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審決分類 審判 判定  同一・類似 属する(申立成立) F2
管理番号 1195376 
判定請求番号 判定2008-600045
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠判定公報 
発行日 2009-05-29 
種別 判定 
判定請求日 2008-11-10 
確定日 2009-04-10 
意匠に係る物品 シャープペンシル付きボールペン 
事件の表示 上記当事者間の登録第1242483号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号写真及びその説明書に示す「シャープペンシル付きボールペン」の意匠は、登録第1242483号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求人(以下、「請求人」という。)の請求の趣旨は、「イ号写真(甲第4号証)」に示す「シャープペンシル付きボールペン」の意匠は、登録第1242483号意匠(以下、「本件登録意匠」という。別紙第1参照。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する、との判定を求めるものである。
イ号写真に示す「シャープペンシル付きボールペン」は、本件判定被請求人(以下、「被請求人」という。)が実施している、販売名「ドクターグリップ4+1」、品番BKHDF-1SRの「シャープペンシル付きボールペン」(以下、「イ号物件」といい、その意匠を「イ号意匠」という。別紙第2参照。)である。
なお、「イ号意匠」について請求人は、「イ号意匠説明書(甲第3号証)」により説明し、「イ号物件」を提出している。

第2 当事者の主張
当事者の主張は、概ね以下のとおりである。
1.請求人の主張
本件登録意匠とイ号意匠の共通する基本的構成態様は、クリップ部がシャープペンシルのノック部を兼ねてスライドできるように構成された多色ボールペンであって、尾部に消しゴムキャップ部を形成し、全体が上下に徐々に細くすぼまるように形成されたという本件登録意匠の特徴を表しており、基本的構成態様であるがゆえに全体の美感に決定的な影響を及ぼしているものである。さらに両意匠は、先口部、グリップ部、ノック部、消しゴムキャップ部、クリップ部の一部など、各部の具体的態様において共通し、構成比率についても、共通した視覚的効果を生じるほどに近似している。
一方、両意匠の差異点について、(A)透明と不透明の差異は、同一のデザインの中でのバリエーションの差異に過ぎないものであり、(B)クリップ部を平面視した態様の差異は、部分的なものであり、クリップ部を正面視した態様では、むしろ共通するものである。したがって、差異点は両意匠の類否に決定的影響を及ぼすものではあり得ない。
両意匠は、全体の美感に決定的な影響を与える基本的構成態様を共通にし、かつ、各部の具体的な形状や、構成比率に表れたプロポーション等においても極めて近似するものがあるのに対して、差異点は無視し得る程度の部分的な差異でしかない。

2.被請求人の主張
[1]請求人の両意匠の認定の誤り及び看過について
請求人の両意匠の認定には、(1)クリップ部の認定、(2)軸部下端の態様について、(3)その他、先口部周辺に、誤りや看過がある。とりわけ、クリップ部に関するものについては、類否判断に大きく影響を与えるものである。
[2]請求人の本件登録意匠とイ号意匠の類否について
(1)一般的に登録意匠の特徴的構成や態様を決定するには、先行意匠との対比において、その登録意匠のどの部分に新規な創作があったかの点を抜きにしては語れないが、請求人の結論に至るまでの経緯には、このような作業の片鱗が見られない。被請求人は、本件登録意匠の構成態様について先行意匠の態様と対比することによって、イ号意匠が本件登録意匠の範囲外にあることを主張する。
(2)請求人は、同様の機能を有することの共通性が、両意匠の類否判断に直接働きかけるかのように考えているふしがある。しかし、機能自体は需要者が商品を選択する際の意志決定に影響を及ぼすに過ぎず、物品の美感を直接左右するものではない。クリップ部がスライドすることによって先口部からシャープペンシルが突出することや、軸部尾部の突出部内側に消しゴムが収納されていること自体が、両意匠の類否判断に関して重要な事項とはいえない。
(3)先行意匠を対比すると、登録第1031534号意匠(以下、「先行意匠1」という。別紙第3参照。)は、軸部尾部の略ドーム状の突出部は消しゴムキャップではないものの、この点を除けば、請求人の主張する特徴的構成と全く共通する。したがって、この基本的構成態様は本件登録意匠のみの特徴とはいえず、より具体的な態様にこそ、本件登録意匠の特徴があると考えるべきである。さらに「先行意匠1」は、クリップの態様も、本件登録意匠と共通する。
クリップ部がスライドしてノック部を兼ねるという点においても、「先行意匠1」以外にもみられ、この点にも新規性はない。
さらに、請求人が共通点として挙げた各部の具体的態様はよく知られ、構成比率も従来意匠と比較して特別に異なる視覚的効果を与えるものとは言いがたい。ノック部は、クリップ部を1と数えて軸部周囲に放射状に配置されているが、この態様も本件登録意匠出願前に見ることができる。
[3]本件登録意匠とイ号意匠の類否
クリップ部の差異点は、両意匠の類否判断において極めて大きな影響を与えるものである。
すなわち、本件登録意匠のクリップ部は、周囲の板状ノック部の端部形状とは全く異なる形状であり、そのボリュームが各ノック部端部の大きさを圧倒しており、両者の形態的関係は皆無であるばかりか、クリップ端部が消しゴムキャップ側に突き出していることもあって、需要者が本件登録意匠を手にして使用する際に斜め上方から観察した場合、本体がクリップ部を背負っているような印象を抱かせるし、内側にある板バネが透明素材を透かしてみえる点や、全体の肉厚感から、その機能性を大きく印象付けるものとなっている。
一方、イ号意匠のクリップ部は、細幅薄板状で、付根側端部を本体上端側からみると細長角状であり、消しゴムキャップ部の4乃至5分の1程度の大きさで本体から突出しているもので、その端部はノック部端部位置と同じくしているので、本体からの突出の程度は小さく、その形態は細長角状であって軸部に複数配した各板状ノック部端部の態様と近似し、あたかもノック部を軸部周囲に等角度に5個並べたような態様としているもので、すっきりしたスタイリッシュな美感を強く惹起させる。
また平面視(クリップの正面)においても、本件登録意匠が中膨れの舌片状であり、その幅の広さは軸部の略全体を覆っているのに対し、イ号意匠は付根側が細く先端部が鋭い紡錘形であり、全体幅が細いため、背後の軸部の周側面もよく観察できることから、この点でも軸部全体のシルエットを生かしたすっきりした美感を形成している。
いわば、両者のクリップの態様は、それ自体の態様が異なるばかりでなく、その他の部位との関係から、意匠全体にその視覚効果を及ばせているといってよく、請求人のクリップの差異は部分的で類否判断に影響を与えない旨の主張は、全く根拠がない。
筆記具、とりわけ本体部分は、太さや長さ及び形状といったものは自ずと一定の範囲内に集約される。これに対して、クリップ部分は、自由裁量の幅が本体部より大きいため、本体の形態とマッチングさせたり、各社の独自性を発揮したりする試みがなされている。そのことへの評価が、従来の審査実体に反映されている。乙第11号証(クリップの差異が評価された登録意匠マップ)を参照すると、少なくとも本体部に然程特徴のない態様の意匠に関しては、クリップ部の差異点は、かなり強く類否判断に影響を与えているといえる。
本件登録意匠の態様も、その基本的構成態様において特に新規な点がない以上、かつ、本件登録意匠とイ号意匠のクリップ部において、上述したような明確な差異がある以上、従来の審査事例から見ても両意匠が類似するとの結論は到底承服できない。

第3 当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は、2004(平成16)年6月10日に出願され、2005年4月22日に設定登録された、意匠に係る物品が「シャープペンシル付きボールペン」の意匠であり、その形態は願書の記載及び願書添付の図面の記載のとおりのものであって、以下のとおりである(別紙第1参照)。
なお、消しゴムキャップ側を後端または上方、先口側を先端として認定する。
[1]本件登録意匠の基本的構成態様
(A)全体は、複数のノック部材を設けた略円筒状軸体部と略細板状クリップ部からなり、軸体内に格納されたシャープペンと4本のボールペンを、クリップ及びノック部をスライドさせることにより、選択的に各筆記具を先口部の孔から突出させる構成である。
(B)軸体部は、(B-1)全体が略長紡錘形状で、(B-2)全長の後端から約13/20部分を軸部とし、中央部に略エンタシス状の膨らみを有し、(B-3)先端寄りの約1/4部分をグリップ部とし、略中央部を鞍状にやや絞り込み、(B-4)先端の約1/10部分を先口部とし、砲弾先端部様に膨らんだ略逆円錐形状とし、(B-5)軸部後端部は、略長紡錘形の端部を切り落として丸めたような形状とし、後端部からの長さが直径より僅かに長くなる位置で分割し、肩部に丸味がある略裁頭円錐状のドーム型形状の消しゴムキャップとし、内部に消しゴムを収容した。
(C)クリップ及びノック部のスライドの態様は、(C-1)消しゴムキャップ部際の軸部周側面に、消しゴムキャップ部分割線を起点としたスライド用細長係止孔部(係止孔と上方のガイド用凹部を含めて係止孔部という。)を5個、放射状に配設し、(C-2)板状ノック部材とクリップ接合用のスライド部材を摺動自在に係止し、非スライド時に、ノック部とクリップ用スライド部材が、消しゴムキャップ部分割線位置に並ぶようにした。
(D)クリップ本体は、先端部が丸くて左右に膨らみがある略細長舌片状で、上部は厚く形成し、ノック操作に供する突出した指かけ部とし、腹側上部を付け根としてスライド部材に接合し、先端部を軸部に接近させて、全体として略傾斜状を呈する背板とした。
[2]本件登録意匠の具体的構成態様
(E)消しゴムキャップは、頂部中心に小円形凹部を1個、周囲に3個の細長弧状孔を等間隔に配置し、内部は略円筒状保持部で円柱状消しゴムを保持している。
(F)ノック部は、略逆L字状の板状ノック部材によるもので、縦棒部を軸周面より僅かに凹陥させて係止孔に係止し、横棒部はノック部として、頂部がやや消しゴムキャップ寄りとなる略三角形の突出片に形成し、その頂部を円く形成した。
(G)係止孔先端部は、半円弧状に形成した。
(H)グリップ先端部は、丸味を持たせてややつぼませて形成した。
(I)先口部は、グリップ部とは若干段差状を呈し、その孔は内部の筆記具が内接する大きさの円形とした。
(J)クリップ部は、(J-1)クリップ本体上方の付け根部からスライド部材に架け渡された逆U字状板バネを設け、背板の縦長長方形孔から板バネを覗かせ、(J-2)クリップ本体の断面を背板と両側板による略「コ」字状の中空のものとし、(J-3)背板は、表面に蒲鉾状の盛り上がりがあり、付け根部における背幅は背後の2本のノック部間と略同幅とし、先端へ向かう中間部をやや中膨れ状とし、板バネが覗く縦長長方形孔を囲んで、上方に膨出部を設け、これにより背板全体の傾斜状は、上部にやや反り返りのあるものとし、(J-4)上面部は、背板側を側面視略「く」の字状に形成し、背板側に小さく下り傾斜面を形成し、軸側は側板だけで上面を開放し、側板間の開放部から板バネを覗かせ、(J-5)腹側は、上端からやや下がった位置を付け根部とし、付け根部下方の側面視形状は、先端部近くまで略直線状にえぐり、先端部寄りに半卵形状の突出玉部を2個形成し、(J-6)クリップの取り付け態様は、スライド部材突起部をクリップ中空部に嵌合し、クリップ両側板がこれを覆い、(J-7)クリップ用係止孔周囲の軸部につき、上方にクリップがこれに沿ってスライドするレールのような一対の角ばったクリップ用台座を突設し、クリップ先端部に相対する軸部に半卵形状の突出玉部を1個形成し、この突出玉部の下方に略長円形えぐり部を形成し、(J-8)非スライド時のクリップ上端部は、消しゴムキャップ部の約3/8の位置まで突出している。
(K)先口部、軸部、消しゴムキャップ、及び、板バネ部を除くクリップ部は透明とした。

2.イ号意匠
イ号意匠は、意匠に係る物品を「シャープペンシル付きボールペン」とし、その形態は「イ号写真(甲第4号証)」に現されたものである(別紙第2参照)。

3.対比
両意匠は、意匠に係る物品が「シャープペンシル付きボールペン」で共通し、形態において、主として以下の共通点と差異点がある。
[1]両意匠の共通点
(1)基本的構成態様における共通点
(あ)全体は、複数のノック部材を設けた略円筒状軸体部と略細板状クリップ部からなり、軸体内に格納されたシャープペンと4本のボールペンを、クリップ及びノック部をスライドさせることにより、選択的に各筆記具を先口部の孔から突出させる構成である。
(い)軸体部は、(い-1)全体が略長紡錘形状で、(い-2)全長の後端から約13/20部分を軸部とし、中央部に略エンタシス状の膨らみを有し、(い-3)先端寄りの約1/4部分をグリップ部とし、略中央部を鞍状にやや絞り込み、(い-4)先端の約1/10部分を先口部とし、砲弾先端部様に膨らんだ略逆円錐形状とし、(い-5)軸部後端部は、略長紡錘形の端部を切り落として丸めたような形状とし、後端部からの長さが直径より僅かに長くなる位置で分割し、肩部に丸味がある略裁頭円錐状のドーム型形状の消しゴムキャップとし、内部に消しゴムを収容した。
(う)クリップ及びノック部のスライドの態様は、(う-1)消しゴムキャップ部際の軸部周側面に、消しゴムキャップ部分割線を起点としたスライド用細長係止孔部(係止孔と上方のガイド用凹部を含めて係止孔部という。)を5個、放射状に配設し、(う-2)板状ノック部材とクリップ接合用のスライド部材を摺動自在に係止し、非スライド時に、ノック部とクリップ用スライド部材が、消しゴムキャップ部分割線位置に並ぶようにした。
(え)クリップ本体は、先端部が丸くて左右に膨らみがある略細長舌片状で、上部は厚くしてノック操作に供する突出した指かけ部とし、腹側上部を付け根としてスライド部材に接合し、先端部を軸部に接近させて、全体として略傾斜状を呈する背板とした。
(2)具体的構成態様における共通点
(お)消しゴムキャップ部は、頂部に孔を設け、略円筒状保持具で円柱状消しゴムを保持した。
(か)ノック部は、略逆L字状の板状ノック部材によるもので、縦棒部を軸周面より僅かに凹陥させて係止孔に係止し、横棒部はノック部として、頂部がやや消しゴムキャップ寄りとなる略三角形の突出片に形成し、その頂部を円く形成した。
(き)係止孔先端部は、半円弧状に形成した。
(く)先口部は、グリップ部とは若干段差状を呈し、その孔は内部の筆記具が内接する大きさの円形とした。
(け)クリップ部は、(け-1)クリップ本体の断面を背板と両側板による略「コ」字状の中空のものとし、(け-2)上面部は、背板側を側面視略「く」の字状に形成して、下り傾斜面を形成し、(け-3)腹側は、略上端部を付け根部とし、付け根部下方を側面視えぐり状に形成し、先端部に突出部を形成し、(け-4)軸部のクリップ先端部に相対する位置に、突出玉部を形成した。
(こ)全長を10とした場合の軸部最大径を、0.9とした。
[2]両意匠の差異点
(1)具体的構成態様における差異点
(ア)クリップ部について、(ア-1)板バネにつき、本件登録意匠は、クリップ本体上方付け根部からスライド部材に架け渡された逆U字状板バネを設け、背板の縦長長方形孔から板バネを覗かせているのに対し、イ号意匠は、板バネを設けず、(ア-2)クリップ本体の背板を、本件登録意匠は、表面は蒲鉾状の盛り上がりとし、付け根部の背幅は背後の2本のノック部間と略同幅とし、先端へ向かう中間部をやや中膨れ状とし、板バネが覗く縦長長方形孔を囲んで、上方に膨出部を設け、これにより背板全体の傾斜状は、上部にやや反り返りのあるものとしたのに対し、イ号意匠は、表面は略平坦面状とし、付け根部の背幅は背後の2本のノック部間の約1/3幅とし、付け根部付近の左右部は垂直状とし、先端に向けて長い略紡錘形状のものとし、先端中央に別材による略紡錘形の装飾部を設け、背板全体の傾斜状は僅かで反り返りはなく、(ア-3)上面部を、本件登録意匠は、下り傾斜面は背板側に小さく形成し、軸側は側板だけで上面を開放し、側板間から板バネが視認できるのに対し、イ号意匠は、上面部全体を下り傾斜面に形成し、(ア-4)腹側を、本件登録意匠は、上端からやや下がった位置を付け根部とし、付け根部下方の側面視形状は、先端部近くまで略直線状にえぐり、先端部寄りに半卵形状の突出玉部を2個形成したのに対し、イ号意匠は、略上端部を付け根部とし、付け根部下方の側面視形状は、先端部近くまで略アーチ状にえぐり、先端部は反転させた弧状とし、(ア-5)クリップの取り付け態様は、本件登録意匠は、スライド部材突起部をクリップ中空部に嵌合し、クリップ両側板がこれを覆っているのに対し、イ号意匠は、スライド部材の略直方体状突起部が露出し、その背部に重ねて継ぎ足すように取り付け、(ア-6)クリップ用係止孔周囲の軸部につき、本件登録意匠は、上方にクリップがこれに沿ってスライドするレールのような一対の角ばったクリップ用台座を突設し、クリップ先端部に相対する軸部に半卵形状の突出玉部を1個形成し、この突出玉部の下方に略長円形えぐり部を形成したのに対し、イ号意匠は、上方の軸部表面をごく僅か膨出状としただけで目立つ突出部を設けず、クリップ先端部に相対する軸部に略三角状の突出玉部を一対形成し、(ア-7)非スライド時のクリップ上端部について、本件登録意匠は、消しゴムキャップ部の約3/8の位置まで突出させたのに対し、イ号意匠は、消しゴムキャップ側に突出させていない点。
(イ)消しゴムキャップについて、本件登録意匠は、頂部が略球面状であり、頂部中心に小円形凹部を1個、周囲に3個の細長弧状孔を等間隔に配置したのに対し、イ号意匠は、頂部がやや平たく、頂部中心に小円孔を1個形成した点。
(ウ)グリップ部について、本件登録意匠は、軸部との間に環状体を設けておらず、先端部は丸味を持たせてややつぼませて形成したのに対し、イ号意匠は軸部との間に僅かに円弧状に膨らんだ環状体を設け、先端部は広がったままで丸味もつぼまりもない点。
(エ)先口部について、本件登録意匠は後端に丸縁部を設けていないのに対し、イ号意匠は後端に一段径の大きな丸縁部を形成した点。
(オ)本件登録意匠は、先口部、軸部、消しゴムキャップ部、クリップ本体が透明であるのに対し、イ号意匠には、透明部はない点。

4.類否判断
意匠の類否を判断するにあたっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、更には公知意匠にはない新規な創作部分の存否を参酌して、意匠の要部を把握し、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心にして観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきものといえる。
[1]本件登録意匠の出願前の公知意匠
(1)本件登録意匠の基本的構成態様について
全体構成としての(A)の態様は、概ね意匠登録第1031534号(別紙第3「公知意匠1」参照)や、公開実用新案公報平4-17985号所載第1図ないし第5図に示された意匠(別紙第4「公知意匠2」参照)の態様と同一である。また、クリップとノック部4個がスライドする態様については、ノック部が4個ではないが、多数のノック部が放射状配置された態様は、公開実用新案公報実開平5-12186号(別紙第5「公知意匠3」参照)がある。4個のノック部とスライドしない固定クリップ部を放射状に配置したものは、乙第8号証(別紙第6参照)の意匠がある。
(B)軸体部の(B-1)ないし(B-4)の態様は、概ね「公知意匠1」に見られる。ただし、ノック部係止孔周囲に略砲弾型状凹部がある。(B-5)軸部後端部の態様は、長さが直径より僅かに短いが、概ね意匠登録第1060008号(別紙第7「公知意匠4」参照)に見られる。ただし、軸部に環状凹部がある。
(C)クリップ及びノック部のスライドの態様について、(C-1)消しゴムキャップ部分割線を起点としてクリップ及びノック部のスライド用係止孔部が配設された態様はない。しかし、長円形状スライド用係止孔部が消しゴムキャップ部分割線際に設けられた態様は、「公知意匠2」がある。(C-2)非スライド時にノック部とクリップ用スライド部材が消しゴムキャップ部分割線位置に並ぶ態様はない。ノック部だけみれば、「公知意匠4」がある。
(D)クリップ本体の態様は、「公知意匠1」がある。
これらを総合すると、本件登録意匠の軸体部の態様(B)は、「公知意匠1」と「公知意匠4」の態様を合わせたものといえ、態様全体としては、公知意匠にはない新規な態様ということができるし、クリップ及びノック部のスライドの態様(C)は、「公知意匠2」でも「公知意匠4」でもないから、公知意匠にはない新規な操作部の態様である。よって、公知意匠にない軸体部の態様(B)に加えて、公知意匠にはない操作部の態様(C)を組み合わせた態様が、本件登録意匠の、公知意匠にはない新規な創作部分ということができる。
(2)本件登録意匠の具体的構成態様について
消しゴムキャップの孔等の態様(E)、ノック部の態様(F)、係止孔先端部の態様(G)、グリップ部先端部の態様(H)、及び、先口部の孔の態様(I)は、例を挙げるまでもなく、この分野において従来より普通に見られる態様である。また、クリップ部の態様(J)は、板バネ部の態様(J-1)を除けば、「公知意匠1」と概ね共通し、上部の突出態様がやや相違するが、板バネを有するクリップは、意匠登録第1095498号(別紙第8「公知意匠5」参照)をはじめ、請求人による各種筆記具において、既に出願前に公然知られたクリップの形態と概ね共通する。透明部の態様(K)は、この分野において例を挙げるまでもなく普通に見られる。
これらを総合すると、本件登録意匠の各部の具体的構成態様には、特に新規な態様は見出せないということができる。

[2]本件登録意匠の要部
以上検討したところによれば、本件登録意匠において、公知意匠にはない新規な態様は、軸体部の態様(B)に加えてクリップ及びノック部のスライドの態様(C)を併せ持った本体上部の態様である。
すなわち、(B)後端部を切り落として丸めたような形状の、略エンタシス状の膨らみを有する略長紡錘形状の軸部であって、後端部からの長さが直径より僅かに長くなる位置で分割し、略裁頭円錐状のドーム型形状の消しゴムキャップとし、それに加えて、(C)消しゴムキャップ部際の軸部周側面に、消しゴムキャップ部分割線を起点としたノック部とクリップのスライド用細長係止孔部を5個、放射状に配設し、非スライド時に、ノック部とクリップ用スライド部材が、消しゴムキャップ部分割線位置に並ぶようにした態様(B+C)である。
この種筆記具の使用状態等を考慮すると、需要者は、意匠全体を注目するとともに、各部の具体的態様にも注意して意匠を観察するものである。筆記具は、握って書くためのものであるから、本体部分について、その太ささや長さ及び形状について制約があり、造型的には一定の範囲内に集約されるものといえる。しかしながら、そのような制約の中で、本体部分についても、軸周面部や後端部、そしてノック部等に創意工夫をすることで、軸部全体として新たなまとまりを創出してきた経緯がある。需要者は、この種物品の制約についてよく承知しているので、制約のある中で創出された新たなまとまりの基本的態様や各部の具体的態様に、注目するのである。
したがって、上記新規な態様(B+C)の本件登録意匠の軸部は、意匠全体の中で大きな面積を占めるとともに、筆記時にも露出して視認されやすい部分であり、さらに、この種シャープペンシル付き多色ボールペンにとって必須で注目を集めることが必定の、需要者の関心が高い操作部が設けられている部分であるから、看者の注意を惹く要部と認められる。

[3]両意匠の類否判断
(1) 以上の認定を踏まえて検討するに、共通する基本的構成態様(あ)ないし(え)は、意匠全体を視認した時に看取されるものであり、消しゴムキャップとなっている軸部後端部から先口部までの意匠全体に渡っており、意匠の骨格を形成し、共通のまとまり感を表しているものである。
特に、(い-1)全体が略長紡錘形状で、(い-2)中央部に略エンタシス状の膨らみを有し、(い-5)軸部後端部は、略長紡錘形の端部を切り落として丸めたような形状とし、後端部からの長さが直径より僅かに長くなる位置で分割して、肩部に丸味がある略裁頭円錐状のドーム型形状の消しゴムキャップとした態様の軸部に、(う-1)消しゴムキャップ部際の軸部周側面に、消しゴムキャップ部分割線を起点としたスライド用細長係止孔部を5個、放射状に配設し、(う-2)板状ノック部材とクリップ接合用のスライド部材を摺動自在に係止し、非スライド時に、ノック部とクリップ用スライド部材が、消しゴムキャップ部分割線位置に並ぶようにした操作部を設けた態様は、上記のように本件登録意匠の要部であって、需要者の注目を集め、強い共通感を与えている。
そして、グリップ部や先口部の基本的構成態様の共通点(い-3)(い-4)が加わることで軸体全体としても、さらに、クリップ本体の基本的構成態様の共通点(え)が加わることで、クリップ部まで含めた意匠全体としても、また、具体的構成態様の共通点(お)ないし(こ)が加わることで、細部についても、需要者は共通感を一層強めるものといえる。
(2) これに対して、両意匠には、クリップの態様を始めとする具体的構成態様(ア)ないし(オ)の差異点があるが、これら差異点は共通点を凌駕して、意匠全体として異なる美感を起こさせるものではない。
(3) まず、クリップ部の差異点(ア)について、クリップ部は、筆記具としては必須ではないが、ノートに挟んだりポケットに入れて保持する時に有用であり、ポケットやペン立てに入れた場合等は目に留まりやすく、看者の注意を一定程度惹く部分といえる。しかし、筆記具全体としてみる場合には、クリップは一部位でしかなく、また筆記具として副次的な部位であることから、筆記具本体の構成態様への関心を差し置いて、需要者の注目を第一に集める部位ではない。
以上を前提に検討すると、クリップ本体のみを対比した時、差異点の(ア-1)ないし(ア-4)を総合すると、本件登録意匠のクリップはボリューム感のある幅広肉厚の印象を与え、イ号意匠のクリップは細幅細長でボリューム感がないスタイリッシュな印象を与える。しかし、両意匠のクリップは、意匠全体の中で小さな面積の、筆記具に通常取り付けられる程度の大きさのものであるから、意匠全体からみれば、その点で共通する印象がある。しかも、本件登録意匠のような幅広肉厚で板バネのあるクリップは、「公知意匠5」や乙第7号証に記載の意匠に明らかなように、本件登録意匠の出願前から請求人による意匠として公然知られており、イ号意匠のように細幅細長でボリューム感がないクリップも、例えば別紙第9「公知意匠6」、別紙第10「公知意匠7」、同「公知意匠8」の各意匠に見られるとおり、従来から筆記具の分野で普通に見られ、さらにこの種スライド式多色ボールペン分野に限ってみても、例えば別紙第11「公知意匠9」のとおり従来から見られるものである。また、イ号意匠が背板部に別体による装飾部を設けていることについても、意匠全体からみればごく小さな部位であるうえ、アクセントを意図するこのような装飾部は、例えば「公知意匠8」や別紙第12「公知意匠10」の意匠にも設けられているように、この分野で従来から普通に見られる態様である。したがって、これらの態様はいずれも、看者の注意を惹く特異な態様ではない。そして、両意匠のクリップは、先端部が丸くて左右に膨らみがある略細長舌片状で、上部を厚くしてノック操作に供する突出した指かけ部とし、先端部を軸部に接近させ、全体として略傾斜状の背板としたという共通点(え)や、ノック操作用指かけ部をなす上面部に下り傾斜面を形成した等の共通点(け)があることからも、需要者は、クリップの差異に格別の印象を持つものではない。
また、クリップの取り付け態様の差異点(ア-5)は、両意匠ともクリップ本体とは別体の接合用突起部を有するスライド部材を設けた点で共通し、本件登録意匠のクリップ本体付け根部内側にはスライド部材の一部が見え、需要者に与える印象としてはさほど変わるものではなく、意匠全体の中では視覚効果の微弱な局所的差異に過ぎないものである。
そして、クリップ本体の背板の差異点(ア-2)、上面部の差異点(ア-3)、腹側の差異点(ア-4)と、クリップの取り付け態様の差異点(ア-5)、及び、非スライド時にクリップ上端部が突出するか否かの差異点(ア-7)を総合すると、クリップ部を上部方向から視認すれば、イ号意匠のクリップ部は、消しゴムキャップ側への突出はなく、クリップ本体上面部全体が下り傾斜状で、板状ノック部と幅が略共通するから、ノック部端部の態様と近いといえ、一方、本件登録意匠のクリップ部は、消しゴムキャップ側へ突出し、幅も広く、軸側の上面部は側板だけで開放されているから、ノック部端部の態様と異なるものである。しかしながら、本件登録意匠は、開放された上面部内部に、板状ノック部幅と略等幅の板バネが明確に視認され、クリップ部とノック部が五方へ放射状配置されていることが、看者に強く印象付けられるものとなっている。そしてイ号意匠も同様に、クリップ部と4個のノック部は、消しゴムキャップ部分割線位置に五方へ放射状配置されていることが明瞭であるから、看者が上面視した場合でも共通感が失われることはなく、さらに看者は多方向から意匠を視認するので、差異の印象は希薄化してしまうものである。
なお、イ号意匠のクリップ本体の具体的な形状を仔細にみれば、差異点(ア-2)ないし(ア-4)で示したところの、背板を略平坦面状とし、付け根部を細幅とし、付け根部付近を垂直状として、先端に向けて長い略紡錘形状のものとし、先端中央に別材による略紡錘形の装飾部を設け、背板全体の傾斜状を僅かとし、上面部を下り傾斜面だけで形成し、腹側の略上端部を付け根部とし、その下側の側面視形状は、先端部近くまで略アーチ状にえぐり、先端部は反転させた弧状であるというクリップの形状は、公知意匠に見出せない形状である。しかしながら、先に述べたとおり、両意匠には(え)(け)の共通点があり、クリップの基本構成において共通するもので、その共通性に希釈されて差異点の印象は薄まるものである。また、クリップは、特にポケットに入れた場合等に露出し、看者の目に留まるとしても、イ号意匠のように背板が長い略紡錘形状であるクリップは、「公知意匠6」ないし「公知意匠8」等に明らかなように、筆記具の分野において既に普通に見られ、特異な態様ではないので、看者に格別の印象を与えるものではない。
軸部のクリップ用係止孔周囲の差異点(ア-6)については、引用意匠の一対のクリップ用台座は、機構上の要請に近く、見る者の印象に残るものではなく、略長円形えぐり部は、幅も長さも、えぐり程度も小さく、目立つものではない。
非スライド時のクリップ上端部の差異点(ア-7)については、先に述べたとおりであり、本件登録意匠の突出程度では、意匠全体からみれば、消しゴムキャップ部分割線に接するようにノック部と並べてクリップを配したとの印象を、変更するものではない。
そして、これらの差異を総合しても、クリップ部は筆記具全体としてみれば副次的であって面積的にも小さく、視覚効果は限定的であるうえ、需要者の関心は第一義的には筆記具本体にあることを勘案すれば、これらの差異は類否判断を左右するとはいえない。
(4) 消しゴムキャップの差異点(イ)は、頂部の孔等は微細な局所的差異であり、頂面の丸味の差異についても、イ号意匠がやや平たいとしても、中心部の平坦面は小さく、肩部に明確な丸味を形成していることから、消しゴムキャップ部全体として略裁頭円錐状のドーム型形状との印象を与えるもので、これらの差異が類否判断を左右するものではない。
(5) グリップ部の差異点(ウ)と先口部の差異点(エ)につき、イ号意匠は、グリップ先端部につぼまりがなくて先口部後端に丸縁部があるとしても、先口部後端の丸縁部がすぼまりのないグリップ先端部とひとまとまりに視認されることから、本件登録意匠の該部の凹凸の印象と大差なく、結局、先口部は、両意匠ともグリップ部からは若干段差状を呈することとなり共通し、グリップ後端部については、イ号意匠が設けた軸部との間の環状体は、この部位にこのような環状体を設けることは、この種意匠において常套的態様であることから、看者の注意を惹かず、これらの差異は類否判断を左右するものではない。
(6) 透明部についての差異点(オ)は、軸体等を透明体にして内部が見えるスケルトン状態にしたものは、本件登録意匠の出願前よりこの分野において普通に見られ、それを同一形状のままに不透明体としたものも、従来より普通に見られる態様である。したがって、本件登録意匠のようにグリップ部分を除いて全体を略透明とすることも、イ号意匠のように全体を不透明体にして内部の機構部分を見えなくすることも、この分野において特異な態様ではなく、バリエーションとして選択的に行われるものであり、看者の注意を惹かず、この差異は類否判断を左右するものではないといえる。
(7) 結局、差異点は何れも微弱なものであり、それらが相まって奏する効果を検討しても、軸体部と軸部後端部、そして操作部の態様という意匠の要部部分の態様(B+C)の共通性や、意匠全体に渡る基本的構成態様や各部の具体的構成態様がもたらす共通のまとまり感に埋没し、両意匠の共通する美感を凌いで異なる美感を起こさせるものとはなっていない。
以上のように、両意匠は、全体として共通する美感を起こさせるものであり、類似する。

5.むすび
したがって、イ号意匠は、本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
別掲
判定日 2009-03-31 
出願番号 意願2004-17233(D2004-17233) 
審決分類 D 1 2・ 1- YA (F2)
最終処分 成立  
前審関与審査官 成田 陽一正田 毅 
特許庁審判長 梅澤 修
特許庁審判官 樋田 敏恵
並木 文子
登録日 2005-04-22 
登録番号 意匠登録第1242483号(D1242483) 
代理人 佐藤 英二 
代理人 黒川 朋也 
代理人 松原 美代子 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 川越 弘 

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