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審決分類 審判    E3
管理番号 1221383 
審判番号 無効2008-880022
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-09-30 
確定日 2010-07-15 
意匠に係る物品 ゴルフボール 
事件の表示 上記当事者間の登録第1300582号「ゴルフボール」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1300582号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立及び理由
請求人は、結論同旨の審決を求める、と申立て、その理由として、概要以下の主張をし、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証(枝番を含む)を提出した。
登録第1300582号意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、その出願前に頒布された刊行物である米国特許第4,991,852号明細書(1991年2月12日発行)に記載されたゴルフボールの意匠に類似する。従って本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、意匠登録を受けることができないものであり、その登録は、意匠法第48条第1項第1号により無効とされるべきである。
すなわち、本件登録意匠は、基本的構成を、ゴルフボールの表面全体に六角形のディンプルを、隣接するディンプル同士が互いに細線で示される辺を共有するようにして密に配列した形態とし、具体的には、ゴルフボールの表面を20の球面三角形に分割し、各三角形の辺に、頂点を除き、5個の六角形ディンプルを配置し、辺を除く三角形の内部に10個の六角形ディンプルを配置し、三角形の各頂点には五角形のディンプルを配置したもので、ボールの表面全体に、350個の六角形ディンプルと、12個の五角形ディンプルが存在するものである。
一方、米国特許第4,991,852号明細書(甲第1の1号証)は、発明の名称を「多目的ゴルフボール」とするもので、図1に、表面に多数の六角形ディンプルが密に配置されたゴルフボールが記載され、図2に、384個の六角形ディンプルが形成されたゴルフボールのカバーの一部が記載され、図6、及び図7に、球面を20個の球面正三角形に区分して、各三角形の辺及びその区域内に六角形ディンプルを配列することが記載されている。従って、本件登録意匠とこの明細書の図2によって表されたゴルフボールの意匠は、ゴルフボールの表面全体に、六角形のディンプルが、隣接するディンプル同士が互いに細線で示される辺を共有するようにして密に配列した形態であるという基本的構成において一致する。そして差異点として、(1)六角形ディンプルの中の12個の五角形ディンプルの有無(2)ディンプル総数が362個(本件登録意匠)か384個(甲第1号証意匠)か、の差があるが、共通する基本的構成は、本件登録意匠の出願時に円形ディンプルが極めて一般的であることから形態上の特徴を強く表象するものであると共に、形態全体の基調を形成しており、意匠の類否を左右する要部をなす。これに対し差異点については、五角形のディンプルの有無はその存在を認識することすら困難なほどのもので、ディンプルの数の差も僅かで、いずれも形態全体の雰囲気を異にするほどの顕著な特徴を表出しない。従って両意匠は類似し、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当するものであり、その登録は、意匠法第48条第1項第1号により無効とされるべきである。

第2.被請求人の答弁及び理由
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める、と答弁し、概要以下の主張をし、証拠方法として乙第1号証ないし乙第16号証を提出した。
甲第1号証の明細書の説明文を参酌して図2を通じて認識される意匠は、「384個の円形ディンプルが、20面体パターンではないと推定される不明のパターンで球表面に配設された先行技術の通常のゴルフボール」であって、請求人のいうような「六角形ディンプルを384個持つゴルフボール」ではない。従って、第1の主位的主張として、引用意匠は不明な部分があり対比可能に表されておらず、引例適格性を欠く。第2の予備的主張として、仮に、甲第1号証の図2を通じて認識される引用意匠が、「六角形ディンプルを384個持つゴルフボール」であるとして敢えて対比しても、図2に表されていない353個のディンプルの乱れの箇所、数、程度等が不明であり、ディンプルの配設パターン等も不明であり、類否判断ができるほどに明確に表されていない。従って、いずれにしても、本件登録意匠は引用意匠に類似せず、請求人の主張する無効理由は成り立たない。

第3.当審の判断

1.本件登録意匠
本件登録意匠は、平成6年(1994年)4月20日の特許出願(特願平6-106107)を分割した新たな特許出願(特願2002-105535)が、平成18年11月22日に意匠登録出願に変更され、平成19年4月6日に意匠権の設定の登録がなさたものであり、意匠に係る物品を「ゴルフボール」とし、形状を、意匠登録出願の願書及び願書に添付した図面に記載されたとおりとするものである。(別紙第1参照)
即ちその形状は、ゴルフボールの表面全体に、主として六角形の浅い凹面状のディンプルが、隣接するディンプル同士、互いに細線として現れる辺を共有するようにして密に配列されたものであり、具体的には、ゴルフボールの表面が20の球面正三角形に分割され、各三角形の辺に、頂点を除いて、5個の六角形ディンプルが配置され、辺を除く三角形の内部に10個の六角形ディンプルが配置され、三角形の各頂点、即ち、球面正三角形の頂点が集まる12箇所に、五角形ディンプルが配置されて、ボールの表面全体に、350個の六角形ディンプルと、12個の五角形ディンプルが配置されたものであり、そしてディンプル間に残るランド部の幅を0.5mmとするものである。

2.引用意匠
請求人は、本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するとして甲第1の1号証を提出している。
甲第1の1号証は、米国特許庁が発行した、米国特許第4,991,852号明細書(写し)であり、特許日を1991年2月12日とするものである。
この明細書は、発明の名称を「多目的ゴルフボール」とし、ゴルフボールに関する図1ないし図7の図面が記載されたものであり(別紙第2参照)、その図2において、矩形枠内に、六角形の区画が、隣接する区画同士、互いに細線として現れる辺を共有するようにして密に配列された形態が示されている。そしてこの図2について、明細書第3欄12?32行の「図面の簡単の説明」の記載によれば、「従来技術の通常のゴルフボールカバーの一部を平面として示した図」(甲第1の2号証の訳文による)とあることから、この図がゴルフボールの表面の一部を2次元の平面として表したものであることが認められる。更に明細書第3欄58?59行において、この図2のゴルフボールが384個のディンプルを持つと記載されている。以上のことから、この明細書の図2及びこれに関連する記載により、この明細書において、ゴルフボールの表面全体に、384個の六角形のディンプルが、隣接するディンプル同士、互いに細線として現れる辺を共有するようにして密に配列されたゴルフボールの意匠が記載されていることを認めることができるものである。
ところで被請求人は、この図2について、明細書第3欄17行の図面の説明に「従来技術の通常のゴルフボール(conventional golf ball of the prior art)」と記載されていることから、図2によって示されるゴルフボールのディンプルは円形と解すべき、と主張している。即ち、この明細書の出願時期には、ゴルフボールのディンプルは円形であることが極めて一般的、慣用的で、六角形ディンプルのゴルフボールを指して、「通常のゴルフボール」とは到底いわないこと、明細書に関する比較実験で「通常のゴルフボール」として使用されている「ディンプル384個のゴルフボール「Acushnet Pinnacle」もディンプルは円形であること(明細書第5欄35?41行)、また明細書の記載でも、本件発明のディンプル812個のゴルフボールについては「812個の凹型の六角形の(hexagonal)表面窪みを持ち」と記載しているのに「通常のゴルフボール」については六角形であることに言及していないこと(明細書2欄31?38行)、を挙げ、この明細書においては「通常のゴルフボール」が円形ディンプルのものと認識されていることが明らかで、従って「通常のゴルフボール」として示された図2も、そのディンプルは当然、円形と解すべき、と主張している。
しかしながら、この明細書においては、図2と横並びで、図3として、同じ大きさの矩形枠内に、図2の半分の径の六角形の区画が、隣接する区画同士、互いに細線として現れる辺を共有するようにして密に配列された形状が示されているところ、この図3について、明細書第3欄12?32行の「図面の簡単な説明」によれば、「本発明の多目的ゴルフボールのカバーの一部を平面として示した図」(甲第1の2号証の訳文による)とあり、「本発明」について、明細書第2欄31?38行に「812個の凹んだ六角形(hexagonal)表面窪みを規則的な測地学の9周期20面体パターンで表面に形成し・・・」とあり、図3の六角形の区画は、ボール表面の六角形のディンプルをそのまま表していることが明らかで、この図3と図面の表現スタイルを揃えて、また、対応する六角形の区画に、ディンプルであることを示す(明細書の図4)同じ「11」の符号を付して示された図2について、その六角形の区画が図3と異なる構造のもの、或いは図3と異なる図面解釈がなされるべきもの、とする理由を見い出せず、図2もやはり図3と同様、図面に表されたものが、ゴルフボールの表面の一部をそのまま表わしたものであり、六角形の区画がそのまま、ボール表面に配されたディンプルを表わしていると解すのが自然であって、図2の六角形区画を円形ディンプルと解すべきとする被請求人の主張は採用できない。

更に被請求人は、ディンプル384個のゴルフボールで六角形ディンプルは従前に存在せず、図2が示された理由は、単に、図3の六角形ディンプルと形状を揃えることで、表面直径の大きさの差を強調するための便宜的なもの、とも主張する。
しかしながら、図2のゴルフボールが実際の製品として存在していないとしても、また図2が、他の図面を強調するため便宜的に記載されたにすぎないものであるとしても、刊行物である明細書それ自体において、ゴルフボールの表面の一部として、図2が記載されているところであり、少なくともこの明細書を観る者は、ボール表面の態様として図2の態様を認識することが十分に可能であるし、またそのように理解することが自然であり、しかもこの明細書では、本発明の図3のゴルフボールの具体的なディンプル配列として図6、図7が示されているところであり、この明細書を観る者が、図2を、図3、図6、図7に表されたゴルフボールに対して、単にディンプル数が少ないだけのゴルフボールと受け取ることはごく自然と考えられ、図2が便宜的な図面にすぎず、これをそのままゴルフボールの形状として解されるべきでない、とする旨の被請求人の主張も採用することができない。
以上のとおりであって、引用意匠のディンプルを円形と解すべき、とする被請求人の主張はいずれも採用できず、前述のとおり、この明細書において、ゴルフボールの表面に384個の六角形のディンプルを持ち、隣接するディンプル同士が互いに細線として現れる辺を共有するようにして密に配列されたゴルフボールの意匠が記載されていることを認めることができるものであり、以下、この明細書の図2及びこれに関連する記載により表されたゴルフボールを引用意匠として、本件登録意匠と対比し、類否判断への影響を検討する。

3.本件登録意匠と引用意匠の対比、検討及び類否判断

そこで本件登録意匠と引用意匠を対比する。
本件登録意匠と引用意匠とは、ゴルフボールの形状において、共に、基本的構成態様を、ゴルフボールの表面全体に、主として六角形の浅い凹面状のディンプルが、隣接するディンプル同士、互いに細線として現れる辺を共有するようにして密に配列された形状としている点で共通する。そしてディンプルの大きさについて、本件登録意匠のディンプル数が362個で、引用意匠が384個で、近似した数であることから、ボールの大きさに対するディンプルの大きさの割合が、ほぼ一致する。
そしてこの共通点は、以下のとおり、両意匠の類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものである。
即ち、本件登録意匠の出願時において、ゴルフボールのディンプルは円形であることが極く一般的であり、ディンプルが多角形であることは、それ自体が、ゴルフボールとしての形態的特徴を極めて強く表すものである。そして本件登録意匠と引用意匠とは、いずれも、主として六角形のディンプルが、細線として現れる各辺を共有するようにして密に配列されたものである点で強い共通性があり、この点が両意匠において、共に、形態的特徴を強く表出するところとなっており、また看者が最も着目するところの態様をなしている。
そして視覚の上でも、両意匠は共に、ゴルフボールの表面全体に、主として六角形のディンプルが、同じ長さの細線をランド部として挟んで、あたかもボールの表面全体が、均質な調子のハニカム構造を印象付けるように埋め尽くされているものであり、これが、ディンプルの大きさの割合の共通性と一体化して、両意匠において、ゴルフボールとしての共通する形態的基調を決定付け、圧倒的に観る者の視覚を捉えるものとなっている。
従って両意匠の共通点は、その影響のみで両意匠の類否を決定付けるに十分といえるほどの、極めて大きな影響を、類否判断に及ぼすものである。

一方、差異点として、(1)ディンプル配列について、本件登録意匠は、ボール表面が20の球面正三角形に分割され、分割された各三角形の辺に、頂点を除いて5個のディンプルが配置され、その内側に10個のディンプルが配列され、三角形の頂点に当たる位置のディンプルが他と異なる五角形としているのに対し、引用意匠は、ボール表面のどの部分を抽出しても、ディンプル配列が、おおよそ図2に表されたとおりのものと認められ、少なくとも本件登録意匠のようにボール表面が20の球面正三角形に分割され、これに基づくディンプル配列がなされていること、また五角形ディンプルが混在していることについて確認できない。また引用意匠に係る図2はボール表面が2次元の平面として表された図であるところ、これが3次元の球面であるボール表面に表された場合、各六角形の区画に何らかの変形が加えられ、六角形の並びにも若干の修正がなされると考えられるが、その変形、修正の具体的な態様が特定されていない点、(2)ランド幅について、本件登録意匠は0.5mmとあるのに対して、引用意匠は実際の数値が特定されていない点、が主に認められる。

そこで上記の差異点、及び不明点が類否判断に及ぼす影響を検討する。

まず(1)の点について、本件登録意匠は、ボール表面が20の球面正三角形に分割され、分割された各三角形の辺に、頂点を除き、5個のディンプルを配置し、その内側に10個のディンプルを配列したものであるが、ゴルフボールにおいてはボール表面を20の球面正三角形に分割してディンプルを配置する、所謂「20面体パターン」による配列とすることは、例えば、特開昭48-19325号(甲第2号証)、或いは特開昭49-52029号にみられるように、本件登録意匠の出願前から極く普通にみられる態様であり、しかも「20面体パターン」を採用した上で、本件登録意匠と同様に、各三角形の辺に、頂点を除いて5個のディンプルを配置し、その内側に10個のディンプルを配列した態様も、例えば、特開昭61-56668号の第2図、特開昭62-47379号の図7ないし図9、特開平1-221182号の第9図(II)、特開平3-140168号の図5にみられるように極く普通にみられる態様であり、本件登録意匠のディンプル配列は、その出願前から一般に行われている配列パターンをそのまま踏襲したに過ぎない。
なお、引用意匠に関する「本発明」の図3も、図6、図7に示されたとおり、ディンプル配列に、本件登録意匠と同様の20面体パターンを採用しており、六角形ディンプルの配列に20面体パターンを採用した点も、本件登録意匠独自の特徴とはいえない。
更に、本件登録意匠は、三角形の頂点に当たる位置のディンプルが五角形であるが、20面体パターンで六角形を密に配置する場合、三角形の頂点に当たる位置が五角形となることは、例えば、特開昭57-107170号の第2図の中央の区画(なおこの第2図はディンプルの中心を繋いだ図であり、実線で示された五角形、六角形が直接ディンプルを表すものではない。)に現れているように、必然的ともいえるほどの当然の態様で、三角形の頂点に当たる位置のディンプルが五角形である点についても、形態上の特徴として重視できない。
そして(1)の態様を形態全体として観察しても、本件登録意匠のディンプル配列が20面体配列に基づいていることについては、例えば図面等において仮想線で明示して初めて認識できる程度であり、ボール表面を一見しただけでは直ちに看取できず、また五角形ディンプルの混在についても、図面上、五角形である箇所が強調して示されて初めて看取できる程度で、ボール面に分散配置されていることもあって、ボール全体の中では、圧倒的な数の六角形ディンプルに埋没し、その存在はほとんど目立たない。
そして引用意匠についても、確かに図2は、ディンプルを平面として表した図面であって、図2がボール面に球面状に表された場合に生じる六角形、及び並びの変形について、具体的な態様が特定できない。しかしながら引用意匠は、ボール表面のどの部分を抽出しても、おおよそ図2に表されたとおりのディンプル形状、ディンプル配列であることを表すものであり、明細書の記載、及びその図面の記載に基づく限り、引用意匠において、特に観る者の目を引くような六角形の変形、或いは並びの特異な修正が現れるとは認めることができないものであり、変形、修正があるとしても、ボール全面に、六角形のディンプルをおおよそ図2の態様で均等に埋め尽くすための最低限の変形、修正と解さざるを得ないもので、少なくとも両意匠の共通点である、主として六角形のディンプルが、隣接するディンプル同士、互いに細線で示される辺を共有するようにして密に配置された態様を変更するものとはいえない。
してみると(1)の点について、引用意匠の細部に特定できない点があることを考慮にいれてもなお、両意匠の差は、両意匠に共通する全体の形態的基調に吸収される程度のものというほかなく、両意匠の共通点である、主として六角形のディンプルが細線として現れる辺を共有して密に配列されている、というゴルフボールとしての強い形態的特徴を圧倒して両意匠に異なる美感を起こさせる程のものと認めることができない。

この(1)の点に関して被請求人は、本件登録意匠においては五角形ディンプルがアクセントとなって、座布団の表裏を所々点状に縫い合わせたような窄まり感とリズム感のある美感が生じている、と主張し、先行意匠として、乙第3号証ないし乙第11号証を示して、これらがそれぞれ独自のアクセント、リズム感を持ち、異なる美感があるものとして別個に登録されており、本件登録意匠についても新たな美感があるとされるべき、との主張している。
しかしながら、本件登録意匠においては、五角形ディンプルと六角形ディンプルとに大きな面積差はないことから、五角形ディンプルがアクセントとしての役割を果たすほどに目立たず、また五角形ディンプルの5辺は、周囲の六角形ディンプルと辺を共有しているため、周囲の六角形と同質化した印象が極めて強く、この五角形が周囲の六角形と共に、該部に特に窄まり感をもたらしたり、全体にリズム感をもたらしているというほどのものとは認められない。
またゴルフボールに限らず、各種のボールにおいて、ボール表面に五角形と六角形の区画が混在することは、たとえば、実開昭47-36582号、特開昭55-91368号、特開昭56-151068号にみられるようにごく普通であり、この点からみても、本件登録意匠の五角形ディンプルに、看者が取り立てて着目するとも考えられない。
そしてゴルフボールの先行意匠として、確かに円形ディンプルのゴルフボールの場合では、従来から、ディンプル配列のための球面分割、分割面へのディンプル配列、ディンプル径の大小、集中、分散、等々について、様々の観点からの創作がなされ、これが物品の性格上、近似した形状として外観に現れ、またゴルフボールに係わる者も、ディンプル配列やディンプル構成に対して、一般に高い識別力を持っているものと推察される。しかしそうとしてもなお、本件登録意匠は、ディンプルが多角形であること自体に極めて強い特徴が認められるものであり、円形ディンプルの場合と同列に論じることはできず、しかも円形ディンプルの場合はランド部も様々の形態をとり、ディンプル構成と一体化してボールとしての識別性を高める役割を果たすのに対し、本件両意匠では、共にランド部が同寸等幅の均質な調子で表されたもので、むしろ共通感を高める効果として働いており、被請求人の示す先行意匠を十分に踏まえたとしても、やはり(1)の差異点に係る本件登録意匠の態様について、両意匠に共通する全体の形態的基調を覆して本件登録意匠をことさらに特徴付け、両意匠に別異の美感をもたらしているとはいえない。

そして差異点(2)の、本件登録意匠はランド部の幅が、0.5mmであるのに対し、引用意匠においてそれが特に明示されていない点については、両意匠共に、ランド部が共に細い線として看取される程度の細幅のものであることを考慮すれば、両意匠に具体的な幅差があるとしても、これが、両意匠の意匠全体としての類否判断に影響を及ぼすほどのものとはいえない。

なお、本件登録意匠においては、願書の「意匠に係る物品の説明」の欄に、ディンプルが浅い六角錐状の凹みで、最深部が球面状になっている旨が記載され、添付図面において【参考部分斜視図】として、ディンプルの中心から放射方向に6本のラインと、中央に円形ラインを表した図面が示されている。
しかしながら、この【参考部分斜視図】を他の六面図等と照らし合わせ総合した場合、これらのラインが、本件登録意匠において、深い角度の谷折状のライン、或いは明瞭に視覚を捉えるラインを形成してボール表面に現れるものとは認めることはできず、このラインについても、本件登録意匠の形状を特徴付けるものとして類否判断上重視することはできない。

そして、上記の共通点と差異点を総合して両意匠を全体として検討しても、両意匠の共通点、即ち基本的構成態様を、主として六角形の浅い凹状のディンプルが、隣接するディンプル同士、互いに細線として現れる辺を共有するようにして密に配列された形状としている点、及びディンプルの大きさの割合がほぼ一致する点は、一体となって、意匠全体の形態的基調を決定付け、また同時に、両意匠を特徴付けるところを形成しているのに対し、差異点は、引用意匠において、細部に本件登録意匠と同じレベルでは特定できない点があることを考慮に入れてもなお、両意匠共に、従前態様を踏襲した範囲内のものというほかなく、両意匠を特徴付けず、視覚上でも、共通点が形成する、意匠全体の形態的基調に吸収される程度の僅かな差異にすぎないものであり、差異が総合されたとしても、到底、両意匠に共通する意匠全体の形態的基調の覆すまでのものとは認めることができず、両意匠においては、共通点の類否判断に及ぼす影響が差異のそれを圧倒し、両意匠は意匠全体として類似する。

4.むすび
以上のとおりであって、本件登録意匠は引用意匠に類似し、引用意匠は、本件登録意匠の出願前に頒布された刊行物に記載された意匠であるから、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたものであり、その登録を無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2009-06-05 
結審通知日 2009-06-10 
審決日 2009-06-29 
出願番号 意願2006-32111(D2006-32111) 
審決分類 D 1 113・ 113- Z (E3)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎小林 英司成田 陽一 
特許庁審判長 瓜本 忠夫
特許庁審判官 杉山 太一
市村 節子
登録日 2007-04-06 
登録番号 意匠登録第1300582号(D1300582) 
代理人 岡本 雄二 
代理人 舟橋 定之 
代理人 大貫 進介 
代理人 佐々木 定雄 
代理人 松原 等 
代理人 伊東 忠彦 
代理人 山口 昭則 
代理人 伊東 忠重 

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