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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) K7
管理番号 1078144 
判定請求番号 判定2002-60072
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2003-07-25 
種別 判定 
判定請求日 2002-07-18 
確定日 2003-06-09 
意匠に係る物品 コレット 
事件の表示 上記当事者間の登録第1050602号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面代用写真及びその説明書に示す「コレット」の意匠は、登録第1050602号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、「イ号意匠(図面代用写真)並びにその説明書に示す意匠は、第1050602号登録意匠の範囲に属する、との判定を求める。」と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証乃至第6号証を提出している。
1.本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、工作機械の工具把持装置に使用されるコレットに関するもので、特に切削工具の先端側にクーラントなどの切削液を供給する場合に好適なものである。
本件登録意匠は、全体がほぼ円筒のストレート形状であり、先端側(切削工具の刃先側)及び末端側(切削工具のシャンク部側)の端部より、それぞれ周方向に所定の間隔で離間した位置に、互い違いとなるように軸方向に切り込んで形成した締まり勝手を向上させたすり割を備えたものであり、「(A)外形がストレートの内部中空の円筒状に形成されている。(B)円筒状の先端側及び末端側の両端部より、それぞれ、該両端部の周方向に沿って120度間隔で離間した互い違いの位置に、それぞれすり割が形成されている。(C)円筒状の先端側には縮径された段差溝を介して大径のフランジ部が形成されている。(D)円筒状の内壁面には油切りを向上させる螺旋状の溝が形成されている。」構成からなる。
2.イ号意匠の説明
イ号意匠は、本件登録意匠と同様に、工作機械のスピンドルに装着して使用される高速回転用ホルダーの付属品であり、エンドミルなどの切削工具を把持するためのストレートコレットである。
イ号意匠は、甲第3号証の「NT CATALOGUE No.2000」の77頁「タイトロック ミーリングチャック」に示すように、クーラント用コレットMC-OH型(クーラント穴付刃具用)の「型式MC32-25-OH」「商品コード071100053225」として製造販売されているものであり、「(a)外形がストレートの内部中空の円筒状に形成されている。(b)円筒状の先端側及び末端側の両端部より、それぞれ該両端部の周方向に沿って90度間隔で離間した互い違いの位置に、それぞれすり割が形成されている。(c)円筒状の先端側には縮径された段差溝を介して大径のフランジ部が形成されている。(d)円筒状の内壁面は溝のない平面として形成されている。」構成からなる。
3.本件登録意匠とイ号意匠との類否
イ号意匠は、本件登録意匠と同様な切削工具ホルダーに使用されるストレートのコレットであることは、別紙イ号意匠(図面代用写真)およびその説明書並びに甲第3号証のカタログの記載より明らかである。
両意匠の基本的態様について検討するに、イ号意匠のコレットは、本件登録意匠の基本的態様である(A)〜(C)の構成と全く同一の構成を備えていると認められる。即ち、イ号意匠には本件登録意匠のもっとも特徴とする(a)外形がストレートの内部中空の円筒状に形成されていること。(b)円筒状の先端側及び末端側の両端部より、それぞれ該両端部の周方向に沿って90度間隔で離間した互い違いの位置に、それぞれすり割が形成されていること。(c)円筒状の先端側には縮径された段差溝を介して大径のフランジ部が形成されていること。等の基本的態様を備えている。この形状は、本件登録意匠権者が、特にミーリングチャックに好適する切削工具ホルダのストレートのコレットとして苦心の末創作したものである。
本件登録意匠の出願当時における従来のストレートコレットにあっては、円筒状の両端部より、該両端部の周方向に沿って120度間隔で離間した互い違い位置に、それぞれ3本づつのすり割が形成される形状とするという発想はなく、一般に製造販売された事実は全く存在しないものである。
ところで、本件登録意匠のコレットにおいては、前記(D)項に記載したように、円筒状の内壁面には油切りを向上させる螺旋状の溝が形成されている構成が備わっており、前記イ号意匠の構成とは相違しているが、この相違点については本件意匠権者が、円筒状の内壁面に油切り用の螺旋状の溝を持たない構成のストレートのコレットを後日出願し、本件意匠登録第1050602号の類似、すなわち、「意匠登録第1050602の類似の1、意匠登録第1050602の類似の2及び意匠登録第1050602の類似の3」(甲第4号証〜甲第6号証)として登録されていることからして、コレットにおいて、円筒状の内壁面に油切りを向上させる螺旋状の溝が形成してあるかどうかについては、本件登録意匠とイ号意匠の類否判断においてはあまり重要な特徴部分ではないように思われる。
さらに、前述のイ号意匠と本件登録意匠とを比較検討すると、すり割の本数が本件登録意匠では、円筒状の両端部より該両端部の周方向に沿って120度間隔で、それぞれ3本づつのすり割が形成されている、すなわち先端側から3本、互い違いの末端側から3本の計6本のすり割が形成されたものに対し、イ号意匠では、円筒状の両端部より、該両端部の周方向に沿って90度間隔で、それぞれ4本づつのすり割が形成されており、全体に計8本のすり割が形成されたものである点で、すり割の数に相違があるが、このすり割の数の相違は切削工具のシャンク部の径の大小に合わせて定めているもので、コレットに先端側及び末端側の端部よりそれぞれ周方向に所定の間隔で形成した締まり勝手を向上させたすり割を備えた形状に相違なく、すり割の本数の多少の相違は微差に過ぎず、両者は明らかに類似する意匠であると判断せざるを得ないものである。
また、すり割の切り込み量(溝長)にあっても、本件登録意匠とイ号意匠とではそれぞれ多少相違しているが、すり割の数同様にコレットの周方向に所定の間隔で形成した締まり勝手を向上させることを目的とする形状である点に相違なく、多少の相違は微差に過ぎず、形状的外観並びに機能的にも両者は明らかに類似する意匠であると判断せざるを得ないものである。
意匠の類否判断において、意匠とは物品全体、又は少なくともまとまりのある部分の外観であることを考れば、その形態を物理的に腑分けして類否の判断を行なう必要がなく、コレットの使用目的、使用態様、コレットの機能に照らすと、ストレートのコレットの全体形状に両端側より互い違いに形成した複数のすり割が形成されている点に看者の注意を引く部分があると推量できる。従って、コレットの外周形状がストレートで、且つ両端より複数のすり割を形成した形状である点に新規性が存在し、コレットの先端部のフランジ部の形状に多少の相違が認められても、これらの相違点は、前記コレット本体の形状が全体的にストレート形状となっているものに対しすり割が施されているという、基本的形態における共通点が存在する以上、両者は明らかに類似意匠であると思われる。
意匠とは、意匠全体において看者の視覚に対し直接訴えかけるものであり、前記程度の形状の差異は、両意匠の美観を異ならせる程度のものではなく、かつ両意匠を互いに非類似とするに足るものではないと思われる。
4.判定を求める必要性
請求人は「切削工具ホルダー用のコレット」等の金属機械器具を製造・販売する企業であり、本件登録意匠「コレット」を継続製造販売していたところ、「コレット」と流通経路、需要者等を同じくする被請求人がイ号意匠の物品を製造・販売し出した為に、取引者及び需要者に出所の混同が生じ始めている。従って請求人としては、以後の対策の検討資料とするため、特許庁の判断を求めるものである。
5.証拠方法
(1)甲第1号証:本件登録意匠の意匠登録公報の写し
(2)甲第2号証:本件登録意匠第1050602号意匠登録原簿写し
(3)甲第3号証:イ号意匠の商品カタログ写し
(4)甲第4号証:本件登録意匠の類似意匠登録公報(類似第1号)
(5)甲第5号証:本件登録意匠の類似意匠登録公報(類似第2号)
(6)甲第6号証:本件登録意匠の類似意匠登録公報(類似第3号)
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、結論同旨の判定を求める、と答弁し、その理由として、要旨以下のとおり反論し、乙第1号証乃至第6号証を提出している。
1.本件登録意匠の権利について
本件登録意匠は、公知意匠の存在からして、出願時、新規性が欠如しており、創作性も欠けている意匠である。このような出願当時すでに登録要件を欠如している本件登録意匠は、何人もこれを実施することができるのであって、これにつき登録を受けることは本来できなかったのである。従って、本件登録意匠について、公知であったにも係らず本件の意匠につき出願がなされ、偶々登録がなされたとしても、これによって意匠権者以外の者が右意匠を実施できないとするのは、一般の者に不当な不利益を与えることになる。
このような事情から,被請求人のイ号意匠が、本件の公知であった意匠の範囲に属するかどうかについて、社会的影響力のある判定を求めることは、判断するまでもなく不当であって、権利の濫用というべく、許されないことなのである。本件については速やかに不適法な請求として却下されたい。
仮に、一歩下がって、本件登録意匠の権利が未だ有効なものとしてみても、その意匠の範囲は実質的に非常に狭く、上記の本件登録意匠に係わる公報に具体的に開示されたところに限定して解釈されるのが相当と考えられる。してみれば、本件登録意匠と、被請求人のイ号意匠とは、特徴部分である先端側の係合部の態様と、末端側の態様とに顕著な差異が見受けられ、両者は混同する虞はない、と判断するのが経験則上妥当であり、結局、イ号意匠は本件登録意匠の範囲に属しないことになる。
2.本件登録意匠とイ号意匠との類否
2-1 本件登録意匠の説明
本件登録意匠に係る物品「コレット」の意匠の要旨は、意匠登録第1050602号公報に記載されたとおりと認める。
即ち、本件登録意匠のコレットは、「(A)正面図の中央部に位置する把握部の態様は、外形がストレートで、内部は中空の円筒状に形成されている。(B)すり割の態様は、円筒状の先端側及び末端側の両端部より、それぞれ、該両端部の周方向に沿って120度間隔で離間した互い違いの位置に、夫々把握部に入り込むすり割が形成されている。(C)先端側の係合部の態様は、円筒状の先端側に縮径された段差溝を介して大径のフランジ部が形成されている。(D)円筒状の内壁面の態様は、円筒状の内壁面には油切りを向上させる螺旋状の溝が形成されている。(E)末端側の態様は、円筒状の末端面の周囲に、ほんの僅かな面取りが施されている。」構成からなる。
2-2 イ号意匠の説明
イ号意匠のコレットについて、判定請求書に添付されたイ号意匠(図面代用写真)並びにその説明書に示す構成に基づいて説明する。
イ号意匠は、図面代用写真の正面図,右側面図,平面図,底面図及び斜視図に現れているように、(a)正面図の中央部に位置する把握部の態様は、外形がストレ一トで、内部は中空の円筒状に形成されている。(b)すり割の態様は、円筒状の先端側及び末端側の両端部より、それぞれ、該両端部の周方向に沿って90度間隔で離間した互い違いの位置に、夫々把握部に入り込むすり割が形成されている。(c)先端側の係合部の態様は、円筒状の先端側には、縮径された二つの段差溝が前後に離れて形成され、その二つの段差溝の間には、大径のフランジ部が形成されている。さらに大径のフランジ部よりも先端側寄りの上記段差溝よりもさらに先端側には、上記大径のフランジ部よりもやや小径で、かつ、薄い幅のフランジ部が形成されている。(d)円筒状の内壁面の態様は、円筒状の内壁面は溝のない平面として形成されている。(e)末端側の態様は、円筒状の末端側には、断面形状がV字型となる縮径されたV溝が周設されており、そのV溝のさらに末端側寄りの端部には、断面に丸味を持たせたリング状の部材が周設されている。
2-3 本件登録意匠とイ号意匠との対比
本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると、両者は、意匠に係る物品が一致し、その形態については、以下に示す共通点と差異点がある。
2-3-1 共通点
全体形状は、先端と、末端とを備える円筒状で、正面図の中央部に位置する把握部の態様は、外形がストレートで、内部は中空の円筒状に形成され、円筒状の先端側及び末端側の両端部より、それぞれ、該両端部の周方向に沿って適当な間隔で離間した互い違いの位置に、夫々把握部に入り込むすり割が形成されている基本的な構成において共通している。
2-3-2 差異点
(1)すり割の態様について、本件登録意匠においては、(B)項記載の如く、円筒状の先端側及び末端側の両端部より、それぞれ、該両端部の周方向に沿って120度間隔で離間した互い違いの位置に、夫々把握部に入り込むすり割が形成されているのに対し、イ号意匠においては、すり割の態様は円筒状の先端側及び末端側の両端部より、それぞれ、該両端部の周方向に沿って90度間隔で離間した互い違いの位置に、夫々把握部に入り込むすり割が形成されている。
(2)先端側の係合部の態様について、本件登録意匠においては、(C)項記載の如く、円筒状の先端側に縮径された段差溝を介して大径のフランジ部が形成されているのに対し、イ号意匠においては、先端側の係合部の態様は、円筒状の先端側には、縮径された二つの段差溝が前後に離れて形成され、前後に離れて形成されたその二つの段差溝の間には、大径のフランジ部が形成されている。さらに大径のフランジ部よりも先端側寄りの上記段差溝よりもさらに先端側には、上記大径のフランジ部よりもやや小径で、かつ、薄い幅のフランジ部が形成されている。
(3)円筒状の内壁面の態様について、本件登録意匠においては、(D)項記載の如く、円筒状の内壁面には油切りを向上させる螺旋状の溝が形成されているのに対し、イ号意匠においては、円筒状の内壁面の態様は、円筒状の内壁面は溝のない平面として形成されている。
(4)末端側の態様について、本件登録意匠においては、(E)項記載の如く、円筒状の末端面の周囲に、ほんの僅かな面取りが施されているのに対し、イ号意匠においては、末端側の態様は、円筒状の末端側には、断面形状がV字型となる縮径されたV満が周設されており、そのV満のさらに末端側寄りの端部には、断面に丸味を持たせたリング状の部材が周設されている。
2-4 類否判断
上記の共通点について検討するに、共通点の態様については、両意匠の形態全体にかかわり、その基本的なコレットの骨格を構成するところのものであるが、工作機械のコレットの分野においては、複数の従来例が存在することから、本件登録意匠の特徴と言うことはできない。
次に、差異点について検討するに、差異点(2)の「先端側の係合部の態様」については、本件登録意匠は、円筒状の先端側に縮径された段差溝を介して大径のフランジ部が形成された点に特徴が置かれるが、イ号意匠は、先端側の係合部の態様において、円筒状の先端側には、縮径された二つの段差溝が前後に離れて形成され、前後に離れて形成されたその二つの段差溝の間には、大径のフランジ部が形成されている。さらに大径のフランジ部よりも先端側寄りの上記段差溝よりもさらに先端側には、上記大径のフランジ部よりもやや小径で、かつ、薄い幅のフランジ部を形成した点に特徴がある。本物品を取扱う当業者において、使用時におけるコレット先端側の重要な機構部である係合部の形態の差異は、看者の注目を引く重要な部分であり、これらの重要なコレット先端側の機構部における両意匠の特徴ある差異は、上記のように共通する態様に格別の特徴が認められない両意匠にあっては、両意匠を別異のものと看者に印象づけるに十分なものであり、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものといえる。
差異点(4)の「末端側の態様」については、本件登録意匠は、円筒状の末端面の周囲に、ほんの僅かな面取りが施されているのに対し、イ号意匠は、円筒状の末端側には、断面形状がV字型となる縮径されたV溝が周設されており、そのV溝のさらに末端側寄りの端部には、断面に丸味を持たせたリング状の部材が周設されている点に特徴のある差異点がある。この差異点は、本物品を取扱う当業者において、使用時におけるコレット挿入に際し、センターリング効果が得られるように構成されているイ号意匠の末端側(コレット挿入の際には先行する側)の形態は、当業者の注意を引き、注視される部分であり.何らの配慮がない本件登録意匠の末端部とは印象が大きく異なるものであり、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものといえる。
従って、上記の差異点(2)及び差異点(4)の観点からみて、両意匠の差異点が共通点を凌駕することは明らかであって、意匠全体として、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するものとはいえない。
3.結び
以上のような事情であるから、請求の趣旨の欄に記載したように、本件判定の請求は成り立たない、との判定を求める。
4.証拠方法
(1)乙第1号証:特開昭49-52377号公報掲載の意匠
(2)乙第2号証:特開平6-277916号公報掲載の意匠
(3)乙第3号証:実開平6-63213号公報掲載の意匠
(4)乙第4号証:実開昭61-124309号公報掲載の意匠
(5)乙第5号証:実開昭64-26107号公報掲載の意匠
(6)乙第6号証の1:1979年7月以降に国内において頒布されたカタログ(カタログNo.79-07)掲載の意匠
(7)乙第6号証の2:乙第6号証の1の「カタログNo.79-07」におけるカタログに掲載されている「ストレートコレット」の意匠及びその説明書
(8)乙第6号証の3:乙第6号証の1について、エヌティーツール株式会社大阪営業所所長寺田弘が作成した供述書
(9)乙第6号証の4:乙第6号証の1について、エヌテイーツール株式会社営業部マネージャー杉浦正博が作成した供述書
(10)乙第6号証の5:乙第6号証の1について、関西精工商事株式会社代表取締役社長市島良一が作成した供述書
(11)乙第6号証の6:乙第6号証の1について、タカラ写真製版株式会社代表取締役社長松浦信三が作成した証明書
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成9年3月14日に出願(意願平9-7472号)され、平成11年6月25日に設定の登録がなされ、平成11年10月4日に意匠公報が発行された意匠登録第1050602号の意匠であって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「コレット」とし、その形態を願書添付の図面に記載されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。
2.イ号意匠
イ号意匠は、被請求人が製造・販売している商品名「クーラント用コレットMC-OH型(クーラント穴付刃具用)」の「型式MC32-25-OH」の意匠であり、判定請求書によれば、意匠に係る物品が「コレット」と認められ、その形態を判定請求書の「イ号図面(代用写真)」に現されたとおりとしたものである(別紙第2参照)。
3.本件登録意匠とイ号意匠の対比
本件登録意匠とイ号意匠とを対比すると、両者は、意匠に係る物品が一致し、その形態については、以下に示す共通点と相違点が認められる。
[共通点]
(1)本体の両端部からスリット状のすり割を等間隔に複数本形成した略円筒形状のコレットであって、工具挿着側開口部に鍔状の大径フランジを形成した全体の基本構成。
(2)チャック挿入側のすり割と工具挿着側のすり割との間も等間隔となるよう形成している点。
(3)大径フランジのチャック挿入側本体部分に凹状の段差溝を1条周設している点。
[相違点]
(イ)チャック挿入側開口部の態様について、本件登録意匠においては、先端外周縁部分を僅かに面取りした略円筒形状であるのに対し、イ号意匠においては、本体の先端部近傍に緩斜なV字溝を1条周設し、先端部を略円環状としている点。
(ロ)工具挿着側開口部の態様について、本件登録意匠においては、端部に大径フランジを形成しているのに対し、イ号意匠においては、端部には小径薄板のフランジを形成し、先端やや中央寄り部分に大径フランジを一つ設けている点。
(ハ)すり割の数について、本件登録意匠においては、工具挿着側及びチャック挿入側に各3条ずつのすり割を形成しているのに対し、イ号意匠においては、各4条ずつのすり割を形成している点。
(ニ)チャック挿入側のすり割の態様について、本件登録意匠においては、すり割の長さを全長の略1/2程度としているのに対し、イ号意匠においては、全長の略9/10弱程度としている点。
(ホ)工具挿着側のすり割の態様について、本件登録意匠においては、スリット状のすり割の長さを全長の略9/10程度とし、該部位のスリット先端部を楕円状に形成しているのに対し、イ号意匠においては、スリット状のすり割の長さを全長の略3/5強程度としている点。
(ヘ)螺旋状溝部の有無について、本件登録意匠においては、本体内壁面部に螺旋状の凹溝を形成しているのに対し、イ号意匠においては、それを設けていない点。
4.類否判断
上記の共通点及び差異点について検討すると、まず、共通点(1)に示す全体の基本構成は、意匠全体の基本的な骨格を成すものであるが、この種物品分野においては、例えば、乙第6号証意匠(別紙第3参照)、公開実用新案公報実開平3-93007号における第4図コレットチャックの意匠といった従来例が既に存在することから、これらの共通性は本件登録意匠及びイ号意匠のみがもつ特徴ということはできず、それに基づく類似性は、各相違点に係る具体的な形態の差異を圧倒するほど強いものではない。
また、共通点(2)に示すすり割の配置態様については、当該態様は締め付け強度を均一にするために当然施されるものにすぎず、かつ、例えば、乙第1号証意匠、意匠登録第507084号の類似第2号意匠、公開実用新案公報実開昭63-147205号における第5図コレットの意匠といった従来例も多数存在することから、該部位の配置態様が共通しているとしても両意匠の共通点として働く効果は弱く、両意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいものである。
また、共通点(3)に示す態様については、この種物品分野において本体の工具挿着側開口部近傍に凹状の段差溝を1条周設したものは例を挙げるまでもなく多数存在しており、当該物品分野においては特段特徴のある形状ではないため、両意匠の類否判断にさしたる影響を及ぼすものではない。
したがって、これらの共通点が相俟った効果を考慮しても、共通点のみをもって両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすと断定をすることはできない。
次に、差異点について検討すると、まず差異点(イ)のチャック挿入側開口部の態様における差異については、イ号意匠の該部位に施された緩斜なV字溝とその結果生ずる先端部が略円環状であるように見える態様は視覚的に目立つものであり、本件登録意匠の格別の変化のない単なる面取りが施された態様とは別異の視覚的まとまりを形成しているものであるから、その差異は微弱なものとは言い難く、両意匠の類否判断上無視し得ないものである。
また、差異点(ロ)の工具挿着側開口部の態様における差異については、特に工具挿着側開口部から観察した場合、イ号意匠の態様は、該部位に大小2つのフランジを重設したように看取されるものであって、大径フランジ全体が開口部となる本件登録意匠の態様とは明らかに異なるものであるから、上記のように共通する態様に格別の特徴が認められない両意匠にあっては、両意匠を別異のものと看者に印象づけるに十分なものであり、これらの差異は両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものと言うよりほかない。
また、差異点(ハ)のすり割の数における差異については、スリット状のすり割を等間隔に3本又は4本形成した形態は、この種物品分野においては、いずれも既にみられるものであって、注目されるほどの差異ではないが、全体的に見た場合には、これらは両意匠の基調の違いを際立たせる視覚的効果をもたらせているものと認められる。
また、差異点(ニ)のチャック挿入側のすり割の態様における差異については、すり割の全長に対する長さの差異は、特段注目されるほどのものではないが、全体的に見た場合には、これらは両意匠の基調の違いを際立たせる視覚的効果をもたらせているものと認められる。
また、差異点(ホ)の工具挿着側のすり割の態様における差異については、この種物品分野においては、単なるスリット状としたものも、スリット先端部を楕円状に形成したものも既にみられる形態であって、注目されるほどの差異ではないが、すり割の全長に対する長さの差異も相俟って、全体的に見た場合には、これらは両意匠の基調の違いを際立たせる視覚的効果をもたらせているものと認められる。
また、差異点(ヘ)の螺旋状溝部の有無における差異については、本体内部の形状に係る差異であって、特段目立つほどの差異ではないが、全体的に見た場合には、これらは両意匠の基調の違いを際立たせる視覚的効果をもたらせているものと認められる。
したがって、上記の差異点(イ)乃至(ヘ)を総合して判断すると、両意匠の差異点が共通点を凌駕することは明らかであって、意匠全体として、イ号意匠は本件登録意匠に類似するものとすることはできない。
第4.むすび
以上のとおりであるから、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しないものと認められる。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2003-05-28 
出願番号 意願平9-7472 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (K7)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前畑 さおり 
特許庁審判長 藤木 和雄
特許庁審判官 岩井 芳紀
江塚 尚弘
登録日 1999-06-25 
登録番号 意匠登録第1050602号(D1050602) 
代理人 佐竹 弘 
代理人 中島 知子 
代理人 門間 正一 

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