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審決分類 審判 無効  2項容易に創作 無効とする F2
管理番号 1058416 
審判番号 無効2000-35237
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2002-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-27 
確定日 2002-02-14 
意匠に係る物品 事務用パンチのパンチ刃 
事件の表示 上記当事者間の登録第1000668号「事務用パンチのパンチ刃」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1000668号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第一 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と申し立て、その無効理由を要旨以下のとおり主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証を提出している。
1.無効理由
本件登録意匠は、その意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができた意匠であり、意匠法第3条第2項の規定に該当するものである。よって、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定により無効とすべきものである。
2.意匠に係る物品
本件登録意匠と、本件登録意匠出願前に日本国内で頒布されたことが明らかな特開昭56-62799号公報(甲第4号証)の発明に係る物品の同一性について、本件登録意匠の物品は甲第2号証に示す如く「事務用パンチのパンチ刃」であり、一方、甲第4号証の発明に係る物品は「穿孔器におけるパンチ刃」であり、第1頁右欄第20行〜第2頁左上欄第1行に「本発明は、用紙等に孔あけを行う穿孔器のパンチ刃に関するもの」との記載から、これらは相互に物品が同一である。
3.本件登録意匠
本件登録意匠「事務用パンチのパンチ刃」は、本体部と、取付け部とから構成されている。本体部は、甲第2号証の正面図、左側面図、底面図に示す如く、筒状に形成されるとともに、4つの刃を設けている。取付け部は、甲第2号証の平面図、底面図、A-A線断面図に示す如く、円形の取付け面の中央から取付け筒が下方に突出している。
4.甲第4号証
甲第4号証において、第2図に示される「パンチ刃」は、本体部と、取付け部とから構成されている。本体部は、甲第4号証の第2図、及びその説明(第2頁左上欄第20行〜右上欄第7行)に示す如く、筒状に形成されるとともに、4つの刃を設けている。取付け部は、甲第4号証の第2図、及びその説明(第2頁左上欄第20行〜右上欄第7行)に示す如く、円形の取付け面の中央から取付け筒が上方に突出している。
5.本件登録意匠の構成と甲第4号証の発明に係る物品の構成の比較
本体部について、甲第4号証の発明に係る物品は本件登録意匠の構成を全て具備している。取り付け部について、甲第4号証の発明に係る物品は、「取付け筒が上方に突出している。」のに対して、本件登録意匠は、「取付け筒が下方に突出している。」点で相違する。従って、本件登録意匠の構成と、甲第4号証の発明に係る物品の相違点は、取り付け部の構成である。
しかしながら、甲第4号証の発明に係る物品において、取付け部の「上方に突出する取り付け筒」に代えて「下方に突出する取付け筒」と単に変更することは、当業者にとって容易なしえる程度のものであると言える。
従って、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができた意匠であり、意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず登録されたされたものであるから、その登録は無効とすべきものである。
第二 被請求人の答弁の趣旨
被請求人は、「本件審判の請求は成りたたない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
1.本件登録意匠の創作の容易性について
請求人の株式会社サンヨウケミカル社は、本件登録意匠が、被請求人が出願した甲第4号証の特開昭56-62799号の第2図により、容易に創作できたものであると主張している。しかしこれはまったくの誤解である。前記三橋良夫はその意匠について研究し、優美なパンチ刃を創作するため苦心研究の結果創作したものである。
2.引例の第2図及び第3図に示されたパンチ刃と本件登録意匠のパンチ刃との対比について
(1)請求人が提示した甲第4号証の特開昭56-62799号の「穿孔器におけるパンチ刃」の第2図及び第3図に示すパンチ刃は、被請求人三橋良夫の発明に係るもので、パンチ刃3の筒状部4の上面に取付部6を突設したものである。そして第6図に示したように、ホッチキスのフレーム17に取付部6を工具によってかしめて取り付けるもので、添付の乙第1号証の株式会社ミツハシのカタログに掲載されているNo1〜No3のパンチ付ホッチキス(パンチキス)に活用されているものである。
(2)しかしながら、本件登録意匠第1000668号のパンチ刃(甲第2号証)は、筒状部の上面から、取付孔を下方に向けて設けたもので、前記ミツハシカタログNo4に示す「ファイルパンチ」の合成樹脂製の作動体に突設された取付軸に、パンチ刃の上面に形成した取付孔を挿入するだけで、固着できるものである。
(3)このように、請求人が引用した第2図及び第3図に示すパンチ刃と、本件意匠のパンチ刃とは、その目的及び構成並びに効果等すべて異るもので引例のパンチ刃は前記カタログの「ファイルパンチ」には絶対に取り付けることは不可能である。
(4)むすび
以上説明したように、請求人が主張する意匠登録第1000668号の登録意匠は、その意匠登録出願前に公開された特開昭56-62799号の図面第2図及び第3図により容易に意匠の創作をすることができた意匠であり、意匠法第3条第2項の規定により無効とすべきものであるとの主張は、誤解によるもので、本件登録意匠第1000668号の登録は有効であるとの審決を求めるものである。
第三 請求人の弁駁
請求人は、前記被請求人の主張に対して以下の如く反論し、甲第5号証ないし甲第7号証を提出している。
(1)取付部の突出の向きについて
甲第4号証の第2図、第3図を論拠に弁駁する。
被請求人は、甲第4号証の第2図、第3図のパンチ刃は、取付部が本体部の上面から上方に突出されているが、本件登録意匠のパンチ刃は、取付部が下方に向けて形成されており、両者は全く異なっている旨主張する。しかし、特許庁における過去の類似判断の実例では、2つのパンチ刃意匠の構成の相違が取付部の突出の向きにある場合には、これらの意匠は類似であるとの判断がなされている(甲第7号証)。
従って、本件登録意匠は甲第4号証のパンチ刃と類似の関係にあって意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものであり、少なくとも、当業者であれば、本件登録意匠のパンチ刃は甲第4号証の記載に基づいて容易に創作することができたものであって意匠法第3条第2項の規定に該当するものである。その詳細を以下に述べる。
甲第5号証は、被請求人が出願して登録になった意匠を掲載した登録公報である。甲第6号証は、甲第5号証を本意匠とするその類似意匠の登録公報である。甲第7号証は、甲第5号証の意匠と甲第6号証の意匠を対比して示す図面である。甲第5号証の意匠では、取付部がパンチ刃本体の内側にすなわち下向きに突出している。一方、甲第6号証の意匠では、取付部がパンチ刃本体の外側にすなわち上向きに突出しており、両者の意匠はこの点のみが相違している。
ところが、このような差異があるにもかかわらず、両者は互いに類似の関係にあるとして、後願である甲第6号証も登録に到っている。この事実から鑑みるに、取付部がパンチ刃本体の外側に向いて突出しているものと、内側に向いて突出しているものは、その他の点で同一である限り互いに類似の関係にあると言える。
本件登録意匠と甲第4号証のパンチ刃は、上記したように、取付部の突出の向き以外の構成は同一である。従って、本件登録意匠と甲第4号証のパンチ刃は互いに類似の関係にあると言える。
これにより、本件登録意匠は、当業者であれば甲第4号証の記載に基づいて容易に創作できる意匠であり、意匠法第3条第2項の規定に該当するものであることは明らかである。
第三 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、その願書及び願書添付図面、意匠登録原簿及び意匠公報の記載によれば、昭和62年7月27日の出願(原特許出願の出願日援用の意願平8-9118号)に係り、平成9年10月3日に設定の登録がされた登録第1000668号意匠であり、意匠に係る物品が、「事務用パンチのパンチ刃」であって、その形態が、その願書添付図面に示されるとおりのものである。(別紙第一参照)
すなわち、基本的構成態様において、全体が、直径を高さの略1.5倍とした略短円筒状であり、その下方の周端部を、側面視につき、等間隔に連続する波形状に形成して刃先部とし、上面部を、中央に設けた円形の取付孔部を除いて、ドーナツ形の平面状に形成して取付部とし、また、中央の取付孔を、その取付孔の外周から垂下する略短円筒状に形成している点が認められる。
また、具体的な構成態様において、
(1)取付孔部について、その直径が、全体の外周径の略1/2であり、垂下する円筒状の高さが、全体の高さの略1/3である点、
(2)刃先部について、その波形状の頂部を鋭角の略二等辺三角形状とし、谷部を略円弧状とし、隣合う頂部間の凹陥部が側面視略放物線状に現れているものであり、頂部及び谷部を各々4個とし、その頂部と谷部の高低差を、全体の高さの略1/2としている点、が認められる。
2.創作容易性の判断
(1)本件登録意匠に認められる基本的構成態様の中、「全体が、直径を高さの略1.5倍とした略短円筒状であり、その下方の周端部を、側面視につき、等間隔に連続する波形状に形成して刃先部とし、上面部を、中央に設けた円形の取付孔部を除いて、ドーナツ形の平面状に形成して取付部とした」形態、また、その刃先部の具体的態様について、「刃先部の波形状の頂部を鋭角の略二等辺三角形状とし、谷部を略円弧状とし、隣合う頂部間の凹陥部が側面視略放物線状に現れているものであり、頂部及び谷部を各々4個とした」形態は、本件登録意匠の出願前に頒布された公開特許公報(甲第4号証)所載の公開昭和56年5月28日の昭56-62799号の第2図及び第3図(別紙第二参照)に示されるとおり、本件登録意匠の出願前に、日本国内において広く知られた形状というべきである。
(2)次ぎに、請求人の「甲第4号証の発明に係る物品において、取付け部の『上方に突出する取付け筒』に代えて『下方に突出する取付け筒』と単に変更することは、当業者にとって容易になしえる程度のものであると言える。」との主張に対し、被請求人は、「本件登録意匠第1000668号のパンチ刃(甲第2号証)は、筒状部の上面から、取付孔を下方に向けて設けたもので、前記ミツハシカタログNo4に示す『ファイルパンチ』の合成樹脂製の作動体に突設された取付軸に、パンチ刃の上面に形成した取付孔を挿入するだけで、固着できるものである。このように、請求人が引用した第2図及び第3図に示すパンチ刃と、本件意匠のパンチ刃とは、その目的及び構成並びに効果等すべて異るもので引例のパンチ刃は前記カタログの『ファイルパンチ』には絶対に取り付けることは不可能である。」と反論する。
この点について審案するに、被請求人の「取付孔を下方に向けて設けたもので、前記ミツハシカタログNo4に示す『ファイルパンチ』の合成樹脂製の作動体に突設された取付軸に、パンチ刃の上面に形成した取付孔を挿入するだけで、固着できるものである。」との点は、本件登録意匠の出願前に頒布された公開特許公報(甲第4号証)所載の昭56-62799号の第9図(第3実施例におけるパンチファイルにパンチ刃を装着した状態の斜視図、別紙第二参照)及び、第9図の実施例の説明(第7頁左欄第11行ないし17行)に「第9図は書類を綴り込むパンチファイルに、本発明に係るパンチ刃を装着したもので、ファイルすべき文字の孔あけと綴り込み機能を兼ねそなえ、ワンタッチで孔あけと、必要書類の綴じ込みができるようにしたもので、図示しないファイル表紙に固定して使用するものである。」との記載があることを考慮すると、本件登録意匠と甲第4号証の第9図のパンチ刃の意匠とは、その使用目的、使用方法が共通しているといわざるを得ない。
また、本件発明の「穿孔器におけるパンチ刃」には、第2図及び第3図に示される「上方に突出する取付け筒」を設けたものの他、同第12図(歯車状に成形したパンチ刃素材を絞り加工により円筒状に形成したもので、下方に多数の三角状切先部39を設けたもの)のパンチ刃、すなわち、取付け部につき、「上方に突出する取付け筒」も「下方に突出する取付け筒」も設けてないパンチ刃が含まれていることを考慮すると、本件登録意匠の創作の要点は、「下方に突出する取付け筒」を設けたことにより、「合成樹脂製の作動体に突設された取付軸に、取付孔を挿入するだけで固着できる」点に集約される。しかしながら、この点についても、この種の物品において、取付け筒、すなわち、嵌合部を筒状に形成することは極く一般的であり、その嵌合部を上に突出させるか、下方に垂下させるかは、設計上適宜選択されるものであることを勘案すると、その点に特筆すべき創作は見いだせないといわざるを得ない。
してみると、本件登録意匠は、日本国内において広く知られた
昭和56年5月28日公開の昭56-62799号の第2図及び第3図に示される周知の形状の取付孔部を、当業者であれば、極めて容易に着想し得る「取付孔の外周から垂下する略短円筒状」に形成した程度のものであって、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものといわざるを得ない。
してみると、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定に該当する意匠であるにも拘わらず、意匠登録を受けたものであるから、その登録は無効とすべきものと認める。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2001-04-04 
結審通知日 2001-04-17 
審決日 2001-05-08 
出願番号 意願平8-9118 
審決分類 D 1 11・ 121- Z (F2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大久保 好二 
特許庁審判長 吉田 親司
特許庁審判官 伊藤 栄子
岩井 芳紀
登録日 1997-10-03 
登録番号 意匠登録第1000668号(D1000668) 
代理人 前島 旭 
代理人 永井 浩之 
代理人 神谷 巖 
代理人 清原 義博 
代理人 佐藤 一雄 

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