• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立成立) D7
管理番号 1375000 
判定請求番号 判定2020-600013
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2021-07-30 
種別 判定 
判定請求日 2020-03-13 
確定日 2021-06-03 
意匠に係る物品 テーブル 
事件の表示 上記当事者間の登録第1579853号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 本件判定請求書(令和2年12月1日に提出された手続補正書によって補正された判定請求書)に添付した「イ号意匠及び説明書」によって示された意匠は,登録第1579853号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由
第1 主な手続の経緯
平成28年10月28日 意匠登録出願(意願2016-23576号)
平成29年 6月 2日 意匠権の設定の登録(登録第1579853号)
令和 2年 3月13日 本件判定請求(請求人)
令和 2年 6月25日 上申書提出(被請求人)
令和 2年 8月 3日 答弁書提出(被請求人)
令和 2年10月29日付け 通知書
令和 2年11月26日 口頭審尋
令和 2年12月 1日 手続補正書提出(請求人)
令和 2年12月 1日 上申書提出(請求人)
令和 3年 1月15日 上申書提出(被請求人)
令和 3年 2月22日 答弁書(第2回)提出(被請求人)

第2 請求の趣旨及び理由の概要
1.請求の趣旨
本件判定請求人(以下「請求人」という。)は,イ号意匠は,登録第1579853号意匠(以下「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定を求め,おおむね以下のように主張した。

2.請求の理由
(1)判定請求の必要性
請求人のグループ会社であるアイリスチトセ株式会社及び株式会社ホウトクが,別紙(当審注:別紙第2参照。)「イ号意匠及び説明書」記載のイ号意匠(以下「イ号意匠」という。)及びそれに類似する意匠を実施していたところ,本件判定被請求人(以下「被請求人」という。)より被請求人の本件登録意匠(当審注:別紙第1参照。)及びその関連意匠に類似するとの警告(甲第1号証)を受けたので,請求人として本件意匠権侵害の成立の有無を検討し,対処する必要が生じた。

(2)両意匠の対比
ア.両意匠の共通点
イ号意匠及び本件登録意匠(以下,イ号意匠と本件登録意匠を併せて「両意匠」という。)は,意匠に係る物品を「テーブル」とするものであり,その態様については,以下のとおりである。

(ア)基本的構成態様における共通点
(ア-1)天板
ともに角部に丸みを持たせた薄い長方形平板である。
(ア-2)幕板
ともに薄い長方形平板で,表面に横筋目模様が施されており,横幅を天板の横幅と略同一としている。
(ア-3)棚
ともに細い円柱パイプにより構成され,天板裏面にネジ止めされている。
(ア-4)天板傾斜用レバー
ともに操作により天板を倒すことが可能なレバーが棚の左右に設けられている。
(ア-5)支柱及び脚
ともに四角柱を基本とする支柱下端から前後に分岐するキャスター付き脚を設け,収納時に平行スタック可能とするために後脚が支柱より外側に張り出している。

イ.両意匠の具体的構成態様における差異点
(ア)天板について
イ号意匠 …天板は縦:横の比率が約1:2
本件登録意匠…天板は縦:横の比率が約1:3
(イ)幕板について
イ号意匠 …凹んだ幕板の裏面側に表面よりやや横幅が短い無模様の平板を嵌合さている。
本件登録意匠…表面と同じ横筋目模様が裏面側にも施されている。
(ウ)棚について
(ウ-1)天板への取り付け部の形状について
イ号意匠 …棚部全幅にわたる横長の四角柱桟を設け天板にネジ止め
本件登録意匠…短いリブを設け天板にネジ止め
(ウ-2)棚中央部の支持板(仕切り板)について
イ号意匠 …棚中央部に支持板(仕切り板)が設けられている。
本件登録意匠…支持板は存在しない。
(ウ-3)棚の横桟パイプの本数について
イ号意匠 …2本の細い円柱パイプを水平に配置
本件登録意匠…3本の細い円柱パイプを水平に配置
(エ)天板傾斜用レバーについて
イ号意匠 …側面を波形に湾曲させた箱形の大型レバーで,薄いグレーである。
本件登録意匠…長方形状の薄い板状のレバーで棚と同色の黒である。
(オ)支柱について
(オ-1)フックの有無
イ号意匠 …脚支柱上部に手提げ等を引っかけることができる円柱状のフックが設けられている。
本件登録意匠…フックは存在しない。
(オ-2)支柱の角度について
イ号意匠 …垂直面に対する傾き約10°
本件登録意匠…垂直面に対する傾き約5°
(カ)前脚について
(カ-1)前脚の支柱への取り付け角度の差異について
イ号意匠 …垂直面に対する傾き約37°
本件登録意匠…垂直面に対する傾き約47°
(カ-2)前脚の形状の差異について
イ号意匠 …断面形状を略正方形状とし,支柱接合部に向けて前脚部前面を緩やかに大きく湾曲させて接合
本件登録意匠…断面形状を略縦長長方形状とし,支柱接合部に向けて前脚部前面を直線的に屈曲させて接合
(カ-3)前脚の角部の面取りの態様の差異について
イ号意匠 …キャスター部に向けて広くなる面取りを施し,丸みを帯びた態様
本件登録意匠…面取りがなく角張った態様
(キ)後脚について
(キ-1)後脚の太さの差異について
イ号意匠 …上方から見たときに,後脚の幅を支柱の幅と同幅で断面形状を略正方形状とし,キャスター部に向け次第に細くなる態様
本件登録意匠…上方から見たときに,後脚の幅を支柱の幅の約半分程度で断面形状を略縦長長方形状とし,キャスター部に向け次第に細くなる態様
(キ-2)後脚の支柱への取り付け位置の差異について
イ号意匠 …支柱下端の前側縁部から大きな丸みを持って後脚を接合
本件登録意匠…支柱下端の側面中央付近から後脚を緩やかな丸みを持って接合
(キ-3)後脚の湾曲の態様の差異について
イ号意匠 …支柱下端の前側縁部から後脚側面に大きく外側に張り出すようにアールでつないだ態様
本件登録意匠…支柱下端の側面中央付近から後脚側面に緩やかに斜め後ろ方向に流れる丸みを形成
(キ-4)後脚の角部の面取りの態様の差異について
イ号意匠 …キャスター部に向けて広くなる面取りを施し,丸みを帯びた態様
本件登録意匠…面取りがなく角張った態様

ウ.両意匠の類否判断
(ア)共通点の評価
両意匠の基本的構成態様における共通点は,本件登録意匠の出願前より一般的に見られる態様であり,本件登録意匠の登録に際しても評価された観点ということもできず,両意匠の類否判断に与える影響は少ない。
(イ)差異点の評価
一方,両意匠は天板を傾けて平行スタック可能なテーブルであることから,通常の使用時(設置時)のみならず,平行スタックをした収納時においても需要者は細部について注意を払い,また,支柱及び脚部はテーブル設置時や収納時に需要者が設置位置を確かめ,使用時に自分の足が当たるのを意識することから特に注意を払う部分であり,両意匠の具体的構成態様における差異点は,意匠全体の印象を大きく左右するものとなる。
(イ-1)天板における差異(イ.(ア))について
両意匠において天板の縦横比が異なるものの,この種テーブルにおいては,種々の構成比率を持った天板のサイズを展開するものであり,縦横比の差異は類否判断には影響しない。
(イ-2)幕板についての裏面側の差異(イ.(イ))について
天板を立てた収納時には目に付くものの,使用時には幕板の裏面側部分であまり目立たないことから,両意匠の類否判断に与える影響は限定的である。
(イ-3)棚及び天板傾斜用レバーにおける差異(イ.(ウ)及び(エ))について
棚は使用者が物を入れるときに確認し,かつ,天板傾斜時にははっきりと視認されることから目に付く箇所であり,また,操作レバーも天板を傾けたり水平にしたりするときに直接観察し,手に触れる箇所であり,操作性も含め,使用者が注目する箇所であることから,両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えるものである。
(イ-4)支柱における差異(イ.(オ))について,
支柱はテーブル設置時や収納時に使用者が設置位置を確かめ,使用時に自分の足が当たるのを意識することから注意を払う部分であり,非常に目につきやすい箇所でもあり,意匠全体の印象を左右するものであるが,支柱の角度の差異は全体としてみたときに微差であり,類否判断に与える影響は少ない。
一方,脚支柱上部に手提げ等を引っかけることができる円柱状のフックの有無は,需要者の使い勝手に影響するもので,類否判断に一定程度の影響を与えるものである。
(イ-5)前脚における差異について
a.前脚の支柱への取り付け角度の差異(イ.(カ-1))について
イ号意匠の方が本件登録意匠に対しやや傾きが小さく立った状態であるが,全体としてみたときには微差であり,類否判断に与える影響は少ない。
b.前脚の形状の差異(イ.(カ-2))について
イ号意匠では,断面略正方形状の前脚を支柱下端部に向けて緩やかに大きく湾曲させて接合させていることから,支柱と前脚が滑らかに接合し,一体的な印象を与えるのに対し,本件登録意匠では,断面略縦長長方形状の前脚を支柱下端部に向けて直線的に屈曲させて接合させており,部材をつなぎ合わせたような印象を与え,需要者に別異な印象を強く与える。
c.前脚の角部の面取りの態様の差異(イ.(カ-3))について
イ号意匠は,四角柱の上縁部に面取りを施し,キャスター部に向けて面取りの幅を次第に広くなるものとしており,全体として丸みを帯びた印象を与えるのに対し,本件登録意匠は面取りがされていなく,角張った印象であり,類否判断に与える影響は大きい。
(イ-6)後脚における差異について
a.後脚の太さの差異(イ.(キ-1))について
イ号意匠では,上方から見たときに,後脚の幅を支柱の幅と同幅で断面形状を略正方形状とし,キャスター部に向け次第に細くなる態様で,がっしりと堅牢な印象であるのに対し,本件登録意匠では,上方から見たときに,後脚の幅を支柱の幅の約半分程度で断面形状を略縦長長方形状とし,キャスター部に向け次第に細くなる態様で,スリムで華奢な印象を与え,需要者に別異な印象を強く与えるものとなっている。
b.後脚の支柱への取り付け位置の差異(イ.(キ-2))について
イ号意匠では,支柱下端の前側縁部から大きな丸みを持って後脚を接合し,後脚の上面に支柱が乗ったような態様となっているのに対し,本件登録意匠では,支柱下端の側面中央付近から後脚を緩やかな丸みを持って接合し,後脚が支柱に潜り込んだような印象を与え,両意匠の具体的な構成の差異を大きく特徴付けるものとなっている。
c.後脚の湾曲の態様の差異(イ.(キ-3))について
イ号意匠では,支柱前側縁部から後脚側面に大きく外側に張り出すようにアールでつなぎ,がっしりと堅牢な印象を与えるのに対し,本件登録意匠では,支柱下端の側面中央付近から後脚側面に緩やかに斜め後ろ方向に流れる丸みを形成し,繊細で華奢な印象を与え,上記b.の取り付け位置の差異から来る印象と相まって,需要者に別異な印象を強く与えるものとなっている。
d.後脚の角部の面取りの態様の差異(イ.(キ-4))について
イ号意匠は,四角柱の上縁部に面取りを施し,キャスター部に向けて面取りの幅を次第に広くなるものとしており,全体として丸みを帯びた印象を与えるのに対し,本件登録意匠は面取りがされていなく,角張った印象であり,類否判断に与える影響は大きい。
(ウ)類否判断
以上のように,両意匠の基本的構成態様における共通点は,本件登録意匠の出願前より一般的に見られる態様であり,本件登録意匠の登録に際しても評価された観点ということもできず,両意匠の類否判断に大きな影響を与えない。
一方,両意匠の具体的構成態様における差異点は,使用時及び平行スタックした収納時等に需要者が注目する部分における差異であり,各部の具体的態様における差異,特に需要者が強く注目する両意匠の支柱及び脚部の形状における差異は,両意匠の類否判断に大きな影響を与え,両意匠は特徴を異にする。
具体的構成態様における差異点の内,(イ-1),(イ-2)の天板や幕板の差異は類否判断にあまり影響を与えないものであるが,(イ-3)の天板傾斜用レバーの形状の差異や(イ-4)の脚支柱上部に手提げ等を引っかけることができる円柱状のフックの有無は,需要者の使い勝手に影響するもので,類否判断に一定程度の影響を与えるものである。
また,(イ-5)a.の前脚の角度の差異は類否判断に与える影響は小さいものの,その他(イ-5)のb.から(イ-6)のd.で述べた,前脚の形状や面取りの態様の差異,及び後脚の太さや支柱への取り付け部の態様における差異は,需要者に両意匠が別異なものと印象づける大きな要因となっており,特に,イ号意匠では,前脚が支柱へ大きく緩やかに湾曲して接合することから支柱と前脚との一体性が強く印象づけられ,また,後脚の支柱への取り付け部分の態様において,支柱下端の前側縁部から大きく外側に湾曲して張り出し,後脚に支柱が乗ったような印象を与えているのに対し,本件登録意匠では,前脚が支柱に直線的に屈曲して接合し,後脚は支柱下端の側面中央付近から斜め後ろ方向に緩やかに接合していることから,両意匠の構造に大きな差異が見て取れ,需要者に別異な印象を強く与えるものとなっている。
当該差異は,一般的な共通する基本的構成態様にあって,使用時にも収納時にも非常に目立つ部位における差異であり,両意匠の特徴の根幹をなし,支柱及び脚部における本件登録意匠の繊細で華奢なイメージとイ号意匠のがっしりと堅牢なイメージの印象が,両意匠全体の印象を左右するような大きな特徴となっている。
以上の点から,両意匠は,差異点が共通点を凌駕し,イ号意匠は本件登録意匠に類似しない意匠といわざるを得ない。

(3)むすび
よって,請求の趣旨のとおり,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない,との判定に与るよう希求する。

3.証拠方法
甲第1号証:被請求人からアイリスチトセ株式会社に届いた警告書の写し
甲第2号証:アイリスチトセ株式会社のWEBカタログの表紙,該当頁,裏表紙の写し
甲第3号証:関連意匠登録第1580036号のインターネット公報の写し
甲第4-1号証ないし甲第10号証:インターネット公報の写し
(なお,令和2年3月13日に提出された判定請求書に添付の証拠の内,甲第3号証の後の証拠には,「甲」の文字が無いが,それぞれ甲号証と認める。)

第3 被請求人の答弁
1.令和2年8月3日に提出の答弁書
(1)答弁の趣旨
ア.本案前の答弁の趣旨
本件判定請求を却下するとの決定を求める。

イ.請求の趣旨に対する答弁の趣旨
イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定を求める。

(2)答弁の理由
ア.本案前の答弁の理由
(ア)イ号意匠が不明であり本件登録意匠との対比ができない
請求人が判定請求書(当審注:令和2年12月1日にされた手続補正前の判定請求書のこと。以下,当該手続補正前の判定請求書及び「イ号意匠及び説明書」を,それぞれ,「補正前請求書」及び「補正前説明書」という。)に添付する補正前説明書は,いわゆる透視図法で表されているが,極めて窮屈なパース状となっており,イ号意匠の全体的形状及び各部の位置関係が正確に把握できず,本件登録意匠との対比ができない。
(イ)甲第2号証記載の意匠との間に齟齬が存在している
請求人は,補正前請求書において,「イ号意匠は請求人のグループ会社であるアイリスチトセ株式会社が,平成30年2月頃より,会議用テーブルCFT89Dの1860MTとして販売を開始したものである」と述べ,併せて同製品の写真を掲載したWEBカタログを甲第2号証として提出している。したがって,請求人は,同カタログ記載の意匠のうち最も大きく表された左上の写真の意匠(以下,この意匠を適宜「甲第2号証意匠」と称する。)とイ号意匠は同一の意匠と主張しているものと思われるが,補正前説明書に表されている意匠は,甲第2号証記載の意匠と食い違っている。
(ウ)本件判定請求の却下又はイ号意匠を表した図面の再提出の必要性について
イ号意匠と本件登録意匠の正確な対比はできないのであるから,合議体においては,本件判定の請求それ自体において補正不能な瑕疵があるとしてこれを却下するか,仮に補正は可能とするのであれば,少なくとも,請求人に対しイ号意匠を正しく表した図面の提出を命じいただきたい。
(エ)判定請求の必要性
現在,請求人と被請求人の間で進行している意匠権侵害に基づく訴外の交渉において類否判断の必要を特に生じているのは,補正前説明書に表されている意匠ではなく,甲第2号証意匠との関係についてである。つまり,甲第2号証意匠とは明確に異なる補正前説明書記載の意匠に関して特許庁の判定がされても,問題の解決には繋がらないのであり,これでは特許庁の中立的判断の活用によって紛争の解決を促さんとする判定制度の趣旨が全うされない。
この点を踏まえて本件判定請求の却下の当否等について判断賜りたい。

イ.請求の趣旨に対する答弁の理由
(ア)請求人主張の認否に関して
請求人は補正前請求書において,両意匠の共通点に加えて様々な差異点を列挙する。
本答弁書では本来その主張に対する認否をすべきであるが,補正前説明書記載の意匠は「前方が大きく後方が小さく写るパース状」となっており本件登録意匠との正確な対比ができない。
正確な対比が可能な図面が存在しない以上認否不能である。そのため被請求人は,請求人主張に基づき甲第2号証意匠とイ号意匠は同一の意匠と仮定し,対比が容易な甲第2号証意匠と本件登録意匠とを中心的に対比して,これらの共通点と差異点について述べる。
(イ)共通点と差異点について
A.共通点
a.幕板の横幅,取付位置及び取付方向における共通点
幕板も天板横幅とほぼその横幅が同一となって現れているように見える。加えて,同幕板は,天板の手前側端部からやや背面方向に奥まった位置に取り付けられており,天板に直交する方向(鉛直方向)に垂下している点において,甲第2号証意匠と本件登録意匠は共通している。
b.支柱及び脚の形状における共通点
甲第2号証意匠と本件登録意匠の支柱及び脚の形状は,以下の点において共通している。
すなわち,両意匠の支柱及び脚部は,ともに,
(a)断面矩形の材で成り,ほぼ全面的に面取りがなく角が目立ち,
(b)全体として倒Y字型であり,
(c)Y字の縦棒部分(支柱部分)が側面視において背面方向に傾斜しており,
(d)前後の脚の支柱への取付位置が床面からみて全高の約4割の程度の高さにあり,
(e)後脚が正面視において左右の外側に張り出しており,
(f)後脚がR面を介して支柱ないし前脚と接続しており,
(g)前脚後脚ともに先端に向かって漸次細くなり,
(h)前後の脚の先端が鉛直方向に屈曲してその先にキャスターが取り付けられている。
c.共通点に関する小括
以上のとおり,本件登録意匠と甲第2号証意匠とは,その幕板に関し,天板横幅とほぼその横幅が同一に現れ,天板の手前側端部からやや背面方向に奥まった位置に取り付けられており,天板に直交する方向に垂下している態様が,また,その支柱及び脚部における上記(a)?(h)の態様が,各々有機的に結合したその全体的形状において共通する。
B.差異点
両意匠は,棚の構成,レバー部の形状,フックの有無等においても異なっているようであるが,後述の理由により需要者による主たる観察のポイントとなる幕板と支柱及び脚部の形状に関しては,以下の点において異なっている。
(A)支柱と前脚の接続角度において異なり,
(B)幕板と支柱との間隔の大小において異なり(ただし,この差異は,支柱と前脚の接続角度の違いによって生じているものと推測され,それ故差異の由来自体は上記(A)と同じである。)
(C)後脚と支柱の接続部のR面の形状が異なり,
(D)前脚の支柱との接続部(脚の内側)の形状が異なり,
(E)前脚先端部の面取りの態様が異なる。
(ウ)類否判断
本件登録意匠について需要者は,その幕板に関し,天板横幅とほぼその横幅が同一となって現れ,天板の手前側端部からやや背面方向に奥まった位置に取り付けられており,天板に直行する方向に垂下している態様,そして,その支柱及び脚部における上記(a)?(h)の態様が,各々有機的に結合したその全体的形状に関して,その注意が強く惹かれるとするのが適当である。
かかる各構成が有機的に結合した形状は,斜め上方向から観察した際にとりわけ良く視認される形状であり,また,これに近似する公知意匠も存在していないから,本件登録意匠における新規な創作部分というべきものである。
本件登録意匠と甲第2号証意匠は,この点で共通している。
なお,幕板の横幅が天板横幅とほぼ同一であるという,幕板の構成に係る共通点は,これら物品の使用態様に照らして,決して軽視されるべきものではない。
一方,前記(A)?(E)の差異点については以下のとおりである。
差異点(A):支柱と前脚の接続角度における差異は,全体の中では微差にすぎない。実際,登録第1580036号意匠はこの点において差異があるにもかかわらず本件登録意匠の関連意匠として登録されている。このことからしても,被請求人の主張が正当であることは明白である。なお,登録第1580036号意匠における支柱と前脚の接続角度は,補正前説明書の左右側面図を見る限り,甲第2号証意匠のそれとほぼ同等である。
差異点(B)幕板と支柱との間隔の大小の差も,主として支柱と前脚の接続角度の違いに由来する差とみられ,上記と同じ理由により需要者の注意を強くひく差とはならない。
差異点(C)後脚と支柱の接続部のR面の形状が異なる点は,全体の中での限られた部位での差異にすぎず,しかもR面という共通性の中に埋没する程度の差異である。
差異点(D)前脚の支柱との接続部(脚の内側)の形状が異なる点は,需要者による通常の観察方法を踏まえれば,わざわざ脚の裏側を覗き込まなければ確認できないような差異であって,しかも物品の使い勝手に影響する差異でもない。需要者の注意を強く惹くものとはなり得ない。
差異点(E)前脚先端部の面取りの態様が異なる点も,脚部先端の極く僅かな部分における差異である。全体意匠である本件登録意匠においてそのような極く僅かな部分の差異が全体の類否判断に及ぼす影響は軽微である。その他,棚の構成やレバー部の形状等に係る差異は,主として天板裏の差異であって需要者の注意を引く程度は低い。まして極く部分的な側部におけるフックの有無のみによって前記共通性が凌駕されることはあり得ない。
すなわち,本件登録意匠と甲第2号証意匠の差異点は,いずれも部分的で軽微なものにすぎないというべきであり,両意匠の共通点を凌駕するに足るものではないから,需要者に起こさせる美感を共通にし,両意匠は類似する。

(3)むすび
以上のとおり,本件判定の請求を却下するか,或いは,答弁の趣旨のとおり,イ号意匠(当審注:甲第2号証意匠のこと。)は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定を求める。

(4)証拠方法
乙第1号証は,令和元年10月10日付請求人宛書簡の写しを示す。
乙第2号証は,平成16年9月15日東京高等裁判所判決の写しを示す。
乙第3号証は,平成17年5月23日知的財産高等裁判所判決の写しを示す。
乙第4号証は,平成29年1月11日知的財産高等裁判所判決の一部の写しを示す。

2.令和3年2月22日に提出の答弁書
(1)答弁の理由
ア.手続補正書の内容について
請求人は,令和2年12月1日付け提出の上申書において,「イ号意匠が『CFT89D-1260MT』であること」は明らかと主張する。併せて,甲第2号証は「イ号意匠である『CFT89D-1260MT』が会議用テーブルCFT89の一仕様として販売された事実を示すための証拠」であるとも主張する。
しかしながら,甲第2号証として提出されたカタログ記載の意匠と,令和2年12月1日付け提出の手続補正書(以下,単に「手続補正書」と称する。)に添付された「イ号意匠及び説明書」に記載されている意匠(以下,「補正後イ号意匠」と称する。)との間には齟齬がある。

イ.補正後イ号意匠と本件登録意匠の類否について
被請求人は,補正後イ号意匠と本件登録意匠に係る類否に関して,先に提出した答弁書の記載をすべて援用するとともに,以下では,答弁書では言及していない新たな差異点についてのみ意見を述べる。
(ア)天板のサイズ差
補正後イ号意匠と本件登録意匠とでは,天板の縦横比において差異がある。
しかし,この点については,請求人自らも述べるように,「この種テーブルにおいては,種々の構成比率を持った天板サイズを展開するものであり,縦横比の差異は類否判断に影響しない」とすべきものである。
本件登録意匠に関しても,これを本意匠として,そのサイズ違いの意匠を関連意匠として登録している(意匠登録1580036号)。
両意匠の天板のサイズ差は,これらの類否判断に影響を与えるものではない。
(イ)化粧板の違い
この種テーブルにおいては,天板が無地のものも木目調のものもありふれている。両意匠の化粧板に係る差は,これらの類否判断に影響を与えるものではない。
なお,物品は異なるものの,同じ家具類であるソファの分野において,無地のソファと柄物のソファが類似するものとして登録されている(乙第7号証)。
(ウ)小括
補正後イ号意匠と本件登録意匠とは,令和2年8月3日付け提出の答弁書において述べた理由により,互いに類似するとすべきものである。
また,同答弁書では言及していない,補正後イ号意匠と本件登録意匠との間の新たな差異点についても,天板のサイズ差や化粧板の柄の違いは,この種物品名分野におけるごくありふれた範囲での差異に過ぎず,上記結論を左右しないものと思料する。

(2)むすび
答弁の趣旨のとおり,イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するとの判定を求める。

(3)証拠方法
乙第5号証は,アイリスチトセ株式会社の商品カタログ「Office & Contract General Catalogue 2018-2019」の第101頁(http://www.irischitose.co.jp/digitalcatalog/general-catalog2018/からダウンロードしたもの)の写しを示す
乙第6号証は,アイリスチトセ株式会社の商品カタログ「Office & Contract General Catalogue 2021」の表紙,第230頁,第231頁及び奥付(http://www.irischitose.co.jp/digitalcatalog/general-catalog2021/からダウンロードしたもの)の写しを示す
乙第7号証は,意匠登録第1492805号及び同第1481937号掲載の意匠広報の一部写しを示す。

第4 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は,その願書及び願書に添付した図面によれば,意匠に係る物品を「テーブル」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下,形状,模様又は色彩の結合を「形態」という。)は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものである(別紙第1参照)。
そして,本件登録意匠については,以下の点を認めることができる。

(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は,テーブルである。

(2)本件登録意匠の形態
ア.基本的構成態様
(ア)全体は,天板,幕板及び脚部から成るものである。
(イ)天板は,薄い長方形平板である。
(ウ)幕板は,ごく薄い長方形平板である。
(エ)脚部は,四角柱を基本とする支柱と前後の脚から成るものであって,支柱下端から前後に分岐する脚を設けたもので,側面視において全体として倒Y字型であり,脚の先端にはキャスターが付けてある。

イ.具体的構成態様
(ア)天板
(ア-1)テーブルの使用時において,天板の少し下に棚を設けている。
(ア-2)天板の四隅に,小さな丸みを持たせてある。
(ア-3)天板の縦:横の比率は,約1:3である。
(ア-4)天板は,無模様であり,その色は,明るいクール・グレー(「クール・グレー(cool grey)」とは,寒色系の灰色のこと。)である。
(イ)幕板
(イ-1)幕板の横幅を天板の横幅とほぼ同一としている。
(イ-2)幕板は,天板の先端部からやや背面側に奥まった位置に取り付けてある。
(イ-3)幕板は,鉛直方向に垂下している。
(イ-4)幕板の,表面には横筋目模様を施しており,裏面にも横筋目模様を施している。
(イ-5)幕板の色は,中程度の明るさのウォーム・グレー(「ウォーム・グレー(warm grey)」とは,暖色系の灰色のこと。)である。
(ウ)脚部
(ウ-1)前後の脚が支柱へ取り付けてある位置が,床面から全高の約4割の程度の高さである。
(ウ-2)前脚と後脚の長さの比率は,約4:6である。
(ウ-3)後脚が,支柱より左右の外側に張り出している。
(ウ-4)後脚がR面を介して支柱下端に接続している。
(エ)支柱
(エ-1)支柱は,鉛直より後ろ側に約5度傾いている。
(エ-2)支柱上端には,天板を支える接続部及び天板傾斜用のレバー(以下,単に「レバー」という。)を設けている。
(エ-3)支柱の色は,幕板と同じ中程度の明るさのウォーム・グレーである。
(オ)前脚
(オ-1)床面に対する前脚の傾斜角度は,約45°である。
(オ-2)前脚の断面形状は,縦長長方形である。
(オ-3)前脚の高さと横幅は,先端に向かって次第に小さくなっている。
(オ-4)前脚と支柱との接合部については,前面が屈曲しており,後ろ側は,支柱下端を5分の1ほど残した,支柱前側約5分の4の部分が斜め下に向けて屈曲して前脚となっている。
(オ-5)前脚の前端は下に折れ曲がり,鉛直方向の細長い円柱状部分を設けている。
(オ-6)前脚の色は,支柱と同じ中程度の明るさのウォーム・グレーである。
(カ)後脚
(カ-1)後脚の断面形状は,縦長長方形である。
(カ-2)後脚の高さと横幅は,先端に向かって次第に小さくなっている。
(カ-3)後脚と支柱との接合部については,支柱の前後幅中央から,鈍角で始まり,放物線状の曲線で外側に張り出して後ろへと向かって後脚となっている。
(カ-4)後脚の後端は下に折れ曲がり,鉛直方向の細長い円柱状部分を設けている。
(カ-5)後脚の色は,支柱と同じ中程度の明るさのウォーム・グレーである。
(キ)棚
(キ-1)棚の左右の横幅は,左右支柱間の長さとほぼ同じである。
(キ-2)3本の細い棒を前後に配置して棚としている。
(キ-3)棚の色は,暗いクール・グレーである。
(ク)接続部
(ク-1)接続部は,側面視によると略直角三角形状であって,直角三角形の斜辺に当たる部分で天板を支えている。短い方の隣辺(「隣辺」とは,直角三角形の,直角を挟む2辺のこと。)が前方,長い方の隣辺が後方としている。
(ク-2)接続部の色は,棚と同じ暗いクール・グレーである。
(ケ)レバー
(ケ-1)レバーは,細い棒状で,根元部分が円形で,接続部側面に設けている。
(ケ-2)レバーの色は,棚と同じ暗いクール・グレーである。
(コ)キャスター
キャスターの色は,黒色に近いクール・グレーである。

2.イ号意匠
イ号意匠は,令和2年12月1日に提出された手続補正書の別添2の「イ号意匠及び説明書」によれば,以下のとおりである(別紙第2参照)。

(1)意匠に係る物品
本件判定請求書に添付した「イ号意匠及び説明書」には,イ号意匠の意匠に係る物品について記載がないが,請求書の記載内容も含めて勘案すると,イ号意匠の意匠に係る物品は,テーブルである。
なお,この点について,被請求人は反対意見を述べていない。

(2)イ号意匠の形態
ア.基本的構成態様
(ア)全体は,天板,幕板及び脚部から成るものである。
(イ)天板は,薄い長方形平板である。
(ウ)幕板は,ごく薄い長方形平板である。
(エ)脚部は,四角柱を基本とする支柱と前後の脚から成るものであって,支柱下端から前後に分岐する脚を設けたもので,側面視において全体として倒Y字型であり,脚の先端にはキャスターが付けてある。

イ.具体的構成態様
(ア)天板
(ア-1)テーブルの使用時において,天板の少し下に棚を設けている。
(ア-2)天板の四隅に,小さな丸みを持たせてある。
(ア-3)天板の縦:横の比率は,約1:2である。
(ア-4)天板は,木目調の模様が施してあり,その色は,明るい薄茶色である。
(イ)幕板
(イ-1)幕板の横幅を天板の横幅とほぼ同一としている。
(イ-2)幕板は,天板の先端部からやや背面側に奥まった位置に取り付けてある。
(イ-3)幕板は,鉛直方向に垂下している。
(イ-4)幕板の,表面には横筋目模様を施しており,裏面は無模様である。
(イ-5)幕板の色は,黒色である。
(ウ)脚部
(ウ-1)前後の脚が支柱へ取り付けてある位置が,床面から全高の約4割の程度の高さである。
(ウ-2)前脚と後脚の長さの比率は,約3:7である。
(ウ-3)後脚が,支柱より左右の外側に張り出している。
(ウ-4)後脚がR面を介して支柱下端に接続している。
(エ)支柱
(エ-1)支柱は,鉛直より後ろ側に約10度傾いている。
(エ-2)支柱上端には,レバーを設けている。なお,天板を支える接続部は,レバーに隠れていて不明である。
(エ-3)支柱上端部に円柱状のフックを設けている。
(エ-4)支柱の色は,中程度の明るさのウォーム・グレーである。
(オ)前脚
(オ-1)床面に対する前脚の傾斜角度は,約50°である。
(オ-2)前脚の断面形状は,略正方形である。
(オ-3)前脚の高さと横幅は,先端に向かってほとんど変わらない。
(オ-4)前脚と支柱との接合部については,前面が大きな半径の曲線で緩やかにつながっており,後ろ側は,支柱下端を残さずに斜め下に向けて屈曲して前脚となっている。
(オ-5)前脚の上面角は,前端に向かって徐々に広くなる面取りを施し,端部は半円状に丸くなっている。
(オ-6)前脚の色は,支柱と同じ中程度の明るさのウォーム・グレーである。
(カ)後脚
(カ-1)後脚の断面形状は,略正方形である。
(カ-2)後脚の高さと横幅は,先端に向かって次第に小さくなっている。
(カ-3)後脚と支柱との接合部については,外側面は,支柱の前面からつながって始まり,円弧状の曲線で外側に張り出して後脚の外側面となっており,内側面は,支柱の後面からつながって始まり,円弧状の曲線で外側に張り出して後脚の内側面となっていることから,後脚と支柱との接合部は上方から見たときに扇面状になっている。
(カ-4)後脚の上面角は,後端に向かって徐々に広くなる面取りを施し,端部は面取り面と共に,半円状に丸くなっている。
(カ-5)後脚の色は,支柱と同じ中程度の明るさのウォーム・グレーである。
(キ)棚
(キ-1)棚の左右の横幅は,左右支柱間の長さとほぼ同じである。
(キ-2)2本の細い棒を前後に配置して棚としている。
(キ-3)棚の色は,暗いクール・グレーである。
(ク)接続部
接続部は,レバーに隠れていて不明である。
(ケ)レバー
(ケ-1)レバーは,側面を波形に湾曲させた大きな箱形である。
(ケ-2)レバーの色は,支柱と同じ中程度の明るさのウォーム・グレーである。
(コ)キャスター
キャスターの色は,黒色に近いクール・グレーである。

3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
(1)意匠に係る物品の対比
本件登録意匠に係る物品も,イ号意匠に係る物品も,共に「テーブル」である。

(2)両意匠の形状の対比
両意匠の形状を対比すると,以下に示す主な共通点と相違点が認められる。
(2-1)共通点について
ア.基本的構成態様
(ア)全体は,天板,幕板及び脚部から成るものである。
(イ)天板は,薄い長方形平板である。
(ウ)幕板は,ごく薄い長方形平板である。
(エ)脚部は,四角柱を基本とする支柱と前後の脚から成るものであって,支柱下端から前後に分岐する脚を設けたもので,側面視において全体として倒Y字型であり,脚の先端にはキャスターが付けてある。
イ.具体的構成態様
イ-1.天板
(オ)テーブルの使用時において,天板の少し下に棚を設けている。
(カ)天板の四隅に,小さな丸みを持たせてある。
イ-2.幕板
(キ)幕板の横幅を天板の横幅とほぼ同一としている。
(ク)幕板は,天板の先端部からやや背面側に奥まった位置に取り付けてある。
(ケ)幕板は,鉛直方向に垂下している。
(コ)幕板の,表面には横筋目模様を施している。
イ-3.脚部
(サ)前後の脚が支柱へ取り付けてある位置が,床面から全高の約4割の程度の高さである。
(シ)前脚と後脚の長さを比べると,後脚の方が長い。
(ス)後脚が,支柱より左右の外側に張り出している。
(セ)後脚がR面を介して支柱下端に接続している。
イ-4.支柱
(ソ)支柱は,鉛直より後ろ側に傾いている。
(タ)支柱上端には,レバーを設けている。
(チ)支柱の色は,中程度の明るさのウォーム・グレーである。
イ-5.前脚
(ツ)前脚は,床面に対して傾斜している。
(テ)前脚の断面形状は,四角形である。
(ト)前脚の色は,支柱と同じ中程度の明るさのウォーム・グレーである。
イ-6.後脚
(ナ)後脚の断面形状は,四角形である。
(ニ)後脚の高さと横幅は,先端に向かって次第に小さくなっている。
(ヌ)後脚の色は,支柱と同じ中程度の明るさのウォーム・グレーである。
イ-7.棚
(ネ)棚の左右の横幅は,左右支柱間の長さとほぼ同じである。
(ノ)細い棒を前後に配置して棚としている。
(ハ)棚の色は,暗いクール・グレーである。
イ-8.キャスター
(ヒ)キャスターの色は,黒色に近いクール・グレーである。

(2-2)相違点について
両意匠を対比すると,具体的構成態様において,以下の相違点が認められる。
(A)天板
(A-1)天板の縦:横の比率につき,本件登録意匠は,約1:3であるのに対して,イ号意匠は,約1:2である。
(A-2)天板の模様につき,本件登録意匠は,無模様であるのに対して,イ号意匠は,木目調の模様である。
(A-3)天板の色彩につき,本件登録意匠は,明るいクール・グレーであるのに対して,イ号意匠は,明るい薄茶色である。
(B)幕板
(B-1)幕板の裏面につき,本件登録意匠は,裏面に横筋目模様を施しているのに対して,イ号意匠は,無模様である。
(B-2)幕板の色彩につき,本件登録意匠は,中程度の明るさのウォーム・グレーであるのに対して,イ号意匠は,黒色である。
(C)脚部
前脚と後脚の長さの比率につき,本件登録意匠は,約4:6であるのに対して,イ号意匠は,約3:7である。
(D)支柱
(D-1)支柱の傾きの角度につき,本件登録意匠は,鉛直より後ろ側に約5度であるのに対して,イ号意匠は,約10度である。
(D-2)接続部の有無につき,本件登録意匠は,支柱上端に設けているのに対して,イ号意匠は,不明である。
(D-3)フックにつき,本件登録意匠は,設けていないのに対して,イ号意匠は,支柱上端部に円柱状のものを設けている。
(E)前脚
(E-1)床面に対する前脚の傾斜角度につき,本件登録意匠は,約45°であるのに対して,イ号意匠は,約50°である。
(E-2)前脚の断面形状につき,本件登録意匠は,縦長長方形であるのに対して,イ号意匠は,略正方形である。
(E-3)前脚の高さと横幅につき,本件登録意匠は,先端に向かって次第に小さくなっているのに対して,イ号意匠は,先端に向かってほとんど変わらない。
(E-4)前脚と支柱との接合部につき,本件登録意匠は,前面が屈曲しており,後ろ側は,支柱下端を5分の1ほど残した,支柱前側約5分の4の部分が斜め下に向けて屈曲して前脚となっているのに対して,イ号意匠は,前面が大きな半径の曲線で緩やかにつながっており,後ろ側は,支柱下端を残さずに斜め下に向けて屈曲して前脚となっている。
(E-5)前脚の前寄りの形状につき,本件登録意匠は,下に折れ曲がり,鉛直方向の縦長円柱状部分を設けているのに対して,イ号意匠は,前脚の上面角に前端に向かって徐々に広くなる面取りを施し,端部は半円状に丸くなっている。
(F)後脚
(F-1)後脚の断面形状につき,本件登録意匠は,縦長長方形であるのに対して,イ号意匠は,略正方形である。
(F-2)後脚と支柱との接合部につき,本件登録意匠は,支柱の前後幅中央から,鈍角で始まり,放物線状の曲線で外側に張り出して後ろへと向かって後脚となっているのに対して,イ号意匠は,外側面は,支柱の前面からつながって始まり,円弧状の曲線で外側に張り出して後脚の外側面となっており,内側面は,支柱の後面からつながって始まり,円弧状の曲線で外側に張り出して後脚の内側面となっていることから,後脚と支柱との接合部は上方から見たときに扇面状になっている。
(F-3)後脚の後寄りの形状につき,本件登録意匠は,下に折れ曲がり,鉛直方向の縦長円柱状部分を設けているのに対して,イ号意匠は,後脚の上面角は,後端に向かって徐々に広くなる面取りを施し,端部は面取り面と共に,半円状に丸くなっている。
(G)棚
棚の配置している細い棒の本数につき,本件登録意匠は,3本を配置しているのに対して,イ号意匠は,2本を配置している。
(H)接続部
接続部の形状につき,本件登録意匠は,側面視によると略直角三角形状であって,直角三角形の斜辺に当たる部分で天板を支えている。短い方の隣辺が前方,長い方の隣辺が後方としているのに対して,イ号意匠は,不明である。
(I)レバー
(I-1)レバーの形状につき,本件登録意匠は,細い棒状で,根元部分が円形で,接続部側面に設けているのに対して,イ号意匠は,側面を波形に湾曲させた大きな箱形である。
(I-2)レバーの色につき,本件登録意匠は,暗いクール・グレーであるのに対して,イ号意匠は,中程度の明るさのウォーム・グレーである。

4.類否判断
イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するか否かについて,すなわち,両意匠が類似するか否かについて,検討する。

(1)意匠に係る物品の類否判断
両意匠の,意匠に係る物品は,共に「テーブル」であって,一致している。

(2)両意匠における形態の評価
ア.共通点について
共通点(ア)ないし(ウ)及び(カ)については,この物品分野においてはありふれた形状であって,両意匠のみの特徴とはいえず,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
共通点(エ),(ク)ないし(コ),(シ)ないし(タ),(ツ),(テ),(ナ)及び(ニ)については,この種,折りたたんでスタック収納が可能なテーブル(以下「スタックテーブル」という。)においては,ありふれた形状であって,両意匠のみの特徴とはいえず,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
共通点(キ)については,複数のテーブルを横方向に連接した際に,幕板同士の間に隙間が生まれず,前方からの視線に対して下肢が隠れるという利点が生じるものであって,それは商品の訴求力を高めるもので,類否判断において着目される部分と認められるが,意匠登録第1396352号(甲第4-1号証),意匠登録第1439748号(甲第5-1号証),意匠登録第1440754号(甲第6号証),意匠登録第1187737号(甲第7号証)及び意匠登録第1475021号(甲第9号証)の意匠など,本件登録意匠の出願前より数多く見受けられる形状であるから,両意匠のみの特徴とはいえず,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
共通点(オ),(ネ)及び(ノ)については,この種スタックテーブルにおいては,棚の付いているものも,棚の付いていないものも,本件登録意匠の出願前より見受けられるところ,棚のついている場合は,おおむね棚の横幅は,左右支柱間の長さとほぼ同じものであるから,両意匠のみの特徴とはいえず,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
共通点(サ)については,本件登録意匠の出願前より見受けられる形状であるから,両意匠のみの特徴とはいえず,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
共通点(チ),(ト),(ヌ),(ハ)及び(ヒ)の各部における色彩の共通点については,この種物品分野においては,各シリーズにカラーバリエーションと称して各色をそろえて商品展開することが通常行われているところ,この種物品分野において特徴的な色彩ではなく,ありふれた色彩であるから,両意匠のみの特徴とはいえず,両意匠の形態の類否判断に与える影響は小さい。

イ.相違点について
相違点(A-1)は,この種物品においては,商品展開するにあたって種々の構成比率を持った天板サイズを用意するものであり,天板の縦横比の相違は両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
相違点(A-2)は,この種物品においては,天板が無地のものも木目調のものもありふれていることより,両意匠の天板に係る相違は,両意匠の形態の類否判断に与える影響は小さい。
相違点(B-1)は,使用時及び収納時ともに目に付きにくい箇所の相違であるから,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
相違点(C)は,僅かな差であるから,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
相違点(D-1)は,両意匠を並べて,その部分のみを注目して初めて分かる程の小さな差であるから,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
相違点(D-2)は,相違点(H)及び(I-1)と相まって,折り畳み収納時に操作する部分及びその近辺の相違であるから,両意匠の形状の類否判断に与える影響は一定程度認められる。
相違点(D-3)は,使い勝手が異なるといえども,使用時には見えづらい箇所の小さな部品の有無という相違であり,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
相違点(E-1)は,両意匠を並べて,その部分のみを注目して初めて分かる程の小さな差であるから,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
相違点(E-2)は,相違点(E-3),(E-5),(F-1)及び(F-3)と相まって,本件登録意匠は,細くて角張った印象を与えるのに対して,イ号意匠は,太くて丸みを帯びた印象を与えるものであるから,両部分において別異の印象を生じさせ,両意匠の形状の類否判断に与える影響は大きい。
相違点(E-4)は,テーブルの使用時には見えづらい箇所ではあるが,スタック収納する際にはあらわになる箇所の相違であるところ,本件登録意匠では,前脚と支柱が別部材であって,それらの別部材をつなぎ合わせたような印象を与えるのに対して,イ号意匠は,前脚と支柱とが一体的な印象を与えるから,相違点(E-4)は需要者に別異の印象を与えると認められ,両意匠の形状の類否判断に与える影響は大きい。
相違点(F-2)は,本件登録意匠は,華奢でスマートな印象を与えるのに対して,イ号意匠は,支柱と後脚との接合部分が大きく,堅牢な印象を与えるから,両意匠において別異の印象を生じさせる。
そして,テーブルを複数台,スタック収納するとき,この両意匠において別異の印象を生じさせる相違点(F-2)が前後に連続して表れることから,相乗効果を伴って別異の印象が表れると推認されるから,両部分の形状の類否判断に与える影響は大きい。
相違点(G)は,使用時には見えづらい箇所の相違であり,両意匠の形状の類否判断に与える影響は小さい。
相違点(A-3),(B-2)及び(I-2)の各部における色彩の相違点については,この種物品分野においては,各シリーズにカラーバリエーションと称して各色をそろえて商品展開することが通常行われているところ,この種物品分野において特徴的な色彩ではなく,ありふれた色彩であるから,両意匠に別異の印象を与える程の相違とはいえず,両意匠の形態の類否判断に与える影響は小さい。

(3)小括
そうすると,両意匠の形態については,その共通点及び相違点の評価に基づくと,上記のとおり,共通点は,類否判断に及ぼす影響は小さいものであるのに対して,相違点(E-2)ないし(E-5)及び(F-1)ないし(F-3)によって類否判断に及ぼす影響は大きいものといえるものであり,両意匠の形態は,類似するとは認められないものである。

(4)両意匠における類否判断
以上のとおり,本件登録意匠とイ号意匠を対比した場合,意匠に係る物品が一致している。
しかし,両意匠の形態については,上記(3)のとおり,類似するとは認められないものである。
よって,本件登録意匠とイ号意匠とは類似するとはいえない。

第5 結び
以上のとおりであるから,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
別掲

判定日 2021-05-26 
出願番号 意願2016-23576(D2016-23576) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZA (D7)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松下 香苗 
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 正田 毅
橘 崇生
登録日 2017-06-02 
登録番号 意匠登録第1579853号(D1579853) 
代理人 五味 飛鳥 
代理人 原田 雅美 
代理人 川越 弘 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ