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審決分類 審判 査定不服  意10条1号類似意匠 取り消して登録 H7
管理番号 1357720 
審判番号 不服2016-12868
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-26 
確定日 2016-12-15 
意匠に係る物品 携帯情報端末 
事件の表示 意願2015- 7098「携帯情報端末」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠

本願は,本意匠を意願2015-7097号(意匠登録第1542611号)とする関連意匠の意匠登録出願であって,意匠法第14条第1項の規定により本願に係る意匠を秘密にすることを請求して,物品の部分について意匠登録を受けようとする平成27年(2015年)3月31日に出願された意匠登録出願であり,その意匠(以下,「本願意匠」という。)は,願書及び願書に添付した図面の記載によれば,意匠に係る物品を「携帯情報端末」とし,その形態を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものであって,「破線で表した部分以外の部分(表示部の画面)のうち,薄い黄色を付した部分以外の部分(一枚の花びら状の画像と花びら状のシルエットの一部分)が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。背面図,左側面図,および底面図は,意匠登録を受けようとする部分以外の部分のみが現れるので省略する。」としたものである(以下,本願について意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)。(別紙第1参照)
また,本願意匠は,願書の記載及び願書に添付した図面によると,「本願物品は,ユーザの肌を撮影して得られた肌画像を解析することによって測定された肌の状態に関する情報を表示する機能を有する。肌の状態には,毛穴の状態,シミの状態,キメの状態などの複数の項目が含まれる。表示部に表示されたチャート形式の画像は,ユーザの肌の状態の測定結果を表す画像である。肌の状態の各項目が割り当てられた区画が当該チャート形式の画像の中心から各方向に向けて形成され,それぞれの区画に,所定の色が付された花びら状の画像が表示される。当該花びら状の画像は,それが表示される区画に割り当てられた項目のスコアを表し,スコアに応じた大きさで表示される。」としていることから,意匠法第2条第1項に規定する意匠に該当するものであり,願書に添付した図面において,「正面図1」ないし「正面図4」が提出されていることから,複数の「画像を含む意匠」であって画像が変化するものと認められる。


第2 原査定における拒絶の理由及び本意匠

原査定における拒絶の理由は,本願意匠は願書に記載した本意匠に類似する意匠とは認められず,意匠法第10条第1項の規定に該当しない,としたものであって,本意匠は,平成27年(2015年)3月31日に出願され,平成27年(2015年)12月25日に意匠権の設定の登録がなされ,平成28年2月1日に意匠公報が発行された意願2015-7097号(意匠登録第1542611号)の意匠であり,意匠に係る物品を「携帯情報端末」とし,その形態は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり(別紙第2参照),具体的には,「「部分意匠として意匠登録を受けようとする部分」の形状について,本願意匠は,花びら状部(暗調子部)及び花びら状のシルエット部(明調子部)のそれぞれの外方の端が逆V字状であるのに対し,本意匠は,同部の外側の端が緩やかな曲線であって,単純な帯形状の中では,この点が大きく異なり,類似しないため,本願意匠は本意匠に類似しないと判断されます。」としたものである。


第3 請求人の主な主張

これに対し,請求人は,審判を請求し,要旨以下のとおり主張した。

1.本願意匠が登録されるべき理由
(1)本願意匠と本意匠の認定
(1-1)意匠に係る物品について
本願意匠と本意匠の意匠に係る物品はいずれも「携帯情報端末」であり,拒絶査定の謄本における認定の通り同一である。
(1-2)請求部分について
本願意匠の請求部分と本意匠の請求部分は,いずれも,肌の状態の項目が割り当てられた花びら状のシルエットの画像の帯形状の部分と,各シルエットの画像の内側に配置された,肌の状態のスコアを表す花びら状の画像の帯形状の部分とからなる部分である。
本願意匠と本意匠では,黄色着色を用いて,1枚の花びらの中心付近の帯状部分を権利要求する部分意匠としているが,花びらがチャートとして機能する様を,正面図1?正面図4を用いて,あたかも筍が成長するかのようなイメージでの動的態様として図面表現しているし,また,意匠の説明の欄においても,その一部を権利要求範囲とする画像が「花びら状の画像」であることを明記している。
本願意匠と本意匠の権利要求範囲については,肌の状態の各項目が割り当てられた花びら状の画像が中心から各方向に向けて形成されたチャート,いうなればペタルチャート(petal chart)を,権利要求する意思表示が十分に表れているものと確信する。
以下,適宜,明調子で表された,花びら状のシルエットの画像を「シルエット画像」といい,暗調子で表された,肌の状態のスコアを表す花びら状の画像を「花びら画像」という。

両意匠の物品全体に対する請求部分の位置,大きさ,範囲についても,拒絶査定の謄本における認定の通り,類似するものである。
また,シルエット画像及び花びら画像に対する請求部分の位置,大きさ及び範囲についても,両意匠同程度であり,類似するものである。

このように,シルエット画像と花びら画像とからなる「花」は,被験者となるユーザの肌を撮影して得られた肌画像を解析することによって得られた肌の状態の測定結果を表す機能を有する画像であり,本願意匠と本意匠の「花」は,美容業界のこのような問題を背景に,女性ユーザにとっても,直感的で分かりやすく,かつ,親しみやすい表現を目指して創作されたものである。

(2)本願意匠と本意匠との対比
(2-1)共通点と差異点
<共通点>
(A)明調子のシルエット画像の帯形状の中で,暗調子の花びら画像の帯形状が,肌状態のスコアに応じた大きさで表される点
<差異点>
(ア)シルエット画像および花びら画像の帯状部分の外方(花びらの先端方向)の形状が,本願意匠は逆V字状であるのに対し,本意匠は緩やかな円弧状である点
(イ)本願意匠はハイライト(特に明るい部分)が表れないのに対し,本意匠は暗調子の帯形状の外方及び内方の縁近傍にハイライトが表れる点

(2-2)共通点の評価
1)まず,本願意匠と本意匠との用途となる「美容」の言葉からは,通常,「美」,「清楚」,「清潔感」,「健やか」,「ナチュラル」,「成長」,「豊かさ」といったイメージを,ユーザーは抱き,これらを具体化したものが,本願意匠と本意匠とが一部を表現する「花」となる。
すなわち,上記共通点に係る態様は,女性ユーザの心理に寄り添った形で肌の状態の測定結果をどう視覚化するかといった上記問題を踏まえて,美容のイメージを具体化した「花」をモチーフにして,肌の状態の測定結果を表現したものである。
このような,美容のイメージを具体化した「花」をモチーフにして肌の状態の測定結果を表現した共通点に係る態様は,公知意匠にはない斬新な態様といえる。
また,「花」をモチーフにして肌の状態の測定結果を提示する本願意匠と本意匠とは,単なる情報の提示物ではなく,スコアに応じて花びらの大きさが変化することでいわゆるインフォグラフィックとしての機能を発揮するものである。
これにより,例えば肌の状態を数字やグラフで表現する場合に比べて,肌の状態を,花びらの大きさから直感的に認識することができることになる。
また,そのような表現がなされることを知っている女性ユーザからすれば,大きな「花」を咲かせることを目標にして,肌の状態が改善して大きな「花」を実際に見たときには,「花」の「成長」を感じられ,大きな達成感を得ることができることになる。
このような機能をも有する表現は,まさに,女性ユーザの心理に寄り添った表現といえるものであり,女性ユーザの注意を非常に強く惹くものである。

2)拒絶査定の謄本における指摘について
ところで,拒絶査定の謄本においては,「共通点(A)については,意匠登録第1516019号の意匠や広く知られたレーダーチャートの中央から外方向への一部を帯形状に抽出した部分に見られる態様であり,両請求部分の類否判断に及ぼす影響は小さいといえます。」と指摘されている。ここで,この指摘の妥当性について検討する。
拒絶理由通知および拒絶査定においては,いわばペタルチャートといえるようなものが一つも存在せず,このことは,花びら(ペタル)をモチーフにして図表(チャート)化して見立てた先行意匠が一つも存在していないことの証左ともいえるものである。
そうすると,本意匠と本願意匠の権利要求範囲の特定方法が,いずれもペタルチャートとして特定し得るに十分な構成要素を含む方法になっていることさえ認定されれば,ペタルチャートの一部というその共通性が高く評価されて然るべきであって,先行周辺意匠の摘示もないままに,その共通性を恣意的に弱めて評価されることについては全く以て承服できないものである。
共通点(A)の花びら画像は,その画像自体がスコアを表現するものであるのに対して,一般的なレーダーチャートの2つの軸とスコアを結ぶ直線とで囲む領域はスコアを表現するものではなく,単に,スコアを直線で結んだときに表れる領域であるから,共通点(A)の花びら画像と一般的なレーダーチャートでは,スコアを表すものかそうでないかといった機能的な面においても,常に相似形で大きさを変えて表示されるものかそうでないかといった表現の面においても異なるものである。
このように,共通点(A)は,機能面でも,スコアの具体的な表現の面でも,広く知られたレーダーチャートとは全く異なるものである。

次に,意匠登録第1516019号の意匠は,各項目のスコアを,項目に割り当てた扇形状の領域と相似形の色つきの画像をスコアに応じた大きさで表示することによって表現するものである。
しかしながら,意匠登録第1516019号の意匠は,本願意匠等と同様に,各項目のスコアを,項目に割り当てた扇形状の領域と相似形の色つきの画像をスコアに応じた大きさで表示することによって表現するものであるが,各項目の扇形状の領域内のうち,色つきの扇形状の画像の外側の領域(下図の黄色着色領域)が破線で表されており,その領域がどのような表示となるのか全く不明である。
意匠登録第1516019号の意匠の一項目の中央から外方向への帯状部分の態様を,ベースとなる帯形状の領域の中に,それと相似形の,色つきの帯形状の画像が活動量に応じた大きさで表されるものとして認定することは,意匠登録第1516019号の意匠の態様を,共通点(A)に寄せて認定するものであって,妥当であるとは認められない。

以上のように,本願意匠と本意匠とが有する共通点(A)は,広く知られたレーダーチャートや意匠登録第1516019号の意匠とは全く異なるものであり,公知意匠に見られない斬新な態様である。
共通点(A)は,「美容」から連想されるイメージを具体化した「花」を用いて肌の状態を表現するといった,女性らしい,また,需要者としての女性ユーザの心理に寄り添った機能的な態様といえるものであるから,女性ユーザの注意を非常に強く引くものである。

(2-3)差異点の評価
1)差異点(ア)について
本願意匠と本意匠は,シルエット画像および花びら画像の帯状部分の先端の形状が,本願意匠は逆V字状であるのに対し,本意匠は緩やかな円弧状である点で差異がある。
しかしながら,本願意匠の帯状部分の先端が逆V字状であるといっても,それは緩やかな曲線でもって構成されているから全体的に丸みを帯びているし,本意匠の円弧状と同様に外側に向かって膨らんでいることから,ともに中心から膨出した印象が強く,両形状の違いが目立つというほどのものではない。
本意匠である意願2015-7100号に係るシルエット画像等は,関連意匠である意願2015-7102号に係るシルエット画像等の端を丸めるように切り落としたものといえるが,両者の形態の類似性が認められており,本願意匠の逆V字状と本意匠の円弧状についても,同様の判断がなされるべきである。
また,画像の一部を切り落として形状を変えていながらも,本意匠と関連意匠として意匠登録が認められた例として,下の意匠登録第1436393号に係る意匠と意匠登録第1438744号に係る意匠とがある。

これらの登録意匠は,内視鏡のLESERやBRIGHTNESSのレベルの設定に用いられるボタンを含む画像に係るものであるが,前者の本意匠のアップボタンとダウンボタンの形状は,それぞれ,後者の関連意匠のアップボタンとダウンボタンの一つの角を切り落とした形状に相当するものである。アップボタンとダウンボタンを一つとしてみた場合,本意匠のボタンの形状は,関連意匠のボタンの両端を一部切り落として変形させたものに相当し,円弧状の両端を切り落として逆V字状をなす本願意匠と本意匠との関係にも似ているといえるものである。
このように,画像に係る意匠においても,一部を変形させるようなことは通常行われることであり,それが美感に与える影響も小さいものと思われる。
なお,前回の拒絶理由通知書に対する応答においても引用したが,下の意匠登録第1494646号と意匠登録第1495071号に係る意匠は,画像の一部の形状を,V字状とするか緩やかな曲線の弧状とするかといった違いを有しているものであるが,前者を本意匠,後者を関連意匠として意匠登録が認められているものである。
このように,本願意匠と本意匠の帯状部分の先端は,V字状であるか円弧状であるかといった若干の違いがあるものの,中心から膨出した印象の形状自体は共通するし,通常の変形によって表れる違いと言えるものであるから,女性ユーザの注意を引くものとはならないものと思料する。

2)差異点(イ)について
暗調子部である花びら画像にハイライトが表れるか表れないかといった差異点(イ)は,拒絶査定の謄本における認定の通り,それによる立体感の見え方の差が小さく,類否判断に与える影響が小さいといえるものである。

(3)美感について
本意匠と本願意匠では,権利要求範囲外の図面表現を参酌することによって,確かに花びらの枚数や花卉種(花びら一枚の形状)に差異があるものであるが,花びらとしてこのような差があることはあえて証拠を挙げるまでもなく周知の差異であるので,この差異を殊更大きく評価すべきではない。
むしろ,花びら自体を図表に見立てたいわばペタルチャート自体が従来全くなかった斬新なポイントといえるものであるゆえ,かかるペタルチャートとしての構成要素の共通性を大きく評価すべきであって,具体的には,黄色着色をしていない帯状の領域において筍が成長しているかのごとく,先鋭あるいは湾曲先端(光の反射を図面表現していることで丸みのある花びらそのものを立体表現している)を維持したまま,図表としての指標が高まる様を表していることの共通性を大きく評価すべきものと考える。
かかる前提に立てば,本願意匠と本意匠が有する差異点(ア)は,中心から膨出した印象の形状自体は共通するし,通常見られる形状の違いといえるものである。また,差異点(イ)は,その違いが小さいものである。
これに対して,共通点(A)は,公知意匠にはない斬新な態様であるだけでなく,需要者としての女性ユーザの心理に寄り添った機能的な態様といえるものであり,その注意を非常に強く引くものである。
従って,本願意匠と本意匠とが有する共通点は差異点を凌駕し,本願意匠と本意匠とは,全体として,「美容」のイメージを具体化した「花」によって肌の状態を表現するという共通する美感を需要者に起こさせるものである。

2.むすび
以上のように,本願意匠と本意匠は類似するものであり,本願意匠は,意匠法第10条第1項の規定に該当するものである。


第4 当審の判断

以下,本願意匠が意匠法第10条第1項の規定に該当するものであるか否かを,主に,本願意匠と本意匠(以下「両意匠」という。)を対比し,両意匠の共通点及び相違点の認定,評価を行うことにより,本願意匠が本意匠に類似するか否かについて検討し,判断する。

1.本願意匠の認定
(1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は,肌画像を解析し測定結果の情報を表示する機能を有する「携帯情報端末」である。

(2)本願部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本願部分は,略横長長方形板状の携帯情報端末の正面の横長長方形状画面(以下,「横長画面」という。)に表示される画像であって,その横長画面中央に配置された5つの花びらを持つ花の縦に表された花びら状部に位置し,横長画面の縦幅の約1/5の大きさとし,測定した肌の状態をスコアに応じて暗調子部分の長さが変化して表される部分である。

(3)本願部分の形態
まず,画像が変化する前の本願部分の形態は,正面図1において,全体を,上端を逆V字形状,下端を略V字形状とする縦長の帯状部とし,帯状部の縦の長さの上半分を明調子,下半分を暗調子としたものである。
次に,1つめの画像が変化した状態の本願部分の形態は,正面図2において,全体を,上端を逆V字形状,下端を略V字形状とする縦長の帯状部とし,帯状部の縦の長さの上約3/7を明調子,下約4/7を暗調子としたものである。
そして,2つめの画像が変化した状態の本願部分の形態は,正面図3において,全体を,上端を逆V字形状,下端を略V字形状とする縦長の帯状部とし,帯状部の縦の長さの上約1/7を明調子,下約6/7を暗調子としたものである。
また,3つめの画像が変化した状態の本願部分の形態は,正面図4において,全体を,上端を逆V字形状,下端を略V字形状とする縦長の帯状部とし,帯状部の縦の長さの上約1/28を明調子,下約27/28を暗調子としたものである。

(4)本願意匠が一つの意匠と認められるか否かについて
本願意匠は,複数の「画像を含む意匠」であるため,一意匠として認められるか否かを検討してみると,一つの出願に複数の画像が表されている場合,願書の記載及び願書に添付された図面の内容から,複数の画像が,「物品の同一機能のための画像」であり,かつ,「形態的な関連性があるもの」と認められる場合は,これら複数の画像を含んだ状態で一つの意匠として認められる。(意匠審査基準第7部第4章74.8.1.3)
本願意匠の複数の画像が,形態的な関連性があるものであるか否かについては,本願部分の画像は,「正面図1」ないし「正面図4」で表された画像は,全体を,上端を逆V字形状,下端を略V字形状とする縦長の帯状部とし,帯状部の明調子と暗調子の長さを変化させて,形態的な関連性を持たせたものであると認められる。
次に,本願意匠の複数の画像が,「物品の同一機能のための画像」であるか否かについては,意匠に係る物品の説明によると,「表示部に表示されたチャート形式の画像は,ユーザの肌の状態の測定結果を表す画像である。肌の状態の各項目が割り当てられた区画が当該チャート形式の画像の中心から各方向に向けて形成され,それぞれの区画に,所定の色が付された花びら状の画像が表示される。当該花びら状の画像は,それが表示される区画に割り当てられた項目のスコアを表し,スコアに応じた大きさで表示される」としていることから,「正面図1」ないし「正面図4」のいずれも,測定した肌の状態をスコアに応じて表示されることから,「物品の同一機能のための画像」といえるものである。
よって,本願意匠は,変化の前後の画像が物品の同一機能のための画像であり,かつ,変化の前後の画像とが形態的な関連性がある画像であると認められ,これら複数の画像を含んだ状態で一つの意匠として認められるものである。

2.本意匠の認定
本意匠は,物品の部分について意匠登録を受けようとする平成27年(2015年)3月31日に出願された意匠登録出願であり,平成27年12月25日に意匠権の設定登録がなされ(意匠登録第1542611号),平成28年2月1日に発行された意匠公報に掲載されたとおりのものであって,「破線で表した部分以外の部分(表示部の画面)のうち,薄い黄色を付した部分以外の部分(一枚の花びら状の画像と花びら状のシルエットの一部分)が,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。背面図,左側面図,および底面図は,意匠登録を受けようとする部分以外の部分のみが現れるので省略する。」としたものである(以下,本意匠について意匠登録を受けようとする部分を「本意匠部分」といい,本願部分と合わせて「両意匠部分」という。)。(別紙第2参照)
また,意匠公報の意匠に係る物品の説明を,「本願物品は,ユーザの肌を撮影して得られた肌画像を解析することによって測定された肌の状態に関する情報を表示する機能を有する。肌の状態には,毛穴の状態,シミの状態,キメの状態などの複数の項目が含まれる。表示部に表示されたチャート形式の画像は,ユーザの肌の状態の測定結果を表す画像である。肌の状態の各項目が割り当てられた区画が当該チャート形式の画像の中心から各方向に向けて形成され,それぞれの区画に,所定の色が付された花びら状の画像が表示される。当該花びら状の画像は,それが表示される区画に割り当てられた項目のスコアを表し,スコアに応じた大きさで表示される。」とする意匠法第2条第1項に規定する意匠とし,意匠公報の図面を,「正面図1」ないし「正面図4」とする複数の「画像を含む意匠」としたものである。

(1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は,肌画像を解析し測定結果の情報を表示する機能を有する「携帯情報端末」である。

(2)本意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
本意匠の意匠登録を受けようとする部分は,略縦長長方形板状の携帯情報端末の正面の縦長長方形状画面(以下,「縦長画面」という。)に表示される画像であって,その縦長画面中央に配置された3つの花びらを持つ花の縦に表された花びら状部に位置し,縦長画面の縦幅の約1/5の大きさとし,測定した肌の状態をスコアに応じて暗調子部分の長さが変化して表される部分である。

(3)本意匠部分の形態
まず,画像が変化する前の本意匠の意匠登録を受けようとする部分の形態は,正面図1において,全体を,上端を半円形状,下端を略V字形状とする縦長の帯状部とし,帯状部の縦の長さの上半分を明調子,下半分を暗調子としたものであり,その暗調子の上側と下側に立体感を持たせるためにハイライトをつけたものである。
次に,1つめの画像が変化した状態の本願部分の形態は,正面図2において,全体を,上端を半円形状,下端を略V字形状とする縦長の帯状部とし,帯状部の縦の長さの上約3/8を明調子,下約5/8を暗調子としたものであり,その暗調子の上側と下側に立体感を持たせるためにハイライトをつけたものである。
そして,2つめの画像が変化した状態の本願部分の形態は,正面図3において,全体を,上端を半円形状,下端を略V字形状とする縦長の帯状部とし,帯状部の縦の長さの上約1/8を明調子,下約7/8を暗調子としたものであり,その暗調子の上側と下側に立体感を持たせるためにハイライトをつけたものである。
また,3つめの画像が変化した状態の本願部分の形態は,正面図4において,全体を,上端を半円形状,下端を略V字形状とする縦長の帯状部とし,帯状部を全て暗調子としたものであり,その暗調子の上側と下側に立体感を持たせるためにハイライトをつけたものである。

3.本願意匠と本意匠の対比
(1)両意匠の意匠に係る物品
意匠に係る物品は,本願意匠と本意匠ともに「携帯情報端末」であるから一致する。

(2)両意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲
両意匠部分の用途及び機能は,いずれも花の縦に表された花びら状部に測定した肌の状態をスコアに応じて暗調子部分の長さが変化して表されるものであるから,共通する。
両意匠部分の位置,大きさ及び範囲は,横長画面に表示される画像であるか縦長画面に表示される画面であるかの相違はあるが,画面中央に配置された花の縦に表された花びら状部に位置し,画面の縦幅の約1/5の大きさとしている点は共通する。

(3)両意匠部分の形態
両意匠部分の形態については,主として,以下の通りの共通点及び差異点がある。
(3-1)共通点
両意匠部分は,基本的構成態様として,
(ア)全体を,縦長の帯状部としている点,
(イ)画像が変化する前の態様において,帯状部の縦の長さの上半分を明調子,下半分を暗調子としている点,
(ウ)画像が変化した後の態様において,帯状部の上側の明調子の部分を短くし,下側の暗調子の部分を長くしている点,
(エ)画像の変化の前後の態様を,帯状部における明調子及び暗調子の長さを変えて形態的関連性を持たせている点,
において共通する。
また,具体的構成態様として,
(オ)縦長の帯状部の下端を略V字形状としている点,
において共通する。

(3-2)相違点
両意匠部分は,具体的構成態様として,
(A)本願部分は,縦長の帯状部の上端及び縦長の帯状部の内方の暗調子の端を略V字形状としているのに対し,本意匠部分は,縦長の帯状部の上端及び縦長の帯状部の内方の暗調子の端を半円形状としている点,
(B)本願部分の縦長の帯状部の内方の暗調子には,ハイライトをつけていないのに対し,本意匠部分の縦長の帯状部の内方の暗調子には,ハイライトをつけている点,
において差異がある。

4.共通点及び差異点の評価
以下,共通点及び相違点の評価を行う。
(1)意匠に係る物品についての評価
両意匠は,意匠に係る物品が一致するものであるが,画像データ等の再生機能を有する携帯情報端末はありふれていることから,意匠に係る物品が共通する点だけでは,両意匠部分の類否判断を決定づけるとまではいえない。

(2)両意匠部分の用途及び機能,並びに位置,大きさ及び範囲の評価
両意匠部分は,測定した肌の状態を,その画面中央に配置された花の縦に表された花びら状部縦中央の帯状部に,スコアに応じて暗調子部分の長さを変化させて表示するといった同一の用途及び機能を有しており,帯状部が画面中央やや上に位置し,画面の縦幅の約1/5の大きさであるとする共通点と相俟って,見る者に与える印象を共通にするものであり,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものである。
なお,両意匠部分は,横長画面に表示される画像であるか,縦長画面に表示される画面であるかの相違はあるが,いずれもありふれたものであって,両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

(3)両意匠部分の形態の共通点の評価
両意匠部分は,基本的構成態様において,全体を,縦長の帯状部とし,帯状部の中を明調子と暗調子として,帯状部における明調子と暗調子の長さ変化によって形態的な関連性を持たせた,共通点(ア)ないし(エ)は,需要者が,帯状部の暗調子の長さによって,測定した肌の状態に関する情報を得ることができるため,最も注目する部分であり,両意匠の類否に大きな影響を与えるものといえる。
また,具体的構成態様において,縦長の帯状部の下端を略V字形状とする共通点(オ)は,花を構成するために,花びら部の根本を略V字形状とすることは,ありふれた態様といえるものではあるが,肌の状態のスコアの基点となっている部分であるため,需要者が注目する部分であり,両意匠の類否判断に与える影響は小さいが,見る者に共通の印象を与えるものといえる。

(4)両意匠部分の形態の差異点の評価
これに対して,両意匠部分の帯状部の上端の形状の差異点(A)は,帯状部の上端を略逆V字形状とすることで,花びら部を先の尖ったものとし,帯状部の上端を半円形状とすることによって,丸い花びら部とするかの違いが表れることになるものの,いずれの花びらも極めてありふれた花びらであることから,両意匠の類否判断に与える影響は小さいといえる。

(5)小括
そうすると,両意匠は,意匠に係る物品及び用途及び機能については共通し,位置,大きさ及び範囲と形態において,その共通点が相違点を凌駕し,意匠全体として需要者に共通する美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似するものと認められる。
したがって,本願意匠は,本意匠に類似するものと認められる。


第5.むすび

以上のとおり,本願意匠は,本意匠に類似するものとは認めら,意匠法第10条第1項の規定に該当し,原査定の拒絶の理由によっては,本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2016-12-02 
出願番号 意願2015-7098(D2015-7098) 
審決分類 D 1 8・ 3- WY (H7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中田 博康 
特許庁審判長 温品 博康
特許庁審判官 山田 繁和
正田 毅
登録日 2017-01-13 
登録番号 意匠登録第1569441号(D1569441) 
代理人 荒谷 聡 
代理人 西川 孝 
代理人 三浦 勇介 
代理人 稲本 義雄 

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