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審決分類 審判    C3
管理番号 1179107 
審判番号 無効2007-880014
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-11-15 
確定日 2008-05-23 
意匠に係る物品 スチームアイロン 
事件の表示 上記当事者間の登録第1266000号「スチームアイロン」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1266000号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は、登録第1266000号意匠の登録を無効とする旨申し立て、要旨以下の理由を主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第12号証の書証を提出している。
1.意匠登録第1266000号の登録までの経緯
意匠登録第1266000号の意匠(以下、「本件登録意匠」という。)は、平成17年5月19日に出願(大韓民国出願に基づく優先日平成17年4月25日)され、平成18年2月10日意匠権の設定の登録を受けたものである。
2.無効事由
本件登録意匠は、その出願前及び優先日前に、類似するイ号意匠が公知であったにもかかわらず登録されたのであるから、意匠法第3条第1項第3号に該当し、同法第48条第1項第1号により無効にすべきものである。
なお、本件登録意匠は、平成19年8月10日付発送の判定(判定2007-600001)により、イ号意匠と類似するとの判定を受けた。(甲第1号証)
3.本件登録意匠とイ号意匠の類似
(1)本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠に係る物品が「スチームアイロン」であって、その形態は図面の記載のとおりである。(甲第2号証の意匠公報参照)
(2)イ号意匠の説明
イ号意匠は、本件登録意匠と同一の物品「スチームアイロン」であり、その形態は、甲第5号証の写真に現わされとおりのものである。
(3)両意匠の共通点及び差異点
(a)共通点
両意匠とも、基本的構成態様を、(あ)全体の態様を、所謂船舶を反転させ船体を上方に表した態様の船首部相当部を水等収納用のタンク部とし、その上面に扁平円筒状の注水口キャップを設け、そのタンク部より後方部、全体のほぼ2/3程の部分を略L字状面でえぐり取り、その後端部から前方側に略湾曲突設したやや太めの略角柱状ハンドルを設け、底板部底面に蒸気噴出口を設けた略長方形状板前方を略湾曲V字状とした(所謂船体平面形状)底板形状とした点、(い)タンク部後方面を急斜面とし、その傾斜面から後半部のえぐり取った平面部へと複数本の細くて低い略L字状の板状リブを並列、等間隔に設け(本件登録意匠の平面図からは4本が確認されるものの、通常並列等間隔に表すことからハンドル下の1本を加え5本と考えることは妥当と思われ、板状リブを5本設けた点で共通する)、そのリブの長さを中央側リブより両外側リブの長さをやや短くして設けた点、(う)ハンドル部を後端部から立ち上げ、湾曲して前方へ底面と平行した握り部を形成し、後端立ち上げから湾曲部までを側面視やや幅広とし、握り部をそれよりは幅狭のほぼ角柱状とした点、(え)ハンドル部構成を側面視立ち上がりから握り部までの中央に上下部部材の境界線を表し、ハンドル基部と本体部との境界線を背面視本体上面より僅かに下の横細幅部位に横線で区切り、本体境界線上のハンドル部形状が背面視逆T字状になるよう形成した点、(お)本体部下端寄りの周囲に細幅の凸状帯状部を形成した点、(か)スイッチをハンドル水平握り部の先端部あたりに設けた点、(き)底板部の底面部を僅かな矩形状の後方部を残して先端部までの周縁を極僅かな2段の階段状にして外側へ僅かに突出させた点、(く)底板部底面の蒸気噴出口を円形とし、その周り家型五角形状の極僅かな凹部形状を設け、その上下(前後部)に2対の極細長長方形状のブラシ取付部を設けた点、が認められる。
(b)差異点
差異点は、(イ)本件登録意匠は、タンク部の略三角形状とした上面先端から下部先端部への態様を湾曲稜線状としているのに対して、イ号意匠は、略台形状上面の(台形状の)上底辺から下部先端部へと略細幅V字状の湾曲面状とした点、(ロ)タンク部上面のキャップ形状を本件登録意匠はやや径が小さくやや高さもある円筒状とし、周面に縦長楕円形状を等間隔に表したのに対して、イ号意匠はやや径の大きい高さの低い所謂丸餅状とし、上面周囲から側面にかけて等間隔放射状に細溝を表した点、(ハ)えぐり取った平面部を、本件登録意匠は後端へ向けてやや上方傾斜させているのに対して、イ号意匠はハンドル部基部下まで平坦面とし、ハンドル部基部とにやや低い段差を設けた点、(ニ)板状リブ形状前後端部を、本件登録意匠はハンドル前後近くのところまでの長さとしているのに対して、イ号意匠はタンク上面、後端部をハンドル基部までとしている点、(ホ)ハンドル水平握り部先端部を、本件登録意匠はタンク後方傾斜面上部と傾斜させて連結しているのに対して、イ号意匠はタンク部後部上方までの長さとし、その先端部下側を下方に僅かに突湾曲させている点、(ヘ)本体部下端寄りの周囲に設けた細幅の凸状帯状部形状を、本件登録意匠は後方から両側面へと同幅とし、両側面前寄り部分からタンク先端面に向けて緩やかに湾曲上昇させたのに対して、イ号意匠は同幅とした点、(ト)スイッチを、本件登録意匠はハンドルの前方タンク部への傾斜面上部にシーソースイッチとみられるスイッチを縦向きに設けたのに対して、イ号意匠はハンドル先端面にシーソースイッチを横向きに設けた点、(チ)底面部の細溝形状については、本件登録意匠は蒸気噴出口下(後方)に横細長の溝を設けているのに対して、イ号意匠は底面外周突出縁のやや内側の縁沿いに細溝を設けた点、が認められる。
(4)共通点及び差異点の比較評価と類否判断
上記の共通点と差異点を比較評価のうえ、以下の理由から、本件登録意匠はイ号意匠に類似していると思料する。
即ち、両意匠において共通する基本的構成態様の(あ)については、両意匠の全体の骨格を成し、(い)ないし(く)の各具体的態様と一体となって全体の基調を形成している。とりわけ両意匠の差異点を除く全体及び具体的な構成態様の酷似性は、本件登録意匠出願前の両意匠の属する分野の公知意匠調査によれば、(イ号意匠と同一形態を表した公知意匠(特許庁総合情報館1997年1月8日受入の大韓民国意匠公報1462巻第10頁所載の「アイロン」の意匠(意匠課資料番号第HH09065305号)(甲第12号証))1例を除いて)、両意匠の共通するタンク部形状に似たタンク部を形成した意匠が2,3みられるものの、両意匠の細部の共通する部分(共通点(お)ないし(く))を除いた共通する(共通点(あ)ないし(え)で構成された)概略形態を表したような類型的な意匠を見いだすことはできないことから、通常のスチームアイロンの形態のなかにおいては、むしろ両意匠の共通する態様は可成りの特徴を有した形態であるともいえることから、両意匠の共通感を看者に特に強く印象づけており、意匠全体として、これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて大きいといわなければならない。
これに対して前記差異点、(イ)の差異は、共通するタンク部形状のうちの先端稜線部を僅かな幅で削いだような細幅面にすぎず、タンク部の態様の中での極僅かな部分的な差異にすぎず、その差異が類否判断に影響を与える程のものともいえず、(ロ)の差異は、確かにキャップのみをはずして対比した場合にはやや相違するとしても、キャップをタンクに装着して全体としてみた場合には全体の態様のなかのほんの一部の形状にすぎず、ともに扁平円筒状としたことにはかわりはなく、この差異も微差にすぎないものといわざるをえない。(ハ)及び(ニ)の差異は、えぐり取った平面部を僅かな上方傾斜面としたか否かであるが、タンク部後方傾斜平面から後半部の略L字状にえぐり取った平面部へと複数本の細くて低い略L字状の板状リブを表した点では共通し、その前後、つまり、タンク部とハンドル部に囲まれた全体の構成態様の中でみた場合には、僅かな角度の傾斜面にすぎず、その差異は僅かなものといわざるをえず、また、リブの長さの相違は、本件登録意匠がハンドル先端をタンク後方上部に連結接合し、ハンドル後方部逆T字形状と本体とを接合しているために、板状リブ端部をその接合境界線までとすることはできず、接合部の直ぐ下あたりまでとした(イ号意匠斜視図によると板状リブ後端も境界線と接しないようにその僅かに下)にすぎず、ともに略L字状面に同様なリブを僅かに長さが相違するとしても、同本数、並列等間隔に表した点では共通することから、この点も極僅かな相違にすぎないものといわざるをえない。(ホ)の差異は、ハンドル先端部をタンク部と斜めに傾斜させて連結したか否かであるが、この種分野においては本件登録意匠出願前から本体及びハンドルを後方から立ち上げ前方へ湾曲して握り部を設けた態様を共通とするシリーズものの製品にあっては、ハンドル部先端部を本体と繋いだものとそうでないものとを用意することは通常行われている(例えば、特許庁総合情報館1990年11月8日受入の刊行物「HERBST/WINTER90/91Quelle」第1143頁所載の意匠課資料番号第HD02017639号と第HD02017640号の2つの「アイロン」、特許庁総合情報館1998年8月12日受入のドイツ意匠公報11巻第2217頁所載の意匠課資料整理番号第HH11058395号と第HH11058396号の2つの「アイロン」等)(甲第7号証)ことからすれば、両意匠のように上記共通する態様を有するアイロンのハンドル部先端部形状の相違は、通常用意される態様の種類の範疇にはいる程度の改変と認められることから、その相違は細部の差異にすぎないものといわざるをえない。また、イ号意匠のハンドルの先端下側を突湾曲させた態様は、ハンドル水平握り部の先端部に僅かに膨らみを設けることは、握り部の手が滑らないように安定させるため、先端に膨らみを設けることはこの種分野に限らず通常行われているところ(甲第7号証の第1番目参照))であることから、取り立てて特徴ということもできず、類否判断に与える影響は微弱なものに過ぎない。(ヘ)の差異は、本体下端部寄りの細幅帯状部分の先端寄りをやや上側へ湾曲上昇させたか否かであるが、その湾曲上昇部分も先端寄りの僅かな高さの僅かな部分のみであり、本体下部周囲に同様な細幅凸状帯状部分を設けたことでは共通し、全体からみた場合には相違は極僅かな差異にすぎないものといわざるをえない。(ト)の差異は、シーソースイッチが横向きか縦向きかの相違であるが、ともにハンドル部の共通する位置あたりに同様なシーソースイッチを設けた点では共通することからすればその縦か横かの相違はほんの僅かな微差にすぎない。(チ)の差異は、下面の細溝形状の相違に係るものであるが、この種の分野における通常みられる蒸気噴出口の態様は下面中央より先端側に下面の外側周縁の一回り内側に沿って小さな小孔を並べて配されることが通常であることからすれば、両意匠のような上記共通する特徴ある蒸気噴出口周りの態様(共通点(く))において共通することからすれば、それらの極細い溝は両意匠ともに極目立ちにくい僅かなものにすぎないものといわざるをえない。
そうすると、ハンドル部先端部がタンク部と連結しているか否かの形状には格別特徴がなく、各部の相異点についても上記の通りであって、それらが形態の特徴として強く主張することもできず、両意匠の類否判断に与える影響は微弱で、上記共通する構成態様の中での微差に止まる。また、仮に、これらの差異点が相俟って表出する効果を勘案したとしても、各共通点から惹起される両意匠の共通感を凌ぐ効果を到底認めることができない。
上記のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態において共通する態様は相俟って両意匠全体に共通する基調を形成しており、これに対して差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱なものであってこの基調を覆すに至らず、全体として共通点が差異点を凌駕して類否判断を支配するというべきものであるから、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するといわざるを得ない。
4.イ号意匠の公知性
(1)イ号意匠に係る商品の国内販売の事実
請求人は、イ号意匠に係るスチームアイロンを、本件登録意匠の優先日である平成17年4月25日よりも以前から、国内において販売していたのであるから、イ号意匠が、本件意匠登録出願前に、日本国内において公然知られていたことは明らかである。
即ち、請求人は2004年(平成16年)10月15日にサウスウインズに対し同商品を270個販売し(甲第8号証)、同年11月10日にヒーテック販売株式会社に対し同商品を108個販売し(甲第9号証)、2005年(平成17年)2月25日にアイメディア株式会社に対し同商品を2538個販売し(甲第10号証)、同年3月10日に株式会社ファインに対し同商品を3006個販売した(甲第11号証)事実がある。
(2)イ号意匠と酷似する意匠が大韓民国において意匠登録を受けていた事実
イ号意匠と酷似する意匠が、1996年(平成8年)10月8日に、大韓民国意匠登録第186820号として登録され、同年11月16日発行の同国意匠登録公報に掲載されていたのであるから、本件登録意匠が、そのはるか以前に、大韓民国において頒布された刊行物に記載された意匠に類似することは明らかである。(甲第12号証)
因みに、判定において「イ号意匠と同一形態を表した公知意匠」と述べ、当該大韓民国意匠がイ号意匠と酷似している事実を認定されている。(甲第1号証)
5.まとめ
以上のように、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に該当することは明白で、無効とされるべきものであるから、請求の趣旨通りの審決を求める次第である。
第2.被請求人の答弁
被請求人の答弁はなかった。
第3.当審の判断
請求人は、「本件登録意匠は、その出願前及び優先日前に、類似するイ号意匠が公知であったにもかかわらず登録されたのであるから、意匠法第3条第1項第3号に該当し、同法第48条第1項第1号により無効にすべきものである。」と主張し、「イ号意匠の公知性」として、「(1)イ号意匠に係る商品の国内販売の事実」及び「(2)イ号意匠と酷似する意匠が大韓民国において意匠登録を受けていた事実」を挙げ、そして、本件登録意匠が、「1996年(平成8年)10月8日に、大韓民国意匠登録第186820号として登録され、同年11月16日発行の同国意匠登録公報に掲載されていた・・・意匠に類似することは明らかである。」とも主張する。
そうすると、請求人の主張する無効理由は、以下の2つに整理される。すなわち、無効理由1として、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠(イ号意匠)に類似する意匠(意匠法第3条第1項第3号)に該当し、その意匠登録は意匠法第3条の規定に違反してされたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。および、無効理由2として、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に外国において頒布され刊行物に記載された意匠(イ号意匠と酷似する大韓民国意匠登録第186820号意匠)に類似する意匠(意匠法第3条第1項第3号)に該当し、その意匠登録は意匠法第3条の規定に違反してされたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。(なお、甲第5号証の写真に現わされたイ号意匠と甲第12号証の大韓民国意匠公報に記載された大韓民国意匠登録第186820号意匠は実質的に同一と認められる。)
そこで検討するに、請求人は、甲第8号証ないし甲第11号証により「(1)イ号意匠に係る商品の国内販売の事実」を主張するが、その事実の当否はともかく、イ号意匠と実質的に同一である「大韓民国意匠登録第186820号意匠」(以下、「引用意匠」という。)が、大韓民国において頒布された刊行物に記載された意匠であることは、甲第12号証により明らかである。そして、下記のように、本件登録意匠は引用意匠に類似する意匠と判断される。したがって、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に外国において頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠(意匠法第3条第1項第3号)に該当し、その意匠登録は意匠法第3条の規定に違反してされたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、大韓民国への2005年(平成17年)4月25日の出願に基づきパリ条約による優先権を主張して、平成17年5月19日に意匠登録出願され、平成18年2月10日に意匠権の設定の登録がなされたものであり、その願書の記載及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「スチームアイロン」とし、形状を願書の記載及び願書に添付された図面に記載されたとおりとしたものである(別紙第1参照)。
2.引用意匠
引用意匠は、1996年(平成8年)10月8日に、大韓民国意匠登録第186820号として登録され、同年11月16日発行の大韓民国意匠公報1462巻第10頁所載の「アイロン」の意匠(特許庁総合情報館1997年1月8日受入、意匠課資料番号第HH09065305号)(甲第12号証)であり、その形状は、当該大韓民国意匠公報に掲載された図面に記載のとおりである(別紙第2参照)。(なお、甲第5号証の写真は、引用意匠の認定の資料とはしない。)
3.両意匠の対比
本件登録意匠と引用意匠を対比すると、両意匠は、意匠に係る物品がともにスチームを噴射するアイロンであって共通し、その形状については以下の共通点と差異点が認められる。
(1)共通点
両意匠は、(あ)(あ-1)全体形状について、おおむね船舶を反転させ船底を上方に表した態様とし、(あ-2)アイロン前部(船首部)をタンク部とし、タンク部の上面を略三角形状の平面とし、その平面上に周囲に放射状模様を施した略扁平円筒状の注水口キャップを設け、(あ-3)アイロン中央部について、アイロン全長の約2/3の部分を側面視略L字状面でえぐり取り、(あ-4)アイロン後端部から前方側に略湾曲突設したやや太めの略角柱状ハンドルを設け、(あ-5)底板の外形状について、前方を略湾曲V字状とし後方を方形状とした、所謂船体平面形状とし、底面前部に蒸気噴出口を設けた基本的構成態様において共通する。
そして、その具体的構成態様において、(い)アイロン中央部のえぐり取り部について、タンク部後方面を急斜面とし、その傾斜面から後半部のえぐり取った平面部へと細くて低い略L字状の板状リブを5本並列、等間隔に設け(本件登録意匠の平面図からはリブは4本だけ確認されるが、通常並列等間隔に構成することから5本と推認される。)、中央側リブより両外側リブの長さをやや短くして設けた点、(う)ハンドル部について、(う-1)握り部を水平に設け、後端立ち上がり部分から湾曲部までを側面視やや幅広とした点、(う-2)ハンドル部の両側面の中央に上下部材の境界線を表した点、(う-3)本体部と境界線で区切られたハンドル基部は、本体部横幅と同幅に広がり、ハンドル基部を含めたハンドル全体は背面視略逆T字状に形成されている点、(う-4)ハンドル水平握り部の前端部に略横長長方形状の電源スイッチを設けた点、(え)アイロン本体部下端寄りの周囲に細幅凸状の帯状部を形成した点、(お)底板部について、(お-1)その後端部以外の周縁を極僅かな2段の階段状にして外側へ僅かに突出させた点、(お-2)底面について、前部中央に円形の蒸気噴出口とその後方に接して横細長長方形状部を設け、それらの周りに家型五角形状の線模様を配し、その前後部に2対の極細長長方形状部を設けた点で両意匠は共通する。
(b)差異点
両意匠は、(イ)タンク部において、(イ-1)タンク部先端について、本件登録意匠は、上面先端から下部先端部へ湾曲稜線を形成しているのに対して、引用意匠は、タンク部の上面先端を若干切り欠き、上面先端から下部先端部へと略細幅V字状の湾曲面を形成している点、(イ-2)タンク部上面の略扁平円筒状の注水口キャップ形状について、本件登録意匠は、やや径が小さくやや高さもあり、周面に十数個の縦長楕円形状模様を表したのに対して、引用意匠は、やや径の大きく高さが低く、上面周囲から側面にかけて二十数個の細溝を表した点、(ロ)アイロン中央部において、(ロ-1)アイロン中央部のえぐり取った平面部について、本件登録意匠は、後方へ向けてやや上方傾斜させハンドル基部と連続しているのに対して、引用意匠は、平坦面としハンドル基部とに段差を設けた点、(ロ-2)えぐり取った平面部の板状リブについて、本件登録意匠は、ハンドル基部とに隙間があるのに対して、引用意匠は、ハンドル基部に連接している点、(ハ)ハンドル部において、(ハ-1)その先端部について、本件登録意匠は、タンク部後方面の上部と傾斜させて連結しているのに対して、引用意匠は、タンク部後方面の上方までの長さとし、ハンドル部の先端部下側を下方に僅かに突湾曲させている点、(ハ-2)電源スイッチについて、本件登録意匠は、スイッチを縦向きに設けたのに対して、引用意匠は、スイッチを横向きに設けた点、(ニ)本体部下端寄りの周囲に設けた細幅凸状の帯状部について、本件登録意匠は、両側面前寄り部分からタンク先端に向けて緩やかに湾曲上昇させ幅を広げているのに対して、引用意匠は、同幅とした点、(ホ)底面部の外周部について、本件登録意匠は、平坦面としているのに対して、引用意匠は底面外周突出縁のやや内側の縁沿いに帯状細線模様を設けた点に差異が認められる。
4.類否判断
意匠の類否を判断するに当たっては,意匠全体として類否判断するが,そのためには,共通点及び差異点について,意匠全体に占める割合、物品特性、及び公知意匠を参酌し、看者の注意を引く部分か否かを評価して,意匠全体として両意匠の全ての共通点及び差異点を総合的に観察した場合に、需要者に対して共通する美感を起こさせるか否かを判断する。
そこで検討するに、この種スチームアイロンの性質,用途,使用態様を参酌すると、需要者は、アイロンを置いた場合には斜め上方から全体を視認し、その使用に際しては、ハンドルの態様、操作スイッチ等の態様に注目し、スチームアイロンであるから底面部の態様にも注目するものである。したがって、この種スチームアイロンの意匠の看者は、斜め上方からの視点を中心として意匠を観察し、ハンドルの態様、操作スイッチ類の態様、及び底面の態様等の各部の態様を含めて意匠全体を視認するものと認められる。
そうすると、共通点(あ)の全体を略逆船底状とし、前部タンク部上平面にキャップを設け、中央部をえぐり取り、後端部からハンドルを突設し、底板を船体平面形状とした基本的構成態様は、両意匠の全体的な骨格を形成しており、看者の注意を引くものである。また、共通点(い)のリブ態様は、アイロン中央の大きな部分を占め、かつ、斜め上方から視認される態様であって、看者の注意を引くものである。共通点(う)の態様は、ハンドル部のほとんど全体にわたるものであり、斜め上方から視認され、使用に際しても注目される態様であって、看者の注意を引くものである。そして、特に、(あ)の基本的構成態様とともに具体的構成態様である(い)のリブ態様と(う)の水平握り部と背面視略逆T字状のハンドル態様を合わせ持ったアイロンの構成態様は、引用意匠の以前には見られない新規なものであり、格別看者の注意を引くものである(公知意匠としては、(公知意匠1)登録第405919号意匠、(公知意匠2)登録第644078号意匠、(公知意匠3)特許庁総合情報館が1993年3月19日に受け入れたカタログ「PROUDUCTRANGE」9頁所載アイロンの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HD05006791号)、(公知意匠4)特許庁総合情報館が1996年2月8日に受け入れた「大韓民国意匠公報」1356巻209頁所載の登録第169955-1号アイロンの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH08043083号)、(公知意匠5)特許庁総合情報館が1996年11月6日に受け入れた「大韓民国意匠公報」1443巻179頁所載の公開96-320号アイロンの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH09047574号)がある(別紙第3参照)。)。さらに、両意匠は、具体的態様である(え)本体部下端の態様や(お)底面の態様においても共通性が顕著であり、共通する態様を総合的に勘案すると、両意匠は全体として美感が共通する。
これに対し、差異は微弱であって、両意匠の共通する美感を変更するまでのものではない。
すなわち、差異点(イ-1)のタンク部先端の形状の差異は、タンク部先端部という意匠全体から観れば一部位における、僅かな幅の切り欠きの有無にすぎず、タンク部の共通態様(あ-2)アイロン前部(船首部)をタンク部とし、タンク部の上面を略三角形状の平面とし、その平面上に周囲に放射状模様を施した略扁平円筒状の注水口キャップを設けた共通態様の中での極僅かな差異であって、看者の注意を引くものではない。差異点(イ-2)の注水口キャップ形状の差異は、いずれも略扁平円筒状という点では共通し、模様も周囲に放射状模様を施した点では共通しており、本件登録意匠の模様態様も格別特異なものではなく(例えば、(公知意匠6)特許庁総合情報館が2000年10月27日に受け入れたカタログ「2000ELEKTROKLEINGERA“TE」103頁所載のアイロンの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HD12030925号)、(公知意匠7)特許庁総合情報館が2001年3月22日に受け入れた「大韓民国意匠公報」所載登録番号30-0271169号のアイロンの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH14602651号)、(公知意匠8)特許庁総合情報館が2003年12月4日に受け入れた「大韓民国意匠公報」所載登録番号30-0332311号のアイロンの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第HH15549823号)参照(別紙第4参照)。)、この差異は、意匠全体から観ると一部位に係る微差であって、看者の注意を引くものではない。差異点(ロ-1)の傾斜面か平坦面かの差異は、本願意匠の傾斜も、引用意匠の段差も僅かなものであり、斜視する場合にはごく僅かな差異と視認され、共通点(あ-3)アイロン中央部について、アイロン全長の約2/3の部分を側面視略L字状面でえぐり取った大きく変化する構成態様の中での微差であって、意匠全体から観ると一部位に係るものであり、看者の注意を引くものではない。差異点(ロ-2)板状リブとハンドル基部との隙間の有無は、意匠全体から観れば一部位に係る差異で、かつ、共通点(い)アイロン中央えぐり取り部に細くて低い略L字状の板状リブを5本並列、等間隔に設けた特徴的な共通態様の中での僅かな差異であり、看者の注意を引くものではない。差異点(ハ-1)ハンドルがタンク部と連結されているか否かの差異は、この種アイロン分野において、本体及びハンドル態様を共通として、ハンドル先端部を本体と連結したものとしないものがあることが普通に見受けられることを考慮すると(例えば、(公知意匠9,10)特許庁総合情報館1990年11月8日受入の刊行物「HERBST/WINTER90/91Quelle」第1143頁所載の意匠課資料番号第HD02017639号と第HD02017640号の2つの「アイロン」、(公知意匠11,12)特許庁総合情報館1998年8月12日受入のドイツ意匠公報11巻第2217頁所載の意匠課資料整理番号第HH11058395号と第HH11058396号の2つの「アイロン」等(別紙第5参照)。)、意匠全体として観ればごく短い距離を連結するか否かの差異で、一部位に係る差異であり、いずれの態様も格別特異なものではなく、この差異は看者の注意を引くものではない。差異点(ハ-2)のスイッチが横向きか縦向きかの差異は、共通点(う-4)ハンドル水平握り部の前端部に略横長長方形状の電源スイッチを設けたという共通する態様のなかでのほんの僅かな差異であり、かつ、意匠全体から観ればごく一部位に係る差異でしかなく、看者の注意を引くものではない。差異点(ニ)の本体部下端寄り帯状部の幅の変化態様の差異は、意匠全体から観れば先端よりの一部位に係る差異で、その湾曲上昇部分も僅かな高さであり、かつ、格別特異なものではなく、看者の注意を引くものではない。差異点(ホ)の帯状細線模様の有無は、比較的視認されにくい部位に係るもので、引用意匠の模様の態様も外周に沿った特徴のないもので、かつ、本願意匠の態様は平坦面でありふれた態様であり、この差異は看者の注意を引くものではない。また、これらの差異点が相俟った意匠的効果を勘案したとしても、両意匠の全体として共通する美感を変更するまでのものではない。
以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態においても、共通点が差異点を凌駕し、意匠全体として美感が共通するものであるから、本件登録意匠は引用意匠に類似する。
5.まとめ
したがって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、その意匠登録は意匠法第3条の規定に違反してされたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
別掲
審理終結日 2008-03-26 
結審通知日 2008-03-28 
審決日 2008-04-11 
出願番号 意願2005-17225(D2005-17225) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (C3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 下村 圭子尾曲 幸輔 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 杉山 太一
鍋田 和宣
登録日 2006-02-10 
登録番号 意匠登録第1266000号(D1266000) 
代理人 高柴 忠夫 
代理人 志賀 正武 
代理人 高橋 詔男 
代理人 渡邊 隆 

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