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審決分類 |
審判 判定 属さない(申立不成立) J3 |
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管理番号 | 1221394 |
判定請求番号 | 判定2010-600002 |
総通号数 | 129 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 意匠判定公報 |
発行日 | 2010-09-24 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2010-01-25 |
確定日 | 2010-08-19 |
意匠に係る物品 | 資料撮像装置 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第1277223号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号写真及びその説明書に示す「資料撮像装置」の意匠は、登録第1277223号意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 |
理由 |
第1.請求人の申立及び理由 請求人は,イ号意匠並びにその説明書に示す意匠(以下,「イ号意匠」という。)は,登録第1277223号意匠(以下,「本件登録意匠」という。)及びこれに類似する意匠の範囲に属する,との判定を求める,と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,甲第1号証ないし甲第4号証(甲第4号証の1?甲第4号証の140)を提出した。 1.本件登録意匠とイ号意匠との比較 (1)両意匠の共通点 本件登録意匠に係る資料撮像装置とイ号製品はいずれも,アーム先端部のテレビカメラによって,平面的な資料や,模型,製品実物などの立体的な資料を撮像し,モニターテレビなどでビデオ映像として再生する装置であり,両意匠は意匠に係る物品が一致する。 [基本的構成] 意匠の基本構成について,両意匠は以下の点で共通する。 (A)薄型直方体状の基台と, (B)基台から上方へ延びて基台の正面前方へ屈曲する逆J字形のアームと, (C)細長い略円筒形のハウジングを有し,ハウジングの正面視右端部の底面からレンズ鏡筒を突出させ,ハウジングの正面視左端の背面をアームの先端部に連結したテレビカメラから構成されている。 (D)テレビカメラはアームの先端部に回動可能に連結されているので,テレビカメラを回動操作することにより,ハウジングが基台の上面と略平行になる水平姿勢と,ハウジングがレンズ鏡筒側を下に向けてアームと略平行になる垂直姿勢の二つの姿勢を呈する。(E)アームは基台に回動可能に取り付けられているので,アームが基台に対して垂直を成す起立姿勢と,アームが基台の前方へ傾倒する傾倒姿勢を呈する。 [具体的構成] また,意匠の具体的構成について,両意匠は以下の点で共通する。 (F)基台に関し,基台上面の正面視左半面に操作ボタン類が配置されている。基台の背面にテレビカメラ等と接続するための端子が配置されている。 (G)アームに関し,アームはブラケットから上方へ延びる直線部と,直線部から基台の正面前方へ延びる湾曲部から成り,湾曲部の先端部にテレビカメラが連結されている。 (H)テレビカメラに関し,テレビカメラは細長い略円筒形のハウジングを有し,ハウジングの正面視右端側底面からレンズ鏡筒が突出している。 (2)両意匠の差異点 (f)基台に関し,本件登録意匠では,正面と背面は側面視半円形に形成されているのに対し,イ号意匠では下部が内側に収縮するようにテーパが形成されている。 本件登録意匠では平面視四隅が直角に形成されているのに対し,イ号意匠では,平面視四隅にアールが形成され,四隅のアールのうち正面側右角隅のアールは他のアールより大きな曲率を有する。 本件登録意匠では,基台の正面中央部にブラケットが設けられ,ブラケットの上部が基台上面から突出しているのに対し,イ号意匠ではブラケッ卜が基台の正面側右角隅部に設けられ上方へ突出している。 本件登録意匠では,基台上面の中央部にブラケットから背面へと連なる帯部が形成されているのに対し,イ号意匠では帯部は形成されていない。 (g)アームに関し,本件登録意匠では,楕円形の断面形状を有するのに対し,イ号意匠では方形の断面形状を有する。 (h)テレビカメラに関し,本件登録意匠では,ハウジングの正面視左端面にダイヤルが設けられているのに対し,イ号意匠にはダイヤルがない。 本件登録意匠では,ハウジングの正面視右端側底面に膨出部が形成され,膨出部から短寸のレンズ鏡筒が突出している。 一方,イ号意匠では,レンズ鏡筒は大径部とそれに連続する小径部から成る二段形状を有し,大径部はハウジングより大きな径を有し,ハウジングの前後両側面から膨出する膨出部を形成している。また,ハウジングの底面に凸片が一体に設けられこの凸片の左端部に楕円形の窓が形成されている。 2.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属する理由の説明 (1)本件登録意匠の要部 「ステージ無し」タイプの資料撮像装置の先行周辺意匠である甲第4号証の1?112と本件登録意匠を比較検討するに,本件登録意匠の要部が「細長い略円筒形のハウジングを有し,ハウジングの正面視右端部の底面からレンズ鏡筒を突出させ,ハウジングの正面視左端の背面をアームの先端部に連結したテレビカメラを逆J字形のアームの先端部に取り付けた」点にあることは明らかである。 (2)本件登録意匠とイ号意匠との類否の考察 本件登録意匠とイ号意匠を比較検討するに,両意匠は上述した基本的構成(A),(B),(O),(D),(E)において共通し,とりわけ本件登録意匠の要部において共通している。 一方,本件登録意匠とイ号意匠は,両意匠の差異点て説明したように,(f)基台の角隅部の形状,ブラケットの取り付け位置,(g)アームの断面形状,(h)レンズ鏡筒が単一径か,大径小径の多段形状か,といった具体的形態において相違点があるものの,本件登録意匠の要部に関する相違ではなく,また,甲第4号証の25?28に見られるように,基台の角部に丸みを形成したり,ブラケットの取り付け位置を基台の一側に方寄せたりすること,アームの断面形状を円形もしくは方形にする点,さらにはレンズ鏡筒を多段形状にすることは,この種資料撮像装置において普通に採用されていることであり,両意匠の類比を判断するうえで,重きをなすものではない。 (3)むすび 以上から明らかなように,本件登録意匠とイ号意匠は基本的構成,とりわけ「細長い略円筒形のハウジングを有し,ハウジングの正面視右端部の底面からレンズ鏡筒を突出させ,ハウジングの正面視左端の背面をアームの先端部に連結したテレビカメラを逆J字形のアームの先端部に取り付け」るという本件登録意匠の要部において共通する。一方,両意匠における相違点は本件登録意匠の要部に係るものではないので,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するものと思慮する。 第2.被請求人の答弁及び理由 被請求人は,結論同旨の判定を求めると答弁し,その理由として,要旨以下のとおり主張し,乙第1号証および乙第2号証を提出した。 1.本件登録意匠とイ号意匠との比較 先ず,本件登録意匠に係る物品とイ号意匠に係る物品は,請求人説明のとおり同一物品と言える。しかしながら,両意匠の基本的構成及び具体的構成の説明については,請求人は一部不正確さが目につく。 (1)両意匠の共通点 意匠の基本的構成について,請求人は,判定請求書において(A)?(E)を共通点と主張しているが,(A),(B)及び(E)については,次のとおり共通とは言えない。 (A)については,イ号意匠は薄型直方体状の基台と言えるかもしれないが,本件登録意匠は側面視キャタピラー状の形状をしており,薄型直方体状とは到底言えない。 (B)については,請求人は,アームの形状を正面前方へ屈曲する逆J字形のアームとして共通であると説明しているが,イ号意匠は到底逆J字形とは言えない。あえて言うならば,「へ」の字形であり,この点でも共通とは言えない。 (E)については,請求人は,アームが基台に対して垂直をなす起立姿勢と,アームが基台の前方へ傾倒する傾倒姿勢を呈すると説明しているが,イ号のアームは基台に対して垂直には起立しない。イ号写真左右側面図に示されているアームの傾斜が最大傾斜であり,70度止まりである。このアームの直線部が70度のときに湾曲部の上部が台座上面と平行になる。 更に,請求人は,意匠の具体的構成について,(F),(G)及び(H)が共通していると主張しているが, (F)については,確かに基台上面の正面視左半面に操作ボタン類が配置されている点で共通ではあるが,更に具体的構成態様ではボタン類の数や並べ方など差異点の方がはるかに多い。 (G)については,アームが湾曲していることは基本的構成のところで既に述べているごとであり,むしろ具体的構成としては,イ号のアームは直線部と湾曲部では太さが異なり,湾曲部の方が一回り太くなっていて,また,湾曲部は黒,直線部は白で着色されていてツートンカラーになっている点など差異点が多い。 (H)については,殆ど基本的構成で記載されていることに過ぎない。具体的構成の比較では後述の如く共通点は殆どない。差異点のみが目に付く。 (2)両意匠の差異点 本件登録意匠とイ号意匠と間では,共通点は数えるほどしかなく,差異点が非常に多い。以下にそれらの差異点を述べる。 (f)基台に関しては,本件登録意匠では,物品の左右側面が側面視半円形(この点に関し披請求人はキャタピラー状と称した)に形成されているのに対して,イ号意匠では,下部が内側に収縮するようにテーパが形成されている。 本件登録意匠では,平面視四隅が直角に形成されているのに対し,イ号意匠では,平面視四隅にアールが形成され,四隅のアールのうち正面側右角隅のアールは他のアールより大きな曲率である。また,本件登録意匠の平面視基台は横長矩形であるのに対し,イ号意匠は,略正方形に近い。 本件登録意匠では,基台の正面中央部にブラケットが設けられ,ブラケットの上部が基台上面から突出しているのに対し,イ号意匠では,ブラケットが基台の正面側右角隅部に設けられ上方へ突出している。ブラケットの位置もさることながら,ブラケットの形状自体がまったく異なる。すなわち,本件登録意匠のブラケットは,楕円形の断面形状をしたアームを支持するアーム立設ホルダが正面11a側の回動可能な傾倒部に接続されているのに対し,イ号意匠のブラケットは,方形の断面形状をしたアームを支持するアーム立設ホルダが砲台状の基部に横軸を介して取り付けられている。 本件登録意匠では,基台上面の中央部にブラケットから背面へと連なる帯部が形成されているのに対し,イ号意匠には帯部はない。 (g)アームに関しては,請求人によれば,本件登録意匠は,楕円形の断面形状を有するのに対し,イ号意匠は方形の断面形状を有する点のみ差異点として挙げているが,これでは足りない。イ号意匠のアームは直線部と湾曲部では太さが異なり,湾曲部の方が一回り太くなっている。更に湾曲部は黒色に,直線部は白色に着色されツートンカラーになっている。これも顕著な違いと言える。また,アームの曲率が決定的に異なる。本件登録意匠は略90度であるが,イ号意匠のそれは110度となっている。 (h)テレビカメラに関しては,本件登録意匠は,ハウジングの正面視左端面にダイヤルが設けられているのに対し,イ号意匠にはダイヤルがない。 本件登録意匠では,ハウジングの正面視右端側底面に膨出部が形成され,膨出部から短寸のレンズ鏡筒が突出している。一方,イ号意匠の方は,レンズ鏡筒は大径部とそれに連続する小径部から成る二段形状を有し,大径部はハウジングより大きな径を有し,ハウジングの前後両側面から膨出する膨出部を形成して大きく下に向かって突出しているため非常に目立つ形態となっている。また,ハウジングの底面に凸片が一体に設けられこの凸片の左端部に楕円形の窓が形成されている。 このように,テレビカメラ部分に関しては,本件登録意匠とイ号意匠とでは,悉く形態が異なると言っても過言ではなく,差異点のみが目に付く。 2.イ号意匠が本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない理由 (1)本件登録意匠の要部について 請求人は,本件登録意匠の要部を認定するに当たり,先行周辺意匠として甲第4号証の1?112を挙げてこの中で「細長い略円筒形のハウジンクを有し,ハウジングの正面視右端部の底面からレンズ鏡筒を突出させ,ハウジングの正面視左端の背面をアームの先端部に連結したテレビカメラを逆J字形のアームの先端部に取り付けたもの」が見出せないから,これが明らかに要部と主張しているが,「ステージ無し」物品と用途が同一で類似物品になる「ステージ有り」タイプでも先行意匠になり得る。アーム部分が湾曲しているものとしてUSD495,355S(乙第2号証)がある。また,「ステージ無し」タイプの甲第4号証の74や甲第4号証の75の「教材提示装置」のアーム部分は,直線部と曲線部で構成されているものが使用されている。そのため,このようなアーム自体,斬新とも言えず意匠創作の点から言ってもさほど評価ができるものでもない。更に,披請求人の前身であるSamsung Aerospace Industries Ltd.名義の意匠権(甲第4号証の26)及び製品カタログ(甲第4号証の84)によれば,撮像部は円筒形のハウジングを備えアームの先端に横向きに取り付けられ正面視右端底面にはレンズ鏡筒が下向きに突設されている。これらの先行意匠を合わせ見ると,請求人が本件登録意匠の要部と主張している部分をもってして他の両意匠間に存在する数々の差異点をして重きを置くに足らない差異として済ませられるものではないと思料する。 (2)本件登録意匠とイ号意匠との類否について 本件登録意匠とイ号意匠とを比較した場合,請求人は,基本的構成について,上記(A)?(E)が両者共通としているが,これについては,前述の如く,(A),(B)及び(E)については,必ずしも共通とは言えない。また,差異点についても,請求人による各構成の分説には不正確な点があり,しかも,『この種資料撮像装置においては普通に採用されていることで,類否判断において重きをなすものではない。』と簡単に片付けているが到底納得できるものではない。 意匠の類否判断は,全体観察が基本であり,需要者(取引者を含む。)が市場で混同を起こす虞があるほど美感の共通性があるか否かで判断されるべきである(意匠法第24条第2項)。本件の場合,仮に,請求人が主張する本件登録意匠の要部において共通したとしても,あまりにも多くの差異点,それは基本的構成においても,(A),(B)及び(E)において差異点があり,更に具体的構成においては,殆ど共通点が見出せないほどの差異点があるため,需要者が両意匠を看た場合,混同を起こす虞があるほど美感に共通性があるとは到底考えらない。従って,イ号意匠と本件登録意匠は意匠全体として類似しない。 第3.当審の判断 1.本件登録意匠 本件登録意匠は,平成17年12月16日に意匠登録出願され(意願2005-37097),平成18年6月9日に設定登録された意匠であり,意匠に係る物品を「資料撮像装置」とし,その形態は願書および願書に添付された図面のとおりとするものである(別紙第1参照)。 2.イ号意匠 イ号意匠は,判定請求書に添付の,「イ号写真並びに説明書」により示された写真版の意匠であり,意匠に係る物品が「資料撮像機」と認められ,その形態は,同「イ号写真並びに説明書」に示すとおりとするものである(別紙第2参照)。 3.本件登録意匠とイ号意匠の対比 本件登録意匠とイ号意匠を対比すると,両意匠は,共にビデオカメラによって資料を撮影し,これを映像信号として出力するものであるから意匠に係る物品が一致し,形態については主として以下の一致点及び相違点がある。なお,イ号意匠も本件登録意匠と同じ向きの位置に置いて対比する。 先ず,一致点として,(ア)全体が,薄型直方体形状の基台部と,基台部から上方に延びて基台の正面前方には略逆J字形状に前方へ屈曲するアーム部と,アーム部の先端に基台部と平行に支持された細長い略円柱形のカメラハウジング部とからなる基本的構成態様のものである点,具体的な構成態様として(イ)基台部について,平面視は略正方形状であり,基台上面の平面視左半部に操作ボタン類が形成され,その右側にアーム取付け用ブラケットが形成され,基台の背面にはテレビカメラ等と接続するための端子が形成されている点,(ウ)カメラハウジング部について,正面視左端部付近でアーム部と回動可能に連結され,右端部側には下向きにレンズ鏡筒が突出して形成されている点,がある。 一方,主な相違点として(エ)基台部の側面視形状について,本件登録意匠は,トラック形状ともいうべき両端が円弧状の長楕円形状(被請求人がいうところの「キャタピラー状」形状。)であり,下面に向かって緩やかに垂直となる小さな略三角形状部が下部の前後端部に形成されているのに対して,イ号意匠は,上部の略7割程度の部分が横長矩形状であり,下部の3割程度の部分がテーパー面が形成され扁平な略逆台形状である点,(オ)基台部の平面視形状について,本件登録意匠は,四隅が直角であるのに対して,イ号意匠は,四隅にアールが形成され,このうち正面側右隅は他のアールより大きな曲率である点,(カ)基台部上面の操作部について,本件登録意匠は,前方左側に4つの略矩形ボタンを2列の正方形状に配列し,その奥に5つのボタンを十字状に配列し,周囲の各ボタン間を略円形模様で連結し,その左奥に略矩形ボタンを1つ独立して配置しているのに対して,イ号意匠は,前方左側に,大径の操作ダイヤル状円形ボタンの周囲に8個の小円形状ボタンを略コ字状に配列し,その奥に小円形状ボタンとやや大径の円形状ボタンを並列させている点,(キ)基台部上面中央部について,本願意匠は中央部に2条の細幅の溝部がアームのブラケットを挟むようにブラケット裏から背面にかけて形成され,この溝部がブラケット両脇から前方にまで連続しているかのように形成されているいるのに対して,イ号意匠は,このような溝部がない点,(ク)アーム取付け用ブラケットについて,本件登録意匠は,基台部の前方中央部を凹状に切り欠き,この部分に回転軸を収納し,回転軸の上部外周部にアーム取付け用ブラケットを形成しているのに対し,イ号意匠は,基台部の上面右前方寄りに基台部の平面視の略4分の1を占める円盤状突出部を形成し,その上に,砲台状基部に横軸を介してアームを保持することができるブラケットが形成されている点,(ケ)アーム部について,本件登録意匠は,楕円形の断面形状であり,アーム取付け用ブラケットからカメラハウジング取付け部まで同一の太さであり,上部の湾曲部は略90度であるのに対して,イ号意匠は,断面が横長長方形状であり,上部の湾曲部は一回り太く,略110度に湾曲し,湾曲部は濃色に直線部は淡色になっている点,(コ)カメラハウジング部について,本件登録意匠は,ハウジングの左端部にダイヤルが設けられ,右端からハウジングの略3分の1程度の長さでハウジング径の略1.2倍程度の膨出部が底面に形成され,ハウジングの右端形状が縦長の長円形状とされているのに対して,イ号意匠は,左端部にはダイヤルはなく,また,本件登録意匠のような大きな膨出部はなく,レンズ鏡筒の左底面にわずかな凸状平坦部(請求人がいうところの凸片)が形成され,この平坦部の端部に楕円形の窓が形成されている点,(サ)カメラのレンズ鏡筒について,本件登録意匠は,カメラハウジングの右端側底面の膨出部の右寄りにハウジング径よりやや小径の短円柱状のレンズ鏡筒が,鏡筒の略半径程度突出しているのに対して,イ号意匠は,鏡筒の長さがハウジングの略3分の1であり,上部の大径部と,その下部に大径部の略3分の1程度の長さの小径部からなる略円柱状の鏡筒であり,大径部は,ハウジング径より略1.4倍程度の直径であり,ハウジングの前後に大きく弧状に膨出するように形成され,小径部の直径程度下方に突出している点,がある。 そこで,上記の一致点と相違点について総合的に検討するに,薄型直方体形状の基台部を有するものは甲第4号証の43にみられ,さらに上面に操作部があるものは甲第4号証の84に,また,アーム部が湾曲しているものは甲第4号証の74,甲第4号証の75および乙第2号証に,略円柱形のカメラハウジング部を有するものは甲第4号証の76,甲第4号証の79,甲第4号証の92に,さらに,円柱形カメラハウジングの端部に下向きに突出したレンズ鏡筒部を有するものは,甲第4号証の84にみられるとおり,本件登録意匠の属する分野においては,資料を撮像する機材の各部の形状は既に公知になっていることを踏まえると,一致するとした(ア)?(ウ)の点は,格別顕著な特徴ということはできないものであって,この点が一致することを以て両意匠が直ちに類似するということはできない。 なお,請求人は,ステージがないタイプのみを先行意匠として検討対象としているが,ステージがあるタイプもないタイプもともに資料撮像機であって,同一物品であるから,先行意匠からステージがあるタイプを除外して検討する合理的理由はないというべきである。 一方,相違点のうち(エ)?(キ)の点は,いずれも基台部に関するものであるが,基台部は上方の機材を支える部分であるから,機材の安定性等を確認するために,最も注目されやすい部分の一つであって,この部分の相違は類否判断に大きな影響を与えるものであるということができる。すなわち,基台部の側面視形状がトラック形状ともいうべき両端が円弧状の長楕円形状である点,操作部には,前方左側に4つの略矩形ボタンを2列の正方形状に配列し,その奥に5つのボタンを十字状に配列し,周囲の各ボタン間を略円形模様で連結し,その左奥に略矩形ボタンを1つ独立して配置している点,基台部上面中央部に,2条の細幅の溝部がアームのブラケットを挟むようにブラケット裏から背面にかけて形成され,この溝部がブラケット両脇から前方にまで連続しているかのように形成されているいる点は,注目されやすい部分における相違であって,イ号意匠にはない本件登録意匠のみにみられる特徴であるので,両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいというべきである。また,イ号意匠の基台部の平面視形状は,右下隅部のみ曲率を大きくした変形隅丸正方形であって,右下隅部の曲率を大きくした部分に合わせてブラケット用の円盤状突出部を形成したことと相俟って顕著な特徴を有しており,本件登録意匠の方が単純な略正方形状であることから,基台部の平面視形状の相違が,本件登録意匠とイ号意匠との相違を一層際立つものとしているということができる。 また,相違点(ク)および(ケ)のアーム取付け用ブラケットやアーム部における相違点は,本件登録意匠やイ号意匠の使用時には,あまり操作しないものであるから,他の部分に比べれば注目されにくい部分ともいえるが,アームの取付け状態やアームの形状の相違も,類否判断に一定の影響を及ぼすものであるから軽視することはできない。すなわち,本件登録意匠は,基台部の前方中央部を凹状に切り欠き,この部分に回転軸を収納し,回転軸の上部外周部にアーム取付け用ブラケットを形成している点,アーム部について,楕円形の断面形状であり,上部の湾曲部は略90度である点は,本件登録意匠のみにみられる特徴であって一定の視覚的効果を有しているということができる。 相違点(コ)および(サ)のカメラハウジング部とレンズ鏡筒における相違点は,本件登録意匠やイ号意匠の使用時には,被写体を最も良い状態で撮影しようとして微調整しながら手で触る部分であるから,最も注目される部分であって,機能や操作性について詳細に観察するものであり,この部分の相違は類否判断を大きく左右するというべきである。すなわち,カメラハウジング部について,本件登録意匠は,ハウジングの左端部にダイヤルが設けられ,右端からハウジングの略3分の1程度の長さでハウジング径の略1.2倍程度の膨出部が底面に形成され,ハウジングの右端形状が縦長の長円形状とされている点,カメラのレンズ鏡筒について,本件登録意匠は,カメラハウジングの右端側底面の膨出部の右寄りにハウジング径よりやや小径の短円柱状のレンズ鏡筒が,鏡筒の略半径程度に小さく突出している点は,本件登録意匠のみにみられる点であって,その特徴は顕著であり,イ号意匠のものとはかなり異なるものであり,類否判断を大きく左右する相違点であるということができる。 したがって,両意匠の形態についての共通点は,前記のとおり,両意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものとはいえないのに対して,相違点については,とりわけ,相違点(エ)?(キ),(コ)および(サ)の点は,両意匠の類否判断に決定的ともいえる大きな影響を及ぼすものであり,他にも,(ク)および(ケ)の点の差異が認められるところでもあって,意匠全体としてみた場合には,相違点が一致点を凌駕するものであるというほかなく,両意匠は,別異の視覚的効果を有するものであり,類似する意匠とはいえない。 4.結び 以上のとおりであって,イ号意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2010-08-09 |
出願番号 | 意願2005-37097(D2005-37097) |
審決分類 |
D
1
2・
113-
ZB
(J3)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 本多 誠一 |
特許庁審判長 |
関口 剛 |
特許庁審判官 |
橘 崇生 樋田 敏恵 |
登録日 | 2006-06-09 |
登録番号 | 意匠登録第1277223号(D1277223) |
代理人 | 鈴木 博久 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 高柴 忠夫 |
代理人 | 三宅 始 |
代理人 | 高橋 詔男 |