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審決分類 審判    C4
管理番号 1407909 
総通号数 27 
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2024-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2023-02-08 
確定日 2024-02-19 
意匠に係る物品 衛生マスク 
事件の表示 上記当事者間の意匠登録第1731439号「衛生マスク」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 手続の経緯

本件意匠登録第1731439号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、令和4年(2022年)6月22日に意匠登録出願(意願2022−13422)されたものであって、同年10月18日付けで登録査定がなされ、同年11月28日に意匠権の設定の登録がされた後、同年12月6日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。

令和5年 2月 8日付け 審判請求書の提出
同年 2月14日付け 上申書の提出
同年 6月23日付け 審判事件答弁書の提出
同年 8月 8日付け 審判事件弁駁書の提出
同年 9月12日付け 審理事項通知書の送付
同年 9月26日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年10月13日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年10月24日 口頭審理

第2 請求人の申し立て及び理由の要点

1 審判請求書における主張

請求人は、令和5年(2023年)2月8日付けで審判請求書を提出し、「意匠登録第1731439号の意匠登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と請求し、その理由として、要旨以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、甲第1号証から甲第11号証を提出した。

「(3)本件意匠登録を無効とすべき理由
本件の意匠登録にかかる意匠は、下記に引用する公知となった衛生マスクと、全体の輪郭形状が顕著に共通しています。マスクの縁部及び着用時に鼻筋を覆う2枚のシートの接合部に施された溶着の具体的態様や平紐状の耳掛け紐を端部の湾曲状突出部に溶着した態様についても共通にしております。これらの共通点は両意匠の基調を形成し、看者に共通の印象を極めて強く与えるものであります。
従いまして、本件意匠登録に係る意匠と以下に掲げる公知にかかる衛生マスクの意匠はほぼ同一の意匠であり相類似する意匠であると考えます。

(1)株式会社医食同源ドットコムの衛生マスク
株式会社医食同源ドットコムのウェブサイトの作成日は最後のページ(10/10)の著作権表示「〔著作権マーク〕2011 ishokdogen.com」の表記からも明らかなように、遅くともほぼ同一のデザイン形態をもった衛生マスクが、西暦2011年暮れから販売されていたことになります(甲第1号証)。

(2)株式会社ユニ・チャームの衛生マスク
「東灘ジャーナル」のウェブサイトに掲載された株式会社ユニ・チャームの販売に係る不織布マスクについての紹介に依れば、ウェブサイトの写しの4/9、6/9および9/9の各ページに記載があるように、2021年4月13日から販売されている衛生マスクは、明らかに意匠登録された意匠とほぼ同一のデザイン形態をもったものであります(甲第2号証)。

「Amazon.com,Inc.」のウェブサイトにおける株式会社ユニ・チャームの販売に係る不織布マスクの販売広告に依れば、3/6頁に「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日」として「2021/4/13」が示されております。このことからも意匠登録にかかるマスクとほぼ同一のデザイン形態をもった衛生マスクが販売されていたことになります(甲第3号証)。

(3)株式会社サン・スマイルの衛生マスク
株式会社サン・スマイルの衛生マスクについての2021年8月27日付のNews Release(ニュース・リリース)に依れば、ウェブサイトの最初のページに記載されていますように、2021年8月27日にNews Release(ニュース・リリース)され、2021年9月1日より販売開始にかかる衛生マスクであることが示されています。株式会社サン・スマイルの販売を予定した衛生マスクも、News Release(ニュース・リリース)の2/4頁および3/4頁に示されているように意匠登録されたマスクとほぼ同一のデザイン形態をもった意匠であります(甲第4号証)。

また、株式会社サン・スマイルの衛生マスクは、「ヨドバシ.com」のウェブサイトにおいてサンスマイル sun smile マスコード3Dマスクが2021年10月17日に販売される旨示されていますが、本件意匠登録に係る意匠とほぼ同一にかかるデザイン形態をもった意匠であります(甲第5号証)。

(4)La Bella株式会社の販売に係る衛生マスク
La Bella株式会社は、意匠登録された意匠とほぼ同一のデザイン形態をもった意匠に係る衛生マスクをこれまで販売してまいりました。2022年6月3日から2022年6月7日にかけてLa Bella株式会社の衛生マスクの利用者からいくつかのウェブサイトに投稿されております。これらの日付からして意匠登録された衛生マスクの意匠登録出願日である2022年6月22日より以前に公知になっていました(甲第6号証)。

また、同社の意匠登録された意匠とほぼ同一のデザイン形態をもった衛生マスク「シシベラ CICIBELLA CICIBELLA3Dバイカラーマスク アプリコット10枚入」が、2022年6月13日に「ヨドバシ.com」のウェブサイト上で示されています(甲第7号証)。

このような状況から意匠登録に係る意匠の意匠登録出願日(2022年6月22日)には既に公知になっていたことになります。

(5)やまと工業株式会社
やまと工業株式会社の本社のウェブサイトにおいて、本件の意匠登録に係る意匠とほぼ同一のデザイン形態をもったマスクが、投稿日2022年6月18日の日付にて示されています(甲第8号証)。

(6)美人百花.com
美人百花.comのウェブサイトにおいて、2022年2月4日の日付で「おしゃれなバイカラー」としてほぼ同一のデザイン形態をもったマスクが紹介されています(甲第9号証)。

(7)グローバルジャパン
Yodobashi Camera CO.,Ltd.のウェブサイトにおいて、意匠登録に係る意匠とほぼ同一のデザイン形態をもったグローバルジャパンの衛生マスクが、販売開始日としての2022年6月18日の日付が示されております(甲第10号証)。

以上の次第でありまので本件意匠登録に係る衛生マスクは意匠登録の要件としての新規性を欠いたものであり、意匠法第3条第1項第3号の規定により、新規性を欠いた登録意匠として、本件意匠登録は無効とされるべきものと思料致します。」

2 審判事件弁駁書における主張

請求人は、令和5年8月8日付けで、審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)を提出し、本件審判被請求人の主張は成り立たない、審判費用は審判被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、要旨以下のとおり主張した。

「(1)株式会社医食同源ドットコムの衛生マスクについて
審判被請求人は、審判請求人が甲第1号証および甲第11号証として提出した証拠書類に掲載されたマスクの意匠は「マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第1マスクと非類似であることは明らかです。」と主張されています。
しかしながら、審判被請求人がいろいろ反論されるも、それぞれのマスクの形態はほぼ同一であり、その具体的な形態において看者の一定の注意を惹くものではないと考えます。それぞれの意匠の形態において見た目の印象が明確に異なるものではなく看者に異なる美感を起こさせるようなことは考えられません。従ってそれぞれのマスクの意匠は実質的に同一とも言えるほどのものであり、類似意匠の範囲を超えるものではありません。
審判被請求人の主張には理由がないと考えます。

(2)株式会社ユニ・チャームの衛生マスクについて
審判被請求人は、審判請求人が甲第2号証および第3号証として提出した証拠書類に掲載されたマスクの意匠にいろいろ反論され、「本件意匠が第2マスクと非類似であることは明らかです。」と主張されています。
しかしながら、審判被請求人は意匠の些細な部分についていろいろ主張されていますが、それぞれのマスクの形態はほぼ同一であり、看者の一定の注意を惹くものではないと考えます。それぞれの意匠の形態において見た目の印象が何ら明確に異なるものではなく、看者に異なる美感を起こさせるようなことは考えられません。従ってそれぞれのマスクの意匠は実質的に同一とも言えるほどのものであり、類似意匠の範囲を超えるものではありません。
審判被請求人の主張には理由がないと考えます。
なお、審判被請求人は「尚付言しますと、第2マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なるとともに、マスク本体全域にエンボス加工が施され、それが模様として現れてい」るので、「本件意匠のマスク本体と第2マスク本体とが全くの別意匠であることは明らかです。」と述べられています。
しかし、意匠が類似するか否かは視覚に訴えての外観による判断ですので、審判被請求人の主張するようなそれぞれの材質の差が模様のうえにはっきりと表れているともいえないので意匠の類似を考えるまでに顕著な差異が特にみられるわけでもありません。これをもって意匠が非類似であると主張するまでの理由には至っていないと考えます。審判被請求人の主張には理由がないと考えます。

(3)株式会社サン・スマイルの衛生マスクについて
審判被請求人は、審判請求人が甲第4号証および甲第5号証として提出した証拠書類に掲載されたマスクの意匠にいろいろ反論され、「本件意匠と第3マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第3マスクと非類似であることは明らかです。」と主張されています。
しかしながら、審判被請求人は意匠の些細な部分についていろいろ主張されていますが、それぞれのマスクの形態はほぼ同一であり、看者の一定の注意を惹くものではないと考えます。それぞれの意匠の形態において見た目の印象が何ら明確に異なるものではなく、看者に異なる美感を起こさせるようなことは考えられません。従ってそれぞれのマスクの意匠は実質的に同一とも言えるほどのものであり、類似意匠の範囲を超えるものではありません。

(4) La Bella株式会社の衛生マスクについて
審判被請求人は、審判請求人が甲第6号証および甲第7号証として提出した証拠書類に掲載されたマスクの意匠にいろいろ反論され、「本件意匠と第4マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第4マスクと非類似であることは明らかです。」と主張されています。
しかしながら、審判被請求人は意匠の些細な部分についていろいろ主張されていますが、それぞれのマスクの形態はほぼ同一であり、看者の一定の注意を惹くものではないと考えます。それぞれの意匠の形態において見た目の印象が何ら明確に異なるものではなく、看者に異なる美感を起こさせるようなことは考えられません。従ってそれぞれのマスクの意匠は実質的に同一とも言えるほどのものであり、類似意匠の範囲を超えるものではありません。

(5)やまと工業株式会社の衛生マスクについて
審判被請求人は、審判請求人が甲第8号証として提出した証拠書類に掲載されたマスクの意匠にいろいろ反論され、「本件意匠と第5マスクとは、マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第5マスクと非類似であることは明らかです。」と主張されています。
しかしながら、審判被請求人は意匠の些細な部分についていろいろ主張されていますが、それぞれのマスクの形態はほぼ同一であり、看者の一定の注意を惹くものではないと考えます。それぞれの意匠の形態において見た目の印象が何ら明確に異なるものではなく、看者に異なる美感を起こさせるようなことは考えられません。従ってそれぞれのマスクの意匠は実質的に同一とも言えるほどのものであり、類似意匠の範囲を超えるものではありません。
なお、審判被請求人は、「マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、」として、本件意匠が第5マスクと非類似である」との主張において、模様の概念も使用されています。しかし、意匠の類似において模様はモチーフ・描法・構図・柄の大きさおよび色彩の総合として判断されるものでありますから、本件の意匠との関係において特段「模様」にまで言及される理由はないと考えます。

(6)美人百花.comの衛生マスクについて
審判被請求人は、審判請求人が甲第9号証として提出した証拠書類に掲載されたマスクの意匠にいろいろ反論され、「本件意匠と第6マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第6マスクと非類似であることは明らかです。」と主張されています。
しかしながら、審判被請求人は意匠の些細な部分についていろいろ主張されていますが、それぞれのマスクの形態はほぼ同一であり、看者の一定の注意を惹くものではないと考えます。それぞれの意匠の形態において見た目の印象が何ら明確に異なるものではなく、看者に異なる美感を起こさせるようなことは考えられません。従ってそれぞれのマスクの意匠は実質的に同一とも言えるほどのものであり、類似意匠の範囲を超えるものではありません。
なお、審判被請求人は、「マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、」として、本件意匠が第6マスクと非類似である」との主張において、模様の概念も使用されています。しかし、意匠の類似において模様はモチーフ・描法・構図・柄の大きさおよび色彩の総合として判断されるものでありますから、本件の意匠との関係において特段「模様」にまで言及される理由はないと考えます。

(7)グローバルジャパンの衛生マスクについて
審判被請求人は、審判請求人が甲第10号証として提出した証拠書類に掲載されたマスクの意匠にいろいろ反論され、「本件意匠と第7マスクとは、マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第7マスクと非類似であることは明らかです。」と主張されています。
しかしながら、審判被請求人は意匠の些細な部分についていろいろ主張されていますが、それぞれのマスクの形態はほぼ同一であり、看者の一定の注意を惹くものではないと考えます。それぞれの意匠の形態において見た目の印象が何ら明確に異なるものではなく、看者に異なる美感を起こさせるようなことは考えられません。従ってそれぞれのマスクの意匠は実質的に同一とも言えるほどのものであり、類似意匠の範囲を超えるものではありません。
なお、審判被請求人は、「マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、」として、本件意匠が第6マスクと非類似である」との主張において、模様の概念も使用されています。しかし、意匠の類似において模様はモチーフ・描法・構図・柄の大きさおよび色彩の総合として判断されるものでありますから、本件の意匠との関係において特段「模様」にまで言及される理由はないと考えます。

(8)以上の理由により、審判被請求人による本件の登録意匠は審判被請求人が提出した第1〜第7マスクとは非類似であるとの主張には十分な理由がないものと考えます。」

3 陳述要領書における主張

請求人は、請求人陳述要領書に基づき、要旨、以下のとおり意見を述べ、あわせて甲第12号証から甲第16号証を提出した。

「6.陳述の要領

1)審判被請求人は審判請求人の提出にかかる(1)株式会社医食同源ドットコム、(2)ユニ・チャーム株式会社、(3)株式会社サン・スマイル、(4)La Bella株式会社、(5)やまと工業株式会社、(6)美人百花.com、および(7)グローバルジャパン各社の販売に係る衛生マスクとの関係において、微に入り細にわたり、審判被請求人の意匠登録に係る衛生マスクは意匠として非類似である旨主張されています。
意匠の類似は、一般の衛生マスクの需要者(購入者)を基準として混同するか否か全体観察により総合的な判断がなされるべきものであります。審判被請求人の主張は審判請求人が主張の依りどころとする先の会社の販売に係る衛生マスクとの関係において個々の要素を総合的に勘案した上で全体として観察すべきものであります。
意匠の類似を判断するにあたり、審判被請求人の微に入り細に亘り相違点に言及されていることをもってしては、意匠の類否の判断において適切な主張がなされているものではないと考えます。
また、意匠登録に係る意匠において審判被請求人の引用する各社の衛生マスクに比して独自の創作性が特に見出せるものでもありません。

2)審判被請求人は審判請求人が証拠書類として提出した先のそれぞれの会社のウェブサイトの写しの掲載日付との関係において「インターネットにおけるウェブサイトのデータは不特定多数に配信される電子データであってその掲載日付を容易に改変することができ」るから、「その電子データの掲載日付を証明するための証拠能力がなく、その証明力も著しく低いものと言わざるを得」ないと主張され、「インターネットのウェブサイトへの掲載日付を証明するための第三者による認証が必要であると考えます。」と主張され、先の各社のウェブサイトの日付の公開日付を確定するための第三者認証を要求されています。しかしながら、審判請求人が提出の先の各社のウェブサイトの写しは十分な証拠能力を有しており、第三者による認証は不要と考えます。

3)審判被請求人は、インターネットにおけるウェブサイトの掲載日付を容易に改変できる旨主張されておりますが、例えば、Twitterなどのソーシャルネットワークサービスの投稿日時を改変することは決して容易ではないと考えます。

4)1社、2社のウェブサイトの写しを添付した場合に審判被請求人が主張されるようなことは極めて稀な特殊な事情がある場合にはありうるのかも知れませんが、本件においては7社にわたるウェブサイトの写しを添付したものであって、偶然にそれぞれの各社が日付を操作しなければならないような状況はないと思われます。審判請求人と何ら関係のない先の7社がそれぞれのウェブサイトの日付を操作するということなどは常識的には考えられないところであります。
例えば(2)のユニ・チャーム株式会社につきましては、提出したウェブサイトの写しは、購入者のウェブサイトによるものですが、ユニ・チャーム株式会社のウェブサイトにも同じ日付(2021年4月13日より全国で発売)の記載がありますので、改変を疑う余地はありません(甲第12号証)。
ウェブサイトにおいて各社の衛生マスクが時系列的に紹介されています。(2)のユニ・チャーム株式会社の衛生マスクは、2021年4月29日の日付をもって表示され、各社の衛生マスクの紹介日が意図的に改変される余地はないと考えます(甲第13号証)。
(1)の医食同源ドットコムにつきましては、Facebookにおいて、株式会社医食同源ドットコムの販売に係る同様のマスクが2022年6月7日(本件登録意匠の意匠登録出願日である2022年6月22日以前の日)付で紹介されております(甲第14号証)。
(3)の株式会社サン・スマイルとの関係において、仮に、表示された日付について問われるとしても、“「NASCODE クールマスク」が多数メディアに掲載されました”という紹介日として2022年6月10日が表記されております(甲第15号証)。「NASCODE クールマスク」はWEBメディア掲載情報として「WithOnline」(2022年6月10日掲載日)となっています(甲第16号証)。従いまして、公開日が勝手に変えられたというような疑念の生ずる余地はありません。

5)審判被請求人の衛生マスクと先の各社のウェブサイトに記載された衛生マスクは、間接対比観察に基づくまでもなく、明らかに同一又は類似の意匠であると考えます。

6)以上陳述致しましたように、提出書類には全体として客観的な証拠能力があり、審判被請求人の登録意匠は引用に係る各社の販売に係る衛生マスクとは実質的に同一あるいは類似意匠であり、本件登録意匠は引用各社の衛生マスクに類似しているとの審決を求めます。」

4 証拠方法

証拠は、すべて写しである。
(1)甲第1号証: 株式会社 医食同源ドットコムの印刷物

(2)甲第2号証:「東灘ジャーナル」に紹介されたユニ・チャーム株式会社の発売にかかる「超快適?マスク SMART COLOR(著作権マーク)」の紹介

(3)甲第3号証:「Amazon.com,Inc.」のウェブサイトにおけるユニ・チャーム株式会社の発売に係る「超快適マスク SMART COLOR」の紹介

(4)甲第4号証:株式会社サン・スマイルによる「3D立体マスク」 のNews Release 2021/8/27

(5)甲第5号証:「ヨドバシ.com」において、株式会社サン・スマイルによる「3D立体マスク」が2021/10/17に販売開始される旨を示した関連ウェブサイト

(6)甲第6号証:La Bella株式会社の「CICIBELLA」ブランドマスクについての「(@Cicibella) さん/Twitter」

(7)甲第7号証:La Bella株式会社の「CICIBELLA」ブランドマスクが2022年6月13日に販売される旨示した「ヨドバシ.com」のウェブサイト

(8)甲第8号証:やまと工業株式会社 本社による投稿日2022年6月18日のオンライン注文のウェブサイト

(9)甲第9号証:美人百花.comのウェブサイトにおいて「バイカラーが可愛い(ハートマーク)最近の話題の「不織布マスク」

(10)甲第10号証:「ヨドバシ.com」のウェブサイトに示された グローバルジャパンのスタイルワン(STYLE−ONE)

(11)甲第11号証:Amazon.com,Inc.の「Amazon.co.jp」のウェブサイトにおいて、株式会社 医食同源ドットコムの「SPUN MASK立体型」の衛生マスクの取り扱いを示した内容

(12)甲第12号証:ユニ・チャーム株式会社『超快適〔著作権マーク〕マスク SMART COLOR〔著作権マーク〕』新発売についての2021年「ニュースリリース」

(13)甲第13号証:ユニ・チャーム株式会社と他の会社の衛生マスクの販売紹介についての日付の入った時系列としての紹介

(14)甲第14号証:フェイスブック(Facebook)において医食同源ドットコムの販売にかかる衛生マスクの紹介日(2022年6月7日)が入った内容

(15)甲第15号証:株式会社サン・スマイルの「MASCODE クールマスク」が2022年6月10日にメディアに掲載されたとするウェブサイト

(16)甲第16号証:2022年6月10日に「With online」に株式会社サン・スマイルの衛生マスクが掲載されたウェブサイト

なお、甲第11号証は、令和5年2月14日付けの上申書の添付書類、甲第12号証から甲第16号証は、令和5年10月13日付けの口頭審理陳述要領書の添付書類である。

第3 被請求人の主張

1 答弁の趣旨及び理由

被請求人は、令和5年6月23日付けで、審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、要旨以下のとおり主張した。

「7 答弁の理由

(1)意匠登録第1731439号の意匠権(以下、本件意匠権といいます。)に係る衛生マスクの意匠(以下、本件意匠といいます。)の要部は、左右同形同大のマスク本体の形状であって、特に看者に共通の印象を強く与える部分は、それらマスク本体どうしを接合する中心線の上方部分と中間部分との傾斜角度及び中間部分の前方へ凸となる湾曲形態並びに中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態の第1要部、それらマスク本体の稜線の下方へ凹む湾曲形態の第2要部、それらマスク本体の下縁の上方へ凸となる湾曲形態の第3要部です。以下、本件意匠の第1〜第3要部と前記無効審判請求において提出されたマスクの意匠とを比較します。

(2)株式会社医食同源ドットコムの衛生マスクにつきまして
請求人が甲第1号証及び甲第11号証として提出しています株式会社医食同源ドットコムの衛生マスク(以下、第1マスクといいます)は、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。尚、甲第1号証及び甲第11号証に掲載された第1マスクはその側面の一部がマスク収容袋と重なり、マスク本体の稜線及び下縁が不明確ですが、それを踏まえて本件意匠と第1マスクとを比較します。最初に本件意匠の第1要部と第1マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第1マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第1マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第1マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第1マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第1マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第1マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第1マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第1マスクのそれよりも少なく、第1マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第1マスクとを比較しますと、既述のように第1マスクの稜線がマスク収容袋に隠れ、明確ではありませんが、本件意匠の第2要部である稜線が下方へ凹む湾曲形態であるのに対し、第1マスクの稜線は略直線状に延びているものと解します。次いで、本件意匠の第3要部と第1マスクとを比較しますと、既述のように第1マスクの下縁がマスク収容袋に隠れ、明確ではありませんが、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第1マスクの下縁は略直線状に延びているものと解します。更に、本件意匠のマスク本体の下縁のその延出寸法が第1マスクの下縁のそれよりも短く、本件意匠のマスク本体の中心線と下縁とのなす角度が第1マスクのそれよりも鋭角になっており、本件意匠のマスク本体の下半分の形状が第1マスクのそれと大きく異なっています。このように、本件意匠と第1マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第1マスクと非類似であることは明らかです。尚付言しますと、請求人は、審判請求書において「C2011ishokdogen.com」の表記から、遅くともほぼ同一のデザイン形態をもった衛生マスクが西暦2011年暮れから販売されていたと主張していますが、西暦2011年暮れから販売されていたマスクがほぼ同一のデザイン形態をもっていたかは定かではありません。

(3)株式会社ユニ・チャームの衛生マスクにつきまして
請求人が甲第2号証及び甲第3号証として提出しています株式会社ユニ・チャームの衛生マスク(以下、第2マスクといいます)は、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。本件意匠と第2マスクとを比較しますと、以下のとおりです。本件意匠の第1要部と第2マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第2マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第2マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第2マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第2マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第2マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第2マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第2マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第2マスクのそれよりも少なく、第2マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第2マスクとを比較しますと、第2マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びていますとともに、稜線の延出寸法が第2マスクの稜線のそれよりも長く延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第2マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第2マスクの下縁は略直線状に延びています。更に、本件意匠のマスク本体の下縁のその延出寸法が本件意匠のマスク本体の稜線の延出寸法よりも短いのに対し、第2マスクの下縁の延出寸法が第2マスクの稜線の延出寸法と略同一であり、本件意匠のマスク本体の下半分の形状が第2マスクのそれと大きく異なっています。このように、本件意匠と第2マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第2マスクと非類似であることは明らかです。尚付言しますと、第2マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なるとともに、マスク本体全域にエンボス加工が施され、それが模様として現れています。従いまして、本件意匠のマスク本体と第2マスクのマスク本体とが全くの別意匠であることは明らかです。

(4)株式会社サン・スマイルの衛生マスクにつきまして
請求人が甲第4号証及び甲第5号証として提出しています株式会社サン・スマイルの衛生マスク(以下、第3マスクといいます)は、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。尚、甲第4号証及び甲第5号証に掲載された第3マスクはその形態を明確に特定できませんが、それを踏まえて本件意匠と第3マスクとを比較します。本件意匠の第1要部と第3マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第3マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第3マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第3マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第3マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第3マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第3マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第3マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第3マスクのそれよりも少なく、第3マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第3マスクとを比較しますと、本件意匠の第2要部である稜線が下方へ凹む湾曲形態であるのに対し、第3マスクの稜線は略直線状に延びています。更に、第3マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第3マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第3マスクの下縁は略直線状に延びています。このように、本件意匠と第3マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第3マスクと非類似であることは明らかです。

(5)La Bella株式会社の販売に係る衛生マスクにつきまして
請求人が甲第6号証及び甲第7号証として提出していますLa Bella株式会社の衛生マスク(以下、第4マスクといいます)は、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。本件意匠と第4マスクとを比較しますと、以下のとおりです。本件意匠の第1要部と第4マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第4マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第4マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第4マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第4マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第4マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第4マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第4マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第4マスクのそれよりも少なく、第4マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第4マスクとを比較しますと、本件意匠の第2要部である稜線が下方へ凹む湾曲形態であるのに対し、第4マスクの稜線は略直線状に延びています。更に、第4マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第4マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第4マスクの下縁は略直線状に延びています。尚、第4マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なり、それが模様として現れています。このように、本件意匠と第4マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第4マスクと非類似であることは明らかです。

(6)やまと工業株式会社の衛生マスクにつきまして
請求人が甲第8号証として提出していますやまと工業株式会社の衛生マスク(以下、第5マスクといいます)は、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。尚、甲第8号証に掲載された第5マスクはその形態を明確に特定できませんが、それを踏まえて本件意匠と第5マスクとを比較します。本件意匠と第5マスクとを比較しますと、以下のとおりです。本件意匠の第1要部と第5マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第5マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第5マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第5マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第5マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第5マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第5マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第5マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第5マスクのそれよりも少なく、第5マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第5マスクとを比較しますと、第5マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第5マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第5マスクの下縁は下方へ凸となる湾曲形態です。尚、第5マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なり、それが模様として現れています。このように、本件意匠と第5マスクとは、マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第5マスクと非類似であることは明らかです。

(7)美人百花.comの衛生マスクにつきまして
請求人が甲第9号証として提出しています美人百花.comの衛生マスク(以下、第6マスクといいます)は、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。尚、甲第9号証に掲載された第6マスクは、その形態を明確に特定できませんが、それを踏まえて本件意匠と第6マスクとを比較します。本件意匠の第1要部と第6マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第6マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第6マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第6マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第6マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第6マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第6マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第6マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第6マスクのそれよりも少なく、第6マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第6マスクとを比較しますと、第6マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第6マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第6マスクの下縁は下方へ凸となる湾曲形態です。尚、第6マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なり、それが模様として現れています。このように、本件意匠と第6マスクとは、マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第6マスクと非類似であることは明らかです。

(8)グローバルジャパンの衛生マスクにつきまして
請求人が甲第10号証として提出していますグローバルジャパンの衛生マスク(以下、第7マスクといいます)は、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。本件意匠と第7マスクとを比較しますと、以下のとおりです。本件意匠の第1要部と第7マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第7マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第7マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第7マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第7マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第7マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第7マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第7マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第7マスクのそれよりも少なく、第7マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第7マスクとを比較しますと、第7マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。更に、本件意匠の第2要部である稜線が下方へ凹む湾曲形態であるのに対し、第7マスクの稜線は略直線状に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第7マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第7マスクの下縁は直線状に延びています。尚、第7マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なり、それが模様として現れています。このように、本件意匠と第7マスクとは、マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第7マスクと非類似であることは明らかです。

(9)以上述べましたように、本件意匠権に係る本件意匠は、その第1〜第3要部においてそれら第1〜第7マスクと非類似でありますから、既述のように、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めます。」

2 陳述要領書における主張
被請求人は、被請求人陳述要領書に基づき、要旨、以下のとおり意見を述べた。

「6 . 陳述の要領
(1)意匠登録第1731439号の意匠権(以下、本件意匠権といいます。)に係る衛生マスクの意匠(以下、本件意匠といいます。)の要部についての陳述
本件意匠の要部は、左右同形同大のマスク本体の形状であって、特に看者に共通の印象を強く与える部分は、それらマスク本体どうしを接合する中心線の上方部分と中間部分との傾斜角度及び中間部分の前方へ凸となる湾曲形態並びに中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態の第1要部、それらマスク本体の稜線の下方へ凹む湾曲形態の第2要部、それらマスク本体の下縁の上方へ凸となる湾曲形態の第3要部です。

(2)株式会社医食同源ドットコムの衛生マスクについての陳述
(1)請求人は、審判請求書及び審判事件弁駁書において、本件意匠が株式会社医食同源ドットコムの衛生マスク(以下、第1マスクといいます)に類似すると主張されています。しかし、被請求人は、本件意匠が第1マスクと非類似であることを陳述します。陳述の具体的な内容は以下のとおりです。
(2)請求人が甲第1号証及び甲第11号証として提出しています第1マスクは、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。尚、甲第1号証及び甲第11号証に掲載された第1マスクはその側面の一部がマスク収容袋と重なり、マスク本体の稜線及び下縁が不明確ですが、それを踏まえて本件意匠と第1マスクとを比較します。最初に本件意匠の第1要部と第1マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第1マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第1マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第1マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第1マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第1マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第1マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第1マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第1マスクのそれよりも少なく、第1マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第1マスクとを比較しますと、既述のように第1マスクの稜線がマスク収容袋に隠れ、明確ではありませんが、本件意匠の第2要部である稜線が下方へ凹む湾曲形態であるのに対し、第1マスクの稜線は略直線状に延びているものと解します。次いで、本件意匠の第3要部と第1マスクとを比較しますと、既述のように第1マスクの下縁がマスク収容袋に隠れ、明確ではありませんが、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第1マスクの下縁は略直線状に延びているものと解します。更に、本件意匠のマスク本体の下縁のその延出寸法が第1マスクの下縁のそれよりも短く、本件意匠のマスク本体の中心線と下縁とのなす角度が第1マスクのそれよりも鋭角になっており、本件意匠のマスク本体の下半分の形状が第1マスクのそれと大きく異なっています。このように、本件意匠と第1マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第1マスクと非類似であることは明らかです。尚付言しますと、請求人は、審判請求書において「C2011 ishokdogen.com」の表記から、遅くともほぼ同一のデザイン形態をもった衛生マスクが西暦2 011年暮れから販売されていたと主張していますが、西暦2011年暮れから販売されていたマスクがほぼ同一のデザイン形態をもっていたかは定かではありません。
(3)被請求人は、請求人が証拠として提出された甲第1号証及び甲第11号証に証拠能力がなく、又は、その証明力が著しく低いことを陳述します。甲第1号証は、株式会社医食同源ドットコムのインターネットにおけるウェブサイトに掲載された宣伝広告の写しであり、甲第11号証は、「Amazon.Com,Inc」の「Amazon.Co.jp」のインターネットにおけるウェブサイトに掲載された宣伝広告データの写しであり、インターネットにおけるウェブサイトのデータは不特定多数に配信される電子データであってその掲載日付を容易に改変することができますところ、その電子データの掲載日付を証明するための証拠能力がなく、その証明力も著しく低いものと言わざるを得ません。被請求人は、甲第1号証及び甲第11号証が公開された日付が十分に証明されていないものと考えますとともに、甲第1号証及び甲第11号証のインターネットのウェブサイトへの掲載日付を証明するための第三者による認証(例えば、公証役場で付与される確定日付)が必要であると考えます。被請求人は、甲第1号証及び甲第11号証によって本件意匠の類否を判断するにはそれら号証の公開の確定日付を明らかにする必要があると考えますから、甲第1号証及び甲第11号証の公開日付を確定するための第三者認証の提出を請求人に求めます。

(3)ユニ・チャーム株式会社の衛生マスクについての陳述
(1)請求人は、審判請求書及び審判事件弁駁書において、本件意匠がユニ・チャーム株式会社の衛生マスク(以下、第2マスクといいます)に類似すると主張されています。しかし、被請求人は、本件意匠が第2マスクと非類似であることを陳述します。陳述の具体的な内容は以下のとおりです。
(2)請求人が甲第2号証及び甲第3号証として提出していますユニ・チャーム株式会社の第2マスクは、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。本件意匠と第2マスクとを比較しますと、以下のとおりです。本件意匠の第1要部と第2マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第2マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第2マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第2マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第2マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第2マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第2マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第2マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第2マスクのそれよりも少なく、第2マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第2マスクとを比較しますと、第2マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びていますとともに、稜線の延出寸法が第2マスクの稜線のそれよりも長く延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第2マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第2マスクの下縁は略直線状に延びています。更に、本件意匠のマスク本体の下縁のその延出寸法が本件意匠のマスク本体の稜線の延出寸法よりも短いのに対し、第2マスクの下縁の延出寸法が第2マスクの稜線の延出寸法と略同一であり、本件意匠のマスク本体の下半分の形状が第2マスクのそれと大きく異なっています。このように、本件意匠と第2マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第2マスクと非類似であることは明らかです。尚付言しますと、第2マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なるとともに、マスク本体全域にエンボス加工が施され、それが模様として現れています。従いまして、本件意匠のマスク本体と第2マスクのマスク本体とが全くの別意匠であることは明らかです。
(3)被請求人は、請求人が証拠として提出された甲第2号証及び甲第3号証に証拠能力がなく、又は、その証明力が著しく低いことを陳述します。甲第2号証は、「東灘ジャーナル」に紹介されたユニ・チャーム株式会社の発売に係る「超快適マスクSMARTCOLOR」の紹介の写しであり、甲第3号証は、「Amazon.Com,Inc」のウェブサイトにおけるユニ・チャーム株式会社の発売に係る「超快適マスクSMARTCOLOR」の紹介の写しでありますところ、既述のように、インターネットにおけるウェブサイトのデータは不特定多数に配信される電子データであってその掲載日付を容易に改変することができますから、その電子データの掲載日付を証明するための証拠能力がなく、その証明力も著しく低いものと言わざるを得ません。被請求人は、甲第2号証及び甲第3号証が公開された日付が十分に証明されていないものと考えますとともに、甲第2号証及び甲第3号証のインターネットのウェブサイトへの掲載日付を証明するための第三者による認証が必要であると考えます。被請求人は、甲第2号証及び甲第3号証によって本件意匠の類否を判断するにはそれら号証の公開の確定日付を明らかにする必要があると考えますから、甲第2号証及び甲第3号証の公開日付を確定するための第三者認証の提出を請求人に求めます。

(4)株式会社サン・スマイルの衛生マスクについての陳述
(1)請求人は、審判請求書及び審判事件弁駁書において、本件意匠が株式会社サン・スマイルの衛生マスク(以下、第3マスクといいます)に類似すると主張されています。しかし、被請求人は、本件意匠が第3マスクと非類似であることを陳述します。陳述の具体的な内容は以下のとおりです。
(2)請求人が甲第4号証及び甲第5号証として提出しています株式会社サン・スマイルの第3マスクといいますは、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。尚、甲第4号証及び甲第5号証に掲載された第3マスクはその形態を明確に特定できませんが、それを踏まえて本件意匠と第3マスクとを比較します。本件意匠の第1要部と第3マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第3マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第3マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第3マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第3マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第3マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第3マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第3マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第3マスクのそれよりも少なく、第3マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第3マスクとを比較しますと、本件意匠の第2要部である稜線が下方へ凹む湾曲形態であるのに対し、第3マスクの稜線は略直線状に延びています。更に、第3マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第3マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第3マスクの下縁は略直線状に延びています。このように、本件意匠と第3マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第3マスクと非類似であることは明らかです。
(3)被請求人は、請求人が証拠として提出された甲第4号証及び甲第4号証(当審注:「甲第5号証」の誤記と認められる。)に証拠能力がなく、又は、その証明力が著しく低いことを陳述します。甲第4号証は、株式会社サン・スマイルによる「3D立体マスク」のNews Releaseの写しであり、甲第5号証は、「ヨドバシ.com」において、株式会社サン・スマイルによる「3D立体マスク」が販売開始される旨を示した関連ウェブサイトでありますところ、既述のように、インターネットにおけるウェブサイトのデータは不特定多数に配信される電子データであってその掲載日付を容易に改変することができますから、その電子データの掲載日付を証明するための証拠能力がなく、その証明力も著しく低いものと言わざるを得ません。被請求人は、甲第4号証及び甲第5号証が公開された日付が十分に証明されていないものと考えますとともに、甲第4号証及び甲第5号証のインターネットのウェブサイトへの掲載日付を証明するための第三者による認証が必要であると考えます。被請求人は、甲第4号証及び甲第5号証によって本件意匠の類否を判断するにはそれら号証の公開の確定日付を明らかにする必要があると考えますから、甲第4号証及び甲第5号証の公開日付を確定するための第三者認証の提出を請求人に求めます。

(5)LaBella株式会社の販売に係る衛生マスクについての陳述
(1)請求人は、審判請求書及び審判事件弁駁書において、本件意匠がLaBella株式会社の衛生マスク(以下、第4マスクといいます)に類似すると主張されています。しかし、被請求人は、本件意匠が第4マスクと非類似であることを陳述します。陳述の具体的な内容は以下のとおりです。
(2)請求人が甲第6号証及び甲第7号証として提出していますLaBella株式会社の第4マスクといいますは、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。本件意匠と第4マスクとを比較しますと、以下のとおりです。本件意匠の第1要部と第4マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第4マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第4マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第4マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第4マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第4マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第4マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第4マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第4マスクのそれよりも少なく、第4マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第4マスクとを比較しますと、本件意匠の第2要部である稜線が下方へ凹む湾曲形態であるのに対し、第4マスクの稜線は略直線状に延びています。更に、第4マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第4マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第4マスクの下縁は略直線状に延びています。尚、第4マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なり、それが模様として現れています。このように、本件意匠と第4マスクとは、マスク本体においてその形状が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第4マスクと非類似であることは明らかです。
(3)被請求人は、請求人が証拠として提出された甲第6号証及び甲第7号証に証拠能力がなく、又は、その証明力が著しく低いことを陳述します。甲第6号証は、LaBella株式会社の「CICIBELLA」ブランドマスクについての「(@Cicibella)さん/Twitter」の写しであり、甲第7号証は、LaBella株式会社の「CICIBELLA」ブランドマスクが販売される旨を示した「ヨドバシ.com」のウェブサイトに示された写しでありますところ、既述のように、インターネットにおけるウェブサイトのデータは不特定多数に配信される電子データであってその掲載日付を容易に改変することができますから、その電子データの掲載日付を証明するための証拠能力がなく、その証明力も著しく低いものと言わざるを得ません。被請求人は、甲第6号証及び甲第7号証が公開された日付が十分に証明されていないものと考えますとともに、甲第6号証及び甲第7号証のインターネットのウェブサイトへの掲載日付を証明するための第三者による認証が必要であると考えます。被請求人は、甲第6号証及び甲第7号証によって本件意匠の類否を判断するにはそれら号証の公開の確定日付を明らかにする必要があると考えますから、甲第6号証及び甲第7号証の公開日付を確定するための第三者認証の提出を請求人に求めます。

(6)やまと工業株式会社の衛生マスクについての陳述
(1)請求人は、審判請求書及び審判事件弁駁書において、本件意匠がやまと工業株式会社の衛生マスク(以下、第5マスクといいます)に類似すると主張されています。しかし、被請求人は、本件意匠が第5マスクと非類似であることを陳述します。陳述の具体的な内容は以下のとおりです。
(2)請求人が甲第8号証として提出していますやまと工業株式会社の衛生マスク(以下、第5マスクといいます)は、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。尚、甲第8号証に掲載された第5マスクはその形態を明確に特定できませんが、それを踏まえて本件意匠と第5マスクとを比較します。本件意匠と第5マスクとを比較しますと、以下のとおりです。本件意匠の第1要部と第5マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第5マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第5マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第5マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第5マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第5マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第5マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第5マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第5マスクのそれよりも少なく、第5マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。
次に、本件意匠の第2要部と第5マスクとを比較しますと、第5マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第5マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第5マスクの下縁は下方へ凸となる湾曲形態です。尚、第5マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なり、それが模様として現れています。このように、本件意匠と第5マスクとは、マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第5マスクと非類似であることは明らかです。
(3)被請求人は、請求人が証拠として提出された甲第8号証に証拠能力がなく、又は、その証明力が著しく低いことを陳述します。甲第8号証は、やまと工業株式会社本社によるオンライン注文のウェブサイトの写しでありますところ、既述のように、インターネットにおけるウェブサイトのデータは不特定多数に配信される電子データであってその掲載日付を容易に改変することができますから、その電子データの掲載日付を証明するための証拠能力がなく、その証明力も著しく低いものと言わざるを得ません。被請求人は、甲第8号証が公開された日付が十分に証明されていないものと考えますとともに、甲第8号証のインターネットのウェブサイトへの掲載日付を証明するための第三者による認証が必要であると考えます。被請求人は、甲第8号証によって本件意匠の類否を判断するにはその号証の公開の確定日付を明らかにする必要があると考えますから、甲第8号証の公開日付を確定するための第三者認証の提出を請求人に求めます。

(7)美人百花.comの衛生マスクについての陳述
(1)請求人は、審判請求書及び審判事件弁駁書において、本件意匠が美人百花.comの衛生マスク(以下、第6マスクといいます)に類似すると主張されています。しかし、被請求人は、本件意匠が第6マスクと非類似であることを陳述します。陳述の具体的な内容は以下のとおりです。
(2)請求人が甲第9号証として提出しています美人百花.comの第6マスクは、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。尚、甲第9号証に掲載された第6マスクは、その形態を明確に特定できませんが、それを踏まえて本件意匠と第6マスクとを比較します。本件意匠の第1要部と第6マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第6マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第6マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第6マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第6マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第6マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第6マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第6マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第6マスクのそれよりも少なく、第6マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第6マスクとを比較しますと、第6マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第6マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第6マスクの下縁は下方へ凸となる湾曲形態です。尚、第6マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なり、それが模様として現れています。このように、本件意匠と第6マスクとは、マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第6マスクと非類似であることは明らかです。
(3)被請求人は、請求人が証拠として提出された甲第9号証に証拠能力がなく、又は、その証明力が著しく低いことを陳述します。甲第9号証は、美人百花.comのウェブサイトにおいて「バイカラーが可愛い〔ハートマーク〕最近の話題の「不織布マスク」についての写しでありますところ、既述のように、インターネットにおけるウェブサイトのデータは不特定多数に配信される電子データであってその掲載日付を容易に改変することができますから、その電子データの掲載日付を証明するための証拠能力がなく、その証明力も著しく低いものと言わざるを得ません。被請求人は、甲第9号証が公開された日付が十分に証明されていないものと考えますとともに、甲第9号証のインターネットのウェブサイトへの掲載日付を証明するための第三者による認証が必要であると考えます。被請求人は、甲第9号証によって本件意匠の類否を判断するにはその号証の公開の確定日付を明らかにする必要があると考えますから、甲第9号証の公開日付を確定するための第三者認証の提出を請求人に求めます。

(8)グローバルジャパンの衛生マスクについての陳述
(1)請求人は、審判請求書及び審判事件弁駁書において、本件意匠がグローバルジャパンの衛生マスク(以下、第7マスクといいます)に類似すると主張されています。しかし、被請求人は、本件意匠が第7マスクと非類似であることを陳述します。陳述の具体的な内容は以下のとおりです。
(2)請求人が甲第10号証として提出していますグローバルジャパンの第7マスクは、左右一対の同形同大のマスク本体をその中心線において接合したマスクです。本件意匠と第7マスクとを比較しますと、以下のとおりです。本件意匠の第1要部と第7マスクとを比較しますと、本件意匠の第1要部のうちの中心線の上方部分の傾斜角度が第7マスクのそれと比較して鋭角(第1要部のうちの中心線の上方部分と中間部分とのなす角度が鋭角)であり、それによって本件意匠の中心線の上方部分が第7マスクの上方部分よりも急角度(シャープ)に成形されています。次に、本件意匠の第1要部のうちの中心線の中間部分の傾斜が第7マスクのそれと比較して緩やかであり、本件意匠の中心線の中間部分が第7マスクの中間部分よりも略垂直に延びています。更に、本件意匠の第1要部のうちの中間部分の前方へ凸となる湾曲形態が第7マスクのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、本件意匠の中心線の中間部分が第7マスクの中間部分よりも直線的に延びています。又、本件意匠の第1要部のうちの中間部から下方部分に渡っての前方へ凸となる湾曲形態が第7マスクの中間部から下方部分に渡ってのそれと比較して前方へ凸となる割合が小さく、湾曲する度合いが第7マスクのそれよりも少なく、第7マスクの中間部から下方部分に渡っての湾曲形態と比較して直線部分が多く含まれます。次に、本件意匠の第2要部と第7マスクとを比較しますと、第7マスクの稜線と中心線とのなす角度に比較し、本件意匠の第2要部である稜線と中心線とのなす角度が鋭角であり、稜線が中心線から離間するにつれて下方へ下り勾配に延びています。更に、本件意匠の第2要部である稜線が下方へ凹む湾曲形態であるのに対し、第7マスクの稜線は略直線状に延びています。次いで、本件意匠の第3要部と第7マスクとを比較しますと、本件意匠の第3要部である下縁が上方へ凸となる湾曲形態であるのに対し、第7マスクの下縁は直線状に延びています。尚、第7マスクは、マスク本体の材質(質感)が本件意匠のそれと異なり、それが模様として現れています。このように、本件意匠と第7マスクとは、マスク本体においてその形状や模様が異なり、マスク本体全体のプロポーションにおいて異なっていますから、本件意匠が第7マスクと非類似であることは明らかです。
(3)被請求人は、請求人が証拠として提出された甲第9号証に証拠能力がなく、又は、その証明力が著しく低いことを陳述します。甲第9号証は、「ヨドバシ.com」のウェブサイトに示されたグローバルジャパンのスライルワン(STYLE−ONE)の写しでありますところ、既述のように、インターネットにおけるウェブサイトのデータは不特定多数に配信される電子データであってその掲載日付を容易に改変することができますから、その電子データの掲載日付を証明するための証拠能力がなく、その証明力も著しく低いものと言わざるを得ません。被請求人は、甲第9号証が公開された日付が十分に証明されていないものと考えますとともに、甲第9号証のインターネットのウェブサイトへの掲載日付を証明するための第三者による認証が必要であると考えます。被請求人は、甲第9号証によって本件意匠の類否を判断するにはその号証の公開の確定日付を明らかにする必要があると考えますから、甲第9号証の公開日付を確定するための第三者認証の提出を請求人に求めます。

(9)以上陳述いたしましたように、本件意匠権に係る本件意匠は、その第1〜第3要部においてそれら第1〜第7マスクと非類似でありますから、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めます。」

第4 口頭審理

本件審判について、当審は、令和5年9月12日付けで審理事項通知書を通知し、これに対して、被請求人は、同年9月26日に口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)を提出し、請求人は、同年10月13日に口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書」という。)を提出し、同年10月24日に口頭審理を行った(令和5年10月24日付け「第1回口頭審理調書」)。

1 請求人の主張

請求人は、口頭審理陳述要領書(前記第2の3)に基づき、意見を述べた。

2 被請求人の主張

被請求人は、口頭審理陳述要領書(前記第3の2)に基づき、意見を述べた。

3 審判長

審判長は、この口頭審理において甲第1号証から甲第16号証について取り調べ、本件審理を終結した。(令和5年10月24日付け「第1回口頭審理調書」)

第5 当審の判断

1 本件登録意匠

本件登録意匠(意匠登録第1731439号)は、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「衛生マスク」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)を、願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとしたものであり、具体的な形状等は、以下のとおりである。(別紙第1参照)

(1)基本的構成態様
全体は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺(鼻側)を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺(耳側)の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである。

各部の態様として、
(2)マスク本体
マスク本体は、正面視において、縦横の長さの比率を約1:0.7とし、左辺は、上端から約1/5の鼻筋のやや上側に当たる箇所を斜線状に形成し(以下、当該斜線状の箇所を「斜線部」という。)、残りを緩やかな略逆「J」字状に形成し、上下辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成したものであって、下の突起は上の突起の約1/3の長さで、その間の谷状のくぼみは、略左倒「へ」の字状をなしている。また、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って破線模様を施している。

(3)耳掛け紐
耳掛け紐は、正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の破線模様の内側に固着したものであって、縦横の長さの比率は、約1:1.7で、横の長さは、マスク本体の9割程度の長さである。

2 無効理由の要点
請求人が主張する無効理由の要旨は、本件登録意匠は、その出願前に公然知られた意匠又は頒布された刊行物に記載された意匠である甲第1号証から甲第16号証に記載された意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号により意匠登録を受けることができないものであるから、同法第48条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべき、というものである。

3 無効理由の判断
本件登録意匠が、甲第1号証の意匠から甲第16号証の意匠と類似する意匠であるか否かについて、検討する。
なお、甲第1号証から甲第16号証は、以下の(1)から(7)の項目ごとに7つの意匠に分けて、本件登録意匠と対比するものとし、意匠ごとに、本件登録意匠と合わせて「両意匠」ともいう。
また、各意匠は、本件登録意匠の図の向きに合わせて認定するものとする。

(1)甲第1号証、甲第11号証及び甲第14号証から導き出される意匠(以下「第1マスク」という。)
第1マスクは、本件登録意匠の意匠登録出願前である令和4年(2022年)6月7日に公開のソーシャルメディア・ネットワーク・サービス(SNS)の1つであるフェイスブック等において、株式会社医食同源ドットコムが公開した「立体型スパンレース不織布カラーマスク」の意匠であり、具体的な形状等は、以下のとおりである。(甲第1号証、別紙第2参照)

ア 第1マスクの形状等

(ア)基本的構成態様
全体は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺(鼻側)を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺(耳側)の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである。

各部の態様として、
(イ)マスク本体
マスク本体は、正面視において、縦横の長さの比率を約1:0.9とし、左辺は、上端から約1/7を斜線部とし、残りを緩やかな凸弧状に形成し、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、直線状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる略倒放物線状の突起を上下に1つずつ形成したものであって、上下の突起はほぼ同じ長さで、その間の谷状のくぼみは、略倒放物線状をなしている。また、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って破線模様を施している。

(ウ)耳掛け紐
耳掛け紐は、正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の破線模様の内側に固着したものであって、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の5割程度の長さである。

イ 本件登録意匠と第1マスクの対比

(ア)意匠に係る物品
両意匠は、いずれも不織布等を用いた「衛生マスク」であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。

(イ)両意匠の形状等
両意匠の形状等を対比すると、主として、以下の共通点と相違点がある。

a 共通点
(a)基本的構成態様
両意匠は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである点、
(b)マスク本体
正面視において、左辺は、斜線部を形成し、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる略倒放物線状の突起を上下に1つずつ形成し、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って破線模様を施している点、
(c)耳掛け紐
正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の破線模様の内側に固着したものである点、において共通する。

b 相違点
(a)マスク本体
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:0.7とし、左辺は、斜線部を上端から約1/5の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな略逆「J」字状に形成し、下辺は、僅かに凹弧状で、右辺は、大小2つの突起を上下に形成したものとし、その間の谷状のくぼみは、略左倒「へ」の字状をなしているのに対し、第1マスクは、縦横の長さの比率を約1:0.9とし、左辺は、斜線部を上端から約1/7の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな凸弧状に形成し、下辺は、直線状で、右辺は、上下の突起はほぼ同じ長さで、その間の谷状のくぼみは、略倒放物線状をなしている点、
(b)耳掛け紐
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:1.7とし、横の長さは、マスク本体の9割程度の長さであるのに対し、第1マスクは、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の5割程度の長さである点、において相違する。

(ウ)本件登録意匠と第1マスクの類否判断
a 意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

b 形状等の共通点及び相違点の評価
両意匠は、共に、衛生マスクであるから、需要者は、主にマスクの購入者であり、これに加えて、マスクの販売業者及び取引業者が含まれる。
したがって、まず、使用感を左右するマスク本体の鼻側と耳側における態様について評価し、かつそれ以外の形状等も併せて、各部を総合して意匠全体として形状等を評価することとする。

(a)共通点の評価
まず、共通点(a)の基本的構成態様については、この種物品において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
次に、共通点(b)及び共通点(c)の態様については、当該物品の分野において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様、又は、公然知られている態様(例えば、甲第2号証の意匠。)であることから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(b)相違点の評価
まず、相違点(a)のマスク本体について、縦横の長さの比率については、さほど目立つものではなく、常套的になされる改変の範囲内のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また、下辺の態様についても、本件登録意匠は、直線状とした第1マスクとの比較において、僅かに凹弧状とした程度のものであって、微弱な相違に過ぎないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
一方、左辺の斜線部について、斜線部は、使用時において正面中央で鼻筋に近接する部位であり、マスクにおいて最も目に付く部位であるところ、本件登録意匠の斜線部は、第1マスクの斜線部に比べて、大きく、目立っており、また、残余の辺も、略逆「J」字状に形成しシャープな印象である本願意匠と凸弧状に形成し柔和な印象である第1マスクとは異なるものであり、斜線部の相違と相まって、需要者に異なる美感を与えているから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。また、右辺の態様についても、上下の突起を大小2つ形成し、その間の谷状のくぼみを略左倒「へ」の字状とした本件登録意匠と、上下の突起をほぼ同じ長さとし、その間の谷状のくぼみを略倒放物線状とした第1マスクとは、需要者に対し明らかに異なる視覚的印象をもたらしているから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
次に、相違点(b)の耳掛け紐について、縦横の長さの比率やマスク本体の長さに対する比率において相違するが、それ自体、マスク本体に付随して、格別目立つものではなく、需要者が特に注意を惹くものとはいえないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(c)共通点及び相違点の評価
そうすると、共通点(a)から共通点(c)が、両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対して、相違点(a)のうち縦横の長さの比率や下辺の相違及び相違点(b)は、両意匠の類否判断に与える影響が小さいものの、相違点(a)のうち左辺及び右辺の相違が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいことから、意匠全体としてみた場合には、相違点が共通点を凌駕して、需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものといえる。

ウ 小括
上記のとおり、本件登録意匠と第1マスクは、意匠に係る物品が同一であるが、形状等においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、相違点については、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、本件登録意匠は、第1マスクに類似しているとはいえない。

(2)甲第2号証、甲第3号証、甲第12号証及び甲第13号証から導き出される意匠(以下「第2マスク」という。)
第2マスクは、本件登録意匠の意匠登録出願前である令和3年(2021年)3月21日に公開のユニ・チャーム株式会社のニュースリリース等において、ユニ・チャーム株式会社が公開した「超快適〔著作権マーク〕マスク SMART COLOR〔著作権マーク〕」の意匠であり、具体的な形状等は、以下のとおりである。(甲第2号証、別紙第3参照)

ア 第2マスクの形状等

(ア)基本的構成態様
全体は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺(鼻側)を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺(耳側)の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである。

各部の態様として、
(イ)マスク本体
マスク本体は、正面視において、縦横の長さの比率を約1:0.7とし、左辺は、上端から約1/7に斜線部を形成し、残りを緩やかな凸弧状に形成し、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、直線状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成したものであって、下の突起は上の突起の約3/5の長さで、その間の谷状のくぼみは、略倒放物線状をなしている。また、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って破線模様を施している。

(ウ)耳掛け紐
耳掛け紐は、正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の破線模様の内側に固着したものであって、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の7割程度の長さである。

イ 本件登録意匠と第2マスクの対比

(ア)意匠に係る物品
両意匠は、いずれも不織布等を用いた「衛生マスク」であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。

(イ)両意匠の形状等
両意匠の形状等を対比すると、主として、以下の共通点と相違点がある。

a 共通点
(a)基本的構成態様
両意匠は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである点、
(b)マスク本体
正面視において、縦横の長さの比率を約1:0.7とし、左辺は、斜線部を形成し、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成し、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って破線模様を施している点、
(c)耳掛け紐
正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の破線模様の内側に固着したものである点、において共通する。

b 相違点
(a)マスク本体
本件登録意匠は、左辺は、斜線部を上端から約1/5の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな略逆「J」字状に形成し、下辺は、僅かに凹弧状で、右辺は、下の突起は上の突起の約1/3の長さで、その間の谷状のくぼみは、略左倒「へ」の字状をなしているのに対し、第2マスクは、左辺は、斜線部を上端から約1/7の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな凸弧状に形成し、下辺は、直線状で、右辺は、下の突起は上の突起の約3/5の長さで、その間の谷状のくぼみは、略倒放物線状をなしている点、
(b)耳掛け紐
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:1.7とし、横の長さは、マスク本体の9割程度の長さであるのに対し、第2マスクは、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の7割程度の長さである点、において相違する。

(ウ)本件登録意匠と第2マスクの類否判断
a 意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

b 形状等の共通点及び相違点の評価
両意匠の形状等の類否判断における判断の主体(需要者)等については、前記(1)(ウ)bと同様である。

(a)共通点の評価
まず、共通点(a)の基本的構成態様については、この種物品において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
次に、共通点(b)及び共通点(c)の態様については、当該物品の分野において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様、又は、公然知られている態様(例えば、甲第1号証の意匠。)であることから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(b)相違点の評価
まず、相違点(a)のマスク本体について、下辺を、僅かに凹弧状としたものであるか、直線状としたものであるかの微弱な相違に過ぎないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
一方、左辺の斜線部について、斜線部は、使用時において正面中央で鼻筋に近接する部位であり、マスクにおいて最も目に付く部位であるところ、本件登録意匠の斜線部は、第2マスクの斜線部に比べて、大きく目立っており、また、残余の辺も、略逆「J」字状に形成しシャープな印象である本願意匠と凸弧状に形成し柔和な印象である第2マスクとは異なるものであり、斜線部の相違と相まって、需要者に異なる美感を与えているから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。また、右辺の態様についても、本件登録意匠の下側の突起は上側の突起より低く、略左倒「へ」の字状とした谷状のくぼみも特徴的であるのに対し、第2マスクの下側の突起は、上側の突起よりやや短い程度で、谷状のくぼみも一般的な略倒放物線状であるから、本件登録意匠は、第2マスクとは、需要者に対し明らかに異なる視覚的印象をもたらしており、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
次に、相違点(b)の耳掛け紐について、縦横の長さの比率やマスク本体の長さに対する比率において相違するが、それ自体、マスク本体に付随して、格別目立つものではなく、需要者が特に注意を惹くものとはいえないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(c)共通点及び相違点の評価
そうすると、共通点(a)から共通点(c)が、両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対して、相違点(a)のうち下辺の相違及び相違点(b)は、両意匠の類否判断に与える影響が小さいものの、相違点(a)のうち左辺及び右辺の相違が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいことから、意匠全体としてみた場合には、相違点が共通点を凌駕して、需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものといえる。

ウ 小括
上記のとおり、本件登録意匠と第2マスクは、意匠に係る物品が同一であるが、形状等においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、相違点については、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、本件登録意匠は、第2マスクに類似しているとはいえない。

(3)甲第4号証、甲第5号証、甲第15号証及び甲第16号証から導き出される意匠(以下「第3マスク」という。)
第3マスクは、本件登録意匠の意匠登録出願前である令和3年(2021年)8月27日に公開の株式会社サン・スマイルのニュースリリース等において公開された、株式会社サン・スマイルの「マスコード3Dマスク」の意匠であり、具体的な形状等は、以下のとおりである。(甲第4号証、別紙第4参照)
なお、第3マスクは、斜めから見た図及び開いた状態の図(装着状態の図を含む。)のみであるから、正面視における各部の長さの比率は、概算によるものとする。

ア 第3マスクの形状等

(ア)基本的構成態様
全体は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺(鼻側)を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺(耳側)の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである。

各部の態様として、
(イ)マスク本体
マスク本体は、正面視において、縦横の長さの比率を約1:0.9とし、左辺は緩やかな凸弧状に形成し、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、僅かに凸弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成したものであって、下の突起は上の突起の約1/6の長さで、かつ、上の突起に比べてなだらかであり、その間の谷状のくぼみは、緩やかな略倒放物線状をなしている。また、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って点線模様を施している。

(ウ)耳掛け紐
耳掛け紐は、正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の点線模様の内側に固着したものであって、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の6割程度の長さである。

イ 本件登録意匠と第3マスクの対比

(ア)意匠に係る物品
両意匠は、いずれも不織布等を用いた「衛生マスク」であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。

(イ)両意匠の形状等
両意匠の形状等を対比すると、主として、以下の共通点と相違点がある。

a 共通点
(a)基本的構成態様
両意匠は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである点、
(b)マスク本体
正面視において、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成し、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って線模様を施している点、
(c)耳掛け紐
正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の線模様の内側に固着したものである点、において共通する。

b 相違点
(a)マスク本体
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:0.7とし、左辺は、斜線部を上端から約1/5の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな略逆「J」字状に形成し、下辺は、僅かに凹弧状で、右辺は、下の突起は上の突起の約1/3の長さで、その間の谷状のくぼみは、略左倒「へ」の字状をなし、線模様は破線模様であるのに対し、第3マスクは、縦横の長さの比率を約1:0.9とし、左辺は、緩やかな凸弧状に形成し、下辺は、僅かに凸弧状で、右辺は、下の突起は上の突起の約1/6の長さで、かつ、上の突起に比べてなだらかであり、その間の谷状のくぼみは、緩やかな略倒放物線状をなし、線模様は点線模様である点、
(b)耳掛け紐
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:1.7とし、横の長さは、マスク本体の9割程度の長さであるのに対し、第3マスクは、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の6割程度の長さである点、において相違する。

(ウ)本件登録意匠と第3マスクの類否判断
a 意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

b 形状等の共通点及び相違点の評価
両意匠の形状等の類否判断における判断の主体(需要者)等については、前記(1)(ウ)bと同様である。

(a)共通点の評価
まず、共通点(a)の基本的構成態様については、この種物品において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
次に、共通点(b)及び共通点(c)の態様については、当該物品の分野において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様、又は、公然知られている態様(例えば、甲第2号証の意匠。)であることから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(b)相違点の評価
まず、相違点(a)のマスク本体について、縦横の長さの比率については、さほど目立つものではなく、常套的になされる改変の範囲内のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また、下辺についても、僅かに凹弧状としたものであるか、凸弧状としたものであるかの微弱な相違に過ぎず、さらに、線模様の相違も微弱なものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
一方、左辺について、斜線部は、使用時において正面中央で鼻筋に近接する部位に当たり、マスクにおいて最も目に付く部位であるところ、斜線部を有し、残余の辺を略逆「J」字状に形成した本件登録意匠と、斜線部はなく全体が緩やかな凸弧状に形成したものである第3マスクとは、一見して異なる美感を需要者に与えているから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。また、右辺の態様についても、第3マスクの下の突起は上の突起に比べて小さく、なだらかであり、その間の谷状のくぼみも緩やかな略倒放物線状をなしているのに対し、本件登録意匠の下の突起は比較的大きく、略左倒「へ」の字状とした谷状のくぼみも特徴的であるから、本件登録意匠は、第3マスクとは、需要者に対し明らかに異なる視覚的印象をもたらしており、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
次に、相違点(b)の耳掛け紐について、縦横の長さの比率やマスク本体の長さに対する比率において相違するが、それ自体、マスク本体に付随して、格別目立つものではなく、需要者が特に注意を惹くものとはいえないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(c)共通点及び相違点の評価
そうすると、共通点(a)から共通点(c)が、両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対して、相違点(a)のうち縦横の長さの比率、下辺の態様、線模様の相違及び相違点(b)は、両意匠の類否判断に与える影響が小さいものの、相違点(a)のうち左辺及び右辺の相違が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいことから、意匠全体としてみた場合には、相違点が共通点を凌駕して、需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものといえる。

ウ 小括
上記のとおり、本件登録意匠と第3マスクは、意匠に係る物品が同一であるが、形状等においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、相違点については、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、本件登録意匠は、第3マスクに類似しているとはいえない。

(4)甲第6号証及び甲第7号証から導き出される意匠(以下「第4マスク」という。)
第4マスクは、本件登録意匠の意匠登録出願前である令和4年(2022年)6月7日に公開のSNSの1つであるツイッター(現、X)等において公開された、La Bella株式会社の「CICIBELLA(シシベラ)3Dマスク」の意匠であり、具体的な形状等は、以下のとおりである。(甲第6号証、別紙第5参照)

ア 第4マスクの形状等

(ア)基本的構成態様
全体は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺(鼻側)を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺(耳側)の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである。

各部の態様として、
(イ)マスク本体
マスク本体は、正面視において、縦横の長さの比率を約1:0.9とし、左辺は緩やかな凸弧状に形成し(僅かに斜線部を形成しているようにも見えるが、ほぼ凸弧状である。)、上辺は、凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、僅かに凸弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成したものであって、下の突起は上の突起の約3/10の長さでごく小さいものであり、その間の谷状のくぼみは、下方に歪んだ凹曲線状をなしている。また、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って破線模様を施している。

(ウ)耳掛け紐
耳掛け紐は、正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の破線模様の内側に固着したものであって、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の6割程度の長さである。

イ 本件登録意匠と第4マスクの対比

a 共通点
(a)基本的構成態様
両意匠は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである点、
(b)マスク本体
正面視において、上辺は、凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成し、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って破線模様を施している点、
(c)耳掛け紐
正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の破線模様の内側に固着したものである点、において共通する。

b 相違点
(a)マスク本体
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:0.7とし、左辺は、斜線部を上端から約1/5の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな略逆「J」字状に形成し、下辺は、僅かに凹弧状で、右辺は、下の突起は上の突起の約1/3の長さで、その間の谷状のくぼみは、略左倒「へ」の字状をなし、線模様は破線模様であるのに対し、第4マスクは、縦横の長さの比率を約1:0.9とし、左辺は、緩やかな凸弧状に形成し、下辺は、僅かに凸弧状で、右辺は、下の突起は上の突起の約3/10の長さでごく小さいものであり、その間の谷状のくぼみは、下方に歪んだ凹曲線状をなしている点、
(b)耳掛け紐
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:1.7とし、横の長さは、マスク本体の9割程度の長さであるのに対し、第4マスクは、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の6割程度の長さである点、において相違する。

(ウ)本件登録意匠と第4マスクの類否判断
a 意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

b 形状等の共通点及び相違点の評価
両意匠の形状等の類否判断における判断の主体(需要者)等については、前記(1)(ウ)bと同様である。

(a)共通点の評価
まず、共通点(a)の基本的構成態様については、この種物品において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
次に、共通点(b)及び共通点(c)の態様については、当該物品の分野において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様、又は、公然知られている態様(例えば、甲第2号証の意匠。)であることから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(b)相違点の評価
まず、相違点(a)のマスク本体について、縦横の長さの比率については、さほど目立つものではなく、常套的になされる改変の範囲内のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また、下辺についても、僅かに凹弧状としたものであるか、凸弧状としたものであるかの微弱な相違に過ぎないものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
一方、左辺について、斜線部は、使用時において正面中央で鼻筋に近接する部位に当たり、マスクにおいて最も目に付く部位であるところ、斜線部を有し、残余の辺を略逆「J」字状に形成した本件登録意匠と、斜線部はなく全体が緩やかな凸弧状に形成したものである第4マスクとは、一見して異なる美感を需要者に与えているから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。また、右辺の態様についても、第4マスクの下の突起は上の突起に比べてごく小さいもので、その間の谷状のくぼみも下方に歪んだ凹曲線状をなしているのに対し、本件登録意匠の下の突起は比較的大きく、略左倒「へ」の字状とした谷状のくぼみも特徴的であるから、本件登録意匠は、第4マスクとは、需要者に対し明らかに異なる視覚的印象をもたらしており、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
次に、相違点(b)の耳掛け紐について、縦横の長さの比率やマスク本体の長さに対する比率において相違するが、それ自体、マスク本体に付随して、格別目立つものではなく、需要者が特に注意を惹くものとはいえないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(c)共通点及び相違点の評価
そうすると、共通点(a)から共通点(c)が、両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対して、相違点(a)のうち縦横の長さの比率や下辺の相違及び相違点(b)は、両意匠の類否判断に与える影響が小さいものの、相違点(a)のうち左辺及び右辺の相違が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいことから、意匠全体としてみた場合には、相違点が共通点を凌駕して、需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものといえる。

ウ 小括
上記のとおり、本件登録意匠と第4マスクは、意匠に係る物品が同一であるが、形状等においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、相違点については、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、本件登録意匠は、第4マスクに類似しているとはいえない。

(5)甲第8号証から導き出される意匠(以下「第5マスク」という。)
第5マスクは、本件登録意匠の意匠登録出願前である令和4年(2022年)6月18日に公開のやまと工業のオンライン注文用ウェブサイトにおいて公開された、やまと工業株式会社の「スタイリーマスク」の意匠であり、具体的な形状等は、以下のとおりである。(甲第8号証、別紙第6参照)

ア 第5マスクの形状等

(ア)基本的構成態様
全体は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺(鼻側)を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺(耳側)の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである。

各部の態様として、
(イ)マスク本体
マスク本体は、正面視において、縦横の長さの比率を約1:0.9とし、左辺は上端から約1/11に斜線部を形成し、残りを緩やかな凸弧状に形成し、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、直線状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成したものであって、下の突起は上の突起の約1/4の長さで、かつ、上の突起に比べてなだらかであり、その間の谷状のくぼみは、緩やかな略倒放物線状をなしている。また、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って点線模様を施している。

(ウ)耳掛け紐
耳掛け紐は、正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の点線模様の内側に固着したものであって、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の7割程度の長さである。

イ 本件登録意匠と第5マスクの対比

(ア)意匠に係る物品
両意匠は、いずれも不織布等を用いた「衛生マスク」であるから、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。

(イ)両意匠の形状等
両意匠の形状等を対比すると、主として、以下の共通点と相違点がある。

a 共通点
(a)基本的構成態様
両意匠は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである点、
(b)マスク本体
正面視において、左辺は、斜線部を形成し、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成し、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って線模様を施している点、
(c)耳掛け紐
正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の線模様の内側に固着したものである点、において共通する。

b 相違点
(a)マスク本体
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:0.7とし、左辺は、斜線部を上端から約1/5の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな略逆「J」字状に形成し、下辺は、僅かに凹弧状で、右辺は、下の突起は上の突起の約1/3の長さで、その間の谷状のくぼみは、略左倒「へ」の字状をなし、線模様は破線模様であるのに対し、第5マスクは、縦横の長さの比率を約1:0.9とし、左辺は、斜線部を上端から約1/11の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな凸弧状に形成し、下辺は、直線状で、右辺は、下の突起は上の突起の約1/4の長さで、かつ、上の突起に比べてなだらかであり、その間の谷状のくぼみは、略倒放物線状をなし、線模様は点線模様である点、
(b)耳掛け紐
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:1.7とし、横の長さは、マスク本体の9割程度の長さであるのに対し、第5マスクは、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の7割程度の長さである点、において相違する。

(ウ)本件登録意匠と第5マスクの類否判断
a 意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

b 形状等の共通点及び相違点の評価
両意匠の形状等の類否判断における判断の主体(需要者)等については、前記(1)(ウ)bと同様である。

(a)共通点の評価
まず、共通点(a)の基本的構成態様については、この種物品において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
次に、共通点(b)及び共通点(c)の態様については、当該物品の分野において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様、又は、公然知られている態様(例えば、甲第2号証の意匠。)であることから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(b)相違点の評価
まず、相違点(a)のマスク本体について、縦横の長さの比率については、さほど目立つものではなく、常套的になされる改変の範囲内のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また、下辺についても、僅かに凹弧状としたものであるか、直線状としたものであるかの微弱な相違に過ぎず、さらに、線模様の相違も微弱なものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
一方、左辺の斜線部について、斜線部は、使用時において正面中央で鼻筋に近接する部位であり、マスクにおいて最も目に付く部位であるところ、本件登録意匠の斜線部は、第5マスクの斜線部に比べて、左辺の中で目立っており、また、残余の辺も、略逆「J」字状に形成しシャープな印象である本願意匠と凸弧状に形成し柔和な印象である第5マスクとは異なるものであり、斜線部の相違と相まって、需要者に異なる美感を与えているから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。また、右辺の態様についても、本件登録意匠のくぼみは略左倒「へ」の字状とした特徴的なものであるのに対し、第5マスクのくぼみは一般的な略倒放物線状であるから、本件登録意匠は、第5マスクとは、需要者に対し明らかに異なる視覚的印象をもたらしており、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
次に、相違点(b)の耳掛け紐について、縦横の長さの比率やマスク本体の長さに対する比率において相違するが、それ自体、マスク本体に付随して、格別目立つものではなく、需要者が特に注意を惹くものとはいえないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(c)共通点及び相違点の評価
そうすると、共通点(a)から共通点(c)が、両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対して、相違点(a)のうち縦横の長さの比率、下辺の態様、線模様の相違及び相違点(b)は、両意匠の類否判断に与える影響が小さいものの、相違点(a)のうち左辺及び右辺の相違が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいことから、意匠全体としてみた場合には、相違点が共通点を凌駕して、需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものといえる。

ウ 小括
上記のとおり、本件登録意匠と第5マスクは、意匠に係る物品が同一であるが、形状等においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、相違点については、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、本件登録意匠は、第5マスクに類似しているとはいえない。

(6)甲第9号証から導き出される意匠(以下「第6マスク」という。)
第6マスクは、本件登録意匠の意匠登録出願前である令和4年(2022年)2月4日にウェブサイトの美人百花.comにおいて公開された不織布マスク「MASCODE(マスコード)」の意匠であり、具体的な形状等は、以下のとおりである。(甲第9号証、別紙第7参照)

ア 第6マスクの形状等

(ア)基本的構成態様
全体は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺(鼻側)を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺(耳側)の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである。

各部の態様として、
(イ)マスク本体
マスク本体は、正面視において、縦横の長さの比率を約1:0.8とし、左辺は緩やかな凸弧状に形成し(僅かに斜線部を形成しているようにも見えるが、ほぼ凸弧状である。)、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、僅かに凸弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成したものであって、下の突起は上の突起の約2/5の長さで、かつ、上の突起に比べてなだらかであり、その間の谷状のくぼみは、略倒放物線状をなしている。また、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って点線模様を施している。

(ウ)耳掛け紐
耳掛け紐は、正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の点線模様の内側に固着したものであって、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の6割程度の長さである。

イ 本件登録意匠と第6マスクの対比

a 共通点
(a)基本的構成態様
両意匠は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである点、
(b)マスク本体
正面視において、上辺は、凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる大小2つの略倒放物線状の突起を上下に形成し、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って線模様を施している点、
(c)耳掛け紐
正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の線模様の内側に固着したものである点、において共通する。

b 相違点
(a)マスク本体
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:0.7とし、左辺は、斜線部を上端から約1/5の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな略逆「J」字状に形成し、下辺は、僅かに凹弧状で、右辺は、下の突起は上の突起の約1/3の長さで小振りであり、その間の谷状のくぼみは、略左倒「へ」の字状をなし、線模様は破線模様であるのに対し、第6マスクは、縦横の長さの比率を約1:0.8とし、左辺は、緩やかな凸弧状に形成し、下辺は、僅かに凸弧状で、右辺は、下の突起は上の突起の約2/5の長さで、かつ、上の突起に比べてなだらかで大きく、その間の谷状のくぼみは、略倒放物線状をなし、線模様は点線模様である点、
(b)耳掛け紐
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:1.7とし、横の長さは、マスク本体の9割程度の長さであるのに対し、第6マスクは、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の6割程度の長さである点、において相違する。

(ウ)本件登録意匠と第6マスクの類否判断
a 意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

b 形状等の共通点及び相違点の評価
両意匠の形状等の類否判断における判断の主体(需要者)等については、前記(1)(ウ)bと同様である。

(a)共通点の評価
まず、共通点(a)の基本的構成態様については、この種物品において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
次に、共通点(b)及び共通点(c)の態様については、当該物品の分野において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様、又は、公然知られている態様(例えば、甲第2号証の意匠。)であることから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(b)相違点の評価
まず、相違点(a)のマスク本体について、縦横の長さの比率については、さほど目立つものではなく、常套的になされる改変の範囲内のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また、下辺についても、僅かに凹弧状としたものであるか、凸弧状としたものであるかの微弱な相違に過ぎず、さらに、線模様の相違も微弱なものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
一方、左辺について、斜線部は、使用時において正面中央で鼻筋に近接する部位に当たり、マスクにおいて最も目に付く部位であるところ、斜線部を有し、残余の辺を略逆「J」字状に形成した本件登録意匠と、斜線部はなく全体が緩やかな凸弧状に形成したものである第6マスクとは、一見して異なる美感を需要者に与えているから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。また、右辺の態様についても、第6マスクの下側の突起は上の突起に比べてなだらかで大きく、谷状のくぼみも一般的な略倒放物線状をなしているのに対し、本件登録意匠の下の突起は小振りで、略左倒「へ」の字状とした谷状のくぼみも特徴的であるから、本件登録意匠は、第6マスクとは、需要者に対し明らかに異なる視覚的印象をもたらしており、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
次に、相違点(b)の耳掛け紐について、縦横の長さの比率やマスク本体の長さに対する比率において相違するが、それ自体、マスク本体に付随して、格別目立つものではなく、需要者が特に注意を惹くものとはいえないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(c)共通点及び相違点の評価
そうすると、共通点(a)から共通点(c)が、両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対して、相違点(a)のうち縦横の長さの比率、下辺の態様、線模様の相違及び相違点(b)は、両意匠の類否判断に与える影響が小さいものの、相違点(a)のうち左辺及び右辺の相違が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいことから、意匠全体としてみた場合には、相違点が共通点を凌駕して、需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものといえる。

ウ 小括
上記のとおり、本件登録意匠と第6マスクは、意匠に係る物品が同一であるが、形状等においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、相違点については、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、本件登録意匠は、第6マスクに類似しているとはいえない。

(7)甲第10号証から導き出される意匠(以下「第7マスク」という。)
第7マスクは、本件登録意匠の意匠登録出願前である令和4年(2022年)6月18日に公開のヨドバシカメラのオンライン注文用ウェブサイトにおいて、ヨドバシカメラが公開したグローバルジャパン社製の衛生マスク「スタイルワン クールニュアンスカラーフィットマスク」の意匠であり、具体的な形状等は、以下のとおりである。(甲第10号証、別紙第8参照)

ア 第7マスクの形状等

(ア)基本的構成態様
全体は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺(鼻側)を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺(耳側)の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである。

各部の態様として、
(イ)マスク本体
マスク本体は、正面視において、縦横の長さの比率を約1:0.8とし、左辺は緩やかな凸弧状に形成し、上辺は、僅かに凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、直線状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる略倒放物線状の突起を上下に1つずつ形成したものであって、上下の突起はほぼ同じ長さで、その間の谷状のくぼみは、略倒放物線状をなしている。また、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って点線模様を施している。

(ウ)耳掛け紐
耳掛け紐は、正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の点線模様の内側に固着したものであって、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の8割程度の長さである。

イ 本件登録意匠と第7マスクの対比

a 共通点
(a)基本的構成態様
両意匠は、マスク本体と2本の耳掛け紐からなる二つ折りマスクであって、マスク本体は、正面視略変形四角形の薄シートを2枚重ねて左辺を溶着したもので、耳掛け紐は、マスク本体の正背の右辺の上下端寄りにゴム紐の両端を固着してなるものである点、
(b)マスク本体
正面視において、上辺は、凹弧状で右辺に向かって先窄まりに傾斜し、下辺は、右辺に向かって先窄まりに傾斜し、右辺は、上下辺から連なる略倒放物線状の突起を上下に形成し、上辺、右辺及び下辺の外縁に沿って線模様を施している点、
(c)耳掛け紐
正面視において、マスク本体の右辺の2つの突起中央の線模様の内側に固着したものである点、において共通する。

b 相違点
(a)マスク本体
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:0.7とし、左辺は、斜線部を上端から約1/5の長さとし、斜線部の下側から下端まで緩やかな略逆「J」字状に形成し、下辺は、僅かに凹弧状で、右辺は、下の突起は上の突起の約1/3の長さで小振りであり、その間の谷状のくぼみは、略左倒「へ」の字状をなし、線模様は破線模様であるのに対し、第7マスクは、縦横の長さの比率を約1:0.8とし、左辺は、緩やかな凸弧状に形成し、下辺は、直線状で、右辺は、上下の突起はほぼ同じ長さで、その間の谷状のくぼみは、略倒放物線状をなし、線模様は点線模様である点、
(b)耳掛け紐
本件登録意匠は、縦横の長さの比率を約1:1.7とし、横の長さは、マスク本体の9割程度の長さであるのに対し、第7マスクは、縦横の長さの比率は、約1:1で、横の長さは、マスク本体の8割程度の長さである点、において相違する。

(ウ)本件登録意匠と第7マスクの類否判断
a 意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、同一である。

b 形状等の共通点及び相違点の評価
両意匠の形状等の類否判断における判断の主体(需要者)等については、前記(1)(ウ)bと同様である。

(a)共通点の評価
まず、共通点(a)の基本的構成態様については、この種物品において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
次に、共通点(b)及び共通点(c)の態様については、当該物品の分野において、両意匠以外にもごく普通に見られる態様、又は、公然知られている態様(例えば、甲第2号証の意匠。)であることから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(b)相違点の評価
まず、相違点(a)のマスク本体について、縦横の長さの比率については、さほど目立つものではなく、常套的になされる改変の範囲内のものであるから、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。また、下辺についても、僅かに凹弧状としたものであるか、直線状としたものであるかの微弱な相違に過ぎず、さらに、線模様の相違も微弱なものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
一方、左辺について、斜線部は、使用時において正面中央で鼻筋に近接する部位に当たり、マスクにおいて最も目に付く部位であるところ、斜線部を有し、残余の辺を略逆「J」字状に形成した本件登録意匠と、斜線部はなく全体が緩やかな凸弧状に形成したものである第7マスクとは、一見して異なる美感を需要者に与えているから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。また、右辺の態様についても、第7マスクの上下の突起はほぼ同じ長さで、谷状のくぼみも一般的な略倒放物線状をなしているのに対し、本件登録意匠の下の突起は小振りで、略左倒「へ」の字状とした谷状のくぼみも特徴的であるから、本件登録意匠は、第7マスクとは、需要者に対し明らかに異なる視覚的印象をもたらしており、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
次に、相違点(b)の耳掛け紐について、縦横の長さの比率やマスク本体の長さに対する比率において相違するが、それ自体、マスク本体に付随して、格別目立つものではなく、需要者が特に注意を惹くものとはいえないから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(c)共通点及び相違点の評価
そうすると、共通点(a)から共通点(c)が、両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対して、相違点(a)のうち縦横の長さの比率、下辺の態様、線模様の相違及び相違点(b)は、両意匠の類否判断に与える影響が小さいものの、相違点(a)のうち左辺及び右辺の相違が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいことから、意匠全体としてみた場合には、相違点が共通点を凌駕して、需要者に別異の印象を与え、両意匠に異なる美感を起こさせるものといえる。

ウ 小括
上記のとおり、本件登録意匠と第7マスクは、意匠に係る物品が同一であるが、形状等においては、共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいのに対し、相違点については、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものであるから、本件登録意匠は、第7マスクに類似しているとはいえない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件登録意匠の登録は無効とすることはできない。

審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。















































審決日 2024-01-10 
出願番号 2022013422 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (C4)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 内藤 弘樹
吉田 英生
登録日 2022-11-28 
登録番号 1731439 
代理人 小林 義孝 
代理人 福田 秀幸 

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