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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 J1
管理番号 1367020 
審判番号 不服2020-361
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-10 
確定日 2020-09-28 
意匠に係る物品 デジタルパソロジー機器 
事件の表示 意願2018- 14375「デジタルパソロジー機器」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 手続の経緯
本願は、パリ条約による優先権(最初の出願:アメリカ合衆国、2017年12月29日)を主張する、平成30年6月29日の意匠登録出願であり、主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和 1年 5月27日付け 拒絶理由の通知
令和 1年 8月30日 意見書の提出
令和 1年10月 3日付け 拒絶査定
令和 2年 1月10日 拒絶査定不服審判の請求

第2 本願意匠
本願は、物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願であり、本願意匠の意匠に係る物品は、本願の願書の記載によれば「デジタルパソロジー機器」であり、本願意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」ともいう。)は願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりである(別紙第1参照)。

第3 原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由は、本願意匠が、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ともいう。)が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたと認められるので、意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって、具体的には、以下のとおりである。
「この意匠登録出願の意匠に係る物品である「デジタルパソロジー機器」の分野に限らず、画像を表示する機能を有する物品において、複数の扇形の表示枠を全体として円形になるように複数並べたものは、例えば画像1など、本願出願前よりごく一般的に知られています。
また、円形に並べられた複数の扇形の表示枠の一部に広く隙間を設けたものも、画像2のように、本願出願前より公然知られており、さらに、隣り合う複数の扇形の表示枠の隙間を平行とすることも、例えば画像1及び画像2のように、本願出願前よりごく一般的に知られていることから、当業者であれば平行に広く隙間を設けることに格段の創意を要するとは認められません。
そうすると、本願意匠は、本願出願前よりありふれた態様である、複数の扇形の表示枠を円形になるように複数並べたものに、本願出願前より公然知られた手法で一部に平行に広く隙間を設け、当該画像を意匠登録を受けようとする部分としたに過ぎず、当業者であれば容易に創作をすることができたものです。
(中略)
画像1
電気通信回線の種類 インターネット
掲載確認日(公知日) 2016年12月15日
受入日 特許庁意匠課受入2016年12月26日
掲載者 Golf Web Academy
表題 Golf Boost by Jim Mc
Leanを App Store で
掲載ページのアドレス https://itunes.apple.com/jp/app/golf-
boost-by-jim-mclean/id839535487?mt=8
に掲載された「スマートフォン用ソフトウェアの動画機能」の画像
(特許庁意匠課公知資料番号第HJ28138887号)
画像2
米国特許商標公報 2017年 1月24日
ディスプレイスクリーン用画像(登録番号US D777173S)
(特許庁意匠課公知資料番号第HH29301076号)」

第4 当審の判断
以下において、本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性、すなわち、本願意匠が当業者であれば容易に創作することができたか否かについて検討し、判断する。

1 本願意匠の認定
当審では、本願意匠について、以下のとおり認定する(別紙第1参照)。
(1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品(以下「本願物品」という。)は「デジタルパソロジー機器」であり、願書の「意匠に係る物品の説明」には、以下のとおり記載されている。
「本物品は、病理標本(ガラススライド)を、モニタで表示、管理、共有及び分析することができるデジタルスライドに変換するデジタルパソロジー機器である。画像図に表された画像は、デジタルパソロジー機器に係る機能を発揮できる状態にするための操作の用に供される画像である。画像図に表された画像は、本物品、又は本物品と同時に使用される物品に表示される。画像図に表された画像は、デジタルパソロジー機器におけるスライド回転棚に戴置されるガラススライドの状態を示している。」
また、願書の「意匠の説明」には、以下のとおり記載されている。
「実線で表した部分が、すなわち、画像図に表された部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。意匠に係る物品全体の形態を表す一組の図面は、意匠登録を受けようとする部分が表れないため省略する。」
これらの願書の記載によれば、本願物品は、病理標本(ガラススライド)を、モニタで表示、管理、共有及び分析するための「デジタルパソロジー機器」であって、その機能を発揮できる状態にするための操作の用に供される画像が「画像図」として表されている。
(2)「画像図」に表された画像
上記(1)のとおり「意匠に係る物品全体の形態を表す一組の図面は、意匠登録を受けようとする部分が表れないため省略する。」と説明されていること、及び「画像図」に表された画像(以下「本願画像」という。)が「デジタルパソロジー機器」に係る機能を発揮できる状態にするための操作の用に供されることから、本願画像は意匠法第2条第2項で定められた、本願物品と「一体として用いられる物品」に表示された画像であると認められる。すなわち、本願画像は、同法同条同項が規定する物品の操作の用に供される画像に該当するものであると認められる。
本願意匠において部分意匠として意匠登録を受けようとする部分は、本願画像内で「実線で表した部分」(以下「本願画像部分」という。)である。
(3)本願画像部分の用途及び機能
上記(1)の願書の記載によれば本願物品には病理標本(ガラススライド)を載置するスライド回転棚があると推認され、また、本願画像部分は15個に分割されてほぼ円形に並んでおり、それぞれの区画内に1?15の数字部(破線で表されており本願画像部分を構成しない)が示されているところ、「画像図に表された画像は、・・・スライド回転棚に戴置されるガラススライドの状態を示している」との上記(1)の願書の記載から、ほぼ円形に並んだ本願画像部分は、スライド回転棚の位置や種類などに対応しており、本願画像部分の用途及び機能は、特定の回転棚のガラススライドの状態等の情報を示すことであると認められる。
(4)本願画像における本願画像部分の位置、大きさ及び範囲
本願画像内に実線で表された本願画像部分は、横長長方形状の本願画像(縦横比は約1:1.6)内の中央やや左下に円環状に位置しており、当該円環部の最大径は本願画像の縦幅の約1/1.3、横幅の約1/2.1の大きさ及び範囲を占めている。
(5)本願画像部分の形態
ア 略ドーナツ型円環
本願画像部分は、15個の略扇面形の区画が並んで、全体として略ドーナツ型円環になるように配置されており、各区画の間には平行の隙間が15箇所形成されている。15個の略扇面形区画と15個の隙間は、左右対称状に表されている。
イ 略扇面形区画の形状
個々の略扇面形区画の形状はほぼ同形同大であって周方向において略線対称(略半径方向を軸として略対称)に表されている。略扇面形区画の直線部の長さ(略半径方向の長さ)は、全体の略ドーナツ型円環の半径の約1/2.8である。
ウ 隙間
右側上から5番目の隙間(破線で7と示された区画と8と示された区画の間の隙間)は広く形成されており、その隙間の位置は、略ドーナツ型円環の右半分を約3/5円弧と約2/5円弧に内分する位置である。左側上から5番目の隙間(破線で13と示された区画と14と示された区画の間の隙間)も同様に広く形成されており、左右の広い隙間を除く他の隙間はほぼ同形同大であってごく狭く形成されている。
エ 略扇面形区画の構成態様
左右の広い隙間に挟まれた上側の略扇面形区画は9個であって、下側の略扇面形区画は6個である。上側9個のそれぞれの略扇面形区画の直線部を延長して結ぶ仮想の交点位置は、全体の略ドーナツ型円環の中心点よりもやや上の位置にあり、下側6個のそれぞれの略扇面形区画の直線部を延長して結ぶ仮想の交点位置は、全体の略ドーナツ型円環の中心点よりもやや下の位置にある。すなわち、全ての略扇面形区画の直線部は、全体の略ドーナツ型円環の中心点から放射線状の位置にあるのではなく、上側9個の略扇面形区画と下側6個の略扇面形区画は、上下に少し平行移動しており、その平行移動によって左右の広い隙間が形成されている。

2 引用画像の認定
原査定における拒絶の理由で引用された画像について、以下のとおり認定する。
(1)画像1(別紙第2参照)
ア 画像1の用途及び機能
画像1は、「スマートフォン用ソフトウェアの動画機能」の画像であり、「REC」と表示されたボタンの下に「Boost your Swing!(仮訳:貴方のスイングを高めよ!)」と記されているから、ゴルフスイングなどを録画する用途及び機能を有すると推認される。
イ 本願画像部分に対応する部分の位置、大きさ及び範囲
本願画像部分に対応する部分は、縦長長方形状の画像1(縦横比は約4:3)内のほぼ中央に位置しており、略ドーナツ型円環部の最大径は画像1の縦幅の約3/4、横幅のほぼ一杯の大きさ及び範囲を占めている。
ウ 本願画像部分に対応する部分の形態
(ア)略ドーナツ型円環
7個の略扇面形区画が並んで、全体として略ドーナツ型円環になるように配置されており、各区画の間には隙間が7箇所形成されている。7個の略扇面形区画と7個の隙間は、左右対称状に表されている。
(イ)略扇面形区画の形状
個々の略扇面形区画の形状は同形同大であって周方向において略線対称(略半径方向を軸として略対称)に表されている。略扇面形区画の直線部の長さ(略半径方向の長さ)は、全体の略ドーナツ型円環の半径の約1/2である。
(ウ)隙間
隙間は全て同形同大であって、ごく狭く形成されており、外側にいくについれて先細り状に表されている。
(エ)略扇面形区画の構成態様
全ての略扇面形区画は、全体の略ドーナツ型円環の中心点から放射線状の位置にあり、すなわち、扇面形区画の直線部を延長して結ぶ仮想の交点位置は、全体の略ドーナツ型円環の中心点と一致している。

(2)画像2(別紙第3参照)
ア 画像2の用途及び機能
画像2は、「ディスプレイスクリーン用画像」であり、「Mobile Nursing System(仮訳:モバイル看護システム)」「Physical Sign Collection(仮訳:生理的兆候の収集)」「temperature ℃(仮訳:体温 ℃)」の語があることから、看護用の体温計測に関する用途及び機能を有すると推認される。
なお、画像2には、FIG.1とFIG.2の2つの図が掲載されているところ、両図に表された本願画像部分に対応する部分の位置、大きさ、範囲及び形態は同一であるから、FIG.1に基づいてそれらを認定する。
イ 本願画像部分に対応する部分の位置、大きさ及び範囲
本願画像部分に対応する部分は、横長長方形状の画像2(縦横比は約3:5)内の略右半部中央に位置しており、略ドーナツ型楕円環部の垂直方向の直径は画像2の縦幅の約1/2、水平方向の直径は画像2の横幅の約1/2.2の大きさ及び範囲を占めている。
ウ 本願画像部分に対応する部分の形態
(ア)略ドーナツ型円環
左側に7個の略扇面形区画が並び、右側に12個の略扇面形区画が並んで、左右の間に間隔はあるものの、全体として略ドーナツ型楕円環になるように配置されており、左側の各区画の間には隙間が6箇所形成され、右側の各区画の間には隙間が12箇所形成されている。左側の7個の略扇面形区画と6個の隙間は、上下対称状に表されている。
(イ)略扇面形区画などの形状
右側の略扇面形区画の形状は、破線で37.3と示された区画を除いてほぼ同大である。左側の略扇面形区画の形状もほぼ同大であり、右側の略扇面形区画の約2倍の大きさになっている。略扇面形区画の直線部の長さ(略半径方向の長さ)は、全体の略ドーナツ型楕円環の水平方向の半径の約1/5.6?約1/4.3の範囲であり、上側又は下側の略扇面形区画になるにつれて直線部の長さは短くなっている。
右側の上下方向中央位置に、略扇面形区画の直線部の長さよりもやや幅広の略角丸横長長方形状区画が、破線で37.3と示された区画に被さるように設けられている。
(ウ)間隔と隙間
略ドーナツ型楕円環の上部と下部には間隔があり、その間隔の幅は、右側の略扇面形区画の幅とほぼ同じである。
隙間はほぼ同形同大であってごく狭く形成されている。
(エ)略扇面形区画の構成態様
全ての略扇面形区画は、全体の略ドーナツ型楕円環の中心からほぼ放射線状の位置にあり、すなわち、扇面形区画の直線部を延長して結ぶ仮想の交点位置は、全体の略ドーナツ型楕円環の中心点とほぼ一致している。

3 本願意匠の創作非容易性について
本願意匠が意匠法第3条第2項の規定に該当するか否か、すなわち、当業者であれば容易に本願意匠の創作をすることができたか否かについて検討する。
まず、本願画像部分の用途及び機能が、特定の回転棚のガラススライドの状態等の情報を示すことであるところ、ゴルフスイングなどを録画する用途及び機能(画像1)や、看護用の体温計測に関する用途及び機能(画像2)は、本願画像部分の用途及び機能とは異なっており、用途及び機能が異なる画像に基づいて当業者が本願画像部分を容易に創作できた手法(ありふれた手法)が明らかであるとはいい難い。特に、本願物品には病理標本(ガラススライド)を載置するスライド回転棚があると推認され、ほぼ円形に並んだ本願画像部分は、スライド回転棚の位置や種類などに対応しているところ、そのような用途及び機能を有する画像の形態が本願の出願前に公然知られているかについては明らかではない。
そして、本願画像部分の形態についても、上側9個の略扇面形区画と下側6個の略扇面形区画が上下に少し平行移動し、その平行移動によって左右の広い隙間が形成されているという本願画像部分の略扇面形区画の構成態様は引用画像には表されておらず、また、略扇面形区画の直線部の長さが全体の略ドーナツ型円環の半径の約1/2.8である点も、約1/2である画像1や、約1/5.6?約1/4.3である画像2の形態とは大きく異なっている。そうすると、当業者が、引用画像の形態に基づいて、本願画像部分の形態を容易に創作することができたということはできない。
他方、本願画像部分の大きさ及び範囲については、画像を含む物品分野においては、画像における様々な位置に、様々な大きさ及び範囲で図形が表されることは多々認められるから、本願画像部分の位置を横長長方形状の本願画像内の中央やや左下にすること、及び本願画像部分の最大径を本願画像の縦幅の約1/1.3、横幅の約1/2.1の大きさ及び範囲とすることは、当業者にとって容易に創作をすることができたといわざるを得ない。
そうすると、本願画像における本願画像部分の位置、大きさ及び範囲に係る創作は当業者にとって容易であるものの、本願画像部分と同様の用途及び機能を有する画像の形態が本願の出願前に公然知られているかについては明らかではなく、本願画像部分の形態についても、上述のとおり当業者が引用画像の形態に基づいて本願画像部分の形態を容易に創作することができたということはできない
したがって、原査定における拒絶の理由で引用された意匠に基づいて、当業者が容易に本願意匠の創作をすることができたということはできない。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願意匠は、意匠法第3条第2項が規定する、意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作をすることができたとはいえないものであるから、原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、当審において、更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2020-08-12 
出願番号 意願2018-14375(D2018-14375) 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (J1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石坂 陽子鈴木 康平 
特許庁審判長 北代 真一
特許庁審判官 濱本 文子
小林 裕和
登録日 2020-10-27 
登録番号 意匠登録第1672602号(D1672602) 
代理人 山崎 和香子 
復代理人 前川 砂織 
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト 

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