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審決分類 審判    L6
審判    L6
管理番号 1174164 
審判番号 無効2007-880010
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-06-26 
確定日 2008-02-12 
意匠に係る物品 建築用パネル 
事件の表示 上記当事者間の登録第1239429号「建築用パネル」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1239429号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求の主旨及び理由
請求人は、登録第1239429号意匠(以下、「本件登録意匠」という。)の登録は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める、と申し立て、その理由として、要旨以下のとおり主張し、甲第1号証ないし甲第5号証を提出した。
甲第4号証意匠に係る物品と、本件登録意匠に係る物品は双方共「建築用パネル」であり、その用途及び機能は全く同一であり、両意匠の基本的構成態様は同一である。具体的構成態様において、各構成部分の寸法関係及び位置関係もほぼ同一であると共に、両者はバランスの面において看者に全く共通した印象を付与するものである。両者の差異点が存在するとしても、共通する基本的構成態様と具体的構成態様が相俟って両意匠全体の共通する基調を決定づけており、相違する構成部分は全体として単なる部分的差異あるいは軽微な差異であって、決して類否を左右するものではなく、全体として共通点が差異点を陵駕し、圧倒的に類否感を誘発しているものである。
意匠の類否判断は、各構成部分の公知性、周知性、新規性を参酌し、共通点及び相違点を対比した上で、各構成部分が視覚的に訴える度合の軽重を総合的に評価した結果として為されるべきであるところ、甲第4号証の周知意匠と本件登録意匠との間に差異点が存在するとしても、この差異は看者の視覚的に訴える度合いを総合的に評価する場合、極めて軽微であり、意匠の評価判断上、全く無視される程度の差異に過ぎず、該周知意匠と本件登録意匠とは同一又は実質的に同一である。
本件登録意匠は、本件登録意匠出願前にJIS規格として制定された甲第4号証の意匠と全く同一であり、又、甲第5号証の公知意匠とも全く同一であるから、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第2号に違背して登録されたものであり、さもなければ、少なくとも甲第4号証及び甲第5号証の周知又は公知の意匠に基づいてこの意匠の属する分野における当業者が容易に意匠の創作をすることができたことは明白であり、依って、本件登録意匠は同法同条第2項に違反して登録されたものであり、同法第48条第1項第1号により本件登録意匠は当然無効とされるべきである。
第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、要旨以下のとおり主張し、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
本件登録意匠と請求人が提出した甲第4号証及び第5号証に示す引用各意匠とは、具体的構成態様において、下記の点において差異を有する。
(1)複数の凹凸に形成されたリブ状体の山部は、本件登録意匠は所定間隔で20個設けられてなるのに対し、引用各意匠は所定間隔で10個設けられてなる点。
(2)各構成態様における各部の比率において、
a)本件登録意匠では、各リブ状体の間隔の長さは、全高の縦方向長さ1に対して、約40分の1の長さであるが、引用各意匠では、各リブ状体の間隔の長さは、全高の縦方向長さ1に対して、約20分の1の長さである点。
b)本件登録意匠では、前記リブ状体の山部の幅は、全高の縦方向長さ1に対して、約40分の1の長さであるが、引用各意匠では、各リブ状体の山部の幅は、全高の縦方向長さ1に対して、約20分の1の長さである点。
すなわち、本件登録意匠がリブのピッチを細かく形成してなり、セメントパネルの重厚な質感を保ちつつ、微細なリブとリブピッチにより繊細なラインを表現しているのに対し、引用意匠は、リブのピッチを豪胆かつ力強いラインに形成してなるもので、看者に与える印象を全く異にするものである。該差異点は、この種物品における意匠の創作の要部における差異なのであり、よって、本件登録意匠と引用意匠は非類似であることは明白であり、ましてや、請求人の両意匠が同一又は実質的に同一である旨の主張は失当である。
本件登録意匠が、その出願前に日本国内に頒布された刊行物である甲第4号証及び甲第5号証に記載されたいずれの意匠とも類似しないものであるから意匠法第3条第1項第2号に規定に該当する余地は、寸分も存しないものである。
本件登録意匠と引用各意匠は要部において顕著に相違するものであり、そもそも非類似の意匠である。請求人は、甲第4号証及び甲第5号証として提出した引用各意匠に基づいてこの意匠の属する分野における当業者が容易に意匠の創作をすることができた旨主張するが、本主張を裏付ける論拠を何ら述べず、本主張を裏付ける証拠も何ら提出していない。
したがって、本件登録意匠は、甲第4号証及び甲第5号証の周知又は公知の意匠に基づいてこの意匠の属する分野における当業者が容易に意匠の創作をすることができたとはいえず、意匠法第3条第2項の規定に該当する余地は存しない。
以上の次第で、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第2号、及び同法第3条第2項の各規定には該当しない。
第3.請求人の弁駁書の主張
請求人は、被請求人の答弁書に対して弁駁書を提出して、要旨を以下のように主張した。
本件審判答弁書にて主張した本件審判請求人の主張と甲第3号証(判定請求書)にて主張した本件審判請求人の主張は正反対であり、矛盾している。しかもその余の双方の意匠の非類似に関する本件審判請求人の主張は、本件審判被請求人の独自の見解であって極めて妥当性を欠く。
本件登録意匠の如くリブ状体の個数及び中空部の個数を採択することは、本件登録意匠の属する分野における当業者であれば極めて容易に推認することができ、依って、本件登録意匠は甲第4号証、甲第5号証及び本件審判被請求人が提出した乙第3号証に掲載されている各公報に図示された各図面に基づいて容易に創作することができたことは明白である。
第4.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、意匠登録原簿、願書及び願書に添付の図面の記載によれば、平成16年5月11日に意匠登録出願をし、平成17年3月25日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1239429号意匠であり、意匠に係る物品を「建築用パネル」とし、その形態を、願書及び願書に添付の図面の記載のとおりとするものである(別紙1参照)。
2.請求人の無効理由について
請求人の無効理由は、本件登録意匠は、「甲第4号証の意匠と全く同一であり、又、甲第5号証の公知意匠とも全く同一」であるから、意匠法第3条第1項第2号に違背して登録されたものであり、さもなければ、少なくとも甲第4号証及び甲第5号証の周知又は公知の意匠に基づいてこの意匠の属する分野における当業者が容易に意匠の創作をすることができた」ものであるから意匠法第3条第2項に違反して登録されたものであるというものである。
しかしながら、本件登録意匠は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された意匠(両文献に記載された意匠は同一と認められ、実質的に区別する必要がないから、両文献に記載された意匠を、以下、共に「引用意匠」と言う。別紙2参照)と比較すると、
(ア)前面側の凹凸縞形状の単位数について、引用意匠は10としているのに対して、本件登録意匠は、20としている点、
(イ)中空部の数について、引用意匠は、8個としているのに対して、本件登録意匠は10個としている点、に差異が認められる。
これらの差異点により、本件登録意匠は、引用意匠と同一でないことは明らかであり、また、これらの差異は顕著であり、実質的に同一であるということもできないから、意匠法第3条第1項第2号に違反して登録されたものとすることはできない。
また、請求人は、審判請求書において、引用意匠に基づいて本件登録証が容易に創作をすることができたとする具体的根拠、あるいは、証拠を全く示していないから、請求人の主張する理由では、本件登録意匠を、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものとすることはできない。
したがって、請求人の提出した審判請求書の理由では、本件登録意匠の登録を無効とすることができない。
3.当審の無効理由の通知
本件について、当審は、以下のとおりの無効理由を当事者に通知し(請求人に対しては、「職権審理結果通知」)、相当の期間を指定して、意見を申し立てる機会を与えた。
「 本件登録意匠は、意匠に係る物品が「建築用パネル」であり、形態の要旨については、以下のとおりとするものである。
(1)全体の概略ついて、背面側を平面状とした同一断面形状が横方向に連続する横長帯板状のものであって、上端には凸条部を設け、下端には上端の凸条部と係合する凹溝を設け、前面側には横方向の凸条を、縦方向等間隔に多数設けて凹凸横縞形状を形成しており、更に、側・断面視矩形状とした横方向に貫通するほぼ同形の中空部を、縦一列に多数設けている。
(2)前面側の凹凸横縞形状について、凸条表面は、前側平面、及び、上・下両平面から構成される何れも同形とした、側面視概略凸コ字状とし、その間に形成される谷形状は、凸条表面と同幅・同形の反転した態様としたもので、凸条の上・下両表面は、前方に向け僅かに窄めたものである。
(3)凹凸横縞形状おける凸条の数について、20本としている。
(4)中空部の数について、10個としている。
これに対して、本件登録意匠出願前発行された刊行物に記載された下記意匠1には、本件登録意匠における(1)及び(2)の構成態様としたものが表されているものと認められる。但し、前面側の凹凸横縞形状おける凸条の数については、10本とし、中空部の数については、8個としている。
すなわち、本件登録意匠は、公知意匠1において、(ア)前面側の凹凸縞形状の単位数を10から20に変更し(これに伴い、当然のことながら、1単位の大きさにも変化が生じる)、(イ)中空部の数を、8個から10個に変更したものに相当するが、(ア)の単位数の変更、及び、これに伴う構成比の変更については、例えば下記参考文献1に見れば明らかなように、当業者であるならば極めて容易になし得たものと認められ、また、(イ)の点における変更については、具体的事例を挙げるまでもなく、この種意匠の分野において側・断面視矩形状とした中空部の数を様々な異なる数としたものが見受けられることから、当業者であるならば極めて容易になし得たものと認められる。
したがって、本件登録意匠は、下記の出願前公知であった意匠1に基づいて、当業者が容易に創作することができた意匠であり、意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず、意匠登録を受けたもので、その登録を無効とすべきものと認める。
〔意匠1〕「JIS押出成形セメント板(ECP)JIS A5411」(発行日、平成15年6月20日、請求人が提出した甲第4号証)3頁に、「デザインパネル」と表示され記載された意匠
〔参考文献1〕特許庁発行の特開平10-140783号公報、特に、図3の(a)ないし(d)及び、図4の(a)ないし(d)に表された意匠相互を参照。 」
4.当審の無効理由の通知(請求人に対しては、「職権審理結果通知」)に対する請求人及び被請求人の主張
当審の無効理由の通知に対し、請求人は、意見書に変え上申書を提出し、当審の認定、判断に意見の余地はない旨述べているのに対して、一方、被請求人は、意見書を提出し、要旨以下のとおり主張し、乙第6号証ないし乙第17号証を提出した。
本件登録意匠と公知意匠1とは、具体的構成態様において、下記の点において差異を有する。
(1)複数の凹凸に形成されたリブ状体の山部は、本件登録意匠は所定間隔で20個設けられてなるのに対し、公知意匠1は所定箇所で10個設けられてなる点。
(2)各構成態様における各部の比率において、
a)本件登録意匠では、各リブ状体の間隔の長さは、全高の縦方向長さ1に対して、約40分の1の長さであるが、引用各意匠では、各リブ状体の間隔の長さは、全高の縦方向長さ1に対して、約20分の1の長さである点。
b)本件登録意匠では、前記リブ状体の山部の幅は、全高の縦方向長さ1に対して、約40分の1の長さであるが、引用各意匠では、各リブ状体の山部の幅は、全高の縦方向長さ1に対して、約20分の1の長さである点。
(3)側・断面視矩形状とした横方向に貫通するほぼ同形の中空部は、本件登録意匠が10個なのに対し、公知意匠1は8個からなる点。
前面側の凹凸横縞形状における凸条の数、山部の間隔及び山部の幅の長さの差異点について、当該差異点は顕著であり、看者に与える印象を全く異にするものである。当該意匠の分野における当業者は僅かな差異であっても、印象を異にするものであり、そのうえで、機能的創作性をも含め、創作性の評価がなされるべきである。本件登録意匠と公知意匠1の差異点は、当業者にとっては非常に顕著であり、創作性という観点から極めて異なるものとの印象を与えるものである。
また、ある公知の意匠を変更し、別の意匠を創作するのが観念的に容易であるとしても、当該意匠の実施物である製品開発における当該企業の丹念な研究及び企業努力が意匠の保護に値する。
被請求人が、本件登録意匠に係る実施物の製品開発において、丹念な研究と多大な努力を費やしたことは、被請求人による普及活動により、JIS規格が定められることとなった事実からも明らかである。
中空部の個数の差異について、当該中空部は、前面部の凹凸横縞形状が構成する側面視概略凸コ字状と、側面視において本件登録意匠の重要な外観を構成する。意匠の評価は全体観察を基礎とするものであり、それは類否判断ばかりだけでなく、当然に創作性の評価においても同様である。押出成形セメント板では、押出成形という特性上、押し出す口金の設計において、中空部だけではなく、リブ部、両端の嵌合部を含めた全体のバランスを考慮した設計が必要であるという、技術的困難性を伴うため、当該中空部を8個から10個に変更する点においても、本件登録意匠が創作性を有するものということができる。
よって、本件登録意匠は、意匠法第3条第2項の規定には該当しないものである。
5.本件登録意匠の創作容易性の判断
本件登録意匠は、意匠に係る物品が「建築用パネル」であり、形態の要旨については、以下のとおりとするものである。
(1)全体の概略ついて、背面側を平面状とした同一断面形状が横方向に連続する横長帯板状のものであって、上端には凸条部を設け、下端には上端の凸条部と係合する凹溝を設け、前面側には横方向の凸条を、縦方向等間隔に多数設けて凹凸横縞形状を形成しており、更に、側・断面視矩形状とした横方向に貫通するほぼ同形の中空部を、縦一列に多数設けている。
(2)前面側の凹凸横縞形状について、凸条表面は、前側平面、及び、上・下両平面から構成される何れも同形とした、側面視概略凸コ字状とし、その間に形成される谷形状は、凸条表面と同幅・同形の反転した態様としたもので、凸条の上・下両表面は、前方に向け僅かに窄めたものである。
(3)凹凸横縞形状おける凸条の数について、20本としている。
(4)中空部の数について、10個としている。
これに対して、本件登録意匠出願前発行された「JIS押出成形セメント板(ECP)JIS A5411」(発行日、平成15年6月20日、請求人が提出した甲第4号証)3頁、「デザインパネル」と表示され記載された意匠(意匠1、別紙2参照)には、本件登録意匠における(1)及び(2)の構成態様としたものが表されているものと認められる。但し、前面側の凹凸横縞形状おける凸条の数については10本とし、中空部の数については8個としていることから、本件登録意匠における(3)及び(4)とした点と異なる。
すなわち、本件登録意匠は、意匠1において、(ア)前面側の凹凸縞形状の単位数を10から20に変更し(これに伴い、当然のことながら、1単位の大きさにも変化が生じる)、(イ)中空部の数を、8個から10個に変更したものに相当する。
しかしながら、(ア)の点における数の変更、及び、これに伴う構成比の変更について検討すると、前記無効理由通知において示した参考文献1、特許庁発行の特開平10-140783号公報、図3の(a)ないし(d)、及び、図4の(a)ないし(d)(別紙3参照)には、上・下両端に相互係合部を有する建築用壁板の前面側に設けた凹凸縞形状を、様々に単位数を変更して表したものが記載されており、これらの図相互を対比すれば明らかなように、当業者であるならば極めて容易になし得た変更と認められる。
また、(イ)の点における変更については、具体的事例を挙げるまでもなく、この種意匠の分野において側・断面視矩形状とした中空部の数を様々な異なる数としたものが見受けられることから、当業者であるならば極めて容易になし得たものと認められる。
このように、(ア)及び(イ)のような変更は、当業者であるならば何れも極めて容易になし得たものと認められ、また、これらを組み合わせたことにより、それぞれが持つ視覚効果以上のものが生じているとも認められないから、本件登録意匠は、当業者であるならば、本件登録意匠の出願前に公然知られたと認められる意匠1に基づいて格別の創意・工夫を要せず容易に創作することができたものである。
なお、被請求人は、意匠1に対して本件登録意匠は、美感が異なり、また、本件登録意匠に係る実施物の製品開発において、丹念な研究と多大な努力を費やし、押し出す口金の設計において、中空部だけでなく、リブ部、両端の嵌合部を含めた全体のバランスを考慮した設計が必要である旨主張するが、何れも、本件登録意匠の創作が容易であったか否かの判断に直接影響を及ぼす事項には該当せず、また、意匠法第3条第2項の規定の適用が除外される理由になるものではないから、採用することができない。
6.結び
以上のとおりであって、被請求人の主張を検討しても、本件登録意匠の創作が困難であったとする理由がなく、無効理由として通知したとおり、本件登録意匠は、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、意匠法第3条第2項の規定に該当し、本件意匠登録は、同法同条同項の規定に違反してなされたものであるので同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2007-12-04 
結審通知日 2007-12-07 
審決日 2007-12-21 
出願番号 意願2004-13787(D2004-13787) 
審決分類 D 1 113・ 121- Z (L6)
D 1 113・ 111- Z (L6)
最終処分 成立  
特許庁審判長 本田 憲一
特許庁審判官 市村 節子
山崎 裕造
登録日 2005-03-25 
登録番号 意匠登録第1239429号(D1239429) 
代理人 飯島 紳行 
代理人 藤森 裕司 
代理人 林 孝吉 

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