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審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 G2
管理番号 1410282 
総通号数 29 
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2024-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-09-21 
確定日 2024-04-09 
意匠に係る物品 Car 
事件の表示 意願2022−502548「Car」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
本願は、2022年(令和4年)4月13日の世界知的所有権機関国際事務局への出願に基づくパリ条約による優先権の主張を伴った、国際登録の日を2022年(令和4年)10月12日とする国際意匠登録出願であって、その後の手続の主な経緯は以下のとおりである。

令和5年 1月27日付 :拒絶の通報
5月 2日 :手続補正書の提出
(補正対象項目:意匠に係る物品)
5月 2日 :意見書の提出
6月19日付 :拒絶査定
9月21日 :審判請求書の提出
9月28日付 :手続補正指令書(方式)
10月25日 :手続補正書の提出
(補正対象項目:意匠の説明)
10月25日 :手続補正書(方式)の提出
(補正対象項目:請求の理由)

2 本願意匠
本願の意匠(以下「本願意匠」という。)は、願書及び願書に添付した図面によれば、意匠に係る物品を「Car」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」という。)を願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。
なお、本願意匠の意匠に係る物品は、出願当初は「Part for vehicles」(参考訳:乗物用の部分)と記載されていたものが、原審による拒絶の通報の後、令和5年5月2日に提出された手続補正書において「Car」(参考訳:自動車)と変更されたものである。(以下、請求人の主張及び理由2についての判断箇所を除き日本語訳で示す。)

第2 原審審査官が行った拒絶の通報及び拒絶査定における拒絶の理由
1 拒絶の通報
令和5年1月27日付の拒絶の通報において、原審審査官は、拒絶の理由として以下の理由1及び理由2を通知した。
(1)理由1
本願意匠は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものと認められるため、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当する。
この拒絶の理由に引用した意匠(以下「引用意匠」という。)は、以下のとおりである。(別紙第2参照)
<引用意匠>
意匠に係る物品 乗用自動車の意匠のフロントウインドと屋根の部分
公報発行官庁 日本国特許庁
文献名 意匠公報
出願日 2015年 1月30日
出願番号 意願2015-001843
優先日 2014年 7月31日
登録日 2015年 6月26日
登録番号 意匠登録第1529918号
公報発行日 2015年 7月27日
権利者の氏名/名称 フェラーリ・ソシエタ・ペル・アチオニ
権利者の住所/居所 イタリア41100モデナ、ビア・エミーリア・
エスト1163番
(2)理由2
本願意匠は、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当しない。
原審審査官は、判断の理由として以下を付記した。
「「意匠を構成する物品又は使用されることとなる物品」の欄に、「Part for vehicles」と記載されました。しかしながら、各図において、乗用自動車全体が記載されていることから、この意匠登録出願の意匠が、乗用自動車の意匠であるのか乗用自動車の部品の意匠であるのか正確に把握することができません。」

2 拒絶査定
令和5年6月19日付の拒絶査定において、原審審査官は、「この意匠登録出願については、令和5年1月27日付けで通知した理由により、拒絶をすべきものとします。」としつつ、以下を付記して拒絶の査定を行った。
「意見書を提出され本願意匠と引用意匠はルーフ部左右両側に畝状膨出部が形成されているものの(A)畝状膨出部の位置について、本願部分は、フロント側端部寄りには形成されておらず、途中からリヤ側端部にかけて形成されているのに対し、引用意匠は、ルーフのフロント側端部からリヤ側端部の全体に形成されている点、(B)畝状膨出部に挟まれた領域ついて、本願部分は幅広であるのに対し、引用部分は幅狭である点、(C)畝状膨出部の形状について、本願部分は全体が断面視円弧状に膨出しているのに対して、引用部分は断面視低台形状に膨出している点、(D)畝状膨出部は、本願意匠においては、前方から見えないのに対し、引用意匠では、前方からも視認可能である点の(A)〜(D)の相違に起因して、意匠全体として観察した場合には、両意匠は、需要者に全く異なる美感を生じさせているため非類似であると主張されました。
しかしながら、上記相違点(A)〜(D)に関する本願意匠のルーフ部の態様や引用意匠のルーフ部の態様は、本願優先権主張日前において、例えば下記の参考意匠1や参考意匠2のように既に見受けられる態様であって、需要者にとって注意をひかないものであると認められるため、上記相違点を考慮しても、共通点を超え別異の美感を起こさせるほどのものではなく、上記意見書での主張は採用できず、依然として、本願意匠は引用意匠に類似しています。
参考意匠1:国際意匠公報DM/214850
参考意匠2:意匠登録第1499852号」

第3 請求人の主張
請求人は、本件審判の請求の理由として、要旨以下のとおり主張した。
以下、本願意匠の意匠登録を受けようとする部分を「本願部分」、本願部分に相当する引用意匠の部分を「引用部分」、これらを合わせて「両部分」という。
1 理由1について
(1)本願部分の形態的特徴
本願部分は、乗用自動車のフロントガラス、フロントピラーおよびルーフ部からなる部分であって、特にルーフ部の形態に以下の特徴を有する。
(a)ルーフ部の左右両端の途中からリヤ側端部にかけて幅狭の畝状膨出部が形成され、(b)当該畝状膨出部は、全体が断面視細幅円弧状に盛り上がった態様であり、(c)当該畝状膨出部と、当該畝状膨出部に挟まれた領域との境界が線状に表れるように形成された点に形態的特徴を有するものであり、また、これらの形態的特徴(a)〜(c)の組合せにより、従来には見られない、新規なルーフ部の形状を創作したものである。
(2)両部分の共通点
両部分は、ルーフ部の左右両側に畝状膨出部が形成されている点で共通している。
(3)両部分の相違点
両部分は、以下の点について、形状が相違している。
ア 畝状膨出部の位置について、本願部分は、ルーフ部の後端(リア側)寄りに膨出するように形成されているのに対して、引用部分は、ルーフ部の前後端に亘って(フロント側端部からリヤ側端部の全体に)略同じ高さに膨出するように形成されている点
イ 畝状膨出部の形状について、本願部分は全体が断面視円弧状に膨出しているのに対して、引用部分は断面視低台形状に膨出している点
ウ 畝状膨出部と畝状膨出部に挟まれた領域との境界について、本願部分は線状に表れているのに対して、引用部分は略平坦状傾斜面である点
エ 畝状膨出部に挟まれた領域について、本願部分は幅広であるのに対して、引用部分は幅狭である点
オ 畝状膨出部について、本願部分は、前方から見えないのに対して、引用部分では、前方からも視認可能である点
(4)両意匠の類否判断
ア 需要者について
両意匠に係る物品分野においては、車両の主要な部分のデザインを共通にしつつ、部分的に新たな特徴を加えるマイナーチェンジがしばしば行われている。そして、両意匠が、乗用自動車の中でも趣味性が高く嗜好品ともいえるスポーツカータイプのものであることも勘案すれば、需要者は、各部の具体的な形態について、より関心を持って注意深く観察するものである。
イ 共通点の評価
上記共通点は、両部分の形状を概略的に捉えたときの共通点であって、具体的には上記相違点(3)ア〜オが含まれているものなので、両部分の類似判断に与える影響は極めて小さい。
ウ 相違点の評価
この種物品分野において、趣味性の高いスポーツタイプの乗用自動車については、需要者が各部の具体的な態様も強い関心を持って観察するものであって、上記相違点が、いずれも本願部分の上記形態的特徴(a)〜(c)に係るものであることを考慮すると、これらの各相違点が類否判断に与える影響は極めて大きい。
また、上記相違点が相俟って、意匠全体として、本願部分は滑らかで曲線的、かつ立体的な凹凸感を呈しているのに対し、引用部分はシャープで直線的、かつ高低差の小さい凹凸感を呈しており、両部分は全く異なる美感を呈しているものといえる。
したがって、上記相違点が相俟って生ずる意匠全体としての形状の相違も、類否判断に非常に大きな影響を及ぼす。
(5)小括
両意匠を、意匠全体として観察した場合、相違点が相まって生ずる美感は、共通点のそれを凌駕して、需要者に全く異なる美感を生じさせていることから、両意匠は、類似しない。

2 理由2について
請求人は、令和5年5月2日付の意見書において、本願意匠は、添付図面に表された乗用自動車全体の意匠のうち、実線で表された部分について意匠登録を受けようとするものであることが明らかであり、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当する旨主張し、同日付の手続補正書において、意匠に係る物品を「Car」に補正した。
そして、令和5年6月23日発送の拒絶査定の謄本では、意匠に係る物品を「Car」に訂正する補正に対して、出願当初の意匠の要旨を変更する旨の記載はなく、更に、本願意匠が、未だ意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当しない、との記載もなされていない。
したがって、原審では、意匠に係る物品を「Car」に訂正する補正を適式な手続と認め、更に、本願意匠は、実線で表された部分について、意匠登録を受けようとするものである点についても認めて、結果、本願意匠は、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当する、と判断されたものと思料する。

第4 当審の判断
1 理由1について
(1)本願意匠
本願意匠は、願書及び願書に添付した図面の記載によると、以下のとおりである。
ア 意匠に係る物品
本願意匠の意匠に係る物品は「自動車」である。
イ 本願部分の位置、大きさ及び範囲並びに用途及び機能
意匠に係る物品全体に対して本願部分が占める位置、大きさ及び範囲は、クーペタイプの自動車におけるフロントウィンドウ及びルーフに係る位置、大きさ及び範囲であって、本願部分は、自動車のフロントウィンドウ及びルーフとしての用途及び機能を有するものと認められる。
ウ 本願部分の形状等
〔A1〕全体は、車体の前方側に位置するフロントウィンドウ(以下「ウィンドウ部」という。)とその後方に位置するルーフ(以下「ルーフ部」という。)とを、平面視では直線状を呈する接合線をもって、側面視では部分全体が略「へ」字状を呈するように前後に接続してなるものである(以下、ウィンドウ部とルーフ部との接続部を単に「接続部」ともいう。)。
〔A2〕ウィンドウ部は、平面視の輪郭形状を略扇形とした、外側に凸の滑らかな3次曲面であり、ウィンドウガラスの左右辺及び上辺部分に略等幅の枠体が連続的に設けられている。
〔A3〕ルーフ部は、
〔A3−1〕車体の前後方向を縦、左右方向を横とした場合の縦横比が約2:3の略長方形状の平面視形状、及び、接続部付近において曲率が大きくなる略倒「J」字状の側面視形状を有する湾曲板状体であって、
〔A3−2〕車体の前後方向中間部には横方向の分割線が直線状に形成され、後方側角部はカバーパネルによって僅かに覆い隠される態様であり、
〔A3−3〕上面の左右端部には、一対の畝状膨出部が対称形状に設けられており、
〔A3−4〕各畝状膨出部は、ルーフ部全長の後方側約5分の4の範囲に、ルーフ部全幅の約6分の1に相当する幅で、略等幅に設けられており、断面形状は略円弧状である。

(2)引用意匠
ア 意匠に係る物品
引用意匠の意匠に係る物品は「乗用自動車」である。
イ 引用部分の位置、大きさ及び範囲並びに用途及び機能
意匠に係る物品全体に対して引用部分が占める位置、大きさ及び範囲は、クーペタイプの自動車におけるフロントウィンドウ及びルーフに係る位置、大きさ及び範囲であって、引用部分は、自動車のフロントウィンドウ及びルーフとしての用途及び機能を有するものと認められる。
ウ 引用部分の形状等
〔B1〕全体は、車体の前方側に位置するウィンドウ部とその後方に位置するルーフ部とを、平面視では直線状を呈する接合線をもって、側面視では部分全体が略円弧状を呈するように前後に接続してなるものである。
〔B2〕ウィンドウ部は、平面視の輪郭形状を略扇形とした、外側に凸の滑らかな3次曲面であり、ウィンドウガラスの左右辺及び上辺部分に略等幅の枠体が連続的に設けられている。
〔B3〕ルーフ部は、
〔B3−1〕車体の前後方向を縦、左右方向を横とした場合の縦横比が約2:3の略長方形状の平面視形状、及び、略円弧状の側面視形状を有する湾曲板状体であって、
〔B3−2〕車体の前後方向中間部には横方向の分割線が直線状に形成され、後方側角部は直角状の端部形状まで視認できる態様であり、
〔B3−3〕上面の左右端部には、一対の畝状膨出部が対称形状に設けられており、
〔B3−4〕一対の畝状膨出部は、ルーフ部の全長に亘る範囲に、ルーフ部全幅の約4分の1から3分の1に相当する幅で、前方から後方に掛けて漸次縮幅するテーパ状に設けられており、断面形状は略扁平台形状である。

(3)本願意匠と引用意匠の対比
ア 意匠に係る物品
本願意匠と引用意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は、いずれも人の移動等を目的として用いられる自動車であるから、両意匠の意匠に係る物品は共通する。
イ 両部分の位置、大きさ及び範囲並びに用途及び機能
意匠に係る物品全体に対して両部分が占める位置、大きさ及び範囲は、クーペタイプの自動車におけるフロントウィンドウ及びルーフに係る位置、大きさ及び範囲であって、両部分は、自動車のフロントウィンドウ及びルーフとしての用途及び機能を有するものであるため、両部分の位置、大きさ及び範囲並びに用途及び機能は、いずれも共通する。
ウ 両部分の形状等
両部分の形状等を対比すると、主として以下の共通点及び相違点が認められる。
ア 共通点
〔共通点1〕全体は、車体の前方側に位置するウィンドウ部とその後方に位置するルーフ部とを、平面視では直線状を呈する接合線をもって前後に接続してなるものである。
〔共通点2〕ウィンドウ部は、平面視の輪郭形状を略扇形とした、外側に凸の滑らかな3次曲面であり、ウィンドウガラスの左右辺及び上辺部分に略等幅の枠体が連続的に設けられている。
〔共通点3〕ルーフ部は、縦横比が約2:3の略長方形状の平面視形状を有する湾曲板状体であり、ルーフ部の前後方向中間部には、横方向の分割線が直線状に形成されている。
〔共通点4〕ルーフ部上面の左右端部には、一対の畝状膨出部が対称形状に設けられている。
イ 相違点
〔相違点1〕部分全体の側面視形状について、本願部分は略「へ」字状であるのに対して、引用部分は略円弧状である。
〔相違点2〕ルーフ部の側面視形状について、本願部分は接続部付近において曲率が大きくなる略倒「J」字状であるのに対して、引用部分は略円弧状である。
〔相違点3〕ルーフ部の後方側角部について、本願部分はカバーネルによって僅かに覆い隠される態様であるのに対して、引用部分は他の部材では覆い隠されずに直角状の端部形状まで視認できる態様である。
〔相違点4〕畝状膨出部の設置範囲について、本願部分はルーフ部全長の後方側約5分の4の範囲のみであるのに対して、引用部分はルーフ部の全長に亘る範囲である。
〔相違点5〕畝状膨出部の設置幅について、本願部分はルーフ部全幅の約6分の1の等幅であるのに対して、引用部分はルーフ部全幅の約4分の1から3分の1の幅のテーパ状である。
〔相違点6〕畝状膨出部の断面形状について、本願部分は略円弧状であるのに対して、引用部分は略扁平台形状である。

(4)判断
以上の共通点及び相違点を評価、総合し、両意匠の類否について判断する。
ア 意匠に係る物品
両意匠は、意匠に係る物品が同一である。
イ 両部分の位置、大きさ及び範囲並びに用途及び機能
両部分は、意匠に係る物品全体に対して占める位置、大きさ及び範囲並びに用途及び機能が共通する。
ウ 両部分の形状等
(ア)前提
両意匠の意匠に係る物品は自動車であり、願書添付図面に表された全ての形状等を参酌すると、自動車の中でもとりわけ趣味性及び嗜好性が高く、車高が低いスポーツカータイプのものであって、そのルーフ部は開閉式となっていることが推認されることから、この種物品の需要者は、自動車(スポーツカー)としての趣味性及び嗜好性の観点から視覚観察されやすい形状等に着目するとともに、車内の居住性や車体剛性、ルーフ部の開閉等に関わる細部の形状等にも強い関心を持って、両部分を観察するといえる。
以下、両部分の形状等の類否判断に際しては、上記前提に基づいて、両部分の共通点及び相違点が及ぼす影響を評価することとする。
(イ)共通点の評価
〔共通点1〕から〔共通点3〕は、クーペタイプの自動車が有する基本形状の共通点、又は、両部分の基本形状を概括的に捉えた際の共通点であり、ウィンドウ部とルーフ部との接続部を直線状とした態様及びルーフ部の前後方向中間部に横方向の直線状分割線を設けた態様は、開閉式のルーフ構造を持つ自動車において、ルーフ部の分割や折り畳み、ルーフ収納時のスペース効率等の観点から採用されやすいよく見られる態様であり、これらの基本形状が需要者の注意を強く引くとはいえないから、〔共通点1〕から〔共通点3〕が両部分の美感に及ぼす影響は、いずれも小さい。
また、〔共通点4〕にいう、ルーフ部上面の左右端部に設けられた一対の畝状膨出部についても、両部分の基本形状を概括的に捉えた際の共通点にとどまるものであり、ルーフ部上面の左右端部に一対の畝状膨出部を設けること、言い換えれば、自動車の前面投影面積を減らすためにルーフ部上面の中央部に縦方向の凹陥部を設けること自体は、空力性能が重視されるスポーツカー等において採用されやすいよく見られる態様であるため、この〔共通点4〕が両部分の美感に及ぼす影響も限定的である。
(ウ)相違点の評価
〔相違点1〕及び〔相違点2〕にいう、両部分全体及びルーフ部を側面視した際の湾曲形状の違いについては、両部分は自動車全体の最上部に位置し、自動車全体の外観形状(シルエット)の印象をも左右し得るとともに、特に曲率の相違が大きなルーフ部の前端部付近は、乗員の頭上に当たる位置であり、居住性やヘッドクリアランスといった車室内の形状にも影響し、需要者の注意を引くものと認められるため、これら〔相違点1〕及び〔相違点2〕は、両部分の美感に一定の影響を及ぼすものといえる。
〔相違点3〕にいう、ルーフ部後方側角部の態様については、直接的には両部分に隣接する両部分以外の部分の形状を表すものであって、相対的な関係性から両部分の該部形状に影響を与えるものであるとしても、本願部分においても実際に覆い隠されている範囲はごく僅かであるから、この〔相違点3〕が両部分の美感に及ぼす影響は小さい。
〔相違点4〕から〔相違点6〕にいう、畝状膨出部の設置範囲、設置幅及び断面形状に係る具体的構成態様について、これらは、〔相違点1〕及び〔相違点2〕と同様、車室内の形状に影響するものであるとともに、車高が低いスポーツカータイプの自動車においては、自動車の外観形状の特徴の一つとして全方位から視覚観察されやすく、自動車全体の外観形状の印象を左右し得るものといえる。そして、自動車の空力性能向上の観点から前面投影面積を減らすといった機能上の要請が共通するとしても、ルーフ部のどの範囲に、どのような幅や断面形状の畝上膨出部を設けるかという造形面には創作の自由度が存在し、そのようにして創作された具体的な形状等が、意匠的特徴として需要者の注意を引くものになるといえる。
これを両部分についてみると、前後方向の設置範囲が短く、比較的細幅の等幅に形成している本願部分は、滑らかな円弧状断面の膨出部形状と丸面状の端部処理とも相まって、静的かつ柔和な視覚的印象を需要者に与えるのに対して、前後方向の設置範囲がルーフ部の全体に亘り、比較的太幅かつテーパ状に形成している引用部分は、扁平台形状断面の膨出部形状と角張った折り曲げ状の端部処理とも相まって、動的かつ剛強な視覚的印象を需要者に与えるものとなっており、これらは、需要者に対して与える視覚的印象を大きく異ならしめるものとなっている。
そうすると、この〔相違点4〕から〔相違点6〕に示す両部分の畝状膨出部の形状等は、それら全てが相まって両部分を独自に特徴付け、需要者の注意を強く引くものといえるため、これらの相違点が両部分の美感に及ぼす影響は極めて大きい。
(エ)小括
上記した共通点及び相違点の評価に基づくと、両部分の形状等の共通点が両部分の美感に及ぼす影響は、その全てを合わせても限定的であるのに対して、相違点が及ぼす影響は総じて大きく、これら相違点は更に相まって需要者に別異の美感を起こさせているというべきであるため、両部分の形状等は、類似するとは認められない。
エ 両意匠の類否
両意匠は、意匠に係る物品が同一であり、両部分の位置、大きさ及び範囲並びに用途及び機能が共通しているものの、両部分の形状等は類似していないから、本願意匠は引用意匠に類似するとはいえない。
そうすると、本願意匠について、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するということはできない。

2 理由2について
原審審査官が令和5年1月27日付の拒絶の通報で通知した理由2の趣旨は、上記第2、1(2)のとおり、「この意匠登録出願の意匠が、乗用自動車の意匠であるのか乗用自動車の部品の意匠であるのか正確に把握することができ」ないため、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当しないというものである。
これに対し、請求人は、令和5年5月2日に提出した手続補正書において、意匠に係る物品を、出願当初の「Part for vehicles」から「Car」へと変更する手続補正を行った。
上記1(1)イ、ウのとおり、本願意匠は、自動車のフロントウィンドウとルーフを組み合わせた箇所の形状等について意匠登録を受けようとするものである。
自動車の組立てに用いられるフロントウィンドウとルーフとは、それぞれが別個独立した部品であることが通常であることを前提とすると、出願当初の意匠に係る物品である「Part for vehicles」の記載及び図面の記載内容からは、フロントウィンドウとルーフという2つの自動車部品の形状等についてではなく、自動車のフロントウィンドウとルーフが組み合わされた部分の形状等について意匠登録を受けようとしているという出願人の意図を合理的に理解することができる。
そうすると、その意図を適法な記載として改めるべく意匠に係る物品の記載を「Part for vehicles」から「Car」へと変更した補正は、本願意匠に係る願書の記載の要旨を変更するものではない。
そして、この手続補正により、原審審査官が通知した理由2に係る拒絶の理由は解消しているから、本願意匠は、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当するものである。

第5 結び
以上のとおりであって、原査定の拒絶の理由をもって本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、当審において更に審理した結果、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲



審決日 2024-03-25 
出願番号 2022502548 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (G2)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 小林 裕和
特許庁審判官 江塚 尚弘
伊藤 宏幸
登録日 2024-04-24 
登録番号 1769845 
代理人 大貫 進介 
代理人 伊東 忠彦 
代理人 伊東 忠重 

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