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審決分類 |
審判 判定 同一・類似 属さない(申立不成立) L6 |
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管理番号 | 1363214 |
判定請求番号 | 判定2019-600023 |
総通号数 | 247 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2020-07-31 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2019-09-05 |
確定日 | 2020-06-08 |
意匠に係る物品 | 壁板材 |
事件の表示 | 上記請求人の登録第1437713号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | 「イ号意匠を示す概要図に示す意匠」は、登録第1437713号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨及び理由の要点 1 請求の趣旨 本件判定請求人(以下「請求人」という。)は、 「イ号意匠を示す概要図に係る意匠は、登録第1437713号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求める。」 と申し立て、その理由として、要旨以下のとおりの主張をした。 なお、判定請求書に添付された「イ号意匠を示す概要図」は、「正面図」「平面図」「底面図」「左側面図」及び「右側面図」並びに各部名称を付した「正面図」「平面図」及び「底面図」から成り、「イ号意匠」を表している図面と認められる。 2 判定請求の必要性 本件判定請求人(株式会社タニタハウジングウェア。以下「請求人」という。)は本件判定請求に係る登録第1437713号意匠「壁板材」(甲第1号証、以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。 本件判定請求人が判定請求の対象とするイ号意匠(甲第3号証)に係る壁板材(イ号物件)は、建築現場及び需要者の声を集約して本件登録意匠に係る壁板材に改良を重ねたものである。このイ号物件について、今後製造・販売を計画中であるとともに第三者への実施許諾も視野に入れているため、本件判定請求人は、「イ号意匠は、本件登録意匠およびこれに類似する意匠の範囲に属する」旨の、特許庁による判定を求める。 3 本件登録意匠の説明 本件登録意匠は、意匠に係る物品を「壁板材」として、その形態の要旨を、次の通りとする(甲第1号証及び甲第2号証参照)。 すなわち、 (1)基本的な構成態様は、全体を、断面形状が一様な薄板材としたものであって、折板部に傾斜面を繋いだ断面が略逆V字状の凸部を5列平行に形成し、折板部の左側には外側に向けて延長した左側係合部を形成し、その右側には内側に向けて折り返す上側折り返しと更に外側に向けて折り返す下側折り返しの2つの折り返しにより全体が略S字状の右側係合部を形成した態様のものである。 (2)具体的な構成態様は、凸部の横幅と高さの比率を略30:10とし、折板部の左端の傾斜面の下端から下方に延びる高さの低い垂直面を設け、左側係合部は垂直面の下端から外側に向けて凸部の幅の略12/30程度まで緩く上向きに傾斜させながら延長し、先端付近の位置で緩く下向きに傾斜するように折り曲げ、右側係合部は上側折り返しが内側に向けて凸部の幅の略2/5程度まで緩く上向きに傾斜させながら延長し、下側折り返しは外側に向けて上側折り返しよりも長く凸部の幅の略1.3倍程度まで略水平に延長し、その先端を小さく上向きに折り返すととともに、下側折り返しの中央やや右側の位置に溝部を形成した態様のものである。 4 イ号意匠の説明 イ号意匠は、意匠に係る物品を「壁板材」として、その形態の要旨を、次の通りとする(甲第3号証参照)。 (1)基本的な構成態様は、全体を、断面形状が一様な薄板材としたものであって、折板部に傾斜面を繋いだ断面が略逆V字状の凸部を5列平行に形成し、折板部の左側には外側に向けて延長した左側係合部を形成し、その右側には内側に向けて折り返す上側折り返しと更に外側に向けて折り返す下側折り返しの2つの折り返しにより全体が略S字状の右側係合部を形成した態様のものである。 (2)具体的な構成態様は、凸部の横幅と高さの比率を略34:16とし、左側係合部は折板部の左端の傾斜面の下端から外側に向けて凸部の幅の略12/34程度まで略水平に延長し、左側係合部の中央やや右寄りの位置で非常に緩く下向きに傾斜するように折り曲げ、その先端を小さく下向きに折り返し、右側係合部は上側折り返しが内側に向けて凸部の幅の略1/3程度まで略水平に延長し、下側折り返しは外側に向けて上側折り返しよりも長く凸部の幅と略同程度まで略水平に延長し、その先端を小さく上向きに折り返すとともに、下側折り返しの中央やや右側の位置に溝部を形成した態様のものである。 5 本件登録意匠とイ号意匠との比較説明 (1)本件登録意匠とイ号意匠の共通点 ア 本件登録意匠とイ号意匠(以下、「両意匠」という。)は、意匠に係る物品が「壁板材」で一致している。 イ 基本的な構成態様において、全体を、断面形状が一様な薄板材としたものであって、折板部に傾斜面を繋いだ断面が略逆V字状の凸部を5列平行に形成し、折板部の左側には外側に向けて延長した左側係合部を形成し、その右側には内側に向けて折り返す上側折り返しと更に外側に向けて折り返す下側折り返しの2つの折り返しにより全体が略S字状の右側係合部を形成した態様のものである。 ウ 具体的な態様において、左側係合部は外側に向けて延長し下向きに傾斜するように折り曲げ、右側係合部は上側折り返しが内側に向けて延長し、下側折り返しは外側に向けて上側折り返しよりも長く略水平に延長し、その先端を小さく上向きに折り返すとともに、下側折り返しの中央やや右側の位置に溝部を形成している。 (2)両意匠の差異点 ア 凸部について、本件登録意匠は、横幅と高さの比率を略30:10としているのに対し、イ号意匠は、その比率を略34:16としている。 イ 高さの低い垂直面について、本件登録意匠は、折板部の左端の傾斜面の下端から下方に延びるように設けているのに対し、イ号意匠は、そのような垂直面を設けていない。 ウ 左側係合部について、本件登録意匠は、外側に向けて凸部の幅の略12/30程度まで緩く上向きに傾斜させながら延長しているのに対し、イ号意匠は、外側に向けて凸部の輻の略12/34程度まで略水平に延長している。 エ 左側係合部について、本件登録意匠は、先端付近の位置で緩く下向きに折り曲げているのに対し、イ号意匠は、中央やや右寄りの位置で非常に緩く下向きに傾斜するように折り曲げ、その先端を小さく下向きに折り返している。 オ 右側係合部について、本件登録意匠は、上側折り返しが内側に向けて凸部の幅の略2/5程度まで緩く上向きに傾斜させながら延長しているのに対し、イ号意匠は、上側折り返しが内側に向けて凸部の幅の略1/3程度まで略水平に延長している。 カ 右側係合部について、本件登録意匠は、下側折り返しが外側に向けて凸部の幅の略1.3倍程度まで延長しているのに対し、イ号意匠は、下側折り返しが外側に向けて凸部の幅と略同程度まで延長している。 6 イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明 (1)本件登録意匠の要部 本件登録意匠の創作の要点について述べると、この種物品における意匠上の創作の主たる対象は、折板部の構成態様(5列平行に形成された断面が略逆V字状の凸部)にあるのは明らかであり、本件登録意匠の出願前の公知意匠には見られない構成態様であって、折板部は本件登録意匠全体の大きな範囲(全体に対し占める割合は平面視において約8割)を占める部分である。また、本件登録意匠の壁板材としての設置時に、平面視中央の折板部の部分のみが外観に現れ視認できる部分であるため、外観上需要者の注意を強く惹く部分である。そのため、折板部の構成態様は本件登録意匠の特徴をよく表し、形態全体の基調を形成しており、類否判断に大きな影響を及ぼす要部であると評価できる。 (2)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察 そこで、本件登録意匠とイ号意匠の共通点及び差異点を比較検討するに、 ア 両意匠の共通点は、上記5 (1)イ の通り、基本的な構成態様が全く一致しており、その共通点は、両意匠の形態全体にかかわりその骨格を構成するところであって、とりわけ、本件登録意匠の要部である折板部の構成態様(5列平行に形成された断面が略逆V字状の凸部)が共通しているため、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。また、具体的な態様においても、上記5 (1)ウ の通り一致しているものであるため、両意匠の美観の共通性を強く感じさせるものである。 イ 次に、両意匠の差異点の5 (2)ア については、イ号意匠は本件登録意匠よりも凸部の横幅に対する高さの比を僅かに大きくした程度のもので、構成比の割合についての軽微な差に止まり、特段顕著な相違とは言えず、両意匠の全体的な観察の際にその差異が類否判断に及ぼす影響は微弱である。 ウ 差異点の5 (2)イ については、本件登録意匠の垂直面の高さが非常に低いことから、意匠全体に対する割合は極めて僅かであり、さほど目立つものでもないため、特段顕著な相違とはいえず、両意匠の類否の判断に及ぼす影響は微弱である。 エ 差異点の5 (2)ウ については、本件登録意匠の左側係合部の上向きの傾斜は緩いものであるため、傾斜の有無は形態についての軽微な差に止まる。また、イ号意匠は本件登録意匠よりも、凸部の幅に対する左側係合部の幅の比を僅かに小さくした程度のもので、このような差異は構成比の割合についての軽微な差に止まる。そのため、これらの差異は特段顕著なものとはいえず、両意匠の類否の判断に及ぼす影響は微弱である。 オ 差異点の5 (2)エ については、本件登録意匠とイ号意匠は左側係合部の折り曲げの位置が相違するものの、双方の折り曲げによる傾斜は緩いものであり折り曲げ位置はさほど目立つものではないことから、折り曲げ位置の差異は形態についての軽微な差に止まる。また、イ号意匠における左側係合部の先端の小さな下向きの折り返しは、意匠全体に対するその折り返しの割合が極めて僅かであるため、さほど目立つものではないことから、小さな下向きの折り返しの有無は形態についての軽微な差に止まる。加えて、本件登録意匠の出願当時、壁板材の分野において、壁板材の端部の小さな下向きの折り返しについては至極一般的な形態であり、具体的には意匠登録第1313436号(甲第4号証)及び意匠登録第1240963号(甲第5号証)に係る意匠等が存在していることが認められるため、左側係合部の先端の下向きの折り返しは、形態上の特徴を表す要素とは認められない。よって、これらの差異は特段顕著なものとはいえず、両意匠の類否の判断に及ぼす影響は微弱である。 カ 差異点の5 (2)オ については、本件登録意匠における右側係合部の上側折り返しの傾斜は緩いものであるため、傾斜の有無は形態についての軽微な差に止まる。また、イ号意匠は本件登録意匠よりも、凸部に対する上側折り返しの幅の比を僅かに小さくした程度のもので、このような差異は構成比の割合についての軽微な差に止まる。そのため、これらの差異は特段顕著なものとはいえず、両意匠の類否の判断に及ぼす影響は微弱である。 キ 差異点の5 (2)カ については、イ号意匠は本件登録意匠よりも、凸部に対する下側折り返しの幅の比を僅かに小さくした程度のもので、構成比の割合についての軽微な差に止まり、特段顕著な相違とはいえず、両意匠の類否の判断に及ぼす影響は微弱である。 ク 上記認定、判断を前提として両意匠を全体的に考察すると、両意匠の差異点は、類否の判断に及ぼす影響はいずれも微弱なものであって、上記基本的な構成態様及び具体的な態様に係る共通点を凌駕しているものとはいえず、それらが纏まっても両意匠の類否判断に及ぼす影響は、その結論を左右するまでには至らないものである。 7 むすび 従って、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するので、請求の趣旨通りの判定を求める。 8 証拠方法 甲第1号証 意匠登録第1437713号公報 甲第2号証 本件登録意匠の構成説明図 甲第3号証 イ号意匠を示す概要図 甲第4号証 意匠登録第1313436号公報 甲第5号証 意匠登録第1240963号公報 第2 当審の判断 1 本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1437713号)(甲第1号証)は、平成23年(2011年)7月20日に意匠登録出願され、平成24年(2012年)3月9日に意匠権の設定の登録がなされ、平成24年(2012年)4月9日発行の意匠公報に掲載されたものであって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「壁板材」とし、形態を、願書及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。 そして、願書の「意匠に係る物品の説明」及び「意匠の説明」の記載は次のとおりである。「この意匠に係る物品は、建築用壁板として使用するものである。使用方法は、本物品を所定の寸法に切断後、予め天井又は壁の建物躯体に配した下地に、ビス等の止め具を介して本物品を並列状に取り付け、建物用の板面貼りとする。本物品は単独で取引の対象となりうる。」「背面図は正面図と対称に表れる。この意匠は平面図において上下に連続するものである。」 本件登録意匠の形態には、基本的構成態様として、以下の点が認められる。 (1)基本的構成態様について 全体は、薄板体を折曲げて成り、正面視で左右方向の両端に雌雄の係合部を設けて、係合部間を上下に折曲し、ほぼ同形の5列の山型凸部を左右に連ね、平面図において上下に連続する長尺のものである。 また、具体的態様として、以下の点が認められる。 (2)具体的態様について ア 正面視で縦幅:横幅の比率は、約1:17である。 イ 山型凸部について 正面視5列の山型凸部は、壁板材の装飾部分であって、正面視左右方向全長(以下「全長」という。)の約5分の4の長さに亘り、一つの山型凸部はほぼ左右対称であって、左辺及び右辺は平坦な傾斜板から成り、山の頂部の内角は約115度前後で、山型凸部縦幅:横幅の比率は、約1:3である。 ウ 雄係合部(左側係合部)について 全長の約31分の2の長さを占めて、正面視で最も左の山型凸部の左下端からごく僅かな垂直状段差を経てから水平方向より斜め上方向に約6度の傾きで屈曲し、先端をごく僅かに下方へ曲げている。 エ 雌係合部(右側係合部)について 全長の約5分の1を占めて、正面視で最も右の山型凸部の右下端から左側に僅かに斜め上向きに折り返して屈曲し、さらに右側にヘアピン状に折り返して、そのまま略水平状に山型凸部の右下端から長く延出し、先端部は雌係合部の約7分の1の長さに略二つ折り状に折り返して、右端から約3分の1の位置に略扁平V字状の細幅の溝部を設けたものである。 2 イ号意匠 請求人は、イ号意匠の形態を特定するにあたり、判定請求書に「イ号意匠の概要図」(甲第3号証)(当審注:内容的には「イ号意匠を表す図面」及び「イ号意匠の各部名称を示す参考図」に該当すると認められる。)を添付した。 判定請求書に添付された上記「イ号意匠の概要図」はイ号意匠を表したと認められる「正面図」「平面図」「底面図」「左側面図」及び「右側面図」並びに図中に各部名称を付した「正面図」「平面図」及び「底面図」から成り、当審においては、イ号意匠を表したと認められる「正面図」「平面図」「底面図」「左側面図」及び「右側面図」によりイ号意匠の形態を認定する(「背面図」は、添付されていないが正面図と対称に表れるものと認められる。)(別紙第2参照)。 判定請求書によれば、イ号意匠の意匠に係る物品は「壁板材」であり、「平面図において上下に連続する」との記載はないが「本件判定請求人が判定請求の対象とするイ号意匠(甲第3号証)に係る壁板材(イ号物件)は、・・・本件登録意匠に係る壁板材に改良を重ねたものである。」との記載からも、「壁板材」として本件登録意匠と同様、相応に長尺であるものと認められる。 判定請求書に添付された「イ号意匠の概要図」によれば、イ号意匠の形態には、基本的構成態様として、以下の点が認められる。 (1)基本的構成態様について 全体は、薄板体を折曲げて成り、正面視で左右方向の両端に雌雄の係合部を設けて、係合部間を上下に折曲し、ほぼ同形の5列の山型凸部を左右に連ね、相応に長尺であるものと認められる。 また、具体的態様として、以下の点が認められる。 (2)具体的態様について ア 正面視で縦幅:横幅の比率は、約1:10である。 イ 山型凸部について 正面視、5列の山型凸部は壁板材の装飾部分であって、全長の約20分の17の長さに亘り、一つの山型凸部はほぼ左右対称であって、左辺及び右辺は平坦な傾斜板から成り、山の頂部の内角は約90度前後で、縦幅:横幅の比率は、約1:2である。 ウ 雄係合部(左側係合部)について 全長の約17分の1の長さを占めて、最も左の山型凸部の左下端から水平方向より斜め下方向に約2度の傾きで屈曲し、先端は丸みを持った略倒しずく状に下側に折り曲げている。 エ 雌係合部(右側係合部)について 全長の約6分の1を占めて、最も右の山型凸部の右下端から左側に水平方向に折り返して屈曲し、さらに右側に倒U字状に折り返して、略水平状に山型凸部の右下端から長く延出し、先端部は雌係合部の約6分の1の長さに丸みを持った略倒しずく状に上側に折り曲げ、右端から略11分の4の位置にごく細幅の溝部を設けたものである。溝部はごく細幅のものであって、具体的形態は不明である。 3 本件登録意匠とイ号意匠の対比 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠は「壁板材」であり、イ号意匠も「壁板材」であるので、本件登録意匠とイ号意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は同一である。 (2)形態の共通点 両意匠の形態には、以下の基本的構成態様の共通点が認められる。 (A)基本的構成態様の共通点 全体は、薄板体を折曲げて成り、正面視で左右方向の両端に雌雄の係合部を設けて、係合部間を上下に折曲し、ほぼ同形の5列の山型凸部を左右に連ね、相応に長尺であるものと認められる点、 (B)具体的構成態様の共通点 正面から見て、壁板材の装飾部分である山型凸部が大きな割合を占め、山型凸部は、ほぼ左右対称であって、左辺及び右辺は平坦な傾斜板から成り、係合部は、短めの雄係合部(左側係合部)と長めで山型凸部の右下端から左側に折り返して屈曲し、さらに右側に折り返して延出する雌係合部があり、延出部に細幅の溝部のある雌係合部(右側係合部)がある点。 (3)形態の差異点 一方、両意匠の形態には、以下の具体的構成態様の差異点が認められる。 (a)全体の比率についての差異点 本件登録意匠の縦幅と横幅の比率は、約1:17であるのに対し、イ号意匠は、約1:10である点、 (b)山型凸部についての差異点 (b-1)本件登録意匠の5列の山型凸部は、全長の約5分の4の長さに亘るものであるのに対し、イ号意匠は、全長の約20分の17の長さに亘るものである点、 (b-2)本件登録意匠の一つの山型凸部の頂部の内角は約115度前後で、縦幅:横幅の比率は、約1:3であるのに対し、イ号意匠の一つの山型凸部の頂部の内角は約90度前後で、縦幅:横幅の比率は、約1:2である点、 (c)雄係合部(左側係合部)についての差異点 (c-1)本件登録意匠の雄係合部は、正面視で全長の約31分の2の長さを占めているのに対し、イ号意匠は、全長の約17分の1の長さを占めている点、 (c-2)本件登録意匠の雄係合部は、最も左の山型凸部の左下端からごく僅かな垂直状段差を経てから水平方向より斜め上方向に約6度の傾きで屈曲し、先端をごく僅かに下方へ曲げているのに対し、イ号意匠は、最も左の山型凸部の左下端から水平方向より斜め下方向に約2度の傾きで屈曲し、先端部は丸みを持った略倒しずく状に下側に折り曲げている点、 (d)雌係合部(右側係合部)についての差異点 (d-1)本件登録意匠の雌係合部は、正面視で全長の約5分の1を占めているのに対し、イ号意匠は、全長の約6分の1を占めている点、 (d-2)本件登録意匠の雌係合部は、最も右の山型凸部の右下端から左側に僅かに斜め上向きに折り返して屈曲し、さらに右側にヘアピン状に折り返して、そのまま略水平状に山型凸部の右下端から長く延出し、右側先端部は雌係合部の約7分の1の長さに略二つ折り状に折り返して、右端から約3分の1の位置に略扁平V字状の細幅の溝部を設けたものである。これに対して、イ号意匠は、最も右の山型凸部の右下端から左側に水平方向に折り返して屈曲し、さらに右側に倒U字状に折り返して、略水平状に山型凸部の右下端から長く延出し、右先端は雌係合部の約6分の1の長さに丸みを持った略倒しずく状に上側に折り曲げ、右側略11分の4の位置にごく細幅の溝部を設けたものであって、溝部はごく細幅のものであって、具体的形態は不明である点。 4 本件登録意匠とイ号意匠の類否判断 (1)「壁板材」の物品分野の意匠の類否判断 建築用壁板材として用いられる「壁板材」の物品分野において、通常の使用状態で目に見える部分(両意匠においては壁板材の装飾部分である山型凸部)は、主に観察され、装飾効果上、注目される部分となり得るが、「壁板材」の需要者には、施工業者なども含まれると解されるところ、実際の施工業者においては、壁板材の施工にあたり、その施工時の作業のしやすさ、効率などから係合部などの態様にも十分注意をはらうとものと認められる。 したがって、「壁板材」の物品分野の意匠の類否判断においては、上記の項目を評価し、かつそれ以外の項目も併せて、各項目を総合して意匠全体として形態を評価する。 (2)形態の共通点の評価 本件登録意匠とイ号意匠の基本的構成態様の共通点(A)、すなわち、「全体は、薄板体を折曲げて成り、正面視で左右方向の両端に雌雄の係合部を設けて、係合部間を上下に折曲し、ほぼ同形の5列の山型凸部を左右に連ね、相応に長尺であるものと認められる」態様については、両端に雌雄の係合部を設け、係合部間を上下に折曲し、相応に長尺である態様については、壁板材が一般的に備えている態様であり、「壁板材」を含む「建築用パネル」の物品分野において、装飾部が山型凸部で構成されたもの(参考意匠1:意匠登録第433600号「建築用板材」(別紙第3参照)、参考意匠2:大韓民国意匠公報掲載、登録番号30-0523276「建築用パネル」(別紙第4参照))もごく一般的な態様であって、ほぼ同形のものを5列設けた態様は普通に見受けられる(参考意匠3:大韓民国意匠公報掲載、登録番号30-0434623「建築用パネル」(別紙第5参照)、参考意匠4:大韓民国意匠公報掲載、登録番号30-0458844「装飾用締め切りフレーム」(別紙第6参照))ものであるから、この点について、特段両意匠のみに共通する特徴とまではいうことができない。次に、共通点(B)についても、「壁板材」の装飾部である山型凸部が大部分を占める態様、山型凸部が、平坦な傾斜板から成るほぼ左右対称としたもの(参考意匠1ないし3)、短めの雄係合部と長めで装飾部の端から装飾部側に折り返して屈曲し、さらにその反対側(装飾部の外側)に折り返して延出した延出部に溝部のある雌係合部である点も「壁板材」を含む「建築用パネル」の物品分野において、よく見られる態様であるというべき(参考意匠5:意匠登録第1176137号「壁板材」(別紙第7参照)、参考意匠6:意匠登録第1377880号「壁板材」(別紙第8参照))であるから、共通点(A)及び(B)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。 (3)形態の差異点の評価 これに対し、両意匠の全体の比率についての差異点(a)、すなわち、本件登録意匠の縦幅と横幅の比率は、約1:17であるのに対し、イ号意匠は、約1:10である点は、一見して把握できる両意匠の差異であるが、「壁板材」を含む「建築用パネル」などの物品分野において、両意匠ともに、特徴的な縦幅と横幅の比率差ということはできず、差異点(a)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度のものである。 次に、差異点(b-1)は全体に占める装飾部分である5列の山型凸部の割合であるが、本件登録意匠が約5分の4の長さに亘るもの(約8割)であるのに対し、イ号意匠は、約20分の17の長さに亘るもの(約8.5割)であって占める割合が顕著に相違するとまではいえず、差異点(b-1)が類否判断に及ぼす影響は小さい。 また、差異点(b-2)は、一つの山型凸部について、本件登録意匠は、内角は約115度前後で、縦幅:横幅の比率は、約1:3であるのに対し、イ号意匠は、内角は約90度前後で、縦幅:横幅の比率は、約1:2である点であって、一つの山型凸部の具体的形態の差異であり、本件登録意匠は扁平な山型凸部であるのに対し、イ号意匠は高さのある山型凸部であるともいえ、その連なりが醸し出す印象は、視覚的に印象深いともいい得るとはいえ、イ号意匠のような高めの山型凸部のものは、「壁板材」を含む「建築用パネル」などの物品分野において、ごく一般的態様であるといえ、本件登録意匠のような扁平な山型凸部のものも珍しいものではないから(参考意匠2、参考意匠7:意匠登録第1240963号「建築用板材」(別紙第9参照))、差異点(b-2)の両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度のものである。 そして、差異点(c-1)の本件登録意匠の雄係合部は、正面視で全長の約31分の2の長さを占めているのに対し、イ号意匠は、全長の約17分の1の長さを占めている点は、(割合ならば、約0.65割に対し約0.59割)は、占める割合が顕著に相違するとまではいえず、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものの、差異点(c-2)については、本件登録意匠の雄係合部が、最も左の山型凸部の左下端からごく僅かな垂直状段差を経てから水平方向より斜め上方向に約6度の傾きで屈曲し、先端をごく僅かに下方へ曲げているものは、「壁板材」を含む「建築用パネル」などの物品分野において、本件登録意匠出願前に、他に見られない特徴的な形態であり、対するイ号意匠は、垂直状段差の有無、山型凸部の左下端からの傾きの向き及び先端部の形態などにおいて異なるものであって、需要者は、係合部などの態様にも十分注意をはらうとものと認められるから、細部ではあるものの、両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいといわざるを得ない。 さらに、差異点(d-1)の本件登録意匠の雌係合部は、正面視で全長の約5分の1を占めているのに対し、イ号意匠は、全長の約6分の1を占めている点は、「壁板材」を含む「建築用パネル」などの物品分野において、占める割合が顕著に相違するとまではいえず、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さく、差異点(d-2)についても、右端部の折り曲げ態様が二つ折り状であるか略倒しずく状であるかは、どちらの態様も、「壁板材」を含む「建築用パネル」などの物品分野において、よく見受けられる端部の折り曲げ処理態様であって、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であるが、雌係合部に対する溝部の割合の差異は視覚的に一目でわかる差異でもあり、また、山型凸部の右下端から左側に水平方向に折り返して屈曲し、さらに右側に折り返す部分のヘアピン状か倒U字状かの具体的形態の差異は係合する雄係合部の形態に関わる差異でもあるから、差異点(d-2)は両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度あるものである。 両意匠を意匠全体で比較した場合、共通点は、共通点(A)及び共通点(B)のいずれも両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さく、両意匠の類否判断を決定付けるものでないのに対し、差異点(b-1)、差異点(c-1)及び差異点(d-1)の両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいとしても、差異点(a)、差異点(b-2)及び差異点(d-2)の両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度あるものであって、(c-2)の両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいものであるから、これらの差異点(a)ないし差異点(d-2)があいまって、上記共通点の影響を凌ぎ、需要者に別異の美感を起こさせるものである。 なお、両意匠の折板部の構成態様について、請求人は、「本件登録意匠の創作の要点について述べると、この種物品における意匠上の創作の主たる対象は、折板部の構成態様(5列平行に形成された断面が略逆V字状の凸部)にあるのは明らかであり、」「・・・とりわけ、本件登録意匠の要部である折板部の構成態様(5列平行に形成された断面が略逆V字状の凸部)が共通しているため、両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。」と判定請求書で主張している。 しかし、前述のとおり、「壁板材」を含む「建築用パネル」などの物品分野において、種々の略逆V字状の凸部(山型凸部)を用いた構成態様がごく普通に見られ、ほぼ同形のものを5列設けた態様も普通に見受けられるものであるから、略逆V字状の凸部(山型凸部)を5列設けた態様について、特段、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼす特徴とまではいうことができず、請求人の主張を採用することはできない。 (4)小括 したがって、これらの共通点と差異点を総合して判断すれば、本件登録意匠とイ号意匠とは、意匠に係る物品は同一であるが、形態については、共通点が類否判断に及ぼす影響が小さく、両意匠の類否判断を決定付けるものでないのに対して、相違点があいまって生じる視覚的効果は、共通点のそれを凌駕して、類否判断に大きな影響を及ぼしており、意匠全体として需要者に与える美感が異なるものであって、本件登録意匠とイ号意匠とは類似しないものと認められる。 第3 むすび 以上のとおりであって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2020-05-28 |
出願番号 | 意願2011-18042(D2011-18042) |
審決分類 |
D
1
2・
1-
ZB
(L6)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐々木 朝康 |
特許庁審判長 |
小林 裕和 |
特許庁審判官 |
北代 真一 渡邉 久美 |
登録日 | 2012-03-09 |
登録番号 | 意匠登録第1437713号(D1437713) |
代理人 | 米屋 武志 |
代理人 | 米屋 崇 |