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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 F2
管理番号 1369052 
審判番号 不服2020-7902
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2021-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-09 
確定日 2020-12-08 
意匠に係る物品 万年筆 
事件の表示 意願2019- 15087「万年筆」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 手続の経緯
令和 1年 7月 4日 意匠登録出願
令和 1年 9月20日付け 拒絶理由通知書
令和 1年12月25日 意見書提出
令和 2年 3月 4日付け 拒絶査定
令和 2年 6月 9日 審判請求書提出

第2 本願意匠
本願は、2019年1月10日の世界知的所有権機関への出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴う、物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願(意願2019-15087)であって、その意匠(以下「本願意匠」という。)は、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「万年筆」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)は、願書及び願書に添付した図面に記載したとおりとしたものであって、「各図には、物品の表面形状を表す陰線を併せて付している。実線で表された部分が、部分意匠として登録を受けようとする部分である。」としたものである(以下、本願について意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」という。)(別紙第1参照)。

第3 原査定における拒絶の理由及び引用意匠
原査定における拒絶の理由は、本願意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠(先行の公知意匠に類似するため、意匠登録を受けることのできない意匠)に該当するとしたものであって、拒絶の理由に引用した意匠(以下、「引用意匠」といい、本願意匠と合わせて「両意匠」という。)は、
「独立行政法人工業所有権総合情報館が2003年 7月23日に受け入れた
ラピタ 2003年 8月 1日8号
第148頁所載
万年筆の意匠
(特許庁意匠課公知資料番号第HA15014848号)」(別紙第2参照)である。

第4 当審の判断
1 意匠の認定
両意匠の対比のため、引用意匠の向きを本願意匠の図の向きに合わせて認定する。
(1)本願意匠
ア 意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は、筆記具として用いられる「万年筆」である。
イ 本願部分の用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲
本願部分はキャップ付き万年筆のペン先部分を除いた部分であって、その用途及び機能は、筆記具として用いられる「万年筆」のペン先部を収容し(キャップ部)、インク吸入器やカートリッジなどを内部に格納し、手で外郭を把持するもの(万年筆本体)であり、位置、大きさ及び範囲は、筆記用具として、手にとって用いられる程度の大きさの、ペン先部を除くほぼ全体に位置し、ペン先部を除いた全体の大部分を占めている。
ウ 形態
(あ)全体は、キャップ部と万年筆本体から成る略細長棒形状であって、(い)キャップをつけた状態において、正面視の縦横の長さ比率は、約1:9であって、(う)正面視、右側のキャップ部は、全長の約8分の3の長さの、右端が略ドーム状に閉じ、中胴部が僅かに膨出した略円筒形状で、クリップ部を右寄りに設け、クリップ部右側にリング状部を設けており、(え)クリップ部はキャップ部の右端から約5分の1に、略細帯環状の止め部及び平、底面視でくさび状に表れる略斜状環部でキャップ部に接合し、接合箇所から外方への立ち上がり部は、外側は平面視左下がりの傾斜状に、内側は曲線状に形成した略平行四辺形状で、傾斜状部から左に向けて、正面視で先細帯状のクリップ片を、平面視で接合箇所から外方への立ち上がり部と合わせて略倒扁平L字状とし、外郭に沿ってキャップ端部を僅かに超えて略直線状に延出して、クリップ片の先端寄りは、縁部を形成し、内側に略三角形状のかえし部を設け、クリップ部の正面視中央には、右端からクリップ部の長さの約3分の1に亘って細幅短冊状部が配されている。(お)キャップを外した状態において、万年筆本体部は、首軸部、胴軸部、尻軸部から成り、首軸部は、胴軸部寄りに、環状凸部を設けた胴軸部より一回り小径の略円柱形状で、胴軸部、尻軸部は連なってやや先細りに形成し、左端が正面視で略鉛直状にふさがった略円筒形状であって、(か)胴軸部と尻軸部の長さ比率は約7:3であって、胴軸部及び尻軸部の接合部寄りには接合部を挟んで、一段ずつ、左に向けて段ごとに縮径する細幅の段部を形成し、胴軸部の、首軸部との接合部周縁及び尻軸部寄り段部には、リング状部が設けられ、尻軸部の胴軸部寄りにもリング状部を設けている。
(2)引用意匠
ア 意匠に係る物品
引用意匠の意匠に係る物品は、筆記具として用いられる「万年筆」である。
イ 引用意匠の本願部分と対比の対称とする部分の用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲
引用意匠の本願部分と対比の対称とする部分(以下「引用部分」という。)はキャップ付き万年筆のペン先部分を除いた部分であって、その用途及び機能は、筆記具として用いられる「万年筆」のペン先部を収容し(キャップ部)、インク吸入器やカートリッジなどを内部に格納し、手で外郭を把持するもの(万年筆本体)であり、位置、大きさ及び範囲は、筆記用具として、手にとって用いられる程度の大きさの、ペン先部を除くほぼ全体に位置し、ペン先部を除いた全体の大部分を占めている。
ウ 形態
(ア)全体は、キャップ部と万年筆本体から成る略細長棒形状であって、(イ)キャップをつけた状態において、正面視の縦横の長さ比率は、約1:10であって(ウ)正面視、右側のキャップ部は、全長の約8分の3の長さの、右端が略ドーム状に閉じ、中胴部が僅かに膨出した略円筒形状で、クリップ部を右寄りに設け、左端及びクリップ部右側にリング状部を設けており、(エ)クリップ部はキャップ部の右端から約5分の1に略太帯環状の止め部を配し、略太帯環状の止め部でキャップ部に接合し、左に向けて、正面視で略先細帯状のクリップ片をキャップ端部を僅かに超えて延出し、クリップ部の正面視中央には、右端からクリップ部の長さの約3分の1に亘って細幅短冊状部を配し、左端寄りには線状部を設けている。(オ)キャップを外した状態において、万年筆本体部は、首軸部、胴軸部、尻軸部から成り、首軸部は、胴軸部より一回り小径の略円柱形状で、周面に細かな格子溝状の凹凸を形成し、胴軸部、尻軸部は連なってやや先細りに形成し、左端が丸みを帯びた尖塔状にふさがった略円筒形状であって、(カ)首軸部右端(胴軸部側端)には、螺旋溝を設けて、胴軸部、尻軸部の長さ比率は約7:3であって、胴軸部の、首軸部との接合部周縁及び尻軸部寄りには、リング状部が設けられ、胴軸部及び尻軸部の接合部寄りに螺旋溝を設けて、尻軸部の胴軸部寄りにもリング状部を設けている。

2 本願意匠と引用意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は、共に「万年筆」であって、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。
(2)本願部分と引用部分の用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲
本願部分と引用部分(以下「両部分」という。)は、共に、キャップ付き万年筆のペン先部分を除いた部分であって、その用途及び機能は、筆記具として用いられる「万年筆」のペン先部を収容し(キャップ部)、インク吸入器やカートリッジなどを内部に格納し、手で外郭を把持するもの(万年筆本体)であり、位置、大きさ及び範囲は、筆記用具として、手にとって用いられる程度の大きさの、ペン先部を除くほぼ全体に位置し、ペン先部を除いた全体の大部分を占めているものであるから、用途及び機能、並びに位置、大きさ及び範囲についても一致する。
(3)形態
本願部分と引用部分の形態を対比すると、主として、以下の共通点と差異点が認められる。
(3-1)共通点
基本的構成態様として、
(A)全体は、キャップ部と万年筆本体から成る略細長棒形状である点が共通し、
具体的構成態様として、
(B)キャップをつけた状態において、正面視、右側のキャップ部は、全長の約8分の3の長さの、右端が略ドーム状に閉じ、中胴部が僅かに膨出した略円筒形状で、クリップ部を右寄りに設け、クリップ部右側にリング状部を設けている点
(C)クリップ部はキャップ部の右端から約5分の1に、環状の止め部でキャップ部に接合し、正面視で略先細帯状のクリップ片を、キャップ端部を僅かに超えて延出し、クリップ部の正面視中央には、右端からクリップ部の長さの3分の1に亘って細幅短冊状部を配している点
(D)キャップを外した状態において、万年筆本体部は、首軸部、胴軸部、尻軸部から成り、首軸部は、胴軸部より一回り小径の略円柱形状で、胴軸部、尻軸部は連なってやや先細りに形成され左端のふさがった略円筒形状である点、
(E)胴軸部、尻軸部の長さ比率は約7:3であって、胴軸部の、首軸部との接合部周縁及び尻軸部寄りには、リング状部が設けられ、尻軸部の胴軸部寄りにもリング状部が設けられている点が共通する。
(3-2)相違点
具体的構成態様として、
(a)縦横の長さ比率において、本願部分は、正面視約1:9であるのに対し、引用部分は約1:10である点、
(b)キャップ部について、本願部分はキャップ部左端にリング部を設けていないのに対し、引用部分は、キャップ部左端にリング状部を設けている点、
(c)クリップ部について、本願部分は、略細帯環状の止め部及び略斜状環部でクリップ部をキャップ部に接合し、接合箇所から外方への立ち上がり部は、外側は平面視左下がりの傾斜状に、内側は曲線状に形成した略平行四辺形状で、傾斜状部から左に向けて、正面視で先細帯状のクリップ片を、平面視で接合箇所から外方への立ち上がり部と合わせて略倒扁平L字状とし、外郭に沿ってキャップ端部を僅かに超えて略直線状に延出して、クリップ片の先端寄りは、縁部を形成し、内側に略三角形状のかえし部を設けているのに対し、引用部分は、略太帯環状の止め部でキャップ部に接合しており、平、底面の態様が現れていないので、立ち上がり部及びかえし部の形態は、いずれも不明である点、
(d)首軸部について、本願部分は、胴軸部寄りに環状凸部を設けているのに対し、引用部分は周面に細かな格子溝状の凹凸を形成し、右端(胴軸部側端)には、螺旋溝を設けている点、
(e)胴軸部について、左端において、本願部分は、胴軸部と尻軸部の接合部寄りに縮径した細幅の段部を形成しているのに対し、引用部分は、段部を形成していない点、
(f)尻軸部について、本願部分は左端が正面視で略鉛直状にふさがった略円筒形状であって、尻軸部の接合部寄りには縮径した細幅の段部を形成しているのに対し、引用部分は左端が丸みを帯びた尖塔状にふさがった略円筒形状であって、尻軸部の接合部寄りには、螺旋溝を設けている点が相違する。

3 類否判断
以上の一致点、共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価・総合して、両意匠の類否を意匠全体として検討し、判断する。
(1)意匠に係る物品の評価
前記、第4の2(1)のとおり、両意匠の意匠に係る物品は、一致するから同一である。
(2)用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲の評価
前記、第4の2(2)のとおり、両部分は、その用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲が一致するから同一であって、両意匠の意匠に係る物品「万年筆」の物品分野において、両部分と同様の部分として対比可能な、用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲のものについては、よく見受けられるものであるから、これらの一致点が、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(3)形態の評価
両意匠の意匠に係る物品である「万年筆」は、主に手に持って観察される一方、胸ポケットなどにクリップで止めて携帯する使用態様もあり、筆記時に把持する首軸部周辺及び胸ポケットなどから露出し、よく観察されるキャップ部のクリップ部周辺は、需要者が注意を向けるところといえる。したがって、両意匠の類否判断においては、特に、上記の部分の形態を評価し、かつそれ以外の形態も併せて、各部を総合して意匠全体として形態を評価することとする。
(3-1)形態の共通点の評価
基本的構成態様としてあげた共通点(A)については、このような万年筆本体とキャップ部から成る略細長棒形状の態様は、「万年筆」の物品分野において、ごく普通に見受けられる基本的構成態様であるから、この共通点が類否判断に与える影響は小さく、共通点(D)についても「万年筆」の物品分野において、ごく普通に見受けられる万年筆本体の形態であるから両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。また、共通点(B)は、キャップ部についてであって、全長の約8分の3の長さで、右端が略ドーム状に閉じ、中胴部が僅かに膨出した略円筒形状で、クリップ部を右寄りに、さらにクリップ部右側にリング状部を設けている点であり、キャップ部の具体的態様の共通点ではあるが、「万年筆」の物品分野において、よく見受けられるものであって、両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。そして、共通点(C)は、クリップ部の具体的形態に関わる共通点であって、携帯時に観察可能で需要者の目につく箇所ではあるが、キャップ部の右端から約5分の1にクリップ部を設けたものもクリップ部の正面視中央に細幅短冊状部を設けたものも、「万年筆」の物品分野において、それぞれ見受けられ、両意匠独自の共通する形態であるとまではいえず、さらに、共通点(E)は胴軸部及び尻軸部の長さ比率及びリング状部についてであり、万年筆本体の各部の具体的態様についてであるものの、後述する万年筆本体の各部の相違点(d)ないし(f)がある中では、両部分の類否判断に与える影響は小さい。
したがって、共通点(A)ないし(E)の両部分の類否判断に及ぼす影響は、いずれも小さく、共通点全体で総じても、両部分の類否判断を決定付けるとはいえないものである。
(3-2)形態の相違点の評価
これに対して、相違点(a)は、両部分の全体の縦横の長さ比率に関わるものであって、全体のプロポーションにも関わり、本願部分はやや太めでどっしりとした印象を、引用意匠はやや細めのほっそりとした印象を与えることから、この点が両部分の類否判断に与える影響は一定程度あるものである。次に、相違点(b)及び相違点(e)については、それぞれ、キャップ部の左端部のリング状部の有無及び軸部の左端周縁の段部の有無の相違であって、部分的相違にとどまり、両部分の類否判断に及ぼす影響は小さい。また、相違点(c)は、主にクリップ部の接合部周辺及び立ち上がり部の形態の相違であって、万年筆の携帯時には胸ポケットなどから露出し、観察可能で目につき、需用者の注意を引く箇所であるところ、特に、斜状環部の有無の相違については、他に見受けられない本願部分独自の形態であって、立ち上がり部についても、引用部分はその形態が不明であるのに対し、本願部分の略平行四辺形状の立ち上がり部の平面視左下がりの傾斜状部は、斜状環部の斜状部とあいまって、シャープな印象を醸してもいるから、この相違点が両部分の類否判断に与える影響は大きい。そして、相違点(d)についても、首軸部は、万年筆を筆記具として用いる時には、まさに、指先部で力を加えて把持する部分に当たり、その周面の凹凸の有無は、需用者の注目するところであって、胴軸部寄りに環状凸部を設けたものか右端(胴軸部側端)螺旋溝を設けたものかの相違もあいまって、視覚的に両部分の印象は大きく異なり、この点が両部分の類否判断に与える影響は大きい。さらに、相違点(f)については、尻軸部の形態の相違であって、特に左端が、略鉛直状であるか、丸みを帯びた尖塔状であるかの相違は、全体の形態について端部の詰まったものか、流れるように長手方向先端にむけて突出したものかの印象の違いを喚起し、上記、相違点(a)の印象にも寄与し、尻軸部の接合部寄りには縮径した細幅の段部を形成しているものか、螺旋溝を設けたものかの相違もあいまって、視覚的に、両部分の別異の感を強めており、この点が両部分の類否判断に与える影響は大きい。
(3-3)形態の総合評価
そうすると、形態における相違点(b)及び相違点(e)の両部分の類否判断に及ぼす影響は、小さいとしても、相違点(a)の両部分の類否判断に及ぼす影響は一定程度あるものであって、相違点(c)、相違点(d)及び相違点(f)の両部分の類否判断に及ぼす影響は大きく、相違点(a)ないし(f)の両部分の類否判断に及ぼす影響は、総じて大きいものであって、両部分の類否判断を決定付けるものであるのに対して、形態の共通点(A)ないし(E)の両部分の類否判断に及ぼす影響は、いずれも小さく、それら共通点(A)ないし共通点(D)が総じても、共通点の両部分の類否判断に与える影響は小さく、相違点が共通点を凌駕し、両部分の類否判断を決定付けるものであるから、両部分は類似しない。
したがって、両意匠の意匠に係る物品は同一であり、両部分は、その用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は同一であるものの、形態においては、両部分は類似せず、両部分の類否判断を決定付けるものであるから、本願意匠は引用意匠に類似しない。

第5 むすび
以上のとおりであって、原査定の引用意匠をもって、本願意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するものとすることはできないから、原査定の拒絶の理由によって、本願意匠を拒絶すべきものとすることはできない。

また、当審において、更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

別掲

審決日 2020-11-18 
出願番号 意願2019-15087(D2019-15087) 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (F2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 桐野 あい 
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 渡邉 久美
濱本 文子
登録日 2021-01-04 
登録番号 意匠登録第1677347号(D1677347) 
代理人 山尾 憲人 
代理人 大塚 雅晴 

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