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審決分類 |
審判 L2 |
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管理番号 | 1211335 |
審判番号 | 無効2009-880006 |
総通号数 | 123 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠審決公報 |
発行日 | 2010-03-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-05-19 |
確定日 | 2010-01-06 |
意匠に係る物品 | 蛇籠 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1079331号「蛇籠」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.請求人の申し立て及び理由、弁駁の要点 請求人は、「意匠登録第1079331号の意匠について登録を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、要旨以下の通り主張し、証拠方法として、甲第1号証(枝番あり)ないし甲第4号証を提出した。 意匠登録第1079331号(以下、「本件登録意匠」とする。)は、意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであり、同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである。 したがって、本件登録意匠は同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。 本件公知意匠は、「鉄線籠型多段積護岸工法/設計・施工技術基準(試行案)(甲第1号証)第6頁(甲第1号証の1)、第11頁及び第12頁(甲第1号証の2)並びに第29頁(甲第1号証の3)に記載の「B型」の意匠である。 甲第1号証は、建設省河川局防災・海岸課の編集により社団法人全国防災協会によって平成10年5月付けで発行されたものである。甲第1号証の第3頁に記載のとおり、甲第1号証は、昭和63年頃より実用化されていた鉄線籠を利用した護岸の多段積工法の設計・施工の一般的技術水準をとりまとめたもので護岸工事を行う当業者である工事関係者に配布されたものである。 したがって、本件公知意匠は、本件登録意匠の出願日前より当業者に頒布された甲第1号証各号の意匠において明らかなとおり、当業者に広く知られていたものである。 (1)本件登録意匠と本件公知意匠の共通点 両意匠の意匠に係る物品は、いずれも護岸工事で多段積工法に用いる鉄線籠(以下、「本物品」という。)である。また、両意匠の形態は、以下の点で共通する。 (イ)全体の形状は、川の流れに直交する側面の一方及び上面の一部が開口した箱状である。 (ロ)上面には前面の上端から後方に奥行き方向へ奥行の1/3の幅員で水平に張り出した帯状の網部である前平網部を形成している。 (ハ)前直網部、前平網部、左側面、背面及び底面には菱形の金網を張っている。 (ニ)金網の網目の大きさは、前直網部と前平網部の網目が他の左側面部、背面部及び底面部の網目より小さい。 (2)本件登録意匠と本件公知意匠の差異点 (ホ)箱状の横幅・奥行・高さの比が異なる。本件登録意匠に対し、本件公知意匠の横幅は約2.6倍である。 (ヘ)本件公知意匠には側面と同じ大きさの仕切網部を2箇所形成している。これに対し、本件登録意匠に仕切網部は存在しない。 (ト)前直網部と前平網部における網目の大きさは、本件登録意匠が本件公知意匠より小さい。具体的には、本件公知意匠の網目の大きさは、本件登録意匠の網目より約1.3倍程度大きい。 (チ)本件登録意匠には棒状の補強杆が存在する。 (3)本件公知意匠に基づく本件登録意匠の創作性について 本件公知意匠が日本国内において需要者に広く知られていたことについては、甲第1号証が工事関係者に護岸工事のための標準化した規格として発表された事実(甲第2号証、第4頁)から明らかである。 また、本件登録意匠と本件公知意匠との形態上の差異についても、この種の意匠の分野においてありふれた手法によって行われる程度の改変にすぎない。 すなわち、上記(ホ)の差異については、河岸の曲率半径の小さい曲線部で一般的な「B型」より横幅の短いものが使用されているので(甲第1号証第13頁の解説1))、河岸の状況に応じて生ずる差異に過ぎない。横幅の割合が小さい鉄線籠が実施されていることは、「布団籠工法」の公開特許公報(特開平7-189228号、出願日:平成5年12月27日)(甲第3号証)の図面(第4頁、図1等)において「張出部」(前平網部)を形成した布団篭が開示されていることからも明らかである。 次に、上記(ヘ)については、仕切網部の有る物も無い物もいずれも甲第1号証が発行される平成10年5月以前から存在し実施されていたのであって、仕切網部がないことが意匠の創作性の有無に影響を与えることはない。 さらに、上記(ト)についても、上記(ニ)で述べた、前平網部と前直網部の網目の大きさが他の面(左側面、背面及び底面)に共通する網目の大きさよりも密であるという両意匠の全体的な構成の共通性に埋没してしまう程度の細かな改変にすぎない。 さらに、上記(チ)についても、籠の強度を増すために金網の内側に配したもので、「蛇籠」の公開実用新案公報(実開平2-73423号、出願日:昭和63年11月22日)(甲第4号証)の図面(第1図)において「補強用枠体」(図の記号:8)が開示されていることからも明らかなとおり、この種の意匠の分野において通常見られる構成であって、創作性を高めるものではない。 このように本件登録意匠と本件公知意匠とにおける形態の差異点は、当業者が容易に行うことができる程度の改変に過ぎない。 以上のとおり、本件登録意匠は、日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて当業者が容易に意匠の創作をすることができたものである。 第2.被請求人の答弁及び理由の要点 被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、要旨以下の通り主張し、証拠方法として、乙第1号証(宮滝恒雄著、平成9年12月15日、社団法人発明協会発行、「実例で見る意匠審査基準の解説」)を提出した。 1.答弁の理由 本件の請求書における意匠登録無効の理由は、本件意匠登録は、その出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が、日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものである、というものであった。 本件意匠登録の出願時、意匠法には、上記のような無効理由を定めた条文は存在せず、請求は成り立たないが、請求人が、本件意匠登録が改正前の意匠法第3条第2項の規定に該当するという主張に変更する場合を想定し答弁する。 「広く知られた形状」とは、意匠審査基準によれば、「周知」を意味しており、「ありふれた形状、模様」とは具体的には、正三角形、柱体などの幾何学形状、水玉模様などのありふれた模様など、その名称を聞いただけで、誰でもその形状を想定できるほどの、文字通りきわめて広く知られたものに限定される。 審判請求書では、「本件登録意匠と本件公知意匠の差異点」という項目を挙げて両者の差異を明記しているが、このような公知意匠との相違点を列挙した比較は、「広く知られた形状」との比較とは本質的に異なるものであり、本件意匠登録の無効理由としては意味をなしていない。 さらに言及すれば、上記のような相違点を列挙できるということは、本件意匠登録が公知意匠と類似していないこともまた明らかである。 第3.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は、平成10年12月10日に出願され、平成12年5月12日に意匠権の設定の登録がなされた、意匠登録第1079331号の意匠であって、願書の記載及び願書添付の図面によれば、意匠に係る物品を「蛇籠」とし、その形態を願書及び同図面記載のとおりとしたものである(別紙第1参照)。 すなわちその形態は、 (1)全体を籠状の扁平な箱形としている。 (2)川の流れに直交する側面のうち一方を開放面としている。 (3)上面の蓋部(以下、「前平網部」という。)について、奥行きの約1/3の幅とし、正面部(以下、「前直網部」)という。)側に設けている。 (4)それぞれの面を、細枠内に菱形の網を張った態様とし、前平網部と前直網部との網目の一辺の長さを、他の面の網目の一辺の長さの半分としている。 (5)箱体の長辺方向を二分する線上に、枠体と同じ細さの補強杆を設けている。 2.請求人が提出した甲号各号証に表された形状の周知性について 請求人が証拠として提出した甲号各号証は以下の通りである。 甲第1号証 平成10年5月付け、社団法人全国防災協会発行、建設省河川局防災・海岸課編集「鉄線籠型多段積護岸工法・設計・施工技術基準(施工案)」 甲第1号証の1 甲第1号証の第6頁 甲第1号証の2 甲第1号証の第11頁及び第12頁 甲第1号証の3 甲第1号証の第29頁 甲第2号証 2000年、かごマット工法技術推進協会発行、『なぜ「かごマット工法」が高い評価を受けるのか-かごマット工法10年の歩み-』 甲第3号証 公開特許公報 特開平7-189228号 甲第4号証 公開実用新案公報 実開平2-73423号 そこで、上記甲号各号証の周知性について検討する。 被請求人は、「広く知られた形状」とは、意匠審査基準によれば、「周知」を意味しており、その名称を聞いただけで、誰でもその形状を想定できるほどの、文字通りきわめて広く知られたものに限定される旨主張する。 しかし、甲第1号証は、本件登録意匠の出願前に、建設省河川局防災・海岸課が編集し、社団法人全国防災協会が頒布した鉄線籠型多段積護岸工法の設計・施工技術基準書であることからも、日本国内において当業者に広く周知されるべく頒布されたものと認められ、甲第2号証第4頁記載の内容からも、甲第1号証が工事関係者に護岸工事のための標準化した規格として発表された事が明らかであるから、甲第1号証に表された形状は、本件登録意匠の出願前において、本件登録意匠の属する分野における当業者の間に、広く知られていたものと言える。 また、甲第3号証及び甲第4号証について、いずれも特許庁発行の公報であるから、これらの公報は、当該出願に係る内容を一般公衆に知らせることを目的として広く頒布されていることは明らかであり、また、いずれも本件登録意匠の属する分野に関するものであって、当業者の目に触れることの多い刊行物である。そして、甲第3号証の公報の発行は、本件登録意匠の出願の約3年前であり、甲第4号証の公報発行は本件登録意匠の出願の約8年前であるから、甲第3号証及び甲第4号証に表された形状は、本件登録意匠の出願前において、本件登録意匠の属する分野における当業者の間に、広く知られていたものと言える。 3.本件登録意匠の創作容易性について そこで、本件登録意匠を創作の観点から検討するに、まず、(1)全体を籠状の扁平な箱形とした態様については、例を挙げるまでもなく、この種蛇籠又は布団籠の意匠の分野において従前より広く知られていた態様である。したがって、請求人が本件登録意匠と本件公知意匠との差異点として挙げた(ホ)本件登録意匠の横幅が本件公知意匠の横幅より短い点、(へ)本件登録意匠に仕切網部が存在しない点については、いずれも従前より広く知られていた態様であると認められる。 次に、(2)川の流れに直交する側面のうち一方を開放面とした態様についても、甲第1号証の1、第6頁に掲載されたA型、B型及びC型の各意匠(別紙第2参照)、及び甲第3号証の図1、最上段の布団籠の意匠(別紙第3参照)に示すとおり、本件登録意匠の出願前に広く知られた態様であり、(3)前直網部側に、奥行きの約1/3の幅の前平網部を設けた態様についても、同甲第1号証の1、第6頁に掲載されたB型のうち、重ねて用いる状態の模式図に表された意匠(別紙第2参照)に示すとおり、本件登録意匠の出願前に広く知られた態様である。 しかしながら、(4)網目の態様について、甲第1号証の2(別紙第4参照)において、「鉄線籠の規格」として、第11頁上段に記載された表には、網目の大きさが、前直網及び前平網についてそれぞれ65(mm)、その他について100(mm)と記載され、同第11頁及び第12頁に記載された解説においても、「網目の大きさは、多段積の表面に出て流水にさらされる前直網及び前平網並びに蓋網部分の網目を、65mmとして中詰石の流出等に対応する。その他の部分の網目は、市場等から100mmとする。」と記載されており、甲第1号証の2において表された網目の態様と、前平網部と前直網部との網目の一辺の長さを、他の面の網目の一辺の長さの半分とした本件登録意匠の網目の態様とは異なるものである。 また、(5)補強杆の態様についても、甲第4号証(別紙第5参照)第1図に表された補強用枠体は、箱体の長辺方向及び短辺方向をそれぞれ二分する線上に設けられており、箱体の長辺方向を二分する線上にのみ設けられた本件登録意匠の補強杆とは態様が異なるものである。 そうすると、前平網部と前直網部との網目について、他の面より密な網目とすること、及び補強杆を設けることは広く知られていたとしても、網目及び補強杆それぞれの具体的態様については、本件登録意匠の出願前に広く知られていた態様とは言えず、更に本件登録意匠は、これらの態様を、その余の本件登録意匠の前記(1)ないし(3)の態様とあわせて一つのまとまりを形成したものであるから、請求人の提出した全証拠によっては、本件登録意匠の創作が容易であったと判断することはできない。 したがって、本件登録意匠は、意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて当業者が容易に意匠の創作をすることができたものとは認められない。 4.むすび 以上のとおりであって、本件登録意匠は、請求人の提出した証拠及び主張によっては、意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものと言えないものであるから、同法第48条第1項第1号により本件登録意匠の登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2009-11-10 |
結審通知日 | 2009-11-13 |
審決日 | 2009-11-25 |
出願番号 | 意願平10-35494 |
審決分類 |
D
1
113・
121-
Y
(L2)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橘 崇生 |
特許庁審判長 |
斉藤 孝恵 |
特許庁審判官 |
並木 文子 鍋田 和宣 |
登録日 | 2000-05-12 |
登録番号 | 意匠登録第1079331号(D1079331) |
代理人 | 松尾 憲一郎 |
代理人 | 山口 朔生 |