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審決分類 審判    C5
管理番号 1224814 
審判番号 無効2010-880003
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 意匠審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-03-19 
確定日 2010-09-08 
意匠に係る物品 飲料容器用栓体 
事件の表示 上記当事者間の登録第1369917号「飲料容器用栓体」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.請求人の申立および理由
請求人は,意匠登録第1369917号(以下,これを「本件登録意匠」という。)はこれを無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求める,と申し立て,その理由として,要旨以下のとおり主張し,甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。

1.意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は,本件意匠登録出願前の2009年1月27日?29日にマイドームおおさか「第112回春季見本市」にて公然知られたサーモス株式会社の商品,「スポーツジャグFPC-1900」の栓体部分(以下,これを「甲第1号証意匠」という。)に類似する意匠であり,意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので,本件登録意匠は同法第48条第1項に該当し,無効とすべきである。

2.本件登録意匠を無効とすべきである理由
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は,平成21年1月30日に出願され,平成21年8月21日に登録されたものである。
(2)甲第1号証意匠
証明書(甲第1号証)に掲載されている写真の「スポーツジャグFPC-1900」は,中山福株式会社の上畑竹治氏によって,平成21年1月27日(火)?平成21年1月29日(木)までの間「マイドームおおさか」で開催された展示会「第112回春季見本市」に展示されていたことが証明され,また,「スポーツジャグ FPC-1900」(甲第2号証)は,同展示会の「第112回春季見本市 会場・日程のご案内」(甲第3号証)において,「メーカー推奨品・新製品の『商品企画書』?」として提出されたパンフレット「nf 新製品 第112回 春季見本市」(甲第4号証)に掲載されていた飲料容器であり,その飲料容器の栓体が本件登録意匠の出願前に公知になった意匠である。
(3)本件登録意匠と甲第1号証意匠との対比
先ず,本件登録意匠と甲第1号証意匠とは,その意匠に係る物品が「飲料容器用栓体」と,商品「スポーツジャグFPC-1900」の栓体であり,両意匠に係る物品は,用途および機能が共通しているので同一物品である。
次に,形態については,以下の共通点と差異点が認められる。すなわち,基本的構成態様について,(A)本体を円盤部とし,(B)キャップを突出部とした形態が共通する。また,各部の具体的態様について,(C)キャップである突出部をヒンジに向かって傾斜する面を有するものとし,(D)開閉ボタンを縦長矩形とし,(E)キャップを本体の円盤部中央から円盤部側面に至る突出部とし,(F)本体の円盤部の天面にキャップである突出部を配置した点が共通する。
一方,各部の具体的態様について,(イ)開閉部の構成に関し,本件登録意匠は,中央に開閉ボタン,上にドーム状突起部,下にロックボタンを配置しているのに対し,甲第1号証意匠は,中央に開閉ボタン,上にドーム状突起部を配置するものの,ロックレバーが軸支されていることにより,ロック状態において,開閉ボタンとドーム状突起部がロックレバー内に納まる形状とされている点,(ロ)キャップである突出部について,本件登録意匠の上面は,平坦部と平坦部からヒンジに向かって傾斜する面を有するのに対し,甲第1号証意匠の上面は,浅い凹部とヒンジに向かって傾斜する面を有する点,(ハ)本件登録意匠の円盤部から成る本体には,周側面に縦長楕円が等間隔に並んだ模様が設けられているのに対し,甲第1号証意匠の円盤部から成る本体の周側面には,模様が無い点において異なる。
(4)本件登録意匠と甲第1号証意匠との類否
本件登録意匠と甲第1号証意匠たる商品「スポーツジャグFPC-1900」の栓体の意匠との類否を検討すると,共通する基本的構成態様は,具体的態様の共通点と共に,両意匠の基調を表しているのに対し,
(イ)開閉部について,本件登録意匠は,中央を開閉ボタン,上をドーム状突起部,下をロックボタンとしているものであり,甲第7号証?甲第9号証に表れている形態である。
一方,甲第1号証意匠は,中央を開閉ボタン,上をドーム状突起部とするものの,ロックレバーが軸支されていることにより,ロック状態において,開閉ボタンとドーム状突起部がロックレバー内に納まる形状としているものであり,周辺意匠たる甲第5号証および甲第6号証に表れている形態である。
本件登録意匠のように,開閉ボタンの下にスライドできるロックボタンを配置した形態が周辺意匠に表れている縦長矩形である開閉ボタンの態様と共通している点,および甲第1号証意匠のように,開閉ボタンの周りに回動自在なリング状のロックレバーを配置した形態が周辺意匠の形態と共通している点は,本件登録意匠,甲第1号証意匠共にありふれた形態からなる。
(ロ)キャップである突出部について,本件登録意匠の上面は,平坦部と平坦部からヒンジに向かって傾斜する面を有するものであり,甲第8号証および甲第9号証の公知意匠に表れている形態である。
一方,甲第1号証意匠の上面は,浅い凹部とヒンジに向かって傾斜する面を有するものであり,甲第5号証?甲第7号証の公知意匠に表れている形態である。
本件登録意匠のように,平坦部と平坦部からヒンジに向かって傾斜する面を有するキャップの形態が周辺意匠の形態と共通している点,また,甲第1号証意匠のように,浅い凹部とヒンジに向かって傾斜する面を有するキャップの形態が周辺意匠の形態と共通している点は,本件登録意匠,甲第1号証意匠共にありふれた形態からなる。
(ハ)本件登録意匠の円盤部から成る本体には,周側面に縦長楕円が等間隔に並んだ模様が設けられているが,同様の模様は,甲第6号証,甲第8号証,甲第9号証の公知意匠に表れている。
一方,甲第1号証意匠の円盤部から成る本体の周側面に模様は無いが,その形態は,甲第5号証および甲第7号証の公知意匠に表れている。
また,本件登録意匠の周側面に設けられた縦長楕円が等間隔に並んだ模様は,縦長楕円形状が異なるものの,等間隔に配置され装飾的な模様とする形態が,周辺意匠の形態と共通している点,また,甲第1号証意匠の周側面に模様が無い態様に差異があるものの,いずれも周辺意匠に見られる態様であり,共にありふれた形態である。
以上のことから,上記(イ),(口),(ハ)の差異はいずれも周辺意匠にある,ありふれた形態であり,類否判断に与える影響は微弱である。
よって,(A)本体の円盤部の形態,(B)キャップを突出部とした形態,(C)キャップである突出部がヒンジに向かって傾斜する面を有する形態,(D)開閉ボタンを縦長矩形とした形態,(E)キャップを本体の円盤部の中央から,円盤部側面に至る突出部とした形態,(F)本体の円盤部の天面にキャップである突出部を配置した形態において共通し,これら基本的構成態様および具体的構成態様の共通点は,同一の美感を需要者に与えるものである。
さらに,上記した差異点を総合しても,両意匠の共通する美感を凌駕するものではないので,本件登録意匠は,甲第1号証意匠に類似するものである。

第2.被請求人の答弁および理由
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,要旨以下のとおり主張し,乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。

1.本件登録意匠の無効理由について
本件登録意匠と甲第1号証意匠とは同一または類似するものでないことは明らかであるから,本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当することはあり得ない。

2.無効理由に対する反論
(1)請求人は,『(A)本体の円盤部の形態,(B)キャップを突出部とした形態,(C)キャップである突出部がヒンジに向かって傾斜する面を有する形態,(D)開閉ボタンを縦長矩形とした形態,(E)キャップを本体の円盤部の中央から,円盤部側面に至る突出部とした形態,(F)本体の円盤部の天面にキャップである突出部を配置した形態において共通し,これら基本的構成態様および具体的構成態様の共通点は,同一の美感を需要者に与えるものである』ことから,本件登録意匠と先行意匠とが類似すると主張する。
しかしながら,請求人が主張する構成の(A)?(F)は,この種のスポーツ用水筒であれば備えている構成である。すなわち,請求人が主張する構成の(A)?(F)は,甲第1号証意匠のみが有する構成ではないことから,仮に,本件登録意匠に同様の構成を有したとしても,それのみをもって直ちに両意匠を類似すると結論付けることはできないのである。
それ故,下記に詳述するように,構成の(A)?(F)以外の要素が本件の類否判断においては,重視されるべきなのである。
(2)本件登録意匠と先行意匠との対比
本件登録意匠と甲第1号証意匠とを対比すると,前者がその意匠に係る物品を「飲料容器用栓体」,後者が「水筒用の栓体」とし,両物品は用途および機能を同じくするので同一又は類似の物品である。
形態面について両意匠はいずれも円盤状の本体部と本体部の上部にキャップ部を有してなる点で共通している。
しかるに両意匠は以下の顕著な差異点がある。
(ア)本件登録意匠の本体部は,直径と高さとの比率を約5対1とする円盤状からなるのに対して,甲第1号証意匠の本体部は,直径と高さとの比率を約4対1とする点で異なる。
本件登録意匠の本体部の上部は,円盤の中心を頂点として,端部に向ってなだらかに傾斜し,フラットであるのに対して,甲第1号証意匠は,本体円盤部の上部に,円盤部上部の面積の約3分の1を占める略扇形の窪みがあり,正面視において円盤の端部が,跳ね上がりが形成されている点で異なる。
本件登録意匠の円盤状の本体部は,直径と高さとの比率を5対1とすることから,正面視において『薄く平べったい』印象を与えてなるものである。これに対し,甲第1号証意匠は,上記の縦横比率,正面視の円盤の端部の跳ね上がりを有することから,正面視において,『長方形の角ばった』外観を呈してなるものである。
また,本件登録意匠の本体部の側面には,側面の周囲に卵型の突起が等間隔で7個設けられてなるが,甲第1号証意匠の本体部側面にはこのような突起がない点で異なる。
(イ)本件登録意匠のキャップ部は,正面視において,円盤状の本体上部のやや右側にヒンジ部がくるように,キャップ部が設けられている。これに対し甲第1号証意匠のキャップ部は,本体部の概ね中央部分にヒンジ部がくるように,キャップ部が設けられている点で異なる。
本件登録意匠のキャップ部は,正面視において,当該キャップの頭部の約2分の1を占めるフラット部が形成され,キャップ部の上部の形状は,正面視において,約2分の1を占めるフラット部の後端から,ヒンジ部に向って傾斜している。これに対して,甲第1号証意匠のキャップ部は,正面視において,横倒しにした略二等辺三角形であり,キャップ部の上部にフラット部分が存在しない点で異なる。
甲第1号証意匠の当該キャップの頭部には,ポッチが設けられ,当該キャップ部の頭部には,平面視状,前記ポッチ部に向って右手側に細長の楕円のくぼみがある点で相違する。
本件登録意匠の当該キャップは,平面視において,ヒンジ部の逆側(開閉ボタン側)は,円弧状になっているのに対して,甲第1号証意匠の同じ部分の形態は,円弧ではなく角ばっている点で異なる。
(ウ)本件登録意匠の本体部に設けられたロックボタン付き開閉ボタンには,左側面視において,上部を半円状とし,その下方を直線とした縁が設けられている。これに対して,甲第1号証意匠の当該円盤状の本体部に設けられたロックレバー型のロック機構を有する開閉ボタンは,左側面視において,ロック状態において,U字状のロックレバー本体が,開閉ボタンを囲むように設置されている点で異なる。
(3)本件登録意匠と甲第1号証意匠との類否判断
以上より本件登録意匠と先行意匠との類否を検討すると,スポーツ用の水筒の分野では,乙第1号証ないし乙第8号証の公知資料から明らかなように,円盤状の本体部と本体部の上部にキャップ部を有してなる点については,本件意匠登録の出願日である平成21年(2009年)1月30日以前に公知若しくは周知の形態であったことは明らかである。
さらに,請求人提出の甲第5号証ないし甲第9号証の公知資料においても,円盤状の本体部と本体部の上部にキャップ部を有してなる点については,本件意匠登録の出願日である平成21年(2009年)1月30日以前に開示されているのである。
そうすると,両意匠の共通点である円盤状の本体部と本体部の上部にキャップ部を有してなる点は,上記の公知意匠にも見られるありふれたものであることは明らかである。
すなわち,請求人が主張する構成の(A)?(F)の態様は,全て上記の公知意匠に開示されている構成に過ぎないのである。
『(A)本体の円盤部の形態』については,全ての公知意匠から看取することが可能である。この点,水筒が円筒状をしていることから,「本体」についても円盤状にならざるを得ないのである。
『(B)キャップを突出部とした形態』については,全ての公知意匠から看取ることが可能である。この種のスポーツ用水筒は,細長円筒状の飲み口が突出しているタイプが多い。この突出した飲み口に蓋をする必要性から,キャップは突出せざるを得ないのである。
『(C)キャップである突出部がヒンジに向かって傾斜する面を有する形態』については,「傾斜」がなければ,キャップが開かないのである。この点は,不可避な形態である。
『(D)開閉ボタンを縦長矩形とした形態』については,本体とキャップ部とを縦の方向に連結するため,開閉ボタンについても,構造上,縦長にならざるを得ないのである。
『(E)キャップを本体の円盤部の中央から,円盤部側面に至る突出部とした形態,(F)本体の円盤部の天面にキャップである突出部を配置した形態において』について,上記したように,この種のスポーツ用水筒は,細長円筒状の飲み口が突出しているタイプが多い。この突出した飲み口に蓋をする必要性から,キャップは,円盤部から突出せざるを得ないのである。
一方,本件登録意匠の如く,正面視において円盤状が『薄く平べったい』印象を有し,また,キャップの頭部に約2分の1を占めるフラット部が形成されており,約2分の1を占めるフラット部の後端から,ヒンジ部に向って傾斜し,当該キャップは,平面視において,ヒンジ部の逆側は,円弧状になっている特徴的な構成態様からなるものは,上記の公知意匠から明らかな通り全くなく,その斬新性は高く評価することができるものである。
他方,甲第1号証意匠の本体部は,直径と高さとの比率を約4対1とし,甲第1号証意匠の本体円盤部の上部には,円盤部上部の面積の約3分の1を占める略扇形の窪みがあり,正面視において円盤の端部に,跳ね上がりが形成されていることから,本体円盤部の形態は,平面視において『長方形の角ばった』外観を呈してなるものである。
さらに,甲第1号証意匠のキャップ部は,正面視において,横倒しにした略二等辺三角形をしているのである。
そうすると,上記の両意匠の差異点は,本件登録意匠の特徴的な構成態様に基づくものであり,これが意匠の類否判断を決定づける重要な要因になることは疑う余地はないのである。
本件登録意匠の本体部に設けられたロックボタン付き開閉ボタンには,左側面視において,上部を半円状とし,その下方を直線とした縁が設けられている。これに対して,甲第1号証意匠の当該円盤状の本体部に設けられたロックレバー型のロック機構を有する開閉ボタンは,左側面視において,ロック状態において,U字状のロックレバー本体が,開閉ボタンを囲むように設置されている点で異なる。
この種のスポーツ用水筒の分野においては,スポーツ時の短い休息時間中に効率良く水分補給しなければならないことから,キャップ部の開け閉めの機構については,なるべく手軽に開閉でき,かつ,水密性も要求されることから,需要者においても,最も注意を払う部分の一つと考えられる。また,そもそも水筒は,不用意にキャップ部分が開き,使用中に内容物の飲料がこぼれたりすることを規制する必要があるのである。
したがって,キャップ部の開け閉めの機構については,使用時の利便性,水密性などの水筒の本来的な機能に直結することから,需要者においても重要なポイントなのである。
そうすると,開閉ボタン部を含むロック機構付近の形態は,この種物品の取扱者にとっては,操作性に影響を及ぼす部分における違いであり,且つ取扱者の注意を喚起し得る部分であるから,この差異点も意匠の類否判断に影響を与えるものと考えるのが相当である。
本件登録意匠の本体部の側面には,側面の周囲に卵型の突起が等間隔で7個設けられてなるが,甲第1号証意匠の本体部側面にはこのような突起がない点で異なる。
この点,この種のスポーツ用水筒において,水筒に飲料を入れるときには,水筒本体と飲料容器用柱体とを分離させるが,この場合,飲料容器用栓体を捻じ込んで着脱する。
この点,本件登録意匠の本体部の側面に突起が設けられておれば,着脱の際の滑り止めの役割を果たすといえる。特に,水筒の洗浄時の水筒が濡れている場合はこのような滑り止めは有効と思われる。
したがって,本件突起は,装飾目的のみならず,実用的な目的をも有するポイントなのである。
そうであるなら,側面の周囲に卵型の突起の有無の差異は,この種スポーツ用水筒の取扱者にとって,水筒本体と飲料容器用栓体と着脱する際に,直接手に触れる場所でもあることから,類否判断に影響を与えるものと考えるのが相当である。
以上を総合すれば,意匠全体として観察した場合,両意匠の共通点は,取扱者の注意を喚起する部分でないのに対し,両意匠の差異点は,上記共通点を大きく凌駕し,取扱者(看者)に別異の印象を与えるものであるから,これら差異点は意匠の類否判断を左右するものであることは疑う余地はなく,それ故,本件登録意匠は甲第1号証意匠に類似するものではないため,意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当するものでないことは明らかである。

第3.口頭審理
1.本件審判において,当審は,平成22年7月13日に口頭審理を行った。(平成22年7月14日付け口頭審理調書参照)
2.請求人は,無効理由について,平成22年3月19日付けの審判請求書記載のとおり陳述し,補足的に,平成22年6月28日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。
3.被請求人は,答弁の趣旨および理由は,平成22年5月18日付け答弁書のとおり陳述し,補足的に,平成22年6月29日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述した。

第4.当審の判断
1.本件登録意匠
本件登録意匠は,平成21年1月30日に意匠登録出願され,平成21年8月21日に意匠権の設定の登録がなされた登録第1369917号意匠であり,願書および願書に添付の図面の記載によれば,意匠に係る物品を「飲料容器用栓体」とし,その形態を,願書および願書に添付の図面に記載のとおりとするものである(別紙第1参照)。
すなわち,その形態は,(ア)全体が,わずかに上窄まり状に傾斜する周側面とわずかに凸面状に膨出する上面からなる円盤状の本体部(以下,「円盤状本体部」という。)と,その上面にヒンジ部を介して開閉可能な平面視略横U字状で正面視略直角台形状の突出状に形成されたキャップ部と,左側面中央に形成された略縦長のアーチ窓形状でキャップ部と円盤状本体部を係止する開閉ボタンと,これを規制するロックボタンからなる開閉ボタン部から構成され,(イ)円盤状本体部については,直径と厚みの比を約5:1とするものであり,開閉ボタン近くに短円筒形状の飲み口部が形成され,周側面部には縦長の卵形の凸部が等間隔に7個形成されており,円盤状本体部の周側面内側には容器を取り付けるねじ切り部が形成されており,(ウ)キャップ部については,円盤状本体部の上面の正面視中央よりやや右側にヒンジ部が形成され,キャップ部の頂面部にキャップ部の略半分の長さの略水平状平坦部が形成され,そこからヒンジ部に向かって下方傾斜面が形成され,周側面部はわずかに上窄まり状に傾斜する斜面が形成され,左側面視のキャップ部の厚みは,円盤状本体部の厚みよりやや薄く,キャップ部の開閉ボタン側には開閉ボタンの上側のアーチ状部分に合致する円弧状嵌合部が延設状に突出して形成され,キャップ部の下面には飲み口に対応した栓部を形成し,(エ)開閉ボタン部については,キャップ部側の円弧状嵌合部と円盤状本体部の周側面部に形成された上向きの略コ字状の枠とこれらを連結する開閉ボタンおよびロックボタンとから構成されるが,上向き略コ字状の枠とキャップ側の円弧状嵌合部の端部とが合体することにより略アーチ窓状の枠が形成され,その枠内に開閉ボタンおよびロックボタンが設けられ,開閉ボタンは略アーチ窓状枠内に沿って形成され,枠内の上側の略8割程度の面積を占め,開閉ボタンの裏側の係止部とキャップ側の円弧状嵌合部内の係止部とを嵌合させてキャップを係止できるようにし,その下部に,開閉ボタンの下端部に噛み合わせることによって開閉ボタンの動きを規制する横長長方形状のロックボタンが形成されているものである。
2.請求人が無効の理由として引用した意匠(甲第1号証意匠)
請求人が無効の理由として引用した意匠は,甲第1号証,甲第2号証,甲第4号証に現された商品名「スポーツジャグFPC-1900」の栓体の意匠であり(以下,甲第1号証意匠も本件登録意匠と同じ向きのものとして認定する。),(ア)全体が,円盤状の本体部と,その上面にヒンジ部を介して開閉可能な平面視略横U字状で正面視略くさび形状の突出状に形成されたキャップ部と,左側面中央に形成された縦長の略アーチ窓形状でキャップ部と円盤状本体部を係止する開閉ボタンとロックレバーンからなる開閉ボタン部から構成され,(イ)円盤状本体部については,直径と厚みの比を約4:1とし,上面を,円盤の中心を頂点として端部に向かってなだらかに下降する凸面状の曲面とするものであるが,キャップ部のヒンジ部より右側には円盤の直径の略3分の1程度の幅に略扇型状の凹面部が形成され,(ウ)キャップ部については,正面視略中央にヒンジ部が形成され,キャップ部の頂部からヒンジ部に向かってわずかに弧状になったなだらかな下方傾斜面が形成され,上面の頂部付近には小楕円形状の凹部が形成され,その下部に小円形状の凹陥部が形成され,周側面部はやや上窄まり状の傾斜面が形成され,左側面キャップ部の厚みは,円盤状本体部の厚みとほぼ同じであり,キャップ部の開閉ボタン側には開閉ボタンに合致する円弧状嵌合部が突出して形成され,(エ)開閉ボタン部については,キャップ側の円弧状嵌合部と円盤状本体部周側面に略U字状に突出して形成された枠と略U字状枠の下部に略U字状枠よりやや幅の狭い脚部が連続して形成され,その脚部に軸支された逆U字状ロックレバーとからなり,開閉ボタンは,キャップ側の円弧状嵌合部の端部と円盤状本体部周側面に形成された略U字状枠とが合体して上下辺部が弧状の縦長の「陸上トラック形」状の枠が形成され,この枠の内部に収まる「陸上トラック形」状に形成された開閉ボタンによりキャップ部が係止され,略U字状枠の脚部に軸支された逆U字状ロックレバーを回動させて,キャップ側の円弧状嵌合部上端部に嵌合させることにより「陸上トラック形」状の枠を同時に囲んでキャップの開閉をロックするように構成されているものである(別紙第2参照)。

3.本件登録意匠と甲第1号証意匠との対比
本件登録意匠と甲第1号証意匠とは,ともに飲料容器の栓体であるから意匠に係る物品は一致し,また,形態については,主として以下の一致点と相違点がある。
(A)一致点
全体が,わずかに上窄まり状に傾斜する周側面からなる円盤状本体部と,その上面中央にヒンジ部を介して開閉可能な平面視略横U字状の突出状に形成されたキャップ部と,左側面中央に形成された縦長の略アーチ窓形状の開閉ボタン部からなる点が一致する。
(B)相違点
一方,相違点として,(a)本体部の比率について,本件登録意匠の直径:高さは約5:1であるのに対して,甲第1号証意匠は約4:1である点,(b)本体部の上面について,本件登録意匠の上面は,わずかに膨出する略凸面状の曲面であるのに対して,甲第1号証意匠は,わずかに膨出する略凸面状の曲面ではあるが,キャップ部のヒンジ部より右側は円盤の直径の略3分の1程度の幅の扇型状の凹面部が形成されている点,(c)本体部の側周面部について,本件登録意匠は,側周面部に縦長の卵形の凸部が等間隔に7個形成されているのに対して,甲第1号証意匠の側周面は平坦面である点,(d)キャップのヒンジ部について,本件登録意匠は,ヒンジ部が形成されている位置が正面視上面の中央よりやや右側であるのに対して,甲第1号証意匠は,その位置が正面視上面の略中央である点,(e)キャップ部について,本件登録意匠は,頂面部にキャップ部の略半分の長さの略水平状平坦部が形成され,そこからヒンジ部に向かって下方傾斜面が形成され,正面視略直角台形状を呈しているのに対して,甲第1号証意匠は,頂部からヒンジ部に向かってわずかに弧状になったなだらかな下方傾斜面が形成され,正面視略くさび形状を呈する三角柱状であり,上面の頂面部付近には小楕円形状の凹部が形成され,その下部に小円形状の凹陥部が形成されている点,(f)キャップ部の厚みについて,本件登録意匠のキャップ部の厚みは,円盤状本体部の厚みとほぼ同じであり,甲第1号証意匠は,キャップ部の厚みは,円盤状本体部の厚みよりやや薄い点,(g)開閉ボタン部について,本件登録意匠は,上向き略コ字状の枠とキャップ側の円弧状嵌合部の端部とが合体することにより略アーチ窓状の枠が形成され,その枠内に開閉ボタンおよびロックボタンが設けられ,開閉ボタンは略アーチ窓状枠内に沿って形成され,枠内の上側の略8割程度の面積を占め,その下部に,横長長方形状のロックボタンが形成されているのに対して,甲第1号証意匠は,開閉ボタンは,キャップ側の円弧状嵌合部の端部と円盤状本体部周側面に形成された略U字状枠とが合体して上下辺部が弧状の縦長の「陸上トラック形」状の枠が形成され,この枠の内部に収まる「陸上トラック形」状に形成された開閉ボタンと略U字状枠の脚部に軸支された逆U字状ロックレバーとからなる点,(h)円盤状本体部上面に形成された短円筒状の飲み口と周側面の内側に形成された容器取付け用ねじ切り部およびキャップ部内側に形成された飲み口に対応した栓部について,本件登録意匠は図面によってその形状や位置が特定できるのに対して,甲第1号証意匠は不明である点,がある。

4.本件登録意匠と甲第1号証意匠の類否
そこで,上記の一致点と相違点について総合的に検討するに,一致点については,甲第5号証?甲第9号証および乙第1号証?乙第8号証から看取されるように,この種の意匠の属する分野においては普通にみられるありふれた形態であるので,本件登録意匠および甲第1号証意匠のみにみられる特徴ではないことから,上記一致点のみをもって両意匠が類似するということはできない。
一方,相違点(a)については,意匠全体の比率に関することであるから,類否判断する上で軽視できない点であり,(b)については,この種の意匠はやや斜め上方から観察されることが多いことから,本体部上面における円盤の直径の略3分の1程度の幅の扇型状の凹面部の有無は,それがわずかな凹みであるとしても,円盤状本体部の上面の大きな面積を占めるので,類否判断に大きな影響を及ぼすものであり,(c)については,本体部周側面の全周に亘って形成されている縦長で卵形の凸部であり,一定の視覚的効果があるものであるということができるので,類否判断にある程度の影響を及ぼすものというべきであり,(d)については,ヒンジ取付け位置自体はそれほど大きな差異がないともいえるが,取付け位置の相違によって,本件登録意匠のキャップ部が 長い印象を与えるものとなり,相対的に周囲のキャップ部以外の占める部分のとの割合に変化が生じ,キャップ部の視覚的効果に一定の影響を及ぼしており,また,キャップ部は長い方が掴み易く,開いて飲料を飲む際にはキャップ部が邪魔にならないことから利便性が向上するなど,甲第1号証意匠とは異なる一定の影響を及ぼしていることから,類否判断上軽視できるものではなく,(e)については,この種の意匠においては,飲料を飲む際にはキャップ部を見て,これを手で開けて飲むものであり,また,キャップ部が円盤状本体部から突出して形成されていることから,注目され易い部位における相違であって,キャップの全体形状は甲第5号証?甲第9号証とも異なる態様であり,ありふれた態様であるとは言えず,その上面における小楕円形状の凹部および小円形状の凹陥部の有無は,注目される部位における相違であるから,類否判断に大きな影響を与えるものであり,(f)については,わずかな相違ではあるが,本件登録意匠のキャップの方が甲第1号証意匠のキャップより平板状であることを示しており,無視することは出来ない相違であり,(g)については,開閉ボタン自体の形状はそれほど大きな相違はないが,それをロックする態様には大きな相違があり,使用状態時には必ず注目する部分であるから,類否判断に与える影響は大きいというべきである。(h)については,請求人の提出した甲第1号証,甲第2号証,甲第4号証に現された商品名「スポーツジャグFPC-1900」の栓体からは,甲第1号証意匠の円盤状本体部の飲み口部,ねじ切り部およびキャップ部の栓部は不明であるが,この種の意匠においては,飲料を飲む状態と,キャップ部を閉めた状態のいずれも意匠の創作ではあるものの,両意匠における,飲み口部,ねじ切り部および栓部の具体的態様が意匠全体に占める創作的価値を考慮すると,甲第1号証意匠の同部が不明であったとしても,類否判断に大きな影響を与えるものではないということができる。なお,被請求人が提出した乙第9号証を参照する限り,「スポーツジャグFPC-1900」の栓体の飲み口部,ねじ切り部および栓部が格別顕著な特徴があるものであるとは認められないことからも類否判断に大きな影響を与えるものではないことが理解される。
したがって,本件登録意匠と甲第1号証意匠とが一致するとした点は,格別特徴的な点でないことから,重要視することはできないものであり,一方,相違するとした(a)?(g)の相違点は,本件登録意匠の各部の特徴を具体的に表しているものであり,その相違は顕著であって,両意匠は類似しないというほかない。
以上のとおりであって,両意匠は,意匠に係る物品が一致するが,その形態については,両意匠の一致点は,類否判断に大きな影響を及ぼすものではないのに対し,相違点は,類否判断に及ぼす影響が大きいので,両意匠は類似するということはできない。

5.結び
以上,検討したとおり,請求人の提出した証拠および主張によっては,意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当するものとして,同条柱書に違反して登録されたものということはできないので,本件登録意匠は,同法第48条第1項に該当し無効とすべきであるとすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審決日 2010-07-30 
出願番号 意願2009-1956(D2009-1956) 
審決分類 D 1 113・ 113- Y (C5)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 温品 博康 
特許庁審判長 関口 剛
特許庁審判官 瓜本 忠夫
遠藤 行久
登録日 2009-08-21 
登録番号 意匠登録第1369917号(D1369917) 
代理人 吉田 正義 
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 
代理人 牛木 護 

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