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審決分類 |
審判 無効 1項2号刊行物記載(類似も含む) 無効とする K1 |
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管理番号 | 1113150 |
審判番号 | 無効2003-35329 |
総通号数 | 64 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2005-04-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2003-08-08 |
確定日 | 2005-02-21 |
意匠に係る物品 | ニッパー |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1173657号「ニッパー」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第1173657号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.請求人の主張 請求人は,「結論同旨の審決を求める。」と申し立て,その理由を要旨以下のように主張し,証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証を提出した。 甲第1号証:意匠公報第957708号 甲第2号証:意匠権侵害差止仮処分申請事件決定書 (1)請求の理由の要点 イ 本件登録意匠は,請求人の意匠権である意匠登録第957708号に酷似しており,意匠法第3条第1項1号の規定により意匠登録を受けることができないものであり,同法第48条第1項1号もしくは2号により無効とされるべきものである。 ロ 被請求人は,既に市販されていた請求人の登録意匠(意匠登録第957708号)の実施品である「ニッパ」を入手し,寸法形状をスケッチして増力機構部分である鍛造部品の形状肉付けを全く同一にし,板金製ハンドル部分に樹脂製のグリップをかぶせて平成9年9月から販売したものである。 ハ 請求人は,平成10年3月に新潟地方裁判所3条支部に意匠権侵害差止仮処分申請を起こし,同年9月8日同所3条支部において,「被請求人の意匠は請求人の意匠に類似する」として,「製造してはならない」との「決定」が下されて販売は停止状態にあった。 しかしながら,被請求人は仮処分の「決定」が下された後の平成13年7月4日に,意匠権侵害時と全く同じ形状のまま本件登録意匠を出願しているが,出願時点ですでに新規性を喪失している。 (2)無効とすべき詳細な理由 イ 本件登録意匠は,頭部は鍛造品,柄部は鋼板製で成形グリップを被せ,柄の開き止めとして針金状のフックを使用している。 ロ 甲第1号証の意匠(意匠登録第957708号)は,頭部は鍛造品,柄部は鋼板製で柄の開き止めとして鋼板製のロックレバーを取り付けている。 ハ 本件登録意匠の製品は倍力ニッパーであり,頭部の増力機構部分の剛性が切断能力を決定する。意匠の要部は頭部である。この頭部において本件登録意匠の増力機構部分の形状,寸法,厚さ,肉の配り等が証拠の意匠と全く同一である。 ニ 柄部において,本件登録意匠は成形グリップの「つば」が大きく外側に突き出ているが,それ以外のグリップ部分は,意匠の違いを喚起するほどの特徴があるわけではない。刃部において,刃の先端が本件登録意匠では甲号証意匠より尖っているが,全体としては微少な寸法の違いであって,美的創造性の違いと言うほどのものではない。 したがって,意匠登録第1173657号は,その出願以前に公知公用であったから無効とされるべきである。 2.被請求人の主張 被請求人に対しては,請求人の提出した審判請求書副本を送達して答弁を求めたが,何等の応答もない。 3.職権審理結果 当審において職権審理の結果,新たに無効とすべき理由を発見したので,請求人及び被請求人に対して平成16年1月26日付で以下の職権審理結果を通知した。 「本件登録意匠は,その意匠登録出願前の平成9年8月頃モトコマ株式会社により日本国内で製造され,同年11月頃から日本国内で販売された倍力カッター(PCU 20 POWER CUTTER)の意匠と類似するものと認められ,意匠法第3条第1項第3号に該当する。 したがって,本件登録意匠は,同法同条の規定に違反して登録されたものであるから,その意匠登録を無効とすべきものとする。」 これに対して,請求人及び被請求人からは何等の応答もなされていない。 4.当審の判断 (1)本件登録意匠 本件登録意匠は,平成13年7月4日の意匠登録出願に係り,平成15年3月20日に設定の登録がなされた意匠登録第1173657号であって,願書の記載及び願書添付の図面によれば,意匠に係る物品を「ニッパー」とし,その形態を別紙第1に示すとおりとしたものである。 すなわち,その全体の基本形状は,先端部に刃部を形成し,その下方に枢着部を形成した左右に開閉可能な頭部と,それに連続する開閉可能なハンドル部とから成るニッパーであって,頭部は,略三角形状の刃部を先端に向かって漸次厚みを薄く形成し,刃部下方には交差する左右の刃基部を回動可能に枢着する頭部枢着部を設け,ハンドル部は,その上方に頭部枢着部と連動して回動するハンドル枢着部を形成し,その下方に左右一対のハンドル部材を尾端に向かって徐々に拡開した態様のものであり,その各部の具体的な態様は,頭部の態様について,左右の刃体を略直角三角形状とし,片側に平滑面を他側に凹凸面を形成し,頭部枢軸部付近の肉厚を厚くすると共にその横幅を枢軸部下方で一旦狭めた後に肩部を経てハンドル部に連続させたものとし,ハンドル部の態様について,ハンドル枢着部下方にロックピンを設け,正面態様において,左ハンドル部材をやや大きく右ハンドル部材をやや小さく湾曲させ,各ハンドル部材の全長の略5分の4程度を上端が幅広で下方に徐々に幅狭となる不透明なハンドルカバーで覆い,下端にストッパリングを取り付けた態様としたものである。 (2)引用意匠 当審において職権審理の結果新たに発見した「倍力カッター」の意匠は,平成10年9月8日新潟地方裁判所3条支部でなされた「平成10年(ヨ)第11号意匠権侵害差止仮処分申請事件」(債権者:トップ工業株式会社,債務者:モトコマ株式会社)において審理されたイ号物件であり,同決定及び物件目録の記載によれば,本件登録意匠の出願前の平成9年8月頃からモトコマ株式会社によって日本国内で製造され,同年11月頃から日本国内で販売された「倍力カッター(PCU 20 POWER CUTTER)であって,その形態を別紙第2に示すとおりとしたものである。 (3)本件登録意匠と引用意匠との対比 本件登録意匠と引用意匠は,共に硬鋼線等を切断するのに使用されるニッパーに係るものであるから,意匠に係る物品が一致する。 次に,その形態については以下の共通点と差異点が主として認められる。 (共通点) (イ)先端部に刃部を設け,その下方に枢着部を形成した左右に開閉可能な頭部と,それに連続する開閉可能なハンドル部とから成り,頭部は,略三角形状の刃部を先端に向かって漸次厚みを薄く形成し,刃部下方には交差する左右の刃基部を回動可能に枢着する頭部枢着部を設け,ハンドル部は,その上方に頭部枢着部と連動して回動するハンドル枢着部を設け,その下方に左右一対のハンドル部材を尾端に向かって徐々に拡開した,全体の基本的な構成。 (ロ)頭部の態様について,左右の刃体を略直角三角形状とし,片側に平滑面を,他側に凹凸面を形成し,頭部枢軸部付近の肉厚を厚くすると共に,その横幅を枢軸部下方で一旦狭めた後に肩部を経てハンドル部に連続している点。 (ハ)ハンドル部の態様について,ハンドル枢着部の下方にロックピンを設け,正面態様において,左ハンドル部材をやや大きく,右ハンドル部材をやや小さくそれぞれ湾曲させ,各ハンドル部材の全長の略5分の4程度を上端が幅広で下方に徐々に幅狭となるハンドルカバーで覆い,下端にストッパリングを取り付けた点。 (差異点) (い)頭部の態様について,本件登録意匠においては,その正面及び背面の輪郭が直線的で,刃部先端は鋭角的であるのに対し,引用意匠においては,全体が丸みを帯び,刃部先端は円弧状である点。 (ろ)ハンドル部の態様について,本件登録意匠においては,左右のハンドルカバーは不透明体で,滑り止めが形成されているのに対し,引用意匠においては,透明体で,滑り止めが形成されていない点。 以上の共通点と差異点を意匠全体として検討すると,両意匠に共通する基本的な構成(イ)は,両意匠の形態全体を支配する骨格的態様であり,各部の具体的態様である頭部及びハンドル部の態様についての共通点(ロ)及び(ハ)と相まって両意匠の基調が形成され,それにより両意匠に強い類似感をもたらしていると認められる。これに対し,差異点はいずれも類否判断上の影響は微弱である。 すなわち,頭部の態様についての差異点(い)は,多少の変更を加えた微弱な差異にとどまり,また,両意匠の態様も格別特徴のあるものとは認められないから,その差異は類否判断を左右する程のものとはなり得ない。ハンドル部の態様についての差異点(ろ)については,ハンドル部材を透明としたり不透明とすること,また,滑り止めを設ける等のことは,この分野でごく普通に行われている常套的な改変に属するものであるから,同様に両意匠の類否判断を左右する程のものではない。 結局,上記差異点はいずれも類否判断上は微弱な差異にとどまり,それらが相まって奏する効果を勘案したとしても,上記共通点を凌駕して両意匠を非類似とする程の視覚上の効果を認めることはできない。 したがって,本件登録意匠は引用意匠に類似するといわざるを得ない。 5.結び 以上のとおりであって,本件登録意匠は,意匠法第3条第1項第3号に該当し,意匠登録を受けることができない意匠であるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから,意匠法第48条第1項第1号により,その登録は無効とされるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2004-11-12 |
結審通知日 | 2004-11-16 |
審決日 | 2005-01-11 |
出願番号 | 意願2001-19522(D2001-19522) |
審決分類 |
D
1
11・
113-
Z
(K1)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 温品 博康 |
特許庁審判長 |
藤木 和雄 |
特許庁審判官 |
岩井 芳紀 樋田 敏恵 |
登録日 | 2003-03-20 |
登録番号 | 意匠登録第1173657号(D1173657) |