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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200588023 審決 意匠

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審決分類 審判    D4
審判    D4
管理番号 1139447 
審判番号 無効2005-88017
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2006-08-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-09 
確定日 2006-06-22 
意匠に係る物品 電気ストーブ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1237580号「電気ストーブ」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は、「登録第1237580号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)の意匠登録を無効とすべきものとするとの審決を求める。」と申し立て、その理由として、審判請求書のとおりとし、その要点は、(1)本件登録意匠は、その出願前に外国において頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠であり、また、その出願前に日本国内において公然知られた意匠に類似する意匠であって、意匠法第3条第1項第3号に該当し、意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録は意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とされるべきであること(無効理由1)、及び、(2)本件登録意匠は、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内および外国において公然に知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作することができた意匠であり、意匠法第3条第2項に該当し、意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録は意匠法第48条第1項第1号に該当し、無効とされるべきである(無効理由2)と主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証の書証を提出している。
その理由の要旨は以下のとおりである。
1.無効理由1(意匠法第3条第1項該当性)
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は、願書及び願書添付図面の記載によれば、意匠に係る物品が「電気ストーブ」であり、その形状の要旨は以下のとおりである(別紙第1参照)。
すなわち、(あ)全体は、縦方向に長い長方形状の本体部と本体部の下辺において頚部を介して正面台形状の基台が配設された構成態様とし、(い)本体部正面は、開口部と枠部から成り、(う)正面の開口部は、本体部正面の大部分の範囲を占める縦方向に長い長方形状であり、本体部正面の中心よりやや上方向にずらした位置に形成され、全体が金網で覆われ、その金網は、本体部正面から前方に突出し、(え)正面の枠部は、その上辺および下辺が本体部の首振り軸心に近づくに連れてわずかに前方に突出し、同様に、本体部の背面も軸心に近づくに連れて後方に突出して、平面視すると本体部は左右方向に長い断面略楕円形状をなし、(お)枠部下辺中心位置にはスイッチ類が配設され、(か)本体部背面には、左右両端の上方と下方に排気口が配設され、また、中心上部には左右方向に長い楕円形状の運搬用引掛部が配設され、中心下部には凸部が形成され、(き)基台は、正面台形状で、かつ平面楕円形状であり、(く)本体部と基台の大きさのバランスは、本体部の幅よりも基台の下端楕円長径の方がやや大きい。
(2)引用意匠
(i)引用意匠1
請求人が、本件登録意匠に類似するとして引用した、2003年(平成15年)3月12日に、中国において発行された公告公報記載の公告番号CN3282591Dの意匠(以下、「引用意匠1」という。)は、甲第2号証(中国公告公報の写し、及び、一部翻訳。)によれば、意匠に係る物品が「電気ヒーター」であり、その形状の要旨は以下のとおりである(別紙第2参照)。
すなわち、(ア)全体は、縦方向に長い長方形状の本体部と本体部の下辺において頚部を介して正面台形状の基台が配設された構成態様とし、(イ)本体部正面は、開口部と枠部から成り、(ウ)正面の開口部は、本体部正面の大部分の範囲を占める縦方向に長い長方形状であり、本体部正面の中心よりやや上方向にずらした位置に形成され、全体が金網で覆われ、その金網は、本体部正面から前方に突出し、(エ)正面の枠部は、その下辺中心位置に凸部が形成され、本体部の背面は軸心に近づくに連れて後方に突出して、平面視すると本体部は左右方向に長い断面略楕円形状をなし、(オ)本体部頂部にはスイッチ類が配設され、(カ)本体部背面には、左右両端の下方に排気口が配設され、また、中心部には左右方向に長い楕円形状の運搬用引掛部が配設され、中心下部には凸部が形成され、(キ)基台は、正面台形状で、かつ平面楕円形状であり、(ク)本体部と基台の大きさのバランスは、本体部の幅よりも基台の下端楕円長径の方がやや大きい。
(ii)引用意匠2
請求人が、本件登録意匠に類似するとして引用した、本件登録意匠の出願前に日本国内で販売され公然知られたものとなったハロゲンヒーター「FGC-1000M」の意匠(以下、「引用意匠2」という。)は、甲第3号証(アジア産業開発株式会社のカタログ)によれば、意匠に係る物品が「ハロゲンヒーター」であり、その形状の要旨は、引用意匠1と同一である(別紙第3参照)。
(iii)引用意匠3
請求人が、本件登録意匠に類似するとして引用した、本件登録意匠の出願前に日本国内で販売され公然知られたものとなったハロゲンヒーター「FGC-1000R」の意匠(以下、「引用意匠3」という。)は、甲第3号証(アジア産業開発株式会社のカタログ),及び甲第4号証(FGC-1000Rの写真)によれば、意匠に係る物品が「ハロゲンヒーター」であり、その形状の要旨は、引用意匠1と比較すると、本体部正面枠部の下部右側位置にスイッチ類が配設されている点が相違するだけで、他の構成態様は引用意匠1と同一である(別紙第4参照)。
(3)本件登録意匠と各引用意匠との対比
(i)本件登録意匠と引用意匠1との対比
両意匠は、意匠に係る物品が同一であるか、少なくとも類似する。
形状については、両意匠は、(あ)全体は、縦方向に長い長方形状の本体部と本体部の下辺において頚部を介して正面台形状の基台が配設された構成態様とし、(い)本体部正面は、開口部と枠部から成り、(う)正面の開口部は、本体部正面の大部分の範囲を占める縦方向に長い長方形状であり、本体部正面の中心よりやや上方向にずらした位置に形成され、全体が金網で覆われ、その金網は、本体部正面から前方に突出し、(え)本体部の背面は、軸心に近づくに連れて後方に突出して、平面視すると本体部は左右方向に長い断面略楕円形状をなし、(お)本体部背面には、左右両端の下方に排気口が配設され、また、中心部には左右方向に長い楕円形状の運搬用引掛部が配設され、中心下部には凸部が形成され、(か)基台は、正面台形状で、かつ平面楕円形状であり、(き)本体部と基台の大きさのバランスは、本体部の幅よりも基台の下端楕円長径の方がやや大きい点で一致する。
一方、両意匠は、(ア)本体部正面の枠部全体について、本件登録意匠は、その上辺および下辺が本体部の首振り軸心に近づくに連れてわずかに前方に突出しているのに対し、引用意匠1は突出のない平坦面である点、(イ)本体部正面の枠部下辺について、本件登録意匠は全体と同様わずかに前方に突出しているのに対し、引用意匠1は、その中心位置に凸部が形成されている点、(ウ)本件登録意匠は、スイッチ類を、枠部下部中心位置に配設しているのに対し、引用意匠1は、本体部頂部に配設している点、(エ)本件登録意匠の本体部背面上方には排気口がないが、引用意匠1には上方にも排気口が配設されている点で相違する。
(ii)本件登録意匠と引用意匠2との対比
引用意匠2は引用意匠1と同一であるから、対比の内容は、引用意匠1と同様である。
(iii)本件登録意匠と引用意匠3との対比
引用意匠3とは、引用意匠1との対比のうち、(ウ)について、「(ウ)本件登録意匠は、スイッチ類を、本体部正面枠部の下部中心位置に配設しているのに対し、引用意匠3は、本体部正面枠部の下部右側位置に配設している点が相違する」と変更する他は、引用意匠1との対比内容と同様である。
(4)本件登録意匠と各引用意匠との類否判断
(i) 本件登録意匠と引用意匠1との類否判断
本件登録意匠と引用意匠1とは、両意匠に係る物品を看る者の最も注意を引く部分、すなわち意匠の要部である、本体部正面、特に開口部の大きさと配置において一致する。また、本物品は、通常室内の床面にある程度の空間を占有して設置されるものであるから、省スペース性の点で本体部の外形形状もまた意匠の要部であり、インテリアとして機能する点でも本体部の外形形状は意匠の要部であり、その要部である本体部の外形形状を比較すると、本体部は共に縦方向に長い長方形状であって、かつ左右方向に比べて前後方向に薄い断面扁平略楕円形状である点で一致している。また、本体部背面に設けられた運搬用引掛部についても、一致する。以上より、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、また意匠の要部が一致し、視覚を通じて得られる美感が共通すると認められるため、両意匠は類似する。
(ii)本件登録意匠と引用意匠2及び引用意匠3とは、上記引用意匠1と同様に判断され、意匠に係る物品が一致し、また意匠の要部が一致し、視覚を通じて得られる美感が共通すると認められるため、類似する。
2.無効理由2(意匠法第3条第2項該当性)
上記「(3)本件登録意匠と各引用意匠との対比」のような共通点を持つ引用意匠1ないし3が公然知られたものとなっている。したがって本件登録意匠は、いわゆる当業者が、これらの意匠に基づいて容易に創作することができたものである。
第2. 被請求人の答弁及び理由の要点
被請求人は結論同旨の審決を求めると答弁し、無効理由については、要旨以下のとおり反論している。
1.本件登録意匠の認定
本件登録意匠の本体部の枠部(え)は、その上辺および下辺が本体部の首振り軸心に近づくに連れてわずかに前方に突出しているだけでなく、枠部の左右両端部には、本体部の上下方向全域に渡って、前記前方に突出する曲率を有さず直線状に側方に伸びる延出部分(平坦面部)を備え、該前方に突出する曲率部分との境界には、谷線(V)を備える。そして、本体部の背面も軸心に近づくに連れて後方に突出し、平面視、本体部は左右方向に長い断面略楕円形状に対し、長径方向に長方形形状の延出部分が足し合わされた形状である。
2.各引用意匠の認定
各引用意匠の本体部の枠部(エ)は、全体に平面であり、その下辺中心位置に凸部が形成されている。本体部の背面は軸心に近づくに連れて後方に突出している。したがって、平面視、本体部は左右方向に長い断面略楕円形状を長径で二分割した形状である。
3.本件登録意匠と各引用意匠との類否判断
両意匠に係る物品を看る者の最も注意を引く部分、すなわち意匠の要部は、本体部正面である。開口部の大きさと配置についても本体部正面の一部として重要な要素であるが、本件登録意匠においては特別に創作された奇抜な形状を有するものではなく、一般的な縦に長い長方形形状の開口部であるため、その大きさ配置に特に大きな意匠的価値は見出せず、要部とはなり得ない。本体部正面の構成として注目すべきは、本体部の枠部(え)の構成態様、すなわち、正面の軸心に近づくに連れてわずかに前方に突出している曲面と左右両端縦長の平坦面との結合構成であり、その曲面と平坦面との境界には谷線(V)を備え、正面視からでも電気ストーブ全体がスリムに見えるように工夫されている。省スペース性の観点から要求されるのは、看者に対し見た目にもスリム感を与え、嵩張る雰囲気を解消するための工夫である。全体として非常にコンパクトで、嵩張らない雰囲気を醸し出している。
なお、運搬用引掛部の共通点は、このような機能的な形状はスイッチの配置、排気口の配置と同様に意匠的価値は小さく、少なくとも要部としては認められないものである。
以上のように、本件登録意匠の形態上の創作は、各引用意匠にはない全く独創的なものであり、要部を異にし、本件登録意匠は各引用意匠とは類似しない。
4.無効理由2(意匠法第3条第2項該当性)について
本件登録意匠の本体部正面について、正面曲面と左右両端縦長の平坦面との境界には谷線(V)を備え結合構成した意匠的創作は、各引用意匠には見出せず、全体として非常にコンパクトで、嵩張らない雰囲気を醸し出す特有の美感上の効果を創作した本件意匠は、明らかに創作非容易である。
第3.請求人の弁駁の要点
1.本件意匠の認定について
谷線(V)は、平面視曲線であり、側方に伸びる延出部分と前方に突出する曲率部分との曲率の差に基づいて形成されるもので、溝や描線等ではない。その曲率差は非常に僅かなもので、実際には肉眼で確認することができない程度のものである。なお、背面の該部には谷線(V)が図示されていないことからも明らかである。
2.甲2,3,4号証意匠(各引用意匠)の認定について
本件登録意匠の谷線(V)が上記の様に曲線的で僅かなものであり、また、本件登録意匠は、大きい曲率を有する背面部と、非常に小さい曲率であって略平面の正面部を併せた形状であるから、本件登録意匠の本体部の枠部(え)と各引用意匠該部の認定は同じ表現を用いることができる。被請求人の認定は、単なる表現上の差異に過ぎない。
3.類否判断について
谷線(V)は平面視曲線であって、肉眼で確認することができる程度のものではなく、そのため、視覚を通じて美感を起こさせる意匠を構成しないものであるから、被請求人が主張するような効果を果たすものではないだけでなく、当然に意匠の類否判断に影響を与えないものである。
4.創作非容易性について
谷線(V)は平面視曲線であって、肉眼で確認することができる程度のものではなく、そのため、視覚を通じて美感を起こさせる意匠を構成しないものである。前面が左右方向に長い断面略楕円形状との構成は、単なる表現上の差異に過ぎないものである。そのため、これらの構成は意匠的創作とはいえず、看者に対し見た目にスリム感を与えるものではなく、嵩張る雰囲気を解消するといった効果を奏するものではない。したがって、意匠法第3条第2項に該当する。
第4.当審の判断
1.無効理由1(意匠法第3条第1項第3号該当性)について
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は、平成16年7月13日の意匠登録出願に係り、平成17年3月11日に設定の登録がされた意匠登録第1237580号の意匠である。その願書及び願書添付図面の記載によれば、意匠に係る物品が「電気ストーブ」であり、その形状の要旨は以下のとおりである(別紙第1参照)。
すなわち、(あ)全体は、縦方向に長い長方形状の本体部と本体部の下辺において頚部を介して正面台形状の基台が配設された構成態様とし、(い)本体部正面は、開口部と枠部から成り、(う)正面の開口部は、本体部正面の大部分の範囲を占める縦方向に長い長方形状であり、本体部正面の中心よりやや上方向にずらした位置に形成され、全体が金網で覆われ、その金網は、本体部正面から前方に突出し、(え)正面の枠部は、その上辺および下辺が本体部の首振り軸心に近づくに連れてわずかに前方に突出し、枠部の左右両端部には、本体部の上下方向全域に渡って、前記前方に突出する曲率を有さず直線状に側方に伸びる延出部分の平坦面部を備え、(お)枠部の背面上辺も軸心に近づくに連れて後方にやや大きく突出して、枠部の左右両端部には、本体部の上下方向全域に渡って、前記前方に突出する曲率を有さず直線状に側方に伸びる延出部分の平坦面部を備え、本体部の平面部は左右方向に長い断面略楕円形状をなし、その長径方向に長方形形状の延出部分が足し合わされた形状とし、(か)枠部正面の下辺中央には、枠幅上下全体にわたって正面縦長方形状の横断面弧状凹部を形成し、その凹部内に小円形状部と横長小楕円形状スイッチ4個を縦一列に配設し、その凹部右側に複数のインジケータを配設し、(き)本体部背面には、上部と左右に枠部を余して、大きく突出部を設け、該突出部の左右両端の上方と下方に排気口が配設され、また、中心部には左右方向に長い楕円形状の運搬用引掛部が配設され、中心下部には外形半楕円形状凸部が形成され、(く)基台は、正面台形状で、かつ平面楕円形状であり、(け)本体部と基台の大きさのバランスは、本体部の幅よりも基台の下端楕円長径の方がやや大きい。
(2)引用意匠
(i)引用意匠1
引用意匠1は、2003年(平成15年)3月12日に、中国において発行された公告公報記載の公告番号CN3282591Dの意匠であって、甲第2号証(中国公告公報の写し、及び、一部翻訳。)によれば、意匠に係る物品が「電気ヒーター」であり、その形状の要旨は以下のとおりである(別紙第2参照)。
すなわち、(ア)全体は、縦方向に長い長方形状の本体部と本体部の下辺において頚部を介して正面台形状の基台が配設された構成態様とし、(イ)本体部正面は、開口部と枠部から成り、(ウ)正面の開口部は、本体部正面の大部分の範囲を占める縦方向に長い長方形状であり、本体部正面の中心よりやや上方向にずらした位置に形成され、全体が金網で覆われ、その金網は、本体部正面から前方に突出し、(エ)正面の枠部は、全体に平坦面であり、その下辺中央部に外形半楕円状凸部が形成され、(オ)枠部の背面上辺は軸心に近づくに連れて後方にやや大きく突出して、枠部の左右両端部には、本体部の上下方向全域に渡って、前記前方に突出する曲率を有さず直線状に側方に伸びる延出部分の平坦面部を備え、本体部の平面部は左右方向に長い断面略楕円形状を長径で二分割し、その長径方向に長方形形状の延出部分が足し合わされた形状とし、(カ)本体部頂部には略小円筒形スイッチ3個を一列に配設し、(キ)本体部背面には、上部と左右に枠部を余して、大きく突出部を設け、該突出部の左右両端の下方に排気口が配設され、また、中心部には左右方向に長い楕円形状の運搬用引掛部が配設され、中心下部には外形半楕円形状凸部が形成され、(ク)基台は、正面台形状で、かつ平面楕円形状であり、(ケ)本体部と基台の大きさのバランスは、本体部の幅よりも基台の下端楕円長径の方がやや大きい。
(ii)引用意匠2
引用意匠2は、本件登録意匠の出願前に日本国内で販売され公然知られたものとなったハロゲンヒーター「FGC-1000M」の意匠であって、甲第3号証(アジア産業開発株式会社のカタログFGC-1000M)によれば、意匠に係る物品が「ハロゲンヒーター」であり、その形状の要旨は、引用意匠1と比較すると、本体部頂部にスイッチ類2個が配設されている点が相違するだけで、他の構成態様は引用意匠1と同一である(別紙第3参照)。
(iii)引用意匠3
引用意匠3は、本件登録意匠の出願前に日本国内で販売され公然知られたものとなったハロゲンヒーター「FGC-1000R」の意匠であって、甲第3号証(アジア産業開発株式会社のカタログFGC-1000R),及び甲第4号証(FGC-1000Rの写真)によれば、意匠に係る物品が「ハロゲンヒーター」であり、その形状の要旨は、引用意匠1と比較すると、本体部正面枠部の下部右側位置に略小楕円形状スイッチ4個を傾けて横一列に配設し、その上部にスイッチの傾きに合わせてインジケータ等を配設した点が相違するだけで、他の構成態様は引用意匠1と同一である(別紙第4参照)。
(3)本件登録意匠と各引用意匠との対比
(i)本件登録意匠と引用意匠1との対比
両意匠は、意匠に係る物品が「電気ストーブ」と「電気ヒーター」であり、電気を使用する暖房器具として、物品が類似する。
形状については、両意匠は、(あ)全体は、縦方向に長い長方形状の本体部と本体部の下辺において頚部を介して正面台形状の基台が配設された構成態様とし、(い)本体部正面は、開口部と枠部から成り、(う)正面の開口部は、本体部正面の大部分の範囲を占める縦方向に長い長方形状であり、本体部正面の中心よりやや上方向にずらした位置に形成され、全体が金網で覆われ、その金網は、本体部正面から前方に突出し、(え)枠部の背面上辺は軸心に近づくに連れて後方にやや大きく突出して、枠部の左右両端部には、本体部の上下方向全域に渡って、前記前方に突出する曲率を有さず直線状に側方に伸びる延出部分の平坦面部を備え、(お)本体部背面には、上部と左右に枠部を余して、大きく突出部を設け、該突出部の左右両端の下方に排気口が配設され、また、中心部には左右方向に長い楕円形状の運搬用引掛部が配設され、中心下部には外形半楕円形状凸部が形成され、(か)基台は、正面台形状で、かつ平面楕円形状であり、(き)本体部と基台の大きさのバランスは、本体部の幅よりも基台の下端楕円長径の方がやや大きい点で一致する。
一方、両意匠は、(ア)本体部正面の枠部全体について、本件登録意匠は、その上辺および下辺が本体部の首振り軸心に近づくに連れてわずかに前方に突出し、枠部の左右両端部には、本体部の上下方向全域に渡って、前記前方に突出する曲率を有さず直線状に側方に伸びる延出部分の平坦面部を備えているのに対し、引用意匠1は、全体に平坦面である点、(イ)本体部の平面部について、本件登録意匠は、左右方向に長い断面略楕円形状をなし、その長径方向に長方形形状の延出部分が足し合わされた形状としているのに対し、引用意匠1は、左右方向に長い断面略楕円形状を長径で二分割し、その長径方向に長方形形状の延出部分が足し合わされた形状としている点、(ウ)本体部正面の枠部下辺について、本件登録意匠は、中央に枠幅上下全体にわたって正面縦長方形状の横断面弧状凹部を形成しているのに対し、引用意匠1は、中央下部に外形半楕円状凸部が形成されている点、(エ)スイッチ類について、本件登録意匠は、枠部下部中央に枠幅上下全体にわたって形成した、正面縦長方形状の横断面弧状凹部内に小円形状部と横長小楕円形状スイッチ4個を縦一列に配設し、その凹部右側に複数のインジケータを配設しているのに対し、引用意匠1は、本体部頂部に略小円筒形スイッチ3個を一列に配設している点、(オ)本件登録意匠の本体部背面上方には排気口がないが、引用意匠1には上方にも排気口が配設されている点で相違する。
(ii)本件登録意匠と引用意匠2との対比
引用意匠2とは、引用意匠1との対比のうち、(エ)について、「(エ)スイッチ類について、本件登録意匠は、枠部下部中央に枠幅上下全体にわたって形成した、正面縦長方形状の横断面弧状凹部内に小円形状部と横長小楕円形状スイッチ4個を縦一列に配設し、その凹部右側に複数のインジケータを配設しているのに対し、引用意匠2は、本体部頂部にスイッチ類2個が配設されている点、」と変更する他は、引用意匠1との対比内容と同様である。
(iii)本件登録意匠と引用意匠3との対比
引用意匠3とは、引用意匠1との対比のうち、(エ)について、「(エ)スイッチ類について、本件登録意匠は、枠部下部中央に枠幅上下全体にわたって形成した、正面縦長方形状の横断面弧状凹部内に小円形状部と横長小楕円形状スイッチ4個を縦一列に配設し、その凹部右側に複数のインジケータを配設しているのに対し、引用意匠3は、本体部正面枠部の下部右側位置に略小楕円形状スイッチ4個を傾けて横一列に配設し、その上部にスイッチの傾きに合わせてインジケータ等を配設した点、」と変更する他は、引用意匠1との対比内容と同様である。
(4)類否判断
(i)本件登録意匠と引用意匠1との類否判断
この種電気ストーブの意匠は、通常床に置かれて使用されるものであるから、需要者は、暖房効果を発揮する開口部がある正面部を中心として、操作部等の具体的構成態様に注目し、そして、比較的小型の移動可能な電気ストーブであるため、その背面部の構成態様もある程度含め、前方から斜視した全体の構成態様を観察するものである。
この需要者の観点から判断すると、両意匠の一致する構成態様のうち、(あ)ないし(う)の構成態様は、前方から斜視した全体の構成態様に係るもので、ある程度看者が注目するものである。しかし、(え)及び(お)の構成態様は、いずれも背面部に係る構成態様であり、あまり看者の注意を惹くものではない。また、(か)及び(き)の構成態様は、本体部ほどではないが、上方から斜視する場合は本体部と一緒に視認され、看者の注意を惹くものである。
これに対して、両意匠の相違する構成態様のうち、(ア)ないし(イ)の構成態様は、前方から斜視した全体の構成態様に係るもので、ある程度看者が注目するものである。(ウ)の構成態様は、意匠全体から観ると一部位に係るものであるが、正面の目に付きやすい部位におけるもので、看者の注意を惹くものである。(エ)の構成態様は、意匠全体から観ると一部位に係るものであるが、使用に際し操作をする部位であるから、看者が注目するものである。(オ)の構成態様は、背面部の一部位に係る構成態様であり、看者の注意を惹くものではない。
さらに、公知意匠を参酌し検討すると、(あ)ないし(う)及び(き)の全体的な一致する構成態様は、この種電気ストーブの意匠においては広く知られたありふれた構成態様と認められる(例えば、(1)特許庁総合情報館が1987年11月17日に受け入れた雑誌「電気店」11号30巻124頁所載の「電気ストーブ」(特許庁意匠課公知資料番号第SA62024606号)、(2)特許庁総合情報館が1992年9月18日に受け入れた「大韓民国意匠公報」1058巻61頁所載の「電気ストーブ」(特許庁意匠課公知資料番号第HH05006620号)、(3)特許庁総合情報館が1992年9月18日に受け入れた「大韓民国意匠公報」1058号63頁所載の「電気ストーブ」(特許庁意匠課公知資料番号第HH05006622号)、(4)意匠登録第1010492号「電気ストーブ」、(5)意匠登録第981256号「電気ストーブ」、(6)特許庁総合情報館が2000年6月7日に受け入れた「大韓民国意匠商標公報」所載の「電気ストーブ」(登録番号30-0256951)(特許庁意匠課公知資料番号第HH14583534号)に見られる構成態様である。なお、登録意匠以外は「別紙第5」参照。)。また、(か)の、正面台形状で平面楕円形状の基台形状は、すでに知られた構成態様であり(例えば、意匠登録第748154号の類似第1号「温風暖房機」。)、一般的にも楕円形状は格別特徴的な形状ではない。
これに対して、相違点(ア)及び(イ)に係る本願意匠の構成態様、すなわち、枠部正面の前方に突出した曲面の左右両端部に平坦面部を延出させた構成態様は、この種電気ストーブの意匠においてはほとんど見られない構成態様である。請求人は、この構成態様について、「側方に伸びる延出部分と前方に突出する曲率部分との曲率の差に基づいて形成される谷線(V)は、溝や描線等ではなく、その曲率差は非常に僅かなもので、実際には肉眼で確認することができない程度のものである」旨主張しているが、谷線(V)が認識できず、曲率差は僅かなものだとしても、その曲率差による面構成は十分視認できるものと認められ、本件登録意匠の曲率を有さず直線状に側方に伸びる延出部分の平坦面部を備えた構成態様は、特徴的なものである。相違点(ウ)の本件登録意匠の「正面縦長方形状の横断面弧状凹部」を形成した構成態様、および、引用意匠1の「外形楕円状の凸部」を形成した構成態様は、いずれもこの種電気ストーブの意匠においてはあまり見られない特徴的な構成態様である。相違点(エ)の本件登録意匠のスイッチ類の配設態様は、この種電気ストーブの意匠においてはあまり見られない特徴的な構成態様である。
したがって、両意匠は、前方から斜視した全体に係る構成態様(あ)ないし(う)において一致し、また、基台部の構成態様(か)(き)においても一致し、これら一致する構成態様が相まって、両意匠にある程度共通する美感を起こさせるものである。 しかし、(あ)ないし(う)及び(き)の全体的な一致する構成態様は、この種電気ストーブの意匠においては広く知られたありふれた構成態様と認められ、(か)の基台形状も、すでに知られた構成態様であり、一般的にも楕円形状は格別特徴的な形状ではなく、いずれの構成態様も格別看者の注意を惹くものではない。
これに対して、両意匠の相違する構成態様のうち、(ア)及び(イ)の構成態様は、前方から斜視した全体の構成態様に係るもので、ある程度看者が注目するものであり、さらに、本件登録意匠の「枠部正面の前方に突出した曲面の左右両端部に平坦面部を延出させた構成態様」は、ある程度特徴的なものであり、看者の注意を惹くものである。(ウ)の構成態様は、意匠全体から観ると一部位に係るものであるが、正面の目に付きやすい部位におけるもので、看者が注目するとともに、両意匠の構成態様は、いずれもこの種電気ストーブの意匠においてはあまり見られない特徴的な構成態様であり、看者の注意を惹くものである。(エ)の構成態様は、意匠全体から観ると一部位に係るものであるが、使用に際し操作をする部位であり、かつ、本件登録意匠のスイッチ類の配設態様は、この種電気ストーブの意匠においてはあまり見られない特徴的な構成態様で、看者が注目するものである。そして、これら相違点が相まった意匠的効果を勘案し総合的に判断すると、相違点が一致点を凌駕し、両意匠は異なった美感を起こさせるものである。
以上のように、両意匠は異なる美感を起こさせるもので、類似しない。
(ii)本件登録意匠と引用意匠2との類否判断
引用意匠2は、引用意匠1と比較すると、本体部頂部にスイッチ類2個が配設されている点が相違するだけで、他の構成態様は引用意匠1と同一であるから、この点を考慮しても、上記(i)本件登録意匠と引用意匠1との類否判断においてした認定判断を変更するものではなく、本件登録意匠と引用意匠2とは類似しない。
(iii)本件登録意匠と引用意匠3との類否判断
引用意匠3は、引用意匠1と比較すると、本体部正面枠部の下部右側位置に略小楕円形状スイッチ4個を傾けて横一列に配設し、その上部にスイッチの傾きに合わせてインジケータ等を配設した点が相違するだけで、他の構成態様は引用意匠1と同一である。この引用意匠3のスイッチ類の配設態様は、この種電気ストーブの意匠においてはあまり見られない特徴的な構成態様である。したがって、この点を考慮すると、かえって本件登録意匠と引用意匠3との相違が際立ち、両意匠は類似しない。
(5)むすび
したがって、本件登録意匠は、引用意匠1ないし引用意匠3に類似する意匠ではなく、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当せず、本件登録意匠を無効すべきものとすることはできない。
2.無効理由2(意匠法第3条第2項該当性)について
本件登録意匠と引用意匠1ないし引用意匠3とは、上記認定のとおり(あ)ないし(き)の構成態様において一致するが、(ア)ないし(オ)の構成態様において相違する。そして、(ア)及び(イ)に係る本件登録意匠の「枠部正面の前方に突出した曲面の左右両端部に平坦面部を延出させた構成態様」は、ある程度特徴的なものであり、(ウ)に係る本件登録意匠の構成態様は、この種電気ストーブの意匠においてはあまり見られない特徴的な構成態様であり、(エ)に係る本件登録意匠のスイッチ類の配設態様も、この種電気ストーブの意匠においてはあまり見られない特徴的な構成態様である。したがって、本件登録意匠は、引用意匠1ないし引用意匠3に基づき、当業者が容易に創作できた意匠であるとはいえず、意匠法第3条第2項に規定する意匠に該当せず、本件登録意匠を無効すべきものとすることはできない。
3.むすび
以上のように、本件登録意匠は、引用意匠1ないし引用意匠3に類似しないものであり、また、引用意匠1ないし引用意匠3に基づき当業者が容易に創作できた意匠でもない。したがって、審判請求人の申し立ては理由がない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2006-04-21 
結審通知日 2006-04-25 
審決日 2006-05-11 
出願番号 意願2004-21120(D2004-21120) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (D4)
D 1 113・ 113- Y (D4)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 並木 文子 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 樋田 敏恵
杉山 太一
登録日 2005-03-11 
登録番号 意匠登録第1237580号(D1237580) 
代理人 野口 忠夫 
代理人 丹羽 宏之 
代理人 永田 良昭 
代理人 吉澤 大輔 
代理人 永田 元昭 

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