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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 H1
管理番号 1405865 
総通号数 25 
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2024-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-04-21 
確定日 2023-12-12 
意匠に係る物品 押しボタンスイッチ 
事件の表示 意願2022− 14348「押しボタンスイッチ」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 第1 事案の概要

1 手続の経緯
本願は、意匠法第10条の2第1項の規定により意願2021−028769を原出願とし、この原出願から分割された、令和4年7月4日(原出願の出願日:令和3年12月27日)の意匠登録出願であって、令和4年12月1日付けの拒絶理由通知に対し、令和5年1月16日に意見書が提出されたが、同年1月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願意匠の願書及び添付図面の記載
本願は、物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願であって、本願の意匠(以下「本願意匠」という。)は、意匠に係る物品を「押しボタンスイッチ」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)を、願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものであり、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分(以下「本願部分」という。)を、「実線で表した部分が、意匠登録を受けようとする部分である。「D部分のC−C線拡大断面図」を含めて、意匠登録を受けようとする部分を特定している。」としたものである(別紙第1参照)。

3 原査定の拒絶の理由及び引用意匠
原審の拒絶理由通知に基づく原査定の拒絶の理由は、本願意匠が、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠(先行の公知意匠に類似するため、意匠登録を受けることのできない意匠)に該当する、というものである。
上記の拒絶理由通知において引用された意匠(以下「引用意匠」という。)は、以下の意匠である(別紙第2参照)。

引用意匠
特許庁発行の意匠公報記載
意匠登録第1310757号
(意匠に係る物品、押ボタンスイッチ)の意匠のうち、本願意匠の意匠登録を受けようとする部分に相当する部分

以下、本審決では、引用意匠において本願部分と対比する部分、すなわち、本願部分に相当する部分を、「引用部分」という。

第2 当審の判断

1 本願意匠と引用意匠の対比
(1)意匠に係る物品の対比
本願意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は、いずれもボタンを押下することにより、内蔵されている接点を開閉させる機能を持つ「押しボタンスイッチ」と認められるから、一致する。

(2)本願部分と引用部分の用途及び機能の対比
まず、本願部分と引用部分(以下「両部分」という。)は、押しボタンスイッチの本体上端部に配した、枠体の部分(以下「ベゼル部」という。)、及びその枠体の内側に、先端部分がベゼル部より突出するようにして配した、操作ボタンの上方部分(以下「ボタン上部」という。)からなる構成のものである。
次に、両部分の各構成部分における用途及び機能を対比すると、以下のとおりである。
ア 両部分のベゼル部は、いずれも、操作盤等に押しボタンスイッチを取り付ける際の取り付け枠として用いられるものであって、操作盤等に見栄えよくボタン部を取り付けて、ボタン部を保護する等の機能を有している。
イ 両部分のボタン上部は、いずれも、操作ボタンを押下する際に手指が接するボタンの上面部分として用いられるものであって、例えば、オルタネイト型スイッチの場合は、該部位を一度押下することで内部の接点が閉じたままとなり、さらにもう一度押下すると内部の接点が開くという機能を有している。また、本願部分のみボタン上部が発光する機能がある。
したがって、これら各構成部分における用途は一致し、各構成部分における機能は、ボタン上部の発光の有無といった機能は相違するが、上記ア、イに記載したベゼル部及びボタン上部の主たる機能は一致するものである。

(3)両部分の位置、大きさ及び範囲の対比
両部分の意匠に係る物品の全体に対する位置及び大きさについては、いずれも、押しボタンスイッチを設置するための基台部分、及びその上部に配した押しボタンスイッチを操作するための本体部分からなる、押しボタンスイッチの上端部付近に位置し、人が手指で押下するために形成した押しボタンスイッチの操作ボタンの上面部付近の部分であることから、その位置及び大きさは一致するものである。
一方、両部分の意匠に係る物品の全体に対する範囲については、押しボタンスイッチを構成する基台部分及び本体部分の態様が異なるため相違するものである。

(4)両部分の形状等の対比
両部分の形状等を対比すると、その形状等には、主として以下の共通点及び相違点が認められる。

ア 形状等の共通点
(共通点1)両部分は、押しボタンスイッチの上端部分に配したベゼル部及びその内周部分に突出して配したボタン上部からなる構成とした点が共通する。
(共通点2)両部分は、ベゼル部の形状を、正面側の内周部分及び外周部分を背面側に向かって下降傾斜する傾斜面とし、その外周側端部を極薄い円板状とした略リング状の厚みのある枠状体、及び、その背面側に、これより小径の略リング状の薄い板状体を、段差を設けて配設したものとした点が共通する。
(共通点3)両部分は、ボタン上部の形状を、上面部の外縁部分を斜めに面取りした、略短円柱形状とした点が共通する。

イ 形状等の相違点
(相違点1)本願部分のベゼル部の正面側内周部分の形状は、ベゼル部正面側の約1/3を占める内周部分を急勾配の下降傾斜する傾斜面としているのに対し、引用部分のベゼル部の正面側内周部分の形状は、ベゼル部正面側の約2/5を占める内周部分を僅かに下降傾斜する傾斜面としている点で、両部分は相違する。
(相違点2)本願部分のベゼル部の正面側外周部分の形状は、ベゼル部正面側の約2/3を占める外周部分全体を、緩やかに膨出する緩勾配の傾斜面としているのに対し、引用部分のベゼル部の正面側外周部分の形状は、ベゼル部正面側の約3/5を占める外周部分を、外側端部付近のみ湾曲した緩勾配の傾斜面としている点で、両部分は相違する。
(相違点3)本願部分のボタン上部の突出部分の高さは、ベゼル部の厚みの約2倍であるのに対し、引用部分のボタン上部の突出部分の高さは、ベゼル部の厚みとほぼ同じである点で、両部分は相違する。
(相違点4)本願部分のボタン上部の上面部分の形状は、断面視において略凹曲面形状となるようにごく僅かに窪んだ形状としているのに対し、引用部分のボタン上部の上面部分の形状は、平坦面となるように形成している点で、両部分は相違する。

2 両意匠の類否判断
(1)意匠に係る物品の類否判断
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

(2)両部分の用途及び機能の類否判断
両部分の用途は、同一であり、両部分の機能は、発光機能の有無といった点で相違するが、その主たる機能は一致するから、その相違は両部分の類否判断に影響を与える程のものではない。

(3)両部分の位置、大きさ及び範囲の評価
両部分の位置及び大きさは、同一であると認められる。
また、両部分の意匠に係る物品全体に対する範囲は、押しボタンスイッチを構成する基台部分及び本体部分の態様が異なるため相違するが、この相違は当該意匠の属する分野において特段特徴のあるものではなく、ありふれた範囲内のものであるから、両部分の類否判断に影響を与える程のものではない。

(4)両部分の形状等の類否判断
ア 共通点の評価
(共通点1)は、部分全体の構成態様に係るものであるが、この種物品において、このような構成のものは既に存在するものであって、両部分のみに認められる格別の特徴であるとはいえないから、この(共通点1)が部分全体の美感に与える影響は小さい。
(共通点2)は、ベゼル部の形状に係るものであるが、この共通点は、両部分の形状を概括的に捉えた場合のものにすぎないから、この(共通点2)が部分全体の美感に与える影響は小さい。
(共通点3)は、ボタン上部の形状に係るものであるが、ボタン上部の形状を略短円柱形状としたものは、ごく普通に見られるものであるから、上面部の外縁部分に施されたありふれた面取りを含め、この(共通点3)が部分全体の美感に与える影響は小さい。

イ 相違点の評価
(相違点1)のベゼル部の正面側内周部分の形状、及び(相違点2)のベゼル部の正面側外周部分の形状の相違については、本願部分のベゼル部は、急勾配の内周側傾斜面と全体が緩やかに膨出する緩勾配の外周側傾斜面をなだらかに接合して、その断面視が角丸な三角形状となる従来にはない特徴的な形状のものであるとの印象を与えるのに対し、引用部分のベゼル部は、従来から普通に見られる緩勾配の傾斜面の内周部分に、ごく普通の斜めの面取りを施した程度の特徴のない形状のものであるとの印象を与えるから、需要者の目に付く正面部分に配した、ベゼル部の具体的な形状の相違に係るこの(相違点1)及び(相違点2)が、部分全体の類否判断に与える影響は大きい。
(相違点3)のボタン上部の突出部分の高さ、及び(相違点4)のボタン上部の上面部分の形状の相違については、部分全体として観察する際には、両部分の形状等の共通性に埋没する程度の相違であるから、この(相違点3)及び(相違点4)が、部分全体の類否判断に与える影響は小さい。

ウ 両部分の形状等の類否判断
両部分の形状等における共通点及び相違点についての個別評価に基づき、両部分を部分全体として総合的に観察した場合、両部分は、需要者の目に付く部分であるベゼル部の具体的な形状の相違が、部分全体の類否判断に大きな影響を与えるのに対し、部分全体の構成態様やボタン上部の形状等の共通性が、部分全体の美感に与える影響は小さいものであるから、これらの共通点が部分全体の類否判断に与える影響は、上記相違点が類否判断に与える影響を覆すには至らず、本願部分の形状等と引用部分の形状等は類似するとはいえないものである。

(5)小括
以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が同一であり、両部分の用途、位置及び大きさも同一であり、両部分の機能及び範囲の相違も両部分の類否判断に影響を与える程のものではないが、両部分の形状等において、類似するものではないから、本願意匠と引用意匠は類似しないものである。

第3 むすび

上記のとおりであって、本願意匠は、引用意匠に類似せず、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当しないものである。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、当審において、更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

別掲




審決日 2023-11-27 
出願番号 2022014348 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (H1)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 伊藤 宏幸
特許庁審判官 江塚 尚弘
渡邉 久美
登録日 2024-01-09 
登録番号 1761601 
代理人 伊東 忠彦 
代理人 伊東 忠重 

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