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審決分類 審判    L7
管理番号 1385264 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2022-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2021-04-21 
確定日 2022-05-16 
意匠に係る物品 点検路用桁材 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1674236号「点検路用桁材」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯

本件意匠登録第1674236号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、令和2年(2020年)8月26日に意匠登録出願(意願2020−17858)されたものであって、同年11月11日付けで登録査定がなされ、同年11月18日に意匠権の設定の登録がされた後、同年12月7日に意匠公報が発行さ、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。

令和3年 4月21日付け 審判請求書の提出
同年 7月21日付け 審判答弁書の提出
同年11月 1日付け 審判事件弁駁書の提出
同年12月 8日付け 審理事項通知書の送付
同年12月24日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
令和4年 1月13日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年 1月27日 口頭審理
同年 1月27日付け 上申書(被請求人)
同年 2月 7日付け 上申書(被請求人)
同年 2月21日付け 上申書(請求人)

第2 請求の趣旨及び理由

請求人は、令和3年(2021年)4月21日付けで審判請求書を提出し、「登録第1674236号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と請求し、その理由として、要旨以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、甲第1号証乃至甲第26号証を提出した。(以下、下線は請求人による。)

1 請求の理由

(1)本件登録意匠
意匠登録第1674236号意匠(以下「本件登録意匠」という。)
意匠に係る物品「点検路用桁材」(別紙1から3参照)

(2)手続の経緯
出願 令和2年8月26日
早期審査に関する事情説明書提出 令和2年9月16日
新規性の喪失の例外証明書提出書提出 令和2年9月17日
登録 令和2年11月18日
掲載公報発行 令和2年12月7日

(3)登録無効の理由の要点
本件登録意匠は、出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の意匠(以下、甲号意匠という)と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。

(4)本件意匠登録を無効とすべき理由
ア 本件登録意匠の要旨
本件登録意匠は、別紙1及び3の意匠登録第1674236号の意匠公報並びに願書及び添付図面に記載のとおり、意匠に係る物品を「点検路用桁材」とし、その形態は以下に示すとおりとしたものである。
(ア)意匠に係る物品について
a 本件登録意匠は、意匠に係る物品を「点検路用桁材」とし、意匠に係る物品の説明において、下記の記載がある。
「本物品は橋梁等の構造体に設置して、構造体の点検や補修等の作業を行う際の足場として使用される点検路において、足場板を架設するために左右一対で用いられる桁材である。本物品を備えた点検路によれば、手摺支柱を取り付ける場合(使用状態を示す参考正面図1の左右両側等)及び手摺支柱を取り付けない場合(使用状態を示す参考正面図2及び同参考斜視図の各右側)のいずれにおいても、本物品の巾木取付部に巾木をボルト・ナットで取り付けることができる。また、巾木を取り付けない場合(使用状態を示す参考正面図3の右側)には、本物品の巾木取付部に足場仮押さえ板をボルト・ナットで取り付けることができる。」
b 本件登録意匠に係る物品の使用目的、使用状態について
点検路用桁材は点検路を構成する部材である。点検路用桁材が使用時に視認される態様は以下である。
(a)本件登録意匠公報記載事項に示された使用状態時の目に触れる部分
本件登録意匠の意匠に係る物品の説明及び添付図面に記載の参考図(使用状態を示す参考正面図1から3、使用状態を示す参考斜視図、巾木の取付構造を示す参考分解斜視図及び巾木の取付構造を示す参考一部切欠き斜視図)によれば、本物品は、左右一対で用いられ、使用状態を示す参考正面図1においては、左右の各桁材は、外側に手摺支柱がボルトで止められ、内側に横支材が止められ、上面は段状であり、段部下段で床材(足場板)を支持し、段部上段(上面突出面)は巾木で覆われる。使用状態においては、左右側面側、底面側が足場外観に表れるが、上面側は上部の段差が側板の高さに影響するが、上部突出部の巾木が取り付けられる部分の具体的態様は外観に表れず、通常目に触れない([図1])。使用状態を示す参考正面図2及び3においては、各右側(壁側)に手摺支柱を取り付けない場合、巾木を取り付けない場合が例示されているが、手摺支柱を取り付けた場合と同様、左右側面側、底面側が足場外観に表れるが、上面側は上部の段差が側板の高さに影響するが、上部突出部の巾木が取り付けられる部分の具体的態様は外観に表れず、通常目に触れない。

[図1](当審注:図1省略)

(b)本件登録意匠に係る物品の実施製品が示す使用状態
本件登録意匠に係る物品の実施製品の意匠が、株式会社ゴウダのウェブサイトに記載されている。当該ウェブサイトは、本件登録意匠の「意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための証明書(3)」に添付の令和2年3月26日に掲載された株式会社ゴウダのウェブサイトに表された記事と同一内容であり、[図2]に示す写真が掲載されている。写真によれば、使用状態において、上部段差は側板の高さに影響するが、上面側の巾木取付部の上面の具体的態様は巾木に覆われてほとんど視認できない(甲第2号証)。
また、当該掲載記事では、[図2]のように〔2〕及び〔3〕の写真が示され、検査路(本資料では点検路を検査路と称している)に関し、〔2〕軽量・施工性が高い、〔3〕歩行性が良い、と説明している。当該〔2〕について、「各部材はボルトレール構造により、手摺や支柱の位置、ブラケット受点位置が自在になり現場合わせが容易です。」と記載し、本物品の手摺側のボルトレールを示す部分拡大写真を掲載している。しかしながら、巾木取付部に巾木をボルト・ナットで取り付けることができる点に関する説明は特に記載されていない。

[図2](当審注:図2省略)

(イ)形態について
本件登録意匠の各部位を説明する図を甲第3号証の1[説明図1]に示す。以下に述べる本件登録意匠の形態について、基本的構成態様及び各部の具体的構成態様に関する一覧を参考に添付する(甲第4号証の左欄)。
A 基本的構成態様
(A)中空の押出形材であり、上板部、下板部、左右側板部及び四隅に配された溝構成部より成る桁材であり、突出段状の上板部と水平面状の下板部の間に垂直面状の左右側板部があり、四隅に同形のボルト用溝(ボルトレール)が配されている上部突出段部を有する略角筒体である。
(B)上部突出段部を有する略角筒体は、正面視において、下記の(i)から(v)の構成態様を有する。
(i)上板部は、左側(外側)に上方に突出する巾木取付部があり、最上面が水平面状であり、右側(内側)は段差を設けて、床材(本件登録意匠には足場板とある)を取り付ける、平坦面状の床材載置部が形成され、
(ii)左側板部の上端(巾木取付部の左側面)には、上部溝構成部と巾木取付部を形成する上板部により形成されるボルト用溝が配され、下端には、下部溝構成部と下板部により形成されるボルト用溝が配され、
(iii)右側板部には、上部溝構成部と床材載置部を形成する上板部により形成されるボルト用溝が配され、右側板部の下端には、下部溝構成部と下板部により形成されるボルト用溝が配され、
(iv)下板部は水平な平坦面状とし、
(v)各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部と面一に連結する水平補強板部を設けた構成態様としている。
B 各部の具体的構成態様
(C)上板部について
正面視において、上板部の巾木取付部は、最上面の左端から右方向に、全幅の略1/3の幅の水平面部があり、左端下方は左側板部の上部にボルト用溝が形成されている。上板部の上記水平面部の右方に上方へ開口する細幅の小溝が設けられている。巾木取付部の右側板部(突出部右側板部)は、巾木取付部の右端部から下方へ、奥側へ段状に幅狭となる小溝の形状に沿って僅かに段状の垂直板状とし、床材載置部とのコーナー部を斜直線状に面取りして形成し、床材載置部である水平面となる。
仔細にみると、当該小溝は、開口部にリップ(係止部)付きの溝で、巾木を取り付けるナットが挿入される部分よりその下方のボルトネジ部が収まる部分は段状に幅狭となる溝形状としている。その開口部は四隅に配されたボルト用溝の開口部の略1/2の細い幅である。
(D)左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップ(係止部)がついた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の高さ)は全高の略1/10強である。当該各ボルト用溝は、手摺支柱を取付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側からみると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部際から、長手方向に並行して2本の幅広の溝が表れる。
(E)右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝も、開口部にリップ(係止部)がついた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の高さ)は全高の略1/10強で、当該各ボルト用溝は、横支材を取付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側からみると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部際から、長手方向に並行して2本の幅広の溝が表れる。
(F)中空部について
中空部について、正面視において、全高の略1/5の部位に水平補強板部が形成されている。
(G)上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上板部の段差について
上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状全体の構成比について、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は略1/2強の略縦長長方形で、上板部の突出部の最上面と床材載置部との段差は、全高を1とすると略1/5強である。
イ 甲号意匠の要旨
甲号意匠は、本件登録意匠出願前の平成25年9月17日に意匠公報に掲載された登録第1479735号意匠であって、当該意匠公報に記載のとおり、意匠に係る物品を「点検通路用梁材」とし、その形態は以下に示すとおりとしたものである。
(ア)意匠に係る物品について
a 甲号意匠は、意匠に係る物品を「点検通路用梁材」とし、意匠に係る物品の説明において、下記の記載がある。
「本物品は、橋梁等の構造物に付設される点検通路に使用される梁材である。使用状態を表す参考正面図、参考B−B線断面図及び使用状態を表す参考左側面図に示すように、本物品の側面には、横梁や手摺用の支柱が接合され、本物品の上面には、床材が載置される。」
b 甲号意匠に係る物品の使用目的、使用状態について
点検通路用梁材は点検通路を構成する部材である。点検通路用梁材が使用時に視認される態様は以下である。
(a)甲号意匠登録公報記載事項に示された使用状態時の目に触れる部分
甲号意匠登録公報記載の意匠に係る物品の説明及び、添付図面に記載の使用状態を示す参考正面図、参考B−B線断面図及び使用状態を表す参考左側面図によれば、本物品は、使用状態においては、外側に手摺支柱がボルトで止められ、内側に横支材(甲号意匠においては横梁と称している)が止められ、底面はそのまま外観が表れ、上面は段部で床材を支持し、上面突出面は巾木で覆われる。したがって、使用状態においては、左右側面側及び底面側が外観に表れるが、上面側は上部の段差が側板の高さに影響するが、上部突出部の巾木が取り付けられる部分の具体的態様は外観に表れず、通常目に触れない[図3]。

[図3](当審注:図3省略)

(b)甲号意匠に係る物品の実施製品が示す使用状態
甲号意匠に係る物品の実施製品の意匠が、日軽エンジニアリング(株)のウェブサイトに記載されており、[図4]に示す写真が掲載されている。これらによれば、甲号意匠は、使用状態においては、左右側面側及び底面側が外観に表れるが、上面側は上部の段差が側板部の高さに影響するが、上面側の巾木取付部の上面は巾木に覆われるためその具体的態様は外観に表れず、ほとんど視認できない(甲第5号証)。
また、当該掲載記事において、アルミ合金製検査路の特長として、「・施工性が良い」として、「各々の部材はボルトレール構造により、手摺や支柱位置、ブラケット受点位置が自在となり、現場での位置調整が可能です。」と記載されている。

[図4](当審注:図4省略)

また、甲号意匠は、2013年3月4日に出願し、その後、同年4月に国土交通省によって運営されているNETIS(新技術情報提供システム)にこれを使用する検査路として登録している。平成28年には、千葉県のウェブサイトにおいて、公共事業に関する「提案された技術の一覧」に平成28年10月24日から11月29日の公募期間に提案された技術として公表されている(作成日平成28年11月25日)。当該公表においても、本物品の特徴と検査路の写真が掲載されているので、参考に示す([図5]及び甲第6号証)。

[図5](当審注:図5省略)

(イ)形態について
甲号意匠の各部位を説明する図を甲第3号証の1[説明図2]に示す。以下に述べる甲号意匠の形態について、基本的構成態様及び各部の具体的構成態様に関する一覧を参考に添付する(甲第4号証の右欄)。
A 基本的構成態様
(a)中空の押出形材であり、上板部、下板部、左右側板部及び四隅に配された溝構成部より成る桁材であり、突出段状の上板部と水平面状の下板部の間に垂直面状の左右側板部があり、四隅に同形のボルト用溝(ボルトレール)が配されている上部突出段部を有する略角筒体である。
(b)上部突出段部を有する略角筒体は、正面視において、下記の(i)から(v)の構成態様を有する。
(i)上板部は、左側(外側)に上方に突出する巾木取付部があり、最上面が水平面状であり、右側(内側)は段差を設けて、床材を取り付ける、平坦面状の床材載置部が形成され、
(ii)左側板部の上端(巾木取付部の左側面)には、上部溝構成部と巾木取付部を形成する上板部により形成されるボルト用溝が配され、下端には、下部溝構成部と下板部により形成されるボルト用溝が配され、
(iii)右側板部には、上部溝構成部と床材載置部を形成する上板部により形成されるボルト用溝が配され、右側板部の下端には、下部溝構成部と下板部により形成されるボルト用溝が配され、
(iv)下板部は水平な平坦面状とし、
(v)各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部と面一に連結する水平補強板部を設けた構成態様としている。
B 各部の具体的構成態様
(c)上板部について
正面視において、上板部の巾木取付部は、最上面は全幅の略1/3の幅の水平面部とし、左側面側には左側板部上部にボルト用溝が形成されている。巾木取付部の右側板部(突出部右側板部)は、巾木取付部の右端部から下方へ、垂直板状とし、床材載置部とのコーナー部を凹小曲面状に面取りして形成し、床材載置部である水平面となる。
仔細にみると、床材載置部は、凹小曲面状部から、床材を置く位置決めがしやすいように、僅かに下方へ段差を設けている。
(d)左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部の上下に配されたボルト溝は、開口部にリップ(係止部)がついた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の高さ)は全高の略1/10強である。当該各ボルト用溝は、手摺支柱を取付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側からみると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部際から、長手方向に並行して2本の幅広の溝が表れる。
(e)右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝も、開口部にリップ(係止部)がついた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の高さ)は全高の略1/10強で、当該各ボルト用溝は、横支材(甲号意匠においては横梁と称している)を取付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側からみると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部際から、長手方向に並行して2本の幅広の溝が表れる。
(f)中空部について
中空部について、正面視において、全高の略1/5の部位に水平補強板部が形成されている。
(g)上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上板部の段差について
上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状全体の構成比について、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は略1/2強の略縦長長方形で、上板部の突出部の最上面と床材載置部との段差は、全高を1とすると略1/5強である。
ウ 先行周辺意匠等の摘示
(ア)橋梁用点検通路に関する中空押出形材に関し、上板部、下板部が水平面で、左右側板部が垂直面であるとの基本的構成態様を有し、左右側板部にはボルト用溝が設けられている桁材の先行例が、特許公報に示されている。しかしながら、甲号意匠に係る登録第1479735号意匠の公報発行日(平成25年9月17日)前には、甲号意匠が示すような、巾木取付部として使用する突出段状の上板部を有した基本的構成態様、すなわち、上部突出段部を有する略角筒体であって左右側板部にはボルト用溝が設けられている桁材の存在を示すものは無い。
橋梁用点検通路に関して、横架材である桁材、梁材は、通路を長手方向に支える水平材であって、上方からの荷重を受ける。施工性に優れ、安全性のある通路を提供するために、構成部材を中空の押出形材で製作することが、1989年以降、発明され、出願、公開されている(1989年5月17日公開、特開平1−125404号公報 甲第7号証)。当該特許公開公報以降、本件登録意匠の意匠登録出願前に公開された桁材、梁材全体の外観を示している公知の文献は以下である。
〔1〕特開2000−352015号公報 公開日2000年12月19日([図6]及び甲第8号証)
橋梁下部常設通路の発明であり、部品点数の削減と床板の薄肉軽量化を可能にし、工事現場での施工を容易に行うことを目的とする。主梁は中空の押出材製である。上板と下板は側板より厚いが、押出成形なので、容易に形成される。後掲【図6】における主梁の断面図に示されるように、外観的には、端面に表れる上板、下板、左右側板で略長方形状が形成され、左右側板には複数のボルト用溝が適宜配されている。

[図6](当審注:図6省略)

〔2〕意匠登録第1448666号公報 発行日2012年8月13日([図7]及び甲第9号証)
点検通路用梁材に関し、中空の押出形材で形成され、略長方形の端面(断面)を表し、上板部と下板部は左右側板部より厚い。断面四隅にボルト用溝が配されている。

[図7](当審注:図7省略)

〔3〕特開2013−231305号公報 公開日2013年11月14日([図8]及び甲第10号証)
本件は、上記〔2〕の意匠に対応する特許出願であり、2016年1月22日に登録された特許第5872957号であり、その発行日は2016年3月1日である。
発明の名称は、橋梁用点検通路であり、課題は、施工性に優れた橋梁用点検通路の提供である。押出形材製の一対の主梁と複数の副梁及び複数の床材とを備える。
一対の主梁の一方は、中空の押出形材で形成され、略長方形の端面(断面)を表し、上板部と下板部は左右側板部より厚い。断面四隅にボルト用溝が配されている。

[図8](当審注:図8省略)

〔4〕本件登録意匠の「早期審査に関する事情説明書」の3.先行意匠調査において列挙された先行意匠(甲第11号証)
本件登録意匠の意匠権者が、早期審査を申請した際に提出した「早期審査に関する事情説明書」の3.先行意匠調査において、先行意匠1から先行意匠34が挙げられている。甲第11号証は、これらの先行意匠を一覧表にしたものである。これらの甲号意匠(先行意匠1)以外の先行意匠において、甲号意匠のような巾木取付部として使用する突出段状の上板部を有した基本的構成態様すなわち上部突出段部を有する略角筒体であって左右側板部の上下にボルト用溝が設けられている意匠は存在しない。
〔5〕「道路橋検査路設置要領(案)」(平成18年(2006年)3月発行 国土交通省作成)の抜粋([図9]及び甲第12号証)
一般に、点検通路(以下、道路橋検査路設置要領(案)に基づき「検査路」という。)を発注するのは、高速道路会社等である(施主)。発注を受けてその工事を請け負う施工業者は、国土交通省発行の「道路橋検査路設置要領(案)」等に示された基準を前提に、設置する。したがって、「道路橋検査路設置要領(案)」に基づき製品開発が行われている。
「道路橋検査路設置要領(案)」(平成18年(2006年)3月発行 国土交通省作成)において、検査路の標準構造は、第19頁の2.2基本構造に示されており、第24頁の2.4構造細目において、「歩廊桁は溝形鋼を標準とし、・・・」と記載されている。そして、具体的に、第19頁に以下の[図9]のような構造図(図−2.1)が示されている。なお、下記[図9]の右図は、本稿において、左図の側面図下部を拡大したものである。これらの資料から、歩廊桁(本件登録意匠においては点検路用桁材、甲号意匠においては点検通路用梁材)には溝形鋼が使用されているのが標準であったことが示されている。

[図9](当審注:図9省略)

(イ)巾木(爪先板)を上面から梁材に固定することは一般的な技術である。
例えば、踏板を支持する梁材の上面に溝を設けることで、踏板を位置調整自在に受梁に固定することができるという考え方は、その実施例とともに本件登録意匠出願前に示されていた。これら公知の文献及び実施例図は以下である。
〔6〕特開平1−125404(特公平4−49604)号公報 公開日1989年5月17日([図10]及び甲第7号証)
発明の名称は、アルミニュウム合金製橋梁用常設点検通路装置であり、作用として、「受梁に溝を切り、この溝を利用して踏板を位置調整自在に受梁に固定する構造としたので、踏板の受梁への固定が位置と角度の制約を受けない。」とある。
〔7〕特開2007−198026号公報 公開日 2007年8月9日([図10]及び甲第14号証)
発明の名称は、二重床構造であり、課題は、機器類を容易に設置できる二重床構造の提供である。
梁の上面にボルト用溝が設けられている図が示されている。

[図10](当審注:図10省略)

〔8〕 第4回FRP複合構造・橋梁に関するシンポジウム2012年11月2日09:30−11:05セッション2で発表された「道路橋FRP検査路の振動使用性」の2.検査路の構造に掲載の写真6、振動測定の実施状況を示す写真に表れる検査路に、巾木の上からボルトで止められた床部が確認できる([図11]及び甲第13号証の1及び2)。

[図11](当審注:図11省略)

〔9〕平成29年1月付け「平成28年度アルミニウム製検査路に関する技術資料作成報告書」([図12]及び甲第15号証)
[図12](報告書第8−39頁)に記載の写真を示すように検査路において床材が上面からボルトで固定されていることが確認できる。詳細は、第2−18頁及び第8−38頁から第8−40頁に赤矢印で示す写真を参照。

[図12](当審注:図12省略)

〔10〕特開2017−40113号公報 公開日2017年2月23日 ([図13]及び甲第16号証)
本件は、鉄骨構造物の張出通路の発明であり、片持足場の設置及び撤去を安全で短時間に行える張出通路を提供することにあり、図3の一部を省略した張出通路の設置時の斜視図に示されるように、設置された足場板(31)において、幅木(33)が足場板の主桁(31a)の上面に金具で止められた態様が示されおり、足場板等において、桁材の上面に巾木を固定することは公知であったことが示される。

[図13](当審注:図13省略)

(ウ)小溝の形状について
本件登録意匠の小溝の形状について、以下のように、ナットとボルトのネジ部が挿入される溝内部の形状が奥側に幅狭となる二段状とした溝形状は、以下の先行公知意匠に見られる([図14])。
〔11〕米国意匠特許第465035号公報 公開日2002年10月29日(甲第17号証)
〔12〕特開2007−198026号公報 公開日2007年8月9日(上掲の〔7〕甲第14号証)
〔13〕意匠登録第1202574号公報(甲第18号証)

[図14](当審注:図14省略)

(エ)上部の突出部右側板部と床材載置部のコーナー部の形状処理について
本件登録意匠の上部の突出部右側板部と床材載置部のコーナー部ついて、斜直線状とした態様は、この種の物品に限らず広く建築分野において普通に行われている柱等の構成部位材の角処理、例えば、切り面、匙面の面取り態様である(甲第19号証)。また、板体がはめられる枠材等の内側のコーナー部を斜直線状の面取り状とすることは、以下の本件登録意匠の出願前に公知の登録意匠に見られる([図15]及び[図16])。
〔14〕株式会社彰国社、2000年11月10日発行の「建築大辞典第2版<普及版>」第1637頁掲載の用語「めん[面]」に関する記載及び図(甲第19号証)。
〔15〕意匠登録第658165号公報(甲第20号証)
〔16〕意匠登録第1346642号公報(甲第21号証)

[図15](当審注:図15省略)
[図16](当審注:図16省略)

(オ)押出形材の意匠における参考登録意匠及び関連意匠登録例
押出形材の意匠において、本件登録意匠と具体的用途は異なるものの、扉のような板材が当接する入口用枠材に係る意匠に関し、意匠登録第1500329号と意匠登録第1500665号は、コーナー部の形状(下図矢印参照)及びその先端の緩衝材取付部の形状に差異があるが、互いに類似すると判断され、意匠登録第1500665号が意匠登録第1500329号の関連意匠として登録されている。これらが類似するとの判断例から、一般的に、対比する2つの意匠において、全体の基本的構成態様が共通する場合、外観として見える部分であっても、コーナー部等の態様の差異は、類否判断に与える影響は小さいと判断されているといえる([図17])。
〔17〕意匠登録第1500329号公報(甲第22号証)
〔18〕意匠登録第1500665号公報(甲第23号証)

[図17](当審注:図17省略)

(カ)本件登録意匠に係る意匠の出願直前に公開された特許出願について
本件登録意匠の出願日である2020年8月26日より約18か月前の2019年2月22日に出願された発明であって、2020年8月31日に公開された発明が示す実施形態からは、歩廊桁材の上面に溝が設けられているか否かは専らコストの問題であるとの考え方が伺える。
〔19〕特開2020−133301号公報 公開日2020年8月31日([図18]及び甲第24号証)
本件は、発明の名称を点検路とする特許出願であり、甲号意匠に係る登録第1479735号意匠の公報発行日である2013(平成25)年9月17日より前にはなかった突出段状の上板部、水平面の下板部及び垂直面の左右側板部を基本的構成態様とし、左右側板部四隅にはボルト用溝が設けられた外観を示す図を第3の実施形態として含め、当該第3の実施形態に加えて、上板部に細幅溝部がある具体的構成態様を示す外観を第1及び第2の実施形態としている。
明細書の[0032]に[第3の実施形態]について、「この実施形態の点検路は、以下の点を除いて、図1乃至図9に示す第1の実施形態の点検路(1)と実質的に同一である。」と記載されている。
ちなみに、当該特許公報では、先行技術文献として特開2013−231305号公報を掲載している。この特開公報に係る出願は、2016年1月22日に登録され(特許第5872957号)、2016年3月1日に発行されており、特許権者は、甲第1号証に係る登録第1479735号意匠の意匠権者と同一である。

[図18](当審注:図18省略)

エ 本件登録意匠と甲号意匠との対比
両意匠に係る物品について
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「点検路用桁材」、甲号意匠は「点検通路用梁材」としている。物品の表記は異なるが、共に、橋梁等の構造物に設置して、点検等の作業を行う検査路に使用される歩廊桁として使用される点で物品の用途及び機能が共通し、意匠に係る物品が共通する。
両意匠の形態について
両意匠は次の上板部の一部における差異点を除いて、その余の構成態様において共通する。下記[図19]、甲第3号証の2及び甲第3号証の3に記載の本件登録意匠と甲号意匠の対比図(対比図1)、及び両意匠の実施製品意匠での対比図(対比図2)参照。
(ア)共通点

[図19](当審注:図19省略)

A 基本的構成態様
(A)−(a)
中空の押出形材であり、上板部、下板部、左右側板部及び四隅に配された溝構成部より成る桁材であり、突出段状の上板部と水平面状の下板部の間に垂直面状の左右側板部があり、四隅に同形のボルト用溝(ボルトレール)が配されている上部突出段部を有する略角筒体である。
(B)−(b)
上部突出段部を有する略角筒体は、正面視において、下記の(i)から(v)の構成態様を有する。
(i)上板部は、左側(外側)に上方へ突出する巾木取付部があり、最上面が水平面状であり、右側(内側)は段差を設けて、床材を取り付ける、平坦面状の床材載置部が形成され、
(ii)左側板部の上端(巾木取付部の左側面)には、上部溝構成部と巾木取付部を形成する上板部により形成されるボルト用溝が配され、下端には、下部溝構成部と下板部により形成されるボルト用溝が配され、
(iii)右側板部の上端(床材載置部の下)には、上部溝構成部と床材載置部を形成する上板部により形成されるボルト用溝が配され、右側板部の下端には、下部溝構成部と下板部により形成されるボルト用溝が配され、
(iv)下板部は水平な平坦面状とし、
(v)各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部と面一に連結する水平補強板部を設けた構成態様としている。
B 各部の具体的構成態様のうち以下の点で共通する。
(C)−(c)上板部について
正面視において、巾木取付部は、最上面は全幅の略1/3の幅の水平面部とし、左側面側には左側板部の上部にボルト用溝が形成されている。巾木取付部の右端部から下方へ、当該垂直板状とし、床材載置部とのコーナー部を面取りして形成し、床材載置部である水平面となる。
(D)−(d)左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップ(係止部)がついた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の高さ)は全高の略1/10強である。当該各ボルト用溝は、手摺支柱を取付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側からみると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部際から、長手方向に並行して2本の幅広の溝が表れる。
(E)−(e)右側板部及びその上下のボルト溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝も、開口部にリップ(係止部)がついた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の高さ)は全高の略1/10強で、当該各ボルト用溝は、横支材を取付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側からみると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部際から、長手方向に並行して2本の幅広の溝が表れる。
(F)−(f)中空部について
中空部について、正面視において、全高の略1/5の部位に水平補強板部が形成されている。
(G)-(g)上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上板部の段差について
上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状全体の構成比について、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は略1/2強の略縦長長方形で、上板部の突出部の最上面と床材載置部との段差は、全高を1とすると略1/5強である。
(イ)差異点
(C)−(c)上板部について
(i)上板部左側突出部の小溝の有無
本件登録意匠は、突出部の右側に上方へ開口する細幅の小溝を設け、突出部右側板部は、小溝の形状に沿って僅かに段状の垂直板状としているのに対して、甲号意匠は、突出部右側板部は段状ではなく、突出部に上方へ開口する小溝を有していない。(図20 図示(i))
(ii)上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部の形状の差異
本件登録意匠は、突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部を斜直線状に面取りして形成して床材載置部へつながるのに対して、甲号意匠は、突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部を凹小曲面状に面取りして形成し、僅かに段差を設けて床材載置部へつながる。(図20 図示(ii)

[図20](当審注:図20省略)

オ 本件登録意匠と甲号意匠との類否
本件登録意匠と甲号意匠は、基本的構成態様が共通し、各部の具体的構成態様において上板部の一部の差異を除き、その余の構成態様において共通する。
以下に述べるように、これらの共通する構成態様は、両意匠の類否判断を決定する支配的要素となるものである。一方、差異点は、いずれも部分的かつ細部的変更にすぎず、部分的な改変を加えたものとの印象を需要者(取引者を含む)に与えるにすぎず、本件登録意匠の特徴を超えて別異の視覚的印象を与える程のものということはできない。
したがって、本件登録意匠は、甲号意匠に類似することは明らかである。
本件登録意匠の出願時に適用される現行の特許庁意匠審査基準において、第2章第1節新規性 2.2において類否判断の基本的な考え方が示されている。(甲第25号証)。当該意匠審査基準の2.2.1は下記に引用するように判断主体が需要者(取引者を含む)と示し、また、その後の項目である2.2.2.6は以下のように記載するので引用する。その上で当該意匠審査基準に則して本件について述べる。特に、下記に関する審査基準の考え方に基づき、以下、共通点及び差異点について述べる。

(当審注:意匠審査基準省略)

(ア)両意匠の共通点について
両意匠は意匠に係る物品が共通する。
その形態について、エ(ア)で共通するとした基本的構成態様、すなわち、中空の押出形材で、上板部、下板部、左右側板部及び四隅に配された溝構成部より成る桁材であり、突出段状の上板部と水平面状の下板部の間に垂直面状の左右側板部があり、四隅に同形のボルト用溝(ボルトレール)が配されている上部突出段部を有する略角筒体とし、正面視において、(i)上板部が左側(外側)に上方に突出する巾木取付部の最上面が水平面状であり、右側(内側)は段差を設けて平坦面状の床材載置部が形成され、(ii)左側板部の上端には、上部溝構成部と上板部により形成されるボルト用溝が配され、下端には、下部溝構成部と下板部により形成されるボルト用溝が配され、(iii)右側板部には、上部溝構成部と床材載置部を形成する上板部により形成されるボルト用溝が配され、右側板部の下端には、下部溝構成部と下板部により形成されるボルト用溝が配され、(iv)下板は水平な平坦面状とし、(v)各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、水平補強板部を設けた構成態様は、前記ウ(ア)で述べたように、甲号意匠の出願前には見られない特徴的構成態様である。さらに、エ(ア)Bで述べた各部の具体的構成態様が相まって、両意匠の共通感を一層強めている。
上記共通する構成態様を両意匠の正面図において示すと以下の[図21]のようになる。[図21]において、淡青色で着色した部分が共通する部分である。当該図で明らかなように、両意匠の共通点は、両意匠に係る物品全体のほとんどを占めている。

[図21](当審注:図21省略)

当該共通する構成態様は、以下で述べるように、甲号意匠の出願前に存在しない、甲号意匠の骨格的かつ特徴的構成態様である。
甲号意匠は、点検通路の梁材(歩廊桁材)において、ボルトレール構造を採用し、従来製品より一層の軽量化、施工性の向上を図るとともに、検査路に使用された際の作業環境における美感及び橋梁等の構造物の景観面からの美感を考慮して、新規な歩廊桁の意匠を創作したものである。
具体的には、梁材の左右側板の各上下端にボルトレールを配し、梁材の上部に段差を設けて床材載置部を形成し、床材を床材載置部に安定的に載置しつつ、床材と梁材上面が面一に収まるようにして、梁材と床材が組み立てられた際の通路全体の高さを低く抑え、中空部下方にはボルト溝構成部と面一に連結する水平補強板部を設け、各板部の厚さを薄くしつつも強度を維持できる均整のとれた構成とし、梁材全体をスリムですっきりした外観にまとめあげたものである。また、巾木(爪先板)を歩廊桁の上に載せる構造とすることで、梁材と床材を組み立てたユニットの状態で現場へ搬入し、現場で、巾木を当該ユニットの上から容易に固定することができるようにしたもので、外観上は、梁材の最上面に水平面状の巾木取付部を設けた点に表れる。
当該共通する構成態様について、甲号意匠の前記ウ(ア)において提示した押出形材による桁材の全体形状に着目して挙げられた先行公知意匠を左から右へ古い順に並べると以下の[図22]のようになる。本件登録意匠と甲号意匠に共通する構成態様、すなわち、上部突出段部を有する略角筒体であって左右側板部にはボルト用溝が設けられている桁材の存在を示すものは、甲号意匠の出願前の意匠には全く見られない甲号意匠の特徴的構成態様であることが[図22]から明らかである。本件登録意匠は甲号意匠の特徴的構成態様を有しているのである。

[図22](当審注:図22省略)

したがって、前記の意匠審査基準2.2.2.6(1)(a)に基づくと、上記共通する構成態様は両意匠に係る物品全体のほとんどを占める骨格的かつ特徴的構成態様であり、視覚的印象に与える影響は極めて大きく、両意匠の類否判断を左右する支配的な要素となるものである。
(イ)両意匠の差異点について
一方、差異点について、以下に述べるように、いずれも、この種物品分野において普通に行われているありふれた細部的変更にすぎず、需要者(取引者を含む)である、施主及び施工業者に部分的なありふれた改変をした程度との印象を与えるにすぎず、上板部の局部的な部分における、使用状態においてはほとんど視認できない部分の差異であり、類否判断に与える影響は微弱なものにすぎない。
A 上板部左側突出部の小溝の有無について
本件登録意匠は、突出部の右側に、上方へ開口する小溝が設けられており、当該小溝は、巾木を取り付けるナット及びボルトネジ部が挿入されるものであるが、前記ウ(イ)で挙げた〔6〕から〔10〕に示すように、巾木(爪先板)を上面から梁材に固定することは一般的な技術であり、また、(ウ)〔12〕((イ)〔7〕)に示すように梁材の上面に、ナット及びボルトネジ部が挿入される上方へ開口する溝を設けることも公知の技術である。
さらに、本件登録意匠の小溝の形状についても、前記ウ(イ)〔11〕から〔13〕に示すように、ナット及びボルトネジ部が挿入される溝の形状として普通に見られるものであり、小溝の右側面部の形状についても、小溝の形状に沿って僅かに段状の垂直板状とした態様についても普通に見られるもので、本件登録意匠のみの特徴ではない。仔細にみると、上掲の〔11〕から〔13〕の溝は、本件登録意匠と溝部と段状の溝幅、高さに若干の差異があるが、これらはナット及びボルトネジの大きさにより適宜変更されるものであり意匠的な特徴を有するものではない。
したがって、この種物品分野において技術的必要性に応じて普通に行われているありふれた細部的変更の範囲であるため、意匠的にも部分的なありふれた改変をした程度との印象を需要者(取引者を含む)である、施主及び施工業者に与えるにすぎない。

[図23](当審注:図23省略)

B 上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部の形状の差異について
本件登録意匠の、上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部を斜直線状とした態様は、ウ〔14〕に示すように、建築分野において、普通に角面(切り面)と称される面取り手法にもとづくありふれた態様であり、枠材等のコーナー部を、その内側に取り付けられる部材とスムーズに接合するために、角面(切り面)に面取りした態様は、具体的な用途は異なるものの、例えば、前記ウ〔15〕、〔16〕で挙げた意匠登録第651865号(甲第20号証)及び意匠登録第1346642号(甲第21号証)にも見られるありふれた態様である。

[図24](当審注:図24省略)

このように観察すると、上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部の形状について、円弧状(匙面)にしたか斜直線状(切り面)としたかは突出部の一部の局部的な差異であり、面取り状部の右方に僅かな段差を設けたか否かについても、いずれも床材を嵌めやすくし、一定の間隔を空けて固定するための傾斜部を形成したとの共通する態様の範囲内における機能的な面からの細部的変更にすぎず、需要者(取引者を含む)に格別別異の視覚的印象を与える程のものではない。
上記A及びBの差異は、これらを総合しても、[図21]において淡青色で着色されていない、上板部の一部における僅かな部分の差異であり、桁材の意匠全体に占める割合は極めて小さい。
また、前記(4)ア(ア)b(b)で述べたように、甲第2号証に示す本件登録意匠の実施意匠が掲載された写真では、桁材上面の巾木取付部について格別特徴を示す図は示されておらず、製品説明においても、桁材に関し巾木取付部に巾木をボルト・ナットで取り付けることができる点に関する説明は特に記載されていないことから、需要者(取引者を含む)が上記差異点である上面の巾木取付部の小溝の有無等に強く関心をもって観察する部位とはいえない。
しかも、(4)アの本件登録意匠の要旨(ア)(b)及びイの甲号意匠の要旨(ア)(b)で述べたように、使用状態においては、上面の巾木が取り付けられる部分の差異は巾木で覆われ、ほとんど視認できない部分における差異であるから、流通時にのみ視覚観察される部位が注意を引く程度は小さい。
なお、特許公報において記載されているように、この種検査路は、現場での施工を容易に行えるように、すべて又はユニットの組み立てを工場で行い、組み立てた状態で搬送し、現場で施工することが多い(特開2013−231305号公報第9頁[0045] 甲第10号証)、特開2019−157469公報第7頁[0024](甲第26号証))。このような流通状態からすると、需要者(取引者を含む)が上面の巾木取付部に格別強く注意を引くことはほとんどない。
前記の意匠審査基準2.2.2.6(2)(a)意匠全体に占める割合についての評価に基づくと、両意匠の差異点は、桁材の意匠全体に占める割合は極めて小さいもので視覚的印象に与える影響は極めて僅かであり、さらに、意匠審査基準2.2.2.6(2)(c)物品の特性に基づき観察されやすい部分か否かの評価に照らすと、需要者(取引者を含む)が強く関心をもって観察する部位とはいえ乃至かも、意匠審査基準2.2.2.6(e)流通時にのみ視覚観察される形状等の評価に照らすと、上面の巾木取付部の小溝及び突出部右側板部と床材載置部のコーナー部は、使用状態においては、巾木で覆いほとんど視認できない部分における差異であるから、流通時にのみ視覚観察される部位が注意を引く程度は小さく、しかも、上記この種点検通路の流通状態からすると、需要者(取引者を含む)が上面の巾木取付部に格別強く注意を引くことはほとんどない。
したがって、両意匠の差異点は、類否判断に与える影響は微弱なものにすぎない。
ちなみに、前記ウ(カ)で示すとおり、本件登録意匠の意匠権者と同一人による特許出願に、甲号意匠の意匠公報、その実施製品公開後に、巾木取付部に小溝がない甲号意匠とほぼ同一の意匠を第3実施形態として記載し、「この実施形態の点検路は、以下の点を除いて、図1乃至図9に示す第1の実施形態の点検路(1)と実質的に同一である。」、「第1及び第2 の実施形態のものと比べて単純化されている」と説明している。また、(4)ア(ア)b(b)で述べた、本件登録意匠の実施製品の意匠に関する掲載記事における軽量・施工性に関する、「各部材はボルトレール構造により、手摺や支柱の位置、ブラケット受点位置が自在になり現場合わせが容易です。」との記載は、(4)イ(ア)b(b)で述べた、甲号意匠の製品特長の一つである施工性に関する、「各々の部材はボルトレール構造により、手摺や支柱位置、ブラケット受け点位置が自在となり、現場での位置調整が可能です。」との説明と実質的に同様の内容である。
これらからも、本件登録意匠は、甲号意匠の特徴的構成態様をすべて有しており、甲号意匠に依拠して作られた意匠としか言いようがない程、酷似している。
以上述べたとおり、両意匠の共通する構成態様は、両意匠の類否判断を決定する支配的要素となるものである。一方、差異点は、いずれも部分的かつ細部的変更にすぎず、部分的な改変を加えたものとの印象を与えるにすぎず、本件登録意匠の特徴を超えて別異の視覚的印象を与える程のものということはできない。
したがって、本件登録意匠は、甲号意匠に類似することは明らかである。
カ むすび
以上のとおり、本件登録意匠は、出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、その登録を無効とすべきである。

2 証拠方法

(1)別紙1乃至3 意匠登録第1674236号公報、意匠登録原簿謄本及び意匠登録出願書類写し

(2)甲第1号証 意匠登録第1479735号公報

(3)甲第2号証 アルミニウム合金製検査路 歩廊 HOLO(長谷川工業株式会社製品)

(4)甲第3号証の1 説明図1及び説明図2

(5)甲第3号証の2 対比図1

(6)甲第3号証の3 対比図2

(7)甲第4号証 本件登録意匠と甲号意匠の形態について

(8)甲第5号証 橋梁検査路 アルミ合金製検査路 ケーロ/KERO

(9)甲第6号証 千葉県ウェブサイトの提案された技術の一覧

(10)甲第7号証 特開平1−125404号公報

(11)甲第8号証 特開2000−352015号公報

(12)甲第9号証 意匠登録第1448666号公報

(13)甲第10号証 特開2013−231305号公報

(14)甲第11号証 本件登録意匠の「早期審査に関する事情説明書」において列挙された先行意匠1から34の一覧

(15)甲第12号証 「道路橋検査路設置要領(案)」p.19−20、24

(16)甲第13号証の1 「道路橋FRP検査路の振動使用性」写真−6

(17)甲第13号証の2 上記文献の電子版の写真−6を拡大したもの

(18)甲第14号証 特開2007−198026号公報

(19)甲第15号証 平成28年度アルミニウム製検査路に関する技術資料作成報告書

(20)甲第16号証 特開2017−40113号公報

(21)甲第17号証 米国意匠特許第465035号公報

(22)甲第18号証 意匠登録第1202574号公報

(23)甲第19号証 「建築大辞典第2版<普及版>」第1637頁

(24)甲第20号証 意匠登録第658165号公報

(25)甲第21号証 意匠登録第1346642号公報

(26)甲第22号証 意匠登録第1500329号公報

(27)甲第23号証 意匠登録第1500665号公報

(28)甲第24号証 特開2020−133301号公報

(29)甲第25号証 特許庁意匠審査基準 第III部第2章第1節

(30)甲第26号証 特開2019−157469号公報

第3 答弁の趣旨及び理由

被請求人は、令和3年7月21日付けで、審判答弁書(以下「答弁書」という。)を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、要旨以下のとおり主張し、証拠として乙第号証及び乙第1号証乃至乙第10号証を提出した。(以下、下線は被請求人による。)

1 答弁の理由

(1) 理由の要点
本件登録意匠は、甲第1号証の意匠(以下「引用意匠」という。)に類似するものではなく、本件登録意匠は引用意匠との関係において、意匠法第3条第1項第3号の規定に違背して登録されたものではない。

(2)本件登録意匠
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠は、意匠に係る物品を「点検路用桁材」とし、「意匠に係る物品の説明」として次の通り記載されている。
「本物品は、橋梁等の構造体に設置して、構造体の点検や補修等の作業を行う際の足場として使用される点検路において、足場板を架設するために左右一対で用いられる桁材である。本物品を備えた点検路によれば、手摺支柱を取り付ける場合(使用状態を示す参考正面図1の左右両側等)及び手摺支柱を取り付けない場合(使用状態を示す参考正面図2及び同参考斜視図の各右側)のいずれにおいても、本物品の巾木取付部に巾木をボルト・ナットで取り付けることができる。また、巾木を取り付けない場合(使用状態を示す参考正面図3の右側)には、本物品の巾木取付部に足場板押さえ板をボルト・ナットで取り付けることができる。」
すなわち、本件登録意匠は、「手摺支柱と巾木とをボルト・ナットで取り付けることができ、足場板を架設することのできる、足場板架設用の桁材」である。
イ 本件登録意匠の用途機能並びに使用態様
「意匠に係る物品の説明」を「使用状態を示す参考図」を参照して図解すると図2のとおりである。
すなわち、左側板の上下に横向きに設けられた「支柱取付用ボルト用溝」に支柱をボルトで取り付け、上部突出段部に上向きに設けられた「巾木取付用ボルト用溝」に巾木をボルトで取り付けるものである(図1、図2)。図1は本件登録意匠の登録公報掲載図面。
巾木は「巾木取付用ボルト用溝」に取り付けるのであり、意匠に係る物品の説明に記載されているように、手摺支柱を取り付ける場合(使用状態を示す参考正面図1の左右両側等)及び手摺支柱を取り付けない場合(使用状態を示す参考正面図2及び同参考斜視図の各右側)のいずれにおいても、本物品の巾木取付部に巾木をボルト・ナットで取り付けることができる。

[図1](当審注:図1省略)

[図2](当審注:図2省略)

ウ 形状等
以下の記述における部位を示す用語が意味する部位は、図3「部位の説明図」に示す通りである。

[図3](当審注:図3省略)

ウ−1 基本的構成態様
意匠における基本的構成態様とは、意匠の骨格をなす態様をいうが、本件登録意匠のように機能を重視して造形された意匠においては、骨格をなす態様であるか否かの評価においては、機能との関係を無視することはできない。以下、可能な限り請求人の記述に合わせて記述する。
(A)中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備え、
(B)前記上部突出段部の左側面に、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、前記上部突出段部の上面の右側に、巾木取付用ボルト用溝が上向きに開口し、
(C)前記上部突出段部の上面の左側は水平面であり、
(D)前記上部突出段部の右側(内側)において、上板部は床材を取り付ける平坦面状の床材載置部とし、
(E)左側板部の下端には、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、
(F)右側板部の上端及び下端にはボルト用溝が横向きに開口し、
(G)下板部は水平な平坦面とし、
(H)各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部の面一に連結する水平補強部を設けた構成態様としてある。
ウ−2 基本的構成態様を上記のように把握すべき理由
請求人の基本的構成態様の記述(請求書6頁)においては、「上部突出段部」と「巾木取付部」との関係が不明確である。そして、「巾木取付部」という名称を付していることから「巾木を取り付ける」ことを、本件登録意匠の機能として重視していると思われるところ、巾木を取り付けるための造形である「巾木取付用ボルト用溝」(上記(B))が記述されていない。
したがって、請求人の記述する本件登録意匠の基本的構成態様は妥当でない。
ウ−3 具体的構成態様
以下において、請求人の記述(請求書6〜7頁)と異なる把握部分に下線を付し、項目ごとに、異なる把握をすべき理由を付記する。
(a)上部突出段部について
上部突出段部の幅は、正面視において全幅の約1/2であり、その左側に水平面部があり、左側面に支柱取付用ボルト用溝が形成されている。上部突出段部の上面の右側に上方に開口する巾木取付用ボルト用溝が設けられている。
前記巾木取付用ボルト用溝は、開口部にリップ付の溝で、巾木を取り付けるナットが挿入される部分よりその下方のボルトネジ部が収まる部分は段状に幅狭となる溝形状としている。その開口部は、上部突出段部の全幅(図4におけるW2)の約1/4、他の4つのボルト用溝の開口部の約2/3である。
上部突出段部の右側面は、前記巾木取付用ボルト用溝の幅狭部分に対応して、奥側へ僅かに段状の窪みを形成した垂直板状とし、床材載置部とのコーナー部に傾斜面を形成し、床材載置部である水平面となる。
[異なる把握をすべき理由]
〔1〕請求書では「(C)上板部について」との項目において「上部突出段部」を含めて記述されている。
しかし、「上部突出段部」は基本的構成態様として独立した一要素であるから、「上板部」とは独立した項を立てて具体的構成態様を把握すべきである。
〔2〕請求書では「上板部の巾木取付部は、最上面の左端から右方向に、全幅の略1/3の幅の水平面部があり」(「上板部について」の1〜2行目)と記述されている。ここでいう「水平面部」は図4におけるW1を意味するものと理解できる。
しかし、上部突出段部を観察するときに認識される「幅」は、「水平部の幅」W1ではなく、上部突出段部の全幅、図4におけるW2であり、「全幅の約1/2の幅」と把握すべきである。
〔3〕請求書では「上板部の上記水平部の右方に上方へ開口する細幅の小溝が設けられている。」(「上板部について」の3〜4行目)、「その開口部は四隅に配されたボルト用溝の開口部の略1/2の細い幅である。」(「上板部について」の10〜11行目)と記述されている。
しかし、当該溝は基本的構成態様の構成要素である「巾木取付用ボルト用溝」であって、機能を捨象した「小溝」と表現すべきものではなく、その開口幅も他のボルト用溝の「略1/2」という狭いものではなく「約2/3」であり、前記W2の約1/4を占めるものである。
請求書の記述は、本件登録意匠における「巾木取付用ボルト用溝」の存在が、目立たないものであると導くための恣意的な表現である。
〔4〕床材載置部とのコーナー部に傾斜面を、請求書では「面取り」と表現しているが、係る造形は単なるコーナー部処理の手法としての「面取り」の範疇に含まれるものではない。

[図4](当審注:図4省略)

(b)上板部について
この床材載置部の幅は、上板部全幅の約1/2弱である。そして、床材載置部の上面は上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝部分の下面と同じ高さとしてある。
[異なる把握をすべき理由]
〔1〕本件登録意匠においては、全幅の約1/2を占める上部突出段部の存在により床材載置部の幅が全幅の約1/2弱であるが、請求書においては触れられていない。プロポーションに影響を与える態様であるから、具体的構成態様に含めるべきである。
〔2〕請求書では記載されていないが、床材載置部の上面が「斜直線状に面取り」によってボルト用溝部分の下面と同じ高さに「段落とし」されている。この態様は正面図から明瞭に認識されるものであって、具体的構成態様の要素とすべきものである。
(c)左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部(上部突出段部の左側面を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強である。各ボルト用溝は、手摺支柱を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側から見ると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる。
(d)右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7である。各ボルト用溝は、横資材を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側から見ると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる。
[異なる把握をすべき理由]
左側板部の高さは角筒体の下端から上部突出段部の上端まで、右側板部の高さは角筒体の下端から上端までであり、これらを基準にするとボルト用溝の開口幅は、前者で約1/10、後者では約1/7であり、両者が共に1/10強であるとする請求書の記述(「(E)右側板部及びその上下のボルト用溝について」の2〜3行目)は不正確である。
(e)中空部について
正面視において、略角筒体の全高の下から約3/10の位置に水平補強板が形成されている。
[異なる把握をすべき理由]
請求書「(F)中空部について」においては「全高」が、上部突出段部を含めた高さであるか略角筒体の高さであるかが不明確なので追記した。
(f)略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について
略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形であり、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差は、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4である。
[異なる把握をすべき理由]
〔1〕請求書の「(G)上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比率及び上板部の段差について」における記述は不明確であり又適切でない。
〔2〕請求書では「上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状全体の構成比について、全高(上板部から下板部までを1とすると、全幅は略1/2強の略縦長長方形」と記述されている。これは、「全高」を略角筒体の高さではなく、上部突出段部を含めた高さで把握したものと認められる。
しかし、本件登録意匠を観察するときに「縦横比」として印象付けられるのは略角筒体の縦横比であるから、角筒体に基づく数値で特定することが妥当である。

(3)引用意匠
ア 意匠に係る物品
引用意匠は、意匠に係る物品を「点検通路用梁材」とし、「意匠に係る物品の説明」として次の通り記載されている。
「本物品は、橋梁等の構造物に付設される点検通路に使用される梁材である。使用状態を表す参考正面図、参考B−B線断面図及び使用状態を表す参考左側面図に示すように、本物品の側面には、横梁や手摺用の支柱が接合され、本物品の上面には、床材が載置される。」
すなわち、引用意匠は、「横梁や手摺用の支柱が接合でき、床材を載置することのできる、点検通路用梁材」である。
イ 引用意匠の用途機能並びに使用態様
「意匠に係る物品の説明」を「使用状態を示す参考正面図」(図5)を参照して図解すると図6のとおりである。
すなわち、左側板の上下に横向きに設けられた「支柱取付用ボルト用溝」に支柱をボルトで取り付け、巾木は支柱に取り付けるものである。意匠に係る物品の説明にも、梁材に巾木が取り付けられる旨の記述はない。

[図5](当審注:図5省略)

[図6](当審注:図6省略)

ウ 形状等
以下の記述における部位を示す用語が意味する部位は、図7「部位の説明図」に示す通りである。

[図7](当審注:図7省略)

ウ−1 基本的構成態様
以下、可能な限り請求人の記述に合わせて記述する。
(A’)中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備え、
(B’)前記上部突出段部の左側面に、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、
(C’)前記上部突出段部の上面は全面が水平面であり、
(D’)前記上部突出段部の右側(内側)において、上板部は床材を取り付ける平坦面状の床材載置部とし、
(E’)左側板部の下端には、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、
(F’)右側板部の上端及び下端にはボルト用溝が横向きに開口し、
(G’)下板部は水平な平坦面とし、
(H’)各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部の面一に連結する水平補強部を設けた構成態様としてある。
ウ−2 基本的構成態様を上記のように把握すべき理由
請求書の(A)基本的構成態様の記述中(B)(i)には「上板部は、左側(外側)に上方に突出する巾木取付部があり」と、(ii)には「左側板部の上端(巾木取付部の左側面)には、上部構成部と巾木取付部を形成する上板部」と記述され、「巾木取付部」(巾木を取り付ける機能を有する部分)が存在するかのごとく記述されている。
しかしながら、引用意匠の使用態様は図5、図6に示す通りであり、巾木を取り付ける部分は存在し乃至たがって、「巾木取付部」という記述は不正確であり、これを採用することはできない。「上部突出段部」と表現すべきである。
また、本件登録意匠と対比するに際しては、「ボルト用溝」の用途機能を明確にすべきであり、(ii)に記載されている「ボルト用溝」は「支柱取付用ボルト用溝」と表現すべきである。
したがって、請求人の記述する引用意匠の基本的構成態様は妥当でない。
ウ−3 具体的構成態様
以下において、請求人の記述(請求書12〜13頁)と異なる把握部分に下線を付し、項目ごとに、異なる把握をすべき理由を付記する。
(a’)上部突出段部について
上部突出段部の幅は、正面視において全幅の約1/3弱であり、上面は水平面部であって左端下方は左側板部の上部に支柱取付用のボルト用溝が形成されている。
水平面部の右端から下方へ、垂直板状とし、床材載置部とコーナー部を凹小曲面状に面取りして形成し、床材載置部である水平面となる。
[異なる把握をすべき理由]
〔1〕請求書では「(c)上板部について」との項目において「上部突出段部」を含めて記述されている。
しかし、「上部突出段部」は基本的構成態様として独立した一要素であるから、「上板部」とは独立した項を立てて具体的構成態様を把握すべきである。
〔2〕請求書では「巾木取付部」の幅を提示しているが、「巾木取付部」と言うべき部位は存在しないのであり、「水平面部の幅」又は「上部突出段部の上面の幅」と表現すべきである。
(b’)上板部について
床材載置部の幅は、上板部全幅の約3/5である。床材載置部の上面は上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝の上面と同じ高さであり、床材載置部は、凹小曲面状部から、床材を置く位置決めがしやすいように僅かに下方へ段差を設けている。
[異なる把握をすべき理由]
本件登録意匠の具体的構成態様(b)との対比に必要な態様を追加した。
(c’)左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部(上部突出段部左側板を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強である。各ボルト用溝は、手摺支柱を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側から見ると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる。
(d’)右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7強である。各ボルト用溝は、横資材を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側から見ると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる。
[異なる把握をすべき理由]
左側板部の高さは角筒体の下端から上部突出段部の上端まで、右側板部の高さは略角筒体の下端から上端までであり、これらを基準にするとボルト用溝の開口幅は、前者で約1/10、後者では約1/7であり、両者が共に1/10強であるとする請求書の記述(「(e)右側板部及びその上下のボルト用溝について」の2〜3行目)は不正確である。
(e’)中空部について
正面視において、略角筒体の全高の下から約3/10の位置に水平補強板が形成されている。
[異なる把握をすべき理由]
請求書「(f)中空部について」においては「全高」が、上部突出段部を含めた高さであるか略角筒体の高さであるかが不明確なので追記した。また、水平補強板の位置も不正確である。
(f’)略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について
略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形であり、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差は、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/5である。
[異なる把握をすべき理由]
〔1〕請求書の「(g)上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比率及び上板部の段差について」における記述は不明確であり又適切でない。
〔2〕請求書では「上部突出段部を有する略角筒体の正面視における外形状全体の構成比について、全高(上板部から下板部までを1とすると、全幅は略1/2強の略縦長長方形」と記述されている。これは、「全高」を略角筒体の高さではなく、上部突出段部段部を含めた高さと認められる。
しかし、本件登録意匠を観察するときに「縦横比」として印象付けられるのは略角筒体の縦横比であるから、略角筒体に基づく数値で特定することが妥当である。

(4)共通点と相違点
ア 意匠に係る物品について
本件登録意匠は、「手摺支柱と巾木とをボルト・ナットで取り付けることができ、足場板を架設することのできる、足場板架設用の桁材」であり、手摺支柱を取り付けなくとも巾木の取り付けが可能なものである。引用意匠は、「横梁や手摺用の支柱が接合でき、床材を載置することのできる、点検通路用梁材」である。
いずれも、足場板(床材)を架設するためのフレーム(型材)である点では共通するが、本件登録意匠は「巾木を取り付けることができる」機能を備えているのに対して、引用意匠はこの機能を備えていない点で相違がある。
イ 形状等について
イ−1 共通点
基本的構成態様において以下の点で共通する。
(AとA’)中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備えた点(共通点1−1)。
(DとD’)前記上部突出段部の右側(内側)において、上板部は床材を取り付ける平坦面状の床材載置部とした点(共通点1−2)。
(EとE’)左側板部の下端には、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口した点(共通点1−3)。
(FとF’)右側板部の上端及び下端にはボルト用溝が横向きに開口する点(共通点1−4)。
(GとG’)下板部は水平な平坦面とした点(共通点1−5)。
(HとH’)各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部の面一に連結する水平補強部を設けた点(共通点1−6)。
具体的構成態様において、以下の点で共通する。
(cとc’)左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部(上部突出段部左側板を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強であり、各ボルト用溝は、手摺支柱を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側から見ると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる点(共通点2)。
(dとd’)右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7強であり、各ボルト用溝は、横資材を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側から見ると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる点(共通点3)。
(eとe’)中空部について
正面視において、略角筒体の全高の約3/10の位置に水平補強板が形成されている点(共通点4)。
イ−2 相違点
基本的構成態様において以下の相違がある。
・(BとB’)本件登録意匠においては、上部突出段部の左側面に、支柱取付用のボルト用溝が横向きに開口し、前記上部突出段部の右側に、巾木取付用ボルト用溝が上向きに開口しているところ、引用意匠においては巾木取付用ボルト用溝が存在しない点(相違点1−1)。
・(CとC’)本件登録意匠においては、上部突出段部の上面の左側のみが水平面であるところ、引用意匠においては上部突出段部の上面全面が水平面である点(相違点1−2)。
具体的構成態様においては以下の相違がある。
(aとa’)上部突出段部の態様において、
・その幅が、本件登録意匠では全幅の約1/2であるのに対して、引用意匠では全幅の約1/3である点(相違点2−1)。
・本件登録意匠では、上部突出段部の上面の右側部分に上方に開口する巾木取付用ボルト用溝が設けられているのに対して、引用意匠には巾木取付用ボルト用溝は存在せず、上部突出段部の上面(水平面部)の右端から下方へ、垂直板状としてある点(相違点2−2)。
・本件登録意匠では、上部突出段部の右側面は、前記巾木取付用ボルト用溝の幅狭部分に対応して、僅かに段状の窪みを形成した垂直板状とし、床材載置部とのコーナー部に傾斜面を形成し、床材載置部である水平面となるのに対して、引用意匠では前記段状の窪みと傾斜面が存在せず、傾斜面に代えて床材載置部とコーナー部を凹小曲面状に面取りして形成している点(相違点2−3)。
(bとb’)上板部の態様において
・床材載置部の幅において、本件登録意匠では全幅の約1/2弱であるのに対してり、引用意匠で全幅の約3/5である点(相違点3−1)。
・床材載置部の上面の高さにおいて、本件登録意匠では上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝部分の下面と同じ高さとしてあるのに対して、引用意匠では上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝の上面と同じ高さである点(相違点3−2)。
(fとf’)略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について
略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形である点は共通するが、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差において、本件登録意匠では、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4であるのに対して、引用意匠では約1/5である点(相違点4)。

(5)共通点・相違点の評価
本件登録意匠は、上部突出段部において、横向きに開口する「支柱取付用ボルト用溝」と上向きに開口する「巾木取付用ボルト用溝」とを一体的に造形した点に特徴があるものであり、共通点が意匠の類否に及ぼす影響はきわめて小さいものである。
ア 観察主体(需要者)
本件登録意匠の観察主体である需要者は、橋梁などの構造体に点検路を設置する施工業者及び施主である。そして、需要者は本件登録意匠を、機能との関係を重視して観察するのであり、施工後における「構造物の景観面からの美感」を考慮することは殆ど考えられない。この点は項を改めて詳述する。
イ 意匠に係る物品について
本件登録意匠に係る物品は「巾木を取り付ける」機能を有し、引用意匠は係る機能を備えていない点に差違がある。両物品が足場板(床材)を架設する用途に用いられるものであるので、物品として類似することは認めるが、機能の相違は形状等の相違に密接に影響しているのであり、機能に相違があることは形状等の評価において強く意識されなければならない。
ウ 形状等の共通点の評価
ウ−1 基本的構成態様
中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備えた点(共通点1−1)は、機能を払拭した形状の概括的な態様として共通しているにすぎない。
本件登録意匠における上部突出段部と引用意匠における上部突出段部とは、巾木を取り付ける機能の有無という顕著な相違がある。
加えて、略角筒体の上部に上部突出段部を備えた(加えて、その側面にボルト取付用の溝を横向きに開口したもの)先行意匠として、意匠登録第1391206号(図8、乙第1号証)、意匠登録第1409173号(図9、乙第2号証)の意匠が存在する。これらの意匠は、物品「浮桟橋用フレーム部材」に係るものであるが、これらの意匠の「意匠に係る物品の説明」には、「浮桟橋のデッキの全周に配置されるものであって、使用状態を示す参考図(1)、(2)のように、床板を嵌め込んだり、クリート、横桁、防舷材やフロートを、ボルトなどの固定具によって固定することができる。」と説明されているように、周壁に開口した溝はボルト用溝であり、この型材に取り付けられる防舷材は、引用意匠における支柱に相当するものである。そして、本件登録意匠における審査においても参照されており(本件登録意匠の登録公報に「参考文献」として掲記されている。)、本件登録意匠と物品分野が共通するものである。
請求人は、「上部突出段部を有する略角筒体であって左右側板部にはボルト用溝が設けられている桁材の存在を示すものは無い。」(請求書14頁1〜2行目)と主張するが、「桁材」ではなくとも「同種の物品」において同様の機能を備えた態様が存在するのであり、係る主張は失当である。
したがって、共通点1−1は、側面のボルト用溝を含めても、この点のみを以て両意匠が類似すると評価することはできない。

[図8](当審注:図8省略)

[図9](当審注:図9省略)

前掲意匠登録第1391206号の意匠は、図10のように使用されるものである(意匠登録第1409173号も同じ)。したがって、各部の機能は図11の通りと認められる。
したがって、上部突出段部の右側(内側)において、上板部は床材を取り付ける平坦面状の床材載置部とした点(共通点1−2)、左側板部の下端には、支柱取付用のボルト用溝が横向きに開口した点(共通点1−3)、右側板部の上端及び下端にはボルト用溝が横向きに開口する点(共通点1−4)は、先行意匠に見られる態様にすぎない。

[図10](当審注:図10省略)

[図11](当審注:図11省略)

下板部は水平な平坦面とした点(共通点1−5)は、この種の物品においてごくありふれた態様であり、意匠登録第1448666号(乙第3号証)の他、「早期審査に添付の先行意匠一覧」(甲第11号証)中の番号7乃至13の意匠にも見られるものである。
また、各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部の面一に連結する水平補強部を設けた点(共通点1−6)も、「早期審査に添付の先行意匠一覧」(甲第11号証)中の番号7、8の意匠にも見られるものである。
小括
以上の通り、本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様における共通点は、いずれも公知意匠にも見られる態様であって、本件登録意匠と引用意匠とのみに共通する態様ではない。
請求人は、「当該共通する構成態様は、以下に述べるように、甲号意匠の出願前に存在しない、甲号意匠の骨格的かつ特徴的構成態様である。」(請求書30頁中段)と主張するが、略角筒体の上部一側に上部突出段部を設けたという骨格は引用意匠出願前から見られるものであり(乙第1号証、乙第2号証)、請求人の主張は失当である。
ウ−2 具体的構成態様
共通点2(左側板部及びその上下のボルト用溝について、正面視において、左側板部(上部突出段部左側板を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強であり、各ボルト用溝は、手摺支柱を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側から見ると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる点)
及び
共通点3(右側板部及びその上下のボルト用溝について、正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7強であり、各ボルト用溝は、横資材を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側から見ると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる点)
に関しては、
ボルト用溝を開口部にリップが付いた溝とすることは、乙第1号証乃至乙第3号証から明らかな通り普通に行われていることであり、ボルト用溝がボルトの頭部が挿入される溝形状であることは、溝の機能を得るために当然の態様であり、溝幅と左側側板全高との比率は、所定の強度を得るために必要な側面の高さと溝の大きさを決定したことの結果として得られた比率にすぎず、いずれも意匠の類否に影響するものではない。
共通点4(中空部について、正面視において、略角筒体の全高の下から約3/10の位置に水平補強板が形成されている点)も、水平補強板を溝構成部の面一に配設したことの結果として得られた比率にすぎず、意匠の類否に影響するものではない。
小括
以上の通り、本件登録意匠と引用意匠の具体的構成態様における共通点は、いずれも公知意匠にも見られる態様であって、本件登録意匠と引用意匠とのみに共通する態様では乃至たがって、これら共通点の類否に及ぼす影響は軽微なものにすぎない。
エ 形状等の相違点の評価
エ−1 基本的構成態様
本件登録意匠においては上部突出段部に巾木取付用ボルト用溝が上向きに開口している(構成B)ところ、引用意匠には巾木取付用ボルト用溝が存在しない(構成B’)点(相違点1−1)、本件登録意匠においては上部突出段部の左側のみが水平面である(構成C)ところ、引用意匠においては上部突出段部の上面は全面が水平面である(構成C’)点(相違点1−2)に相違がある。
以下に、図2、図6を再掲する。
図2は本件登録意匠の使用状態を示すものであるが、本件登録意匠は上部突出段部の上面の左側は水平面であり、その下方に支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、前記水平面の右側に巾木取付用ボルト用溝が上向きに開口している。すなわち、上部突出段部には「支柱取付用ボルト用溝」と「巾木取付用ボルト用溝」とが一体的に造形されている。
このような造形により、本件登録意匠には「支柱」と「巾木」とを直接ボルトで固定することができるという、引用意匠にはない機能が備えられている。

[図2](当審注:図2省略)

図6は引用意匠の使用状態を示すものであるが、引用意匠は上部突出段部の上面の全てが水平面であり、その下方に支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、前記水平面の右側は垂直な壁面となっている。巾木取付用ボルト用溝はもちろんのこと、これに対応する機能を有する態様も存在しない。すなわち、上部突出段部には「支柱取付用ボルト用溝」のみが造形されている。
このような造形により、引用意匠には「支柱」を直接ボルトで取り付けることができる機能は備えているものの、「巾木を直接ボルトで取り付ける」という機能は備わっていない。
請求人は上部突出段部を「巾木取付部」と呼んでいるが、引用意匠の該当部分は「巾木を取り付ける機能」を備えていない。せいぜい、巾木を支承するものにすぎない。
したがって、機能に結びつけて造形が観察される本件登録意匠において、係る相違点は意匠の類否において大きな影響を有するものである。

[図6](当審注:図6省略)

なお、乙第1号証、乙第2号証の意匠も横向きに開口したボルト用溝と上向きに開口したボルト用溝を備えているが、2つの溝が一体的に造形されているという「まとまり感」を看取できるものではない。
施工方法の違い
本件登録意匠と引用意匠とは、「巾木取付用ボルト用溝」の有無により、その意匠に係る物品を使用した点検路(点検通路)の施工方法、施工手順が全く異なるのであり、相違点1は需要者が両意匠を観察するときにきわめて重視する、無視することのできない態様の相違である。
すなわち、本件登録意匠に係る物品を用いて点検路を施工する場合、本件登録意匠に係る物品「桁材」を所定の箇所に設置した後に、上部突出段部の上面に巾木を、巾木取付用ボルト用溝に装着したボルトで取り付け、次いで上部突出段部の左側面に支柱を、支柱取付用ボルト用溝に装着したボルトで取り付ける。
したがって、支柱を取り付けなくとも巾木を取り付けることができる。この特徴は本件登録意匠の登録公報において、手摺支柱を取り付けない場合を示す「使用状態を示す参考正面図2」の右側によって明らかにされている。
他方引用意匠に係る物品においては、意匠に係る物品「梁材」を所定の箇所に設置した後、上部突出段部の左側面に支柱を、支柱取付用ボルト用溝に装着したボルトで取り付け、次いで巾木を支柱に取り付ける。巾木を上部突出段部はもちろんのこと「梁材」に直接固定することができない。
この点に関して
請求人は、「巾木取付部に巾木をボルト・ナットで取り付ける点に関する説明は特に記載されていない。」(請求書5頁)と主張するが、事実に反した主張である。請求書5頁に【図2】として引用されている株式会社ゴウダのサイト(甲第2号証)において、「幅木付足場板一体構造により物の落下を防ぎます」と記述されており、該当部分の写真も掲載されている。「巾木付足場板」という表現に接した需要者は、巾木取付部に巾木が取り付けられることを理解する。

[図14](当審注:図14省略)

請求人は、「巾木(爪先板)を歩廊桁の上に載せる構造とすることで、梁材と床材を組み立てたユニットの状態で現場へ搬入し、現場で、巾木を当該ユニットの上から容易に固定できるようにしたもの」(請求書30頁下から4〜3行目)と主張する。しかしながら、上記の通り引用意匠は巾木を直接固定することはできないのであり、「巾木を当該ユニットの上から容易に固定できるようにした」という記述の意味するところは不明である。引用意匠において巾木は、「支柱に取り付けられる」のであって、上部突出段部の上面に「支承される」ことはあっても「(ボルトなどで)固定される」ことはない。
使用状態における相違
請求人のサイト(甲第5号証)には、引用意匠の実施品の特徴として、「●歩きやすさの追求 歩廊上は締結ボルトなどはもちろん、不要な突起がないためスムーズな歩行が可能となります。」と記述されている。
すなわち、「歩廊上に締結ボルトの突起がないこと」が特徴とされており、需要者は使用状態において「歩廊上に締結ボルトの突起がないように造形されていること」、すなわち、上部突出段部に「上向きに開口したボルト用溝が存在しない」ことを、引用意匠の特徴として認識するということができる。
しかるに、本件登録意匠は上部突出段部に「上向きに開口した巾木取付用ボルト用溝」が存在し、この溝を使用して巾木を取り付けた場合に「歩廊上に締結ボルトの突起が存在する」ことを、施工者である需要者は容易に理解することができる。
すなわち、上部突出段部に、巾木取付用の上向きのボルト用溝が開口しているか否かは、使用状態を考慮して意匠を観察する場合においても重視される態様の相違というべきである。
請求人は、「使用状態においては(中略)上部突出段部の巾木が取り付けられる部分の具体的態様は外観に表れず、通常目に触れない。」(請求書第4頁1〜8行目)と主張するが、係る主張は失当である。本件登録意匠に係る物品「桁材」は、施工後にいかなる部位も殆ど観察することはできないのであり、需要者は施工の便を最重要視して意匠を観察するのである。この点は項を改めて詳述する。
エ−2 具体的構成態様
上部突出段部の態様において、
その幅が、本件登録意匠では全幅の約1/2であるのに対して、引用意匠では全幅の約1/3である点(相違点2−1)は、本件登録意匠は上部突出段部に「支柱取付用ボルト用溝」と「巾木取付用ボルト用溝」の双方を備えているために上部突出段部の幅が広いことに起因する相違であり、機能に関連する態様の相違であって看者が注目するものであり、類否に一定の影響を及ぼすものである。
本件登録意匠では、上部水平面部の右側部分に上方に開口する巾木取付用ボルト用溝が設けられているのに対して、引用意匠には巾木取付用ボルト用溝は存在せず、水平面部の右端から下方へ、垂直板状としてある点(相違点2−2)は、基本的構成態様における相違点1において述べたところであり、類否にきわめて大きい影響を及ぼすものである。
本件登録意匠では、上部突出段部の右側板部は、前記巾木取付用ボルト用溝の幅狭部分に対応して、僅かに段状の窪みを形成した垂直板状とし、床材載置部とのコーナー部に傾斜面を形成し、床材載置部である水平面となるのに対して、引用意匠では前記段状の窪みと傾斜面が存在せず、傾斜面に代えて床材載置部とコーナー部を凹小曲面状に面取りして段差を形成している点(相違点2−3)も、本件登録意匠は上部突出段部に「支柱取付用ボルト用溝」と「巾木取付用ボルト用溝」の双方を備えているために上部突出段部の幅が広いことに起因する相違である。
すなわち、可及的に小さい全幅としつつ、足場板の載置面の幅を可及的に広くするために、上部突出段部の幅を減殺する目的で窪みが形成されている。また、「小曲面」ではなく「傾斜面」であることにより、「段差」を形成せずとも足場板の位置決めが可能である。
相違点2−3は細部における相違ではあるが、機能と関係する造形であって、類否に一定の影響を持つものである。

[図15](当審注:図15省略)

上板部の態様において
床材載置部の幅において、本件登録意匠では全幅の約1/2弱であるのに対してり、引用意匠で全幅の約3/5である点(相違点3−1)は、本件登録意匠は上部突出段部に「支柱取付用ボルト用溝」と「巾木取付用ボルト用溝」の双方を備えているために上部突出段部の幅が広いことに起因する相違である。すなわち、上部突出段部の態様に注目したときに必然的に認識される態様であり、類否に一定の影響を持つものである。
床材載置部の上面の高さにおいて、本件登録意匠では上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝部分の下面と同じ高さとしてあるのに対して、引用意匠では上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝の上面と同じ高さである点(相違点3−2)も、上部突出段部の態様に注目したときに必然的に認識される態様である。本件登録意匠では上部突出段部を高く見せる効果をもち、引用意匠では水平を強調する効果を有している。したがって、類否に一定の影響を持つものである。

[図16](当審注:図16省略)

上部突出段部の段差について
上部突出段部の最上面と床材載置部との段差において、本件登録意匠では、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4であるのに対して、引用意匠では約1/5である点(相違点4)は、前記相違点3−2(図16における赤線の相対位置)と合わさり、本件登録意匠における上部突出段部のボリューム感を増しているのであり、類否に一定の影響を及ぼすものである。

(6)類否判断
以上の通り、本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様における共通点は、いずれも公知意匠にも見られる態様であって、本件登録意匠と引用意匠とのみに共通する態様ではない。また、具体的態様における共通点も、公知意匠と対比して格別の特徴として認識されるものではなく、類否を左右するものではない。
他方、本件登録意匠の基本的構成態様における「上部突出段部に横向きの支柱取付用ボルト用溝と上向きの巾木取付用ボルト用溝が開口し、上面の左側を水平面とした態様」(構成B、C)は、公知意匠には見られない本件登録意匠独自の態様である。
したがって、上部突出段部における上向きに開口した巾木取付用ボルト用溝の有無(相違点1−1)及び上面の全面が水平面であるか左側のみが水平面であるかの相違(相違点1−2)は、両意匠を全体として観察したときに、両意匠の美感の違いを決定付けるものである。
そして、その余の相違点も類否に一定の影響を与えるものである。
したがって、両意匠の相違点は共通点を凌駕し、両意匠を全体として観察したときに、需要者に与える美感は異なるものである。
よって、本件登録意匠は引用意匠に類似するものではない。

(7)本件登録意匠の観察方法
ア 請求人の主張
請求人は、本件登録意匠に関して、「(b)本件登録意匠に係る物品の使用目的、使用状態について」(請求書3頁)において、「使用状態においては、左右側面図、底面側が足場外観に表れるが、上面側は上部の段差が側板の高さに影響するが、上部突出段部の巾木が取り付けられる部分の具体的態様は外観に表れず、通常目に触れない。」(請求書4頁1〜3行目)と主張し、「(ii)本件登録意匠に係る物品の実施製品が示す使用状態」(請求書4頁)においても、「使用状態において、上部段差は高さに影響するが、上面側の巾木取付部の上面の具体的態様は巾木に覆われて殆ど視認できない」(請求書4頁最下行〜5頁1行目)と主張する。
係る主張は、請求人が援用する審査基準における「(e)流通時にのみ視覚観察される形状等の評価」に当てはめて、本件登録意匠と引用意匠の相違点1−1(上部突出段部上面の巾木取付用ボルト用溝の有無)の評価を減殺することを意図したものと認められる。
イ 使用時に視認できない態様の評価
審査基準には「使用時・設置時にはその一部が目に触れない物品等(例えば、一部が土に埋まるフェンスや、壁や天井に一部が埋め込まれる照明器具等)の場合、流通時にのみ観察される部位が注意を引く程度は、原則として、その他の部位よりも小さい。」と記載されている。
原則論として、この基準に異を唱えるものでは乃至かし、本件登録意匠及び引用意匠のように機能と不可分な形状として構成される意匠において、使用状態において視認できないことを理由として、視認できない部位の評価を減ずることは審査基準の意図するところとはいえない。
以下に示す審判決例で説示されているように、機能に結びついた形状等が使用状態において視認することができないとしても、係る形状等を軽視してはならないのである。
イ−1 審決例
・不服2019−8664(乙第4号証)
この審決は、意匠に係る物品「壁取付用金具」に関するものであり、「2 形態の共通点及び相違点の評価」において、「両意匠は、共に壁板を建物に取り付けるための金具であり、建築施工時に用いるものであることから、その需要者は主に施工業者であり、各部の構成が施工時にどのように機能するのかといった観点から各部の具体的態様についても注視するものということができる。」と説示し、「(2)形態の相違点」において、「側面視の態様における(相違点1−1)及び(相違点1−2)は、両意匠の骨格に関わる相違であり、天板及び底板が斜めか水平状か、上部前面板と下部前面板が同一面状にあるか否かの差異は、施工にも影響が出るため、需要者が特に着目する部分であり、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。」と認定する。
使用時に視認できるかどうかということよりも、「施工時における機能」と「形態」との関係を重視すべきことが理解できる。
・不服2013−17106(乙第5号証)
この審決は、意匠に係る物品「根太材」に関するものであり、使用状態では床板に隠れて視認することのできない下辺部の態様について、「相違点(イ)の下辺部の長さの相違も、大引き等の上部に固定する必要から該部位を、折返し縁部を含む上辺部分より幅広に形成した本願意匠の態様と、パネル嵌合用のため、側面部を僅かに折返して形成した引用意匠の態様とは、その使用方法の違いも含めて、看者に別異の印象を与えるものであって、この相違点(イ)も両意匠の類否判断に一定程度の影響を与えていると言える。」と認定する。
・不服2010−8292(乙第6号証)
この審決は、意匠に係る物品「天井パネルの吊り具」に関するものであり、「各部の具体的な態様に係る差異点として、胴部(垂直ウェブ部)長手方向の上下2本の、部材の切れ目線(正面側)、及び折れ曲がり線(背面側)の有無、また底部(水平フランジ部)の外観に表れる構造上の違い、等が認められる。そして両意匠の一致点、共通点は、その構成比率も含めて、この種の天井パネル吊り具において、従来から広くみられる範囲のものであり、してみると、この種の物品に係わる者(看者)は、各部の具体的な態様についてまでも、注意を払って観察すると考えられる。そして両意匠の差異が、従前態様に照らして本願意匠の内容をよく表すところであり、また両意匠の外観上の差異として、看者が着目するものと認められ、その差異は、共通点を凌いで、両意匠の類否を決定付けるものである。」と認定する。
この事案において相違点として3点が示されているところ、「底部(水平フランジ部)」以外は使用時には天井パネルに覆われて視認できない態様であるが、相違点としてウエイト付けにおいて区別されていない。
イ−2 判決例
・東京高裁平成4年(行ケ)第9号(乙第7号証)
物品に機能的な工夫が加えられた場合(本件では「巾木を取り付け可能とした工夫)には、機能的工夫により生じた形状を評価すべしとする判決として、東京高裁平成4年(行ケ)第9号がある。
この判決は、意匠に係る物品「集束暗渠管」に関するものであり、「これらの事実によれば、本件意匠に係る暗渠排水管の方が引用意匠に係る暗渠排水管に比し、土中における外圧対策、空室部へ侵入する土粒砂の目詰まり防止対策の点で、中央壁の突条に機能的工夫が加えられているものということができる。」「上記物品の購入選択等は、これらの機関や請負業者である建設業者の専門技術者がこれに当たり、形状のみならず、機能的な点をも考慮して購入の選択等をするものと推認されるから、暗渠排水管の需要者は、管体の断面形状に強い関心を持ち」、「当該意匠に係る物品に機能的工夫が加えれば、それに応じて形状も変化し、機能的部分に着目すれば、自然その機能と不可分の関係にある形状にも着目することになるのである。この場合、機能的工夫により生じた形状に意匠的価値が生じることがあることは否定し得ないところであり、かような形状をもって、単に機能上の利点に由来するものとして、意匠の類否判断の要素としないことは相当ではない。」と説示する。
・知財高裁平成30年(行ケ)第10181号(乙第8号証)
この判決は、意匠に係る物品「検査用照明器具」に関するものであり、「本件意匠においては、後方部材の後方に電源ケーブルが設けられていないのに対し、引用意匠2ではそれが設けられている。電源ケーブルの引き出し位置は検査用照明器具としての使用態様に大きく関わるから、この点は、工場等において製品の傷やマーク等の検出を行う業務に携わる者及びこれらの物品を取り扱う者(需要者)が最も着目する点であり、これらの需要者にとって、視覚を通じて起こさせる美感が異なるものと認められる。この点に関連して原告の提出する証拠(甲35)によれば、本件意匠に係る物品や引用意匠2に係る物品は、通常は、より大きな装置の一部として組み込まれて使用されるというのであり、その場合には物品の全体が観察されることはないことがうかがわれる。しかし、需要者が製品の美感を考慮するのは、主として当該製品を購入するか否かを判断する際であると解されることからすれば、物品の使用中その全体が観察されることがないという点は、上記の認定判断を左右しない。」(17頁)
・大阪地裁平成23年(ワ)第529号(乙第9号証)
この判決は侵害事件のものであるが、意匠に係る物品「放電ランプ」に関するものであり、「原告は、第1胴部下面及び第2胴部上面の形状は、第1胴部又は第2胴部によって通常見えない部分であって、部分意匠の美感にはさほど影響しない旨主張するが、意匠公報の各図面からも明らかなとおり、上記各形状は、取引又は取り付けの際に、第1胴部及び第2胴部の形状自体から看取できることから、直接視認することが困難であることをもって、美感に影響しないとはいえない。」(23頁)
ウ 請求人の主張の矛盾
請求人は、「使用状態においては、左右側面図、底面側が足場外観に表れるが、上面側は上部の段差が側板の高さに影響するが、上部突出段部の巾木が取り付けられる部分の具体的態様は外観に表れず、通常目に触れない。」(請求書4頁1〜3行目)と主張し、「(ii)本件登録意匠に係る物品の実施製品が示す使用状態」(請求書4頁)においても、「使用状態において、上部段差は高さに影響するが、上面側の巾木取付部の上面の具体的態様は巾木に覆われて殆ど視認できない」(請求書4頁最下行〜5頁1行目。引用意匠については請求書9頁で同趣旨の主張)と主張する。
しかし、使用状態において「右側面」(図17の青枠)は足場板に覆われて使用者(足場を歩く者)は視認することができない。また、左側面と底面(図17の緑枠)も、使用者は視認することができない。これらの部位が「使用時に視認されない」ことを理由に類否に与える影響が小さいものとするならば、本件登録意匠や引用意匠の類否判断は不可能になってしまう。
もしこのような観点で類否判断を行うならば、引用意匠と意匠登録第1448666号の意匠(乙第3号証)とは、使用時において外部から視認することのできる部分(図17、18における青枠部と緑枠部)の態様は共通しており、両意匠は「類似」する意匠ということになる。しかるに、両意匠は非類似の意匠として登録されている。

[図17](当審注:図17省略)

[図18](当審注:図18省略)

エ 請求人の主張する使用状態は実情と乖離している
請求人が提出する甲第5号証には、引用意匠の使用時の態様として以下に掲げる図19、図20の写真が掲載されている。すなわち、引用意匠は橋梁などに敷設されるものであり、本件登録意匠も同様である。
橋梁などに敷設された「使用状態」において、請求人が「視認できる」と主張する左右の側面及び底面を視認するためには、下方(川面)から見上げて観察することになる。
請求人は、「検査路に使用された際の作業環境における美感及び構造物の景観面からの美感を考慮して、新規な歩廊桁の意匠を創作した」(請求書30頁)と主張するが、橋梁に敷設された「梁」を川面から観察する者がいるとは考えにくい。加えて、本件登録意匠の実施品は高さ150ミリ、幅85ミリ程度であり(乙第10号証)、川面から形状をつぶさに認識することは困難であり、その態様が景観に影響を及ぼすものとも考えにくい。
したがって、請求人が主張する使用状態に基づく観察は、本件登録意匠及び引用意匠の使用状態における観察の実情を誤ったものであり失当である。

[図19](当審注:図19省略)

[図20](当審注:図20省略)

(8)公知意匠に基づく主張について
(8−1)基本的構成態様について
請求人は、本件登録意匠と引用意匠との相違点1について、ありふれた変形であることを主張しているが、いずれも上部突出段部における相違点1(上部突出段部に横向きの支柱取付用ボルト用溝のみを備えるか、横向きのボルト用溝に加えて上向きの巾木取付用ボルト用溝を備えるか)などがありふれた改変であることを裏付けるものではない。なお、請求人は本件登録意匠の無効理由として3条1項3号のみを主張し、3条2項は主張していない。
念のため、以下簡単にコメントする。
〔1〕特開2000−352015号公報(図6 以下図番は請求書の図番)
〔2〕意匠登録第1448666号公報(図7)
〔3〕特開2013−231305号公報(図8)
これらの意匠は、略角筒状部の左右壁にボルト用溝を設けたものの例であり、本件登録意匠と引用意匠との「左右壁のボルト用溝」という共通点が「ありふれた態様」であることを裏付けるものにすぎない。
〔4〕甲第11号証
「上部突出段部を有する略角筒体であって、左右側板部の上下にボルト用溝が設けられている意匠が存在しない」という主張が失当であることは、意匠登録第1391206号(乙第1号証)、意匠登録第1409173号(乙第2号証)で提示したところである。
〔5〕道路橋検査路設置要領(案)
「歩廊桁には溝形鋼が使用されているのが標準であった」として「略角筒状」とすることの斬新性を主張しているものと思われるが、桁材、梁材として略角筒状としたものは乙3号証の意匠を含めて多数存在していたのであり(甲第11号証)、本件登録意匠が引用意匠に類似することの根拠とはならない。
〔6〕特開平1−125404号(図10)
梁の上面に上向きの溝を設けた態様が開示されているに過ぎず、「上部突出段部に横向きのボルト用溝に加えて巾木取付用の上向きのボルト用溝を備える」こと、は開示されておらず、相違点1−1の評価を減殺するものではない。
〔7〕特開2007−198026号(図10)
床を取り付けるための梁材の上部に、上向きのボルト用溝を設けた態様が開示されているに過ぎず、「上部突出段部に横向きのボルト用溝に加えて巾木取付用の上向きのボルト用溝を備える」こと、は開示されておらず、相違点1−1の評価を減殺するものではない。
〔8〕第4回FRP複合構造・橋梁に関するシンポジウム(図11)
〔9〕平成29年1月付け「平成28年度アルミニウム製検査路に関する技術 資料作成報告書(図12)
〔10〕特開2017−40113号(図13)
いずれも、「巾木の上からボルトで止められた床材」が開示されているに過ぎず、「上部突出段部に横向きのボルト用溝に加えて巾木取付用の上向きのボルト用溝を備える」こと、は開示されておらず、相違点1−1の評価を減殺するものではない。
(8−2)具体的構成態様について
ア 小溝の形状について
請求人のいう「小溝」は被請求人が「巾木取付用ボルト用溝」と訂正したものであり、基本的構成態様をなすものである。
上述の通り、上部突出段部に横向きのボルト用溝と上向きのボルト用溝を一体的に造形した意匠は存在しないのであり、「上向きのボルト用溝」のみを観察したときの具体的態様が近似するものがあるかどうかは、本件における類否判断に影響するものではない。
請求人が提示する〔11〕乃至〔13〕(図14)の態様のボルト用溝が公知であることは、本件登録意匠の権利者も熟知しているところである。
イ 上部突出段部右側板部と床材載置部のコーナー部の形状処理について
上下2つの水平面の段部を繋ぐ処理として、傾斜面とするかR面(小曲面)とするかは、選択の問題にすぎないという主張は理解する。しかし、それは傾斜面とR面とで機能において差違がない場合のことである。
請求人が引用する
〔15〕意匠登録第658165号
〔16〕意匠登録第1346642号
の意匠は、請求人が指摘する傾斜面以外にも相違点が存在し、「傾斜面の相違に拘わらず類似とされている」という主張であるならば不適切な提示である。
本件においては、引用意匠はR処理であるために「足場板(床材)の位置決め」のために「段部」を設ける必要があるが、本件登録意匠では「傾斜面」としたことによって「段部」を設けずに「位置決め」が可能となっている。
R面と傾斜面とで機能が異なるのであり、単なる段部処理の造形の選択にすぎないということはできない。
(8−3)押出形材の意匠における参考登録意匠及び関連意匠登録例
請求人は、「一般に、対比する2つの意匠において、全体の基本的構成態様が共通する場合、外観として見える部分であっても、コーナー部等の態様は、類否判断に与える影響は小さいと判断されている」と主張し、
〔17〕意匠登録第1500329号
〔18〕意匠登録第1500665号
を提示する(図17)。
これらにおいては、請求人が言うように基本的構成態様が共通しているのであり、R処理であるか(〔17〕)垂直面処理であるか(〔18〕)による機能上の違いも見いだせないところから、類似と認定されたことは妥当なものと思われる。
しかるに、本件では、本件登録意匠と引用意匠とでは基本的構成態様において相違がある(相違点1)のであり、本件の判断に参照すべき事案ではない。
(8−4) 本件登録意匠に係る意匠の出願直前に公開された特許出願について
請求人が提示する
〔19〕特開2020−133301号公報
は、本件登録意匠の出願日である令和2年8月26日よりも後の令和2年8月31に出願公開されたものであり、本件登録意匠の3条1項3号該当性の判断資料にされるべきものではない。そして、当該公報に先行技術文献として記載されている特開2013−231305号公報に、巾木取付用ボルト用溝は開示されていない。
(8−5)小括
以上の次第であるから、公知意匠に基づく請求人の主張は何れも失当である。

(9)むすび
本件登録意匠は、基本的構成態様に係る相違点1をはじめとして多々の相違点を有し、全体として観察したときに異なる美感を起こさせるものである。
したがって、本件登録意匠は引用意匠と類似しないものであり、本件審判請求は理由がないものとして棄却されるべきである。

2 証拠方法

(1)乙第1号証 意匠登録第1391206号公報

(2)乙第2号証 意匠登録第1409173号公報

(3)乙第3号証 意匠登録第1448666号公報

(4)乙第4号証 不服2019−8664号審決

(5)乙第5号証 不服2013−17106号審決

(6)乙第6号証−1 不服2010−8292号審決

(7)乙第6号証−2 意匠登録第1404575号公報

(8)乙第7号証 東京高裁平成4年(行ケ)第9号判決

(9)乙第8号証 知財高裁平成30年(行ケ)第10181号判決

(10)乙第9号証 大阪地裁平成23年(ワ)第529号判決

(11)乙第10号証 本件登録意匠の実施品の寸法図

第4 弁駁の趣旨及び理由

請求人は、令和3年11月1日付けで、被請求人の答弁に対し審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)を提出し、要旨以下のとおり主張をし、その主張事実を立証するため、甲第27号証乃至甲第32号証を提出した。(以下、下線は請求人による。)

1 理由
審判答弁書(以下、「答弁書」という。)は、本件登録意匠及び甲号意匠を観察するにおいて、意匠の全体ではなく、一部の具体的構成態様における差異のみに注目して両意匠の類否を論じており、肯定できない。
本件登録意匠と甲号意匠とは、同一又は類似の物品に関し、その物品と一体をなすものである意匠が有する意匠的効果が類似している。すなわち、両意匠は、共に、点検通路又は点検路に用いる長尺材である点で一致しており、また、それぞれの添付図面において実線で表された物品全体の外観である意匠を、全体観察、すなわち個々の要素にとらわれることなく、個々の要素を総合し全体として判断すると、需要者に類似の美感を生ぜしめる。したがって、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号に該当し、無効とすべきである。
以下、本件登録意匠と甲号意匠とを全体観察すると類似する、との請求書の主張の趣旨及び、答弁書に関する請求人の意見を述べる。

(1)意匠は、全体観察により類否を判断する。
(1−1)意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面等を総合的に判断する。
本件登録意匠は、願書の記載によれば、点検路用桁材に係り、願書に添付した図面には、その形状全体を実線で表している。すなわち、部分意匠では乃至たがって、点検路用桁材という物品全体の形状を観察して類否判断を行うものである。
本件登録意匠に係る点検路用桁材は、点検路の構成部品である。使用時には、2つの桁材を対向させ中間に横梁を配し、上部段状の一段低い部位に足場板又は床材を載置する。突出する上部最上面を巾木で覆うので、点検路の外観に現れるのは、点検路用桁材の左側面側、底面側及び右側面側である。
以下の図に示すように、本件登録意匠と甲号意匠は、点検路用桁材として一体をなす意匠、形態全体の外観において極めて共通している。図面から明らかなように、ボルト用溝及び左右側板部と下板部が創出する構成、形状は略同一である。
本件登録意匠は、甲号意匠が有するそれまでになかった独特の外観特徴あるいは基本的構成態様を殆どそのまま取り込んだ上で、最終使用時には巾木により隠れてしまう部位に、一般的に案出される取付用凹部を付加えたにすぎない。
以上を前提に、本件登録意匠と甲号意匠とを全体観察すれば、両者は意匠的効果、美感において類似する。

(当審注:図省略)

(1−2)両意匠は、甲号意匠の特徴的形態である基本的構成態様を共通に有する。
請求書のオ 本件登録意匠と甲号意匠との類否、(ア)両意匠の共通点について(請求書第29頁から第31頁)で述べたように、共通する基本的構成態様、すなわち甲号意匠の骨格的かつ特徴的構成態様は、甲号意匠の出願前には存在しなかった。
以下に補足して説明する。
両意匠に共通する基本的構成態様がそれまでに存在しなかったものであることを示すため、請求書では、[図22]で、押出形材による点検路用桁材(以下、桁材と略称する場合がある)の全体形状に着目して挙げられた甲号意匠の先行公知桁材又は意匠を左から右へ古い順に並べた(請求書第31頁)。本弁駁書では、当該[図22]を再度、以下に掲載するとともに、各意匠の下欄にその使用状態を示す図を追加して示す([図22−1])。
下図([図22]及び[図22−1])の〈1〉及び〈2〉に掲載した図は当該発明又は意匠に関し、本件登録意匠と共通する観点からの図である。〈1〉の桁材は、従来の溶融亜鉛めっき仕様の鋼製検査路をアルミ合金製の押出材による検査路とすることで、軽量化、耐久性、搬送性、施工性等の向上を図ったものである。しかしながら、副梁に床材を載置する必要があり、問題点として、多くの副梁を必要とし、梁と主桁とのボルト接合箇所が多くなることがあった。〈2〉の意匠は、上記〈1〉の問題を改善した桁材に関し、主梁の上に床材が載置される構成として、副梁が床材を支持する必要を無くし、接合箇所が低減できるようにするなど、施工性の向上を図った桁材の外観を表出した(甲第10号証、段落【0002】〜【0007】の記載等参照)。
甲号意匠は、更に梁材の上部に床材を載置する段差を設けることによって、床材と梁材上面が面一に収まるようにし、通路の高さ(梁材+床材)を低く抑え、各板部の厚さを薄くしつつも強度が維持できる均整のとれた構成(左右のボルト用溝を各側部の上下端部に配し、中空部下方のボルト溝構成部と面一に連結する水平補強板部を設けた構成)とし、梁材全体をスリムで無駄のないすっきりした美的外観を有する意匠にまとめあげたものである。

[図22](当審注:図22省略)

[図22−1](当審注:図22−1省略)

被請求人は、答弁書において、本件登録意匠は、桁材の上部に「巾木取付用ボルト用溝」(請求書における小溝)を設け、上向きに開口する当該小溝と左側上端の横向きに開口するボルト用溝を一体的に造形した点に特徴がある旨述べるが、下図に示すように、共通点を淡青色で着色すると、殆どが淡青色となり、差異点は淡青色以外の極めて限られた部分的な部位となり、かつ、その形状は桁材においてありふれた形状であることによる差異であるので、本件登録意匠は甲号意匠の特徴的構成態様をそのまま共通に有していることは看者にとって明らかである。

[図21](請求書第30頁 記載)(当審注:図21省略)

(1−3)差異点が類否判断に与える影響は微弱である。
差異点は、その部位が、最終使用時には巾木により隠れてしまうこと、及びその形状は、一般的に案出される取付用凹部を製品のごく一部に加えるなど細部的なありふれた変更を行ったに過ぎないことから、以下に述べるように、類否判断に与える影響は微弱なものである。
A 上板部左側突出部の小溝の有無、及びB 上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部の形状に差異があるが、請求書のオ 本件登録意匠と甲号意匠との類否(イ)両意匠の差異点について(第31頁から第35頁)において述べたとおり、いずれも、この種物品分野において普通に行われているありふれた細部的変更にすぎず、需要者(取引者を含む)である、施主及び施工業者に部分的なありふれた改変をした程度との印象を与えるにすぎない。また、当該差異は、上板部の局部的な部分における、使用状態においてはほとんど視認できない部分の差異である。したがって、それらを総合しても、類否判断に与える影響は微弱なものである。
以下に記載の要点は、請求書で述べた内容を抄録したものである。
A 上板部左側突出部の小溝の有無は細部的変更である。
・小溝を設けることについて、巾木を梁材に固定することは一般的な技術であり、梁材の上面にナット及びボルトネジ部を挿入するための梁材の上面に上方へ開口する溝を設けることも公知の技術である。
・本件登録意匠の小溝の形状についても、普通に見られる態様であり、小溝の右側面部の形状についても、小溝の形状に沿って僅かに段状の垂直板状とした態様は普通に見られるもので、本件登録意匠のみが有する特徴ではない。
・したがって、この種物品分野において技術的必要性に応じて普通に行われているありふれた細部的変更の範囲であるため、意匠的にも部分的なありふれた改変をした程度との印象を需要者(取引者を含む)である、施主及び施工業者に与えるにすぎない。
B 上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部の形状の差異は細部的変更である。
・本件登録意匠の、上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部を斜直線状とした態様はありふれた態様である。
・当該コーナー部の形状について、円弧状(匙面)にしたか斜直線状(切り面)としたかは突出部の一部の局部的な差異であり、面取り状部の右方に僅かな段差を設けたか否かについても、いずれも床材を嵌めやすくし、一定の間隔を空けて固定するための傾斜部を形成したとの共通する態様の範囲内における機能的な面からの細部的変更にすぎない。
上記A及びBの差異はこれらを総合しても、上板部の一部における僅かな部分の差異であり、当該部分が桁材の意匠全体に占める割合は極めて小さく、かつ、使用状態においては、巾木で覆われほとんど視認できない部位であり、流通時においても流通状態(すべて又はユニットの組み立てを工場で行い、組み立てた状態で搬送することが多い)からすると需要者が上面の巾木取付部に意匠的効果あるいは美感として格別強く注意を引くことは殆どない。
したがって、請求書において述べたとおり、本件登録意匠は、甲号意匠に類似する。
答弁書において、桁材の上部に「巾木取付用ボルト用溝」(請求書における小溝)を設けた点について、機能に結びついた形状等が使用状態において視認することができないとしても、係る形状等を軽視してはならない旨述べるが(答弁書第34頁)、当該「巾木取付用ボルト用溝」部の形状は、点検路用桁材の意匠全体においては看者の視覚に大きな影響を与えない僅かな形状の差異にすぎない。
さらに、本件のような点検路用桁材を有する検査路の歩廊桁は、以下(2)で述べるように、使用状態における外観も十分考慮すべきものであるから、上記主張は理由がない。
答弁書と請求書とでは、両意匠の要旨、共通点及び差異点の把握の仕方に違いがある。しかしながら、答弁書の相違点において、誤りを除くか又は善解すると、請求書に記載された差異点と実質的にほぼ同様の箇所の差異を指摘するにとどまるので、請求書で述べた差異点及びその評価は適切であるとして以下述べる。
本弁駁書の(2−2)ア(イ)c 被請求人が主張する相違点(第17頁及び第18頁)で記載するが、答弁書において相違点として挙げられた諸点は、意匠全体から判断すれば些細なものである。すなわち、答弁書において相違点として、〈3〉上部突出段部の幅が、全幅の約1/2であるか、約1/3弱であるか、〈6〉上板部(床材載置部)の全体に占める幅が、全幅の約1/2弱であるか、約3/5であるか、〈7〉上板部(床材載置部)の上面の高さが、上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝の下面と同じか、上面と同じか、及び〈8〉略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について、正面視における上部突出段部の最上面と床材載置部との段差が、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4であるか、約1/5であるか、すなわち、上部最上面と床材載置部との段差(高さ)及び答弁書における上部突出段部と床材載置部の幅の構成比が僅かに異なることを挙げているが、いずれも当該部分のみに注目して観察し、まるで桁材を破線と実線で表して実線部分に注目するようないわゆる部分意匠での観察結果を主張しているとしかいえない。桁材全体の外観である意匠全体を観察するとの観点から見れば、それらは、部分的な範囲における部分的な差異である。

(1−4)付言
ア 甲号意匠と産業の発達
甲号意匠は、アルミニウムという素材の持つ質感を生かし、桁材という物品に求められた機能を発揮することはもちろん、需要者に加えて道路通行人にも提供できる美的外観を考慮して開発された意匠であり、この種物品において甲号意匠の出願前に存在しなかった画期的な意匠である(請求書第30頁から第31頁 参照)。例えば、甲第27号証の1及び2において示す甲号意匠の出願前に見られる従来の鋼製の検査路及びアルミニウム製検査路とは外観の美感が全く異なる。
甲号意匠は、2013年3月4日に出願し、その後、甲号意匠の歩廊桁材を使用した検査路「KERO]は、同年4月に国土交通省によって運営されているNETIS(新技術情報提供システム)にこれを使用する検査路として登録し、橋梁等に関係する分野において、信頼性の高いものとして認知され、多数の施工実績を有している。例えば、2015年3月には、北海道開発局が発行した北の技術情報誌「Hint!」第30号の第4頁に、「FOCUS すすめ!テクノロジー NETIS登録技術の6の技」と題するコーナーにおいて紹介される、平成27年11月1日付け橋梁新聞第7頁に製品記事が記載される等多数のメディアで紹介されている(甲第28号証及び甲第29号証)。
以上、述べたように、甲号意匠は意匠法第1条の目的に記載された産業の発達に寄与するものである。
イ 本件登録意匠と産業の発達
本件登録意匠は、甲号意匠の基本的構成態様を取り込み、上部突出段部に上向きに開口したボルト用溝を設けるとのごく部分的な形状的付加をしている。桁材分野の技術常識では、当該付加によって、垂直の溝部に水が溜まりやすくなり腐食を促進させる可能性への懸念をぬぐえない。長期間の耐食性、安全性が必要とされるこの種物品において産業の発達に貢献する意匠かどうかは疑問である。

(2)答弁書の主張について
(2−1)本件登録意匠及び甲号意匠(以下、答弁書における引用意匠)の要旨認定について
請求書において記載した本件登録意匠及び甲号意匠の基本的構成態様及び各部の具体的構成態様は適切である。これに対し、答弁書は、本件登録意匠及び甲号意匠の要旨認定に関する記載に矛盾がある。
ア 請求書で定義した各部の名称
請求書において記載した本件登録意匠及び甲号意匠の基本的構成態様及び各部の具体的構成態様は適切である。
請求書で定義した各部の名称は、施工する際、使用時には需要者は各面(上下、左右)から観察することから、以下のように各面からの外観に留意して認定したものである。以下に、請求書における上板部、左側板部、右側板部及び下板部を赤線で、巾木取付部を緑線で説明する図を示す。

[説明図1](当審注:説明図1省略)

イ 答弁書における部位の説明
答弁書では各部位について、下記[説明図2]のように示す。しかしながら、下記の各部位の用語は、答弁書第3頁から16頁において、本件登録意匠及び甲号意匠の要旨認定に関する記載に矛盾がある。ひいては、共通点及び相違点の認定に矛盾がある。以下(ア)から(オ)に述べる。

[説明図2](当審注:説明図2省略)

(ア)両意匠の各ボルト用溝及び本件登録意匠の小溝について
請求書における「小溝」を答弁書では「巾木取付用ボルト用溝」、請求書における左側板部の上下の「ボルト用溝」を答弁書では「支柱取付用ボルト用溝」に変更して示すが、右側板部の上下の「ボルト用溝」はそのまま「ボルト用溝」と称している。一部のみ具体的な用途を記載しており適切でない。「支柱取付用ボルト用溝」と「巾木取付用ボルト用溝」を本件登録意匠の特徴と説明するために、同様な機能及び形状を有するボルト用溝であり意匠の類否判断において特に区別する必要ないものを、敢えて特別な名称とする恣意的な変更である。
(イ)答弁書における上部突出段部及び上板部(床材載置部)について
(イ−a)答弁書では、両意匠の基本的構成態様について、それぞれ以下のように認定している。しかしながら、答弁書における部位の説明図([説明図2]参照)に基づくと、上板部、下板部、左右側板部により略角筒体を形成しない。

本件登録意匠について、(A)中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備え、後略。(答弁書第5頁)
甲号意匠について、(A’)中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備え、後略。(答弁書第12頁)

(イ−b)答弁書の両意匠の具体的構成態様おける(b)、(b’)について、以下のように認定している。しかしながら、答弁書における部位の説明図([説明図2]参照)に基づくと、上板部を床材載置部と称していることと一致せず、認定に誤りがある。

本件登録意匠において、(b)上板部について
この床材載置部の幅は、上板部全幅の約1/2弱である。(答弁書第8頁)
甲号意匠において、(b’)上板部について
床材載置部の幅は、上板部全幅の約3/5である。(答弁書第14頁)

(ウ)答弁書の両意匠の具体的構成態様における(c)、(c’)及び(d)、(d’)について
答弁書の両意匠の具体的構成態様(c)、(c’)及び(d)、(d’)を、次頁の[表1]のように認定している。この点は答弁書における部位の説明図において、左側板部はその下のボルト用溝を含む部分を示していることと矛盾し、差異点が不明である([説明図3]参照。答弁書と請求書における認定の差異を確認するために、参考に請求書における部位の説明図の一部を[説明図3]右側に掲載する。)

[説明図3](当審注:説明図3省略)

(ウ−a)(c)、(c’)について、見出しの「左側板部」と内容における「左側板部(上部突出段部左側板を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、」の記載は、答弁書における部位の説明図で示す左側板部と一致せず。答弁書における左側板部がどの部位を指すのか不明である。
(ウ−b)(d)、(d’)についても、見出しの「右側板部」が答弁書の説明図において上下の溝を含む箇所を示すのか不明である。また、ボルト用溝幅が左側面側も右側面側も同寸、同形であるにもかかわらず、異なる高さの各側板部を基準として認定することは、両意匠の対比が意匠全体として観察されるべきものであるから、不適切である。
そもそも、需要者は、通常、左側面側から観察する際は、その左側面側全体(左側板部と上下のボルト用溝)がまとまりとして目に入るものであるから、上部のボルト用溝部と、下部のボルト溝を含む左側板部に分離して認定することが不自然である。

[表1]
本件登録意匠において、
(c)左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部(上部突出段部の左側面を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強である。後略。(答弁書第9頁)
(d)右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7である。後略。(答弁書第9頁)
甲号意匠において、
(c’)左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部(上部突出段部左側板を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強である。後略。(答弁書第14頁)
(d’)右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7強である。後略。(答弁書第14頁)

(エ)答弁書の両意匠の基本的構成態様について(答弁書第5頁、第6頁、第12頁及び第13頁)
請求人が突出状の「上板部」(上板部を突出部と水平板部を含む)としたのに対して、答弁書では被請求人は、上部右側の床材載置部を「上板部」とし、左側の突出部を「上部突出段部」とし、上部突出段部の右側に、巾木取付用ボルト用溝が上向きに開口する点を基本的構成態様に含めるべきと述べている。
しかしながら、巾木取付用ボルト用溝は、左右側壁に配された4つの大きなボルト用溝より小さく、付加的な要素である。また、請求書において提出した「道路橋検査路設置要領(案)」の第19頁の2.2基本構造の[解説]において「上部構造検査路を構成する部材は、歩廊桁、床材、支柱、及び手すり等を基本とする。」とある(甲第30号証 甲第12号証は抜粋であるため、新たに別頁を追加して提出する)。爪先板、すなわち、巾木については、第24頁2.4構造細目の(1)6)において記載されている。このように検査路という物品の構造における重要度の観点からも、答弁書でいう巾木取付用ボルト用溝は、基本的構成態様に含めるべきでない。
(オ)答弁書の両意匠の具体的構成態様における(e)、(e’)、(f)、(f’)について
(オ−a)被請求人は、答弁書の両意匠の具体的構成態様(e)、(e’)中空部について、「正面視において、略角筒体の全高の下から約3/10の位置に水平補強板が形成されている。」と認定し、[異なる把握をすべき理由]において、「請求書(F)中空部について」においては「全高」が、上部突出段部を含めた高さであるか略角筒体の高さであるかが不明確」と述べる。
しかしながら、請求書における「(F)中空部について」及び「(f)中空部について」における「全高」は、正面視における全高、すなわち桁材の全高であることは明らかである。むしろ、答弁書で略角筒体と述べる部分のどの部位の高さを基準に全高を示すのかが曖昧であり不適切である(答弁書第9頁及び第15頁)。

(オ−b)被請求人は、答弁書の両意匠の具体的構成態様(f)、(f’)略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について、本件登録意匠は「略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形であり、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差は、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4である。」と認定し、[異なる把握をすべき理由]において「本件登録意匠を観察するときに「縦横比」として印象付けられるのは略角筒体の縦横比であるから、角筒体に基づく数値で特定することが妥当である。」旨述べる(答弁書第10頁)。
しかしながら、答弁書において上部突出段部が基本的構成態様に含まれると認めている以上、上板部に上部突出段部を含んだ全高で評価するべきである。外形状の縦横の構成比は、上板部、すなわち、床材載置部から下板部までを全高としつつ、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差は、上部突出段部の最上面から下板部までを全高とするという、異なるものさしにより示すのは適切でない。本件登録意匠を観察するとき、突出段部を有する略角筒体全体が観察されるものであるから、桁材全高を基準として、縦横の構成比を認定する方が妥当である。甲号意匠(f’)(答弁書第15頁)も同様である。
以上述べたように、請求書において記載した本件登録意匠及び甲号意匠の基本的構成態様及び各部の具体的構成態様は適切であり、答弁書は、本件登録意匠及び甲号意匠の要旨認定に関する記載に矛盾がある。

(2−2)答弁書における両意匠の共通点及び相違点、その評価及び類否判断について
答弁書における両意匠の共通点及び相違点に誤りがあり、これに基づく共通点及び相違点の評価は失当である。したがって、答弁書における類否判断は前提に誤りがあるものであり適切でない(答弁書第16頁から第33頁)。
ア 本件登録意匠と甲号意匠の共通点及び相違点について
(ア)意匠に係る物品について
両意匠に係る物品は、共に、橋梁等の構造物に設置して、点検等の作業を行う検査路に使用される歩廊桁として使用される点で物品の用途及び機能が共通し、意匠に係る物品が共通する(請求書第24頁)。被請求人は、「本件登録意匠は「巾木を取り付けることができる」機能を備えているのに対して、引用意匠はこの機能を備えていない点で相違がある。」と述べているが、巾木が設けられる部位を有する点で共通する(答弁書第16頁)。
(イ)形態について
a 共通点について(答弁書第16頁(イ−1))
a−(i)答弁書の両意匠の基本的構成態様において認定した(B)、(B’)及び(C)、(C’)(答弁書第5頁、第12頁)における共通点が記載されていない。答弁書の認定([説明図2])に基づくと、以下の点を共通点とすべきである。以下のb相違点で述べる。

(BとB’)前記上部突出段部の左側面に、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口する。
(CとC’)前記上部突出段部の上面は水平面がある。

a−(ii)答弁書の具体的構成態様における(fとf’)略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について、以下は共通点とすべきである。以下のb相違点で述べる。

(fとf’)略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形である。

b 答弁書の相違点について(答弁書第18頁及び第19頁(イ−2))
b−(i)上記aで述べたように、下記[表2]に示す答弁書の両意匠の基本的構成態様における相違点(BとB’)(相違点1−1)において、下線箇所は共通点である。また、(CとC’)(相違点1−2)において、答弁書でいう上部突出段部の上面は水平面がある点で共通するとすべきであり、答弁書の相違点に誤りがある。
さらに、答弁書の具体的構成態様における(fとf’)(相違点4)において、下線箇所は共通点である。
また、被請求人は、本件登録意匠は上部突出段部の最上面と床材載置部との段差は、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4であるのに対して、引用意匠では約1/5であるとするが、公報に記載の正面図においては、本件登録意匠は全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)が19mm、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差は86mmであるから、若干の寸法による誤差を含むとしても、19/86=0.22であるから請求書で認定したように、約1/4ではなく略1/5強の範囲内である。したがって、両意匠の上部突出部の最上面と床材載置部との段差の全高に対する高さは共通する。

[表2]
答弁書の基本的構成態様
(BとB’)本件登録意匠においては、上部突出段部の左側面に、支柱取付用のボルト用溝が横向きに開口し、前記上部突出段部の右側に、巾木取付用ボルト用溝が上向きに開口しているところ、引用意匠においては巾木取付用ボルト用溝が存在しない点(相違点1−1)
(CとC’)本件登録意匠においては、上部突出段部の上面の左側のみが水平面であるところ、引用意匠においては上部突出段部の上面全面が水平面である点(相違点1−2)。
答弁書の具体的構成態様
(fとf’)略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について
略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形である点は共通するが、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差において、本件登録意匠では、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4であるのに対して、引用意匠では約1/5である点(相違点4)。

b−(ii) 被請求人は、巾木取付用ボルト用溝(小溝)の有無の相違点について、答弁書の基本的構成態様(BとB’)で述べているが、具体的構成態様(aとa’)においても同様に「本件登録意匠では、上部突出段部の上面の右側部分に上方に開口する巾木取付用ボルト用溝が設けられているのに対して、引用意匠には巾木取付用ボルト用溝は存在せず、中略、垂直状としてある点」と記載する。同じ相違点の記載が基本的構成態様と具体的構成態様に一部混在しており、具体的構成態様(aとa’)における両意匠の相違点が明確でない。

c 被請求人が主張する相違点について
被請求人が主張する相違点に誤りがあることについては、上記で述べたとおりである。これを踏まえて答弁書における相違点1−1から相違点4を整理すると以下の〈1〉から〈8〉となる。項番〈1〉から〈8〉に対応する箇所を図に示すと[説明図4]となる。
基本的構成態様(当審注:取消線あり)具体的構成態様
〈1〉上部突出段部に巾木取付用ボルト用溝(小溝)が上向きに開口しているか、当該溝が存在しないかの点(相違点1−1)。
*巾木取付用ボルト用溝(小溝)は基本的構成態様とすべきでないので具体的構成態様とする。
*上部突出段部の左側面に、支柱取付用のボルト用溝が横向きに開口する点は、共通点とすべきであるから除く。
〈2〉上部突出段部の上面の水平面が左側のみか全面か(相違点1−2)。(当審注:取消線あり)
*上部突出段部の上面は全幅の略1/3の水平面がある点は共通点とすべきであるから除く。
〈3〉上部突出段部の幅が、全幅の約1/2であるか、約3/5であるか(相違点2−1)。
〈4〉上部突出段部の右側面部分に巾木取付用ボルト用溝(小溝)が設けられているか、当該溝がなく垂直板状か(具体:相違点2−2)
〈5〉上部突出段部の右側面が、段状の窪みを形成した垂直状板とし、床材載置部のコーナー部に傾斜面を形成し水平面となるか、段状の窪みがなく床材載置部のコーナー部を凹曲面状に面取りして形成したか(具体:相違点2−3)
〈6〉上板部(床材載置部)の全体に占める幅が、全幅の約1/2弱であるか、約1/3弱であるか(相違点3−1)
*答弁書の本件登録意匠及び甲号意匠の認定においては、「床材載置部の幅は、上板部全幅の約1/2弱、約3/5である。」としており、答弁書において上板部を床材載置部と称していることと一致せず、認定に誤りがある。上板部全幅は意匠全体の幅と善解した。
〈7〉上板部(床材載置部)の上面の高さが、上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝の下面と同じか、上面と同じか(相違点3−2)
*上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝の下面と上面がどこを示すのは明らかでないが上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝を形成する下板部(請求書における上部溝構成部)と理解した。
〈8〉略角筒体の正面視における上部突出段部の段差について、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差が、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4であるか、約1/5であるか(相違点4)
*略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形である点は共通点とすべきであるから除く。

[説明図4](当審注:説明図4省略)

以上述べたとおり、答弁書における両意匠の共通点及び相違点の認定に誤りがある。

イ 共通点・相違点の評価及び類否判断について(答弁書第19頁から第33頁)
アで述べたように、答弁書における両意匠の共通点及び相違点に誤りがあり、これに基づく共通点及び相違点の評価及び類否判断は失当である。以下述べる。
(ア)意匠に係る物品について、被請求人は以下のように述べる。「本件登録意匠に係る物品は「巾木を取り付ける」機能を有し、引用意匠は係る機能を備えていない点に差違がある。両物品が足場板(床材)を架設する用途に用いられるものであるので、物品として類似することは認めるが、機能の相違は形状等の相違に密接に影響しているのであり、機能に相違があることは形状等の評価において強く意識されなければならない。」(答弁書第19頁(5)(イ))
意匠の類否判断において、意匠に係る物品については、同一又は類似であるかを判断すれば足りるのであり、被請求人が「物品として類似することは認める」としているのであるから、両意匠に係る物品が類似するという結論に議論の余地はない。
上記の通り、意匠に係る物品についてこれ以上議論をする余地はないが、なぜか被請求人が機能の相違について述べているので、念のため反論する。両意匠は、共に、橋梁等の構造物に設置して、点検等の作業を行う検査路に使用される歩廊桁として使用される点で物品の用途及び機能が共通するので、意匠に係る物品が共通する。また、巾木を取り付ける部位がある点でも用途、機能が共通する。仮に、機能の相違が形状に表れる場合は、その具体的な形状について評価すべきものであるから、「物品として類似することは認める」以外の被請求人の主張は妥当でない。
なお被請求人が主張する「巾木を取り付ける」機能は、上部突出段部に上向きに開口したボルト用溝の形状によって奏されるようであるが、上向きに開口したボルト用溝は、溝部に水が溜まりやすくなり腐食を促進させる恐れがある。したがって、長期間の耐食性、安全性が必要とされるこの種物品において、被請求人が主張する「巾木を取り付ける」機能に基づく具体的な形状等の評価は、極めて低いものといわざるを得ない。
(イ)形状等の共通点・相違点の評価について(答弁書第20頁から第32頁)
a 意匠審査基準に基づく基本的構成態様の共通点の評価手法及び評価について
基本的構成態様は意匠の骨格といえるものである。答弁書においては、両意匠の基本的構成態様は以下のように記載される。本件登録意匠は、基本的構成態様(A)から(H)を有する(答弁書第5頁及び第6頁(ウ-1)))。甲号意匠は、基本的構成態様 (A’)から(H’)を有する(答弁書第12頁及び第13頁(ウ−1))。

[答弁書の本件登録意匠の基本的構成態様](当審注:省略)

[答弁書の甲号意匠の基本的構成態様](当審注:省略)

答弁書において、前記(2−2)ア(イ)aで述べた形態における共通とすべき点に基づくと、両意匠の基本的構成態様における共通点は、少なくとも(AとA’)、(BとB’)の一部、(CとC’)の一部、(DとD’)、(EとE’)、(FとF’)、(GとG’)及び(HとH’)を備えた構成態様である。
被請求人は、答弁書の形状等の共通点の評価において、(AとA’)共通点1−1、(DとD’)共通点1−2、(EとE’)共通点1−3、(FとF’)共通点1−4、(GとG’)共通点1−5、(HとH’) 共通点1−6を個別に評価し、これらの個別の評価に基づく全体の基本的構成態様について総合的に評価することなく(答弁書第20頁から第24頁)、「本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様における共通点は、いずれも公知意匠にも見られる態様であって、本件登録意匠と引用意匠とのみに共通する態様では乃至たがって、これら共通点の類否に及ぼす影響は軽微なものにすぎない。」と主張する(答弁書第25頁小括)。
しかしながら、共通点の評価について、個々の要素の共通点について評価したとしても、個別評価に基づき共通する基本的構成態様全体について評価されるべきものである(本件登録意匠が適用される意匠審査基準第III部第2章第1節新規性2.2.2.7)。
したがって、被請求人の上記主張は、前記(2−2)ア(イ)で述べたように、共通点の評価の前提となる共通点に誤りがあり、さらに、共通する基本的構成態様についての評価方法が不適切であり、共通点の評価に誤りがある。
被請求人の共通点の評価手法は、請求書第29頁において共通するとした基本的構成態様が先行意匠に見られない特徴的構成態様であることを否定できないことの証左である。
b 被請求人が主張する本件登録意匠の特徴、共通点及び相違点の評価について
b−(i)被請求人が主張する本件登録意匠の特徴について
被請求人は、共通点・相違点の評価について、冒頭に以下のように主張する(答弁書 第19頁(5))。
「本件登録意匠は、上部突出段部において、横向きに開口する「支柱取付用ボルト用溝」と上向きに開口する「巾木取付用ボルト用溝」とを一体的に造形した点に特徴があるものであり、共通点が意匠の類否に及ぼす影響はきわめて小さいものである。」
そして、先行登録意匠である乙第1号証、乙第2号証について、「なお、乙第1号証、乙第2号証の意匠も横向きに開口したボルト用溝と上向きに開口したボルト用溝を備えているが、2つの溝が一体的に造形されているという「まとまり感」を看取できるものではない。」と主張する。(答弁書第27頁)
そもそも、前記II(2)(イ)a−(i)で述べたように横向きに開口する「支柱取付用ボルト用溝」は両意匠の共通点であり、本件登録意匠の特徴とは言えないが、被請求人が主張するので以下述べる。
乙第1号証、乙第2号証の意匠は2つの溝が一体的に造形されている。また、側面側に「ボルト用溝」とその上面に上向きに開口する「ボルト用溝」とを一体的に形成した構成は[説明図5]に赤枠で示すように乙第1号証、乙第2号証の意匠及び〈12〉特開2007−198026の図(甲第14号証)にも見られる。したがって、被請求人が主張する2つの溝「支柱取付用ボルト用溝」と「巾木取付用ボルト用溝」が一体的に造形されている態様は、本件登録意匠の出願前に見られるものであり、その主張は失当である。

[説明図5](当審注:説明図5省略)

b−(ii)被請求人が主張する共通点の評価について(答弁書第20頁から25頁)
被請求人は、乙第1号証、乙第2号証の意匠を引用し、「請求人は、『上部突出段部を有する略角筒体であって左右側板部にはボルト用溝が設けられている桁材の存在を示すものは無い。』(請求書14頁1〜2行目)と主張するが、『桁材』ではなくとも『同種の物品』において同様の機能を備えた態様が存在するのであり、係る主張は失当である。」と述べる(答弁書第20頁)。
しかしながら、乙第1号証、乙第2号証の意匠は底面側にも溝が形成されたもので([説明図6]の赤枠箇所参照)、「上部突出段部を有する略角筒体であって、左右側板部にはボルト用溝が設けられている桁材」、すなわち、上部突出段部を有する略角筒体であって、底面側が平坦面で、左右側板部にボルト用溝が設けられている桁材に該当しない。被請求人の主張こそ失当である。

[説明図6](当審注:説明図6省略)

被請求人は、乙第1号証、乙第2号証を引用して次のように記述する。
「上部突出段部の右側(内側)において、上板部は床材を取り付ける平坦面状の床材載置部とした点(共通点1−2)、左側板部の下端には、支柱取付用のボルト用溝が横向きに開口した点(共通点1−3)、右側板部の上端及び下端にはボルト用溝が横向きに開口する点(共通点1−4)は、先行意匠に見られる態様にすぎない。」
下板部は水平な平坦面とした点(共通点1−5)について、「この種の物品においてごくありふれた態様であり、意匠登録第1448666号の他(乙第3号証)、『早期審査に添付の先行意匠一覧』(甲第11号証)中の番号7乃至13の意匠に見られるものである。」
各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部の面一に連結する水平補強部を設けた(共通点1−6)について、「各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部の面一に連結する水平補強部を設けた点(共通点1−6)も、『早期審査に添付の先行意匠一覧』(甲第11号証)中の番号7,8の意匠にも見られるものである。」と述べる。
しかしながら、乙第1号証、乙第2号証意匠は、「浮桟橋用フレーム材」に係り、浮桟橋に使用されるものであるか橋梁に使用される検査路とは使用環境及び求められる性能が異なる。具体的には乙第1号証、乙第2号証意匠に取り付けられるのは軟質の防弦材(クッション材)であり、このため外側面にわたって多数の嵌合溝が設けられている。この点においてアルミ形材からなる手摺支柱をボルト固定する本件登録意匠、甲号意匠と大きく異なる。乙第1号証、乙第2号証意匠はいずれも上部に水平突出片があり、両側面及び下面全体にわたって多数の溝が設けられており、本件登録意匠及び甲号意匠に有する形状とは大きく異なる。しかも、ボルト用溝は左右側板部の下端に配されたものでない([説明図6])。したがって、乙第1号証、乙第2号証意匠を根拠に先行意匠に見られる態様とはいえない。
また、意匠登録第1448666号は水平補強部を有していない。そのため下板部をはじめとして形材全体が肉厚になっており、甲第11号証の7〜13の意匠は何れも下板部及び水平補強板部がボルト溝と一体になっている形態ではない。甲号意匠のように、左右側板部下端に、下部溝構成部と下板部により形成されるボルト用溝を設け、左右側板部下端の各下部溝構成部(本弁駁書第12頁[説明図3]の請求書における説明図参照)と面一に連結する水平補強板部は見られない。
被請求人は、「請求人は、『当該共通する構成態様は、以下に述べるように、甲号意匠の出願前に存在しない、甲号意匠の骨格的かつ特徴的構成態様である。』(請求書30頁中段)と主張するが、略角筒体の上部一側に上部突出段部を設けたという骨格は引用意匠出願前から見られるものであり(乙第1号証、乙第2号証)、請求人の主張は失当である。」と主張する(答弁書第24頁小括)。
しかしながら、上記に述べた通り被請求人の言う略角筒体の上部一側に上部突出段部を設けた骨格は甲号意匠出願前から見られるとして例示された乙第1号証及び乙第2号証の意匠は請求書で述べた共通する構成態様のうち、四隅に同形のボルト用溝(ボルトレール)が配されている上部突出段部を有する略角筒体(底面側は平坦面)を有しておらず、明らかに異なるものである。
したがって、上記主張は失当である。
被請求人は、共通点の具体的構成態様について、「共通点2及び共通点3に関しては、いずれも意匠の類否に影響するものではない。」と、共通点4も、「水平補強板を溝構成部の面一に配設したことの結果として得られた比率にすぎず、意匠の類否に影響するものではない。」と主張する(答弁書第24頁及び答弁書第25頁)。
そして、「以上の通り、本件登録意匠と引用意匠の具体的構成態様における共通点は、いずれも公知意匠にも見られる態様であって、本件登録意匠と引用意匠とのみに共通する態様では乃至たがって、これら共通点の類否に及ぼす影響は軽微なものにすぎない。」と主張する(答弁書第25頁の小括)。
しかしながら、両意匠は、請求書でいう左右側板部の各ボルト用溝の溝形状、溝幅(開口部の高さ)の全高に占める割合、及び水平補強板の配置態様において一致すると言える程共通するものであり、これらの共通点は、意匠の類否判断において、両意匠の共通感を一層強めているものである。
以上述べたとおり、被請求人が主張する共通点に誤りがあり、それに基づく両意匠の共通点の評価方法が不適切であり、本件登録意匠の特徴及び共通点の評価に誤りがある。
b−(iii)被請求人が主張する相違点の評価について
被請求人が主張する形状等の相違点の評価について(答弁書第25頁から第32頁)、本弁駁書(2−2)ア(イ)c(第17頁から第18頁)で整理した被請求人が主張する相違点に基づくと、相違点〈1〉及び〈5〉は本弁駁書第6及び第7頁(1−3)(i)及び(ii)で述べたとおりであり、いずれも部分的な部位におけるありふれた細部的変更にすぎない。相違点〈3〉及び〈6〉は、僅かな変更の範囲の差異にすぎない。相違点〈4〉は相違点〈1〉とほぼ重なる差異である。相違点〈7〉及び〈8〉は、意匠全体に中にあっては極めて僅かな差異であり相違点として挙げるまでもない。
相違点〈3〉及び〈6〉について補足すると、答弁書における上板部 (床材載置部)の全体に占める幅が、全幅の約1/2弱であるか、約3/5であるかは、1/2=0.5、 3/5=0.6であり、その差は全幅の1/10=0.1と小さいものであり、答弁書にいう上部突出段部に小溝を設けた分、突出部の幅が少し広がり、床材載置部の幅が少し狭くなった程度の僅かな変更の範囲にすぎない。
被請求人は、相違点〈5〉について、「可及的に小さい全幅としつつ、足場板の載置面の幅を可及的に広くするために、上部突出段部の幅を減殺する目的で窪みが形成されている。また、『小曲面』ではなく『傾斜面』であることにより、『段差』を形成せずとも足場板の位置決めが可能である。相違点2−3は細部における相違ではあるが、機能と関係する造形であって、類否に一定の影響を持つものである。」と主張する(答弁書 第31頁)。
しかしながら、「可及的に小さい全幅としつつ、足場板の載置面の幅を可及的に広くするために、上部突出段部の幅を減殺する目的で窪みが形成されている。」点については、請求書第32頁及び第33頁において示した、下図の赤丸で示した溝側板の形状に見られるありふれた態様にすぎない。

[図14](当審注:図14省略)

また、「『小曲面』ではなく『傾斜面』であることにより、『段差』を形成せずとも足場板の位置決めが可能である。」点についても、共にコーナー部が面取り状で、床材を載置するための位置決め用の角が形成されている点では共通する。
また、被請求人が例示した〈15〉意匠登録第658165号の意匠は使用状態を示す参考図に示すように「傾斜面」下端から水平面があり、当該部位に板体(蓋床材)が収まるものであり、本件登録意匠がコーナー部を傾斜面にしたことに格別この点を評価すべき点はない。
以上述べたとおり、被請求人の形状等の評価は、前記(2−2)ア(イ)b(弁駁書第15頁乃至第17頁)で述べたように答弁書の相違点の認定に誤りがあり、それに基づく相違点の評価は失当である。
そして、前記(2−2)ア(イ)c(弁駁書第17頁及び第18頁)で述べた被請求人が主張する相違点は、いずれも部分的な部位におけるありふれた付加的な細部の変更の範囲にすぎず、それらを総合しても類否判断に与える影響は微弱なものである。
以上のとおりであるから、答弁書における両意匠の共通点及び相違点に誤りがあり、これに基づく共通点及び相違点の評価は失当であり、答弁書における類否判断は前提に誤りがあるものであり適切でない。
(2−3)需要者(取引者を含む。)の注意を引く部分に関連して
ア 被請求人は、観察主体(需要者)において、「需要者は本件登録意匠を、機能との関係を重視して観察するのであり、施工後における『構造物の景観面からの美感』を考慮することは殆ど考えられない。」と主張する(答弁書(5)ア)。
しかしながら、点検路用桁材(又は点検通路用梁材)である本物品は、橋梁等の構造物に付設され、点検通路、いわゆる検査路に使用されるものである。検査路は、橋梁等の構造物の劣化や損傷を点検するために設置され、点検活動及び保守活動を行うものである。したがって、検査路は構造物において点検を必要とする箇所に応じて付設される。一般に、検査路を発注するのは、高速道路会社等である(施主)。発注を受けて工事を請け負う施工業者は、国土交通省発行の「道路橋検査路設置要領(案)」等に示された基準を前提に、検査路を設置する。近年、橋梁検査路が、塩害や漏水等の環境による腐食を受け、検査路を使用する検査員が事故に合う等、点検作業が困難になる場合が生じることがある。これらを考慮して、検査員の歩行に対する安心感を提供することは重要である。
したがって、施主及び施工者は、検査路の耐食性、重量等の材質面、設置する際の施工性は無論のこと、実際にこれを使用し、点検活動及び保守活動を行う検査員が安心して点検作業を行えるか等の安全性、歩行性や作業環境における美感、また、橋梁等の構造物の景観面での影響を考慮し、検査路を選択購入するものである。
本物品は、いわゆる検査路用歩廊桁であり、本桁材を取引する場合や本桁材を使用して安全な検査路を施工する際には、本桁材の全体、すなわち検査路の床材に覆われて見えなくなる上部を含めて、施主や施工者に見られるが、施工後、設置後は、検査路を見るあるいは使用する検査員には、検査路横部及び下部に外観上表れる梁材部が見えるので、床材に覆われた一部は見えない。
検査路を歩き使用する検査員が安心して点検作業ができる環境を提供することが重要であるところから、検査路構成部材を選択する施主及び施工者はこれらの点を物品選択の観点にいれることは今日、一般的である。
してみると、需要者(取引者を含む)である施主及び施工者は、検査路として設置後の外観がどのようになるか、また、工事において施工しやすいか等の両観点から、この種歩廊桁材を観察するといえる。したがって、被請求人の主張する「施工後における「構造物の景観面からの美感」を考慮することは殆ど考えられない。」は失当である。
このことは、「道路橋検査路設置要領(案)」(平成18年(2006年)3月発行 国土交通省作成)において、「検査路の目的と設置」に関し、「検査路の設置は、維持管理活動との関係を十分に考慮しておこなうものとする。」と記載され、上部構造検査路に関する[解説]において、以下のように記載されており(甲第30号証)景観面からの美感を考慮されるものであることが裏付けられる。

(当審注:道路橋検査路設置要領(案)抜粋部分省略)

イ 使用時に視認できない態様の評価について(答弁書第34頁(イ))
被請求人は、使用時に視認できない態様の評価について以下のように主張するので、以下、反論する。
「本件登録意匠及び引用意匠のように機能と不可分な形状として構成される意匠において、使用状態において視認できないことを理由として、視認できない部位の評価を減ずることは審査基準の意図するところとはいえない。
以下に示す審判決例で説示されているように、機能に結びついた形状等が使用状態において視認することができないとしても、係る形状等を軽視してはならないのである。」とし、審決例及び判決例を挙げている。
上記箇所について、請求書では、本件登録意匠における上部の巾木取付部における小溝の存在は、意匠全体において極めて部分的な部位にありふれた形状の溝を付加的に設けたにすぎないもので使用状態において視認できないことも考慮すると類否判断に与える影響は微弱であると述べたまでである。
被請求人は「機能に結びついた形状等が使用状態において視認することができないとしても、係る形状等を軽視してはならない」と主張するが、本件登録意匠における上部の巾木取付部における小溝の存在は、視覚に大きな影響のない僅かな形状に過ぎない。本件登録意匠の出願時に適用される現行の特許庁意匠審査基準、第III部第2章第1節新規性 2.2において類否判断の基本的な考え方が示されているが、同項2.2.2.6 対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の個別評価(3)機能的意味を持つ形状等及び材質に由来する形状等の取り扱いにおいて(a)機能的形状の評価について「視覚に大きな影響のない僅かな形状について、その相違が機能に大きく関わっていても、ことさら重要視しない。」と説示されている(甲第31号証)。本件登録意匠の上部の巾木取付部における小溝の存在は、意匠全体を観察した場合、視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違にすぎない。
なお、提示された審決例及び判決例は、いずれも本件と別件であり、本件登録意匠の新規性の判断に直接影響するものでない。
ウ 被請求人は、「使用状態において「右側面」(図17の青枠)は足場板に覆われて使用者(足場を歩く者)は視認することができない。また、左側面と底面(図17の緑枠)も、使用者は視認することができない。これらの部位が『使用時に視認されない』ことを理由に類否に与える影響が小さいものとするならば、本件登録意匠や引用意匠の類否判断は不可能になってしまう。」と主張する(答弁書第37頁(7)(ウ))。
また、被請求人は、「請求人は、『検査路に使用された際の作業環境における美感及び構造物の景観面からの美感を考慮して、新規な歩廊桁の意匠を創作した』 (請求書30頁)と主張するが、橋梁に敷設された『梁』を川面から観察する者がいるとは考えにくい。加えて、本件登録意匠の実施品は高さ150ミリ、幅85ミリ程度であり(乙第10号証)、川面から形状をつぶさに認識することは困難であり、その態様が景観に影響を及ぼすものとも考えにくい。」と主張する(答弁書第39頁(エ))。
しかしながら、検査路は上部構造検査路、下部構造検査路があり、設置箇所、条件により階段、梯子等の他の付属品と組み合わせて使用されている。設置する橋梁の条件等によって、多様な設置状況がある。
例えば、「道路橋検査路設置要領(案)」(甲第30号証)第12頁の図−1.14検査路設置位置、及び設置条数の設定例の図では、検査路の左右及び底面側外観が通行人等から視認できる位置にあることがあり得ること、第15頁の図−1.18下部構造検査路の設置例(a)地上から橋座部までの高さが高い場合の図では、検査員が上部構造検査路を見上げる位置で作業することが示されており、通常、検査路の左右及び底面側外観が、検査員から視認できるものであるといえる([説明図5]参照)。

[説明図7](当審注:説明図7省略)

また、甲第5号証第4頁に記載された「下部工用階段」の写真において、検査路の底面側に使用される歩廊桁部の左右側面及び底面が階段等から視認できる位置にあることがわかる(甲第32号証)。
したがって、上記被請求人の主張は失当である。

(2−3)上記以外の答弁書における矛盾及び反論
ア 被請求人は、相違点の評価において、施工方法の違いについて以下のように主張する。
「本件登録意匠と引用意匠とは、『巾木取付用ボルト用溝』の有無により、その意匠に係る物品を使用した点検路(点検通路)の施工方法、施工手順が全く異なるのであり、相違点1は需要者が両意匠を観察するときにきわめて重視する、無視することのできない態様の相違である。」(答弁書第27頁)
しかしながら、施工方法の違いといっても、通常施工する際には、歩廊桁材は床材、支柱との取り付け方法が優先されるもので、両者はこれらとの取り付け方法が共通し、巾木を取り付ける面を有するでも共通する。また、施工方法の違いが形状として視覚に大きな影響を与えない限り、意匠の類否判断において、直接影響を与えるもので乃至たがって、上記主張は失当である。
イ 被請求人は、相違点の評価において、使用状態における相違について以下主張する。
「『歩廊上に締結ボルトの突起がないこと』が特徴とされており、需要者は使用状態において『歩廊上に締結ボルトの突起がないように造形されていること』、すなわち、上部突出段部に『上向きに開口したボルト用溝が存在しない』ことを、引用意匠の特徴として認識するということができる。
しかるに、本件登録意匠は上部突出段部に『上向きに開口した巾木取付用ボルト用溝』が存在し、この溝を使用して巾木を取り付けた場合に『歩廊上に締結ボルトの突起が存在する』ことを、施工者である需要者は容易に理解することができる。
すなわち、上部突出段部に、巾木取付用の上向きのボルト用溝が開口しているか否かは、使用状態を考慮して意匠を観察する場合においても重視される態様の相違というべきである。」(答弁書第29頁及び第30頁)
しかしながら、一般の検査路において巾木を上からボルトで固定されているものが、必ずしも、答弁書でいう上部突出段部に上向きに開口したボルト用溝が存在する本件登録意匠であることを認識することはでき乃至かも、上部突出段部に上向きに開口したボルト用溝を設けることは、溝部に水が溜まりやすくなり腐食を促進させる恐れがあり、長期間の耐食性、安全性が必要とされるこの種物品において新規な創作として保護されるべき理由がない。
ウ 提示された審判決例は、いずれも本件とは別件であり、本件登録意匠の新規性の判断に直接影響するものではないが、以下、簡単に述べる。
(ア)不服2019−8864について
本審決は「壁取付用金具」の意匠に係るものであり、本件の点検通路用桁材とは物品が異なる。当該物品は、施工時にしか見えないものであり、需要者は主に施工業者とあり施主は含まれない。本件のような使用時にも一部を除き外観が表れるものの評価観点とは異なる。
(イ)不服2013−17106について
本審決は「根太材」であり物品が異なる。本審決は使用状態が示されておらず、使用時に視認できるか否かについて説示されていない。
(ウ)不服2010−8299について
本審決は「天井パネル吊り具」であり、本件の点検通路用桁材とは物品が異なる。この種の物品に係る者(看者)について具体的に述べられていないが、本件のような使用時にも一部を除き外観に主要部の大半が表れるものの評価観点とは異なる。
(エ)東京高裁平成4年(行ケ)第9号について
被請求人は、「物品に機能的な工夫が加えられた場合(本件では巾木を取り付け可能とした工夫)には、機能的工夫により生じた形状を評価すべしとする判決として、東京高裁平成4年(行ケ)第9号がある。」と述べるが、本件と事案が異なり、土中に埋設し、土中の湧水あるいは浸透水を集排水する、いわゆる暗渠排水管に係るものであり、使用時において外観から見えるものではなく、本件のような使用時にも一部を除き外観に主要部の大半が表れるもののとは評価観点が異なる。
(オ)知財高裁平成30年(行ケ)第10181について
本判決は「検査用照明器具」であり、本件の点検通路用桁材とは物品が全く異なり、需要者、及び需要者の物品を購入選択する観点が本件と全く異なる。
(カ)大阪地裁平成23年(ワ)第529号(乙第9号証)
本判決は「放電ランプ」であり、本件の点検通路用桁材とは物品が全く異なり、需要者、及び需要者の物品を購入選択する観点が本件と全く異なる。
エ 被請求人は、答弁書第41頁から第44頁において公知意匠に基づく主張について、以下、主張するが、請求書において述べたとおりである。
被請求人は、本件登録意匠に係る意匠の出願直前に公開された特許出願について、請求人が提示する〈19〉特開2020−133301号公報について、
「本件登録意匠の出願日である令和2年8月26日よりも後の令和2年8月31に出願公開されたものであり、本件登録意匠の3条1項3号該当性の判断資料にされるべきものではない。そして、当該公報に先行技術文献として記載されている特開2013−231305号公報に、巾木取付用ボルト用溝は開示されていない。」と述べる(答弁書第43頁及び第44頁(8−4))。
しかしながら、本特許公開公報は、意匠法3条1項3号に該当する資料として提示したものでない。本特許公開公報は、本件登録意匠の意匠権者と同一人による特許出願である。そして、その記載には、巾木取付部に小溝がない甲号意匠とほぼ同一の意匠を第3実施形態として記載し、「この実施形態の点検路は、以下の点を除いて、図1乃至図9に示す第1の実施形態の点検路(1)と実質的に同一である。」と説明する。
すなわち、本件登録意匠の意匠権者である被請求人は、巾木取付用ボルト用溝がない第3の実施態様と巾木取付用ボルト用溝がある第1の実施態様及び第2の実施態様とは実質的に同一であると述べていることを示すものである。
上記の記載は、被請求人が、答弁書における相違点1−1について「巾木を取り付ける機能の有無という顕著な相違がある。」との主張と矛盾がある。

(3)むすび
以上のとおりであるから、答弁書に関する被請求人の主張は理由がなく、本件登録意匠は甲号意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるため、同法第48条第1項第1号により、直ちに無効とされるべきである。

2 証拠方法

(1)甲第27号証の1 従来の鋼製の検査路の写真を記載した資料

(2)甲第27号証の2 従来の標準タイプのアルミニウム製検査路の写真及び図面を記載した資料

(3)甲第28号証 北の技術情報誌「Hint!」第30号

(4)甲第29号証 橋梁新聞

(5)甲第30号証 「道路橋検査路設置要領(案)」p.1−25

(6)甲第31号証 特許庁審査基準 第III部第2章第1節2.2.2.6(3)(a)

(7)甲第32号証 使用状態を示す写真 甲第5号証 第4頁の拡大図

第5 口頭審理

本件審判について、当審は、令和3年12月8日付け審理事項通知書を通知し、これに対して、被請求人は、同年12月24日に口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書という。」)を提出し、請求人は、令和4年1月13日に口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)を提出し、同年1月27日に口頭審理を行った(令和4年1月27日付け口頭審理調書)。

1 被請求人の主張
被請求人は、被請求人陳述要領書に基づき、要旨、以下のとおり意見を述べ、その主張事実を立証するため、乙第号証を提出した。

(1)陳述の要点
本件登録意匠は、甲第1号証の意匠(以下「引用意匠」という。)に類似するものではなく、本件登録意匠は引用意匠との関係において、意匠法第3条第1項第3号の規定に違背して登録されたものではない。
請求人は、甲号意匠と本件登録意匠における上部突出段部の態様の相違が、全体観察に及ぼす影響が微弱であると主張し、その上で本件登録意匠が甲号意匠に類似すると主張する。
請求人は、機能ではなく形状のみを比較すれば足りるとするが、機能の相違を把握することによって、形状から生じる美感の相違、看者が注目する点の相違を導くことができるのであるから、機能を無視することは正当とはいえない。
そこで、上部突出段部の評価を中心に、以下のとおり陳述する。なお、図番は答弁書のままとした。

(2)全体の外観が極めて類似しているとの主張(弁駁書2、3頁)に対する反論
請求人は、意匠全体の外観として極めて類似すると主張するが、斜視図の比較でも分かるように、本件意匠は、上部突出段部に巾木取付用ボルト用溝が設置され、かつ上部突出段部と床板載置部の間に傾斜面が介在し、床板載置部の上面は支柱取付用ボルト用溝の縦横面より段落としとなっているため、上面全体として左から右への傾斜するような外観を呈するのに対し、甲号意匠では上部突出段部に支柱取付用ボルト用溝が側面に設置されているのみで、その横幅が狭く、かつ、上部突出段部と床板載置部の間に垂直な段部が介在しているため、全体として床板載置部の平面形状部分が強調される形態となっている。

そのため、全体形状として、甲号意匠では、上端平坦部に幅の狭い(全幅の約1/3)上部突出段部が突出して、全体の形状のバランスを崩しているような印象を与えるのに対し、本件意匠では、支柱取付用ボルト用溝及び巾木取付用ボルト用溝によって構成される上部突出段部が上部において相当な幅(全幅の約1/2)を占めているため、上部突出段部と床板や載置部とのバランスが均等であって、安定した形状として全体の主要形状の一部をなしている印象を与えている。
すなわち、甲号意匠は、床板の平置きに意を用いた形状であり、支柱取付用ボルト用溝の役割が相対的に低いのに対し、本件意匠は床板の平置きだけでなく、巾木板の固定にも意を用いた形状であるため、その役割が相対的に高く、このような形状の差異が生じているのである。
加えて、本件意匠は前記傾斜面の存在によって床板載置部は段落としとなっており、「空間の欠け」が認識される態様であるところ、甲号意匠に係る態様は存在しない。そして、本件意匠は段落としによって、厚い床板の載置が可能となっている。


したがって、全体形状としても、本件意匠と甲号意匠とでは異なる美感を有するものである。
その他、請求人は細々と主張しているが、基本的には、上段突出段部の存在それ自体を要部とみるかどうか、個々の測定方法の差異に基づくものであると考えられる。

(3)両意匠の用途機能並びに使用態様
ア 本件登録意匠の用途機能並びに使用態様
「意匠に係る物品の説明」を「使用状態を示す参考図」を参照して図解すると図2のとおりである。
すなわち、左側板の上下に横向きに設けられた「支柱取付用ボルト用溝」に支柱をボルトで取り付け、上部突出段部に上向きに設けられた「巾木取付用ボルト用溝」に巾木をボルトで取り付けるものである(図1,図2)。図1は本件登録意匠の登録公報掲載図面。
巾木は「巾木取付用ボルト用溝」に取り付けるのであり、意匠に係る物品の説明に記載されているように、手摺支柱を取り付ける場合(使用状態を示す参考正面図1の左右両側等)及び手摺支柱を取り付けない場合(使用状態を示す参考正面図2及び同参考斜視図の各右側)のいずれにおいても、本物品の巾木取付部に巾木をボルト・ナットで取り付けることができる。


【図1】(巾木の取付構造を示す参考一部切欠き斜視図)


【図2】(本件登録意匠の巾木の取付態様)


イ 引用意匠(甲号意匠)の用途機能並びに使用態様
「意匠に係る物品の説明」を「使用状態を示す参考正面図」(図5)を参照して図解すると図6のとおりである。
すなわち、左側板の上下に横向きに設けられた「支柱取付用ボルト用溝」に支柱をボルトで取り付け、巾木は支柱に取り付けるものである。意匠に係る物品の説明にも、梁材に巾木が取り付けられる旨の記述はない。

【図5】(使用状態を表す参考正面図)
引用意匠の登録公報掲載図面に「巾木」の文字を代理人が追記


【図6】(引用意匠の巾木の取付態様)

(4) 形状等
ア 本件意匠
以下の記述における部位を示す用語が意味する部位は,図3「部位の説明図」に示す通りである。


【図3】(部位の説明図)

(ア)基本的構成態様
意匠における基本的構成態様とは,意匠の骨格をなす態様をいうが、本件登録意匠のように機能を重視して造形された意匠においては、骨格をなす態様であるか否かの評価においては、機能との関係を無視することはできない。以下、可能な限り請求人の記述に合わせて記述する。
A 中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備え、
B 前記上部突出段部の左側面に、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、前記上部突出段部の上面の右側に、巾木取付用ボルト用溝が上向きに開口し、
C 前記上部突出段部の上面の左側は水平面であり、
D 前記上部突出段部の右側(内側)において、上板部は床材を取り付ける平坦面状の床材載置部とし、
E 左側板部の下端には、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、
F 右側板部の上端及び下端にはボルト用溝が横向きに開口し、
G 下板部は水平な平坦面とし、
H 各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部の面一に連結する水平補強部を設けた構成態様としてある。
弁駁書において、請求書における「小溝」を「支柱取付用ボルト用溝」とした点を「恣意的な更」(11頁)とするが、用途・機能に拘わる構成であり、それと理解できる名称が必要である。
(イ)具体的構成態様
a 上部突出段部について
上部突出段部の幅は、正面視において全幅の約1/2であり、その左側に水平面部があり,左側面に支柱取付用ボルト用溝が形成されている。上部突出段部の上面の右側に上方に開口する巾木取付用ボルト用溝が設けられている。
前記巾木取付用ボルト用溝は、開口部にリップ付の溝で、巾木を取り付けるナットが挿入される部分よりその下方のボルトネジ部が収まる部分は段状に幅狭となる溝形状としている。その開口部は、上部突出段部の全幅(図4におけるW2)の約1/4,他の4つのボルト用溝の開口部の約2/3である。
上部突出段部の右側面は、前記巾木取付用ボルト用溝の幅狭部分に対応して、奥側へ僅かに段状の窪みを形成した垂直板状とし、床材載置部とのコーナー部に傾斜面を形成し、床材載置部である水平面となる。

【図4】


b 上板部について
この床材載置部の幅は、全幅の約1/2弱である。そして、床材載置部の上面は上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝部分の下面と同じ高さとしてある。
※答弁書の訂正
答弁書8頁における「上板部全幅の約1/2弱」を「全幅の約1/2弱」と訂正する。
c 左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部(上部突出段部の左側面を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強である。各ボルト用溝は、手摺支柱を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側から見ると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる。
d 右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7である。各ボルト用溝は、横資材を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側から見ると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる。
e 中空部について
正面視において、略角筒体の全高の下から約3/10の位置に水平補強板が形成されている。
f 略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について
略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形であり、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差は、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4である。

イ 引用意匠
以下の記述における部位を示す用語が意味する部位は,図7「部位の説明図」に示す通りである。

【図7】(部位の説明図)

(ア)基本的構成態様
以下、可能な限り請求人の記述に合わせて記述する。
A’ 中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備え、
B’ 前記上部突出段部の左側面に、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、
C’ 前記上部突出段部の上面は全面が水平面であり、
D’ 前記上部突出段部の右側(内側)において、上板部は床材を取り付ける平坦面状の床材載置部とし、
E’ 左側板部の下端には、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し、
F’ 右側板部の上端及び下端にはボルト用溝が横向きに開口し、
G’ 下板部は水平な平坦面とし、
H’ 各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部の面一に連結する水平補強部を設けた構成態様としてある。
(イ)具体的構成態様
a’ 上部突出段部について
上部突出段部の幅は、正面視において全幅の約1/3弱であり,上面は水平面部であって左端下方は左側板部の上部に支柱取付用のボルト用溝が形成されている。
水平面部の右端から下方へ、垂直板状とし、床材載置部とコーナー部を凹小曲面状に面取りして形成し、床材載置部である水平面となる。
b’ 上板部について
床材載置部の幅は、全幅の約3/5である。床材載置部の上面は上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝の上面と同じ高さであり、床材載置部は、凹小曲面状部から、床材を置く位置決めがしやすいように僅かに下方へ段差を設けている。
※答弁書の訂正
「床材載置部の幅は、上板部全幅の約3/5である。」(14頁)を「床材載置部の幅は、全幅の約3/5である。」と訂正する。
c’ 左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部(上部突出段部左側板を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強である。各ボルト用溝は、手摺支柱を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側から見ると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる。
d’ 右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7強である。各ボルト用溝は、横資材を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側から見ると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる。
e’ 中空部について
正面視において、略角筒体の全高の下から約3/10の位置に水平補強板が形成されている。
f’ 略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について
略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形であり、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差は、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/5である。

ウ 共通点と相違点
(ア)共通点
基本的構成態様において以下の点で共通する。
AとA’ 中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備えた点(共通点1−1)。
DとD’ 前記上部突出段部の右側(内側)において、上板部は床材を取り付ける平坦面状の床材載置部とした点(共通点1−2)。
EとE’ 左側板部の下端には、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口した点(共通点1−3)。
FとF’ 右側板部の上端及び下端にはボルト用溝が横向きに開口する点(共通点1−4)。
GとG’ 下板部は水平な平坦面とした点(共通点1−5)。
HとH’ 各板部により囲まれた内部は中空部で、下方に、左右側板部下端の各溝構成部の面一に連結する水平補強部を設けた点(共通点1−6)。
具体的構成態様において、以下の点で共通する。
cとc’ 左側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、左側板部(上部突出段部左側板を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強であり、各ボルト用溝は、手摺支柱を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側から見ると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる点(共通点2)。
dとd’ 右側板部及びその上下のボルト用溝について
正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7強であり、各ボルト用溝は、横資材を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側から見ると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる点(共通点3)。
eとe’ 中空部について
正面視において、略角筒体の全高の約3/10の位置に水平補強板が形成されている点(共通点4)。
(イ)相違点
基本的構成態様において以下の相違がある。
BとB’ 本件登録意匠においては、上部突出段部の左側面に、支柱取付用のボルト用溝が横向きに開口し、前記上部突出段部の右側に、巾木取付用ボルト用溝が上向きに開口しているところ、引用意匠においては巾木取付用ボルト用溝が存在しない点(相違点1−1)。
CとC’ 本件登録意匠においては、上部突出段部の上面の左側のみが水平面であるところ、引用意匠においては上部突出段部の上面全面が水平面である点(相違点1−2)。
請求人は、基本的構成態様が共通すると主張するが、何れも失当である。
a 請求人は、「上部突出段部の左側面に、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し」の部分を基本的構成態様の共通点とすべきであると主張する。
しかし、これは、本件意匠において、上部突出段部には巾木取付用ボルト用溝が存在し、この溝を支柱取付用溝と一体としてみるべきことを否定し、無理に両者を分割して、一方のみを共通点として取り出そうとするものであって失当である。
b 請求人は、使用時に視認できない点を強調するが、取引時に注目される形態であることは明らかであり、使用時のみを強調する点で誤りである。
また、巾木取付用ボルト用溝を設けたことは、細部的変更ではなく、この点でも請求人の主張は失当である。巾木を梁材に固定することが一般的技術であるとするが、巾木を桁材に「直接」固定することが一般的な技術であるという証拠は示されていない。請求人が審判請求書17頁以下で提示する資料番号〔6〕乃至〔11〕において、巾木を取り付けるための桁材の構成態様は不明であり、突出段部に巾木取付用ボルト溝を設けた態様を細部的変更ということはできない。
c 請求人は、上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部を傾斜直線状とした態様はありふれた態様であると主張する。しかし、コーナー部の傾斜により、床板載置部が上部突出段部の底面より一段低い位置とされることにより、全体として上部突出段部から床板載置部へ流れるような傾斜状の形態を形成しており、甲号意匠の上部の平面的形態と比較するとその差異は明らかである。ありふれた態様とはいえない。
審判請求書20頁以下で提示する甲第19号証乃至甲第21号証は、面処理の手法としてありふれていることを示すに過ぎない。ひとまとまりの造形との関係で「傾斜面」の美感に及ぼす働きを見なければならない。
d 請求人は、被請求人が各部の幅の比率を主張したことを、部分意匠での観察結果を主張しているとしかみえないとするが、全体の比率が全体の形態の美感に影響を及ぼすことは明らかであり、むしろ、請求人が、全体の比率から生じる美感の差異を無視して、全体の骨格的形状(共通部分を切り出した骨格的形状)にのみ拘泥していることは明らかである。
e 請求人は、付言において、甲27乃至29の雑誌に掲載されたことをもって、甲号意匠が産業の発達に資すると主張するが、紹介されているのは機能的利点であって美感ではなく、本件とは無関係である。また、さかんに垂直の溝部に水が溜まりやすく腐食を促進させるなどと主張するが、美感とは全く関係のない主張であって失当である。
なお、巾木取付用ボルト用溝は、巾木を取り付けることによって蓋がされるので、溝に直接水が入ることはない。
被請求人の共通点の認定に誤りはなく、その評価にも誤りはない。なお、全体的な形状の相違については冒頭に述べたとおりである。
具体的構成態様においては以下の相違がある。
aとa’ 上部突出段部の態様において
その幅が、本件登録意匠では全幅の約1/2であるのに対して、引用意匠では全幅の約1/3である点(相違点2−1)。
本件登録意匠では、上部突出段部の上面の右側部分に上方に開口する巾木取付用ボルト用溝が設けられているのに対して、引用意匠には巾木取付用ボルト用溝は存在せず、上部突出段部の上面(水平面部)の右端から下方へ、垂直板状としてある点(相違点2−2)。
本件登録意匠では、上部突出段部の右側面は、前記巾木取付用ボルト用溝の幅狭部分に対応して、僅かに段状の窪みを形成した垂直板状とし、床材載置部とのコーナー部に傾斜面を形成し、床材載置部である水平面となるのに対して、引用意匠では前記段状の窪みと傾斜面が存在せず、傾斜面に代えて床材載置部とコーナー部を凹小曲面状に面取りして形成している点(相違点2−3)。
請求人は、上部突出段部の上面には水平面があることを共通部分として認定すべきであるとする。
しかし、被請求人は、巾木取付用ボルト用溝の部分は水平面を構成しないことから、共通部分としていないのであって、請求人の主張は失当である。
bとb’ 上板部の態様において
床材載置部の幅において、本件登録意匠では全幅の約1/2弱であるのに対して、引用意匠で全幅の約3/5である点(相違点3−1)。
床材載置部の上面の高さにおいて、本件登録意匠では上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝部分の下面と同じ高さとしてあるのに対して、引用意匠では上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝の上面と同じ高さである点(相違点3−2)。
fとf’ 略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について
略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比は、全高(上板部から下板部まで)を1とすると、全幅は約2/3強の縦長長方形である点は共通するが、上部突出段部の最上面と床材載置部との段差において、本件登録意匠では、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4であるのに対して、引用意匠では約1/5である点(相違点4)。
請求人は、全高と全幅の比率も共通部分であると主張するが、評価の相違である。

(5)共通点・相違点の評価
本件登録意匠は、上部突出段部において、横向きに開口する「支柱取付用ボルト用溝」と上向きに開口する「巾木取付用ボルト用溝」とを一体的に造形した点に特徴があるものであり、共通点が意匠の類否に及ぼす影響はきわめて小さいものである。
ア 観察主体(需要者)
本件登録意匠の観察主体である需要者は、橋梁などの構造体に点検路を設置する施工業者及び施主である。そして、需要者は本件登録意匠を、機能との関係を重視して観察するのであり、施工後における「構造物の景観面からの美感」を考慮することは殆ど考えられない。この点は項を改めて詳述する。
イ 意匠に係る物品について
本件登録意匠に係る物品は「巾木を取り付ける」機能を有し、引用意匠は係る機能を備えていない点に差違がある。両物品が足場板(床材)を架設する用途に用いられるものであるので、物品として類似することは認めるが、機能の相違は形状等の相違に密接に影響しているのであり、機能に相違があることは形状等の評価において強く意識されなければならない。
巾木及び巾木を取り付ける機能の重要性は、項を改めて記述する。
ウ 形状等の共通点の評価
(ア)基本的構成態様
中空の押し出し型材であり、上板部、下板部、左右側板部よりなる略角筒体の前記上板部の左側に上部突出段部を備えた点(共通点1−1)は、機能を払拭した形状の概括的な態様として共通しているにすぎない。
したがって、共通点1−1は、側面のボルト用溝を含めても、この点のみを以て両意匠が類似すると評価することはできない。
略角筒体の上部に上部突出段部を備えた(加えて、その側面にボルト取付用の溝を横向きに開口したもの)先行意匠として、意匠登録第1391206号(図8,乙第1号証)、意匠登録第1409173号(図9,乙第2号証)の意匠が存在する。
請求人は乙1、乙2との関係を論難するが失当である。
a 請求人は、底面側にも溝が形成されている点を取り上げているが(弁駁書22頁)、被請求人は、桁材の側面に着目して主張しているのであって、底面を取り上げても的外れである。
なお、甲30号証の24頁には、「歩廊桁は溝形鋼を標準とし」と記載されている。溝形鋼とは下図の形状であり(JISG 2192 乙第12号証)底面は平坦である。すなわち、この種の物品において底面が平坦であることは普通の態様というべきである。

b 請求人は乙1、2が「浮桟橋用フレーム材」であるから、検査路とは使用環境及び求められる性能が異なると主張する。しかし、乙1、2は本件登録公報にも参考文献として取り上げられているものであり、側面に他の部材を固定するという機能としては共通のものである。
c 請求人は乙1、2を取り上げて、ここでも上部突出段部の形状の相違から生じる全体の外観の相違(冒頭で指摘)を無視して、各筒体隊部分の共通点に拘泥して主張しているが失当である。
・小括
以上の通り、本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様における共通点は、いずれも公知意匠にも見られる態様であって、本件登録意匠と引用意匠とのみに共通する態様ではない。
(イ)具体的構成態様
・共通点2(左側板部及びその上下のボルト用溝について、正面視において、左側板部(上部突出段部左側板を含む)の上下に配された支柱取付用ボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は左側板部全高の約1/10強であり、各ボルト用溝は、手摺支柱を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。左側面側から見ると、上下端にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる点)
及び
・共通点3(右側板部及びその上下のボルト用溝について、正面視において、右側板部の上下に配されたボルト用溝は、開口部にリップが付いた溝で、同寸、同形で、その溝幅(開口部の上下幅)は右側板部全高の約1/7強であり、各ボルト用溝は、横資材を取り付けるボルトの頭部が挿入される溝形状としている。右側面側から見ると、床材載置部下と下板部上の端部にリップが細幅縁状に表れ、当該縁部から、長手方向に平行して2本の幅広の溝が表れる点)
に関しては、
ボルト用溝を開口部にリップが付いた溝とすることは、乙第1号証乃至乙第3号証から明らかな通り普通に行われていることであり、ボルト用溝がボルトの頭部が挿入される溝形状であることは、溝の機能を得るために当然の態様であり、溝幅と左側側板全高との比率は、所定の強度を得るために必要な側面の高さと溝の大きさを決定したことの結果として得られた比率にすぎず、いずれも意匠の類否に影響するものではない。
・共通点4(中空部について、正面視において、略角筒体の全高の下から約3/10の位置に水平補強板が形成されている点)も、水平補強板を溝構成部の面一に配設したことの結果として得られた比率にすぎず、意匠の類否に影響するものではない。
・小括
以上の通り、本件登録意匠と引用意匠の具体的構成態様における共通点は、いずれも公知意匠にも見られる態様であって、本件登録意匠と引用意匠とのみに共通する態様では乃至たがって、これら共通点の類否に及ぼす影響は軽微なものにすぎない。
エ 「巾木取付用ボルト用溝」が付加的な要素であると言う主張(弁駁書13頁)に対する反論
甲30号証の24頁には「床の側面には墜落防止のための爪先板を設ける。」とあり、爪先板(巾木)は重要な構成要素であり、重要度が低いとは言えない。また、甲号意匠の実施品である「KERO(ケーロ)においても、巾木は標準装備とされている(「新技術の提案」 乙第11号証)。(上部突出段部に巾木取付用ボルト用溝を設けたことの意義は末尾に記載。)

(6)類否判断
以上の通り、本件登録意匠と引用意匠の基本的構成態様における共通点は、いずれも公知意匠にも見られる態様であって、本件登録意匠と引用意匠とのみに共通する態様ではない。また、具体的態様における共通点も、公知意匠と対比して格別の特徴として認識されるものではなく、類否を左右するものではない。
他方、本件登録意匠の基本的構成態様における「上部突出段部に横向きの支柱取付用ボルト用溝と上向きの巾木取付用ボルト用溝が開口し、上面の左側を水平面とした態様」(構成B、C)は、公知意匠には見られない本件登録意匠独自の態様である。
したがって、上部突出段部における上向きに開口した巾木取付用ボルト用溝の有無(相違点1−1)及び上面の全面が水平面であるか左側のみが水平面であるかの相違(相違点1−2)は、両意匠を全体として観察したときに、両意匠の美感の違いを決定付けるものである。
そして、その余の相違点も類否に一定の影響を与えるものである。
したがって、両意匠の相違点は共通点を凌駕し、両意匠を全体として観察したときに、需要者に与える美感は異なるものである。
よって、本件登録意匠は引用意匠に類似するものではない。

(7)本件登録意匠の観察方法
ア 「需要者(取引者を含む。)の注意を引く部分に関連して」の部分(弁駁書26〜28頁)に対する反論
(ア)請求人は景観面への配慮を主張するが、請求人が引用する甲30の当該部分は「ただし、添架物が桁外部に設置されている場合など、桁外部での点検活動や保守活動が必要となる場合には、その必要性や景観面での影響を考慮し設置の要否を検討する。」とされており、この文面から明らかなとおり、景観面から「設置の要否」が検討されるのであり、設置された後の景観が問題とされているわけではない。請求人は明らかに引用の仕方を誤っている。
甲号意匠の実施品である「KERO(ケーロ)に関する乙11において、「使用・施工後の環境への影響」の項目に「環境への影響項目は特になし」と記載されていることからも、請求人の「景観面への配慮」に係る主張が失当であることが裏付けられる。
請求人は作業環境面、安全面の配慮を無理やり景観と結び付けており失当である。また、本件の意匠がどのように景観に資するのかも明確でない。
(イ)請求人は、景観に着目される場合があるとして、甲30の図を挙げているが、そのようなシチュエーションで、桁用部材の外観に注目され、それが需要者の購買に影響するとは考えられない。実施品の大きさは、高さ150ミリ、幅85ミリ程度(乙10)であることを忘れてはならない。
イ 巾木取付用ボルト用溝の有無は需要者の大きな関心事であること
上部突出段部に巾木取付用ボルト用溝が存在することによって、以下のような利便性が得られるのであり、需要者はその存在に大きな関心を持って意匠を観察することになる。
(ア)支柱なしで巾木を取り付けることができる
点検路を建造物の壁面に近接して設置する場合があるが、そのとき支柱の設置は不要である。本件意匠においては、支柱がなくとも、巾木取付用ボルト用溝を利用して、巾木を取り付けることができる(本件意匠の意匠公報「意匠に係る物品の説明」「使用状態を示す参考正面図2」。

(イ)巾木取付用ボルト用溝を利用して足場板押さえ板をとりつけることができる。
点検路を建造物の壁面などに接し設置する場合もあり、このとき巾木は不要である。巾木は足場板(床板)を押さえる機能も有しているところ、巾木を取り付けない場合には巾木取付用ボルト用溝を利用して、足場板押さえ板を取り付けることができる(本件意匠の意匠公報「意匠に係る物品の説明」「使用状態を示す参考正面図3」。


(ウ)安全に作業ができる
上記(ア)(イ)のように、建造物の壁面に近接していたり接している場合、甲号意匠においては横向きのボルト用溝しか設けられていないので横向きのボルト用溝を利用して足場押さえ板を取り付けなければならない。この場合、作業環境が悪いのでボルトや工具を落下させるおそれがある。
本件登録意匠においては、上向きの巾木取付用ボルト用溝を利用するので、作業は容易であってボルトや工具を落下させるおそれもない。

(8)証拠方法
ア 乙第11号証 新技術の提案
イ 乙第12号証 JIS規格「溝形鋼」(JIS G3192)

2 請求人の主張
被請求人は、被請求人陳述要領書に基づき、要旨、以下のとおり意見を述べ、その主張事実を立証するため、甲第33号証乃至甲第35号証を提出した。(以下、下線は請求人による。)

(1)陳述の要領
ア 陳述の要点
答弁書及び被請求人の口頭審理陳述要領書(以下、「要領書」という。)は、本件登録意匠及び甲号意匠を観察するにおいて、それぞれの意匠の全体ではなく、一部の具体的構成態様における差異のみに注目することで両意匠の類否を論じており、肯定できない。
本件登録意匠と甲号意匠とは、同一又は類似の物品に関し、その物品と一体をなすものである意匠が有する意匠的効果が類似している。両意匠は、共に、点検通路又は点検路に用いる長尺材である点で一致している。また、両意匠はそれぞれの添付図面において実線で表された物品全体の外観である意匠を、全体観察、すなわち個々の要素にとらわれることなく、個々の要素を総合し全体として判断すると、需要者に類似の美感を生ぜしめる。
したがって、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号に該当し、無効とすべきである。
以下、本件登録意匠と甲号意匠とを全体観察すると類似する、との請求書及び弁駁書での主張の趣旨、答弁書及び要領書に関する請求人の意見を述べる。
イ 本件登録意匠と甲号意匠とを全体観察すると類似する、との請求書及び弁駁書での主張の趣旨
(ア)意匠は、全体観察により類否を判断する。
(ア−1)意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面等を総合的に判断する。
本件登録意匠は、願書の記載によれば、点検路用桁材(歩廊桁材)に係り、願書に添付した図面には、その形状全体を実線で表している。すなわち、部分意匠では乃至たがって、点検路用桁材という物品全体の形状を観察して類否判断を行うものである。
本件登録意匠に係る点検路用桁材は、点検路の構成部品である。使用時には、2つの桁材を対向させ中間に横梁を配し、上部段状の一段低い部位に足場板又は床材を載置する。突出する上部最上面を巾木で覆うので、点検路の外観に現れるのは、主に点検路用桁材の左側面側、底面側及び右側面側である。
下記の[図1]に示すように、本件登録意匠と甲号意匠は、点検路用桁材として一体をなす意匠であり、形態全体の外観において極めて共通している。図面から明らかなように、ボルト用溝及び左右側板部と下板部が創出する構成、形状は略同一である。
本件登録意匠は、甲号意匠が有するそれまでになかった独特の外観特徴を有する基本的構成態様を殆どそのまま取り込んだ上で、最終使用時には巾木により隠れてしまう部位に、一般的に案出される取付用凹部を付加えたにすぎない。
以上を前提に、本件登録意匠と甲号意匠とを全体観察すれば、両者は意匠的効果、美感において類似する(各部位の説明については甲第33号証参照)。

[図1](当審注:図1省略)

下記[図2-1]及び[図2−2]のように、使用時には床材が載置され、上部の突出部(巾木取付部)に巾木で覆われるので、小溝は見えなくなる。

[図2−1]


[図2−2]


(ア−2)両意匠は、甲号意匠の特徴的形態である基本的構成態様を共通に有する。
(ア−2−(ア))甲号意匠の基本的構成態様が特徴的形態である点について
請求書のオ 本件登録意匠と甲号意匠との類否、(ア)両意匠の共通点について(請求書第29頁から第31頁)で述べたように、共通する基本的構成態様、すなわち甲号意匠の骨格的かつ特徴的構成態様は、甲号意匠の出願前には存在しなかった。弁駁書(1−2)(第4頁から第6頁)においても補足して説明した。再度、要点を述べる。
押出形材による点検路用桁材(以下、「桁材」と略称する場合がある)の全体形状に着目して挙げられた甲号意匠の先行公知桁材又は意匠を左から右へ古い順に並べると下記[図3-1]及び[図3-2]のようになる。

[図3−1](請求書、弁駁書[図22])(当審注:図3−1省略)

[図3−2](弁駁書[図22-1])(当審注:図3−2省略)

特開2000−352015の桁材は、アルミ合金製の押出材による検査路とすることで、軽量化、耐久性、搬送性、施工性等の向上を図ったものであるが、副梁に床材を載置する必要があった。意匠登録第144866の意匠は、上記特開2000−352015の問題を改善した桁材であり、主梁の上に床材が載置される構成とした。副梁が床材を支持する必要を無くし、接合箇所を低減できるようにするなど、施工性の向上を図った桁材の外観を表出した。
甲号意匠は、更に(A)梁材(桁材)の上部に床材を載置する段差を設けることによって、床材と梁材上面が面一に収まるようにし、(B)通路の高さ(梁材+床材)を低く抑え、(C)各板部の厚さを薄くしつつも強度が維持できる均整のとれた構成((C−1)左右のボルト用溝を各側部の上下端部に配し、(C−2)中空部下方のボルト溝構成部と面一に連結する水平補強板部を設けた構成)とし、(D)梁材全体をスリムで無駄のないすっきりした美的外観を有する意匠にまとめあげたものである(甲第34号証の1参照)。
(ア−2−(イ))本件登録意匠と甲号意匠の共通点について
本件登録意匠と甲号意匠は、下記[図4]に示すように、共通点を淡青色で着色すると、殆どが淡青色となり、本件登録意匠は甲号意匠の特徴的構成態様である上記(A)から(C−2)、そして(D)の美的外観の特徴をそのまま共通に有していることは看者にとって明らかである。

[図4](弁駁書[図21)


(ア−3)差異点が類否判断に与える影響は微弱である。
差異点は、その部位が、最終使用時には巾木により隠れてしまうこと、及びその形状は、一般的に案出される取付用凹部を製品のごく一部に加えるなど細部的なありふれた変更を行ったに過ぎないことから、類否判断に与える影響は微弱なものである。以下、述べる(甲第34号証の2参照)。
(ア−3−(ア))本件登録意匠と甲号意匠の差異点が類否判断に与える影響は微弱である点について
(i)上板部左側突出部の小溝の有無、及び(ii)上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部の形状に差異があるが、請求書のオ 本件登録意匠と甲号意匠との類否(イ)両意匠の差異点について(第31頁から第35頁)において述べたとおり、いずれも、この種物品分野において普通に行われているありふれた細部的変更にすぎず、需要者(取引者を含む)である、施主及び施工業者に部分的なありふれた改変をした程度との印象を与えるにすぎない。また、当該差異は、上板部の局部的な部分における、使用状態においてはほとんど視認できない部分の差異である。したがって、それらを総合しても、類否判断に与える影響は微弱なものである。
(ア−3−(イ))請求書で述べた差異点の要点について
以下に記載の要点は、弁駁書で述べたものであり、請求書で述べた内容を抄録したものである。
(ア−3−(イ)−a)上板部左側突出部の小溝の有無は細部的変更である。
(ア−3−(イ)−a−(a))小溝を設けることについて
小溝を設けることについて、巾木を梁材(桁材)に固定することは一般的な技術であり、梁材の上面にナット及びボルトネジ部を挿入するための梁材の上面に上方へ開口する溝を設けることも公知の技術である。
(ア−3−(イ)−a−(b))本件登録意匠の小溝の形状について
本件登録意匠の小溝の形状についても、普通に見られる態様であり、小溝の右側面部の形状についても、小溝の形状に沿って僅かに段状の垂直板状とした態様は普通に見られるもので、本件登録意匠のみが有する特徴ではない。
したがって、この種物品分野において技術的必要性に応じて普通に行われているありふれた細部的変更の範囲であるため、意匠的にも部分的なありふれた改変をした程度との印象を需要者(取引者を含む)である、施主及び施工業者に与えるにすぎない。
(ア−3−(イ)−b)上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部の形状の差異は細部的変更である。
(ア−3−(イ)−b−(a))上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部の形状の面取り形状について
本件登録意匠の、上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部を斜直線状とした態様は建築分野において、普通に角面(切り面)と称される面取り手法にもとづくありふれた態様である。当該コーナー部の面取り形状を、円弧状(匙面)にしたか斜直線状(切り面)としたかは突出部の一部の局部的な差異である。
(ア−3−(イ)−b−(b))当該コーナー部の僅かな段差の有無について
面取り状部の右方に僅かな段差を設けたか否かについても、いずれも床材を嵌めやすくし、一定の間隔を空けて固定するための傾斜部を形成したとの共通する態様の範囲内における機能的な面からの細部的変更にすぎない。
上記(ア−3−(イ)−a)及び(ア−3−(イ)−b)の差異はこれらを総合しても、上板部の一部における僅かな部分の差異であり、当該部分が桁材の意匠全体に占める割合は極めて小さく、かつ、使用状態においては、巾木で覆われほとんど視認できない部位であり、流通時においても流通状態(すべて又はユニットの組み立てを工場で行い、組み立てた状態で搬送することが多い)からすると需要者が上面の巾木取付部に意匠的効果あるいは美感として格別強く注意を引くことは殆どない。
したがって、請求書及び弁駁書において述べたとおり、本件登録意匠は、甲号意匠に類似する。
(ア−4)付言
甲号意匠は、アルミニウムという素材の持つ質感を生かし、桁材という物品に求められた機能を発揮することはもちろん、需要者に加えて道路通行人にも提供できる美的外観を考慮して開発された意匠であり、この種物品において甲号意匠の出願前に存在しなかった画期的な意匠である。例えば、甲第27号証の1及び2において示す甲号意匠の出願前に見られる従来の鋼製の検査路及びアルミニウム製検査路とは外観の美感が全く異なる。
甲号意匠は、2013年3月4日に出願し、その後、甲号意匠の歩廊桁材を使用した検査路「KERO」は、同年4月に国土交通省によって運営されているNETIS(新技術情報提供システム)にこれを使用する検査路として登録し、橋梁等に関係する分野において、信頼性の高いものとして認知され、多数の施工実績を有している。
本件登録意匠は、甲号意匠の基本的構成態様を取り込み、上部突出段部に上向きに開口したボルト用溝を設けるとのごく部分的な形状的付加をしたものにすぎない。
(イ)答弁書及び要領書の主張について
以下、各部位の名称について、答弁書及び要領書の記載をそのまま使用する。
(イ−1)答弁書及び要領書における被請求人の主張の矛盾
被請求人は、答弁書において、「巾木を取り付ける機能」の有無について、「機能の相違は形状等の相違に密接に影響しているのであり、機能に相違があることは形状等の評価において強く意識されなければならない。」(答弁書第19頁)、「機能に結びつけて造形が観察される本件登録意匠において、係る相違点は意匠の類否において大きな影響を有するものである。」(答弁書第26頁)、「機能に結びついた形状等が使用状態において視認することができないとしても、係る形状等を軽視してはならないのである。」(答弁書第34頁)と主張する。
しかしながら、本件登録意匠に係る意匠の出願直前に公開された、本件登録意匠の意匠権者と同一人による特許出願特開2020−133301号公報(甲第24号証)において、甲号意匠に係る登録第1479735号意匠の公報発行日である2013(平成25)年9月17日より前にはなかった突出段状の上板部、水平面の下板部及び垂直面の左右側板部を有し、かつ、左右側板部四隅にはボルト用溝が設けられた基本的構成態様の外観を示す図を第3の実施形態として含め、当該第3の実施形態に加えて、上板部に細幅溝部がある具体的構成態様を示す外観を第1及び第2の実施形態としている。
そして、明細書の[0032]に[第3の実施形態]について、「この実施形態の点検路は、以下の点を除いて、図1乃至図9に示す第1の実施形態の点検路(1)と実質的に同一である。」と記載する。
すなわち、上記の記載は、本件登録意匠の意匠権者である被請求人が、巾木取付用ボルト用溝がない第3の実施態様と巾木取付用ボルト用溝がある第1の実施態様及び第2の実施態様とは実質的に同一であることを認識していることを示すものである。
上記の記載は、被請求人が、答弁書における相違点1−1について「巾木を取り付ける機能の有無という顕著な相違がある。」との主張と矛盾がある。
(イ−2)答弁書における主張について
(イ−2−(1))答弁書において、桁材の上部に「巾木取付用ボルト用溝」(請求書における小溝)を設けた点について、機能に結びついた形状等が使用状態において視認することができないとしても、係る形状等を軽視してはならない旨述べる(答弁書第34頁)。しかしながら、当該「巾木取付用ボルト用溝」部の形状は、点検路用桁材の意匠全体においては看者の視覚に大きな影響を与えない僅かな形状の差異にすぎず、その相違が機能に大きく関わっていても、その評価は低い(意匠審査基準第III部第2章第1節2.2.2.6(3)(a))。
(イ−2−(2))答弁書と請求書とでは、両意匠の要旨、共通点及び差異点の把握の仕方に違いがある。しかしながら、答弁書の相違点において、誤りを除くか又は善解すると、請求書に記載された差異点と実質的にほぼ同様の箇所の差異を指摘するにとどまるので、請求書で述べた差異点及びその評価は適切である。
(イ−2−(3))答弁書において相違点として挙げられた諸点は、意匠全体から判断すれば些細なものである。すなわち、答弁書において相違点として、上部突出段部の幅が、全幅の約1/2であるか、約1/3弱であるか、上板部(床材載置部)の全体に占める幅が、全幅の約1/2弱であるか、約3/5であるか、上板部(請求書における床材載置部)の上面の高さが、上部突出段部の支柱取付用ボルト用溝の下面と同じか、上面と同じか、及び略角筒体の正面視における外形状の縦横の構成比及び上部突出段部の段差について、正面視における上部突出段部の最上面と床材載置部との段差が、全高(上部突出段部の最上面から下板部まで)の約1/4であるか、約1/5であるか、すなわち、上部最上面と床材載置部との段差(高さ)及び答弁書における上部突出段部と床材載置部の幅の構成比が僅かに異なることを挙げているが、いずれも当該部分のみに注目して観察し、まるで桁材を破線と実線で表して実線部分に注目するようないわゆる部分意匠での観察結果を主張しているとしかいえない。桁材全体の外観である意匠全体を観察するとの観点から見れば、それらは、部分的な範囲における部分的な差異である(弁駁書第8頁並びに第17頁及び第18頁のc 被請求人が主張する相違点参照)。

[図5](弁駁書[説明図4])(当審注:図5省略)

(イ−3)要領書における反論について
(イ−3−(1))要領書の(2)全体の外観が極めて類似しているとの主張(弁駁書2、3頁)に対する反論について
この項における主張は、全体形状としてと、言いながら、共通する基本構成態様については何ら評価することなく、上部の一部の形状の差異(本件登録意匠が巾木取付用ボルト用溝があり、上部突出段部と床板載置部の間に傾斜面が存在し、床板載置部の上面は支柱取付用ボルト用溝の縦横面より段落としである点、)のみを主張するに過ぎない。
(イ−3−(1)−a)被請求人は、「本件意匠は、上部突出段部に巾木取付用ボルト用溝が設置され、かつ上部突出段部と床板載置部の間に傾斜面が介在し、床板載置部の上面は支柱取付用ボルト用溝の縦横面より段落としとなっているため、上面全体として左から右への傾斜するような外観を呈するのに対し、甲号意匠では上部突出段部に支柱取付用ボルト用溝が側面に設置されているのみで、その横幅が狭く、かつ、上部突出段部と床板載置部の間に垂直な段部が介在しているため、全体として床板載置部の平面形状部分が強調される形態となっている」と主張する。
しかしながら、上記の対比は、甲号意匠が突出部右側板部と床板載置部のコーナー部を傾斜面(凹小曲面状)に形成していることを意図的に無視して、位置決めのための極めて僅かの垂直な段部の差異を強調した恣意的な両意匠の対比を行ったものであり、被請求人の主張は失当である。

[図6]

(イ−3−(1)−b)被請求人は、「全体形状として、甲号意匠では、上端平坦部に幅の狭い(全幅の約1/3)上部突出段部が突出して、全体の形状のバランスを崩しているような印象を与えるのに対し、本件意匠では、支柱取付用ボルト用溝及び巾木取付用ボルト用溝によって構成される上部突出段部が上部において相当な幅(全幅の約1/2)を占めているため、上部突出段部と床板や載置部とのバランスが均等であって、安定した形状として全体の主要形状の一部をなしている印象を与えている。」と主張する。
しかしながら、甲号意匠は(ア−2−(ア))で述べたように、全体として均整のとれた構成を有しており、全体の形状のバランスを崩しているような印象を与えるとの主張は理解できない。また、両者は被請求人のいう上部突出部が正面視全幅の約半分以下である点、当該突出部の水平面が全幅の約1/3である点で共通するから、被請求人の主張は失当である([図9]参照)。
(イ−3−(1)−c)被請求人は、「その他、請求人は細々と主張しているが、基本的には、上段突出段部の存在それ自体を要部とみるかどうか、個々の測定方法の差異に基づくものであると考えられる。」と主張するが、上段突出段部の存在それ自体を要部とみるべき根拠が明示されていない。また、個々の測定方法の差異とは何を意味しているのか不明である。
(イ−3−(2))要領書の(4)形状等について
被請求人は、(ア)本件意匠、(アー1)基本的構成態様、(アー2)具体的構成態様、及び(イ)引用意匠、(イー1)基本的構成態様、(イー2)具体的構成態様について、答弁書第8頁における「上板部全幅の約1/2弱」を「全幅の約1/2弱」に、答弁書第14頁における「床材載置部の幅は、上板部全幅の約3/5である。」を「床材載置部の幅は、全幅の約3/5である。」に訂正した。それ以外の主張は答弁書と同様の主張であるので、それに対する意見は、弁駁書(2−1)で述べたとおりである。以下要点のみ述べる。
本件登録意匠及び甲号意匠(答弁書における引用意匠)の要旨認定について、請求書において記載した本件登録意匠及び甲号意匠の基本的構成態様及び各部の具体的構成態様は適切である。これに対し、答弁書は、本件登録意匠及び甲号意匠の要旨認定に関する記載に矛盾がある。
弁駁書[説明図1]において記載した、請求書における上板部、左側板部、右側板部及び下板部を赤線で、巾木取付部を緑線で説明する図を再度示す。

[図7](弁駁書[説明図1])


(イ−3−(3))答弁書における両意匠の共通点及び相違点、その評価及び類否判断について
弁駁書(2−2)で述べたとおり、答弁書における両意匠の共通点及び相違点に誤りがあり、これに基づく共通点及び相違点の評価は失当である。したがって、答弁書における類否判断は前提に誤りがあるものであり適切でない(答弁書第16頁から第33頁)。
(イ−3−(3)−a)被請求人が述べる基本的構成態様について
(イ−3−(3)−a−(a))「上部突出段部の左側面に、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し」の部分について
被請求人は、基本的構成態様について、「(1)請求人は、『上部突出段部の左側面に、支柱取付用ボルト用溝が横向きに開口し』の部分を基本的構成態様の共通点とすべきであると主張する。しかし、これは、本件意匠において、上部突出段部には巾木取付用ボルト用溝が存在し、この溝を支柱取付用溝と一体としてみるべきことを否定し、無理に両者を分割して、一方のみを共通点として取り出そうとするものであって失当である。」と主張する。
しかしながら、本件登録意匠と甲号意匠は、共に左側板部の上端に支柱取付用のボルト用溝が配された点で明らかに共通する。支柱取付用のボルト用溝は左側面側の上下端に支柱を取り付けるためのボルト溝として設けられたものであるから、これらのボルト溝が共通すると認定するのは、ごく自然なことである。答弁書でいう巾木取付用ボルト用溝を支柱取付用溝とを取り出して一体としてみるべき理由がない。甲号意匠において既に支柱取付用溝は存在していたのであり、本件登録意匠は甲号意匠(基本的構成態様)に巾木取付用ボルト用溝を単に後から追加したに過ぎない。
(イ−3−(3)−a−(b))「使用時に視認できない点、取引時に注目される形態について
被請求人は、「(2)請求人は、使用時に視認できない点を強調するが、取引時に注目される形態であることは明らかであり、使用時のみを強調する点で誤りである。また、巾木取付用ボルト用溝を設けたことは、細部的変更ではなく、この点でも請求人の主張は失当である。巾木を梁材に固定することが一般的技術であるとするが、巾木を桁材に「直接」固定することが一般的な技術であるという証拠は示されていない。請求人が審判請求書17頁以下で提示する資料番号〔6〕乃至〔11〕において、巾木を取り付けるための桁材の構成態様は不明であり、突出段部に巾木取付用ボルト溝を設けた態様を細部的変更ということはできない。」と主張する。
しかしながら、被請求人がいう取引時に注目される形態が、巾木取付用ボルト用溝を設けたことを言うのであれば、取引時、意匠審査基準においては流通時に注目される形態は、歩廊桁全体の形態であり、巾木取付用ボルト用溝はその一部にすぎない。当該部位は流通時においても、極めて付加的な部分として需要者(取引者を含む)に認識されるにすぎない。
また、請求書(第34頁)で述べたように、この種検査路は、現場での施工を容易に行えるように、すべて又はユニットの組み立てを工場で行い、組み立てた状態で搬送し、現場で施工することが多い。このような流通状態からすると、需要者(取引者を含む)が上面の巾木取付部に格別強く注意を引くことはほとんどないといえる。
なお、検査路設置工事の施工報告に関する文献に、検査歩廊桁現地搬入の際の写真が掲載されているので、一例として参考に示す(甲第35号証、写真4)。この写真に関する説明に、検査歩廊は事前に製作工場で組み立てて搬入されることが記載されている。当該写真には、本件登録意匠とは異なる製品ではあるものの、桁材(梁材)、床材及び巾木が組み立てられた状態で搬入された状況が表れている。これからも、通常、施工業者は、歩廊桁材の外観を観察するが、上面の巾木取付部に格別強く注意を引くことはほとんどないといえる(甲第35号証)。
(イ−3−(3)−a−(c))「上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部の形状について
被請求人は、「(3)請求人は、上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部を傾斜直線状とした態様はありふれた態様であると主張する。しかし、コーナー部の傾斜により、床板載置部が上部突出段部の底面より一段低い位置とされることにより、全体として上部突出段部から床板載置部へ流れるような傾斜状の形態を形成しており、甲号意匠の上部の平面的形態と比較するとその差異は明らかである。ありふれた態様とはいえない。審判請求書20頁以下で提示する資料番号〔14〕乃至〔16〕は、面処理の手法としてありふれていることを示すに過ぎない。ひとまとまりの造形との関係で「傾斜面」の美感に及ぼす働きを見なければならない。」と主張する。
しかしながら、請求書及び弁駁書で述べたように、上板部の突出部右側板部と床材載置部とのコーナー部を傾斜直線状とした態様は、床材を嵌めやすくし、一定の間隔を空けて固定するための傾斜部を形成したとの共通する態様の範囲内における機能的な面からの細部的変更の域をでないものであるから、被請求人の主張は失当である。下記の[図8]からもコーナー部を面取り状とした程度であることは明らかである。一段低い位置としている点は若干の段差の差異として表れる程度で微差の範囲としかいいようがない。

[図8]

(イ−3−(3)−a−(d))「被請求人の全体観察についての反論について
被請求人は「(4)請求人は、被請求人が各部の幅の比率を主張したことを、部分意匠での観察結果を主張しているとしかみえないとするが、全体の比率が全体の形態の美感に影響を及ぼすことは明らかであり、むしろ、請求人が、全体の比率から生じる美感の差異を無視して、全体の骨格的形状(共通部分を切り出した骨格的形状)にのみ拘泥していることは明らかである。」と主張する。
しかしながら、被請求人は、[図5]で示すように、請求書における上板部の差異を挙げているのみで、桁材全体の外観について何ら評価していない。本物品は、流通時・使用時において、桁材全体、特に、左右側面及び底面からの形状が観察されるものであるにもかかわらず、上板部の差異に固執するのは部分意匠での観察結果を主張しているとしかみえない。
(イ−3−(3)−a−(e))「本件登録意匠が産業の発達に貢献する意匠といえるかどうかという点に対する被請求人の反論について
被請求人は「(5)請求人は、付言において、甲27乃至29の雑誌に掲載されたことをもって、甲号意匠が産業の発達に資すると主張するが、紹介されているのは機能的利点であって美感ではなく、本件とは無関係である。また、さかんに垂直の溝部に水が溜まりやすく腐食を促進させるなどと主張するが、美感とは全く関係のない主張であって失当である。なお、巾木取付用ボルト用溝は、巾木を取り付けることによって蓋がされるので、溝に直接水が入ることはない。」と主張する。
しかしながら、甲第27号証乃至甲第29号証の雑誌は技術者向けのものであるので、検査路においては、施工性、安全性、耐久性が必須要件であるため機能面の記載が優先されているが、甲号意匠は、検査路として使用され、景観に影響を与えるものであるから、機能面だけでなく美的外観を考慮して創作されたものであることは当然のことである。なお、巾木取付用ボルト用溝は、巾木を取り付けることによって蓋がされるので、溝に直接水が入ることはないと述べるが、巾木取付用ボルト用溝は上向きの溝であることにより、巾木のボルト挿入穴等からの水が溜まりやすく腐食を促進させる可能性への懸念をぬぐえないものであり、機能的問題とはいえ、それが機能的形状として表れた点が産業の発達に寄与する新規な創作として保護されるべき理由がない。
(イ−3−(3)−b)被請求人が述べる共通点及び差異点の評価について
(イ−3−(3)−b−(a))上部突出段部の上面(請求書における巾木取付部の最上面)について
被請求人は、「請求人は、上部突出段部の上面には水平面があることを共通部分として認定すべきであるとする。しかし、被請求人は、巾木取付用ボルト用溝の部分は水平面を構成しないことから、共通部分としていないのであって、請求人の主張は失当である。」と主張する。
しかしながら、被請求人の主張のとおり巾木取付用ボルト用溝の部分は水平面を構成しない。すなわち、付加的部分である。したがって、下記の[図9]で明らかなように、水平面部を有する点で共通するから、被請求人の主張は失当である。

[図9](請求書[図19])

(イ−3−(3)−b−(b))全高と全幅の比率について
被請求人は、「請求人は、全高と全幅の比率も共通部分であると主張するが、評価の相違である。」と主張する。
しかしながら、被請求人のいう「全高と全幅の比率も共通部分であると主張するが」の記載は、請求人のどの記載に対して述べているのか不明である。弁駁書第15頁のa−(ii)の記載に対する反論であり、当該「全高と全幅」が正面視における外形状の縦横比をいうのであれば、当然共通点である。「評価の相違」とはどのような意味であるのか不明であり、被請求人の主張は失当である。
(イ−3−(3)−c)被請求人が主張する共通点・相違点の評価について
(イ−3−(3)−c−(a))被請求人が乙第1号証、乙第2号証の意匠を引用して主張する共通点の評価について
被請求人は、「請求人は乙1、乙2との関係を論難するが失当である。」とするとして以下の(1)から(3)を主張する。
「(1)請求人は、底面側にも溝が形成されている点を取り上げているが(弁駁書22頁)、被請求人は、桁材の側面に着目して主張しているのであって、底面を取り上げても的外れである。なお、甲30号証の24頁には、「歩廊桁は溝形鋼を標準とし」と記載されている。溝形鋼とは下図の形状であり(JIS G3 192 乙第12号証)底面は平坦である。すなわち、この種の物品において底面が平坦であることは普通の態様というべきである。(2)請求人は乙1、2が「浮桟橋用フレーム材」であるから、検査路とは使用環境及び求められる性能が異なると主張する。しかし、乙1、2は本件登録公報にも参考文献として取り上げられているものであり、側面に他の部材を固定するという機能としては共通のものである。(3)請求人は乙1、2を取り上げて、ここでも上部突出段部の形状の相違から生じる全体の外観の相違(冒頭で指摘)を無視して、各筒体隊部分の共通点に拘泥して主張しているが失当である。」
しかしながら、被請求人のいう「底面側にも溝が形成されている点を取り上げているが(弁駁書22頁)」の記載が、弁駁書22頁 「b−(ii)の被請求人が主張する共通点の評価について」において、「「上部突出段部を有する略角筒体であって、左右側板部にはボルト用溝が設けられている桁材」、すなわち、上部突出段部を有する略角筒体であって、底面側が平坦面で、左右側板部にボルト用溝が設けられている桁材に該当しない。」との主張に対してであるとすれば、被請求人の主張は失当である。
乙1及び乙2は全体を実線部分とした登録意匠であり、正面視において、左側面、右側面、平面及び底面に表れる構成態様で形成される全体形状について評価され登録されたものである。底面側に全面に亘って3箇所に溝が形成されている点は特徴の一つである。また、被請求人が例示する溝形鋼は上部突出段部を有する略角筒体ではない。これを根拠に「上部突出段部を有する略角筒体であって、底面側が平坦面で、左右側板部にボルト用溝が設けられている桁材が存在しない」との請求人の主張を否定することは失当である。
下記の[図10]で明らかなように、乙1及び乙2は「上部突出段部を有する略角筒体であって、左右側板部にはボルト用溝が設けられている桁材」でないこと、そして、甲号意匠の前に、上部突出段部を有する略角筒体であって、底面側が平坦面で、左右側板部にボルト用溝が設けられている桁材が存在しないことは明らかである。

[図10](請求書、弁駁書[説明図6])

被請求人は、共通点の評価について、個々の要素の共通点について評価したとしても、個別評価に基づき共通する基本的構成態様全体について評価されるべきものであるところ、全体の基本的構成態様について総合的に評価しておらず、誤った共通点の評価をしている。そのような評価に基いて、乙第1号証、乙第2号証の存在によって、両意匠の請求人の認定する基本的構成態様における共通点が公知意匠に見られる態様であるということはできない(弁駁書第21頁)。
(イ−3−(3)−c−(b))被請求人のいう「巾木取付用ボルト用溝」の評価について
被請求人は、「(エ)「巾木取付用ボルト用溝」が付加的な要素であると言う主張(弁駁書13頁)に対する反論」において「甲30号証の24頁には「床の側面には墜落防止のための爪先板を設ける。」とあり、爪先板(巾木)は重要な構成要素であり、重要度が低いとは言えない。また、甲号意匠の実施品である「KERO(ケーロ)においても、巾木は標準装備とされている(「新技術の提案」乙第11号証)。(上部突出段部に巾木取付用ボルト用溝を設けたことの意義は末尾に記載。)」と主張する。
しかしながら、甲30号証「道路橋検査路設置要領(案)」の第19頁の2.2 基本構造の[解説]において「上部構造検査路を構成する部材は、歩廊桁、床材、支柱、および手すり等を基本とする。」とある。爪先板、すなわち、巾木については、第24頁2.4 構造細目の(1)6)において記載されている。すなわち、検査路において、爪先板(巾木)は、基本構造ではなく、構造細目における要件として位置づけられており、検査路という物品の構造における重要度の観点から見ても、重要度が低い位置づけである。したがって、検査路という物品の構造における重要度の観点に基づくと、巾木を取り付ける部分は、付加的な要素であることに誤りはなく、被請求人の主張は根拠がなく失当である。
(イ−3−(4))被請求人が主張する本件登録意匠の観察方法について
(イ−3−(4)−a)「需要者(取引者を含む。)の注意を引く部分に関連して」に対する反論について―景観面への配慮について
被請求人は、「(1)請求人は景観面への配慮を主張するが、請求人が引用する甲30の当該部分は「ただし、添架物が桁外部に設置されている場合など、桁外部での点検活動や保守活動が必要となる場合には、その必要性や景観面での影響を考慮し設置の要否を検討する。」とされており、この文面から明らかなとおり、景観面から「設置の要否」が検討されるのであり、設置された後の景観が問題とされているわけではない。請求人は明らかに引用の仕方を誤っている。
甲号意匠の実施品である「KERO(ケーロ)に関する乙11において、「使用・施工後の環境への影響」の項目に「環境への影響項目は特になし」と記載されてることからも、請求人の「景観面への配慮」に係る主張が失当であることが裏付けられる。請求人は作業環境面、安全面の配慮を無理やり景観と結び付けており失当である。また、本件の意匠がどのように景観に資するのかも明確でない。
(2)請求人は、景観に着目される場合があるとして、甲30の図を挙げているが、そのようなシチュエーションで、桁用部材の外観に注目され、それが需要者の購買に影響するとは考えられない。実施品の大きさは、高さ150ミリ、幅85ミリ程度(乙10)であることを忘れてはならない。」と主張する。
しかしながら、乙11の「使用・施工後の環境への影響」の項目における「環境への影響項目は特になし」と記載されている「環境」は景観のことではない。KEROはアルミ製であるため劣化に強く、メンテナンスフリー且つ長寿命なため環境に負荷を与えない旨の記載である。被請求人の主張は、意匠法における検査路及びその構成部材に関する外観形状の保護、ひいては被請求人が主張する機能的形状の保護を被請求人自身が否定するものである。
そして、甲第2号証、甲第5号証において提示した本件登録意匠及び甲号意匠の実施製品の掲載記事から明らかなように、桁材の使用された検査路及び通路部分の拡大写真等が掲載されている。需要者はこれらの掲載記事を検討して、購入を決定するものであるから、当該桁材部分の外観形状が、需要者の購買に影響することは明らかである([図11]及び[図12]参照)。

[図11](請求書[図2])

[図12](請求書[図4])

(イ−3−(4)−b)被請求人の巾木取付用ボルト用溝の有無は需要者の大きな関心事であることとの主張について
被請求人は、上部突出段部に巾木取付用ボルト用溝が存在することによって、(1)支柱なしで巾木を取り付けることができる、(2)巾木取付用ボルト用溝を利用して足場板押さえ板をとりつけることができる、及び(3)安全に作業ができる、のような利便性が得られるのであり、需要者はその存在に大きな関心を持って意匠を観察することになると主張する。
しかしながら、(イ−3−(3)−a−(b))で述べたように、検査路の施工においては事前に桁材や床材をある程度組み立て「ユニット化」したものを現地に輸送し、それを高所に上げて施工する。足場押さえ板については、事前のユニット化に際して予め取り付ければ良いので、このような主張は、通常、需要者(取引者を含む)にとって意味の無いものと考えられる。また、当該ウェブサイト(甲第2号証)には、格別、巾木取付部に巾木をボルト・ナットで取り付けることができる点に関する説明は特に記載されていない。需要者(取引者を含む)が全体の構成態様を超えて巾木取付用ボルト用溝の有無に関心を持つとの主張は、無理があり、失当である。
(ウ)むすび
以上のとおりであるから、答弁書に関する被請求人の主張は理由がなく、本件登録意匠は甲号意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるため、同法第48条第1項第1号により、直ちに無効とされるべきである。
(エ)証拠方法
(エ−1)甲第33号証 本件登録意匠と甲号意匠の説明図
(エ−2)甲第34号証の1 本件登録意匠と甲号意匠の共通点について
(エ−3)甲第34号証の2 本件登録意匠と甲号意匠の差異点について
(エ−4)甲第35号証 川田技報Vol.392020 技術紹介7−1

3 審判長
審判長は、この口頭審理において甲第1号証乃至甲第35号証並びに乙第1号証乃至乙第12号証について取り調べ、本件審理を、以後書面審理とした。(令和4年1月27日付け「第1回口頭審理調書」)

4 上申書

(1)被請求人側上申書
被請求人は、請求人の口頭審理陳述要領書に対して、令和4年1月27日及び同年2月7日付けで上申書を提出して、要旨、以下のとおり意見を述べ、証拠として乙第13号証及び乙第14号証を提出した。
ア 上申の理由
上記審判事件に関し、被請求人は、答弁書において「上部突出段部に、巾木取付用の上向きのボルト用溝が開口しているか否かは、使用状態を考慮して意匠を観察する場合においても重視される態様の相違というべきである。」(30頁5行目)と主張し、陳述要領書において「請求人は、使用時に視認できない点を強調するが、取引時に注目される形態であることは明らかであり、使用時のみを強調する点で誤りである。」(13頁下から10行目)と主張した。
しかるに、請求人は陳述要領書において「請求書(第34頁)で述べたように、この種検査路は、現場での施工を容易に行えるように、すべて又はユニットの組み立てを工場で行い、組み立てた状態で搬送し、現場で施工することが多い。このような流通状態からすると、需要者(取引者を含む)が上面の巾木取付部に格別強く注意を引くことはほとんどないといえる。」(14頁下から11行目)と主張し、甲第35号証を提出した。
ところで、甲第35号証に現された写真4は本件意匠ではなく、桁材に巾木が固定されているものとも認められない(床材を屈曲して巾木としたもの、あるいは床材に巾木を溶接したものと思われる。)。したがって、写真は本件意匠において「桁材、床材、巾木が組み立てられた状態で搬入される」ことや、この種検査路が「すべて又はユニットの組み立てを工場で行い、組み立てた状態で搬送し、現場で施工することが多い。」ことを裏付ける証拠とはならない。
本件意匠の実施品は、巾木を取り付けていない状態、すなわち「巾木取付用ボルト用溝」が露出した状態で工場から出荷されるものである。この事実を裏付けるものとして、1月27日の口頭審理において、乙第13号証、乙第14号証を提出した。
イ 証拠方法
(ア)乙第13号証 搬出時の荷姿を示す写真
(イ)乙第14号証 搬出時の荷姿を示す写真

(2)請求人側上申書
請求人は、被請求人の上申書に対して、令和4年2月21日付けで上申書を提出して、要旨、以下のとおり意見を述べた。
ア 上申の内容
被請求人は、令和4年1月27日付け上申書及び令和4年2月7日付け上申書(2)を提出した。これに対し、請求人は意見があるので、以下に述べる。
被請求人は、上申書(2)において、以下のように主張する。
「甲第35号証に現された写真4は本件意匠ではなく、桁材に巾木が固定されているものとも認められない(床材を屈曲して巾木としたもの、あるいは床材に巾木を溶接したものと思われる。)。したがって、写真は本件意匠において「桁材、床材、巾木が組み立てられた状態で搬入される」ことや、この種検査路が「すべて又はユニットの組み立てを工場で行い、組み立てた状態で搬送し、現場で施工することが多い。」ことを裏付ける証拠とはならない。
本件意匠の実施品は、巾木を取り付けていない状態、すなわち「巾木取付用ボルト用溝」が露出した状態で工場から出荷されるものである。この事実を裏付けるものとして、1月27日の口頭審理において、乙第13号証、乙第14号証を提出した。」
しかしながら、被請求人は甲第35号証の立証趣旨を取り違えている。甲第35号証は、この種検査路が、現場で施工しやすいように、工場で予め、ある程度組み立てられたユニットの状態で現場へ搬入されることが多いことを示す一例として示したものであり、桁材に巾木が固定されているか否かを問題とするものではない。写真4には、桁材が他の部材と組み立てられたユニットの状態(甲第35号証においては検査歩廊と記載されている。)で現場へ搬入された状態が示されている。したがって、この種検査路(点検路)用桁材の流通状態について、「すべて又はユニットの組み立てを工場で行い、組み立てた状態で搬送し、現場で施工することが多い。」ことの一例を示すものとして何ら支障はない。
ところで、被請求人が提出した乙第13号証及び乙第14号証の搬出時の荷姿を示す各写真には、本件登録意匠の実施品である桁材と、床材、横梁等とが取り付けられたユニットの状態で積み重ねられた状態が表されている。これらの写真からも、この種検査路(点検路)の桁材が、巾木が取り付けられるか否かは状況により異なるとしても、通常、床材及び横梁材等と組み立てられたユニットの状態で流通するものであることは明らかである。
被請求人は、「本件意匠の実施品は、巾木を取り付けていない状態、すなわち「巾木取付用ボルト用溝」が露出した状態で工場から出荷されるものである。」旨述べるが、本件登録意匠に係る桁材が、「巾木取付用ボルト用溝」が露出した状態で流通するとしても、乙第13号証及び乙第14号証の写真によれば、本件登録意匠に係る桁材は、通常、床材及び横梁材等と組み立てられたユニットの状態で流通するものであるといえる。そうすると、流通時において、需要者(取引者を含む)は、当該ユニット全体の形態を観察するものであるから、桁材の上板部左側の突出部(被請求人のいう上部突出段部)の「巾木取付用ボルト用溝」を設けた態様は、当該ユニット全体においては、それを構成する一構成部材(桁材)の上部の一部という、極めて局部的な部分における微差にすぎない。したがって、流通時においても、需要者(取引者を含む)である施主及び施工業者が、桁材の上部の一部にすぎない「巾木取付用ボルト用溝」の有無に格別強く注意を引かれることは殆どない。このことは請求人の口頭審理陳述要領書(第14頁(イ−3−(3)−a−(b)))で述べたとおりである。
ちなみに、被請求人は、乙第13号証及び乙第14号証により、本件登録意匠の桁材が巾木を取り付けない状態で出荷されるものであると主張する。しかしながら、当該桁材を、施工者が、現場において、ナット及びボルトネジ部が挿入される小溝(巾木取付用ボルト用溝)にナットを仕込んで、通常6mの長さの巾木に設けられた孔に、上からボルトを挿入して取り付けることは、通常であれば非常に困難である。検査路設置作業時間の短縮化の観点、及び、この種桁材について、状況によって、甲第35号証に示すように巾木が取り付けられたユニットの状態で流通する場合もあることからすると、常に巾木を取り付けない状態で出荷されるかは疑問である。
以上によれば、被請求人の提出した上申書及び上申書(2)は、本件登録意匠と甲号意匠が類似するとの判断に何ら影響を与えるものではない。

第6 当審の判断

1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1674236号、別紙1)は、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「点検路用桁材」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形態」という。)を、願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであり、具体的な形態は、以下のとおりである。(別紙第1参照)

(1)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、橋梁等の構造体の点検や補修等の作業を行う際の足場として使用される点検路に、足場を架設するために左右一対で用いられる「点検路用桁材」である。

(2)形態
ア 全体の構成態様
全体は、平面において上下にのみ連続する略筒体であって、正面における外形状は略縦長矩形状の上端右隅の角を上辺中央付近から右辺の約1/5強の高さまで切り欠いたもので、左辺の上下端寄りに支柱固定用の溝(以下「支柱固定用溝」という。)、右辺の上下端寄りに横梁固定用の溝(以下「横梁固定用溝」という。)、上辺の右端寄りに巾木取付け用の溝(以下「巾木取付用溝」という。)をそれぞれ形成し、筒内部において、上側の支柱固定用溝の下端と上側の横梁固定用溝の上端を横に繋ぐように真ん中を斜め右下段差状に屈曲した仕切板(以下「第1仕切板」という。)を設け、また、下側の支柱固定用溝の上端と横梁固定用溝の上端を横に繋ぐように略水平状の仕切板(以下「第2仕切板」という。)を設けてこれを挟んで上下に大小2つの略矩形状の空間を形成している。
イ 各部の態様
(ア)正面における各部の長さの比率
上辺の長さは下辺の長さの約1/2で、下辺と左辺の長さの比率は約1:1.77で、左辺と右辺の長さの比率は約1.3:1である。
(イ)支柱固定用溝、横梁固定用溝及び巾木取付用溝
支柱固定用溝及び横梁固定用溝は、いずれも同形同大の略凸字状で、支柱固定用溝は略左倒凸字状、横梁固定用溝は略右倒凸字状としている。
巾木取付用溝は、支柱固定用溝よりやや小ぶりな略縦長長方形状で、左右の内壁の上端近くを左右対称形の縦長矩形状に凹ませたものとしている。
(ウ)上辺右側の縦辺
上辺右側の縦辺(巾木取付用溝の右側の外壁)は、巾木取付用溝の内壁の凹陥のやや下側を段差状に凹ませて、下端が第1仕切板と接続している。
(エ)筒内部の空間について
上側の大きな空間は、すべての角を略隅丸状とし、下側の小さな空間は、略横長長方形状としている。

2 無効理由の判断
請求人は、前記第2の1(3)に示すとおり、本件登録意匠は、「本件登録意匠は、出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。」と主張しているから、以下、本件登録意匠が、甲第1号証の意匠(以下「甲1意匠」という。)と類似する意匠であるか否かについて検討する。

(1)証拠の説明
甲1意匠は、意匠公報発行日を平成25年(2013年)9月17日とする意匠登録第11479735号の意匠公報の写しであって、具体的には以下のとおりのものである。(別紙第2参照)
ア 意匠に係る物品
甲1意匠の意匠に係る物品は、橋梁等の構造体の点検や補修等の作業を行う際の足場として使用される点検路に、足場を架設するために左右一対で用いられる「点検路用梁材」である。
イ 形態
(ア)全体の構成態様
全体は、平面において上下にのみ連続する略筒体であって、正面における外形状は略隅丸縦長矩形状の上端右隅の角を上辺左寄りから右辺の約1/5強の高さまで切り欠いたもので、左辺の上下端寄りに支柱固定用溝及び右辺の上下端部寄りに横梁固定用溝をそれぞれ形成し、筒内部において、上側の支柱固定用溝の下端と上側の横梁固定用溝の上端を横に繋ぐように平坦な第1仕切板を設け、また、下側の支柱固定用溝の上端と横梁固定用溝の上端を横に繋ぐように平坦な第2仕切板を設けてこれを挟んで上下に大小2つの略隅丸矩形状の空間を形成している。
(イ)各部の態様
a 正面における各部の長さの比率
上辺の長さは下辺の長さの約1/3で、下辺と左辺の長さの比率は約1:1.85で、左辺と右辺の長さの比率は約1.26:1である。
b 支柱固定用溝及び横梁固定用溝
支柱固定用溝及び横梁固定用溝は、いずれも同形同大の略凸字状で、支柱固定用溝は略左倒凸字状、横梁固定用溝は略右倒凸字状としている。
c 上辺右側の縦辺
上辺右側の縦辺(支柱固定用溝の右側の外壁)は、上から約2/3から下を外側に弧状に延出し、下端近くで垂直に屈曲して第1仕切板と段差状に接続している。
d 筒内部の空間について
上下の空間は、すべての角を略隅丸状としている。

(2)本件登録意匠と甲1意匠(以下「両意匠」ともいう。)の形態の対比
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠は、「点検路用桁材」であり、甲1意匠は、「点検路用梁材」であって、表記は異なるが、両意匠は、いずれも橋梁等の構造体の点検や補修等の作業を行う際の足場として使用される点検路に、足場を架設するため左右一対で用いられる点検路用の桁材であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。
イ 両意匠の形態
両意匠の形態を対比すると、主として、以下の共通点と差異点がある。
(ア)共通点
両意匠は、全体が、平面において上下にのみ連続する略筒体で、正面において略縦長矩形状の上端右隅の角を上辺左寄りから右辺の約1/5強の高さまで切り欠いたものとし、左辺の上下端寄りに略左倒凸字状の支柱固定用溝及び右辺の上下端部寄りに略右倒凸字状の横梁固定用溝をそれぞれ形成し、筒内部において上側の支柱固定用溝の下端と上側の横梁固定用溝の上端を横に繋ぐように平坦な第1仕切板を設け、下側の支柱固定用溝の上端と横梁固定用溝の上端を横に繋ぐように平坦な第2仕切板を設けてこれを挟んで上下に大小2つの略矩形状の空間を形成している点において共通している。
(イ)差異点
A 正面における各部の長さの比率について、上辺の長さと下辺の長さの比率は、本件登録意匠は下辺の長さの約1/2であるのに対し、甲1意匠は約1/3で、本件登録意匠の方が上辺が長く、また、下辺と左辺の長さの比率は、本件登録意匠は約1:1.77であるのに対し、甲1意匠は約1:1.85で、甲1意匠の方がやや縦長である点、
B 第1仕切板について、本件登録意匠は仕切板の真ん中を斜め右下段差状に屈曲しているのに対し、甲1意匠は段差のない略水平状の仕切板である点、
C 上辺について、本件登録意匠は上辺の右端寄りに巾木取付用溝を形成しているのに対し、甲1意匠は形成していない点、
D 上辺右側の縦辺について、本件登録意匠は巾木取付用溝の内壁の凹陥のやや下側を段差状に凹ませて下端が第1仕切板と接続しているのに対し、甲1意匠は上から約2/3から下を外側に弧状に延出し下端近くで垂直に屈曲して第1仕切板と段差状に接続している点、
E 外形状の四隅の角及び筒内部の空間の内角について、本件登録意匠は筒内部の上側の空間の内角は小さな隅丸状でそれ以外はすべて角の立った屈曲状としているのに対し、甲1意匠はすべての角をやや大きめの隅丸状としている点。

(3)両意匠の類否判断
ア 両意匠の意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、橋梁等の構造体の点検や補修等の作業を行う際の足場として使用される点検路に足場を架設するために左右一対で用いられる「点検路用桁材」であるから、同一である。
イ 形態の共通点及び差異点の評価
両意匠は、橋梁等に設置される点検路の部品であるから、需要者は、主に施工業者及び取引業者であり、これに加え、橋梁等の保守、管理を行う者が含まれる。
したがって、まず、床板を載置する上面の態様や作業時における安全性の配慮について評価し、かつそれ以外の形態も併せて、各部を総合して意匠全体として形態を評価することとする。
(ア)共通点の評価
まず、共通点について、この種物品の分野においては、全体を、平面において上下にのみ連続する略筒体とし、正面において略縦長矩形状の上端の片側の角を切り欠いたものは、両意匠の出願前から公然知られており(乙第1号証(別紙第3参照)※図の向きは、本件登録意匠に合わせて認定した。)、また、左辺の上下端寄りに略左倒凸字状の支柱固定用溝及び右辺の上下端部寄りに略右倒凸字状の横梁固定用溝をそれぞれ形成したものも、両意匠の出願前から公然知られているものである(甲第10号証(別紙第4参照)、乙第3号証(別紙第5参照))。さらに、筒内部において上側の支柱固定用溝と横梁固定用溝の間に平坦な第1仕切板を設け、下側の支柱固定用溝と横梁固定用溝の間に平坦な第2仕切板を設けてこれを挟んで上下に2つの略矩形状の空間を形成しているものも、両意匠以外にも見られる態様のものである(甲第17号証(別紙第6参照))から、これらの共通点は、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(イ)差異点の評価
差異点Aの正面における各部の長さの比率について、まず、上辺と下辺の長さの比率の相違は、当該物品において特に目に付く上面の態様において、上辺を下辺の約半分の長さとする本件登録意匠の態様は、後記の差異点Cの巾木取付用溝と相まって本件登録意匠の特徴の一つを成しており、需要者に与える視覚的印象が大きく異なるものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。一方、下辺と左辺の長さの比率の相違については、甲1意匠の方がやや縦長であるが、その差はごく僅かであってさほど目立つものではないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
差異点Bの第1仕切板の形態について、仕切板の真ん中を斜め右下段差状に屈曲したものである本件登録意匠と、段差のない略水平状とした甲1意匠とは、後記の差異点Dの縦辺の相違と相まって需要者に異なる美感をもたらしており、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
差異点Cの上辺の態様について、この種物品の分野において、上辺に巾木取付用溝を設けたものは本件登録意匠の他には見られず、また、全体の中央寄りの位置で非常に目立っており、巾木取付用溝を設けていない甲1意匠との比較において需要者に異なる美感を強く与えているものといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きい。
差異点Dの上辺右側の縦辺について、本件登録意匠は中程の段差や第1仕切板との接合箇所が屈曲状で角張った印象をもたらしているのに対し、甲1意匠は中程より下がった位置から下を外側に弧状に延出して柔らかく滑らかな印象を与えており、需要者に異なる美感を与えているものといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
差異点Eの外形状の四隅の角及び筒内部の空間の内角について、全体として、本件登録意匠は角張った印象であるのに対し、甲1意匠は角の取れた柔らかな印象をもたらしているが、需要者の視覚的印象が大きく異なるとまではいえないから、類否判断に与える影響は一定程度にとどまる。
(ウ)共通点及び差異点の評価
したがって、両意匠は、共通点が、両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対して、差異点Aのうち下辺と左辺の長さの比率の相違については、両意匠の類否判断に与える影響は小さく、差異点Eも、両意匠の類否判断に与える影響は一定程度にとどまるものの、差異点A(上記を除く。)乃至差異点Dが、両意匠の類否判断に与える影響は大きく、とりわけ、差異点Cが、両意匠の類否判断に与える影響は極めて大きいことから、意匠全体としてみた場合には、差異点が相まって生じる視覚的効果は、共通点のそれを凌駕して需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものである。

(4)小括
上記のとおり、本件登録意匠と甲1意匠は、意匠に係る物品が同一であるが、形態においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、差異点については、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、差異点が共通点を凌駕し、本件登録意匠は、甲1意匠に類似しているとはいえない。
したがって、請求人が主張する本件意匠登録の無効理由には、理由がない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由に係る理由及び証拠方法によっては、本件登録意匠の登録は無効とすることはできない。

審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。




































別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
審理終結日 2022-03-16 
結審通知日 2022-03-22 
審決日 2022-04-05 
出願番号 2020017858 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (L7)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 内藤 弘樹
加藤 真珠
登録日 2020-11-18 
登録番号 1674236 
代理人 佐藤 信吾 
代理人 大須賀 滋 
代理人 川崎 典子 
代理人 三橋 真二 
代理人 里 貴之 
代理人 木村 健治 
代理人 青木 篤 
代理人 青木 篤 
代理人 水野 みな子 
代理人 大石 歌織 
代理人 峯 唯夫 
代理人 山口 健司 
代理人 下西 正孝 
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