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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007880017 審決 意匠

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審決分類 審判    C2
管理番号 1190657 
審判番号 無効2007-880016
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-12-07 
確定日 2009-01-07 
意匠に係る物品 人形 
事件の表示 上記当事者間の登録第1310309号「人形」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1310309号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由の要点
1.審判請求人(以下,「請求人」という。)は,「登録第1310309号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て,本件登録意匠は,意匠の創作をした者でない者であってその意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願(以下,「冒認出願」という。)に対してされたものであるので,意匠法第48条第1項第3号に該当し[無効理由1],その出願の日前の他の意匠登録出願であって当該意匠登録出願後に意匠公報に掲載された意匠登録第1298050号の願書の添付図面に表された意匠の一部と類似し,意匠法第3条の2の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,その登録は同法第48条第1項第1号に該当し[無効理由2],本件出願前に公然知られ,または電機通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である甲第12号証に表された雛人形の意匠の一部と類似するものであるから,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,その登録は同法第48条第1項第1号に該当し[無効理由3],無効とすべきであるとして,審判請求書の記載のとおりの主張をし,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第17号証の書証を提出している。
請求人の主張は,概ね次のとおりである。

2.審判請求書の理由の要点
(1)無効理由1について
請求人会社に所属する康成・ルミ子は,人形の製造・販売を営む被請求人会社を同年3月10日に訪問し,被請求人に製造依頼を打診し,同年4月末までに本件登録意匠における基本的構成態様の基礎となる袖口にレースの飾り部を設けた雛人形のデザインを創作し(甲第5号証・第6号証),同年5月12日に,被請求人会社を再度訪問して開発部鈴木章人氏(以下「章人氏」という)に面会し打ち合わせを行い(甲第3号証1?2頁,甲第4号証2?3頁参照),その際,本件登録意匠の基礎となる袖口にレース飾りを設ける構成の生地見本表(甲第6号証)及び企画図面のコピー(甲第5号証)を章人氏に渡し,請求人が販売を予定する複数種類の新作雛人形について具体的内容を呈示し,その見本品及び商品の製造を依頼した(甲第4号証3頁7行?12行,甲第14号証参照)。
そして,康成・ルミ子は,同年5月末までには人形衣装のコンテ図面を作成して本件登録意匠における基本的構成態様を完成させ(甲第9号証),同年6月8日には実際に使用するレースの柄を決定して,本件登録意匠の具体的態様部分を完成させた(甲第8号証)。すなわち,同日,康成・ルミ子は,被請求人会社を訪問する経路の途中でユザワヤ浦和店に立ち寄り,各生地を選択・購入し(甲第8号証・甲第10号証),その後,章人氏に面会し,康成・ルミ子が予め作成しておいた人形衣装のコンテ図面(甲第9号証)及び購入したレース生地1(甲第8号証のQ左側,5上側)を含む複数種のサンプル生地を渡し,その場でこれらのサンプル生地を台紙に貼付して生地見本表(甲第8号証)を作成して章人氏に渡して,章人氏に対し人形衣装についての具体的な指示を行った。
請求人の指示に従って雛人形を製造した章人氏は,同年6月16日,その画像を添付した電子メール(甲第7-12号証)を康成に送信し,本件登録意匠とほぼ同一の構成を有する袖口の飾り部(黒色系)を含む見本品1を示した(甲第7-12号証,甲第7-13号証)。
本件登録意匠と見本品1とを対比すると,基端側の格子模様は確認できないものの,本件登録意匠とほぼ共通した柄の飾り部が認められる。
請求人と被請求人との関係は,請求人側が創作・企画した雛人形に関する製造依頼者と製造請負者の関係であって,新しい人形デザインの創作依頼や新作人形の共同開発ではない。本件意匠登録は,雛人形の完成品(製品)の写真ではなく部分意匠を示す図面であり,請求人側がコンテ図面(甲第9号証5頁等)で被請求人側に示した袖口飾り部の線図に,請求人側が選択・購入した甲第8号証のレース生地の柄を適用したものであるため,被請求人が製造過程で加味するような意匠の創作は何ら存在していないものである。
上述したように,本件登録意匠は,その基本的構成態様が平成18年5月末の康成・ルミ子によるコンテ図面(甲第9号証)の作成時点で完成しており,その具体的態様が同年6月8日の康成・ルミ子による甲第8号証のレース生地1の選択・購入時点で完成したものであり,その真の創作者は康成・ルミ子であることが明白である。

(2)無効理由2について
本件登録意匠と甲第2号証の意匠(意匠登録第1298050号)の類比を検討すると,甲第2号証の出願時点では,雛人形の袖口にレース地の飾り部を設けた前例がなく,比較する対象のない斬新なものであるために,その類似範囲は通常広く認識すべきところ,本件登録意匠のように巷の手芸店で多数販売されているようなレース飾りをそのまま利用しただけのありふれた模様は,類比判断の重点となる意匠の要部にはなり得ないものである。
また,看者である一般需要者が雛人形を観賞する通常距離(1m程度)を想定した場合,共通部分であるレース飾りが袖口に付いていること,及びその端縁側の輪郭の凹凸については,離れていても比較的判別容易で意識されやすく印象に残りやすいことから,類比判断において比較的高いウエートとなる。
以上のことから,いずれの差異点も両意匠に共通した美観・印象を凌駕するものではなく,本件登録意匠は甲第2号証に記載の意匠の一部に類似するものである。

(3)無効理由3について
(A)先行意匠が存在する事実及び証拠の説明
甲第12号証3頁右下部分の画像は,実際の画像採集時は平成19年11月ではあるが,本件登録意匠の出願日である平成18年12月24日より以前の,少なくとも平成18年12月3日のホームページリニューアル時点(甲第12号証(請求人はこれを甲第9号証としているが,錯誤と思われる。)2頁)から現在に至るまで被請求人会社のホームページ(http://www.suzuki-ningyo.com/)の画面に表示されている,「Bell's Kiss Series」の女雛の画像であり,この画像には本件登録意匠に類似するものとして電気通信回線を通じて利用可能となった意匠(袖口の飾り部)を含んでいる。
この「Bell's Kiss Series」は,甲第12号証3?5頁の各画像に共通して見られるように,現代的な顔立ち・衣装・アクセサリー等を有した新しいデザインコンセプトによる雛人形のシリーズであり,その主役的な位置を占める姫は,その衣装において襟元または/および袖口にレース地の飾り部を設けた点を衣装デザイン上の特徴としている。そして,「Bell's Kiss Series」は,被請求人会社ホームページ中のプレス欄に自ら記載しているように(甲第12号証1頁),本件登録意匠の出願前である平成18年10月1日に被請求人自ら発表したものである。
(B)そのため,本件登録意匠は,少なくとも平成18年12月3日のホームページリニューアル時には公にされたものである。
(C)以上のことから,本件登録意匠は,甲第12号証3頁の雛人形画像の袖口飾り部の意匠と,少なくとも類似するものであり,本件登録意匠に係る出願は,出願後所定期間内に新規性喪失の例外の適用を受けるための手続きを行っておらず,出願前に自ら新規性喪失に至らしめたままとしたものである。
(D)尚,被請求人が上述した無効理由1に対し,本件登録意匠は被請求人側が創作したと主張する場合には,その出願日以前の平成18年6月27日に章人氏が請求人会社を訪問した(甲第4号証3頁の(3))際の請求人に示したサンプルの中に,甲12号証3頁の雛人形と衣装の同一ものが含まれているため(甲第11-4号証の右から2番目),少なくともその時点で新規性を喪失したことになる。

3.弁駁の理由の要点
(1)無効理由1について
〈1〉被請求人は甲8に貼付した生地の殆どはレース生地1,2を含め被請求人会社で考案・購入したものであると主張しているが,甲8のレース生地1,2も被請求人会社で購入したと主張するのであれば,同年6月8日以前に当該生地を購入したことについて,領収証等を提示しその事実を被請求人側から明らかにしていただきたい。
〈2〉被請求人は,請求人が被請求人にコンテ(甲9)を示した事実は認めながら,甲9は専門家が見れば着物の構造をはじめ,全く形をなしておらず素人が想像で書いたものであり,請求人会社は被請求人会社に人形制作にあたり単なる希望を伝えたに過ぎないと述べ,百歩譲ってアイデアを提供したとしてもアイデアを提供したに過ぎないものは創作者とはいえない,と主張している。しかし,本願登録意匠を含む新作雛人形のデザインコンセプト(アイデア)自体は雛人形の外観に係るものであって(意匠も物品の外観である),人形衣装の内側や外部から認識しにくい細部構造の特定まで要するものではないことから,人形製作の専門家でなくても人形の外観デザインは行い得ることは明らかである。また,意匠の創作はアイデアそのものであり,このアイデアから実際の物品を製作する際に単に手足となって手伝った者(単なる補助者)や,他人のアイデアに対し単に助言を与えただけのものは創作者ではない。被請求人は請求人のアイデアに従い手足となって手伝った者に過ぎず,意匠の創作者ではないことが明白である。
〈3〉本件登録意匠はレース地による飾り部である部分意匠であり,〈要旨1〉は,人形についての重袖口の最内側から突出したレース地による飾り部を設けた点であり,〈要旨2〉は,前記レース地の模様が,従来周知の車輪模様(車紋)を連続して配置した点である。〈要旨1〉については,請求人が本件登録意匠の出願前に被請求人に提示したものである(甲9)。次に,レース地の模様自体は,特に新規なものではなく,本件登録意匠の出願前に一般に販売されているものである(甲10)。従って,本件登録意匠の要部は〈要旨1〉であって,本件登録意匠は請求人が創作したものである。〈要旨2〉についても本件意匠登録出願前(6月8日)に請求人が選択して調達したものであり,被請求人はサンプルの製作は請け負っているものの,本件登録意匠の創作が請求人により行われたものであることは明白である。また,被請求人は,〈要旨2〉の「レース地」につき,被請求人会社で考案・購入した生地であると主張するが,被請求人が考案したということは,レース地のどこに技術的思想が存在するのか,何時,何処で購入したのかを立証すべきである。
〈4〉以上,甲9において,人形袖口にレース飾りが設けられていること,そのレース飾りに袖口長径の約10分の1の突出幅のものが見られること,レースの先端側に半円を連ねた外縁形状も見られることから,少なくとも本件登録意匠の基本的構成態様はその作成時点で完成しており,また,甲 8においてそのレースに具体的な車輪模様が見られることから本件登録意匠の具体的態様はその時点でほぼ完成しており,これらで本件登録意匠に係る意匠の創作が完成している。本件登録意匠の真の創作者は康成らであることは明白である。

(2)無効理由2について
被請求人の主張する相違点が存在することは認めるが,両意匠の最も大きな共通部分である袖ロの開口部周方向に沿って設けられ開口部の長径に対し約10分の1の突出幅でレースの袖飾りが設けられている形態が,看者が最も容易に認識できるとともに目を惹くところである。この分野においてはその時点で他に同様のレースの袖飾りは全く存在しなかったため,わざわざレースの詳細な柄まで注目することまでは想定しにくいことである。

(3)無効理由3について
甲12意匠のホームページ写真からでも黒色のレースの袖口飾りは認識でき,詳細な模様は不鮮明であるとしても半円を連ねた形状は認識することができる(特に左袖)。

第2.被請求人の答弁及び理由の要点
1.被請求人は,「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し,その理由として,答弁書に記載のとおりの反論をし,証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証を提出している。
被請求人の反論は,概ね次のとおりである。

2.答弁の理由の要点
(1)無効理由1について
甲8を康成らが作成した事実及び同人らが章人に細部を指示したことは否認する。そもそも,どのようなデザイン・生地・配色にすればいいか,どこで購入すればいいかなどを請求人に対してアドバイスしたのは,豊富な製作実績を持つ被請求人会社である。甲8は康成・ルミ子が作成したものではなく,その場で章人が作成し,康成・ルミ子に渡していたものである。また,甲8に貼付した生地のほとんどは,被請求人会社で考案・購入した生地で,レース生地1(甲8・J,V)及びレース生地2(甲8・Q)についても同様である。章人が貼付した中には康成らが購入した生地も若干あるが,その生地にしても請求人会社が康成らに対し,どのようなデザイン・素材にすればいいか具体的に指示したものである。
加えて,甲9は専門家が見れば着物の構造をはじめ,全く形をなしておらず,素人が想像で書いた程度のものである。康成・ルミ子が章人に対し人形衣装について具体的な指示を出した事実はなく,仮に何らかの指示があったとしても,豊富な人形製作実績を持つ専門家である章人が素人ともいえる請求人会社の指示に従うことはあり得ない。請求人会社は,被請求人会社に対して,制作を依頼するにあたり単なる希望を伝えたに過ぎない。本件登録意匠の創作者は章人である。仮に百歩譲って,請求人会社が被請求人会社に対して,アイデアを提供したといえるとしても,単にアイデアを提供したに過ぎない者は創作者とはいえず,現実に創作行為に加担した者,すなわち章人が創作者であることは明白である。

(2)無効理由2について
甲第2号証は,その示される図面が小さく,正確に「レース飾り」を把握することができ得ない状況にある。請求人の主張を,一応正しいものと仮定して,主張を仮に行えば,本件意匠は多数の車輪図形によるフラットな面をなすのに対して,甲2意匠は先端が波状の立体フリルをなすので,その構成態様を大きく異にし,美感を異にするから,類似する事実はない。

(3)無効理由3について
甲12意匠は,袖口が黒く塗り潰されたように示されており,これを以ってレースの袖ロ飾りが付されていると客観的に認識し得るものではないし,仮にこれを袖飾りが付されているものと認識し得たとしても,その構成態様は不明である。かかる類のものを以って,本件意匠と類似するといっても,意匠法上意味のない論議である。

3.2回目の答弁の理由の要点
2回目の答弁は,平成20年7月2日付職権審理結果通知書の送付後に提出されたものである。
1.無効理由1について
(1)請求人(康成ら)は人形製作に使用する生地と構造等についての知識があまりに乏しかったため,打ち合わせの中で,章人は人形生地の特徴と部品,その他用いる材料,仕入先についての詳細を再三にわたり細かく指示を行っていた。章人が康成らに行ったアドバイスとは,素材選定,仕入先の紹介をはじめとして,被請求人が人形業界で長年培ってきたメーカー及び販売店としての知識と経験,意見,市場動向,売れる配色,サイズ,デザイン等にわたり,これらを親身に康成らに指示・提案し続け,康成らもそれに従った。現に,被請求人(章人)は,康成らに仕入先として,ユザワヤだけでなく,トーカイ,金襴専門店の(株)伴戸商店,むらかみ商店,人形部品メーカーの(有)高橋人形工房を紹介し,章人が求める生地を購入するよう指示したが,実際に,康成らは弊社からの全紹介先に訪れ,商品の発注及び購入をしており,この事実からも章人のアドバイスに従っていたことが容易に分かる。なお,被請求人は,章人が「共同創作者」であると主張するものではなく,「単独の」創作者であると主張していることを念のため付言する。
(2)甲8について,調査の結果,章人は,平成20年(これは,平成18年の誤りと思われる。)6月4日「カシワヤ」 においてレース生地1及びレース生地2 を購入したことが判明した(乙 6 )。さらに,甲8のJ,Vに貼付されているレース生地は請求人が購入したとする甲10-2のレース生地とは全く別のものである。甲8のJ,Vに貼付されているレース生地は,ユザワヤでは品番51-3(乙 7)であるのに対し,甲10-1の生地の品番は50-3である。したがって,レース生地1(甲8/J,V)及びレース生地2(甲8・O)は章人が購入したのであり,レース生地1及び2の使用を考案・決定したのは,章人であるのは明白である。

2.無効理由2について
甲2意匠と本件意匠の相違点は,需要者の目を惹き,需要者に一見して直ちに明瞭に認識される相違点であり,需要者の視覚を通じて起させる美観を異にすることが明らかであり,これら相違点がありながら,双方を類似するものとすることは到底でき得ない。

3.無効理由3について
(1)甲12意匠は,その襟元飾りに濃密模様があることは判明するが,該濃密模様の態様を明瞭に看取することはできず,これを車輪模様の図形であるとすることは無理である。
(2)甲12号証の,被請求人HPにおける「2006.10.1『BELL'S KISS SERIES』発表」との記載について,「発表」は,人形の発表や発売を示すものではない。当時,被請求人として自信を持てる新製品として上記人形の頭部部品の販売が可能となったために,該人形の頭部部品の「発表」をHPを通じて行った。頭部部品の単品を掲載するのは適当ではないため,この頭部部品を被請求人において試作中の人形に適用した写真をHPに掲載したものである。なお「BELL'S KISS SERIES」は,その後,頭部部品と完成品の人形の商標として共通に使用している。該写真では,頭部の顔は鮮明であるが,袖飾りが不鮮明であるとともに片側の袖が不自然な箇所で縦に切断され,人形としてその態様を具体的に把握することは困難であり,凡そ人形を発表するとしては,不自然且つ不適当となっているのは,このような事情があるからである。
従って,被請求人HPの記載に基づいて「BELL'S KISS SERES」の発表乃至発売の日を,平成18年10月1日としたり,同年12月3日とすることは基本的に誤っている。

第3.当審における審理経過
1.請求人の主張する無効理由について
当審は,上記無効理由について審理したところ,「無効理由1」については,請求人及び被請求人がこれまで提出した証拠によっては,請求人の主張する,本件登録意匠は,本件登録意匠を創作した者でない者であってその意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願,いわゆる冒認出願に対してされたものとの事実について,特にレース地部分の決定に関し,異なる証拠が提出されているため,十分な心証を得ることができない。したがって,無効の理由とはならないものと判断する。
「無効理由2」については,本件登録意匠と引用意匠とは,具体的構成態様が異なるため非類似と認められ,無効の理由とはならないものと判断する。
「無効理由3」については,請求人の提示した引用意匠が不明確で,引用意匠の具体的構成態様の細部が判別できず,本件登録意匠と引用意匠とは非類似と認められ,無効の理由とはならないものと判断する。

2.当審における無効理由
当審は,平成20年7月2日付で,請求人と被請求人に対し,職権審理結果通知書にて,本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定に該当し,本件登録意匠は意匠法第3条の規定に違反してなされたものであるとの無効の理由を通知したところ,被請求人から,前記2回目の答弁と,平成20年7月31日付意見書を得た。そして,平成20年8月28日付で,請求人と被請求人に対し,2回目の職権審理結果通知書にて,本件登録意匠は意匠法第3条第2項の規定に該当し,本件登録意匠は意匠法第3条の規定に違反してなされたものであるとの無効の理由を通知した。
その無効の理由は,以下のとおりである。
『本件登録意匠(登録第1310309号の意匠)は,意匠に係る物品を「人形」とし,人形の重袖の最内側の袖口から突出するように帯状に設けたレース地による飾り部を部分意匠として意匠登録を受けようとする部分としたもので,飾り部は基部と先端飾り部からなり,先端飾り部の形態を,円形部を長手方向に連接して突設配置し,その円形部につき,円中央部から外枠側へと多数本の放射状細線を配した車輪図形状としたものである。
しかし,レース地による飾り部を,人形の袖口から突出するように帯状に設けた態様は,公知意匠1に見られるように本願出願前に公然知られているし,レース地による飾り部を,人形の重袖の最内側の袖口から突出するように帯状に設けた態様も,公知意匠2に見られるように本願出願前に公然知られている。
そして,基部と先端飾り部からなるレース地において,先端飾り部につき,円形部を長手方向に連接して突設配置し,その円形部を中央部から外枠側へと多数本の放射状細線を配した車輪図形状とした形態のレース地は,公知意匠3に明らかなように,本願出願前に公然知られている。
すなわち,この意匠登録出願の意匠は,本願出願前に公然知られていた態様(公知意匠2の態様)である,人形の重袖の最内側の袖口から突出するように帯状に設けたレース地による飾り部を,本願出願前に公然知られていた公知意匠3のレース地に単に置き換えて飾り部としたまでのものであるから,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものと認められるので,意匠法第3条第2項の規定に該当するといわなければならない。
なお,本件登録意匠の飾り部の基部は,縦横の細線により粗いメッシュ状に表されているのに対し,公知意匠3の基部の態様は,レース編み目が詰まった態様のように見受けられるが,やや不明確である。しかし,本件登録意匠のメッシュ状の記載は,基部の網目状のレース編みを,作図上,単純に表現したものと認められ,また,基部がメッシュ地であるレース地は,本件登録意匠の出願前からごく一般的に見られるものであり(参考意匠1,参考意匠2参照),ありふれたものであって,本件登録意匠のレース地において主要な意匠的効果を形成するのは,円形部を長手方向に連続して突設配置した先端飾り部の構成態様である。したがって,本願のレース地と公知意匠3のレース地は,実質的に同一のものと認められる。
以上のように,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項の規定に該当し,本件意匠登録は,意匠法第3条の規定に違反してなされたものであるから,同法第48条第1項第1号に該当し,その意匠登録を無効とすべきものである。
公知意匠1(別紙第2参照)
2006年1月18日に,株式会社サンリオがインターネットに掲載した,表題「Sanrio.co.jp|ひなまつり|」(情報のアドレス http://www.sanrio.co.jp/products/200601/06hina.html)頁所載,ハローキティの雛人形の意匠の,レース地による袖口の飾り部分(特許庁意匠課公知資料番号第HJ17012283号 特許庁意匠課受入日2006年1月27日)。
公知意匠2(別紙第3参照)
2006年10月1日に,有限会社鈴木人形が,インターネットの同社ホームページで,雛人形の「BELL'S KISS SERIES」の頭部を発表するために,胴部を付けて同ホームページに掲載した写真に現された,レース地による重袖口の飾り部分。
公知意匠3(別紙第4参照)
平成16年6月8日当日までに,日本国内において販売され,購入された事実のある,レース生地の意匠(甲第8号証にQとして所載。)。
参考意匠1(別紙第5参照)
特許庁発行の意匠公報 意匠登録第70154号
意匠の名称「レース」
参考意匠2(別紙第6参照)
特許庁発行の意匠公報 意匠登録第80437号
意匠の名称「縁飾レース」及「テープレース」』

3.被請求人の平成20年9月30日付意見書の要点
(1)[公知意匠3」の写真は,不明瞭乍らも,レース地には顕著な相違があることが明らかであり,[公知意匠3]のレース地を,[公知意匠2]のレース地の飾り部に適用しても,本件意匠を得ることはできない。
即ち,双方は,レース地が,基部と車輪模様を備えている点で共通するとしても,本件意匠における車輪模様は,その1/2の半円部分を基部に埋込み,残った1/2の半円部分を基部から突出するように配置した半突出態様のものであること,該車輪模様を埋込み状とした基部は,車輪模様の1/2の突出幅と略同等幅の幅広面をなすものであること,従って,飾り部の幅は,車輪模様の先端位置において,車輪模様の1.5倍,車輪模様の中間位置で1倍としたものであることの具体的構成を有するものであるのに対して,公知意匠3のレース地は,車輪模様の円形部分を基部から完全に突出することによって基部から離隔するように配置していること,該車輪模様と基部との間には,車輪模様から基部側に向けてハ字状に突出した短寸一対のブリッジで連結していること,基部は車輪模様の幅の1/3乃至1/4程度の細幅のものにして,ヒモ状をなすもののようであることの具体的構成を有するものである。このように,本件意匠と[公知意匠3]との間には,基部と車輪模様との配置,基部の幅,ブリッジの有無において,顕著な相違があることが明らかであり,これらを実質的に同一のレース地とすることはできない。
(2)[公知意匠2]の飾り部について,これをレース地のものと認定しているが,黒く塗り潰された状態に示されているにすぎず,該部分について,これがレース地によるものといった表示やその旨の示唆がある訳でもなく,黒い飾りらしきものがあることは事実としても,レース地の表示や示唆のない中で,これをレース地の飾り部であるとするのは無理であるが,この点を措いて,該[公知意匠2]に[公知意匠3]のレース地を適用したとしても,なお基部と車輪模様,基部の幅,ブリッジの有無の相違がそのまま残る結果,本件意匠を得ることはできないことが明らかである。
(3)認定によると,本件意匠の飾り部と[公知意匠3]のレース地における基部の形態について,本件意匠は「縦横の細線により粗いメッシュ状に表現されている」とし,[公知意匠3]は「レース編み目が詰まった態様のように見受けられるが,やや不明確である」として,本件意匠と[公知意匠3]との間には,基部が,メッシュ状か,詰まった網目状かの態様において相違するとされるが,本件意匠と[公知意匠3]との間には,基部の形態がどうであるか以上に,上記顕著な相違が存在しており,また「本願意匠のレース地において主要な意匠的効果を形成するのは,円形部を長手方向に連続して突設配置した先端飾り部の構成態様である」とされるが,上記のとおり,本件意匠の車輪模様は,1/2の半円部分を基部に埋込み,1/2の半円部分を突出したものであり,[公知意匠3]のように「円形部を長手方向に連続して突設配置した」ものではない。本件意匠の特定が,平成20年7月2日付職権審理結果通知に添付の写真1,2によってなされた可能性があるようにも思われるが,本件意匠の特定は,その願書乃至図面の記載に基づいてなされるべきである。
(4)以上のとおり,本件意匠の飾り部と[公知意匠3]のレース地との間には,上記顕著な相違があり,該[公知意匠3]を[公知意匠2]に適用しても,なお顕著な相違が残る結果,本件意匠を得られないことが明白であり,本件意匠を,これら公知意匠に基づいて当業者が容易創作し得るとすることはできないものである。

第4.当審の判断
当審における2回目の無効の理由について検討すると,本件登録意匠は,下記のように,意匠法第3条第2項の規定に該当するものであり,本件登録意匠は,同条の規定に違反してなされたものであるから,無効にすべきものである。

1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成18年12月24日に出願され,平成19年8月17日に意匠権の設定の登録がなされた,意匠登録第1310309号の意匠であって,願書の記載及び願書添付の図面によれば,意匠に係る物品を「人形」とし,その形態を願書及び同図面記載のとおりとし,実線で表された部分を,部分意匠として意匠登録を受けた部分(以下,「当該部分」という。)としたものである(別紙第1参照)。
すなわち,当該部分の形態は,
(A)衣装の袖口開口端から突出し,袖口周方向に沿って平たい帯状に設けられた細幅の飾り部であって,端縁の輪郭形状をほぼ規則的に半円が連続した凹凸形状として,端縁側を連続模様部に,基端部側を取付部とし,端部を直線形状とした,基本的構成態様のものである。
具体的構成態様については,
(B)飾り部は,レース地によるものであり,
(C)模様部は,円形模様を等位置に連続して一列設けたもので,その模様の態様は,外輪の中央にその直径の約1/3弱の直径を有する内円が配置され,この内円外周から多数の線(糸)が放射状に外輪内周まで渡されてなる車輪様図形とし,
(D)基端部側は,格子のメッシュ状に形成し,円形模様の連続部まで隙間を埋めるように延長させ,
(E)全体の構成比は,端縁の輪郭形状最先端部までの突出長さを全周の約1/20の長さとし,その突出長さの約2/3を円形模様部とし,残り約1/3を基端部としたものである。

2.引用意匠
本件登録意匠の当該部分と,公知意匠1ないし公知意匠2の本件登録意匠の当該部分に相当する部分(以下,「相当部分」という。)は,共に雛人形の衣装を付けた人形の,袖口から突出するように帯状に設けられた袖口飾り部分であるから,それらの部分の用途及び機能,さらに全体の中での位置,大きさ,範囲においても共通する。特に,本件登録意匠と公知意匠2の部分の位置は,共に重袖の最内側の袖口から突出するように設けられている部分であるから,一層共通するものである。そして,各公知意匠の部分の形態と,各参考意匠の形態は,以下のとおりである。
[公知意匠1](別紙第2参照)
(1-A)衣装の袖口開口端から突出し,袖口周方向に沿って平たい帯状に設けられた細幅の飾り部であって,端縁の輪郭形状をほぼ規則的に半円が連続した凹凸形状として,端縁側を連続模様部とし,基端部を取付部とし,端部を直線形状とした基本的構成態様のものであり,具体的構成態様については,
(1-B)飾り部は,レース地によるものであり,
(1-C)模様部は,略半円形模様を等位置に連続して一列設けたもので,その模様の態様は,基端側から突出した略細帯による線条の略半円形模様であり,
(1-D)基端部の態様は,不明確であり,
(1-E)全体の構成比は,端縁の輪郭形状最先端部までの突出長さを全周の約1/20の長さとしたものである。
[公知意匠2](別紙第3参照)
(2-A)衣装の袖口開口端から突出し,袖口周方向に沿って平たい帯状に設けられた細幅の飾り部であって,端縁の輪郭形状を略半円が連続したような凹凸形状として,端縁側を連続模様部とし,基端部側を取付部とし,端部を直線形状とした基本的構成態様のものであり,具体的構成態様については,
(2-B)飾り部は,レース地か否か不明確であり,
(2-C)模様部の具体的な態様は,不明確であり,
(2-D)基端部の態様は,不明確であり,
(2-E)全体の構成比は,端縁の輪郭形状最先端部までの突出長さを全周の約1/40程度の長さとしたものである。
[公知意匠3](別紙第4参照)
(3-A)模様部が基端部から突出して形成された,細幅の平たいレース地で,
(3-B)模様部は,円形模様を等位置に連続して一列設け,端縁の輪郭形状をほぼ規則的に半円が連続した凹凸形状とし,基端部を一定幅の極細帯状としたものであり,各円形模様は,外輪の中央にその直径の約1/3弱の直径を有する内円が配置され,この内円外周から多数の線(糸)が放射状に外輪内周まで渡されてなる車輪様図形としたもので,
(3-C)基端部は,高密度の編み目により細帯状に形成し,連続円形模様と基端部の接続は,円形模様外周が極細帯状基端部に接するように,2個の留め部により接続し,各円形模様相互の連続部と基端部間は隙間とし,
(3-D)端縁の輪郭形状最先端部までの突出長さのうち,約2/3を円形模様部とし,残り約1/3を基端部としたものである。(被請求人は,基端部の幅は,円形模様の幅の1/3乃至1/4程度と主張するが,甲8号証のQに表されたレース地は,このように認定できるものである。)
[参考意匠1](別紙第5参照)
メッシュ状の基端部を,連続模様部まで隙間を埋めるように延長した,縁用の細幅の平たいレース地で,模様部は,模様を等位置に連続して一列設け,端縁の輪郭形状をほぼ規則的に円弧が連続した凹凸形状とし,基端部のメッシュは格子状に形成したものである。
[参考意匠2](別紙第6参照)
メッシュ状の基端部を,連続模様部まで隙間を埋めるように延長した,縁用の細幅の平たいレース地で,模様部は,車輪様図形からなる円形模様を等位置に連続して一列設け,端縁の輪郭形状をほぼ規則的に円弧が連続した凹凸形状とし,基端部のメッシュは格子状に形成したものである。

4.創作容易性の判断
そうすると,本件登録意匠の当該部分の基本的構成態様(A)は,[公知意匠1]及び[公知意匠2]の基本的構成態様(1-A)ないし(2-A)と同一であり,公然知られた態様である。
また,その具体的構成態様について,
(B)飾り部を,レース地とした態様は[公知意匠1]と同一であり,公然知られた態様である。
(C)模様部は,円形模様を等位置に連続して一列設けたもので,その模様の態様は,外輪の中央にその直径の約1/3弱の直径を有する内円が配置され,この内円外周から多数の線(糸)が放射状に外輪内周まで渡されてなる車輪様図形とした態様は,[公知意匠3]の模様部と同一であり,公然知られた態様である。
(D)基端部側は,格子のメッシュ状に形成し,連続円形模様の連続部まで隙間を埋めるように延長させた態様は,[参考意匠1]や[参考意匠2]の基端部側と略同一のありふれた態様である(厳密には,両参考意匠の格子は斜め格子であり,縦横格子の本件登録意匠とは異なる。しかし,共に格子のメッシュ状であって,それ自体は模様部とはいえない模様部に対する地〈紙・布などの模様のない部分。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]〉の部分として視認されることから,本件登録意匠と両参考意匠の視覚効果は,実質的に略同一と認められる。なお,基端部側を縦横格子によるメッシュ状に形成した態様のものは,[参考意匠3(別紙第7参照)]や[参考意匠4(別紙第8参照)]等,そして[甲第8号証のJ(別紙第9参照)]のレース地からも明らかなように,本件登録意匠の出願前から普通に見られ,広く知られているものである。)。
(E)全体の構成比について,端縁の輪郭形状最先端部までの突出長さを全周の約1/20の長さとした態様は,[公知意匠1]の突出長さの態様(1-E)と同一であり,レースの模様部と基端部の割合において,突出長さの約2/3を円形模様部とし,残り約1/3を基端部とした態様は,[公知意匠3]の円形模様部と基端部の割合の態様(3-D)と同一である。

したがって,本件登録意匠の当該部分は,基本的構成態様(A)が[公知意匠1][公知意匠2]と同態様であり,また,具体的構成態様について,飾り部をレース地とした態様(B)は[公知意匠1]と同態様であり,連続模様部の態様(C)が,[公知意匠3]の連続模様部と同態様であり,基端部側の態様(D)が,ありふれたものであり([参考意匠1]や[参考意匠2],[参考意匠3]や[参考意匠4],そして[甲第8号証のJ]に見られるように,ごくありふれた態様である。),全体の構成比の態様(E)の,全周長さに対する突出割合が,[公知意匠1]と同態様であり,円形模様部と基端部幅の割合が,[公知意匠3]と同態様である。
そうすると,本件登録意匠は,公然知られた[公知意匠1]の飾り部につき,レースの意匠的効果を発揮するところの模様部を,[公知意匠3]の模様部に基づき表し,その基端部について,人形の制作に携わる当業者ならば,通常飾りに使用されるレース地にも精通していることから,摘示したレース地の先例のように,基端部の態様をありふれた格子のメッシュ状とすることは,格別な創意工夫もなく容易に行い得るものであるところ,単にこの分野において広く知られた格子のメッシュ状に基づき表したまでのものに過ぎない。
以上のとおり,本件登録意匠は,公然知られた意匠ないし広く知られた意匠に基づいて,容易に創作されたものと認められる。

5.むすび
したがって,本件登録意匠は,意匠法第3条第2項に該当し,本件意匠登録は,同条の規定に違反してなされたものであるから,その余について判断するまでもなく,意匠法第48条第1項第1号の規定により,無効にすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2008-11-06 
結審通知日 2008-11-10 
審決日 2008-11-26 
出願番号 意願2006-36522(D2006-36522) 
審決分類 D 1 113・ 121- Z (C2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 早川 治子 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 並木 文子
樋田 敏恵
登録日 2007-08-17 
登録番号 意匠登録第1310309号(D1310309) 
代理人 五百蔵 洋一 
代理人 田村 公総 
代理人 松下 浩二郎 
代理人 高木 薫 
代理人 橋本 克彦 
代理人 山内 淳三 

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