• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服  1項2号刊行物記載(類似も含む) 取り消して登録 G2
管理番号 1413393 
総通号数 32 
発行国 JP 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2024-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-09-25 
確定日 2024-07-09 
意匠に係る物品 Automobile 
事件の表示 意願2022−500337「Automobile」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の意匠は、登録すべきものとする。
理由 第1 手続の経緯
本願は、パリ条約による優先権(最初の出願:欧州連合知的財産庁、2021年8月12日)を主張する、令和4年(2022年)1月31日の国際意匠登録出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和5年(2023年) 1月31日付け 拒絶の通報
同年 4月28日 協議結果届の提出
同日 意見書の提出
同年 6月20日付け 拒絶査定
同年 9月25日 審判請求書の提出

第2 本願の意匠
本願の意匠は、意匠に係る物品を「Automobile」(参考訳:「自動車」、以下日本語訳で示す。)とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)を願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりとしたものである(以下「本願意匠」という。別紙第1参照)。

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願意匠が、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠(先行の公知意匠に類似するため、意匠登録を受けることのできない意匠)に該当する、というものである。
そして、その引用意匠は、下記に示すとおりのものである(別紙第2参照)。
「<引用意匠>
乗用自動車の意匠
上記意匠は、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が2021年5月10日に受け入れた下記の刊行物に記載されたものです。
文献名 ベストカー
号巻頁 11号、44巻 158頁
発行者名称 株式会社講談社ビーシー
発行者住所 東京都文京区音羽1−2−2 第二音羽ビル6階
発行日 2021年6月10日
公知資料番号 RA0300559500 」

第4 当審の判断
以下において、本願意匠の意匠法第3条第1項第3号の該当性、すなわち、本願意匠が引用意匠に類似する意匠であるか否かについて検討し、判断する。

1 対比
(1)意匠に係る物品の対比
本願意匠及び引用意匠(以下「両意匠」という。)の意匠に係る物品は、いずれも「自動車」であり、共通する。

(2)両意匠の形状等の対比
両意匠の形状等を対比すると、以下のとおりの共通点及び相違点が認められる。
なお、両意匠の形態の対比にあたっては、本願意匠の図面における向きを、引用意匠にもあてはめることとし、車体前方を「フロント側」(本願意匠では図1.1として表れる)、車体後方を「リア側」(本願意匠では図1.2として表れる)、車体上面を「平面側」(本願図面では図1.5として表れる。)として記載する。

ア 共通点
(ア)全体の構成
全体の構成は、フロント側から見て略円形のヘッドライトを突出させるように配し、側面視において、フロントガラスのややリア寄りを頂部としてリア側端部まで緩やかな略凸弧状に流れるルーフラインを有する2ドアタイプの乗用自動車とするもので、
(イ)フロント側の全体構成
車体のフロント側の左右は、フロントピラー前方からフロントフェンダー上面部分を峰のように膨出させて、前方に向かうに従って周面が大きく表れる略斜切円筒形状とし、その略斜切円筒形状の前方端部に略楕円形状のヘッドライトを、全体が後方側に傾斜するように配している。そして、この左右フロントフェンダー間に、後端部分をフロントガラスの曲面に合わせて略円弧状に切り欠き、前方に行くに従いその横幅を狭くした平面視略倒台形状(台形の短辺及び長辺は曲率の異なる略凸弧状)のボンネットをなだらかな前下がりの傾斜で配設している。また、車体前端部分に前面部が略垂直面で平面視略円弧状に湾曲しているフロントバンパーを設けている。
次に、フロント側各部を具体的に見ると、

(イ−1)ボンネット
フロント側の前端やや内側の低い位置に細長いダクトを2つ、左右対称に設け、ダクトの後ろから空気が流れるよう、凸弧状に盛り上がる面(以下「空気流出面」という。)を構成するもので、2つのダクトの間は、平面視フロント側を短辺とする細長台形状とし、ボンネットのフロント側の前端から後端までの幅のうち、前1/4は左右の空気流出面より高く、後ろ1/3は空気流出面よりやや低い態様とする点、
(イ−2)フロントバンパー
側面視、ホイールアーチの前方上部にかかるように設けられたウィンカーの下端から略水平に伸び、下から略3/4の高さまでを略垂直面(以下「フロントバンパー垂直面」という。)、上から略1/4の高さを、ボンネットの傾斜からつながる斜面(以下「フロントバンパー上面」という。)とするもので、フロント側から見てフロントバンパー垂直面には、左右の空気取り入れ口をつなぐように延びる開口部(以下「フロントバンパー開口部」という。)を形成し、フロントバンパー開口部の左右の上端部に薄いライトを水平状に配設し、フロントバンパー上面は、ボンネットの先端がわずかに食い込んだ態様とする点、
(ウ)リア側の全体構成
リアガラスの横幅に比べて、左右に大きく張り出したリアフェンダーを有し、その左右リアフェンダーの間の上面に、リアウィンドウから連接する小さなエンジンフードを設け、その後方にリアウィングを配し、車体後端部分に後面部略垂直面で平面視略円弧状に湾曲しているリアバンパーを設け、リアバンパー上部に左右が水平ラインでつながったテールランプを配したものであって、 リア側各部を具体的に見ると、
(ウ−1)リアバンパー
側面視、ホイールアーチの上方からリア側に向かって水平よりわずかに上向きの角度に伸び、下から略3/4の高さまでを略垂直面(以下「リアバンパー垂直面」という。)、上から略1/4の高さを、ルーフラインから流れるラインの後端を構成する斜面(以下「リアバンパー上面」という。)とするもので、リア側から見てリアバンパー垂直面には大きな台形状の凹部(以下「台形状凹部」という。)を形成し、リアバンパー下辺部分に略扁平隅丸台形状に現れる部位(以下「下部扁平台形部」という。)を形成し、台形状凹部の概ね半分の高さの位置に、台形状凹部の左右の辺に接して横長のリフレクターを左右に水平状に配している点、
(ウ−2)テールランプ
リアバンパー上面に配し、上端部には細長いランプが水平状に、台形状凹部の上辺と略同幅まで伸び、その端部を略倒L字状(リア側から見て右側。左側はその対象形)のランプで囲み、左右に刀の先端状とするコンビネーションランプを形成し、コンビネーションランプは、上段を左右に渡る上端の細いランプの端部、下段を略倒L字状のランプ、その間をごく細いランプを水平に配した3段の構成によるものとする点。

イ 相違点
(ア)全体の構成
本願意匠は、車高が高く設定されており、地面からボディまでの高さ幅と前輪タイヤの高さ幅とが略1:4であるのに対し、引用意匠は同略1:7とする点。
(イ)フロント側
本願意匠は、フロントバンパー開口部を、左右のホイールアーチ側の手前から、フロントバンパー全体の高さの略5/6とするフロントバンパー上面に食い込むほどの、フロント側から見て略横長長方形とするもので、フロントバンパー下端には、左右のホイールアーチにわたる保護部材を設け、その中央をフロント側から見て扁平な略半八角形の板状とし、側面視では斜め前方に突出させ(以下「フロント中央保護板材」という。)、その上辺部フロント側には横に細長いリブ状部を5つ均等に配し、フロント中央保護部材の左右には小さな矩形枠を4つずつ保護部材上に配した態様とし、フロントバンパー開口部中央には、フロントバンパー垂直面上端から垂直面の略半分の高さまでに平滑面(以下「フロントバンパー中央平滑面」という。)を形成し、その左寄りには牽引フックを垂直状に設け、下方を空気取り込み口としたものである。
また、フロントバンパー開口部の左右にはフロントバンパー開口部上端よりやや下に略変形五角形のグリルがはまり込み、フロントバンパー中央平滑面の下辺と同じ高さに、フィンを水平状に設け、薄い水平のライトはグリルの上枠に埋め込まれる態様とするものである。
一方、引用意匠は、(イ−a)フロントバンパー開口部を、フロントバンパー上面より下とし、上部中央を開口部に含まないため、上辺の中央が凹状に凹んだ略扁平台形状とするもので、(イ−b)フロントバンパー中央下端にフロント中央保護板材を有さず、(イ−c)また、下端部の保護部材上に小さな矩形枠を有さず、(イ−d)フロントバンパー開口部中央やや下方に扁平台形状の空気取り込み口を有し、(イ−e)牽引フックは設けていない。また、(イ−f)フロントバンパー開口部の左右は、扁平台形の左右の辺及び左右の辺と略同幅の上辺によって略倒くの字状のコーナー部を構成し、薄い水平のライトはこのフロントバンパー開口部の略倒くの字状コーナー部の上辺側に組み込まれる態様とするもので、これら(イ−a)〜(イ−f)の態様が本願意匠と相違する。
(ウ)リア側
本願意匠は、台形状凹部を、左右のホイールアーチ側の手前から、リアバンパー垂直面の上端までとした、リア側から見て略扁台形状とするもので、リアバンパー下端には、左右のホイールアーチにわたる保護部材を設け、その中央の下部扁平台形部に相当する部分は、扁平な略台形状の板材をリアバンパー開口部の略半分の高さまではめ込んだ態様(以下「リア中央保護板材」という。)とするもので、このリア中央保護板材には、左右に横長楕円形状のマフラーの端部(テールパイプ)が表出し、その間に縦長矩形部を5つ均等に配し、リア中央保護板材の左右には小さな矩形枠を4つずつ保護部材上に配した態様とするもので、右側のテールパイプの上部には牽引フックを垂直状に設けた態様とするものである。
また、リアウィングは、エンジンフードのリア側からリアバンパー上端部までの奥行き幅とし、平面視、エンジンフードとリアバンパー上端部のカーブに沿ったもので、横幅をエンジンフードと略同幅とするボディから突出した台に載置した薄板状とするものである。
一方、引用意匠は、(ウ−a)台形状凹部を、リアバンパー垂直面の高さの略5/6に押さえたものとし、(ウ−b)扁平台形部に相当する部分は、下端部の保護部材からリア側に突出して枠状に形成したものがリア側から見て扁平台形状に見えるもので、(ウ−c)下端部の保護部材上に小さな矩形枠を有さず、また、(ウ−d)テールパイプは下部中央に円形状のものを2つ連接して配したもので、(ウ−e)台形状凹部の左右辺に沿って上部にスリット部を有し、(ウ−f)牽引フックは設けていない。また、(ウ−f)リアウィングは、スワンネック式で左右に翼端板を有する大型のものと、ボディ後端部から直接突出させた小さいリアスポイラーの2段構成とするもので、これら(ウ−a)〜(ウ−f)の態様が本願意匠と相違する。

2 両意匠の形態の評価及び類否判断
以上の共通点及び相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響を評価し、本願意匠と引用意匠が類似するか否か、すなわち両意匠の類似性について考察する。

(1)需要者
本願意匠及び引用意匠のような趣味性が高く嗜好品ともいえるスポーツカータイプの自動車の場合、需要者・取引業者は、全体の構成を理解しつつ、その上で各部の具体的態様についても注意深く観察するものということができる。

(2)共通点の評価
共通点(ア)、(イ)及び(ウ)といった全体構成に関する共通点ついては、いずれも従来から見られる態様にすぎず、類否判断に及ぼす影響は小さい。
また、各部の具体的態様における共通点(イ−2)並びに(ウ−1)及び(ウ−2)は、両意匠の基調を形成し、需要者に共通の印象を与えるものではあるが、これらはいずれもすでに公然知られた同世代のモデルに共通する態様ないしは付加的な要素にすぎないものでもあり、両意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的なものといわざるを得ない。
一方、各部の具体的態様における共通点(イ−1)は、この種物品分野において一般的な態様とまではいえず、両意匠の類否判断に一定の影響を及ぼす。

(3)相違点の評価
全体の構成における相違点(ア)は、スポーツカータイプの自動車の車高を上げてオフロードタイプとする手法自体は、本願の出願前より知られており(下記参考意匠1、参考意匠2参照この点のみが類否判断に及ぼす影響は限定的である。
一般に、自動車のフロント側及びリア側は、よく視認され、自動車の印象に強い影響を及ぼす部位といえる。これを前提に、具体的な態様における相違点をみると、相違点(イ−a)並びに(ウ−a)及び(ウ−b)は、いずれも全体から見れば一部の相違であっても、フロント側あるいはリア側における部位であるから、類否判断に一定の影響を及ぼす。
その他の相違点((イ−b)〜(イ−f)及び(ウ−c)〜(ウ−f))は、いずれもそれのみでは類否判断に及ぼす影響は小さい、あるいは限定的なものであるが、本願意匠は一貫してオフロードのワイルドな印象を与え、これら相違点は、全体の構成における相違点(ア)もあわせると、注意深く観察する需要者に両意匠の印象を大きく異とさせるものであり、類否判断に及ぼす影響は極めて大きなものといわざるを得ない。

【参考意匠1】(別紙第3参照)
米国の非営利団体である「The Internet Archive」が運営する、ウェブアーカイブである「Wayback Machine」により、2021年7月24日付けで保存・公開されている、

「開発車両の車高がさらに高くなった! ポルシェ911サファリ、市販型プロトタイプをキャッチ|clicccar.com」
(出力日:令和6年5月22日)

インターネット・アーカイブURL:
https://web.archive.org/web/20210725052144/https://clicccar.com/2021/07/24/1103127/#clicccar.com

【参考意匠2】(別紙第4参照)
米国の非営利団体である「The Internet Archive」が運営する、ウェブアーカイブである「Wayback Machine」により、2021年3月18日付けで保存・公開されている、

「ポルシェ 911に「オールラウンドモデル」を追加 2021年内登場か|レスポンス(Response.jp)
(出力日:令和6年5月22日)

インターネット・アーカイブURL:
https://web.archive.org/web/20210318121723/https:/response.jp/article/2021/03/18/344101.html

(4)総合評価に基づく両意匠の形状等の類否判断
両意匠の形状等における共通点及び相違点の評価に基づき、両意匠全体を総合的に観察し、判断する。

共通点は、前記(2)に説示したとおり、共通点(イ−1)に類否判断に一定の影響を及ぼすと評価できる部分はあるが、その他はいずれも類否判断に及ぼす影響が小さい、あるいは限定的なものである。
これに対し、相違点は、前記(3)に説示したとおり、相違点(イ−a)並びに(ウ−a)及び(ウ−b)は、類否判断に一定の影響を及ぼすと評価でき、その他の相違点は、いずれもそれのみでは類否判断に及ぼす影響は小さい、あるいは限定的なものであるが、全体の構成における相違点(ア)もあわせると、類否判断に及ぼす影響は極めて大きなものと評価できる。
これら共通点及び相違点の評価を総合し、意匠全体として観察した場合、両意匠の形状等は、相違点が共通点を凌駕するものであり、類似しない。

(5)小括
両意匠は、意匠に係る物品は同一であるが、両意匠の形状等は類似しない。
よって、両意匠は類似しない。

第5 むすび
以上のとおり、本願意匠は、引用意匠に類似せず、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当しないものである。したがって、原査定の拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

別掲










審決日 2024-06-27 
出願番号 2022500337 
審決分類 D 1 8・ 113- WY (G2)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 北代 真一
渡邉 久美
登録日 2024-07-24 
登録番号 1776940 
代理人 弁理士法人フィールズ国際特許事務所 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ