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審決分類 |
審判 無効 1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効とする E4 |
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管理番号 | 1055231 |
審判番号 | 無効2000-35463 |
総通号数 | 28 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2002-04-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-08-31 |
確定日 | 2002-02-12 |
意匠に係る物品 | ビブラミユ―ト |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第0896716号「ビブラミユ―ト」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第0896716号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 請求人の申し立て及び理由 請求人は、結論同旨の審決を求める、と申し立て、その理由として審判請求書及び弁駁書を提出し、以下に要点として摘記するように主張し、立証として甲第1号証ないし甲第15号証を提出した。 [請求理由の要点] 1 登録第896716号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、提出した甲号証により、公知ないし周知の意匠といわれるべきものであり、本来新規性を欠如した登録要件を具備していない意匠であるから、意匠法第3条第1項第1号、第2号又は第3号の規定に該当する意匠として、同法第48条第1項第1号の規定によってその意匠登録は無効とされるべきである。 2 本件登録意匠 本件登録意匠は、平成4年(1992)11月24日に出願し、平成6年(1994)1月28日に設定登録されたもので、その構成態様は、次のとおりである。(公知意匠との対比の為、本件登録意匠の正面図左側を上部として説明する。) (1) 全体が変形の四角形状に成る「台座」は、その輪郭の上辺部が水平状に成り、下辺部が内方に入った円弧状に成り、左右両側部が外方に円弧状に突出した中央部分とそれをはさんだ上下両側部が内方に円弧状に入って成る。 (2) 「台座」の左右両側部の中央から下側部寄りには山形部を形成し、ここに通孔を設ける。 (3) 「台座」の平面部の中央部には、略ハープ形に成る凹溝部を形成する。 (4) 「台座」の背面部は水平面に成る。 (5) 前記台座の左右山形部の通孔には、「テールピース」の左右端部の支軸を枢支する。このテールピースには6本の弦の末端部を挿通する6個の「通孔」を設ける。 (6) 前記テールピースの各通孔には各弦の末端部が止着する。 (7) 前記テールピースと一体に成る上面部の一端部には、「トレモロアーム」の基端部が螺子にて枢着する。トレモロアームは、その基端から先端にかけて内側方に緩く曲折するように成るが、その形状はノーキーアームである。 3 公知意匠 セミー・モズレー氏は、1963年「モズライト」ギターの最初のベンチャーズ・モデルを制作したが、それ以来、製作者は変わっても、「モズライト」ギターのレプリカには本件登録意匠は必ず使用さている。これを証明する文献資料はきわめて多量でありかつ容易であるが、ここには次の刊行物を証拠として提出する。 1)甲第8号証 株式会社河出書房新社1995年5月15日 発行「ザ・ベンチャーズ結成から現在まで」 143頁掲載の1及び3 2)甲第9号証 株式会社立東社1986年(昭61)1月15日発行「THE楽器」’86-’87 103頁下段左から2つ目「モズライト/1963サイド・ジャック・モデル」 3)甲第10号証 株式会社立東社1986年(昭61)1月1 5日発行「THE楽器」’87-’88 123頁 下欄右から2つ目 4)甲第11号証 ジャパンモズライト(有)・日本電通工業(株) の作成発行の「1990年カタログ」 5)甲第12号証 ジャパンモズライト(有)・日本電通工業(株) の作成発行の「1997年カタログ」 4 本件登録意匠と公知意匠との対比 形態について、両意匠の対比表で示す通り、公知意匠は、前記した本件登録意匠の構成態様と一致するものであるが、いずれも「モズライト」ギターのトレモロアームユニットであってみれば、両意匠の形態が同一となるのは当然のことである。換言すると、被請求人においては、セミー・モズレー氏が開発創作し命名した「モズライト」ギターを過去及び現在において製造しているのであるから、本件登録意匠を使用しなければならないのも当然といわねばならない。 第2 答弁に対する弁駁の要点 1)被請求人は、「本件審判請求は、法律上正当な利害関係を全く有しない者が請求した審判請求であり、直ちに却下されるべきものである」旨主張するが、請求人は、現実に「モズライト」と称するエレキギターを、米国カリフォルニア州ハリウッドで製造させこれを輸入して販売しているが、このモズライトギターにはトレモロアームユニットとして本件登録意匠と同一のものが必ず設置されているのである。 故セミー・モズレー氏が創作開発したトレモロアームユニットについては、本件請求人の代表者自身が、同店からモズライトギターを購入しかつモズライトファンクラブに入会している顧客に向けて発行している「ALL ABOUT THE MOSRITE」と題した小冊子(甲第13号証及び甲第14号証)において、詳細に説明しているところである。 したがって、請求人は本件審判を請求することに十分利害関係を有しているのであり、被請求人は本件意匠権を放棄しない限り、意匠権者としていつでも権利行使が可能な立場にある者であるから、請求人としては本件登録意匠の登録を無効としなければならないのである。 第3 被請求人の答弁の趣旨及び理由 被請求人は、本件審判請求を却下する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、その理由として以下に要点として摘記するように主張した。 [答弁の理由の要点] 1)本件審判請求は、法律上正当な利害関係を全く有しない者が請求した審判請求であり、直ちに却下されるべきものである。 被請求人は、本件意匠権の侵害の事実やそのおそれが存在しないので、請求人を含めた何人に対しても、本件意匠権にもとずく差止請求や損害賠償請求の警告書を発したことも、さらには、これらを求めて争訟を提起したことも皆無だからである。 請求人は、本件審判請求人適格については何ら言及することなく、これらを何ら立証することなくして直ちに意匠法第48条の無効事由の主張を行っているが、これは、本件審判請求人が本件審判請求により本件意匠登録の無効を求める法律上の利害関係を有しないことを自白したものと同義である。 2)請求人は、本件登録意匠は公知意匠と同一であると主張するが、公知意匠がいかなる構成からなるのかについて全く説明せずに、ただ漫然と本件登録意匠と公知意匠が同一であると繰り返しているにすぎない。 3)請求人が、公知意匠の証拠として、甲第8号証乃至甲第14号証を提出しているが、これらの各証拠は、いずれも、本件登録意匠と無関係なものであり、証拠価値は皆無で、請求人の主張する「公知意匠」の存在を立証するものは一つもない。 第4 当審の判断 1 本件登録意匠 本件登録意匠は、平成4年(1992)11月24日の意匠登録出願に係り、同6年1月28日に設定の登録がなされた意匠登録第896716号の意匠であって、願書の記載及び願書に添付された図面代用写真に現されたものによれば、意匠に係る物品を「ビブラミュート」とし、その形態を同添付図面代用写真のとおりとしたものである。(別紙第一参照) 2 甲号意匠 請求人が、公知意匠の証拠として提出した甲第8号証乃至甲第14号証のうち、甲第9号証を甲号意匠とする。 甲号意匠は、本件登録意匠の出願前に頒布された、株式会社立東社が1986年(昭61)1月15日に発行の雑誌「THE楽器」’86-’87の、 103頁下段左から2つ目の、表題を「モズライト/1963サイド・ジャック・モデル」としたモズライトギターにおける、その胴体部中央に設けられたビブラミュートの意匠であって、その形態を、同雑誌の写真版のとおりとしたものである。(別紙第二参照) 3 審判請求人の当事者適格について 被請求人は、本件審判請求は、法律上正当な利害関係を全く有しない者が請求した審判請求であり、直ちに却下されるべき旨主張する。 しかしながら、請求人は「モズライトmosrite」と称するエレキギタ-を、米国カリフォルニア州ハリウッドで製造させてこれを輸入して販売している旨主張しており、そのことは、当審が請求人の当事者適格について審尋し、請求人がその回答書において提出した、本件審判請求人である株式会社フィルモアの登記簿謄本(甲第16号証)により明らかである。 その登記簿謄本によると、株式会社フィルモアは、平成12年4月5日に設立登記されており、(本店東京都武蔵野市中町1丁目19番8号、代表取締役・遊佐典之)同会社の目的は、楽器の輸入、製造、販売、修理、書籍、雑誌の出版等であることが明記されている。 そうすると、請求人は本件審判事件に関して十分に利害関係を有する者であることが認められるものであるから、被請求人の、請求人は利害関係を全く有しない者である旨の主張は採用することができない。 4 両意匠の対比 本件登録意匠と甲号意匠は、意匠に係る物品が一致し、その形態について、以下の共通点と差異点が認められる。 [共通点] 基本的構成態様(以下、使用時の態様にあわせて、本件登録意匠の正面図の左側を上部としたものを正面図とする。)において、全体を、正面視、変形縦長方形状板体とした台座と、該台座の正面下方寄りに横幅いっぱいの略細横長楕円形状としたテールピース部を枢着し、該テールピース部の右端に、台座縦幅の2倍の長さの略細棒状としたトレモロアーム部を枢着して形成している点。 また、各部の具体的態様において、 (1) 台座について、ア)その上辺を水平状とし、下辺を内方に凹弧状とし、また、左右両側辺の中央を外方に凸弧状としその上下両側辺を内方に凹弧状とした緩い波状側辺を形成している点、イ)台座正面中央に大きく略ハープ形状で暗調子の凹面部を形成している点、ウ)該ハープ形状凹面部の下方に、上下辺を上向き弓状辺とした暗調子の横長帯状面部を形成している点、 (2) テールピース部について、該部横幅の約3分の1右方寄りをやや太幅とし上方にやや屈曲している点、 (3) トレモロアーム部について、該部縦幅の約3分の1下方寄り(テールピース部右端と枢着する部位)を略水滴状に膨らませやや内方に屈曲し、上方先端にかけて略垂直細棒状とした所謂ノーキーアーム型に形成している点、が共通している。 [差異点] 一方、両意匠間の差異点としては、甲号意匠は正面視態様のみの写真であるため、以下の本件登録意匠の具体的態様(a)ないし(c)について、不明である点が挙げられる。 (a)左右両側面視において、台座の中央から下方にかけて正面側に山形部を形成し、その通孔にテールピース部の左右端部を枢支している点、 (b)背面視において、台座の背面は平滑面である点、 (c)平面視において、テールピース部には6本の弦の末端部を挿通する6個の通孔を設けられている点、 5 両意匠の類否判断 そこで、上記共通点と差異点が、両意匠の類否の判断に及ぼす影響について検討する。 両意匠に共通する正面視における基本的構成態様の点は、この種物品の意匠において、特に使用時において正面視態様が主要部となることから、両意匠の骨格を形成し、両意匠の大部分を占めるところとなり、類否判断の支配的要素というべきである。また、各部の具体的態様の共通点(1)ないし(3)は、基本的構成態様の共通点と相俟って、両意匠の類似感を表出しており、その類否判断に及ぼす影響は大きいというべきである。 一方、差異点について、甲号意匠においては不明で現れていないものの、他の甲号証を参酌すると、甲号意匠も本件登録意匠の(a)ないし(c)の各態様と実質同様な態様を具備しているものと推認され、たとえ、差異があったとしても、それらが側面視、背面視及び平面視というほとんど視認されにくい部位における細部に係る差異であることから、その類否判断に及ぼす影響は微弱なものといわざるを得ない。 以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても類似する意匠といわざるを得ない。 6 結び したがって、本件登録意匠は、その出願前に頒布された刊行物に記載された意匠と類似し、意匠法第3条第1項第3号に該当するものであるにも拘わらず、これに違反して登録されたものであるから、他の無効理由について審理するまでもなく、同法第48条第1項第1号の規定により、その登録を無効とすべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2001-12-10 |
結審通知日 | 2001-12-13 |
審決日 | 2001-12-26 |
出願番号 | 意願平4-34202 |
審決分類 |
D
1
11・
113-
Z
(E4)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 福迫 眞一 |
特許庁審判長 |
吉田 親司 |
特許庁審判官 |
西本 幸男 伊藤 晴子 |
登録日 | 1994-01-28 |
登録番号 | 意匠登録第896716号(D896716) |
代理人 | 牛木 理一 |
代理人 | 市東 譲吉 |