• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008880008 審決 意匠
無効200488007 審決 意匠

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判    B4
管理番号 1163856 
審判番号 無効2005-88018
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-13 
確定日 2007-08-17 
意匠に係る物品 バッグ 
事件の表示 上記当事者間の登録第1213932号「バッグ」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立ておよび理由
請求人は、第1213932号意匠(以下、「本件登録意匠」という)の登録は無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由として審判請求書に記載のとおりの主張をし、証拠方法として、甲第1号証乃至甲8号証の書証を提出した。
その主張の概要は、以下のとおりである。
本件登録意匠は、提出された各証拠に基づき、意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有するものが日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて、容易に意匠の創作ができたものであることから、意匠法第3条第2項の規定違反により、同法第48条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。
すなわち、本件登録意匠の基本的構成態様として、(A-1)「バッグ本体の長さ方向両側面部を2つ折にした状態における幅方向側面部の形状は高さ寸法の大きい台形状」という意匠構成要素は、甲第1号証には、バッグ本体の長さ方向両側面部を高さ方向の略全域に亘って2つ折にすることにより幅方向両側面部が台形状の形態に形成され、甲第4号証の図1には、バッグの側面図が掲載され、幅方向側面部の形状は高さ寸法の大きな台形状であり、甲第2号証の図1及び図2にも同様に側面形状が台形のバッグが掲載、甲第3号証にも同様に高さ寸法の大きな、台形の幅方向側面部を有するバッグの意匠が掲載されていること、(A-2)「バッグ本体の幅方向側面部の上端部には略半長円状に形成されたハンドル部が設けられている。」という意匠構成要素は、甲第6号証の意匠には「バッグ本体の幅方向両側面部の上端部には略半長円状に形成されたハンドル部」が設けられ、甲第5号証、甲第1号証及び甲第4号証にも同様に略半長円状のハンドル部が幅方向側面部の上端部に設けられた意匠が掲載されていること、(A-3)「バッグ本体の幅方向両側面部には、半長円状に形成されたハンドル部の下端部が連続する、上端部から底面部にかけて高さ方向の全域に亘って固定されている2本の帯部が設けられている」という意匠構成要素は、甲第6号証には、「幅方向両側面部には半長円状に形成されたハンドル部の下端部が連続する、上端部近傍から底面部にかけて高さ方向の全域に亘って固定されている2本の帯部」を有するバッグの意匠が掲載されていること、(A-4)「バッグ本体の長さ方向両端部を2つ折にした状態における長さ方向側面部の形状は、底辺が短く高さ寸法の大きな略三角形状である。」という意匠構成要素は、甲第5号証には、「同状態においては、高さ寸法の大きな略三角形状の長さ方向側面部を有するバッグ」の意匠が掲載され、甲第7号証には、斜視図であるが、同様に、「同状態においては、高さ寸法の大きな略三角形状の長さ方向側面部を有するバッグ」が図面として掲載されていること、(A-5)「バッグ本体の開口部の開放時における長さ方向側面部の輪郭形状は高さ寸法の大きな逆台形状である。」という点については、甲第3号証の「左側面図」には「バッグ本体の開口部の開放時において、高さ寸法の大きな逆台形状の長さ方向側面部」が記載されていること、(A-6)「底面部の輪郭形状は略長方形状である。」という点については、甲第1号証及び甲第8号証にも同様に同底面部を有するバッグが記載されていることから本件意匠登録前に公知の形状である。
「具体的構成態様」として、(B-1)「バッグ本体の長さ方向両端部を2つ折にした状態における、台形に形成された幅方向側面部は、高さ寸法の大きな台形に形成され、上記台形の底辺部・斜辺部・上辺部は、夫々、略1:1.06:0.64の比率に形成されている。」という意匠構成要素は、甲第1号証の比率は、1:0.81:0.67であり、全体として、本件登録意匠に係る幅方向側面部の形態に近似した台形状からなる幅方向側面部を形成し、甲第3号証の比率は、1:1:0.71の比率となっており、同様に本件登録意匠に係る幅方向側面部に近似し、甲第4号証においては、1:1.13:0.79の比率に形成され、本件登録意匠に係る幅方向側面部の形態に非常に近似した台形状となっていること、(B-2)「幅方向両側表皮部の底辺部の長さ方向に沿って略3等分して設けられている帯部」と言う意匠構成要素は、甲第6号証には同様の帯部が記載されていること、(B-3)「上記帯部は、バッグ本体の底面部においては長さ方向に略3等分する部位に設けられている。」という意匠構成要素は、甲第3号証の底面図には、同様の帯部が記載されていること、(B-4)「幅方向側面表皮部の底辺部から上辺部付近のやや下方にまで至り、ハンドル部が上記帯状固定部の上端部に連続して一体に形成され、帯部上端部で帯部が幅方向において細くなりハンドル部へと連続する。」帯部、及びこの帯部に連続して形成されたハンドル部の形状は、甲第6号証の正面図及び背面図には、「バッグ本体の幅方向側面表皮部の底辺部から上辺部付近のやや下方にまで至り、ハンドル部が上記帯状固定部の上端部に連続して形成されている帯部」の形状が掲載され、ハンドル部は、上記帯部と一体に形成され、帯部上端部で帯部が幅方向において細くなりハンドル部へと連続していること、(B-5)「1:10.8の比率に形成された帯部と底辺部」に関する形状は、甲第6号証に掲載されたバッグにおいては、2本の帯部の幅寸法と底辺部の長さ寸法との比率は、1:12.1であり、バッグ本体の幅方向両側面部において、底辺部から立ち上がって設けられた2本の帯部の形状は非常に近似していること、(B-6)「使用時には、長さ方向両側面部を幅方向中央において高さ方向に沿って二つ折りに折り畳んで使用される。」というバッグ本体の長さ方向両側部におけるデザインは、甲第1号証には「長さ方向両側面部を幅方向中央において高さ方向に沿って折りたたんだ場合に台形状の側面部が形成されるバッグ」に係る意匠が掲載され、甲第5号証にも、同様に、「折りたたんで使用されるバッグ」が掲載され、甲第7号証にも同様に、「折りたたんで使用されるバッグ」が掲載されていること、(B-7)「上端部には開口部が形成され、幅方向両側部の上端部中央には幅方向両側部を形成する一対の表皮材を互いに接合しうる側面丸形状のフック部材が取り付けられている。」という意匠構成要素は、甲第4号証の図1及び図2にも記載されていることから本件意匠登録出願前において公知である。
「容易に意匠の創作をすることができた」(意匠の創作容易性)については、上記のように、本件登録意匠の各意匠構成要素はいずれも本件意匠登録出願前に公知である。そして、さらに本件登録意匠は上記の各意匠構成要素をありふれた手法により寄せ集めたものである。
即ち、本件意匠登録に係るバッグのデザインにおいて最大の特徴的な点は、
「持ち運び時においては、開口部を開口させて収納物を収納させた際には逆台形状に形成されている長さ方向両端部を、長さ方向両端部において高さ方向に沿って2つに折り畳むことにより長さ方向両端部を高さ寸法の大きな三角形状に形成するとともに、幅方向両端部は高さ寸法の大きな台形状に形成する」という点にあると思われる。しかしながら、バッグの製造業界においては、長さ方向の両端部を2つ折りに折り畳み可能に形成し、長さ方向両端部を折り畳まない状態で収納物をバッグ本体に収納し、長さ方向両端部を高さ方向に沿って2つ折りに折り畳んだ状態で持ち運ぶように形成する、というバッグのデザイン構成の手法は、上記甲第1号証、甲第5号証、甲第7号証を例に示すように、本件意匠登録出願前において広く用いられている。
そして、このように、長さ方向両端部を高さ方向に沿って2つ折りに折り畳んで幅方向側面部を台形状に形成する、というバッグの構成の手法は、甲第1号証に掲載されている。従って、バッグ業界において広く用いられている製作手法により、バッグの持ち運びの際に、高さ寸法の大きな台形状の幅方向両側面部を形成するという意匠構成の手法そのものがありふれた手法である。
その他、幅方向側面部において高さ方向に形成されている2本の帯部及びこの帯部に連続する半長円状のハンドル部は、甲第6号証に示すとおり、本件意匠登録出願前に既に公知である。その結果、本件登録意匠は、公知のバッグの形状、公知のバッグの意匠構成要素を当業者にありふれた手法により組み合わせたものに過ぎず、意匠の創作の困難性はなく、創作容易な意匠である。
そして、被請求人の答弁に対して弁駁書を提出して、
被請求人の「ごく普通の形態として、…機能的要請から通常持ち手の形態は円弧状である。」「これはハンドバッグとしては当たり前の要素であり、これが共通する点も意匠としての独自性を欠く理由の一つであるが如く主張されるのは、不適切であると考える。」との主張に対しては、バッグにおける「ハンドル」は、外観を構成する以上意匠であり、また、「ハンドル」 の形状、大きさによっては、バッグ本体部との関係の中で、バッグ全体の美観に大きく影響を及ぼしうる可能性もあることから、意匠創作の対象として成立しうるものであり、「ハンドル」を一意匠構成要素として扱い、「創作容易性」 の一態様である「寄せ集めの意匠」であることの立証について述べているものである。
被請求人の「本件意匠に係るバッグは柔軟な素材で構成される」との主張に対しては、その旨の記載をした「意匠に係る物品の説明」 の項は設けられていないことから、本件登録意匠においては、意匠の要旨を把握、認定するにあたって、物品の素材、材質に関する議論を持ち込むこと自体不適切である。
被請求人の「スナップ部分を解放した場合、台形という形状を特定する左右の線、即ち斜め方向の直線にあたる部分が見受けられない」との主張に対しては、本件意匠の両側面部に「縫製部分」が存在しなくとも、本件登録意匠の添付図面の【開口した状態を示す右側面図】 においては、明らかに「側面から見たバッグ本体の輪郭を有する形状」が成立し、その表れた形状は本件登録意匠の要旨を把握する基礎となりうるものである。
被請求人の「本件登録意匠の大きな意匠的特徴は、…バッグ本体の輪郭、即ち高さのあるシャープな台形である。」との主張に対しては、添付されている乙第1号証の図面上において上記底辺、高さ、上辺を計測した場合、底辺6.7cm、高さ6.9cm、上辺4.1cmであり、底辺を基礎に比率化した場合には、1:1.02:0.61となり、乙第1号証に基づき、上記同様に、甲第3号証及び甲第4号証の底辺:高さ:上辺の寸法比率を算出してみたところ、甲第3号証にあっては、1:1:0.73であり、甲第4号証においては、1:1.15:0.80であることから、被請求人が乙1号証にもとづき算出した比率と対比した場合、甲3号証及び甲第4号証との間の数値の相違は微差にすぎず、バッグ本体の側面形状として比較した場合、両者のバッグ本体の形状は明らかに近似している。
即ち、乙第1号証上において、本件登録意匠と甲第3号証及び甲第4号証と対比した場合に、看者は、両者共に「高さのある台形」のイメージを明確に認識するものであり、「シャープ」であるか否か、に関しては、看者の主観的印象及び表現の相違に過ぎない。
被請求人の「本件意匠の構成として、バッグ本体全体に渡る2本の帯を固定し、その帯から連続して2本の持ち手を構成する、という特徴がある。」との主張に対しては、「帯」も意匠創作の一要素を構成であり、本件登録意匠における「バッグ側部を高さ方向において2本の帯により側部の幅方向において3分割する」というデザイン構成は甲6号証に見られるように公知であり、寄せ集められた公知の意匠構成要素の一つである。
被請求人の「本体部のほとんどの部分は柔らかな素材で形成されており、…スナップをはずすと、開口部の形態も四角・楕円・さまざまに感得されうる一種の「バケツ型バッグ」のようなバッグが顕れる。」との主張に対しては、【開口した状態を示す右側面図】において開口した状態のバッグが示されているが、開口した場合には上記右側面図に示された形状となることを前提に創作容易性を論ずる必要がある。その結果、上記形状に関しては甲3号証に記載されていることから、本件登録意匠は甲3号証に記載されている逆台形状の形状を寄せ集めたものといえる。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由として答弁書に記載のとおりの反論をし、証拠方法として、乙第1号証を提出したものである。
第3.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成16年1月13日に意匠登録出願(優先権主張、フランス国、優先日、2003年7月10日)し、平成16年6月25日に意匠権の設定の登録がなされたものであって、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「バッグ」とし、その形態を願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとするものである(別紙第1参照)。
すなわち、基本的な構成態様を、(1)底面を略細長長方形状とする袋状の両側上端を内側に入れ込み、襞状にして、全体を正面視高さと底面巾をほぼ同長さとし、上面巾を底面巾のほぼ6割程度とする縦長台形状にしたバッグ本体(以下、「袋部」という)に、ループ状細幅帯状形状を、袋部底部を通して正背面上部に突出させ、その部分を逆U字状の手提げ部とし、袋部上端の両襞状部を解放すると上部を開口することができる手提げバックとしたものであって、具体的な態様として、(2)袋部全体を暗調子の素材で形成し、革様素材で隅丸細長長方形状の底面を形成し、その袋部底部周りを底面と同素材の細幅帯状形状で囲み、その開口部も同様に極細幅帯状形状の同素材で縁取りし、左右側面中央縦方向にやはり同素材の細幅帯状形状(底部周り細幅帯巾よりやや細い巾)を設け、それぞれを袋部に縫い付けて形成し、上部開口部を閉じるために正背面視中央上端寄りに円形の止め金具を設け、左右には襞状を形成保持するために、左右側面開口部寄り2箇所にそれぞれ上記と同様の円形止め金具を設けたもので、(3)底面等と同素材の細長ループ状の細幅帯状形状(底部周り細幅帯巾より広巾)を袋部開口部寄り部から(全巾1/3程の両位置に)左右並列に正面側から背面側同開口部寄り部まで底面部を回して縫い付け、手提げ部分を細幅帯状形状を円筒状に丸め、逆U字状の態様としたものである。
2.甲各号証
甲第1号証の形態は、特許庁発行の意匠公報意匠登録第1101884号に所載のとおり(別紙第2参照)、
甲第2号証の形態は、同庁発行の公開特許公報特開2001-275728号図1、図2に表されたとおり(別紙第3参照)、
甲第3号証の形態は、同庁発行の意匠公報意匠登録第154293号に所載のとおり(別紙第4参照)、
甲第4号証の形態は、同庁発行の登録実用新案公報実用新案登録第3079858号図1乃至図3に表されたとおり(別紙第5参照)、
甲第5号証の形態は、刊行物「BagazinePLUS別冊No.2 2002S/S」第68頁左下に所載のとおり(別紙第6参照)、
甲第6号証の形態は、同庁発行の意匠公報意匠登録第1165310号に所載のとおり(別紙第7参照)、
甲第7号証の形態は同庁発行の公開特許公報特開平10-28609号図1に表されたとおり(別紙第8参照)、
甲第8号証の形態は、同庁発行の意匠公報意匠登録第1144108号に所載のとおり(別紙第9参照)である。
3.本件登録意匠の創作容易性について
請求人は、本件登録意匠は、提出された各証拠に基づき、意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有するものが日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて、容易に意匠の創作ができたものであることから、意匠法第3条第2項の規定違反であると主張するので、以下、検討する。
まず、本件登録意匠の形態は、上記のとおりの形態であって、請求人が挙げたA-1ないしA-6、及びB-1ないしB-7の計13の観点、つまり、本件登録意匠の正面等の各面からのみみた各意匠構成要素、或いは提げ手(ハンドル部)、細幅帯状形状(帯部)及び円形止め金具(丸形状のフック部材)の各意匠構成要素は、甲1号証ないし甲8号証の8意匠のそれぞれ対応する部分の各意匠構成要素において公知であり、本件登録意匠はこれらの各意匠構成要素をありふれた手法により寄せ集めたものであるから容易に創作できたと請求人は主張するが、
その前に、いわゆる、創作容易性における「寄せ集めの意匠」とは、通常、複数の意匠を組合せて一の意匠を構成すること、つまり、複数の公然知られた意匠を当業者にとってありふれた手法により寄せ集めたにすぎない意匠である(意匠審査基準参照)と解され、拡大解釈したとしても、その公知の意匠の形態そのものとまではいわなくとも、その意匠を形成する部分であって、その部分に明らかな意匠的なまとまりがあり、その部分が全体の中で特徴を有しており、その部分を抽出して指摘した場合においても、当然その部分の形態をいうものと一般的に理解されうる態様の範囲位までと解される。
そうすると、上記請求人が主張し、抽出する各意匠構成要素は、
本件登録意匠を表した6面図等のうちの各図(一方向面)からのみみた形状のなかから任意に局所的な一部分の形状を抽出して意匠構成要素としたまでであって、そのようにして抽出された形状の各意匠構成要素は意匠とはいえず、また、上記したようにその部分が明らかに意匠的な一つのまとまりのある等の形態ともいいえないことから、請求人が主張する各意匠構成要素は寄せ集めの意匠の対象となりえない部分であるといわざるをえない。
そして、そのような寄せ集めの意匠の対象となりえない各意匠構成要素を、多数の公知意匠のうちのそれぞれに対応する部分の各意匠構成要素とを対比して、その局所的各意匠構成要素部分がそれぞれ公知の形状に表されており、それらの部分的形状が各意匠構成要素と同様であると主張しても、上述したように各意匠構成要素は寄せ集めの意匠の対象となりえない部分であることから、本件登録意匠はこれら部分的な公知形状を寄せ集めたものとは到底いえず、意匠法第3条第2項の規定を適用することはできない。
もし仮にそのようなことが可能であるとするならば、この種物品分野に限らず種々物品分野の意匠においても、それぞれの分野ごとに機能的制約等が形態に少なからず影響を与えることもあることから、部分的、局所的に同様な形状となることをさけえない場合も想定され、さらに、意匠を構成する各部分を細分化した各意匠構成要素と、公知の多数の意匠の各部分の各意匠構成要素の形状とが同様な形状であった時に、これら多数の局所的部分等を寄せ集めて表した意匠を創作容易な意匠であるとするならば、新規の意匠の創作は特殊な場合を除いては創造され得ないものとなってしまうこととなり、妥当であるとはいえない。
しかしながら、請求人が主張するので考察すると、
本件登録意匠の基本的構成態様は、上記(1)に認定したように、袋部形状と細長ループ形状で構成されていることが明らかであり、そのような形態が本件登録意匠出願前の公知の意匠に明らかであったか否かについては、
まず、「底面を略細長長方形状とする袋状の両側上端を内側に入れ込み、襞状にして、全体を正面視高さと底面巾をほぼ同巾とし、上面巾を底面巾のほぼ6割程度とする縦長台形状にしたバッグ本体」の袋部形状については、概略的な態様としてはたしかに、唯一甲第1号証に、底面を略細長長方形状とし、両側上端を内側に入れ込み、襞状にして、全体を縦長台形状にした袋部形状が見いだされるが、この袋部には特徴ともいえる側面の長方形状で囲った中にファスナー部分、或いは手提げ基部逆扁平台形状の補強布様部の形態を表していることから、これらの部分をわざわざ取り除いた形状のみの袋部形状が公知であり、この形状を寄せ集めの一つの形状としたものとは到底いいえず、同様の袋部形状が公知であったとはいえない(甲第5号証は写真版からは定かでないが、上部が開口した袋形状ではなく、ファスナーで開口部を形成する別異な形態であり、甲第7号証は縦長台形状ではなく、その他の甲号証からはこのような形態は見いだせない。)。
また、本件登録意匠のような袋部形態(基本形状の(1)及び具体的な態様の(2)の様な袋部形態)、つまり、革様素材で底面及びその底部周りを細幅帯状形状で囲み、左右側面中央縦方向の細幅帯状形状を縫い付けた点、上部開口部を閉じ、上部形状を固定形成するため円形の上端寄り中央の止め金具、左右襞状形成保持するため2箇所にそれぞれ円形止め金具を設けた袋部形態と同様の形態は各甲号証意匠からは概略的にも見いだせず、本件登録意匠の袋部形状と同様の意匠が公知であったということはできない。
次に、逆U字状にした提げ手部間を細幅帯状部で繋いだ全体を細長ループ形状としたものと同様の形態としたものとして、唯一甲第6号証の正背に同様な細幅帯状部と逆U字状にした提げ手の態様が見いだされ、その具体的な態様も袋部本体とは別素材の革様素材で底面を形成し、その袋部底部周りを底面と同素材の細幅帯状形状で囲み、その開口部も同様に極細幅帯状形状の同素材で縁取りし、手提げ部分を細幅帯状形状を円筒状に丸め、逆U字状にし、細幅帯状部と繋いだ態様が同様であるとしても、細幅帯状部が底部を回した細長ループ形状にしたものとはいえず、また、底面部形状及び底部周り細幅帯状形状においても底部形状を隅丸細長長方形状としたか、太幅長楕円形状にしたかによりその態様が相違し、左右側面中央縦方向に同素材の細幅帯状形状を縫い付けたか否かにおいても相違していることから、それら革様素材で構成した全体の態様、つまり、提げ手部と細幅帯状部形状等の長さ構成比、底部形態、全体の縦横比、側面細幅帯状部の有無、開口部態様等を含めた態様においても同様とは言い得ない(甲第3号証は単なる細平紐をループ状にし、底部を回して両正背面に貼り付けたものであって、提げ手部を逆U字状にしていないし、甲第7号証の場合には提げ手部と細幅帯状部とは別金具で接続する形態であり、提げ手部は細幅帯状とした点で相違しており、別異な態様であり、その他の甲号証からはこのような形状は見いだせない。)。 そして、その構成態様の相違は、専ら袋部形態の相違からくるものであることから、その点についても考察するならば、袋部の底部形状及び縦横奥行比構成の相違により革様素材構成態様が相違することとなり、袋部の形態により手提げ部等の形態が相互のバランスをとりながら全体の形態を形成していることから、その革様素材による態様を概略同様にしているとしても公知の態様そのままを同様に表したとはとてもいい得ないものである。
また、付言するならば、甲第6号証とは袋全体の構成比の相違とともに、袋全体が暗調子か、縦ストライプ入り粗め織り模様の明調子かの相違が顕著であり、袋部本体と革様素材で構成した態様で共通する部分があるとしても、その全体の態様において相違することから、甲第6号証のその部分の態様をそのまま同様に表したものということもできず、別異な形態を表したものであり、この公知の形態を寄せ集めの一つの形態とすることもできない。
そうすると、本件登録意匠の各部分の形状と提出された全証拠の各部分と対比して同様の形状が表されており、それらをありふれた手法により寄せ集めたものであるとの主張は採用することができず、また、形態として検討した場合においても、袋部と細長ループ状の提げ手態様で構成した本件登録意匠の特徴とする形態が各証拠の形態に表されて公知の形態となっていたか否かについては上記したとおりであるから、全証拠の部分的な形態を寄せ集めて表したまでということもできず、請求人の主張は採用することができない。
以上のとおりであるので、本件登録意匠は、請求人の主張及び提出した証拠によっては、容易に意匠の創作をすることができたものとは認められず、本件登録意匠は意匠法第3条第2項の意匠に該当するにもかかわらず登録されたものとして、その登録を無効とすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2007-01-25 
結審通知日 2007-01-30 
審決日 2007-03-28 
出願番号 意願2004-584(D2004-584) 
審決分類 D 1 113・ 121- Y (B4)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 日比野 香
特許庁審判官 樋田 敏恵
正田 毅
登録日 2004-06-25 
登録番号 意匠登録第1213932号(D1213932) 
代理人 笠原 智恵 
代理人 高松 薫 
代理人 鈴岡 正 
代理人 木村 高明 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ