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審決分類 審判 査定不服  2項容易に創作 取り消して登録 J7
管理番号 1380994 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2022-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-30 
確定日 2021-10-26 
意匠に係る物品 薬剤投与デバイス 
事件の表示 意願2020− 13462「薬剤投与デバイス」拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は,登録すべきものとする。
理由 第1 事案の概要

1 手続の経緯
本願は,令和2年(2020年)7月1日の意匠登録出願であって,同年12月21日付けの拒絶理由の通知に対し,令和3年(2021年)1月27日に意見書が提出されたが,同年3月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年6月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願意匠の願書及び添付図面の記載
本願は,物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願であって,その意匠は,意匠に係る物品を「薬剤投与デバイス」とし,その形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)を,願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり(以下「本願意匠」という。),部分意匠として意匠登録を受けようとする部分を,「実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」(以下「本願部分」という。)としたものである(別紙第1参照)。

3 原査定の拒絶の理由及び引用した意匠
原査定の拒絶の理由は,本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られ,頒布された刊行物に記載され,又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった形状等又は画像に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するとしたものであって,具体的には,以下のとおりである。
「この意匠登録出願の意匠に係る『薬液注入デバイス』の分野においては,ベース部分の上面を,平面視円形とし,正面視において,左右端に向けて緩やかに下がる弧状とすることは,例えば,下記の意匠1においてみられるように,本願出願前より見受けられます。
そうすると,本願出願前に公然知られた薬液注入デバイス下部のベース部分の上面を,平面視円形とし,正面視において,左右端に向けて緩やかに下がる弧状としたにすぎない本願の意匠は,当業者であれば,容易に創作することができたものです。

意匠1(当審注:別紙第2参照)
特許庁発行の公開特許公報記載
特開2018−108449
【図20b】【図20c】【図20d】に表された薬液注入デバイスの意匠」

第2 当審の判断

本願意匠の意匠法第3条第2項の該当性について,すなわち,本願意匠の出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)であれば容易に本願意匠の創作をすることができたか否かについて,以下検討し,判断する。
1 本願意匠の認定
(1)意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は,輸液等を患者に投与するための皮下注射に使用される「薬剤投与デバイス」である。

(2)本願部分の用途及び機能
本願部分の用途及び機能は,その下面部分に針部材が設けられた薬剤投与デバイスの本体部分(以下「本体部」という。)と一体的になるように接合して設けられた,本体部を保持し,本体部を皮膚に密着することができる弾性素材からなる部分(以下「固定部」という。)における,皮膚と密着して固定する機能を有する部分である。

(3)本願部分の位置,大きさ及び範囲
本願部分の位置,大きさ及び範囲は,薬剤投与デバイスの下部に位置する固定部において,略円形凹溝部分(以下「凹溝部」という。)の外周上端部から外に向かって略鍔状に拡がる周辺部分(以下「周辺部」という。)の上面及び外周側面部分をその位置,大きさ及び範囲とするものである。

(4)本願部分の形状等
ア 本願部分は,本体部と一体的に接合し,その中央部分には2段の段差によって上方に向かって縮径していく略円筒形状の本体部の支持部分(以下「本体支持部)という。)を設け,本体支持部の周囲には断面視略直角台形状で平面視略円形帯状の凹溝部を形成し,凹溝部分の外側には略鍔状に拡がる周辺部を形成した構成からなる固定部における,周辺部の上面部分(以下「上面部」という。)及び外周側面部分(以下「側面部」という。)の形状であって,
イ 本願部分の上面部の具体的な形状を,その平面視を略中空円形状とし,その断面視を凹溝部上端部外周側から側面部に向かって外に向かってわずかに湾曲しつつ下に傾斜する曲面形状としたものであり,側面部の具体的な形状を,僅かな幅の垂直な円筒形状としたものであって,固定部の半径と上面部の幅の比を約2.8:1とし,固定部と側面部の高さの比を約4:1とした構成比率のものである。

2 原査定の拒絶の理由における引用意匠の認定
原査定における拒絶の理由で引用された,意匠1の意匠に係る物品及び形状等は,概要以下のとおりである。
以下,対比のため,本願意匠の図面における正面,平面等の向きを,意匠1にもあてはめることとする。
(1)意匠1
引用意匠1は,特許庁が平成30年(2018年)7月12日に発行した公開特許公報に記載された,特開2018−108449における【図20b】【図20c】【図20d】に表された「薬液注入デバイス」の意匠である。
また,引用意匠1の本願部分に相当する部分の形状等は,その切り欠いた下面部中央部分に挿入器針を有するセットを格納したチュービング接続部の上面部及び側面部の形状であって,該部位の具体的な形状は,上面部の形状を,平面視略中空円形状とし,断面視を側面部に向かって外に向かって大きく湾曲しつつ下に傾斜する曲面形状とし,側面部の形状を上面部となだらかに連続する曲面形状としたものであって,チュービング接続部の半径と上面部の幅の比を約1.6:1としたものである。

3 本願意匠の創作容易性の判断
まず,本願部分の上面部の形状を,その平面視を略中空円形状とし,その断面視を側面部に向かって外に向かって湾曲しつつ下に傾斜する曲面形状としたものは,意匠1で示したように公然知られた形状等であるといえる。
また,側面部の形状を,僅かな幅の垂直な円筒形状としたものも,原審が拒絶査定で示した特開2020−014853にあるように公然知られた形状等であるといえる。
しかしながら,本願意匠に係る物品は,その下面部分に針部材が設けられた薬剤投与デバイスの本体部と,それを保持し固定する固定部を連結して一体的に連結して形成した従来には見られない構成態様をもつ薬剤投与デバイスであって,その穿刺時に,本体部下面部分に突出して設けられた針部材が,皮膚に一定の深さ以上に穿刺しないように本体部の移動を抑制し,薬剤投与時に,本体部を皮膚に固定する機能を発揮するために,固定部の形状を,その中央部分に,本体部を下から支持するための弾性素材からなる変形可能な本体支持部を立設し,この本体支持部の周囲に,本体部を押下した際に本体部の下端部分を固定し保持するための凹溝部を形成し,この凹溝部の周囲に,固定部底面部分を皮膚と密着させるための略鍔状の周辺部を形成する構成としたものである。
そうすると,本願部分の創作は,本体支持部及び凹溝部の適切な形状やそれらの部位が固定部全体に占める割合等を考慮しつつ,固定部の半径と上面部の幅や,固定部と側面部の高さの比率といった点を決定した上で創作されたものであるから,本願意匠のように本体部と固定部を連結し支持する本体支持部や,本体部の移動を抑制し固定する凹溝部の形成について考慮する必要のない意匠1に,本願部分と同様な上面部の形状が存在していたとしても,その形状を固定部の周辺部の形状に適用することがありふれた手法であるとはいうことはできず,本願部分の形状は,要求される機能を満たすために,当業者が格別の創意・工夫を施して創作したものであると認められる。
したがって,本願部分の形状,つまり本願意匠における固定部の上面部及び側面部の形状は,この薬剤投与デバイスの分野において独自の着想によって創出したといえるものであるから,本願意匠は,当業者が意匠1の公然知られた形状等に基づいて容易に本願意匠の創作をすることができたものということはできない。

第3 むすび

以上のとおりであって,本願意匠は,原審が示した理由によっては意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当しないものであるから,原査定の拒絶の理由によって本願を拒絶すべきものとすることはできない。

また,当審において,更に審理した結果,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。

別掲




審決日 2021-10-05 
出願番号 2020013462 
審決分類 D 1 8・ 121- WY (J7)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 江塚 尚弘
渡邉 久美
登録日 2021-11-09 
登録番号 1700775 
代理人 宗助 智左子 
代理人 鈴木 行大 
代理人 松井 宏記 

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