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審決分類 審判 無効  1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効としない D2
管理番号 1085046 
審判番号 無効2003-35156
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2003-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-04-15 
確定日 2003-10-09 
意匠に係る物品 幼児用いす 
事件の表示 上記当事者間の登録第1090218号「幼児用いす」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、意匠登録第1090218号(以下、当該意匠を、「本件登録意匠」という。)を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、甲第1号証ないし甲第5号証を提出した。
本件登録意匠は、意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠と同一若しくは類似する意匠であって、意匠法第3条第1項第1号、3号の規定により、新規性を欠如する意匠であり、意匠登録の要件を有していない。
本件登録意匠の形状の特徴は、以下のものである。
(1)側面視して約75度に後傾する左右一対の脚部間に、座部、足載せ、背当てをねじ止めして組み立てた幼児用のいすの基本的な構成としている。
(2)左右一対の脚部下端部を支持する底板は、一本の細い棒状片で「I文字状」に連結されている。
(3)左右一対の脚部間にねじ止め固定された座部、足載せ、背当ては、総て脚部側面に形成したねじ孔を利用して高さ変更可能としている。
(4)左右一対の脚部の側面は、略7cmの幅員を有し、左右一対の脚部は、底板前端と連結され、底板は後端において脚部の中間部との間に補強板を連結して、脚部は、側面視して「6字形」に形成されて、強度に優れる脚部の印象をもたらす形状をしている。
(5)背当ての両端には、テーブルの左右両端から後方へ突出する腕片が固定され、その腕片によりテーブルは水平支持されている。
幼児用いすの「tripp-trapp」(甲第5号証)は、側面視して約75度に後傾する左右一対の木製脚部間に、座部、足載せ、背当てをねじ止めして組み立てた幼児用いすの基本的な構成として、世界のバイブル的存在であり、上記(1)〜(3)は基本的な意匠デザインがこの「tripp-trapp」の意匠デザインの変更にすぎないものであり、特徴とする意匠デザインの違いは、(4)に示す左右一対の脚部の側面が「6字形」に形成されて、強度に優れる脚部の印象を呈する点と、(5)背当ての両端にテーブルは水平支持されている点である。テーブルは幼児用いすのみで使用するに際して必要となる機能的な付加部品であるから、テーブルを除外した幼児用いすの意匠デザインの本質を考えねばならない。してみると、本件登録意匠の意匠デザインの最大の特徴とする部分は、(4)の左右一対の脚部の側面が「6字形」に形成されており、「tripp-trapp」と比較して、がっしりした強度に優れる脚部の印象を呈することになる。
本件登録意匠は、甲第4号証に示す書籍に掲載の意匠(以下、「甲号意匠」という。)である公然意匠デザインと全く同一若しくは、類似するものであり、意匠法第48条の規定により意匠登録を無効とすべきである。
すなわち、甲第4号証に示す書籍に掲載の赤ちゃんが座す写真のいすの構成は、本件登録意匠の上記(1)〜(5)のことごとくを同一とする意匠デザインである。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、要旨以下のとおり主張し、乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
本件登録意匠に係る物品である「幼児用いす」は、床面に設置されるものであり、看者はこれを斜め前方の上方、あるいは側面上方からやや見下ろす視線で観察するのが通常であるといえ、かかる視線で観察したときの目に留まりやすさと、本件登録意匠における各部の創作の程度とを勘案して、本件登録意匠の要部を検討する。
「テーブル」及び「背板」は、前記視線で観たときに目に留まる部位であるが、比較的ありふれたデザイン手法であるから(乙第3号証ないし乙第5号証)、その具体的形状は、本件登録意匠の要部とまではいえず、「足載せ板」及び「座板」は、前記視線で観たときに一応見える部位ではあるが、さほど目に留まる部位ではなく、また、その性質・用途の観点からみてありふれた形状であるから、本件登録意匠の要部とまではいえない。「支柱及びつっかえ棒」は、前記視線で観たときに目に留まる部位である。しかも、この「支柱」自体、多数の取付穴が前後2列に現れていることにおいて特徴的な部分であり、「基部」は、支柱との関係で見れば、基部の前端が相対的に前方へ突出して目に留まるという特徴があり、本件登録意匠の要部は、最も看者の注意を惹きつける「側面形状」、すなわち、(1)支柱に多数の取付穴が2列状に現れていて目に留まり、(2)基部の前端より基部長の約1/4ほど後部から支柱が起立しているため、基部と支柱とつっかえ棒とで「交点のずれた三叉放射形」の印象があり、(3)目に留まる基部の前端及び支柱の上端が四半円弧でアール面取りされていて滑らかな印象がある、「側面形状」ということができる。
本件登録意匠と甲号意匠を対比すると、両意匠は、基本形状において、テーブル及び背当ての高さ変更が可能か不能かという差異がある。また、両意匠は、意匠の要部が存する「側面形状」において、次の顕著な相違がある。すなわち、本件登録意匠の、上記(1)ないし(3)の点に対して、甲号意匠には、(1)支柱の内面に多数の取付溝が現れていて目に留まり、(2)基部の前端から支柱が起立していて、基部の前端の突出がないため、基部と支柱とつっかえ棒とで「6字形」の印象があり、(3)基部の前端及び支柱の上端が角張っていてシャープな印象がある。
そして、この要部における両意匠の相違は、甲号意匠と同じ「支柱の内側面に取付溝があり、且つ、基部の前端から支柱が起立する」グループに属する、先行登録意匠1(乙第1号証)及び先行登録意匠2(乙第2号証)に照らしても、顕著な相違といえる。そして、これらの先行登録意匠及び先行周辺意匠(乙第6号証及び第7号証)に対し本件登録意匠は非類似と判断されて登録されている事実に照らしても、両意匠がこの要部の顕著な相違によって非類似であることは明らかである。
その他に、請求人は、甲第5号証のtripp-trapp意匠を挙げているが、その意図が不明である。むしろ、甲第5号証は甲号意匠の方に近く、本件登録意匠とは遠いものであるから、本件登録意匠と甲号意匠との非類似性を示すものといえる。
以上のとおり、本件登録意匠は、甲号意匠と同一又は類似ではないから、意匠法第3条第1項第1、3号の規定(あるいは意匠法第3条第1項第2、3号の規定)に該当するものではなく、本件審判請求には理由がない。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠登録原簿、願書及び願書に添付の図面の記載によれば、平成10年7月1日に意匠登録出願をし、平成12年9月1日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1090218号意匠であり、意匠に係る物品を「幼児用いす」とし、その形態を、願書及び願書に添付の図面の記載のとおりとするものである(別紙第1参照)。
2.甲号意匠
甲号意匠は、甲第4号証に示す意匠であって、平成8年10月13日に発行された刊行物である書籍「海外のらくらく赤ちゃんグッズ」の第181頁に記載の、同頁中央やや下の赤ちゃんが座した使用状態の写真、その左横の写真、及び、その下方の使用状態を説明する5個の図により表された、「すくすくチェアー」と表示の「幼児用いす」の意匠であり、その形態は、同書籍に記載されたとおりのものである(別紙第2参照)。
ところで、請求人は、甲号意匠について、これを公然知られた意匠とし、本件登録意匠は、その出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠と同一若しくは類似する意匠であって、意匠法第3条第1項第1、3号の規定により、新規性を欠如する意匠であると主張しているが、請求人が公然知られた意匠として示した甲号意匠は、上記のとおり、刊行物に記載された意匠であること、また、請求人は甲号意匠の公知性について特に明らかにしていないことから、請求人は、正確には、意匠法第3条第1項第2、3号の規定によりと主張すべきところを、単に誤って主張したものと解することが可能である。したがって、請求人は、本件の請求の理由について、本件登録意匠は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠と同一若しくは類似する意匠であって、意匠法第3条第1項第2、3号の規定により、新規性を欠如する意匠である、と主張しているものとみなして、以下検討する。
3.本件登録意匠と甲号意匠の対比検討
本件登録意匠と甲号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については、主として以下の共通点及び差異点がある。
まず、共通点として、(1)全体が、左右脚間に、上から順に背当て、テーブル、座、及び足載せを取り付けて成るものであって、座と足載せは、それぞれ脚の任意の高さ位置に取り付け変更して使用可能なものであり、(2)脚は、脚基板、脚支柱及び脚補強板それぞれを同程度の幅でやや太幅の帯板状とし、座奥行きより長い脚基板を前後に向けて配し、その前端側から脚基板の2倍程度の長さの脚支柱を後傾して立設し、脚補強板を脚基板の後端側から脚支柱の中間高さ部位後辺に前傾して架設して、脚基板、脚支柱及び脚補強板で囲まれた三角窓状を表したものとして、これを左右一対対向して配し、左右脚基板間には連結杆を架設し、(3)平面視後方に向かって緩やかな凸弧状に湾曲する帯板状の背板2枚を間を空け上下に配して成る背当てを、左右脚支柱間の上端側に取り付け、(4)共に後辺が緩やかな凸弧状で奥行きのある略四角形板状の座と足載せを、左右脚支柱間の背当て下方部位に間を空け上下に水平状に配して、前側が脚支柱前方に突出し、後側が脚支柱後方に突出するように取り付け、(5)テーブルは、テーブル板を、前辺が緩やかな凸弧状で後辺が緩やかな凹弧状の略四角形板状で、周縁を残して上面内方が浅い凹陥面状のものとし、その左右側に、後方へ延びる細板状の腕片を設け、これを脚支柱の背当て近傍部位に取り付けて、テーブル板を水平状で脚支柱前方に位置するものとし、テーブル板下面と座前辺中央間には保護ベルトを架設している点、がある。
一方、差異点として、(イ)脚端の態様及び脚支柱の立設態様につき、本件登録意匠は、脚支柱上端を前方に向かってやや大きな四半円状の凸弧状に面取りし、脚基板前端も上方に向かってやや大きな四半円状の凸弧状に面取りし、脚支柱下端を脚基板前端の面取り部位後方の上辺上に当接して脚支柱を立設し、脚基板前端を脚支柱下端よりも前方にやや大きく突出しているのに対して、甲号意匠は、脚支柱上端を直線状で両隅が直角状の角張ったものとし、脚基板前端も斜め直線状で両隅が角張ったものとし、脚支柱後辺下端を脚基板前端に当接して脚支柱を立設し、本件登録意匠のような脚支柱下端に対する脚基板前端の突出がないものとしている点、(ロ)脚支柱側面の態様につき、本件登録意匠は、脚支柱内外側面に、多数の小円形状の取り付け孔を全長に亘り等間隔で前後2列に並設し、任意の取り付け孔に止めねじを付け替えることにより、座と足載せのみならず、背当てとテーブルもそれぞれ脚支柱の任意の高さ位置に取り付け変更可能なものとしているのに対して、甲号意匠は脚支柱内側面に、多数の横溝を背当て下方部位の上下に亘り等間隔に並設し、任意の横溝に差し込み替えることにより、座と足載せそれぞれを脚支柱の任意の高さ位置に取り付け変更可能なものとしている点、(ハ)背当ての態様につき、本件登録意匠は、上背板の上辺を左右を除き凸弧状とし、上背板の下辺と下背板の上下辺を水平直線状とし、上下背板間に3本の連結丸棒を縦にして填めたものとしているのに対して、甲号意匠は、上下背板の上下辺全てを水平直線状とし、上下背板間には連結丸棒がないものとしている点、(ニ)座と足載せそれぞれの前辺の態様につき、本件登録意匠は、やや大きな凸弧状としているのに対して、甲号意匠は、直線状としている点、(ホ)テーブルの取り付け態様につき、本件登録意匠は、テーブル板左右側下面に設けた腕片の基部を脚支柱内側面に当接して取り付けているのに対して、甲号意匠は、テーブル板左右側面に設けた腕片の基部を脚支柱外側面に当接して取り付けている点、(ヘ)左右脚間の連結杆につき、本件登録意匠は、左右脚基板間の後端寄りに細丸棒状の連結杆を架設しているのに対して、甲号意匠は、左右脚基板間の後端に脚補強板と同程度の幅でやや太幅の帯板状の連結杆を架設し、さらに、脚支柱の下端寄りと脚支柱の中間高さ部位(脚補強板交点部位)にも細丸棒状の連結杆を架設している点、がある。
そこで、上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、共通点のうち、(1)の点は、全体の構成態様に係るものであるが、例示するまでもなくこの種意匠の分野において従来から普通に採用される形態創作の前提となる構成態様であり、特徴とはいえず、(2)の点は、脚の態様に係るものであるが、この態様から脚補強板を除いた脚の態様についてはこの種意匠の分野においてありふれたものであるところ、さらに脚補強板を架設した(2)の脚の態様も、本件登録意匠の出願前において甲号意匠の他にも見られる態様であって(例えば、乙第2号証:意匠登録第996319号公報等。)、本件登録意匠独自の態様ではないことから、格別のものではなく、特徴とはいえず、(3)の背当ての態様に係る点及び(4)の座と足載せの態様に係る点も、例示するまでもなく従前に見られるありふれた態様であり、特徴とはいえず、(5)のテーブルの態様に係る点は、従来態様に照らしてみても格別のものではなく(例えば、乙第4号証:意匠登録第759393号公報等。)、特徴とはいえず、いずれの共通点も、それ自体が類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものではない。そして、これらの共通点から成る態様は、形態全体に亘り、形態上の骨格形成に強く関わるところではあるものの、上記のとおりのいずれも特徴とはいえない構成各部の共通する態様が相俟ったとしても、構成各部の組み合わせ方に意匠の造形手法上特に評価すべき点もなく、一方で後述のとおりの類否判断上の効果を発揮する(イ)ないし(ヘ)の差異点がある中にあって、共通点から成る全体の態様は、両意匠の類否を決するまでの特徴を成すには至っておらず、その類否判断に及ぼす影響は、さほど大きいものとはいえず。共通点のみをもって両意匠の類否を決するものとすることはできない。
一方、差異点につき、(イ)の点については、脚端の態様及び脚支柱の立設態様を具体的に表すところであるが、本件登録意匠の脚基板前端を脚支柱下端よりも前方に突出した態様は、その突出の程度がやや大きい顕著なものであって、形態上の骨格に影響を及ぼすものといえ、脚基板前端の凸弧状の面取り、さらには脚支柱上端の凸弧状の面取りも加わって、甲号意匠の、脚基板前端の突出がなく、脚基板前端及び脚支柱上端の凸弧状の面取りもない態様として、角張った印象が強いものとは別異の印象を与えるところとなっており、(ロ)の点については、脚支柱側面の態様を具体的に表すところであるが、小円形状の取り付け孔を脚支柱側面に設けること自体は普通に見られるものの、本件登録意匠の脚支柱内外側面全長に亘り前後2列に並設した取り付け孔の具体的な配設態様は、従来態様に照らしてみても特徴を成すところといえ、視覚的にも脚支柱内外側面全長に亘り表された顕著なものであって、看者の注意を惹くところであり、甲号意匠はこの特徴となる態様を有さず、結局、(イ)及び(ロ)の点は、通常の使用時において顕著に観察される部分である脚に係る差異であって、これらの差異点が相俟って、両意匠を別異のものと看者に印象付ける一定の効果を発揮している。(ハ)の背当ての態様に係る点、及び(ニ)の座と足載せそれぞれの前辺の態様に係る点は、両意匠のものとも、それらの態様自体は格別目新しいものではないものの、本件登録意匠が凸弧状の辺を多用して、脚基板前端と脚支柱上端の凸弧状の面取りとも相俟って丸みを強調する印象のものとなっているのに対して、甲号意匠は、角張った印象が強い脚の態様とも相俟って直線状の辺と角を主体としたシャープな印象のものとなっており、結局、これらの差異点は、両意匠が別異のものである印象を補強する効果を発揮している。その他、(ホ)の点は、テーブルの取り付けを脚支柱の外側面とするか内側面とするかの部分的な改変に係る差異に過ぎず、(ヘ)の点は、俯瞰した際に、座、足載せ等に遮られて比較的観づらい部分である左右脚間の連結杆に係る差異であり、これらの差異自体が類否判断に及ぼす影響は小さい。
したがって、差異点については、とりわけ(イ)ないし(ニ)の点は、相俟って両意匠を別異のものと看者に印象付けるに十分なものであって、他に(ホ)及び(ヘ)の差異点もあり、これらの差異点がある中にあって、共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものではなく、これらの差異点が相俟って共通点を凌駕することは明らかであり、意匠全体として、本件登録意匠は、甲号意匠に類似するものとはいえず、また、これらの差異点がある甲号意匠とは同一ともいえない。
4.結び
以上のとおりであって、請求人の提出した証拠及び主張によっては、意匠法第3条第1項の規定に違反して登録されたものとして、本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2003-08-11 
結審通知日 2003-08-14 
審決日 2003-08-28 
出願番号 意願平10-19122 
審決分類 D 1 11・ 113- Y (D2)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 遠藤 京子
特許庁審判官 渡邊 久美
伊藤 晴子
登録日 2000-09-01 
登録番号 意匠登録第1090218号(D1090218) 
代理人 松波 祥文 
代理人 川岸 弘樹 
代理人 松原 等 
代理人 後藤 昌弘 
代理人 藏富 恒彦 

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