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審決分類 |
審判 無効 1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない K3 審判 無効 2項容易に創作 無効としない K3 |
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管理番号 | 1059718 |
審判番号 | 無効2001-35241 |
総通号数 | 31 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2002-07-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-06-07 |
確定日 | 2002-05-07 |
意匠に係る物品 | バケット先端装着具 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1069304号「バケット先端装着具」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続きの経緯及び本件登録意匠 本件登録意匠は、平成10年10月31日に出願(意願平10-31716)され、平成12年2月4日に設定の登録がなされ、平成12年5月8日に意匠公報が発行された意匠登録第1069304号であって、願書及び願書添付の図面によれば、意匠に係る物品を「バケット先端装着具」とし、その形態を同図面記載のとおりとしたものである(別紙第1参照) 2.請求人の申し立て及び理由 請求人は、「意匠登録第1069304号の登録は、これを無効とする、との審決を求める。」と申し立て、証拠方法として甲第1号証乃至甲第15号証を提出し、その理由として審判請求書の請求理由の項の記載のとおり主張した。その要旨を摘記すると以下のとおりである。 [請求人主張の要旨] (1)被請求人は、請求人から盗用した図面のほんの一部を変更して本件登録意匠を出願して登緑を取得するに至ったものである。 (2)本件登録意匠は請求人の製品の製作図面をそっくり利用し、わずかに左肩の突出片を付加したにすぎないものであって、当該製作図面に基づいて意匠登録出願用図面に準じて作成した図面(甲第7号証)の正・背面図、平・底面図、左・右側面図、A-A線断面図において、鎖線で示した本件登録意匠の左肩の突出片部分以外は同じである。 本件登録意匠の「正面図」にあっては、ツースソケットを挟んで左側の上半部に外方に延びる斜辺部が成形され、その終端から垂直に延伸して上辺が右側の上辺より所定寸法だけ突出している突出片が成形されているのが見える。 「背面図」 にあっては、ツースソケットを挟んで右側に左側の上辺より少し突出している突出片の上辺だけが見える。 「左側面図」にあっては、右側の上半部に斜辺部と垂直に延びる突出片の上辺が見える。 「右側面図」にあっては、左側の上半部に垂直に延びる突出片の上辺だけが見える。 「平面図」にあっては、ツースソケットを挟んで左側の下側に横外方に延びるわずかな突出片が成形されているのが見える。 「底面図」にあっては、ツースソケットを挟んで左側の上側に横外方に延びるわずかな突出片が成形されているのが見える。 (3)当該被請求人の製品と請求人の製品を使用状態で比較すると、バケット内側において、本件登録意匠のツース盤は、左肩の一部の突出片のみが請求人のツース盤と異なるが、その一部の突出片を除く後の形状は両者同じである。また、バケット外側においては、本件登録意匠ツース盤と請求人のツース盤が殆ど同じ形状の意匠に看取される。 また、請求人のツース盤が掲載されているカタログの製作日が1996年(平成8年)9月であるから、請求人のツース盤意匠が本件登録意匠の出願より2年以上も前に公知になっていることは疑いようがない。 (4)以上述べたように、本件登録意匠は甲第7号証等のツース盤をごく僅かに変更した突出片を付加したに過ぎず、その突出片を含む本件登録意匠を被請求人の公知意匠と比較しても本件登録意匠の主要部は公知意匠をデザイン上の基本ベースとしてそっくり用いているに過ぎないので、意匠全体からみれば微差であり、登録は取り消されるべきである。 3.被請求人の答弁及び理由 被請求人は、「結論同旨の審決を求める。」と答弁し、証拠方法として乙第1号証乃至乙第10号証を提出した。 被請求人は、「答弁の理由」の項で、「請求人の主張は、x本件登録意匠第1069304号(以下、単に「本件登録意匠」という。)は甲第1号証と類似するから、本件登録意匠は無効である。y本件登録意匠は、甲第7号証と類似するから、本件登録意匠は無効である。という二つの主張と推測できるので、以下、この二つの請求人の主張に対して被請求人は反論する。但し、上記yの点に関しては、本件無効審判請求書中の主張及びこれに対する根拠が極めて不明瞭であるので、請求人にこの点に関する釈明を求める。 また、請求人は、本件無効審判請求において、本件登録意匠は意匠法第3条の規定に違反する旨を述べているだけであり、本件登録意匠は同法第3条の如何なる規定に違反するのか不明であるので、この点を明確にすべきである。但し、本件無効審判請求において請求人は類似なる概念を用いて主張しているので、当該類似なる概念は意匠法第3条第1項第3号の規定の類似概念と推測して、以下答弁する。」とした上で、要旨以下のとおり主張した。 (1)本件登録意匠は適法に創作され、適法に出願されて適法に登録されたものであり、盗用、背任なることとは全く無関係であり、請求人のこれらの主張は撤回されるべきである。 (2)本件登録意匠と甲第1号証との類否 (2.1)本件登録意匠は、ツース盤を構成する複数のピースのうち、左右両端以外に位置するピースの意匠である。 一方、甲第1号証はツース盤全体に係る意匠であって、本件登録意匠と対応するものは、甲第1号証の「中間土均し片」である。 ところで、本件登録意匠において特に看者の注意を引く点である「正面」を、バケットの内面になる側としており、逆に甲第1号証はバケットの内面になる側を「背面」としているから、本件登録意匠の正面と甲第1号証の「中間士均し片」の背面とが対比される。尚、バケットの外面となる側は現実には目立つところではない点に留意する必要がある。 そこで、両者を対比すれば、両者には次の相違点がある。 尚、本件登録意匠はツース盤を構成する1ピースに係る意匠であり、一方、甲第1号証の意匠はツース盤全体の意匠であり、1ピース意匠と全体意匠が非類似であることは明らかであるから、以下は甲第1号証のツース盤を構成する1ピース(「中間士均し片」の意匠。以下、「引用意匠1」という。)と本件登録意匠の相違点について考察する。 (2.2)本件登録意匠及び引用意匠1はともにショベルカーのバケットの刃に被嵌されるツース盤の構成ピースであることから、ある程度の形状はその機能により必然的に定まってしまうものであって、このことはツース盤の多数の公知意匠を考慮すると自明である(例えば甲3,乙4乃至乙7)。 してみると、この種ツース盤に関する意匠は、機能上当然具備せざるを得ない造形に、どのような独創性を有する造形を施したかが、創作性において極めて重要といえ、従って、この種物品の創作性の範囲、即ち、類似範囲は上記のようにこの種物品の当然の機能及び公知意匠の存在を考慮したとき、それ程広いものとはいえない。 このような観点でみた場合、本件登録意匠と引用意匠1とには次のような相違点、即ち、美的創作性の相違があり、よって、本件登録意匠は引用意匠1の美感を凌駕するに十分な美感を有するといえる。 a 本件登録意匠には、引用意匠1にあるような下部両側の傾斜縁がない。また、引用意匠1の下部右側の傾斜縁の上方部分は切欠されているが、本件登録意匠の当該部分は切欠されていない。 b 本件登録意匠は、引用意匠1と異なり、左側の部分が全体構成中において非常に大きく目立つ部分であり、且つこの部分は上方にかなり突出する。この突出部ロは本件登録意匠の機能(土漏れ防止)及び美感を決定づける要部といえる。 c 引用意匠1は左縁部が低く構成されているが、本件登録意匠にはこのような造形はない。 d 引用意匠1は、ツースソケット部分が表面側に突出し、更に左縁部が一段低くなる全体構成であるのに対し、本件登禄意匠はこのような全体構成ではない。 以上、本件登録意匠と引用意匠1とには上記の相違点があり、特に看者の注意を引く点である上記a,bの各点は勿論のこと、本件登録意匠と引用意匠1とのいずれの面からみても、本件登録意匠と引用意匠1とは美感が全く異なり、本件登録意匠に係る物品の一般需要者の立場で、肉眼での間接的対比観察による全体観察における総合判断から両者の外観の類否をみるに、本件登録意匠と引用意匠1とは明らかに非類似といえる。 この点は、引用意匠1と被請求人の意匠登録第1058368号(乙10)とが非類似の別意匠として扱われていることからも正当といえる。 (3)本件登録意匠と甲第7号証との類否 甲第7号証に係る意匠は、甲12及び甲13(原本を乙8として提出)中の八つの写真中の、右側1段目及び2段目(1段目がバケットの内側、2段目がバケットの外側)の「従来型(35S)ツース盤」の左右両端以外のピース(以下、「引用意匠2」という。)の図面と推測され、この引用意匠2が本件登録意匠の出願前に公知であったことは被請求人としても争わない。尚、左側1段目及び2段目(1段目がバケットの内側、2段目がバケットの外側)が本件登録意匠に係る実施品を構成ピースとする被請求人の新型ツース盤である。 そこで、両者を対比すれば、両者には次の相違がある。 a 本件登録意匠は、前述のとおり、左側にかなり上方まで突出し、大きく非常に目立つ突出部があるが、引用意匠2にはこのような上方への突出部はない。この突出部は前記のとおり、本件登録意匠の要部といえる。 b 引用意匠2の突出部の左側には横にのびる巾細にして方形状の突出部があり、従って、低い部分が大きく露出するが、本件登録意匠にはこのような突出部はなく、また、大きく露出する低い部分もない。 以上、本件登録意匠と引用意匠2とには上記相違点があり、本件登録意匠と引用意匠2とは美感が全く異なり、明らかに非類似といえる。即ち、本件登録意匠と引用意匠2とには上記の相違点があり、特に看者の注意を引く点である上記a,bの各点は勿論のこと、本件登録意匠と引用意匠2とのいずれの面からみても、本件登録意匠と引用意匠2とは美感が全く異なり、本件登録意匠に係る物品の一般需用者の立場で、肉眼での間接的対比観察による全体観察における総合判断から両者の外観の類否をみるに、本件登録意匠と引用意匠2とは明らかに非類似といえる。 この点は、本件登録意匠が被請求人の意匠登録第1058368号(乙10)と非類似の別意匠として扱われて登録されていることからも正当といえる。 (4)以上から、請求人の主張には何ら理由はなく、本件登緑意匠には無効理由はない。 4.答弁に対する弁駁 請求人は、被請求人の無効審判答弁書に対して、審判事件弁駁書の弁駁の趣旨の項で釈明する点として以下の2点をあげ、弁駁の理由として、同弁駁書の弁駁の理由の項のとおり主張し、証拠方法として、甲16号証乃至甲23号証を提出した。その要旨を摘記すると以下のとおりである。 [弁駁の趣旨] (1)被請求人の「本件無効審判請求書中の主張及びこれに関する求釈明」に対する釈明。 請求人の主張は ・本件登録意匠第1069304号(以下「本件登録意匠」という。)は甲第1号証と類似するから、本件登録意匠は無効である。 ・本件登録意匠は、甲第7号証と類似するから本件登録意匠は無効である。 (2)甲第8号証乃至甲第10号証の図面が盗用である旨の主張の、無効理由との関係が不明瞭であることに対する釈明。 [弁駁の理由の要旨] (1)本件意匠登録第1069304号の登録意匠は、意匠法第3条1項3号又は第3条第2項の規定に違反し、同法第17条の規定(第3条の意匠登録要件の違反)によって拒絶されるべきであったにも拘わらず登録になったものであり、同法第48条に該当するものである。因って本件意匠登録は無効にされるべきものである。 (2)被請求人と請求人の製品の製作図面を比較すると、盗用の事実が証明される。 (3)本件登録意匠と甲第1号証との類否について (3.1)被請求人は、「本件登録意匠において特に看者の注意を引く点である「正面」をバケットの内面になる側としており、逆に甲第1号証はバケットの内面になる側を「背面」としているから、……バケットの外面となる側は現実に目立つところではない点(特別に看者の注意を引く点ではないこと)に留意する必要がある。」と述べている。 しかしながら、甲第1号証の意匠に係る製品も本件登録意匠に係る製品も使用状態においては、バケットのホーに装着されるものであり、多数の看者が看取できるのは、外面からであり、内側から看取できるのは1人の運転者(オペレータ)であるから、ここにおいて外側とか内側とか固執することは妥当ではない。 (3.2)被請求人は「本件登録意匠はツース盤を構成する1ピースに係る意匠であり、一方、甲第1号証の意匠はツース盤全体の意匠であり、1ピース意匠と全体意匠が非類似であることは明らかである……」と主張している。しかしながら、この主張は妥当ではない。すなわち、1ピースのツース盤といえどもこれを使用するには必ず複数のツース盤を組合せなければ使い物にならない。反対に複数ピースの組合せであっても、1ピースのツース盤を単に差込み状態であるから簡単に分離できるものである。ましてや1ピース状態も示してあるのであれば、甲第1号証又は甲第7号証及び甲第23号証から本件登録意匠が類似であることが判明する。 (3.3)被請求人は、甲3、乙4乃至乙7を挙げて、「バケットの刃に被嵌されるツース盤の構成ピースであることから、ある程度の形状はその機能により必然的に定まってしまうものであって、このことは、ツース盤の多数の公知意匠を考慮すると自明である。」と述べている。しかしながら、被請求人の主張には無理がある。なぜならば、前記乙4乃至乙7はいずれも特許明細書に添付された図面に表されたものであり、当該被嵌部を含めた意匠として出願乃至登録したものではない。 さらに加言すれば、少なくとも請求人の甲第1号証及び甲第3号証の出願日より前に出願されたものは皆無である。しかも、乙第7号証にあっては、従来の工具として甲第3号証を引用してその添付の図面に図6及び図7を記載しているほどである。したがって、機能上当然具備せざるを得ない造形として軽視するのは正しくない。 そして、少なくも被請求人が挙げた乙4乃至乙7にあっては、本件登録意匠のように甲第1号証、甲第3号証及び甲第7号証並びに甲第23号証の被嵌部及びその両側部位を酷似した形状にしているものはない。 (4)本件登録意匠と甲第7号証との類否 被請求人が答弁書で述べている甲第7号証及び乙第9号証の「引用意匠2」はまさしく甲第4〜甲第6号の図面に基づいて製作したものである。 答弁書で「引用意匠2」と対比している「本件登録意匠」の図面(正面図)及び乙第9号証「本件登録意匠の実施品(内面、外面)」は、甲第8号証乃至甲第10号証(実質上は甲第4〜甲第6号の図面と同じ)の大部分の重要な意匠をそっくり真似ているものである。 以上述べた通り、本件登録意匠は、甲第7号証(被請求人も認めている答弁書及び乙第9号証の引用意匠2「外面、内面」の図面・写真と同じ)及び甲第号証1号証の意匠に類似するものであり、登録は無効にされるべきである。 5.当審の判断 請求人は、審判事件弁駁書において、請求の理由を、 (1)本件登録意匠は甲第1号証と類似するから無効である。 (2)本件登録意匠は、甲第7号証と類似するから無効である。 とし、本件登録意匠は、意匠法第3条1項3号又は第3条第2項の規定に違反し、同法第17条の規定によって拒絶されるべきであったにも拘わらず登録になったものであり、同法第48条に該当するものである。因って本件意匠登録は無効にされるべきものである。と主張しているので、この点について以下で検討する。 5.1 甲第1号証(意匠登録第714975号、別紙第2参照)との対比 本件登録意匠と甲第1号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については、甲第1号意匠の土均し具を構成するピースのうち「中間土均し片」と表示された図面が、使用時における本件登録意匠に相当するものと認められるので、当該「中間土均し片」の形態を本件登録意匠と対比する。 なお、被請求人は、本件登録意匠が、使用時に6個のピースで構成される土均し具のうちの1ピースであるのに対して、甲第1号意匠は、5個のピースで構成される土均し具の全体である点で相違する旨を主張しているが、甲1号意匠は、昭和62年10月12日に発行された意匠公報に掲載された公知意匠であるから、甲第1号意匠の土均し具を構成するピースの「中間土均し片」と本件登録意匠を類否判断の対象とすることは何ら問題はない。 [共通点] (1)正面視して(甲第1号意匠については背面を正面とみなして対比する。)、やや横長な略長方形の板状体の上辺中央約1/3を略倒M字状の凹部とし、該部位を前後に膨出した開口部としてバケットのツースを挿入するツースソケットとし、側面視した態様が下方に向けて先細となる楔形状を成す基本構成。 (2)ツースソケットについて、略倒M字の山形の中央に略縦長矩形状の小孔を設けた点。 [差異点] (イ)ツースソケットの左側の板状体の枚数について、本件登録意匠は、正面側と背面側の2枚から成るのに対して、甲第1号意匠は、1枚である点。 (ロ)正面視した左上部の態様について、本件登録意匠の正面側板状体は、右側板状体の約1.2倍の高さを上端、中央やや下寄りを下端とし、それぞれ幅を全幅の約1/3、約1/5として、該部位の左側縁の上方約4割、下方約2割を垂直とし、その間を傾斜辺とし、背面側の板状体に対して大きく左上方に張り出して形成しているのに対して、甲1号意匠は、右肩と同高で、上端、下端とも全幅の約1/3の幅の同幅で左側縁が垂直である点。また、本件登録意匠は、該部位をツースソケット部と面一に形成しているのに対して、甲1号意匠は、該部位をツースソケット部よりも一段落とし、左側縁を更に一段落として形成しており、これらの箇所に稜線が表れる点。 (ハ)正面視した右上部の態様について、本件登録意匠は、右肩部の幅を全体の約1/3として、右側縁を垂直に形成しているのに対して、甲1号意匠は、右肩部の幅を全体の約1/6として、下方に向けて僅かに内側に傾斜して形成している点。 (ニ)正面視した左下部の態様について、本件登録意匠は、正面側の板状部に縦長長方形状に切り欠きを設けて背面側の板状体が表れるのに対して、甲第1号意匠は、略台形状の切り欠きを形成している点。 (ホ)正面視した右下部の態様について、本件登録意匠は、左下部の切り欠きに対応する縦長長方形状の凸部を形成し、該部位からツースソケット部にかけて段差を形成して階段状の稜線が表れるのに対して、甲1号意匠は、右方に左下部の切り欠きに対応する略台形状の突出片を形成している点。 (ヘ)背面視したツースソケットの左側の態様について、本件登録意匠は、全幅の約1/3の幅の板状とし左側縁を垂直として、該板状部の約左半分を一段落とした肉薄とし、右半分の中央やや上寄りに傾斜面を形成してその下方をやや肉厚としているのに対して、甲第1号意匠は、全幅の約1/7の幅として、略逆L字状として左下隅を略台形状の突出片として、側縁に階段状の段差及び係合溝を形成している点。 (ト)背面視したツースソケットの右側の態様について、本件登録意匠は、背面側板状部の幅を全体の約1/5として左肩部と同高とし、中央やや上よりの位置から下に傾斜面を設けてやや肉厚とし、該部位の上方から右側にかけて正面側の張り出しが鉤状に表れるのに対して、甲1号意匠は、右肩部の幅を全体の約1/3として下方部分に略台形状の切り欠きを形成している点。 [判断] 上記の共通点及び差異点について検討すると、共通点(1)に示す板状体の上辺中央にツースソケットを形成することについては、この種物品において甲第1号意匠以前に見られない形態であり、甲第1号意匠の特徴的と認められる共通性ではあるものの、意匠全体から見れば部分的な共通性であり、しかも、左右両肩部が非対称となる視覚効果をもたらす差異点(ロ)に示した本件登録意匠の板状部の張り出し部分の態様を捨象しているため、両意匠の全体的な基調を決定付ける共通性としては多分に抽象的なものと認められる。共通点(2)はツースソケット部の局部に関するものであって、両意匠の類否を左右するものとは成し得ないものである。 これに対し、差異点(イ)から(ト)は板状体の態様に関する差異であるが、左側について、(イ)の枚数の差異は、形態上の明瞭且つ顕著な差異であり、これに(ロ)の上方への張り出しの有無及び(ニ)の切り欠き部の有無等の差異が相俟って外観形態の違いを一層際だたせているものと認められる。また、右側については(ハ)の構成比率、(ホ)の突出片の有無等の差異が図面上明らかであり、背面についても、(ヘ)、(ト)の突出片の有無、側縁の段差等の差異が外観形態の差異をもたらしていることは図面上明らかである。さらに、当該板状部が外観形態に占める割合は多大であって、その視覚効果に及ぼす差異が絶大であることを考慮すれば、甲第1号意匠の特徴を共有してはいるものの、これらの差異点に係る態様が相俟って表出する効果は、各共通点に基づく類似性を凌駕し、甲第1号意匠にはみられない固有の全体的な基調を形成し、それが本件登録意匠を特徴づけているものと認められる。 すなわち、本件登録意匠は、甲第1号意匠に類似しないものと認められる。 5.2 甲第7号証との対比 甲第7号証は、請求人製品の製作図面(甲第5号証)を基にして作成された本件登録意匠との比較図面であるが、製作図面は、当該製品に関わった者の間で知られたものに過ぎず、これをもって直ちに不特定多数の人が知られる状態にあったものとはいうことができないので、製作図面または甲第7号証をもって公知の意匠ということはできず、これらを根拠として本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に該当するとは認められない。 しかしながら、甲第7号証中の実線で示された意匠については、従来型ツース盤として本件登録意匠の出願前より公知であったと認められる(甲第15号証の縦ピンタイプ、甲第12〜第13号証及び乙第8号証の従来型(35S)ツース盤。なお、甲第12〜第13号証及び乙第8号証には発行日等の記載がないが、出願前公知について当事者間に争いはない。)ので、従来型(35S)ツース盤(別紙第3参照)と本件登録意匠の類否について検討する。 [共通点] (1)正面視して、やや横長な略長方形の板状体の上辺中央約1/3を略倒M字状の凹部とし、該部位を前後に膨出した開口部としてバケットのツースを挿入するツースソケットとし、側面視した態様が下方に向けて先細となる楔形状を成す基本構成。 (2)ツースソケットの左側の板状体を正面側と背面側の2枚とし、背面側を全幅の約1/5の幅として右肩部と同高とし、正面側は上方部分のみに形成している点。 (3)背面視したツースソケットの左側の態様について、全幅の約1/3の幅の板状とし、該板状部の約左半分を一段落とした肉薄とし、右半分の中央やや上寄りに傾斜面を形成してその下方をやや肉厚としている点。 (4)背面視したツースソケットの右側の態様について、中央やや上よりの位置から下に傾斜面を設けてやや肉厚とした点。 (5)ツースソケットについて、略倒M字の山形の中央に略縦長矩形状の小孔を設けた点。 [差異点] (イ)正面視したツースソケットの左側の態様について、本件登録意匠の正面側板状体は、右側板状体の約1.2倍の高さを上端、中央やや下寄りを下端とし、それぞれ幅を全幅の約1/3、約1/5として、該部位の左側縁の上方約4割、下方約2割を垂直とし、その間を傾斜辺とし、背面側の板状体に対して大きく左上方に張り出して形成しているのに対して、従来型(35S)意匠は、右側板状体の上端からやや下寄りの位置から中央やや下寄りの位置にかけて形成し、上端、下端とも同幅で、背面側板状体とほぼ同幅の全幅の約1/5に形成されている点。 [判断] 上記の共通点及び差異点について検討すると、共通点(1)に示す板状体の上辺中央にツースソケットを形成することについては、意匠全体から見れば部分的な共通性であり、しかも、左右両肩部が非対称となる視覚効果をもたらす差異点(イ)に示した本件登録意匠の板状部の張り出し部分の態様を捨象しているため、両意匠の全体的な基調を決定付ける共通性としては多分に抽象的なものと認められる。共通点(2)については、左側の板状部を2枚として、正面側を上部寄りに形成した点が、両意匠に特有のものであったとしても、正面側板状体の態様において差異点(イ)に係る際立った差異があることを考慮すれば、それに基づく類似性は、差異点(イ)の態様を凌駕するほどに強いものであるとは認められない。共通点(3)、(4)については、意匠の構成要素全体から見れば部分的な板状体の厚みに関する共通性であるため、両意匠を特徴づけるほどの視覚効果をもたらすものではない。共通点(5)は、ツースソケット部の局部に関するものであって、両意匠を特徴づけるものとは成し得ないものである。 これに対し、差異点(イ)に係る板状部の差異は、明瞭かつ顕著なものであり、左上部の態様における差異をもたらしていることは図面上明らかであり、本件登録意匠の張り出し部分が外観形態の違いを際立たせているものと認められ、従来型(35S)意匠には見られない本件登録意匠固有の全体的な基調を形成しているものと認められる。 すなわち、本件登録意匠は、従来型(35S)意匠に類似するものとは認められない。 5.3 意匠法第3条第2項の適用について 請求人は、本件登録意匠が意匠法第3条第2項の規定に違反する旨を主張しているが、証拠として提出された意匠との比較において、たとえ、ツースソケット部若しくはツースソケット右側の板状部が新規創作に係る部分でなく、既に広く知られた形態の中から選択したのに過ぎない部分であったとしても、本件登録意匠は左上方に大きく張り出した板状部を形成した点において、他に見られない意匠設計上の工夫が認められ、しかも当該部位が外観形態に及ぼす視覚的効果は絶大であることを考慮すれば、本件登録意匠は特有の基調を形成するものと認められるので、容易に創作できたということは出来ない。 また、請求人は、本件登録意匠が請求人から盗用した図面から容易に創作できた旨を主張しているが、製作図面は、当該製品に関わった者の間で知られたものに過ぎないので広く知られた意匠ということができず、これに基づいて本件登録意匠が容易に創作できたということは出来ない。 6.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件登録意匠を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2002-03-01 |
結審通知日 | 2002-03-06 |
審決日 | 2002-03-22 |
出願番号 | 意願平10-31716 |
審決分類 |
D
1
11・
121-
Y
(K3)
D 1 11・ 113- Y (K3) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森 則雄 |
特許庁審判長 |
藤木 和雄 |
特許庁審判官 |
岩井 芳紀 温品 博康 |
登録日 | 2000-02-04 |
登録番号 | 意匠登録第1069304号(D1069304) |
代理人 | 下山 冨士男 |
代理人 | 磯野 政雄 |
代理人 | 吉井 雅栄 |
代理人 | 吉井 剛 |
代理人 | 吉井 剛 |
代理人 | 大森 夏織 |
代理人 | 吉井 雅栄 |