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審決分類 審判 査定不服  意10条1号類似意匠 取り消して登録 H7
管理番号 1371747 
審判番号 不服2017-18120
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-06 
確定日 2018-03-02 
意匠に係る物品 リモートコントローラ 
事件の表示 意願2017- 4309「リモートコントローラ」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 本願意匠
本願は,意匠法第14条第1項の規定により本願の意匠(以下「本願意匠」という。)を3年間秘密にすることを請求する平成29年(2017年)3月3日の意匠登録出願であって,本願の願書の記載によれば本願意匠の意匠に係る物品はベッドの床の昇降,傾斜を操作する「リモートコントローラ」であり,本願意匠の形態は願書に添付した図面に記載されたとおりである(別紙第1参照)。

第2 原査定における拒絶の理由
原査定における拒絶の理由は,本願意匠が,願書に記載した本意匠(意願2017-4305の意匠。)に類似する意匠と認められないので,意匠法第10条第1項の規定に該当しないとの理由であって,具体的には以下のとおりである。
「この意匠登録出願の意匠と願書記載の本意匠(意願2017-4305号の意匠)とは,(1)本体背面の形態及びフック部の形態が大きく異なります。また,両意匠は,(2)正面上方から平面にかけての部分において,中央に操作ボタンが設けられているか否かについても異なります。
両意匠は,正面の操作部,操作部上方の表示部,操作部周囲の枠部,正面上方から平面にかけての湾曲面等,正面視の形態においてほとんど共通していますが,上記差異点(1)について,フック部の形態は正面からも目立つ差異であり,両意匠は,背面部とあわせると,意匠全体のおおよそ半分を占める部分の形態が異なります。また,正面視においても,上記差異点(2)の操作ボタンの有無は目立つものであることから,両意匠は意匠全体として観察する場合には,美感を異にするものであり,本願意匠は願書記載の本意匠(意願2017-4305号の意匠)に類似するものとは認められません。」

第3 手続きの経緯
上記原審の拒絶の理由に対して,請求人は意見書を提出し,本願意匠と本意匠が類似し,本願意匠が意匠法第10条第1項の規定に該当する旨主張したが,拒絶の査定がなされた。
請求人は,同査定を不服として平成29年(2017年)12月6日に審判を請求し,原査定を取り消し本願意匠を登録すべきとの審決を求めるとともに,同日に手続補正により本願の本意匠の表示を削除した。

第4 当審の判断
以下,本願意匠が第10条第1項の規定に該当するか否かについて検討する。

1 本意匠
本意匠に係る出願は,本願と同日の平成29年(2017年)3月3日に意匠登録出願(意願2017-4305)がなされ,同年10月13日に意匠権の設定の登録(意匠登録第1590151号)がなされて,平成29年(2017年)11月6日に意匠公報が発行されている。
本意匠の意匠登録出願の願書の記載によれば本意匠の意匠に係る物品はベッドの床の昇降,傾斜を操作する「リモートコントローラ」であり,本意匠の形態は願書に添付した図面に記載されたとおりである(別紙第2参照)。

2 本願意匠と本意匠の対比
(1)意匠に係る物品
本願意匠と本意匠(以下「両意匠」という。)は,共にベッドの床の昇降,傾斜を操作する「リモートコントローラ」であるから,両意匠の意匠に係る物品は同一である。
(2)形態
両意匠の形態を対比すると,主として,以下の共通点と差異点が認められる。
ア 共通点
両意匠の形態には,以下の共通点が認められる。
(A)全体の構成態様
全体が縦長でやや扁平な略直方体状本体部と,その上面から後方にかけて形成された略板状のフック部から成り,正面から見た本体部上部にはパネル部が配されており,その下方には,ボタン部が縦2列に複数並んで配されている。
(B)本体部正面の面構成
(B-1)枠部
本体部正面の左右端部には細幅の枠部が形成されており,枠部の前面は,鉛直面として上下に延びて,上端付近及び下端付近では上端又は下端にいくにつれて後方に漸次後退して,側面視弧状に形成されている。平面から見ると,左右の枠部が繋がって略倒「〔 」状に表されており,底面から見ても,左右の枠部が繋がって略倒「 〕」状に表されている。
(B-2)パネル部とその上下左右の面構成
パネル部は正面視横長長方形状であって,その下端面(正面視2重線状に表されている)が僅かな段差となって,浅く凹んだパネル部下方の面に連続しており,その面内に配されたボタン部の高さと左右の枠部の高さはパネル部の高さと同じであり,すなわち,パネル部,ボタン部及び枠部の前面が同一面上に揃うように形成されている。
(B-3)ボタン部の態様
ボタン部は10個あり,縦方向と横方向に等間隔に並んでいる。ボタン部は全て同形同大であって,角丸正方形状に表されている。
(B-4)本体部正面の上端付近及び下端付近の態様
本体部正面の上端付近には,パネル部の上端に連続して,正面視略扁平台形状の区画部(以下「上方区画部」という。)が形成されており,上方区画部は正面上端にいくにつれて後方に漸次後退して丸面状に形成されて,枠部と面一致状に表されている。また,正面の下端付近にも,上方区画部と上下対称形の下方区画部が丸面状に形成されており,枠部と面一致状に表されている。
(C)コード
略丸紐状のコードが本体部下端に設けられており,コードの本体部寄りの外周に,径が上にいくほど大きくなる複数の略細幅リング状部が等間隔に配されている。
イ 差異点
一方,両意匠の形態には,以下の差異点が認められる。
(a)本体部側面及び背面の形態
側面から見て,本願意匠の本体部は2層で構成されており,正面側の層は枠部が表れたものであり,背面側の層はその枠部を支える台座部である。台座部の厚みは枠部の厚みよりもやや大きく,台座部の上端は右下がりに傾斜し,台座部の下端は右上がりに傾斜している。また,台座部の右端は,下端寄りから上部にかけて略縦長「し」字状に削られており,その削られた面は背面視縦長U字状に表れている。そして,台座部の上端寄りでは略半円形状に更に抉られており,その抉られた面は背面視略扁平倒コ字状に表れている。
これに対して,本意匠の本体部は3層で構成されており,正面側の層である枠部,中間層である台座部,背面側の層である隆起部から成る。枠部は本願意匠に比べて細く,枠部の上端部及び下端部は背面方向に弧状に曲がっており,その内側に台座部の上端部と下端部が接合している。隆起部は,台座部の中央やや上の位置から上又は下にいくにつれて漸次幅が大きくなっており,背面から見ると,隆起部の左右対称状に形成されて,外側の面境界線が垂直状に,内側の面境界線が凸弧状に表されている。
(b)フック部とその周辺の形態
(b-1)側面から見た形態
側面から見て,本願意匠のフック部は,略2/3円形状であって,先端部が外方に反り返っており,基端部が略平行四辺形状の接続部を介して台座部に繋がっている。その接続部は,内部にやや小さい略平行四辺形状の孔部が形成され,上端は左上がりに傾斜して台座部の上端に連続しており,下端が弧状に形成されて台座部の略半円形状に抉られた部分に連続している。
これに対して,本意匠のフック部は,上部が右下がりの直線状であって,中間部から下部にかけては略逆S字状に形成されており,本願意匠に見られるような接続部は無く,フック部上部の基端が枠部上端部の先端に当接している。
(b-2)背面から見た形態
背面から見て,本願意匠のフック部は,横幅が一定しており,上端中央から中央部にかけて縦長U字状のスリット孔部が形成されている。そして,フック部の下方には接続部が表れており,接続部の後端面の横幅はフック部の横幅と同一である。
これに対して,本意匠のフック部は,横幅が本願意匠に比べて大きく,左端及び右端が凹弧状に湾曲しており,下端の横幅は上端の横幅よりも小さく,スリット孔部は無い。
(c)平面から見た形態
平面から見て,本願意匠のフック部の下端(基端)が,台形状に表された接続部の中央やや上に連結しており,フック部内に形成されたスリット孔部内に,接続部の後端面が表れている。そして,接続部の下方には,略扁平逆椀形状の台座部が連続し,その台座部の下端が略倒「〔 」状枠部に連続している。
これに対して,本意匠では,台形状に表されたフック部の下端が,直接略倒「〔 」状枠部に連続している。
(d)コード周辺の形態
本願意匠のコードは,略逆円錐台形状の取付部を介して本体部下端に繋がっているが,本意匠には取付部は無い。また,略細幅リング状部の個数は,本願意匠では3つであり,本意匠では8つである。

3 類否判断
(1)意匠に係る物品
前記認定したとおり,両意匠の意匠に係る物品は同一である。
(2)リモートコントローラの意匠の類否判断
リモートコントローラは,需要者が手に持って使用するものであるから,全ての方向からリモートコントローラの立体形状を観察することになり,また,フック部のような取付部についても,リモートコントローラをベッドの柵などに取り付ける際に需要者が特に着目することになる。したがって,リモートコントローラの意匠の類否判断においては,物品の使用方法や使用状態などを考慮しつつ,全方向から観察される意匠の具体的態様を評価するとともに,それらの評価を総合して全体として意匠の形態を評価する。
(3)両意匠の形態の共通点の評価
両意匠の形態の共通点(A),すなわち,略直方体状本体部と略板状のフック部で構成し,本体部上部にパネル部を配して,その下方にボタン部が縦2列に複数並んで配した構成態様は,リモートコントローラの物品分野の意匠において本願の出願前に既に見受けられ,また,共通点(B-2)のパネル部とその上下左右の面構成について,パネル部,ボタン部及び枠部の前面を同一面上に揃うように形成することもありふれた態様であり,角丸正方形状のボタン部を縦方向と横方向に等間隔に並べること(共通点(B-3)),及び略丸紐状のコードを本体部下端に設けて,コードの外周に複数の略細幅リング状部が等間隔に配すること(共通点(C))もありふれた態様である。そうすると,リモートコントローラの需要者はこれらの共通点に対して殊更注意を払うとはいい難いので,共通点(A),(B-2),(B-3)及び(C)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいというべきである。
一方,本体部上端付近及び下端付近において,枠部と区画部が後方に漸次後退している形状については,需要者に一定の視覚的印象を与えることから,共通点(B-1)及び共通点(B-4)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は一定程度認められる
(4)両意匠の形態の差異点の評価
これに対して,両意匠の形態の差異点については,以下のとおり評価され,差異点を総合すると,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすといわざるを得ない。
まず,本体部側面及び背面の形態についての差異点(a)で指摘した,側面から見た本体部が2層であるか(本願意匠),3層であるか(本意匠)の差異,及び隆起部の有無の差異(本意匠には有るが本願意匠には無い)は,需要者が一見して気付く差異であり,また,本願意匠の台座部が削られかつ抉られて背面視縦長U字状及び略扁平倒コ字状に表れた形状は,隆起部が左右対称状に形成された本意匠の背面形状とは大きく異なるから,需要者が両意匠を側面方向又は背面方向から観察する際に異なる視覚的印象を抱くこととなる。したがって,差異点(a)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
次に,フック部とその周辺の形態についての差異点(b)で指摘した,側面視略2/3円形状であって背面の横幅が一定し,スリット孔部が形成されたフック部(本願意匠)と,側面視略逆S字状であって背面の横幅が大きめで左端及び右端が凹弧状に湾曲し,スリット孔部が無いフック部(本意匠)との差異は,略平行四辺形状の接続部の有無の差異とあいまって,需要者に異なる視覚的印象を与えることとなり,上述のとおりフック部についてはリモートコントローラを取り付ける際に需要者が特に着目するから,差異点(b)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
そして,平面から見た形態についての差異点(c)で指摘した,フック部-接続部-台座部-枠部の4連構成の形態(本願意匠)と,接続部が無く,フック部が直接枠部に連続した形態(本意匠)との差異も,需要者が抱く視覚的印象に変化を与えているというべきであるから,差異点(c)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きい。
他方,コード周辺の形態の差異点(d)については,取付部が意匠全体に占める範囲が小さいので取付部の有無に需要者はそれ程注意を払わず,また,コードに配された略細幅リング状部の個数に対しても需要者は特段注目しないので,差異点(d)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さい。
したがって,上記(a)ないし(d)の差異点を総合すると,差異点(d)が両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものの,それ以外の差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が大きいことから,形態の差異点は,総じて両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められる。
(5)総合判断
以上のとおり,両意匠の形態の共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が小さいのに対して,両意匠の形態の差異点を総合すると,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼし,形態の差異点が共通点を圧するということができる。
(6)小括
したがって,両意匠の意匠に係る物品は同一であり,両意匠の形態についても,差異点は共通点を圧して両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすので,本願意匠は,本意匠に類似しないものと認められる。

4 本願意匠が第10条第1項の規定に該当するか否かについて
本意匠は,本願の意匠登録出願人の意匠登録出願に係る意匠であるから,意匠法第10条第1項に規定されている本意匠の要件を満たしている。
また,本願意匠の意匠登録出願の日が本意匠の意匠登録出願の日以後であって本意匠の意匠公報の発行の日前であるから,本願意匠の意匠登録出願の日は,意匠法第10条第1項に規定されている関連意匠の意匠登録出願の日の要件を満たしている。
しかし,上述のとおり,本願意匠は本意匠に類似するものとは認められないので,本願意匠は,意匠法第10条第1項に規定されている,本意匠に類似する意匠(関連意匠)の要件を満たさない。
したがって,本願意匠は,意匠法第10条第1項の規定に該当しない。

そして,前記第3のとおり,本願は,平成29年(2017年)12月6日に願書の本意匠の表示を削除する手続補正がなされているから,原審の拒絶の理由によっては拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであって,本願意匠は,意匠法第10条第1項の規定に該当しないから,本意匠の関連意匠として意匠登録を受けることができないものであって,願書の本意匠の表示を削除する手続補正がなされているから,原審の拒絶の理由によっては拒絶することができない。
また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2018-02-14 
出願番号 意願2017-4309(D2017-4309) 
審決分類 D 1 8・ 3- WY (H7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 智加 
特許庁審判長 斉藤 孝恵
特許庁審判官 渡邉 久美
小林 裕和
登録日 2018-03-30 
登録番号 意匠登録第1602464号(D1602464) 
代理人 櫻木 信義 

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