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審決分類 審判    K1
管理番号 1125929 
審判番号 無効2005-88007
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2005-12-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-04-25 
確定日 2005-10-13 
意匠に係る物品 トルクレンチ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1209727号「トルクレンチ」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1209727号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 請求人の申立て及び理由
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、要旨次のとおり主張し、その証拠方法として、甲第1号証ないし甲第3号証の書証を提出した。
すなわち、意匠登録第1209727号の意匠(意匠に係る物品「トルクレンチ」。以下、「本件登録意匠」という。)は、出願前に頒布された刊行物である意匠登録第479242号の類似第1号の意匠公報(甲第2号証)に記載されている「トルクレンチ」の意匠(以下、「甲号意匠」という。)と同一又は類似、または甲第2号証により容易に創作ができる意匠であるから、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第2号若しくは第3号、または同法第3条第2項の規定に該当し、同法第48条により、無効とされるべきである。
本件登録意匠と甲号意匠との類否について、最も看者の目をひきやすい平面部分において、両意匠はハンドルの先端に連設されるヘッドと他端に連設されるグリップとこれらヘッドとグリップの中間に上向きに円形平盤状のメーター目盛盤が取り付けられているという美観が明らかに共通するものであり、両意匠が共通の美観を呈し類似することは一見して明らかである。また、その他の部分についても、扁平棒状のハンドル、突出するソケット連結用角軸、縦縞模様が施されたグリップ、円弧状の立ち上がり部を有するメーター取り付け台においても、両意匠は共通の美観を呈するものである。
これに対し、両意匠の相違点である、メーターの取り付け位置の相違、本件登録意匠のグリップが扁平であって中央に一本の横縞模様が施され底面には方形模様が施されている相違については、いずれもトルクレンチの全体的美観からして微細な相違である。
したがって、両意匠が同一又は類似することは明らかであり、また、本件登録意匠は、本件登録意匠の属する分野における通常の知識を有する者が証拠の意匠(甲号意匠)に基づいて容易に意匠の創作をすることが出来たものである。

第2 被請求人の答弁及び理由
被請求人は、本件審判請求は理由がない旨の審決を求めると答弁し、その理由として要旨次のとおり主張し、その証拠方法として、乙第1号証ないし乙第8号証(枝番を含む。)の書証を提出した。
1 請求人の主張する無効理由
A 甲号意匠のハンドルの一端には本件登録意匠と同様に下向きにソケット連結用角軸を連設するための、先端部においてアーチ状にカーブを施した方形プレート状のヘッドが形成されている。
B ハンドルの反対端にも本件登録意匠と同様に、使用者が握持するための棒状のグリップが連設されている。このグリップは、ハンドルよりやや太めの幅に形成されるとともに、グリップの両端にはフランジ部が形成されていて、両フランジ部の間には間隔が比較的狭い筋状の縦縞模様が施されている。
C 甲号意匠のハンドルのヘッドとグリップとの中間部平面上側には本件登録意匠と同様に、ハンドルの長手方向の側面を平坦に形成し、且つ、幅方向には円弧状の立ち上がり部を形成した取り付け台を介して、円形平盤状のメーターが取り付けられている。このメーターの目盛盤の側面は、ハンドルが幅方向に若干突出している。
D 本件登録意匠は、正面部分において、扁平棒状のハンドルの一端に連設されたヘッドから下向きに突出するソケット連結用角軸、縦縞模様が施されたグリップおよび円弧状の立ち上がり部を有するメーター取り付け台が表され、これらが甲号意匠にも本件登録意匠とほぼ同一形状に表されている。
E 本件登録意匠は、底面部分も、甲号意匠と同様、ヘッドからソケット連結用角軸が突出し、メーターは取り付け台を介して円形留め具によりハンドルに固定されている。
F メーターの取り付け位置の相違点、本件登録意匠のグリップが扁平である相違点、本件登録意匠のグリップは中央に一本の横縞模様が施されている相違点、本件登録意匠のグリップの底面に方形模様が施されている相違点が見られても、トルクレンチの全体的美観からして微細な相違である。
2 本件登録意匠の登録が有効とされるべき理由
(1)その1
請求人が本件登録意匠と甲号意匠の共通点と主張するA〜Cの3点は、甲号意匠の出願時においてほぼ同一の形態が既に知られ、甲号意匠に特有のものではない(例えば、乙第1号証ないし乙第3号証)。また請求人は、本件登録意匠の類否判断においては、最も看者の目を引き易い平面部分を重視すべきことを繰り返し主張しているが、本件登録意匠に係る物品は、外観の全体を容易に把握、認識できる手動工具であり、例えば皿のように、平面を特定し易く、且つ平面の形態が特に重視される物品とは異なる。従って本件登録意匠の主要部をA〜Cの3点とし、平面から見た状態だけで両意匠を同一、類似とし、また本件登録意匠の創作性を否定し、本件登録は過誤登録であると断定することは、本件登録意匠、本件登録意匠に係る物品の特徴を正確に把握、認識していない主張であり、当を得ないもの、と考える。
(2)その2
D、Eの点も、A〜Cの点と同様、この種の物品では甲号意匠の出願時において公知のことであり、甲号意匠独自のものではない(例えば、乙第1号証ないし乙第4号証)。また請求人は、本件登録意匠と甲号意匠には、ともに円弧状の立ち上がり部を有するメーター取り付け台が表され、メーターが取り付け台を介して円形留め具によりハンドルに固定されている点で共通すると主張するが、同様のメーター取り付け台が表され、出願時において甲号意匠と共通するにもかかわらず登録された例(乙第5号証)もある。従ってこの種の物品は、例えば取っ手、ハンドル、メーターなどの形態や、それらの相互の形成割合などを全体観察し、また特徴的な箇所は要部観察して総合的に判断すべきものである、と考える。
(3)その3
本件登録意匠の第1の特徴は、取っ手(グリップ)とハンドル(軸部)を連ねて全体を扁平に形成し、これによって一本(一枚)の板の印象を看者に与えている点、にある。これに対し甲号意匠は、取っ手を真ん中に膨らみのある丸棒状に形成し、ハンドルを扁平状に、ハンドルと取っ手との境は上下面をテーパーにくびらせているものであり、両意匠は明確に区別できるもの、と考える。
また本件登録意匠の第2の特徴は、全長に対し、取っ手の長さを約42%と長くし、目盛盤を全長に対して約20%を占めるよう大型化し、また目盛盤を長手方向の中央部より先端寄りに位置決めし、これによって矩形状の取っ手を印象付け、シンプルな中にもあか抜けた感じを看者に与え、使い易く、またメーターを読み取り易くなるよう形成した点にある。これに対し、甲号意匠は、全長に対し、取っ手が約24%、ハンドルが約76%、目盛盤が約14%の長さを占める割合で形成され、目盛盤が長手方向の中央部より取っ手寄りに位置決めされており、両意匠は、特に取っ手とハンドルの形成割合の点で大きく異なる。
本件登録意匠の第3の特徴は、取っ手の中央部に、取っ手の長手方向と直行する方向に延びる環状溝(横縞模様)を形成し、この環状溝を介して上下(左右)対称状に平行溝(縦縞模様)を施している点にある。本願意匠は、このように取っ手の周囲の全体に溝を平行に施し、且つ、上記の通り、取っ手の長さが全体の4割強を占めるよう形成し、これにより取っ手が、板状、扁平状である点を、一層、強調している。
(4)総括
このような理由から、被請求人は、今般の請求人の主張は、根拠がないもの、と考える。

第3 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠は、平成15年(2003)9月10日に意匠登録出願され、その後平成16年(2004)5月14日に意匠権の設定の登録がなされた意匠登録第1209727号の意匠であって、願書の記載によれば、意匠に係る物品を「トルクレンチ」とし、形態は、願書に添付された図面の記載のとおりとしたものである(本件審決書に添付の別紙第一参照)。
2 甲号意匠
甲号意匠は、昭和54年(1979)1月13日発行の意匠公報に記載された意匠登録第479242号の類似第1号の意匠であって、同公報の記載によれば、意匠に係る物品を「トルクレンチ」とし、形態は、同公報に現されたとおりのものである(本件審決書に添付の別紙第二参照。)。
3 本件登録意匠と甲号意匠の対比検討
本件登録意匠と甲号意匠を対比すると、両意匠ともトルクレンチに係るものであって、意匠に係る物品が共通し、その形態(本件登録意匠の各図の方向に倣って、甲号意匠を認定する。)については、主として以下に示す共通点及び差異点が認められる。
[共通点]
(1)全体が、正面から見て水平な略棒状体であり、その中央部から左側にかけてハンドル部を構成し、ハンドル部の上面には、取り付け台を介して略短円柱形状のメーターを設け、ハンドル部の右方にグリップ部を設けて一体のものとした基本的構成態様のものである点、
各部の具体的構成態様において、
(2)ハンドル部は、端面が扁平楕円形状の棒状体であって、その左端が上面視略半円形状に丸く形成され、左端寄り上面に略錐体形状の隆起部が設けられ、左端寄り下面には下方に突出した連結部が設けられている点、
(3)連結部は、下側先端が略角柱状に表され、その先端部とハンドル部下面との中間に、略円筒形状の台座部が設けられている点、
(4)グリップ部は、横長の略柱体状であって、長手方向へ複数の筋状の模様が周方向に間隔をあけて配され、その両端にはフランジ部が設けられ、中央寄りのフランジ部の径はグリップ部の径よりも僅かに大きく表されている点、
(5)取り付け台は、上面視前端及び後端が弧状に表れており、その弧状部は上方に立ち上がり状であり、正背面から見たその立ち上がり状部の上端形状が凸弧状に表されている点、
(6)メーターの周側面には、筋状の細かい模様が表され、また、取り付け台の幅及びメーターの直径は、ハンドル部の幅よりも大きく、突出して表されている点、
(7)底面から見て、長手方向中央左寄りに円形模様が表されている点、
[差異点]
(イ)ハンドル部の形状について、甲号意匠は、本件登録意匠よりも全体に占める長さの比が大きく、グリップ部寄りで上面及び下面が隆起し、幅方向の太さがやや細められているが、本件登録意匠には、そのような隆起や太さの変化は見られない点、
(ロ)グリップ部の態様について、長手方向の長さの比が、本件登録意匠の方が甲号意匠よりも大きく、また、本件登録意匠のグリップ部は端面が扁平楕円形状であって、長手方向の中間にはごく細い浅溝が設けられ、右端寄り底面には小矩形部が設けられているのに対して、甲号意匠のグリップ部は、端面が円形状であって、長手方向の中間部分がやや膨らんでおり、本件登録意匠に見られる浅溝も小矩形部も無い点、
(ハ)取り付け台及びメーターの態様について、両者の全体に占める位置が、本件登録意匠の場合は中央やや左側であるのに対して、甲号意匠の場合は中央やや右側であり、また、本件登録意匠の取り付け台及びメーターの全体に占める大きさが、甲号意匠のそれよりも大きく、本件登録意匠の取り付け台の下面には、メーターと略同大で厚みの薄い円盤が取り付けられているが、甲号意匠には無い点、
(ニ)ハンドル部の左端部分の態様について、本件登録意匠は、左端部分が僅かに太くなって、底面及び側面に段差が形成されているが、甲号意匠の当該部分には段差は形成されていない点、が認められる。
4 本件登録意匠と甲号意匠の類否判断
両意匠の共通点及び差異点を総合し、意匠全体として両意匠の類否を検討すると、前記の基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は、両意匠の形態上の美感を形づくるものであって、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものと認められる。とりわけ、(2)及び(3)の共通点はハンドル部の特徴を成すことから、その共通点は類否判断に大きな影響を及ぼすものであり、また(3)及び(4)で示したグリップ部及び取り付け台に関する共通点は、看者の視覚的印象を強めるものであるので、その余の共通点と相俟って、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものといえる。
これに対して、具体的構成態様の差異点については、以下に示すように、類否判断に大きな影響を与えるものとはいえない。
(イ)のハンドル部の形状の差異について、長さの比の差異は、この種物品において技術的課題を満たすために適宜選択され得るものであって、意匠の観点からは単に長さを変更したにとどまり、その変更の程度は、看者に別異の感を呈するほどのものとは認められない。また、隆起や太さの変化の有無に関しては、この種物品においては隆起や太さの変化に様々な態様のものが有る(例えば、乙第1号証ないし乙第8号証。)ので、適宜変更を加え得る程度のものにすぎないから、本件登録意匠を格別のものと認めることができない。したがって、ハンドル部の形状の差異が両意匠の類否判断に与える影響は小さいものといわざるを得ない。
被請求人は、甲号意匠がハンドルと取っ手との境が上下面をテーパーにくびらせているのに対し、本件登録意匠は、ハンドルと取っ手との境にできるそのような段差を無くし、全体が一本(一枚)の板の印象を強く看者に与えることができるという特徴点がある旨を主張するが、ハンドルと取っ手との境にできる段差を無くした意匠は、本件登録意匠の出願前に既に見受けられる(例えば、乙第3号証のFig.2に表された意匠。本件審決書に添付の別紙第三参照。)ことから、前記のとおり、段差の有無によって生じる差異が類否判断に与える影響が大きいとはいい難いので、被請求人の主張は採用できない。
(ロ)のグリップ部の態様の差異について、まず、長手方向の長さの比の差異はグリップ部の長さに係る変更の範囲内であって、看者が特段着目するほどの差異ではなく、類否判断に与える影響は小さい。次に、端面形状の差異については、本件登録意匠の端面がハンドル部と同様の扁平楕円形状であるのでハンドル部の扁平形状を強調するものとなり、前記(2)で指摘した両意匠の共通性を強める効果を持つこと、及び、端面形状の差異が看者に全く異なる印象を与えるほどのものでもないことから、類否判断に与える影響は微弱にとどまる。そして、浅溝と小矩形部の有無の差異についても、浅溝がこの種物品において多く用いられているので比較的ありふれていること(例えば、乙第4号証ないし乙第7号証。)、小矩形部が小さいものであって比較的目立たないことから、いずれも看者がその差異に特段着目するほどの要素ではなく、類否判断に与える影響は微弱にすぎない。
(ハ)の取り付け台及びメーターの態様の差異について、位置の差異は全体の長手方向におけるメーターの取り付け位置に関する差異であって、メーターの取り付け位置はこの種物品において技術的課題を満たすために適宜選択され得るものであって、意匠の観点からその位置を比較した場合、どちらも全体の中央寄りに位置しているところ、それがやや左側であるかやや右側であるかは部分的な差異にとどまるので、類否判断に与える影響は微弱である。また、取り付け台及びメーターの全体に占める大きさの差異については、同様に部分的な差異にとどまり、甲号意匠よりも大きな本件登録意匠の取り付け台及びメーターが、看者に独自の視覚的印象を与えるほどのものでもないので、類否判断に与える影響は微弱である。さらに、円盤の有無の差異についても、本件登録意匠の円盤は上面から見てメーターに隠れるものであり、かつ薄いことから比較的目立たないものでもあるので、その差異が類否判断に与える影響は微弱である。
(ニ)のハンドル部の左端部分の態様の差異については、形態全体から見ると、ハンドル部の左端部分における僅かな太さの差異、及び段差の有無に関する差異にすぎないことから、部分的な差異にとどまり、類否判断に与える影響は微弱である。
そうすると、前記(イ)ないし(ニ)の差異点は、いずれも類否判断に与える影響は小さいものであって、これらが相俟って生じる効果を総合したとしても、類否判断を左右するほどの影響を与えるものとは認められない。
したがって、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、形態においても、共通点が両意匠の美感を形づくり、差異点に比して影響を及ぼすものであるので、本願意匠は、引用意匠に類似するものといわざるを得ない。

第4 むすび
本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠に類似し、意匠法第3条第1項第3号に規定した意匠に該当するものであり、同法同条同項の規定に違背して登録されたものであるから、その登録は、その余の点について審理するまでもなく、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


審理終結日 2005-08-09 
結審通知日 2005-08-11 
審決日 2005-08-29 
出願番号 意願2003-26375(D2003-26375) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (K1)
最終処分 成立  
前審関与審査官 温品 博康 
特許庁審判長 伊勢 孝俊
特許庁審判官 小林 裕和
鍋田 和宣
登録日 2004-05-14 
登録番号 意匠登録第1209727号(D1209727) 
代理人 岸田 正行 
代理人 平野 玄陽 
代理人 水野 勝文 

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