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審決分類 審判 判定  同一・類似 属さない(申立不成立) B1
管理番号 1124382 
判定請求番号 判定2005-60015
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2005-11-25 
種別 判定 
判定請求日 2005-03-15 
確定日 2005-09-27 
意匠に係る物品 ズボン 
事件の表示 上記当事者間の登録第1186110号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「ズボン」の意匠は、登録第1186110号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、イ号図面及びその説明書に示す意匠(以下、「イ号意匠」という。)は登録第1186110号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求めると申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、本件登録意匠公報、イ号図面及びその説明書を提出した。
形態における両意匠の共通点は、左右の前見頃と左右の後ろ身頃(イ号意匠では左右の前見頃と細幅な別生地である。)で縫合する内股縫着線を正面図として描かれたズボンの前面側全てに露出させた態様とし、内股縫着線全体に亘ってステッチラインを施すとともに、前面内股縫着線をズボン内股側外形線とほぼ並行を保ちながら、前面側全てに露出した態様とした点にあり、両意匠の差異点は、イ号意匠には前面側と同様な縫着線が後側内股縫着線として露出しているのに対して、本件登録意匠の後面側には一切現れない点、本件登録意匠はダブルステッチで構成されているが、イ号意匠はシングルステッチで構成されている点にある。
ダブルステッチかシングルステッチかの差異は、意匠全体の美感に影響を及ぼさない程度の微差にすぎず、縫着線が後側内股縫着線として露出しているか否かについては、ズボン着用時において着用者の両足を細く長く見せる視覚的効果を奏するという点において前後の内股縫着線が意匠全体の美感に及ぼす影響が全く同じである以上、その差異は前側内股縫着線の共通点を凌駕するほどの影響を与えるものではない。
以上のとおりであって、イ号意匠は本件登録意匠に類似するので、イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものである。
第2.被請求人について
本件判定請求は被請求人が存在しないものであり、請求人は、その理由として、請求人自身が製造販売を予定しているイ号意匠につき、本件登録意匠の実施品として意匠登録番号を表示できるかどうか、すなわち、イ号意匠が本件登録意匠の類似の範囲に属していることを確認するために判定請求するものである、と述べている。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成14年12月5日に部分意匠に係る意匠登録出願をし、平成15年8月8日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1186110号意匠であり、その意匠は、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「ズボン」とし、形態を願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとするものであり(別紙第1参照)、部分意匠については、意匠の説明の欄に「実線及び破線(一点鎖線を除く。)で表された部分、具体的には、参考拡大図中の薄墨を施した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線で表された部分は、意匠登録を受けようとする部分ではない。」との記載がある。
すなわち、(1)裾幅がややフレア状に広がったズボンにおいて、部分意匠として請求した部分は、左右の前身頃と左右の後ろ身頃を縫合する縫着線が前面内股側にのみあり、これに全体が尖頭アーチ形湾曲に現れるステッチライン模様を施した基本的な構成態様であって、その具体的な構成態様は、(2)尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様について、僅かな間隔で平行に配された内周の太糸ステッチと外周の細糸ステッチから成るダブルステッチが施してあり(参考拡大正面図等参照)、これが本件登録意匠の願書に添付した図面の正面図においてズボン内股側外形線とほぼ平行を保ちながら(ズボンの両膝付近でみれば約1/7程度中央寄りの位置)、全体が尖頭アーチ形湾曲に現れるように配置されたものであり、(3)着用状態について、尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様が前面視にのみ現れるものであること(背面図、着用を示す参考図参照)が認められる。
2.イ号意匠
イ号意匠は、イ号図面及びその説明書に示されたものであって、意匠に係る物品が「ズボン」であり、その形態はイ号図面及びその説明書に示されたとおりのものである(別紙第2参照)。なお、イ号意匠説明書で、「実線及び破線(一点鎖線を除く。)で表された部分が意匠登録を受けようとする部分である。」との説明がある。
すなわち、(1)裾幅がややフレア状に広がったズボンにおいて、左右の内股部分に細幅な別生地を用い、そしてこの別生地と左右の前身頃と左右の後ろ身頃を縫合する内股縫着線(A-A、B-B線で囲まれた内股部分拡大図参照)が前面と背面の双方の内股側にあり、これらに全体が尖頭アーチ形湾曲に現れるステッチライン模様を施した基本的な構成態様であり、その具体的な構成態様は、(2)尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様について、一本糸から成るシングルステッチが施してあり、これがイ号図面の正面図においてズボン内股側外形線とほぼ平行を保ちながら(ズボンの両膝付近でみれば約1/7程度中央寄りの位置)、全体が尖頭アーチ形湾曲に現れるように配置され、これと同一のものがその背面図においても配置されたものであり、(3)着用状態について、前面視において前面に施された尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様が現れるとともに、背面視においては背面に施された尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様の太股付近から下側部分が看取できるものであること(着用を示す参考図1及び2参照)が認められる。
3.本件登録意匠とイ号意匠の比較検討
本件登録意匠とイ号意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態については主として以下の共通点及び差異点がある。
(共通点)
両意匠には、基本的な構成態様において、(1)裾幅がややフレア状に広がったズボンにおいて、前面内股側にある縫着線に全体が尖頭アーチ形湾曲に現れるステッチライン模様を施した点、その具体的な構成態様は、(2)尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様について、正面図においてズボン内股側外形線とほぼ平行を保ちながら(ズボンの両膝付近でみれば約1/7程度中央寄りの位置)、全体が尖頭アーチ形湾曲に現れるように配置されたものであり、(3)着用状態について、尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様が前面視に現れる点に共通点が認められる。
(差異点)
一方、両意匠には、基本的な構成態様において、(イ)本件登録意匠は、前面内股側にのみ、左右の前身頃と左右の後ろ身頃を縫合する縫着線があり、これに尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様を施したのに対し、イ号意匠は、左右の内股部分に細幅な別生地を用い、この別生地と左右の前身頃と左右の後ろ身頃を縫合する内股縫着線が前面と背面の双方の内股側にあり、これらに尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様を施した点、具体的な構成態様において、(ロ)尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様について、本件登録意匠は、僅かな間隔で平行に配された内周の太糸ステッチと外周の細糸ステッチから成るダブルステッチであるのに対し、イ号意匠は、一本糸から成るシングルステッチである点、(ハ)着用状態について、本件登録意匠は、背面視には尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様が一切現れないのに対し、イ号意匠は、背面視においては背面に施された尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様の太股付近から下側部分が看取できる点に差異が認められる。
(比較検討)
そこで、本件登録意匠とイ号意匠の上記の共通点と差異点について、意匠全体として総合的に審案する。
本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲についての検討に際し、ズボンの属する意匠分野においてステッチライン模様等を施こすことはありふれた手法であることが認められるところ、当審はさらに、以下の本件登録意匠出願前の先行意匠例を参考とする。
先行意匠1は、公開実用新案公報実開昭48-93121所載の第1図及び第2図に示された自転車用旅行スラックスに係る意匠であり、これには内股側にある保護布(別生地)とスラックス本体との縫合線が表されている。
先行意匠2は、世界知的所有権機関国際事務局(WIPO)が1994年11月30日に発行した国際事務局意匠公報第9巻第4886頁所載の番号DM/030740のズボンに係る意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH07035137号)であり、これには正面視内股側に施された同じ太さの糸のダブルステッチのライン模様が表されている(右足の内股側等明らかでない部分があるが、図面の全記載から、右足側も同様に認定される。)。
先行意匠3は、アメリカ合衆国特許庁が2001年6月26日に発行したアメリカ意匠公報第4号第1247巻第4337頁所載の番号D443973の半ズボンに係る意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH13033031号)であり、これには内股縫合線が内股側外形線とほぼ平行を保ちながら配置されている。
こうした先行意匠例が存在するにもかかわらず、これらに類似せず新規性があり、これらから容易に創作できたものではないとして本件登録意匠が当該部分意匠の意匠登録を受けたことに鑑みれば、本件登録意匠の特徴は、就中、(A)前面内股側にのみ、左右の前身頃と左右の後ろ身頃を縫合する縫着線があり、これに(B)尖頭(頭部が上方に先尖り)アーチ形湾曲ステッチライン模様を施した基本的な構成態様、及び(C)僅かな間隔で平行に配された内周の太糸ステッチと外周の細糸ステッチから成るダブルステッチである具体的な構成態様を基調としている点にあるといえ、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲については当該特徴に限定して解すべきものと思料される。
また、本件判定請求は、本件登録意匠とイ号意匠の部分意匠請求部分同士(イ号意匠についても、実線及び破線(一点鎖線を除く。)で表された部分が意匠登録を受けようとする部分であるとしている。)が互いに類似するかどうかを求めたものであるが、一般に部分意匠同士が類似するかどうかを判断するにあたっては、当該部分の形態全体における位置、大きさ、範囲等の態様を考慮し、部分意匠同士を全体として比較観察することを通じて行われるところである。
これらを踏まえると、共通点(1)ないし(3)において、本件登録意匠が備える特徴として評価すべき共通点としては、(A)の前面内股側に縫着線がある点、(B)そこに尖頭状のアーチ形湾曲ステッチライン模様を施した点が挙げられるが、これらはイ号意匠についていえば前面側における位置、範囲のみに限ったときにいえる点でしかない。
しかしながら、上述のように形態全体における位置、範囲等の態様を考慮し、部分意匠同士を全体として比較観察したときには、差異点(イ)の本件登録意匠は、前面内股側にのみ、左右の前身頃と左右の後ろ身頃を縫合する縫着線があり、これに尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様を施したのに対し、イ号意匠は、左右の内股部分に細幅な別生地を用い、この別生地と左右の前身頃と左右の後ろ身頃を縫合する内股縫着線が前面と背面の双方の内股側にあり、これらに尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様を施した点、差異点(ロ)の尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様について、本件登録意匠は、僅かな間隔で平行に配された内周の太糸ステッチと外周の細糸ステッチから成るダブルステッチであるのに対し、イ号意匠は、一本糸から成るシングルステッチである点、差異点(ハ)の着用状態について、本件登録意匠は、背面視には尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様が一切現れないのに対し、イ号意匠は、背面視においては背面に施された尖頭アーチ形湾曲ステッチライン模様の太股付近から下側部分が看取できる点において、イ号意匠は本件登録意匠が備える特徴(A)(B)C)として評価すべきものとは別なるものを基調としていると解するのが自然であり、別なるものを基調とするイ号意匠は本件登録意匠に類似しないと帰結せざるを得ない。
以上のとおりであって、本件登録意匠出願前の先行意匠例を参考として本件登録意匠の特徴を認定し、当該特徴に限定して本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲を解釈し、本件登録意匠とイ号意匠の部分意匠同士を全体として比較観察したときには、結局のところ、イ号意匠は本件登録意匠に類似しないとするのが相当である。
(なお補足すれば、イ号意匠(あるいイ号意匠の実施品)が本件登録意匠及びこれに類似する範囲のものを包含しているかどうかの判断については、別の観点から検討される。)
4.結び
以上のとおりであって、イ号意匠は本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2005-09-14 
出願番号 意願2002-33727(D2002-33727) 
審決分類 D 1 2・ 1- ZB (B1)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正田 毅 
特許庁審判長 森 則雄
特許庁審判官 市村 節子
伊藤 敦
登録日 2003-08-08 
登録番号 意匠登録第1186110号(D1186110) 
代理人 中務 茂樹 
代理人 森 寿夫 
代理人 森 廣三郎 

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