表側保護フィルム、ジェルシート本体及び裏側保護フィルムからなる三層構造の平面視横長略長方形のジェルシートであって、 B 表側保護フィルムは幅方向の中心軸に沿って波状の切れ目を設け、 C 透明でオレンジ色の表側保護フィルム、透明のジェルシート本体及び透明の裏側保護フィルムはそれぞれ四隅が丸みを帯びており、表側保護フィルム及び裏側保護フィルムはジェルシート本体よりも大きいサイズに形成されている態様。 「製品仕様・使用条件」(甲第2号証、甲第6号証)に現れる公知意匠1において、表側の保護フィルムは灰色に着色されている。ただし、「製品仕様・使用条件」の記載からは、表側のフィルムはオレンジ色に着色されていることを前提としている。 そして、「製品仕様・使用条件」の記載からは、ジェルシートは、フイルム(オレンジ色)とフィルム(透明)とで被覆されており、オレンジ色のフィルムは波状の切れ目を有していることが分かる。説明図ではジェルシートは使用者の手が透けて見えていることから、ジェルシート全体としては透明に構成されていることが分かる。 ハ 本件登録意匠と公知意匠1との対比 (イ)本件登録意匠と公知意匠1に係る物品の対比 両意匠の物品は、いずれもイーエムエス機器用ジェルシートである。 (ロ)本件登録意匠と公知意匠1の形態の共通点及び差異点の列挙 本件登録意匠と公知意匠1の形態は、以下の点が共通する。 (共通点) A 全体が、表側保護フィルム、ジェルシート本体及び裏側保護フィルムからなる三層構造の平面視横長略長方形のジェルシートであって、 B 表側保護フィルムは幅方向の中心軸に沿って波状の切れ目を設け、 C 透明の表側保護フィルム、透明のジェルシート本体及び透明の裏側保護フィルムはそれぞれ四隅が丸みを帯びており、表側保護フィルム及び裏側保護フィルムはジェルシート本体よりも大きいサイズに形成されている態様。 本件登録意匠と公知意匠1の形態は、以下の点が相違する。 (相違点) a 本件登録意匠に係る透明の表側保護フィルムには色彩が付されていないが、公知意匠1に係る透明の表側保護フィルムにはオレンジ色の色彩が付されている点。 (ハ)本件登録意匠と公知意匠1の形態の共通点及び差異点の評価 上記のように、本件登録意匠と公知意匠1の形態は、表側保護フィルムにオレンジ色の色彩が付されているか否かのみが異なり、その余は共通するものである。 この点、表側保護フィルムは意匠全体に占める割合が大きい部分ではある。しかしながら、透明の保護フィルムも、オレンジ色の透明の保護フィルムも、ごく普通に見られるありふれた態様である。色彩のみを変更して多数の商品バリエーションを準備することが広く行われていることから、色彩が需要者の美感に与える影響は小さい。したがって、かかる差異点は需要者の注意を引く形態に関するものではない。 (ニ)本件登録意匠と公知意匠1の意匠全体としての類否判断 前述のように、本件登録意匠と公知意匠1とは、物品が同じであり、その態様は表側保護フィルムのありふれた色彩のみが異なるものである。したがって、差異点は共通点に埋没しており、需要者に対して類似するとの美感を起こさせるものである。 ニ 小結 したがって、本件登録意匠と公知意匠1とは類似の意匠であって、意匠法第3条第1項第3号により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録は、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 (3)本件意匠登録を無効とすべき理由(創作非容易性違反) 仮に、本件登録意匠と公知意匠1とは類似する意匠ではないと判断された場合でも、本件登録意匠は、本件意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公知意匠2?8に基づいて容易に意匠の創作をすることができたもので、意匠法第3条第2項により意匠登録を受けることができないから、その意匠登録は、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 イ 本件登録意匠の説明 前述のとおり、本件登録意匠(甲第1号証)は、意匠に係る物品をイーエムエス機器用ジェルシートとして意匠登録を受けたものであり、本件登録意匠の形態は前述のとおりである。 A 全体が、表側保護フィルム、ジェルシート本体及び裏側保護フィルムからなる三層構造の平面視横長略長方形のジェルシートであって、 B 表側保護フィルムは幅方向の中心軸に沿って波状の切れ目を設け、 C 透明の表側保護フィルム、透明のジェルシート本体及び透明の裏側保護フィルムはそれぞれ四隅が丸みを帯びており、表側保護フィルム及び裏側保護フィルムはジェルシート本体よりも大きいサイズに形成されている態様。 ロ 本件登録意匠の登録出願前に公知であった形態及びその証拠の説明 (イ)公知意匠2の説明 公知意匠2(甲第10号証?甲第13号証)に係る物品は、EMS機器の電極に貼り付けて使用するジェルシートであって、以下の印刷物等に記載されている。いずれも、EMS機器である「SLENDERTONE」(バイオーメディカル リサーチ リミテッドの登録商標)に用いる交換ジェルシートであって、同一対象の意匠が示されている。 甲第10号証:本件意匠登録出願前である2013年(平成25年)2月13日に公開されたインターネット動画サイトYouTubeから抽出した画像印刷物 甲第11号証:本件意匠登録出願前である2014年(平成26年)10月16日に公開されたインターネット動画サイトYouTubeから抽出した画像印刷物 甲第12号証:本件意匠登録出願前である2012年(平成24年)8月22日から取り扱い開始されたインターネット通販サイトAmazonにおけるウェブサイト印刷物 甲第13号証:本件意匠登録出願前である2010年(平成22年)9月30日にインターネット上に公開されたウェブサイトブログの抜粋印刷物 公知意匠2の態様は以下のとおりである。 A 全体が、表側保護フィルム、ジェルシート本体及び裏側保護フィルムからなる三層構造の平面視横長略長方形のジェルシートであって、 B 表側保護フィルムは長手方向の中心軸に沿って直線状の切れ目を設け、 C 透明の表側保護フィルム、ジェルシート本体及び透明の裏側保護フィルムはそれぞれ四隅が丸みを帯びており、表側保護フィルム及び裏側保護フィルムはジェルシートよりも大きいサイズに形成されており、 D 表側保護フィルムには、その長手方向の中心軸の両側に沿って、外側に向かい湾曲した矢印記号が付されており、 E ジェルシート本体には、輪郭が長方形状の枠内に格子状の模様が付されている態様。 その他の先行する意匠として、以下の公知意匠3?8を引用する。 (ロ)公知意匠3 公知意匠3(甲第14号証?甲第18号証)に係る物品は、EMS機器の電極に貼り付けて使用するジェルシートであって、以下の印刷物等に記載されている。いずれも、EMS機器である「SLENDERTONE」(バイオーメディカル リサーチ リミテッドの登録商標)に用いる交換ジェルシートであって、同一対象の意匠が示されている。 甲第14号証:本件意匠登録出願前である2014年(平成26年)10月16日に公開されたインターネット動画サイトYouTubeから抽出した画像印刷物 甲第15号証:本件意匠登録出願前である2012年(平成24年)5月に販売開始されたことを示す「コジマネット」におけるウェブサイト印刷物 甲第16号証:本件意匠登録出願前である2013年(平成25年)5月10日に公開記録されたインターネットアーカイブサイトWayback Machineにおける「スレンダートーンエボルーション」の説明書を示すウェブサイト印刷物 甲第17号証:本件意匠登録出願前である2011年(平成23年)10月21日に公開記録されたインターネットアーカイブサイトWayback Machineにおけるブログ記事の抜粋を示すウェブサイト印刷物 甲第18号証:本件意匠登録出願前である2014年(平成26年)2月9日に公開記録されたインターネットアーカイブサイトWayback Machineにおけるブログ記事の抜粋を示すウェブサイト印刷物 公知意匠3の態様は以下のとおりである。 A 全体が、表側保護フィルム、ジェルシート本体及び裏側保護フィルムからなる三層構造の平面視横長略楕円長方形のジェルシートであって、 B 表側保護フィルムは幅方向の中心軸に沿って直線状の切れ目を設け、 C 透明の表側保護フィルム、ジェルシート本体及び透明の裏側保護フィルムはそれぞれ四隅が丸みを帯びており、表側保護フィルム及び裏側保護フィルムはジェルシートよりも大きいサイズに形成されており、 D 表側保護フィルムには、その幅方向の中心軸の両側に沿って、外側に向かい湾曲した矢印記号が付されており、 E ジェルシート本体には、輪郭が楕円長方形状の枠内に格子状の模様が付されている態様。 (ハ)公知意匠4 公知意匠4(甲第19号証)に係る意匠は、物品が貼り薬である平成24年9月18日発行の意匠登録第1451328号公報に記載された意匠であって、その形態はその各図に示すとおりである。 (ニ)公知意匠5 公知意匠5(甲第20号証)に係る意匠は、物品が医療用貼付材である平成14年1月15日発行の意匠登録第1130927号公報に記載された意匠であって、その形態はその各図に示すとおりである。 (ホ)公知意匠6 公知意匠6(甲第21号証)に係る意匠は、物品が医療用経皮パッチ(Medical Transdermal Patch)である2003年(平成15年)7月8日発行の米国意匠特許第D477086号公報に記載された意匠であって、その形態はその各図に示すとおりである。 (へ)公知意匠7 公知意匠7(甲第22号証)に係る意匠は、物品が貼り薬である平成8年4月11日発行の意匠登録第951213号公報に記載された意匠であって、その形態はその各図に示すとおりである。 (ト)公知意匠8 公知意匠8(甲第23号証)に係る意匠は、物品が創傷保護用貼付材である平成8年4月24日発行の意匠登録第952239号公報に記載された意匠であって、その形態はその各図に示すとおりである。 ハ 本件登録意匠の創作容易性 (イ)本件登録意匠と公知意匠2とは、意匠に係る物品が共通しており、本件登録意匠と公知意匠2とは、以下の形態に関する共通点及び相違点がある。 (共通点) 本件登録意匠と公知意匠2においては、 A 全体が、表側保護フィルム、ジェルシート本体及び裏側保護フィルムからなる三層構造の平面視横長略長方形のジェルシートであって、 B 表側保護フィルムは中心軸に沿って切れ目を設け、 C 透明の表側保護フィルム、ジェルシート本体及び透明の裏側保護フィルムはそれぞれ四隅が丸みを帯びており、表側保護フィルム及び裏側保護フィルムはジェルシートよりも大きいサイズに形成されている点が共通する。 (相違点) a 本件登録意匠においては、表側保護フィルムは幅方向の中心軸に沿って波状の切れ目を設けたのに対し、公知意匠2においては、表側保護フィルムは長手方向の中心軸に沿って直線状の切れ目を設けている点、 b 本件登録意匠においては、ジェルシート本体は透明であるのに対し、公知意匠2においては、ジェルシート本体は透明ではない点、 c 公知意匠2においては、ジェルシート本体には、輪郭が長方形状の枠内に格子状の模様が付されているのに対し、本件登録意匠においてはそのような模様が存しない点、 d 公知意匠2においては、表側保護フィルムには、その長手方向の中心軸の両側に沿って、外側に向かい湾曲した矢印記号が付されているのに対し、本件登録意匠においてはそのような模様が存しない点が相違する。 (ロ)かかる共通点・相違点を前提として、本件登録意匠が公知意匠2?8に基づいて容易に創作できたものであるかについて検討する。 本件登録意匠と公知意匠2及び3は、EMS機器用ジェルシートに係る意匠であるから、意匠に係る物品は共通する。 これに対し、公知意匠4?8は、それぞれ貼り薬、医療用貼付材、医療用経皮パッチ、貼り薬及び創傷保護用貼付材に係る意匠であって、本件登録意匠に係る物品と同一ではない。 しかし、本件登録意匠のEMS機器用のジェルシートは、粘着性シート本体と保護フィルムとからなり、使用時に保護フィルムを剥がして身体等の対象物に貼付するもので、EMS機器用のジェルシートであるが故に由来する特別な形態を有するものではない。そして、保護フィルムを剥がして身体その他の対象物に貼付する粘着性を有するシートは、EMS用であるか医療用であるか、またジェルシートであるか貼り薬等であるかを問わず、その形態及び機能において基本的に共通する。 そこで、本件登録意匠の属する分野が医療・美容機器の分野であることに鑑みれば、当業者において保護フィルムを剥がしやすくするための切れ目をどのような形状に創作するか考慮する際、同様に粘着性シート本体と保護フィルムとからなり使用時に保護フィルムを剥がして身体等の対象物に貼付する貼り薬等から意匠の着想を得ることは十分に考えられる。実際、EMSは医療機器としても製造販売されている実情がある(甲第24号証)。 この点、同様の判断を行い、「温熱サポーター」がスポーツ用、医療用の別を問わず、その形態及び機能において基本的に共通することを考慮して、スポーツ用のサポーターの公知意匠を医療用のサポーターの公知意匠に用いた裁判例として、東京高判平13年12月4日 平成13年(行ケ)193号が挙げられる(甲第25号証)。 さらに、意匠法第3条第2項においては、創作非容易性の判断基礎は「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」であって「物品」や物品を前提とする「意匠」という文言を含んでいないため、物品を離れたモチーフなども対象となる。 それ故、EMS機器用ジェルシートの分野における当業者にとって、貼り薬、医療用貼付材、医療用経皮パッチ及び創傷保護用貼付材に係る意匠は、意匠の創作容易性の判断の基礎として適格性を有する。 したがって、公知意匠2?8は、本件登録意匠に関する創作容易性の判断の対象となる。 (ハ)そこで、形態についての差異点a?dについて検討する。 a 公知意匠2においては、表側保護フィルムは長手方向の中心軸に沿って直線状の切れ目を設けている。 しかしながら、本件登録意匠の切れ目の波は、波高と波長の比率が約1:2の単純な繰り返しの形状にすぎず、極めてありふれた形状であって、創作性の程度は低い。 そして、表側保護フィルムにおける波状の切れ目自体は、公知意匠4?8に既に現れているとおり、公然知られた形態である。特に、波高と波長の比率が約1:3の単純な繰り返しの形状は、公知意匠4及び公知意匠6に開示されている。 また、意匠を構成する要素の延伸方向が長手方向か幅方向かは当業者が適宜選択しうる設計的事項に属するありふれた改変の範囲のものであって、当該意匠の属する分野において当然のごとく行われるものである。現に公知意匠3、公知意匠6?8の切れ目は幅方向に延長している。 したがって、公然知られた公知意匠2の表側保護フィルムの長手方向中心軸に沿って設けた直線状の切れ目を、当業者にとってありふれた手法により、他の公然知られた公知意匠4?8(特に公知意匠4や公知意匠6)の波状の切れ目に置き換え、その構成比率と延伸方向を変更することで、本件登録意匠のような、表側保護フィルムが幅方向の中心軸に沿って波状の切れ目を設けている構成にすることは、当業者にとって容易にできたものである。 b 公知意匠2においては、ジェルシート本体は不透明であるが、これを本件登録意匠のような透明のものに変更することは、ごく普通のありふれた改変に過ぎず、独自の創作性はない。 c 公知意匠2においては、ジェルシート本体には、輪郭が長方形状の枠内に格子状の模様が付されているのに対し、本件登録意匠においてはそのような模様が存しない。しかし、かかる格子状の模様を省略することは、ごく普通のありふれた改変に過ぎず、独自の創作性はない。 d 公知意匠2においては、表側保護フィルムには、その長手方向の中心軸の両側に沿って、外側に向かい湾曲した矢印記号が付されているのに対し、本件登録意匠においてはそのような模様が存しない。しかし、かかる矢印記号を省略することは、ごく普通のありふれた改変に過ぎず、独自の創作性はない。 以上より、本件登録意匠は、公知意匠2?8に基づき、容易に創作できたものである。 ニ 小結 したがって、本件登録意匠は、その登録出願前に、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公知意匠2?8に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであって、意匠法第3条第2項により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録は、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 (4) むすび 本件登録意匠は、その登録出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった公知意匠1と類似するものであって、意匠法第3条第1項第3号により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録は、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 仮にそうでない場合であっても、本件登録意匠は、その登録出願前に、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公知意匠2?8に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであって、意匠法第3条第2項により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録は、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 (5)請求人が提出した証拠 請求人は、以下の甲第1号証ないし甲第25号証を、審判請求書の添付書類として提出した。 ア 甲第1号証 意匠登録第1562465号公報 イ 甲第2号証 Wayback Machine「caution.pdf」の8頁目 https://web.archive.org/web/20150714115927/http://www.mtgec.jp:80/wellness/sixpad/caution.pdf ウ 甲第3号証 「世界最高峰の運動医科学研究から導き出した、効率的なトレーニングのためのEMS『SIXPAD』を発売」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000010638.html エ 甲第4号証 「EMS『SIXPAD』を発売」 (「d10638-20150706-1955.pdf」の印刷物) https://prtimes.jp/a/?c=10638&r=10&f=d10638-20150706-1955.pdf オ 甲第5号証 Amazon「シックスパッド アブズフィット(SIXPAD Abs Fit)」抜粋印刷物 https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%83%E3%83%89-%E3%82%A2%E3%83%96%E3%82%BA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%88-SIXPAD-%E3%80%90%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E7%B4%94%E6%AD%A3%E5%93%81-1%E5%B9%B4%E4%BF%9D%E8%A8%BC/dp/B01I2P0UQI (https://www.amazon.co.jp/シックスパッド-アブズフィット-SIXPAD-【メーカー純正品-1年保証/dp/B01I2P0UQI】) カ 甲第6号証 「製品仕様・使用条件」(「caution.pdf」の印刷物) https://www.mtgec.jp/wellness/sixpad2015/caution.pdf キ 甲第7号証 「caution.pdf」の文書のプロパティ ク 甲第8号証 Google検索 「sixpad caution.pdf」 2015年1月1日以降・日付順 https://www.google.co.jp/search?q=sixpad+caution.pdf&tbas=0&tbs=cdr:1,cd_min:01-01-2015,sbd:1&ei=EvpSW9DyC8upoAS3go3QAw&start=10&sa=N&biw=1095&bih=702 ケ 甲第9号証 Wayback Machine 「SIXPAD」メーカー公式販売サイト https://web.archive.org/web/20150709232151/http://www.mtgec.jp:80/wellness/sixpad コ 甲第10号証 YouTube「Slendertone Bottom|Citrusstv.com」からの抜粋画像 https://www.youtube.com/watch?v=Pfri6etmSS8 サ 甲第11号証 YouTube「スレンダートーン ヒップショーツの使い方」からの抜粋画像 https://www.youtube.com/watch?v=fm1Oxc28nOg シ 甲第12号証 Amazon「ヒップ用【スレンダートーン ボトムトナー】」 https://www.amazon.co.jp/ヒップ用【スレンダートーン-ボトムトナー】下半身-おしり太もも-引き締め-EMSベルト/dp/B008B1IM6E ス 甲第13号証 Naiverブログ記事からの抜粋(および文字部分翻訳) https://m.blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=gatarina402&logNo=80116215274&proxyReferer=https%3A%2F%2Fwww.google.co.jp%2F セ 甲第14号証 YouTube「スレンダートーン アーム(男性用)の使い方」からの抜粋画像 https://www.youtube.com/watch?v=il8rEiM8GnM ソ 甲第15号証 コジマネット「ショップジャパン スレンダートーンパッド SLT-P」 https://www.kojima.net/ec/disp/CSfGoodsPage_001.jsp?GOODS_STK_NO=7403172 タ 甲第16号証 Wayback Machine 「スレンダートーン ご使用になる前に」 https://web.archive.org/web/20130510204149/http://o-jx.com:80/slender/assets_c/2010/04/CIMG1251-37.html チ 甲第17号証 Wayback Machine 「装着完了 スレンダートーンエボリューション噂のEMSで腹筋を割る!」 https://web.archive.org/web/20111021053741/http://www.katei.gr.jp:80/01.html ツ 甲第18号証 Wayback Machine 「スレンダートーンエボリューションの効果は!?」ブログ記事抜粋 https://web.archive.org/web/20140209115036/http://plan-d.pobox.ne.jp:80/patron/01.html テ 甲第19号証 意匠登録第1451328号公報 ト 甲第20号証 意匠登録第1130927号公報 ナ 甲第21号証 米国意匠特許登録第D477086号(および抄訳) ニ 甲第22号証 意匠登録第951213号公報 ヌ 甲第23号証 意匠登録第952239号公報 ネ 甲第24号証 伊藤超短波株式会社「イトー ES-4000」 http://www.medical.itolator.co.jp/product/es-4000/ ノ 甲第25号証 東京高等裁判所平成13年12月4日判決 平成13年(行ケ)193号 2 審判事件弁駁書 また、請求人は、被請求人の答弁に対し、審判弁駁書を提出し、要旨以下のように主張するとともに、その主張事実を立証するため、証拠方法として甲第26号証の書証を提出した。 被請求人は、平成30年11月19日付け審判事件答弁書において、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号および同法第3条第2項の規定に該当するものではないと主張している。 しかしながら、前記答弁書における主張を考慮しても、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号に該当するものであり、仮にそうでない場合であっても、本件登録意匠は同法第3条第2項の規定に該当するものであり、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。 (1)意匠法第3条第1項第3号の適用について イ 公知意匠1の本件登録意匠の出願前公開について (イ)甲第2号証について(答弁書第3頁第2段落) 被請求人は、甲第2号証は、本件登録意匠の出願日である2015年7月8日以前に公開されていたことを全く立証できていないと主張している。 しかし、公知意匠1を含む対象製品が出願日前に発売されていたことを示す甲第3号証ないし甲第5号証、ならびに出願日前に公知意匠1に係る甲第6号証(甲第2号証)が作成されていたことを示す甲第7号証、遅くとも出願日の前日の2015年7月6日に甲第6号証がインターネット上に公開されていたことを示す甲第8号証、遅くとも公開から2日後の2015年7月9日に甲第6号証へのリンクの公開がWayback Machineに記録されていたことを示す甲第9号証、および遅くとも公開から7日後の2015年7月14日に甲第6号証の公開がWayback Machineに記録されていたことを示す甲第2号証は、いずれの証拠に示されている日付や内容が編集されて変更されているとする特段の理由もないものであり、これらを総合的に評価すれば、公知意匠1は出願前に公開されていたことが証明されるものである。 (ロ)甲第3号証および甲第4号証について(答弁書第3頁第3段落) 被請求人は、甲第3号証および甲第4号証には公知意匠1は何ら現れておらず、公知意匠1が2015年7月7日に公開されていたことを何ら立証できていないと主張している。 しかし、甲第3号証および甲第4号証は、公知意匠1を含む対象製品が出願日前に発売されていたことを示す証拠である。なお、後述の通り、ジェルシートの保護フィルムに波形の切れ目を設けても視覚上明確に表れないため、甲第3号証および甲第4号証のジェルシートには公知意匠1と同様の波形切れ目があるかは確認しがたいが、実際に示されているジェルシートは公知意匠1ないし本件登録意匠に相当する実施品である。 また、甲第4号証の商品概要には、SIXPADの品番が記載されており、それに対応する甲第6号証の「製品仕様・使用条件」には公知意匠1が記載されているので、甲第4号証は、公知意匠1が2015年7月7日に公開されていたことを裏付けるものである。 (ハ)甲第5号証について(答弁書第3頁第4段落) 被請求人は、甲第5号証において公知意匠1は表れていないと主張している。 しかし、甲第5号証は、公知意匠1を含む対象製品が出願日前に発売されていたことを示す証拠である。なお、ジェルシートの保護フィルムに波形の切れ目を設けても視覚上明確に表れないため、甲第5号証のジェルシートには公知意匠1と同様の波形切れ目があるかは確認しがたいが、実際に示されているジェルシートは公知意匠1ないし本件登録意匠に相当する実施品である。 また披請求人は、2015年7月6日の日付は取り扱い開始日であって、日付の意味が不明であると主張している。 しかし、当該日付が取り扱い開始日であるとしても、甲第5号証は、公知意匠1を含む対象製品が出願日前に発売されていたことを裏付ける証拠である。 (ニ)甲第7号証について(答弁書第4頁第2段落) 被請求人は、甲7号証および甲第2号証からは、公知意匠1が出願日前に公開されていたと立証できていないことは明らかであると主張している。 また、被請求人は、甲第2号証は、2015年7月14日に甲第6号証がインターネット上にアップされていたことを示すものであって、2015年7月8日にアップされていたことを示すものではないと主張している。 しかし、甲第7号証は、少なくとも出願日より前に公知意匠1が公開されていたことを裏付ける前提として、出願日より前にcaution.pdfが作成されていることを示す証拠である。 (ホ)甲第8号証について(答弁書第4頁第3段落) 被請求人は、甲第8号証に記載のアドレス 「http://www.mtgec.jp/wellness/sixpad2015/caution.pdf」内のファイルが甲第6号証と一致していたとの証拠は何もなく、当該アドレス上に別のファイルが存在していたことも可能性として十分あると主張している。 しかし、甲第8号証のGoogle検索結果の見出しは「[PDF]製品仕様・使用条件」であるとともにリンク先の対象のPDFファイルはcaution.pdfであって、甲第6号証の見出し「製品仕様・使用条件」に係る対象PDFファイル(caution.pdf)と一致している。これは、遅くとも2015年7月7日にcaution.pdfへのアクセスが可能になったことを示すものであって、いずれの証拠に示されている日付や内容が編集されて変更されているとする特段の理由も見当たらないものである。 また、甲第9号証から、遅くとも公開から2日後の2015年7月9日に甲第6号証へのリンク「製品仕様・使用条件」の公開がWayback Machineに記録されていたことが示されている。そして、甲第2号証からは、遅くとも公開から7日後の2015年7月14日に甲第6号証「製品仕様・使用条件」のPDFファイル(caution.pdf)の公開がWayback Machineに記録されていたことが示されている。 公開からわずか7日以内に「製品仕様・使用条件」に係るcaution.pdfの全内容ないし公知意匠1の掲載ページを差し替えるということは考えにくい。 「caution」とは「注意、用心、警戒、警告」といった意味であるから、当該アドレス上にはcaution.pdfのファイル名に対応して注意を促すことを内容とするPDFファイル、すなわち「製品仕様・使用条件」を内容とするPDFファイルが存在していたと考えるのが自然である。 当該アドレスには同名・別内容のPDFファイルが存在しており、出願後遅くとも2015年7月14日の前日までに公知意匠1が掲載された甲第6号証「製品仕様・使用条件」に係るPDFファイルに差し替えたのならば、被請求人は、差し替えの必要性を説明するとともに、差し替え前のPDFファイルを呈示すべきである。 また、被請求人は、甲第9号証において 「http://www.mtgec.jp/wellness/sixpad2015/caution.pdf」が2015年7月9日にWayback Machineに記録されていることから、同年7月9日に公開されたとされるファイルと、同年7月9日に公開されたとされるファイルとは異なる可能性が高く、甲第6号証と同一のものが同年7月7日に公開されたかどうかは全く不明であると主張している。 しかし、Wayback Machineの記録は常時行われているわけではないし、7月9日に当該アドレスがWayback Machineに記録されたが故に、同年7月9日に公開されたとされるファイルと同年7月9日に公開されたとされるファイルとが異なる可能性が高いということにはならない。 以上より、甲第2号証ないし甲第9号証を総合的に評価すれば、公知意匠1は2015年7月8日前に公開されていたといえる。 ロ 公知意匠1と本件登録意匠との類似性 被請求人は、本件登録意匠と公知意匠1とは、左端の切れ目の始まり方の形態において大きな差異点があり、また、上端および下端の円弧の大きさにおいても相違があるし、公知意匠1の円弧の大きさは具体的には不明であると主張している。 しかし、単純に繰り返された波形状における左端の切れ目の始まり方の形態は、単純に繰り返される波形状の一部の形態であるため特に需要者が関心を持って観察をする部分とはいえず、独自の形状とはいえない。また、上端および下端の円弧の大きさの違いも、単純な大きさの違いに過ぎず、特徴ある形状とはいえない。 したがって、両意匠の違いは僅かであり、差異点は共通点に埋没しており、両意匠は依然として類似意匠であるとみて差し支えない。 なお、下記の図のとおり、本件登録意匠と公知意匠1とを保護フィルムを剥がそうとする状態で両意匠を対比すれば、両意匠は類似性が高いことを容易に確認できるものである。(当審注:図は省略する。) (2)意匠法第3条第2項の適用について イ 公知意匠3について(甲第14号証ないし甲第18号証、答弁書第6頁第3段落) 被請求人は、公知意匠3に係るジェルシートは、本件登録意匠の切れ目(波形)とは全く異なる形状の切れ目(直線)を有しているため、引例としての価値は全くないと主張している。 しかし、甲第14号証ないし甲第18号証は、EMS機器用ジェルシートにおいて切れ目が幅方向に延伸する意匠が既に存することを示すものであって、創作非容易性の判断資料となるものである。 ロ 公知意匠4について(甲第19号証、答弁書第7頁第1段落) 被請求人は、公知意匠4は、縦方向波形切れ目および矢印模様という組み合わせ、および左端の切れ目の始まる円弧形状は、本件登録意匠とは異なるため、引例として不適切であって、創作容易の根拠とならないと主張している。 しかし、縦方向波形切れ目および矢印模様という組み合わせのうち、波形切れ目および矢印模様は一体不可分の構成とはなっていないため、波形切れ目の形状部分のみを抽出して、創作非容易性の判断資料とすることは可能である。 そして、甲第19号証は、波高と波長の比率が約1:3の単純な繰り返しの波形切れ目を示すものであって、もはや単純な繰り返し波形切れ目自体は創作性がないことを示すものである。 ハ 公知意匠5について(甲第20号証、答弁書第7頁第2段落) 被請求人は、公知意匠5は、縦方向に波4つ繰り返しの波形切れ目を設けた構成であり、波は中央やや上よりという特徴ある箇所に設けられている形態、および左端の切れ目の始まる円弧形状は、本件登録意匠とは異なるため、引例として不適切であって、創作容易の根拠とならないと主張している。 しかし、甲第20号証は、波形が特徴ある箇所に設けられていることはともかく、単純な繰り返しの波形切れ目を示すものであって、もはや単純な繰り返し波形切れ目自体は創作性がないことを示すものである。 ニ 公知意匠6について(甲第21号証、答弁書第7頁第3段落) 被請求人は、公知意匠6は、正方形状のパッチの縦方向(または幅方向)に波4つ繰り返しの波形切れ目を設けた形態、および左端の切れ目の始まる円弧形状は、本件登録意匠とは異なるため、引例として不適切であって、創作容易の根拠とならないと主張している。 しかし、甲第21号証は、波高と波長の比率が約1:3の単純な繰り返しの波形切れ目を示すものであって、もはや単純な繰り返し波形切れ目自体は創作性がないことを示すものである。 ホ 公知意匠7について(甲第22号証、答弁書第7頁第4段落) 被請求人は、公知意匠7は、縦方向に波4つ繰り返しの波形切れ目を設けた形態、ならびに波頂点の円弧の形状および波形はギザギザに近い形状であるため、本件登録意匠とは異なるため、引例として不適切であって、創作容易の根拠とならないと主張している。 しかし、甲第22号証は、波形の細部の具体的形状はともかく、幅方向の単純な繰り返しの波形切れ目を示すものであって、もはや単純な繰り返し波形切れ目自体は創作性がないことを示すものである。 へ 公知意匠8について(甲第23号証、答弁書第8頁第2段落) 披請求人は、公知意匠8は、幅方向に波1つの波形切れ目を設けた形状、ならびに波頂点の円弧の形状は、本件登録意匠とは異なるため、引例として不適切であって、創作容易の根拠とならないと主張している。 しかし、甲第23号証は、波形の細部の具体的形状はともかく、幅方向の波形切れ目を示すものであって、もはや単純な波形切れ目自体は創作性がないことを示すものである。 ト 本件意匠の創作性について(答弁書第8頁4段落) 被請求人は、切れ目形状については、公知意匠2ないし8にも表れているように、様々な具体的形状が存在するものであるから、それぞれの具体的形状の違いについて「ありふれた改変」と言い切るのは誤りであって、その具体的形状にそれぞれの創作的価値があると主張している。 しかし、公知意匠4?8に既に開示されているとおり、単純な繰り返し波形自体はありふれたものであり、その部分自体は創作性がないことを示すものである。 なお被請求人は、医療用貼り薬に係る公知意匠4ないし8と、ジェルシートに係る本件登録意匠とは、需要者・物品の機能および用途において大きく異なると主張している。 しかし、意匠法第3条第2項は、「物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(周知のモチーフ)を基準として、それから当業者が容易に創作することができる意匠でないことを登録要件としたものであって、そこでは、物品の同一又は類似という制限をはずし、右の周知のモチーフを基準として、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性が問題となるのである。」(最高裁昭和48年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決参照) そうすると、医療用貼り薬に係る公知意匠4ないし8と、ジェルシートに係る本件登録意匠との対比は、需要者ではなく、当業者を基準としてみるべきである。 しかるに、EMS機器用ジェルシートの属する分野は医療・美容機器の分野であって、医療用貼り薬等に係る公知意匠4ないし8とは共通するものである。 そして、審判請求書において述べた通り、本件登録意匠のEMS機器用のジェルシートは、粘着性シート本体と保護フィルムとからなり、使用時に保護フィルムを剥がして身体等の対象物に貼付するものであって、EMS機器用のジェルシートであるが故に由来する特別な形態を有するものではない。そして、保護フィルムを剥がして身体その他の対象物に貼付する粘着性を有するシートは、EMS用であるか医療用であるか、またジェルシートであるか貼り薬等であるかを問わず、その形態および機能において基本的に共通するものである。 そこで、本件登録意匠の属する分野が医療・美容機器の分野であることに鑑みれば、当業者において保護フィルムを剥がしやすくするための切れ目をどのような形状に創作するか考慮する際、同様に粘着性シート本体と保護フィルムとからなり使用時に保護フィルムを剥がして身体等の対象物に貼付する医療用貼り薬等から意匠の着想を得ることは十分に考えられる。 したがって、医療用貼り薬等に係る公知意匠4ないし8は、本件登録意匠に関する創作容易性の判断の対象となる。 次に、被請求人は、本件登録意匠に係るジェルシートは、両面とも粘着性があり、いずれの面にもフィルムが貼ってあるため、どちらのフィルムから剥がすのか、分かりづらいという課題がある。そこで、一方面のフィルムに波形切れ目を設けることで、最初に剥がす面を視覚上分かりやすくしていると主張している。 確かに、線図で表された図面においては、そのような切れ目を設けることで視覚上分かりやすくなる。 しかし、表側保護フィルム、ジェルシート本体および裏側保護フィルムの三層構造からなり、表側・裏側保護フィルムおよびジェルシートが透明である本件登録意匠においては(甲第1号証【意匠の説明】を参照)、必ずしも、一方面のフィルムに切れ目を設けても、最初に剥がす面を視覚上分かりやすくすることとはならない。これは、直線状の切れ目であっても、波状の切れ目であっても変わらない。 この点、請求人の公知意匠1ないし本件登録意匠に相当する実施品においては、波状切れ目のある一方の面の保護フィルム(EMS本体電極部に貼付する側)はオレンジ色、他方の面の保護フィルム(使用者身体に貼付する側)は透明となっているが(甲第6号証8?9枚目)、これは透明フィルムに波状の切れ目を設けてもほとんど見えず最初に剥がす面が分からないため、最初に剥がす面の透明フィルムをオレンジ色で構成することより他方の面と区別しているものと考えられる。実際、甲第26号証に示すように、請求人の公知意匠1ないし本件登録意匠に相当する実施品のジェルシートは、通常の非弯曲状態においては、波形切れ目は全く見えないものである。使用者がオレンジ色の保護フィルム面に着目してそれを上にしてジェルシートを弯曲させて初めて、波形切れ目が現れるものである。 同様に、表側保護フィルム、ジェルシート本体および裏側保護フィルムの三層構造からなり、表側・裏側保護フィルムが透明である公知意匠2および公知意匠3のジェルシートにおいても、ジェルシート本体の両面ともに粘着性があり、いずれの面にもフィルムが貼ってあるため、どちらのフィルムから剥がすのかわかりづらいという課題がある。公知意匠2および公知意匠3の透明保護フィルムの最初に剥がす面には直線の切れ目が入っているが、視覚上、切れ目がほとんど見えないものである(甲第10号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第18号証)。そのため、中央の直線状の切れ目の両側に矢印記号を設けて、最初に剥がす保護フィルムの面を区別しているものである。 よって、透明の保護フィルムに切れ目を入れても、最初に剥がす面を視覚上分かりやすくすることとはならないのである。 また、被請求人は、フィルムの切れ目が波状になっていることで、フィルムから剥がした後に、つかむ部分(波の高い部分)が突出しやすいのでつかみやすくなっていると主張している。 しかし、フィルムの切れ目を波状にし、フィルムから剥がした後に波高の突出部分がつかみやすくなるという特性は、同様の問題意識の下、既に公知意匠4ないし8において実現されている。 もし当業者がフィルムの切れ目を波状に設計しようとする場合、波高・波長の比率が整数比の波形を中心軸に沿って設けた形態が最も創作性が低いものである。当業者が創作性を発揮しようとする場合は、波形状の細部にさらなる形状を付加したり、その配置を中央からずらしたり、他の要素を付加することとなる。 したがって、本件登録意匠のように波高・波長の比率が約1:2の単純な繰り返し波形の切れ目を中心軸に沿って設けた形態は、意匠として特段の特徴・創作性があるものではない。 以上のとおりであるから、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号および同法第3条第2項に該当するものとしてその意匠登録は無効である。 (3)請求人が提出した証拠 請求人は、以下の甲第26号証を、審判事件弁駁書の添付書類として提出した。 ア 甲第26号証 ジェルシート写真 3 口頭審理陳述要領書 請求人は、口頭審理の審理事項通知に対し、被請求人の口頭審理陳述要領書副本送付後に口頭審理陳述要領書を提出し、要旨以下のように主張した。 請求人の主張は、本件登録意匠は意匠法第3条第1第3号に該当するものであり、仮にそうでない場合であっても、本件登録意匠は同法第3条第2項の規定に該当するものであり、よって、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。 (1)甲第2号証ないし甲第9号証による立証について イ.要約すると、公知意匠1が記載された「製品仕様・使用条件」に係るPDFファイル「caution.pdf」(甲第2号証および甲第6号証)は、遅くとも出願日前の2015年(平成27年)7月7日にはインターネット上に公開されて、Google社のインターネット検索サイトで検索可能となったものである(甲第8号証)。 すなわち、公知意匠1が記載されたPDFファイル「caution.pdf」は、出願日前の2015年4月16日に作成され、出願日前の2015年6月25日に更新されたものである(甲第7号証)。 そして、甲第8号証に係るGoogle検索結果の見出しは「[PDF]製品仕様・使用条件」であるとともに、リンク先の対象のPDFファイルは「caution.pdf」であって、甲第6号証の見出し「製品仕様・使用条件」に係る対象PDFファイル「caution.pdf」のものとー致している。これは、遅くとも出願前の2015年7月7日までに「caution.pdf」が公開されアクセスが可能になり、Google検索が可能となったことを示すものであって、いずれの証拠に示されている日付や内容が編集されて変更されているとする特段の理由も見当たらないものである。特に、甲第4号証の公開日付は2015年7月7日であるところ(甲第4号証)、甲第8号証には、甲第4号証へのリンクも記載されており、Google検索結果での公開日と同日であることは注目に値する。 その後、遅くとも公開から2日後の2015年7月9日に、甲第6号証へのリンク「製品仕様・使用条件」の公開がWayback Machineに記録されている(甲第9号証)。 さらに、遅くとも公開から7日後の2015年7月14日に、公知意匠1が記載された甲第6号証「製品仕様・使用条件」のPDFファイル「caution.pdf」 の公開がWayback Machineに記録されている(甲第2号証)。 ロ.被請求人の口頭審理陳述要領書における主張について 被請求人は平成31年3月22日付け口頭審理陳述要領書の第4頁第9行において、「甲第8号証で公開されたとされるファイルと甲第6号証のファイルを結びつけるものは、ファイル名と公開時期が近いことのみであり、確かにこれらが同じものであるという積極的証拠はない。」と主張している。 しかし、弁駁書において述べたとおり、「caution」とは「注意、用心、警戒、警告」といった意味であるから、甲8号証のリンクアドレス上には、「caution.pdf」のPDFファイル名に対応して注意を促すことを内容とするPDFファイル、すなわち「製品仕様・使用条件」を内容とする甲第6号証のPDFファイルが存在していたと考えるのが自然である。 そして、甲第6号証のPDFファイルの最終更新日は2015年6月25日であるということは(甲第7号証)、それ以降、公開から7日後の2015年7月14日までに内容の変更がないということである。そうすると、2015年7月14日にWayback Machineに記録された甲第6号証の内容が、遅くとも2015年7月7日に公開されたと考えるのが自然であって、それ以外は考えられないものである。 この点、請求人は、弁駁書第4頁第33行において、「当該アドレスには同名・別内容のPDFファイルが存在しており、出願後遅くとも2015年7月14日の前日までに公知意匠1が掲載された甲第6号証「製品仕様・使用条件」に係るPDFファイルに差し替えたのならば、被請求人は、差し替えの必要性を説明するとともに、差し替え前のPDFファイルを呈示すべきである。」と述べた。 これに関し、被請求人は、口頭審理陳述要領書の第4頁第25行以降において、「2015年7月7日時点では保護フィルムに切れ目はなかった。」と回答している。 しかし、これはあくまでも実際に販売したジェルシート製品の保護フィルムの態様に係る回答であって、出願前に公開された甲第6号証のPDFファイル「caution.pdf」に記載されている公知意匠1の保護フィルムに切れ目がなかったことの回答ではない。 (2)意匠法第3号第1項第3号の適用について 被請求人は、口頭弁論陳述要領書の第5頁29行において、「左端切れ目については、保護フィルムを剥がす際に、その両端と切れ目の全体を需要者は注視するので、左端が本件登録意匠のように円弧になっているか、公知意匠1のように尖っているかは決定的な差として需要者に認識される。」と主張している。しかし、波高・波長の比率が約1:2の単純な繰り返し波形の切れ目においては、需要者はそれを機械的な波形の繰り返しとして認識するに過ぎず、その左端が円弧になっているかは特に印象に残らず注目されるところではなく、美感に影響を与えるものではない。 また、上端および下端の円弧の大きさについても、単純な大きさの違いに過ぎず、特徴ある形状とはいえない。 したがって、公知意匠1と本件登録意匠との違いは僅かであり、差異点は共通点に埋没しており、両意匠は依然として類似する意匠であるとみて差し支えない。 (3)意匠法第3条第2項の適用について イ.本件登録意匠は、公知意匠2?8に基づき、容易に創作できたものである。 すなわち、表側保護フィルム、ジェルシート本体および裏側保護フィルムからなる三層構造の平面視横長略長方形のジェルシートからなる公知意匠2においては、表側保護フィルムは長手方向の中心軸に沿って直線状の切れ目を設けている。 そして、表側保護フィルムにおける波状の切れ目自体は、公知意匠4?8に既に現れている通り、公然知られた形態である。特に、波高と波長の比率が約1:3の単純な繰り返しの形状は、公知意匠4および公知意匠6に開示されている。したがって、本件登録意匠の切れ目の波は、中心軸に沿った波高と波長の比率が約1:2の単純な繰り返しの形状にすぎず、極めてありふれた形状であって、創作性の程度は低い。 また、意匠を構成する要素の延伸方向が長手方向か幅方向かは当業者が適宜選択しうる設計的事項に属するありふれた改変の範囲のものであって、当該意匠の属する分野において当然のごとく行われるものである。現に公知意匠3、6?8の切れ目は幅方向に延長している。 従って、公然知られた公知意匠2の表側保護フィルムの長手方向中心軸に沿って設けた直線状の切れ目を、当業者にとってありふれた手法により、他の公然知られた公知意匠4?8(特に公知意匠4や公知意匠6)の波状の切れ目に置き換え、その構成比率と延伸方向を変更することで、本件登録意匠のような、表側保護フィルムにおいて幅方向の中心軸に沿った波高と波長の比率が約1:2の単純な繰り返しの波状の切れ目を設けている構成にすることは、当業者にとって容易にできたものである。 以上のとおりであるから、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号および同法第3条第2項に該当するものとしてその意匠登録は無効である。 ロ.被請求人の口頭審理陳述要領書における主張について 被請求人は、口頭審理陳述要領書の第6頁第23行において、「公知意匠4の波形切れ目は縦方向波形切れ目である。本件登録意匠のような幅方向の波形切れ目とは異なる。また波形の具体的形状も全く異なるので、公知意匠4は引例として不適切である。」と主張している。 しかし、意匠を構成する要素の延伸方向が長手方向か幅方向かは当業者が適宜選択しうる設計的事項に属するありふれた改変の範囲のものである。そして、公知意匠4の波形の具体的形状は、波高と波長の比率が約1:3の単純な繰り返しの形状に過ぎないものであり、比率を変更することは当業者が適宜選択しうる設計的事項に属するありふれた改変の範囲のものである。当業者が公知意匠4を参考にして、本件登録意匠のような、表側保護フィルムにおいて幅方向の中心軸に沿った波高と波長の比率が約1:2の単純な繰り返しの波状の切れ目を設けている構成にすることができるのであって、それは創作性の程度が低いものである。 被請求人は、口頭審理陳述要領書の第6頁第30行において、「公知意匠5の切れ目は中央やや上という独創的な位置に設けられており、この点は本件登録意匠にはない。波形の具体的形状も全く異なるので、公知意匠5も引例としては不適切である。」と主張している。 しかし、公知意匠5の切れ目は、その位置を除いては、単純な繰り返しの波形を示すものである。当業者が公知意匠5を参考にして、本件登録意匠のような、表側保護フィルムにおいて幅方向の中心軸に沿った波高と波長の比率が約1:2の単純な繰り返しの波状の切れ目を設けている構成にすることができるのであって、それは創作性の程度が低いものである。 被請求人は、口頭審理陳述要領書の第7頁第4行において、「公知意匠6の波形、波数は本件登録意匠のそれとは全く異なるものであって、何ら引例として評価することはできない」と主張している。 しかし、公知意匠6の波形は、波高と波長の比率が約1:3の単純な繰り返しの波形である。また波数については、構成要索の繰り返し回数を変更することは、当業者が適宜選択しうる設計的事項に属するありふれた改変の範囲のものである。当業者が公知意匠6を参考にして、本件登録意匠のような、表側保護フィルムにおいて幅方向の中心軸に沿った波高と波長の比率が約1:2の単純な繰り返しの波状の切れ目を設けている構成にすることができるのであって、それは創作性の程度が低いものである。 被請求人は、口頭審理陳述要領書の第7頁第10行において、公知意匠7について、「繰り返し波形の切れ目というものにも様々な形態があり、各意匠の創作者は切れ目の形状、向き、場所には相当の創作価値を見出していると言える。このような状況下、公知意匠7の具体的な波形状を排除した上で、波の繰り返し自体に創作性はないとの主張は失当である。」と主張している。 確かに、公知意匠7の単純な曲線とはなっていない波形切れ目の形状には相当の創作価値が見出されるが、本件登録意匠のような、表側保護フィルムにおいて幅方向の中心軸に沿った波高と波長の比率が約1:2の単純な繰り返しの波状の切れ目を設けている構成にすることには、創作価値を見出すことができないものである。 被請求人は、口頭審理陳述要領書の第7頁第18行において、公知意匠8について、「繰り返し波形の切れ目というものにも様々な形態があり、各意匠の創作者は切れ目の形状、向き、場所には相当の創作価値を見出していると言える。このような状況下、公知意匠8の具体的な波形状を排除した上で、波の繰り返し自体に創作性はないとの主張は失当である。」と主張している。 確かに、公知意匠8の波形の繰り返しとはなっておらず1サイクルの切れ目形状には相当の創作価値が見出されるが、本件登録意匠のような、表側保護フィルムにおいて幅方向の中心軸に沿った波高と波長の比率が約1:2の単純な繰り返しの波状の切れ目を設けている構成にすることには、創作価値を見出すことができないものである。 被請求人は、口頭審理陳述要領書の第7頁第29行において、「需要者が異なるので、創作者(当業者)も創作に際しては全く異なるところに着目する可能性がある。「EMS機器用ジェルシート」の保護フィルムを創作する者が、医療用貼り薬のシートの切れ目を参考にして創作することがあるかどうかは不明またはそのような事実はないかもしれない。このように物品分野が異なるので、創作の際に参考意匠とされるかどうかは不明である。」と主張している。 しかし、請求人が審判請求書において述べている通り、本件登録意匠のEMS機器用のジェルシートは、粘着性シート本体と保護フィルムとからなり、使用時に保護フィルムを剥がして身体等の対象物に貼付するものであって、EMS機器用のジェルシートであるが故に由来する特別な形態を有するものではない。そして、保護フィルムを剥がして身体その他の対象物に貼付する粘着性を有するシートは、EMS用であるか医療用であるか、またジェルシートであるか貼り薬等であるかを問わず、その形態および機能において基本的に共通するものである。 そこで、本件登録意匠の属する分野が医療・美容機器の分野であることに鑑みれば、当業者において保護フィルムを剥がしやすくするための切れ目をどのような形状に創作するか考慮する際、同様に粘着性シート本体と保護フィルムとからなり使用時に保護フィルムを剥がして身体等の対象物に貼付する貼り薬等から意匠の着想を得ることは十分に考えられる。特にEMS機器用ジェルシートとは異なり、医療用貼り薬のシートにおいては、出願前に公知意匠4?8のように波形切れ目が開示されているので、これを当業者が創作の参考にするのは当然想定されるものである。 被請求人は、口頭審理陳述要領書の第8頁第15行において、「しかし、これについても既に述べたように、切れ目の形状は創作の過程において種々検討がなされており、それゆえ、公知意匠4ないし8のような様々な具体的形状が創作されるものである。よって、本件登録意匠の波形形状も、様々な波形がある中で円弧の形を工夫したものであるので、単純な繰り返しとまで言われるものではない。」と主張している。 しかし、もし当業者が保護フィルムの切れ目を波状に設計しようとする場合、波高・波長の比率が整数比の波形を中心軸に沿って設けた形態が最も創作性が低いものである。当業者が創作性を発揮しようとする場合は、波形状の細部にさらなる形状を付加したり、その配置を中央からずらしたり、他の要素を付加することとなる。したがって、円弧の形を工夫したといっても、中心軸に沿った波高・波長の比率が約1:2の単純な繰り返し波形の域を出ないものであって、意匠として特段の特徴・創作性があるものではない。 (4)以上のとおり、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号に該当するものであり、仮にそうでない場合であっても、本件登録意匠は同法第3条第2項の規定に該当するものであり、よって、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号により無効とすべきものである。 第3 被請求人の答弁及びその理由 1 審判事件答弁書 被請求人は、審判事件答弁書を提出し、答弁の趣旨を、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。との審決を求める。」とし、答弁の理由として、概要以下のとおり主張した。 (1)意匠法第3条第1項第3号の適用について イ 公知意匠1は本件登録意匠の出願前に公開されていないこと 請求人は、公知意匠1が本件登録意匠の出願日(2015年7月8日)前に公知であったことの証拠として、甲第2号証ないし甲第9号証を提出している。特に、公知意匠1は甲第6号証の8ページ目にのみ掲載されており、この甲第6号証が2015年7月8日前に公開されていたことの立証のために甲第2号証ないし甲第5号証、及び、甲第7号証ないし甲第9号証を提出している。しかし、請求人は、これら証拠から公知意匠1が2015年7月8日前に公開されていたことを立証できていない。また、現に、公知意匠1は2015年7月8日前に公知になっていない。 甲第2号証は、Wayback Machineによって公知意匠1が公開されていた時期を示している。しかし、甲第2号証は2015年7月14日時点において公知意匠1がインターネット上に掲載されていたことを示すのみであって、2015年7月8日前に公開されていたことを全く立証できていない。 甲第3号証及び甲第4号証は、2015年7月7日に被請求人が商品名「SIXPAD」のEMS機器を同日より発売することを告知したニュースリリースである。また、甲第4号証の2ページ目には高電導ジェルシートも商品セットの1つとして販売することを示している。しかし、これら証拠には公知意匠1は何ら現れておらず、公知意匠1が同日に公開されていたことを何ら立証できていない。 甲第5号証は、アマゾンにおいてSIXPADが販売されているサイトのプリントアウトである。そこには「Amazon.co.jp」での取り扱い開始日」が2015年7月6日と記載されている。しかし、ここにも公知意匠1は現れていない。また、2015年7月6日の日付は、「取り扱い開始日」であって、この日付が意味するのはアマゾンから販売できるようになった日なのか、在庫として仕入れた日なのかは不明である。いずれにしても、被請求人のニュースリリース(甲第3号証及び甲第4号証)で2015年7月7日販売開始として告知しているのであるから、2015年7月6日から購入できたとする解釈は無理があるし、披請求人もアマゾンに対してそのような手配を行なっていない。仮に、2015年7月7日からアマゾンで購入できたとしても、通信販売であるので、需要者の手元に届くのは同8日以降であって、そのときにジェルパッドの形態を初めて看取するから、アマゾンの記録によって、公知意匠1が本件登録意匠の出願前より公知であったと判断することは到底できない。 甲第7号証は、甲第6号証のPDFファイル「caution.pdf」の作成日が2015年4月16日、更新日が2015年6月25日であることを示す証拠である。また、甲第2号証から、前記PDFファイルは2015年7月14日に公開が記録されていると主張している。これらの証拠から、甲第6号証に掲載されている公知意匠1が2015年7月8日前に公開されていたと立証できていないことは明らかである。甲第7号証内の各日付は、甲第6号証のPDFファイルが同日に作成され、また、更新されたことを示しているかもしれないが、それがインターネット上に公開されたことを示しているものではない。また、甲第2号証は、先述したように、2015年7月14日に甲第6号証がインターネット上にアップされていたことを示すものであって、2015年7月8日前にアップされていたことを示すものではない。 甲第8号証は、甲第6号証が2015年7月7日に公開されて、google社の検索サイトで検索可能となっていることを証明するために提出されている。しかし、2015年7月7日時点において、甲第8号証に記載のアドレス「http://www.mtgec.jp/wellness/sixpad2015/caution.pdf」内のファイルが甲第6号証と一致していたことの証拠は何もない。当該アドレス上に別のファイルが存在していたことも可能性として十分ある。よって、甲第8号証によって甲第6号証が2015年7月7日に公開されていたとすることはあまりに早計である。この点は、甲第9号証において「http://www.mtgec.jp/wellness/sixpad2015/caution.pdf」が本件登録意匠の出願日翌日である2015年7月9日にWayback Machineに記録されていることから、同年7月7日に公開されたとされるファイルと、同年7月9日に公開されたとされるファイルとは異なる可能性が高く、甲第6号証と同一のものが同年7月7日に公開されたかどうかは全く不明である。 このように、甲第2号証ないし甲第9号証によって、公知意匠1が2015年7月8日前に公開されていたことは全く証明できていない。 ロ 公知意匠1と本件登録意匠とは非類似であること 仮に、公知意匠1が2015年7月7日時点で公開されていたとしても、本件登録意匠と公知意匠1とは非類似である。 本件登録意匠と公知意匠1の形態は、請求人が審判請求書6ページで述べた共通点AないしCにおいて共通する。また、相違点aにおいて相違する。しかし、両意匠の形態はもっと具体的に検討されなければならない。すなわち、両意匠の切れ目は具体的には大きく異なる。本件登録意匠の切れ目は、下記図1において、左端から、下がり気味で始まり、円弧で下端を形成し、上方に伸び、また円弧で上端を形成し、下方に伸び、さらに下端で円弧を形成し、上方に伸び、上端で円弧を形成し、下方へ伸び、辺の途中あたりで終焉する。一方、公知意匠1は、左端から、上方へ伸びる辺で始まり、上方に伸び円弧で上端を形成し、下方に伸び下端で円弧を形成し、上方に伸び上端で円弧を形成し、下方へ伸び、辺の途中あたりで終焉している。よって、両意匠は左端の切れ目の始まり方の形態において大きな相違点がある。また、上端および下端の円弧の大きさにおいても相違があるし、公知意匠1の円弧の大きさは具体的には不明ともいえる。(当審注:図は省略する。) よって、両意匠は、請求人が特定した表面保護フィルムの色彩の相違点のほか、切れ目の具体的形状において大きく相違しているので、これら相違点は両意匠の共通点を凌駕するものであって、両意匠は非類似である。 (2)意匠法第3条第2項の適用について 請求人は、審判請求書7ページ以降で本件登録意匠は、公知意匠2ないし8に基づいていわゆる当業者が容易に創作されたものであるから、意匠法第3条第2項に該当すると主張する。特に、公知意匠2の表側保護フィルムの長手方向中心軸に沿って設けた直線状の切れ目を、当業者にとってありふれた手法により、公知意匠4から8(特に公知意匠4や6)の波状の切れ目に置き換え、その構成比率と延伸方向を変更することで、本件登録意匠のような、表側保護フィルムが幅方向の中心軸に沿って波状の切れ目を設けている構成にすることは、当業者にとって容易にできたものであると主張する(審判請求書13ページ16行目)。しかし、本件登録意匠は公知意匠2ないし8に基づいて容易に創作することはできない。 甲第14号証ないし甲第18号証に表れている公知意匠3に係るジェルシートについては、審判請求書全体を読んでも、どういう理由で公知意匠3が引用されているかは不明であるが、審判請求書13ページ14行目に、「現に公知意匠3、6?8の切れ目は幅方向に延長している」との記載から、切れ目が幅方向に入っていることの事例として引用するものと考えられる。しかし、ジェルシートの意匠において、幅方向に切れ目が設定されることを否定はしないが、本件登録意匠の切れ目(波型)とは全く異なる形状の切れ目(直線)を有しているため、引例としての価値は全くない。また、外形においては、上下の短辺が全体的に円弧となっているが、本件登録意匠の上下の短辺は直線が大部分であり、外形の点においても引例としての価値はない。 甲第19号証ないし甲第23号証に係る公知意匠4ないし8は、全て医療用の貼り薬に関する意匠である。創作非容易の判断においては、物品を特定することなくあらゆる形態を考慮することができるが、その形態の具体的構成態様について詳細に比較するとともに、EMS機器用ジェルパッドに用いられることが当業者にとって容易であったかどうかの検討は必要である。そこで、公知意匠4ないし8を、形態面とそれらが本件ジェルパッドに使用することが容易かどうかについて述べる。 公知意匠4(甲第19号証)は、縦方向に波型切れ目を設けた構成であって、波の頂点やや横ほどに、矢印模様が付されている形態である。縦方向波型切れ目及び矢印模様という組み合わせは、本件登録意匠の幅方向波型切れ目(および矢印模様なし)という構成とは全く異なる。また、左端の切れ目の始まる円弧形状も本件登録意匠では下方へ伸びて円弧を作ってから上方へ伸びているのに対して公知意匠4は上方へ伸びるところから始まっているため、全く異なる。よって、公知意匠4は引例として不適切で、創作容易の根拠とならない。 公知意匠5(甲第20号証)は、縦方向に波型切れ目を設けた構成であって、波4つの繰り返しである。また、波は中央やや上寄りという特徴ある箇所に設けられている。この形態は、本件登録意匠の幅方向(中央)波型切れ目であって、波2つという構成とは全く異なる。また、左端の切れ目の始まる円弧形状も本件登録意匠では下方へ伸びて円弧を作ってから上方へ伸びているのに対して公知意匠5は頂点やや上方へ伸びるところから始まっているため、全く異なる。よって、公知意匠5も引例として不適切で、創作容易の根拠とならない。 公知意匠6(甲第21号証)は、正方形状のパッチの縦方向(または幅方向)に波型切れ目を設けた構成であって、波4つの繰り返しである。この形態は、本件登録意匠の幅方向波型切れ目であって、波2つという構成とは全く異なる。また、左端の切れ目の始まる円弧形状も本件登録意匠では下方へ伸びて円弧を作ってから上方へ伸びているのに対して公知意匠6は上方へ伸びるところから始まっているため、全く異なる。よって、公知意匠6も引例として不適切で、創作容易の根拠とならない。 公知意匠7(甲第22号証)は、縦方向に波型切れ目を設けた構成であって、波4つの繰り返しである。この形態は、本件登録意匠の幅方向波型切れ目であって、波2つという構成とは全く異なる。また、公知意匠7の波頂点の円弧は本件登録意匠と比較して圧倒的に小さく、公知意匠7は波型というよりギザギザという形状に近いので、公知意匠7も引例として不適切で、創作容易の根拠とならない。 公知意匠8(甲第23号証)は、幅方向に波型切れ目が設けられているが、波1つであって、本件登録意匠の波2つという構成とは全く異なる。また、公知意匠8の波頂点の円弧は本件登録意匠と比較して圧倒的に大きくなだらかであって、本件登録意匠の波形状とは全く異なる。公知意匠8も創作容易の根拠とならない。 このように、公知意匠4ないし8の波形状は具体的には本件登録意匠とは全く異なっている。このように大きく具体的形状の異なる波形状を、異物品である医療用貼り薬からEMS機器のジェルパッドに当てはめて、当業者なら容易に創作できるという主張は明らかに失当である。 この点、審判請求人は、審判請求書13ページで公知意匠2ないし8に基づいて本件登録意匠が容易に創作できたと主張するところであるが(切れ目の形状の相違についてはありふれた改変と述べている)、切れ目形状については、公知意匠2ないし8にも表れているように、様々な具体的形状が存在するものであるから、それぞれの具体的形状の違いについて「ありふれた改変」と言い切るのは誤りである。その具体的形状にそれぞれの創作的価値がある。 公知意匠4ないし8は、医療用貼り薬であるが、本件登録意匠に係るジェルシートとは、需要者・物品の機能及び用途において大きく異なる。医療用貼り薬の需要者は患部に痛みを有する者である。その用途及び機能は痛みの治療に用いて痛みを和らげることである。一方、ジェルシートの需要者は筋肉を鍛えて引き締まった身体を手に入れようとする者であって、その用途および機能は筋肉を鍛錬するために用いて筋力をつけるとともにシェイプアップすることである。 また、ジェルシートは、両面ともに粘着性があり、いずれの面にもフィルムが貼ってあるため、どちらのフィルムから剥がすのか、分かりづらいという課題がある。そこで、一方面のフィルムに波型切れ目を設けることで、最初に剥がす面を視覚上分かりやすくしている。また、波型になっていることで、フィルムから剥がした後に、つかむ部分(波の高い部分)が突出しやすいので、つかみやすい。ジェルシートにおけるこれらの特性には、各公知意匠から辿り着けない創作性がある。 よって、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項に該当しない。 2 口頭審理陳述要領書 被請求人は、口頭審理の審理事項通知に対し、口頭審理陳述要領書を提出し、要旨以下のように主張するとともに、その主張事実を立証するため、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証の書証を提出した。 (1)甲第2号証ないし甲第9号証による立証について 請求人は、平成31年1月7日付弁駁書において、甲第2号証ないし甲第9号証を総合的に評価すれば、甲第6号証に記載の公知意匠1は出願前に公開されていたことが証明されるものであると述べている。しかし、弁駁書における請求人の主張立証は、審判請求書の内容を踏襲しており、当方が答弁書にて反論したとおり、公知意匠1が出願前に公開されていたことを立証できていないことは明らかである。いずれの証拠も、甲第6号証以外には公知意匠1は現れていないため、公知意匠1の存在を示す証拠にはなり得ない。一方、甲第6号証には公知意匠1が掲載されているが、甲第6号証が出願前に公開されたとする直接的な証拠はない。よって、公知意匠1が出願前に公開されたということは何ら立証されていない。以下、弁駁書での主張に対して反論する。 弁駁書第3頁の「(ロ)甲第3号証及び甲第4号証について」において、請求人は、甲第3号証及び甲第4号証によって公知意匠1を含む対象製品が出願日前に販売されていたことを示すと主張する。しかし、甲第3号証及び甲第4号証には肝心の公知意匠1が開示されていない。また、甲第4号証の第2頁右下においてジェルシートが開示されているが保護フィルムがなく、公知意匠1とは言えない。請求人はジェルシートの波形切れ目が確認しがたいが、このジェルシートは公知意匠1ないし本件登録意匠に相当する実施品と主張するが、保護フィルムが明らかに存在しないため、公知意匠1とは到底言えるものではない。さらに、甲第4号証に記載の品番に対応する甲第6号証の「製品仕様・使用条件」には公知意匠1が記載されているから、甲第4号証によって公知意匠1が2015年7月7日に公開されたことが裏付けられると述べているが、先述のとおり、甲第4号証に公知意匠1の開示が全くない以上、公知意匠1の公開については何ら裏付けられていないことは明らかである。 弁駁書第3頁「(ハ)甲第5号証について」において、ここでも請求人は、甲第5号証によって公知意匠1を含む対象製品が出願日前に販売されていたことを示すと主張する。しかし、甲第5号証には肝心の公知意匠1が開示されていない。また、甲第5号証の写真においてジェルシートが開示されているが保護フィルムの存在が全く確認できるものではなく、公知意匠1とは言えない。請求人はジェルシートの波形切れ目が確認しがたいが、このジェルシートは公知意匠1ないし本件登録意匠に相当する実施品と主張するが、保護フィルムが存在しないため、公知意匠1とは到底言えるものではない。また、Amazonでの取り扱い開始日である2015年7月6日については、これにより公知意匠1を含む対象製品が出願日前に発売されたことを裏付ける証拠であると主張するが、答弁書でも主張したように、この日付の具体的意味が不明であるため(販売開始日(公開日)と同義とは限らない)、そのような主張は成り立たない。 弁駁書第3頁「(ニ)甲第7号証について」において、請求人は「甲第7号証は、少なくとも出願日より前に公知意匠1が公開されていたことを裏付ける前提として、出願日より前にcaution.pdfが作成されていることを示す証拠である」と主張するが、答弁書でも述べたとおり、「caution.pdfが作成された日」を裏付けるのみで、「caution.pdfが公開された日」を裏付けるものではないため、公知意匠1の公開日を立証するための証拠としては無意味である。 弁駁書第4頁「(ホ)甲第8号証について」において、請求人は甲第8号証の検索結果の見出し「[PDF]製品仕様・使用条件」及び対象PDFファイル名「caution.pdf」と甲第6号証の見出し「製品仕様・使用条件」及びPDFファイル名「caution.pdf」 が一致していることから、甲第8号証に記載の2015年7月7日に(甲第6号証の)ファイルが公開されてアクセス可能となったことが示されており、いずれの証拠に示されている日付や内容が編集されて変更されているとする特段の理由も見当たらないと主張する。しかしながら、甲第8号証で公開されたとされるファイルと甲第6号証のファイルを結びつけるものは、ファイル名と公開時期が近いことのみであり、確かにこれらが同じものであるという積極的証拠はない。 また、甲第9号証から、遅くとも公開から2日後の2015年7月9日に甲第6号証へのリンク「製品仕様・使用条件」の公開がWayback Machineに記録されていたことが示されており、甲第2号証からは、遅くとも公開から7日後の2015年7月14日に甲第6号証「製品仕様・使用条件」のファイルの公開がWayback Machineに記録されていたことが示されており、公開からわずか7日以内に「製品仕様・使用条件」に係る「caution.pdf」の全内容ないし公知意匠1の掲載ページを差し替えることは考えにくいと請求人は主張する。しかし、甲第2号証及び甲第9号証ともに出願日後の状況を立証しようとするものであり、公知意匠1が出願日前に公開されたことを何ら証明していないため、掲載ページの差し替えを議論する意味がない。 さらに「出願後遅くとも2015年7月14日の前日までに公知意匠1が掲載された甲第6号証『製品仕様・使用条件』に係るPDFファイルに差し替えたのならば、被請求人は、差し替えの必要性を説明するとともに、差し替え前のPDFファイルを呈示すべきである。」と請求人は主張する。 この点について、被請求人は改めて2015年7月8日近辺での保護フィルムの形状がどのようになっていたのか、社内資料を確認した。そして、被請求人から取引先各位にあてた文書「SIXPAD AbsFit/BodyFitジェルシート仕様変更のお知らせ(2015年8月7日付)」(乙第1号証)が存在していたことを発見した。乙第1号証によれば、「2.変更内容:ジェルシートのオレンジPETシートを剥がしやすくするため、シートに切れ目を入れた仕様へ変更いたしました。」との記述があり、この変更は2015年8月7日以前に行われていたとの報告がなされている。すなわち、SIXPAD製品の販売開始時点である2015年7月7日においては、保護フィルムに切れ目はなく、その後保護フィルムを剥がしやすくするために、2015年8月7日までに保護フィルムに波形の切れ目が設けられたのである。したがって、2015年7月7日時点では保護フィルムに切れ目はなかった。この点については、Wayback Machineでhttp://sixpad.jp/の2015年9月18日時点でのウェブサイト(乙第2号証)を閲覧すると、保護フィルムに一切の切れ目が無いことからも明らかである(2015年8月7日までに保護フィルムは波形切れ目を入れたものに変更されたが、ウェブサイト上の写真の変更が間に合っていなかったものと思われる。)。以上より、2015年7月7日においては、保護フィルムに切れ目はなく、その後保護フィルムを剥がしやすくするために、2015年8月7日までに保護フィルムに波形の切れ目が設けられた(なお、保護フィルムの設計変更品が出荷された日について、被請求人社内で確認したところ、次のようになっている。「Absセット品:2015年7月24日?」「Bodyセット品:2015年7月31日?」「Abs、Bodyジェル単体:2015年8月18日?」)。よって、2015年7月7日時点では保護フィルムに切れ目はなかった。 (2)意匠法第3条第1項第3号の適用について 前記のとおり、本件登録意匠の出願前に販売されていた可能性のあるジェルパッドの保護フィルムには波形切れ目はなかったから、本件登録意匠とその出願前に公開されていた可能性のある保護フィルムとは非類似であることは疑いがない。 一方で、念のため、公知意匠1が公開されていたものとして、予備的に請求人主張に対しても反論する。弁駁書第5頁「ロ 公知意匠1と本件登録意匠との類似性」において、請求人は「単純に繰り返された波形状における左端の切れ目の始まり方の形態は、単純に繰り返される波形状の一部の形態であるため、特に需要者が関心を持って観察する部分と言えず、独自の形状とは言えない」と述べる。しかし、左端切れ目については、保護フィルムを剥がす際に、その両端と切れ目の全体を需要者は注視するので、左端が本件登録意匠のように円弧になっているか、公知意匠1のように尖っているかは決定的な美感の差として需要者に認識される。その他、請求人は「上端及び下端の円弧の大きさの違いも、単純な大きさの違いに過ぎず、特徴ある形状とは言えない」と主張するが、先述したように、保護フィルムの切り口の形状は需要者が注視する部分であるので、その点における円弧の大きさの相違は需要者の中では大きな違いとして認識することができる相違である。 なお、弁駁書第6頁上方の表内における本件登録意匠の「保護フィルムを剥がそうとする状態の斜視図」は、その名のとおり斜視のため、左端切れ目がやや尖って見えるかもしれないが、正面図に記載のように本件登録意匠では左端の切れ目は円弧状である。 以上より、公知意匠1が本件登録意匠の出願前に公開されていたとしても、本件登録意匠と公知意匠1とは保護フィルムの切り口における具体的形状が異なるため、需要者は異なる美感を受けるため、両者は非類似である。 (3)意匠法第3条第2項の適用について 弁駁書第6頁「ロ 公知意匠4について」において、請求人は、(公知意匠4の)縦方向波形切れ目及び矢印模様という組み合わせのうち、波形切れ目及び矢印模様は一体不可分の構成とはなっていないから、波形切れ目の形状部分のみを抽出できると述べ、もはや単純な繰り返し波形切れ目自体は創作性がないとまで述べている。波形切れ目及び矢印模様は一体不可分の構成とはなっていないかどうかはさておき、公知意匠4の波形切れ目は縦方向波形切れ目である。本件登録意匠のような幅方向の波形切れ目とは異なる。また波形の具体的形状も全く異なるので、公知意匠4は引例として不適切である。 弁駁書第6頁「ハ 公知意匠5について」において、請求人は、公知意匠5は波形が特徴ある箇所に設けられていることはともかく、単純な繰り返しの波形切れ目であるから、もはや単純な繰り返し波形切れ目自体は創作性がないと述べている。明らかに失当であろう。公知意匠5の切れ目は中央やや上という独創的な位置に設けられており、この点は本件登録意匠にはない。また、波形の具体的形状も全く異なるので、公知意匠5も引例としては不適切である。 弁駁書第7頁「ニ 公知意匠6について」において、請求人は、公知意匠6は波高と波長の比率が約1:3の単純な繰り返しの波形切れ目を示すものであって、もはや単純な繰り返し波形切れ目自体は創作性がないと述べている。この点についても、公知意匠6の波形、波数は本件登録意匠のそれとは全く異なるものであって、何ら引例として評価することはできない。 弁駁書第7頁「ホ 公知意匠7について」において、請求人は、公知意匠7は波形の細部の具体的形状はともかく、幅方向の単純な繰り返しの波形切れ目を示すものであって、もはや単純な繰り返し波形切れ目自体は創作性がないと述べている。答弁書においても述べたが、繰り返しの波形の切れ目というものにも様々な形態があり、各意匠の創作者は切れ目の形状、向き、場所には相当の創作価値を見出していると言える。このような状況下、公知意匠7の具体的な波形状を排除した上で、波の繰り返し自体に創作性はないとの主張は失当である。 弁駁書第7頁「へ 公知意匠8について」において、請求人は、公知意匠8は波形の細部の具体的形状はともかく、幅方向の波形切れ目を示すものであって、もはや単純な繰り返し波形切れ目自体は創作性がないと述べている。波形の切れ目というものにも様々な形態があり、各意匠の創作者は切れ日の形状、向き、場所には相当の創作価値を見出していると言える。このような状況下、公知意匠8の具体的な波形状を排除した上で、波の繰り返し自体に創作性はないとの主張は失当である。 このように、公知意匠4ないし8についての請求人の主張は失当である。 弁駁書第8頁第5行目から、本件登録意匠に係る物品「EMS機器用ジェルシート」が医療・美容機器の分野に属するものであって、請求人は公知意匠4ないし8の医療用貼り薬の分野と共通すると述べている。しかし、答弁書でも述べたとおり、その需要者は全く異なる。需要者が異なるので、創作者(当業者)も創作に際しては全く異なるところに着目する可能性がある。「EMS機器用ジェルシート」の保護フィルムを創作する者が、医療用貼り薬のシートの切れ目を参考にして創作することがあるかどうかは不明又はそのような事実はないかもしれない。このように物品分野が異なるので、創作の際に参考意匠とされるかどうかは不明である。この点を差し置いたとしても、公知意匠4ないし8は本件登録意匠の切れ目と全く異なる向き、位置、形状であるので、引例として不適切である。 弁駁書第9頁第1行目から、請求人は、製品である透明保護フィルムの切れ目は、波形であっても直線であっても、視覚上見えにくいと述べる。しかし、保護フィルムを剥がす際に、需要者は保護フィルムの切りロを必ず見るので、結局、切り口の具体的形状を看取する。よって、類否判断においては切り口の具体的形状は重要な要素となる。 また、弁駁書第10頁第1行目から、請求人は、フィルムの切れ目を波状にして掴み易くするという特性は公知意匠4ないし8に現れていると主張し、また、本件登録意匠のように波高・波長の比率が約1:2の単純な繰り返し波形の切れ目を中心軸に沿って設けた形態は、意匠として特段の特徴・創作性があるものではないと主張する。しかし、これについても既に述べたように、切れ目の形状は創作の過程において種々検討がなされており、それゆえ、公知意匠4ないし8のような様々な具体的形状が創作されるものである。よって、本件登録意匠の波形形状も、様々な波形がある中で円弧の形を工夫したものであるので、単純な繰り返しとまで言われるものではない。 (4)被請求人が提出した証拠 被請求人は、以下の乙第1号証及び乙第2号証を、口頭審理陳述要領書の添付書類として提出した。 ア 乙第1号証 「SIXPAD AbsFit/BodyFitジェルシート仕様変更のお知らせ(2015年8月7日付)」 イ 乙第2号証 Wayback Machineでのhttp://sixpad.jp/の2015年9月18日時点でのウェブサイト 第4 口頭審理 当審は、本件審判について、平成31年(2019年)4月19日に口頭審理を行った(平成31年4月19日付け「第1回口頭審理調書」)。 第5 当審の判断 1 本件登録意匠(別紙第1参照) 本件登録意匠の認定は、以下のとおりである。 なお、本件登録意匠の正面図の向きを、甲第2号証の意匠(公知意匠1)の切断線の向きにあわせ、左に90度回転させ、その他の図もこれに倣うものとする。 (1)意匠に係る物品 意匠に係る物品は、「イーエムエス機器用ジェルシート」であり、EMS(Electrical Muscle Stimulation)機器の電極部に貼り付けて使用する粘着シートである。 (2)本件登録意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。) 全体の構成として、 透明かつ無模様の隅丸縦長長方形状の粘着状のシート(以下「粘着シート部」という。)の正背面側に、これより一回り大きい相似形の透明かつ無模様の薄いフィルム(以下、正面側のフィルムを「正面保護フィルム部」といい、背面側のフィルムを「背面保護フィルム部」といい、正背面の保護フィルム部をあわせて「保護フィルム部」という。)を1枚ずつ貼り付けたものであって、周縁に沿って保護フィルム部の余白部分が略細幅帯状に表れているものである(以下、余白部分を「縁部」という。)。 また、正面保護フィルム部の上下中央付近に、略弧状の凹凸を波形状に繋いだ横方向の切断線(以下、切断線を「切断部」という。)を1条設けている。 具体的な形態として、 ア 縦横の長さの比率は、約3:2である。 イ 粘着シート部と保護フィルム部の厚みは、同厚である。 ウ 縁部の幅は、横の長さの約25分の1で、周側面視において隙間を形成している。 エ 切断部は、凹孤と凸孤が二山ずつ繰り返される正弦波状曲線で、左端は凹弧の端部で右端は凸孤の端部となるよう形成したものであって、波高(凹弧の下端から凸弧の上端までの高さ)と波長(凸弧の上端から隣の凸弧の上端までの長さ)の比率は、約1:2.4である。 2 無効理由の要旨 請求人が主張する本件登録意匠の無効理由の要旨は、以下のとおりである。 (1)無効理由1(意匠法第3条第1項第3号) 本件登録意匠は、その出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった公知意匠1(甲第2号証及び甲第6号証に係る「caution.pdf」に記載された「シックスパッド専用アブズフィット高電導ジェルシート」の意匠)と類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号により意匠登録を受けることができないものであるので、本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。 (2)無効理由2(意匠法第3条第2項) 本件登録意匠は、公知意匠2(甲第10号証ないし甲第13号証に係る意匠)、公知意匠3(甲第14号証ないし甲第18号証に係る意匠)、公知意匠4(甲第19号証に係る意匠)、公知意匠5(甲第20号証に係る意匠)、公知意匠6(甲第21号証に係る意匠)、公知意匠7(甲第22号証に係る意匠)及び公知意匠8(甲第23号証に係る意匠)に基づいて、当業者が容易に意匠の創作をすることができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、本件登録意匠は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。 3 無効理由の判断 (1)無効理由1 本件登録意匠が、公知意匠1と類似する意匠であるか否かについて検討する。 ア 証拠の説明 公知意匠1は、平成30年7月21日に、株式会社MTGのウェブサイトに掲載された「caution.pdf」に記載された「シックスパッド専用アブズフィット高電導ジェルシート」の意匠であって、その形態は、甲第2号証(別紙第2参照)及び甲第6号証の第8頁(別紙第3参照)に表された図である。 (ア)甲第2号証 a 公開日 甲第2号証は、2015年(平成27年)7月14日に公開されたものであるから、本件登録意匠の出願日(2015年7月8日)の後(以下「本件出願後」ともいう。)のものである。 b 意匠に係る物品 甲第2号証の意匠に係る物品は、EMS機器用粘着シートであり、電気で筋肉を刺激する健康器具を肌に密着させるために健康器具に貼る電導性と粘着性のあるシートである。 c 形態 甲第2号証に表される意匠は、両手でEMS機器用粘着シートを湾曲させて切断線から正面保護フィルム部を両手で剥がしかけている使用状態を示す斜視図である。 全体の構成として、 透光性を有する薄灰色の粘着シート部の正背面側に、これより一回り大きい相似形の保護フィルム部を1枚ずつ貼り付けた隅丸縦長長方形の薄シートであって、正面保護フィルム部は透光性を有する薄灰色で、背面保護フィルム部は透明であり、周縁に沿って略細幅帯状の縁部が表れているものである。 また、正面保護フィルム部の上下中央付近に、略弧状の凹凸を波形状に繋いだ横方向の切断部を1条設けている。 具体的な形態として、 (a)縦横の長さの比率は、約3:2である。 (b)粘着シート部と保護フィルム部の厚みは、不明である。 (c)縁部の幅は、横の長さの約14分の1で、周側面に隙間を形成しているか否か不明である。 (d)切断部は、略直線、凸弧、凹孤、凸弧、略直線と連なる略m字状の線で、略直線もやや長めで、左端も右端も略直線の端部となるよう形成され、波高と波長の比率は、約1:3である。 (イ)甲第6号証 甲第6号証は、甲第2号証と同じ図が掲載されているものであるが(8頁)、公開日を示す記載はない。 なお、甲第6号証の意匠に係る物品及び形態の認定については、甲第2号証の意匠と同一のものと認められるから割愛する。 また、第2 1(2)ロによると、公知意匠1が、本件登録意匠の出願前(以下「本件出願前」ともいう。)に公然知られたものであることを示す証拠として、以下の甲第3号証ないし甲第5号証及び甲第7号証ないし甲第9号証を提出している。 (ウ)甲第3号証(別紙第4参照) 甲第3号証は、株式会社PR TIMESが作成したウェブサイトであり、右上に2015年7月7日16時00分の日付と時間が記載されているものであるが、公知意匠1は掲載されていない。 (エ)甲第4号証(別紙第5参照) 甲第4号証は、株式会社MTGが作成したウェブサイトであり、1頁の右上に2015年7月7日の日付が記載さているものであって、2頁及び3頁に「高電導ジェルシート」の写真が掲載されているが、公知意匠1は掲載されていない。 (オ)甲第5号証(別紙第6参照) 甲第5号証は、通信販売サイト「Amazon」のウェブサイトであり、1頁及び3頁に「高電導ジェルシート」の写真が掲載されているが、公知意匠1は掲載されていない。また、2頁の中程右寄りに「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日 2015/7/6」との記載がある。 (カ)甲第7号証(別紙第7参照) 甲第7号証は、甲第6号証の端末画面「文書のプロパティ」のスクリーンショットであって、作成日は2015年4月16日で、更新日は2015年6月25日との記載がある。 公知意匠1は掲載されていない。 (キ)甲第8号証(別紙第8参照) 甲第8号証は、検索エンジン「Google」のテキストのみの検索結果であって、請求人が矢印を書き入れた箇所には、「[PDF]製品仕様・使用条件」のタイトルの他、URL及び説明文(スニペット)と2015/07/07の日付及び「[PDF]EMS『SIXPAD』を発売-by PR TIMES」のタイトル、URL、説明文(スニペット)と2015/07/07の日付の記載がある。 公知意匠1は掲載されていない。 (ク)甲第9号証(別紙第9参照) 甲第9号証は、2015年(平成27年)7月9日に公開された株式会社MTGのウェブサイト「『SIXPAD』メーカー公式販売サイト」であるから、本件出願後のものである。 甲第9号証は、株式会社MTGが作成したウェブサイト「『SIXPAD』メーカー公式販売サイト」であり、本件出願後の2015年7月9日に公開されたものである。 公知意匠1は掲載されていない。 イ 公知意匠1について 前記アの(ア)ないし(ク)のとおり、甲第2号証ないし甲第9号証の書証には、いずれも、公知意匠1が本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった事実を示す直接的な記載は見当たらない。 したがって、公知意匠1は、甲第2号証ないし甲第9号証からは、本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるとする十分な心証を得ることはできない。 ウ 本件登録意匠と公知意匠1(以下「両意匠」ともいう。)の類否判断 上記イのとおり、公知意匠1は、本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものといえないものであるが、念のため、本件登録意匠と公知意匠1(甲第2号証及び甲第6号証)の類否判断を行う。 (ア)両意匠の意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は、「イーエムエス機器用ジェルシート」で、公知意匠1は、EMS機器用の「EMS機器用粘着シート」であって、表記は異なるが、いずれも電気で筋肉を刺激する健康器具を肌に密着させるために当該健康器具及び肌に表裏面を貼り付けて使用する粘着シートであるから、用途及び機能が一致する。 (イ)両意匠の形態の対比 a 共通点 全体の構成として、 (い)全体は、縦横の長さの比率が、約3:2の隅丸縦長長方形の薄シートで、透光性を有し、かつ無模様である点、 (ろ)粘着シート部の正背面側に、これより一回り大きい相似形の保護フィルム部を貼り付けたものである点、 (は)周縁に沿って略細長帯状の縁部が表れているものである点、 (に)正面保護フィルム部の上下中央付近に、略弧状の凹凸を波形状に繋いだ横方向の切断部を1条設けたものである点。 b 相違点 主な相違点として、 (A)粘着シート部と保護フィルム部の厚みについて、本件登録意匠は、同厚であるのに対し、公知意匠1は不明である点、 (B)横の長さに対する縁部の幅の比率について、本件登録意匠は、約25分の1であるのに対し、公知意匠1は、約14分の1である点、 (C)周側面の態様において、本件登録意匠は、隙間を形成しているのに対し、公知意匠1は、不明である点、 (D)切断部の態様において、本件登録意匠は、凹弧と凸弧を二山ずつ繰り返した正弦波状曲線で、左端は凹弧の端部で右端は凸弧の端部となるよう形成し、波高と波長の比率は約1:2.4であるのに対し、公知意匠1は、略直線、凸弧、凹弧、凸弧、略直線と連なる略m字状の線で、左右端とも略直線の端部となるよう形成し、波高と波長の比率が約1:3である点、 (E)本件登録意匠は、全体が透明であるのに対し、公知意匠1は、正面保護フィルム部が透光性を有する濃灰色、粘着シート部が透光性を有する薄灰色、背面保護フィルムが透明である点。 (ウ) 両意匠の類否判断 (α)意匠に係る物品 両意匠の意匠に係る物品は、用途及び機能が一致するから、共通する。 (β)両意匠の類否判断について 電気で筋肉を刺激する健康器具の物品分野において、健康器具を肌に接触させるために用いる粘着シートの主な需要者は、該健康器具の使用者である。 したがって、需要者が最も注意を払う部位は、健康器具に粘着シートを貼り付ける際、最初に保護フィルムを剥がすときに用いる正面保護フィルム部の切断部であるといえるから、特に、この切断部の形態について評価し、かつそれ以外の形態も併せて、各部を総合して意匠全体として形態を評価することとする。 (γ)形態の共通点の評価 全体の構成の共通点として挙げた(い)ないし(に)について、 まず、(い)について、全体を、縦横の長さの比率が約3:2の隅丸縦長長方形の薄シートとした態様のものは、両意匠の他にも見受けられるもの(参考意匠1)で、全体が、透光性を有し、かつ無模様とした態様のものも、両意匠の他にも見受けられるもの(参考意匠2)であるから、格別、需要者の注意をひくものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 参考意匠1(別紙第24参照) 動画共有サービスのYouTubeにより、2010年11月10日付けで公開された 「アブトロニックX2 3週間チャレンジ【DJプライムショッピング】」の動画において1分43秒の時点に現れる右下の「腕・足用4枚」の画像 YouTubeのウェブサイトURL: https://www.youtube.com/watch?v=4nQCeuoDa-s に掲載のジェルシートの意匠 参考意匠2(別紙第25参照) 米国のNPO法人インターネットアーカイブ(Internet Archive)が運営しているウェイバックマシン(Wayback Machine)のサイトが2013年6月10日付で保存した 「SPOPAD FIT2 スポパッドフィット2替ゲルパッド4枚入|Couleur Labo(クルールラボ)|美容専科」 (インターネットアーカイブURL、https://web.archive.org/web/20130610155409/http://www.couleur-labo.co.jp/item/spopad-fit2-gelpad(出力日:2019/07/19)) の2/4頁の中央やや左上にある4枚のゲルパッドの写真(4/4頁はそれを拡大したもの。)及び「替ゲルパッド張り替え方法 How to use」欄にある上下2つの図からなる型番CL-SP-910PADの「ゲルパッド」の意匠 次に、(ろ)及び(は)について、粘着シート部の正背面側に、これより一回り大きい相似形の保護フィルム部を貼り付け、周縁に沿って略細長帯状の縁部を形成したものも、上記の参考意匠2にみられるように、両意匠の他にも見受けられるものであり、両意匠のみの特徴ということはできないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。 また、(に)について、正面保護フィルム部の上下中央付近に設けた横方向の波形の切断部は、単に、略弧状の凹凸を繋いだ態様を概括的に捉えたものに過ぎないから、意匠の類否判断に与える影響は一定程度にとどまる。 そうすると、共通点(い)ないし共通点(は)は、いずれも両意匠の類否判断に与える影響は小さく、また、共通点(に)も意匠の類否判断に与える影響は一定程度にとどまるものであるから、これらの共通点が相まった効果を勘案しても、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいといわざるを得ない。 (δ)形態の相違点の評価 まず、(A)の粘着シート部と保護フィルム部の厚みについて、本件登録意匠の保護フィルム部の厚みは同厚であるのに対し、公知意匠1は同厚か否か不明であるが、いずれも極薄厚であり、さらに同厚であるか否かまで肉眼では看取できないから、需要者の注意をひく部分とはいえず、類否判断に与える影響は小さいものである。 次に、(B)の横の長さに対する縁部の幅の比率について、公知意匠1より本件登録意匠の方が明らかに細幅であり、また、正背面側の周縁で比較的目立つ箇所であるから、需要者の注意をひくものといえ、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 また、(C)の周側面の態様について、本件登録意匠は、隙間を形成しているのに対し、公知意匠1は、不明であるが、本件登録意匠の隙間は、同形同大の保護フィルム部を粘着シート部の正背面側に貼り付けたことにより粘着シート部の厚みが隙間として表出しているものであって、図面上、周側面視及び断面視において明確に視認することができるものであるが、隙間の大きさは小さいもので、意匠全体としてみると、さほど目立たないものであるから、格別、需要者の注意をひく部分とはいえず、類否判断に与える影響は一定程度にとどまるものである。 そして、(D)の切断部の態様について、本件登録意匠は、正弦波状曲線であるため、左右に連続する視覚的印象を与えているものであるが、公知意匠1は、連続性のない完結した視覚的印象を与えているから、両意匠は、基本的な形態が明らかに異なるものであって、需要者に異なる美感を起こさせるものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。 さらに(E)について、粘着シート部と保護フィルム部を個々にみれば、透明か透光性を有したものかの違いはみられるものの、いずれも光を透過するものである点において共通しており(共通点(い))、微弱な差異に留まるものというべきであるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さいものである。 そうすると、相違点(A)及び(E)は、類否判断に与える影響は小さく、相違点(C)も、類否判断に与える影響は一定程度にとどまるものであるが、相違点(B)及び(D)が、類否判断に与える影響は大きく、それらが相まって生じる別異の印象は、両意匠の類否判断を決定付けるものである。 (ε) 類否判断 以上のとおり、両意匠の意匠に係る物品は共通しているが、両意匠の形態については、共通点が類否判断に及ぼす影響は両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して、相違点が類否判断に及ぼす影響は大きく、相違点が相まって生じる視覚的効果は、共通点のそれを凌駕して、類否判断を支配しているものであるから、両意匠は類似しないものである。 エ 小括 前記イのとおり、公知意匠1は、本件出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものとはいえず、また、本件登録意匠は公知意匠1に類似しない。 したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由1には、理由がない。 (2)無効理由2 請求人は、前記第2 1(3)において、本件登録意匠は、「本件登録意匠出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公知意匠2?8に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであって、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないもの」と主張している。 具体的には、前記第2 1(3)ハ(ハ)に示すとおり、本件登録意匠は、 「a 公知意匠2においては、表側保護フィルムは長手方向の中心軸に沿って直線状の切れ目を設けている。 しかしながら、本件登録意匠の切れ目の波は、波高と波長の比率が約1:2の単純な繰り返しの形状にすぎず、極めてありふれた形状であって、創作性の程度は低い。 そして、表側保護フィルムにおける波状の切れ目自体は、公知意匠4?8に既に現れている通り、公然知られた形態である。特に、波高と波長の比率が約1:3の単純な繰り返しの形状は、公知意匠4および公知意匠6に開示されている。 また、意匠を構成する要素の延伸方向が長手方向か幅方向かは当業者が適宜選択しうる設計的事項に属するありふれた改変の範囲のものであって、当該意匠の属する分野において当然のごとく行われるものである。現に公知意匠3、6?8の切れ目は幅方向に延長している。 したがって、公然知られた公知意匠2の表側保護フィルムの長手方向中心軸に沿って設けた直線状の切れ目を、当業者にとってありふれた手法により、他の公然知られた公知意匠4?8(特に公知意匠4や公知意匠6)の波状の切れ目に置き換え、その構成比率と延伸方向を変更することで、本件登録意匠のような、表側保護フィルムが幅方向の中心軸に沿って波状の切れ目を設けている構成にすることは、当業者にとって容易にできたものである。 b 公知意匠2においては、ジェルシート本体は不透明であるが、これを本件登録意匠のような透明のものに変更することは、極普通のありふれた改変に過ぎず、独自の創作性はない。 c 公知意匠2においては、ジェルシート本体には、輪郭が長方形状の枠内に格子状の模様が付されているのに対し、本件登録意匠においてはそのような模様が存しない。しかし、かかる格子状の模様を省略することは、極普通のありふれた改変に過ぎず、独自の創作性はない。 d 公知意匠2においては、表側保護フィルムには、その長手方向の中心軸の両側に沿って、外側に向かい湾曲した矢印記号が付されているのに対し、本件登録意匠においてはそのような模様が存しない。しかし、かかる矢印記号を省略することは、極普通のありふれた改変に過ぎず、独自の創作性はない。 以上より、本件登録意匠は、公知意匠2?8に基づき、容易に創作できたものである。」とするものである。 ア 証拠の説明 (ア)公知意匠2(甲第10号証ないし甲第13号証) a 甲第10号証ないし甲第13号証 <甲第10号証>(別紙第10参照) 甲第10号証は、動画共有サービス「YouTube」の動画スクリーンショットであり、1頁ないし7頁の各頁の左下に「2013/02/13に公開」の記載があるものであって、各頁にEMS機器用の粘着シートの画像が掲載されている。 各頁に掲載される粘着シートについて、1頁及び2頁は、粘着シートを4枚扇状に開いて並べた写真で、3頁ないし7頁は、粘着シートから保護フィルムを剥がしている過程を現した写真である。 粘着シートの形態は、粘着シート部と透明な保護フィルム部からなる略隅丸縦長長方形の薄シートであって、粘着シート部の正面側に、同形同大の保護フィルム部を貼り付け、背面側に、これより一回り大きい相似形の保護フィルム部を貼り付けている。 粘着シートの縦横の長さの比率は約5:2である。 粘着シート部は黒色で、正面側は、周縁に沿って白色の枠線を形成し、その内側全体に方眼模様を設けている。 正面保護フィルム部は、左右中央縦に直線の切断部を設け、その切断部の両脇に、下向きかつ外側に湾曲した朱色の矢印模様を略八の字状に5つ、縦幅いっぱいに等間隔に形成している。 背面保護フィルム部は、切断部は無く、全体に斜線状の文字列を上中下三段に分けて等間隔横に多数形成している。 <甲第11号証>(別紙第11参照) 甲第11号証は、動画共有サービス「YouTube」の動画スクリーンショットであり、1頁ないし4頁の各頁の左下に「2014/10/16に公開」の記載があるものであって、2頁ないし4頁にEMS機器用の粘着シートの画像が掲載されている。 2頁ないし4頁に掲載される粘着シートは、粘着シートから保護フィルムを剥がし、EMS機器に貼り付けている過程を現した画像である。 なお、当該粘着シートは、甲第10号証の粘着シートと同じものである。 <甲第12号証>(別紙第12参照) 甲第12号証は、通信販売サイト「Amazon」のウェブサイトであり、3頁の右上に「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日 2012/8/22」の記載があるものであって、1頁の左上(矢印で指し示した箇所)にEMS機器用の粘着シートを4枚扇状に開いて並べた画像が掲載されている。 なお、当該粘着シートは、甲第10号証の粘着シートと同じものである。 <甲第13号証>(別紙第13参照) 甲第13号証は、韓国の検索ポータルサイト「Naiver」のブログ記事であり、1頁の各頁の左上に「2010.9.30.16:39」の記載があるものであって、3頁ないし9頁にEMS機器用の粘着シートの画像が掲載されている。 3頁ないし9頁に掲載される粘着シートは、粘着シートから保護フィルムを剥がし、EMS機器に貼り付けている過程を現した画像である。 なお、当該粘着シートは、甲第10号証の粘着シートと同じものである。 b 公知意匠2の公知性について 前記aのとおり、甲第10号証及び甲第11号証は、いずれも、動画共有サービス「YouTube」の動画スクリーンショットであって、その公開日は、それぞれ、本件登録意匠出願前の2013年2月13日(甲第10号証)と2014年10月16日(甲第11号証)と認められる。 一方、甲第12号証に記載の日付は、通信販売サイト「Amazon」での取り扱い開始日であって、甲第12号証が公開された年月日を表したものとは認められない。また、甲第13号証は、年月日と時間が記載されているものの、それが甲第13号証の公開日であると客観的に理解することはできないから、甲第13号証が公開された年月日を表したものとは認められない。 そうすると、甲第10号証ないし甲第13号証に記載のEMS機器用の粘着シートはいずれも同一のものであるところ、甲第12号証及び甲第13号証の公知性に疑義があるとしても、甲第10号証及び甲第11号証の公知性は明らかであるから、公知意匠2は、本件登録意匠の出願前から公然知られているものであると認定して差し支えないものである。 c 公知意匠2の認定 (a)意匠に係る物品 公知意匠2の意匠に係る物品は、EMS機器用粘着シートであり、電気で筋肉を刺激する健康器具を肌に密着させるために健康器具に貼る電導性及び粘着性のあるシートである。 (b)形態 全体は、粘着シート部と透明な保護フィルム部からなる略隅丸縦長長方形の薄シートであって、粘着シート部の正面側に、同形同大の、正背面側に、これより一回り大きい相似形の保護フィルム部を1枚ずつ貼り付けたものである。 粘着シートの縦横の長さの比率は約5:2である。 粘着シート部は、正面側に、周縁に沿って黒白色の枠線帯状縁部を形成し、その内側全体に方眼小さなドット模様を設け、背面側に、周縁に沿って灰色の細帯状縁部を形成し、その内側全体を黒色に着色している。 正面保護フィルム部は、左右中央縦に直線の切断部を設け、その切断部の両脇に、下向きかつ外側に湾曲した朱色の矢印模様を略八の字状に5つ、縦幅いっぱいに等間隔に形成している。 背面保護フィルム部は、切断部は無く、全体に斜線状の文字列を上中下三段に分けて等間隔横に多数形成している。 (イ)公知意匠3(甲第14号証ないし甲第18号証) a 甲第14号証ないし甲第18号証 <甲第14号証>(別紙第14参照) 甲第14号証は、動画共有サービス「YouTube」の動画スクリーンショットであり、1頁ないし5頁の各動画の左下に「2014/10/16に公開」の記載があるものであって、2頁ないし4頁にEMS機器用の粘着シートの画像が掲載されている。 2頁ないし4頁に掲載される粘着シートは、粘着シートから保護フィルムを剥がし、EMS機器に貼り付けている過程を現した写真である。 粘着シートの形態は、粘着シート部と透明な保護フィルム部からなる略縦長長円形の薄シートであって、粘着シート部の正面側に、同形同大の、背面側に、これより一回り大きい相似形の保護フィルム部を1枚ずつ貼り付けている。 粘着シートの縦横の長さの比率は約3:2である。 粘着シート部は、正面側は、周縁に沿って白色の枠線を形成し、その内側全体に方眼模様を設けている。 正面保護フィルム部は、(左向きに90°倒した状態で)左右中央縦に直線の切断部を設け、その切断部の両脇に、下向きかつ外側に湾曲した朱色の矢印模様を略八の字状に、少なくとも1つ形成したものであることが確認できる。 背面保護フィルム部は、切断部は無く、円形と直線を組み合わせたような薄い模様を上下左右寄りに1つずつ形成している。 <甲第15号証>(別紙第15参照) 甲第15号証は、通信販売サイト「コジマネット」のウェブサイトであり、1頁の中央やや上寄りに「発売年月 2012年05月」の記載があるものであって、その左上寄り(矢印で指し示した箇所)にEMS機器用の粘着シートを2枚横にやや重ねて並べた画像が掲載されている。 粘着シートの形態は、正面側のみの開示で、正面側の態様は、甲第14号証と同一のものである。なお、正面保護フィルム部において、(左向きに90°倒した状態で)略八の字状の矢印模様を、上下に2つ形成しているものである点において、甲第14号証とは一致しない可能性があるが、連続印刷された矢印模様を付した正面保護フィルム部を粘着シート部に貼り付ける際のズレと認められるから、当審において、実質的に同じ粘着シートの画像と認定する。 <甲第16号証>(別紙第16参照) 甲第16号証は、2013年5月10日に公開されたウェブサイトに掲載された記事であって、上寄りにEMS機器用の粘着シートの使用方法を図示した説明書を写した画像が掲載されている。 その画像中、中央下端寄り(矢印で指し示した箇所)に略横長長円形状の粘着シートの図が掲載されている。 粘着シートの形態は、正面側のみの開示で、保護フィルムを剥がしたあとの図であって、縦横の長さの比率は約3:2で、全体を灰色に着色し、周縁に沿って黒色の帯状縁部を形成している。 <甲第17号証>(別紙第17参照) 甲第17号証は、2011年10月21日に公開されウェブサイトに掲載された記事であって、上寄り(矢印で指し示した箇所)にEMS機器用の粘着シートの正背面側の画像が上下に掲載されている。 粘着シートの形態は、背面保護フィルム部を除き、甲第14号証と同じであり、背面保護フィルム部は、中央やや左側に縦の切断部を設け、その切断部を挟んで左右いっぱいに、斜線状の文字列をそれぞれ5本ずつ上下に等間隔に形成している。 <甲第18号証>(別紙第18参照) 甲第18号証は、2014年2月9日に公開されウェブサイトに掲載された記事であって、1頁及び2頁の上側(矢印で指し示した箇所)にEMS機器用の粘着シートの正背面側の画像を1つずつと、2頁の下側(矢印で指し示した箇所)に粘着シートの図が掲載されている。 粘着シートの画像の形態は、甲第14号証の粘着シートと同じものである。 粘着シートの図の形態は、甲第16号証の粘着シートと同じものである。 b 公知意匠3の公知性について 前記aのとおり、甲第14号証及び甲第16号証ないし甲第18号証は、公知性は明らかであるが、甲第15号証に記載の日付は、通信販売サイト「コジマネット」での取り扱い開始日であって、甲第15号証が公開された年月日を表したものとは認められない。 そうすると、甲第15号証の公知性に疑義はあるが、その他の書証の公知性は明らかであるから、公知意匠3は、本件登録意匠の出願前から公然知られているものであると認定して差し支えないものである。 また、公知意匠3の形態については、書証に表される粘着シートの画像が一部異なるものや画像以外の図が混在しているものであるが、審判請求書13頁11行目?15行目に記載のとおり、公知意匠3は、縦長の粘着シートの短手方向に切断部を設けたものが、本件登録意匠の出願前から公然知られていることの証拠として挙げているものであるから、当審においては、その限りにおいて公知意匠3の形態を認定する。 c 公知意匠3の認定 (a)意匠に係る物品 公知意匠3の意匠に係る物品は、EMS機器用粘着シートであり、電気で筋肉を刺激する健康器具を肌に密着させるために健康器具に貼る電導性と粘着性のあるシートである。 (b)形態 粘着シート部と透明な保護フィルム部からなる略横長長円形の粘着シートであって、粘着シート部の正面側に粘着シート部と同形同大の正面保護フィルム部を貼り付け、背面側に、これより一回り大きい相似形の背面保護フィルム部を貼り付けている。 粘着シートの縦横の長さの比率は約2:3である。 正面保護フィルム部は、左右中央縦に直線の切断部を設けている。 (ウ)公知意匠4(甲第19号証)(別紙第19参照) 甲第19号証は、平成24年(2012年)9月18日発行の意匠公報に記載の意匠登録第1451328号の意匠(意匠に係る物品「貼り薬」)である。 全体は、透光性を有しかつ無模様の隅丸縦長長方形状の支持体部の正面側に、これより一回り大きい相似形の透明な剥離シート部を貼り付けたものであって、正面保護フィルム部の周縁に沿って略細幅帯状の縁部が表れているものである。 また、剥離シート部の左右中央に、略弧状の凹凸を波形状に繋いだ縦の切断部を1条設けている。 具体的な形態として、 a 縦横の長さの比率は、約3:2である。 b 切断部は、凹孤と凸孤が二山ずつ繰り返される正弦波状曲線で、下端は凸弧の端部で上端は凹孤の端部となるよう形成している。 c 剥離シート部の切断部の両脇に矢印模様を2つずつ縦に互い違いに形成している。 (エ)公知意匠5(甲第20号証)(別紙第20参照) 甲第20号証は、平成14年(2002年)1月15日発行の意匠公報に記載の意匠登録第1130927号の意匠(意匠に係る物品「医療用貼付材」)である。 全体は、不透明な隅丸横長長方形状の粘着シート部の正面側に、これより一回り大きい相似形で透明な剥離シート部を貼り付けたものであって、剥離シート部の周縁に沿って略細幅帯状の縁部が表れているものである。 また、剥離シート部の上下中央やや上寄りに、略弧状の凹凸を波形状に繋いだ横方向の切断部を1条設けている。 さらに、正背面中央に縦の破線が設けられている。 具体的な形態として、 a 縦横の長さの比率は、約10:7である。 b 切断部は、正円形状の同径の凸弧と凹弧を交互に配して2つの山が波形状に連なり、左端も右端も凸弧の端部となるよう中央の破線を境に左右対称に形成している。 (オ)公知意匠6(甲第21号証)(別紙第21参照) 甲第21号証は、2003年(平成15年)7月8日発行の米国意匠D477086号の意匠(意匠に係る物品「医療用経皮パッチ」)である。 全体は、隅丸正方形状の粘着シート部の正背面側に、同形同大の保護フィルム部を貼り付けたものである。 また、正面保護フィルム部の左右中央に、略弧状の凹凸を波形状に繋いだ縦方向の切断部を1条設けている。 具体的な形態として、 a 縦横の長さの比率は、約1:1である。 b 切断部は、凹弧と凸弧が三山ずつ繰り返される正弦波状曲線で、下端は凸弧の端部で上端は凹弧の端部となるよう形成している。 (カ)公知意匠7(甲第22号証)(別紙第22参照) 甲第22号証は、平成8年(1996年)4月11日発行の意匠公報に記載の意匠登録第951213号の意匠(意匠に係る物品「貼り薬」)である。 全体は、縦長長方形状の支持体の一面に展着された膏薬部の正背面側に、同形同大の剥離シート部を貼り付けたものである。 また、正面側の剥離シート部の左右付近に、略弧状の凹凸を波形状に繋いだ縦方向の切断部を1条設けている。 具体的な形態として、 a 縦横の長さの比率は、約2:3である。 b 切断部は、三周期半ある三角波状の破線により形成している。 (キ)公知意匠8(甲第23号証)(別紙第23参照) 甲第23号証は、平成8年(1996年)4月24日発行の意匠公報に記載の意匠登録第952239号の意匠(意匠に係る物品「創傷保護用貼付材」)である。 全体は、縦長長方形状の当て材部の正背面側に、かなり大きい隅丸縦長長方形状の薄いプラスチツクシートと剥離紙を貼り付けたものである。 また、プラスチツクシートの上下中央付近に、下に凹んだ略弓状の横方向の切断部を1条設けている。 具体的な形態として、 a 縦横の長さの比率は、約5:4である。 b 切断部は、左端も右端も凸弧の端部になるよう形成している。 イ 創作容易性の判断 請求人の無効理由2についての主張は、本件登録意匠は、(A)隅丸縦長長方形状の粘着シートの正背面側に、これより一回り大きい相似形の透明な保護フィルムを1枚ずつ貼り付けた三層構造とし、正面側の保護フィルムの中心軸に沿って切断部を設けたものは、公知意匠2にみられ、(B)切断部を凹孤と凸孤が二山ずつ繰り返される正弦波状曲線としたものは、公知意匠4ないし公知意匠6にみられ、(C)切断部を上下中央横に設けたものは、公知意匠3及び公知意匠6ないし公知意匠8にみられるから、当業者にとって容易に創作することができたというものである。 したがって、これらの点について、本件登録意匠が当業者によって容易に創作できたものであるかについて検討し判断する。 (ア)意匠法第3条第2項の該当性 意匠法第3条第2項の適用においては、意匠の新規性(意匠法第3条第1項)の判断と異なり、当業者の知り得る範囲内に限っては、公知意匠に係る物品の同一、類似、又は非類似を問わない。 そうすると、請求人提出の公知意匠2ないし公知意匠8のうち、公知意匠2及び公知意匠3の意匠に係る物品は、ともにEMS機器用の粘着シートで、本件登録意匠と意匠に係る物品が同一であるから、当業者にとって、同一の分野に属する物品といえるものである。一方、公知意匠4ないし公知意匠8の意匠に係る物品は、いずれも外用薬の分野に属する貼付剤であるから、本件登録意匠とはその属する物品の分野は異なるものであるが、両者はともに身体に貼り付けて使用する保護フィルム付きの粘着シートである点において共通しており、当業者であれば、これら貼付剤の形態にも着目するといえるから、公知意匠2ないし公知意匠8の意匠に係る物品は、いずれも当業者の知り得る範囲内のものであり、意匠法第3条第2項の適用において、判断の基礎とすることができるものである。 (イ)判断 (A)について、本件登録意匠と公知意匠2との各部の形態における対比は、隅丸縦長長方形状の粘着シートの背面側に、これより一回り大きい相似形の透明な保護フィルムを貼り付け、正面側の保護フィルムの中央に切断部を設けたものである点において共通するものであるから、本件登録意匠は、上記の態様において、創作が容易でなかったということはできない。 (B)について、本件登録意匠の切断部を凹孤と凸孤が二山ずつ繰り返される正弦波状曲線とした態様は、粘着シートの短手方向に切断したものか長手方向に切断したものかの相違はみられるものの、切断部自体は公知意匠4の切断部にみられるものであるから、本件登録意匠の態様は、公然知られた公知意匠4に基づいて、容易に創作できたものといわざるを得ない。 (C)について、切断部を粘着シートの短手方向の上下中央横に設けたものは、公知意匠3、公知意匠7及び公知意匠8にみられるように、本件登録意匠の出願前から公然知られているものであるから、本件登録意匠の態様は、公知意匠3、公知意匠7及び公知意匠8に基づいて、容易に創作できたものといわざるを得ない。 したがって、本件登録意匠は、請求人が主張する前記の(A)、(B)、(C)において、全体を公知意匠2とし、公知意匠4にみられる波形状の切断部を、粘着シートの短手方向の上下中央横に設けたものであるから、当業者が容易に創作することができたものということができる。 しかしながら、本件登録意匠のように、(a)全体を透明とし、(b)粘着シート部の両面に、粘着シート部より一回り大きい相似形の保護フィルム部を貼り付け、(c)それにより、粘着シートの周側面に隙間を形成したものである形態は、公知意匠2ないし公知意匠8のいずれにも見られないことから、当該物品分野において、公然知られた形態であるとする証拠は無く、この点において、本件登録意匠は、当業者が容易に創作することができたものということはできない。 したがって、本件登録意匠は、上記の(A)、(B)、(C)の態様については、創作が容易でなかったということはできないが、(a)、(b)、(c)の各態様において、公然知られた形態から特段の創意を要さないで創作できたとはいい難いものであるから、当業者から見て着想の新しさないし独創性があるといわざるを得ず、意匠を創作することが容易であったとはいうことができない。 ウ 小括 以上のとおり、本件登録意匠は、公知意匠2(甲第10号証ないし甲第13号証の意匠)、公知意匠3(甲第14号証ないし甲第18号証の意匠)、公知意匠4(甲第19号証の意匠)、公知意匠5(甲第20号証の意匠)、公知意匠6(甲第21号証の意匠)、公知意匠7(甲第22号証の意匠)及び公知意匠8(甲第23号証の意匠)に基づいて、当業者が容易に創作することができたということはできない。 したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由2には、理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、無効理由1及び無効理由2には理由がなく、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号、及び同法第3条第2項に違反して登録されたものとはいうことができないから、同法第48条第1項第1号によりその登録を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審決日 | 2019-08-05 |
出願番号 | 意願2015-15246(D2015-15246) |
審決分類 |
D
1
113・
113-
Y
(J7)
D 1 113・ 121- Y (J7) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大峰 勝士 |
特許庁審判長 |
内藤 弘樹 |
特許庁審判官 |
渡邉 久美 宮田 莊平 |
登録日 | 2016-10-07 |
登録番号 | 意匠登録第1562465号(D1562465) |
代理人 | 松井 宏記 |
代理人 | 南瀬 透 |
代理人 | 遠坂 啓太 |
代理人 | 鈴木 行大 |
代理人 | 宗助 智左子 |
代理人 | 加藤 久 |