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審決分類 審判 無効  創作者、出願人 無効としない G2
管理番号 1101318 
審判番号 無効2003-35361
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2004-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-08-29 
確定日 2004-07-20 
意匠に係る物品 二輪車用集配箱 
事件の表示 + 上記当事者間の登録第0958404号「二輪車用集配箱」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1. 請求の趣旨及び理由
審判請求人(以後、請求人という。)は、「登録第958404号意匠(以下、本件登録意匠という。)の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由として、審判請求書の記載のとおりの主張をし、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。
その理由は、概ね次のとおりである。
(1)本件登録意匠は、審判被請求人(以後、被請求人という。)によって出願され、設定登録されたものであるが、本件意匠の登録出願は、被請求人の共同開発者たる請求人と共同でなければすることができないにもかかわらず、被請求人の代表者を以て創作者とし、被請求人が意匠登録出願人となって、請求人に無断でなされたものであるから、意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条に違反してなされたものであり、意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
そして、請求人が共同開発したとする証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証として、登記簿謄本のコピー。
(請求人は、フォルムデザイン有限会社から組織を変更すると共に社名を変更したとのことである。)
甲第2号証として、請求人が完成させたとする、試作品の一組の写真。
(請求人によれば、被請求人がこの試作品を郵政省が希望している機能を満たしているか確認してもらうべく郵政省本庁に提示したとのことである。)
甲第3号証として、請求人が作成したとする、試行品の開発設計図面1〜5のコピー。
(請求人は、甲第3号証1ないし5で示す図面は、それぞれ、本件登録意匠の、蓋、アウターボディー、縦断面図、ロックカバー、ロックハンドルと、略同一な形態であるとしている。)
甲第4号証として、請求人と被請求人で交わされた、「覚書」のコピー。
(「覚書」には、本件登録意匠の開発・試作・製造に請求人が参加をすること、及びスライドハンドル部分は請求人が開発製造したものを被請求人へ納入すること、等が記載されている。)
甲第5号証として、試行品の加工業者への、発注書のコピー。
(加工業者は、請求人が決定したとのことである。)
甲第6号証として、請求人が作成したとする、ボディー上下スライド機構原案の「機構説明図」のコピー。(別紙第2参照)
(請求人は、この「機構説明図」に、本件登録意匠にあるような略等脚台形枠状のサイドカバー(ロックカバー)が表されているとしている。)
甲第7号証として、加工業者において撮影された、一組の写真。
(この写真は、試行品の検査及び箱詰め風景の写真であるが、日付は本件登録意匠出願後の、1994年3月9日付である。なお、この試行品は、内側本体部の四隅に縦リブが形成されている点が、本件登録意匠とは相違する。)
甲第8号証として、本件登録意匠の意匠公報。
甲第9号証として、本件登録意匠の登録原簿。

第2. 答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由として、答弁書に記載のとおりの反論をし、乙第1号証ないし乙第20号証を提出した。
その理由は、概ね次のとおりである。
(1)本件登録意匠の開発は、請求人が被請求人と共同で開発を開始したと主張する1993年11月3日の時点で、既にそのデザイン及び基本的機構が完成していたので、松田真次が創作者であり、したがって請求人の主張は誤りである。
そして、被請求人が、既にそのデザイン及び基本的機構が完成していたとする証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証として、被請求人が本件登録意匠(各乙号証によれば「集配用キャリーボックス」「集配業務用トランク」「集配トランク」「集配リアトランク」「集配ボックス」等とされている。)の開発を開始するに至った経緯を記録した、郵政省財務部との打合せ記録のコピー。
(記録では、郵政省から株式会社松田技術研究所に電話が入り、1993年5月28日に松田真次が郵政省を来訪したところ、「集配用キャリーボックス」の開発協力を依頼されたとある。)
乙第2号証ないし乙第3号証として、郵政省財務部との打合せ記録と、「集配用キャリーボックス」の基本デザイン及び基本構想として提示した、松田真次が作成したとする図入りの「郵政集配リアトランク商品説明」のコピー。
(「郵政集配リアトランク商品説明」では、三大特徴として、外形デザインが前後左右同一デザインで縦横自在に積載可能な点、高さ可変である点、蓋の開閉が3変機能である点を挙げている。)
乙第4号証ないし乙第6号証として、さらに打合わせが行われていたことを記録した、郵政省財務部等との打合せ記録のコピー。
乙第7号証として、松田真次が完成させたとする、発泡スチロールモデルの一組の写真のコピー。
乙第8号証ないし乙第10号証として、乙第7号証に示す発泡スチロールモデルを松田真次が郵政省財務部に提示したことを記録した、郵政省財務部との打合せ記録、および、同時に提示した図入りの「郵政集配リアートランク構造説明」のコピー。
(「郵政集配リアートランク構造説明」において、高さは無段階で高くなるとしている。)
乙第11号証ないし乙第12号証として、試作品と量産に向けて、試作方法やコストについての話し合いが行われていたことを記録した、郵政省財務部との打合せ記録のコピー。
乙第13号証ないし乙第14号証として、松田真次が作成したとする図入りの「集配用ボックスの商品性比較」と、郵政省財務部に提出した図入りの「集配キャリーボックス開発企画書」のコピー。
(「集配キャリーボックス開発企画書」には、本体はアウターボディとインナーボディにて構成されスライド機構を装備するとの記載があり、同書の「集配業務用トランク」とした図に、トランク本体にスライド機構内蔵と記載するとともに、アウターボディ左右両側のハンドル部の部品名を「レバー」と記載している。)
乙第15号証として、被請求人が開発協力を依頼される前に、郵政省財務部から開発依頼されていた他社と、郵政省財務部と被請求人とで行った、今後の開発継続進行に関する会議の、記録のコピー。
乙第16号証ないし乙第17号証として、試作と安全確認実験並びに量産について、郵政省と被請求人が打合せしていたことを記録した、打合せ記録のコピー。
(乙第17号証の打合せ記録によれば、安全確認実験用試作品は被請求人の発泡スチロールモデルをマスター型とするとの記述がある。)
乙第18号証として、郵政省仕様に着色した発泡スチロールモデルの一組の写真のコピー。
乙第19号証として、被請求人が完成させたとするFRPモデルを使った安全確認実験実施中の一組の写真のコピー。
乙第20号証として、松田真次が作成したとする図入りの「年内郵政業務用品開発計画」のコピー。
(同書の「集配トランク」の図の説明中に、ハンドル部は「レバー」で、その備考欄に、アウターボックス上下のシステム内蔵との記載がある。なお、乙第20号証の日付は、1993年10月25日である。)

第3.弁駁
その主旨は、概ね次のとおりである。
被請求人提示の、乙第3号証、乙第7号証、乙第10号証、乙第13号証、乙第14号証、乙第18号証ないし乙第20号証それぞれに示されている図面や写真が現す意匠と本件登録意匠とは、内側本体部の左右側外面の幅広凹溝部とその両脇のレール部、そしてハンドル部を囲繞する略等脚台形枠状のサイドカバー(ロックカバー)の有無という相違点が存在するが、この相違点に係る部分は特徴的な形態上の相違点である。それ故、本件登録意匠は、1993年11月3日の時点で完成していなかったことは明らかである。
そして、この相違点に係る部分は、内側本体部に対して外側本体部を上下方向にスライド移動せしめると共に、任意のスライド位置での状態を確実に維持する(ロック状態とする)ための上下スライド機構に関連するもので、この上下スライド機構部分の開発、製造は、被請求人から依頼された請求人が、1993年11月3日から開発を進め、完成させたものである。
このことは、甲第4号証「覚書」に、上下スライド機構部分(スライドハンドル部分)は請求人の開発・製造したものを被請求人へ納入すると記載されていること、また、甲第6号証に、請求人が開発した上下スライド機構部分(スライドハンドル部分)が表現されていること等からも明らかである。
すなわち、請求人が開発した部分を組合わせるような改良を施したことによって初めて本件登録意匠が完成したものであり、少なくとも、その改良に伴う意匠的な変更部分に関して創作した請求人にも、本件意匠登録を受ける権利がある。

第4.再答弁
その主旨は、概ね次のとおりである。
請求人の主張する相違点の、凹溝部とレール部は、内側本体部の左右側に設けられたものであるとともに、外側本体部をスライド移動しなければ見ることのできない部分であること、そして、サイドカバーは、外側本体部の左右側外面に設けられたものであるから、いずれも、看者の注意を惹くことの少ない部分であり、それらの有無は看者に別異の印象を与える程度の意匠上の差異とは考えられず、従って、全体観察を行った場合において、本件登録意匠と各乙号証意匠は実質的に同一と考えることができる。そのため、本件登録意匠の正当な創作者は松田真次であり、意匠登録を受ける権利は被請求人のみが有していたものである。
なお、各甲号証のいずれにおいても、前記の凹溝部、レール部、サイドカバーの部分を請求人が創作したことは証明されておらず、この点においても請求人の主張は誤りである。

第5.当審の判断
1.1993年11月3日の時点において、既に本件登録意匠のデザイン及び基本的機構が完成していた証拠として被請求人が提出した各乙号証について、請求人は何も申し立てておらず、当事者間の争いはない。また、その証拠としての信憑性を否定する理由もないと認められる。
そこで、各乙号証に示された図及び写真、並びに記述を総合して、乙第20号証の日付たる1993年10月25日までに被請求人が創作していた意匠を導きだし、本件登録意匠と対比して、その共通点及び差異点について判断することにより、本件登録意匠は被請求人単独で創作せしめたものではないとする請求人の主張について検討する。

2.各乙号証に示された意匠(別紙第3参照)
被請求人によれば、本件登録意匠に係る「集配用キャリーボックス」の開発は、1993年5月28日に、被請求人が郵政省財務部から開発の協力依頼を受けて開始した(乙第1号証)。そして、同年6月17日に、被請求人は「郵政集配リアトランク商品説明」により基本デザイン及び基本構想を提示した(乙第3号証)。
「郵政集配リアトランク商品説明」に示された乙第3号証の意匠は、有底の角筒状内側本体に、角筒状外側本体を上下スライド可能状に取り付けて、本体の高さを可変としたもので、外側本体に設けられた蓋体は、蝶番による開閉、横スライド、縦収納の3開閉方式を可能とし、さらに蓋体前部に錠を取り付けたものである。
ついで、被請求人は、同年7月10日に、発泡スチロールモデルを完成した(乙第7号証)。
発泡スチロールモデルに現された乙第7号証の意匠は、本体は、下方が僅かに狭まった略逆角錐台状を呈する、4隅を弧状とした有底角筒状の内側本体部と、下方が僅かに広がった蓋付の略角錐台状を呈する、4隅を弧状とした角筒状外側本体部を、上下方向にスライド移動するように組合わせたものであって、蓋体は、四隅の角が弧状の浅皿状を呈し、外側本体部の外面と蓋体の外面が面一状態に嵌合するように、後方の2箇所の蝶番で外側本体に取り付けられるとともに、外側本体部に掛け留める錠部を前部中央に取り付けたもので、外側本体部は、前部中央に本体側錠部を取り付ける凹部を形成し、その左右に傾斜状の横長凹部を上縁部に沿って形成し、左右外側面部の略中央に、横長手掛け部と横長凹陥状手差し部を上下に連続形成してハンドル部とし、ハンドル部全体を略等脚台形状に形成したものである。なお、開蓋状態は示されていない。
「郵政集配リアートランク構造説明」に示された乙第10号証の意匠は、次の点を除き、乙第7号証の意匠と略同一である。すなわち、ハンドル部形状を、凹陥状手差し部のない突出型の横長手掛け部のみとした点。なお、本体の可変状況について、無段階で高くなる旨の記述がある。
「集配用ボックスの商品性比較」に示された乙第13号証の意匠は、次の点を除き、乙第7号証の意匠と略同一である。すなわち、ハンドル部の位置が外側本体部の下端部中央であって、その形状は、突出型の横長手掛け部が認められるものの、凹陥状手差し部の有無は不明である点。
「集配用キャリーボックス開発企画書」に示された乙第14号証の意匠は、次の点を除き、乙第7号証の意匠と略同一である。すなわち、ハンドル部の位置は外側本体部の下端部中央であって、その形状は、突出型の横長手掛け部のみで形成している点と、外側本体部の錠部左右の傾斜状横長凹部の縦横比が相違する点。また、乙第14号証の意匠においては、蓋体裏面にレールと蝶番が表されており、外側本体部の上縁部全周に蓋部と嵌合させるための立壁部を段差状に形成している。なお、本体のスライド機構につき、トランク本体にスライド機構内蔵との記述があり、ハンドル部の横長手掛け部について、その部品名をレバーと記している。
発泡スチロールモデルを着色した乙第18号証の意匠は、色彩以外は乙第7号証に示す意匠と略同一である。
FRPモデルによる乙第19号証の意匠は、色彩以外は乙第7号証に示す意匠と略同一である。なお、乙第17号証に示す会議記録に、FRP試作は発泡スチロールモデルをマスター型とするとの記載がある。
「年内郵政業務用品開発計画」に示された乙第20号証の意匠は、次の点を除き、乙第14号証の意匠と略同一である。すなわち、ハンドル部につき、横長手掛け部の突出の有無が定かではないが、凹陥状手差し部は形成されている点。なお、ハンドル部の横長手掛け部につき、品名をレバーと記するとともに、備考欄にアウターボックス上下のシステム内蔵と記述している。

3.被請求人により創作されていた意匠(乙号証意匠)
そこで、本件登録意匠の出願前に、被請求人により創作されていた意匠(以下、乙号証意匠という。)を各乙号証から導き出せば、以下のとおりとなる。
すなわち、下方が僅かに狭まった略逆角錐台状を呈する、4隅を弧状とした有底角筒状の内側本体部と、下方が僅かに広がった略角錐台状を呈する、4隅を弧状とした蓋体付の角筒状外側本体部を、上下方向にスライド移動するように組合わせ、内部の収容体積を増減させるように形成した本体部からなるもので、蓋体は、四隅の角が弧状の浅皿状を呈し、外側本体部の外面と蓋体の外面が面一状態に嵌合するように、後方の2箇所の蝶番で外側本体に回動自在に取り付けられるとともに、蝶番にレール保持部を一体形成し、該保持部に保持される2条のレールを蓋体裏面に形成して、蓋全体を蝶番を中心にスライド移動可能に形成し、前部中央に外側本体部に掛け留める錠部を取り付け、外側本体部につき、前部中央に取り付けた本体側錠部を中心に、上縁部に沿って傾斜状の横長凹部を形成し、上縁部全周に蓋体部と嵌合させるための立壁部を段差状に形成し、左右外側面部に、横長手掛け部を有するハンドル部を形成した、全体の基本的態様。
しかし、ハンドル部は、その位置について、外側本体部の左右外側面部の略中央としたもの(乙第7、18,19号証)と、下端部中央としたもの(乙第13、14,20号証)が認められ、その形状について、横長手掛け部と横長凹陥状手差し部を上下に連続形成し、そのハンドル部全体を略等脚台形状としたもの(乙第7、18,19、20号証)と、横長手掛け部は認められるものの、凹陥状手差し部がない、あるいはその有無が不明なもの(乙第10、13、14号証)が認められ、また、横長手掛け部を「レバー」と記しているもの(乙第14、20号証)があることが、認められる。
そして、本体部の上下スライド機構に関しては、「無段階高さ変更可」という記載(乙第10号証)、「トランク本体にスライド機構内蔵」という記載(乙第14号証)、ハンドル部を「レバー」とし、その備考欄に「アウターボックス上下のシステム内蔵」という記載(乙第20号証)が認められる。いずれも機構自体と思われる図は示されていない。
また、外側本体部前部中央の錠部を中心に形成された傾斜状横長凹部について、細長く形成したもの(乙第7号証等)と、太く短く形成したもの(乙第14,20号証)が認められ、さらに、本体部の全高についても、若干の幅が認められる。
これらを総合すると、被請求人による意匠は、ハンドル部の位置と形状、本体上下スライド構造を担う具体的機構部、そして、外側本体部前部の傾斜状横長凹部と本体の全高という具体的寸法に関して、未だ特定されない部分があることが見て取れる。
しかし、ハンドル部を、その位置について、外側本体部の下端部中央とし、形状について、横長手掛け部と横長凹陥状手差し部とでハンドル部全体を略等脚台形状とし、横長手掛け部をレバーとするという、本件登録意匠のハンドル部と共通する態様のものが、そこには既に認められる。
そして、乙第19号証で示された意匠はFRP試作品による安全確認実験中の写真によるものであることからして、既に、この時点において工業上利用可能な程度の意匠の創作が完了していたと見るのが自然で、他の各乙号証に示された意匠も、この意匠と基本的態様が略同一であると認めることができる。
これに対して、請求人は本体の上下スライド機構を創作したとするが、外側本体部分が上下スライドするという「デザイン及び基本的機構」は被請求人により既に明示され、外側本体部が上にスライドして係止された状態も具体的に表されており、被請求人による意匠は何らかの上下スライド機構を有することを示唆しているものであるから、請求人が開発に加わることによって初めて、本体部の上下スライドという意匠として重要な特徴が新たに加えられたわけではない。従って、被請求人により創作されたとする部分が共同開発とするに値するものであるか否かは、意匠を全体的に観察した場合の視覚的効果等の観点から判断すれば足ることである。

4.本件登録意匠(別紙第1参照)
本件登録意匠は、平成6(1994)年3月4日に出願(意願平6-5588)され、平成8(1996)年4月23日に意匠権設定の登録がなされた意匠登録第958404号であって、願書及び願書添付の図面によれば、意匠に係る物品を「二輪車用集配箱」とし、その形態を同図面記載のとおりとしたものである。
すなわち、全体の基本的態様を、下方が僅かに狭まった略逆角錐台状を呈する、4隅を弧状とした有底角筒状の内側本体部と、下方が僅かに広がった略角錐台状を呈する、4隅を弧状とした蓋体付の角筒状外側本体部を、上下方向にスライド移動するように組合わせ、内部の収容体積を増減させるように形成した本体部からなるもので、蓋体は、四隅の角が弧状の浅皿状を呈し、外側本体部の外面と蓋体の外面が面一状態に嵌合するように、後方の2箇所の蝶番で外側本体に回動自在に取り付けられるとともに、蝶番にレール保持部を一体形成し、該保持部に保持される2条のレールを蓋体裏面に形成して、蓋全体を蝶番を中心にスライド移動可能に形成し、前部中央に外側本体部に掛け留められる錠部を取り付け、外側本体部につき、前部中央に取り付けた本体側錠部を中心に、上縁部に沿って傾斜状の横長凹部を形成し、上縁部全周に蓋部と嵌合させるための立壁部を段差状に形成し、左右外側面部の中央部分の下端位置に、横長手掛け部を有するハンドル部を形成した、全体の基本的態様。
そして、左右側外面のハンドル部について、横長手掛け部を、上方を支点に回動するものとし、該手掛け部外面を外側本体の外面と略面一状となるよう形成し、その下方を手差し用凹部に形成し、ハンドル部全体を略等脚台形状として、その周囲に略等脚台形状からなる細幅枠を形成し、外側本体部の下縁部全周に、玉縁状縁取り部を形成し、内側本体部の左右側外面の中央部分に、上下方向に沿って幅広凹溝とその両脇にレール部を形成し、底面部に高台状脚部を形成したものである。

5.両意匠の対比
本件登録意匠と乙号証意匠を比較すると、その形態について、以下の差異点及び共通点が認められる。
(共通点)
下方が僅かに狭まった略逆角錐台状を呈する、4隅を弧状とした有底角筒状の内側本体部と、下方が僅かに広がった略角錐台状を呈する、4隅を弧状とした蓋体付の角筒状外側本体部を、上下方向にスライド移動するように組合わせ、内部の収容体積を増減させるように形成した本体部からなるものであって、蓋体は、四隅の角が弧状の浅皿状を呈し、外側本体部の外面と蓋体の外面が面一状態に嵌合するように、後方の2箇所の蝶番で外側本体に回動自在に取り付けられるとともに、レール保持部を蝶番に一体形成し、該保持部に保持される2条のレールを蓋体裏面に形成して、蝶番を中心に蓋体全体をスライド移動可能状に形成し、外側本体部に掛け留められる錠部を前部中央に取り付け、外側本体部につき、前部中央に取り付けた本体側錠部を中心に、上縁部に沿って傾斜状の横長凹部を形成し、上縁部全周に蓋部と嵌合させるための立壁部を段差状に形成し、左右外側面部の略中央下端に、横長手掛け部と手差し用凹部からなる全体を略等脚台形状としたハンドル部を形成し、全体の奥行き:横幅:高さの構成比について、外側本体部下降時を略4:5:3のものとし、外側本体部上昇時を略4:5:5のものとした、全体の基本的及び具体的構成態様。
(差異点)
(い)内側本体部について、本件登録意匠は、左右側外面の中央部分に幅広凹溝とレール部を上下方向に形成し、底面部に高台状脚部を形成したのに対し、乙号証意匠はそのようなものを形成していない点。
(ろ)外側本体部について、本件登録意匠は、ハンドル部周囲に略等脚台形状の細幅枠を形成し、周側面の下縁部全周に玉縁状縁取り部を形成したのに対して、乙号証意匠は、そのようなものを形成していない点。
なお、差異点(い)で述べた幅広凹溝とレール部、そして、差異点(ろ)で述べたハンドル部周囲の略等脚台形状細幅枠部については、請求人も弁駁書において差異点として挙げ、この部分は請求人が創作したと主張しており、この部分が特徴的な形態であることを以て、共同出願とすべき理由としている。

6.両意匠の異同及び無効理由の検討
以上の共通点と差異点を総合して両意匠を全体として検討すると、全体の基本的構成態様についての共通点は、意匠全体の骨格をなすものであり、両意匠の特徴を表すものとなっている。
すなわち、共通するとした全体の基本的構成態様は、この意匠の属する分野においてそれまでに例のない態様のものであるうえ、具体的態様においても共通点が認められ、両意匠が概ね一致するほどの圧倒的範囲を共通点が占めている。
これに対し、差異点は、技術的改変の範ちゅうにあるもの、あるいは、一般的改変の範ちゅうにあるものと認められるから、意匠的に評価できるものではなく、いずれも意匠を全体として特徴づけるものではない。
それについて、まず、請求人が差異点として挙げた、幅広凹溝とレール部、そして、ハンドル部周囲の細幅枠部についてみれば、これらの差異は、上下スライド機構の構造を変更したことに伴うものであるが、請求人が創作したとするこの部分は、視覚に大きな影響を及ぼす形態上の特徴とはなっていない。その理由について、以下に述べる。
内側本体部の差異点(い)で挙げた、幅広凹溝とレール部の有無については、上下スライド機構の具体的構造が両意匠において異なることに由来するが、被請求人が既に創作していた上下スライド機構はどのようなものであったかを振り返ると、無段階高さ変更可能で、本体部にスライド機構を内蔵するとしたものであった。すなわち、スライド機構の構造部が外観に表れないことを意図したもので、実際、被請求人の作成したとするいずれの図面等においても、その構造は全く外観上に表されていない。
それに対して、本件登録意匠には上下スライド機構の一部をなす幅広凹溝とレール部が露出されており、請求人が上下スライド機構として凹溝とレールを採用したとしても、スライド機構に溝を伴うレールを採用することは従来より普通に行われていたことを勘案すれば、それは技術的課題を常套的形状によって表したまでのものであって、そこに評価すべき意匠的創作は見出し得ない。また、形態的に見ても、本件登録意匠のこの部分の形状は、わずかな凹みと両側のわずかな凸部からなり、図面を仔細に検討しても、この部分を外観上目立たせるための意匠的創意工夫はなく、そこに独自の視覚的効果を求めたことはうかがえない。すなわち、幅広凹溝とレール部については、甲各号証のうち、甲第2号証(試作品写真)、甲第3号証3(組図)、甲第6号証(機構説明図)にその存在が示されているものではあるが、それは本件登録意匠の該当部分の形態とは異なっており、単に技術的課題の延長上として示されたものであるから、意匠的創作といえるものではない。
さらに、上下スライド機構に関する請求人の明示的な関与は、甲第4号証の「覚書」の、「2.スライドハンドル部分は請求人が開発製造したものを被請求人へ納入する。」旨の記述部分と、甲第6号証の、「アウター&インナのサイドスライドロックの構造」を図示した「機構説明図」における図面と各部の説明の記載部分による。そして、「機構説明図」というものの、そこに明らかなのは、ハンドルの横長手掛け部(ロックハンドル)の内側にほぼ納まるように形成されたサイドスライドのロック機構を請求人が創作したこと、および、このロック機構を納め、アウターボディーに取り付けるための略等脚台形状細幅枠部を有するサイドカバー(ロックカバー)を請求人が創作したこと、の2点である。しかし、そのロック機構は、「ロックハンドル」(甲第3号証5)の内側に隠され、外観からは確認できないものであり、また、サイドカバーについても、手掛け部と手差し部からなる埋め込み型ハンドルの分野では、ハンドル本体部と相似形の細幅枠の形成は、普通に行われている技術的常套手段に過ぎないものであり、各甲号証に表された細幅枠もこれにならったに過ぎず、このような細幅枠部を形成することを以て新たな視覚的効果が得られたとは認められないから、この部分の請求人の関与は意匠的特徴を持つものではない。
すなわち、本件登録意匠の開発における請求人の参加は、技術的改良を求められてのことであって、意匠、すなわち、外観について、新たな開発を求められたわけではなく、そのことは、答弁書を受けての弁駁書の主張が審判請求書に比してトーンダウンしていることや、請求人の参加後の試作品の完成、さらに試行品の発注、そして検査、箱詰め行程へと移行しても、そもそもの開発発注者たる者と請求人との間に、試行品等が現す意匠について、改めて賛否・適否等の検討がなされたことが証拠からはうかがえないことからも明らかで、取引者、需要者に、意匠上では同一と認められる範囲のものと認識されたとするのが相当であり、基本的態様はむろんのこと、具体的態様においても、新たな意匠的特徴となる変更はなされていないと見るべきである。
また、高台状脚部や外側本体部下端の玉縁状縁取りの有無における差異は、実施化を前提に、被請求人の下で部分的改良を施し(この点について請求人からの主張はない。)、まとまりのある統一的な意匠として完成し、それを被請求人が出願したものと認められる。
そうすると、上下スライド機構部の改良に伴う変更部分や、前記のような形態上の差異があるとしても、意匠の創作という観点からすると、本件登録意匠は乙号証意匠とほぼ同一の範囲にあり、本件登録意匠の創作は請求人の参加以前にその大半は終了し、最終的に被請求人の下で実施可能な意匠として完成したと判断するのが妥当である。
したがって、本件登録意匠は、被請求人において創作がなされていた意匠と同一の範囲のものと認められ、意匠権を受ける権利が共有に係るものと認めることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件に関し、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件登録意匠を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2004-05-25 
結審通知日 2004-05-27 
審決日 2004-06-08 
出願番号 意願平6-5588 
審決分類 D 1 11・ 15- Y (G2)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤木 和雄 
特許庁審判長 藤木 和雄
特許庁審判官 岩井 芳紀
樋田 敏恵
登録日 1996-04-23 
登録番号 意匠登録第958404号(D958404) 
代理人 中村 政美 
代理人 杉本 良夫 

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